IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ヤマハ発動機株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-29
(45)【発行日】2023-10-10
(54)【発明の名称】船外機および船外機の防振構造
(51)【国際特許分類】
   B63H 21/30 20060101AFI20231002BHJP
   B63H 20/08 20060101ALI20231002BHJP
【FI】
B63H21/30 Z
B63H20/08 510
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021185232
(22)【出願日】2021-11-12
(65)【公開番号】P2023072580
(43)【公開日】2023-05-24
【審査請求日】2022-05-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】弁理士法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水谷 真
(72)【発明者】
【氏名】山之内 基純
(72)【発明者】
【氏名】松永 卓真
(72)【発明者】
【氏名】萩 朋洋
【審査官】福田 信成
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-329829(JP,A)
【文献】特開平02-158495(JP,A)
【文献】特開2018-192914(JP,A)
【文献】特開2007-290644(JP,A)
【文献】特開2006-015978(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63H 21/30
B63H 20/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船外機本体と、
船体に固定されるクランプブラケットと、前記クランプブラケットにチルト軸を介して前記チルト軸周りに回動可能に連結され、前記船外機本体を支持するスイベルブラケットと、を含み、前記船外機本体を前記船体に取り付ける取付機構と、
前記クランプブラケットおよび前記スイベルブラケットの間に結合され、前記クランプブラケットに対して前記チルト軸周りに前記スイベルブラケットを回動させる油圧シリンダと、
前記油圧シリンダの伸縮方向に作用する外力を減衰させるガスダンパと、を含み、
前記油圧シリンダが、シリンダ本体と、前記シリンダ本体内を摺動し前記シリンダ本体内に一対の油室を区画するピストンと、前記一対の油室の一方を貫通して前記シリンダ本体外へ延びるロッドと、を含み、油圧回路から前記一対の油室に作動油が給排されることに伴って前記ロッドを伸縮させるように構成されており、
前記ガスダンパが、前記油圧シリンダの前記一対の油室の少なくとも一方と油圧接続されたサブシリンダを含む、船外機。
【請求項2】
前記サブシリンダは、サブシリンダ本体と、前記サブシリンダ本体内を摺動するフリーピストンであって、前記油圧シリンダの前記一対の油室の少なくとも一方と連通するサブ油室とガスが封入されたガス室との間を仕切るフリーピストンを含む、請求項に記載の船外機。
【請求項3】
前記サブシリンダ本体が、前記フリーピストンのストロークエンドの位置を規制するように前記フリーピストンに突き当てられる突き当て部であって、前記ガス室の最小容積を規制する突き当て部を含む、請求項記載の船外機。
【請求項4】
前記サブシリンダが、一対設けられ、
各前記サブシリンダの前記サブ油室が、前記油圧シリンダの対応する前記油室と接続される、請求項またはに記載の船外機。
【請求項5】
前記サブシリンダが、単一で設けられ、
前記油圧シリンダの前記一対の油室の双方が、前記サブ油室と連通される、請求項またはに記載の船外機。
【請求項6】
前記サブシリンダが、単一で設けられ、
前記ガス室が、一対設けられ、
前記サブ油室が、一対設けられ、
前記油圧シリンダの前記一対の油室は、それぞれ対応する前記サブ油室と連通され、
前記フリーピストンは、前記一対のガス室間を仕切るガスピストンと、前記ガスピストンから前記フリーピストンの摺動方向の両側に延び、それぞれ対応する前記サブ油室の一部を区画する油圧ピストンとして機能する一対のロッドと、を含むロッドピストンで構成されている、請求項またはに記載の船外機。
【請求項7】
前記油圧シリンダの前記一対の油室の少なくとも一方と前記サブシリンダの前記サブ油室との間の作動油の流通を遮断可能な開閉弁をさらに含む、請求項の何れか一項に記載の船外機。
【請求項8】
プロペラを回転させる原動機と、前記原動機の回転速度を検出するセンサと、前記センサにより検出された回転速度が所定の閾値を超えると前記開閉弁としての制御弁を遮断するようにプログラムされたコントローラと、をさらに含む、請求項に記載の船外機。
【請求項9】
船外機本体と、
船体に固定されるクランプブラケットと、前記クランプブラケットにチルト軸を介して前記チルト軸周りに回動可能に連結され、前記船外機本体を支持するスイベルブラケットと、を含み、前記船外機本体を前記船体に取り付ける取付機構と、
前記クランプブラケットおよび前記スイベルブラケットの間に結合され、前記クランプブラケットに対して前記チルト軸周りに前記スイベルブラケットを回動させる油圧シリンダと、
前記油圧シリンダの伸縮方向に作用する外力を減衰させるガスダンパと、を含み、
前記油圧シリンダが、シリンダ本体と、前記シリンダ本体内を摺動し前記シリンダ本体内に一対の油室を区画するピストンと、前記一対の油室の一方を貫通して前記シリンダ本体外へ延びるロッドと、を含み、油圧回路から前記一対の油室に作動油が給排されることに伴って前記ロッドを伸縮させるように構成されており、
前記ピストンが、ガスが封入されたガス室を区画する筒状の内周面を有する中空ピストンを含み、
前記ガスダンパが、前記中空ピストンと、前記中空ピストン内に前記内周面を摺動可能に収容され、前記ロッドと連結され、前記ガス室を一対のガス室に仕切る内部ピストンと、を含む二重ピストン構造を含む、船外機。
【請求項10】
前記中空ピストンが、前記内部ピストンに突き当てられる突き当て部であって、前記中空ピストンに対する前記内部ピストンのストロークエンドの位置を規制することにより、前記ガス室の最小容積を規制する突き当て部を含む、請求項に記載の船外機。
【請求項11】
前記油圧シリンダが、シリンダ本体と、前記シリンダ本体内を摺動し前記シリンダ本体内に一対の油室を区画するピストンと、前記一対の油室の一方を貫通して前記シリンダ本体外へ延びるロッドと、を含み、油圧回路から前記一対の油室に作動油が給排されることに伴って前記ロッドを伸縮させるように構成されており、
前記ガスダンパが、前記油圧シリンダ内、または前記油圧シリンダと油圧接続されるサブシリンダ内に、ガスが封入されたガス室を区画する可動仕切りを含む、請求項1または9に記載の船外機。
【請求項12】
前記取付機構が、前記スイベルブラケットに対して前記船外機本体を弾性支持する弾性マウントをさらに含み、
前記ガスダンパが、前記弾性マウントのばね定数よりも低いばね定数のガスばねとして機能するように構成されている、請求項1~11の何れか一項に記載の船外機。
【請求項13】
船体に対して固定されるクランプブラケットに連結されるチルト軸の周りに船外機本体を回動させる油圧シリンダであって、ピストンによって仕切られた一対の油室を含む油圧シリンダと、
前記油圧シリンダの伸縮方向に作用する外力を減衰させるガスダンパであって、前記油圧シリンダの前記一対の油室の少なくとも一方と油圧接続されたサブシリンダを含むガスダンパと、を含む船外機の防振構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船外機および船外機の防振構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、船舶用推進機のチルト・トリム装置を開示している。この装置は、船外機のスイベルブラケットと船体との間に配置された油圧シリンダ装置に対して、ポンプ装置から作動油が供給されるように構成されている。油圧シリンダ装置の伸縮により、船外機の推進ユニットが、チルト操作或いはトリム操作される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平9-11988号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
トローリング等の低速航行時は、エンジンが低速で回転する。このとき、船外機から船体に低周波数の振動が伝わる。この振動を低減できれば、船舶の乗り心地を向上できる。
【0005】
