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<図1>
  • 特許-癌治療向け電子放射体 図1
  • 特許-癌治療向け電子放射体 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-29
(45)【発行日】2023-10-10
(54)【発明の名称】癌治療向け電子放射体
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/10 20060101AFI20231002BHJP
【FI】
A61N5/10 E
A61N5/10 U
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020543758
(86)(22)【出願日】2019-02-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-06-03
(86)【国際出願番号】 US2019017821
(87)【国際公開番号】W WO2019160931
(87)【国際公開日】2019-08-22
【審査請求日】2022-02-03
(31)【優先権主張番号】62/631,734
(32)【優先日】2018-02-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】501010395
【氏名又は名称】ウエスチングハウス・エレクトリック・カンパニー・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100091568
【弁理士】
【氏名又は名称】市位 嘉宏
(72)【発明者】
【氏名】ヘイベル、マイケル、ディー
【審査官】和田 将彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2001/070336(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2002/0133220(US,A1)
【文献】特表2002-529160(JP,A)
【文献】特開2017-101930(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物の体内(12)の限局性癌細胞(22)の治療システムであって、
第1の物質(26)と、その外層の原子番号が大きい第2の物質(28)とを含み、中性子照射場(30)に曝されていないときは実質的に非放射性であるが当該中性子照射場(30)に曝されると電離放射線の線源となり、身体(12)内の癌細胞(22)の近傍に定置される治療線源(10)と
中性子場(30)を形成することにより、所定の期間にわたり体外から当該治療線源(10)を所与の強さ以上の中性子場(30)で照射する照射ステップを実行し、当該照射ステップを所定の間隔で繰り返すように構成されている少なくとも1つの電気式中性子発生器(32)とを含み、
当該第1の物質がホウ素10またはハフニウムを含むものであり、
当該第2の物質が白金、金またはそれらの組み合わせである、
限局性癌細胞(22)の治療システム
【請求項2】
中性子を実質的に透過させるが前記電離放射線の少なくとも一部を遮蔽する放射線遮蔽材が、前記治療線源(10)の前記癌細胞(22)とは反対側の面に形成されている、請求項の限局性癌細胞(22)の治療システム
【請求項3】
前記放射線遮蔽材がアルミニウムより成る、請求項の限局性癌細胞(22)の治療システム
【請求項4】
記治療線源(10)は水に溶解せず、無毒である前記請求項のうちいずれか一項の限局性癌細胞(22)の治療システム
【請求項5】
前記少なくとも1つの電気式中性子発生器(32)は所望の中性子エネルギーに応じて前記身体(12)からの距離を変えられるように構成されている、前記請求項のうちいずれか一項の限局性癌細胞(22)の治療システム
【請求項6】
前記電気式中性子発生器装置(32)は、前記治療線源(10)に中性子をさまざまな角度から照射するために身体(12)の周囲に配置された複数の電気式中性子発生器(32)により構成されている、請求項の限局性癌細胞(22)の治療システム
【請求項7】
前記治療線源(10)が発生する電離放射線を最適化するように中性子エネルギーを調節するために、前記少なくとも1つの電気式中性子発生器(32)と前記治療線源(10)との間に中性子減速材(16)さらに含む、前記請求項のうちいずれか一項の限局性癌細胞(22)の治療システム
