(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-29
(45)【発行日】2023-10-10
(54)【発明の名称】隊列走行制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 30/14 20060101AFI20231002BHJP
G08G 1/00 20060101ALI20231002BHJP
G08G 1/09 20060101ALI20231002BHJP
G08G 1/16 20060101ALI20231002BHJP
B60W 40/04 20060101ALI20231002BHJP
B60W 40/076 20120101ALI20231002BHJP
【FI】
B60W30/14
G08G1/00 X
G08G1/09 H
G08G1/16 E
B60W40/04
B60W40/076
(21)【出願番号】P 2019167198
(22)【出願日】2019-09-13
【審査請求日】2022-07-13
(73)【特許権者】
【識別番号】521537852
【氏名又は名称】ダイムラー トラック エージー
(74)【代理人】
【識別番号】100176946
【氏名又は名称】加藤 智恵
(74)【代理人】
【識別番号】110003649
【氏名又は名称】弁理士法人真田特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【氏名又は名称】真田 有
(72)【発明者】
【氏名】大澤 史彦
【審査官】増子 真
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-025352(JP,A)
【文献】特開2002-137652(JP,A)
【文献】特開2010-176353(JP,A)
【文献】特開2019-077409(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00 - 10/30
B60W 30/00 - 60/00
G08G 1/00 - 99/00
B60T 7/12 - 8/1769
B60T 8/32 - 8/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両を他車両に追従して走行させることで複数車両の隊列走行を実現する隊列走行制御装置であって、
前記自車両の前方情報と車車間通信で取得した他車両情報とを用いて、前記自車両の加減速を制御する追従制御部と、
前記隊列走行における先頭車両の走行中の路面の勾配を示す第一勾配情報を取得する第一取得部と、
前記先頭車両が加速
状態であるか又は減速
状態であるかを判断する第一判断と、前記第一勾配情報
に基づき前記先頭車両が上り坂を走行中であるか又は下り坂を走行中であるかを判断する第二判断との組み合わせに基づいて、前記追従制御部による加減速制御を抑制するか否かを判断する判断部と、
前記追従制御部による加減速制御を抑制すると判断されたときに、前記追従制御部による加減速制御を抑制する抑制制御部と、を備えた
ことを特徴とする隊列走行制御装置。
【請求項2】
前記自車両の走行中の路面の勾配を示す第二勾配情報を取得する第二取得部を備え、
前記判断部は、
前記第二勾配情報に基づき前記自車両が上り坂を走行中であるか又は下り坂を走行中であるかを判断する第三判断を行うとともに、前記第一判断と、前記第二判断と、前記第三判断との組み合わせに基づいて、前記追従制御部による加減速制御を抑制するか否かを判断する
ことを特徴とする請求項1に記載の隊列走行制御装置。
【請求項3】
前記第一取得部は、前記第一勾配情報を前記車車間通信で前記先頭車両から取得する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の隊列走行制御装置。
【請求項4】
前記第一取得部は、前記自車両で算出した前記第一勾配情報を取得する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の隊列走行制御装置。
【請求項5】
前記判断部において前記先頭車両が上り坂を走行中
であるとともに減速
状態であると判断した場合、前記抑制制御部は前記追従制御部による減速制御を抑制する
ことを特徴とする請求項1~4の何れか一項に記載の隊列走行制御装置。
【請求項6】
前記判断部は、前記第三判断として、前記自車両が上り坂、下り坂及び平坦路の何れを走行中であるかを判断し、
前記判断部において前記先頭車両が下り坂を走行中
であるとともに加速
状態であり、
且つ、前記自車両が平坦路又は下り坂を走行中である
と判断した場合、前記抑制制御部は前記追従制御部による加速制御を抑制する
