(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-29
(45)【発行日】2023-10-10
(54)【発明の名称】駆動装置、駆動システム、及び、電動機の駆動方法
(51)【国際特許分類】
H02P 21/28 20160101AFI20231002BHJP
【FI】
H02P21/28
(21)【出願番号】P 2020035879
(22)【出願日】2020-03-03
【審査請求日】2022-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317011920
【氏名又は名称】東芝デバイス&ストレージ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】高木 隆志
(72)【発明者】
【氏名】會澤 敏満
(72)【発明者】
【氏名】王 申
【審査官】佐藤 彰洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-118160(JP,A)
【文献】特開平08-331899(JP,A)
【文献】特開2009-240042(JP,A)
【文献】特開2001-136773(JP,A)
【文献】特開2019-062661(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 21/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機に流れる電流、前記電動機に印加される駆動電圧の電圧指令、及び、前記電動機の巻線抵抗値に基づいて、前記電動機の固定子鎖交磁束の位相を推定する位相推定部と、
前記駆動電圧の前記電圧指令に関して、前記固定子鎖交磁束が作用する方向への第1の電圧ベクトル成分、及び、前記固定子鎖交磁束が作用する前記方向に対して直交する方向への第2の電圧ベクトル成分を取得し、前記第1の電圧ベクトル成分及び前記第2の電圧ベクトル成分に基づいて前記駆動電圧の前記電圧指令を設定する電圧制御部であって、入力された電力を任意の電圧及び周波数の交流電力に変換して前記電動機に供給する電力変換器の作動を、設定した前記電圧指令に基づいて制御することにより、前記電動機に印加される前記駆動電圧を制御する電圧制御部と、
を具備する駆動装置。
【請求項2】
前記位相推定部で推定される前記電動機の前記固定子鎖交磁束の前記位相に基づいて前記電動機の回転速度及び前記回転速度に関連するパラメータのいずれか1つ以上を速度情報として算出する速度情報演算部と、
前記電動機に流れる前記電流、及び、前記速度情報演算部で算出された前記速度情報に基づいて算出される指標が小さくなるように、前記駆動電圧の前記電圧指令の前記第1の電圧ベクトル成分の大きさを調整するベクトル成分調整部と、
をさらに具備する、請求項1の駆動装置。
【請求項3】
前記速度情報演算部は、前記速度情報として、前記電動機の前記回転速度を算出し、
前記ベクトル成分調整部は、前記回転速度に対する前記電流の割合を、前記指標として設定する、
請求項2の駆動装置。
【請求項4】
前記速度情報演算部は、前記速度情報として、前記回転速度の逆数である時間相当のパラメータを算出し、
前記ベクトル成分調整部は、前記時間相当のパラメータに前記電流を乗算した値を用いて、前記指標を設定する、
請求項2の駆動装置。
【請求項5】
前記位相推定部は、積分演算を行うとともに、前記積分演算の結果に対してハイパスフィルタ処理を行うことにより、前記固定子鎖交磁束を算出する、請求項1乃至4のいずれか1項の駆動装置。
【請求項6】
少なくとも前記位相推定部及び前記電圧制御部が実装された集積回路を具備する、請求項1乃至5のいずれか1項の駆動装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項の駆動装置と、
前記電力変換器と、
前記電力変換器から前記駆動電圧が印加される電動機と、
を具備する駆動システム。
【請求項8】
電動機に流れる電流、前記電動機に印加される駆動電圧の電圧指令、及び、前記電動機の巻線抵抗値に基づいて、前記電動機の固定子鎖交磁束の位相を推定することと、
前記駆動電圧の前記電圧指令に関して、前記固定子鎖交磁束が作用する方向への第1の電圧ベクトル成分、及び、前記固定子鎖交磁束が作用する前記方向に対して直交する方向への第2の電圧ベクトル成分を取得することと、
前記第1の電圧ベクトル成分及び前記第2の電圧ベクトル成分に基づいて前記駆動電圧の前記電圧指令を設定することと、
入力された電力を任意の電圧及び周波数の交流電力に変換して前記電動機に供給する電力変換器の作動を、設定した前記電圧指令に基づいて制御することにより、前記電動機に印加される前記駆動電圧を制御することと、
を具備する電動機の駆動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、駆動装置、駆動システム、及び、電動機の駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電動機の駆動システムでは、電力変換器(インバータ)が入力された電力を交流電力に変換して電動機に供給する。そして、駆動装置が、電力変換器の作動を制御することにより、電動機に印加される駆動電圧を制御する。このような駆動システムでは、低コスト化の観点から、電動機の回転子の位置(位相)を検出するセンサを設けないセンサレス方式で、駆動装置が電動機の駆動電圧を制御するものがある。また、低コスト化の観点から、マイコンではなくマイコンより安価な集積回路(IC)から駆動装置を形成すること等が、求められている。ここで、集積回路は、マイコン等に比べて処理能力が劣る。