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特許7358360表面プラズモン共鳴を担体粒子を用いて増幅させるイムノクロマト法
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  • 特許-表面プラズモン共鳴を担体粒子を用いて増幅させるイムノクロマト法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-29
(45)【発行日】2023-10-10
(54)【発明の名称】表面プラズモン共鳴を担体粒子を用いて増幅させるイムノクロマト法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/41 20060101AFI20231002BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20231002BHJP
【FI】
G01N21/41 101
G01N33/543 521
G01N33/543 595
G01N33/543 541Z
【請求項の数】 24
(21)【出願番号】P 2020538412
(86)(22)【出願日】2019-08-20
(86)【国際出願番号】 JP2019032510
(87)【国際公開番号】W WO2020040159
(87)【国際公開日】2020-02-27
【審査請求日】2022-07-08
(31)【優先権主張番号】P 2018154995
(32)【優先日】2018-08-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松田 悠佑
【審査官】井上 徹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/123952(WO,A1)
【文献】Jiri HOMOLA,Surface Plasmon Resonance Sensors for Detection of Chemical and Biological Species,Chemical Reviews,2008年,Vol. 108,No. 2,PP.462-493
【文献】Vinayak RASTOGI et al.,Development and evaluation of realistic microbioassays in freely suspended droplets on a chip,Biomicrofluidics,2007年,Vol. 1,No. 1,PP.014107-1~014107-17
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-G01N 21/01
G01N 21/17-G01N 21/61
G01N 33/48-G01N 33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面プラズモン共鳴を起こす共鳴粒子、および共鳴粒子よりもサイズが大きい表面プラズモン共鳴を起こさない保持粒子であって、検体試料中の被検物質と結合する親和性物質が固定化されている共鳴粒子および保持粒子を用いたイムノクロマトアッセイ法であって、
被検物質と結合する親和性物質結合保持粒子:被検物質:被検物質と結合する親和性物質結合共鳴粒子(「:」は結合を示す)で表される複合体を形成させることにより共鳴粒子を被検物質を介して保持粒子上に集積させ、該複合体を被検物質と結合する親和性物質を捕捉物質として固定化したイムノクロマト法用試験片上の検出部位において捕捉することにより検出部位に保持粒子および共鳴粒子を集積させ、共鳴粒子および保持粒子からのシグナルを検出することにより、被検物質の存在下においてシグナル/ノイズ比を上昇させ高感度で被検物質を検出するイムノクロマト法。
【請求項2】
共鳴粒子が金コロイド粒子である請求項1記載のイムノクロマト法。
【請求項3】
保持粒子がラテックス粒子である、請求項1または2に記載のイムノクロマト法。
【請求項4】
イムノクロマト法用試験片上の検出部位に被検物質と結合する親和性物質の代わりにストレプトアビジンを固定化し、保持粒子に被検物質と結合する親和性物質がビオチン化されており、検出部位においてストレプトアビジン:被検物質と結合するビオチン化親和性物質結合保持粒子:被検物質:被検物質と結合する親和性物質結合共鳴粒子(「:」は結合を示す)で表される複合体が形成される、請求項1~3のいずれか1項に記載のイムノクロマト法。
【請求項5】
共鳴粒子と結合した親和性物質と保持粒子と結合した親和性物質が、被検物質の異なる部位に結合する、請求項1~のいずれか1項に記載のイムノクロマト法。
【請求項6】
共鳴粒子数が保持粒子数の12倍以上である、請求項1~のいずれか1項に記載のイムノクロマト法。
【請求項7】
共鳴粒子数が保持粒子数のX倍以上[Xは、保持粒子径=R、共鳴粒子径=rとした時、(3(R+r)2)/r2で表され、ただし粒子径はそれぞれ全方向で測定した際の中央値とする]である、請求項記載のイムノクロマト法。
【請求項8】
保持粒子と被検物質を先にイムノクロマト法用試験片に添加し、その後に共鳴粒子を添加する、請求項1~のいずれか1項に記載のイムノクロマト法。
【請求項9】
共鳴粒子および保持粒子を被検物質と混合し、イムノクロマト法用試験片に添加する、請求項1~のいずれか1項に記載のイムノクロマト法。
【請求項10】
共鳴粒子および保持粒子がイムノクロマト用法試験片の標識部位に含有されている、請求項1~のいずれか1項に記載のイムノクロマト法。
【請求項11】
保持粒子が色素で着色または標識されている、請求項1~10のいずれか1項に記載のイムノクロマト法。
【請求項12】
保持粒子の色素の色が共鳴粒子の色(非吸収ピーク)と同系色である、請求項11記載のイムノクロマト法。
【請求項13】
保持粒子が蛍光色素を粒子内に含む、請求項1~10のいずれか1項に記載のイムノクロマト法。
【請求項14】
保持粒子表面に蛍光色素を結合させた、請求項1~10のいずれか1項に記載のイムノクロマト法。
【請求項15】
被検物質が、生体中に存在する抗原または抗体である、請求項1~14のいずれか1項に記載のイムノクロマト法。
【請求項16】
