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特許7358465スチールコード-ゴム複合体及び空気入りタイヤ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-29
(45)【発行日】2023-10-10
(54)【発明の名称】スチールコード-ゴム複合体及び空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   D07B 1/06 20060101AFI20231002BHJP
   D07B 1/16 20060101ALI20231002BHJP
   B60C 9/00 20060101ALI20231002BHJP
   B60C 9/20 20060101ALI20231002BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20231002BHJP
【FI】
D07B1/06 A
D07B1/16
B60C9/00 K
B60C9/20 E
B60C1/00 C
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021524914
(86)(22)【出願日】2020-06-05
(86)【国際出願番号】 JP2020022230
(87)【国際公開番号】W WO2020246569
(87)【国際公開日】2020-12-10
【審査請求日】2022-12-16
(31)【優先権主張番号】P 2019106405
(32)【優先日】2019-06-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】尾▲崎▼ 拓也
【審査官】松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-007427(JP,A)
【文献】国際公開第2015/177838(WO,A1)
【文献】特開2017-185938(JP,A)
【文献】特開平02-029325(JP,A)
【文献】特開2014-019974(JP,A)
【文献】国際公開第2016/143756(WO,A1)
【文献】特開2002-013083(JP,A)
【文献】特開平02-212524(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105440333(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第107177069(CN,A)
【文献】韓国公開特許第10-2019-0056703(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0374009(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2002/0193520(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D07B 1/06
D07B 1/16
B60C 1/00
B60C 9/00
B60C 9/20
C08K 3/04
C08K 5/3477
C05K 5/40
C08K 5/44
C08L 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム組成物とスチールコードとからなる、スチールコード-ゴム複合体であって、
前記ゴム組成物は、ゴム成分と、充填材と、熱硬化性樹脂と、メチレン供与体と、チウラム系加硫促進剤と、スルフェンアミド系加硫促進剤とを含有し、ゴム成分100質量部に対してコバルト化合物の含有量が0.01質量部以下であり、
前記ゴム組成物中の質量比(チウラム系加硫促進剤/熱硬化性樹脂)が0.02以上0.12未満であるゴム組成物であり、
前記スチールコードは、三元系の合金メッキを施したスチールコードであることを特徴とする、スチールコード-ゴム複合体。
【請求項2】
前記ゴム組成物中の充填材がカーボンブラックを含有し、前記ゴム成分100質量部に対して、前記カーボンブラックの含有量が35質量部以上45質量部以下である、請求項1に記載のスチールコード-ゴム複合体。
【請求項3】
前記カーボンブラックの窒素吸着比表面積が70m/g以上90m/g以下であり、フタル酸ジブチル吸収量が50mL/100g以上110mL/100g以下である、請求項に記載のスチールコード-ゴム複合体。
【請求項4】
前記ゴム組成物がコバルト化合物を含有しない、請求項1~3のいずれか1項に記載のスチールコード-ゴム複合体。
【請求項5】
前記スチールコードの三元系の合金メッキが、銅-亜鉛-コバルトの三元系である、請求項1~のいずれか1項に記載のスチールコード-ゴム複合体。
【請求項6】
前記スチールコードの三元系の合金メッキに表面処理がなされている、請求項1~のいずれか1項に記載のスチールコード-ゴム複合体。
【請求項7】
請求項1~のいずれか1項に記載の前記スチールコード-ゴム複合体を用いたタイヤ。
【請求項8】