このため、駆動装置を集積回路から形成する場合、駆動装置によるセンサレス方式の駆動電圧の制御を、比較的簡単な処理で行うことが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、センサレス方式で、かつ、比較的簡単な処理で電動機の駆動電圧を制御する駆動装置、駆動システム、及び、電動機の駆動方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態によれば、駆動装置は、位相推定部及び電圧制御部を備える。位相推定部は、電動機に流れる電流、電動機に印加される駆動電圧の電圧指令、及び、電動機の巻線抵抗値に基づいて、電動機の固定子鎖交磁束の位相を推定する。電圧制御部は、駆動電圧の電圧指令に関して、固定子鎖交磁束が作用する方向への第1の電圧ベクトル成分、及び、固定子鎖交磁束が作用する方向に対して直交する方向への第2の電圧ベクトル成分を取得し、第1の電圧ベクトル成分及び第2の電圧ベクトル成分に基づいて駆動電圧の電圧指令を設定する。電圧制御部は、入力された電力を任意の電圧及び周波数の交流電力に変換して電動機に供給する電力変換器の作動を、設定した電圧指令に基づいて制御することにより、電動機に印加される駆動電圧を制御する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、電動機におけるベクトル図の一例を示す概略図である。
【
図2】
図2は、第1の実施形態に係る駆動装置及び駆動システムの一例を概略的に示すブロック図である。
【
図3】
図3は、第1の実施形態に係る駆動装置において位相推定部及び電圧制御部等によって行われる、電動機の駆動電圧の電圧指令の設定処理を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、第1の実施形態に係る駆動装置においてベクトル成分調整部等によって行われる、駆動電圧の電圧指令の電圧ベクトル成分(第1の電圧ベクトル成分)の調整処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施形態について、図面を参照して説明する。
【0008】
(第1の実施形態)
まず、本実施形態の電動機の駆動制御、すなわち、電動機に印加される駆動電圧の制御に関連するパラメータについて説明する。
図1は、永久磁石を利用した電動機におけるベクトル図を示す。
図1では、三相交流電力が供給される三相同期電動機におけるベクトル図が示される。三相同期電動機では、互いに対して位相が異なるu相駆動電圧、v相駆動電圧及びw相駆動電圧の三相の交流電圧が駆動電圧として印加される。u相駆動電圧の位相は、v相駆動電圧及びw相駆動電圧のそれぞれの位相に対して120°ずれ、v相駆動電圧の位相は、w相駆動電圧の位相に対して120°ずれる。このため、
図1に示すように、三相同期電動機では、u相軸、v相軸及びw相軸が規定される。そして、u相軸とv相軸との間の角度、v相軸とw相軸との間の角度、及び、w相軸とu相軸との間の角度のそれぞれは、120°となる。
【0009】
また、三相同期電動機等の電動機では、α軸、及び、α軸に直交するβ軸が規定される。三相同期電動機では、α軸は、u相軸と一致する状態に、規定される。後述する電動機の駆動電圧の制御では、三相/二相変換(三相/αβ変換)によって、三相(u相、v相及びw相)の交流電圧の電圧指令がα軸方向の電圧成分及びβ軸方向の電圧成分の二相の交流電圧の電圧指令に変換されたり、三相の交流電流がα軸方向の電流成分及びβ軸方向の電流成分の二相の交流電流に変換されたりする。また、後述する電動機の駆動電圧の制御では、二相/三相変換(αβ/三相変換)によって、α軸方向の電圧成分及びβ軸方向の電圧成分の二相の交流電圧の電圧指令が三相(u相、v相及びw相)の交流電圧の電圧指令に変換される。
【0010】
また、電動機では、固定子鎖交磁束が作用する方向に沿う軸としてM軸が規定されるとともに、M軸に直交するT軸が規定される。後述する電動機の駆動電圧の制御では、M軸のα軸に対する位相差が、電動機の固定子鎖交磁束の位相θとして設定される。ここで、電動機の駆動電圧の電圧指令に関して、固定子鎖交磁束が作用する方向への電圧ベクトル成分(第1の電圧ベクトル成分)V
M、及び、固定子鎖交磁束が作用する方向に対して直交する方向への電圧ベクトル成分(第2の電圧ベクトル成分)V
Tを規定する。
図1では、電圧ベクトル成分V
M,V
Tの一例が示される。また、
図1では、電圧ベクトル成分V
M,V
Tを合成した駆動電圧の電圧指令ベクトルV
INが示される。電圧ベクトル成分V
Mは、駆動電圧の電圧指令ベクトルV
INのM軸方向の電圧ベクトル成分であり、電圧ベクトル成分V
Tは、駆動電圧の電圧指令ベクトルV
INのT軸方向の電圧ベクトル成分である。
【0011】
以下、電動機に印加される駆動電圧を制御することにより、電動機を駆動制御する駆動装置、及び、その駆動装置及び電動機を備える駆動システムについて説明する。
図2は、本実施形態に係る駆動装置及び駆動システムの一例を示す。駆動システムは、電動機4及び電動機4を駆動制御する駆動装置を備える。
図2の一例では、電動機4は、三相同期電動機である。
【0012】
駆動システムは、電力変換器1を備える。
図2の一例では、電力変換器1は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)2等のスイッチング素子を6個備える。電力変換器1では、6個のIGBT2を三相ブリッジ接続することにより、いわゆるインバータ回路が構成される。IGBT2のそれぞれでは、コレクタとエミッタとの間に、還流ダイオード3が接続される。還流ダイオード3のそれぞれは、IGBT2の対応する1つに対して並列に接続される。電力変換器1には、駆動用電源である直流電源V