被検物質が、病原性微生物およびその一部である、請求項1~14のいずれか1項に記載のイムノクロマト法。
【請求項17】
被検物質に対する親和性物質を結合させた保持粒子および被検物質に対する親和性物質を結合させた共鳴粒子、ならびに被検物質に対する親和性物質を結合させた保持粒子と被検物質に対する親和性物質を結合させた共鳴粒子を含む標識部位および被検物質と特異的に結合して被検物質を捕捉し得る親和性物質が固定化されている検出部位を含む試験片を含検出部位において被検物質と結合する親和性物質結合保持粒子:被検物質:被検物質と結合する親和性物質結合共鳴粒子(「:」は結合を示す)で表される複合体を形成させることにより共鳴粒子を被検物質を介して保持粒子上に集積させ、該複合体を被検物質と結合する親和性物質を捕捉物質として固定化したイムノクロマト法用試験片上の検出部位において捕捉することにより検出部位に保持粒子および共鳴粒子を集積させ、被検物質の存在下においてシグナル/ノイズ比を上昇させ高感度で被検物質を検出し得るイムノクロマト法用キット。
【請求項18】
共鳴粒子が金コロイド粒子である請求項17記載のイムノクロマト法用キット。
【請求項19】
保持粒子がラテックス粒子である、請求項17または18に記載のイムノクロマト法用キット。
【請求項20】
イムノクロマト法用試験片上の検出部位に被検物質と結合する親和性物質の代わりにストレプトアビジンを固定化し、保持粒子に被検物質と結合する親和性物質がビオチン化されており、検出部位においてストレプトアビジン:被検物質と結合するビオチン化親和性物質結合保持粒子:被検物質:被検物質と結合する親和性物質結合共鳴粒子(「:」は結合を示す)で表される複合体が形成される、請求項17~19のいずれか1項に記載のイムノクロマト法用キット。
【請求項21】
共鳴粒子と結合した親和性物質と保持粒子と結合した親和性物質が、被検物質の異なる部位に結合する、請求項1720のいずれか1項に記載のイムノクロマト法用キット。
【請求項22】
共鳴粒子数が保持粒子数の12倍以上である、請求項1721のいずれか1項に記載のイムノクロマト法用キット。
【請求項23】
共鳴粒子数が保持粒子数のX倍以上[Xは、保持粒子径=R、共鳴粒子径=rとした時、(3(R+r)2)/r2で表され、ただし粒子径はそれぞれ全方向で測定した際の中央値とする]である、請求項22記載のイムノクロマト法用キット。
【請求項24】
共鳴粒子および保持粒子がイムノクロマト用法試験片の標識部位に含有されている、請求項1723のいずれか1項に記載のイムノクロマト法用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は毛細管現象を利用して被検物質を含む溶液を展開し、標識した被検物質を捕捉して検出するイムノクロマト法に関する。
【背景技術】
【0002】
イムノクロマト法は検出エリアにおける捕捉抗体とコロイド粒子等の粒子により標識された検出抗体を用いたサンドイッチイムノアッセイ法を利用した方法が一般的である。イムノクロマト法は以下の流れで行われる。被検物質を含む液体サンプルをイムノクロマト法用試験片上に展開移動させる際、標識された検出抗体:被検物質(「:」は結合を示す)の複合体が形成される。この複合体を含む液体試料が毛細管現象により下流に展開移動する。複合体はイムノクロマト法用試験片上の検出部位上に固相化された捕捉抗体により捕捉される。最後に検出部位において、標識された検出抗体:被検物質:捕捉抗体(「:」は結合を示す)の複合体が形成され、標識物質によるライン形成などを指標として被検物質を検出する。
【0003】
標識物質には肉眼で識別できるものとして、表面プラズモン共鳴を起こす金属コロイド(たとえば金コロイド)や着色されたナノ粒子(たとえばラテックス粒子)などが用いられる。これらのコロイド粒子等は観測に特別な装置を必要としないが、試料溶液中の被検物質濃度が低いとシグナル強度が小さくなり、肉眼で認識可能なレベルに到達しないことがある。
【0004】
銀増感法(特許文献1を参照)などの二次的な増感法は、感度が高くなるが、操作ステップの増加、もしくは観測に専用の機器などを必要とすることが多い。
【0005】
その他、コロイド粒子の着色の色彩強度の高度化(特許文献2を参照)や金属コロイドの複合粒子化(特許文献3および4を参照)やコアシェル構造による高感度化(特許文献5および6を参照)が報告されているが、結合しなかった粒子が流路上に残存した場合など、バックグラウンドも高くなりやすく、また、粒子作製に特別な材料や工程を必要とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-286590号公報
【文献】国際公開第WO2011/062157号
【文献】特開2017-40631号公報
【文献】特開2005-233744号公報
【文献】特開2009-281760号公報
【文献】特開2018-36176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題はイムノクロマト法において、従来の工程で作製可能な担体粒子を用いて、検出が容易であり、またバックグラウンドを高くすることなく、被検物質検出の高感度化を達成することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
表面プラズモン共鳴による特定波長付近の光の吸収は共鳴粒子表面電子の集団的な振動によるとされる。
【0009】
本発明者らは、イムノクロマト法において、標識に用いる共鳴粒子が局所に集中した場合、特定波長付近の光の吸収が増加し、シグナルが増感されると考え、シグナル増感方法について鋭意検討を行った。本発明者らは、従来通りの方法で作製した金コロイド粒子を共鳴粒子として、またラテックス粒子を保持粒子として2種類の粒子を用い、金コロイド粒子を保持粒子に結合させ、集積されることにより、簡易な手技でシグナル増感を実現することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] 表面プラズモン共鳴を起こす共鳴粒子、および共鳴粒子よりもサイズが大きい表面プラズモン共鳴を起こさない保持粒子であって、検体試料中の被検物質と結合する親和性物質が固定化されている共鳴粒子および保持粒子を用いたイムノクロマトアッセイ法であって、被検物質と結合する親和性物質結合保持粒子:被検物質:被検物質と結合する親和性物質結合共鳴粒子(「:」は結合を示す)で表される複合体を形成させることにより共鳴粒子を保持粒子上に集積させ、該複合体を被検物質と結合する親和性物質を捕捉物質として固定化したイムノクロマト法用試験片上の検出部位において捕捉し、共鳴粒子および保持粒子からのシグナルを検出することにより被検物質を検出するイムノクロマト法。
