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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-29
(45)【発行日】2023-10-10
(54)【発明の名称】ボールペン及びボールペンレフィル
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/18 20060101AFI20231002BHJP
   B43K 7/01 20060101ALI20231002BHJP
【FI】
C09D11/18
B43K7/01
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019237060
(22)【出願日】2019-12-26
(65)【公開番号】P2020128524
(43)【公開日】2020-08-27
【審査請求日】2022-10-13
(31)【優先権主張番号】P 2018248112
(32)【優先日】2018-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019027863
(32)【優先日】2019-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(72)【発明者】
【氏名】小椋 麻美子
【審査官】本多 仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-090785(JP,A)
【文献】特開2003-221543(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/16-11/20
B43K 7/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と、着色剤と、界面活性剤と、酸化防止剤と、曳糸性付与剤とを含有する水性インキ組成物であって、
前記界面活性剤が、モノアルキルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩、モノアルケニルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩、ジアルキルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩及びジアルケニルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩からなる群から選択される1つ以上を含み、
前記曳糸性付与剤が、重量平均分子量が5万以上450万以下のポリアクリルアミドを含む
水性インキ組成物を内蔵し、
EL型粘度計を用いて20rpmで測定した20℃における前記水性インキ組成物の粘度が、1~20mPa・sであり、
20℃における前記水性インキ組成物の剪断減粘指数nが、0.80~1.00であり、
外径が0.7mm超2.0mm以下のボールをペン先に有し、
前記酸化防止剤がメルカプトチアジアゾールを含み、
モノアルキルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩と、モノアルケニルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩と、ジアルキルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩と、ジアルケニルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩との合計の含有量に対する、前記酸化防止剤の含有量の質量比率が、0.05以上0.50以下である、ボールペン。
【請求項2】
酸化ポリエチレンワックスエマルジョン及び/又はアクリル樹脂エマルジョンと、K値が40未満であるN-ビニル-2-ピロリドンのオリゴマー又はポリマーを更に含有する請求項1に記載のボールペン。
【請求項3】
前記界面活性剤が、ジアルキルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩及びジアルケニルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩からなる群から選択される1つ以上を含む請求項1又は2に記載のボールペン。
【請求項4】
前記ペン先とインキ収容管とを備え、前記インキ収容管に前記水性インキ組成物を内蔵し、前記水性インキ組成物の端面にインキ逆流防止体が充填されたボールペンレフィルを軸筒内に収容してなる請求項1~3のいずれか1項に記載のボールペン。
【請求項5】
ノック式である請求項1~4のいずれか1項に記載のボールペン。
【請求項6】
前記ペン先がパイプチップ構造である請求項1~5のいずれか1項に記載のボールペン。
【請求項7】
前記水性インキ組成物が、アルキル基及び/又はアルキルオキシ基で置換された分岐の1価アルコール、アルキル基で置換された分岐の2価アルコール、アルキレングリコールモノアルキルエーテル、アルキレングリコールジアルキルエーテル、及びγ-ラクタム類からなる群から選択される1つ以上の補助溶剤を含有する請求項1~6のいずれか1項に記載のボールペン。
【請求項8】
ペン先とインキ収容管とを備え、前記インキ収容管に水性インキ組成物を内蔵し、前記水性インキ組成物の端面にインキ逆流防止体が充填されたボールペンレフィルであって、
前記水性インキ組成物が、水と、着色剤と、界面活性剤と、酸化防止剤と、曳糸性付与剤とを含有し、
前記界面活性剤が、モノアルキルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩、モノアルケニルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩、ジアルキルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩及びジアルケニルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩からなる群から選択される1つ以上を含み、
前記曳糸性付与剤が、重量平均分子量が5万以上450万以下のポリアクリルアミドを含み、
EL型粘度計を用いて20rpmで測定した20℃における前記水性インキ組成物の粘度が、1~20mPa・sであり、
20℃における前記水性インキ組成物の剪断減粘指数nが、0.80~1.00であり、
外径が0.7mm超2.0mm以下のボールを前記ペン先に有
前記酸化防止剤がメルカプトチアジアゾールを含み、
モノアルキルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩と、モノアルケニルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩と、ジアルキルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩と、ジアルケニルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩との合計の含有量に対する、前記酸化防止剤の含有量の質量比率が、0.05以上0.50以下である、ボールペンレフィル。
【請求項9】
酸化ポリエチレンワックスエマルジョン及び/又はアクリル樹脂エマルジョンと、K値が40未満であるN-ビニル-2-ピロリドンのオリゴマー又はポリマーを更に含有する請求項8に記載のボールペンレフィル。
【請求項10】
前記界面活性剤が、ジアルキルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩及びジアルケニルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩からなる群から選択される1つ以上を含む請求項8又は9に記載のボールペンレフィル。
【請求項11】
前記ペン先がパイプチップ構造である請求項8~10のいずれか1項に記載のボールペンレフィル。
【請求項12】
前記水性インキ組成物が、アルキル基及び/又はアルキルオキシ基で置換された分岐の1価アルコール、アルキル基で置換された分岐の2価アルコール、アルキレングリコールモノアルキルエーテル、アルキレングリコールジアルキルエーテル、及びγ-ラクタム類からなる群から選択される1つ以上の補助溶剤を含有する請求項8~11のいずれか1項に記載のボールペンレフィル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールペン及びボールペンレフィルに関する。
【背景技術】
【0002】
ボールペンは宛名書き等に広く利用されており、ペン先に備えたボールの外径を変更することにより筆跡幅を調整することができる。
【0003】
ボールペンは、ボールの回転によってペン先のインキがボールとボール掴持部との隙間から紙面に吐出されつつ、インキ収容部からペン先へインキが供給される原理を利用することにより筆記を可能としている。
【0004】
