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特許7358318電子たばこ内で使用するための開放気孔性焼結ガラス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-29
(45)【発行日】2023-10-10
(54)【発明の名称】電子たばこ内で使用するための開放気孔性焼結ガラス
(51)【国際特許分類】
   A24F 40/42 20200101AFI20231002BHJP
   A24F 40/10 20200101ALI20231002BHJP
   A24F 40/46 20200101ALI20231002BHJP
   A24F 47/00 20200101ALI20231002BHJP
   A61M 11/04 20060101ALI20231002BHJP
   A61M 15/06 20060101ALI20231002BHJP
   C03C 3/064 20060101ALI20231002BHJP
   C03C 3/066 20060101ALI20231002BHJP
   C03C 3/078 20060101ALI20231002BHJP
   C03C 3/087 20060101ALI20231002BHJP
   C03C 3/089 20060101ALI20231002BHJP
   C03C 3/091 20060101ALI20231002BHJP
   C03C 3/093 20060101ALI20231002BHJP
   C04B 35/16 20060101ALN20231002BHJP
【FI】
A24F40/42
A24F40/10
A24F40/46
A24F47/00
A61M11/04 320
A61M15/06 C
C03C3/064
C03C3/066
C03C3/078
C03C3/087
C03C3/089
C03C3/091
C03C3/093
C04B35/16
【請求項の数】 27
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020162246
(22)【出願日】2020-09-28
(62)【分割の表示】P 2018506882の分割
【原出願日】2016-08-02
(65)【公開番号】P2021003125
(43)【公開日】2021-01-14
【審査請求日】2020-10-28
【審判番号】
【審判請求日】2022-05-02
(31)【優先権主張番号】102015113124.2
(32)【優先日】2015-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】504299782
【氏名又は名称】ショット アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】SCHOTT AG
【住所又は居所原語表記】Hattenbergstr. 10, 55122 Mainz, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100182534
【弁理士】
【氏名又は名称】バーナード 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ウルリヒ ポイヒャート
(72)【発明者】
【氏名】ノアベアト グロイリヒ-ヒックマン
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ トライス
(72)【発明者】
【氏名】イヴォンヌ メンケ
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル クルーゲ
【合議体】
【審判長】間中 耕治
【審判官】水野 治彦
【審判官】岩▲崎▼ 則昌
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2008/112857(US,A1)
【文献】国際公開第2014/37794(WO,A2)
【文献】特開平7-315870(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第2764783(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A24F40/00-47/00