【請求項8】
前記中性子減速材(16)はDOまたはCより成る、請求項の限局性癌細胞(22)の治療システム
【請求項9】
前記治療線源(10)は厚さがミクロン単位の1つ以上の非常に薄いディスクまたはプレートにより構成され、その総合表面積が前記癌細胞(22)の周囲に定置されて前記中性子照射場(30)に曝されると、前記電離放射線が前記限局性癌細胞(22)の塊全体に影響を及ぼすに十分な大きさであることを特徴とする、請求項1の限局性癌細胞(22)の治療システム
【請求項10】
前記治療線源(10)の中性子照射に伴う生成物が放出するガンマ線の強度をガンマ線スペクトロメータ(18)により監視するとともに、当該中性子照射時の荷電粒子の生成速度を監視する請求項1の限局性癌細胞(22)の治療システム
【請求項11】
前記第1の物質(26)がホウ素10を含むCより成る、前記請求項のうちいずれか一項の限局性癌細胞(22)の治療システム
【請求項12】
前記第1の物質(26)がハフニウムより成る、前記請求項のうちいずれか一項の限局性癌細胞(22)の治療システム
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、米国特許法第119条(e)の下で、「THERAPEUTIC ELECTRON RADIATOR FOR CANCER TREATMENT」と題する2018年2月17日に出願された米国仮特許出願第62/631,734号に基づく優先権を主張する。当該出願の内容は、その全体が参照によって本願に組み込まれている。
【0002】
本発明は概して癌治療に関し、具体的には、限局性の高い癌細胞の治療に関する。
【背景技術】
【0003】
人体における腫瘍のような限局性の高い癌細胞の電離放射線による治療は、かなり効果があることが証明されている。しかし、電離放射線は、人体にあてると、通常は、意図した標的部位に到達する前に正常組織を通過するため、正常組織に損傷を与える。そのため、一回の放射線照射により腫瘍が受ける損傷を減らそうとすると、複数回の治療が必要となり、潜在的に有害な生物学的影響が蓄積されるとともに、治療費用がかさむことになる。治療が不十分で、正常細胞の損傷の修復が腫瘍の成長および/または転移に追いつかない場合、患者は癌腫により死亡する可能性が高い。したがって、周囲の正常組織への影響を最小限に抑えながら癌組織を攻撃する新しい治療法が望まれる。
【0004】
ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)は、上記のニーズに応える可能性のある治療法として研究されてきたが、これまでのところ、放出される放射線の治療範囲が狭いため有効でないことがわかっている。そこで解決すべき課題は、中性子を発生させて打ち込むホウ素中性子捕捉療法の手法をいかにして上手く利用し、放出される放射線の治療範囲を拡大するかである。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、動物の体内の限局性癌細胞の治療方法を提供することで癌の放射線治療における有害な影響を克服する。この方法は、所与の強さを下回る中性子照射場では実質的に非放射性であるが、所与の強さ以上の中性子照射場では電離作用は強いが透過性の低い放射線(高エネルギー電子より成る)の線源となる治療線源を体内の癌細胞の近傍に定置するステップを含む。この定置ステップは、当該治療線源物質を当該癌細胞に接するように外科的に埋め込むのが好ましい。当該治療線源は、体外から所定期間にわたり所与の強さ以上の中性子場の照射を受けるが、この照射ステップが所定の間隔で繰り返される。本発明は、放出される放射線のエネルギーと範囲を拡大するために照射標的として働く治療線源の設計および動作に焦点を当てたものである。
【0006】
好ましい一実施態様において、当該装置は、電子式中性子発生器により中性子を発生させ、当該中性子は、ホウ素10(B-10)と相互作用してヘリウムイオンおよびリチウムイオンを発生させる。B-10物質は、原子番号の大きい白金や金などの原子から成る非常に薄い層で囲まれている。ヘリウムイオンとリチウムイオンは発生時に大きな運動エネルギーを有するが、当該物質の周囲の層中の高密度の電子雲と衝突すると、高エネルギーのコンプトン電子および散乱光電子を大量に発生させる。放出された電子は、エミッタパッケージに隣接しているか、またはエミッタパッケージを取り囲む癌組織の照射に利用できる。電子式中性子発生器システムの電源を切ると、照射が停止する。放出された電子が患者組織内の或る透過深度および/または好ましい照射方向に加速されるように電場および/または磁場を印加することにより、放出された電子の効果をさらに制御する。