ボールペンに用いられるインキには、例えば、筆跡乾燥性が高いことが求められる。筆跡乾燥性に関する技術として、例えば、特許文献1には、水溶性有機溶剤のSP値及び蒸気圧を制御する技術が開示されており、また特許文献2には、所定の乾燥性向上剤を添加する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-21045号公報
【文献】特開2001-271020号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ボールペンの中でも、大径のボールを備えるものは、ボールとボール掴持部との隙間が広く形成されており、当該隙間からインキが容易に吐出するため、幅が広く、明瞭な筆跡が形成可能である。そのため、例えば、比較的大きな文字で宛名書きをする際に好適であり、また視認性が向上するため視力の低下した高齢者等にも好適に用いられる。
しかし、大径のボールを備えたボールペンは、インキの吐出量が多いため、筆跡乾燥性が良好であっても、インキが紙面の裏面に裏移りすることがある。
また、大径のボールを備えたボールペンは、速記時に、多量のインキを連続的に吐出することが必要な状態になると、ペン先へのインキ供給が追い付かずにボールとボール掴持部との隙間から空気がペン先内に入り込み、筆跡が途切れる、筆跡が薄くなる等の筆記不良が生じることがある。
【0007】
また、インキ収容管を備えるボールペンレフィルは、収容されたインキの後端が液栓及び/又は固体栓により封止されている。液栓及び固体栓(以下、「栓」と呼ぶことがある)は、ボールペンレフィルからのインキ漏れ、及び水分の蒸発等を防止しており、筆記によりインキが消費されると、ボールペンレフィル内のインキの減少に伴い、ボールペンレフィルの先端側に移動する。
しかし、ボールペンを長期に亘って保管すると、栓が硬くなることがある。その場合、インキを消費しても栓がボールペンレフィル内を移動しにくくなることがあり、またボールペンレフィルの内壁と栓との間に間隙が生じてインキ中の水分が蒸発してインキの粘度が高くなることがある。そのため、長期に亘って保管したボールペンは、筆記時のインキ吐出量が低下して筆記不良が生じることがある。
【0008】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、速記時においてもインキ吐出不良が起こりにくく筆跡が明瞭であり、紙面の裏面へのインキの裏移りが少なく、且つ保管安定性に優れた、大径のボールを備えたボールペン及びボールペンに収容されるボールペンレフィルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の態様1は、
水と、着色剤と、界面活性剤と、酸化防止剤と、曳糸性付与剤とを含有する水性インキ組成物であって、
前記界面活性剤が、モノアルキルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩、モノアルケニルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩、ジアルキルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩及びジアルケニルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩からなる群から選択される1つ以上を含み、
前記曳糸性付与剤が、重量平均分子量が5万以上450万以下のポリアクリルアミドを含む
水性インキ組成物を内蔵し、
EL型粘度計を用いて20rpmで測定した20℃における前記水性インキ組成物の粘度が、1~20mPa・sであり、
20℃における前記水性インキ組成物の剪断減粘指数nが、0.80~1.00であり、
外径が0.7mm超2.0mm以下のボールをペン先に有するボールペンである。
【0010】
本発明の態様2は、モノアルキルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩と、モノアルケニルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩と、ジアルキルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩と、ジアルケニルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩との合計の含有量に対する、前記酸化防止剤の含有量の質量比率が、0.05以上0.50以下である態様1に記載のボールペンである。
【0011】
本発明の態様3は、前記界面活性剤が、ジアルキルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩及びジアルケニルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩からなる群から選択される1つ以上を含む態様1又は2に記載のボールペンである。
【0012】
本発明の態様4は、前記ペン先とインキ収容管とを備え、前記インキ収容管に前記水性インキ組成物を内蔵し、前記水性インキ組成物の端面にインキ逆流防止体が充填されたボールペンレフィルを軸筒内に収容してなる態様1~3のいずれかに記載のボールペンである。
【0013】
本発明の態様5は、ノック式である態様1~4のいずれかに記載のボールペンである。
【0014】
本発明の態様6は、前記ペン先がパイプチップ構造である態様1~5のいずれかに記載のボールペンである。
【0015】
本発明の態様7は、前記水性インキ組成物が、アルキル基及び/又はアルキルオキシ基で置換された分岐の1価アルコール、アルキル基で置換された分岐の2価アルコール、アルキレングリコールモノアルキルエーテル、アルキレングリコールジアルキルエーテル、及びγ-ラクタム類からなる群から選択される1つ以上の補助溶剤を含有する態様1~6のいずれかに記載のボールペンである。
【0016】
本発明の態様8は、ペン先とインキ収容管とを備え、前記インキ収容管に水性インキ組成物を内蔵し、前記水性インキ組成物の端面にインキ逆流防止体が充填されたボールペンレフィルであって、
前記水性インキ組成物が、水と、着色剤と、界面活性剤と、酸化防止剤と、曳糸性付与剤とを含有し、
前記界面活性剤が、モノアルキルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩、モノアルケニルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩、ジアルキルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩及びジアルケニルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩からなる群から選択される1つ以上を含み、
前記曳糸性付与剤が、重量平均分子量が5万以上450万以下のポリアクリルアミドを含み、
EL型粘度計を用いて20rpmで測定した20℃における前記水性インキ組成物の粘度が、1~20mPa・sであり、
20℃における前記水性インキ組成物の剪断減粘指数nが、0.80~1.00であり、
外径が0.7mm超2.0mm以下のボールを前記ペン先に有する、ボールペンレフィルである。
【0017】
本発明の態様9は、モノアルキルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩と、モノアルケニルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩と、ジアルキルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩と、ジアルケニルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩との合計の含有量に対する、前記酸化防止剤の含有量の質量比率が、0.05以上0.50以下である態様7に記載のボールペンレフィルである。
【0018】
本発明の態様10は、前記界面活性剤が、ジアルキルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩及びジアルケニルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩からなる群から選択される1つ以上を含む態様8又は9に記載のボールペンレフィルである。
【0019】
本発明の態様11は、前記ペン先がパイプチップ構造である態様8~10のいずれかに記載のボールペンレフィルである。
【0020】
