(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-29
(45)【発行日】2023-10-10
(54)【発明の名称】複合酸化物触媒、多孔質複合体および複合酸化物触媒の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 23/34 20060101AFI20231002BHJP
B01J 35/04 20060101ALI20231002BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20231002BHJP
B01J 37/04 20060101ALI20231002BHJP
B01J 23/10 20060101ALI20231002BHJP
B01J 23/83 20060101ALI20231002BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20231002BHJP
B01D 39/14 20060101ALI20231002BHJP
F01N 3/10 20060101ALI20231002BHJP
F01N 3/28 20060101ALI20231002BHJP
F01N 3/035 20060101ALI20231002BHJP
【FI】
B01J23/34 A
B01J35/04 301E
B01J37/08 ZAB
B01J37/04 102
B01J23/10 A
B01J23/83 A
B01D53/94 241
B01D39/14 B
F01N3/10 A
F01N3/28 301P
F01N3/035 A
(21)【出願番号】P 2019176556
(22)【出願日】2019-09-27
【審査請求日】2022-04-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110847
【氏名又は名称】松阪 正弘
(74)【代理人】
【識別番号】100136526
【氏名又は名称】田中 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100136755
【氏名又は名称】井田 正道
(72)【発明者】
【氏名】中島 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】泉 有仁枝
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-005580(JP,A)
【文献】特開2007-237005(JP,A)
【文献】特表2010-530343(JP,A)
【文献】特表2018-506424(JP,A)
【文献】Chemistry for Sustainable Development,2005年,vol.13,p.775-781
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
B01D 53/86-53/90,53/94-53/96
B01D 39/14
F01N 3/035,3/10,3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排ガス中の粒子状物質の燃焼を促進させる複合酸化物触媒であって、
含有金属として、第1金属であるセリウムと、第2金属であるランタンと、第3金属と、を含み、
前記第3金属は、マンガンまたはプラセオジムであり、
前記含有金属におけるセリウムの含有率は10mol%以上かつ93mol%以下であり、
前記含有金属におけるランタンの含有率は3.5mol%以上かつ45mol%以下であり、
前記第3金属がマンガンである場合、前記含有金属における前記第3金属の含有率は3.5mol%以上かつ45mol%以下であり、
前記第3金属がプラセオジムである場合、前記含有金属における前記第3金属の含有率は10mol%であり、
前記含有金属におけるランタンの含有率は、前記含有金属における前記第3金属の含有率と等しく、
前記含有金属におけるセリウム、ランタンおよび前記第3金属以外の金属の含有率は1mol%以下であり、
倍率5000倍のSEM画像において内部に空洞を有する粒子を含み、
前記空洞の径は、0.2μm以上かつ5μm以下であることを特徴とする複合酸化物触媒。
【請求項2】
請求項1に記載の複合酸化物触媒であって、
前記含有金属におけるセリウムの含有率は80mol%以上かつ93mol%以下であり、
前記含有金属におけるランタンの含有率は3.5mol%以上かつ10mol%以下であり、
前記第3金属がマンガンである場合、前記含有金属における前記第3金属の含有率は3.5mol%以上かつ10mol%以下であることを特徴とする複合酸化物触媒。
【請求項3】
多孔質複合体であって、
多孔質の基材と、
前記基材上に形成され、排ガス中の粒子状物質を捕集する多孔質の捕集層と、
を備え、
前記捕集層は請求項1または2に記載の複合酸化物触媒を含むことを特徴とする多孔質複合体。
【請求項4】
請求項3に記載の多孔質複合体であって、
前記基材は、内部が隔壁により複数のセルに仕切られたハニカム構造を有し、
前記複数のセルのうち少なくとも一部のセルの内側面は、前記捕集層により被覆されることを特徴とする多孔質複合体。
【請求項5】
請求項4に記載の多孔質複合体であって、
ガソリンエンジンまたディーゼルエンジンから排出される排ガス中の粒子状物質を捕集するフィルタであることを特徴とする多孔質複合体。
【請求項6】
排ガス中の粒子状物質の燃焼を促進させる複合酸化物触媒の製造方法であって、
原料金属の硝化物とクエン酸とを混合して混合水溶液を調製する工程と、
前記混合水溶液を加熱して前駆体を得る工程と、
前記前駆体を焼成して複合酸化物触媒を得る工程と、
を備え、
