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特許7358429易接着層付位相差フィルムの製造方法、易接着層付位相差フィルムおよび位相差層付偏光板
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  • 特許-易接着層付位相差フィルムの製造方法、易接着層付位相差フィルムおよび位相差層付偏光板 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-29
(45)【発行日】2023-10-10
(54)【発明の名称】易接着層付位相差フィルムの製造方法、易接着層付位相差フィルムおよび位相差層付偏光板
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20231002BHJP
   B29C 55/02 20060101ALI20231002BHJP
   B29C 55/04 20060101ALI20231002BHJP
【FI】
G02B5/30
B29C55/02
B29C55/04
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021144842
(22)【出願日】2021-09-06
(65)【公開番号】P2023037985
(43)【公開日】2023-03-16
【審査請求日】2021-12-22
【審判番号】
【審判請求日】2022-11-10
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122471
【弁理士】
【氏名又は名称】籾井 孝文
(72)【発明者】
【氏名】北岸 一志
(72)【発明者】
【氏名】中原 歩夢
(72)【発明者】
【氏名】清水 享
【合議体】
【審判長】里村 利光
【審判官】大▲瀬▼ 裕久
【審判官】井口 猶二
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-215775(JP,A)
【文献】国際公開第2021/054112(WO,A1)
【文献】特開2015-024511(JP,A)
【文献】特開2011-150162(JP,A)
【文献】特開2019-179099(JP,A)
【文献】串崎 義幸他、”フィルム成形用逐次二軸延伸装置と同時二軸延伸装置との特長比較”、日本製鋼所技報、日本、2019年11月、No.70、p.39-44
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏光板に貼り合わせられる易接着層付位相差フィルムの製造方法であって、
樹脂フィルムに易接着層形成用塗工液を塗工して塗工膜を形成し、前記塗工膜を乾燥することにより、前記樹脂フィルムに易接着層前駆体膜を形成すること、および、
前記樹脂フィルムと前記易接着層前駆体膜との積層体を延伸すること、を含み、
前記樹脂フィルムはポリカーボネート系樹脂で構成され、
前記延伸を行う際に、前記積層体は60℃以上の環境下に60秒以上480秒以下置かれ、
得られる易接着層の厚みは100nm以上1000nm以下であり、
前記偏光板に対する前記易接着層付位相差フィルムの接着力は3.1N/50mm以上である、
製造方法。
【請求項2】
前記易接着層形成用塗工液の固形分濃度は0.5重量%~15重量%である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記塗工膜の厚みは1μm以上30μm以下である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記易接着層形成用塗工液は水系樹脂および架橋剤を含む、請求項1から3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記水系樹脂はウレタン系樹脂を含み、前記架橋剤はオキサゾリン基を有する、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
長尺状の前記樹脂フィルムの前記長尺方向に対して角度を有する方向に前記延伸を行う、請求項1から5のいずれかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、易接着層付位相差フィルムの製造方法、易接着層付位相差フィルムおよび位相差層付偏光板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、薄型ディスプレイの普及と共に、有機ELパネルを搭載した画像表示装置(有機EL表示装置)が提案されている。有機ELパネルは反射性の高い金属層を有しており、外光反射や背景の映り込み等の問題を生じやすい。そこで、位相差層付偏光板(円偏光板)を視認側に設けることにより、これらの問題を防ぐことが知られている。また、液晶表示パネルの視認側に位相差層付偏光板を配置することで、視野角を改善することが知られている。一般的な位相差層付偏光板として、位相差フィルムと偏光子とを、その遅相軸と吸収軸とが用途に応じた所定の角度(例えば、45°)をなすように積層したものが知られている。また、代表的な位相差フィルムとして、樹脂フィルムを延伸することにより延伸方向に遅相軸を発現させたものが知られている(特許文献1)。
【0003】
位相差層付偏光板の作製においては、偏光板(偏光子)と位相差フィルムとの接着性を確保するために、位相差フィルムに易接着層を設けた易接着層付位相差フィルムを用いる場合がある。しかし、易接着層付位相差フィルムの製造においては、製造時の破断が問題となっている。また、さらなる接着性の向上が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第3325560号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、製造時の破断が抑制され、接着性に優れた易接着層付位相差フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態による易接着層付位相差フィルムの製造方法は、樹脂フィルムに易接着層形成用塗工液を塗工して塗工膜を形成し、前記塗工膜を乾燥することにより、前記樹脂フィルムに易接着層前駆体膜を形成すること、および、前記樹脂フィルムと前記易接着層前駆体膜との積層体を延伸すること、を含み、前記延伸を行う際に、前記積層体は60℃以上の環境下に30秒以上600秒以下置かれ、得られる易接着層の厚みは100nm以上1000nm以下である。
1つの実施形態においては、上記易接着層形成用塗工液の固形分濃度は0.5重量%~15重量%である。
1つの実施形態においては、上記塗工膜の厚みは1μm以上30μm以下である。
1つの実施形態においては、上記易接着層形成用塗工液は水系樹脂および架橋剤を含む。
1つの実施形態においては、上記水系樹脂はウレタン系樹脂を含み、上記架橋剤はオキサゾリン基を有する。
1つの実施形態においては、長尺状の上記樹脂フィルムの前記長尺方向に対して角度を有する方向に上記延伸を行う。