A61M111/00-19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱用途のための、特に電子たばこおよび/または医薬品の投与機器および/または熱により加熱する香料用の蒸発装置内での使用のための蒸発器ユニット(22)であって、液体貯蔵体としての焼結体(28)と加熱エレメント(26)とを備えており、前記焼結体(28)は、開放気孔性の焼結ガラスからなり、50体積%超の気孔率を有しており、平均気孔サイズは1~450μmの範囲にあり、かつ前記焼結ガラスは少なくとも450℃の転移温度Tgを有し、前記加熱エレメント(26)は、前記焼結体(28)に直接取り付けられており、前記加熱エレメント(26)は、金属箔、金属ワイヤまたは導電性被覆の形で、前記焼結体(28)に配置されている、蒸発器ユニット(22)。
【請求項2】
前記焼結体(28)は、20℃の温度で、かつ3時間の吸着時間で、前記焼結体(28)の質量の少なくとも50%のプロピレングリコールを吸着し、100時間の脱着時間で、予め吸収されたプロピレングリコールの15質量%以下が脱着され、かつ300℃の温度で、かつ5分の脱着時間で、プロピレングリコールの予め吸着された質量の少なくとも50%が脱着される、請求項1記載の蒸発器ユニット(22)。
【請求項3】
前記焼結体(28)のガラスは、450℃より高い転移温度Tgを有する、請求項1または2記載の蒸発器ユニット(22)。
【請求項4】
前記焼結体(28)のガラスは、2.5ppm/K~10.5ppm/Kの範囲の線形熱膨張係数αを有する、請求項1から3までのいずれか1項記載の蒸発器ユニット(22)。
【請求項5】
前記焼結体(28)は、90~330μmの範囲の平均気孔サイズを有する、請求項1から4までのいずれか1項記載の蒸発器ユニット(22)。
【請求項6】
前記焼結体(28)は、少なくとも60体積%より大きな気孔率を有する、請求項1から5までのいずれか1項記載の蒸発器ユニット(22)。
【請求項7】
前記焼結体(28)のガラスは、ホウケイ酸塩ガラス、アルミノケイ酸塩ガラス、アルミノホウケイ酸塩ガラス、または石灰ソーダガラスである、請求項1から6までのいずれか1項記載の蒸発器ユニット(22)。
【請求項8】
前記焼結体(28)のガラスは、次の成分(酸化物を基準として質量%で表す):
SiO2 70~75質量%
Na2O+K2O 12~16質量%
CaO 8~11質量%
MgO 0~5質量%
Al23 0~2質量%
を含む、請求項1から7までのいずれか1項記載の蒸発器ユニット(22)。
【請求項9】
前記焼結体(28)のガラスは、次の成分(酸化物を基準として質量%で表す):
SiO2 70~85質量%
23 5~15質量%
アルカリ酸化物 3~7質量%
アルカリ土類酸化物 0~4質量%
Al23 2~5質量%
を含む、請求項1から7までのいずれか1項記載の蒸発器ユニット(22)。
【請求項10】
前記焼結体(28)のガラスは、次の成分(酸化物を基準として質量%で表す):
SiO2 50~75質量%
Na2O 0~15質量%
2O 2~14質量%
Al23 0~15質量%
MgO 0~4質量%
CaO 3~12質量%
BaO 0~15質量%
ZnO 0~5質量%
TiO2 0~2質量%
を含む、請求項1から7までのいずれか1項記載の蒸発器ユニット(22)。
【請求項11】
前記焼結体(28)のガラスは、次の成分(酸化物を基準として質量%で表す):
SiO2 30~85質量%
23 0.5~20質量%
Al23 0~15質量%
Na2O 3~15質量%
2O 2.5~15質量%
ZnO 0~12質量%
MgO 2~10質量%
BaO 0~10質量%
TiO2 0~10質量%
CaO 0~8質量
含む、請求項1から7までのいずれか1項記載の蒸発器ユニット(22)。
【請求項12】
前記焼結体(28)のガラスは、次の成分(酸化物を基準として質量%で表す):
SiO2 50~60質量%
23 8~12質量%
Al23 8~12質量%
BaO 20~30質量%
を含む、請求項1から7までのいずれか1項記載の蒸発器ユニット(22)。
【請求項13】
前記焼結体(28)のガラスは、次の成分(酸化物を基準として質量%で表す):
SiO2 75~85質量%
23 8~18質量%
Al23 0.5~4.5質量%
Na2O 1.5~5.5質量%
2O 0~2質量%
を含む、請求項1から7までのいずれか1項記載の蒸発器ユニット(22)。
【請求項14】
前記焼結体(28)のガラスは、次の成分(酸化物を基準として質量%で表す):
SiO2 58~65質量%
23 6~10.5質量%
Al23 14~25質量%
MgO 0~5質量%
CaO 0~9質量%
BaO 0~8質量%
SrO 0~8質量%
ZnO 0~2質量%
