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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-29
(45)【発行日】2023-10-10
(54)【発明の名称】ダクト内圧縮性流体の圧力伝播解析装置
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/18 20200101AFI20231002BHJP
   G01M 9/06 20060101ALI20231002BHJP
   G06F 30/10 20200101ALI20231002BHJP
   G06F 30/20 20200101ALI20231002BHJP
   G06F 113/08 20200101ALN20231002BHJP
【FI】
G06F30/18
G01M9/06
G06F30/10
G06F30/20
G06F113:08
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019208790
(22)【出願日】2019-11-19
(65)【公開番号】P2021081988
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塩山 勉
(72)【発明者】
【氏名】朝倉 大輔
【審査官】合田 幸裕
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-194604(JP,A)
【文献】特開2017-162269(JP,A)
【文献】特開2004-125481(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0299122(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第101567027(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/18
G01M 9/06
G06F 30/10
G06F 30/20
G06F 113/08
IEEE Xplore
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮性流体で満たされたダクトの端部における境界条件の変化に伴って発生する圧力波の前記ダクト内での伝播を、前記ダクト内の前記圧縮性流体の圧力及び流量の変化を計算することで解析するダクト内圧縮性流体の圧力伝播解析装置であって、
前記ダクトの各部のダクト仕様情報を記録するダクト仕様情報記録手段と、
前記ダクトの各部における圧力伝播パラメータ情報の時刻歴を記録する圧力伝播パラメータ情報記録手段と、
前記ダクト仕様情報の値と前記圧力伝播パラメータ情報の現時刻値とを用いて、前記圧力伝播パラメータ情報の次時刻値を計算式により算出する計算手段と、
異なる時刻に関する前記計算手段の前記計算式を表示可能な表示手段と、
を有して構成されたことを特徴とするダクト内圧縮性流体の圧力伝播解析装置。
【請求項2】
前記圧力伝播パラメータ情報記録手段は、ダクト各部の音速値の時刻歴を圧力伝播パラメータ情報の時刻歴として記録する音速値情報記録手段と、前記ダクト各部の流量値の時刻歴を圧力伝播パラメータ情報の時刻歴として記録する流量値情報記録手段とを備えて構成され、前記音速値の時刻歴が、変換式を用いて圧力値の時刻歴に変換されるよう構成されたこと特徴とする請求項1に記載のダクト内圧縮性流体の圧力伝播解析装置。
【請求項3】
前記ダクト仕様情報記録手段及び前記圧力伝播パラメータ情報記録手段は、複数の行及び列により設定される複数のセルを備えた表計算ソフトウェアのスプレッドシートであり、
前記ダクト仕様情報記録手段の前記スプレッドシートでは、その列方向にダクトを軸方向に仮想分割したダクト各部が設定され、行方向にダクト仕様情報が設定されて、前記各セルに前記ダクト各部のダクト仕様情報の値が記録され、
前記圧力伝播パラメータ情報記録手段の前記スプレッドシートでは、その列方向に前記ダクトを軸方向に仮想分割したダクト各部が設定され、行方向に圧力伝播パラメータ情報の時刻が設定され、前記各セルに前記ダクト各部の前記圧力伝播パラメータ情報の時刻歴が記録され、
前記計算手段の計算式は、前記圧力伝播パラメータ情報記録手段の前記スプレッドシートにおける前記圧力伝播パラメータ情報の次時刻値を記録する前記セルに入力され記録されて、前記圧力伝播パラメータ情報の次時刻値を算出する数式であることを特徴とする請求項1または2に記載のダクト内圧縮性流体の圧力伝播解析装置。
【請求項4】
前記ダクト仕様情報記録手段と前記圧力伝播パラメータ情報記録手段のそれぞれのスプレッドシートでは、ダクト各部の情報は、断面積が同一のダクトの各部については列方向に連続して記録され、断面積が異なるダクトの断面積変更部、または前記ダクトに設けられる集合分岐部については列方向に間隔を空けて記録されるよう構成されたことを特徴とする請求項3に記載のダクト内圧縮性流体の圧力伝播解析装置。
【請求項5】
前記ダクト仕様情報記録手段に記録されるダクト仕様情報には、ダクトを軸方向に仮想分割したときの仮想分割長さが軸長刻み値として記録され、この軸長刻み値が、解析の時間刻み値と圧縮性流体の平衡時音速値との積よりも大きく設定されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のダクト内圧縮性流体の圧力伝播解析装置。
【請求項6】
断面積が同一である前記ダクト内の各部の音速の次時刻値は、
前記ダクトの端部でない場合には、圧縮性流体の比熱比と、時間刻み値と、ダクト仕様情報記録手段のスプレッドシートにおける同列に記録されたダクト伝播情報としての軸長刻み値及びダクト断面積と、音速値情報記録手段のスプレッドシートにおける同列、1つ少ない列及び1つ多い列の現時刻の音速値と、流量値情報記録手段のスプレッドシートにおける同列、1つ少ない列及び1つ多い列の現時刻の流速値とから所定の数式で計算され、
前記ダクトの始端であって流量値が境界条件で設定される場合には、前記圧縮性流体の比熱比と、前記時間刻み値と、前記ダクト仕様情報記録手段の前記スプレッドシートにおける同列に記録された前記軸長刻み値及び前記ダクト断面積と、前記音速値情報記録手段の前記スプレッドシートにおける同列及び1つ多い列の現時刻の音速値と、前記流量値情報記録手段の前記スプレッドシートの同列及び1つ多い列の現時刻の流速値とから所定の数式で計算され、
前記ダクトの終端であって流量値が境界条件で設定される場合には、前記圧縮性流体の比熱比と、前記時間刻み値と、前記ダクト仕様情報記録手段の前記スプレッドシートにおける同列に記録される前記軸長刻み値及び前記ダクト断面積と、前記音速値情報記録手段の前記スプレッドシートにおける同列及び1つ少ない列の現時刻の音速値と、前記流量値情報記録手段の前記スプレッドシートにおける同列及び1つ少ない列の現時刻の流速値とから所定の数式で計算されるよう構成されたことを特徴とする請求項3乃至5のいずれか1項に記載のダクト内圧縮性流体の圧力伝播解析装置。
【請求項7】
断面積が同一である前記ダクト内の各部の流量の次時刻値は、
前記ダクトの端部でない場合には、圧縮性流体の比熱比と、時間刻み値と、ダクト仕様情報記録手段のスプレッドシートにおける同列に記録されたダクト仕様情報としての軸長刻み値及びダクト断面積と、音速値情報記録手段のスプレッドシートにおける同列、1つ少ない列及び1つ多い列の現時刻の音速値と、流量値情報記録手段のスプレッドシートにおける同列、1つ少ない列及び1つ多い列の現時刻の流速値とから所定の数式で計算され、
前記ダクトの始端であって音速値が境界条件で設定される場合には、前記圧縮性流体の比熱比と、前記時間刻み値と、前記ダクト仕様情報記録手段のスプレッドシートにおける同列に記録された前記軸長刻み値及び前記ダクト断面積と、前記音速値情報記録手段の前記スプレッドシートにおける同列及び1つ多い列の現時刻の音速値と、前記流量値情報記録手段の前記スプレッドシートにおける同列及び1つ多い列の現時刻の流速値とから所定の数式で計算され、
前記ダクトの終端であって音速値が境界条件で設定される場合には、前記圧縮性流体の比熱比と、前記時間刻み値と、前記ダクト仕様情報記録手段の前記スプレッドシートにおける同列に記録された前記軸長刻み値及び前記ダクト断面積と、前記音速値情報記録手段の前記スプレッドシートにおける同列及び1つ少ない列の現時刻の音速値と、前記流量値情報記録手段の前記スプレッドシートにおける同列及び1つ少ない列の現時刻の流速値とから所定の数式で計算されるよう構成されたことを特徴とする請求項3乃至6のいずれか1項に記載のダクト内圧縮性流体の圧力伝播解析装置。
