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特許7358278SLS 3D印刷用スルホンポリマー微小粒子の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-29
(45)【発行日】2023-10-10
(54)【発明の名称】SLS 3D印刷用スルホンポリマー微小粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/314 20170101AFI20231002BHJP
   B29C 64/153 20170101ALI20231002BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20231002BHJP
   B33Y 40/10 20200101ALI20231002BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20231002BHJP
【FI】
B29C64/314
B29C64/153
B33Y10/00
B33Y40/10
B33Y70/00
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2020046506
(22)【出願日】2020-03-17
(65)【公開番号】P2020172102
(43)【公開日】2020-10-22
【審査請求日】2023-03-10
(31)【優先権主張番号】16/380,100
(32)【優先日】2019-04-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】596170170
【氏名又は名称】ゼロックス コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100109335
【弁理士】
【氏名又は名称】上杉 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120525
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100139712
【弁理士】
【氏名又は名称】那須 威夫
(72)【発明者】
【氏名】ヴァレリー・エム・ファルジア
(72)【発明者】
【氏名】エドワード・ジー・ザルツ
(72)【発明者】
【氏名】サンドラ・ジェイ・ガードナー
【審査官】▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-518488(JP,A)
【文献】国際公開第2009/142231(WO,A1)
【文献】特表2007-502713(JP,A)
【文献】特開2017-197720(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00-64/40
B33Y 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
三次元(3D)印刷用のポリスルホン微小粒子を製造するための方法であって、
ポリスルホンを有機溶媒中に溶解することによってポリスルホンの混合物を調製する工程と、
ポリマー安定剤又は界面活性剤の水溶液を調製する工程と、
前記ポリスルホンの混合物を前記水溶液に添加して、ポリスルホン溶液を調製する工程と、
前記ポリスルホン溶液を処理して、所望の粒径、所望の粒径分布、及び所望の形状を有するポリスルホン微小粒子を得る工程と、
前記ポリスルホン微小粒子を脱イオン水中に懸濁させて、前記ポリスルホン微小粒子及び前記脱イオン水のスラリーを形成する工程と、及び
前記スラリーに遠心分離プロセスを適用する工程と、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記添加する工程が、
前記ポリスルホンの混合物を滴下方式で添加することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ポリスルホンの混合物が前記水溶液に添加される前に、前記水溶液が冷却される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ポリスルホンの混合物を添加しながら、前記水溶液を撹拌することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記処理する工程の前に、前記ポリスルホン溶液を24時間攪拌することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記処理する工程が、前記ポリスルホン微小粒子を前記ポリスルホン溶液から分離させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記分離する工程が、濾過を行って前記ポリスルホン微小粒子を除去する工程を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記分離する工程が、