を含み、この場合、成分MgO、CaOおよびBaOの合計は8~18質量%である、請求項1から7までのいずれか1項記載の蒸発器ユニット(22)。
【請求項15】
前記焼結体(28)は、少なくとも0.5m2/gの比表面積を有する、請求項1から14までのいずれか1項記載の蒸発器ユニット(22)。
【請求項16】
前記焼結体(28)は、少なくとも0.8m2/gの比表面積を有する、請求項1から14までのいずれか1項記載の蒸発器ユニット(22)。
【請求項17】
前記焼結体(28)は、20m2/g未満の比表面積を有する、請求項1から16までのいずれか1項記載の蒸発器ユニット(22)。
【請求項18】
前記焼結体(28)は、0.5m2/~20m2/gの範囲の比表面積を有する、請求項1から14までのいずれか1項記載の蒸発器ユニット(22)。
【請求項19】
前記焼結体(28)は、0.8m2/g~10m2/gの範囲の比表面積を有する、請求項1から14までのいずれか1項記載の蒸発器ユニット(22)。
【請求項20】
焼結体(28)が、0.8m2/g超の比表面積を有する、請求項1から19までのいずれか1項記載の蒸発器ユニット(22)。
【請求項21】
前記焼結体(28)は、一体型の成形品として存在する、請求項1から20までのいずれか1項記載の蒸発器ユニット(22)。
【請求項22】
請求項1から21までのいずれか1項記載の蒸発器ユニット(22)を備えた、電子たばこ(21)。
【請求項23】
請求項1から21までのいずれか1項記載の蒸発器ユニット(22)を備えた、医薬品を投与する装置。
【請求項24】
請求項1から21までのいずれか1項記載の蒸発器ユニット(22)を備えた、熱的に加熱する香料用の蒸発装置。
【請求項25】
液体貯蔵体、芯、空気吸引通路および加熱装置が、蒸発器ユニット(22)の1つの構成部材中で実現されている、請求項1から21までのいずれか1項記載の蒸発器ユニット(22)。
【請求項26】
加熱装置がバッテリーまたは電気エネルギー貯蔵装置により運転されるものである、請求項1から21までのいずれか1項記載の蒸発器ユニット(22)。
【請求項27】
蒸発器ユニット(22)が、加熱出力を調節するための制御ユニットを含む、請求項1から21までのいずれか1項記載の蒸発器ユニット(22)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に加熱用途のための液体貯蔵体に関する。特に本発明は、電子たばこ、医薬品の投与機器、および/または熱的に加熱する香料用の蒸発装置内で使用するために、蒸発可能な物質の貯蔵および制御された放出のための液体貯蔵体、ならびに電子たばこ、医薬品の投与機器、および/または熱的に加熱する香料用の蒸発装置内で液体を蒸発させるための蒸発器ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
電子たばこ(以後、Eたばこともいう)は、紙巻きたばこの代替品として使用されることが次第に多くなっている。典型的には、この電子たばこは、マウスピースと蒸発器ユニットとを含む。この蒸発器ユニットは、液体貯蔵体を有し、この液体貯蔵体は加熱エレメントと結合されている。
【0003】
所定の医薬品、特に気道および/または口腔粘膜および/または鼻粘膜の治療用の医薬品は、好ましくは蒸発した形で投与される。本発明による液体貯蔵体は、このような医薬品の貯蔵および放出のために、ことにこのような医薬品の投与機器内で使用することができる。この場合、液体貯蔵体は加熱エレメントと接続されていて、かつ例えば蒸発器ユニットの少なくとも一部を形成していることも可能である。
【0004】
熱的に加熱可能な蒸発装置は、雰囲気に香料を提供するために使用することが次第に多くなっている。これは、ことにバー、ホテルロビー、および/または車両室内、例えば乗用車、ことに自家用車の室内であってよい。この際に使用された蒸発器ユニットの場合でも、液体貯蔵体は加熱エレメントと結合されている。液体貯蔵体は、大抵は、例えばプロピレングリコールまたはグリセリンのような担持液体である液体を含み、この液体中に、香料および芳香物質および/またはニコチンおよび/または医薬品のような添加物が溶解され、かつ/または一般に含まれている。この担持液体は、吸着プロセスにより液体貯蔵体の内部表面に結合される。
【0005】
液体貯蔵体内に貯蔵された液体は、加熱エレメントにより蒸発させられ、液体貯蔵体の内部表面から脱着され、かつ利用者が吸入できることが一般に当てはまる。この場合、短時間に、200℃を超える温度が達成される。
【0006】
したがって、液体貯蔵体は、高い吸収能力および高い吸着作用を有しなければならないが、同時に液体を高温で迅速に放出しなければならない。
【0007】
