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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-29
(45)【発行日】2023-10-10
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用表面処理銅箔
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/66 20060101AFI20231002BHJP
   C25D 7/06 20060101ALI20231002BHJP
   C25D 5/16 20060101ALI20231002BHJP
   C25D 5/14 20060101ALI20231002BHJP
   H01M 10/0585 20100101ALI20231002BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20231002BHJP
【FI】
H01M4/66 A
C25D7/06 A
C25D5/16
C25D5/14
H01M10/0585
H01M10/052
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021045859
(22)【出願日】2021-03-19
(65)【公開番号】P2021150293
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2022-05-16
(31)【優先権主張番号】16/825,658
(32)【優先日】2020-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】591057290
【氏名又は名称】長春石油化學股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鄭 桂森
(72)【発明者】
【氏名】頼 耀生
(72)【発明者】
【氏名】周 瑞昌
【審査官】上野 文城
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-186649(JP,A)
【文献】特開2018-109226(JP,A)
【文献】特開2018-109227(JP,A)
【文献】国際公開第2008/132987(WO,A1)
【文献】特許第6193534(JP,B2)
【文献】韓国公開特許第10-2019-0025273(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/66
C25D 7/06
C25D 5/16
C25D 5/14
H01M 10/0585
H01M 10/052
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一面及びその反対側の第二面を有する銅箔と、
二つの処理層であって、一つの処理層は前記第一面に配置され、もう一つの処理層は前記第二面に配置され、かつ各処理層は処理面を提供する二つの処理層と、
を含み、
前記処理面は、1.2μm~4.6μmの範囲にある十点平均粗さRz及び490,000~1,080,000mm-2の範囲にあるピーク密度(Spd)を示し、
各処理層のクロム含有量は、25~70μg/dm2の範囲である、
リチウムイオン二次電池用の集電体に使用される表面処理銅箔。
【請求項2】
前記処理面は、1.5μm~3.4μmの範囲にある十点平均粗さRzを示す、請求項1に記載の表面処理銅箔。
【請求項3】
前記処理面は、490,000~950,000mm-2のSpdを示す、請求項1または2に記載の表面処理銅箔。
【請求項4】
前記処理面は、490,000~900,000mm-2のSpdを示す、請求項1~3のいずれか一項に記載の表面処理銅箔。
【請求項5】
各処理層のクロム含有量は、25~60μg/dm2である、請求項1~4のいずれか一項に記載の表面処理銅箔。
【請求項6】
36kg/mm2~60kg/mm2の範囲にある引張強度(TS)及び45%未満の引張強度低減(TSR)をさらに示し、前記TSRは下記のように定義され、
【数1】
ここで、TSaは、前記表面処理銅箔が140℃で10分間焼鈍された後の残留引張強度である、
請求項1~5のいずれか一項に記載の表面処理銅箔。
【請求項7】
前記表面処理銅箔は10%未満のTSRを示す、請求項6に記載の表面処理銅箔。
【請求項8】
各処理層は、ノジュール層及び防錆層を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の表面処理銅箔。