前記ポリスルホン溶液を加熱して、蒸発によって前記有機溶媒を除去する工程と、及び
遠心分離プロセスによって前記ポリスルホン溶液から水及び前記ポリマー安定剤を除去する工程と、
を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記スラリーを凍結する工程と、及び
昇華プロセスによって凍結された前記スラリーから氷を除去する工程と、
を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記有機溶媒が、ジクロロメタンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記ポリマー安定剤又は前記界面活性剤が、ポリ(ビニルアセテート)、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(アクリロニトリル)、ポリ(ジメチルシロキサン)、ポリ(ビニルクロライド)、ポリ(エチレン)、ポリ(プロピレン)、ポリ(ラウリルメタクリレート)、ポリ(オキシエチレン)、ポリ(アクリルアミド)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(エチレンイミン)、ポリ(ビニルメチルエーテル)、ポリ(4-ビニルピリジン)、ポリ(12-ヒドロキシステアリン酸)、ポリ(イソブチレン)、シス-1:4-ポリ(イソプレン)、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、コポビドン及びポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリメタクリレート、ヒプロメロースアセテートサクシネート、ヒプロメロースフタレート、ポリビニルカプロラクタム-ポリビニルアセテート-ポリエチレングリコールグラフトコポリマー、ポリビニルアセテートフタレート、又はセルロースアセテートフタレートのうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記所望の粒径が、10マイクロメートルを超える、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記所望の粒径分布が、40マイクロメートル~100マイクロメートルを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記所望の形状が、約1.0の真円度と、1.2~2.0の幾何標準偏差とを有する球形を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
三次元(3D)印刷用のポリスルホン微小粒子を製造するための方法であって、
ポリビニルアルコールを摂氏約50度(℃)で脱イオン水中に溶解させる工程と、
ポリスルホンを周囲温度でジクロロメタン中に溶解させる工程と、
脱イオン水中の前記ポリビニルアルコールを約40℃に冷却する工程と、
脱イオン水中の前記ポリビニルアルコールを約1300毎分回転数(RPM)で攪拌しながら、前記ジクロロメタン中に溶解した前記ポリスルホンを滴下方式で添加する工程と、
前記ジクロロメタン中に溶解した前記ポリスルホンの全てを脱イオン水中の前記ポリビニルアルコールに添加した後で、撹拌速度を約600RPMに低下させる工程と、及び
形成されるポリスルホン微小粒子を、前記ジクロロメタン、前記ポリビニルアルコール、及び前記脱イオン水から分離する工程と、
を含む、方法。
【請求項16】
前記分離する工程が、
前記ジクロロメタン中に溶解させ、脱イオン水中の前記ポリビニルアルコールに添加した前記ポリスルホンを約37℃に加熱して、蒸発によって前記ジクロロメタンを除去する工程と、及び
前記ポリスルホン、前記ポリビニルアルコール、及び前記脱イオン水の残りの溶液を3000RPMで遠心分離させて、前記ポリビニルアルコール及び前記脱イオン水を除去して前記ポリスルホン微小粒子を得る工程と、
を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記分離する工程が、
前記ポリスルホン微小粒子を脱イオン水の溶液中で混合する工程と、
前記溶液を振盪させて、前記ポリスルホン微小粒子を前記脱イオン水中で分散させる工程と、
前記溶液を3000RPMで遠心分離させる工程と、
前記溶液を凍結させる工程と、及び