そこで、本発明の一実施形態は、船体に伝わる振動を抑制することができる船外機および船外機の防振構造を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態は、船外機本体と、前記船外機本体を前記船体に取り付ける取付機構と、を含む船外機を提供する。前記取付機構は、船体に固定されるクランプブラケットと、前記クランプブラケットにチルト軸を介して前記チルト軸周りに回動可能に連結され、前記船外機本体を支持するスイベルブラケットと、を含む。前記船外機は、前記クランプブラケットおよび前記スイベルブラケットの間に結合され、前記クランプブラケットに対して前記チルト軸周りに前記スイベルブラケットを回動させる油圧シリンダをさらに含む。前記船外機は、前記油圧シリンダの伸縮方向に作用する外力を減衰させるガスダンパをさらに含む。前記油圧シリンダが、シリンダ本体と、前記シリンダ本体内を摺動し前記シリンダ本体内に一対の油室を区画するピストンと、前記一対の油室の一方を貫通して前記シリンダ本体外へ延びるロッドと、を含む。前記油圧シリンダは、油圧回路から前記一対の油室に作動油が給排されることに伴って前記ロッドを伸縮させるように構成されている。前記ガスダンパが、前記油圧シリンダの前記一対の油室の少なくとも一方と油圧接続されたサブシリンダを含む。この構成によれば、スイベルブラケットをチルト軸周りに回動させる油圧シリンダの伸縮方向に作用する外力が、ガスダンパによって減衰される。このため、船体に伝わる振動を抑制することができる。
【0012】
1つの実施形態では、前記サブシリンダは、サブシリンダ本体と、前記サブシリンダ本
体内を摺動するフリーピストンを含む。前記フリーピストンは、前記油圧シリンダの前記
一対の油室の少なくとも一方と連通するサブ油室とガスが封入されたガス室との間を
仕切る。この構成によれば、サブシリンダ本体内に、フリーピストンによってサブ油室と
仕切られたガス室内に封入されたガスが、ダンパとして機能することにより、油圧シリン
ダの伸縮方向に作用する外力が減衰される。このため、船体に伝わる振動を抑制すること
ができる。
【0013】
1つの実施形態では、前記サブシリンダ本体が、前記フリーピストンのストロークエンドの位置を規制するように前記フリーピストンに突き当てられる突き当て部であって、前記ガス室の最小容積を規制する突き当て部を含む。この構成によれば、ガス室内の圧力上昇が抑制される。
【0014】
1つの実施形態では、前記サブシリンダが、一対設けられ、各前記サブシリンダの前記サブ油室が、前記油圧シリンダの対応する前記油室と接続される。この構成によれば、油圧シリンダの伸長および短縮にそれぞれ対応するサブシリンダが、ガスダンパとして機能する。これにより、伸縮および短縮の双方向の外力を減衰させることができる。このため減衰効果が高い。船体に伝わる振動をより抑制することができる。
【0015】
1つの実施形態では、前記サブシリンダが、単一で設けられ、前記油圧シリンダの前記一対の油室の双方が、前記サブ油室と連通される。この構成によれば、油圧シリンダの伸長および短縮に対して、共通のサブシリンダがガスダンパとして機能できる。
【0016】
1つの実施形態では、前記サブシリンダが、単一で設けられ、前記ガス室が、一対設けられ、前記サブ油室が、一対設けられる。前記油圧シリンダの前記一対の油室は、それぞれ対応する前記サブ油室と連通される。前記フリーピストンは、前記一対のガス室間を仕切るガスピストンと、前記ガスピストンから前記フリーピストンの摺動方向の両側に延び一対のロッドと、を含むロッドピストンで構成されている。前記一対のロッドは、それぞれ対応する前記サブ油室の一部を区画する油圧ピストンとして機能する。この構成によれば、油圧シリンダの伸長および短縮に対して、共通のサブシリンダがガスダンパとして機能できる。
【0017】
1つの実施形態では、前記油圧シリンダの前記一対の油室の少なくとも一方と前記サブシリンダの前記サブ油室との間の作動油の流通を遮断可能な開閉弁をさらに含む。この構成によれば、油圧シリンダの少なくとも一方の油室とサブシリンダのサブ油室との間の作動油の流通が、開閉弁によって許容される状態で、サブシリンダのガス室内に封入されたガスが、ダンパとして機能する。これにより、油圧シリンダの伸縮方向に作用する外力が減衰される。このため、船体に伝わる振動を抑制することができる。
【0018】
1つの実施形態では、プロペラを回転させる原動機と、前記原動機の回転速度を検出するセンサと、前記センサにより検出された回転速度が所定の閾値を超えると前記開閉弁としての制御弁を遮断するようにプログラムされたコントローラと、をさらに含む。この構成によれば、原動機の回転速度の検出値が閾値よりも低いときに、サブシリンダのガス室内に封入されたガスが、ダンパとして機能する。このため、船体に伝わる振動を抑制することができる。
【0022】
本発明実施形態は船外機本体と、前記船外機本体を前記船体に取り付ける取付機構と、を含む船外機を提供する。前記取付機構は、船体に固定されるクランプブラケットと、前記クランプブラケットにチルト軸を介して前記チルト軸周りに回動可能に連結され、前記船外機本体を支持するスイベルブラケットと、を含む。前記船外機は、前記クランプブラケットおよび前記スイベルブラケットの間に結合され、前記クランプブラケットに対して前記チルト軸周りに前記スイベルブラケットを回動させる油圧シリンダをさらに含む。前記船外機は、前記油圧シリンダの伸縮方向に作用する外力を減衰させるガスダンパをさらに含む。前記油圧シリンダが、シリンダ本体と、前記シリンダ本体内を摺動し前記シリンダ本体内に一対の油室を区画するピストンと、前記一対の油室の一方を貫通して前記シリンダ本体外へ延びるロッドと、を含む。前記油圧シリンダは、油圧回路から前記一対の油室に作動油が給排されることに伴って前記ロッドを伸縮させるように構成されている。また、前記ピストンが、ガスが封入されたガス室を区画する筒状の内周面を有する中空ピストンを含む。また、前記ガスダンパが、前記中空ピストンと、前記中空ピストン内に前記内周面を摺動可能に収容され、前記ロッドと連結され、前記ガス室を一対のガス室に仕切る内部ピストンと、を含む二重ピストン構造を含む。
【0023】
この構成によれば、ロッドの伸縮に伴って内部ピストンが中空ピストン内をストロークすることにより、中空ピストン内の対応するガス室のガスが圧縮される。これにより、油圧シリンダの伸縮方向に作用する外力が減衰される。このため、船体に伝わる振動を抑制することができる。
【0024】
1つの実施形態では、前記中空ピストンが、前記内部ピストンに突き当てられる突き当て部であって、前記中空ピストンに対する前記内部ピストンのストロークエンドの位置を規制することにより、前記ガス室の最小容積を規制する突き当て部を含む。この構成によれば、ガス室内の圧力上昇が抑制される。
【0026】
1つの実施形態では、前記油圧シリンダが、シリンダ本体と、前記シリンダ本体内を摺動し前記シリンダ本体内に一対の油室を区画するピストンと、前記一対の油室の一方を貫通して前記シリンダ本体外へ延びるロッドと、を含む。前記油圧シリンダは、油圧回路から前記一対の油室に作動油が給排されることに伴って前記ロッドを伸縮させるように構成されている。また、前記ガスダンパが、前記油圧シリンダ内、または前記油圧シリンダと油圧接続されるサブシリンダ内に、ガスが封入されたガス室を区画する可動仕切りを含む。
【0027】
この構成によれば、例えば油圧シリンダ内に可動仕切りにより区画されたガス室内のガスが、ダンパとして機能することにより、油圧シリンダの伸縮方向に作用する外力が減衰される。このため、船体に伝わる振動を抑制することができる。
【0028】
1つの実施形態では、前記取付機構が、前記スイベルブラケットに対して前記船外機本体を弾性支持する弾性マウントをさらに含み、前記ガスダンパが、前記弾性マウントのばね定数よりも低いばね定数のガスばねとして機能するように構成されている。この構成によれば、油圧シリンダの伸縮方向に作用する外力が小さい場合でも、ガスダンパを伸縮させることが可能となる。このため、防振効果を高めることができ、船体に伝わる振動をより抑制することができる。
【0029】
本発明の一実施形態は、船体に対して固定されるクランプブラケットに連結されるチルト軸の周りに船外機本体を回動させる油圧シリンダであってピストンによって仕切られた一対の油室を含む油圧シリンダと、前記油圧シリンダの伸縮方向に作用する外力を減衰させるガスダンパであって、前記油圧シリンダの前記一対の油室の少なくとも一方と油圧接続されたサブシリンダを含むガスダンパと、を含む船外機の防振構造を提供する。この構成によれば、船外機本体を回動させる油圧シリンダの伸縮方向に作用する外力が、ガスダンパによって減衰される。このため、船体に伝わる振動を抑制することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、船体に伝わる振動を抑制することができる船外機および船外機の防振構造を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る船外機の構成例を説明するための側面図である。
図2図2は、船外機本体がチルトアップされた状態を示す説明図である。
図3図3は、船外機本体を船舶に取り付ける取付機構の概略図である。