1つの実施形態においては、上記樹脂フィルムはポリカーボネート系樹脂で構成される。
本発明の別の局面によれば、易接着層付位相差フィルムが提供される。この易接着層付位相差フィルムは、面内位相差を有する位相差フィルムと、前記位相差フィルムの少なくとも一方の面に設けられた易接着層とを有し、前記易接着層の厚みは100nm以上1000nm以下である。
1つの実施形態においては、上記位相差フィルムは、長尺状であって、前記長尺方向に対して30°~60°の方向に遅相軸を有する。
1つの実施形態においては、上記位相差フィルムの面内位相差Re(550)は100nm~310nmである。
1つの実施形態においては、上記易接着層はウレタン系樹脂を含む。
本発明のさらに別の局面によれば、位相差層付偏光板が提供される。この位相差層付偏光板は、偏光板と、上記易接着層付位相差フィルムと、を有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の実施形態によれば、製造時の破断が抑制され、接着性に優れた易接着層付位相差フィルムを提供し得る。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の1つの実施形態による易接着層付位相差フィルムの製造に用いられる積層体の概略の構成を示す断面図である。
図2】斜め延伸に用いられる延伸装置の一例の全体構成の概略を示す平面図である。
図3】本発明の1つの実施形態における位相差層付偏光板の概略の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。また、図面は説明をより明確にするため、実施の形態に比べ、各部の幅、厚み、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。
【0010】
(用語および記号の定義)
本明細書における用語および記号の定義は下記の通りである。
(1)屈折率(nx、ny、nz)
「nx」は面内の屈折率が最大になる方向(すなわち、遅相軸方向)の屈折率であり、「ny」は面内で遅相軸と直交する方向(すなわち、進相軸方向)の屈折率であり、「nz」は厚み方向の屈折率である。
(2)面内位相差(Re)
「Re(λ)」は、23℃における波長λnmの光で測定した面内位相差である。例えば、「Re(550)」は、23℃における波長550nmの光で測定した面内位相差である。Re(λ)は、層(フィルム)の厚みをd(nm)としたとき、式:Re(λ)=(nx-ny)×dによって求められる。
(3)厚み方向の位相差(Rth)
「Rth(λ)」は、23℃における波長λnmの光で測定した厚み方向の位相差である。例えば、「Rth(550)」は、23℃における波長550nmの光で測定した厚み方向の位相差である。Rth(λ)は、層(フィルム)の厚みをd(nm)としたとき、式:Rth(λ)=(nx-nz)×dによって求められる。
(4)Nz係数
Nz係数は、Nz=Rth/Reによって求められる。
(5)角度
本明細書において角度に言及するときは、当該角度は基準方向に対して時計回りおよび反時計回りの両方を包含する。したがって、例えば「45°」は±45°を意味する。
【0011】
A.易接着層付位相差フィルムの製造方法
本発明の1つの実施形態に係る易接着層付位相差フィルムの製造方法は、樹脂フィルムに易接着層前駆体膜を形成すること、および、樹脂フィルムと易接着層前駆体膜との積層体を延伸すること、を含む。このような製造方法により、位相差フィルムと易接着層とを有する易接着層付位相差フィルムを得る。
【0012】
A-1.積層体の作製
図1は、本発明の1つの実施形態による易接着層付位相差フィルムの製造に用いられる積層体の概略の構成を示す断面図である。積層体1は、樹脂フィルム2と易接着層前駆体膜3とを有する。互いに対向する第一主面2aおよび第二主面2bを有する樹脂フィルム2の第一主面2aに、易接着層前駆体膜3が設けられている。図示例では、易接着層前駆体膜3は、樹脂フィルム2の第一主面2aに設けられているが、目的に応じて、第二主面2bにも設けられていてもよい。
【0013】
上記樹脂フィルムを構成する樹脂としては、所望の光学特性を満足させ得る限り、任意の適切な樹脂を用いることができる。樹脂フィルムを構成する樹脂としては、例えば、ポリカーボネート系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、セルロースエステル系樹脂、セルロース系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエステルカーボネート系樹脂、オレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂等が挙げられる。好ましくは、ポリカーボネート系樹脂、セルロースエステル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエステルカーボネート系樹脂、シクロオレフィン系樹脂である。これらの樹脂であれば、いわゆる逆分散の波長依存性を示す位相差フィルムが得られ得るからである。これらの樹脂は、単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0014】
上記ポリカーボネート系樹脂としては、任意の適切なポリカーボネート系樹脂が用いられる。例えば、ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むポリカーボネート系樹脂が好ましい。ジヒドロキシ化合物の具体例としては、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-エチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-n-プロピルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-イソプロピルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-n-ブチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-sec-ブチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-tert-ブチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-シクロヘキシルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-フェニルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-イソプロピルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-イソブチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-tert-ブチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-シクロヘキシルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3,5-ジメチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-tert-ブチル-6-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(3-ヒドロキシ-2,2-ジメチルプロポキシ)フェニル)フルオレン等が挙げられる。