本発明の態様12は、前記水性インキ組成物が、アルキル基及び/又はアルキルオキシ基で置換された分岐の1価アルコール、アルキル基で置換された分岐の2価アルコール、アルキレングリコールモノアルキルエーテル、アルキレングリコールジアルキルエーテル、及びγ-ラクタム類からなる群から選択される1つ以上の補助溶剤を含有する態様8~11のいずれかに記載のボールペンレフィルである。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、速記時においてもインキ吐出不良が起こりにくく筆跡が明瞭であり、紙面の裏面へのインキの裏移りが少なく、且つ保管安定性に優れた、大径のボールを備えたボールペン及びボールペンに収容されるボールペンレフィルが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行い、水性インキ組成物の粘度及び剪断減粘指数を所定の範囲に制御すると共に、水性インキ組成物の組成を以下のように制御することを着想した。すなわち、界面活性剤としてモノアルキルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩、モノアルケニルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩、ジアルキルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩及びジアルケニルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩からなる群から選択される1つ以上と、曳糸性付与剤として重量平均分子量が5万以上450万以下のポリアクリルアミドと、酸化防止剤とを含有するように水性インキ組成物の組成を制御した。その結果、本発明者らは、インキ吐出不良が起こりにくく筆跡が明瞭であり、紙面の裏面へのインキの裏移りが少なく、且つ保管安定性に優れたボールペンが得られることを見出した。
【0023】
本明細書において、インキ吐出不良が起こりにくく筆跡が明瞭であることを筆記性能に優れると言うことがあり、また裏面へのインキの裏移りが少ないことを裏抜け性能に優れると言うことがある。
以下に、本発明の実施形態に係るボールペン及びボールペンレフィルの詳細を説明する。
【0024】
1.水性インキ組成物
本発明の実施形態に係るボールペン及びボールペンレフィルは、
水と、着色剤と、界面活性剤と、酸化防止剤と、曳糸性付与剤とを含有し、
界面活性剤が、モノアルキルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩、モノアルケニルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩、ジアルキルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩及びジアルケニルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩からなる群から選択される1つ以上を含み、
曳糸性付与剤が、重量平均分子量が5万以上450万以下のポリアクリルアミドを含む
水性インキ組成物を内蔵している。
また、水性インキ組成物は、
EL型粘度計を用いて20rpmで測定した20℃における粘度が、1~20mPa・sであり、
20℃における前記水性インキ組成物の剪断減粘指数nが、0.80~1.00である。
以下、各構成について詳述する。
【0025】
(1)水
水は、特に限定されないが、不純物が少ない蒸留水又はイオン交換水であることが好ましい。水の含有量は、所望の特性が得られるように、成分組成を考慮して適切に制御してよいが、通常は20質量%以上97質量%以下である。
【0026】
(2)着色剤
着色剤としては、例えば、染料及び顔料が挙げられる。
【0027】
染料は、筆記時に紙面から即座に浸透して筆跡を形成するため、紙面に浸透し難い顔料に比べて速乾性が得られ易い。
染料としては、水性系媒体に溶解可能な酸性染料、塩基性染料及び直接染料等を使用することができる。
酸性染料としては、ニューコクシン(C.I.16255)、タートラジン(C.I.19140)、アシッドブルーブラック10B(C.I.20470)、ギニアグリーン(C.I.42085)、ブリリアントブルーFCF(C.I.42090)、アシッドバイオレット6B(C.I.42640)、ソルブルブルー(C.I.42755)、ナフタレングリーン(C.I.44025)、エオシン(C.I.45380)、フロキシン(C.I.45410)、エリスロシン(C.I.45430)、ニグロシン(C.I.50420)及びアシッドフラビン(C.I.56205)等が用いられる。
塩基性染料としては、クリソイジン(C.I.11270)、メチルバイオレットFN(C.I.42535)、クリスタルバイオレット(C.I.42555)、マラカイトグリーン(C.I.42000)、ビクトリアブルーFB(C.I.44045)、ローダミンB(C.I.45170)、アクリジンオレンジNS(C.I.46005)及びメチレンブルーB(C.I.52015)等が用いられる。
直接染料としては、コンゴーレッド(C.I.22120)、ダイレクトスカイブルー5B(C.I.24400)、バイオレットBB(C.I.27905)、ダイレクトディープブラックEX(C.I.30235)、カヤラスブラックGコンク(C.I.35225)、ダイレクトファストブラックG(C.I.35255)及びフタロシアニンブルー(C.I.74180)等が用いられる。
【0028】
顔料としては、例えば、カーボンブラック及び群青等の無機顔料、銅フタロシアニンブルー及びベンジジンイエロー等の有機顔料並びに蛍光顔料が挙げられる。
具体的には、例えば、C.I.Pigment Blue 15:3B〔品名:Sandye Super Blue GLL-E、顔料分24%、山陽色素株式会社製〕、C.I. Pigment Red 146〔品名:Sandye Super Pink FBL、顔料分21.5%、山陽色素株式会社製〕、C.I.Pigment Yellow 81〔品名:TC Yellow FG、顔料分約30%、大日精化工業株式会社製〕、C.I.Pigment Red 220/166〔品名:TC Red FG、顔料分約35%、大日精化工業株式会社製〕等が挙げられる。
また、例えば、酸化チタン等の白色顔料、アルミニウム等の金属粉、天然雲母、合成雲母、アルミナ、ガラス片から選ばれる芯物質の表面を二酸化チタン等の金属酸化物で被覆したパール顔料、金色又は銀色のメタリック顔料、蓄光性顔料及びコレステリック液晶型光輝性顔料等が挙げられる。
蛍光顔料としては、各種蛍光性染料を樹脂マトリックス中に固溶体化した合成樹脂微細粒子状の蛍光顔料が使用できる。
更に、熱変色性組成物及び/又は光変色性組成物と、必要に応じて香料、顔料及び/又は染料とを内包したマイクロカプセル顔料を使用することもできる。
【0029】
熱変色性組成物としては、(イ)電子供与性呈色性有機化合物と、(ロ)電子受容性化合物と、(ハ)前記両者の呈色反応の生起温度を決める反応媒体とからなる可逆熱変色性組成物が好適であり、これをマイクロカプセルに内包させて可逆熱変色性マイクロカプセル顔料として使用できる。
可逆熱変色性組成物としては、例えば、特公昭51-44706号公報、特公昭51-44707号公報及び特公平1-29398号公報等に記載された、ヒステリシス幅ΔHが比較的小さい特性(ΔH=1~7℃)を有する可逆熱変色性組成物が挙げられる。当該可逆熱変色性組成物は、所定の温度(変色点)を境としてその前後で変色し、高温側変色点以上の温度域で消色状態、低温側変色点以下の温度域で発色状態を呈し、前記両状態のうち常温域では特定の一方の状態しか存在せず、もう一方の状態は、その状態が発現するのに要した熱又は冷熱が適用されている間は維持されるが、そのような熱又は冷熱の適用がなくなれば常温域で呈する状態に戻る。
更に、例えば、特公平4-17154号公報、特開平7-179777号公報、特開平7-33997号公報及び特開平8-39936号公報等に記載されている比較的大きなヒステリシス特性(ΔH=8~50℃)を示す可逆熱変色性組成物、あるいは特開2006-137886号公報、特開2006-188660号公報、特開2008-45062号公報及び特開2008-280523号公報等に記載されている大きなヒステリシス特性を示す可逆熱変色性組成物が挙げられる。当該可逆熱変色性組成物は、温度変化による着色濃度の変化をプロットした曲線の形状が、温度を変色温度域より低温側から上昇させていく場合と逆に変色温度域より高温側から下降させていく場合とで大きく異なる経路を辿って変色し、完全発色温度以下の低温域での発色状態、又は完全消色温度以上の高温域での消色状態が、特定温度域で色彩記憶性を有する。このような色彩記憶性を有する可逆熱変色性組成物は、具体的には、完全発色温度を冷凍室又は寒冷地等でしか得られない温度、即ち-50~0℃、好ましくは-40~-5℃、より好ましくは-30~-10℃に特定し、完全消色温度を摩擦体による摩擦熱又はヘアドライヤー等身近な加熱体から得られる温度、即ち50~95℃、好ましくは50~90℃、より好ましくは60~80℃の範囲に特定し、且つΔH値を40~100℃に特定することにより、常態(日常の生活温度域)で呈する色彩の保持に有効に機能することができる。
以上のような可逆熱変色性組成物は、これをマイクロカプセル中に内包させた加熱消色型のマイクロカプセル顔料として使用できる。
【0030】
また、顔料を予め界面活性剤及び/又は樹脂を用いて水媒体中に分散させた顔料分散体を用いてよい。
顔料を分散する樹脂としては、例えば、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、アクリル酸樹脂、マレイン酸樹脂、アラビアゴム、セルロース、デキストラン及びカゼイン等、並びにそれらの誘導体、及び上記樹脂の共重合体等が挙げられる。
