(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-29
(45)【発行日】2023-10-10
(54)【発明の名称】熱伝導シート及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 7/027 20190101AFI20231002BHJP
B32B 5/20 20060101ALI20231002BHJP
B32B 38/18 20060101ALI20231002BHJP
D21H 17/67 20060101ALI20231002BHJP
D21H 13/00 20060101ALI20231002BHJP
B29C 70/02 20060101ALI20231002BHJP
B29C 70/88 20060101ALI20231002BHJP
H01L 23/36 20060101ALI20231002BHJP
H01L 23/373 20060101ALI20231002BHJP
【FI】
B32B7/027
B32B5/20
B32B38/18 C
D21H17/67
D21H13/00
B29C70/02
B29C70/88
H01L23/36 D
H01L23/36 M
(21)【出願番号】P 2021511223
(86)(22)【出願日】2020-02-26
(86)【国際出願番号】 JP2020007617
(87)【国際公開番号】W WO2020202908
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2023-02-24
(31)【優先権主張番号】P 2019073167
(32)【優先日】2019-04-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000116404
【氏名又は名称】阿波製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003225
【氏名又は名称】弁理士法人豊栖特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】湯本 明
(72)【発明者】
【氏名】手塚 祥貴
(72)【発明者】
【氏名】安田 茉由
【審査官】鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-177533(JP,A)
【文献】特開2018-76963(JP,A)
【文献】特開2018-94818(JP,A)
【文献】特開2016-22685(JP,A)
【文献】特開2017-130631(JP,A)
【文献】特開2008-49607(JP,A)
【文献】特開2010-34422(JP,A)
【文献】特開2013-145835(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
H01L 23/34-23/46
D21H 13/00-17/67
B29C 70/00-70/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱伝導シートの製造方法であって、
湿式抄紙法により作製される黒鉛放熱シート層と、柔軟性を有する粘着層を交互に積層した積層体を準備する工程と、
前記積層体を、積層方向に所定の厚さで切断する工程と
を含み、
前記切断工程により得られた熱伝導シートは、前記黒鉛放熱シート層と積層体との積層方向と交差する方向における熱伝導率が、4W/m・K以上であり、かつ
密度が、0.2g/cm
3~1.0g/cm
3であり
、
前記積層体を準備する工程が、
形状異方性を発揮する黒鉛フィラーと、有機繊維を湿式抄紙する工程と、
湿式抄紙されたシート材を、熱プレスする工程と、
熱プレスされたシート材を、所定の大きさにカットして、複数の黒鉛放熱シート層を得る工程を含む熱伝導シートの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の熱伝導シートの製造方法であって、
前記積層体の組成は、
前記黒鉛放熱シート層の体積比率が5~50vol%、
前記粘着層が50~95vol%
である熱伝導シートの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の熱伝導シートの製造方法であって、
前記黒鉛放熱シート層と積層体を準備する工程における前記黒鉛放熱シート層の厚さが、0.01mm~1.00mmである熱伝導シートの製造方法。