ポリカーボネート系樹脂は、上記ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の他に、イソソルビド、イソマンニド、イソイデット、スピログリコール、ジオキサングリコール、ジエチレングリコール(DEG)、トリエチレングリコール(TEG)、ポリエチレングリコール(PEG)、シクロヘキサンジメタノール(CHDM)、トリシクロデカンジメタノール(TCDDM)、ビスフェノール類などのジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含んでいてもよい。
【0015】
上記のようなポリカーボネート系樹脂の詳細は、例えば特開2012-67300号公報および特許第3325560号に記載されている。当該特許文献の記載は、本明細書に参考として援用される。
【0016】
ポリカーボネート系樹脂のガラス転移温度は、110℃以上250℃以下であることが好ましく、より好ましくは120℃以上230℃以下である。ガラス転移温度が過度に低いと耐熱性が悪くなる傾向にあり、フィルム成形後に寸法変化を起こす可能性がある。ガラス転移温度が過度に高いと、フィルム成形時の成形安定性が悪くなる場合があり、また、フィルムの透明性を損なう場合がある。なお、ガラス転移温度は、JIS K 7121(1987)に準じて求められる。
【0017】
上記ポリビニルアセタール系樹脂としては、任意の適切なポリビニルアセタール系樹脂を用いることができる。代表的には、ポリビニルアセタール系樹脂は、少なくとも2種類のアルデヒド化合物及び/又はケトン化合物と、ポリビニルアルコール系樹脂とを縮合反応させて得ることができる。ポリビニルアセタール系樹脂の具体例および詳細な製造方法は、例えば、特開2007-161994号公報に記載されている。当該記載は、本明細書に参考として援用される。
【0018】
上記樹脂フィルムの厚みは、例えば、得られる位相差フィルムの厚み、面内位相差等に応じて適切に設定され得る。樹脂フィルムの厚みは、例えば40μm~150μmである。
【0019】
上記易接着層前駆体膜は、例えば、樹脂フィルムに易接着層形成用塗工液を塗工して塗工膜を形成し、この塗工膜を乾燥することにより得ることができる。
【0020】
易接着層形成用塗工液は、代表的には、樹脂を含む。易接着層形成用塗工液に含まれる樹脂として、好ましくは水系樹脂が用いられる。水系は、例えば、溶剤系に比べて環境面に優れ、作業性にも優れ得る。水系樹脂の好ましい具体例としては、ウレタン系樹脂が挙げられる。
【0021】
ウレタン系樹脂は、代表的には、ポリオールとポリイソシアネートとを反応させることにより得られる。ポリオールとしては、分子中にヒドロキシル基を2個以上有するものであれば特に限定されず、任意の適切なポリオールを採用し得る。具体例としては、ポリアクリルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオールが挙げられる。これらは単独で、または2種以上を組み合わせて用い得る。
【0022】
ポリイソシアネートとしては、例えば、テトラメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、1,4-ブタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2-メチルペンタン-1,5-ジイソシアネート、3-メチルペンタン-1,5-ジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート;イソホロンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、4,4′-シクロヘキシルメタンジイソシアネート、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン等の脂環族ジイソシアネート;トリレンジイソシアネート、2,2′-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4′-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4′-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4′-ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート、4,4′-ジベンジルジイソシアネート、1,5-ナフチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,3-フェニレンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;ジアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、テトラアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、α,α,α,α-テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の芳香脂肪族ジイソシアネート等が挙げられる。これらは単独で、または2種以上を組み合わせて用い得る。
【0023】
ウレタン系樹脂は、好ましくは、カルボキシル基を有する。カルボキシル基を有することにより、偏光板(偏光子)との接着性(特に、高温・高湿下における)に優れた易接着層付位相差フィルムが得られ得る。カルボキシル基を有するウレタン系樹脂は、例えば、上記ポリオールと上記ポリイソシアネートとに加え、遊離カルボキシル基を有する鎖長剤を反応させることにより得られる。遊離カルボキシル基を有する鎖長剤としては、例えば、ジヒドロキシカルボン酸、ジヒドロキシスクシン酸が挙げられる。ジヒドロキシカルボン酸は、例えば、ジメチロールアルカン酸(例えば、ジメチロール酢酸、ジメチロールブタン酸、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロール酪酸、ジメチロールペンタン酸)等のジアルキロールアルカン酸が挙げられる。これらは単独で、または2種以上を組み合わせて用い得る。
【0024】
ウレタン系樹脂の数平均分子量は、好ましくは5000~600000であり、さらに好ましくは10000~400000である。ウレタン系樹脂の酸価は、好ましくは10以上であり、さらに好ましくは10~50であり、特に好ましくは20~45である。酸価がこのような範囲内であれば、偏光板(偏光子)との接着性がより優れ得る。