図4図4は、図1のIV―IV線に沿う切断図を示す断面図である。
図5A図5Aは、船外機の防振構造の一例を説明するための概略図である。
図5B図5Bは、図5Aの船外機の防振構造の一例において機能を説明する概略断面である。
図6A図6Aは、船外機の防振構造の他の一例を説明するための概略図である。
図6B図6Bは、図6Aの船外機の防振構造の一例において機能を説明する概略断面である。
図7図7は、船外機の防振構造のさらに他の一例を説明するための概略図である。
図8図8は、船外機の防振構造のさらに他の一例を説明するための概略図である。
図9図9は、船外機の防振構造のさらに他の一例を説明するための概略図である。
図10図10は、船外機の防振構造のさらに他の一例を説明するための概略図である。
図11図11は、船外機の防振構造のさらに他の一例を説明するための概略図である。
図12図12は、船外機の防振構造のさらに他の一例を説明するための概略図である。
図13図13は、船外機の防振構造のさらに他の一例を説明するための概略図である。
図14A図14Aは、船外機の防振構造のさらに他の一例を説明するための概略図である。
図14B図14Bは、図14Aの船外機の防振構造の一例において機能を説明する概略断面である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明を具体化した実施形態を図面に従って説明する。
【0033】
図1は、本発明の一実施形態に係る船外機1の構成例を説明するための側面図である。船外機1は、船外機本体2と、取付機構3と、パワートリム&チルト機構4(以下、「PTT機構4」という。)とを含む。船外機本体2は、取付機構3によって、船舶5の船体5aの後部に取り付けられている。
【0034】
取付機構3は、スイベルブラケット7と、クランプブラケット6と、ステアリング軸8と、チルト軸9と、アッパブラケット10と、ロアブラケット11と、複数の防振マウント12とを含む。ステアリング軸8は、上下方向に延びて配置されている。チルト軸9は、左右方向(図1の紙面と直交する方向)に延びてほぼ水平に配置されている。スイベルブラケット7は、ステアリング軸8を介して船外機本体2に連結されている。PTT機構4は、船外機本体2をチルト軸9まわりに回動させて、船外機本体2をクランプブラケット6に対して傾ける回動機構の一例である。複数の防振マウント12は、上下に配置されている。防振マウント12は、スイベルブラケット7に対して船外機本体2を弾性支持する弾性マウントの一例である。
【0035】
アッパブラケット10およびロアブラケット11は、船外機本体2を船体5aに取り付けるためのブラケットの一例である。アッパブラケット10は、ステアリング軸8の上端部8aに固定されている。ロアブラケット11は、ステアリング軸8の下端部8bに固定されている。アッパブラケット10およびロアブラケット11のそれぞれは、防振マウント12を介して、船外機本体2に連結されている。
【0036】
船外機本体2は、取付機構3によって、概ね垂直な姿勢で船体5aに取り付けられている。クランプブラケット6は、船体5aに固定される。スイベルブラケット7は、クランプブラケット6に、チルト軸9を介して、チルト軸9周りに回動可能に連結され、船外機本体2を支持する。船外機本体2およびスイベルブラケット7は、クランプブラケット6に対して、チルト軸9周りに上下に回動可能である。船外機本体2およびスイベルブラケット7は、PTT機構4によって、チルト軸9まわりに上下に回動される。PTT機構4は、図示しないPTT操作スイッチが操作されることによって作動する。したがって、前記PTT操作スイッチが操作されることによって、船外機本体2が、クランプブラケット6に対して傾けられる。それにより、船体5aに対する船外機本体2の傾斜角を変化させることができるので、トリム調整をしたり、船外機本体2をチルトアップ/チルトダウンさせたりすることができる。船外機1は、PTT機構4の一部を用いて、船体5aに伝わる振動を抑制する機能を果たす、船外機の防振構造BS(以下では、単に、防振構造BSと言う場合がある。)を含む。
【0037】
PTT機構4は、トリム調整するためのトリムシリンダ30と、船外機本体2をチルトアップ/チルトダウンさせるためのチルトシリンダ40とを含む。トリムシリンダ30は、シリンダ本体31と、トリムロッド32とを含む。チルトシリンダ40は、シリンダ本体41と、チルトロッド42とを含む。チルトシリンダ40は、クランプブラケット6およびスイベルブラケット7の間に結合される。チルトシリンダ40は、クランプブラケット6に対してチルト軸9周りにスイベルブラケット7を回動させる。チルトシリンダ40は、防振構造BSに適用される油圧シリンダHCの一例である。防振構造BSは、油圧シリンダHCの伸縮方向Xに作用する外力を減衰させるガスダンパGDを含む。
【0038】
また、船外機本体2は、スイベルブラケット7に対して、ステアリング軸8まわりに左右に回動可能である。船外機本体2は、図示しないステアリングホイールが操作されることによって、ステアリング軸8まわりに左右に回動される。これにより、船舶5を操舵できる。
【0039】
船外機本体2は、原動機の一例としてのエンジン13と、ドライブシャフト14と、プロペラシャフト15と、推進力発生部材の一例としてのプロペラ16と、クラッチの一例としての前後進切替機構17と、コントローラの一例としてのECU(Electronic Control Unit)15とを含む。また、船外機本体2は、エンジンカバー19と、ケーシング20とを含む。エンジン13およびECU18は、エンジンカバー19内に収容されている。また、ドライブシャフト14は、エンジンカバー19およびケーシング20内で上下に延びている。プロペラシャフト15は、ケーシング20の下部内で前後に延びている。ドライブシャフト14の上端部は、エンジン13に連結されている。ドライブシャフト14の下端部は、前後進切替機構17によって、プロペラシャフト15の前端部に連結されている。プロペラ16は、プロペラシャフト15の後端部に連結されている。プロペラ16は、プロペラシャフト15とともに回転する。プロペラ16は、エンジン13によって回転駆動される。すなわち、エンジン13がプロペラ16を回転させる。
【0040】
エンジン13は、たとえばガソリンなどの燃料を燃焼させて動力を発生させる内燃機関であり得る。エンジン13は、クランク軸21と、複数(たとえば4つ)の気筒22と、回転速度センサ23とを含む。エンジン13は、クランク軸21が上下に延びるように配置されている。ドライブシャフト14の上端部は、クランク軸21に連結されている。クランク軸21は、各気筒22での燃焼によって鉛直軸線まわりに回転駆動される。クランク軸21の回転速度(エンジン13の回転速度)は、回転速度センサ23およびECU18によって検出される。回転速度センサ23は、クランク軸21の回転に同期した検出信号を出力する。ECU18は、その検出信号に基づいて、エンジン回転速度を演算する。
【0041】
図2は、船外機本体2がチルトアップされた状態(傾斜角がチルト範囲内にある状態)を示す側面図である。図2に示すように、船外機本体2は、概ね垂直な姿勢と、船外機本体2の前面(エンジンカバー19およびケーシング20の前面)を下に向けて大きく傾いた姿勢との間でチルト軸9まわりに回動される。ドライブシャフト14の下端が最も船体5aに近づいたときの船外機本体2の傾斜角を零とすると、船外機本体2の傾斜角が小さい範囲は、トリム範囲であり、船外機本体2の傾斜角がトリム範囲の上限境界値よりも大きい範囲は、チルト範囲である。図2では、船外機本体2の傾斜角がトリム範囲の下限境界値である状態(フルトリムイン)を一点鎖線で示しており、船外機本体2の傾斜角がトリム範囲の上限境界値である状態(フルトリムアウト)を二点鎖線で示している。また、図2では、船外機本体2の傾斜角がチルト範囲の上限値である状態(フルチルトアップ)を実線で示している。チルト範囲の上限値は、たとえば、船外機本体2の傾斜角の最大値である。船外機本体2はトリム範囲およびチルト範囲の任意の位置に保持可能である。
【0042】
トリム範囲で船外機本体2を上方に回動させることを「トリムアップ」といい、トリム範囲で船外機本体2を下方に回動させることを「トリムダウン」という。別より機能的に定義すれば、船舶のトリム調整のために船外機本体2を上方に回動させることを「トリムアップ」といい、船舶のトリム調整のために船外機本体2を下方に回動させることを
「トリムダウン」という。一方、プロペラ16を水面上に上げることを目的として船外機本体2を上方に回動させることを「チルトアップ」といい、プロペラ16を水面下に下げることを目的として船外機本体2を下方に回動させることを「チルトダウン」という。したがって、チルトアップおよびチルトダウンは、トリム範囲およびチルト範囲の両方における船外機本体2の上下動に対して用いられる場合がある。
【0043】
図3は、取付機構3の概略図であり、取付機構3の一部を後方から見た状態が示されている。図3に示すように、クランプブラケット6は、一対設けられている。一対のクランプブラケット6は、左右方向に間隔を空けて配置されている。スイベルブラケット7の一部およびPTT機構4は、一対のクランプブラケット6の間に配置されている。