【0007】
別の実施態様において、この装置は、電子式中性子発生器によりハフニウムのような物質と相互作用して即発中性子捕獲ガンマ線を発生させる確率が高いエネルギーを有する中性子を発生させ、このガンマ線が癌細胞に直接照射され、また、このガンマ線によって生成されるコンプトン電子および光電子が癌細胞に照射されるようにする。これを実現するために、ハフニウム物質を、原子番号の大きい白金や金などの原子から成る非常に薄い層で取り囲む。ハフニウムは、中性子を吸収するとすぐに、かなり高エネルギーのガンマ光子を放出する。ガンマ線は、主にガンマ光子の範囲内で、比較的放射線に敏感な癌細胞を破壊する。この結果得られるハフニウム同位体は一般的に放射性ではないため、ハフニウムの娘生成物が中性子を吸収しない限り、それ以上の放射線は放出されない。ガンマ光子による損傷に加えて、ガンマ線が物質の周囲の層内の密集した電子の雲に衝突すると、高エネルギーのコンプトン電子および散乱光電子が大量に発生する。また、放出された電子がエミッタパッケージの近くまたはその周囲の癌組織に照射されるため、悪性の細胞が破壊される確率がはるかに高くなる。エミッタパッケージは、癌組織内に直接、または癌組織に隣接して配置できるように、多くの形状およびサイズに構成することができる。エミッタ物質は、中性子が照射されない限り放射性にならないので、配置時に人体が被曝することはない。電子式中性子発生器システムの電源を切ると、照射が停止する。放出された電子を患者組織内の或る透過深度および/または好ましい照射方向に加速されるように電場および/または磁場を印加することにより、放出された電子の効果をさらに制御する。
【0008】
電離作用は強いが透過性の低い放射線を出す当該治療線源は、実質的に癌細胞だけを照射するように構成するのが好ましい。それを実現するために、当該治療線源の癌細胞とは反対側の面に放射線遮蔽材を形成する。当該治療線源に中性子を照射するステップは、Neutristorのような電気式中性子発生器により中性子を当該治療線源に照射するステップを含むのが好ましい。そのような一実施態様は、身体の周囲に配置された複数の電気式中性子発生器を使用して中性子を当該治療線源にさまざまな角度から照射する。
【0009】
本願の方法はまた、当該電気式中性子発生器と当該治療線源との間に中性子減速材を配置して、当該治療線源が発生する当該電離作用は強いが透過性の低い放射線を最適化するように中性子エネルギーを調節するステップを含むことができる。当該中性子減速材は、DO、C、または同様の減速特性を有する他の物質でもよい。当該中性子減速材は、体外であって該電気式中性子発生器と身体との間に配置する。
【0010】
いずれの実施態様においても、当該治療線源を当該限局性癌細胞の治療の合間も体内に留置し、治療完了後に体内から取り出せばよい。当該治療線源は、ミクロン単位の厚さを有する1つ以上の非常に薄いディスクまたはプレートにより構成され、その総合表面積は当該癌細胞の周囲に定置されて中性子照射場に曝されたときに、限局性癌細胞の塊全体が電離作用は強いが透過性の低い当該放射線の影響を確実に受けるような十分な大きさである。
【0011】
本願の方法はまた、当該治療線源物質への中性子照射による副生物として放出されるガンマ線の強度をガンマ線スペクトロメータにより監視するステップを含むことができ、当該中性子照射時の荷電粒子の生成速度を監視することができる。当該ガンマ線強度および当該中性子照射場の中性子線強度を監視することにより、身体が受ける放射線量を突き止めることができる。本願の方法はまた、監視をする当該ガンマ線強度および当該放射線量に基づいて当該中性子照射場の強さを制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
本発明の詳細を、好ましい実施態様を例にとり、添付の図面を参照して以下に説明する。
【0013】
図1】本発明の方法の一実施態様に使用できる装置の概略図である。
【0014】