[2] 共鳴粒子が金コロイド粒子である[1]のイムノクロマト法。
[3] 保持粒子がラテックス粒子である、[1]または[2]のイムノクロマト法。
[4] あらかじめ表面に共鳴粒子を結合させた保持粒子を用いる、[1]~[3]のいずれかのイムノクロマト法。
[5] あらかじめ共鳴粒子を内包させた保持粒子を用いる、[1]~[3]のいずれかのイムノクロマト法。
[6] 共鳴粒子と結合した親和性物質と保持粒子と結合した親和性物質が、被検物質の異なる部位に結合する、[1]~[5]のいずれかのイムノクロマト法。
[7] 共鳴粒子数が保持粒子数の12倍以上である、[1]~[6]のいずれかのイムノクロマト法。
[8] 共鳴粒子数が保持粒子数のX倍以上[Xは、保持粒子径=R、共鳴粒子径=rとした時、(3(R+r)2)/r2で表され、ただし粒子径はそれぞれ全方向で測定した際の中央値とする]である、[7]のイムノクロマト法。
[9] 保持粒子と被検物質を先にイムノクロマト法用試験片に添加し、その後に共鳴粒子を添加する、[1]~[8]のいずれかのイムノクロマト法。
[10] 共鳴粒子および保持粒子を被検物質と混合し、イムノクロマト法用試験片に添加する、[1]~[8]のいずれかのイムノクロマト法。
[11] 共鳴粒子および保持粒子がイムノクロマト用法試験片の標識部位に含有されている、[1]~[8]のいずれかのイムノクロマト法。
[12] 保持粒子が色素で着色または標識されている、[1]~[11]のいずれかのイムノクロマト法。
[13] 保持粒子の色素の色が共鳴粒子の色(非吸収ピーク)と同系色である、[12]のイムノクロマト法。
[14] 保持粒子が蛍光色素を粒子内に含む、[1]~[11]のいずれかのイムノクロマト法。
[15] 保持粒子表面に蛍光色素を結合させた、[1]~[11]のいずれかのイムノクロマト法。
[16] 被検物質が、生体中に存在する抗原または抗体である、[1]~[15]のいずれかのイムノクロマト法。
[17] 被検物質が、病原性微生物およびその一部である、[1]~[15]のいずれかのイムノクロマト法。
[18] 被検物質に対する親和性物質を結合させた保持粒子および被検物質に対する親和性物質を結合させた共鳴粒子を含む、イムノクロマト法用キット。
[19] 共鳴粒子が金コロイド粒子である[18]のイムノクロマト法用キット。
[20] 保持粒子がラテックス粒子である、[18]または[19]のイムノクロマト法用キット。
[21] あらかじめ表面に共鳴粒子を結合させた保持粒子を用いる、[18]~[20]のいずれかのイムノクロマト法用キット。
[22] あらかじめ共鳴粒子を内包させた保持粒子を用いる、[18]~[20]のいずれかのイムノクロマト法用キット。
[23] 共鳴粒子と結合した親和性物質と保持粒子と結合した親和性物質が、被検物質の異なる部位に結合する、[18]~[22]のいずれかのイムノクロマト法用キット。
[24] 共鳴粒子数が保持粒子数の12倍以上である、[18]~[23]のいずれかのイムノクロマト法用キット。
[25] 共鳴粒子数が保持粒子数のX倍以上[Xは、保持粒子径=R、共鳴粒子径=rとした時、(3(R+r)2)/r2で表され、ただし粒子径はそれぞれ全方向で測定した際の中央値とする]である、[24]のイムノクロマト法用キット。
[26] 共鳴粒子および保持粒子がイムノクロマト用法試験片の標識部位に含有されている、[18]~[25]のいずれかのイムノクロマト法用キット。
[27] 被検物質に対する親和性物質を結合させた保持粒子および被検物質に対する親和性物質を結合させた共鳴粒子を標識部位に含む、イムノクロマト法用の試験片。
[28] 共鳴粒子が金コロイド粒子である[27]のイムノクロマト法用の試験片。
[29] 保持粒子がラテックス粒子である、[27]または[28]のイムノクロマト法用の試験片。
[30] あらかじめ表面に共鳴粒子を結合させた保持粒子を用いる、[27]~[29]のいずれかのイムノクロマト法用の試験片。
[31] あらかじめ共鳴粒子を内包させた保持粒子を用いる、[27]~[29]のいずれかのイムノクロマト法用の試験片。
[32] 共鳴粒子と結合した親和性物質と保持粒子と結合した親和性物質が、被検物質の異なる部位に結合する、[27]~[31]のいずれかのイムノクロマト法用の試験片。
[33] 共鳴粒子数が保持粒子数の12倍以上である、[27]~[32]のいずれかのイムノクロマト法用の試験片。
[34] 共鳴粒子数が保持粒子数のX倍以上[Xは、保持粒子径=R、共鳴粒子径=rとした時、(3(R+r)2)/r2で表され、ただし粒子径はそれぞれ全方向で測定した際の中央値とする]である、[33]のイムノクロマト法用の試験片。
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2018-154995号の開示内容を包含する。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、イムノクロマト法の被検物質の検出についてシグナル/ノイズ比の上昇と高感度化を実現する。この時、従来の技術を超える材料作製工程や複雑な検査操作技術を必要としない。また、被検物質の存在下においてのみこの現象がおきるため、バックグラウンドは本発明の機序によって増感されない。本発明の方法においては、金コロイド粒子等の共鳴粒子(あるいはその一部)が限られた数のラテックス粒子等の保持粒子表面に捕捉され集積することにより、共鳴粒子のみが、イムノクロマト法用試験片上の捕捉物質(被検物質に対して親和性のある物質、たとえば抗体、あるいは抗原等)の存在する検出部位の広い範囲に集積度の低い状態で結合する場合よりも高い感度を実現する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】検出部位における複合体形成モデル(1)の模式図を示す図である。