【0044】
PTT機構4は、たとえば2本のトリムシリンダ30と、1本のチルトシリンダ40とを含む。各トリムシリンダ30およびチルトシリンダ40は、2つのクランプブラケット6の間に配置されている。2本のトリムシリンダ30は、船体5aの左右方向から見て重なり合うように配置されている。2本のトリムシリンダ30は、チルトシリンダ40の左右両側に配置されている。各トリムシリンダ30は、トリムシリンダ30の上端がトリムシリンダ30の下端よりも後方に位置するように船舶の前後方向に沿って斜めに配置されている。同様に、チルトシリンダ40は、チルトシリンダ40の上端がチルトシリンダ40の下端よりも後方に位置するように船舶の前後方向に沿って斜めに配置されている。各トリムシリンダ30およびチルトシリンダ40は、それぞれ、たとえば、油圧シリンダである。図3に示すように、作動油を貯留するタンクT1と、作動油を供給する油圧ポンプを駆動する電動モータM1とは、2つのクランプブラケット6の間に配置されている。船外機本体2およびスイベルブラケット7は、各トリムシリンダ30およびチルトシリンダ40によってチルト軸9まわりに回動される。電動モータM1および油圧ポンプは、この発明の一実施形態における電動アクチュエータの一例であり、PTT機構4に駆動力を供給する。
【0045】
各トリムシリンダ30のシリンダ本体31は、対応するクランプブラケット6に連結されている。トリムロッド32は、シリンダ本体31の上端部から後方に向かって斜め上に突出している。トリムロッド32は、シリンダ本体31内の油力によってトリムロッド32の軸方向に往復移動される。図2において二点鎖線で示すように、船外機本体2の傾斜角がトリム範囲内にある状態では、各トリムロッド32の上端部がスイベルブラケット7に接触している。したがって、この状態では、船外機本体2が、スイベルブラケット7を介して2本のトリムロッド32に前側から支持されている。また、船外機本体2の傾斜角が大きくなって、チルト範囲に達すると、各トリムロッド32の上端部がスイベルブラケット7から離れる。そのため、2本のトリムロッド32による船外機本体2の支持が解除される。
【0046】
トリムロッド32が最大伸張状態でスイベルブラケット7に当接しているときの船外機本体2の傾斜角が、トリム範囲の上限境界値である。すなわち、トリム範囲の上限境界値は、トリムシリンダ30の駆動によって変化し得る傾斜角の上限値によって規定される。一方、トリムロッド32が最小伸張状態、すなわち収縮状態のときに船外機本体2が取りうる傾斜角の最小値がトリム範囲の下限境界値である。
【0047】
チルトシリンダ40のシリンダ本体41の下端部は、クランプブラケット6に連結されている。チルトロッド42は、シリンダ本体41の上端部から後方に向かって斜め上に突出している。チルトロッド42の上端部は、スイベルブラケット7に連結されている。チルトロッド42は、シリンダ本体41内の油圧によってチルトロッド42の軸方向に往復移動される。チルトロッド42の上端部は、船外機本体2の傾斜角がトリム範囲およびチルト範囲のいずれの範囲内にある状態でも、スイベルブラケット7に連結されている。したがって、船外機本体2は、船外機本体2の傾斜角がトリム範囲およびチルト範囲のいずれの範囲内にある状態でも、チルトシリンダ40によって支持されている。
【0048】
船外機本体2の傾斜角がトリム範囲内にある状態では、船外機本体2が、2本のトリムシリンダ30と、1本のチルトシリンダ40によって支持されている。また、この状態では、船外機本体2が、2本のトリムシリンダ30と、1本のチルトシリンダ40によってチルト軸9まわりに上下に回動される。船外機本体2の傾斜角は、各トリムロッド32およびチルトロッド42の突出量の増加に伴って増加する。また、船外機本体2の傾斜角が大きくなって、チルト範囲に達すると、2本のトリムシリンダ30による船外機本体2の支持が解除され、船外機本体2が、1本のチルトシリンダ40によって支持される。この状態では、船外機本体2が、1本のチルトシリンダ40によってチルト軸9まわりに上下に回動される。船外機本体2の傾斜角は、チルトロッド42の突出量の増加に伴って増加する。チルトロッド42の伸縮によって、船外機本体2の傾斜角は、トリム範囲の下限境界値からチルト範囲の上限値までの範囲で変化し得る。
【0049】
図4は、図1のIV-IV線に沿う断面図である。図4に示すように、上方の防振マウント12は、軸部51と、弾性部52と、外筒部53と、締結部材54とを含む。軸部51は、例えばアルミニウム等の金属製であり、アッパブラケット10と一体に設けられている。軸部51には、軸部51の中心軸線に沿って延びるねじ孔51aが形成されている。弾性部52は、ゴムやスポンジ等の弾性材料によって円筒状に形成されている。弾性部52は、軸部51を包囲する状態で、軸部51に対して同軸状に嵌合されて取り付けられている。
【0050】
外筒部53は、例えばアルミニウム等の金属材料によって円筒状に形成されている。外筒部53は、弾性部52を包囲する状態で、弾性部52に対して同軸状に嵌合されて取り付けられている。外筒部53は、軸部51に対して非接触である。弾性部52は、軸部51と外筒部53との間で常に圧縮されていてもよい。外筒部53の一部は、ケーシング20の表面から窪んだ凹部20aに収容されている。外筒部53は、固定部材24によって船外機本体2のケーシング20に固定されている。固定部材24は、ボルト等の締結部材25によってケーシング20に締結される。外筒部53は、ケーシング20に固定されることから、防振マウント12の一部ではなく、ケーシング20の一部とみなされてもよい。締結部材54は、軸部51のねじ孔51aにねじ込まれる、例えばボルトである。図示していないが、前記ボルトの頭部とアッパブラケット10の所定部との間で弾性部52が軸方向に挟持されている。
【0051】
下方の防振マウント12は、その軸部51がロアブラケット11と一体に設けられていることを除いて、上方の防振マウント12と同じ構成である。各防振マウント12では、弾性部52が、ステアリング軸8を介してスイベルブラケット7に固定される軸部51と船外機本体2のケーシング20に固定される外筒部53との間に介在し、弾性変形可能である。そのため、船外機本体2が、防振マウント12によって、弾性支持される。弾性部52の弾性変形によって、船外機本体2の振動が減衰されるので、船外機本体2の振動が船体5aに伝わることが抑制される。
【0052】
図5Aは、PTT機構4の要部の概略図であり、船外機の防振構造BSの一例を示している。図5Aに示すように、油圧シリンダとしてのチルトシリンダ40は、シリンダ本体41と、チルトロッド42と、ピストン43と、フリーピストン44と、一対の油室45,46と、ガス室47とを含む。
【0053】
シリンダ本体41は、底部を有する円筒状のチューブで形成される。シリンダ本体41は、一対の端部41a,41bと、外周面41cと、内周面41dと、突き当て部41eと、第1ポートP1と、第2ポートP2とを含む。チルトロッド42の一部は、シリンダ本体41内に挿入されている。ピストン43は、シリンダ本体41内に収容され、シリンダ本体41内に一対の油室45,46を区画する。ピストン43は、シリンダ本体41内をシリンダ本体41の内周面41dに沿ってチルトロッド42の軸方向に摺動する。
【0054】
チルトロッド42は、一対の油室45,46の一方である、例えば上方の油室46を貫通して、シリンダ本体41外へ延びている。チルトシリンダ40は、チルトロッド42の軸方向移動に伴って、チルトロッド42の軸方向に相当する伸縮方向Xに伸縮可能である。第1ポートP1は、シリンダ本体41の外周面41cおよび内周面41dを貫通し、下方の油室45に連通する開口である。第2ポートP2は、シリンダ本体41の外周面41cおよび内周面41dを貫通し、上方の油室46に連通する開口である。
【0055】
フリーピストン44は、シリンダ本体41内に収容される。フリーピストン44は、ピストン43に対して、チルトロッド42の反対側に配置され、シリンダ本体41内にガス室47を区画する。フリーピストン44は、シリンダ本体41内で、下方の油室45とガス室47との間を仕切る可動仕切りKSの一例である。フリーピストン44は、チルトロッド42の反対側でシリンダ本体41内をシリンダ本体41の内周面41dに沿ってチルトロッド42の軸方向に摺動する。
【0056】
フリーピストン44は、円板状に形成され、2つの端面44a,44bと、外周面44cとを含む。上方の端面44aが、下方の油室45に面する。下方の端面44bが、ガス室47に面する。外周面44cに形成された周溝44dに、例えばOリング等のシール部材44eが保持されている。シール部材44eは、フリーピストン44の外周面44cとシリンダ本体41の内周面41dとの間を封止する。フリーピストン44によって、シリンダ本体41内に、ガスが封入されたガス室47を区画するガス封入構造GSSが形成される。シリンダ本体41に内蔵されたガス封入構造GSSによって、チルトシリンダ40が、ガスダンパGDの機能を果たすことが可能である。ガス室47に封入されるガスは、空気であってもよいし、窒素ガス等の不活性ガスであってもよい。チルトシリンダ40とガスダンパGDとを含んで、船外機の防振構造BSの一例が構成されている。