図2】本発明の一実施態様に基づく治療線源物質の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、被験者、ヒト、人間または患者(これらの用語は本願では互換的に使用される)を含めた動物の体内にある限局性癌細胞を治療するための、治療線源および照射線源を含むシステムおよび方法を含む。治療線源は、患者の体内に、もっと詳しくは癌細胞のある場所またはその近傍に配置されるかまたは埋め込まれる。或る特定の実施態様において、治療線源は、癌細胞の上または癌細胞に隣接する場所に置かれる。治療線源は、厚さ約1ミクロンのディスク(1つ以上)またはプレート(1つ以上)または針(1つ以上)を有する1つ以上の装置を含む。当該1つ以上のディスクまたはプレートまたは針は、それぞれが単独でまたは協働して、限局性癌細胞の塊全体に放出する放射線の影響を確実に与えるに十分な表面積を有する。治療線源は、高エネルギー荷電粒子を生成する物質で組成または構成されている必要がある。適切な物質は、水に溶解せず無毒である。この物質の中性子反応生成物もまた、患者に対して無毒で、半減期が非常に短いものでなければならない。
【0016】
治療線源は、しきい値レベルの中性子の照射を受けなければ実質的に非放射性であるが、しきい値レベルを超える中性子照射場に曝されると電離作用は強いが透過性の低い放射線(粒子)の線源となる第1の物質から構成される。このしきい値レベルは、ゼロでも、所定の強度レベルでもよい。この第1の物質の少なくとも一方の面に第2の物質が付着している。第2の物質は原子番号が大きい。随意的に、第1の物質の2つの面に第2の物質を付着させてもよい。治療線源または照射標的は、治療に大きな柔軟性を与えるように、針やディスクのような任意の数の形状に構成することができる。
【0017】
一実施態様では、照射標的の第1の物質はホウ素10を含み、第2の物質は白金または金のような原子番号の大きい元素を含む。B-10は、熱化された中性子を吸収すると、高エネルギーのヘリウムイオンとリチウムイオンに分裂する。これらの原子核のかなりの割合が、白金や金の原子を取り囲む電子雲と衝突する。その結果、MeV単位のエネルギー範囲で多くのコンプトン電子と散乱光電子が放出される。これらの電子は、現行のBCNT法の基礎を成すHeイオンおよびLiイオンよりもはるかに透過性が高い。ガンマ線治療に比べて生成される電子のエネルギー範囲が非常に小さいため、癌部を取り囲む正常組織への損傷が最小限に抑えられる。ホウ素電子放射体標的(BERT)は、治療に大きな柔軟性を与えるように針やディスクのような多数の形状に構成することができる。
【0018】
別の実施態様では、照射標的の第1の物質はハフニウム金属を含み、第2の物質は白金または金のような原子番号の大きい元素である。ハフニウムは、中性子を吸収するとすぐに、平均エネルギーが約6MeVのガンマ光子を放出する。この光子のかなりの割合が、白金や金の原子を取り囲む電子雲と衝突する。その結果、数MeVのエネルギー範囲で多くのコンプトン電子と散乱光電子が放出される。ガンマ線治療に比べて生成される電子のエネルギー範囲が非常に小さいため、癌部を取り囲む正常組織への損傷が最小限に抑えられる。パルス中性子捕捉ガンマ線(PNCG)放射体の標的は、治療に大きな柔軟性を与えるように針やディスクのような多数の形状に構成することができる。
【0019】
治療線源物質(本願では互換的に照射標的と呼ぶ)は、多数の商業的に利用可能な作製技術によって成形されるが、線源物質の癌腫とは反対側の少なくとも一方の面を、中性子を実質的に透過させるが、癌腫の周りの正常組織を電離作用の強い粒子の少なくとも一部から遮蔽する遮蔽材で覆うのが好ましい。適切な材料として、アルミニウムのような軽金属や、同様の遮蔽特性を有する物質が挙げられる。治療用遮蔽材の存在と治療線源の構成/配置は、癌細胞のみを照射し、正常細胞は照射しないようにする効果がある。
【0020】
本発明はまた、小型の電動式高速中性子発生器アレイを含む。この中性子発生器は随意的に、サンディア国立研究所が開発し、G.Jennings、C.Sanzeni、D.R.Winn著の「Novel Compact Accelerator Based Neuron and Gamma Sources for Future Detector Calibration」と題するSnowmass 2013白書(フェアフィールド大学、Fairfield CT 06824)に記述された「Neutristor」の設計に類似した構成を有し、線源を患者に埋め込んだ後に治療線源に中性子場を照射形成するために使用することができる。このアレイは、被験者の身体の他の部分を中性子に過度に曝すことなく中性子反応速度を最大にするに十分な中性子線強度を線源位置で得るために必要な構成にするのが理想的である。このアレイの理想的な幾何学的構成は、中性子がさまざまな角度で癌腫に入射して、アレイの各発生器から最大数の十分に熱化された中性子が標的部位に到達するような構成である。これは、中性子源アレイの幾何学的構成とともに、中性子源アレイと照射標的との間に配置される中性子減速体の中性子減速材の厚さを変えることによって達成できる。最適な条件の確立に必要な計算は、当業者であれば、ロスアラモス国立研究所が提供するMCNPなど多数のさまざまな市販の中性子輸送計算製品を用いて行うことができる。