【0025】
易接着層形成用塗工液は、好ましくは、架橋剤を含む。架橋剤としては、任意の適切な架橋剤を採用し得る。具体的には、ウレタン系樹脂がカルボキシル基を有する場合、架橋剤としては、好ましくは、カルボキシル基と反応し得る基を有するポリマーが挙げられる。カルボキシル基と反応し得る基としては、例えば、有機アミノ基、オキサゾリン基、エポキシ基、カルボジイミド基が挙げられる。好ましくは、架橋剤は、オキサゾリン基を有する。オキサゾリン基を有する架橋剤は、ウレタン系樹脂と混合したときの室温でのポットライフが長く、加熱することによって架橋反応が進行するため、作業性が良好である。
【0026】
易接着層形成用塗工液は、任意の適切な添加剤を含み得る。添加剤としては、例えば、架橋促進剤、レベリング剤、ブロッキング防止剤、分散安定剤、揺変剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、消泡剤、増粘剤、分散剤、界面活性剤、触媒、フィラー、滑剤、帯電防止剤が挙げられる。添加剤の種類、数、組み合わせ、配合量等は、目的に応じて適切に設定され得る。
【0027】
ウレタン系樹脂および易接着層形成用塗工液の詳細については、例えば特開2010-055062号公報に記載されている。当該公報の記載は、本明細書に参考として援用される。
【0028】
易接着層形成用塗工液の固形分濃度は、代表的には0.5重量%~15重量%であり、好ましくは1重量%~12重量%であり、より好ましくは2重量%~10重量%であり、さらに好ましくは3重量%~8重量%である。
【0029】
易接着層形成用塗工液の塗工方法としては、任意の適切な方法を採用することができる。具体例としては、ロールコート法、スピンコート法、ワイヤーバーコート法、ディップコート法、ダイコート法、カーテンコート法、スプレーコート法、ナイフコート法(コンマコート法等)が挙げられる。
【0030】
上記塗工膜の厚み(乾燥前)は、好ましくは1μm以上30μm以下である。塗工膜の乾燥温度は、例えば80℃~95℃である。塗工膜の乾燥時間は、例えば1分~5分である。
【0031】
A-2.延伸
上述のとおり、上記積層体は延伸処理に供される。このような形態によれば、易接着層と位相差フィルムとの密着性に優れた易接着層付位相差フィルムが得られ得る。また、所望の光学特性を有する位相差フィルムを良好に得ることができる。例えば、予め所望の光学特性を有する樹脂フィルム(延伸処理が施されたフィルム)に易接着層を形成する場合、易接着層の形成における加熱処理(例えば、塗工膜の乾燥処理、易接着層前駆体膜の架橋処理)により、樹脂フィルムの光学特性が変化してしまう場合がある。本実施形態によれば、例えば、塗工膜の乾燥処理は延伸処理の前に施され、易接着層前駆体膜の架橋処理は延伸処理と同時に施され得ることから、所望の光学特性を有する位相差フィルムを良好に得ることができる。
【0032】
上記延伸処理の条件は、所望の位相差フィルムに応じて、適宜、設定され得る。1つの実施形態においては、延伸処理は一軸延伸(例えば、固定端一軸延伸、自由端一軸延伸)である。固定端一軸延伸の具体例としては、積層体を長尺方向に走行させながら、幅方向(横方向)に延伸する方法が挙げられる。この場合、得られる位相差フィルムの遅相軸は、幅方向に発現する。自由端一軸延伸は、積層体を周速の異なるロール間で搬送して長尺方向に延伸する方法が挙げられる。この場合、得られる位相差フィルムの遅相軸は、長尺方向に発現する。一軸延伸の延伸倍率は、位相差フィルムの所望の面内位相差に応じて適切に設定され得る。一軸延伸の延伸倍率は、例えば1.1倍~3.5倍である。
【0033】
別の実施形態においては、延伸処理は斜め延伸である。具体的には、長尺状の積層体を長尺方向に対して角度θの方向に連続的に斜め延伸する。斜め延伸を採用することにより、フィルムの長尺方向に対して角度θの配向角(角度θの方向に遅相軸)を有する長尺状の位相差フィルムが得られ、例えば、後述の偏光子(偏光板)との積層に際してロールトゥロールが可能となり、製造工程を簡略化することができる。斜め延伸に用いる延伸機としては、例えば、横および/または縦方向に、左右異なる速度の送り力もしくは引張り力または引き取り力を付加し得るテンター式延伸機が挙げられる。テンター式延伸機には、横一軸延伸機、同時二軸延伸機等があるが、長尺状の積層体を連続的に斜め延伸し得る限り、任意の適切な延伸機が用いられ得る。
【0034】
延伸温度は、樹脂フィルムのガラス転移温度(Tg)に対し、(Tg-20)℃~(Tg+30)℃であってもよく、(Tg-10)℃~(Tg+20)℃であってもよく、好ましくはTg以上であり、より好ましくは(Tg+1)℃~(Tg+10)℃であり、さらに好ましくは(Tg+1)℃~(Tg+5)℃である。延伸温度は、例えば70℃~180℃であり、好ましくは80℃~170℃である。
【0035】
1つの実施形態においては、長尺状の積層体(以下、単に、「フィルム」と称する場合がある。)の幅方向の左右端部をクリップによって把持すること、クリップを走行移動させることによって積層体を斜め方向に延伸すること、および、積層体をクリップから解放すること、を含む方法により、延伸を行う。
【0036】
図2は、斜め延伸に用いられる延伸装置の一例の全体構成の概略を示す平面図である。延伸装置100は、平面視で、左右両側に、フィルム把持用の多数のクリップ20を有する無端ループ10Lと無端ループ10Rとを左右対称に有する。なお、フィルムの入口側から見て左側の無端ループを左側の無端ループ10L、右側の無端ループを右側の無端ループ10Rと称する。左右の無端ループ10L、10Rのクリップ20は、それぞれ、基準レール30に案内されてループ状に巡回移動する。左側の無端ループ10Lのクリップ20は反時計廻り方向に巡回移動し、右側の無端ループ10Rのクリップ20は時計廻り方向に巡回移動する。延伸装置100においては、シートの入口側から出口側へ向けて、把持ゾーンA、予熱ゾーンB、延伸ゾーンCおよび解放ゾーンDが順に設けられている。これらのそれぞれのゾーンは、延伸対象となるフィルムが実質的に把持、予熱、延伸(斜め延伸)および解放されるゾーンを意味し、機械的、構造的に独立した区画を意味するものではない。また、図2の延伸装置におけるそれぞれのゾーンの長さの比率は、実際の長さの比率と異なることに留意されたい。
【0037】
図示しないが、延伸ゾーンCと解放ゾーンDとの間には、必要に応じて任意の適切な処理をするためのゾーンが設けられてもよい。このような処理としては、例えば、縦収縮処理、横収縮処理が挙げられる。また、図示しないが、延伸装置100は、代表的には、予熱ゾーンBから解放ゾーンDまでの各ゾーンを加熱環境とするための加熱装置(例えば、熱風式、近赤外式、遠赤外式等の各種オーブン)を備える。1つの実施形態において、予熱、延伸および解放は、それぞれ、所定の温度に設定されたオーブン内で行われる。
【0038】