前記原料金属は、第1金属であるセリウムと、第2金属であるランタンと、第3金属と、を含み、
前記第3金属は、マンガンまたはプラセオジムであり、
前記原料金属におけるセリウムの含有率は10mol%以上かつ93mol%以下であり、
前記原料金属におけるランタンの含有率は3.5mol%以上かつ45mol%以下であり、
前記第3金属がマンガンである場合、前記
原料金属における前記第3金属の含有率は3.5mol%以上かつ45mol%以下であり、
前記第3金属がプラセオジムである場合、前記
原料金属における前記第3金属の含有率は10mol%であり、
前記
原料金属におけるランタンの含有率は、前記
原料金属における前記第3金属の含有率と等しく、
前記原料金属におけるセリウム、ランタンおよび前記第3金属以外の金属の含有率は1mol%以下であり、
前記複合酸化物触媒は、倍率5000倍のSEM画像において内部に空洞を有する粒子を含み、
前記空洞の径は、0.2μm以上かつ5μm以下であることを特徴とする複合酸化物触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合酸化物触媒およびその製造方法、並びに、当該複合酸化物触媒を含む多孔質複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンやガソリンエンジンを搭載している車両では、排ガス中のスス等の粒子状物質(PM:Particulate Matter)を捕集して燃焼させる(すなわち、酸化除去する)フィルタが設けられている。特許文献1では、排ガス浄化フィルタに担持される粒子状物質燃焼触媒として、相互に積層状態にある複数の層状アルミナと、これらの間に分散されたAg合金とを有する触媒が提案されている。当該Ag合金は、AgZr合金、AgPt合金およびAgPd合金のグループから選ばれる少なくとも1種である。
【0003】
特許文献2では、リーンバーンエンジンからの排ガスに含まれる粒子状物質を酸化除去するための排ガス浄化触媒が提案されている。当該排ガス浄化触媒は、酸化プラセオジム、酸化テルビウム、および、それらの組合せからなる群より選択される第1の金属酸化物、並びに、酸化ランタン、酸化ネオジム、酸化イットリウム、および、それらの組合せからなる群より選択される第2の金属酸化物を含有する。
【0004】
特許文献3にて提案されている排ガス浄化触媒は、酸化プラセオジム、酸化テルビウム、および、それらの組合せからなる群より選択される第1の金属酸化物、酸化ネオジムである第2の金属酸化物、ジルコニア、または、ジルコニアとセリアとの組合せである第3の金属酸化物、並びに、酸化ランタン、酸化イットリウム、酸化バリウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化ケイ素、および、それらの組合せからなる群より選択される第4の金属酸化物を含有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-36782号公報
【文献】特開2014-124631号公報
【文献】特開2014-200771号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1の粒子状物質燃焼触媒では、白金族元素が使用されることにより、粒子状物質燃焼触媒の製造コストが増大する。また、当該粒子状物質燃焼触媒では、高温耐久試験によるPM燃焼速度の低下が大きい。特許文献2および特許文献3の排ガス浄化触媒は、白金やイリジウム等の白金族元素をさらに含有するため、製造コストが増大する。
【0007】
現在、白金族元素のような高価な材料を使用することなく、排ガス中の粒子状物質等の対象物を低温にて燃焼させる(すなわち、酸化させる)ことが可能な触媒が求められている。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、対象物の酸化開始温度を低くすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、排ガス中の粒子状物質の燃焼を促進させる複合酸化物触媒に向けられている。本発明の好ましい一の形態に係る複合酸化物触媒は、含有金属として、第1金属であるセリウムと、第2金属であるランタンと、第3金属と、を含む。前記第3金属は、マンガンまたはプラセオジムである。前記含有金属におけるセリウムの含有率は10mol%以上かつ93mol%以下である。前記含有金属におけるランタンの含有率は3.5mol%以上かつ45mol%以下である。前記第3金属がマンガンである場合、前記含有金属における前記第3金属の含有率は3.5mol%以上かつ45mol%以下である。前記第3金属がプラセオジムである場合、前記含有金属における前記第3金属の含有率は10mol%である。前記含有金属におけるランタンの含有率は、前記含有金属における前記第3金属の含有率と等しい。前記含有金属におけるセリウム、ランタンおよび前記第3金属以外の金属の含有率は1mol%以下である。前記複合酸化物触媒は、倍率5000倍のSEM画像において内部に空洞を有する粒子を含む。前記空洞の径は、0.2μm以上かつ5μm以下である。
【0010】
好ましくは、前記含有金属におけるセリウムの含有率は80mol%以上かつ93mol%以下である。前記含有金属におけるランタンの含有率は3.5mol%以上かつ10mol%以下である。前記第3金属がマンガンである場合、前記含有金属における前記第3金属の含有率は3.5mol%以上かつ10mol%以下である。
【0014】
本発明は、多孔質複合体にも向けられている。好ましい一の形態に係る多孔質複合体は、多孔質の基材と、前記基材上に形成され、排ガス中の粒子状物質を捕集する多孔質の捕集層と、を備える。前記捕集層は上述の複合酸化物触媒を含む。