【請求項9】
前記銅箔は電解銅箔である、請求項1~8のいずれか一項に記載の表面処理銅箔。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の表面処理銅箔と、少なくとも前記処理面の一部に塗布された活物質を含む、リチウムイオン二次電池。
【請求項11】
前記銅箔は、前記第一面に対応するドラム面と、前記第二面に対応する沈積面とを有する電解銅箔である、請求項10に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項12】
前記活物質は、前記電解銅箔の前記沈積面に近接する処理面にのみ塗布された、請求項11に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項13】
積層型電池に配置された、請求項10~12のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項14】
コイン型電池に配置された、請求項10~12のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、例えば、リチウムイオン二次電池用の集電体に使用される表面処理銅箔に関する。本開示は、活物質コーチングと優れた密着性を有する表面処理銅箔にも関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、高エネルギーと高パワー密度とを兼備するため、携帯型電子機器、電動工具、電気自動車(EVs)、エネルギー貯蔵システム(ESS)、携帯電話、タブレット、航空宇宙用途、軍事用途及び鉄道に適用されている。電気自動車(EVs)には、ハイブリッド電気自動車(HEVs)、プラグインハイブリッド自動車(PHEVs)及び純粋なバッテリ電気自動車(BEVs)が含まれる。電気自動車(EVs)が、主に化石燃料(例えば、ガソリン、ディーゼル燃料など)を動力源とする輸送機関の代わりになれば、リチウムイオン二次電池によって温暖化ガス排出量を著しく削減することになる。リチウムイオン二次電池は、その高エネルギー効率により、風力、太陽エネルギー、地熱及び他の再生可能エネルギーから得られるエネルギーの品質の改善を含む様々な電力網の応用に適用されることが可能となるので、持続可能なエネルギーの経済の確立にさらに広く利用されることに寄与する。
【0003】
このため、リチウムイオン二次電池に、商業資本及び政府並びに学術実験室の基礎研究は強く興味を惹かれる。近年、この分野における研究及び開発は多くあり、現在リチウムイオン二次電池も応用されているが、依然として、より高い容量、より高い電流を産生し、より多い充放電サイクルを経ることが可能であり、使用寿命を延長することができる電池に関する改良は求められている。また、自動車、携帯型電子機器及び航空宇宙などの様々な環境への応用を改善するために、電池の重量を改良する必要がある。
【0004】
リチウムイオン二次電池は、通常、活物質が塗布された金属箔の集電体を含む。銅は電流の良好な導体であるため、よく集電体として銅箔を用いる。電池重量の低減への要求が高まるにつれて、リチウムイオン二次電池の寸法と重量を低減するために、集電体をより薄くにする必要がある。また、リチウムイオン二次電池の容量を増加させるために、珪素(Si)のような材料を高容量活物質と混合するか又は電池に充填する。炭素に対して、珪素系活物質は、リチウムイオン電池にとってはより高い容量を有するので、その結果、1gあたりの容量(mAh/g)をほぼ10倍にすることが可能である。珪素系アノードリチウムイオン電池はより多い貯蔵容量及び/またはより小さい電池サイズ、またはより長い電池寿命がある。しかしながら、珪素系アノードは、リチウムイオンを挿入及び脱離する際にシリコンのサイズが最大400%まで変化するため、その適用に制限がある。この現象は、活物質の粉砕と容量低下を引き起こす。さらに、珪素系アノード材料を集電体から外れやすくなり、リチウム電池の故障を引き起こす。
【0005】
もう一つの課題は加工にかかわる。例えば、加工とは、銅箔上に活性材料をスラリーとして塗布し、互いに結合した銅箔及び活物質をオーブン内に高温で乾燥させ、そしてカレンダリングをする工程を含む。銅箔の破断は、カレンダリング工程の後でよく発生する。また、この工程は大気雰囲気中で行うため、銅箔が酸素にさらされて酸化され、損傷を悪化する傾向がある。通常、銅箔はクロムコートなどの防錆コートを有するが、場合によって、銅箔が十分に塗布されていないと、銅箔を十分に保護できず、また、クロムが使い過ぎると、電極の抵抗が増加する可能性がある。
【0006】