ことを特徴とする請求項2~4の何れか一項に記載の隊列走行制御装置。
【請求項7】
前記判断部において前記先頭車両が下り坂を走行中
であるとともに減速
状態であり、
且つ、前記自車両が上り坂を走行中である
と判断した場合、前記抑制制御部は前記追従制御部による減速制御を抑制する
ことを特徴とする請求項2~5の何れか一項に記載の隊列走行制御装置。
【請求項8】
前記抑制制御部は、前記自車両と前記自車両の直前の先行車両との間の車間距離が所定の閾値よりも大きいときに、前記追従制御部による減速制御を抑制する制御を実施する
ことを特徴とする請求項1~7の何れか一項に記載の隊列走行制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、隊列走行において、他車両に追従して走行するように自車両を制御する隊列走行制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
運転者による運転操作の負担を軽減することや燃費改善の目的から、自車両を他車両に追従させて車群として走行する、いわゆる隊列走行と呼ばれる技術が知られている。隊列走行では、複数台の車両が隊列を形成し、各車両が自車両と先行車両との車間距離を保ちつつ、先行車両に追従して走行している。
【0003】
自車両を先行車両に追従して走行させる追従制御としては、例えば、先行車両群の平均の速度と、自車両と先行車両との車間距離とに基づいて自車両の加減速を調整する技術が知られている。これによれば、先行車両の状況に応じた適正な追従制御を実行できるとされる(例えば下記特許文献1を参照)。
【0004】
また、近年、複数の車両において車車間通信で情報を送受することにより車間距離を所定距離に保つ制御(CACC;Cooperative Adaptive Cruise Control)の開発が進んでいる。CACCでは、車載のレーダで取得される情報だけでなく車車間通信で取得される情報も用いられるため、車車間通信を用いない従来の制御(ACC;Adaptive Cruise Control)と比べて、より緻密な車間距離制御を実現できるとされている。隊列走行の技術においてもCACCが利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の隊列走行における追従制御では、例えば隊列走行の先頭車両が減速又は加速した場合、先頭車両に追従して自車両も減速又は加速している。
しかし、この追従制御では、例えば先頭車両が上り坂に入って減速した場合には、自車両は上り坂に達する前に追従制御により減速し、その後上り坂に入ったときに更に減速する事態が生じてしまう。この場合、自車両で無駄な加減速制御が増えて燃費が悪化するおそれがある。
このように、従来の隊列走行では、先頭車両が上り坂や下り坂を走行するとき、自車両での追従制御の応答性に改善の余地がある。
【0007】
本件の隊列走行制御装置は、前述したような課題に鑑み創案されたものであり、追従制御の応答性を向上することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)ここで開示する隊列走行制御装置は、自車両を他車両に追従して走行させることで複数車両の隊列走行を実現する隊列走行制御装置であって、前記自車両の前方情報と車車間通信で取得した他車両情報とを用いて、前記自車両の加減速を制御する追従制御部と、前記隊列走行における先頭車両の走行中の路面の勾配を示す第一勾配情報を取得する第一取得部と、前記先頭車両が加速又は減速しているときに、前記第一勾配情報に基づいて、前記追従制御部による加減速制御を抑制するか否かを判断する判断部と、前記追従制御部による加減速制御を抑制すると判断されたときに、前記追従制御部による加減速制御を抑制する抑制制御部と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
(2)前記隊列走行制御装置は、前記自車両の走行中の路面の勾配を示す第二勾配情報を取得する第二取得部を備え、前記判断部は、前記第一勾配情報と前記第二勾配情報とに基づいて、前記追従制御部による加減速制御を抑制するか否かを判断することが好ましい。
【0010】
(3)前記第一取得部は、前記第一勾配情報を前記車車間通信で前記先頭車両から取得することが好ましい。
(4)前記第一取得部は、前記自車両で算出した前記第一勾配情報を取得することが好ましい。
【0011】
(5)前記先頭車両が上り坂を走行中に減速したとき、前記抑制制御部は前記追従制御部による減速制御を抑制することが好ましい。
(6)前記先頭車両が下り坂を走行中に加速したとき、前記自車両が平坦路又は下り坂を走行中である場合、前記抑制制御部は前記追従制御部による加速制御を抑制することが好ましい。