【0015】
好ましくは、前記基材は、内部が隔壁により複数のセルに仕切られたハニカム構造を有する。前記複数のセルのうち少なくとも一部のセルの内側面は、前記捕集層により被覆される。
【0016】
より好ましくは、前記多孔質複合体は、ガソリンエンジンまたディーゼルエンジンから排出される排ガス中の粒子状物質を捕集するフィルタである。
【0017】
本発明は、排ガス中の粒子状物質の燃焼を促進させる複合酸化物触媒の製造方法にも向けられている。好ましい一の形態に係る複合酸化物触媒の製造方法は、原料金属の硝化物とクエン酸とを混合して混合水溶液を調製する工程と、前記混合水溶液を加熱して前駆体を得る工程と、前記前駆体を焼成して複合酸化物触媒を得る工程と、を備える。前記原料金属は、第1金属であるセリウムと、第2金属であるランタンと、第3金属と、を含む。前記第3金属は、マンガンまたはプラセオジムである。前記原料金属におけるセリウムの含有率は10mol%以上かつ93mol%以下である。前記原料金属におけるランタンの含有率は3.5mol%以上かつ45mol%以下である。前記第3金属がマンガンである場合、前記原料金属における前記第3金属の含有率は3.5mol%以上かつ45mol%以下である。前記第3金属がプラセオジムである場合、前記原料金属における前記第3金属の含有率は10mol%である。前記原料金属におけるランタンの含有率は、前記原料金属における前記第3金属の含有率と等しい。前記原料金属におけるセリウム、ランタンおよび前記第3金属以外の金属の含有率は1mol%以下である。前記複合酸化物触媒は、倍率5000倍のSEM画像において内部に空洞を有する粒子を含む。前記空洞の径は、0.2μm以上かつ5μm以下である。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、対象物の酸化開始温度を低くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】一の実施の形態に係る多孔質複合体の平面図である。
【
図4】複合酸化物触媒の製造の流れを示す図である。
【
図5】実施例1の複合酸化物触媒のSEM画像である。
【
図6】実施例11の複合酸化物触媒のSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、本発明の一の実施の形態に係る多孔質複合体1を簡略化して示す平面図である。多孔質複合体1は、一方向に長い筒状部材であり、
図1では、多孔質複合体1の長手方向における一方側の端面を示している。
図2は、多孔質複合体1を示す断面図である。
図2では、当該長手方向に沿う断面の一部を示している。多孔質複合体1は、例えば、自動車等のガソリンエンジンから排出される排ガス中のスス等の粒子状物質を捕集するガソリン・パティキュレート・フィルタ(GPF:Gasoline Particulate Filter)として用いられる。
【0021】
多孔質複合体1は、多孔質の基材2と、多孔質の捕集層3とを備える。
図1および
図2に示す例では、基材2は、ハニカム構造を有する部材である。基材2は、筒状外壁21と、隔壁22とを備える。筒状外壁21は、長手方向(すなわち、
図2中の左右方向)に延びる筒状の部位である。長手方向に垂直な筒状外壁21の断面形状は、例えば略円形である。当該断面形状は、多角形等の他の形状であってもよい。
【0022】
隔壁22は、筒状外壁21の内部に設けられ、当該内部を複数のセル23に仕切る格子状の部位である。複数のセル23はそれぞれ、長手方向に延びる空間である。長手方向に垂直な各セル23の断面形状は、例えば略正方形である。当該断面形状は、多角形または円形等の他の形状であってもよい。複数のセル23は、原則として同じ断面形状を有する。複数のセル23には、異なる断面形状のセル23が含まれてもよい。基材2は、内部が隔壁22により複数のセル23に仕切られたセル構造体である。
【0023】
筒状外壁21および隔壁22はそれぞれ、多孔質の部位である。筒状外壁21および隔壁22は、例えばセラミックにより形成される。筒状外壁21および隔壁22の主材料は、好ましくはコージェライト(2MgO・2Al2O3・5SiO2)である。筒状外壁21および隔壁22の材料は、コージェライト以外のセラミックであってもよく、セラミック以外の材料であってもよい。
【0024】
筒状外壁21の長手方向の長さは、例えば、50mm~300mmである。筒状外壁21の外径は、例えば、50mm~300mmである。筒状外壁21の厚さは、例えば30μm(マイクロメートル)以上であり、好ましくは50μm以上である。筒状外壁21の厚さは、例えば1000μm以下であり、好ましくは500μm以下であり、より好ましくは350μm以下である。
【0025】
隔壁22の長手方向の長さは、筒状外壁21と略同じである。隔壁22の厚さは、例えば30μm以上であり、好ましくは50μm以上である。隔壁22の厚さは、例えば1000μm以下であり、好ましくは500μm以下であり、より好ましくは350μm以下である。隔壁22の気孔率は、例えば20%以上であり、好ましくは30%以上である。隔壁22の気孔率は、例えば80%以下であり、好ましくは70%以下である。当該気孔率は、例えば、純水を媒体としてアルキメデス法により測定可能である。隔壁22の平均細孔径は、例えば5μm以上であり、好ましくは8μm以上である。隔壁22の平均細孔径は、例えば30μm以下であり、好ましくは25μm以下である。当該平均細孔径は、例えば水銀圧入法(JIS R1655準拠)により測定される。
【0026】
基材2のセル密度(すなわち、長手方向に垂直な断面における単位面積当たりのセル23の数)は、例えば10セル/cm
2(平方センチメートル)以上であり、好ましくは20セル/cm
2以上であり、より好ましくは30セル/cm