dcから、直流電力が供給される。電力変換器1の3つの出力端子(三相出力端子)のそれぞれは、電動機4の3つの固定子巻線(三相固定子巻線)の対応する1つに、接続される。
【0013】
また、駆動装置は、電流演算部11、ピーク値検出部12、位相推定部13、速度情報演算部14、ベクトル成分調整部15及び電圧制御部16を備える。
図2等の一例では電流演算部11、ピーク値検出部12、位相推定部13、速度情報演算部14、ベクトル成分調整部15及び電圧制御部16は、集積回路(IC:integrated circuit)10に実装される。本実施形態において集積回路10は、ハードウェアのみで構成されるものとすることが好ましい。なお、集積回路10を、プロセッサ及び記憶媒体等を備えるものとし、プロセッサを含む集積回路10が、記憶媒体等に記憶されるプログラム等を実行することにより、後述する処理を行うように構成しても構わない。この場合のプロセッサは、CPU(Central Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)又はFPGA(Field Programmable Gate Array)等を含む。
【0014】
ある一例では、駆動装置を、少なくとも位相推定部13及び電圧制御部16が実装された集積回路10から構成し、電流演算部11、ピーク値検出部12、速度情報演算部14及びベクトル成分調整部15のいずれかは、駆動装置の集積回路10とは別の集積回路又はマイコン等に実装されてもよい。また、別のある一例では、少なくとも位相推定部13及び電圧制御部16が実装された駆動装置の集積回路10に、前述した電力変換器1、及び、後述する電流検出器5、運転指令設定部21及び抵抗値設定部22のいずれかがさらに実装されてもよい。また、別のある一例では、集積回路10ではなく、1つ以上の集積回路が搭載されたマイコン等に、位相推定部13及び電圧制御部16等が実装されてもよい。
【0015】
電圧制御部16は、電力変換器1への指令を伝達することにより、電力変換器1から電動機4に交流電力を供給させる。この際、電力変換器1は、電圧制御部16からの指令によって、直流電源Vdcから入力された電力を、任意の電圧及び周波数の三相交流電力に変換する。そして、電力変換器1は、変換した三相交流電力を電動機4に供給する。これにより、例えば疑似正弦波状の三相交流電圧が電力変換器1から出力され、出力された三相交流電圧が、駆動電圧として電動機4に印加される。この際、前述したu相駆動電圧、v相駆動電圧及びw相駆動電圧のそれぞれが、電動機4に印加される。電動機4に駆動電圧が印加されることにより、電動機4の回転子が回転する等して、電動機4が駆動される。電圧制御部16は、電力変換器1の作動を制御することにより、駆動電圧を制御し、電動機4の駆動(回転駆動)を制御する。
【0016】
電圧制御部16は、後述するようにして、駆動電圧の電圧指令を設定する。この際、u相駆動電圧の電圧指令値Vu、v相駆動電圧の電圧指令値Vv、及び、w相駆動電圧の電圧指令値Vwが設定される。そして、電圧制御部16は、駆動電圧に関して設定した電圧指令に基づいて、電力変換器1の作動を制御する。例えば、電圧制御部16は、設定した電圧指令に基づいて、スイッチング素子であるIGBT2のそれぞれのオン/オフのタイミングに関する指令を生成する。この際、電圧制御部16は、IGBT2のそれぞれのオン/オフのタイミングを制御するパルス信号のパターンを生成する。IGBT2のそれぞれのオン/オフのタイミングを制御するパルス信号としては、例えば、三相PWM(pulse width modulation)信号等が挙げられる。この場合、駆動電圧の電圧指令値Vu、Vv,Vwと三角波等の搬送波とを比較することにより、三相PWM信号が生成される。電圧制御部16は、生成したパルス信号のパターンに基づいて、IGBT2のそれぞれのオン/オフのタイミングを制御し、電動機4に印加される駆動電圧、すなわち、三相交流電圧を制御する。
【0017】
また、駆動システムには、電流検出器5が設けられる。そして、駆動装置の電流演算部11は、電流検出器5での検出結果に基づいて、電動機に流れるu相電流I
u、v相電流I
v及びw相電流I
wを算出する。
図2の一例では、電流検出器5は、電力変換器1の負側(グランド側)の電源線の1カ所に配置されたシャント抵抗を備え、電流検出器5及び電流演算部11は、1シャント方式で、電流I
u,I
v,I
wの検出を行う。なお、ある一例では、電力変換器1において負側(グランド側)の3つのIGBT2のそれぞれのエミッタと負側の電源線との間に、シャント抵抗を配置してもよい。この場合、3カ所にシャント抵抗が配置される3シャント方式で、電流I
u,I
v,I
wの検出が行われる。また、別のある一例では、電流センサ等を用いて、電流I
u,I
v,I
wの検出が行われてもよい。
【0018】
電流演算部11は、電動機4に流れる電流Iu,Iv,Iwに関する情報を、ピーク値検出部12に伝達する。ピーク値検出部12は、ピークホールド回路を備える。ピーク値検出部12は、1周期における電流Iuのピーク値をピーク値Ipとして検出する。ピーク値検出部12は、1周期ごとに、ピーク値Ipを検出する。なお、ピーク値検出部12による電流Iuの1周期の開始及び終了の識別は種々の方法で行なうことができる。例えば、電流Iu,Iv,Iwに関する情報から、電流(交流)Iuが正から負に切替わるゼロクロス、又は、電流Iuが負から正に切替わるゼロクロスを検出することで電流Iuの1周期の開始及び終了を識別してもよい。さらに、ピーク値検出部12は、電流Iuの1周期の開始及び終了を識別する代わりに、電流Ivの1周期の開始及び終了を識別し、電流Ivのピーク値をピーク値Ipとして検出してもよい。また、ピーク値検出部12は、電流Iu,Ivのいずれかの1周期の開始及び終了を識別する代わりに、電流Iwの周期の開始及び終了を識別し、電流Iwのピーク値をピーク値Ipとして検出してもよい。