凍結した前記溶液に真空を適用して、昇華によって氷を除去する工程と、
を更に含む、請求項16に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、概して、三次元印刷のための材料に関し、より具体的には、選択的レーザー焼結(SLS)三次元(3D)印刷用のスルホンポリマー微小粒子を製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
選択的レーザー焼結(SLS)は、複雑な三次元部品を製造するための粉体床ベースの付加製造(AM)技術である。レーザービームが粉末を走査するとき、粉末は、上昇温度に起因して溶融し、層ごとに最終部分は完全密度に近づき、バルク材料(すなわち、ポリマー)の特性をもたらす。理論的には、粉末形態に転換され得る全ての熱可塑性ポリマーは、この技術を介して処理され得る。しかしながら、現実には、全ての新たな材料が、溶融、合体、及び圧密化の最中に異なる挙動をし、SLS処理パラメータの最適化を必要とする。床温及びレーザーエネルギー入力は、ポリマーの熱プロファイルの「処理」ウィンドウ、並びにそのエネルギー吸収に基づいて選択される。レーザーパラメータはまた、粉末の粒径及び形状に基づいて最適化される必要がある。
【0003】
SLS用粉末材料の入手可能性は限定され、材料市場の約95%は、結晶性ナイロングレードポリマーであるポリアミド-12からなる。ポリスルホン(PSU)などの高ガラス転移可撓性非晶質材料は、印刷可能な粉末として入手できない。半結晶性ポリマー粉末とは異なり、非晶質ポリマー粉末は、ガラス転移温度を超えて加熱されなければならず、その場合、ポリマーは、同様の温度で半結晶性ポリマーよりもはるかに粘稠な状態にある。半結晶性ポリマーは、急変する融点(Tm)を有する、高秩序の分子である。非晶質ポリマーとは異なり、それらは温度が上昇するにつれて徐々に軟化することはないが、代わりに、所与の量の熱が吸収されるまで硬質のままであり、次いで、粘性液体へと急速に変化する。半結晶性材料は、Tmを超えたとき、非常に低い粘度を有し、流動して、急速冷却によって他の焼結層と重なり合う。一方、非晶質ポリマーは、温度が上昇するにつれて徐々に軟化するが、半結晶性材料のように容易に流動することはない。非晶質粉末の流動及び焼結速度はより小さくなり、焼結層間の混合はより妨げられ、多孔性が高くなる。
【発明の概要】
【0004】
本明細書に例示される態様によれば、3D印刷用のポリスルホン微小粒子を製造するための方法が提供される。いくつかの実施形態の開示される1つの特徴は、ポリスルホンを有機溶媒中に溶解させることによってポリスルホンの混合物を作製することと、ポリマー安定剤又は界面活性剤の水溶液を作製することと、ポリスルホンの混合物を水溶液に添加してポリスルホン溶液を作製することと、ポリスルホン溶液を処理して所望の粒径、所望の粒径分布、及び所望の形状を有するポリスルホン微小粒子を得ることと、を含む、方法である。
【0005】
いくつかの実施形態の開示される別の特徴は、3D印刷の方法に関する方法である。一実施形態では、この方法は、ポリスルホン、有機溶媒、脱イオン水、及びポリマー安定剤の混合物に適用されるナノ沈殿プロセスから形成されたポリスルホン微小粒子の層を分配することであって、複数のポリスルホン粒子は、10マイクロメートルを超える粒径を有し、40マイクロメートル~100マイクロメートルの粒径分布を有し、かつ球形を有する、ことと、複数のポリスルホン微小粒子の層を平坦化することと、選択的レーザー焼結プロセスによってポリスルホン微小粒子の層上に所望の形状を印刷することと、分配すること、平坦化すること、及び印刷することを繰り返して三次元物体を形成することと、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0006】
本開示の教示は、添付図面と併せて以下の詳細な説明を考慮することによって容易に理解することができる。
【0007】
図1】本開示の3D印刷用のポリスルホン微小粒子を製造するための例示的な方法のフローチャートを示す。
図2】本開示で開示される方法によって製造されるポリスルホン微小粒子を使用した、3D印刷のための例示的な方法のフローチャートを示す。
図3】本開示によって製造されるポリスルホン微小粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)画像の一例を示す。
【0008】
理解を容易にするため、図面に共通する同一の要素を示すのに、可能な場合は同一の参照番号が使用されている。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示は、SLS 3D印刷用のスルホンポリマー微小粒子を製造するための方法を提供する。上述のように、SLS 3D印刷には非晶質ポリマーを使用することが望ましい場合がある。非晶質ポリマーは、非晶質粉末の流動及び焼結速度が半結晶性ポリマーよりも小さくなることを可能にする特性を有し、焼結層間の混合はいっそう妨げられ、高多孔性になり得る。