【0057】
フリーピストン44の昇降に伴って、ガス室47の容積が変化し、ガス室47の内圧が変化する。ガス室47の内圧は、フリーピストン44およびピストン43を介してチルトロッド42を伸長させる力を発生する。すなわち、ガスダンパGDは、チルトシリンダ40の伸長方向のガスばねとして機能する。
【0058】
シリンダ本体41の突き当て部41eは、ガス室47に配置されている。突き当て部41eは、シリンダ本体41の内周面41dから内側へ突出し、フリーピストン44側に向く段部で形成される。図5Bに示すように、突き当て部41eは、フリーピストン44が下方のストロークエンドに移動したときに、フリーピストン44における下方の端面44bに突き当てられる。ガス室47は、突き当て部41eよりも上方の第1部分47aと、突き当て部41eよりも下方の第2部分47bとを含む。突き当て部41eがフリーピストン44に突き当てられた状態で、フリーピストン44のストロークエンドの位置が規制される。また、突き当て部41eがフリーピストン44に突き当てられた状態で、ガス室47は、第2部分47bのみで形成される。すなわち、突き当て部41eがガス室47の最小容積を規制する機能を果たし、そのガス室47の最小容積は、第2部分47bの容積に相当する。
【0059】
PTT機構4は、チルトシリンダ40の一対の油室45,46に作動油を供排する油圧回路60を含む。油圧回路60から一対の油室45,46に作動油が給排されることに伴ってチルトロッド42を伸縮させるように構成されている。油圧回路60は、油圧ポンプ61と、リザーバタンク62と、メインバルブユニット63とを含む。油圧ポンプ61は、電動モータM1により駆動される。電動モータM1は正転および逆転が可能であり、油圧ポンプ61は、電動モータM1により正転駆動または逆転駆動される。油圧ポンプ61の2つのポート61a,61bにメインバルブユニット63が接続されている。
【0060】
メインバルブユニット63は、シリンダ64と、シリンダ64内で摺動するシャトル65と、シリンダ64の両側にそれぞれ配置された2つの開閉バルブ66,67とを含む。シリンダ64内において、シャトル65の両側に2つの油室64a,64bが区画されている。2つの油室64a,64bに、油圧ポンプ61の2つのポート61a,61bが油路L11,L12を介して結合されている。開閉バルブ66,67は、チェックバルブであり、対応する油室64a,64b内の油圧が高まることによって開かれる。また、開閉バルブ66,67は、シャトル65に結合された対応するニードル65a,65bによって押圧されることによって開かれる。すなわち、シャトル65及びニードル65a,65bによって、シャトルバルブが構成されている。
【0061】
チルトシリンダ40の下方の油室45は、第1ポートP1および油路L1を介して、メインバルブユニット63の一方の開閉バルブ66に結合されている。チルトシリンダ40の上方の油室46は、第2ポートP2および油路L2を介して、メインバルブユニット63の他方の開閉バルブ67に結合されている。電動モータM1が停止された状態では、メインバルブユニット63の2つの開閉バルブ66,67が閉じられている。そのため、油圧回路60からチルトシリンダ40の油室45,46へ作動油は、吸排されない。油圧回路60からチルトシリンダ40の油室45,46へ作動油が吸排されない状態で、チルトシリンダ40に内蔵されたガス封入構造GSSがガスダンパGDとして機能する。
【0062】
電動モータM1によって油圧ポンプ61を正転駆動すると、油圧ポンプ61は、ポート61bから作動油を吸い込み、ポート61aから作動油を吐き出す。吐き出された作動油は、メインバルブユニット63から油路L1へと供給される。それにより、チルトシリンダ40の下方の油室45に第1ポートP1を介して作動油が供給される。これにより、チルトロッド42が伸長し、スイベルブラケット7を上方に回動させる。作動油が不足するときは、リザーバタンク62から一方向バルブ68を介して作動油が補充される。一方、チルトシリンダ40の上方の油室46の作動油は、第2ポートP2、油路L2およびメインバルブユニット63を介して油圧ポンプ61に引き込まれる。このとき、メインバルブユニット63の開閉バルブ66は、シャトル65のニードル65bに押されて開いている。
【0063】
電動モータM1によって油圧ポンプ61を逆転駆動すると、油圧ポンプ61は、ポート61aから作動油を吸い込み、ポート61bから作動油を吐き出す。吐き出された作動油は、メインバルブユニット63から油路L2へと供給される。それにより、チルトシリンダ40の上方の油室46に第2ポートP2を介して作動油が供給される。それにより、チルトロッド42が収縮し、スイベルブラケット7を下方に回動させる。作動油が不足するときは、リザーバタンク62から一方向バルブ69を介して作動油が補充される。一方、チルトシリンダ40の下方の油室45の作動油は、第1ポートP1、油路L1およびメインバルブユニット63を介して油圧ポンプ61に引き込まれる。チルトロッド42は、スイベルブラケット7に押されることによって収縮する。
【0064】
この実施形態によれば、図1に示すように、船外機1が、クランプブラケット6に対してチルト軸9周りにスイベルブラケット7を回動させる油圧シリンダの一例としてチルトシリンダ40を含む。また、図5Aに示すように、船外機1が、チルトシリンダ40の伸縮方向Xに作用する外力を減衰させるガスダンパGDを含む。このため、チルトシリンダ40の伸縮方向Xに作用する外力が、ガスダンパGDによって減衰される。これにより、船体5aに伝わる振動を抑制することができ、船舶の乗り心地を向上できる。
【0065】
また、ガスダンパGDが、チルトシリンダ40のシリンダ本体41に内蔵され、ガスが封入されたガス封入構造GSSを含む。シリンダ本体41に内蔵されたガス封入構造GSSがダンパとして機能することにより、チルトシリンダ40の伸縮方向Xに作用する外力が減衰される。このため、船体5aに伝わる振動を抑制することができる。
【0066】
また、ガス封入構造GSSが、シリンダ本体41内を摺動するフリーピストン44であって、シリンダ本体41内にガス室47を区画するフリーピストン44を含む。シリンダ本体41内にフリーピストン44によって区画されるガス室47に封入されたガスが、ダンパとして機能することにより、チルトシリンダ40の伸縮方向Xに作用する外力が減衰される。このため、船体5aに伝わる振動を抑制することができる。
【0067】
また、図5Bに示すように、シリンダ本体41が、フリーピストン44のストロークエンドの位置を規制するようにフリーピストン44に突き当てられる突き当て部41eを含む。突き当て部41eがフリーピストン44に突き当てられた状態で、ガス室47の最小容積を規制する。このため、ガス室47内の圧力上昇が抑制される。
【0068】
また、図1に示すように、取付機構3が、スイベルブラケット7に対して船外機本体2を弾性支持する防振マウント12を含む。ガスダンパGDが、防振マウント12のばね定数よりも低いばね定数のガスばねとして機能する。このため、油圧シリンダ(例えばチルトシリンダ40)の伸縮方向Xに作用する外力が小さい場合でも、ガスダンパGDを伸縮させることが可能となる。このため、防振効果を高めることができ、船体5aに伝わる振動をより抑制することができる。特に、防振マウント12のばね定数よりも低いばね定数のガスばねとして機能するガスダンパGDによって、トローリング等の低速航行時で、エンジンが低速で回転するときの防振効果を高めることができる。
【0069】
図6Aは、船外機1において、防振構造BSの他の一例を説明するための概略図である。図6Aの例が、図5Aの例と主に異なるのは、下記である。すなわち、ガスダンパGDが、油圧シリンダの一例としてのチルトシリンダ40の例えば一方の油室45と油圧接続されたサブシリンダ70を含む。サブシリンダ70は、サブシリンダ本体71と、サブ油室72と、ガス室73と、フリーピストン74とを含む。サブシリンダ本体71は、円筒状のチューブで形成される。シリンダ本体41は、一対の端部71a,71bと、外周面71cと、内周面71dと、突き当て部71eとを含む。
【0070】
サブ油室72およびガス室73は、サブシリンダ本体71内に配置される。フリーピストン74は、サブシリンダ本体71内に収容され、サブ油室72とガス室73との間を仕切る可動仕切りKSの一例である。フリーピストン74は、サブシリンダ本体71内を摺動する。サブ油室72は、フリーピストン74に対して、一方の端部71a側に配置される。ガス室73は、フリーピストン74に対して、他方の端部71b側に配置される。チルトシリンダ40とサブシリンダ70との間に、油路L3が設けられる。チルトシリンダ40の油室45とサブシリンダ70のサブ油室72とが、油路L3を介して連通される。