把持ゾーンAおよび予熱ゾーンBでは、左右の無端ループ10L、10Rは、延伸対象となるフィルムの初期幅に対応する離間距離で互いに略平行となるよう構成されている。延伸ゾーンCでは、予熱ゾーンBの側から解放ゾーンDに向かうに従って左右の無端ループ10L、10Rの離間距離が上記フィルムの延伸後の幅に対応するまで徐々に拡大する構成とされている。解放ゾーンDでは、左右の無端ループ10L、10Rは、上記フィルムの延伸後の幅に対応する離間距離で互いに略平行となるよう構成されている。ただし、左右の無端ループ10L、10Rの構成は図示例に限定されない。例えば、左右の無端ループ10L、10Rは、把持ゾーンAから解放ゾーンDまで延伸対象となるフィルムの初期幅に対応する離間距離で互いに略平行となるよう構成されていてもよい。
【0039】
左側の無端ループ10Lのクリップ(左側のクリップ)20および右側の無端ループ10Rのクリップ(右側のクリップ)20は、それぞれ独立して巡回移動し得る。例えば、左側の無端ループ10Lの駆動用スプロケット11、12が電動モータ13、14によって反時計廻り方向に回転駆動され、右側の無端ループ10Rの駆動用スプロケット11、12が電動モータ13、14によって時計廻り方向に回転駆動される。その結果、これら駆動用スプロケット11、12に係合している駆動ローラ(図示せず)のクリップ担持部材(図示せず)に走行力が与えられる。これにより、左側の無端ループ10Lは反時計廻り方向に巡回移動し、右側の無端ループ10Rは時計廻り方向に巡回移動する。左側の電動モータおよび右側の電動モータを、それぞれ独立して駆動させることにより、左側の無端ループ10Lおよび右側の無端ループ10Rをそれぞれ独立して巡回移動させることができる。
【0040】
例えば、左側の無端ループ10Lのクリップ(左側のクリップ)20および右側の無端ループ10Rのクリップ(右側のクリップ)20は、それぞれ可変ピッチ型とされる。すなわち、左右のクリップ20、20は、それぞれ独立して、移動に伴って縦方向のクリップピッチが変化し得る。可変ピッチ型の構成は、パンタグラフ方式、リニアモーター方式、モーター・チェーン方式等の駆動方式を採用することにより実現され得る。例えば、特許文献1、特開2008-44339号公報等には、パンタグラフ方式のリンク機構を用いたテンター式同時二軸延伸装置が詳細に説明されている。
【0041】
把持ゾーンA(延伸装置100のフィルム取り込みの入口)においては、左右の無端ループ10L、10Rのクリップ20によって、延伸対象となるフィルムの両側縁が互いに等しい一定のクリップピッチ、あるいは、互いに異なるクリップピッチで把持される。左右の無端ループ10L、10Rのクリップ20の移動(実質的には、基準レールに案内された各クリップ担持部材の移動)により、当該フィルムは予熱ゾーンBに送られる。
【0042】
予熱ゾーンBにおいては、左右の無端ループ10L、10Rは、上述のとおり延伸対象となるフィルムの初期幅に対応する離間距離で互いに略平行となるよう構成される。したがって、実質的には横延伸も縦延伸もされずにフィルムは加熱されるが、例えば、予熱によるフィルムのたわみが引き起こす不具合を回避するために、左右クリップ間の距離(幅方向の距離)を広げてもよい。
【0043】
予熱においては、フィルムを温度T1まで加熱する。温度T1は、フィルムのガラス転移温度(Tg)以上であることが好ましく、より好ましくはTg+2℃以上であり、さらに好ましくはTg+5℃以上である。一方、加熱温度T1は、好ましくはTg+40℃以下であり、より好ましくはTg+30℃以下である。温度T1は、例えば70℃~190℃であり、好ましくは80℃~180℃である。
【0044】
温度T1までの昇温時間および温度T1の保持時間は、例えば、フィルムの構成材料や製造条件(フィルムの搬送速度等)に応じて適切に設定され得る。昇温時間および保持時間は、クリップ20の移動速度、予熱ゾーンの長さ、予熱ゾーンの温度等を調整することにより制御され得る。
【0045】
延伸ゾーンCにおいては、左右のクリップ20を、その少なくとも一方の縦方向のクリップピッチを変化させながら走行移動させて、フィルムを斜め延伸する。より具体的には、左右のクリップの当該クリップピッチをそれぞれ異なる位置で増大または縮小させること、それぞれ異なる変化速度で左右のクリップの当該クリップピッチを変化(増大および/または縮小)させること等によって、フィルムを斜め延伸する。
【0046】
斜め延伸は、横延伸を含んでもよい。この場合、斜め延伸は、例えば、図2に示すように、左右のクリップ間の距離(幅方向の距離)を拡大させながら行われ得る。あるいは、図2に示す構成とは異なり、左右のクリップ間の距離を維持したまま行われ得る。
【0047】
斜め延伸が横延伸を含む場合、横方向(TD)の延伸倍率(フィルムの初期幅Winitialに対する斜め延伸後のフィルムの幅Wfinalの比(Wfinal/Winitial)は、好ましくは1.05~6.00であり、より好ましくは1.10~5.00である。
【0048】
1つの実施形態において、斜め延伸は、上記左右のクリップのうちの一方のクリップのクリップピッチが増大または減少し始める位置と他方のクリップのクリップピッチが増大または減少し始める位置とを縦方向における異なる位置とした状態で、それぞれのクリップのクリップピッチを所定のピッチまで増大または減少することによって行われ得る。当該実施形態の斜め延伸については、例えば、特許第4845619号公報、特開2014-238524号公報等の記載を参照することができる。
【0049】
別の実施形態において、斜め延伸は、上記左右のクリップのうちの一方のクリップのクリップピッチを固定したまま、他方のクリップのクリップピッチを所定のピッチまで増大または減少させた後、当初のクリップピッチまで戻すことによって行われ得る。当該実施形態の斜め延伸については、例えば、特開2013-54338号公報、特開2014-194482号公報等の記載を参照することができる。
【0050】
さらに別の実施形態において、斜め延伸は、(i)上記左右のクリップのうちの一方のクリップのクリップピッチを増大させつつ、他方のクリップのクリップピッチを減少させること、および、(ii)該減少したクリップピッチと該増大したクリップピッチとが所定の等しいピッチとなるように、それぞれのクリップのクリップピッチを変化させることによって行われ得る。当該実施形態の斜め延伸については、例えば、特開2014-194484号公報等の記載を参照することができる。当該実施形態の斜め延伸は、左右のクリップ間の距離を拡大させながら、一方のクリップのクリップピッチを増大させつつ、他方のクリップのクリップピッチを減少させて、該フィルムを斜め延伸すること(第1の斜め延伸工程)、および、該左右のクリップ間の距離を拡大させながら、左右のクリップのクリップピッチが等しくなるように該一方のクリップのクリップピッチを維持または減少させ、かつ、該他方のクリップのクリップピッチを増大させて、該フィルムを斜め延伸すること(第2の斜め延伸工程)を含み得る。
【0051】