先行技術から、有機ポリマーからなる多孔質液体貯蔵体を有する電子たばこは公知である。しかしながら、この液体貯蔵体の加熱が強すぎる場合、例えば制御不能な乾燥運転の場合、作動時に、易揮発性物質が液体貯蔵体から溶け出すか、または液体貯蔵体の分解が起こる温度に到達することがある。このような物質は、次いで利用者が吸入しかねない。
【0008】
したがって、ポリマー材料の低い温度安定性に基づき、加熱エレメントと液体貯蔵体との間の最小距離を維持する必要性が生じる。これは、蒸発器ユニット、それによる電子たばこのコンパクトな構造様式を妨げる。
【0009】
最小距離を維持することとは別に、蒸発されるべき液体を毛管作用により加熱コイルにまで導く芯も使用することができる。この芯は、大抵はガラス繊維から仕上げられている。このガラス繊維は、高い温度安定性を有するが、個々のガラス繊維は容易に破断することがある。
同様のことが、液体貯蔵体自体がガラス繊維から製造されている場合にも当てはまる。したがって、利用者が、緩んだ、またはほつれた繊維破片を吸い込むという危険が生じる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、上述の欠点を有していない、電子たばこおよび/または医薬品の投与機器および/または熱的に加熱する香料の蒸発装置内で使用するための液体貯蔵体を提供することである。本発明のさらなる課題は、担持液体の蒸発のための加熱用途用の、ことに電子たばこ、医薬品の投与機器、および/または熱的に加熱する香料の蒸発装置用の改善された蒸発器ユニットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の前記課題は、独立請求項の主題により解決される。好ましい実施形態および発展形態は、従属請求項の主題である。
【0012】
上述の用途において使用するための本発明による蒸発器ユニットは、液体貯蔵体および加熱エレメントを含む。液体貯蔵体内に吸着相互作用により、例えば香料および芳香物質、および/または適切な液体中に溶かされた作用物質を含めた医薬品、および/またはニコチンを含むことができる担持液体が貯蔵される。加熱エレメントを用いて、蒸発器内で高温が生じるので、担持液体は蒸発し、液体貯蔵体の内部表面から脱着し、かつこの蒸気を利用者が吸引することができる。
【0013】
この場合、本発明による液体貯蔵体は、開放気孔性焼結ガラスからなる焼結体を含む。液体は焼結体の開放気孔内に貯蔵される。「開放気孔性焼結体」の概念は、この場合、ことに焼結体の気孔容積の少なくとも95%が開放気孔として存在する焼結体であると解釈される。
【0014】
この場合、有機担持液体は、焼結体の気孔の表面に、もしくは焼結体の内部表面に吸着される。好ましくは、蒸発前の、負荷された状態での液体貯蔵体中の担持液体の質量は、焼結体の質量の少なくとも50%である。
【0015】
担持液体は、良好な蒸発性により特徴付けられる。有機担持液体中には、他の物質、ことに芳香物質、香料、医薬品および/またはニコチンが溶解されていてよい。本発明の発展形態の場合には、担持液体中のニコチン濃度は、1~30mg/ml、好ましくは2~20mg/mlである。好ましくは、担持液体は、主成分としてプロピレングリコール、グリセリン、およびこれらの混合物を含む。
【0016】
焼結体は、50体積%超の、好ましくは少なくとも60体積%、特に好ましくは少なくとも70体積%の気孔率を有する。高い気孔率により、焼結体の高い吸着能力が保証される。例えば、一実施形態による焼結体は、20℃の温度で、かつ3時間の吸着時間で、焼結体の質量の少なくとも50%のプロピレングリコールを吸収することができる。
【0017】
焼結体の平均気孔サイズは、1~450μmの範囲にある。この平均気孔サイズは、室温で、および担持液体の蒸発点の範囲の高温、ことに300℃の温度での吸着能力および脱着挙動に関して、特に好ましいことが明らかになる。
【0018】
焼結体の気孔が小さすぎる場合、この焼結体は十分に担持液体を吸収することができない。大きな気孔は、確かに吸着能力に関して好ましいが、同時に20℃で、つまり電子たばこ用の液体貯蔵体の貯蔵条件下で高い脱着速度を生じる。
【0019】
本発明の一発展形態は、焼結体が、>0.5m2/g、またはそれどころか>0.8m2/gの比表面積を有することを想定している。この場合、大きな比表面積は高い吸着能力を生じさせる。しかしながら、場合によっては、大きすぎる比表面積は、担持液体が高い温度でもまだ十分に迅速には脱着されず、かつ/またはクロマトグラフィー効果が生じることを引き起こすことがある。クロマトグラフィー効果は、担持液体中に溶かされている多様な物質が、異なる時点で脱着され、かつそれにより蒸気の組成が、上述の装置の運転の間に変化するために不利である。したがって、本発明の一実施形態の場合に、比表面積は20m2/g未満、またはそれどころか10m2/g未満であることが予定される。