したがって、依然として、リチウムイオン二次電池に用いられる銅箔を改良する必要がある。活物質への接着などの表面特性が改善された銅箔は、現在必要とされている。さらに、電極上の活物質の良好な均一性、及び処理中の損傷に耐えられるような良好な機械的強度により、さらにほかの要求を満たす。
【発明の概要】
【0007】
総括すると、本開示は、リチウムイオン二次電池の集電体として使用できる電解銅箔などの銅箔に関する。表面処理銅箔は活物質に対して高密着性を有すると作製されている。
【0008】
第一の態様において、本開示は、銅箔と二つの処理層とを含む表面処理銅箔を提供する。銅箔は、第一面とその反対側の第二面を有する。一つの処理層は第一面に配置され、もう一つの処理層は第二面に配置される。各処理層は処理面を提供する。前記処理面は、1.2μm~4.6μmの範囲にある十点平均粗さRz及び490,000~1,080,000mm-2の範囲にあるピーク密度(Spd)を示し、各処理層のクロム含有量は25~70μg/dm2の範囲である。
【0009】
第一の態様におけるいくつかの実施態様において、前記処理面は、1.5μm~3.4μmのRzを示す。必要に応じて、処理面は、490,000~950,000mm-2のSpdを示す。必要に応じて、前記処理面は、1.5μm~3.4μmのRz、及び490,000~950,000mm-2のSpdを示す。必要に応じて、前記処理面は、490,000~900,000mm-2のSpdを示す。
【0010】
第一の態様におけるいくつかの実施態様において、各処理層のクロム含有量は25~60μg/dm2である。必要に応じて、各処理層はノジュール層及び防錆層を含む。必要に応じて、銅箔は電解銅箔である。
【0011】
また、第一の態様によれば、必要に応じて、表面処理銅箔は36Kg/mm2~60Kg/mm2の範囲にある引張強度(TS)と45%未満の引張強度低減(TSR)をさらに示し、TSRは下記式のように定義される:
【0012】
【数1】
【0013】
ここで、TSaは、前記表面処理銅箔が140℃で10分間焼鈍(annealing)された後の残留引張強度である。必要に応じて、前記表面処理銅箔は10%未満のTSRを示す。
【0014】
第二の態様において、本開示は、第一の態様に記載の表面処理銅箔と、少なくともその処理面の一部に塗布される活物質を含むリチウムイオン二次電池を提供する。必要に応じて、前記銅箔は、第一面に対応するドラム面と、第二面に対応する沈積面とを有する電解銅箔である。必要に応じて、前記活物質は、前記電解銅箔の沈積面に近接する処理面にのみ塗布される。いくつかの実施態様において、前記電池は、積層型電池に配置され、いくつかの他の実施態様において、前記電池は、コイン型電池に配置される。
【0015】
本開示の表面処理銅箔は、活物質への密着性など優れた表面特性を示す。さらに、いくつかの実施形態において、コート層の均一性及び機械的強度がさらに改善されたため、カレンダー加工などの処理中の損傷に耐えることができる。
【0016】
上記の発明内容は、本開示のすべての実施例又は実施態様を代表するためのものではない。むしろ、上記の発明内容は、単に本開示の明細書に記載されているいくつかの新規な態様及び特徴を示す例を提供するに過ぎない。以下の本開示を実施するための代表的な実施形態及び模式的な詳しい説明によれば、本開示の上記の特徴及び利点並びに他の特徴及び利点は明らかとなる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本開示の表面処理銅箔は、対向する両面を有する。前記表面処理銅箔は、主体とする銅箔を含み(バルク銅箔ともいう)、かかる主体とする銅箔は圧延銅箔又は電解銅箔であってもよい。前記銅箔は主に銅(例えば、割合が99wt%を超える銅)からなり、銅箔の第一面とその反対側の第二面が塗布されることで、対向する両面にコート層も有する表面処理銅箔を提供する。コート層は、25~70μg/dm2の範囲にあるクロム含有量を有する処理層を含む。各処理層は、1.2μm~4.6μmの範囲に制御される粗さRz及び490,000~1,080,000mm-2の範囲にあるピーク密度(Spd)を有する処理面を提供する。
【0018】