【0019】
位相推定部13には、電動機4に流れる電流Iu,Iv,Iwに関する情報が、電流演算部11から伝達され、電動機4の駆動電圧のリアルタイムの電圧指令値Vu,Vv,Vwに関する情報が、電圧制御部16から伝達される。また、駆動システムには、抵抗値設定部22が設けられる。ある一例では、抵抗値設定部22は、ユーザーインターフェースを備え、ユーザー等によって電動機4の一相あたりの巻線抵抗値Raに関する情報が設定される。別のある一例では、抵抗値設定部22は、記憶媒体を備え、電動機4の一相あたりの巻線抵抗値Raに関する情報が記憶媒体に記憶される。位相推定部13には、電動機4の巻線抵抗値Raに関する情報が、抵抗値設定部22から伝達される。なお、本実施形態では、三相(u相、v相及びw相)において、巻線抵抗値はRaで互いに対して一致するものとする。位相推定部13は、電流Iu,Iv,Iw、駆動電圧の電圧指令値Vu,Vv,Vw、及び、巻線抵抗値Raに基づいて、後述のようにして、電動機4の固定子鎖交磁束の位相θを推定及び算出する。すなわち、M軸のα軸に対する位相差が、位相推定部13によって推定される。
【0020】
速度情報演算部14には、電動機4の固定子鎖交磁束の位相θに関する情報が、位相推定部13から伝達される。速度情報演算部14は、固定子鎖交磁束の位相θに関する情報に基づいて、電動機4の回転子の回転角速度(回転速度)ωを、電動機4の速度情報として算出する。ある一例では、速度情報演算部14は、固定子鎖交磁束の位相θに関して基準位相を設定する。そして、速度情報演算部14は、固定子鎖交磁束の位相θが基準位相から次に基準位相になるまでの経過時間を検出する。そして、速度情報演算部14は、検出した経過時間に基づいて、電動機4の回転角速度ωを算出する。
【0021】
ベクトル成分調整部15には、電動機4の回転角速度ωを含む速度情報が、速度情報演算部14から伝達され、電動機4に流れる電流(Iu,Iv,Iwの対応する1つ)の前述のピーク値Ipがピーク値検出部12から伝達される。ベクトル成分調整部15は、回転角速度ω及びピーク値Ipを用いて、指標εを設定する。本実施形態では、回転角速度ωに対する電流(Iu,Iv,Iwの対応する1つ)のピーク値Ipの割合が、指標εとして設定される。ここで、前述のように、電動機4の駆動電圧の電圧指令に関して、固定子鎖交磁束が作用する方向への電圧ベクトル成分(第1の電圧ベクトル成分)VMを規定する。ベクトル成分調整部15は、指標εに基づいて、駆動電圧の電圧指令の電圧ベクトル成分VMの大きさを調整する。ベクトル成分調整部15は、後述するように、指標εが小さくなるように、駆動電圧の電圧指令の電圧ベクトル成分VMの大きさを調整する。
【0022】
電圧制御部16には、電動機4の固定子鎖交磁束の位相θに関する情報が、位相推定部13から伝達され、電圧ベクトル成分VMに関する情報が、ベクトル成分調整部15から伝達される。また、駆動システムには、運転指令設定部21が設けられる。運転指令設定部21は、例えばユーザーインターフェースを備え、ユーザー等によって電動機4の運転に関する指令が設定される。なお、ある一例では、運転指令設定部21及び抵抗値設定部22で、共通のユーザーインターフェースが用いられてもよい。運転指令設定部21にユーザーインターフェースとして、タッチパネル、操作ボタン又はリモコン等を設けることもできる。
【0023】
運転指令設定部21で設定される運転に関する指令としては、電動機4の回転速度についての速度指令等が、挙げられる。ここで、前述のように、電動機4の駆動電圧の電圧指令に関して、固定子鎖交磁束が作用する方向に対して直交する方向への電圧ベクトル成分(第2の電圧ベクトル成分)VTを規定する。運転指令設定部21は、回転速度についての速度指令に対応する大きさに、駆動電圧の電圧指令の電圧ベクトル成分VTの大きさを設定する。そして、電圧ベクトル成分VTに関する情報が、運転指令設定部21から電圧制御部16に伝達される。なお、ある一例では、回転速度についての速度指令が、運転指令設定部21から電圧制御部16に伝達されてもよい。この場合、電圧制御部16が、回転速度についての速度指令に対応する大きさに、駆動電圧の電圧指令の電圧ベクトル成分VTの大きさを設定する。
【0024】
電圧制御部16は、固定子鎖交磁束の位相θに基づいて、電圧ベクトル成分V
M,V
Tの方向を規定する。そして、電圧制御部16は、電圧ベクトル成分V
M,V
Tに基づいて、後述するようにして、駆動電圧の電圧指令値V
u,V
v,V
wを設定し、駆動電圧に関する電圧指令を設定する。そして、電圧制御部16は、駆動電圧に関して設定した電圧指令に基づいて、IGBT2のそれぞれのオン/オフのタイミングを制御するパルス信号のパターンを生成する。ここで、IGBT2のそれぞれのオン/オフのタイミングを制御するパルス信号では、駆動電圧の電圧指令の電圧ベクトル成分(第2の電圧ベクトル成分)V
Tの大きさ対応して、デューティ比が変化する。また、
図1等に示すように、駆動電圧の電圧指令ベクトルV
INの位相は、駆動電圧の電圧指令の電圧ベクトル成分(第1の電圧ベクトル成分)V
Mの大きさ対応して、変化する。IGBT2のそれぞれのオン/オフのタイミングを制御するパルス信号では、駆動電圧の電圧指令の電圧ベクトル成分(第1の電圧ベクトル成分)V
Mの大きさ対応して、位相が補正される。
【0025】
図3は、駆動装置において位相推定部13及び電圧制御部16等によって行われる、電動機4の駆動電圧の電圧指令の設定処理を示すフローチャートである。