図2】検出部位における複合体形成モデル(2)の模式図を示す図である。
図3】保持粒子数/共鳴粒子数比とシグナルピーク面積の関係を示す図である。
図4】保持粒子と共鳴粒子が被検物質を介して結合することを示す図である。
図5】共鳴粒子が被検物質を介して保持粒子に結合することにより、検出シグナルが高くなることを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明は、用いる標識粒子に特徴があるイムノクロマト法である。
ラテラルフローイムノアッセイを含むイムノクロマト法においては、被検物質を特異的に認識し結合する親和性物質を固相化した試験片と被検物質を特異的に認識する親和性物質を結合させた不溶性担体粒子を用いる。すなわち、親和性物質を不溶性担体粒子により標識して用いる。該不溶性担体粒子が被検物質と結合し、多孔質構造を持つ試験片中を毛細管現象により展開移動し、試験片中の検出部位に固相化された被検物質に特異的に結合する親和性物質である捕捉物質と結合することにより、該検出部位に、捕捉物質:被検物質:不溶性担体粒子の複合体(「:」は結合を示す)を形成し、凝集した不溶性担体粒子が集積することを利用し、不溶性担体粒子が集積した部位において発せられる光を検出光として検出装置または目視により測定し、不溶性担体粒子の集積の有無を検出し、被検物質の有無を分析する。
【0015】
本明細書において、被検物質に結合する親和性物質を、単に親和性物質ということがある。
【0016】
被検物質に結合する親和性物質を標識するための標識物質として表面プラズモン共鳴を起こす金属ナノ粒子、または着色ラテックス粒子などの有機材料を用いたナノ粒子が広く用いられてきた。
【0017】
本発明においては、標識物質である不溶性担体粒子として、異なる2種類の粒子を用いる。2種類の粒子は、共鳴粒子と保持粒子である。共鳴粒子は表面プラズモン共鳴を起こす粒子であり、保持粒子は共鳴粒子より直径が大きい粒子であり、共鳴粒子は保持粒子表面に結合する。
【0018】
1. 保持粒子および共鳴粒子
共鳴粒子および保持粒子は、被検物質に結合する親和性物質を表面に固定したものを用いる。親和性物質は、被検物質に結合する物質であり、被検物質が抗体であればその抗体が結合する抗原、被検物質が抗原であればその抗原に結合する抗体である。被検物質と親和性物質は、抗原と抗体の組合せだけでなく、例えば、被検物質と親和性物質がリガンドとレセプターまたはレセプターとリガンドの関係にあってもよい。そのような親和性物質として、被検物質に結合し得るポリペプチドやその他の化合物が挙げられる。
【0019】
共鳴粒子または保持粒子表面への被検物質に結合する親和性物質の固定化方法は物理的結合、電気的結合、化学的結合などを用いればよい。例えば、官能基どうしの共有結合を利用した固定化や物理的吸着による固定化が挙げられる。共鳴粒子や保持粒子に親和性物質を固定化した後に、これらの粒子に対する他の物質の非特異的な結合を抑制するために、ポリエチレングリコールなどの高分子ポリマーやウシ血清アルブミン(BSA)やミルクカゼイン等のタンパク質などで粒子表面をブロッキングしてもよい。本明細書において、被検物質に結合する親和性物質を結合させた保持粒子および被検物質に結合する親和性物質を結合させた共鳴粒子を、それぞれ、親和性物質結合保持粒子および親和性物質結合共鳴粒子と呼ぶことがある。
【0020】
共鳴粒子は、表面プラズモン共鳴を引き起こすことにより特定波長付近の光を吸収する粒子であればどのような粒子でもよい。例えば、金属コロイドが挙げられ、金属コロイドであれば、金属、合金、酸化金属、金属化合物等の種類、形状を問わない。共鳴粒子の直径は、10~200nm、好ましくは10~100nm、さらに好ましくは10~50nmである。また、金コロイド粒子1つに一層シリカ等でコーティングされているコアシェル型のものも含む。共鳴粒子は、単一金属ナノ粒子である必要はなく、これらの組み合わせでもよい。これらの組合せによる色調が観察者にとって有利あるいは吸収される/吸収されない光の波長が観察機器にとって有利であることが好ましい。
【0021】
保持粒子は、サイズが共鳴粒子よりも大きいが、材料、形状等は限定されない。保持粒子の直径は、数十nm~数百nm、好ましくは50nm~800nm、さらに好ましくは200~600nmである。保持粒子として、例えば、着色ラテックス粒子や蛍光色素を含むラテックス粒子等が挙げられる。ラテックス粒子とは、コロイド状に水中に分散した乳濁液を形成する粒子をいう。粒子の材質は限定されないが、検査薬等の技術分野で抗体、抗原、リガンド、レセプター等のタンパク質を結合する固相担体の材料に用いられるものを用いることができる。例えば、ポリスチレン、スチレン-アクリル酸共重合体などのスチレン共重合体、ポリカーボネート、ポリメチレンメタアクリレート(PMMA)、ポリビニルトルエンなどの樹脂、シリカ、セルロース等が挙げられる。この中でも、スチレンをベースとする粒子が好ましい。スチレンをベースとする粒子とは、ポリスチレンやスチレンまたはスチレンの誘導体と重合性不飽和カルボン酸や重合性不飽和スルホン酸等との共重合体でできた粒子をいう。スチレンの誘導体としては、クロロメチルスチレン、ジビニルベンゼン等が挙げられ、重合性不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸等が挙げられ、重合性不飽和スルホン酸としては、スチレンスルホン酸ソーダ等が挙げられる。本発明において、スチレンをベースとするラテックス粒子をポリスチレンラテックス粒子という。また、共鳴粒子と同系色の色を呈し、または共鳴粒子との相互作用により蛍光強度が上昇する保持粒子が好ましい。また、これらを達成するために複数種類の材料、形状、サイズの保持粒子を用いることができる。保持粒子の色素による着色では共鳴粒子の非吸収ピーク(吸収ピーク外波長)、または共鳴粒子と同系色と認識される色相を用いることで検出感度が上昇することがある。保持粒子が蛍光色素を含む場合、共鳴粒子の非吸収ピークと同程度の励起波長あるいは蛍光波長を有する蛍光色素を含む保持粒子、またはそのような蛍光波長を有する蛍光粒子を保持粒子に結合させたものであってもよい。また、表面増強蛍光(SEF:surface enhanced fluorescence、metal enhanced fluorescence、またはplasmon enhanced fluorescenceとも呼ばれる)を引き起こす共鳴粒子と蛍光色素を含む保持粒子、または蛍光粒子を結合させた保持粒子の組み合わせであってもよい。保持粒子が蛍光色素を含む場合は、蛍光を蛍光検出装置により検出することができる。