2以上である。セル密度は、例えば200セル/cm
2以下であり、好ましくは150セル/cm
2以下である。
図1では、セル23の大きさを実際よりも大きく、セル23の数を実際よりも少なく描いている。セル23の大きさおよび数等は、様々に変更されてよい。
【0027】
多孔質複合体1がGPFとして用いられる場合、長手方向における多孔質複合体1の一端側(すなわち、
図2中の左側)を入口とし、他端側を出口として、多孔質複合体1の内部を排ガス等のガスが流れる。また、多孔質複合体1の複数のセル23のうち、一部の複数のセル23において、入口側の端部に目封止部24が設けられ、残りの複数のセル23において、出口側の端部に目封止部24が設けられる。
【0028】
図1は、多孔質複合体1の入口側を描いている。また、
図1では、図の理解を容易にするために、入口側の目封止部24に平行斜線を付している。
図1に示す例では、入口側に目封止部24が設けられたセル23と、入口側に目封止部24が設けられていないセル23(すなわち、出口側に目封止部24が設けられたセル23)とが、
図1中の縦方向および横方向において交互に配列される。
【0029】
以下の説明では、出口側に目封止部24が設けられたセル23を「第1セル231」と呼び、入口側に目封止部24が設けられたセル23を「第2セル232」と呼ぶ。また、第1セル231および第2セル232を区別する必要が無い場合は、既述のように、まとめて「セル23」と呼ぶ。多孔質複合体1の複数のセル23では、長手方向の一端が封止された複数の第1セル231と、長手方向の他端が封止された複数の第2セル232とが交互に配列されている。
【0030】
捕集層3は、基材2の表面上に膜状に形成される。
図2に示す例では、捕集層3は、出口側に目封止部24が設けられた複数の第1セル231内に設けられ、当該複数の第1セル231の内側面(すなわち、隔壁22の表面)を被覆する。
図2では、捕集層3を太線にて示す。捕集層3は、当該複数の第1セル231内において、出口側の目封止部24の内面も被覆する。一方、入口側に目封止部24が設けられた複数の第2セル232内には、捕集層3は存在しない。換言すれば、複数の第2セル232の内側面は、捕集層3により被覆されておらず、露出している。
【0031】
複数の第1セル231における捕集層3は、例えば、主にセラミックにより形成される。この場合、好ましくは、捕集層3は、炭化ケイ素、コージェライト、ムライト、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化鉄、酸化セリウムのうち少なくとも1つを主材料として含む。なお、捕集層3は、他のセラミックを主材料として形成されてもよく、セラミック以外の材料(例えば、後述する複合酸化物触媒)を主材料として形成されてもよい。
【0032】
捕集層3の平均細孔径は、好ましくは0.1μm以上かつ20μm以下である。当該平均細孔径は、より好ましくは4.1μm以上かつ20μm以下であり、さらに好ましくは4.1μm以上かつ6μm以下である。捕集層3の気孔率は、好ましくは、50%以上かつ90%以下である。当該気孔率は、より好ましくは、70%以上かつ78%以下である。捕集層3を構成する骨材の平均粒径は、好ましくは、0.1μm以上かつ5μm以下である。当該平均粒径は、より好ましくは、0.4μm以上かつ5μm以下である。
【0033】
捕集層3の平均細孔径、気孔率および骨材の平均粒径は、多孔質複合体1の研磨断面のSEM(走査型電子顕微鏡)画像を画像解析することにより求めることができる。当該画像解析は、例えば、株式会社日本ローパー製の画像解析ソフト「Image-Pro ver. 9.3.2」を用いて行われる。
【0034】
捕集層3の全体の平均膜厚(以下、「全体平均膜厚」とも呼ぶ。)は、好ましくは、10μm以上かつ40μm以下である。当該全体平均膜厚は、より好ましくは、30μm以上かつ40μm以下である。また、上述の出口側の端部における捕集層3の平均膜厚(以下、「出口側平均膜厚」とも呼ぶ。)は、20μm以上かつ50μm以下である。当該出口側平均膜厚は、より好ましくは、35μm以上かつ50μm以下である。好ましくは、出口側平均膜厚は全体平均膜厚よりも大きい。捕集層3の平均膜厚は、例えば、3D形状測定機により測定可能である。
【0035】
図1および
図2に示す多孔質複合体1では、
図2中の矢印A1にて示すように、多孔質複合体1内に流入するガスは、入口側が封止されていない第1セル231の入口から当該第1セル231内に流入し、当該第1セル231から捕集層3および隔壁22を通過して、出口側が封止されていない第2セル232へと移動する。このとき、捕集層3においてガス中の粒子状物質が効率良く捕集される。
【0036】
捕集層3は、捕集した粒子状物質の燃焼(すなわち、酸化除去)を促進させる複合酸化物触媒をさらに含む。当該複合酸化物触媒は、好ましくは、捕集層3の主材(例えば、上述のセラミック)に固定される金属酸化物粒子(すなわち、金属酸化物により構成される微粒子)である。なお、当該複合酸化物触媒は、必ずしも粒子状で捕集層3の主材に固定される必要はなく、例えば、当該主材に固溶していてもよい。また、上述のように、捕集層3の主材は、当該複合酸化物触媒を主材料として形成されていてもよい。この場合、当該主材には、複合酸化物触媒に加えて、例えば上述のセラミックが含まれていてもよい。
【0037】
複合酸化物触媒に含まれる金属(以下、「含有金属」と呼ぶ。)は、第1金属であるセリウム(Ce)と、第2金属であるランタン(La)と、第3金属である。換言すれば、複合酸化物触媒は、Ceと、Laと、第3金属と、を含有金属として含む。第3金属は、遷移金属、または、CeおよびLa以外の希土類金属である。第3金属が遷移金属である場合、好ましくは、マンガン(Mn)が第3金属として利用される。第3金属が希土類金属である場合、好ましくは、プラセオジム(Pr)が第3金属として利用される。第3金属は、Mn以外の遷移金属(例えば、コバルト(Co)等)であってもよく、Pr以外の希土類金属(ただし、CeおよびLaを除く。)であってもよい。