図3に示す処理は、電動機4が駆動している状態では、継続して行われる。
図3に示すように、駆動電圧の電圧指令の設定処理においては、位相推定部13は、電流演算部11での演算結果として、電動機4に流れる電流I
u,I
v,I
wを取得する(S31)。また、位相推定部13は、駆動電圧の電圧指令について、α軸方向のリアルタイムの電圧成分V
α、及び、β軸方向のリアルタイムの電圧成分V
βを、電圧制御部16から取得する(S31)。電圧成分V
α,V
βは、電圧制御部16が後述するS37の処理を行うことにより、算出される。そして、位相推定部13は、式(1)を用いて、電流I
u,I
v,I
wを三相/二相変換(三相/αβ変換)する(S32)。これにより、電動機4を流れる電流について、α軸方向の電流成分及I
α及びβ軸方向の電流成分I
βが、算出される。
【0026】
【0027】
電流成分Iα,Iβ及び電圧成分Vα,Vβを算出すると、位相推定部13は、抵抗値設定部22から、電動機4の一相あたりの巻線抵抗値Raを取得する。そして、位相推定部13は、電流成分Iα,Iβ、電圧成分Vα,Vβを及び巻線抵抗値Raから、電動機4の固定子鎖交磁束について、α軸方向の磁束成分Φα及びβ軸方向の磁束成分Φβの演算処理を行う(S33)。磁束成分Φαの演算処理は、式(2)で示す積分演算により行われ、磁束成分Φβの演算処理は、式(3)で示す積分演算により行われる。
【0028】
【0029】
そして、位相推定部13は、式(2)及び式(3)のそれぞれでの積分演算の結果に対して、ハイパスフィルタ処理を行う(S34)。ハイバスフィルタ処理によって、式(2)及び式(3)のそれぞれでの積分演算の結果から、固定子鎖交磁束の直流成分が削除される。これにより、式(2)及び式(3)のそれぞれでの積分演算の結果から、積分定数、すなわち、t=0における磁束成分Φα,Φβの初期値が削除される。なお、ハイパスフィルタ処理の詳細については、参照文献(特開2009-240042号公報)に示される。
【0030】
そして、位相推定部13は、ハイパスフィルタ処理された磁束成分Φα,Φβを用いて、固定子鎖交磁束の位相θを算出及び推定する(S35)。固定子鎖交磁束の位相θは、式(4)を用いて、算出される。また、本実施形態では、M軸のα軸に対する位相差が、固定子鎖交磁束の位相θとして算出される。前述のように、位相推定部13は、電動機4に流れる電流Iu,Iv,Iw、電動機4に印加される駆動電圧の電圧指令(電圧指令値Vu,Vv,Vw)、及び、巻線抵抗値Raに基づいて、電動機4の固定子鎖交磁束の位相θを推定する。
【0031】
【0032】
そして、電圧制御部16は、位相推定部13から固定子鎖交磁束の位相θを取得する。また、電圧制御部16は、設定する駆動電圧の電圧指令について、M軸方向の電圧ベクトル成分(第1の電圧ベクトル成分)VMをベクトル成分調整部15から取得し、T軸方向の電圧ベクトル成分(第2の電圧ベクトル成分)VTを運転指令設定部21から取得する(S36)。この際、電圧制御部16は、固定子鎖交磁束の位相θに基づいて、電圧ベクトル成分VM,VTの方向、すなわち、M軸方向及びT軸方向を規定する。また、電圧制御部16は、ベクトル成分調整部15によって後述のように大きさが調整された電圧ベクトル成分VMを、取得する。そして、電圧制御部16は、速度指令に対応する大きさに大きさが設定された電圧ベクトル成分VTを、取得する。
【0033】
そして、電圧制御部16は、取得した電圧ベクトル成分を用いて、設定する駆動電圧の電圧指令について、α軸方向の電圧成分Vα、及び、β軸方向の電圧成分Vβを算出する(S37)。この際、式(5)を用いて、電圧成分Vα,Vβが算出される。そして、電圧制御部16は、式(6)を用いて、電圧成分VIα,Vβを二相/三相変換(αβ/三相変換)する(S38)。そして、電圧制御部16は、S38での演算結果を、駆動電圧の電圧指令値Vu,Vv,Vwとして設定する。これにより、u相駆動電圧の電圧指令値Vu、v相駆動電圧の電圧指令値Vv、及び、w相駆動電圧の電圧指令値Vwが、設定される。
【0034】
【0035】
前述のように、電圧制御部16は、電動機4の駆動電圧の電圧指令に関して、固定子鎖交磁束が作用する方向(M軸方向)への電圧ベクトル成分(第1の電圧ベクトル成分)VM、及び、固定子鎖交磁束が作用する方向に対して直交する方向(T軸方向)への電圧ベクトル成分(第2の電圧ベクトル成分)VTを取得する。そして、電圧制御部16は、電圧ベクトル成分VM,VTに基づいて、駆動電圧の電圧指令を設定する。そして、電圧制御部16は、電力変換器1の作動を、設定した電圧指令に基づいて制御することにより、電動機4に印加される駆動電圧を制御する。
【0036】
図4は、駆動装置においてベクトル成分調整部15等によって行われる、駆動電圧の電圧指令の電圧ベクトル成分(第1の電圧ベクトル成分)V
Mの調整処理を示すフローチャートである。
図4に示す処理は、電動機4が駆動している状態では、継続して行われる。
図4に示すように、ベクトル成分調整部15は、ピーク値検出部12での検出結果等に基づいて、電動機4に流れる電流(I
u,I
v,I
wの対応する1つ)の前述のピーク値I
pを取得する処理を行う(S41)。また、ベクトル成分調整部15は、速度情報演算部14での演算結果等に基づいて、電動機4の回転角速度(回転速度)ωを取得する処理を行う(S42)。また、ベクトル成分調整部15は、ピーク値検出部12等での電流(I
u,I
v,I
wの対応する1つ)の1周期の開始及び終了の識別結果等に基づいて、交流である電流(I
u,I
v,I
wの対応する1つ)が次の周期に切替わったか否かを判断する(S43)。すなわち、S43では、電流(I
u,I
v,I