(7)前記先頭車両が下り坂を走行中に減速したとき、前記自車両が上り坂を走行中である場合、前記抑制制御部は前記追従制御部による減速制御を抑制することが好ましい。
【0012】
(8)前記抑制制御部は、前記自車両と前記自車両の直前の先行車両との間の車間距離が所定の閾値よりも大きいときに、前記追従制御部による減速制御を抑制する制御を実施することが好ましい。
【0013】
このように、第一勾配情報を用いて追従制御部による加減速制御を抑制するか否かを判断し、追従制御を抑制すると判断されたときには、先頭車両が加速または減速したとしても自車両の加減速制御が抑制される。そのため、無駄な加減速制御を抑制することにより追従制御の応答性が向上される。これにより、隊列走行における燃費が向上される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施形態として隊列走行制御装置を備えた車両を、隊列を形成する複数の車両とともに示すブロック図である。
【
図2】(A)~(C)は隊列走行の例を説明する模式図である。
【
図3】
図1の隊列走行制御装置で実施される制御内容を説明するための表である。
【
図4】
図1の隊列走行制御装置で実施される制御内容を例示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図面を参照して、実施形態としての隊列走行制御装置について説明する。以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。また、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることができる。
【0016】
[1.全体構成]
本実施形態に係る隊列走行制御装置は、車車間通信を用いて車間距離を所定距離に保つ制御(CACC;Cooperative Adaptive Cruise Control)を行うものである。以下、
図1に示す自車両1に適用された隊列走行制御装置について説明する。なお、他車両2にも、自車両1と同様の隊列走行制御装置が適用されている。
【0017】
本実施形態において、自車両1は各他車両2とともに隊列を形成し、隊列走行している。
図2(A)は隊列走行の例を説明する模式図である。隊列とは複数台の車両の列であり、隊列走行とは複数台の車両1,2が道路を一列に並んで走行することである。隊列の先頭を走行する車両を「先頭車両」2Aという。
各車両1,2は、車車間通信を用いて互いに通信可能に接続されている。先頭車両2Aを除く各車両1,2は、CACCによりそれぞれの前方を走行する車両(先行車両)に追従して走行している。また、隊列を形成する各車両1,2は、先頭車両2Aの車両IDを把握しているものとする。本実施形態で自車両1は、先行車両に追従して走行している車両(つまり先頭車両以外の車両)であることを前提としている。
なお、本実施形態では自車両1及び他車両2としてトラックを例示するが、自車両1及び他車両2の種類は特に限定されない。
【0018】
図1に示すように、自車両1には、CACCスイッチ11と、自車両1に関する情報を取得するセンサ類12,13と、他車両2に関する情報を取得するレーダ14及び車車間通信装置15(以下、単に「通信装置」ともいう)と、自車両1を作動(加速,制動,操舵)させる作動ユニット16と、作動ユニット16を制御する制御装置10とが設けられる。
【0019】
CACCスイッチ11は、CACCを実施するか否かを自車両1の乗員が選択するための操作手段であって、オンとオフとの何れか一方が選択されるトグルスイッチで構成され、自身のオン,オフ状態を検出する。CACCスイッチ11がオン状態である場合、自車両1はCACCを実施するCACCモードとなる。一方、CACCスイッチ11がオフ状態である場合、自車両1はCACCを実施しない通常モードとなる。
【0020】
GPS受信機12は、図示しないGPS衛星から送信されるGPS電波を受信することで、自車両1の現在位置に関する位置情報を取得する。速度センサ13は、自車両1の速度を検出する。また、速度センサ13で検出した速度を時間微分することで自車両1の加速度情報を求めることができる。これらのCACCスイッチ11とセンサ類12,13とで検出,取得された情報は、制御装置10に伝達される。
【0021】
レーダ14は、例えばミリ波レーダであって、自車両1の前方に向けて電磁波を送信し、その反射波を受信することで、自車両1の前方に存在する他車両2の情報(前方情報)を所定の周期で取得する。レーダ14で取得される情報には、自車両1の前方に存在する他車両2までの距離(車間距離)Drや、この他車両2と自車両1との相対速度(速度差)等が含まれる。