【請求項8】
断面積が異なる前記ダクトの断面積変更部での音速の次時刻値は、圧縮性流体の比熱比と、時間刻み値と、ダクト仕様情報記録手段のスプレッドシートにおける同列及び空列分を除く列に記録されたダクト仕様情報としての軸長刻み値及びダクト断面積と、音速値情報記録手段の前記スプレッドシートにおける同列及び空列分を除く列の現時刻の音速値と、流量値情報記録手段の前記スプレッドシートにおける同列及び空列分を除く列の現時刻の流量値とから所定の数式で計算され、
断面積が異なる前記ダクトのうち断面積が同一である前記ダクト各部の音速の次時刻値は、請求項6に記載の数式で計算されるよう構成されたことを特徴とする請求項4乃至7のいずれか1項に記載のダクト内圧縮性流体の圧力伝播解析装置。
【請求項9】
断面積が異なる前記ダクトの断面積変更部での流量の次時刻値は、圧縮性流体の比熱比と、時間刻み値と、ダクト仕様情報記録手段のスプレッドシートにおける同列及び空列分を除く列に記録されたダクト仕様情報としての軸長刻み値及びダクト断面積と、音速値情報記録手段のスプレッドシートにおける同列及び空列分を除く列の現時刻の音速値と、流量値情報記録手段のスプレッドシートにおける同列及び空列分を除く列の現時刻の流量値とから所定の数式で計算され、
断面積が異なる前記ダクトのうち断面積が同一である前記ダクト各部の流量の次時刻値は、請求項7に記載の数式で計算されるよう構成されたことを特徴とする請求項4乃至8のいずれか1項に記載のダクト内圧縮性流体の圧力伝播解析装置。
【請求項10】
分岐・集合部に始端が接続する前記ダクトの前記始端について、圧縮性流体の比熱比、ダクト断面積、前記始端に相当する列の流量の現時刻値、前記始端から1つ下流に相当する列の流量の現時刻値、前記始端に相当する列の音速の現時刻値、及び前記始端から1つ下流に相当する列の音速の現時刻値から所定の数式で計算される始端値RSを定義し、
前記分岐・集合部に終端が接続する前記ダクトの前記終端について、前記圧縮性流体の比熱比、前記ダクト断面積、前記終端に相当する列の流量の現時刻値、前記終端から1つ上流に相当する列の流量の現時刻値、前記終端に相当する列の音速の現時刻値、及び前記終端から1つ上流に相当する列の音速の現時刻値から所定の数式で計算される終端値REを定義し、
前記分岐・集合部に接続する前記ダクトの端部での音速の次時刻値は、当該端部での現時刻の音速値に、前記分岐・集合部に接続する当該端部が前記始端か前記終端かによって定義される現時刻の前記始端値RS及び前記終端値REを前記ダクトの軸長刻み値でそれぞれ除した値の総和の加算値を、前記分岐・集合部に接続する前記ダクト断面積の総和の2倍で除し、前記圧縮性流体の比熱比から1を引いた値を乗じ、更に時間刻み値を乗じた値を加算することで計算され、
前記分岐・集合部に接続する前記端部以外の同一断面積の前記ダクトの各部の音速の次時刻値は、請求項6に記載の数式で計算されるよう構成されたことを特徴とする請求項2乃至6のいずれか1項に記載のダクト内圧縮性流体の圧力伝播解析装置。
【請求項11】
分岐・集合部に始端が接続する前記ダクトの前記始端について、圧縮性流体の比熱比、ダクト断面積、前記始端に相当する列の流量の現時刻値、前記始端から1つ下流に相当する列の流量の現時刻値、前記始端に相当する列の音速の現時刻値、及び前記始端から1つ下流に相当する列の音速の現時刻値から所定の数式で計算される始端値RSを定義し、
前記分岐・集合部に終端が接続する前記ダクトの前記終端について、前記圧縮性流体の比熱比、前記ダクト断面積、前記終端に相当する列の流量の現時刻値、前記終端から1つ上流に相当する列の流量の現時刻値、前記終端に相当する列の音速の現時刻値、及び前記終端から1つ上流に相当する列の音速の現時刻値から所定の数式で計算される終端値REを定義し、
前記分岐・集合部に接続する前記ダクトの端部での流量の次時刻値について、
前記分岐・集合部に前記端部としての前記始端が接続する前記ダクトの当該端部での流量の次時刻値は、当該端部での現時刻の流量値に、まず前記分岐・集合部に接続する当該端部での音速の次時刻値と現時刻値との差に前記ダクト断面積の2倍を乗じて前記比熱比から1を引いた値で除した値を加算し、次に現時刻の前記始端値RSに時間刻み値を乗じて前記ダクトの軸長刻み値で除した値を減算することで計算され、
分岐・集合部に前記端部としての終端が接続する前記ダクトの当該端部での流量の次時刻値は、当該端部での現時刻の流量値から、まず前記分岐・集合部に接続する当該端部での音速の次時刻値と現時刻値との差に前記ダクト断面積の2倍を乗じて前記比熱比から1を引いた値で除した値を減算し、次に現時刻の前記終端値REに時間刻み値を乗じて前記ダクトの軸長刻み値で除した値を加算することで計算され、
前記分岐・集合部に接続する前記端部以外の同一断面積の前記ダクトの各部の流量の次時刻値は、請求項7に記載の数式で計算されるよう構成されたことを特徴とする請求項2乃至5及び7のいずれか1項に記載のダクト内圧縮性流体の圧力伝播解析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、圧縮性流体で満たされたダクト内を圧力波が伝播する現象を解析するダクト内圧縮性流体の圧力伝播解析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
空気に代表される圧縮性流体(気体)で満たされたダクト系統の一端から流体が流出入したり、一端に圧力変動が加わると、その一端から他端に圧力波が伝播する。ダクト内の圧力波の伝播は、通常、ダクト軸方向の一次元の伝播方程式で解かれることが多く、例えば流速がマッハ数にして0.3以下であれば、水撃解析のような音速のみを考慮した非圧縮性流体の扱いで近似できる。
【0003】
ところが、流速がマッハ数にして0.3以上の場合では、発生する圧力波の正圧の部分と負圧の部分とで音速が大きく異なり、圧力波形が伝播中に歪んで鋸波状に変形することがある。こうした場合には、密度が変化する圧縮性流体の扱いが必要になる。三次元伝播の場合には、複雑な非線形偏微分方程式を数値解法で解く必要があるが、一次元伝播では、特性曲線法により偏微分方程式を常微分化して簡略的に解く方法が提案されている。
【0004】
一方、ダクト系統の伝播では、ダクトが分岐・集合する場合や、異径ダクトが接続する場合などの取り扱いが必要になる。こうした解析を行う専用の解析ソフトウェアも市販されているが、解析が具体的にどのように行われているかについて、ユーザには開示されていないことが多い。解析の品質保証の観点からは、具体的な解析手順が開示されることで解析が正しく行われたかの検証(ベリフィケーション)と、解析結果の妥当性の確認(バリデーション)を行う、いわゆるV&Vが必要になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-41819号公報
【文献】特開2001-91400号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の従来の技術では、具体的な解析手順、例えばプログラムされたコードなどが開示されていない場合に、モデルデータを作成したユーザのみでは、V&Vが容易でない。また、プログラムされたコードが開示されている場合でも、使用しているプログラミング言語に精通している必要があり、V&Vに要する労力が小さくないという課題がある。
【0007】
本発明の実施形態は、上述の事情を考慮してなされたものであり、圧縮性流体で満たされたダクト内における圧力及び流量の変化の解析が正しく行われたかを容易に検証できると共に、その解析結果の妥当性を容易に確認できるダクト内圧縮性流体の圧力伝播解析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態におけるダクト内圧縮性流体の圧力伝播解析装置は、圧縮性流体で満たされたダクトの端部における境界条件の変化に伴って発生する圧力波の前記ダクト内での伝播を、前記ダクト内の前記圧縮性流体の圧力及び流量の変化を計算することで解析するダクト内圧縮性流体の圧力伝播解析装置であって、前記ダクトの各部のダクト仕様情報を記録するダクト仕様情報記録手段と、前記ダクトの各部における圧力伝播パラメータ情報の時刻歴を記録する圧力伝播パラメータ情報記録手段と、前記ダクト仕様情報の値と前記圧力伝播パラメータ情報の現時刻値とを用いて、前記圧力伝播パラメータ情報の次時刻値を計算式により算出する計算手段と、異なる時刻に関する前記計算手段の前記計算式を表示可能な表示手段と、を有して構成されたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の実施形態によれば、圧縮性流体で満たされたダクト内における圧力及び流量の変化の解析が正しく行われたかを容易に検証できると共に、その解析結果の妥当性を容易に確認できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1実施形態に係るダクト内圧縮性流体の圧力伝播解析装置の構成を示すブロック図。