いくつかの実施態様において、前記表面処理銅箔は、ドラムメッキを使用して製造された電解銅箔から用意されることで、ドラム面と沈積面とを有するバルク銅箔を提供する。本開示で使用するように、銅箔の「ドラム面」とは、電着過程において用いられるドラムと接触する銅箔の表面であり、「沈積面」とは、ドラム面と反対側の面、あるいは銅箔を形成する電着過程において電解液と接触する銅箔の表面である。これらの用語は、銅イオンを含有する電解液に回転するドラムアセンブリーを部分的に浸漬することを含む電解銅箔を製造する製造方法に関する。したがって、電流の作用で、銅イオンは前記ドラムに吸引されて還元されることにより、前記ドラムの表面に銅金属がメッキされて、前記ドラムの表面に電解銅箔が形成される。このように形成された銅箔は、連続工程において、前記ドラムを回転させることで、前記ドラムと一緒に回転して電解液から出て除去される。例えば、連続工程において、前記銅箔はその形成につれてドラムから引き離され、ローラーを横切る又は通過してもよい。いくつかの実施態様において、ドラム面は第一面に対応し、沈積面は第二面に対応する。
【0019】
いくつかの実施態様において、表面処理銅箔の特徴の一つは表面粗さである。本明細書で使用されるように、「粗さ」は、表面が実際の表面に直交な方向において理想かつ完全に滑らかな表面からの偏差を意味する。粗さを定量化するいくつの方法は、当技術分野で知られている。例えば、十点平均粗さRzは、サンプリング長さ(L)にわたって表面のプロファイリングに基づく表面粗さである。5つの高いピークと5つの低いピークの合計の平均値を計算し、これは式IIで表される:
【0020】
【数2】
【0021】
式II中に:Rp1、Rp2、Rp3、Rp4及びRp5はLにおいて最も高いピークから5番目に高いピークまでの高さであり;Rv1、Rv2、Rv3、Rv4及びRv5はLにおいて最も低い谷から5番目に低い谷までの高さである。
【0022】
いくつかの実施態様において、Rzは、銅箔の活物質への密着性を調節することが見出される。任意の特定理論に縛られないが、極めて低いRzを有する銅箔は、活物質に対して十分の定着を提供できない一方、高すぎるRzを有する場合、均一の塗布を形成できない。密着性は、例えば下記の剥離強度試験によって測定される。いくつかの実施態様において、表面処理銅箔の処理面のRzは1.2μm以上4.6μm以下であり、例えば1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3.0、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4.0、4.1、4.2、4.3、4.4、4.5または4.6μm、及びこれらの数値間にあるいずれの値である。
【0023】
いくつかの実施態様において、表面処理銅箔の他の特徴はピーク密度(Spd)である。本明細書で使用されるように、「ピーク密度」、「Spd」及び「ピークの密度(density of peaks)」は同等の用語であり、所定の表面積におけるピーク数を指す。ピーク密度(Spd)はISO25178-2:2012に準じて定義される。
【0024】
いくつかの実施態様において、Spdは、表面への密着性に強い影響を与え得る。任意の特定の理論に縛られないが、Spdが低すぎると、活物質と表面処理銅箔の表面との間の接触は十分ではないので、剥離強度は低くなる。これに対して、Spdが高すぎると、アノードスラリーなどの活物質スラリーは、表面のピークの間にある谷を十分に浸透できなくなる場合がある。スラリーが一旦表面に乾燥される場合、スラリーの浸透不良による接触不良は、剥離強度不良を引き起こす。いくつかの実施態様において、前記処理面は、490,000のような低い値と、1,080,000mm-2のような高い値の範囲にあるSpdを示す。いくつかの実施態様において、Spdは1,000,000;950,000;900,000;800,000;700,000;600,000;または500,000mm-2以下のような高い値である。いくつかの実施態様において、Spdは500,000;600,000;700,000;800,000;900,000または1,000,000mm-2以上のような低い値である。一部の実施形態は、これらの高い値と低い値の間の任意の値を含むことができると理解されるべきである。
【0025】
いくつかの実施態様において、表面処理銅箔は処理層の一部となるノジュール層を含む。いくつかの実施態様において、ノジュール層は銅ノジュールなどの金属ノジュールを含んでもよい。ノジュールは、例えば、銅箔に金属を電気メッキすることで形成されてもよい。いくつかの実施態様において、銅ノジュールは、銅又は銅合金で形成されてもよい。いくつかの実施態様において、銅ノジュール上の銅沈積などの金属ノジュール上の金属カバー層を含む。例えば、金属カバー層は、金属ノジュールの剥離(exfoliation)を防止することに寄与する。
【0026】