【請求項4】
請求項
3に記載の熱伝導シートの製造方法であって、
前記黒鉛放熱シート層の組成は、黒鉛含有量が50~90wt%、有機繊維含有量が10~50wt%である熱伝導シートの製造方法。
【請求項5】
請求項
3又は4に記載の熱伝導シートの製造方法であって、
前記有機繊維が、パラアラミド繊維、パラアラミドパルプ、メタアラミド繊維、メタアラミドパルプ、ポリフェニレンサルファイド繊維、PET繊維、難燃PET繊維、難燃レーヨン繊維のいずれか一以上である熱伝導シートの製造方法。
【請求項6】
熱伝導シートの製造方法であって、
湿式抄紙法により作製される黒鉛放熱シート層と、柔軟性を有する粘着層を交互に積層した積層体を準備する工程と、
前記積層体を、積層方向に所定の厚さで切断する工程と
を含み、
前記切断工程により得られた熱伝導シートは、前記黒鉛放熱シート層と積層体との積層方向と交差する方向における熱伝導率が、4W/m・K以上であり、かつ
密度が、0.2g/cm
3
~1.0g/cm
3
であり、
前記積層体を準備する工程が、
前記黒鉛放熱シート層の表面に、前記粘着層として、粘着剤と発泡性粒子の混合液を塗布する工程と、
前記混合液を塗布した黒鉛放熱シート層を複数枚、積層する工程と、
前記黒鉛放熱シート層を積層した黒鉛放熱シート積層体を、加熱して膨張させる工程とを含む熱伝導シートの製造方法。
【請求項7】
請求項
6に記載の熱伝導シートの製造方法であって、
前記混合液は、前記粘着剤の固形分に対して、発泡性粒子を1.0%~15.0%添加したものである熱伝導シートの製造方法。
【請求項8】
請求項
6又は
7に記載の熱伝導シートの製造方法であって、
前記加熱膨張工程で、加熱前の前記黒鉛放熱シート積層体を、加熱により3倍以上の厚さに膨張させてなる熱伝導シートの製造方法。
【請求項9】
請求項
6~
8のいずれか一項に記載の熱伝導シートの製造方法であって、
前記粘着剤は、加熱することでタック性が発現する粘着剤である熱伝導シートの製造方法。
【請求項10】
請求項
6~
9のいずれか一項に記載の熱伝導シートの製造方法であって、
前記粘着剤は、シリコーン系樹脂を含む熱伝導シートの製造方法。
【請求項11】
請求項1~
10のいずれか一項に記載の熱伝導シートの製造方法であって、
前記積層体を切断する工程が、マルチワイヤーソー、ダイヤモンドワイヤーソー、CBNワイヤーソー、マルチブレードソーのいずれかでもって前記積層体を切断してなる熱伝導シートの製造方法。
【請求項12】
主面を有するシート状の熱伝導シートであって、
前記主面に、湿式抄紙済み黒鉛放熱シート層と、柔軟性を有する粘着層とが交互に表れており、
厚さ方向における熱伝導率が、4W/m・K以上であり、かつ
密度が、0.2g/cm
3~1.0g/cm
3であ
り、
前記黒鉛放熱シート層が、形状異方性を発揮する黒鉛フィラーと、有機繊維を含んでなる熱伝導シート。
【請求項13】
主面を有するシート状の熱伝導シートであって、
前記主面に、湿式抄紙済み黒鉛放熱シート層と、柔軟性を有する粘着層とが交互に表れており、
厚さ方向における熱伝導率が、4W/m・K以上であり、かつ
密度が、0.2g/cm
3
~1.0g/cm
3
であり、
前記粘着層に含まれる粘着剤は、塗布前に該粘着剤の固形分に対して、1.0%~15.0%の発泡性粒子を添加したものである熱伝導シート。
【請求項14】
請求項
12又は13に記載の熱伝導シートであって、
前記主面における黒鉛放熱シート層の厚さが、0.01mm~1.00mmである熱伝導シート。
【請求項15】
請求項
12又は13に記載の熱伝導シートであって、
前記黒鉛放熱シート層の組成が、黒鉛含有量は50~90wt%、有機繊維含有量は10~50wt%である熱伝導シート。
【請求項16】
請求項
15に記載の熱伝導シートであって、
前記有機繊維が、パラアラミド繊維、パラアラミドパルプ、メタアラミド繊維、メタアラミドパルプ、ポリフェニレンサルファイド繊維、PET繊維、難燃PET繊維、難燃レーヨン繊維のいずれか一以上である熱伝導シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車載電池や電子機器等の使用時に発生する熱への対策が急務となっている。このため、高い熱伝導性を有する熱伝導シートが使用されている。熱伝導シートを、発熱体と冷却器の間に介在させることで、発熱体からの放熱性が高められ、発熱体で生じた熱を効率的に冷却器側に放出して、熱による機器の不具合を防止できる。