図2図1の圧力伝播解析装置が解析対象とするダクトを示すモデル図。
図3図1のダクト仕様記録スプレッドシートの構成を示す図表。
図4図1の音速値スプレッドシ-トの構成を示す図表。
図5図1の流量値スプレッドシートの構成を示す図表。
図6図3のダクト仕様記録スプレッドシートの一部の詳細を示し、(A)が入口境界条件、(B)が出口境界条件のそれぞれの図表。
図7図1の圧力伝播解析装置による解析結果を示すグラフ。
図8】第2実施形態に係るダクト内圧縮性流体の圧力伝播解析装置が解析対象とするダクトとしてのトンネルを高速移動体と共に示すモデル図。
図9】(A)は、図8の圧力伝播解析装置における流量値スプレッドシートの一部(入口境界条件)を示す図表、(B)は、図8の圧力伝播解析装置における音速値スプレッドシートの一部(出口境界条件)を示す図表。
図10】第2実施形態の圧力伝播解析装置による解析結果を示すグラフ。
図11】第3実施形態に係るダクト内圧縮性流体の圧力伝播解析装置の構成を示すブロック図。
図12図11の圧力伝播解析装置が解析対象とする、断面積変更部を備えたダクトを示すモデル図。
図13図11のダクト仕様記録スプレッドシートの構成を示す図表。
図14図11の音速値スプレッドシートの構成を示す図表。
図15図11の流量値スプレッドシートの構成を示す図表。
図16図11の圧力伝播解析装置による解析結果を示すグラフ。
図17】第4実施形態に係るダクト内圧縮性流体の圧力伝播解析装置の構成を示すブロック図。
図18図17の圧力伝播解析装置が解析対象とする、分岐・集合部を備えたダクトを示すモデル図。
図19図17のダクト仕様記録スプレッドシート(図19(A))、音速値スプレッドシート(図19(B))、流量値スプレッドシート(図19(C))のそれぞれの構成を示す図表。
図20図17の圧力伝播解析装置による解析結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態を、図面に基づき説明する。
[A]第1実施形態(図1図7
図1は、第1実施形態に係るダクト内圧縮性流体の圧力伝播解析装置の構成を示すブロック図である。この図1に示すダクト内圧縮性流体の圧力伝播解析装置10は、図2に示すように、空気等の圧縮性流体で満たされたダクト1における端部(入口としての始端2または出口としての終端3、例えば始端2)の境界条件の変化によって発生した圧力波αのダクト1内での伝播を、ダクト1内の圧縮性流体の圧力及び流量の変化を計算することで解析するものであり、ダクト仕様情報記録手段としてのダクト仕様記録スプレッドシート11と、物性値データベース12と、圧力伝播パラメータ情報記録手段としての圧力伝播パラメータ記録スプレッドシート13と、計算手段14と、表示手段15と、を有して構成される。
【0013】
圧力伝播解析装置10の解析対象となるダクト1は、図2に示すように、断面積が一様で且つ分岐・集合部のない単一ダクトである。このダクト1は、ダクト長が10mで終端3が閉塞端であり、開放端である始端2から圧力波αがダクト1内に進入する。ダクト1内は、常温大気圧下の空気で満たされており、圧力波αが作用しない平衡時の音速(平衡時音速)が340m/s、平衡時の圧力(平衡時圧力)が100kPaである。
【0014】
ダクト仕様記録スプレッドシート11は、図3に示すように、ダクト1の各部のダクト仕様情報を記録するものであり、複数の行及び列により設定される複数のセルを備えた表計算ソフトウェアのスプレッドシートである。つまり、ダクト仕様記録スプレッドシート11は、その列方向にダクト1を軸方向に仮想分割したダクト各部が設定され、行方向にダクト仕様情報が設定されて、各セルにダクト各部のダクト仕様情報の値が記録される。
【0015】
上記ダクト仕様情報としては、ダクト1の始端2からの軸方向座標値(軸座標)、ダクト1を軸方向に仮想分割したときの仮想分割長さ(軸長刻み値)、及びダクト断面積である。具体的には、ダクト仕様記録スプレッドシート11は、1列目に表題、2列目から102列目までに、ダクト長10mを軸長刻み値0.1mで100に仮想分割したダクト各部(節点)を示し、3行目にダクトの始端からの軸方向座標値(軸座標値)を、4行目に軸長刻み値を、5行目にダクト断面積をそれぞれ設定している。
【0016】
また、ダクト仕様記録スプレッドシート11では、ダクトの各部のダクト仕様情報は、断面積が同一であるダクト1の各部については列方向に連続して記録されている。更に、ダクト仕様記録スプレッドシート11に記録される軸長刻み値は、解析の計算上の安定性を確保するために、解析の時間刻み値と圧縮性流体中の平衡時音速との積よりも大きく設定されている。この軸長刻み値の条件は、第1実施形態に限らず、第2~第4実施形態においても同様である。
【0017】
図1に示す物性値データベース12は、圧縮性流体の比熱比、圧縮性流体中の平衡時音速、及び平衡時圧力等の物性値情報を記録するものである。これらの値は、計算手段14に取り込まれる。
【0018】
図1に示す圧力伝播パラメータ記録スプレッドシート13は、ダクト1の各部の圧力伝播パラメータ情報の時刻歴を記録するものである。この圧力伝播パラメータ記録スプレッドシート13は、具体的には、ダクト1の各部の音速値の時刻歴を、圧力伝播パラメータ情報の時刻歴として記録する音速値スプレッドシート16と、ダクト1の各部の流量値の時刻歴を、圧力伝播パラメータ情報の時刻歴として記録する流量値スプレッドシート17とを備えて構成される。音速値スプレッドシート16の音速値の時刻歴が、後述の変換式(数式2)により圧力値の時刻歴に変換される。
【0019】
音速値スプレッドシート16及び流量値スプレッドシート17は、図4及び図5に示すように、複数の行及び列により設定される複数のセルを備えた表計算ソフトウェアのスプレッドシートである。また、音速値スプレッドシート16及び流量値スプレッドシート17では、その列方向に、ダクト1を軸方向に仮想分割したダクトの各部が設定され、行方向に、音速値スプレッドシート16の場合には音速値、流量値スプレッドシート17の場合には流量値のそれぞれの時刻(時間軸)が設定される。そして、音速値スプレッドシート16の各セルにダクト1の各部の音速値の時刻歴が、流量値スプレッドシート17の各セルに、ダクト1の各部の流量値の時刻歴がそれぞれ記録される。これらの音速値スプレッドシート16及び流量値スプレッドシート17では、ダクト1の各部の情報(音速値、流量値)は、断面積が同一のダクトの各部については、列方向に連続して記録される。
【0020】
具体的には、音速値スプレッドシート16は、1列目の4行目以降に解析時刻(時間軸)を示し、このうちの4行目が初期時刻(時刻0)で、5行目以降は時間刻み値(例えば0.00022秒)毎に解析時刻が増加する。2列目から102列目までに、ダクト仕様記録スプレッドシート11と同様に、ダクト長10mを軸長刻み値0.1mで100に仮想分割したダクト各部(節点)を示し、行毎のセルに各解析時刻におけるダクト各部の音速値を記録するように構成される。
【0021】
また、流量値スプレッドシート17は、音速値スプレッドシート16と同様な構成であり、1列目の4行目以降に解析時刻(時間軸)を示し、このうちの4行目が初期時刻(時刻0)で、5行目以降は時間刻み値毎に解析時間が増加する。2列目から102列目までにダクト長10mを軸長刻み値0.1mで100に仮想分割したダクト各部(節点)を示し、行毎のセルに各解析時刻におけるダクト各部の流量値が記録されるように構成される。
【0022】
図1に示す計算手段14はダクト仕様記録スプレッドシート11に記録されたダクト仕様情報と、物性値データベース12に記録された物性値情報と、圧力伝播パラメータ記録スプレッドシート13(音速値スプレッドシート16、流量値スプレッドシート17)の圧力伝播パラメータ情報(音速値、流量値)の現時刻値とを用いて、圧力伝播パラメータ情報(音速値、流量値)の次時刻値(現時刻値よりも1時間刻み値分だけ次の時刻の値)を計算式により計算して、圧力伝播パラメータ情報(音速値、流量値)の時刻歴を完成する。
【0023】
この計算式は、音速値スプレッドシート16では、音速値の次時刻値を記録するセルに入力されて記録され、このセル内で音速値の次時刻値を算出し、流量値スプレッドシート17では、流量値の次時刻値を記録するセルに入力されて記録され、このセル内で、流量値の次時刻値を算出する。この計算式は、本第1実施形態の音速値スプレッドシート16では、後述の数式3及び数式4であり、本第1実施形態の流量値スプレッドシート17では、後述の数式5及び数式6である。