【0031】
着色剤は、1種又は2種以上の混合物であってよい。
染料は、筆記時に紙面から即座に浸透して筆跡を形成するため、紙面に浸透し難い顔料に比べて速乾性が得られ易い。そのため、着色剤は染料であることが好ましく、速乾性を損なわない範囲で、染料に加えて顔料を使用してよい。
【0032】
着色剤の含有量は、所望の特性が得られるように、成分組成を考慮して適切に制御してよいが、通常は1質量%以上15質量%以下である。
【0033】
(3)界面活性剤
界面活性剤は、モノアルキルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩、モノアルケニルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩、ジアルキルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩及びジアルケニルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩からなる群から選択される1つ以上を含む。これにより、インキ吐出性及び/又はインキの紙面浸透性が良好となる。更に、モノアルキルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩、モノアルケニルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩、ジアルキルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩及びジアルケニルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩からなる群から選択される1つ以上を含有することにより、ボールペンを長期間に亘って保管した場合であっても、水性インキ組成物の吐出性の低下を抑制することができるため、長期保管後であっても筆記不良が発生しにくくなる。
【0034】
界面活性剤は、ジアルキルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩及びジアルケニルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩からなる群から選択される1つ以上を含むことが好ましい。これにより、長期保管前のインキ吐出性、長期保管後のインキ吐出性及び/又はインキの紙浸透性のいずれか1つ以上をより容易に向上させることができる。
【0035】
モノアルキルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩は、炭素数6~12のアルキル基を構造に有することが好ましい。モノアルキルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩が、炭素数6~12のアルキル基を構造に有すると、インキ吐出性及び/又はインキの紙面浸透性がより良好となる。
アルキル基は、分岐構造を有することが好ましい。アルキル基が分岐構造を有すると、インキ吐出性及び/又はインキの紙面浸透性がより良好となる。
とりわけ、モノアルキルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩は、アルキル基として2-エチルヘキシル基を構造に有することが最も好ましい。
【0036】
モノアルケニルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩は、炭素数6~12のアルキレン基を構造に有することが好ましい。モノアルケニルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩が、炭素数6~12のアルキレン基を構造に有すると、インキ吐出性及び/又はインキの紙面浸透性がより良好となる。
アルキレン基は、分岐構造を有することが好ましい。アルキレン基が分岐構造を有すると、インキ吐出性及び/又はインキの紙面浸透性がより良好となる。
【0037】
ジアルキルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩は、炭素数6~12のアルキル基を構造に有することが好ましい。ジアルキルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩が、炭素数6~12のアルキル基を構造に有すると、インキ吐出性及び/又はインキの紙面浸透性がより良好となる。
アルキル基は、分岐構造を有することが好ましい。アルキル基が分岐構造を有すると、インキ吐出性及び/又はインキの紙面浸透性がより良好となる。
とりわけ、ジアルキルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩は、アルキル基として2-エチルヘキシル基を構造に有することが最も好ましい。
【0038】
ジアルケニルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩は、炭素数6~12のアルキレン基を構造に有することが好ましい。ジアルケニルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩が、炭素数6~12のアルキレン基を構造に有すると、インキ吐出性及び/又はインキの紙面浸透性がより良好となる。
アルキレン基は、分岐構造を有することが好ましい。アルキレン基が分岐構造を有すると、インキ吐出性及び/又はインキの紙面浸透性がより良好となる。
【0039】
モノアルキルスルホコハク酸の金属塩としては、例えば、スルホコハク酸ラウリル2ナトリウムが挙げられる。
【0040】
ジアルキルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩としては、例えば、ジ(2-エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウム、ジラウリルスルホコハク酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸塩、ジノニルスルホコハク酸塩、ジデシルスルホコハク酸塩、ジウンデシルスルホコハク酸塩、ジミリスチルスルホコハク酸塩、ジパルミチルスルホコハク酸塩、ジステアリルスルホコハク酸塩、ジアラキジルスルホコハク酸塩が挙げられる。
【0041】
ジアルケニルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩としては、例えば、ジオクテニルスルホコハク酸塩、ジノネニルスルホコハク酸塩、ジデセニルスルホコハク酸塩、ジウンデセニルスルホコハク酸塩、ジドデセニルスルホコハク酸塩、ジオレイルスルホコハク酸塩が挙げられる。
【0042】
モノアルキルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩と、モノアルケニルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩と、ジアルキルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩と、ジアルケニルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩との合計の含有量は、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上であり、好ましくは5質量%以下、より好ましくは1質量%以下である。当該合計の含有量が0.01質量%以上5質量%以下であると、インキ吐出性とインキの紙面浸透性とを両立することがより容易となる。
【0043】
界面活性剤は、1種又は2種以上の混合物であってよい。
【0044】
界面活性剤は、モノアルキルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩、モノアルケニルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩、ジアルキルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩及びジアルケニルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩以外のアニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤及び/又は両性界面活性剤を含んでよい。
【0045】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、脂肪酸石鹸、n-アシルアミノ酸塩、アルキルエーテルカルボン酸塩、アシル化ペプチド等のカルボン酸塩類、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、N-アシルスルホン酸塩等のスルホン酸塩類、硫酸化油、アルキル硫酸塩、アルキルエーテル硫酸塩、アルキルアリルエーテル硫酸塩、アルキルアミド硫酸塩等の硫酸エステル塩類、アルキルリン酸塩、アルキルエーテルリン酸塩、及びアルキルアリルエーテルリン酸塩等のリン酸エステル塩類等が挙げられる。