【0038】
複合酸化物触媒の含有金属(以下、単に「含有金属」とも呼ぶ。)におけるCeの含有率は、5mol%以上かつ95mol%以下である。含有金属におけるLaの含有率は、2mol%以上かつ93mol%以下である。含有金属における第3金属の含有率は、2mol%以上かつ93mol%以下である。
【0039】
好ましくは、含有金属におけるCeの含有率は50mol%以上かつ95mol%以下であり、Laの含有率は2mol%以上かつ48mol%以下であり、第3金属の含有率は2mol%以上かつ48mol%以下である。より好ましくは、第3金属はMnまたはPrであり、含有金属における第3金属の含有率は、含有金属におけるLaの含有率と実質的に等しい。
【0040】
好ましくは、含有金属におけるCe、Laおよび第3金属の合計含有率は、実質的に100mol%である。なお、当該合計含有率が実質的に100mol%である状態とは、複合酸化物触媒における不純物金属(すなわち、Ce、Laおよび第3金属以外の金属)の含有率が1mol%以下である状態を意味する。
【0041】
次に、多孔質複合体1の製造方法の一例について、
図3を参照しつつ説明する。多孔質複合体1が製造される際には、まず、基材2の筒状外壁21の外側面が、不透液性のシート部材により覆われる。例えば、不透液性のフィルムが、筒状外壁21の外側面の略全面に亘って巻き付けられる。
【0042】
続いて、捕集層3を形成するための原料スラリーが準備される(ステップS11)。原料スラリーは、捕集層3の原料である粒子(以下、「捕集層粒子」と呼ぶ。)、造孔剤の粒子、および、凝集剤等を水に加えて混合することにより調製される。捕集層粒子は、例えば、上述の捕集層3の主材の原料である炭化ケイ素(SiC)または酸化セリウム(CeO2)の粒子、および、複合酸化物触媒の粒子を含む。また、上述のように、捕集層3の主材が主に複合酸化物触媒により形成されている場合、上記捕集層粒子は、主に複合酸化物触媒の粒子である。
【0043】
原料スラリーは、捕集層粒子および造孔剤粒子等が凝集した粒子(以下、「凝集粒子」と呼ぶ。)を含む。原料スラリーが調製される際には、凝集粒子の粒径が基材2の平均細孔径よりも大きくなるように、凝集剤の種類や添加量等が決定される。これにより、後述するステップS12において、凝集粒子が基材2の細孔に浸入することが防止または抑制される。原料スラリーの粘度は、例えば、2mPa・s~30mPa・sである。
【0044】
次に、基材2の複数のセル23のうち、捕集層3が形成される予定の複数の第1セル231に対して、当該複数の第1セル231の入口(すなわち、目封止部24が設けられていない方の端部)から原料スラリーが供給される(ステップS12)。原料スラリー中の水は、基材2の隔壁22を透過して隣接する第2セル232へと移動し、第2セル232の目封止部24が設けられていない方の端部から、基材2の外部へと流出する。原料スラリー中の凝集粒子は、隔壁22を通過することなく、原料スラリーが供給された第1セル231の内面に付着する。これにより、基材2の第1セル231の内面に凝集粒子が略均等に付着した中間体が形成される。
【0045】
所定量の原料スラリーの供給が終了すると、水分が流出した中間体が乾燥される(ステップS13)。例えば、中間体は、室温で12時間乾燥された後、80℃で12時間加熱されることにより、さらに乾燥される。その後、中間体が焼成されることにより、基材2上に付着した多数の凝集粒子中の捕集層粒子が結合して基材2表面上に広がり、多孔質の捕集層3が形成される(ステップS14)。当該焼成工程では、捕集層3に含まれている造孔剤粒子が、燃焼除去されることにより、捕集層3に細孔が形成される。ステップS14における焼成温度および焼成時間はそれぞれ、例えば、1000℃および2時間である。
【0046】
次に、上述のステップS11における原料スラリーに含まれる複合酸化物触媒の製造方法の一例について、
図4を参照しつつ説明する。
図4に示す製造方法は、クエン酸法と呼ばれる製造方法である。複合酸化物触媒が製造される際には、まず、秤量された原料金属の硝化物を、添加物であるクエン酸と共にイオン交換水に溶解させることにより、原料金属の硝化物とクエン酸とが混合した混合水溶液が調製される(ステップS21)。原料金属の硝化物は、硝酸セリウム(Ce(NO
3)
3)、硝酸ランタン(La(NO
3)
3)、および、第3金属の硝化物(すなわち、第3金属の硝酸塩)である。
【0047】
ステップS21における原料金属の硝化物の合計モル数とクエン酸のモル数との比は、例えば、1:1である。ステップS21における調製は、例えば、80℃に加熱された状態で行われる。また、ステップS21における原料金属の硝化物の秤量では、複合酸化物触媒の含有金属におけるCe、Laおよび第3金属の含有率が所望の値となるように、原料金属におけるCe、Laおよび第3金属の含有率が決定される。なお、原料金属におけるCe、Laおよび第3金属の含有率はそれぞれ、複合酸化物触媒の含有金属におけるCe、Laおよび第3金属の含有率と実質的に等しい。
【0048】
続いて、上述の混合水溶液が加熱されることにより、複合酸化物触媒の前駆体が得られる(ステップS22)。ステップS22では、例えば、上記混合水溶液が100℃~120℃で加熱濃縮され、さらに、150℃~300℃で加熱されることにより、上記前駆体の粉末が得られる。
【0049】