【0024】
表示手段15は、異なる時刻に関する計算手段14の計算式、即ち音速値スプレッドシート16、流量値スプレッドシート17の5行目以降の各セルに入力された計算式を、この計算式によって計算されて各行に記録された音速値、流量値の時刻歴と共に表示可能とする。
次に、図4に示す音速値スプレッドシート16と、図5に示す流量値スプレッドシート17について更に詳説する。
音速値スプレッドシート16と流量値スプレッドシート17の4行目における2列目から102列目は初期状態である。この例では、圧力波αがダクト1に進入する前の状態であるから、音速値は平衡状態の音速値(平衡時音速340m/s)に、流量値はゼロにそれぞれ設定される。
【0025】
また、音速値スプレッドシート16の2列目(始端)は入口境界条件であり、図6(A)にも示す。この例では本来、圧力値の時刻歴が設定されることになるが、圧縮性流体で等エントロピー条件における圧力と音速の関係を表す数式1を用いて圧力値を音速値に換算し、この音速値を音速値スプレッドシート16に設定する。圧縮性流体の比熱比をγ、音速値をa、平衡時音速をa、圧力値(絶対圧)をp、平衡時圧力(絶対圧)をpとしたとき、
【数1】
で表される。なお、平衡時圧力は常温大気圧下では、約100kPaである。
【0026】
更に、流量値スプレッドシート17の102列目(終端)は閉塞端であり、流量値がゼロに設定される。つまり、この出口境界条件は、図6(B)にも示すように、流量値ゼロで表現される。
【0027】
次に、音速値スプレッドシート16及び流量値スプレッドシート17における初期時刻を表す4行目の次の5行目(次時刻)に設定される数式について説明する。
音速値スプレッドシート16では、2列目に前述のように境界条件が設定されるが、ダクト1の端部でない部分に相当する3列目~101列目については、列数を添え字i、行数を添え字jで表し、i=3~101、j=4とすると、ダクト1の端部でない3列目~101列目の5行目(次時刻)の音速値ai,j+1は、現時刻の音速値ai-1,j、ai,j、ai+1,jと現時刻の流量値qi-1,j、qi,j、qi+1,jを用いて、次の数式3で設定される。
【0028】
ここで、Aはダクト1のダクト断面積、hは軸長刻み値であり、ダクト仕様記録スプレッドシート11を参照して設定される。τは解析の時間刻み値、γは圧縮性流体の比熱比であり、物性値データベース12を参照して設定される。これらのA、h、τ、γは、音速値スプレッドシート、流量値スプレッドシートに入力される各実施形態の数式に共通に用いられる。
【数2】
上述のように、ダクト1の端部でない3列目~101列目の5行目の音速値は、4行目の同一列及び1つ上流列、及び1つ下流列の音速値と流量値から計算される。
【0029】
また、終端に相当する102列目の5行目(次時刻)の音速値は、102列目の流量値が出口境界条件に設定されているので、その情報を用いて、次の数式4で設定される。ここで、添え字Nは終端(102列目)を、N-1は101列目をそれぞれ示す。
【数3】
【0030】
即ち、断面積が同一であるダクト1内の各部の音速の次時刻値は、ダクト1の端部でない部分(音速値スプレッドシート16における3列目~101列目)では、圧縮性流体の比熱比γと、解析の時間刻み値 τと、ダクト仕様記録スプレッドシート11の同列に記録された軸長刻み値h及びダクト断面積Aと、音速値スプレッドシート16の同列、1つ少ない列(上流列)及び1つ多い列(下流列)の現時刻の音速値と、流量値スプレッドシート17の同列、1つ少ない列(上流列)及び1つ多い列(下流列)の現時刻の流量値とから、上述の数式3を用いて計算される。
【0031】
また、断面積が同一であるダクト1内の終端3(音速値スプレッドシート16における102列目)の音速の次時刻値は、図6(B)に示すように流量値が出口境界条件で設定される場合には、圧縮性流体の比熱比γと、解析の時間刻み値τと、ダクト仕様記録スプレッドシート11における同列に記録される軸長刻み値h及びダクト断面積Aと、音速値スプレッドシート16の同列及び1つ少ない列(上流列)の現時刻の音速値と、流量値スプレッドシート17の同列及び1つ少ない列(上流列)の現時刻の流量値とから、上述の数式4を用いて計算される。
【0032】
同様に、流量値スプレッドシート17におけるダクト1の端部でない部分に相当する3列目~101列目については、列数を添え字i、行数を添え字jで表し、i=3~101、j=4とすると、3列目~101列目の5行目(次時刻)の流量値qi,j+1は、現時刻の音速値ai-1,j、ai,j、ai+1,jと現時刻の流量値qi-1,j、qi,j、qi+1,jを用いて次の数式5で設定される。
【数4】
このように、ダクト1の端部でない3列目~101列目の5行目の流量値は、4行目の同一列、1つ上流列及び1つ下流列の音速値と流量値から計算される。
【0033】
また、始端2に相当する2列目の5行目(次時刻)の流量値は、2列目の音速値が入口境界条件で設定されているので、その情報を用いて、次の数式6で設定される。
【数5】
【0034】
即ち、断面積が同一であるダクト1内の各部の流量の次時刻値は、ダクト1の端部でない場合(流量値スプレッドシート17における3列目~101列目)には、圧縮性流体の比熱比γと、解析の時間刻み値τと、ダクト仕様記録スプレッドシート11の同列に記録された軸長刻み値h及びダクト断面積Aと、音速値スプレッドシート16の同列、1つ少ない列(上流列)及び1つ多い列(下流列)の現時刻の音速値と、流量値スプレッドシート17の同列、1つ少ない列(上流列)及び1つ多い列(下流列)の現時刻の流量値とから、上述の数式5を用いて計算される。
【0035】
また、断面積が同一であるダクト1内の始端2(流量値スプレッドシート17における2列目)の流量の次時刻値は、図6(A)に示すように音速値が出口境界条件で設定される場合には、圧縮性流体の比熱比γと、解析の時間刻み値τと、ダクト仕様記録スプレッドシート11の同列に記録された軸長刻み値h及びダクト断面積Aと、音速値スプレッドシート16の同列及び1つ多い列(下流列)の現時刻の音速値と、流量値スプレッドシート17の同列及び1つ多い列(下流列)の現時刻の流量値とから、上述の数式6用いて算出される。
【0036】
以上で、音速値スプレッドシート16及び流量値スプレッドシート17の5行目の値が全て設定された。上述の説明では行方向について添え字jを使っており、6行目以降についても5行目同様の数式を設定すれば、6行目以降の値を計算できる。従って、音速値スプレッドシート16及び流量値スプレッドシート17では、6行目以降の音速値、流量値の計算を、行毎に数式を複写することで行えるため、6行目以降の数式設定、並びに音速値及び流量値の算出を容易に行うことができる。
【0037】
このようにして解析された第1実施形態の圧力伝播解析装置10による解析結果を図7に示す。この図7に示す入口圧力X1、中間部圧力Y1及び終端圧力Z1は、入口である始端2に進入した圧力波αが、ダクト1の中間部及び終端3(閉塞端)に伝播する様子を表している。図7では圧力値で示しているが、これは、音速値スプレッドシート16を用いて解析された音速値の時刻歴を、数式2により圧力値に換算したものである。この図7から分かるように、圧力波αは、下流へ伝播するに従って、その波形の立ち上がりが急峻になる状況が表現されている。
【0038】
上述のように構成されたダクト内圧縮性流体の圧力伝播解析装置10では、まず、音速値スプレッドシート16と流量値スプレッドシート17のそれぞれの4行目に初期条件を入力し、音速値スプレッドシート16においてダクト1の始端2に相当する2列目に入口境界条件を入力し、流量値スプレッドシート17においてダクト1の終端3に相当する102列目に出口境界条件を入力する。
【0039】
次に、音速値スプレッドシート16と流量値スプレッドシート17において、初期時刻(4行目)の次の時刻に相当する5行目のセルに次時刻値を計算する数式を入力して、音速値と流量値の次時刻値を計算し、この次時刻値を5行目のセルに記録する。
ここで、ダクト仕様記録スプレッドシート11と音速値スプレッドシート16と流量値スプレッドシート17において、ダクト1の同一部位については同一の列になるように設定され、音速値スプレッドシート16と流量値スプレッドシート17とにおいて、同一時刻の情報が同一の行に揃えて設定されている。
【0040】