請求項1~のいずれか1項に記載の前記スチールコード-ゴム複合体を用いたホース、コンベヤベルト、クローラ又はラバーダム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三元メッキが周面に施されたスチールワイヤからなるスチールコード又は該スチールワイヤを撚り合わせてなるスチールコードに特定のゴム組成物を被覆してなるスチールコード-ゴム複合体及びそれを用いた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤ、ベルト、ホース等のようなゴム製品は、スチールコード等の金属コード類や有機繊維類等の補強材で補強されている。これらのゴム製品は、ゴム組成物と補強材、特にゴム組成物とスチールコードとを強固に接着することが求められている。
このスチールコード被覆用ゴム組成物として、カーボンブラックを分散させたスラリー溶液とゴムラテックスとを混合して得られるウェットマスターバッチを用いて製造されたゴム組成物であって、前記カーボンブラックは、JIS K 6217-4:2008に基づき測定したジブチルフタレート吸油量(mL/100g)が60mL/100g以上90mL/100g以下であり、JIS K6217-7:2013に基づき測定した統計的厚さ比表面積(m/g)が100m/g以上150m/g以下であり、 該ゴムラテックス100質量部に対して、該カーボンブラックが35質量部以上80質量部以下配合されたゴム組成物が知られている(特許文献1参照)。
また、メッキ素線からなるスチールコードと、このスチールコードを被覆するゴムとからなるゴム・コード複合体であって、前記メッキ素線は、芯線の表面に銅(Cu)、亜鉛(Zn)、コバルト(Co)からなる三元メッキ層を具え、かつ前記三元メッキ層は、その表面からの深さが15nmまでの領域であるメッキ表面領域の組成が、銅(Cu):64~68wt%、コバルト(Co):0.5~7.0wt%であるスチールコード-ゴム複合体が開示されている(特許文献2参照)。
このように、スチールコードにコバルトをメッキすることでスチールコード-ゴム複合体の接着性を補完することは知られていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-37547号公報
【文献】特開2014-19974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
空気入りタイヤでは、スチールコード-ゴム複合体の接着性に加えて、耐亀裂進展性と低燃費性の高い次元での両立が求められ、ケース部材、特にベルトコーティングゴムはタイヤの安全性のために高い耐久性が必要とされる部材である。
一方で 環境負荷低減のためにコバルトの使用量を低減するニーズがあるが、コバルト量を低減すると接着性が低下するだけでなく、ゴムの弾性率も低下するため実車における空気入りタイヤの耐亀裂進展性と低燃費性が低下することがあった。
そこで、本発明は、スチールコード-ゴム複合体の接着性、特に湿熱劣化後の接着性を改良すると共に、このスチールコード-ゴム複合体を用いた空気入りタイヤの耐亀裂進展性を維持しつつ、低燃費性を改良することを課題とし、更には、このスチールコード-ゴム複合体を用いた空気入りタイヤの耐亀裂進展性及び低燃費性を改良し、良好に両立させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、スチールコードで補強されたゴム製品において、特定の三元系の合金メッキを有するスチールコードに、特定のゴム組成物を被覆することにより、スチールコード-ゴム複合体の接着性、特に湿熱劣化後の接着性を向上すると共に、このスチールコード-ゴム複合体を用いた空気入りタイヤの耐亀裂進展性低燃費性を改良する技術を見出した。
【0006】
すなわち、本発明は、
[1]ゴム組成物とスチールコードとからなる、スチールコード-ゴム複合体であって、
前記ゴム組成物は、ゴム成分と、充填材と、熱硬化性樹脂と、メチレン供与体と、チウラム系加硫促進剤と、スルフェンアミド系加硫促進剤とを含有し、ゴム成分100質量部に対してコバルト化合物の含有量が0.01質量部以下であるゴム組成物であり、
前記スチールコードは、三元系の合金メッキを施したスチールコードであることを特徴とする、スチールコード-ゴム複合体、
[2]前記ゴム組成物中の質量比(チウラム系加硫促進剤/熱硬化性樹脂)が0.02以上0.12未満である上記[1]に記載のスチールコード-ゴム複合体、
[3]前記ゴム組成物中の充填材がカーボンブラックを含有し、前記ゴム成分100質量部に対して、前記カーボンブラックの含有量が35質量部以上45質量部以下である、上記[1]又は[2]に記載のスチールコード-ゴム複合体、
[4]前記カーボンブラックの窒素吸着比表面積が70m/g以上90m/g以下であり、フタル酸ジブチル吸収量が50mL/100g以上110mL/100g以下である、上記[3]に記載のスチールコード-ゴム複合体、
[5]前記ゴム組成物がコバルト化合物を含有しない、上記[1]~[4]に記載のスチールコード-ゴム複合体。
[6]前記スチールコードの三元系の合金メッキが、銅-亜鉛-コバルトの三元系である、上記[1]~[5]のいずれか1項に記載のスチールコード-ゴム複合体、