【0071】
油路L3の2つの端部に、2つのポートP3,P4が設けられる。ポートP3は、チルトシリンダ40のシリンダ本体41の例えば端部41bに配置されている。ポートP4は、サブシリンダ本体71の端部71aに配置されている。油路L3には、例えば手動で操作可能な開閉弁V1が介在している。開閉弁V1は、閉じ状態で、チルトシリンダ40の油室45とサブシリンダ70のサブ油室72との間の作動油の流通を遮断可能である。開閉弁V1は、開放状態で、油室45とサブ油室72との間の作動油の流通を許容する。
【0072】
フリーピストン74は、図5Aのフリーピストン44と同じ構成であって、図6Bに示すように、2つの端面74a,74bと、外周面74cと、周溝74dとを含む。一方の端面74aが、サブ油室72に面する。他方の端面74bが、ガス室73に面する。周溝74dに、例えばOリング等のシール部材74eが保持されている。シール部材74eは、フリーピストン74の外周面74cとサブシリンダ本体71の内周面71dとの間を封止する。フリーピストン74によって、サブシリンダ本体71内に、ガスが封入されたガス室73を区画するガス封入構造GSSが形成される。サブシリンダ70が、ガスダンパGDとして機能する。
【0073】
チルトシリンダ40が伸縮すると、フリーピストン74が昇降する。フリーピストン74の昇降に伴って、ガス室73の容積が変化し、ガス室73の内圧が変化する。ガス室73の内圧は、フリーピストン74およびピストン43を介してチルトロッド42を伸長させる力を発生する。チルトシリンダ40の短縮に伴ってガス室73の内圧が上昇すると、チルトロッド42を伸長させる力が増大する。すなわち、ガスダンパGDは、チルトシリンダ40の短縮に抗するガスばねとして機能する。ガスダンパGDは、好ましくは、防振マウント12のばね定数よりも低いばね定数のガスばねとして機能する。
【0074】
サブシリンダ本体71の突き当て部71eは、ガス室73に配置されている。突き当て部71eは、サブシリンダ本体71の内周面71dから内側へ突出し、フリーピストン74側に向く段部で形成される。図6Bに示すように、突き当て部71eは、フリーピストン74が下方のストロークエンドに移動したときに、フリーピストン74の他方の端面74bに突き当てられる。ガス室73は、突き当て部71eよりも上方の第1部分73aと、突き当て部71eよりも下方の第2部分73bとを含む。突き当て部71eがフリーピストン74に突き当てられた状態で、フリーピストン74のストロークエンドの位置が規制される。また、突き当て部71eがフリーピストン74に突き当てられた状態で、ガス室73は、第2部分73bのみで形成される。すなわち、突き当て部71eがガス室73の最小容積を規制する機能を果たし、そのガス室73の最小容積は、第2部分73bの容積に相当する。
【0075】
この実施形態によれば、チルトシリンダ40の油室45と油圧接続されたサブシリンダ70が、ガスダンパGDとして機能することにより、チルトシリンダ40の伸縮方向Xに作用する外力が減衰される。このため、船体に伝わる振動を抑制することができる。
【0076】
また、サブシリンダ本体71内に、フリーピストン74によってサブ油室72とガス室73との間が仕切られる。サブ油室72がチルトシリンダ40の油室45と連通される。ガス室73内に封入されたガスが、ダンパとして機能することにより、チルトシリンダ40の伸縮方向Xに作用する外力が減衰される。このため、船体に伝わる振動を抑制することができる。
【0077】
また、サブシリンダ本体71が、フリーピストン74のストロークエンドの位置を規制するようにフリーピストン74に突き当てられる突き当て部71eを含む。突き当て部71eが、フリーピストン74に突き当てられた状態で、ガス室73の最小容積を規制する。このため、ガス室73内の圧力上昇が抑制される。
【0078】
また、チルトシリンダ40の油室45とサブシリンダ70のサブ油室72との間の作動油の流通を遮断可能であって手動操作可能な開閉弁V1が設けられる。開閉弁V1が開放された状態で、サブシリンダ70がガスダンパGDとして機能する。これにより、船体に伝わる振動を抑制することができる。例えば、トローリング等の低速航行時に、開閉弁V1を開放しておいて、エンジンが低速で回転するときの防振効果を高めることができる。なお、船舶の航行速度が上昇すると、開閉弁V1は、手動で閉じるようにされる。
【0079】
また、ガスダンパGDが、防振マウント12のばね定数よりも低いばね定数のガスばねとして機能することによって、トローリング等の低速航行時で、エンジンが低速で回転するときの防振効果を高めることができる。
【0080】
図7は、船外機1において、防振構造BSのさらに他の一例を説明するための概略図である。図7の例が、図6Aの例と主に異なるのは、下記である。すなわち、チルトシリンダ40の油室45とサブシリンダ70のサブ油室72とを連通する油路L3に介在する開閉弁として、電磁式の制御弁V2が設けられている。コントローラの一例としてのECU18は、回転速度センサ23の検出信号に基づいて、原動機の一例としてのエンジン13の回転速度であるエンジン回転速度を演算する。ECU18は、検出された回転速度が所定の閾値を超えると開閉弁としての制御弁V2を遮断するようにプログラムされている。すなわち、検出された回転速度が所定の閾値以下では、開閉弁としての制御弁V2が開放される。
【0081】
この実施形態によれば、図6Aの例と同じ効果を奏する。さらに、エンジン回転速度の検出値が閾値よりも低いときに、自動的に、サブシリンダ70をガスダンパGDとして機能させることができる。これにより、トローリング等の低速航行時で、エンジンが低速で回転するときに、自動的に防振効果を高めることができる。船体に伝わる振動を抑制することができる。
【0082】
図8は、船外機1において、防振構造BSのさらに他の一例を説明するための概略図である。図8の例が、図7の例と主に異なるのは、下記である。すなわち、チルトシリンダ40の上方の油室46と油圧接続されたサブシリンダ70Pが設けられている。サブシリンダ70Pは、チルトシリンダ40の下方の油室45と油圧接続されたサブシリンダ70と同じ構成である。サブシリンダ70Pの構成要素において、サブシリンダ70の構成要素と同じ構成要素に、同じ参照符号が付されている。チルトシリンダ40の上方の油室46とサブシリンダ70Pのサブ油室72とが、油路L4を介して連通されている。油路L4の2つの端部に、2つのポートP5,P6が設けられる。ポートP5は、チルトシリンダ40のシリンダ本体41の例えば端部41aに配置されている。ポートP6は、サブシリンダ70Pのサブシリンダ本体71の端部71aに配置されている。
【0083】
チルトシリンダ40の上方の油室46とサブシリンダ70Pのサブ油室72との間の作動油の流通を遮断可能な開閉弁として、電磁式の制御弁V3が設けられている。制御弁V3は、油路L4に介在している。ECU18は、回転速度センサ23により検出されたエンジン回転速度が所定の閾値を超えると、制御弁V2および制御弁V3を遮断するようにプログラムされている。検出されたエンジン回転速度が所定の閾値以下では、開閉弁としての制御弁V2および制御弁V3が開放される。
【0084】
制御弁V2および制御弁V3が開放された状態で、伸縮方向Xの外力を受けたチルトシリンダ40が伸長するときに、上方の油室46からサブシリンダ70Pのサブ油室72に作動油が流れ、サブシリンダ70Pのガス室73のガスが圧縮される。また、伸縮方向Xの外力を受けたチルトシリンダ40が短縮するときに、下方の油室45からサブシリンダ70のサブ油室72に作動油が流れ、サブシリンダ70のガス室73のガスが圧縮される。
【0085】
この構成によれば、図7の例と同じ効果を奏する。さらに、チルトシリンダ40の伸長および短縮にそれぞれ対応するサブシリンダ70P,70が、ガスダンパGDとして機能する。これにより、チルトシリンダ40に作用する伸縮および短縮の双方向の外力を減衰させることができる。このため減衰効果が高い。船体に伝わる振動をより抑制することができる。
【0086】
図9は、船外機1において、防振構造BSのさらに他の一例を説明するための概略図である。図9の例が、図8の例と主に異なるのは、下記である。すなわち、チルトシリンダ40の2つの油室45,46と油圧接続された単一のサブシリンダ80が設けられている。サブシリンダ80は、2つのサブ油室81,82と、2つのガス室83,84とを含む。チルトシリンダ40の下方の油室45とサブシリンダ80の下方のサブ油室81とが、油路L3を介して連通されている。油路L3には、開閉弁としての電磁式の制御弁V2が配置されている。チルトシリンダ40の上方の油室46とサブシリンダ80の上方のサブ油室82とが、油路L4を介して連通されている。
【0087】