そこで、次に、上述のようにして初期時刻の次の時刻に相当する5行目のセルに入力した数式を一括して、その次の時刻以降に相当する6行目以降の各セルに複写して入力し、これらの各時刻における音速値と流量値を計算して、6行目以降の各セルに記録する。その後、音速値スプレッドシート16の各セルに記録された音速値を、数式2を用いて圧力値に変換する。
【0041】
以上のように構成されたことから、本第1実施形態によれば、次の効果(1)及び(2)を奏する。
(1)図4及び図5に示すように、音速値スプレッドシート16のセルには、音速値解析用の計算式(数式3、数式4)とこの計算式により決定された音速値が入力されて記録され、また、流量値スプレッドシート17のセルには、流量値解析用の計算式(数式5、数式6)とこの計算式により決定された流量値が入力され記録されている。このため、音速値スプレッドシート16及び流量値スプレッドシート17には圧力伝播の解析過程が全て明示されているので、音速値スプレッドシート16、流量値スプレッドシート17のそれぞれにおいて、同一の各行に入力された計算式を比較、例えば初期時刻(4行目)の次の時刻に相当する5行目のセルに入力された計算式が正確であることを確認し、次に、この計算式がその次の時刻以降に相当する6行目以降の各行のセルに複写されていることを確認する。これにより、特別なプログラム言語を用いることなく、ダクト1内の音速値を変換式(数式2)により圧力値に変換することで、ダクト1内の圧力及び流量の変化の解析が正しく行われたかを容易に検証できる。
【0042】
(2)音速値スプレッドシート16の各セルに記録された音速値を換算した圧力値と、流量値スプレッドシート17の各セルに記録された流量値とをそれぞれ適宜グラフ化して波形で表示することで、ダクト内圧縮性流体の圧力伝播解析装置10の解析結果の妥当性を容易に確認することができる。
【0043】
[B]第2実施形態(図8図10図1
図8は、第2実施形態に係るダクト内圧縮性流体の圧力伝播解析装置が解析対象とするダクトとしてのトンネルを高速移動体と共に示すモデル図である。この第2実施形態において第1実施形態と同様な部分については、第1実施形態と同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
【0044】
本第2実施形態のダクト内圧縮性流体の圧力伝播解析装置20(図1)は、断面積が同一なダクト1と同等なトンネル21内に高速移動体22が突入したときのトンネル21内に発生した圧力波αの伝播を、トンネル21内の圧縮性流体の圧力及び流量の変化を計算することで解析するものである。この圧力伝播解析装置20は、ダクト仕様記録スプレッドシート11と、物性値データベース12と、音速値スプレッドシート16と略同様な構成の音速値情報記録手段としての音速値スプレッドシート23(図9(B))と、流量値スプレッドシート17と略同様な構成の流量値情報記録手段としての流量値スプレッドシート24(図9(A))と、計算手段26と、表示手段15とを有して構成される。音速値スプレッドシート23及び流量値スプレッドシート24が、圧力伝播パラメータ情報記録手段としての圧力伝播パラメータ記録スプレッドシート25を構成する。
【0045】
ダクト仕様記録スプレッドシート11、音速値スプレッドシート23及び流量値スプレッドシート24では、第1実施形態と同様に、列方向に、トンネル21長さを軸長刻み値hで仮想分割してトンネル21の各部が設定される。また、音速値スプレッドシート23及び流量値スプレッドシート24は、第1実施形態と同様に、行方向に、解析の時間刻み値τで時間軸が設定されている。本第2実施形態の音速値スプレッドシート23及び流量値スプレッドシート24では、図9(A)に示すように、入口境界条件は、高速移動体22の速度に対応した流量値として設定される。また、出口境界条件は、トンネル21の出口(終端3)が開放端で圧力一定(大気圧)と考えられるので、図9(B)に示すように、数式1により平衡時音速の値(音速一定)に設定される。
【0046】
また、音速値、流量値のそれぞれの次時刻値を算出する計算手段26の計算式は、端部でないトンネル21の各部(音速値スプレッドシート23の3列目~101列目に相当)の音速値の次時刻値算出用には数式3が用いられ、端部でないトンネル21の各部(流量値スプレッドシート24の3列目~101列目)の流量の次時刻値算出用には数式5が用いられる。また、計算手段26の計算式は、トンネル21の始端(音速値スプレッドシート23の2列目に相当)の音速値の次時刻値算出用には数式7(後述)が用いられ、トンネル21の終端3(流量値スプレッドシート24の102列目)の流量の次時刻値算出用には数式8(後述)が用いられる。
【0047】
次に、上述の数式7について述べる。断面積が同一であるトンネル21内の始端2の音速の次時刻値は、図9(A)に示すように流量値が出口境界条件で設定される場合には、圧縮性流体の比熱比γと、解析の時間刻み値τと、ダクト仕様記録スプレッドシート11の同列に記録された軸長刻み値h及びトンネル断面積Aと、音速値スプレッドシート23の同列及び1つ多い列(下流列)の現時刻の音速値と、流量値スプレッドシート24の同列及び1つ多い列(下流列)の現時刻値とから数式7を用いて計算される。
【0048】
具体的には、トンネル21内の始端2(音速値スプレッドシート23の2列目に相当)の音速の次時刻値a2、j+1は、現時刻における始端2の音速値a2、j及び流量値q2、jと、現時刻における始端2の1つ下流列の音速値a3、j及び流量値q3、jと、次時刻の始端2の流量値(図9(A)の入口境界条件)q2、j+1とを用いて、次の数式7により計算される。
【数6】
【0049】
また、前述の数式8について述べる。断面積が同一であるトンネル21内の終端3の流量の次時刻値は、図9(B)に示すように音速値が出口境界条件で設定される場合には、圧縮性流体の比熱比γと、解析の時間刻み値τと、ダクト仕様記録スプレッドシート11の同列に記録された軸長刻み値h及びトンネル断面積Aと、音速値スプレッドシート23の同列及び1つ少ない列(上流列)の現時刻の音速値と、流量値スプレッドシート20の同列及び1つ少ない列(上流列)の現時刻の流量値とを用いて、数式7により計算される。
【0050】
具体的には、トンネル21内の終端3(流量値スプレッドシート24の102列目(N列目)に相当)の流量の次時刻値qN、j+1は、現時刻における終端3の流量値qN、j及び音速値aN、jと、現時刻における終端3の1つ上流列の流量値qN-1、j及び音速値aN-1、jと、次時刻の終端3の音速値(図9(B)の出口境界条件)aN、j+1と用いて、次の数式8により計算される。
【数7】
【0051】
上述の数式3及び数式7は、音速値スプレッドシート23において初期時刻(4行目)の次の時刻に相当する5行目のセルに入力されて音速値を算出し、次に出口境界条件を除いて、その次の時刻以降に相当する6行目以降の各セルに複写され入力されて音速値を算出し、音速値の時刻歴が音速値スプレッドシート23に記録される。同様に、上述の数式5及び数式8は、流量値スプレッドシート24において初期時刻(4行目)の次の時刻に相当する5行目のセルに入力されて流量値を算出し、次に入口境界条件を除いて、その次の時刻以降に相当する6行目以降の各セルに複数され入力されて流量値を算出し、流量値の時刻歴が流量値スプレッドシート24に記録される。
【0052】
音速値スプレッドシート23の各セルに入力され記録された数式3及び数式7、並びにこれらの数式により計算された音速値は、表示手段25により表示される。同様に、流量値スプレッドシート24の各セルに入力され記録された数式5及び数式8、並びにこれらの数式により算出された流量値は、表示手段15により表示される。ここで、圧力値の時刻歴は、音速値の時刻歴から数式2により換算されるが、この圧力値の時刻歴も表示手段15により表示可能に設けられる。
【0053】
上述のように構成された圧力伝播解析装置20による解析結果を図10に示す。この図10には、トンネル21の入口(始端2)における入口圧力X2及び入口流量UXと、トンネル21の軸方向中間部における中間部圧力Y2及び中間部流量UYとのそれぞれの時刻歴が、解析結果として表示されている。この解析結果によれば、高速移動体22がトンネル21に突入した際の圧力上昇が解析されている。
【0054】
以上のように構成されたことから、本第2実施形態のダクト内圧縮性流体の圧力伝播解析装置20によれば、トンネル21の各部の音速値の時刻歴、流量値の時刻歴は、その計算式を含めて音速値スプレッドシート23、流量値スプレッドシート24のそれぞれに記録されて表示手段15により表示可能とされ、圧力値の時刻歴は、音速値の時刻歴から換算されて表示手段15により表示可能とされるので、本第2実施形態においても第1実施形態の効果(1)及び(2)と同様な効果を奏する。
【0055】