【0010】
一実施形態では、「ポリスルホン」は、スルホニル基を含有する任意のポリマーであってもよい。しかしながら、用語「ポリスルホン」は、通常、ポリアリールエーテルスルホン(PAES)に使用される。これは、芳香族ポリスルホンのみが技術的文脈で使用されるためである。更に、エーテル基は、工業的に使用されるポリスルホン中に常に存在するため、PAESは、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリ(アリーレンスルホン)、又は単純にポリスルホン(PSU)とも呼ばれる。したがって、これら3つの用語(及び略語)は同義語であり得る。全てのポリスルホンに関する用語としては、「ポリ(アリールエーテルスルホン)(PAES)」が好ましい。これは、ポリスルホン(PSU)、ポリエーテルスルホン(PES)及びポリ(アリールスルホン)(PAS)は、個々のポリマーの名称として追加的に使用されるためである。
【0011】
一実施形態では、ポリスルホンは、その優れた耐熱性及び耐化学性により、SLSプロセスで構築材料を作製するのに優れた粉末であり得る。ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、及びポリアリールスルホンなどのスルホン系ポリマーは、以下の表1に見られるような多くの有益な属性を有する。
【0012】
【表1】
【0013】
スルホンポリマー、具体的にはポリスルホンは、医薬品、食品、化粧品、農業、及び織物などの多くの分野において、マイクロカプセル化業界で知られている。ポリスルホンは、SLS 3D印刷に有利であり得る機械的、熱的、及び化学的特性を提供する。カプセルは、通常、沈殿槽内にポリマー溶液を導入する手段として、霧化を使用した浸漬沈殿による位相反転によって作製される。
【0014】
しかしながら、上述のように、ポリスルホンなどの可撓性非晶質材料は、印刷可能な粉末として入手できない。トップダウン式アプローチを使用する様々な技術によって、ポリスルホンを粉末へと処理する領域には、いくつかの研究が存在する。しかしながら、現在存在するプロセスのうち、ポリスルホンを、SLS 3D印刷に使用され得る適切な形状及びサイズに形成し、かつ/又は比較的低コスト及び低エネルギー消費を有する効率的なプロセスを提供するものはない。
【0015】
極低温又は周囲温度の従来のボールミリングは、多くの場合、望ましくない形態及び広すぎる分布を有する粒子をもたらす。同様に、長いミリング時間は、ポリマーの劣化反応を示す変色粒子をもたらす。これらの方法は、大量の廃棄物又は再加工の原因となる部分的に分別された材料と共に、多くのエネルギー及び時間を使用するため、あまり環境に優しくない。
【0016】
粉末を作製するためのローターミルプロセスは、最低3つの粉砕工程、続いてふるい分け、及び最終的な精密化工程を必要とする。このプロセスはまた、非常にエネルギー及び時間がかかる。
【0017】
噴霧乾燥は、還流及び噴霧プロセスによる溶解である、ポリマーの2つの熱処理を必要とする。これらの粒子の一部は、崩壊構造によって明らかなように中空であるが、他の粒子は、走査型電子顕微鏡(SEM)画像に見られるように、それらの周囲に糸状のアーチファクトを有する。噴霧乾燥のように、熱誘起相分離(TIPS)、拡散誘起相分離(DIPS)、及び蒸発相分離(EPS)のような他の物理化学的方法は、球状粒子を得る傾向があるが、相分離を誘起するために大量の非溶媒を必要とする。DIPS及びTIPSに関する他の問題は、粉末の粒径が1~3マイクロメートルとあまりにも小さく、凝集を制御するのも困難であることである。
【0018】
本開示の実施形態は、ポリスルホンをSLS 3D印刷用途向けの粉末形態へと製造する方法又はプロセスを提供する。本明細書に開示される方法は、比較的低コスト及び低エネルギーの消費方法を使用して、所望の形状及び粒径分布のポリスルホン微小粒子を製造し得る。
【0019】
一実施形態では、本開示は、微小沈殿及び溶媒蒸発の両方からのハイブリッド型方法を使用する。未処置又は未処理のポリスルホンの源は、利用可能なポリスルホン製造業者又は生産者から購入することができる。
【0020】