サブシリンダ80は、サブシリンダ本体85と、可動仕切りKSとして機能するロッドピストン86とを含む。ロッドピストン86は、ガスピストン89と、ガスピストン89の中央部89Hから延びる2つのロッド87,88とを含む。ロッドピストン86は、油圧ピストンおよびガスピストンとして機能する一体型ピストンHGPを構成している。ガスピストン89は、2つのガス室83,84の間を仕切る。ロッドピストン86は、2つのサブ油室81,82の間を仕切る。下方のロッド87は、下方のサブ油室81の一部を区画し、油圧ピストンとして機能する。上方のロッド88は、上方のサブ油室82の一部を区画し、油圧ピストンとして機能する。
【0088】
サブシリンダ本体85は、円筒状のセンターチューブ90と、2つの円筒状のエンドチューブ91,92と、2つのエンドカバー93,94とを含む。2つのエンドチューブ91,92は、センターチューブ90の2つの端部90a,90bに嵌合され、固定されている。2つのエンドチューブ91,92の内径は、センターチューブ90の内径よりも小さい。2つのエンドカバー93,94は、2つのエンドチューブ91,92の端部を覆っている。
【0089】
ガスピストン89は、円板状に形成され、センターチューブ90内に収容されている。
センターチューブ90およびガスピストン89によって、ガスシリンダが構成されている。
ガスピストン89は、2つの端面89a,89bと、外周面89cとを含む。ガスピストン89は、センターチューブ90の内周面90cを摺動する。ガスピストン89の外周面89cに形成された周溝89dに、Oリング等のシール部材89eが収容されている。シール部材89eは、ガスピストン89の外周面89cとセンターチューブ90の内周面90cとの間が封止されている。
【0090】
油圧ピストンとして機能するロッドピストン86の2つのロッド87,88は、ガスピストン89の中央部89Hから、センターチューブ90の中心軸線に沿って互いに反対側に延びている。2つのロッド87,88は、対応するエンドチューブ91,92に挿入されている。各ロッド87,88は、対応するエンドチューブ91,92の内周面に沿って摺動可能である。各ロッド87,88と対応するエンドチューブ91,92とで、それぞれ油圧シリンダが構成されている。
【0091】
下方のロッド87は、外周面87aと、段付き部87bと、軸方向孔87cとを含む。段付き部87bは、外周面87aに形成される。軸方向孔87cは、有底であり、下方のサブ油室81と連通される。軸方向孔87cは、設けられない場合がある。上方のロッド88は、外周面88aと、段付き部88bと、軸方向孔88cとを含む。段付き部88bは、外周面88aに形成される。軸方向孔88cは、有底であり、上方のサブ油室82と連通される。軸方向孔88cは、設けられない場合がある。
【0092】
下方のサブ油室81は、下方のエンドチューブ91内に、下方のロッド87と下方のエンドカバー93とで区画される。下方のエンドカバー93は、下方のサブ油室81と油路L3とを連通する連通孔93aを含む。連通孔93aの端部に、油路L3の端部のポートP4が配置されている。上方のサブ油室82は、上方のエンドチューブ92内に、上方のロッド88と上方のエンドカバー94とで区画される。上方のエンドカバー94は、上方のサブ油室82と油路L4とを連通する連通孔94aを含む。連通孔94aの端部に、油路L4の端部のポートP6が配置されている。
【0093】
下方のガス室83は、下方のロッド87の外周面87aと、センターチューブ90の内周面90cと、ガスピストン89の下方の端面89aと、下方のエンドチューブ91の端面91aとによって取り囲まれて形成される。これにより、ガス封入構造GSSが形成されている。上方のガス室84は、上方のロッド88の外周面88aと、センターチューブ90の内周面90cと、ガスピストン89の上方の端面89bと、上方のエンドチューブ92の端面92aとによって取り囲まれて形成される。これにより、ガス封入構造GSSが形成されている。
【0094】
制御弁V2が開放された状態で、伸縮方向Xの外力を受けたチルトシリンダ40が短縮すると、チルトシリンダ40の下方の油室45から油路L3を介してサブシリンダ80の下方のサブ油室81に作動油が流入する。このため、ロッドピストン86およびガスピストン89が上昇し、上方のガス室84内のガスが圧縮される。また、伸縮方向Xの外力を受けたチルトシリンダ40が伸長すると、チルトシリンダ40の上方の油室46からサブシリンダ80の上方のサブ油室82に作動油が流入する。このため、ロッドピストン86およびガスピストン89が下降し、下方のガス室83内のガスが圧縮される。
【0095】
この構成によれば、チルトシリンダ40の伸長および短縮にそれぞれ対応するガス封入構造GSSを有する単一のサブシリンダ80が、伸縮および短縮の双方向のガスダンパGDとして機能する。このため、単一のサブシリンダ80を用いて、チルトシリンダ40に作用する伸縮および短縮の双方向の外力を減衰させることができる。このため減衰効果が高い。船体に伝わる振動をより抑制することができる。
【0096】
また、下方のロッド87の段付き部87bが、突き当て部の一例である下方のエンドチューブ91の端面91aに突き当てられることにより、下方のガス室83の最小容積が規制される。また、上方のロッド88の段付き部88bが、突き当て部の一例である上方のエンドチューブ92の端面92aに突き当てられることにより、上方のガス室84の最小容積が規制される。これにより、各ガス室83,84の内圧上昇を抑制することができる。
【0097】
図10は、船外機1において、防振構造BSのさらに他の一例を説明するための概略図である。図10の例が、図7の例と主に異なるのは、下記である。すなわち、チルトシリンダ40の上方の油室46が、油路L5を介して、サブシリンダ70のサブ油室72と連通されている。チルトシリンダ40の2つの油室45,46がともに、サブシリンダ70のサブ油室72と連通されている。油路L5の端部の2つのポートP7,P8のうち、一方ポートP7は、チルトシリンダ40のシリンダ本体41の端部41aに配置されている。ポートP8は、サブシリンダ本体71の端部71aに配置されている。
【0098】
制御弁V2が開放された状態で、伸縮方向Xの外力を受けたチルトシリンダ40が短縮するときには、チルトシリンダ40の下方の油室45から油路L3を介してサブ油室72に作動油が流入する。チルトシリンダ40が伸長するときには、チルトシリンダ40の上方の油室46から油路L5を介してサブ油室72に作動油が流入する。チルトシリンダ40が短縮するときおよび伸長するときの何れの場合も、フリーピストン74が下降し、ガス室73内のガスが圧縮される。
【0099】
この構成によれば、単一のサブシリンダ70が、伸縮および短縮の双方向のガスダンパGDとして機能する。このため、単一のサブシリンダ70を用いて、チルトシリンダ40に作用する伸縮および短縮の双方向の外力を減衰させることができる。このため減衰効果が高い。船体に伝わる振動をより抑制することができる。
【0100】
図11は、船外機1において、防振構造BSのさらに他の一例を説明するための概略図である。図11の例が、図6Aの例と主に異なるのは、下記である。すなわち、ガスダンパGDが、ガスシリンダ100を含む。ガスシリンダ100は、チルトロッド42の反対側でチルトシリンダ40のシリンダ本体41の端部41bを摺動可能に収容する。ガスシリンダ100は、チルトシリンダ40のシリンダ本体41の端部41bによってガスが封入されたガス室101を区画する。チルトシリンダ40が伸縮方向Xの外力を受けると、ガスシリンダ100内をチルトシリンダ40のシリンダ本体41が摺動し、ガス室101内のガスの内圧が変化する。ガスシリンダ100は、円筒状のシリンダチューブ102と、シリンダチューブ102の一端を閉塞する底部103と、突き当て部104とを含む。ガスシリンダ100の底部103は、クランプブラケットに連結される。
【0101】
突き当て部104は、ガス室101に配置されている。シリンダチューブ102の内周面105と、シリンダ本体41の外周面41cとの間には、Oリング等のシール部材106が介在している。シール部材106は、例えばシリンダチューブ102の内周面に形成された周溝に保持される。突き当て部104は、シリンダチューブ102の内周面105から内側へ突出し、チルトシリンダ40のシリンダ本体41の端部41b側に向く段部で形成される。ガス室101は、突き当て部104よりも上方の第1部分101aと、突き当て部104よりも下方の第2部分101bとを含む。突き当て部104がチルトシリンダ40のシリンダ本体41の端部41bに突き当てられた状態で、ガス室101は、第2部分101bのみで形成される。すなわち、突き当て部104がガス室101の最小容積を規制する機能を果たし、そのガス室101の最小容積は、第2部分101bの容積に相当する。
【0102】
この構成によれば、チルトロッド42の反対側でチルトシリンダ40のシリンダ本体41の端部41bを摺動可能に収容するガスシリンダ100が、ガスダンパGDとして機能することにより、チルトシリンダ40の伸縮方向Xに作用する外力が減衰される。このため、船体に伝わる振動を抑制することができる。
【0103】