【0021】
随意的に、中性子減速体は、照射される組織と整合するような幾何学的構成を有し、各中性子発生器装置と治療線源または照射標的との間に配置する必要のある十分な量のDOまたはCのような物質を含み、治療線源または照射標的との中性子反応による荷電粒子の発生にとって最適なエネルギーを有する中性子の数を最大化するという目標を達成するように独自に調整される。
【0022】
中性子反応によって生成される標的同位体から放出されるガンマ線の強度を測定するガンマ線スペクトロメータを提供することにより、中性子照射時の荷電粒子の生成速度を監視できるようにするのが望ましい。これは、多数の市販の装置によって達成できる。
【0023】
コンピュータ制御システムは、測定されたガンマ線強度および/または中性子発生器の動作状態から患者に照射された放射線量を突き止め、目標線量と比較する。制御システムは、ガンマ線強度と線量の測定値に基づいて、アレイ中の任意のまたはすべての中性子発生器により提供される中性子線の強度を増減させる能力がある。
【0024】
また、中性子発生器と中性子減速体の幾何学的関係と組み合わせて中性子発生器の出力を変化させることにより、中性子照射量を所望の治療効果に応じて調整することもできる。同様に、照射時間も調整可能である。
【0025】
図1は、本発明に基づく限局性の高い癌細胞を治療するためのシステムを示す。このシステムが使用する1つ以上の治療線源物質10(図2)は、中性子照射場に曝されると、限局性癌細胞の塊全体が放出される放射線の影響を確実に受けるような十分な表面積を有する。一実施態様において、治療線源物質10は、1つ以上の装置が患者12の体内に腫瘍組織22に近接して、好ましくは腫瘍組織22に隣接して埋め込まれ、電子式中性子発生器装置14から中性子30を照射されると、限局性癌細胞の塊全体が放出される放射線の影響を確実に受けるような十分な表面積を有する非常に薄い(例えばミクロン単位の厚さの)ディスクまたはプレートにより構成される。使用する治療線源物質10は、高エネルギー荷電粒子を生成するものが好ましい。治療線源物質10は、水に溶解せず、毒性があってはならない。治療線源物質10の中性子反応生成物もまた、被験者にとって無毒で、半減期が非常に短いものである必要がある。
【0026】
図1はまた、治療線源物質10とも呼ばれる照射標的10の設計の一実施態様を略示している。同図に示す中性子発生器装置14は、患者12からの距離と中性子減速体16(典型的には柔軟な減速材から作られる)との組み合わせによって、照射標的10の場所に中性子エネルギーおよび線量分布を提供するように構成可能な中性子発生器32のアレイより成る。この中性子減速体は、例えば、中性子発生器装置14と患者12との間に配置された特別な形状のプラスチック容器に入れられた、すなわち、照射対象の腫瘍組織22の輪郭に合うように構成された、水素含有量の多い物質またはさまざまな量の重水素の塊のようなものである。
【0027】
図2に示すように、治療線源物質10は、しきい値レベルの中性子に照射されなければ実質的に非放射性であるが、しきい値レベルを超える中性子照射場に曝されると電離作用が強く透過性の低い放射線(粒子)の線源となる第1の物質26より成る。このしきい値レベルは、ゼロでも、所定の強度レベルでもよい。第1の物質26の少なくとも一方の面には第2の物質28が付着している。第2の物質28は原子番号が大きい。随意的に、第1の物質26の2つの面に第2の物質28を付着させてもよい(図2)。治療線源物質10や照射標的10は、治療に大きな柔軟性を与えるために針やディスクのような任意の数に形状に構成することができる。
【0028】
一実施態様では、照射標的10の第1の物質26は、白金または金のような原子番号の大きい第2の物質28の非常に薄い(厚さ1μm)シートに挟まれた、大部分がホウ素10から成るBCの薄層(1μm)で構成されている。
【0029】
別の実施態様では、照射標的10の第1の物質26は、白金または金のような原子番号の大きい物質28の非常に薄い(厚さ1mm)シートに挟まれた天然ハフニウム金属の薄層(1mm)から構成されている。
【0030】