[C]第3実施形態(図11図16
図11は、第3実施形態に係るダクト内圧縮性流体の圧力伝播解析装置の構成を示すブロック図である。また、図12は、図11の圧力伝播解析装置が解析対象とする、断面積変更部を備えたダクトを示すモデル図である。この第3実施形態において第1実施形態と同様な部分については、第1実施形態と同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
【0056】
本第3実施形態のダクト内圧縮性流体の圧力伝播解析装置30は、図12に示すように、例えば軸方向中間部に断面積変更部4を備え、始端2が開放端で終端3が閉塞端であるダクト33の始端(入口)2に圧力変動βが生じた場合に、ダクト33内に発生した圧力波αの伝播を、ダクト33内の圧縮性流体の圧力及び流量の変化を計算することで解析するものである。この圧力伝播解析装置30は、ダクト仕様情報記録手段としてのダクト仕様記録スプレッドシート34(図13)と、物性値データベース12と、音速値情報記録手段としての音速値スプレッドシート35(図14)と、流量値情報記録手段としての流量値スプレッドシート36(図15)と、計算手段37と、表示手段15とを有して構成される。音速値スプレッドシート35及び流量値スプレッドシート36が、圧力伝播パラメータ情報記録手段としての圧力伝播パラメータ記録スプレッドシート38を構成する。
【0057】
ここで、ダクト33の具体例を図12に示す。ダクト33において、始端2から断面積変更部4までを第1ダクト31とし、断面積変更部4から終端3までを第2ダクト32としたとき、第2ダクト32の断面積A2が第1ダクト31の断面積A1よりも例えば1/4倍に縮小する場合(図12(A))と、第1ダクト31の断面積A1と第2ダクト32の断面積A2とが略同一である場合(図12(B))と、第2ダクト32の断面積A2が第1ダクト31の断面積A1よりも例えば4倍に拡大する場合(図12(C))とを想定する。尚、第1ダクト31の終端と第2ダクト32の始端とは重なって想定される。
【0058】
図13図15に示すように、ダクト仕様記録スプレッドシート34、音速値スプレッドシート35及び流量値スプレッドシート36では、ダクト33の断面積変更部4に相当する第1ダクトの終端(52列目に相当)と第2ダクトの始端(54列目に相当)は別々に設定され、断面積変更部4は、ダクト33の他の部分と区別するために、それぞれのスプレッドシートの列方向に間隔をあけて、空列(各スプレッドシートの53列目)として設定される。更に、ダクト仕様記録スプレッドシート34、音速値スプレッドシート35及び流量値スプレッドシート36では、第1ダクト31のダクト長2.5mを軸長刻み値0.05mで仮想分割して、2列目から52列目までに第1ダクト31の各部が設定される。同様に、第2ダクト32のダクト長2.5mを軸長刻み値0.05mで仮想分割して、54列目から104列目(不図示)までに第2ダクト32の各部が設定される。
【0059】
音速値スプレッドシート35及び流量値スプレッドシート36では、行方向に、解析の時間刻み値τで時間軸が設定され、このうちの4行目(初期時刻)のセルに初期状態が記録される。また、音速値スプレッドシート35、流量値スプレッドシート36のそれぞれの5行目以降に、音速値、流量値のそれぞれの時刻歴が記録される。更に、音速値スプレッドシート35の2列目に設定される入口境界条件と、流量値スプレッドシート36の104列目(N列目)に設定される出口境界条件は、図示していないが、第1実施形態(図6)と同様に設定される。
【0060】
音速、流量のそれぞれの次時刻値を算出する計算手段37の計算式は、断面積が異なるダクト33のうち断面積が同一である、断面積変更部4を除くダクト33の各部の音速、流量のそれぞれの次時刻値算出用、即ち第1ダクト31の終端(52列目に相当)及び第2ダクト32の始端(54列目に相当)を除く第1ダクト31、第2ダクト32の各部の音速、流量の次時刻値算出用には、第1及び第2実施形態の数式3、数式4及び数式7、並びに数式5、数式6及び数式8が用いられる。
【0061】
また、計算手段37の計算式は、第1ダクト31の終端(52列目に相当)の音速の次時刻値算出用には数式9-1(後述)が用いられ、第1ダクト31の終端(52列目に相当)の流量の次時刻値算出用には数式10-1(後述)が用いられる。尚、第2ダクト32の始端(54列目に相当)の音速は、同時刻において第1ダクト31の終端(52列目に相当)の音速と等しく、また、第2ダクト32の始端の流量は、同時刻において第1ダクト31の終端の流量に等しい。これらを敢えて数式で表す場合、計算式37の計算式は、第2ダクト32の始端(54列目に相当)の音速の次時刻値算出用には数式9-2(後述)が用いられ、第2ダクト32の始端(54列目に相当)の流量の次時刻値算出用には数式10-2(後述)が用いられる。
【0062】
次に、上述の数式9-1及び数式9-2について述べる。断面積が異なるダクト33の断面積変更部4での音速の次時刻値は、圧縮性流体の比熱比γと、解析の時間刻み値τと、ダクト仕様記録スプレッドシート34の同列及び空列(例えば53列目)を除く列に記録された軸長刻み値h及びダクト断面積A1、A2と、音速値スプレッドシート35の同列及び空列(例えば53列目)を除く列の現時刻の音速値と、流量値スプレッドシート36の同列及び空列(例えば53列目)を除く列の現時刻値とを用いて、数式9-1及び数式9-2により算出される。
【0063】
具体的には、添え字の1番目を列番号(iで表記)とし、添え字の2番目を時刻歴を示す行番号(jで表記)とし、Aを第1ダクト31のダクト断面積、Aを第2ダクト32のダクト断面積とすると、第1ダクト31の終端に相当する52列目の5行目(次時刻値)の音速値は、i=52、j=4として、次の数式9-1で計算される。
【数8】
【0064】
また、第2ダクト32の始端に相当する54列目の次時刻値である5行目の音速値は、i=54として、次の数式9-2で計算される。
【数9】
【0065】
次に、前述の数式10-1及び数式10-2について述べる。断面積が異なるダクト33の断面積変更部4での流量の次時刻値は、圧縮性流体の比熱比γと、解析の時間刻み値τと、ダクト仕様記録スプレッドシート34の同列及び空列(例えば53列目)を除く列に記録された軸長刻み値h及びダクト断面積A1、A2と、音速値スプレッドシート35の同列及び空列(例えば53列目)を除く列の現時刻の音速値と、流量値スプレッドシート36の同列及び空列(例えば35列目)を除く列の現時刻の流量値とを用いて、数式10-1及び数式10-2により計算される。
【0066】
具体的には、添え字の1番目を列番号(iで表記)、添え字の2番目を、時刻歴を示す行番号(jで表記)とし、Aを第1ダクト31の断面積、Aを第2ダクト32の断面積とすると、第1ダクト31の始端に相当する52列目の次時刻値である5行目の流量値は、次の数式10-1で計算される。
【数10】
【0067】
また、第2ダクト32の始端に相当する54列目の次時刻値である5行目の流量値は、i=54として、次の数式10-2で計算される。
【数11】
【0068】
上述の数式9-1及び数式9-2は、音速値スプレッドシート35において初期時刻(4行目)の次の時刻に相当する5行目のセルに入力されて音速値を算出し、次に、その次の時刻以降に相当する6行目以降の各セルに複写され入力されて音速値を算出し、音速値の時刻歴が音速値スプレッドシート35に記録される。同様に、数式10-1及び数式10-2は、流量値スプレッドシート36において初期時刻(4行目)の次の時刻に相当する5行目のセルに入力されて流量値を算出し、次に、その次の時刻以降に相当する6行目以降の各セルに複写され入力されて流量値を算出し、流量値の時刻歴が流量値スプレッドシート36に記録される。
【0069】
音速値スプレッドシート35の各セルに入力されて記録された数式9-1及び数式9-2、並びにこれらの数式により計算された音速値は、表示手段15により表示される。同様に、流量値スプレッドシート36の各セルに入力されて記録された数式10-1及び数式10-2、並びにこれらの数式により計算された流量値は、表示手段15により表示される。ここで、圧力値の時刻歴は、音速値の時刻歴から数式2により換算されるが、この圧力値の時刻歴も表示手段15により表示可能に設けられる。
【0070】
上述のように構成されたダクト内圧縮性流体の圧力伝播解析装置30による解析結果を図16に示す。この図16では、同一の入口圧力X3に対して、第2ダクト32の断面積Aが第1ダクト31の断面積Aよりも1/4倍縮小したダクト33の終端3(閉塞端)での終端圧力Y3-1と、第2ダクト32の断面積Aが第1ダクト31の断面積Aと略同一であるダクト33の終端3(閉塞端)での終端圧力Y3-2と、第2ダクト32の断面積Aが第1ダクト31の断面積Aよりも4倍に拡大したダクト33の終端3(閉塞端)での終端圧力Y3-3とがそれぞれ表記されている。この解析結果によれば、第2ダクト32の断面積Aが第1ダクト31の断面積Aよりも縮小したダクト33において、大きな圧力が発生することが分かる。