【0022】
本発明のイムノクロマト法において、最終的に、共鳴粒子は保持粒子表面に結合させる。好ましくは、保持粒子表面の全体を覆うように共鳴粒子を保持粒子表面に結合させる。
【0023】
共鳴粒子は、あらかじめ保持粒子表面の一部に結合させておいてもよい。共鳴粒子の保持粒子への結合は、物理的結合、電気的結合、化学的結合などを用いればよい。例えば、官能基どうしの共有結合を利用した結合や物理的吸着による結合が挙げられる。また、共鳴粒子を、あらかじめ保持粒子の内部に含ませておいてもよい。共鳴粒子を保持粒子の内部に含ませることを、共鳴粒子を保持粒子に内包させるともいう。共鳴粒子を保持粒子に内包させるには、例えば、保持粒子としてコアシェル粒子を用いればよい。コアシェル粒子とは、無孔性のコア粒子の表面に多孔質層がシェル(殻)として存在する粒子をいい、共鳴粒子は多孔質層の孔内に存在し得る。コアシェル粒子の種類は限定されず、例えば、市販のコアシェル粒子を用いることができる。
【0024】
保持粒子内部または表面に共鳴粒子を含ませる既存技術としてシリカや樹脂を材料とした検出粒子(検出抗体を固定した粒子)の内部に表面プラズモン共鳴を起こす粒子を含ませたり(特開2009-281760号公報および特開2018-36176号公報)、検出粒子表面を表面プラズモン共鳴を起こす粒子で修飾する技術(特開2017-40631号公報、特開2005-233744号公報)がある。これらの文献の記載に従って、内部または表面に共鳴粒子を含ませた保持粒子を製造することができる。さらに、共鳴粒子と保持粒子とを被検物質を介して結合させてもよい。すなわち、共鳴粒子に結合している被検物質に結合する親和性物質と保持粒子に結合している被検物質に結合する親和性物質が被検物質を介して結合することにより保持粒子表面に共鳴粒子が結合する。この際、親和性物質結合保持粒子:被検物質:親和性物質結合共鳴粒子(「:」は結合を示す)で表される複合体が形成される。
【0025】
イムノクロマト法においては、試験片上を液体である検体が試薬を溶解させながら流れて展開移動していくが、この際、親和性物質結合保持粒子と親和性物質結合共鳴粒子が試験片上を展開しながら上記の複合体が形成される。最終的に、複合体はイムノクロマト法用試験片上の検出部位上に固定化された被検物質に結合する親和性物質により捕捉され集積し、検出部位において表面プラズモン共鳴による特定波長付近の光の吸収により共鳴粒子からシグナルを発すると共に保持粒子からシグナルが発するので、表面プラズモン共鳴によるシグナルと保持粒子からのシグナルを含めたトータルのシグナルを検出することができる。このときには、内部または表面に共鳴粒子を含ませていない保持粒子を用いて、展開液中で保持粒子と共鳴粒子を結合させてもよく、また内部または表面に保持粒子を含ませた保持粒子を用いて、さらに展開液中で共鳴粒子を保持粒子に結合させてもよい。この方法により、保持粒子表面における共鳴粒子の密度が大きくなり、表面プラズモン共鳴が増感され、従来の技術よりシグナル/ノイズ比が高い高感度化が可能となる。
【0026】
被検物質に結合する親和性物質は、共鳴粒子に結合させる親和性物質および保持粒子に結合させる親和性物質の他に、試験片上の検出部位に固定化する親和性物質の少なくとも3つが存在する。これらの親和性物質(群)は、それぞれが一種類ずつであっても複数種類であってもよい。また、それぞれの親和性物質あるいは親和性物質群の構成が、同じであっても、一部あるいは全部が異なっていてもよい。ここで、親和性物質が同じあるいは共通のものであるとは、当該親和性物質が同じ被検物質の同じ部位に結合することをいい、親和性物質が異なるあるいは共通でないものであるとは、当該親和性物質が同じ被検物質に結合するが被検物質の異なる部位に結合することをいう。親和性物質群の構成が同じであるとは、それぞれの親和性物質の量や割合に関係なく、すべて共通の親和性物質を用いていることを指す。一部が異なる構成とは、共通でない親和性物質と共通の親和性物質をそれぞれ少なくとも一つずつ含むことを指す。全てが異なる構成とは、共通の親和性物質を含まないことを指す。例えば、親和性物質が被検物質に対する抗体である場合、共鳴粒子に結合させた親和性物質と保持粒子に結合させた親和性物質が同じ、もしくは共通のものであるとは、両方の親和性物質は抗原である被検物質の同じエピトープを認識し結合する。一方、両方の親和性物質が異なる、もしくは共通でないものである場合は、両方の親和性物質は抗原である被検物質の異なるエピトープを認識する。被検物質がウイルス粒子やポリマー等の大分子である場合、同一被検物質中に親和性物質が結合する部位が複数存在するので、共鳴粒子上および/または保持粒子上および/または試験片上の検出部位上共通の親和性物質によってイムノクロマト法用試験片上の検出部位に共鳴粒子と保持粒子の複合体が形成され得る。一方、被検物質が比較的小分子の場合、この複合体は形成が困難である。これは同一被検物質中に親和性物質が結合する部位が少数であり、各粒子あるいは検出部位上の共通の親和性物質が互いに被検物質に対する結合について競合するためである。従って、共鳴粒子の親和性物質、保持粒子の親和性物質およびイムノクロマト法用試験片上の検出部位の親和性物質は好ましくは異なる物質あるいは全てが異なる構成である。
【0027】
共鳴粒子数と保持粒子数の比には、好ましい範囲がある。保持粒子に最大数の共鳴粒子が結合した場合、つまり保持粒子数/共鳴粒子数比率が最小となる場合を、これら粒子が球体であった場合について考察する。反応時間が無限大で、共鳴粒子と保持粒子のサイズが同程度であり、粒子表面間距離および被検物質のサイズがこれらに比して無視できるサイズである場合、保持粒子に結合できる共鳴粒子数は3次元接吻数より12と考えられる。このため、本発明で実施される保持粒子数/共鳴粒子数比の最適値は、表面プラズモン共鳴を最大にするため、多くの場合、1/12以下となる。ここで、3次元接吻数とは、3次元の単位球の周囲に単位球を重ならずに触れ合うように並べるときに、最大並べられる数をいう。すなわち、共鳴粒子数は、保持粒子数の12倍以上であることが好ましい。この倍数は、反応時間、共鳴粒子/保持粒子粒径比、被検物質のサイズ、被検物質濃度などにより影響を受けると考えられる。