【0003】
このように設置される熱伝導シートは、厚み方向に高い熱伝導性を持つことが求められる。また界面熱抵抗低減の観点から、柔軟性も求められる。例えば、車載電池のような振動を伴う機器に設置する場合において、熱伝導シートの柔軟性は、振動に伴う部材の劣化を防止するためにも必要となる。
【0004】
このような用途として、一般にはシリコーン樹脂のような柔らかいマトリックス中に熱伝導性フィラーを添加したギャップフィラーと呼ばれる部材が使用されている。
【0005】
しかしながら、ギャップフィラーでは配向性を制御できないため、シートの厚み方向、すなわち垂直方向の熱伝導率を上げるためには、フィラーを多量に配合する必要がある。この結果、高密度(例えば1.0g/cm3以上)になって重量が重くなる上、マトリックスの柔軟性が失われるという問題があった。
【0006】
これに対して、面内配向させた熱伝導性フィラーとシリコーン樹脂との複合シートを積層した後、切断したものが提案されている。しかしながら、この場合もシリコーン樹脂の密度が高いことや、熱伝導性を向上させるために添加される金属や無機フィラーの影響により、依然としてシート部材が重く、また全体が硬くなるという課題が残っていた。
【0007】
さらに、グラファイトシートや炭素繊維からなるシートを積層した部材も存在するが、これらは一般に部材の原料が高価であり、またグラファイトや繊維の配向性の問題から厚さ方向の熱伝導性が低くなる傾向があった。
【0008】
さらにまた、シリコーン樹脂のような柔らかい部材を使用した積層品のカット方法として、一般に超音波カッター等が知られている。しかしながら、大型のインゴットをカット可能な実機が存在しないことから、生産性に適していないという問題もあった。また、このような材質はネバツキが大きいシリコーン粘着剤を使用した場合、積層品を任意の厚みに切断する際に、刃にシリコーン粘着剤が付着する可能性があった。このため、加工機への悪影響が大きくなり、切断加工工程の困難性が予想される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2010-003981号公報
【文献】特許5454300号公報
【文献】特許5843534号公報
【文献】特開2017-208458号公報
【文献】特開2017-025281号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的の一は、高い熱伝導性を維持しながら、軽量化と柔軟性を両立させた熱伝導シート及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0011】
本発明の第1の側面に係る熱伝導シートの製造方法によれば、湿式抄紙法により作製される黒鉛放熱シート層と、柔軟性を有する粘着層を交互に積層した積層体を準備する工程と、前記積層体を、積層方向に所定の厚さで切断する工程とを含み、前記切断工程により得られた熱伝導シートは、前記黒鉛放熱シート層と積層体との積層方向と交差する方向における熱伝導率が、4W/m・K以上であり、かつ密度を、0.2g/cm3~1.0g/cm3
であり、前記積層体を準備する工程が、形状異方性を発揮する黒鉛フィラーと、有機繊維を湿式抄紙する工程と、湿式抄紙されたシート材を、熱プレスする工程と、熱プレスされたシート材を、所定の大きさにカットして、複数の黒鉛放熱シート層を得る工程を含むことができる。これにより、湿式抄紙済み黒鉛放熱シート層としたことで柔軟性を維持しつつも低密度化が実現され、軽量化と柔軟性の両立を図った熱伝導シートを達成できる。
【0012】
また、本発明の第2の側面に係る熱伝導シートの製造方法によれば、上記に加えて、前記積層体の組成は、前記黒鉛放熱シート層の体積比率が5~50vol%、前記粘着層が50~95vol%である。
【0013】
さらに、本発明の第3の側面に係る熱伝導シートの製造方法によれば、上記いずれかに加えて、前記黒鉛放熱シート層と積層体を準備する工程における前記黒鉛放熱シート層の厚さを、0.01mm~1.00mmとできる。
【0014】
さらにまた、本発明の他の側面に係る熱伝導シートの製造方法によれば、上記いずれかに加えて、前記積層体を準備する工程が、形状異方性を発揮する黒鉛フィラーと、有機繊維を湿式抄紙する工程と、湿式抄紙されたシート材を、熱プレスする工程と、熱プレスされたシート材を、所定の大きさにカットして、複数の黒鉛放熱シート層を得る工程を含むことができる。これにより、黒鉛フィラー同士を互いにつながりやすくして熱伝導パスを構成し、熱伝導性を向上できる利点が得られる。