いくつかの実施態様において、表面処理銅箔は、処理層の一部となる、腐食に起因する分解から表面処理銅箔を保護する防錆層を含む。防錆層は、防錆層を形成する添加剤を含有する溶液に、銅箔またはノジュールでカバーされた銅箔を浸漬または通過させること、または銅箔またはノジュールでカバーされた銅箔に金属もしくは合金フィルムをメッキ(例えば、電気メッキ)することを含む周知の方法で製造できる。例えば、電気メッキ浴は亜鉛、クロム、ニッケル、コバルト、モリブデン、バナジウム及びそれらの組み合わせのいずれか1つまたはそれ以上、または防錆層を形成する有機化合物を含む。その加工は、連続的であり、表面処理銅箔を製造するプロセス全体の一部であり得る。
【0027】
いくつかの実施態様において、表面処理銅箔は第一面とその反対側の第二面などの二つの処理層を含み、処理層のクロム含有量が低い値と高い値の範囲に制御される。特定のメカニズムに帰属させないが、クロム含有量が低すぎると、ノジュール処理を施した後、クロムの表面積カバー率が低く、剥離強度を低減させる。これに対して、クロム含有量が高すぎると、クロムのカバー率が高すぎて厚すぎ、銅箔がリチウムイオン電池の電極として使用される場合、高抵抗を引き起こす恐れがある。いくつかの実施態様において、クロム含有量は、25、30、35、40、45、50、55、60または65μg/dm2の低い値以上である。いくつかの実施態様において、クロム含有量は70、65、60、55、50、45、40、35または30μg/dm2の高い値以下である。異なる実施形態は、上記の高い値と低い値の間の任意のクロム含有量の値を含むことができると理解されるべきである。
【0028】
いくつかの実施態様において、表面処理銅箔の特徴の一つは引張強度(TS)である。本明細書で使用されるように、「引張強度」とは、材料が機械的割れまたは破断(例えば、二つに割れる)を発生する前に耐えられる最大の引張応力を意味する。引張強度(TS)の制御を有することで、ローラー間での引っ張りやカレンダー加工などの処理による引き裂きに耐えられる表面処理銅箔を提供する。結晶粒界の増加は銅箔を変形させるために必要な力を増加するため、引張強度(TS)は銅箔内の銅の結晶粒度に関連する。引張強度(TS)が低すぎる場合、表面処理銅箔はより容易に曲げかつ引き裂かれ、引張強度(TS)が高すぎる場合、表面処理銅箔は曲げにくくなり、さらなる加工に不利である。
【0029】
いくつかの実施態様において、引張強度(TS)は低い値と高い値との間の範囲に制御される。いくつかの実施態様において、引張強度(TS)の低い値は36、40、45、50または55Kg/mm2以上である。いくつかの実施態様において、引張強度(TS)の高い値は60、55、50、45または40Kg/mm2以下である。異なる実施形態は、上記の高い値と低い値の間の任意の表面処理銅箔の引張強度(TS)の値を含むと理解されるべきである。
【0030】
いくつかの実施態様において、表面処理銅箔の特徴の一つは、高温まで加熱され、かつ環境温度まで冷却された後の残留引張強度(TSa)である。この加熱処理は、活物質スラリーの乾燥プロセス中に銅箔が受ける熱履歴をシミュレートできる。オーブンで焼き付けた後、表面処理銅箔の引張強度が低下し、カレンダー加工などのさらなる加工中に破断する可能性がある。本明細書で使用されるように、「引張強度低減」または「TSR」は、サンプルが140℃で焼鈍工程を10分間行った後、元の引張強度(TS)に対する残留引張強度(TSa)のパーセントであり、これは、前記の式Iによって定義される。任意の特定の理論に縛られないが、高TSRは、表面処理銅箔は容易に再結晶化され、かつ熱不安定であることを指す。いくつかの実施態様において、本明細書に記載されるTSRは、45%以下の値を有するように制御される。一部の実施形態では、TSRは、40%、30%または10%以下である。
【0031】
いくつかの実施態様において、表面処理銅箔は少なくとも一部に活物質が塗布される。例えば、活物質は、炭素、シリコン、ゲルマニウム及びこれらの組み合わせまたは混合物などを含む活性アノード材料であってもよい。いくつかの実施態様において、活性アノード材料はシリコンを含む。いくつかの実施態様において、処理面は片面にのみ活物質が塗布される。いくつかの実施態様において、表面処理銅箔は、第一面に対応するドラム面と、第二面に対応する沈積面とを有する電解銅箔を含み、活物質は、銅箔の沈積面である第一面に近接する処理面に塗布される。
【0032】
いくつかの実施形態において、電解銅箔は、リチウムイオン二次電池などの電池用の集電体として使用することができる。いくつかの実施形態において、電池は、例えば、銅アノード集電体、アノード活物質、セパレータ、活性カソード材料、及びカソード集電体の積層構造を含む積層電池と配置される。他のいくつかの実施形態において、電池は、コイン型電池と配置される。
【0033】