【0028】
粒子径に応じた、一般化した最適値について考察する。半径Rの球体Aに対し半径rの球体B(R≧r)が最大数接触した状態を仮定すると、B中心が形成する球表面積とB最大断面積から近似的にBの最大接触粒子数を推定すると、充填率(3次元球で最大で0.75程度、2次元円では最大0.9程度。本近似法ではRがrに比べ大きいほど0.9に近づく)をaとした場合、球体Aに対する球体Bの最大接触粒子数Xは以下のように近似することができる。
X=4a(r+R)2/r2
【0029】
この近似は抗原粒子、共鳴粒子、保持粒子の各間の最大接触粒子数の計算に用いることができ、反応時間、被検物質濃度により影響を受けるが、保持粒子数/共鳴粒子数比の最適値の推測に有用である可能性がある。
【0030】
保持粒子径=R、共鳴粒子径=rとした時、共鳴粒子数が保持粒子数の(4a(R+r)2)/r2倍であることが好ましい。a=0.75とした場合、共鳴粒子数が保持粒子数の(3(R+r)2)/r2倍であることが好ましい。
【0031】
2. 被検物質および検体
被検物質としては、おもに生体中のマーカーや病原性微生物が挙げられる。生体中のマーカーとは特定の疾患を検出するためのタンパク質、低分子化合物、脂質、糖等の物質をいう。検体としては、主に水相の検体または検体の緩衝液による希釈液等を用いることができる。検体としては、血清、血漿、血液、尿、唾液、組織液、髄液、咽頭若しくは鼻腔拭い液、咽頭若しくは鼻腔洗浄液、鼻腔吸引液等の体液等、糞便、糞便懸濁液、培養液などが挙げられる。被検物質のサイズは限定されないが、保持粒子より著しく大きい場合には本発明による検出感度上昇効果が小さくなることが予測される。また、共鳴粒子より保持粒子のサイズが小さい場合には本発明による検出感度上昇効果が小さくなることが予測される。これらより、共鳴粒子のサイズ<被検物質のサイズ<保持粒子のサイズ、あるいは被検物質のサイズ<共鳴粒子のサイズ<保持粒子のサイズであることが好ましい。
【0032】
3. イムノクロマト法
イムノクロマト法は公知のイムノクロマト法用デバイスを用いて公知の方法で行うことができる。イムノクロマト法用デバイスは、イムノクロマト法用試験片(ストリップ)とも呼び、ニトロセルロース、酢酸セルロース、ナイロン、ポリエーテルスルホン、ポリビニルアルコール、ポリエステル、ガラス繊維、ポリオレフィン、セルロース、これらの混合繊維からなる材質等でできた多孔性の吸水性の材質でできており、検体試料液が毛細管現象により移動し得る。メンブランの厚さは特に限定されないが、好ましくは100~200μm程度である。また、メンブランは長方形のストリップとして用い、その大きさは、特に限定されないが、通常、短辺×長辺が3mm~9mm×40mm~60mm程度である。イムノクロマト法用試験片は、検出部位、試料添加部位、吸収帯等を有し、標識部位を有していてもよい。検出部位は、検出すべき被検物質と特異的に結合して被検物質を捕捉し得る親和性物質が固定化されている。検出部位を捕捉部位と呼ぶこともある。本明細書において、イムノクロマト法用試験片の検出部位に固定化された親和性物質を検出部位固定化親和性物質と呼ぶことがある。試料添加部位は、検体試料液を添加する部位で、検体試料液をイムノクロマト法用試験片上に直接添加してもよいが、吸水性のある材質、例えばスポンジ、ガラス繊維などの不織布等のパッドを試験片上に設けその部分に添加してもよい。試料添加部位のパッドをサンプルパッドと呼ぶ。吸収帯は、吸収パッド部位とも呼び、本発明のイムノクロマト法用試験片の試料添加部位とは異なる一端に設けられ、試料添加部位に添加した後、試験片上を展開移動する試料液体を吸収することにより試験片上の試料液体の流れを促進する。吸収帯は、多量の液を吸収できるよう、吸水性の材質でできており、例えば、セルロース、ガラス繊維などでできた不織布等が用いられる。また、その大きさは、特に限定されないが、通常、短辺×長辺が3mm~15mm×10mm~40mm、厚さ0.5mm~3mm程度である。標識部位は、親和性物質結合保持粒子および/または親和性物質結合共鳴粒子が含有された部位である。標識部位は、吸水性の材質、例えばスポンジおよびガラス繊維などでできた不織布等の材質が用いられ、その大きさは、特に限定されないが、通常、短辺×長辺が3mm~10mm×3mm~10mm、厚さ0.5mm~3mm程度で、親和性物質結合保持粒子および/または親和性物質結合共鳴粒子が乾燥状態で含有されている。標識部位として上記の吸水性の材質に親和性物質結合保持粒子および/または親和性物質結合共鳴粒子を含有させて用いる場合、該標識部位をコンジュゲートパッドと呼ぶことができる。親和性物質結合保持粒子と親和性物質結合共鳴粒子は同じ標識部位に含有されていても、異なる標識部位に含有されていてもよい。
【0033】
また、親和性物質結合保持粒子と親和性物質結合共鳴粒子は、必ずしもイムノクロマト法用試験片上に含有されていなくてもよい。この場合、試験片上に標識部位は存在しない。また、親和性物質結合保持粒子と親和性物質結合共鳴粒子の一方のみが試験片上に含有されていてもよい。標識部位は、上記の吸水性の材質に親和性物質結合保持粒子および/または親和性物質結合共鳴粒子を含浸させ、乾燥させればよい。試験片上を検体試料液が試料添加部位から吸収帯に流れるときの試料添加部位側を上流、吸収帯側を下流とした場合、標識部位は、試料添加部位の下流であって、検出部位の上流に設ければよい。イムノクロマト法用試験片は、さらに対照表示部位が存在していてもよい。対照表示部位は試験が正確に実施されたことを示す部位である。例えば、対照表示部位は、検出部位の下流に存在し、検体試料が検出部位を通過し、対照表示部位に到達したときに着色等によりシグナルを発する。対照表示部には、粒子に結合させた被検物質に結合する親和性物質に結合する物質、例えば抗体を固定化しておいてもよいし、検体試料が到達したときに色が変化するpHインジケーター等の試薬を固定化しておいてもよい。
【0034】
本発明のイムノクロマト法は、以下の工程で被検物質の検出を行う。