また、ガスシリンダ100の突き当て部104が、シリンダ本体41の端部41bに突き当てられることにより、ガスシリンダ100に対するシリンダ本体41の端部41bのストロークエンドの位置が規制される。これにより、ガス室101の最小容積を規制され、ガス室101内の圧力上昇が抑制される。
【0104】
図12は、船外機1において、防振構造BSのさらに他の一例を説明するための概略図である。図12の例が、図5Aの例と主に異なるのは、下記である。すなわち、チルトシリンダ40のピストンとして、中空ピストン110を含む。中空ピストン110は、ガスが封入されたガス室120を区画する筒状の内周面111を含む。すなわち、中空ピストン110がガス封入構造GSSを含む。ガスダンパGDが、中空ピストン110と内部ピストン130とを含む二重ピストン構造DPSを含む。
【0105】
中空ピストン110は、2つの端壁112,113と、周側壁114とを含む。2つの端壁112,113と周側壁114とによって取り囲まれて、中空ピストン110内に、ガス室120が形成される。中空ピストン110の内周面111は、周側壁114の内周面で構成される。チルトロッド42は、上方の端壁113を挿通して、内部ピストン130に連結されている。中空ピストン110は、突き当て部115を含む。
【0106】
内部ピストン130は、中空ピストン110内に中空ピストン110の内周面111を摺動可能に収容される。チルトロッド42と連結された内部ピストン130は、ガス室120を2つのガス室121,122に仕切る。内部ピストン130は、2つの端面131,132と、外周面133と、Oリング等のシール部材134とを含む。内部ピストン130の下方の端面131と中空ピストン110の下方の端壁112との間に、下方のガス室121が形成される。内部ピストン130の上方の端面132と中空ピストン110の上方の端壁113との間に、上方のガス室122が形成される。シール部材134は、内部ピストン130の外周面133に形成された周溝に保持され、内部ピストン130の外周面133と中空ピストン110の内周面111との間を封止する。油圧回路60からチルトシリンダ40の油室45,46への作動油の給排が停止された状態で、伸縮方向Xの外力を受けたチルトシリンダ40が伸縮する。その伸縮に応じて、対応するガス室121,122が圧縮され、ガスダンパGDとしての機能が果たされる。
【0107】
突き当て部115は、下方のガス室121内において中空ピストン110の内周面111から内側へ突出し、内部ピストン130側に向く段部で形成される。突き当て部115は、内部ピストン130が中空ピストン110内で下方のストロークエンドに移動したときに、内部ピストン130に突き当てられる。下方のガス室121は、突き当て部115よりも上方の第1部分121aと、突き当て部115よりも下方の第2部分121bとを含む。図示していないが、突き当て部115が内部ピストン130に突き当てられた状態で、内部ピストン130のストロークエンドの位置が規制される。また、突き当て部115が内部ピストン130に突き当てられた状態で、下方のガス室121は、第2部分121bのみで形成される。すなわち、突き当て部115がガス室121の最小容積を規制する機能を果たし、そのガス室121の最小容積は、第2部分121bの容積に相当する。
【0108】
この構成によれば、チルトロッド42の伸縮に伴って内部ピストン130が中空ピストン110内をストロークすることにより、中空ピストン110内の対応するガス室121,122内のガスが圧縮される。これにより、チルトシリンダ40の伸縮方向Xに作用する外力が減衰される。このため、船体に伝わる振動を抑制することができる。
【0109】
また、中空ピストン110の突き当て部115が、内部ピストン130に突き当てられることにより、中空ピストン110に対する内部ピストン130のストロークエンドの位置を規制される。これにより、ガス室121の最小容積が規制され、ガス室121内の圧力上昇が抑制される。
【0110】
図示していないが、上方のガス室122内に、突き当て部が追加されてもよい。突き当て部は、内部ピストン130が中空ピストン110内で上方のストロークエンドに移動したときに、内部ピストン130に突き当てられ、上方のガス室122の最小容積を規制する。これにより、ガス室122内の圧力上昇が抑制される。
【0111】
図13は、船外機1において、防振構造BSのさらに他の一例を説明するための概略図である。ガスダンパGDが、2つの油室45,46にそれぞれ配置される2つの独立気泡発泡体141,142を含む。独立気泡発泡体141,142が、チルトシリンダ40のシリンダ本体41内に内蔵されるガス封入構造GSSを構成している。独立気泡発泡体141,142としては、発泡樹脂または発泡ゴムで形成される。この構成によれば、2つの油室45,46に配置された独立気泡発泡体141,142によって、チルトシリンダ40の伸縮方向Xに作用する外力が減衰される。このため、船体に伝わる振動を抑制することができる。
【0112】
図14Aは、船外機1において防振構造BSのさらに他の一例を説明するための概略図である。図14Aの例が、図5Aの例と主に異なるのは、下記である。すなわち、ガスダンパGDが、チルトシリンダ40のシリンダ本体41内にガス室47を区画する可動仕切りKSが設けられる。可動仕切りKSは、例えばメンブレン150を含む。メンブレン150は、例えば、弾性を有するゴムまたは金属のシートで形成される。メンブレン150は例えば円板状であり、メンブレン150の外周縁151が、シリンダ本体41の内周面41dの段付き部41fに、環状の固定部材160によって固定されている。メンブレン150とシリンダ本体41の底部に相当する端部41bとの間に、ガス室47が区画される。メンブレン150は、油室45とガス室47との間を仕切る。
【0113】
メンブレン150が弾性変形によりガス室47側へ突出するように変位するときに、その変位量を規制する規制部R1が設けられている。規制部R1は、例えば、ガス室47内においてシリンダ本体41の端部41bからメンブレン150の中央部側に向けて突出する凸部41gで形成される。この構成によれば、チルトシリンダ40内に可動仕切りKSにより区画されたガス室47内のガスが、ダンパとして機能することにより、チルトシリンダ40の伸縮方向Xに作用する外力が減衰される。このため、船体に伝わる振動を抑制することができる。
【0114】
また、規制部R1としての凸部41gによって、可動仕切りKSとしてのメンブレン150の変位量が規制される。これにより、ガス室47の最小容積が規制される。このため、ガス室47内の圧力上昇が抑制される。可動仕切りKSは、弾性を有するダイヤフラムであってもよい。
【0115】
以上説明した各例において、防振構造BSに含まれる油圧シリンダHCとして、チルトシリンダ40に代えて、トリムシリンダ30が用いられてもよいし、チルトシリンダ40およびトリムシリンダ30の双方が用いられてもよい。また、図8図9および図10の各例において、制御弁V2,V3に代えて、手動操作可能な開閉弁V1が用いられてもよい。また、図7図14Aの各例において、ガスダンパGDがガスばねとして機能するときのばね定数は、防振マウント12のばね定数よりも低いことが好ましい。
【0116】
本発明の実施形態の説明は以上であるが、本発明は、前述の実施形態の内容に限定されるものではなく、本発明の範囲内において種々の変更が可能である。例えば、以上で説明した様々な特徴は、適宜組み合わされてもよい。
【符号の説明】
【0117】
1:船外機、2:船外機本体、3:取付機構、4:PTT機構、5a:船体、6:クランプブラケット、7:スイベルブラケット、9:チルト軸、12:防振マウント(弾性マウント)、13:エンジン(原動機)、16:プロペラ、23:回転速度センサ、30:トリムシリンダ(油圧シリンダ)、40:チルトシリンダ(油圧シリンダ)、41:シリンダ本体、41e:突き当て部、41g:突き当て部(規制部)、42:チルトロッド、43:フリーピストン(可動仕切り)、45:油室、46:油室、47:ガス室、60:油圧回路、70:サブシリンダ、71:サブシリンダ本体、71e:突き当て部、72:サブ油室、73:ガス室、74:フリーピストン(可動仕切り)、80:サブシリンダ、81:サブ油室、82:サブ油室、83:ガス室、84:ガス室、85:サブシリンダ本体、86:ロッドピストン(可動仕切り)、89:ガスピストン、100:ガスシリンダ、101:ガス室、104:突き当て部、110:中空ピストン、111:内周面、115:突き当て部、120:ガス室、121:ガス室、122:ガス室、130:内部ピストン、141:独立気泡発砲体、142:独立気泡発泡体、150:メンブレン(可動仕切り)、BS:防振構造、DPS:二重ピストン構造、GSS:ガス封入構造、HC:油圧シリンダ、HGP:一体型ピストン、KS:可動仕切り、R1:規制部、V1:開閉弁、V2:制御弁(開閉弁)、V2:制御弁(開閉弁)
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14A
図14B