本明細書に開示の実施形態において、表面処理銅箔は、装置に使用することができる。この装置は、動作のために電力を必要とする器具または素子を含み、例えば、軽量の小型電池を必要とする独立的な、隔離的な及び携帯型の部材及び装置である。これらの装置は、運送機関(自動車、電車、バス、トラック、船、潜水艦、飛行機)、コンピューター(例えば、マイクロコントローラ、ラップトップ、タブレット)、電話(例えば、スマートフォン、無線電話)、個人用の健康監視及び維持装置(例えば、グルコースモニター、ペースメーカー)、工具(例えば、電気ドリル、電気鋸)、照明器具(例えば、懐中電灯、非常灯、サイン)、ハンドヘルド測定装置(例えば、pHメーター、空気監視装置)及び住居単位(例えば、宇宙船、トレーラー、家、飛行機、潜水艦)を含むが、これらに限らない。
【0034】
本開示の範囲内において、上記及び下記で述べた技術特徴(例えば、実施例)は、自由に相互に組み合わせて新たな態様又は好ましい態様を形成できると理解されるべきであり、簡便のために省略している。
(実施例)
【0035】
I.表面処理銅箔の製造
銅線を50wt%の硫酸水溶液に溶解させて電解質を製造することにより、260~320g/Lの硫酸銅(CuSO4・5H2O)及び60~100g/Lの硫酸を含む硫酸銅電解液を得た。硫酸銅電解液1リットル当たり、0~3.5mgのゼラチン(DV:Nippi社);0~3mgのヒドロキシエチルセルロース(LC-400;DAICEL社)、0~2.4mgの3-メルカプト-1-プロパンスルホン酸ナトリウム(MPS:HOPAX社)、0~7mgのチオ尿素(Panreac Quimica Sau製)及び2~20mgの塩素イオンを添加した。上記内容により16種類の溶液が製造され、実施例1~12及び比較例13~16の具体的な濃度をそれぞれ表1に示す。
【0036】
バルク銅箔(原料銅箔)は、前記の表1に示す電解液に部分的に浸漬された回転しているドラム上で電気的に沈積することで製造される。ドラムは、アノード電極と対向するカソード電極として作用し、電解液中の銅イオンをドラムに連続的に沈積させる。25~70A/dm2の電流密度で、電解液の温度を約40~70℃に制御することで、少なくとも7μm程度、例えば8~20μmの厚さを有する銅箔を製造した。製造条件は表1に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
電解銅箔の製造後、バルク銅箔の両面にノジュール処理を施する。このノジュール処理は、25~30℃の温度で、電流密度30~60A/dm2及び電解液の滞留時間3.5~7秒間で電気的に沈積した。電解液は、120~180g/l硫酸銅(CuSO4.5H2O)、80~120g/l硫酸(H2SO4)、3.5~5.5g/l塩素イオン及び0~480g/l硫酸クロム(Cr2(SO43)を含む。16種類の実施例及比較例のノジュール処理条件は表2に示す。
【0039】
【表2】
【0040】
ノジュール処理の続き、銅箔を水で洗浄し、ノジュール処理された銅箔の両面にクロムメッキを処理した。クロムメッキ浴は、1.5g/lのCrO3を含んでいた。電気メッキは、クロムメッキ浴を30℃に維持しながら5A/dm2で5秒間行った。
【0041】
表3は前記製造された複数種類の表面処理銅箔を示す。表面処理銅箔の特性を示すためにその公称厚みを測定した。その両面の表面粗さ(Rz)、クロム含有量及びピーク密度(Spd)は表面処理銅箔の両面の特性を示し得る。また、引張強度(TS)及び引張強度低減(TSR)を測定し、伸び率も測定した。そして、リチウムイオン電池の性能を評価するための特性を測定した。剥離強度試験によって密着性を評価し、下記の試験方法に記載されているように、表面処理銅箔の片面にアノード材料を適用した。また、活物質塗布の均一性も、以下の試験方法に記載されている試験を使用して評価した。
【0042】
【表3】
【0043】
1カレンダー加工試験:「O」は破断がないことを示す;「X」は表面処理銅箔が破断したことを示す。
2均一性は表面処理銅箔に塗布されたアノード活物質の平坦性を評価するものである:「O」は平坦性が良いことを示す;「△」は平坦性が許容される範圍内であることを示す;「X」は平坦性が不良であることを示す。
【0044】