【0071】
以上のように構成されたことから、本第3実施形態のダクト内圧縮性流体の圧力伝播解析装置30によれば、第1ダクト31の終端及び第2ダクト32の終端を含めたダクト33の各部の音速値の時刻歴、流量値の時刻歴は、その計算式を含めて音速値スプレッドシート35、流量値スプレッドシート36のそれぞれに記録され、表示手段15により表示可能とされ、また、圧力値の時刻歴は、音速値の時刻歴から換算されて表示手段15により表示可能に設けられるので、本第3実施形態においても第1実施形態の効果(1)及び(2)と同様な効果を奏する。
【0072】
[D]第4実施形態(図17図20
図17は、第4実施形態に係るダクト内圧縮性流体の圧力伝播解析装置の構成を示すブロック図である。また、図18は、図17の圧力伝播解析装置が解析対象とする、分岐・集合部を備えたダクトを示すモデル図である。この第4実施形態において第1実施形態と同様な部分については、第1実施形態と同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
【0073】
本第4実施形態の圧縮性流体の圧力伝播解析装置40は、分岐・集合部5を備えたダクト系統6におけるダクト1の始端(入口)2に、入口圧力X4(図20)で示す圧力変動δが生じた場合に、ダクト系統6内に発生した圧力波αの伝播を、ダクト系統6内の圧縮性流体の圧力及び流量の変化を計算することで解析するものである。この圧力伝播解析装置40は、ダクト仕様情報記録手段としてのダクト仕様記録スプレッドシート44(図19(A))と、物性値データベース12と、音速値情報記録手段としての音速値スプレッドシート45(図19(B))と、流量値情報記録手段としての流量値スプレッドシート46(図19(C))と、計算手段47と、表示手段15とを有して構成される。音速値スプレッドシート45及び流量値スプレッドシート46が、圧力伝播パラメータ情報記録手段としての圧力伝播パラメータ記録スプレッドシート48を構成する。
【0074】
ここで、ダクト系統6の具体例を図18に示す。ダクト1は、ダクト長が10mで、ダクト断面積が1mであり、始端2が開放端で、終端3が閉塞端で構成されている。このダクト1の始端2から3mの位置に第3ダクト43が分岐して取り付けられ、従って、この取付位置に分岐・集合部5が形成される。ダクト1は、始端2から第3ダクト43が取り付けられた分岐・集合部5までを第1ダクト41と称し、分岐・集合部5から終端3までを第2ダクト42と称する。上記第3ダクト43は、ダクト長が5mで、ダクト断面積が0.25mであり、終端が開放端に構成されている。
【0075】
図19(A)、(B)及び(C)に示すように、ダクト仕様記録スプレッドシート44、音速値スプレッドシート45及び流量値スプレッドシート46では、列方向に、第1ダクト41のダクト長を軸長刻み値(例えば0.2m)で仮想分割して、2列目から17列目までに第1ダクト44の各部が設定され、1列空列を設けて、第2ダクト42のダクト長を軸長刻み値(例えば0.2m)で仮想分割して、19列目から54列目までに第2ダクト42の各部が設定され、1列空列を設けて、第3ダクト43のダクト長を軸長刻み値(例えば0.2m)で仮想分割して、56列目から81列目(不図示)までに第3ダクト43の各部が設定される。
【0076】
ダクト仕様記録スプレッドシート44、音速値スプレッドシート45及び流量値スプレッドシート46では、ダクト系統6に設けられた分岐・集合部5は、列方向に間隔を空けて、即ち空列(18列目及び55列目)として設けられる。この分岐・集合部5に接続するダクトの端部は、第1ダクト41の終端(17列目に相当)であり、第2ダクト42の始端(19列目に相当)であり、第3ダクト43の始端(56列目に相当)である。
【0077】
音速値スプレッドシート45及び流量値スプレッドシート46では、行方向に解析の時間刻み値τで時間軸が設定され、このうちの4行目(初期時刻)のセルに初期状態が記録される。また、音速値スプレッドシート45及び流量値スプレッドシート46のそれぞれの5行目以降に、音速値、流量値のそれぞれの時刻歴が記録される。
【0078】
音速及び流量の次時刻値を算出する計算手段47の計算式は、分岐・集合部5に接続する端部(第1ダクト41の終端、第2ダクト42の始端及び第3ダクト43の始端)を除く同一断面積の第1ダクト41、第2ダクト42及び第3ダクト43の各部の音速、流量のそれぞれの次時刻値算出用には、第1及び第2実施形態における音速算出用の数式3、数式4及び数式7、並びに流量算出用の数式5、数式6及び数式8が用いられる。
【0079】
また、計算手段47の計算式は、分岐・集合部5に始端が接続するダクトの上記始端について始端値RS算出用に数式12が用いられ、分岐・集合部5に終端が接続するダクトの上記終端について終端値RE算出用に数式11が用いられる。更に、計算手段47の計算式は、分岐・集合部に接続するダクトの端部(第2ダクト42及び第3ダクト43の始端及び第1ダクト41の終端)での音速の次時刻値算出用に数式13が用いられる。また、計算手段47の計算式は、分岐・集合部5に始端が接続する第2ダクト42及び第3ダクト43の上記始端での流量の次時刻値算出用には数式15が用いられ、分岐・集合部5に終端が接続する第1ダクト41の上記終端での流量の次時刻値算出用には数式14が用いられる。
【0080】
次に、数式11について述べる。分岐・集合部5に終端が接続するダクト(第1ダクト41)の上記終端(17列目に相当)について、圧縮性流体の比熱比γ、ダクト断面積A、上記終端に相当する列(17列目)の流量の現時刻値、上記終端から1つ上流に相当する列(16列目)の流量の現時刻値、上記終端に相当する列(17列目)の音速の現時刻値、及び上記終端から1つ上流に相当する列(16列目)の音速の現時刻値を用いて、数式11により終端値REの現時刻値が算出される。
【0081】
具体的には、分岐・集合部5に終端が接続するダクト(第1ダクト41)の上記終端(17列目に相当)について、この終端の現時刻の終端値REを次の数式11で計算する。
【数12】
ここで、
:終端での現時刻の流量値
:終端での現時刻の音速値
N1;終端から1つ上流側の節点での現時刻の流量値
N1;終端から1つ上流側の節点での現時刻の音速値
【0082】
次に、数式12について述べる。分岐・集合部5に始端が接続するダクト(第2ダクト42、第3ダクト43)の上記始端(19列目、56列目に相当)について、圧縮性流体の比熱比γ、ダクト断面積A、上記始端に相当する列(19列目、56列目)の流量の現時刻値、上記始端から1つ下流に相当する列(20列目、57列目)の流量の現時刻値、上記始端に相当する列(19列目、56列目)の音速の現時刻値、及び上記始端から1つ下流に相当する列(20列目、57列目)の音速の現時刻値を用いて、数式12により始端値RSの現時刻値が算出される。
【0083】
具体的には、分岐・集合部5に始端が接続するダクト(第2ダクト42、第3ダクト43)の上記始端(19列目、56列目に相当)について、この始端の現時刻の始端値RSを次の数式12により計算する。
【数13】
ここで、
:始端での現時刻の流量値
:始端での現時刻の音速値
;始端から1つ下流側の節点での現時刻の流量値
;始端から1つ下流側の節点での現時刻の音速値
【0084】
上述の終端値RE及び始端値RSは、音速値スプレッドシート45及び流量値スプレッドシート46の空列(18列目、55列目)の該当する時刻の行にその値を入力して設定されてもよいが、エクセルのようなユーザ定義関数が使用可能なスプレッドシートでは、数式11及び数式12を、ユーザ定義関数として定義してもよい。
【0085】
次に、数式13について述べる。分岐・集合部5に接続するダクト(第1ダクト41、第2ダクト42、第3ダクト43)の端部(17列目、19列目、56列目に相当)の音速の次時刻値は、この端部での現時刻の音速値に、分岐・集合部5に接続する当該端部が始端か終端かによって定義される現時刻の始端値RS及び終端値REをダクト(第1ダクト41、第2ダクト42、第3ダクト43)の軸長刻み値hでそれぞれ除した値の総和の加算値を、分岐・集合部5に接続するダクトの断面積Aの総和の2倍で除し、圧縮性流体の比熱比γから1を引いた値を乗じ、更に解析の時間刻み値τを乗じた値を加算することで、数式13より計算される。
【0086】