【0020】
焼結体は、液体貯蔵体として、高い吸着能力の他に、20℃での低い脱着速度を有する。例えば、一実施形態の場合に、100時間の脱着時間で、予め吸収された液状担持媒体、例えばプロピレングリコールの15質量%以下が脱着される。これは、ことに長時間安定性に関して有利である。同時に、ここでは300℃の温度で、かつ5分の脱着時間で、液状担持媒体、ことにプロピレングリコールの予め吸着された質量の少なくとも50%が脱着される。
【0021】
したがって、液体貯蔵体は、高温用途で、ことに電子たばこおよび/または医薬品の投与機器および/または熱的に加熱する香料用の蒸発装置内での使用のために適している。
【0022】
本発明の一実施形態の場合に、平均気孔サイズは、5~400μmの範囲にある。この平均気孔サイズは、10~350μmの範囲にあってもよい。
【0023】
焼結体は、気孔二重構造を有していてもよい。気孔二重構造とは、ここでは、セル壁中に開口するミクロ孔を有する、20~450μmの気孔サイズを有するマクロ孔であると解釈される。ミクロ孔は、大抵は1~10μmの範囲のサイズを有する。
【0024】
焼結体は、まず約20μm~600μm、好ましくは最大300μmの範囲の粒度を有する微細粒のガラス粉末を、高融点の粗大粒の塩、および結合剤と混合する方法により得ることができる。この混合物に、微細粒のガラス粉末5~20質量%を添加し、この材料を型内でプレスする。こうして得られた成形体を、ガラスの焼結温度に加熱し、かつ焼結させる。使用されたガラスの溶融温度は、この場合、対応する焼結温度を超えるため、塩の粒子構造は維持されたままである。焼結プロセス後に、この塩を適切な溶媒で洗い流す。この場合、塩NaClおよびK2SO4が特に好ましいことが明らかである。KCl、MgSO4、Li2SO4、Na2SO4のような他の塩も考えられる。塩の選択は、コスト、環境への影響などのような観点の他に、利用したガラスもしくはその焼結の温度要件に依存する。本発明の一実施形態の場合には、30~200μmの粒度を有する塩50~80質量%に、15~60μmの範囲の粒度のガラス粉末50~20質量%、ならびにポリエチレングリコール水溶液を添加し、入念に混合する。こうして得られた混合物に、乾燥した状態、または湿った状態で、ガラス粉末(混合物の質量を基準として)5~20質量%を添加することができる。この混合物を型内でプレスし、かつ使用されたガラスの焼結温度で焼結する。引き続き、塩を洗い流すことで、多孔質焼結体が得られる。
【0025】
これにより、高多孔質の開放気孔性焼結体が得られる。個々のガラス粒子は焼結プロセスにより互いに強固に結合するため、この焼結体は高い気孔率にもかかわらず対応するガラス繊維材料と比べて、良好な機械強度を有する。したがって、焼結体内には、電子たばこおよび/または医薬品の投与機器および/または熱的に加熱する香料用の蒸発装置内での液体貯蔵体としての使用の場合に利用者が吸引しかねない、緩んだ、または容易に引き剥がされる粒子は存在しない。したがって、焼結体の高い機械安定性により、80体積%を超える気孔率を示すことができる液体貯蔵体を提供することができる。
【0026】
多孔質ガラスからなる焼結体は、電子たばこおよび/または医薬品の投与機器および/または熱的に加熱する香料用の蒸発装置内で使用されるような担持液体に対して不活性である。使用されたガラスは、さらに、少なくとも450℃の転移温度Tgを有する。高い転移温度に基づき、ガラスは極めて低い喪失性を有し、つまり高い温度でもガラス成分は放出されないか、または極めて僅かな程度でしか放出されない。さらに、このガラスの組成は、揮発性成分を含まないか、または極めて僅かな揮発性成分しか含まないように選択することができる。
【0027】
電子たばこの場合、蒸発器内の加熱コイルの領域内で、200℃を明らかに上回る範囲の、局所的には500~600℃までの温度が達成される。したがって、使用したガラスの低い喪失性により、本発明による焼結体からなる液体貯蔵体は、例えばポリマー材料からなる液体貯蔵体により可能となるよりも、加熱エレメントのずっと近くに配置することができる。これは、電子たばこのデザインの可能性に関して有利である。例えば、電子たばこはコンパクトな構造様式を有することができるか、または電子たばこ内の付加的に提供される空間が他の機能により使用することができる。本発明の一実施形態の場合に、ガラスは、500℃より高い、またはそれどころか600℃より高い転移温度Tgを有する。本発明の一発展形態の場合に、焼結体のガラスは、700℃より高い転移温度を有する。同様のことが、医薬品の投与機器および/または熱的に加熱する香料用の蒸発装置についても当てはまる。