その後、当該前駆体が焼成されることにより、複合酸化物触媒が得られる(ステップS23)。ステップS23では、例えば、上記前駆体の粉末を大気下において400℃で4時間焼成し、焼成後の物質をメノウ乳鉢で粉砕する。さらに、粉砕後の物質を大気下において1000℃で2時間焼成し、焼成後の物質を再度メノウ乳鉢で粉砕することにより、複合酸化物触媒が得られる。
【0050】
複合酸化物触媒の製造は、上述のクエン酸法以外の方法により行われてもよい。例えば、複合酸化物触媒は、含浸担持法により製造されてもよい。この場合、まず、秤量された硝酸ランタンおよび第3金属の硝化物がイオン交換水に溶解されて水溶液が調製される。また、秤量された酸化セリウムが、当該水溶液とは別のイオン交換水に懸濁されて懸濁液が調製される。続いて、当該懸濁液に上記水溶液が滴下された液体を加熱することにより、複合酸化物触媒の前駆体が得られる。具体的には、例えば、酸化セリウム粉末を含む上記懸濁液が100℃~120℃で加熱されて乾固した後、さらに、150℃~300℃で加熱されることにより、上記前駆体の粉末が得られる。その後、当該前駆体が焼成されることにより、複合酸化物触媒が得られる。具体的には、例えば、上記前駆体の粉末を大気下において400℃で4時間焼成し、焼成後の物質をメノウ乳鉢で粉砕する。さらに、粉砕後の物質を大気下において1000℃で2時間焼成し、焼成後の物質を再度メノウ乳鉢で粉砕することにより、複合酸化物触媒が得られる。
【0051】
また、複合酸化物触媒は、錯体重合法により製造されてもよい。この場合、まず、秤量された原料金属の化合物を、添加物であるオキシカルボン酸と共にグリコールに溶解させることにより、原料金属化合物とオキシカルボン酸とが混合したグリコール溶液(以下、「混合溶液」とも呼ぶ。)が調製される。原料金属化合物は、例えば、原料金属のアルコキシド、ハロゲン化物、炭酸塩、硫酸塩、カルボン酸塩、水酸化物、硝化物等である。上記オキシカルボン酸は、例えば、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、タルトロン酸、グリセリン酸、オキシ酪酸、ヒドロアクリル酸、乳酸、グリコール酸等である。上記グリコールは、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール等である。例えば、原料金属化合物として、硝酸セリウム、硝酸ランタン、および、第3金属の硝化物が用いられ、オキシカルボン酸およびグリコールとして、クエン酸およびプロピレングリコールが用いられる。原料金属化合物の合計モル数とオキシカルボン酸のモル数との比は、例えば、1:10である。混合溶液の調製は、例えば、80℃に加熱された状態で行われる。
【0052】
続いて、上述の混合溶液が加熱されることにより、複合酸化物触媒の前駆体が得られる。具体的には、例えば、上記混合溶液が120℃~150℃で加熱されることによりゲル化した後、さらに、300℃~400℃で加熱されることにより、上記前駆体の粉末が得られる。その後、当該前駆体が焼成されることにより、複合酸化物触媒が得られる。具体的には、例えば、上記前駆体の粉末を大気下において400℃で4時間焼成し、焼成後の物質をメノウ乳鉢で粉砕する。さらに、粉砕後の物質を大気下において1000℃で2時間焼成し、焼成後の物質を再度メノウ乳鉢で粉砕することにより、複合酸化物触媒が得られる。
【0053】
次に、表1~表2を参照しつつ、複合酸化物触媒とススの酸化開始温度との関係について説明する。
【0054】
【0055】
【0056】
実施例1~11の複合酸化物触媒では、含有金属におけるCeの含有率は10mol%~93mol%であり、Laの含有率は3.5mol%~45mol%であり、第3金属の含有率は、3.5mol%~45mol%である。実施例1~7および実施例10~11では、第3金属はMnである。実施例8では第3金属はPrであり、実施例9では第3金属はCoである。
【0057】
実施例1~9では、複合酸化物触媒は上述のクエン酸法により製造される。
図5は、実施例1の複合酸化物触媒を、SEMにより5000倍の倍率で撮影することにより取得されたSEM画像である。実施例1の複合酸化物触媒は、嵩高であり、
図5中において符号91を付した円にて囲むように、内部に比較的大きな空洞を有する疎な粒子を含む。表
2では、実施例1の複合酸化物触媒の当該構造を「疎」として記載している。実施例2~9についても、複合酸化物触媒の構造は実施例1と略同様に「疎」である。実施例1~9の複合酸化物触媒は、例えば、径が0.2μm以上かつ5μm以下の多数の空洞を有する疎な粒子を含む。
【0058】
上記空洞の径は、以下の方法で求められる。まず、SEMにより複合酸化物触媒の表面を5000倍の倍率で撮影し、
図5のようなSEM画像を取得する。続いて、当該SEM画像を、例えば、上記画像解析ソフト「Image-Pro ver. 9.3.2」を用いて画像解析することにより、複合酸化物触媒の粒子が有する空洞の径が求められる。当該空洞の径は、例えば、上記SEM画像における空洞(すなわち、明部分である粒子内に存在する暗部分)のフェレー径(JIS Z 8827-1)である。当該フェレー径は、SEM画像において、所定の方向(例えば、左右方向)を向く2本の平行な直線で空洞を挟み、当該2本の直線を空洞に外接させた際の当該2本の直線の間隔(すなわち、当該2本の直線に垂直な方向における当該2本の直線の間の距離)である。
【0059】
実施例10では、複合酸化物触媒は上述の含浸担持法により製造され、実施例11では、複合酸化物触媒は上述の錯体重合法により製造される。
図6は、実施例11の複合酸化物触媒を、SEMにより5000倍の倍率で撮影することにより取得されたSEM画像である。実施例11の複合酸化物触媒の構造は、実施例1の「疎」な構造と異なり、「密」である。具体的には、実施例11の複合酸化物触媒では、倍率5000倍のSEM画像において、実質的に確認可能な大きさの空洞は粒子内に存在していないか、あるいは、粒子内に空洞が確認される場合であっても当該空洞の上記径は0.2μm未満である。この場合、表2の空洞径の欄には「×」を記載する。実施例10についても、複合酸化物触媒の構造は実施例11と略同様に「密」である。