[7]前記スチールコードの三元系の合金メッキに表面処理がなされている、上記[1]~[6]のいずれか1項に記載のスチールコード-ゴム複合体、
[8]上記[1]~[7]のいずれか1項に記載の前記スチールコード-ゴム複合体を用いたタイヤ、及び
[9]上記[1]~[7]のいずれか1項に記載の前記スチールコード-ゴム複合体を用いたホース、コンベヤベルト、クローラ又はラバーダムである。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、スチールコード-ゴム複合体の接着性、特に湿熱劣化後の接着性を改良すると共に、このスチールコード-ゴム複合体を用いた空気入りタイヤの耐亀裂進展性、及び低燃費性を改良し、良好に両立させることができた。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[スチールコード-ゴム複合体]
本発明のスチールコード-ゴム複合体は、ゴム組成物とスチールコードとからなる、スチールコード-ゴム複合体であって、前記ゴム組成物は、ゴム成分と、充填材と、熱硬化性樹脂と、メチレン供与体と、チウラム系加硫促進剤と、スルフェンアミド系加硫促進剤とを含有し、ゴム成分100質量部に対してコバルト化合物の含有量が0.01質量部以下である未加硫ゴム組成物であって、前記スチールコードは、三元系の合金メッキを施したスチールコードであることを特徴とする。
本発明に係るゴム組成物は、加硫後の明示のない場合、未加硫ゴム組成物を指す。
【0009】
[スチールコード]
本発明のスチールコード-ゴム複合体に係るスチールコードは、三元系の合金メッキを周面に施されたスチールワイヤからなるスチールコード又は該スチールワイヤを撚り合わせてなるスチールコードである。このように、スチールコードはスチールワイヤを構成要素としている。スチールワイヤの周面に施された三元系の合金メッキの三元系として、銅-亜鉛-コバルトであることが好ましい。
三元系の合金メッキは、既知の方法で形成することができる。例えば伸線加工前のスチールワイヤの周面に、銅、亜鉛、コバルトの順、銅、コバルト、亜鉛の順または銅、亜鉛とコバルトの合金の順にメッキを繰り返し、その後450℃以上650℃以下において3秒間以上25秒間以下熱拡散して、所望する三元系の合金メッキが得られる。すなわち、メッキされたスチールワイヤの表面には、コバルト層が配置される。
この三元系の合金メッキを施したスチールコードは、被覆ゴム組成物中のコバルト脂肪酸塩を削除又は削減することが可能となるので、被覆するゴム組成物の劣化後の耐亀裂進展性を向上することができる。
前記三元系の合金メッキを施したスチールコードが、さらに後述する表面処理がなされていることが好ましい。、
本発明に係るスチールコードは、三元系の合金メッキがCu58質量%以上70質量%以下、Zn20質量%以上41.5質量%以下、Co0.5質量%以上10質量%以下であることが好ましい。
【0010】
三元系の合金メッキ層の平均厚みは、好適には、0.13~0.35μmであり、更に好適には、0.13~0.32μmであり、特に好適には、0.13~0.30μmである。三元系の合金メッキ層の平均厚みが0.13μm以上であれば、鉄地が露出する部分が少なくなり初期接着性が向上し、一方、0.35μm以下であれば、ゴム物品使用中の熱によって過剰に接着反応が進行することを抑制して、より強固な接着を得ることができる。
【0011】
更に、スチールワイヤの直径は、0.60mm以下であることが好ましく、0.50mm以下であることがより好ましく、0.40mm以下であることが更に好ましい。この直径が0.60mm以下であれば、使用したゴム物品が曲げ変形下で繰り返し歪みを受けたときに表面歪が小さくなるので、座屈を引き起こしにくくなる。スチールワイヤの直径は0.10mm以上であることが、強度を確保するために好ましい。
【0012】
[スチールコード-ゴム複合体の製造方法]
次に、本発明のスチールコード-ゴム複合体の製造方法について説明する。
本発明のスチールコード-ゴム複合体の製造にあたって、スチールコードと未加硫ゴム組成物とを接着する前に、スチールコードに脂肪酸エステルオイルで処理を施すことが好ましい。これにより、コバルトリッチ領域のコバルト量をさらに増加させることができ、本発明のスチールコード-ゴム複合体におけるゴムとスチールコードの接着性をさらに向上させることができる。
【0013】
本発明に係る三元系の合金メッキを施したスチールコードに脂肪酸エステルオイルで処理を施す方法としては、例えば、スチールフィラメントの伸線加工直後に脂肪酸エステルオイルを塗布する方法が挙げられる。その後、脂肪酸エステルオイルが塗布されたスチールフィラメントを撚り合わせることで、本発明に係るスチールコードを製造することができる。脂肪酸エステルオイルの塗布方法としては、特に制限はなく既知の方法を用いることができるが、脂肪酸エステルオイルにスチールフィラメントを通線してもよいし、刷毛等を用いてスチールフィラメントに塗布してもよい。
【0014】