上記第1の斜め延伸工程においては、フィルムの一方の側縁部を長尺方向に伸長させつつ、他方の側縁部を長尺方向に収縮させながら斜め延伸を行うことにより、所望の方向(例えば、長尺方向に対して45°の方向)に高い一軸性および面内配向性で遅相軸を発現させることができる。また、第2の斜め延伸工程においては、左右のクリップピッチの差を縮小しながら斜め延伸を行うことにより、余分な応力を緩和しつつ、斜め方向に十分に延伸することができる。さらに、左右のクリップの移動速度が等しくなった状態でフィルムをクリップから解放することができるので、左右のクリップの解放時にフィルムの搬送速度等のバラつきが生じ難く、その後のフィルムの巻き取りが好適に行われ得る。
【0052】
上記温度T1と斜め延伸の温度T2との差(T1-T2)は、好ましくは±2℃以上であり、より好ましくは±5℃以上である。1つの実施形態においては、T1>T2であり、したがって、予熱ゾーンで温度T1まで加熱されたフィルムは温度T2まで冷却され得る。
【0053】
解放ゾーンDの任意の位置において、上記フィルムはクリップから解放される。解放ゾーンDにおいては、通常、横延伸も縦延伸も行われず、必要に応じて、フィルムを熱処理して延伸状態を固定(熱固定)し、および/または、Tg以下まで冷却し、次いで、フィルムをクリップから解放する。なお、熱固定する際には、縦方向のクリップピッチを減少させ、これにより、応力を緩和してもよい。
【0054】
解放ゾーンDにおいてされてもよい熱処理の温度T3は、延伸されるフィルムによって異なり、T2≧T3の場合も、T2<T3の場合もあり得る。一般的に、フィルムが非晶性材料である場合はT2≧T3であり、フィルムが結晶性材料である場合はT2<T3にして、例えば、結晶化処理を行う。T2≧T3の場合、温度T2とT3の差(T2-T3)は好ましくは0℃~50℃である。熱処理の時間は、代表的には10秒~10分である。
【0055】
上記積層体の延伸を行う際に、所定の温度を満足する環境下(ゾーン)に所定の時間置かれることが好ましい。1つの実施形態においては、所定の温度に加熱されたオーブン内を所定の時間で通過させる。当該ゾーンの温度は、好ましくは60℃以上であり、より好ましくは80℃以上200℃以下である。当該ゾーンに積層体を置く時間は、好ましくは30秒以上600秒以下であり、より好ましくは60秒以上480秒以下である。このような形態によれば、製造時の破断が抑制され、接着性(例えば、偏光板(偏光子)との接着性)に優れた易接着層付位相差フィルムを得ることができる。具体的には、積層体の易接着層前駆体膜は、所定の温度を満足する環境下に所定の時間置かれることにより、良好に架橋反応が進み、製造時の破断が抑制され、接着性に優れた易接着層付位相差フィルムを得ることができる。
【0056】
B.易接着層付位相差フィルムおよび位相差層付偏光板
図3は、本発明の1つの実施形態における易接着層付位相差フィルムの使用方法の一例として、位相差層付偏光板の概略の構成を示す断面図である。位相差層付偏光板80は、偏光板71と、偏光板71の片側に接着層61を介して貼り合わせられた易接着層付位相差フィルム51とを有する。偏光板71は、偏光子72と偏光子72の片側に配置された保護層73とを有し、偏光子72に接着層61を介して易接着層付位相差フィルム51が貼り合わせられている。易接着層付位相差フィルム51は、位相差フィルム52と易接着層53とを有し、易接着層53が接着層61に接している。図示しないが、偏光子72のもう片側に(偏光子72と易接着層付位相差フィルム51との間に)第二保護層が配置されていてもよい。
【0057】
位相差層付偏光板80は、例えば、偏光板71と易接着層付位相差フィルム51とを、接着剤または粘着剤を介して積層することにより得ることができる。1つの実施形態においては、長尺状の偏光板と長尺状の易接着層付位相差フィルムとをロールトゥロールにより積層する。なお、「長尺状」とは、幅に対して長さが十分に長い細長形状をいい、例えば、幅に対して長さが10倍以上、好ましくは20倍以上の細長形状をいう。
【0058】
B-1.位相差フィルム
位相差フィルムは、面内位相差を有し得る。位相差フィルムの面内位相差Re(550)は、例えば100nm~310nmである。1つの実施形態においては、位相差フィルムは、λ/2板として機能し得る。具体的には、位相差フィルムの面内位相差Re(550)は、好ましくは230nm~310nm、より好ましくは250nm~290nmである。別の実施形態においては、位相差フィルムは、λ/4板として機能し得る。具体的には、位相差フィルムの面内位相差Re(550)は、好ましくは100nm~190nmであり、より好ましくは110nm~180nmであり、さらに好ましくは130nm~160nmであり、特に好ましくは135nm~155nmである。
【0059】
位相差フィルムは、代表的には、nx>ny≧nzの屈折率特性を有する。ここで、「ny=nz」はnyとnzが完全に等しい場合だけではなく、実質的に等しい場合を包含する。したがって、ny<nzとなる場合があり得る。位相差フィルムのNz係数は、好ましくは0.9~3.0であり、より好ましくは0.9~2.5であり、さらに好ましくは0.9~1.5であり、特に好ましくは0.9~1.3である。このようなNz係数によれば、例えば、位相差フィルム(位相差層付偏光板)を画像表示装置に用いた場合に、優れた反射色相を達成し得る。
【0060】
位相差フィルムは、位相差値が測定光の波長に応じて大きくなる逆分散波長特性を示してもよく、位相差値が測定光の波長に応じて小さくなる正の波長分散特性を示してもよく、位相差値が測定光の波長によってもほとんど変化しないフラットな波長分散特性を示してもよい。1つの実施形態においては、位相差フィルムは、逆分散波長特性を示す。この場合、位相差フィルムのRe(450)/Re(550)は、好ましくは0.8以上1未満であり、より好ましくは0.8以上0.95以下である。このような波長特性によれば、例えば、位相差フィルム(位相差層付偏光板)を画像表示装置に用いた場合に、優れた反射防止特性を達成し得る。
【0061】
位相差フィルムの厚みは、用途および目的に応じて適切に設定され得る。位相差フィルムの厚みは、好ましくは15μm~60μmであり、より好ましくは25μm~45μmである。
【0062】
位相差フィルムは、上述のとおり、延伸処理された樹脂フィルムから構成される。1つの実施形態においては、延伸処理は一軸延伸である。この場合、位相差フィルムは延伸方向に遅相軸を有し、位相差フィルム(易接着層付位相差フィルム)は、枚葉状とされてもよく、長尺状であってもよい。別の実施形態においては、延伸処理は斜め延伸である。この場合、位相差フィルムは長尺方向に対して斜め方向に遅相軸を有する。斜め方向は、位相差フィルムの長尺方向に対して、好ましくは30°~60°、より好ましくは40°~50°、さらに好ましくは42°~48°、特に好ましくは約45°の方向である。この場合、位相差フィルム(易接着層付位相差フィルム)は、代表的には長尺状である。偏光子は、通常長尺方向に吸収軸を有するので、長尺状の位相差フィルムによれば、ロールトゥロールにより位相差層付偏光板を作製することができ、製造効率に優れ得る。
【0063】
B-2.易接着層
易接着層は、代表的には、水系樹脂の塗工膜の固化層である。したがって、易接着層は、好ましくは、ウレタン系樹脂を含む水系分散体(易接着層形成用塗工液)の塗工膜の固化層である。