【0015】
さらにまた、本発明の第4の側面に係る熱伝導シートの製造方法によれば、上記いずれかに加えて、前記黒鉛放熱シート層の組成は、黒鉛含有量が50~90wt%、有機繊維含有量が10~50wt%である。これにより、湿式抄紙工程で得られた黒鉛放熱シート層は、有機繊維を用いて黒鉛を保持できるため、従来の樹脂をマトリックスとして黒鉛を保持する熱伝導シートと比べ、より多くの黒鉛を含有させることができ、熱伝導性を高くできる利点が得られる。
【0016】
さらにまた、本発明の第5の側面に係る熱伝導シートの製造方法によれば、上記いずれかに加えて、前記有機繊維を、パラアラミド繊維、パラアラミドパルプ、メタアラミド繊維、メタアラミドパルプ、ポリフェニレンサルファイド繊維、PET繊維、難燃PET繊維、難燃レーヨン繊維のいずれか一以上とできる。
【0017】
さらにまた、本発明の第6の側面に係る熱伝導シートの製造方法によれば、熱伝導シートの製造方法であって、湿式抄紙法により作製される黒鉛放熱シート層と、柔軟性を有する粘着層を交互に積層した積層体を準備する工程と、前記積層体を、積層方向に所定の厚さで切断する工程とを含み、前記切断工程により得られた熱伝導シートは、前記黒鉛放熱シート層と積層体との積層方向と交差する方向における熱伝導率が、4W/m・K以上であり、かつ密度が、0.2g/cm
3
~1.0g/cm
3
であり、前記積層体を準備する工程が、前記黒鉛放熱シート層の表面に、前記粘着層として、粘着剤と発泡性粒子の混合液を塗布する工程と、前記混合液を塗布した黒鉛放熱シート層を複数枚、積層する工程と、前記黒鉛放熱シート層を積層した黒鉛放熱シート積層体を、加熱して膨張させる工程とを含むことができる。これにより、発泡性粒子で発泡させることで粘着剤を薄くでき、粘着剤の塗布量を減らせるため、粘着層の乾燥時間を短くして生産性を向上させることができる。
【0018】
さらにまた、本発明の第7の側面に係る熱伝導シートの製造方法によれば、上記いずれかに加えて、前記混合液は、前記粘着剤の固形分に対して、発泡性粒子を1.0%~15.0%添加したものとできる。
【0019】
さらにまた、本発明の第8の側面に係る熱伝導シートの製造方法によれば、上記いずれかに加えて、前記加熱膨張工程で、加熱前の前記黒鉛放熱シート積層体を、加熱により3倍以上の厚さに膨張させることができる。
【0020】
さらにまた、本発明の第9の側面に係る熱伝導シートの製造方法によれば、上記いずれかに加えて、前記粘着剤を、加熱することでタック性が発現する粘着剤とできる。
【0021】
さらにまた、本発明の第10の側面に係る熱伝導シートの製造方法によれば、上記いずれかに加えて、前記粘着剤を、シリコーン系樹脂とできる。
【0022】
さらにまた、本発明の第11の側面に係る熱伝導シートの製造方法によれば、上記いずれかに加えて、前記積層体を切断する工程が、マルチワイヤーソー、ダイヤモンドワイヤーソー、CBNワイヤーソー、マルチブレードソーのいずれかでもって前記積層体を切断することができる。
【0023】
さらにまた、本発明の第12の側面に係る熱伝導シートによれば、主面を有するシート状の熱伝導シートであって、前記主面に、湿式抄紙済み黒鉛放熱シート層と、柔軟性を有する粘着層とが交互に表れており、厚さ方向における熱伝導率が、4W/m・K以上であり、かつ密度が、0.2g/cm3~1.0g/cm3であり、前記黒鉛放熱シート層が、形状異方性を発揮する黒鉛フィラーと、有機繊維を含んでいる。上記構成により、湿式抄紙済み黒鉛放熱シート層としたことで柔軟性を維持しつつも低密度化が実現され、軽量化と柔軟性の両立を図った熱伝導シートを達成できる。
さらにまた、本発明の第13の側面に係る熱伝導シートによれば、主面を有するシート状の熱伝導シートであって、前記主面に、湿式抄紙済み黒鉛放熱シート層と、柔軟性を有する粘着層とが交互に表れており、厚さ方向における熱伝導率が、4W/m・K以上であり、かつ密度が、0.2g/cm
3
~1.0g/cm
3
であり、前記粘着層に含まれる粘着剤は、塗布前に該粘着剤の固形分に対して、1.0%~15.0%の発泡性粒子を添加したものである。
【0024】
さらにまた、本発明の第14の側面に係る熱伝導シートによれば、上記に加えて、前記主面における黒鉛放熱シート層の厚さを、0.01mm~1.00mmとできる。
【0025】