【0028】
SiO2から誘導されるガラスが特に好ましいことが明らかとなる。この場合、ホウケイ酸塩ガラス、アルミノケイ酸塩ガラス、アルミノホウケイ酸塩ガラスまたは石灰ソーダガラスが特に適していることが判明した。
【0029】
本発明の一実施形態の場合に、焼結体のガラスは、次の成分(酸化物を基準として質量%で表す)を含む:
SiO2 70~75質量%
Na2O+K2O 12~16質量%
CaO 8~11質量%
MgO 0~5質量%
Al23 0~2質量%
本発明の別の実施形態は、ガラスが次の成分(酸化物を基準として質量%で表す)を含むことが想定されている:
SiO2 70~85質量%
23 5~15質量%
アルカリ酸化物 3~7質量%
アルカリ土類酸化物 0~4質量%
Al23 2~5質量%
次の成分を含むガラスも有利であることが明らかである:
SiO2 55~75質量%
Na2O 0~15質量%
2O 2~14質量%
Al23 0~15質量%
MgO 0~4質量%
CaO 3~12質量%
BaO 0~15質量%
ZnO 0~5質量%
TiO2 0~2質量%
本発明の別の実施形態の場合に、ガラスは次の成分を含む:
SiO2 30~85質量%
23 0.5~20質量%
Al23 0~15質量%
Na2O 3~15質量%
2O 2.5~15質量%
ZnO 0~12質量%
MgO 2~10質量%
BaO 0~10質量%
TiO2 0~10質量%
CaO 0~8質量%、好ましくは最大5質量%
一実施形態の場合に、ガラスが次の成分を含むアルミノケイ酸塩ガラスが重要である:
SiO2 58~65質量%
23 6~10.5質量%
Al23 14~25質量%
MgO 0~5質量%
CaO 0~9質量%
BaO 0~8質量%
SrO 0~8質量%
ZnO 0~2質量%
ただし、Σ(MgO+CaO+BaO) 8~18質量%。
【0030】
別の実施形態の場合に、ガラスは次の成分を含む:
SiO2 50~60質量%
23 8~12質量%
Al23 8~12質量%
BaO 20~30質量%
一実施形態の場合に、ガラスは次の成分を含む:
SiO2 75~85質量%
23 8~18質量%
Al23 0.5~4.5質量%
Na2O 1.5~5.5質量%
2O 0~2質量%
さらに、上記のガラスは、高い熱耐久性も有する。本発明の一発展形態の場合に、ガラスは、2.5ppm/K~10.5ppm/Kの範囲の、好ましくは3.0ppm/K~10.0ppm/Kの範囲の線形熱膨張係数α20-300℃を有することが予定される。それにより、焼結体は、高い耐熱衝撃性も示す。この場合、ことに最大9.5ppm/Kまでの熱膨張係数を有する焼結体が好ましいことが判明した。
【0031】
焼結体において使用されたガラスの高い転移温度およびその高い温度安定性により、蒸発器内で加熱エレメントは液体貯蔵体の近くに取り付けることができる。このことは、一方で、電子たばこおよび/または医薬品の投与機器および/または熱的に加熱する香料用の蒸発装置のコンパクトな構造形式を可能にする。
【0032】
製造プロセスにより、焼結体の形状およびそれによる液体貯蔵体の形状は任意に設定することができる。これは複数の機能を1つの構成部材中に統合することを可能にする。本発明の一実施形態の場合には、液体貯蔵体、芯、空気吸引通路、ならびに加熱エレメントの機能を、蒸発器の1つの構成部材中で実現することができる。これは、加熱出力を正確に適合させ、かつこうして改善された温度調節を達成することを可能にする。
【0033】
本発明の一発展形態の場合に、加熱エレメントは液体貯蔵体に直接取り付けられる。この加熱エレメントは、例えば液体貯蔵体の表面に金属箔または金属ワイヤの形で取り付けることができる。他の実施形態の場合に、加熱エレメントは、金属被覆として液体貯蔵体に取り付けられている。加熱エレメントを焼結体に直接配置することが有利である、というのも液体貯蔵体に直接取り付けられた加熱エレメントは、蒸発のために必要とするエネルギーが、より少ないためである。これは、電子たばこのバッテリーを長持ちさせる。さらに、改善された温度制御を達成することができる。
【0034】
次に、本発明を、複数の実施例、ならびに図1~8を用いて詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1図1aおよび1bは、本発明による焼結体の一実施形態のSEM写真を示す。