本発明のイムノクロマト法においては、最終的に検出部位において、検出部位固定化親和性物質:被検物質:<親和性物質結合保持粒子:被検物質:親和性物質結合共鳴粒子>(「:」は結合を示す。「<>」でかこまれた部分は親和性物質結合保持粒子、親和性物質結合共鳴粒子のいずれかと被検物質が交互に結合し、これら3物質が枝状に結合している状態を指す。例えば、図1Bの保持粒子と共鳴粒子と被検出物質の複合体の状態である。検出部位固定化親和性物質に結合している被検物質と<親和性物質結合保持粒子:被検物質:親和性物質結合共鳴粒子>で示す被検物質が同じであっても異なっていてもよい。)で表される複合体(本明細書において、「検出部位において捕捉された被検物質粒子複合体」と呼ぶことがある)を形成させる。検出部位における表面プラズモン共鳴により共鳴粒子による特定波長付近の光の吸収が増加する。この共鳴粒子による特定波長付近の光の吸収は肉眼では呈色、それ以外では(非)吸収ピーク波長として表れ、これらを目視または検出装置により測定することにより、被検物質を検出することができる。この時、検出部位において捕捉された被検物質粒子複合体の最小単位は、保持粒子表面に被検物質を介して結合できる最大数の共鳴粒子が結合した複合体であることが高いシグナルを得る上で好ましく、これが被検物質を介して検出部位固定化親和性物質に結合している必要がある。
【0035】
例えば、検体試料中の被検物質を検出するイムノクロマト法においては、試験片上の試料添加部位に検体試料を添加することにより、毛管現象により、親和性物質結合保持粒子と親和性物質結合共鳴粒子を被検物質と一緒に試験片上を展開移動させる。この際、(1)親和性物質結合保持粒子を親和性物質結合共鳴粒子より先に展開移動させ、検出部位において、検出部位固定化親和性物質:被検物質:親和性物質結合保持粒子(「:」は結合を示す)で表される複合体を形成させ、次いで親和性物質結合共鳴粒子を展開移動させ、検出部位において被検物質粒子複合体を形成、表面プラズモン共鳴による共鳴粒子からのシグナルを検出すればよい。あるいは、(2)親和性物質結合保持粒子と親和性物質結合共鳴粒子を同時に展開移動させ、展開移動中に、<親和性物質結合保持粒子:被検物質:親和性物質結合共鳴粒子>(「:」は結合を示す。「<>」でかこまれた部分は親和性物質結合保持粒子、親和性物質結合共鳴粒子のいずれかと被検物質が交互に結合し、これら3物質が枝状に結合している状態を指す。例えば、図1Bの保持粒子と共鳴粒子と被検出物質の複合体の状態である。)で表される複合体を形成させつつ、最終的に検出部位において捕捉された被検物質粒子複合体を形成、表面プラズモン共鳴による共鳴粒子からのシグナルを検出すればよい。
【0036】
(1)の場合、イムノクロマト法用試験片の検出部位に、最初に検出部位固定化親和性物質:親和性物質結合保持粒子:被検物質(「:」は結合を示す)で表される複合体が形成され、その後に該複合体に親和性物質結合共鳴粒子が結合し、最終的に、検出部位において捕捉された被検物質粒子複合体が形成される。(1)の場合、最初に親和性物質結合保持粒子と検体を混合し該混合液(第1液)を試験片の添加部位に添加し、イムノクロマト法用試験片上を展開移動させ、その後に親和性物質結合共鳴粒子を含む液体(第2液)をイムノクロマト法用試験片の添加部位に添加し展開移動させればよい。図1に(1)のモデルの複合体形成の模式図を示す。図1においては、イムノクロマト法用試験片の検出部位に固定化する親和性物質、ならびに保持粒子および共鳴粒子に結合させる親和性物質として抗体を用いている。図1Aは、第1液を添加したときの反応を示し、検出部位に抗体結合保持粒子:被検物質:検出部位捕捉抗体の複合体(「:」は結合を示す)が形成される。図1Bは、抗体結合共鳴粒子を含む第2液を添加したときの反応を示し、検出部位に最終的な複合体が形成される。図1において、抗体結合保持粒子、抗体結合共鳴粒子および検出部位捕捉抗体の抗体は同じものであっても、異なるものであってもよい。
【0037】
(2)の場合、親和性物質結合保持粒子と親和性物質結合共鳴粒子と被検物質を含む検体を混合し、該混合物をイムノクロマト法用試験片の試料添加部位に添加すればよい。あるいは、親和性物質結合保持粒子および親和性物質結合共鳴粒子をイムノクロマト法用試験片上の同じ標識部位または異なる標識部位に含有させておき、添加した検体試料により親和性物質結合保持粒子と親和性物質結合共鳴粒子を被検物質と共に展開移動させればよい。図2に(2)のモデルの複合体形成の状態を示す。展開移動中に、図2A、BおよびCで表される複合体、あるいはこれらがさらに被検物質を介して結合した複合体が形成され、これらの複合体がイムノクロマト法用試験片の検出部位において捕捉される。本発明のイムノクロマト法では、イムノクロマト法用試験片の検出部位に形成させる複合体として、図2Cの複合体が好ましい。図2において、抗体結合保持粒子、抗体結合共鳴粒子および検出部位捕捉抗体の抗体は同じものであっても、異なるものであってもよい。
【0038】
なお、親和性物質結合保持粒子の内部または表面の一部にあらかじめ親和性物質を結合させていない共鳴物質を存在させておき、さらに、この親和性物質結合保持粒子に親和性物質結合共鳴粒子を結合させてもよい。この場合、親和性物質結合保持粒子にあらかじめ含まれる共鳴粒子に加え、後で試験片に添加した親和性物質結合共鳴粒子がさらに親和性物質結合保持粒子に結合するため、親和性物質結合保持粒子上の共鳴粒子の集積度が大きくなるので、表面プラズモン共鳴により発生するシグナルはより増感されるので、被検物質をより高感度で検出することができる。
【0039】
親和性物質結合保持粒子および/または親和性物質結合共鳴粒子を含む液および試薬を展開移動させるための展開液は、非特異反応を抑制する高分子やタンパク質、緩衝剤、界面活性剤を含有させることが好ましい。含有させる緩衝剤は、試料の添加や濃度の変化、異物の混入によって検出に致命的な影響を生じない緩衝作用を持つものであれば制限はない。好ましくはHEPES緩衝液、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、トリス塩酸緩衝液等であり、特に好ましくは、トリス塩酸緩衝液である。
【0040】