非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ソルビタンエステル類、アルキルスルホコハク酸エステル、アルキルリン酸エステル、アルキル硫酸エステル、ポリオキシエチレン水添加硬化ヒマシ油、モノラウリン酸デカグリセリル、ショ糖ステアリン酸エステル、ショ糖パルミチン酸エステル、ショ糖ミリスチン酸エステル、ショ糖オレイン酸エステル、ショ糖ラウリン酸エステル、及びポリエーテル変性アルキルシロキサン等が挙げられる。
両性界面活性剤としては、例えば、カルボキシベタイン型、アミノカルボン酸型、イミダゾリウムベタイン、レシチン及びアルキルアミンオキシド等が挙げられる。
【0046】
界面活性剤の含有量は、好ましくは0.01質量%以上5質量%以下である。
【0047】
モノアルキルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩と、モノアルケニルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩と、ジアルキルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩と、ジアルケニルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩との合計の含有量に対する、前記酸化防止剤の含有量の質量比率は、0.05以上0.50以下であることが好ましく、保管安定性及び/又は裏抜け性能をより高めることができる。当該質量比率は、より好ましくは0.10以上であり、より好ましくは0.40以下である。
【0048】
(4)酸化防止剤
酸化防止剤を含有することにより、速記時にボールとボール掴持部との隙間から空気が入り込んで水性インキ組成物と混ざり合った場合でも、空気が酸化防止剤によって消失するため、筆跡途切れ及び筆跡薄れ等の筆記不良が発生しにくくなる。また、酸化防止剤を含有することにより、ボールペンを長期間に亘って保管した場合であっても、水性インキ組成物の吐出性の低下を抑制することができるため、長期保管後であっても筆記不良が発生しにくくなる。
【0049】
酸化防止剤としては、例えば、硫化脂肪酸及びその塩、メルカプトチアジアゾール、アルキルヒドロキシルアミン、アスコルビン酸、アスコルビン酸誘導体、α-トコフェロール、カテキン、カテキン誘導体、合成ポリフェノール、ホスホン酸塩、ホスフィン酸塩、亜硫酸塩、スルホキシル酸塩、亜ジチオン酸塩、チオ硫酸塩、二酸化チオ尿素、ホルムアミジンスルフィン酸、チオ硫酸塩並びにグルタチオン等が挙げられる。
【0050】
酸化防止剤は、メルカプトチアジアゾール、硫化脂肪酸、硫化脂肪酸塩又はアルキルヒドロキシルアミンを含むことが好ましく、メルカプトチアジアゾールを含むことがより好ましい。メルカプトチアジアゾールは、筆記不良を抑制する効果が高い。
また、硫化脂肪酸又はその塩を含有することにより、インキ中の腐食成分がボール表面に直接作用することを妨げ、金属溶出を伴うボール表面の腐食現象を抑制し易い。
【0051】
メルカプトチアジアゾールとしては、例えば、2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール、2-メチル-5-メルカプト-1,3,4-チアジアゾール、2-アミノ-5-メルカプト-1,3,4-チアジアゾール、並びにこれらのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、アルカノールアミン塩、シクロヘキシルアミン塩及びシクロヘキシルアルカノールアミン塩が挙げられる。2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾールは、筆記不良を抑制する効果が高い。
【0052】
硫化脂肪酸としては、例えば、炭素数8~20の脂肪酸の硫化物が挙げられ、具体的には、例えば、硫化ペラルゴン酸、硫化ラウリン酸、硫化パルミチン酸、硫化オレイン酸、硫化ステアリン酸、硫化ノナデカン酸、硫化リノレン酸、硫化リノール酸等が挙げられる。更に、硫化ジステアリン酸等のカルボキシル基又はその塩を少なくとも1個有する炭素数8~20の炭化水素基が、1以上(具体的には1~8の整数)の硫黄原子鎖(炭化水素基を介在させたものを含む)の両末端に結合するジ脂肪酸が例示でき、これらから一種以上を選択して用いられる。
硫化脂肪酸塩としては、例えば、リチウム、ナトリウム及びカリウム等のアルカリ金属塩、アルカノールアミン及びアンモニア等のアミン塩、アルカリ土類金属塩、Zn塩、Al塩、Sn塩及びSb塩等が挙げられる。
硫化脂肪酸及び/又はその塩を含有する場合、合計の含有量は、好ましくは0.1質量%以上であり、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。
【0053】
アルキルヒドロキシルアミンとしては、例えば、N,N-ジエチルヒドロキシルアミンが挙げられる。
【0054】
酸化防止剤は、1種又は2種以上の混合物であってよい。
酸化防止剤の含有量は、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上であり、好ましくは5質量%以下、より好ましくは2.0質量%以下である。酸化防止剤の含有量が0.05質量%以上5質量%以下であると、インキ吐出の際に、インキ収容部からペン先への水性インキ組成物の供給が容易となるため、インキ吐出性が良化しやすい。
【0055】
(5)曳糸性付与剤
曳糸性付与剤は、重量平均分子量が5万以上450万以下のポリアクリルアミドを含む。これにより、インキ吐出の際に、インキ収容部からペン先へのインキ供給が容易となるため、インキ吐出性が良好となり、また水性インキ組成物に過度の曳糸性を付与しないため、長期に渡って安定な溶解性を奏する。また、重量平均分子量が5万以上450万以下のポリアクリルアミドを含有することにより、裏抜け性能を高めることができる。更に、重量平均分子量が5万以上450万以下のポリアクリルアミドを含有することにより、ボールペンを長期間に亘って保管した場合であっても、水性インキ組成物の吐出性の低下を抑制することができるため、長期保管後であっても筆記不良が発生しにくくなる。
【0056】
ポリアクリルアミドの重量平均分子量は、展開溶媒にテトラヒドロフラン溶液を用いてゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定し、ポリスチレンを標準物質として換算した重量平均分子量である。
【0057】
ポリアクリルアミドの重量平均分子量は、好ましくは40万以上、より好ましくは50万以上であり、好ましくは250万以下、より好ましくは200万以下である。
【0058】
重量平均分子量が5万以上450万以下のポリアクリルアミドの含有量は、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上であり、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下である。重量平均分子量が5万以上450万以下のポリアクリルアミドが0.001質量%以上1質量%以下であると、インキ吐出性が良化し易い。
【0059】
重量平均分子量が5万以上450万以下のポリアクリルアミドとして、例えば、サンフロックNOP(三洋化成工業社製、重量平均分子量:200万)が挙げられる。
【0060】
曳糸性付与剤は、1種又は2種以上の混合物であってよい。
【0061】
曳糸性付与剤は、重量平均分子量が5万以上450万以下のポリアクリルアミド以外の曳糸性付与剤を含んでよい。
【0062】
他の曳糸性付与剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ソーダ、アルキル酸-メタクリル酸アルキル共重合体、ポリエチレンオキサイド、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、セルロース及びその誘導体等の水溶性合成高分子、微生物由来のウェランガム、アルカシーラン、アルカシーガム、ゼータシーガム等の多糖類、アルギン酸及びその誘導体の海藻多糖類、グアーガム、ローカストビーンガム及びその誘導体等の種子多糖類、及びタラガントガム等の樹脂多糖類が挙げられる。
【0063】
曳糸性付与剤の含有量は、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上であり、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下である。
【0064】
(6)増粘剤
水性インキ組成物は、増粘剤を含有してよい。
増粘剤としては、例えば、カラギーナン、キサンタンガム、ウェランガム、ゼータシーガム、ダイユータンガム、構成単糖がグルコース及びガラクトースの有機酸修飾ヘテロ多糖体であるサクシノグリカン(平均分子量約100乃至800万)、並びにグアーガム等が挙げられる。とりわけ、λ-カラギーナンは、水性インキ組成物に過度な揺変性を付与することなく粘度を調整することができるため好ましい。
【0065】
増粘剤は、1種又は2種以上の混合物であってよい。