【0064】
易接着層の厚みは、好ましくは100nm以上1000nm以下であり、より好ましくは150nm以上900nm以下であり、さらに好ましくは200nm以上800nm以下であり、特に好ましくは200nm以上600nm以下である。このような厚みによれば、易接着層付位相差フィルム製造時の破断が抑制され得、偏光板(偏光子)との接着性がより優れ得る。
【0065】
B-3.偏光子
偏光子は、代表的には吸収型偏光子である。位相差フィルムの遅相軸と偏光子の吸収軸とのなす角度は、用途および目的に応じて適切に設定され得る。1つの実施形態においては、位相差フィルムの遅相軸と偏光子の吸収軸とのなす角度は、好ましくは30°~60°であり、より好ましくは40°~50°であり、さらに好ましくは42°~48°であり、特に好ましくは約45°である。
【0066】
偏光子は、好ましくは、波長380nm~780nmのいずれかの波長で吸収二色性を示す。偏光子の単体透過率は、例えば41.5%~46.0%であり、好ましくは42.0%~46.0%であり、より好ましくは44.5%~46.0%である。偏光子の偏光度は、好ましくは97.0%以上であり、より好ましくは99.0%以上であり、さらに好ましくは99.9%以上である。
【0067】
偏光子は、代表的には、二色性物質(例えば、ヨウ素)を含む樹脂フィルムである。樹脂フィルムとしては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)系フィルム、部分ホルマール化PVA系フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体系部分ケン化フィルム等の親水性高分子フィルムが挙げられる。
【0068】
偏光子の厚みは、例えば1μm~80μmである。1つの実施形態においては、偏光子の厚みは、好ましくは1μm~25μmであり、さらに好ましくは3μm~10μmであり、特に好ましくは3μm~8μmである。
【0069】
偏光子は、任意の適切な方法で作製し得る。具体的には、偏光子は、単層の樹脂フィルムから作製してもよく、二層以上の積層体を用いて作製してもよい。
【0070】
単層の樹脂フィルムから偏光子を作製する方法は、代表的には、樹脂フィルムに、ヨウ素や二色性染料等の二色性物質による染色処理と延伸処理とを施すことを含む。樹脂フィルムとしては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)系フィルム、部分ホルマール化PVA系フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体系部分ケン化フィルム等の親水性高分子フィルムが用いられる。当該方法は、不溶化処理、膨潤処理、架橋処理等をさらに含んでいてもよい。このような製造方法は、当業界で周知慣用であるので、詳細な説明は省略する。
【0071】
積層体を用いて得られる偏光子の具体例としては、樹脂基材と当該樹脂基材に積層されたPVA系樹脂層(PVA系樹脂フィルム)との積層体、あるいは、樹脂基材と当該樹脂基材に塗布形成されたPVA系樹脂層との積層体を用いて得られる偏光子が挙げられる。このような偏光子の製造方法の詳細は、例えば特開2012-73580号公報、特許第6470455号に記載されている。これらの公報は、その全体の記載が本明細書に参考として援用される。
【0072】
B-4.保護層
保護層は、偏光子の保護層として使用できる任意の適切なフィルムで形成され得る。当該フィルムの主成分となる材料の具体例としては、トリアセチルセルロース(TAC)等のセルロース系樹脂や、ポリエステル系、ポリビニルアルコール系、ポリカーボネート系、ポリアミド系、ポリイミド系、ポリエーテルスルホン系、ポリスルホン系、ポリスチレン系、ポリノルボルネン系等のシクロオレフィン系、ポリオレフィン系、(メタ)アクリル系、アセテート系等の透明樹脂が挙げられる。
【0073】
上記位相差層付偏光板は、代表的には、画像表示装置の視認側に配置される。したがって、保護層には、必要に応じて、ハードコート(HC)処理、反射防止処理、スティッキング防止処理、アンチグレア処理等の表面処理が施されていてもよい。
【0074】
保護層の厚みは、好ましくは5μm~80μm、より好ましくは10μm~40μm、さらに好ましくは10μm~30μmである。なお、上記表面処理が施されている場合、保護層の厚みは、表面処理層の厚みを含めた厚みである。
【0075】
上記第二保護層は、1つの実施形態においては、光学的に等方性であることが好ましい。本明細書において「光学的に等方性である」とは、面内位相差Re(550)が0nm~10nmであり、厚み方向の位相差Rth(550)が-10nm~+10nmであることをいう。
【0076】
B-5.接着層
接着層の具体例としては、接着剤層、粘着剤層が挙げられる。1つの実施形態においては、接着層として接着剤層が採用される。接着剤層は、代表的には、活性エネルギー線硬化型接着剤で構成される。接着剤層が活性エネルギー線硬化型接着剤である場合、易接着層の効果が顕著なものとなる。活性エネルギー線硬化型接着剤としては、活性エネルギー線の照射によって硬化し得る接着剤であれば、任意の適切な接着剤が用いられ得る。活性エネルギー線硬化型接着剤としては、例えば、紫外線硬化型接着剤、電子線硬化型接着剤等が挙げられる。活性エネルギー線硬化型接着剤の硬化型の具体例としては、ラジカル硬化型、カチオン硬化型、アニオン硬化型、これらの組み合わせ(例えば、ラジカル硬化型とカチオン硬化型のハイブリッド)が挙げられる。活性エネルギー線硬化型接着剤としては、例えば、硬化成分として(メタ)アクリレート基や(メタ)アクリルアミド基などのラジカル重合性基を有する化合物(例えば、モノマーおよび/またはオリゴマー)を含有する接着剤が挙げられる。活性エネルギー線硬化型接着剤およびその硬化方法の具体例は、例えば、特開2012-144690号公報に記載されている。当該公報の記載は、本明細書に参考として援用される。
【0077】
活性エネルギー線硬化型接着剤の硬化後の厚み(接着剤層の厚み)は、例えば0.2μm~3.0μmであり、好ましくは0.4μm~2.0μmであり、より好ましくは0.6μm~1.5μmである。
【実施例
【0078】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。なお、各特性の測定方法および評価方法は以下の通りである。
(1)厚み
ダイヤルゲージ(PEACOCK社製、製品名「DG-205 type pds-2」)を用いて測定した。
(2)位相差値
Axometrics社製のAxoscanを用いて面内位相差Re(550)を測定した。
(3)配向角(遅相軸の発現方向)
測定対象のフィルムの中央部を、一辺が当該フィルムの幅方向と平行となるようにして幅50mm、長さ50mmの正方形状に切り出して試験片を得た。この試験片を、Axometrics社製のAxoscanを用いて測定し、波長550nmにおける配向角θを測定した。
(4)ガラス転移温度(Tg)
JIS K 7121に準じて測定した。
【0079】
[実施例1]
(ポリエステルカーボネート樹脂フィルムの作製)