【0060】
比較例1の酸化物触媒では、含有金属におけるCeの含有率が100mol%である。すなわち、比較例1の酸化物触媒には、1種類の金属のみが含まれる。一方、比較例2~4の酸化物触媒には、2種類の金属のみが含まれる。比較例2の酸化物触媒では、含有金属におけるCeの含有率は80mol%であり、Laの含有率は20mol%である。比較例3の酸化物触媒では、含有金属におけるCeの含有率は80mol%であり、第3金属であるMnの含有率は20mol%である。比較例4の酸化物触媒では、含有金属におけるLaの含有率は50mol%であり、第3金属であるMnの含有率は50mol%である。比較例1~4では、酸化物触媒は上述のクエン酸法により製造される。比較例1~4の酸化物触媒の構造は、実施例1~9と略同様に「疎」である。
【0061】
表1には、ガソリンを燃焼させて得たスス(いわゆる、ガソリンススであり、以下、単に「スス」と呼ぶ。)を、実施例1~11の複合酸化物触媒または比較例1~4の酸化物触媒と混合して加熱した場合の、ススの酸化開始温度を示す。比較例5は、触媒を使用しない場合のススの酸化開始温度を示す。
【0062】
ススの酸化開始温度は、以下のようにして求めた。実施例1~11では、まず、複合酸化物触媒の粉末とススとを、重量比が95:5となるように混合し、複合酸化物触媒とススとの混合試料を得た。当該混合試料では、ススと複合酸化物触媒とが、捕集層3により捕集された粒子状物質と捕集層3との接触状態に近いルーズコンタクト(LC)状態である。続いて、上記混合試料に対して、TPD-MS(加熱発生ガス分析)装置にて測定を行った。具体的には、ヘリウム(He)80%および酸素(O2)20%を含む混合ガスが流量50mL/minにて流れる雰囲気下において、混合試料0.04gを所定の昇温プログラム(例えば、昇温速度20℃/min)に従って加熱し、700℃まで昇温させた。そして、加熱に伴って混合試料から発生する気体の濃度変化を測定し、ススの燃焼(すなわち、酸化)により生成される一酸化炭素(CO)の量の変化を取得した。その後、累積CO生成量が全CO生成量の20%に達した温度を、ススの酸化が生じた温度(すなわち、酸化開始温度)とした。酸化開始温度が低い程、複合酸化物触媒の触媒能は高い。
【0063】
比較例1~4では、上述の複合酸化物触媒に代えて、比較例の酸化物触媒を使用して混合試料を調製した点を除き、上記と同様の方法で酸化開始温度を測定した。比較例5では、上述の混合試料に代えて、触媒を混合していないススを使用した点を除き、上記と同様の方法で酸化開始温度を測定した。
【0064】
比較例5に示すように、ススのみの場合の酸化開始温度は450℃と高い。また、比較例1~4の酸化開始温度も、364℃~389℃と比較的高い。これに対し、実施例1~11の酸化開始温度は313℃~355℃であり、比較例1~5に比べて低い。
【0065】
実施例1~11では、実施例1~9(製造方法:クエン酸法、複合酸化物触媒の構造:疎)の酸化開始温度は313℃~345℃であり、実施例10~11(製造方法:含浸担持法または錯体重合法、複合酸化物触媒の構造:密)の酸化開始温度351℃~355℃よりも低い。また、実施例1(第3金属:Mn、10mol%)および実施例8(第3金属:Pr、10mol%)の酸化開始温度は320℃~322℃であり、実施例9(第3金属:Co、10mol%)の酸化開始温度345℃よりも低い。
【0066】
実施例1(La含有率=Mn含有率、La含有率+Mn含有率=20mol%)の酸化開始温度は320℃であり、実施例6~7(La含有率≠Mn含有率、La含有率+Mn含有率=20mol%)の酸化開始温度340℃よりも低い。実施例1~3(Ce含有率52mol%~93mol%)の酸化開始温度は313℃~323℃であり、実施例4~5(Ce含有率10mol%~30mol%)の酸化開始温度342℃~345℃よりも低い。
【0067】
以上に説明したように、複合酸化物触媒は、含有金属として、第1金属であるCeと、第2金属であるLaと、第3金属と、を含む。第3金属は、遷移金属、または、CeおよびLa以外の希土類金属である。当該含有金属におけるCeの含有率は5mol%以上かつ95mol%以下である。含有金属におけるLaの含有率は2mol%以上かつ93mol%以下である。含有金属における第3金属の含有率は2mol%以上かつ93mol%以下である。当該複合酸化物触媒によれば、上述のように、粒子状物質等の対象物の酸化開始温度を低くすることができる。また、上記複合酸化物触媒は、白金族元素等の高価な金属を実質的に含んでいないため、複合酸化物触媒の製造コストを低くすることができる。
【0068】
上述のように、複合酸化物触媒では、上記含有金属におけるCeの含有率は50mol%以上かつ95mol%以下であることが好ましい。含有金属におけるLaの含有率は2mol%以上かつ48mol%以下であることが好ましい。含有金属における第3金属の含有率は2mol%以上かつ48mol%以下であることが好ましい。これにより、粒子状物質等の対象物の酸化開始温度をさらに低くすることができる。
【0069】
より好ましくは、第3金属はMnまたはPrであり、含有金属におけるLaの含有率は、含有金属における第3金属の含有率と等しい。これにより、粒子状物質等の対象物の酸化開始温度をより一層低くすることができる。
【0070】
上述のように、複合酸化物触媒は、倍率5000倍のSEM画像において内部に空洞を有する粒子を含むことが好ましい。当該複合酸化物触媒では、粒子状物質等の対象物と複合酸化物触媒との接触に上記空洞が利用されることにより、対象物と複合酸化物触媒との接触面積を大きくすることができる。その結果、対象物の酸化開始温度をさらに低くすることができる。