さらにまた、本発明の他の側面に係る熱伝導シートによれば、上記いずれかに加えて、前記黒鉛放熱シート層が、形状異方性を発揮する黒鉛フィラーと、有機繊維を含むことができる。
【0026】
さらにまた、本発明の第15の側面に係る熱伝導シートによれば、上記いずれかに加えて、前記黒鉛放熱シート層の組成を、黒鉛含有量は50~90wt%、有機繊維含有量は10~50wt%とできる。上記構成により、湿式抄紙済み黒鉛放熱シート層は有機繊維を用いて黒鉛を保持できるため、従来の樹脂をマトリックスとして黒鉛を保持する熱伝導シートと比べ、より多くの黒鉛を含有させることができ、熱伝導性を高くできる利点が得られる。
【0027】
さらにまた、本発明の第16の側面に係る熱伝導シートによれば、上記いずれかに加えて、前記有機繊維を、パラアラミド繊維、パラアラミドパルプ、メタアラミド繊維、メタアラミドパルプ、ポリフェニレンサルファイド繊維、PET繊維、難燃PET繊維、難燃レーヨン繊維のいずれか一以上とできる。
【0028】
さらにまた、本発明の他の側面に係る熱伝導シートによれば、上記いずれかに加えて、前記粘着層に含まれる粘着剤を、塗布前に該粘着剤の固形分に対して、1.0%~15.0%の発泡性粒子を添加したものとできる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】実施形態1に係る熱伝導シートを示す斜視図である。
【
図2】
図2A~
図2Cは、実施形態1に係る熱伝導シートの製造工程を示す図である。
【
図4】熱伝導シートを放熱体と冷却器の間に設置した様子を示す断面図である。
【
図5】黒鉛放熱シート積層体の発泡前と発泡後の厚さを示す写真である。
【
図6】黒鉛をマトリックス樹脂に分散させた黒鉛放熱シートを示す斜視図及び断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施の形態は、本発明の技術思想を具体化するための例示であって、本発明は以下のものに限定されない。また、本明細書は特許請求の範囲に示される部材を、実施の形態の部材に特定するものでは決してない。特に実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。なお、各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。さらに以下の説明において、同一の名称、符号については同一もしくは同質の部材を示しており、詳細説明を適宜省略する。さらに、本発明を構成する各要素は、複数の要素を同一の部材で構成して一の部材で複数の要素を兼用する態様としてもよいし、逆に一の部材の機能を複数の部材で分担して実現することもできる。
【0031】
本発明に係る熱伝導シートは、様々な発熱体の放熱部材として利用することができる。放熱体には、例えば二次電池セルやトランジスタ、発光ダイオード(LED)等の半導体素子、ハロゲンランプ等の光源、モータ等が好適に挙げられる。ここでは、実施形態1として放熱シートを電源装置に適用した例を説明する。ここでは、発熱体である二次電池セルに熱伝導シートを熱的に結合した放熱装置を構成している。
[実施形態1]
【0032】
実施形態1に係る熱伝導シート100を、
図1の斜視図に示す。この図に示す熱伝導シート100は、主面を有するシート状に形成されている。この熱伝導シート100は、主面に、湿式抄紙済み黒鉛放熱シート層1と、柔軟性を有する粘着層2とが交互に表れている。また厚さ方向における熱伝導率は、4W/m・K以上である。さらに密度は、0.2g/cm
3~1.0g/cm
3である。このような構成により、湿式抄紙工程で得られた湿式抄紙済み黒鉛放熱シート層1により、柔軟性を維持しつつも低密度化を実現できる。また高い熱伝導性を達成しながらも、軽量化と柔軟性を発揮させ、放熱体や放熱器の表面に熱結合状態に密着させやすい熱伝導シート100が得られる。
【0033】
また主面における黒鉛放熱シート層1の厚さは、熱伝導シート100が用いられる発熱体や放熱体の形状や、求められる放熱性能などに応じて適宜決定される。一般に厚くなるほど、柔軟性が損なわれるため、0.01mm~1.00mmとすることが好ましい。さらに黒鉛放熱シート層1は、形状異方性を発揮する黒鉛フィラーと、有機繊維を含む。
(熱伝導シート100の製造方法)
【0034】
ここで、実施形態1に係る熱伝導シート100の製造方法を
図2A~
図2Cに基づいて説明する。まず、
図2Aに示すように、黒鉛放熱シート層1を準備する。次に、