これらの結果は、実施例1~12及び比較例13~15の表面処理銅箔は1.2μm~4.6μmの範囲にある制御された粗さ(Rz)を示す。実施例1~12及び比較例15、16の表面処理銅箔は、490,000~1,080,000mm-2の範囲にあるピーク密度(Spd)を示す。実施例1~12及び比較例14、16の表面処理銅箔は、25~70μg/dm2の範囲にあるクロム含有量を示す。以上のことから分かるように、実施例1~12は、すべて前記の範囲にある粗さ、ピーク密度及びクロム濃度を符合する。剥離強度試験によれば、実施例1~12の表面処理銅箔は、すべて約0.3kg/cmを超える剥離強度の値を示す良い密着性特性を有する。実施例1~12は、さらに少なくとも許容される活物質の均一性を有する。また、実施例1~5、8及び10のように、Rzが1.5μm~3.4μmの範囲にあり、Spdが490,000~950,000mm-2の範囲にあるように制御することにより、均一性をより向上させることができる。
【0045】
表3のデータから分かるように、粗さ、ピーク密度及びクロム濃度を前記範囲に維持することに加えて、引張強度(TS)が高すぎ、約60Kg/mm2を超える場合(実施例12)、またはTSRが高すぎ、約45%を超える場合(実施例11)、カレンダー加工試験の結果が不良になる。
【0046】
II.試験方法
カレンダー加工(押圧)試験
活物質は、90wt%のシリコン合金系活物質(平均粒子径は0.1~10μm)と10wt%のポリイミド系バインダーから製造される。活物質をN-メチルピロリドン(NMP)溶剤に分散させてスラリーを形成する。スラリーは60wt%の液固比(60gのNMP:100gの活物質)を有する。スラリーを1分当たり5メートルの速度で厚さが200μmとなるように表面処理銅箔の表面の一部に塗布する。次に、140℃に設定されたオーブンで10分間乾燥することで、スラリーを銅箔の上で乾燥させる。銅箔に活物質が塗布された領域と塗布されない領域との間を境界線とする。押圧機を使用してアノード(銅箔+活物質)を押圧する。押圧機のローラーのサイズはφ250mm×250mmであり、ローラーの硬度は62~65°HRCであり、ローラー材料は高炭素クロム軸受鋼(SUJ2)である。1m/minの押圧(カレンダー加工)速度及び3000psiの圧力で押圧する。表面処理銅箔は、銅箔に塗布された領域と塗布されない領域との間の境界線が運送方向にほぼ垂直で、かつ押圧ローラーの軸にほぼ平行となるように運送する。したがって、カレンダー加工試験は、表面処理銅箔がカレンダー加工処理に耐えられるかを評価する。表面処理銅箔は、ローラーが境界線を通過したとき破断しなかった場合、通過または「O」と標記する。逆に、表面処理銅箔は破断した場合、失敗または「X」と標記する。
【0047】
剥離強度試験
活物質を有し、かつ前記のようにカレンダー加工されたアノードを製造した。カレンダー加工後、アノードを切断しサイズが200mm×20mm(長さ×幅)のサンプルを得た。SCOTCH(登録商標)MAGICTM(3M社)テープをサンプルの表面に貼り付けした後、IMADAのモデルDS2-20N力測定機を使用して剥離強度を測定した。
【0048】
引張強度及び伸び率
引張強度(TS)及び伸び率は標準試験方法IPC-TM-650に準じて測定される。焼鈍またはカレンダー加工のない表面処理銅箔を切断して100mm×12.7mm(長さ×幅)寸法のサンプルが得た。ModelAG-I試験機(島津製作所株式会社)を使用し、室温(約25℃)でチャック距離50mm、クロスヘッド速度50mm/minでサンプルの引張強度(TS)及び伸び率を測定した。
【0049】
残留引張強度(TSa)の試験方法は、サンプルの以外に前記方法と同様である。残留引張強度を測定するためのサンプルは、表面処理銅箔を100mm×12.7mm(長さ×幅)に切断し、その後、140℃のオーブンで10分間放置することで調製した。サンプルは、オーブンから移出した後、室温(約25℃)で少なくとも5分間で冷却した。
【0050】
引張強度低減TSRは下記式Iのように定義される:
【0051】
【数3】
【0052】
クロム含有量
まず、表面処理銅箔を150x150mmのサイズに切断してサンプルとし、クロム含有量を測定した。表面の溶解を防止するために表面処理銅箔の片面に保護コートを塗布した。保護コートを乾燥させた後、さらにサンプルを100x100mm(面積=1dm2)のサイズに切断した。さらに皿に載せて、20mlの18%HCl溶液に室温(約25℃)で10分間溶解させた。次に、この溶液を皿から50mlのメスフラスコに入れた。水で皿を洗浄し、洗浄水をメスフラスコに添加し、全体積50mlとする。ICP-AESを用いて溶液中のクロム含有量を測定した。
【0053】
粗さ(Rz)
表面粗さ測定器(小坂研究所株式会社、SE1700シリーズ)を使用して表面処理銅箔のプロファイルを検出した。Rzは、標準試験方法JISB0601-1994を使用して得た。
【0054】
ピーク密度(Spd)
表面処理銅箔のピーク密度(Spd)はISO25178-2:2012に準じて、レーザー顕微鏡(オリンパス製、LEXTOLS5000-SAF)を使用して表面性状解析によって測定した。以下の条件で行った。