具体的には、分岐・集合部5に終端(17列目に相当)が接続するダクト(第1ダクト41)の番号kをk=1~m、この終端に対応する終端値REをRE、分岐・集合部5に始端(19列目、56列目に相当)が接続するダクト(第2ダクト42、第3ダクト43)の番号kをk=m+1~n、この始端に対応する始端値RSをRS(ここでm、nはダクトの本数を表す自然数)と表記し、分岐・集合部5に接続する各ダクトの軸長刻み値をh、ダクト断面積をAと表記すると、分岐・集合部5に接続するダクト(第1ダクト41、第2ダクト42、第3ダクト43)の端部(17列目、19列目、56列目に相当)での音速の次時刻値ai、j+1は、その音速の現時刻値をai、jとしたとき、次の数式13より計算される。
【数14】
【0087】
次に、数式14について述べる。分岐・集合部5に終端が接続するダクト(第1ダクト41)の当該終端(17列目に相当)での流量の次時刻値は、当該終端での現時刻の流量値から、まず分岐・集合部5に接続する当該終端での音速の次時刻値(数式13にて算出)と現時刻値との差に上記ダクト(第1ダクト41)の断面積の2倍を乗じて圧縮性流体の比熱比γから1を引いた値で除した値を減算し、次に当該終端での現時刻の終端値に解析の時間刻み値を乗じてダクト(第1ダクト41)の軸長刻み値で除した値を加算することで、数式14より計算される。
【0088】
具体的には、分岐・集合部5に終端(17列目に相当)が接続するダクト(第1ダクト41)の番号kをk=1~m、この終端に対応する終端値REをRE(mはダクトの本数を表す自然数)、分岐・集合部5に接続するダクト(第1ダクト41)の軸長刻み値をh、ダクト断面積をAと表記すると、分岐・集合部5に終端(17列目に相当)が接続するダクト(第1ダクト41)の上記終端での流量の次時刻値qi、j+1は、その流量の現時刻値をqi、jとしたとき、次の数式14より計算される。
【数15】
【0089】
次に、数式15について述べる。分岐・集合部5に始端が接続するダクト(第2ダクト42、第3ダクト43)の当該始端(19列目、56列目に相当)での流量の次時刻値は、当該始端での現時刻の流量値に、まず分岐・集合部5に接続する当該始端での音速の次時刻値(数式13にて算出)と現時刻値との差に上記ダクト(第2ダクト42、第3ダクト43)のダクト断面積の2倍を乗じて圧縮性流体の比熱比γから1を引いた値で除した値を加算し、次に、当該始端での現時刻の始端値RSに解析の時間刻み値τを乗じてダクト(第2ダクト42、第3ダクト43)の軸長刻み値で除した値を減算することで、数式15により計算される。
【0090】
具体的には、分岐・集合部5に始端(19列目、56列目に相当)が接続するダクト(第2ダクト42、第3ダクト43)の番号kをk=m+1~n、この始端に対応する始端値RSをRS(ここで、m、nはダクトの本数を表す自然数)、分岐・集合部5に接続するダクト(第2ダクト42、第3ダクト43の軸長刻み値をh、ダクト断面積をAと表記すると、分岐・集合部5に始端(19列目、56列目に相当)が接続するダクト(第2ダクト42、第3ダクト43)の上記始端での流量の次時刻値qi、j+1は、その流量の現時刻値をqi、jとしたとき、次の数式15より計算される。
【数16】
【0091】
上述の数式13は、音速値スプレッドシート45の17列目、19列目及び56列目において、初期時刻(4行目)の次の時刻に相当する5行目のセルに入力されて音速値を算出し、次に、その次の時刻以降に相当する6行目以降の各セルに複写され入力されて音速値を算出し、音速値の時刻歴が音速値スプレッドシート45の17列目、19列目及び56列目に記録される。
【0092】
同様に、数式14は流量値スプレッドシート46の17列目において、また、数式15は流量値スプレッドシート46の19列目及び56列目において、初期時刻(4行目)の次の時刻に相当する5行目のセルに入力されて流量値を算出し、次に、その次の時刻以降に相当する6行目以降の各セルに複写され入力されて流量値を算出し、流量値の時刻歴が流量値スプレッドシート46の17列目、19列目及び56列目に記録される。
【0093】
音速値スプレッドシート45の17列目、19列目、56列目の各セルに入力されて記録された数式13及びこの数式13により計算された音速値は、表示手段15により表示される。同様に、流量値スプレッドシート46の17列目の各セルに入力され記録された数式14及びこの数式14より計算された流量値と、流量値スプレッドシート46の19列目及び56列目の各セルに入力されて記録された数式15並びにこの数式15により計算された流量値とは、表示手段15により表示される。
【0094】
ここで、第1ダクト41の分岐・集合部5に接続する終端(17列目に相当)と、第2ダクト42、第3ダクト43の分岐・集合部5に接続する始端(19列目、56列目に相当)とにおける圧力値の時刻歴は、音速値スプレッドシート45の17列目、19列目、56列目における音速の時刻歴から数式2により換算されるが、この圧力値の時刻歴も表示手段15により表示可能に設けられる。
【0095】
上述のように構成されたダクト内圧縮性流体の圧力伝播解析装置40による解析結果を図20に示す。この図20には、第1ダクト41の始端における圧力変動δによる入口圧力X4と、分岐・集合部5における分岐・集合部圧力Y4と、第2ダクト42の終端3(閉塞端)における終端圧力Z4とがそれぞれ表示されている。この解析結果によれば、終端圧力Z4が入口圧力X4及び分岐・集合部圧力Y4よりも大きな圧力となって発生していることが分かる。
【0096】
以上のように構成されたことから、本第4実施形態によれば、分岐・集合部5に接続する終端を含む第1ダクト41の各部、分岐・集合部5に接続する始端を含む第2ダクト42の各部、分岐・集合部5に接続する始端を含む第3ダクト43の各部のそれぞれの音速値の時刻歴、流量値の時刻歴は、その計算式も含めて音速値スプレッドシート45、流量値スプレッドシート46のそれぞれに記録されて表示手段15により表示可能とされ、また、圧力値の時刻歴は、音速値の時刻歴から換算されて表示手段15により表示可能とされるので、本第4実施形態においても第1実施形態の効果(1)及び(2)と同様の効果を奏する。
【0097】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができ、また、それらの置き換えや変更は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0098】
例えば、第1~第4実施形態における各スプレッドシートでは、列方向にダクトの各部が設定され、行方向に時間軸が設定されたが、行方向にダクトの各部を設定し、列方向に時間軸を設定して、圧力伝播パラメータ情報の時刻歴が記録される列方向のセルに数式を複写して入力してもよい。また、各実施形態における計算手段14、26、37、47の計算式(数式)が、スプレッドシート16、17、23、24、35、36、45、46でなくとも表示手段15に表示可能に構成されることで、これらの数式の比較により圧力伝播の解析を容易に検証できる。
【符号の説明】
【0099】
1…ダクト、2…始端(入口)、4…断面積変更部、5…分岐・集合部、10…圧力伝播解析装置、11…ダクト仕様記録スプレッドシート(ダクト仕様情報記録手段)、13…圧力伝播パラメータ記録スプレッドシート(圧力伝播パラメータ情報記録手段)、14…計算手段、15…表示手段、16…音速値スプレッドシート(音速値情報記録手段)、17…流量値スプレッドシート(流量値情報記録手段)、20…圧力伝播解析装置、21…トンネル(ダクト)、22…高速移動体、23…音速値スプレッドシート(音速値情報記録手段)、24…流量値スプレッドシート(流量値情報記録手段)、25…圧力伝播パラメータ記録スプレッドシート(圧力伝播パラメータ情報記録手段)、26…計算手段、30…圧力伝播解析装置、31…第1ダクト、32…第2ダクト、33…ダクト、34…ダクト仕様記録スプレッドシート(ダクト仕様情報記録手段)、35…音速値スプレッドシート(音速値情報記録手段)、36…流量値スプレッドシート(流量値情報記録手段)、37…計算手段、38…圧力伝播パラメータ記録スプレッドシート(圧力伝播パラメータ情報記録手段)、40…圧力伝播解析装置、41…第1ダクト、42…第2ダクト、43…第3ダクト、44…ダクト仕様記録スプレッドシート(ダクト仕様情報記録手段)、45…音速値スプレッドシート(音速値情報記録手段)、46…流量値スプレッドシート(流量値情報記録手段)、47…計算手段、48…圧力伝播パラメータ記録スプレッドシート(圧力伝播パラメータ情報記録手段)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20