本発明は、被検物質に対する親和性物質を結合させた保持粒子および被検物質に対する親和性物質を結合させた共鳴粒子を含む、イムノクロマト法用キットをも包含する。該キットは、さらに、イムノクロマト法用の試験片、ブロッシャー、緩衝液等を含む。前記の親和性物質結合保持粒子および親和性物質結合共鳴粒子は、イムノクロマト用法試験片とは別の試薬として含まれていてもよいし、イムノクロマト法用試験片の標識部位に含まれていてもよい。
【0041】
本発明は被検物質に対する親和性物質を結合させた保持粒子および被検物質に対する親和性物質を結合させた共鳴粒子を含む、イムノクロマト法用試験片も包含する、該試験片において、被検物質に対する親和性物質を結合させた保持粒子および被検物質に対する親和性物質を結合させた共鳴粒子を標識部位に含まれる。
【実施例
【0042】
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0043】
<実施例1>
試験方法
共鳴粒子として直径20nmの金コロイド粒子(BBI社、イギリス)および保持粒子として直径400nmの白色ラテックス粒子(JSR社、日本)を購入した。それぞれの粒子にはノロウイルスに対する抗体を固定した。
【0044】
イムノクロマト法用ストリップ(白色)は、検出部位にノロウイルスに結合する捕捉抗体を固定し、ポジティブコントロールとして抗マウス抗体をその下流の対照表示部位にそれぞれライン状に固定した。一定濃度の金コロイド粒子、様々な濃度のラテックス粒子、および被検物質であるノロウイルスVLPを1.5%Tx-100含有トリス緩衝液中で混合し、イムノクロマト法用ストリップを直ちに浸し、混合液をイムノクロマト法用ストリップ上に展開移動させた。15分後にサンプルパッド(溶液に接触させる材料部)を切断し、検出エリアについて画像スキャン、得られた画像について図3で示す通り、画像処理ソフトImageJで解析、得られたシグナルピーク面積値について統計ソフトRで有意差検定を行った。
【0045】
試験結果
図3に、一定の金コロイド濃度に対して様々な濃度の白色ラテックス粒子を混合させた際のピーク面積を示す。バーはSDを表し、「+」はControlに対し有意の差をもつことを指す(Dunnett's test; p<0.05)。
【0046】
図3に示す通り、保持粒子数/共鳴粒子数比が3×10-5において有意にシグナルの増加が認められた。
【0047】
考察
白色ラテックス粒子はイムノクロマト法用ストリップと同色であり、本実施例においては検出感度に直接的には貢献しない。そのため、ピーク付近での感度の上昇は白色ラテックス上に金コロイドが密集し、表面プラズモン共鳴の効果を増幅することにより起こったと考えられる。
【0048】
ピーク値より左側は最適値に比べ感度の低下がみとめられるが、これは最適値より白色ラテックス粒子の割合が高い場合であり、表面プラズモン共鳴の低下、立体障害による金コロイド表面抗体の結合阻害や物理的に白色ラテックス裏側にある金コロイドを観測視野から隠してしまうなどの効果により感度が低下したと考えられる。
【0049】
共鳴粒子/保持粒子数比の最適値は1/12より小さい。この理由としては共鳴粒子/保持粒子粒径比が1より離れていることが第一に考えられる。保持粒子に対し共鳴粒子が接することができる最大数Xをa=0.9として再計算すると、X=4a(r+R)2/r2=1587となり、保持粒子数/共鳴粒子数比最適値は1/1587以下となり本実施例の結果もそれを満たす。本実施例の結果において最適比率がこれよりさらに小さくなった理由としてはウイルス粒子粒径が金コロイド粒子粒径の約2倍であることや、限られた抗原濃度、限られた反応時間などが考えられる。以上の結果より、特定の共鳴粒子/保持粒子数比において共鳴粒子を保持粒子と混合させることにより、共鳴粒子単独より感度が上昇することが明らかとなった。
【0050】
また、本実施例では表面プラズモン共鳴の効果をみるために白色ラテックスを用いたが、共鳴粒子と着色あるいは蛍光色素標識された保持粒子の様々な組み合わせで更なる感度の上昇が可能である。
【0051】
<実施例2>
試験方法
ストレプトアビジンがライン状に固相されたメンブランを用いて、イムノクロマト法を行った。ビオチン化インフルエンザウイルス抗体固相ラテックス粒子(青)、インフルエンザウイルス抗体固相金コロイド粒子(赤)、不活化インフルエンザウイルスを含む1.5%Tx-100含有トリス溶液にメンブランを含浸させた。ネガティブコントロールにはラテックス粒子、金コロイド粒子、ウイルスのいずれかを除いたものを用いた。
【0052】
試験結果
図4に、試験結果を示す。
図4に示す通り、ストレプトアビジン:ビオチン化インフルエンザウイルス抗体固相ラテックス粒子:不活化インフルエンザウイルス:インフルエンザウイルス抗体固相金コロイド粒子(:は結合を示す)複合体の紫色のラインが観察された。ネガティブコントロールは、着色ラインが観察されないか、あるいは青色のラインが観察された。
【0053】
考察
保持粒子と共鳴粒子が被検物質を介して結合していることが示唆された。
インフルエンザウイルスを被検物質として用いた際、本発明が実施可能であることが示唆された。
【0054】
<実施例3>
試験方法
ストレプトアビジンがライン状に固相されたメンブランを用いて、イムノクロマト法を行った。ビオチン化ノロウイルス抗体固相ラテックス粒子(赤)、ノロウイルス抗体固相金コロイド粒子(赤)、ノロウイルスvirus like particleを含む1.5%Tx-100含有トリス溶液にメンブランを含浸させた。ネガティブコントロールにはラテックス粒子、金コロイド粒子、ウイルスのいずれかを除いたものを用いた。
【0055】
試験結果
図5に、試験結果を示す。
図5に示す通り、ストレプトアビジン:ビオチン化ノロウイルス抗体固相ラテックス粒子:ノロウイルスvirus like particle:ノロウイルス抗体固相金コロイド粒子(:は結合を示す)複合体形成により、複合体を形成しなかった場合に比べ高いシグナルが検出された。
【0056】
考察
共鳴粒子が被検物質を介して保持粒子に結合することにより、検出シグナルが高くなることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明のイムノクロマト法は、被検物質の高感度の検出に利用することができる。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。
図1
図2
図3
図4
図5