増粘剤を含有する場合、増粘剤の含有量は、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上であり、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下である。増粘剤の含有量が0.05質量%以上5質量%以下であると、インキ吐出を容易とし易い。
【0066】
(7)ワックスエマルジョン、樹脂エマルジョン
水性インキ組成物は、ワックスエマルジョン及び/又は樹脂エマルジョンを含有してよい。これにより、ボールペンを保管した際に、ボールとボール掴持部との隙間からインキが漏出することを抑制し易い。そのため、ノック式ボールペンに内蔵する水性インキ組成物に好ましく用いられる。
【0067】
ワックスエマルジョンとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、酸化ポリエチレン及び酸化ポリプロプレン等のオレフィンワックスエマルジョン、脂肪酸アミド変性ポリエチレンワックスエマルジョン、エチレン酢酸ビニル共重合ワックスエマルジョン、並びにエチレンアクリル共重合体、スチレンアクリル共重合体及びアクリル共重合体等のアクリル系ワックスエマルジョンが挙げられる。とりわけ、酸化ポリエチレンワックスエマルジョンは、室温で造膜し易いため筆跡が乾燥し易く、また酸化ポリエチレンの膜は柔らかいため筆跡が擦れ難いため好ましい。
【0068】
樹脂エマルジョンとしては、例えば、ポリオレフィン、ウレタン系樹脂、ナイロン樹脂、酢酸ビニル樹脂、アクリル酸エステル樹脂、アクリル酸エステル共重合樹脂、アクリルポリオール樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂、マレイン酸樹脂、ポリエステル樹脂、スチレン樹脂、スチレン共重合樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂、スチレン-ブタジエン共重合樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン共重合樹脂、メタクリル酸メチル-ブタジエン共重合樹脂、ブタジエン樹脂、クロロプレン樹脂、メラミン樹脂、ポリビニルアルコール及びポリビニルピロリドンのエマルジョンが挙げられる。とりわけ、アクリル樹脂エマルジョンは、室温で造膜し易いため筆跡が乾燥し易く、また酸化ポリエチレンの膜は柔らかいため筆跡が擦れ難いため好ましい。
【0069】
ワックスエマルジョン及び樹脂エマルジョンの平均径は、好ましくは0.05μm以上、より好ましくは0.1μm以上であり、好ましくは2.0μm以下、より好ましくは0.5μm以下である。
【0070】
ワックスエマルジョン及び樹脂エマルジョンの平均径は、例えば、マイクロトラックベル社製の動的散乱式粒子径測定装置「ナノトラック NANO-flex」を用いて、動的光散乱法により測定することができる。
【0071】
ワックスエマルジョン及び/又は樹脂エマルジョンは、1種又は2種以上の混合物であってよい。
【0072】
ワックスエマルジョン及び/又は樹脂エマルジョンを含有する場合、合計の含有量は、固形分換算で、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上であり、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。当該含有量が0.1質量%以上10質量%以下であると、インキ漏出を抑制し易い。
【0073】
水性インキ組成物は、酸化ポリエチレンワックスエマルジョン及び/又はアクリル樹脂エマルジョンを含有する場合、K値が40未満であるN-ビニル-2-ピロリドンのオリゴマー又はポリマーを含有することが好ましい。これにより、ボールペンを保管した際に、ボールとボール掴持部との隙間からインキが漏出することをより抑制し易い。K値は分子量と相関する粘性特性値であり、毛細管粘度計により測定される相対粘度値(25℃)を下記のFikentscherの式に適用して計算される数値である。

K= (1.5 logηrel -1)/(0.15+0.003c)+(300clogηrel +(c+1.5clogηrel )2)1/2/(0.15c+0.003c2)

ここで、ηrelは、N-ビニル-2-ピロリドンのオリゴマー又はポリマー水溶液の水に対する相対粘度であり、cは、N-ビニル-2-ピロリドンのオリゴマー又はポリマー水溶液中のN-ビニル-2-ピロリドンのオリゴマー又はポリマー濃度(質量%)である。
【0074】
(8)補助溶剤
水性インキ組成物の速乾性を向上させるため、水に相溶性のある水溶性有機溶剤を補助溶剤として用いることができる。補助溶剤を用いることにより、水性インキ組成物の紙面への浸透性がより向上して筆跡乾燥性がより良好となり、インキの裏移りをより抑制することができる。
【0075】
補助溶剤として、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エタノール、プロパノール、ブタノール、グリセリン、ソルビトール、プロパン-1,2-ジオール、ブタン-1,3-ジオール、フェニルグリコール等のアルキレングリコールモノフェニルエーテル、並びにエチレングリコール、ジエチレングリコール、チオジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、及びブチレングリコール等の直鎖のアルキレングリコール等が挙げられる。
より好ましい補助溶剤として、例えば、
2-エチルヘキサノール、及び3-メトキシ-3-メチルブタノール等のアルキル基及び/又はアルキルオキシ基で置換された分岐の1価アルコール(更に好ましくは、炭素数1若しくは2のアルキル基及び/又は炭素数1~4のアルキルオキシ基で置換された、炭素数の総和が3~8の分岐の1価アルコール);
2-メチルペンタン-2,4-ジオール、2-メチルペンタン-1,3-ジオール等のアルキル基で置換された分岐の2価アルコール(更に好ましくは、炭素数1若しくは2のアルキル基で置換された、炭素数の総和が5~12の分岐の2価アルコール);
エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコール-2-エチルヘキシルエーテル、エチレングリコールイソプロピルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコール-2-エチルヘキシルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、及びテトラエチレングリコールジメチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル(更に好ましくは、炭素数の総和が3以上15以下のアルキレングリコールモノアルキルエーテル);
ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、及びトリエチレングリコールブチルメチルエーテル等のアルキレングリコールジアルキルエーテル(更に好ましくは、炭素数の総和が3以上15以下のアルキレングリコールモノアルキルエーテル);及び
2-ピロリドン、及びN-メチル-2-ピロリドン等のγ-ラクタム類
等が挙げられる。
【0076】
補助溶剤は、1種を単独で用いてよく、2種以上を併用してもよい。
補助溶剤を含有する場合、補助溶剤の含有量は、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上であり、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。補助溶剤の含有量が0.5質量%以上15質量%以下であると、水性インキ組成物の速乾性を向上させ易い。
【0077】
(9)その他の成分
必要に応じて、炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、酢酸ソーダ等の無機塩類及び水溶性のアミン化合物等の有機塩基性化合物等のpH調整剤、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、サポニン等の防錆剤、石炭酸、1、2-ベンズチアゾリン3-オンのナトリウム塩、安息香酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、パラオキシ安息香酸プロピル及び2,3,5,6-テトラクロロ-4-(メチルスルフォニル)ピリジン等の防腐剤あるいは防黴剤、尿素、ソルビット、マンニット、ショ糖、ぶどう糖、還元デンプン加水分解物及びピロリン酸ナトリウム等の湿潤剤、消泡剤、及びインキの浸透性を向上させるフッ素系界面活性剤を使用してもよい。
更に、潤滑剤を添加することができ、金属石鹸、ポリアルキレングリコール脂肪酸エステル、エチレンオキサイド付加型カチオン活性剤、リン酸エステル系活性剤、N-アシルアミノ酸系界面活性剤、ジカルボン酸型界面活性剤、β-アラニン型界面活性剤、2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾールやその塩やオリゴマー、3-アミノ-5-メルカプト-1,2,4-トリアゾール、チオカルバミン酸塩、ジメチルジチオカルバミン酸塩、α-リポ酸、N-アシル-L-グルタミン酸とL-リジンとの縮合物及びその塩等を用いてよい。