【0022】
通信装置15は、他車両2と無線ネットワーク3を介して通信(車車間通信)を行うことで様々な情報を送受する電子制御装置である。通信装置15は、制御装置10から伝達される情報を他車両2に送信するとともに、他車両2から受信した情報を制御装置10に伝達する。通信装置15が他車両2,2Aから受信する情報(他車両情報)としては、他車両2,2Aの現在位置に関する位置情報,他車両2,2Aの速度,他車両2,2AのID情報,他車両2,2Aの加速度情報A2,CACCオンオフ情報,CACCの通信先車両のID等が挙げられる。
【0023】
作動ユニット16は、具体的には、駆動装置17と制動装置18と操舵装置19とで構成される。駆動装置17は、自車両1の駆動源(エンジンや電動モータ)やトランスミッション機構などであり、制動装置18は、自車両1に制動力を与えるブレーキ装置や回生ブレーキシステムなどである。また、操舵装置19は、自車両1のドライバによる操舵操作をアシストするパワーステアリング装置などである。各装置17~19の作動状態は、手動運転操作で変更可能であるとともに、制御装置10によって制御可能である。
【0024】
制御装置10は、自車両1に搭載される各種装置を統合制御する電子制御装置であって、例えばマイクロプロセッサやROM,RAM等を集積したLSIデバイスや組み込み電子デバイスとして構成され、車載ネットワーク網の通信ラインに接続される。本実施形態の制御装置10は、CACCスイッチ11,センサ類12,13,レーダ14及び通信装置15で検出,取得された情報に基づいて、作動ユニット16を制御する。
【0025】
他車両2,2Aの隊列走行制御装置の構成は自車両1の隊列走行制御装置と同一であるため図示を省略した。
図1の各他車両2,2Aでは、通信装置15と車車間通信により送信される各種情報(他車両情報)とが図示されている。他車両2,2Aから送信される他車両情報には、他車速度,加速度情報A2など他車両2,2Aの走行に関する車両情報と、他車両2,2Aの位置情報(GPS)と、CACCオンオフ情報や通信先車両のIDなどのCACCに関する情報(CACC情報)とが含まれる。各他車両2,2Aの加速度情報A2は、他車両2,2Aの速度センサ13で検出した速度を時間微分して求めることができる。また、各他車両2,2Aの位置情報は、他車両2,2AのGPS受信機12(図示せず)から取得できる。
なお、自車両1も、車両情報,位置情報,CACC情報を、無線ネットワーク3を介して送信している。
【0026】
[2.制御構成]
本実施形態では、自車両1がCACCモードである場合に、自車両1は前方を走行する他車両2を追従対象となる先行車両として選定し、選定した先行車両を追従して走行するようにCACCを実施する。ここで、自車両1と先行車両2とは、CACC情報に含まれる通信先車両のIDにより互いの車両IDを特定しており、互いを通信先車両として把握しているものとする。また、上述のように、隊列を形成している各車両1,2は、隊列の先頭車両2Aの車両IDを特定しているものとする。
【0027】
制御装置10には、CACCを実施するための機能的要素として制御部(追従制御部)4が設けられている。制御部4は、自車両1が他車両2(先行車両)に追従して走行するように作動ユニット16を制御(この制御を「追従制御」という)する機能を有する。
【0028】
具体的には、制御部4の追従制御は、レーダ14で取得される自車両の前方情報と、通信装置15で取得される他車両情報との双方を用いて作動ユニット16を制御して自車両1の加減速を制御するである。この追従制御は、自車両1と他車両2(先行車両)との車間距離が所定距離を維持するように実施される。ここで、追従制御で用いられる他車両情報は、他車両2(先行車両)の他車速度や加速度情報A2である。制御部4の追従制御により自車両1の加減速が調整され、他車両2(先行車両)との車間距離が所定距離で維持されるようになっている。なお、本明細書で「加減速」とは「加速または減速」を意味し、「加減速制御」とは「加速制御又は減速制御」を意味する。
【0029】
ところで、
図2(B)に示すように先頭車両2Aが上り坂に入って減速した場合、制御部4の追従制御を継続すると、自車両1はその上り坂に達する前に追従制御により減速し、その後上り坂に入ったときに更に減速する事態が生じるおそれがある。さらに、この場合、先頭車両2Aは上り坂に入って減速した後に加速することが多い。そうすると、自車両1では無駄な加減速制御が頻発されてしまう。
また、
図2(C)に示すように先頭車両2Aが下り坂に入って加速した場合、制御部4の追従制御を継続すると、自車両1はその下り坂に達する前に追従制御により加速し、その後下り坂に入ったときに更に加速する事態が生じるおそれがある。この場合も、自車両1では無駄な加減速制御が頻発されるおそれがある。