本発明に係る製造方法においては、スチールコードに対する脂肪酸エステルオイルの付着量は、質量比(脂肪酸エステルオイルの付着量/スチールコード)として、20~2000mg/kgとすることが好ましい。脂肪酸エステルオイルの付着量が20mg/kg未満では上記効果を十分に得られない場合があり、一方、2000mg/kgを超えるとゴムとの接着性がかえって低下してしまう場合がある。なお、脂肪酸エステルオイルの付着量としては、20~2000mg/kgとすることで、大気中でのスチールフィラメント表面の酸化膜の生成をさらに10mg/kg程度低減することが可能となる。なお、伸線加工されたスチールフィラメントにオイルを塗布することにより、撚り線時のテンション変動の抑制を図ることができるので、スチールコード製造時の不良発生が低減でき、生産性をさらに向上させることができる。
本発明のスチールコードゴム複合体を製造するにあたって、スチールコードとゴムとを接着する前に、スチールコードに脂肪酸エステルオイルで処理を施すこと以外については特に制限はなく、従来の方法を採用することができる。
【0015】
[表面処理]
本発明に係るスチールコードは、三元系の合金メッキを施した後、さらに表面処理がなされていることが好ましい。
本発明に係る表面処理は、銅-亜鉛-コバルトの順でメッキされたスチールフィラメントの三元系の合金メッキ層の極表面のみをダイスによる伸線加工により強加工することである。この強加工により、三元系の合金メッキ層の極表面にコバルトリッチ領域が形成され、三元系の合金メッキ層の極表面が活性化されるので、スチールコードとゴム組成物との接着性がさらに向上する。ここで、極表面とは、固体表面の内、特に極薄い表面(0.5■10nm 以内を指す。
伸線加工で潤滑性を下げた場合、スチールフィラメント材とダイスとが直接あるいは不完全な被膜を介して接触すると、三元系の合金メッキ層の極表面が掻き乱されるため、結晶の微細化とともに、三元系の合金メッキ層中のコバルトの分布に変化が生じるためであると考えられる。その結果、三元系の合金メッキ層の表面にコバルトリッチ領域が形成される。
【0016】
上記の表面処理における伸線加工は、例えば、以下のようにして行う。
液体潤滑液を用いた湿式伸線によって潤滑性をある程度下げた状態での伸線加工を行うには、潤滑液中の潤滑成分の濃度を、通常の伸線に用いる時の濃度よりも下げて伸線加工を施したり、潤滑液の温度を潤滑剤の使用推奨温度よりも下げて伸線加工を施す。どの程度に潤滑性を下げた状態で伸線するかについては、製造するスチールフィラメントの強度や線径にもよるが、例えば、潤滑成分の濃度を下げる場合、スチールフィラメントの伸線作業で通常使用する潤滑液の濃度の80%~20%の濃度とすればよい。潤滑性を下げ過ぎると、三元系の合金メッキ層の脱落、スチールフィラメント質の劣化、あるいは、断線やダイス摩耗をもたらす。逆に、潤滑性の下げ方が足りないと、コバルトリッチ領域の割合が少なくなるので、ゴムとスチールコードとの接着性を十分に向上させることはできない。
【0017】
また、伸線加工中の発熱が大きすぎると、温度上昇による三元系の合金メッキ層の格子欠陥密度の減少の可能性や、スチールフィラメントの延性劣化の可能性があるので、例えば下記(1)~(5)のような、発熱が小さくなる伸線条件を設定し、ダイスからの出線温度を接触式温度計で測定したときに、150℃以下とすることが好ましい。
(1)1ダイス当たりの減面率を低めに設定する。
(2)伸線速度を低めに設定する。
(3)ダイスを冷却して温度上昇を抑制する。
(4)ダイスに入線するスチールフィラメント材および/またはダイスから出線するスールフィラメントを冷却する。
(5)複数のダイスを使用する連続伸線工程において、最下流に位置する3つのダイスのうち、1つ以上ダイスの摩擦係数を0.18以上とする。
【0018】
このとき、コバルトリッチ領域を形成するには、三元系の合金メッキ層の厚さは厚めにしたほうがよい。また、湿式連続伸線にて製造する場合には、仕上げダイス、または、仕上げダイスを含む伸線下流の数ダイスにおける伸線を、上記したような潤滑性をある程度下げた状態で行い、他のダイスでは良好な潤滑条件で行うようにすれば、内部が結晶質で表面にコバルトリッチ領域が形成された三元系の合金メッキ層を確実に製造することができる。この時、金属最表面に存在するリン元素(元素記号P)、換言すると、金属の表面から内側方向に5nmの深さまでの表層領域に存在するリン元素の量は、3.0アトミック%以下である。
【0019】
めっきの表層領域におけるリンの定量は、X線光電子分光法を用いて、スチールワイヤの曲率の影響を受けないように20~30μmφの分析面積にて、ワイヤのめっき表層領域に存在する原子から炭素を除いた原子、つまりFe、Cu、Zn、Co、O、P及びNの原子数を計測し、Cu、Zn、Co、O、P及びNの合計原子数を100としたときの、Pの原子数の比率を求めることができる。
各原子の原子数は、Fe:Fe2p3 O:O1s,P:P2p,Cu:Cu2p3,Zn:Zn2p3,Co:Co2p3及びN:N1sの光電子のカウント数を用いて、それぞれの感度係数で補正して求めることができる。
なお、リンの検出原子数[P]は下式にて求めることができる。
[P]=Fp(P2pの感度係数)×(一定時間当たりのP2p光電子のカウント)
他の原子についても同様に検出原子数を求め、それらの結果からリンの相対原子%を次式