図2Bに示すように、黒鉛放熱シート層1に、粘着層2を塗布する。そして
図2Cに示すように、このような黒鉛放熱シート層1と粘着層2とを交互に積層して、積層体10を作成する。さらに、この積層体10を積層方向(
図2Cにおいて縦方向)に所定の厚さ(同図において一点鎖線で示す位置)で切断する。このようにして、
図1に示すような、主面に黒鉛放熱シート層1と粘着層2とが交互に表出された熱伝導シート100が得られる。以下、各工程の詳細について説明する。
【0035】
黒鉛放熱シート層1を準備する工程においては、まず、
図3Aに示すように、形状異方性を発揮する黒鉛フィラーと、有機繊維を湿式抄紙する。このとき、黒鉛放熱シート層1の組成は、黒鉛含有量を50~90wt%、有機繊維含有量を10~50wt%とすることが好ましい。ここでは、有機繊維を湿式抄紙することで、従来のマトリックス樹脂で黒鉛を保持する構成と比べ、より多くの黒鉛を含有させることができるので、熱伝導性の観点から有利となる。また有機繊維は、パラアラミド繊維、パラアラミドパルプ、メタアラミド繊維、メタアラミドパルプ、ポリフェニレンサルファイド繊維、PET繊維、難燃PET繊維、難燃レーヨン繊維のいずれか一以上を利用できる。
【0036】
次に、
図3Bに示すように湿式抄紙されたシート材を、熱プレスする。さらに、熱プレスされたシート材を、所定の大きさにカットして、複数の黒鉛放熱シート層1を得る。このように、湿式抄紙されたシート材を熱プレスすることで、黒鉛フィラー同士の接触面積を大きくして熱伝導パスが構成され易くなり、結果としてプレス方向と交差する方向への熱伝導性が向上される。また黒鉛放熱シート層1の厚さは、プレスにより調整される。なお黒鉛放熱シート層1の厚さは、0.01mm~1.00mmとすること好ましい。
【0037】
一方で、この黒鉛放熱シート層1は、
図3Bに示す横方向への熱伝導性は高いものの、厚さ方向への熱伝導性に劣る。そこで、上述した
図2Cのように、複数枚の黒鉛放熱シート層1を積層して、積層層方向と交差する方向に切断した熱伝導シートとしている。この熱伝導シートを、放熱体HGと冷却器HSの間に設置した様子を、
図4の断面図に示す。この図に示すように、抄紙方向を熱伝導シートの厚さ方向(図において矢印で示す)に変化させたことで、厚さ方向に高い熱伝導性を発揮させることが可能となり、熱伝導シートとして有利な特性を発揮できる。
【0038】
さらにこの熱伝導シートは、粘着材に発泡性粒子を混合したことで、軽量化を実現している。ここで、黒鉛放熱シート層1を積層して積層体10を作製する手順を説明する。まず、上述した工程で得られた複数の黒鉛放熱シート層1の表面に、粘着層2として、粘着剤と発泡性粒子の混合液を塗布する。粘着剤は、加熱することでタック性が発現する粘着剤を使用することが好ましい。好適には、シリコーン系樹脂の粘着剤を使用する。また混合液は、粘着剤の固形分に対して、発泡性粒子を1.0%~15.0%添加する。また発泡性粒子は、熱による熱膨張性粒子を用いる。このように熱により膨張する発泡性粒子で発泡させることで、相対的に粘着剤を薄くできるので、黒鉛放熱シート層1への粘着剤の塗布量を低減できる。この結果として、粘着剤の乾燥時間が短くなり、生産性が向上される。
【0039】
次に、混合液を塗布した黒鉛放熱シート層1を複数枚、積層する。この積層体10の組成は、黒鉛放熱シート層1の体積比率を5~50vol%、粘着層2を50~95vol%とすることが好ましい。
【0040】
さらに、黒鉛放熱シート層1を積層した黒鉛放熱シート積層体を、加熱して膨張させる。この加熱膨張工程では、加熱前の黒鉛放熱シート積層体を、加熱により3倍以上の厚さに膨張させる。ここで、本発明者らが試験した黒鉛放熱シート積層体の、発泡前と発泡後の様子を、
図5の写真に示す。この例では、中越黒鉛工業所社製の黒鉛と、有機繊維として帝人社製のパラアラミド繊維及びPET繊維1.2dtex×5mm及びKBセーレン社製のポリフェニレンサルファイド繊維1.7dtex×5mmを表1の(1)に記載した混合比率で湿式抄紙した0.075mm厚の黒鉛放熱シートを400枚積層している。また粘着剤にモメンティブ社製のPSA810、シリコーンレジンにモメンティブ社のSR545発泡性粒子はエクスパンセル社製のExpancel920DU120をそれぞれ表2の比率で混合することで混合液を調製している。このようにして得られた黒鉛放熱シート積層体の、発泡前の厚さは約40mmであった。これをタバイエスペック社製恒温器(PH-101)を用いて、195℃で40分間加熱して発泡させた結果、発泡後の厚さは約150mmとなった。このように、発泡によって体積を増すことにより、相対的に密度を低減でき、熱伝導シートの軽量化が実現される。