また、N-ビニル-2-ピロリドンのオリゴマー、N-ビニル-2-ピペリドンのオリゴマー、N-ビニル-2-ピロリドン、N-シクロヘキシル-2-ピロリドン、ε-カプロラクタム、N-ビニル-ε-カプロラクタムのオリゴマー等の増粘抑制剤を添加することで、出没式形態での機能を高めることもできる。
【0078】
水性インキ組成物は、常法に従い、上述の成分を混合及び攪拌等することにより作製することができる。
【0079】
(10)粘性特性
水性インキ組成物は、EL型粘度計を用いて20rpmで測定した20℃における粘度が、1~20mPa・sである。これにより、水性インキ組成物の揺変性が弱まってインキ流動性が良好となるため、インキ吐出性が向上し、また紙面浸透性が良好になるため、筆跡乾燥性が向上する。当該粘度は、好ましくは2mPa・s以上、より好ましくは5mPa・s以上であり、好ましくは18mPa・s以下、より好ましくは15mPa・s以下である。また、上記粘度を1~20mPa・sとすることにより、ボールペンを長期間に亘って保管した場合であっても、水性インキ組成物の吐出性の低下を抑制することができるため、長期保管後であっても筆記不良が発生しにくくなる。
【0080】
また、水性インキ組成物は、20℃で測定した下記(1)式で示される剪断減粘指数nが、0.80~1.00である。

T=Kj (1)
ここで、Tはずり応力[N/m]、Kは粘性係数(定数)、Jはずり速度[s-1]である。

これにより、筆記時にペン先のインキがボールとボール掴持部との隙間に溜ることなく吐出されるため、ボテ及びウスの発生を低減して明瞭な筆跡を形成することができる。当該剪断減粘指数は、好ましくは0.85以上、より好ましくは0.90以上である。
【0081】
剪断減粘指数nの測定は、例えば、ティーエイインスツルメント社製のレオメーター「DHR-2」を用いて行うことができ、3.84s-1、38.4s-1及び384s-1のずり速度と、それらのずり速度でそれぞれ得られるずり応力(剪断応力)とを上記(1)式に適用してnを求める。
【0082】
(11)pH
水性インキ組成物のpHは、6以上10以下であることが好ましい。これにより、添加剤等の析出及び分解をより抑制して水性インキ組成物の保存安定性をより高めることができ、またボールの腐食をより抑制することができる。pHは、好ましくは7以上であり、好ましくは9以下である。
【0083】
(12)表面張力
水性インキ組成物の表面張力は、20mN/m以上45mN/m以下であることが好ましい。これにより、筆跡滲みをより抑制することができるため、明瞭な筆跡を形成しやすく、またインキの紙面浸透性を高めることができため、乾燥性を向上させることができる。水性インキ組成物の表面張力は、好ましくは25mN/m以上であり、好ましくは40mN/m以下である。
【0084】
2.ボールペン及びボールペンレフィル
本発明の実施形態に係るボールペンは、水性インキ組成物を内蔵し、外径が0.7mm超2.0mm以下のボールをペン先に有する。このように大径のボールを備えることにより、インキ吐出性を高めることができる。
また、本発明の実施形態に係るボールペンレフィルは、外径が0.7mm超2.0mm以下のボールを有するペン先とインキ収容管とを備え、インキ収容管に水性インキ組成物を内蔵し、水性インキ組成物の端面にインキ逆流防止体が充填されている。
【0085】
ボールペン自体の構造及び形状は、外径が0.7mm超2.0mm以下のボールをペン先に備えること以外は特に限定されるものではない。例えば、本発明の実施形態に係るボールペンレフィルを軸筒内に収容するボールペンが挙げられる。また、ボールペンは、ノック式、回転式又はスライド式等の出没機構を備え、軸筒の先端孔からペン先を出没可能に構成した出没式であってよい。
【0086】
ペン先の構造は特に限定されない。例えば、金属を切削加工して内部にボール受け座とインキ導出部を形成した構造であってよく、また金属製パイプの先端近傍の内面に複数(例えば、4つ)の内方突出部を外面からの押圧変形により設け、当該内方突出部の相互間に、中心部から径方向外方に放射状に延びるインキ流出間隙を形成した構造、すなわちパイプチップ構造であってもよい。とりわけ、パイプチップ構造は、ボール後端との接触面積が比較的小さいため、低筆記圧でのスムーズな筆記感を与えることができ、またインキ吐出性を高めることができるため、ボールペンのペン先がパイプチップ構造であることが好ましい。
【0087】
ペン先に抱持されるボールは、超硬合金製、ステンレス鋼製、ルビー製又はセラミック製等であってよい。本発明は、とりわけ、例えば外径が0.8mm以上又は1.0mm以上等のより大きなボールをペン先に備える実施形態において特に有効である。すなわち、ボールの外径が大きくなるとインキの吐出量が多くなるため、インキの裏移り及び筆跡の途切れ等の筆記不良の問題がより顕著になる傾向があるが、本発明の実施形態に係るボールペンは、このように外径がより大きなボールをペン先に有する場合であっても、インキの裏移りを低減し、且つ筆記性能を向上させることができる。そのため、本発明の実施形態に係るボールペンは、外径が大きなボールをペン先に有する太字ボールペンとして好適に用いることができる。また、インキの裏移り及び筆記不良をより低減しつつ、インキ吐出量を増加させてより軽く滑らかな筆記感を得る観点から、ペン先のボールの外径は、好ましくは0.8mm以上、より好ましくは1.0mm以上であり、好ましくは1.6mm以下である。
ペン先のボール抱持部の内径とボールとの径方向の可動距離は、好ましくは10μm以上であり、好ましくは50μm以下であり、ボールの軸方向の可動距離は、好ましくは10μm以上であり、好ましくは30μm以下である。
【0088】
ペン先には、チップ内にボールの後端を前方に弾発する弾発部材を配して、非筆記時にはチップ先端の内縁にボールを押圧させて密接状態とし、筆記時には筆圧によりボールを後退させてインキを流出可能に構成することが好ましく、不使用時のインキ漏れを抑制できる。
【0089】
弾発部材としては、例えば、金属細線のスプリング、金属細線のスプリングの一端にストレート部(ロッド部)を備えたもの、線状プラスチック加工体等が挙げられ、例えば、10g以上40g以下の弾発力により押圧可能であるように構成される。
【0090】
ペン先と直接、あるいは接続部材を介して連結されるインキ収容管は、汎用の筒状成形部材、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン又はポリエチレンテレフタレート等の熱可塑性樹脂の成形部材が、インキの低蒸発性及び生産性の面で好適に用いられる。更に、インキ収容管として、透明、着色透明又は半透明の成形体を用いることにより、インキ色及びインキ残量等を確認することができる。
【0091】
インキ収容管に収容したインキの後端にはインキ逆流防止体が充填される。インキ逆流防止体としては、例えば液栓及び固体栓が挙げられる。
【0092】
液栓は、例えば不揮発性液体及び/又は難揮発性液体(基油)からなる。具体的には、ワセリン、スピンドル油、ヒマシ油、オリーブ油、精製鉱油、流動パラフィン、ポリブテン、α-オレフィン、α-オレフィンオリゴマー又はコオリゴマー、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル及び脂肪酸変性シリコーンオイル等があげられ、1種であってよく、2種以上を併用してもよい。
【0093】
不揮発性液体及び/又は難揮発性液体には、ゲル化剤を添加して好適な粘度まで増粘させてよい。ゲル化剤としては、例えば、表面を疎水処理したシリカ、表面をメチル化処理した微粒子シリカ、珪酸アルミニウム、膨潤性雲母、疎水処理を施したベントナイト又はモンモリロナイト等の粘土系増粘剤、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸亜鉛等の脂肪酸金属石鹸、トリベンジリデンソルビトール、脂肪酸アマイド、アマイド変性ポリエチレンワックス、水添ひまし油、脂肪酸デキストリン等のデキストリン系化合物、及びセルロース系化合物が挙げられる。
インキ逆流防止体の基油としては、ポリブテン又はシリコーン油が好適に用いられ、増粘剤としては脂肪酸アマイド又はシリカが好適に用いられる。
【0094】
固体栓としては、例えば樹脂製、例えばポリエチレン製、ポリプロピレン製及びポリメチルペンテン製の固体栓が挙げられる。
【0095】
インキ逆流防止体として、液栓及び樹脂製の固体栓を併用してよい。
【実施例
【0096】
実施例及び比較例の水性インキ組成物の組成を下記表1~3に示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、表1~3中の組成の単位は質量%である。
【0097】
【表1】
【0098】
【表2】
【0099】
【表3】
【0100】
【表4】
【0101】
【表5】
【0102】
表1~5中の原料の内容について説明する。
(1)オリエント化学工業(株)製、商品名:ウォーターブラック191L(固形分:15%)
(2)住友化学工業社製、商品名:アシッドブルーPG
(3)冨士色素社製、商品名:フジSPブラック8065(固形分:25%)