【0030】
このような事態を避けるために、本実施形態の制御装置10には、先頭車両2Aの勾配情報を用いて、制御部4の追従制御による加減速制御を抑制するための加減速抑制機能20が設けられている。
【0031】
加減速抑制機能20内には、制御部4(追従制御)による加減速制御を抑制するための制御(抑制制御)を実施する機能的要素として、第一取得部5と第二取得部6と判断部7と抑制制御部8とが設けられている。
【0032】
制御部4の追従制御と、加減速抑制機能20内の各要素5,6,7,8による抑制制御とにより、制御装置10は本実施形態の隊列走行制御装置として機能する。なお、本実施形態では、制御装置10内の各要素4,5,6,7,8がいずれもソフトウェアで実現されるものとする。なお、要素4,5,6,7,8は、ハードウェア(電子回路)で実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアとが併用されて実現されてもよい。
【0033】
第一取得部5は、隊列走行の先頭車両2Aの走行中の路面の勾配を示す第一勾配情報G2を取得するために設けられている。加減速抑制機能20の抑制制御では、先頭車両2Aの加速又は減速が勾配によって変化したものである場合に、その後の加減速の変化を予測して、追従制御による加減速制御が一時的に抑制される。そのため、第一取得部5により第一勾配情報G2が取得され、先頭車両2Aの走行中の路面の勾配が把握される。
【0034】
第二取得部6は、自車両1の走行中の路面の勾配を示す第二勾配情報G1を取得するために設けられている。抑制制御を実施するか否かの判断は、先頭車両2Aの勾配(第一勾配情報G2)だけでなく自車両1の勾配(第二勾配情報G1)も考慮して決定される。そのため、第二取得部6により第二勾配情報G1が取得され、自車両1の走行中の路面の勾配が把握される。
【0035】
第一勾配情報G2及び第二勾配情報G1(両者を区別する必要がない場合、単に「勾配情報」という)は、車両1,2Aが走行中の路面の勾配を示す情報である。勾配情報は、例えば平坦路を0%とし、所定の登り勾配以上の上り坂を正の値で示し、所定の下り勾配以下の下り坂を負の値で示す。
【0036】
勾配情報は、例えば、対象となる車両のGPS電波に基づく位置情報から算出できる。位置情報に基づき勾配情報を計算する方法は、例えば下記の通りである。なお、GPS電波に基づく位置情報は、車両の位置を経度x,緯度y,高度Hで特定する情報とする。
まず、球面三角法により現在の車両の位置(経度x1,緯度y1)とΔt秒前の車両の位置(経度x2,緯度y2)との水平距離Xを求める。なお、以下で「r」は赤道半径であり、637837メートルとする。
X=r*cos-1[sin(y1)*sin(y2)+cos(y1)*cos(x2-x1)]・・・式(1)
また、現在の車両の高度H1とΔt秒前の車両の高度H2との差より高低差ΔHを求める。
ΔH=H2-H1・・・式(2)
車両が走行中の路面の勾配は水平距離Xと高低差ΔHとを用いて式(3)により算出される。
勾配(%)=ΔH*100/X・・・式(3)
【0037】
勾配情報を形成する方法の別の例としては、マップ情報を利用する方法がある。この場合、緯度,経度,勾配を含む道路情報を持つマップ情報を使用して、対象となる車両のGPS電波に基づく位置情報(現在の緯度,経度)から、勾配情報が算出される。
【0038】
第一取得部5は、例えば、通信装置15を介した車車間通信を用いて先頭車両2Aから第一勾配情報G2を取得するように構成されてよい。この場合、先頭車両2Aでは、自身の位置情報に基づき第一勾配情報G2を計算し、計算した第一勾配情報G2が通信装置15を介した車車間通信を用いて送信される(
図1において破線で示す「勾配情報」)。自車両1の第一取得部5は、通信装置15を介して先頭車両2Aからの第一勾配情報G2を受信する。
【0039】
別の例として、自車両1が、先頭車両2Aの位置情報に基づいて第一勾配情報G2を計算し、第一取得部5は自車両1で算出した第一勾配情報G2を取得するように構成されてもよい。この場合、先頭車両2Aの位置情報が通信装置15を介した車車間通信を用いて送信される(
図1の「GPS」)。自車両1は、通信装置15を介して先頭車両2Aの位置情報を受信して、受信した位置情報に基づく第一勾配情報G2を計算する。
【0040】
第二取得部6は、自車両1の位置情報に基づいて第二勾配情報G1を計算して、算出した第二勾配情報G1を取得するように構成してもよい。
【0041】