P(%)={[P]/([Fe]+[Cu]+[Zn]+[Co]+[O]+[N]+[P])}×100
に従って求めることができる。
【0020】
[ゴム組成物]
本発明に係るゴム組成物は、ゴム成分と、充填材と、熱硬化性樹脂と、メチレン供与体と、チウラム系加硫促進剤と、スルフェンアミド系加硫促進剤とを含有し、コバルト化合物の含有量が0.01質量部以下であることを特徴とする。
本発明に係るゴム組成物は、コバルト化合物を実質的に含有しないことが好ましい。
本発明に係るゴム組成物に配合されるコバルト化合物を減量し、実質的に含有しないようにし、前記ゴム組成物にさらに熱硬化性樹脂と、メチレン供与体と、チウラム系加硫促進剤と、スルフェンアミド系加硫促進剤とを含有させることで、優れた弾性率、耐亀裂進展性を示すゴム組成物を得ることができる。すなわち、コバルト塩をゴム組成物から実質的に除外することで亀裂進展性をさらに向上させ、低下する接着性についてはコバルトをスチールコード表面に担持させ、好ましくはダイヤモンドダイスで伸展させることによる表面処理をした三元メッキにすることにより、同等又はそれ以上の接着性能(特に、湿熱劣化後の接着性能)を確保した。
これらの[ゴム組成物/表面処理後のスチールコード]の組み合わせにより、スチールコード-ゴム複合体の接着性、特に湿熱劣化後の接着性を改良すると共に、このスチールコード-ゴム複合体を用いた空気入りタイヤの耐亀裂進展性及び低燃費性を改良し、良好に両立させることができた。
【0021】
<ゴム成分>
本発明に係るゴム組成物に用いることのできるゴム成分としては、天然ゴム、エポキシ化天然ゴム、脱蛋白天然ゴム及びその他の変性天然ゴムの他、ポリイソプレンゴム(IR)、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、ポリブタジエンゴム(BR)、エチレン-ブタジエン共重合体ゴム(EBR)、プロピレン-ブタジエン共重合体ゴム(PBR)、アクリロニトリル・ブタジエン共重合体ゴム(NBR)、イソプレン・イソブチレン共重合体ゴム(IIR)、エチレン・プロピレン-ジエン共重合体ゴム(EPDM)、ハロゲン化ブチルゴム(HR)等の各種の合成ゴムが例示される。これらのなかでも、好ましくは、天然ゴム、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム、ポリブタジエンゴム等の高不飽和性ゴムが用いられ、特に好ましくは、天然ゴムが用いられる。また、天然ゴムとスチレン-ブタジエン共重合体ゴムの併用、天然ゴムとポリブタジエンゴムの併用等、数種のゴム成分を組み合わせることも有効である。
【0022】
天然ゴムの例としては、RSS#1、RSS#3、TSR20、SIR20等のグレードの天然ゴムを挙げることができる。エポキシ化天然ゴムとしては、エポキシ化度10~60モル%のものが好ましく、クンプーランガスリー社製ENR25やENR50が例示できる。脱蛋白天然ゴムとしては、総窒素含有率が0.3質量%以下である脱蛋白天然ゴムが好ましい。変性天然ゴムとしては、天然ゴムに、予め、4-ビニルピリジン、N,N-ジエチルアミノエチルアクリレート等のN,N-ジアルキルアミノエチルアクリレート、2-ヒドロキシアクリレート等を反応させた極性基を含有する変性天然ゴムが必要に応じ用いられる。
ゴム成分に占める天然ゴムの割合は、70質量%以上であることが好ましい。
【0023】
<熱硬化性樹脂>
本発明に係る熱硬化性樹脂は、特に制限されるものではないが、フェノールやレゾルシンを構成単位として含有している樹脂が好ましく、フェノール樹脂が特に好ましく用いられる。
本発明に係る熱硬化性樹脂の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、4質量部を超え、20質量部以下含有することが好ましく、4質量部を超え、18質量部以下含有することがより好ましく、4質量部を超え、16質量部以下含有することが更に好ましく、4質量部を超え、14質量部以下含有することが特に好ましい。
本発明に係る熱硬化性樹脂の含有量が、ゴム成分100質量部に対して4質量部を超えれば、十分な接着性(特に、湿熱劣化後の接着性)が得られる。
熱硬化性樹脂の配合量が、ゴム成分100質量部に対して、20質量部以下であれば、加硫中の接着反応が過剰に進むことがないので接着性(特に、湿熱劣化後の接着性)が低下することを防止できる。
本発明に係る熱硬化性樹脂の軟化点は、150℃以下であることが好ましく、80℃以上150℃以下の範囲であることがより好ましく、80℃以上140℃以下の範囲であることが更に好ましく、90℃以上140℃以下であることが、特に好ましい。
熱硬化性樹脂の軟化点が150℃より高いと、ゴム組成物中において、混練時にゴム組成物に配合した際に、分散性不良の問題が発生する結果、接着性が低下する等、スチールコードとの接着剤として不適となる場合がある。80℃より低いと保存中にブロッキングしてしまう場合がある。
【0024】
<メチレン供与体>