次いで、ポリスルホンは、ニ塩化メチレン(DCM、又は塩化メチレン、又はジクロロメタン)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMA)又はテトラヒドロフラン(THF)などの溶媒中に溶解し、注射器、蠕動ポンプ、又は非常に低速に制御された注入によって、高剪断(rpm)下にある1~2重量%のポリビニルアルコール(PVA)の溶液に添加され得る。有機相は、結果として生じる粒子スラリーから、穏やかに加熱することによって、又は溶媒蒸発によって除去され得る。これらのポリスルホン粒子は球状形態を呈し、粒子分布は、水相へのポリスルホンの添加速度及びPVA水溶液の毎分回転(rpm)によって、狭く又は広くなるように容易に制御され得る。より広い粒径分布は、SLS 3D印刷用途のために有益であり得、より大きい粒子とより小さい粒子との間のデッドボリュームを埋めることによって粒子のより良好な充填を可能にする。
【0021】
図1は、本開示のSLS 3D印刷用のスルホンポリマー微小粒子を製造するための方法の例示的フローチャートを示す。方法100は、ブロック102で開始する。ブロック104において、方法100は、ポリスルホンを有機溶媒中に溶解させることによってポリスルホンの混合物を作製する。ポリスルホンは、射出成形、熱成形、押出成形、押出吹込み成形などに使用され得るペレット又はシート状のポリスルホンを製造する第三者の供給メーカーから購入することができるが、SLS 3D印刷用途の微粉として使用される形態には加工されない。
【0022】
一実施形態では、ポリスルホンは、周囲温度で有機溶媒中に溶解し得る。一実施例では、有機溶媒はジクロロメタンであってもよい。しかしながら、24~65重量%のテトラヒドロフラン(THF)又はN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、Cyrene(ジヒドロレボグルコセノン)、水/トルエン混合物、シクロペンタノン、ベンゾニトリル、テトラメチル尿素、ガンマ(γ)-ブチロラクトンを添加した、ジメチルエーテル(DME)中のジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチルピロリドン(NMP)などの他の有機溶媒も使用され得る。
【0023】
ブロック106において、方法100は、ポリマー安定剤又は界面活性剤の水溶液を作製する。一実施例では、水溶液は、脱イオン水を用いて形成されてもよい。ポリマー安定剤又は界面活性剤は、ポリビニルアルコールであってもよい。ポリマー安定剤又は界面活性剤の他の例としては、ポリ(ビニルアセテート)、ポリ(メチルメタクリリレート)、ポリ(アクリロニトリル)、ポリ(ジメチルシロキサン)、ポリ(ビニルクロライド)、ポリ(エチレン)、ポリ(プロピレン)、ポリ(ラウリルメタクリレート)、ポリ(オキシエチレン)、ポリ(アクリルアミド)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(エチレンイミン)、ポリ(ビニルメチルエーテル)、ポリ(4-ビニルピリジン)、ポリ(12-ヒドロキシステアリン酸)、ポリ(イソブチレン)、シス-1:4-ポリ(イソプレン)、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン、Tween(商標)80、Tween(商標)20、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、コポビドン及びポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリメタクリレート、ヒプロメロースアセテートサクシネート、ヒプロメロースフタレート、Soluplus(登録商標)などのポリビニルカプロラクタム-ポリビニルアセテート-ポリエチレングリコールグラフトコポリマー、ポリビニルアセテートフタレート、セルロースアセテートフタレート、又はこれらの任意の組み合わせを挙げることができる。
【0024】
ブロック108において、方法100は、ポリスルホンの混合物を水溶液に添加して、ポリスルホン溶液を作製する。一実施形態では、ポリマー安定剤又は界面活性剤を有する水溶液は、ポリスルホン及び有機溶媒の溶液が水溶液に添加される前に冷却されてもよい。
【0025】
一実施形態では、ポリスルホンと有機溶媒との混合物は、滴下方式で水溶液に添加されてもよい。水溶液は、ポリスルホンと有機溶媒との混合物が添加されている間に撹拌されてもよい。ポリスルホンと有機溶媒との混合物が全て水溶液に添加された後、ポリマー安定剤、ポリスルホン、及び有機溶媒(例えば、ポリスルホン溶液)を有する水溶液は、一晩又は24時間撹拌されてもよい。
【0026】
ブロック110において、方法100は、ポリスルホン溶液を処理して、所望の粒径、所望の粒径分布、及び所望の形状を有するポリスルホン微小粒子を得る。一実施形態では、この処理は、ポリスルホン溶液からポリスルホン微小粒子を分離させることを伴ってもよい。一実施形態では、この分離は、有機溶媒、脱イオン水、及びポリマー安定剤又は界面活性剤を除去するための複数の工程を含んでもよい。一実施形態では、この分離は、単一又は複数の工程の濾過プロセスを伴ってもよい。