判断部7は、第一取得部5と第二取得部6とからの情報を得て、先頭車両2Aが加速又は減速しているときに、第一勾配情報G2と第二勾配情報G1とに基づいて、制御部4の追従制御による加減速制御を抑制するか否かを判断する判断機能を有する。
また、抑制制御部8は、判断部7で加減速制御を抑制すると判断されたとき、制御部4の追従制御による加減速制御を抑制する制御(抑制制御)を行う。ここで、加減速制御を抑制する制御とは、加速制御又は減速制御を実施しないか、又は、加減速の程度を弱めることである。
判断部7と抑制制御部8とによって、先頭車両2Aの加速又は減速が勾配によって変化したものである場合に追従制御(制御部4)による加減速制御が一時的に抑制される。
【0042】
判断部7では、詳しくは、下記(I),(II),(III)の判断を実施している。
(I)先頭車両2Aの加速度情報A2に基づき、先頭車両2Aが加速状態,減速状態,定速状態のいずれの状態であるかを判断すること。
(II)第一勾配情報G2に基づき、先頭車両2Aの走行中の路面が上り坂,下り坂,平坦路のいずれであるかを判断すること。
(III)第二勾配情報G1に基づき、自車両1の走行中の路面が上り坂,下り坂,平坦路のいずれであるかを判断すること。
【0043】
先頭車両2Aの加速度情報A2は、通信装置15を介した車車間通信を用いて先頭車両2Aから取得できる。加速度情報A2は、先頭車両2Aの加速度又は減速度を示す情報であり、正の値で加速度を示し、負の値で減速度を示す。
加速度情報A2が所定の加速度閾値a1よりも小さいとき、判断部7は、先頭車両2Aが減速状態と判断する。閾値a1は先頭車両2Aが減速状態と判断し得る所定の減速度として設定される。
加速度情報A2が所定の加速度閾値a2よりも大きいとき、判断部7は、先頭車両2Aが加速状態と判断する。閾値a2は先頭車両2Aが減速状態と判断し得る所定の加速度として設定される。
上記のどちらにも該当しないとき、判断部7は、先頭車両2Aが定速状態と判断する。
【0044】
また、判断部7は、第一勾配情報G2が正の値のとき、先頭車両2Aが上り坂を走行中と判断し、第一勾配情報G2が負の値のとき、先頭車両2Aが下り坂を走行中と判断する。また、第一勾配情報G2が0のとき判断部7は、先頭車両2Aが平坦路を走行中と判断する。
【0045】
また、判断部7は、第二勾配情報G1が正の値のとき、自車両1が上り坂を走行中と判断し、第二勾配情報G1が負の値のとき、自車両1が下り坂を走行中と判断する。また、第二勾配情報G1が0のとき判断部7は、自車両1が平坦路を走行中と判断する。
【0046】
そして、判断部7では、上記(I),(II),(III)の判断結果の組み合わせに従って、制御部4の追従制御による加減速制御を抑制するか否かを判断する。抑制制御部8では、判断部7で加減速制御を抑制すると判断されたとき抑制制御を行う。また、判断部7で加減速制御を抑制しないと判断されたときは、制御部4の追従制御が継続(維持)される。
【0047】
図3は、上記(I),(II),(III)の判断結果の組み合わせに従った制御内容例を示す表である。
表に示された制御内容例の要点として、下記の(1)~(3)を挙げる。
【0048】
(1)先頭車両2Aが上り坂を走行中で減速状態の場合、自車両1が上り坂,下り坂,平坦路のいずれを走行中であっても、制御部4の追従制御による減速制御が抑制される。
先頭車両2Aが上り坂に入り減速した場合、その後に先頭車両2Aは加速すると予測される。このため、自車両1では、制御部4の追従制御による減速制御が一時的に抑制されている。
【0049】
(2)先頭車両2Aが下り坂を走行中で加速状態であり、かつ、自車両1が下り坂又は平坦路を走行中である場合に、制御部4の追従制御による加速制御が抑制される。
先頭車両2Aが下り坂に入り加速した場合、その後に先頭車両2Aは減速すると予測される。このため、自車両1が下り坂又は平坦路を走行中ならば、制御部4の追従制御による加速制御が一時的に抑制されている。
【0050】
(3)先頭車両2Aが下り坂を走行中で減速状態であり、かつ、自車両1が上り坂を走行中の場合に、制御部4の追従制御による減速制御が抑制される。
先頭車両2Aが下り坂で減速している場合であっても自車両1が上り坂を走行中なので登坂力を確保するために、追従制御のための減速制御が一時的に抑制される。
【0051】
上記(1)~(3)に該当しない場合は、いずれも判断部7で加減速制御を抑制しないと判断される。この場合、制御部4の追従制御が継続(維持)される。そのため、先頭車両2Aの加減速状態に追従して、自車両1の加減速が調整される。
【0052】
また、抑制制御部8により減速制御が抑制された場合、自車両1と直前の先行車両2との車間距離Drが縮まる場合がある。