本発明に係るゴム組成物に配合可能なメチレン供与体としては、ヘキサメトキシメチルメラミン(HMMM)、変性エーテル化メチロールメラミン樹脂、ヘキサメチレンテトラミン(HMT)、ペンタキス(メトキシメチル)メチロールメラミン、テトラキス(メトキシメチル)ジメチロールメラミン等のゴム工業において通常使用されているものを挙げることができる。中でもヘキサメトキシメチルメラミン単独、変性エーテル化メチロールメラミン樹脂単独又はそれらを主成分とする混合物が好ましい。これらのメチレン供与体は、それぞれ単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができ、その配合量は前記ゴム成分100質量部に対し、0.5質量部以上10質量部以下が好ましく、1質量部以上10質量部以下がより好ましく、1質量部以上8質量部以下が更に好ましく、1質量部以上6質量部以下が特に好ましい。
0.5質量部以上であれば、熱硬化性樹脂を硬化させることができ、10質量部以下であれば、ゴム組成物の加硫速度が速過ぎるようになることを防ぐことができる。
【0025】
<コバルト化合物>
本発明に係るゴム組成物が実質的に含有しないコバルト化合物として、有機酸コバルト塩、コバルト金属錯体等が挙げられ、有機酸コバルト塩が好ましい。
本発明において、コバルト化合物を実質的に含有しないとは、ゴム成分100質量部に対して、コバルト化合物中のコバルト含有量が、0.01質量部以下であることをいう。0.005質量部以下が好ましく、0.002質量部以下がより好ましく、0.001質量部以下が更に好ましく、コバルトを含有しないことが特に好ましい。
有機酸コバルト塩としては、例えば、ナフテン酸コバルト、ステアリン酸コバルト、ネオデカン酸コバルト、ロジン酸コバルト、バーサチック酸コバルト、トール油酸コバルト、オレイン酸コバルト、リノール酸コバルト、リノレン酸コバルト、パルミチン酸コバルト等を挙げることができる。また、コバルト金属錯体としては、例えばコバルトアセチルアセトナートが挙げられる。
【0026】
<加硫促進剤>
本発明に係るゴム組成物が含有する加硫促進剤は、チウラム系加硫促進剤と、スルフェンアミド系加硫促進剤である。また、必要に応じ、他の加硫促進剤を含有させてもよい。
加硫促進剤の含有量は特に限定されるものではないが、ゴム成分100質量部に対して0.5質量部以上10質量部以下の範囲が好ましく、0.5質量部以上8質量部以下の範囲がより好ましく、0.5質量部以上7質量部以下の範囲が更に好ましく、0.5質量部以上6質量部以下の範囲が特に好ましい。
【0027】
<チウラム系加硫促進剤>
本発明に係るゴム組成物が含有するチウラム系加硫促進剤としては、テトラキス(2-エチルヘキシル)チウラムジスルフィド、、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド、、テトラベンジルチウラムジスルフィド等が挙げられる。
ここで、市販品としては、テトラキス(2-エチルヘキシル)チウラムジスルフィドとしては例えば、大内新興化学工業(株)製、商品名「ノクセラーTOT」、テトラエチルチウラムジスルフィドとしては例えば、大内新興化学工業(株)製、商品名「ノクセラーTET」、テトラメチルチウラムジスルフィドとしては例えば、大内新興化学工業(株)製、商品名「ノクセラーTT」、テトラブチルチウラムジスルフィドとしては例えば、大内新興化学工業(株)製、商品名「ノクセラーTBT」、テトラメチルチウラムモノスルフィドとしては例えば、大内新興化学工業(株)製、商品名「ノクセラーTS」、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィドとしては例えば、大内新興化学工業(株)製、商品名「ノクセラーTRA」、テトラベンジルチウラムジスルフィドとしては例えば、川口化学工業(株)製、商品名「アクセルTBZT」)等が挙げられる。
チウラム系加硫促進剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、0.1質量部以上、0.2質量部以上が好ましく、5質量部以下、3質量部以下、2質量部以下、1質量部以下、0.7質量部未満が好ましい。
【0028】
<スルフェンアミド系加硫促進剤>
本発明に係るゴム組成物が含有するチウラム系加硫促進剤としては、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)、N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(BBS)、N-オキシジエチレン-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド等が挙げられる。
ここで、市販品としては、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)としては例えば、大内新興化学工業(株)製、商品名「ノクセラーCZ」、N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(BBS)としては例えば、大内新興化学工業(株)製、商品名「ノクセラーNS」
N-オキシジエチレン-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミドとしては例えば、大内新興化学工業(株)製、商品名「ノクセラーMSA」あるいは川口化学工業(株)製、商品名「アクセルNS」等が挙げられる。