【0027】
一実施形態では、分離プロセスは、ポリスルホン溶液を加熱して、蒸発によって有機溶液を除去することを含んでもよい。例えば、ポリスルホン溶液を、有機溶液の沸騰温度に関連付けられた温度まで加熱してもよい。
【0028】
次いで、有機溶媒を含まない残りのポリスルホン溶液を遠心分離ボトルに移して遠心分離させ、ポリマー安定剤又は界面活性剤及び脱イオン水を除去してもよい。残りのポリスルホン粒子は、脱イオン水中に再懸濁させて、混合してから、再度遠心分離させてもよい。洗浄及び遠心分離手順を繰り返してもよく、ポリスルホン粒子及び脱イオン水のスラリーを凍結させてもよい。次いで、凍結スラリーを、昇華プロセスを介して氷又は凍結脱イオン水を除去し得る高真空に供してもよい。ブロック112において、方法100は終了する。
【0029】
図2は、本開示に開示される方法によって製造されたポリスルホン微小粒子を使用する、3D印刷の方法の例示的なフローチャートを示す。方法200は、ブロック202で開始する。ブロック204において、方法200は、ポリスルホン、有機溶媒、脱イオン水、及びポリマー安定剤の混合物に適用されるナノ沈殿プロセスから形成されたポリスルホン微小粒子の層を分配する。複数のポリスルホン粒子は、10マイクロメートルを超える粒径を有し、40マイクロメートル~100マイクロメートルの粒径分布を有し、かつ球形を有する。ポリスルホン微小粒子を形成するプロセスは、図1で上述されたもの、又は以下に更に詳細に記載される実施例1に提供されるものと同じであってもよい。
【0030】
一実施形態では、ポリスルホン微小粒子は、ふるいを通してふるい分けられ、アルミニウムプレート上に適用されてもよい。ふるいは、例えば、約150マイクロメートルのふるいであってもよい。
【0031】
ブロック206において、方法200は、ポリスルホン微小粒子の層を平坦化する。一実施形態では、40ミリメートルのギャップバーコーターが、ポリスルホン微小粒子を約1ミリメートル厚の粉末層に平坦化するために使用されてもよい。
【0032】
ブロック208において、方法200は、選択的レーザー焼結プロセスによってポリスルホン微小粒子の層上に所望の形状を印刷する。例えば、印刷は、SLS 3Dプリンタによって実行されてもよい。一実施例では、粉末は、摂氏約180度(℃)に加熱されてもよく、プリンタは、温度を安定化させるために約1200秒間待機し得る。レーザー速度は、30,000~40,000で変動してもよく、レーザー出力は、35%~80%で変動してもよい。チャンバ及び/又は粉末は、冷却してから移動させてもよい。
【0033】
ブロック210において、方法200は、分配、平坦化、及び印刷を繰り返して三次元物体を形成する。例えば、3D物体は、ポリスルホン微小粒子を1層ずつ印刷することによって印刷されてもよい。
【0034】
低速レーザー速度(例えば、30,000)と組み合わされた高レーザー出力(例えば、80%)は、最良の結果及び最小の空隙率を有する焼結部品を提供することが確認されている。ブロック212において、方法200は終了する。
【0035】
下記の実施例1は、SLS 3Dプリンタにおける粉末としての使用に好適な、本明細書に記載のポリスルホン微小粒子を製造するために使用された処理パラメータを伴う実施例を提供する。
【実施例1】
【0036】
ポリビニルアルコール(PVA)(13.9グラム(g)、Mowiol 4-98、分子量(Mwt)~27K)を約50℃で脱イオン水(DIW)に溶解させた。DIWの重量は1148.2gであった。DIQW中のPVAの重量パーセントは、1.21重量%であった。
【0037】
一方、別のフラスコ内にて、37.6gのポリスルホンを周囲温度で758.6gのジクロロメタンに溶解させた。水性PVA溶液を40℃まで冷却した後、注射針を介してDCMへのポリスルホンの添加を開始した。ポリスルホン対DCMの比は、1:20であった。
【0038】
PVA水溶液の毎分回転数(RPM)を900から1300に増加させた。PSUをPVA水溶液に添加するにつれ、PVA水溶液は不透明になった。注射針での添加が遅すぎるため、最後の600gのポリスルホン溶液を注入によってゆっくりと添加した。全てのポリスルホン溶液を35分間にわたって添加した後、RPMを600RPMに下げ、更に303.9gのDIWを乳濁液に添加した。
【0039】