そこで、抑制制御部8では、自車両1と直前の先行車両2との車間距離Drが所定車間距離Dth(所定の閾値)よりも大きいときにのみ減速制御を抑制し、車間距離Drが所定車間距離Dth以下のときは、減速制御の抑制を実施せずに、制御部4の追従制御を維持する。これにより、自車両1と直前の先行車両2との車間距離Drが詰まり過ぎることが抑制される。所定車間距離Dthは、減速制御の抑制を実施した場合にも自車両1と直前の先行車両2との車間距離が狭まり過ぎない距離値として設定される。
【0053】
[3.フローチャート]
図4は、前述した制御内容を例示したフローチャートである。
図4のフローにおいてA部同士が接続され、また、B部同士が接続されるものとする。このフローは、自車両1がCACCモードである場合に、制御装置10において所定の演算周期で繰り返し実施される。自車両1がCACCモードであるか否かは、CACCスイッチ11から制御装置10に伝達される情報に基づき、例えば判断部7により判別される。
【0054】
ステップS10では、各種情報が取得される。各種情報には、先頭車両2Aの第一勾配情報G2,自車両1の第二勾配情報G1,先頭車両2Aの加速度情報A2が含まれている。
【0055】
ステップS15では、先頭車両2Aの第一勾配情報G2が0より大きいか否かが判定される。G2>0、つまり、先頭車両2Aが上り坂を走行中と判定された場合(ステップS15のYES)、ステップS20では、先頭車両2Aの加速度情報A2を所定の加速度閾値a1と比較することで先頭車両2Aが減速状態か否かが判定される。
【0056】
A2<a1、つまり先頭車両2Aが減速状態である場合(ステップS20のYES)、ステップS25では、車間距離Drが所定車間距離Dthよりも大きいか否かが判定される。車間距離Drが所定車間距離Dthよりも大きい場合(ステップS25のYES)、ステップS30では、追従制御(制御部4)による減速制御が抑制制御部8によって抑制される。
以上の処理は、
図3の(1)の場合に実施される処理である。
【0057】
一方、先頭車両2Aの第一勾配情報G2が0以下の場合(ステップS15のNO)、ステップS35では、第一勾配情報G2が0よりも小さいか否かが判定される。G2<0、つまり、先頭車両2Aが下り坂を走行中と判定された場合(ステップS35のYES)、ステップS40では、先頭車両2Aの加速度情報A2を所定の加速度閾値a2と比較することで先頭車両2Aが加速状態か否かが判定される。
【0058】
A2>a2、つまり先頭車両2Aが加速状態である場合(ステップS40のYES)、ステップS45では、自車両1の第二勾配情報G1が0以下か否かが判定される。G1≦0、つまり、自車両1が下り坂又は平坦路を走行中と判定された場合(ステップS45のYES)、ステップS50では、追従制御(制御部4)による加速制御が抑制制御部8によって抑制される。
以上の処理は、
図3の(2)の場合に実施される処理である。
【0059】
また、先頭車両2Aが下り坂を走行中で(ステップS35のYES)、先頭車両2Aが減速状態であり(ステップS40のNO、且つ、ステップS55のYES)、自車両1が上り坂を走行中である場合(ステップS60のYES)、車間距離Drが所定車間距離Dthよりも大きければ(ステップS25のYES)、追従制御(制御部4)による減速制御が抑制制御部8によって抑制される(ステップS30)。
以上の処理は、
図3の(3)の場合に実施される処理である。
【0060】
上記以外の場合、具体的には下記(a)~(f)の場合、ステップS65では追従制御(制御部4)が維持される。
(a)先頭車両2Aが上り坂走行中(ステップS15のYES)に定速状態(ステップS20のNO)又は下り坂走行中(ステップS35のYES)に定速状態の場合(ステップS55のNO)。
(b)先頭車両2Aが上り坂走行中(ステップS15のYES)に加速状態の場合(ステップS20のNO)。
(c)先頭車両2Aが下り坂走行中(ステップS35のYES)に減速状態で(ステップS40のNO、且つ、ステップS55のYES)、自車両1が下り坂又は平坦路を走行中の場合(ステップS60のNO)。
(d)先頭車両2Aが下り坂走行中(ステップS35のYES)に加速状態で(ステップS40のYES)、自車両1が上り坂を走行中の場合(ステップS45のNO)。
(e)先頭車両2Aが平坦路を走行中の場合(ステップS15のNO、且つ、ステップS35のNO)。
(f)また、
図3の(1)又は(2)の場合(ステップS20のYES、又は、ステップS60のYES)に、車間距離Drが所定車間距離Dth以下のとき(ステップS25のNO)。
【0061】
[4.作用,効果]