スルフェンアミド系加硫促進剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、ゴム成分100質量部に対して0.3質量部以上8質量部以下の範囲が好ましく、0.4質量部以上7質量部以下の範囲がより好ましく、0.4質量部以上6質量部以下の範囲が更に好ましく、0.4質量部以上5質量部以下の範囲が特に好ましい。
さらに、加硫促進剤N, N-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミドを0.1質量部以下含有することが好ましく、さらには含有しないことが好ましい。
質量比(スルフェンアミド系加硫促進剤/チウラム系加硫促進剤)が1より大きく10以下が好ましく、1.1~8がより好ましく、1.2~6が更に好ましく、1.2~5がより更に好ましい。
【0029】
本発明に係るゴム組成物中の質量比(チウラム系加硫促進剤/熱硬化性樹脂)が0.02以上0.12未満であることが好ましい。熱硬化性樹脂の硬化反応を促進させ、耐亀裂進展性を向上させることができるからである。この観点から、前記質量比が0.02以上であれば、熱硬化性樹脂の硬化反応が促進される酸性度となるため好ましく、前記質量比が0.12未満であれば、硫黄網目のモノスルフィド架橋が増えすぎないため好ましい。質量比(チウラム系加硫促進剤/熱硬化性樹脂)は、0.03以上0.10以下であることがより好ましく、0.05以上0.08以下であることが更に好ましい。
【0030】
本発明に係るゴム組成物は、スルフェンアミド系加硫促進剤として、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)を含有することが好ましい。
本発明において、加硫促進剤 N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)の含有量が、ゴム成分100質量部に対して、0.1質量部以上8.0質量部以下が好ましく、0.2質量部以上6.0質量部以下がより好ましく、0.3質量部以上5.0質量部以下が更に好ましく、0.4質量部以上4.0質量部以下が特に好ましい。
【0031】
<その他の加硫促進剤>
本発明に係るゴム組成物が含有する加硫促進剤には、必要に応じ、チウラム系加硫促進剤及びスルフェンアミド系加硫促進剤以外の他の加硫促進剤を含有させてもよい。
例えば、2-メルカプトベンゾチアゾール(MBT)、ジベンゾチアジルジスルフィド(MBTS)等のチアゾール系加硫促進剤、ジフェニルグアニジン(DPG)、1,3-ジ-o-トリルグアニジン(DOTG)、1-o-トリルビグアニド(OTBG)等のグアニジン系加硫促進剤、又はトリメチルチオ尿素(TMU)、N,N'-ジエチルチオ尿素(DEU)、N,N'-ジフェニルチオ尿素等のチオウレア系加硫促進剤等が挙げられる。
【0032】
<充填材>
本発明に係るゴム組成物には、必要に応じて、充填材を配合することができる。充填材としては、カーボンブラック及び無機充填材から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。本発明では、カーボンブラックは、無機充填材に含まれない。
本発明に係るゴム組成物において、充填材の含有量(すなわち、カーボンブラックと無機充填材との総量)は、ゴム成分100質量部に対して、10質量部以上100質量部以下使用することが好ましい。10質量部以上であれば、弾性率確保の観点から好ましく、100質量部以下であれば、低燃費性向上の観点から好ましい。上記観点から、カーボンブラックと無機充填材との総量は、より好ましくは、ゴム成分100質量部に対して、20質量部以上100質量部以下であり、更に好ましくは、ゴム成分100質量部に対して、20質量部以上80質量部以下であり、特に好ましくは、30質量部以上80質量部以下である。
【0033】
<カーボンブラック>
本発明に係るゴム組成物は、カーボンブラックを含有することにより、電気抵抗を下げて帯電を抑止する効果を享受できる。カーボンブラックとしては、例えば、高、中又は低ストラクチャーのSAF、ISAF、IISAF、N339、HAF、FEF、GPF、SRFグレードのカーボンブラック、特にSAF、ISAF、IISAF、N339、HAF、FEFグレードのカーボンブラックを用いることができる。
フタル酸ジブチル吸収量(DBP吸収量)の低い、すなわちストラクチャーの低いカーボンブラックを用いることにより、本発明に係るゴム組成物の低燃費性を向上させることができる。
この観点から、カーボンブラックの窒素吸着比表面積(NSA、JIS K 6217-2:2001に準拠して測定する)は、70m/g以上90m/g以下であることが好ましく、フタル酸ジブチル吸収量(DBP吸収量、JIS K 6217-4:2008に準拠して測定する)が50mL/100g以上110mL/100g以下である、HAF級のカーボンブラック(HAF、HAF-LS)が好ましい。
カーボンブラックは、上述したものから1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