図2図2aおよび2bは、比較例としての多様な気孔サイズを有する焼結ガラスのSEM写真を示す。
図3図3aおよび3bは、比較例としての多様な気孔サイズを有する焼結ガラスのSEM写真を示す。
図4】第2の比較例としての有機ポリマー材料からなる液体貯蔵体のSEM写真を示す。
図5】実施例および多様な比較例の吸着能力のグラフを示す。
図6】本発明による液体貯蔵体の実施例ならびにポリマーの比較例の、20℃での脱着のグラフを示す。
図7】本発明による液体貯蔵体の実施例ならびに比較例の、300℃での脱着のグラフを示す。
図8】電子たばこの図式的構造を示す。
図9】加熱エレメントが液体貯蔵体に直接配置されている蒸発器ユニットの一実施形態の図式的構造を示す。
【実施例
【0036】
表1は、本発明による焼結体の6つの多様な実施例を示す。個々の実施例は、焼結ガラスの組成に関して異なる。
【表1】
【0037】
図1aおよび1bは、焼結体の実施例のSEM写真(走査電子顕微鏡写真)を示す。焼結体は、表面にも破断エッジ部にも極めて多孔質の構造を示す。気孔1は、90~330μmの大きさである。大きな開放気孔の他に、焼結体はさらに極めて小さな密閉気孔2を有している。図1に示された実施例の製造のために塩としてNaClを使用した。
【0038】
図2a~3bは、多様な気孔サイズを有する2つの異なる多孔質焼結ガラスのSEM写真を示す。図2aおよび2bには、多数の極めて小さな気孔を有する多孔質焼結ガラスのSEM写真を示す。気孔3は、数ナノメートルの大きさにすぎない。図3aおよび3bに示された焼結ガラスは、多くの比較的大きい焼結されたガラス体4からなる。個々のガラス体4の間の空間5は、この場合極めて大きい。
【0039】
図4は、有機ポリマーからなる液体貯蔵体のSEM写真を示す。この貯蔵媒体は、互いに絡み合ったプラスチック繊維6からなる。したがって、この液体貯蔵体は不織布構造を有する。個々の繊維6の間に、担持液体を吸収することができる多くの中空空間7が存在する。
【0040】
図5には、液体貯蔵体の吸収能力が示されている。このために、多様な液体貯蔵体を、3時間プロピレングリコールで含浸し、引き続き質量増加を測定した。実施例10は、図1に示した焼結ガラスに相当する。比較例11は、図2に示した、数ナノメートルの大きさの気孔を有する焼結ガラスである。比較例8は、図4からのプラスチック不織布である。比較例9は、焼結セラミックである。比較例12は、極めて大きな気孔を有する。
【0041】
図5に基づき、セラミック構造9は、プロピレングリコールを僅かにしか吸収できず、したがって電子たばこおよび/または医薬品の投与機器および/または熱的に加熱する香料用の蒸発装置内での使用のための液体貯蔵体として適していないことが明らかとなる。
【0042】
焼結ガラスの場合、吸収能力は気孔サイズに依存する。極めて小さな気孔11を有する焼結ガラスは、プロピレングリコールを十分には吸収できず、大きすぎる気孔12を有する焼結ガラスの場合には、吸収されたプロピレングリコールを完全に吸着するためには、比表面積が小さすぎる。したがって、吸収されたプロピレングリコールの大部分は再び気孔から流れ出る。それに対して、実施例10の気孔は、プロピレングリコールを吸収するために十分に大きく、かつプロピレングリコールを吸着することができる十分に大きな比表面積を形成するために十分に小さい。
【0043】
実施例10の他に、ポリマー材料からなる液体貯蔵体8も、高い吸収能力を有する。
【0044】
図6は、実施例10とポリマーの液体貯蔵体8との、20℃での脱着試験の結果を示す。このため、プロピレングリコールが負荷された試料8および10を20℃の温度で貯蔵し、時間に依存するプロピレングリコールの質量損失を測定した。この実施例も、ポリマーの液体貯蔵体も、5日の期間の後に、予め吸収されたプロピレングリコールの20質量%を下回るプロピレングリコールの損失を示す。
【0045】
図7には、300℃でのプロピレングリコールの脱着が示されている。このため、試料8~12を、まずプロピレングリコールで含浸し、引き続き5、10、20および40分間炉中で300℃で乾燥した。プロピレングリコールの質量損失は、秤量により決定した。10分後に、全ての試料はプロピレングリコールの大部分の割合を放出した。既に5分後に、実施例10ではプロピレングリコールの50%が蒸発している。プラスチック試料8は、既に5分後に、300℃で溶融したが、実施例は高い温度負荷に耐えた。
【0046】
図5~7に基づき、本発明による液体貯蔵体は、電子たばこおよび/または医薬品の投与機器および/または熱的に加熱する香料用の蒸発装置内での使用のために抜群に適していることが明らかになる。