【0071】
より好ましくは、上記空洞の径は、0.2μm以上かつ5μm以下である。これにより、粒子状物質等の対象物の当該空洞への進入が容易となるため、当該対象物と複合酸化物触媒との接触が促進される。その結果、対象物の酸化開始温度をより一層低くすることができる。
【0072】
上述のように、多孔質複合体1は、多孔質の基材2と、基材2上に形成された多孔質の捕集層3とを備える。捕集層3は、上述の複合酸化物触媒を含む。これにより、多孔質複合体1において、捕集層3により捕集された粒子状物質を、低い温度にて酸化(すなわち、燃焼)させて除去することができる。その結果、多孔質複合体1に要求される耐熱性を緩和することができ、多孔質複合体1の設計の自由度を向上することができる。
【0073】
上述のように、基材2は、内部が隔壁22により複数のセル23に仕切られたハニカム構造を有し、複数のセル23のうち少なくとも一部のセル23の内側面は、捕集層3により被覆されることが好ましい。当該構造を有する多孔質複合体1によれば、粒子状物質の好適な捕集と圧力損失の抑制とを両立させることができる。また、上述のように、多孔質複合体1によれば、捕集された粒子状物質の酸化を促進することができ、当該粒子状物質の酸化開始温度を低くすることができる。したがって、多孔質複合体1は、ガソリンエンジンから排出される排ガス中の粒子状物質を捕集するGPFに特に適している。
【0074】
上述の複合酸化物触媒の製造方法は、原料金属の硝化物とクエン酸とを混合して混合水溶液を調製する工程と、混合水溶液を加熱して前駆体を得る工程と、前駆体を焼成して複合酸化物触媒を得る工程と、を備える。当該原料金属は、第1金属であるCeと、第2金属であるLaと、第3金属と、を含む。第3金属は、遷移金属、または、CeおよびLa以外の希土類金属である。原料金属におけるCeの含有率は5mol%以上かつ95mol%以下である。原料金属におけるLaの含有率は2mol%以上かつ93mol%以下である。原料金属における第3金属の含有率は2mol%以上かつ93mol%以下である。当該製造方法により製造された複合酸化物触媒によれば、上記と同様に、粒子状物質等の対象物の酸化開始温度を低くすることができる。また、当該製造方法によれば、内部に空洞を有する粒子を含む複合酸化物触媒を容易に製造することができる。その結果、対象物の酸化開始温度をさらに低くすることができる。
【0075】
上述の複合酸化物触媒およびその製造方法、並びに、多孔質複合体1では、様々な変更が可能である。
【0076】
例えば、ステップS21~S23に示す複合酸化物触媒の製造(すなわち、クエン酸法による複合酸化物触媒の製造)では、ステップS21における原料金属の硝化物の合計モル数とクエン酸のモル数との比は、様々に変更されてよい。また、ステップS22における混合水溶液の加熱温度、および、ステップS23における焼成温度および焼成時間も、様々に変更されてよい。
【0077】
また、含浸担持法および錯体重合法による複合酸化物触媒の製造では、前駆体生成時の加熱温度、および、複合酸化物触媒生成時の焼成温度および焼成時間は、様々に変更されてよい。また、錯体重合法による複合酸化物触媒の製造では、ステップS21における原料金属の硝化物の合計モル数とクエン酸のモル数との比も、様々に変更されてよい。なお、複合酸化物触媒は、上述のクエン酸法、含浸担持法および錯体重合法以外の様々な製造方法により製造されてもよい。
【0078】
多孔質複合体1は、上述のGPFには限定されず、例えば、ディーゼルエンジンから排出される排ガス中の粒子状物質を捕集するディーゼル・パティキュレート・フィルタ(DPF:Diesel Particulate Filter)であってもよい。多孔質複合体1は、上述のように、捕集された粒子状物質の酸化開始温度を低くすることができるため、GPFのみならず、DPFにも特に適している。なお、多孔質複合体1は、GPFおよびDPF以外の様々なフィルタとして用いられてもよい。あるいは、多孔質複合体1は、フィルタ以外の用途に用いられてもよい。
【0079】
多孔質複合体1の構造は、様々に変更されてよい。例えば、基材2から目封止部24が省略されてもよい。また、全てのセル23の内側面に、捕集層3が設けられてもよい。さらには、基材2は、必ずしもハニカム構造を有する必要はなく、内部が隔壁により仕切られていない単なる筒状や平板状等、他の形状であってもよい。
【0080】
多孔質複合体1の製造方法は、
図3に例示するものには限定されず、様々に変更されてよい。例えば、ステップS12において、基材2への原料スラリーの供給方法は、様々に変更されてよい。また、捕集層3の原料の基材2への供給は、原料スラリーを用いる濾過方式には限定されず、ディップ方式、スプレー方式または乾式等、様々な方法により行われてよい。さらに、ステップS13における中間体の乾燥方法および乾燥時間、並びに、ステップS14における中間体の焼成温度および焼成時間等も、様々に変更されてよい。
【0081】
複合酸化物触媒は、必ずしも多孔質複合体1の捕集層3に含まれる必要はなく、単独で、または、他の構造体に設けられて、粒子状物質や他の対象物の酸化促進に利用されてもよい。
【0082】
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明は、例えば、ガソリンエンジンから排出される排ガス中の粒子状物質を捕集するガソリン・パティキュレート・フィルタ等、粒子状物質を捕集するフィルタにて使用される複合酸化物触媒に利用可能である。
【符号の説明】
【0084】
1 多孔質複合体
2 基材
3 捕集層
22 隔壁
23 セル
S21~S23 ステップ