wの対応する1つ)の1周期が終了したか否かが、判断される。
【0037】
電流(Iu,Iv,Iwの対応する1つ)が次の周期に切替わっていない場合は(S43-No)、処理はS44に進むことなく待機し、S41~S43の処理を継続する。S41~S43の処理によって、電流(Iu,Iv,Iwの対応する1つ)の1周期ごとに1回、ベクトル成分調整部15は、電流(Iu,Iv,Iwの対応する1つ)のピーク値Ip及び電動機4の回転角速度ωを取得する。電流(Iu,Iv,Iwの対応する1つ)が次の周期に切替わっている場合は(S43-Yes)、処理はS44に進み、S44以降の処理が順次に行われる。S44以降の処理は、電流(Iu,Iv,Iwの対応する1つ)の周期が切替わるたびに行われ、電流(Iu,Iv,Iwの対応する1つ)の1周期ごとに行われる。
【0038】
そして、ベクトル成分調整部15は、回転角速度ωに対する電流(Iu,Iv,Iwの対応する1つ)のピーク値Ipの割合を、指標εとして算出する(S44)。また、ベクトル成分調整部15は、指標εの積算値γaを算出する(S44)。ここで、積算値γaは、後述するS47f又はS49fの処理によって、電流(Iu,Iv,Iwの対応する1つ)のYref周期ごとにゼロにリセットされる。ここで、Yrefは、2以上の自然数である。したがって、電流(Iu,Iv,Iwの対応する1つ)の複数周期ごとに、積算値γaがゼロにリセットされる。また、n周期目の積算値γa(n)は、式(7)のようなる。式(7)では、n周期目に取得したピーク値Ip及び回転角速度ω、n周期目の指標ε(n)、及び、(n-1)周期目の積算値γa(n-1)が示される。
【0039】
【0040】
そして、ベクトル成分調整部15は、電圧ベクトル成分VMの大きさの調整の状況がいずれのStageであるかを判断する(S45)。Stageは、例えば0、1、2、3の4つの状態を含む。初回のS45の判定では、Stageは例えば0であると判断される。調整の状況を示すStageが0の場合は(S45-Stage=0)、ベクトル成分調整部15は、電圧ベクトル成分VMの大きさを増加させる(S46a)。そして、ベクトル成分調整部15は、電圧ベクトル成分VMの大きさの調整の状況を示すStageを1に設定する(S46b)。また、ベクトル成分調整部15は、カウント値Yを1加算する(S46c)。なお、カウント値Yは、後述するS47b又はS49bの処理による積算値γaを用いた前回の比較から電流(Iu,Iv,Iwの対応する1つ)の何周期分経過したかを、示す。そして、カウント値Yは、後述するS47f又S49fの処理によって、電流(Iu,Iv,Iwの対応する1つ)のYref周期ごとにゼロにリセットされ、積算値γaがゼロにリセットされた周期と同一の周期において、ゼロにリセットされる。そして、処理はS41に戻り、S41以降の処理が順次に行われる。
【0041】
調整の状況を示すStageが1の場合は(S45-Stage=1)、ベクトル成分調整部15は、カウント値Yが基準値Yref以上であるか否かを判断する(S47a)。基準値Yrefは、後述するS47f又S49fの処理によって積算値γaが何周期ごとにゼロにリセットされるかを示す値に、相当する。そして、基準値Yrefは、後述するS47b又はS49bの処理による積算値γaを用いた比較が何周期ごとに行われるかを示す値に、相当する。このため、S47aでは、後述するS47b又はS49bの処理による積算値γaを用いた前回の比較から電流(Iu,Iv,Iwの対応する1つ)のYref周期以上経過したか否かが、判断される。カウント値Yが基準値Yrefより小さい場合は(S47a-No)、ベクトル成分調整部15は、カウント値Yを1加算する(S47g)。また、ベクトル成分調整部15は、電圧ベクトル成分VMの大きさの調整の状況を示すStageを1で維持する。そして、処理はS41に戻り、S41以降の処理が順次に行われる。
【0042】
一方、カウント値Yが基準値Yref以上の場合(S47a-Yes)、すなわち、積算値γaを用いた前回の比較から電流(Iu,Iv,Iwの対応する1つ)のYref周期以上経過している場合は、ベクトル成分調整部15は、積算値γaを積算値γbと比較する(S47b)。ここで、S47b等の比較段階では、積算値γaは、S47b又は後述するS49bの処理による前回の比較から今回の比較までの指標εの積算値に相当する。また、積算値γbは、S47b又は後述するS49bの処理による前々回の比較から前回の比較までの指標εの積算値に相当する。したがって、積算値γbは、前回の比較において積算値γaとして用いられた値に相当する。そして、ベクトル成分調整部15は、S47bでの積算値γa,γbの比較の結果、今回の積算値γaが前回の積算値γbより小さいか否かを判断する(S47c)。
【0043】
積算値γaが積算値γbより小さい場合は(S47c-Yes)、ベクトル成分調整部15は、調整の状況を示すStageを0に設定する(S47d)。一方、積算値γaが積算値γb以上場合は(S47c-No)、ベクトル成分調整部15は、調整の状況を示すStageを2に設定する(S47e)。そして、S47d又はS47eの処理を行うと、ベクトル成分調整部15は、カウント値Y及び積算値γaをゼロにリセットするとともに、S47bでの比較において今回の積算値γaとして用いられた値に積算値γbを更新する(S47f)。したがって、S47bでの積算値γa,γbの比較が行われると、比較が行われた周期と同一の周期において、S47fの処理によって、カウント値Y及び積算値γaがゼロにリセットされ、積算値γbがS47bで積算値γaとして用いられた値に更新される。そして、処理はS41に戻り、S41以降の処理が順次に行われる。
【0044】