【0047】
吸着および脱着について、ここに示された基礎をなす試験は例示的なものである。吸収能力および放出能力の別の決定は多岐にわたり、例えば着色されたプロピレングリコールとの接触での成形品の着色/脱色の量的な推移である。
【0048】
図8には、本発明による電子たばこ21が示されている。たばこ21は、先端23とマウスピース25とを含み、蒸発器22によりたばこ内で生じたエアロゾルを吸引するために利用者はこのマウスピース25を吸う。本発明の好ましい実施形態の場合には、このマウスピース25は先端23から取り外し可能である。
【0049】
たばこ21は、蒸発器22内の有機液体の蒸発のための電気エネルギーを提供するために、電気エネルギー貯蔵装置27を含む。図示された実施例の場合には、電気エネルギー貯蔵装置27は、たばこ21の先端23内に収納されている。医薬品用の投与機器は、類似した構成にすることができる。
【0050】
電子たばこ21は、さらに、蒸発器22用の加熱出力を調節する制御ユニット31を含む。ことに、制御ユニット31は、利用者が吸引しているかどうかを確認し、かつそれに応じて蒸発器22の加熱出力を調節するように設置することができる。
【0051】
先端23内には、さらに、制御ユニット31により同様に制御される発光ダイオード29が配置されていてよい。利用者がたばこ21を吸っていることを、制御ユニット31が確認する場合、制御ユニット31は発光ダイオード29を点灯するため、発光ダイオード29は発光する。したがって、慣用のたばこを吸う際にほのかに光って燃えることに対応する視覚効果が達成される。
【0052】
本発明による蒸発器ユニット22は、焼結体28を備えた液体貯蔵体24と、焼結体28中に吸収された有機担持液体30とを含む。焼結体28は、好ましくは1グラム当たり0.5立方メートル~高くても1グラム当たり10立方メートルの範囲の比表面積を有する。この範囲の比表面積は、担持液体30に対して高い吸収能力を生じさせ、同時にまだ十分に高い機械的および熱的安定性を生じさせる。
【0053】
液体貯蔵体24の加熱のため、ひいては有機担持液体30を、その中に溶解した成分、例えばニコチン、香料および/または芳香物質と一緒に蒸発させるために、蒸発器ユニット22は、電気的に加熱可能な加熱エレメント26を含む。この加熱エレメント26は、制御ユニット31によって制御されて、電気エネルギー貯蔵装置27から電流が供給される。100℃より高い運転温度に加熱することにより、焼結体28内に吸収された有機担持液体30、ことに高沸点アルコール、例えばグリセリンまたはプロピレングリコールが蒸発可能である。
【0054】
焼結体28は、大量の担持液体を吸収するため、かつこの担持液体をその中に溶解した芳香物質および/または嗜好品、例えばことにニコチンと一緒に十分に長い間放出することができるために50体積パーセントを超える気孔率を有する。
【0055】
焼結体28について、好ましくは線形熱膨張係数αが、2.5ppm/K(つまり2.5・10-6-1)~10.5ppm/Kの範囲、好ましくは3.0ppm/K~10.0ppm/Kの範囲にあるガラスが使用される。450℃より高い、ことに500℃より高い転移温度Tgが特に好ましい。適切なガラスは、明細書導入部および特許請求の範囲に言及されている。
【0056】
図9は、蒸発器ユニット22の一実施形態の実施例を示し、この場合、加熱エレメント26が焼結体28に直接配置されている。ことに、加熱エレメント26は、焼結体28に強固に結合されている。このような結合は、ことに加熱エレメント26が膜型抵抗器として構成されていることにより達成することができる。このために、膜型抵抗器の種類の、導体の形に構造化された導電性被覆が焼結体28に施される。加熱エレメント26として焼結体28に直接施された被覆は、迅速な加熱を可能にする良好な熱接触を達成するためにとりわけ好ましい。図示された実施例の場合に、導電性被覆中に拡張された接続コンタクト261、262が形成されていて、この接続コンタクトに膜型抵抗器が電気的に接続することができる。この接続は、例えば液体貯蔵体24をマウスピース25内の対応コンタクトに取り付ける際に行うことができる。
【符号の説明】
【0057】
21 電子たばこ
22 蒸発器
23 電子たばこの先端
24 液体貯蔵体
25 マウスピース
26 加熱エレメント
27 電気エネルギー貯蔵装置
28 焼結体
29 発光ダイオード
30 有機担持液体
31 制御ユニット
261 接続コンタクト
262 接続コンタクト
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9