【0055】
光源:405nm波長。
対物レンズ:50X(MPLAPON-100xLEXT)。
光学ズーム:1.0x。
面積:129μm×129μm。
解像度:595画素×595画素。
条件:オートチルト除去。
フィルター:フィルターS=1μM、Lフィルター=100μM。
空気温度:24±3℃
相対湿度:63±3%。
【0056】
均一性
均一性は、表面処理銅箔に塗布された活物質の平坦性を評価するものである。カレンダー加工(押圧)試験に記載されている製造方法から活物質と表面処理銅箔とを有するアノードを製造した。カレンダー加工後、アノードの塗布エリアから25×5cmサイズのアノード帯を切断し、さらに、アノード帯から寸法がそれぞれ5×5cmの5つのサンプル片を切断した。式IIIで重量偏差を測定した。
【0057】
【数4】
【0058】
均一性のレベルは表4に示すように定義される。
【0059】
【表4】
【0060】
本開示に用いられる「含む」又は「含有する」という用語は、請求される発明に必要な組成物、方法、及びそれらのそれぞれの組み合わせに関するが、必要とされるか否かにかかわらず、指定されていない要素を含むことが許される。
【0061】
本開示に用いられる「主に…からなる」という用語は、特定の実施形態に必要な要素を指す。この用語は、本開示が請求しようとする実施形態における基本的及び新規又は機能的特徴に実質的に影響を与えない要素の存在を許可する。
【0062】
「…のみからなる」という用語は、本明細書に記載されている組成物、方法、及びそのそれぞれの構成要素を指し、実施形態の説明に列挙されていない要素を含まない。
【0063】
本開示の明細書及び特許請求の範囲に使用されるように、単数形「一つ」及び「前記」は、文脈がそうでないことを明確に示していない限り、複数形も含むことが意図される。例えば、「前記方法」について言及する場合は、一つ又は二つ以上の方法、及び/又は本開示の明細書に記載されている種類の工程、及び/又はこの開示を読めば当業者にとって明白であるものを含む。同様に、「又は」という用語は、文脈がそうでないことを明確に示していない限り、「及び」を含むことが意図される。
【0064】
操作された実施例又は他に説明がある場合以外、本開示の明細書において成分の量又は反応条件を表す数字は、すべての場合においては、用語「約」によって修飾されていると理解されるべきである。「約」という用語は、言及されている値の±5%(例えば、±4%、±3%、±2%、±1%)を意味する。
【0065】
ある数値範囲が提供される場合、その範囲の上限と下限の間にあるいずれかの数値にあり、その範囲の上限と下限を含むものは、本開示に開示されていると見なされる。本開示の明細書に挙げられているいずれかの数値範囲は、その範囲に包含されるすべてのサブ範囲(sub-range)を含むこと理解されるべきである。例えば、「1~10」という範囲とは、引用されている最小値1と引用されている最大値10との間のすべてのサブ範囲を含むことを意図している。すなわち、1以上の最小値及び10以下の最大値を有する。開示されている数値範囲は連続的であるため、最小値と最大値の間のすべての値を含む。特記で排除しない限り、本開示の明細書に具体的に記載されている様々な数値範囲は近似値である。
【0066】
本明細書において、別途で定義されていない限り、本出願に使用される科学的用語は、当業者が一般的に理解する意味と同様の意味を有する。さらに、文脈上排除が必要としていない限り、単数形の用語は複数形を含み、複数形の用語は単数形を含む。
【0067】
本開示は、本開示の明細書に記載されている特定の方法、手順、及び試薬などに限定されるものではなく、変化してもよいことを理解されるべきである。本開示の明細書に用いられる用語は、特定の実施形態を説明することを目的とするに過ぎず、本開示の範囲を限定することを意図するものではない。本開示の範囲は、特許請求の範囲のみによって定義される。
【0068】
本開示の明細書に開示されているASTM、JIS方法を含むいずれの特許、特許出願及び刊行物は、説明及び開示を目的とするために、引用により明確に本開示に組み込まれ、例えば、前記刊行物に記載されている方法は、本開示と組み合わせて使用できる。このような刊行物を提供するのは、単にそれらが本出願の出願日前に公開されたからである。この点に関して、そのような従来技術により、又は他の何らかの理由で、本開示者らがそのような開示に先行する権利がないことを認めると解釈されるべきではない。日付に関するすべての記述又はこれらの文書の内容に関する表現は、出願人が入手可能な情報に基づいており、これらの文書の日付又は内容の正確性を認めると解釈されるべきではない。