電圧ベクトル成分VMの大きさの調整の状況を示すStageが2の場合は(S45-Stage=2)、ベクトル成分調整部15は、電圧ベクトル成分VMの大きさを減少させる(S48a)。そして、ベクトル成分調整部15は、調整の状況を示すStageを3に設定する(S48b)。また、ベクトル成分調整部15は、カウント値Yを1加算する(S48c)。そして、処理はS41に戻り、S41以降の処理が順次に行われる。
【0045】
電圧ベクトル成分VMの大きさの調整の状況を示すStageが3の場合は(S45-Stage=3)、ベクトル成分調整部15は、カウント値Yが基準値Yref以上であるか否かを判断する(S49a)。カウント値Yが基準値Yrefより小さい場合は(S49a-No)、ベクトル成分調整部15は、カウント値Yを1加算する(S49g)。また、ベクトル成分調整部15は、調整の状況を示すStageを3で維持する。そして、処理はS41に戻り、S41以降の処理が順次に行われる。
【0046】
一方、カウント値Yが基準値Yref以上の場合(S49a-Yes)、すなわち、積算値γaを用いた前回の比較から電流(Iu,Iv,Iwの対応する1つ)のYref周期以上経過している場合は、ベクトル成分調整部15は、S47bの処理と同様に、積算値γaを積算値γbと比較する(S49b)。そして、ベクトル成分調整部15は、S49bでの積算値γa,γbの比較の結果、今回の積算値γaが前回の積算値γbより小さいか否かを判断する(S49c)。
【0047】
積算値γaが積算値γbより小さい場合は(S49c-Yes)、ベクトル成分調整部15は、電圧ベクトル成分VMの大きさの調整の状況を示すStageを2に設定する(S49d)。一方、積算値γaが積算値γb以上場合は(S49c-No)、ベクトル成分調整部15は、調整の状況を示すStageを0に設定する(S49e)。そして、S49d又はS49eの処理を行うと、ベクトル成分調整部15は、カウント値Y及び積算値γaをゼロにリセットするとともに、S49bでの比較において今回の積算値γaとして用いられた値に積算値γbを更新する(S49f)。したがって、S49bでの積算値γa,γbの比較が行われると、比較が行われた周期と同一の周期において、S49fの処理によって、カウント値Y及び積算値γaがゼロにリセットされ、積算値γbがS49bで積算値γaとして用いられた値に更新される。そして、処理はS41に戻り、S41以降の処理が順次に行われる。
【0048】
前述のような処理がベクトル成分調整部15によって行われるため、電圧ベクトル成分VMの大きさを増加させた結果、前回の積算値γbに比べて今回の積算値γaが小さくなると、電圧ベクトル成分VMの大きさを増加させる処理が継続される。一方、電圧ベクトル成分VMの大きさを増加させた結果、今回の積算値γaが前回の積算値γb以上になると、電圧ベクトル成分VMの大きさを減少させる処理に切替えられる。また、電圧ベクトル成分VMの大きさを減少させた結果、前回の積算値γbに比べて今回の積算値γaが小さくなると、電圧ベクトル成分VMの大きさを減少させる処理が継続される。一方、電圧ベクトル成分VMの大きさを減少させた結果、今回の積算値γaが前回の積算値γb以上になると電圧ベクトル成分VMの大きさを増加させる処理に切替えられる。
【0049】
したがって、本実施形態では、電流(Iu,Iv,Iwの対応する1つ)のYref周期分の指標εの積算値γaが小さくなる(最小化する)状態に、電圧ベクトル成分VMの大きさが調整され、指標εが小さくなる状態に、電圧ベクトル成分VMの大きさが調整される。また、電圧ベクトル成分VM,VTを合成した駆動電圧の電圧指令ベクトルVINの位相は、電圧ベクトル成分VMの大きさに対応して、変化する。このため、本実施形態では、電圧ベクトル成分VMの大きさを調整することにより、指標εが小さくなる状態に、駆動電圧の電圧指令ベクトルVINの位相が調整される。
【0050】
前述のように本実施形態では、位相推定部13は、電動機4に流れる電流Iu,Iv,Iw、電動機4に印加される駆動電圧の電圧指令(電圧指令値Vu,Vv,Vw)、及び、巻線抵抗値Raに基づいて、電動機4の固定子鎖交磁束の位相θを推定する。そして、電圧制御部16は、固定子鎖交磁束が作用する方向(M軸方向)への電圧ベクトル成分(第1の電圧ベクトル成分)VM、及び、固定子鎖交磁束が作用する方向に対して直交する方向(T軸方向)への電圧ベクトル成分(第2の電圧ベクトル成分)VTに基づいて、駆動電圧の電圧指令を設定する。このため、本実施形態では、電動機4の回転子の位置(位相)の検出及び推定等を行うことなく、駆動電圧の電圧指令が設定され、電動機4の駆動電圧が制御される。したがって、電動機4の回転子の位置を検出するセンサを設けないセンサレス方式で、電動機4の駆動電圧が制御される。これにより、駆動装置及び駆動システムの低コスト化が実現可能になる。
【0051】
また、センサレス方式で電動機4の回転子の位置を推定する場合等は、電動機4において三相(u相,v相,w相)のそれぞれの誘起電圧の位相を検出する必要がある。この場合、三相のそれぞれの誘起電圧の位相を検出する検出回路を、設ける必要がある。また、三相のそれぞれの誘起電圧の検出、及び、検出された誘起電圧に基づく回転子の位置の推定には、複雑な処理が必要となる。本実施形態では、前述のように、回転子の位置の代わりに固定子鎖交磁束の位相θを用いて、電動機4の駆動電圧の電圧指令が設定される。このため、電動機4の回転子の位置(位相)の推定等を行う必要がなく、三相のそれぞれの誘起電圧の位相を検出する必要がない。このため、処理が複雑化することなく、すなわち、比較的簡単な処理で、電動機4の駆動電圧の電圧指令が設定され、電動機4の駆動電圧が制御される。
【0052】