前述の実施形態によれば、判断部7が第一勾配情報G2と第二勾配情報G1とに基づいて制御部4の追従制御による加減速制御を抑制するか否かを判断し、加減速制御を抑制すると判断されときには、先頭車両2Aが加速または減速したとしても、抑制制御部8により自車両1の加減速制御が抑制される。そのため、無駄な加減速制御を抑制することにより追従制御の応答性が向上される。これにより、隊列走行における燃費が向上される。
また、判断部7が第一勾配情報G2と第二勾配情報G1とに基づいて判断しているので、判断の精度が向上される。
【0062】
また、本実施形態の抑制制御が実施されずに、例えば先頭車両2Aが上り坂に入ったときに、後続の各車両で追従制御による減速制御が実施されたとすると、後続の車両ごとに減速制御が積み重なり、隊列後方の車両では走行に遅延が生じるおそれがある。この点、本実施形態により遅延制御を抑制すれば、遅延の発生を回避又は抑制できる。
【0063】
第一取得部5が先頭車両2Aで計算した第一勾配情報G2を取得する場合、先頭車両2Aの走行中の路面の正確な第一勾配情報G2を得ることができる。
第一取得部5が自車両1で算出した第一勾配情報G2を取得する場合、通信状況の影響を受けずに先頭車両2Aの第一勾配情報G2を得ることができる。
【0064】
先頭車両2Aが上り坂を走行中に減速したとき、抑制制御部8が制御部4の追従制御による減速制御を抑制することで、先頭車両2Aが上り坂を走行時の無駄な減速制御が抑制される。
また、先頭車両2Aが下り坂を走行中に加速したとき、自車両1が平坦路又は下り坂を走行中である場合、抑制制御部8が制御部4の追従制御による加速制御を抑制することで、先頭車両2Aが下り坂を走行時の無駄な加速制御が抑制される。
また、先頭車両2Aが下り坂を走行中に減速したとき、自車両1が上り坂を走行中である場合、抑制制御部8が制御部4の追従制御による減速制御を抑制することで、先頭車両2Aが下り坂を走行時の無駄な減速制御が抑制される。
【0065】
また、抑制制御部8は、自車両1と自車両1の直前の先行車両2との間の車間距離Drが所定の閾値Dthよりも大きいときに、抑制制御部8が制御部4の追従制御による減速制御を抑制する制御を実施することで、車間距離が十分に空いているときにだけ減速制御の抑制が実施されるので、減速制御を抑制したとしても車間距離が詰まり過ぎることを抑制できる。
【0066】
[5.その他]
前述した実施形態に関わらず、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。本実施形態の各構成は、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせてもよい。
【0067】
例えば、前述した
図3の制御内容は一例であり、これに限定されない。例えば、先頭車両2Aが上り坂及び下り坂のいずれを走行中でも抑制制御を実施する例を挙げたが、先頭車両2Aが上り坂及び下り坂のいずれか一方を走行中に抑制制御を実施してもよい。
【0068】
また、判断部7での判断条件はいずれも一例である。前述の実施形態では、第一勾配情報G2と第二勾配情報G1とを用いて判断する構成を説明したが、第一勾配情報G2のみを用いて判断部7の判断を行ってもよい。
【0069】
また、減速制御の抑制を実施する前に車間距離Drを所定車間距離Dthと比較して、車間距離Drが所定車間距離Dthよりも大きいときに減速制御の抑制を実施する構成を説明したが、車間距離Drを所定車間距離Dthと比較せずに減速制御の抑制を実施する構成であってもよい。
また、加速制御の抑制を実施する前に車間距離Drを所定車間距離Dthと比較して、車間距離Drが所定車間距離Dthよりも大きいときには加減制御の抑制を実施しない構成としてもよい。この場合、加減制御の抑制により車間距離Drが広がり過ぎる事態を抑制できる。
【0070】
また、前述した実施形態では実際に隊列の先頭に位置する車両を先頭車両2Aとする場合を例に挙げたが、自車両1が先頭車両2Aとみなす車両は、実際に隊列の先頭に位置する車両でなくてもよい。例えば、車両台数が多く隊列が長く延びており、自車両1が隊列の後方に位置している場合、自車両1から隊列の先頭に位置する車両までの距離が長くなってしまう。そのような場合、自車両1から数台前方に位置する車両を「先頭車両2A」とみなしてもよい。
【0071】
また、
図1,
図2(A),(B),(C)には、四台の車両で隊列走行を実施する場合を例示したが、車両の台数は特に限定さない。
【符号の説明】
【0072】
1 自車両
2 他車両
2A 先頭車両
3 無線ネットワーク
4 制御部(追従制御部)
5 第一取得部
6 第二取得部
7 判断部
8 抑制制御部
10 制御装置
11 CACCスイッチ
12 GPS受信機
13 速度センサ
14 レーダ
15 通信装置
16 作動ユニット
17 駆動装置
18 制動装置
19 操舵装置
20 加減速抑制機能