(4)第一工業製薬社製、プライサーフAL、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテルリン酸エステル
(5)ロンザジャパン社製、商品名:プロキセルXL-2、ベンゾイソチアゾリン-3-オン
(6)λ-カラギーナン
(7)ロームアンドハース社製、商品名:プライマルDR-72
(8)トリエタノールアミン
(9)プロピレングリコールモノプロピルエーテル
(10)エチレングリコールモノブチルエーテル
(11)2-メチルペンタン-1,3-ジオール
(12)エチレングリコール
(13)ダイセル社製、N,N-ジエチルヒドロキシルアミン
(14)2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール
(15)三洋化成工業社製、商品名:サンモリンOT-70、ジ(2-エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウム
(16)東邦化学工業社製、商品名:コハクールL-40、スルホコハク酸ラウリル2ナトリウム
(17)第一工業製薬社製、商品名:ネオコールP、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム
(18)第一工業製薬社製、商品名:プライサーフDBS、アルキル(C4)リン酸エステルナトリウム
(19)ポリアクリルアミドA(重量平均分子量:1万)
(20)ポリアクリルアミドB(重量平均分子量:10万)
(21)ポリアクリルアミドC(重量平均分子量:50万)
(22)三洋化成工業社製、商品名:サンフロックNOP、ポリアクリルアミドD(重量平均分子量:200万)
(23)ポリアクリルアミドE(重量平均分子量:400万)
(24)ポリアクリルアミドF(重量平均分子量:500万)
(25)楠本化成社製、商品名:NeoCryl A-1091(アクリル樹脂エマルジョン、固形分:45%)
(26)BASFジャパン社製、商品名:Joncryl 537J(アクリル樹脂エマルジョン、固形分:46%)
(27)明成化学工業社製、商品名:メイカテックスPENO(酸化ポリエチレンワックスエマルジョン、固形分:25%)
(28)米国ASHLAND社製、商品名:PVP K-12 polymer(N-ビニル-2-ピロリドンのポリマー、K値:10~14)
(29)第一工業製薬社製、商品名:ピッツコールK-17L(N-ビニル-2-ピロリドンのポリマー、K値:15~19)
【0103】
表1~3中の「比率」は、モノアルキルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩と、モノアルケニルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩と、ジアルキルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩と、ジアルケニルスルホコハク酸の金属塩若しくはアミン塩との合計の含有量に対する、前記酸化防止剤の含有量の質量比率を意味する。当該質量比率は、界面活性剤A(15)と界面活性剤B(16)と界面活性剤C(17)との合計の含有量に対する、酸化防止剤A(13)及び酸化防止剤B(14)との合計の含有量の質量比率である。
【0104】
ポリアクリルアミドA~C、E及びFは、以下のようにして準備した。
アクリルアミド水溶液を反応容器に入れて窒素封入し、直ちに、レドックス開始剤を酸化剤及び還元剤の順でアクリルアミド水溶液に添加した後、95℃でアクリルアミド水溶液を撹拌しながら重合反応を行ない、アクリルアミド含水ゲルを得た。反応終了後、反応容器を冷却し、得られたアクリルアミド含水ゲルを熱風にて乾燥させてポリアクリルアミドを得た。なお、得られたポリアクリルアミドは粉砕して用いた。
レドックス開始剤の酸化剤として、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過酸化水素を適宜用いた。また、レドックス開始剤の還元剤として、無機塩(硫酸第一鉄、硫酸第一鉄アンモニウム、亜硫酸水素ナトリウム)、トリメチルアミンを適宜用いた。
【0105】
ポリアクリルアミドA~Fについて重量平均分子量を測定した。ポリアクリルアミドの重量平均分子量は、展開溶媒にテトラヒドロ溶液を用いてGPCにより測定し、ポリスチレンを標準物質として換算した重量平均分子量である。
ポリアクリルアミドの0.5質量%テトラヒドロフラン溶液を準備し、当該溶液について、東ソー社製のカラム「TSK gel GMH6」を用い、屈折率検出器を備えた東ソー社製のGPC装置「HLC-802A」で、測定温度40℃及び溶液注入量200μlの条件でGPC測定を行った。
【0106】
N-ビニル-2-ピロリドンのポリマーのK値は、毛細管粘度計により測定した相対粘度値(25℃)を下記のFikentscherの式に適用して計算した。

K= (1.5 logηrel -1)/(0.15+0.003c)+(300clogηrel +(c+1.5clogηrel )2)1/2/(0.15c+0.003c2)

ここで、ηrelは、N-ビニル-2-ピロリドンのオリゴマー又はポリマー水溶液の水に対する相対粘度であり、cは、N-ビニル-2-ピロリドンのオリゴマー又はポリマー水溶液中のN-ビニル-2-ピロリドンのオリゴマー又はポリマー濃度(質量%)である。
【0107】
1.水性インキ組成物の調製、粘性評価
実施例及び比較例の配合量で原料を混合し、20℃でディスパーにて1時間攪拌した後、濾過することで水性インキ組成物を得た。なお、増粘剤を含むものは、増粘剤を除く原料を混合し、上記条件で攪拌した後、増粘剤を加えて更に1時間攪拌することで水性インキ組成物を得た。
【0108】
水性インキ組成物について、東機産業社製のEL型粘度計「RE-85L」を用いて20rpmで20℃における粘度を測定した。
【0109】
水性インキ組成物について、ティーエイインスツルメント社製のレオメーター「DHR-2」を用いて、下記(1)式で示される20℃における剪断減粘指数nを測定した。具体的には、3.84s-1、38.4s-1及び384s-1のずり速度と、それらのずり速度でそれぞれ得られるずり応力(剪断応力)とを下記(1)式に適用して剪断減粘指数nを求めた。

T=Kj (1)
ここで、Tはずり応力[N/m]、Kは粘性係数(定数)、Jはずり速度[s-1]である。
【0110】
粘性評価の結果を下記表6~10に示す。
【0111】
2.ボールペンの作製
直径1.0mmの超硬合金製ボールを抱持するステンレススチール製チップ(パイプチップ構造)が透明ポリプロピレン製パイプの一端に嵌着されたボールペンレフィル内に、水性インキ組成物を充填し、その後端にインキ逆流防止体を配設した後、ボールペンレフィルを軸筒に組み込み、ノック式のボールペンを作製した。インキ逆流防止体は、ポリブテン98.5部中に、増粘剤として脂肪酸アマイド1.5部を添加した後、3本ロールにて混練して作製した。
【0112】
2.ボールペンの特性試験
得られたボールペンを用いて以下の試験を行った。
【0113】
・筆記性能
JIS P3201筆記用紙Aに、手書きで最大直径が10cm程度である5重の渦を連続で2つ筆記し、その際の筆跡の状態を目視により確認した。渦を筆記する際、渦1つ当たり2秒程度で筆記した。また、筆記性能試験は、室温20℃、相対湿度65%の環境下で行った。
また、長期保管を模擬して50℃で60日間保持したボールペンについても、上記と同じ条件で筆記性能試験を行った。
評価基準は以下の通りであり、○及び△を合格、×を不合格とした。
○:筆跡に途切れ、ボテ及びウスが確認されない
△:筆跡に僅かなボテ又はウスが確認される
×:筆跡に明らかなボテ又はウスが確認される、あるいは筆跡に途切れが確認される
【0114】
・裏抜け性能
JIS P3201筆記用紙Aに、手書きで「永」の文字を筆記し、筆記面の裏面を目視により確認した。また、裏抜け性能試験は、室温20℃、相対湿度65%の環境下で行った。
評価基準は以下の通りであり、○及び△を合格、×を不合格とした。
○:裏抜けが確認されない
△:文字の「とめ」部分にのみ裏抜けが確認される。
×:全体的に裏抜けが確認される
【0115】
・乾燥性能
JIS P3201筆記用紙Aに、手書きで「永」の文字を筆記し、3秒後に指で筆跡をなぞった後、筆跡を目視により確認した。また、乾燥性能試験は、室温20℃、相対湿度65%の環境下で行った。
評価基準は以下の通りであり、○及び△を合格、×を不合格とした。
〇:筆跡の伸び及び汚れが確認されない
△:「とめ」部分のみ僅かに伸び又は汚れが確認される
×:文字に全体的に伸びが確認される、又は文字全体に汚れが確認される
【0116】
・インキ漏れ試験
ボールペンのチップ先端を鉛直下方向に向けた状態で、室温20℃、相対湿度90%の環境下で、ボールペンを20時間静置した。その後、チップ先端を目視で観察した。
評価基準は以下の通りであり、〇及び△を合格、×を不合格とした。
〇:チップ先端にインキ漏れがない
△:チップ先端に僅かなインキ漏れあり
×:チップ先端にインキ滴の発生あり
【0117】
試験結果を下記表6~10に示す。
【0118】
【表6】
【0119】
【表7】
【0120】
【表8】
【0121】
【表9】
【0122】
【表10】