【0041】
さらに、このようにして得られた積層体10を、
図2Cに示すように所定厚さに切断する。切断には、マルチワイヤーソー、ダイヤモンドワイヤーソー、CBNワイヤーソー、マルチブレードソー等が利用できる。このように、比較的生産性の高い設備を利用して切断することで、効率良く熱伝導シートを製造できる。また得られた熱伝導シートは、柔軟かつ軽量で、積層方向に対して交差する方向、すなわち熱伝導シートの厚さ方向(
図4において矢印で示す方向)への熱伝導性が高い。
(黒鉛放熱シート)
【0042】
黒鉛を用いた放熱シートは、従来より使用されている。一般には、
図6に示すように黒鉛フィラー91をマトリックス樹脂92(ギャップフィラー)中に分散させて、シート状とした物が多い。しかしながら、このように樹脂中に黒鉛を分散させる構成においては、樹脂をマトリックスとして用いる構成上、樹脂で充填された硬質のシートとなり、密度が高く重量が重くなる。
【0043】
これに対し、本実施形態に係る熱伝導シートで用いる、湿式抄紙工程で得られた湿式抄紙済み黒鉛放熱シート層は、有機繊維を用いて黒鉛を絡め取るように保持できるため、空隙が多く存在し、低密度化できる分、軽量化できるという利点が得られる。黒鉛放熱シートの軽量化は、特に車載用の電源装置などの分野においては、燃費向上の観点から好ましい。また、モバイル用途の電子機器、例えばスマートフォンやタブレットも、携行性の観点から、軽量化が強く求められており、同様に有利となる。
【0044】
また、マトリックス樹脂を用いる黒鉛放熱シートにおいては、樹脂をマトリックスとして用いる以上、接着剤として機能する樹脂の量がある程度必要となり、相対的に放熱シートに含めることのできる黒鉛の比率が低下する。これに対し、本実施形態に係る湿式抄紙工程で得られた湿式抄紙済み黒鉛放熱シート層では、体積の大きい樹脂が不要となる分、より多くの黒鉛を混入させることが可能となる。黒鉛の比率を大きくすることで、熱伝導性は向上されるため、放熱性の向上につながる。
【0045】
さらに、マトリックス樹脂を用いる黒鉛放熱シートにおいては、未硬化の樹脂がある程度粘性を有するため、樹脂中に黒鉛を均一に分散させることが容易でない。黒鉛の密度にムラがあると、熱伝導性も一定でなくなり、黒鉛放熱シートの熱伝導性が場所毎に変動することとなる。これに対して、本実施形態に係る抄紙工程を経た抄紙済み黒鉛放熱シートでは、水のような粘度の低い液体中に黒鉛を分散できるため、シートの全体に渡ってより均一に黒鉛を分散して、熱伝導性の均一化を図ることが可能となり、熱伝導性のムラの少ない黒鉛放熱シートとして、その信頼性が高められるという利点も得られる。
【0046】
さらに本実施形態に係る黒鉛放熱シートは、上述の通り抄紙工程で分散させた黒鉛を熱プレスすることで、
図3Bに示すように高アスペクト比として熱伝導パスを形成し、熱伝導率をさらに高めている。加えて、
図2A~
図2Cに示したとおり、黒鉛放熱シートを複数枚積層した積層体10を、積層方向にカットすることで、熱伝導の方向を厚さ方向に変化させている。この結果、
図4に示すように放熱体HGと冷却器HSの間に介在させる熱伝導シートとして、理想的な特性を発揮できるようになる。
[実施例]
【0047】
ここで、実施例1~5に係る熱伝導シートと、比較例1に係る熱伝導シートを試作し、その特性を測定した。ここでは実施例1~5においては、中越黒鉛工業所社製の黒鉛と有機繊維として帝人社製のパラアラミド繊維及びPET繊維(1.2dtex×5mm)及びKBセーレン社製のポリフェニレンサルファイド繊維(1.7dtex×5mm)を用いて、湿式抄紙して黒鉛放熱シート層を作製した。なお実施例1~4で使用した黒鉛放熱シートの配合率は表1の通りである。また粘着剤にはシリコーン樹脂を、発泡性粒子にはExpancel920DU120をそれぞれ用いた。各実施例においては、厚さと積層枚数を変化させている。また比較例においては、シリコーン樹脂中にアルミナ粒子を分散させたものを型に入れ、タバイエスペック社製恒温器(PH-101)を用いて、90℃で1時間加熱してシート状に成型したものを用いた。
【0048】
【0049】