次いで、箔で部分的に被覆した容器を一晩攪拌し続けた。翌日、乳濁液を37℃に加熱して、残留ジクロロメタンを全て除去した。ジクロロメタンを蒸発させた後、溶液を1リットル(L)の遠心分離ボトルに移し、3000RPMで15分間遠心分離させて、PVA/DIW混合物を除去した。粒子をDIW中に再懸濁し、約30秒間振盪することによって混合した後、3000RPMで15分間再度遠心分離した。この洗浄/遠心分離手順を更に1回繰り返した後、粒子を濃縮し、凍結乾燥ボトルに移した。ポリスルホン粒子スラリーを急速に凍結させた後、凍結乾燥機上に置いて、瓶詰めされた粒子を、昇華によって氷を除去した高真空に供した。
【0040】
図3は、製造される、結果として生じるポリスルホン微小粒子の例示的なSEM画像を示す。微小粒子は、SEM画像によって見ることができる球形を有する。例えば、微小粒子の形状は、約1.0(例えば、真円度値が0(円形ではない)~1.0(完全に円形)である真円度を有し得る。微小粒子の形状は、1.2~2.0の幾何標準偏差を有し得る。
【0041】
加えて、結果として生じるポリスルホン微小粒子はそれぞれ、10マイクロメートルを超えてもよい。別の例では、結果として生じるポリスルホン微小粒子の平均粒径は、10マイクロメートルを超えてもよい。一実施形態では、結果として生じるポリスルホン微小粒子は、40マイクロメートル~100マイクロメートルの粒径分布を有してもよい。SEM画像で見ることができるように、より小さい粒子は、より大きい粒子間の空隙を埋めるのに役立ち得る。結果として、微小粒子が焼結されるとき、焼結層が3D印刷中にそれぞれの層内に有する空隙は少なくなり得る。
【0042】
一実施形態では、ポリスルホン粒子の粒径は、様々な異なるパラメータによって制御されてもよい。パラメータとしては、撹拌速度、反応物質の濃度、使用される安定剤の種類(例えば、ポリマー又は界面活性剤)、又は使用される有機溶媒の種類を挙げることができる。上述のように、これらのパラメータの制御は、上述のプロセスによって、SLS 3D印刷用途向けの粉末として使用される、所望の形状、所望の粒径、及び所望の粒径分布のポリスルホン微小粒子を作製することを可能にし得る。
【0043】
加えて、本明細書に記載されるプロセスではポリスルホンに何も添加されていないが、処理済みのポリスルホンは、上述のように製造された処理済みのポリスルホン微小粒子と未処理のポリスルホン粒子との間の物理的特性の相違を示す。例えば、熱重量分析(TGA)及び示差走査熱量測定(DSC)は、本開示に記載されるように、未処理のポリスルホンと処理済みのスルホンとの間のいくつかの相違を示す。
【0044】
TGAは、温度を関数とするポリマーの質量を監視し、水の損失、溶媒の損失、可塑剤の損失、界面活性剤の損失、重量%の灰などを定量化し得る。ポリスルホン粒子のTGA熱事象は、3つの別個の熱事象が起こっていることを示しているが、未処理のポリスルホンペレットは、2つの別個の熱事象のみを示した。処理済みのポリスルホンは、200~500℃条件の曲線で、「バージン」PSUには示されなかった余分な熱事象を与える残留PVAを示した。PSU内に存在する残留PVAは、非常に低く、3D構築材料として使用されるとき、ポリスルホン粒子の特性に何らかの影響を及ぼすものではない。多くの用途では、PVAは、より高い引張り強度、高い破断点伸び、及びより高いヤング率を有する、より耐性のある材料を促進するために添加される。
【0045】
また、微小粒子へと処理された同じポリスルホン材料は、未処理のポリスルホンと比較して非常に差のある熱挙動を示した。ガラス転移は、44℃前後で発生し、その後、第1の熱サイクル中に224℃前後の融点を示した。冷却中、206℃で結晶化ピークが観察された。第2の熱サイクルは、2つのガラス転移(Tg)事象の可能性を示し、1つは77℃、もう1つは187℃であり、続いて225℃で融点を示した。第2の熱のTgは未処理のポリスルホンと同様であるため、粒子作製プロセス中に劣化反応が生じないことが確認された。融点が出現したことから、粒子形成は、ポリマー鎖の配向に対して、本質的にポリマー半結晶性をなす何らかの変更を加えた、例えば、鎖アライメントが生じたと結論付けることができる。
【0046】
このように、本開示は、SLS 3D印刷用の粉末として使用され得るポリスルホン微小粒子を作製するための効率的なプロセスを提供する。本開示のプロセスは、所望の形状、所望の粒径、及び所望の粒径分布を有するポリスルホン微小粒子を製造する一方で、エネルギー消費及び処理時間の低下ために低コストになり得る。
【0047】
上に開示される特徴及び機能並びに他の特徴及び機能の変異型、又はそれらの代替物は、多くの他の異なるシステム又は用途に組み合わされ得ることが理解されよう。様々な現在予期されない、又は先行例のない代替物、修正、変形、又は改善が、当業者により後続的に行われてもよく、これらはまた、以下の「特許請求の範囲」に包含されることが意図されている。
図1
図2
図3