前述のように本実施形態では、センサレス方式で、かつ、比較的簡単な処理で電動機4の駆動電圧が制御される。このため、駆動電圧の制御等の電動機4の駆動制御を行う駆動装置を、マイコン等に比べて処理能力が劣る集積回路(IC)に実装することが可能になる。ここで、集積回路は、マイコン等に比べて安価である。このため、駆動装置を集積回路に実装することにより、駆動装置及び駆動システムがさらに低コスト化される。
【0053】
また、本実施形態では、固定子鎖交磁束の磁束成分Φα,Φβの演算において積分演算が行われるが、積分演算の結果に対してハイパスフィルタ処理が行われる。ハイパスフィルタ処理によって、積分演算の結果から、固定子鎖交磁束の直流成分が削除され、t=0における磁束成分Φα,Φβの初期値が削除される。ここで、固定子鎖交磁束の磁束成分Φα,Φβの初期値を設定するためには、電動機4の回転子の位置等を把握する必要がある。本実施形態では、ハイパスフィルタ処理によって、積分演算の結果から固定子鎖交磁束の磁束成分Φα,Φβの初期値が削除されるため、磁束成分Φα,Φβの初期値を設定する処理を行う必要はない。これにより、固定子鎖交磁束の位相θを推定する処理が簡単になり、駆動電圧の電圧指令の設定処理がさらに簡単になる。
【0054】
また、本実施形態では、前述のように、指標εが小さくなる(最小化する)状態に、駆動電圧の電圧指令の電圧ベクトル成分VMの大きさを調整する制御が、適切に行われる。指標εが小さくなることにより、電動機4の誘起電圧ベクトルに対する電動機を流れる電流ベクトル(Iu,Iv,Iwの合成ベクトル)の位相差が、ゼロに収束される。そして、誘起電圧ベクトルに対する電動機を流れる電流ベクトルの位相差がゼロに収束されることにより、電動機4の高効率化が達成される。したがって、本実施形態では、指標εが小さくなる(最小化する)状態に駆動電圧の電圧指令の電圧ベクトル成分VMの大きさを調整することにより、トルク制御及び速度制御が行われない条件下、すなわち、出力トルクが変化する条件下でも、電動機4の高効率化が達成される。
【0055】
また、本実施形態では、電流(Iu,Iv,Iwの対応する1つ)のYref周期分の指標εの積算値γaを取得し、積算値γaを前回の積算値γbに対して比較する。したがって、積算値γaを用いた比較は、電流(Iu,Iv,Iwの対応する1つ)のYref周期ごとに行われる。このため、実機動作における安定性が確保される。
【0056】
また、本実施形態では、指標εは、回転角速度(回転速度)ωに対する電流(Iu,Iv,Iwの対応する1つ)のピーク値Ipの割合であり、電動機4の出力トルクを用いることなく算出される。このため、出力トルクが取得できない場合でも、電動機4の高効率化が達成される。
【0057】
(変形例)
ある変形例では、速度情報演算部14は、回転角速度(回転速度)ωの逆数である時間相当のパラメータを、電動機4の速度情報として算出する。本変形例では、速度情報演算部14は、カウント値Nを、回転角速度ωの逆数である時間相当のパラメータとして、算出する。ここで、回転角速度ωの逆数は、電動機4の回転子が任意の区間の移動に要する経過時間に相当する。そして、カウント値Nは、前述の回転角速度ω、及び、固定の制御処理間隔Xを用いて、式(8)のように示される。このため、第1の実施形態等で用いられる指標ε、すなわち、回転角速度ωに対する電流(Iu,Iv,Iwの対応する1つ)のピーク値Ipの割合は、式(9)のように式変形できる。
【0058】
【0059】
したがって、第1の実施形態等で用いられる指標εは、回転角速度ωの代わりに、カウント値Nを用いて算出可能である。本変形例では、ベクトル成分調整部15は、回転角速度ωの代わりに、回転角速度ωの逆数である時間相当のパラメータとして、カウント値Nを取得し、カウント値N及び電流(Iu,Iv,Iwの対応する1つ)のピーク値Ipを用いて、指標εを算出する。そして、本変形例では、ピーク値Ipにカウント値Nを乗算した値を用いて、指標εが算出される。
【0060】
本変形例では、前述のようにして指標εが算出されるため、除算を行うことなく指標εが算出される。一般的に、除算では、加算、減算及び乗算等に比べて、演算処理が多く、演算回路の構成等が複雑になる。本変形例では、指標εの算出に除算が行われないため、駆動装置における演算処理を少なくすることが可能になり、演算回路の構成等を単純化することが可能になる。このため、前述の実施形態等より簡単な処理で、電動機4の高効率化を実現可能になる。
【0061】
また、前述の実施形態等では、電力変換器1から電動機4に三相交流電力が供給されるが、前述の駆動制御は、一相の交流電力が電動機4に供給される場合、及び、二相の交流電力が電動機4に供給される場合も、適用可能である。同様に、前述の駆動制御は、四相以上の交流電力が電動機4に供給される場合も、適用可能である。
【0062】
これらの少なくとも一つの実施形態又は実施例によれば、駆動装置は、位相推定部及び電圧制御部を備える。位相推定部は、電動機に流れる電流、電動機に印加される駆動電圧の電圧指令、及び、電動機の巻線抵抗値に基づいて、電動機の固定子鎖交磁束の位相を推定する。電圧制御部は、固定子鎖交磁束が作用する方向への第1の電圧ベクトル成分、及び、固定子鎖交磁束が作用する方向に対して直交する方向への第2の電圧ベクトル成分に基づいて、駆動電圧の電圧指令を設定する。これにより、センサレス方式で、かつ、比較的簡単な処理で電動機の駆動電圧を制御する駆動装置を提供することができる。
【0063】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0064】
1…電力変換器、4…電動機、10…集積回路、11…電流演算部、12…ピーク値検出部、13…位相推定部、14…速度情報演算部、15…ベクトル成分調整部、16…電圧制御部。