実施例1~4(原紙の坪量:100g/m2、原紙の厚み:0.075mm)における混合液の成分と配合比率を、以下の表1、また実施例5(原紙の坪量:400g/m2、原紙の厚み0.23mm)における混合液の成分と配合比率を、以下の表2に、それぞれ示す。
【0050】
【0051】
【0052】
以上の成分と配合比率を有する、混合液は、以下のようにして調整した。まず有機溶媒として、MEK等のように硬化促進触媒を溶かすことができるものを用いた。これに、粘着剤硬化促進触媒として過酸化ベンゾイルを添加し、触媒が溶解するまで混合した。さらにシリコーンレジン、熱膨張性粒子を、均一になるまで混合した。さらにシリコーン樹脂を均一になるまで混合し、混合液を調整した。なお、混合液の調製方法は一例にすぎず、本発明においては各原料を均一に混合できる既知の調製方法を適宜利用できる。
【0053】
また黒鉛放熱シートの体積比率が20%のときの作製方法は、以下の通りとした。まず、黒鉛放熱シートとして厚さ0.075mmのもの(実施例1~4)、及び0.23mmのもの(実施例5)を、それぞれ湿式抄紙して作製した。次に、これら黒鉛放熱シートに、粘着剤を塗布する。粘着剤の塗布は片面塗布でも両面塗布でもできる。ここでは、バーコーターを用いて片面塗工した。ただ、キスコーター等を用いたり、含浸させることもできる。
【0054】
次に、塗布した粘着剤を乾燥させた。実施例1~4では塗工量を50g/m2(固形分)とし、実施例5では90g/m2(固形分)とした。また、ここでは風乾で20~30分とした。なお、熱膨張性粒子の膨張開始温度以下の乾燥炉をロールトゥロールで通過させてもよい。
【0055】
さらに、これらの粘着剤を塗布した黒鉛放熱シートの積層を行った。積層枚数は、実施例1~4では400枚、実施例5では130枚とした。また積層後の厚みは、実施例1~4、実施例5ともに約4cm程度とした。
【0056】
さらに、得られた積層体のプレインゴット切断を行った。ここでは、ランニングソーにて20cm角プレインゴットを15cm角に切断した。
【0057】
次に、加熱発泡を行った。ここでは、金型にプレインゴットを入れた後、180℃の条件で30~40分程度、プレインゴットの厚さが15cm程度になるまで加熱発泡させた。なお、コンテナ炉のような連続式の設備で加熱発泡させてもよい。
【0058】
最後に、発泡後にインゴットの切断を行った。ここでは、加熱発泡後のインゴットを、マルチワイヤーソー等で任意の厚みに切断する。ここでは、実施例1では1.0mm、実施例2では2mm、実施例3、4、5では3.0mmとした。
【0059】
さらに、各試料について熱伝導率を測定した。熱伝導率の測定方法は、
図4において発熱体に台湾モスペック社製トランジスタ(2SD424)を、放熱器にWakefield-Vette社製ヒートシンク(413K)を用いて、これらの間にサンプルを挟み、トルク4cN・m(面圧0.2N/m
2)で締め付けた後、定格電力10Wで駆動したときの、ヒーターとヒートシンクの温度を、神港テクノス社製温度計(JCS-33A)で測定した。熱伝導率は、得られた以下の数1、数2に測定温度と諸条件を代入して算出した。
【0060】
【0061】
【0062】
上式において、
T1:トランジスタの温度(℃)
T2:ヒートシンクの温度(℃)
としている。以上の結果を、表4に示す
【0063】
【0064】
この表に示すように、厚さ方向の熱伝導率を、実施例2乃至実施例5では4W/m・K以上を達成することができた。また密度は、0.2g/cm3~1.0g/cm3とすることができた。一方、比較例1では、密度が高く、熱伝導率も低かった。
【0065】
以上の通り、本発明の実施例に係る熱伝導シートによれば、湿式抄紙工程で得られた黒鉛放熱シート層は、有機繊維で得られた紙のシートに黒鉛フィラーを均一に分散できるため、シートの面方向に均一な熱伝導性を発揮でき、信頼性の高い放熱性能を安定的に発揮できる。特に高い熱伝導性を発揮させながら、柔軟かつ軽量な熱伝導シート積層体を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明に係る熱伝導シート及びその製造方法は、電気自動車やハイブリッド自動車等の電動車両用の電源装置を放熱する放熱装置、コンピューターに内蔵されるCPU等の電子部品やLED、液晶、PDP、EL、携帯電話等の発光素子等の電子部品からの発熱を放熱する熱伝導シートとして好適に利用できる。
【符号の説明】
【0067】
100…熱伝導シート
1…黒鉛放熱シート層
2…粘着層
10…積層体
91…黒鉛フィラー
92…マトリックス樹脂
HS…冷却器
HG…放熱体