撹拌翼および100℃に制御された還流冷却器を具備した縦型反応器2器からなるバッチ重合装置を用いて重合を行った。ビス[9-(2-フェノキシカルボニルエチル)フルオレン-9-イル]メタン 29.60質量部(0.046mol)、ISB 29.21質量部(0.200mol)、SPG 42.28質量部(0.139mol)、DPC 63.77質量部(0.298mol)及び触媒として酢酸カルシウム1水和物1.19×10-2質量部(6.78×10-5mol)を仕込んだ。反応器内を減圧窒素置換した後、熱媒で加温を行い、内温が100℃になった時点で撹拌を開始した。昇温開始40分後に内温を220℃に到達させ、この温度を保持するように制御すると同時に減圧を開始し、220℃に到達してから90分で13.3kPaにした。重合反応とともに副生するフェノール蒸気を100℃の還流冷却器に導き、フェノール蒸気中に若干量含まれるモノマー成分を反応器に戻し、凝縮しないフェノール蒸気は45℃の凝縮器に導いて回収した。第1反応器に窒素を導入して一旦大気圧まで復圧させた後、第1反応器内のオリゴマー化された反応液を第2反応器に移した。次いで、第2反応器内の昇温および減圧を開始して、50分で内温240℃、圧力0.2kPaにした。その後、所定の攪拌動力となるまで重合を進行させた。所定動力に到達した時点で反応器に窒素を導入して復圧し、生成したポリエステルカーボネートを水中に押し出し、ストランドをカッティングしてペレットを得た。得られたポリエステルカーボネート樹脂のTgは、140℃であった。
【0080】
得られたポリエステルカーボネート樹脂を80℃で5時間真空乾燥をした後、単軸押出機(東芝機械社製、シリンダー設定温度:250℃)、Tダイ(幅200mm、設定温度:250℃)、チルロール(設定温度:120~130℃)および巻取機を備えたフィルム製膜装置を用いて、厚み135μmのポリエステルカーボネート樹脂フィルムを作製した。
【0081】
(易接着層形成用塗工液の調製)
ポリエステルウレタン(第一工業製薬製、商品名:スーパーフレックス210、固形分:33%)16.8g、架橋剤(オキサゾリン含有ポリマー、日本触媒製、商品名:エポクロスWS-700、固形分:25%)4.2g、および1重量%のアンモニア水2.0gを混合し、純水およびイソプロピルアルコール(IPA、レベリング剤)を加えて固形分濃度を1重量%に、IPA濃度を2.5重量%に調整し、易接着層形成用塗工液を調製した。
【0082】
(易接着層前駆体膜の形成)
厚み200nmの易接着層が得られるように、上記易接着層形成用塗工液を、上記ポリエステルカーボネート樹脂フィルムにバーコーター(#6)で塗工した。その後、80℃で5分乾燥させて、ポリエステルカーボネート樹脂フィルムとの易接着層前駆体膜との積層体を得た。
【0083】
(斜め延伸)
得られた積層体を、図2に示すような延伸装置であって、予熱ゾーン、斜め延伸ゾーンおよび解放ゾーンのそれぞれを独立して所定の温度に制御可能なオーブンを備える延伸装置を用いて斜め延伸して、位相差フィルムを得た。
具体的には、把持ゾーンで積層体の幅方向の左右端部を左右のクリップで把持し、予熱ゾーンで145℃に予熱した。予熱ゾーンにおいては、左右のクリップのクリップピッチ(P)は125mmであった。
次に、積層体が斜め延伸ゾーンに入ると同時に、右側クリップのクリップピッチの増大および左側クリップのクリップピッチの減少を開始し、右側クリップのクリップピッチをPまで増大させるとともに左側クリップのクリップピッチをPまで減少させた。このとき、右側クリップのクリップピッチ変化率(P/P)は、1.42であり、左側クリップのクリップピッチ変化率(P/P)は0.78であり、フィルムの原幅に対する横延伸倍率は1.45倍であった。次いで、右側クリップのクリップピッチをPに維持したままで、左側クリップのクリップピッチの増大を開始し、PからPまで増大させた。この間の左側クリップのクリップピッチの変化率(P/P)は1.82であり、フィルムの原幅に対する横延伸倍率は1.9倍であった。なお、延伸ゾーンはTg+3.2℃(143.2℃)に設定した。
次いで、解放ゾーンにおいて、125℃で60秒間フィルムを保持して熱固定を行った。熱固定されたフィルムを、100℃まで冷却後、左右のクリップを解放し、延伸装置出口から送り出した。
積層体を80℃以上の環境下に置いた時間は300秒間であった。
【0084】
こうして、位相差フィルム(厚み:55μm、Re(550):140nm、遅相軸方向と長尺方向とのなす角度:45°)と易接着層(厚み:200nm)を有する易接着層付位相差フィルムを得た。
【0085】
[実施例2]
斜め延伸において積層体の搬送速度(ライン速度)を変更し、積層体を80℃以上の環境下に置いた時間を200秒間としたこと以外は実施例1と同様にして、易接着層付位相差フィルムを得た。
【0086】
[実施例3]
得られる易接着層の厚みを変更したこと以外は実施例1と同様にして、易接着層付位相差フィルムを得た。
【0087】
[比較例1]
得られる易接着層の厚みを変更したこと以外は実施例1と同様にして、易接着層付位相差フィルムを得た。
【0088】
[比較例2]
斜め延伸において積層体の搬送速度(ライン速度)を変更し、積層体を80℃以上の環境下に置いた時間を700秒間としたこと以外は実施例1と同様にして、易接着層付位相差フィルムを得た。
【0089】
実施例および比較例について、下記の評価を行った。評価結果を表1にまとめる。
<評価>
1.搬送性(破断の有無)
易接着層付位相差フィルムが得られるまでのフィルムの搬送性を評価した。具体的には、フィルムの破断が生じるか否かを観察した。
2.剥離力(接着力)
得られた易接着層付位相差フィルムを、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムからなる偏光子とTACフィルムとの積層構造を有する偏光板の偏光子側に、紫外線硬化型接着剤(硬化後の厚み0.8μm)を介して、貼り合わせ、位相差層付偏光板を得た。
得られた位相差層付偏光板から幅25mm、長さ150mmのサイズに切り出したサンプルを、万能引張試験機にて剥離速度300mm/分、剥離角度90°で長さ方向に剥離したときの剥離力(N/50mm)を測定した。具体的には、偏光板に対する易接着層付位相差フィルムの剥離力を測定した。なお、測定は23℃×50%RHの環境下で行った。
【0090】
【表1】
【0091】
比較例2においては、延伸時の破断により、剥離力を測定できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明の実施形態による易接着層付位相差フィルムは、位相差層付偏光板などの光学部材に好適に用いられ、そのような光学部材は画像表示装置に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0093】
1 積層体
2 樹脂フィルム
3 易接着層前駆体膜
51 易接着層付位相差フィルム
52 位相差フィルム
53 易接着層
61 接着層
71 偏光板
72 偏光子
73 保護層
80 位相差層付偏光板
図1
図2
図3