埋め込まれて中性子の照射を受ける治療線源物質10(すなわち照射標的10)は、多数の商業的に利用可能な作製技術によって成形可能であり、線源物質の癌腫とは反対側の少なくとも一方の面を、中性子を実質的に透過させるが、癌腫の周りの正常組織を電離作用の強い粒子の少なくとも一部から遮蔽する遮蔽材で覆うのが好ましい。そのような遮蔽材は、アルミニウムなどの軽金属で構成してもよい。
【0031】
治療線源物質10が患者に埋め込まれたら、小型の電動式高速中性子発生器32のアレイを使用して治療線源物質10に中性子場を照射形成することができる。このアレイは、被験者の身体の他の部分に中性子を過度に照射することなく中性子反応速度を最大にするに十分な中性子線強度を線源位置で得るために必要な構成にするのが理想的である。このアレイの理想的な幾何学的構成は、中性子がさまざまな角度で癌腫に入射して、アレイの各発生器から最大数の十分に熱化された中性子30が標的部位に到達するような構成である。これは、中性子源アレイの幾何学的構成とともに、中性子源アレイと照射標的10との間に配置される中性子減速体16の中性子減速材の厚さを変えることによって達成できる。
【0032】
好ましくは、中性子減速体16は、照射される組織と整合するような幾何学的構成を有し、各中性子発生器装置14と治療線源または照射標的10との間に配置する必要のある十分な量のDOまたはCのような物質を含み、治療線源または照射標的10との中性子反応による荷電粒子の発生にとって最適なエネルギーを有する中性子30の数を最大化するという目標を達成するように独自に調整される。
【0033】
中性子反応によって生成される標的同位体から放出されるガンマ線の強度を測定するガンマ線スペクトロメータ18を提供することにより、中性子照射時の荷電粒子の生成速度を監視できるようにするのが望ましい。これは、多数の市販の装置によって達成できる。
【0034】
コンピュータ制御システム20は、測定されたガンマ線強度および/または中性子発生器32の動作状態から患者12に照射された放射線量を突き止め、目標線量と比較する。制御システム20は、ガンマ線強度と線量の測定値に基づいて、アレイ中の任意のまたはすべての中性子発生器32により提供される中性子線の強度を増減させる能力がある。
【0035】
また、中性子発生器32と中性子減速体16の幾何学的関係と 組み合わせて中性子発生器の出力を変化させることにより、中性子照射量を所望の治療効果に応じて調整することもできる。同様に、照射時間も調整可能である。
【0036】
随意的に、電場プレート24により外部電場および/または外部磁場を操作して、照射標的10から放出される電子の運動エネルギーおよび主要な移動方向を変えると、患者に照射される線量の制御性を改善することができる。一例として、振動電場を印加することにより、放射された電子を、ガンマ光子が金または白金の電子と衝突することによって与えられる運動エネルギーにより規定される範囲を超えて加速するか、またはその範囲から抑制することができる。外部磁場を印加して、放出された電子の密度をエミッタ要素の近くにまたは遠くに集中させることができる。
【0037】
本願に記載した癌腫の治療方法および治療システムは、所望の領域に限られた量の放射線治療用堆積物を形成する化合物を注射するのではなく、非放射性の標的を作製して腫瘍の中またはその周辺に埋め込む点で、他種の放射線治療法とは異なる。元々非放射性であった物質を病院の環境内で中性子によって活性化させるこのシステムの能力は、荷電粒子による癌治療の恩恵を最大化するとともに、望ましくない支出および患者と介護者の放射線被曝を最小限に抑える。この方法により、非常に精密かつ効率的に癌細胞を破壊できる。さらに、患者の全身放射線量を増加させずに、腫瘍が完全に死滅するまで標的線源を体内に留置することができる。複数回の照射を比較的容易に実施できる。Neutristor型中性子発生器を使用すれば、原子炉や非常に大きな中性子源の設置場所ではなく、病院の環境内で治療を行うことが可能になる。これにより、既存の放射線治療法に比べて治療費が大幅に抑えられる(または治療による収益性が大幅に向上する)。
【0038】
本発明の特定の実施態様について詳しく説明してきたが、当業者は、本開示書全体の教示するところに照らして、これら詳述した実施態様に対する種々の変更および代替への展開が可能である。したがって、ここに開示した特定の実施態様は説明目的だけのものであり、本発明の範囲を何ら制約せず、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲に記載の全範囲およびその全ての均等物を包含する。
図1
図2