カーボンブラックの含有量が、ゴム成分100質量部に対して、30質量部以上80質量部以下であることが好ましく、30質量部以上70質量部以下であることがより好ましく、35質量部以上60質量部以下であることが更に好ましく、35質量部以上45質量部以下であることが特に好ましい。カーボンブラックの含有量を減らすことにより、本発明に係るゴム組成物の低燃費性を向上させることができる。
【0034】
<無機充填材>
本発明に係るゴム組成物に、必要に応じて用いられる無機充填材として、シリカ、及びアルミニウム、マグネシウム、チタン、カルシウム及びジルコニウムから選ばれる少なくとも1つの金属、金属酸化物又は金属水酸化物が挙げられるが、補強性の高いシリカが好ましい。
本発明に係るゴム組成物は、シリカを含む無機充填材が配合される場合には、ゴム組成物の補強性及び低燃費性を更に向上させる目的で、シランカップリング剤を配合することができる。
【0035】
<その他の配合剤>
本発明に係るゴム組成物には、本発明の効果が損なわれない範囲で、所望により、通常ゴム工業界で用いられる各種薬品、例えば、加硫剤、加硫遅延剤、プロセスオイル、老化防止剤、酸化亜鉛、ステアリン酸等を配合できる。
【0036】
(加硫剤)
本発明に係るゴム組成物に配合可能な加硫剤としては、硫黄等が挙げられる。硫黄成分としては、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、及び高分散性硫黄等が挙げられる。通常は不溶性硫黄及び粉末硫黄が好ましい。
加硫剤の使用量は、ゴム成分100質量部に対し、硫黄分として1質量部以上12質量部以下が好ましく、1質量部以上10質量部以下がより好ましく、更に好ましくは1.0質量部以上8.0質量部以下である。1質量部未満では、加硫後のゴム組成物(以下、加硫ゴムと略称することがある。)の破壊強度、耐摩耗性、低燃費性が低下するおそれがあり、12質量部を超えるとゴム弾性が失われる原因となる。
【0037】
(老化防止剤)
本発明に係るゴム組成物に配合可能な老化防止剤としては、日本ゴム協会編「ゴム工業便覧<第四版>」の436~443頁に記載されるものが挙げられる。これらの中でも、例えば、3C(N-イソプロピル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン)、6C[N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン]、RD又は224(2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体)、AW(6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン)、ジフェニルアミンとアセトンの高温縮合物等を挙げることができる。
その使用量は、ゴム成分100質量部に対して、0.1~8.0質量部が好ましく、0.1~6.0質量部が更に好ましく、0.3~5.0質量部が特に好ましい。
【0038】
[ゴム組成物の調製]
本発明に係るゴム組成物は、上述した各種成分及び添加剤を、ロールなどの開放式混練機、バンバリーミキサーなどの密閉式混練機などの混練り機を用いて混練りすることによって得られる。
すなわち、本発明に係るゴム組成物は、混練の第一段階(マスターバッチ混練段階)で、ゴム成分と、充填材と、熱硬化性樹脂と、補強性樹脂と、他のマスターバッチ用配合剤とを混練した後、混練の最終段階で、加硫剤、加硫促進剤、メチレン供与体及び必要に応じその他の配合剤を混合することによって作製できる。
【0039】
[空気入りタイヤの作製]
本発明に係るゴム組成物を本発明に係るスチールコードに被覆してスチールコード-ゴム複合体が形成された後、タイヤ成形機上で通常の方法により貼り付け成形され、生タイヤが成形される。生タイヤを成形加工した後、この生タイヤを加硫機中で加熱加圧して、加硫を行って、本発明に係るスチールコード-ゴム複合体を具備したタイヤを作製することができる。本発明に係るスチールコード-ゴム複合体は、空気入りタイヤのベルト部材、大型空気入りタイヤのベルト部材、カーカス部材、ビード補強部材に好適に用いられる。
【実施例
【0040】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0041】
[スチールコードの製造]
(スチールコードA)
Cu63.0質量%、Zn37.0質量%、にて、Cu、Znの順に直径1.7mmのスチールワイヤにメッキを繰り返し、その後550℃において5秒間熱拡散処理を行い、所望する合金メッキを得た後、伸線加工を施し、メッキ平均厚み0.25μmの直径0.30mmのスチールワイヤを得た。得られた各スチールワイヤを用いて、1×3×0.30(mm)構造の撚りコードであるスチールコードAを作製した。
(スチールコードB)
Cu67.0質量%、Zn29.0質量%、Co4.0質量%にて、Cu、Zn、Coの順に直径1.7mmのスチールワイヤにメッキを繰り返し、その後550℃において5秒間熱拡散処理を行い、所望する三元系の合金メッキを得た後、伸線加工を施し、メッキ平均厚み0.25μmの直径0.30mmのスチールワイヤを得た。得られた各スチールワイヤを用いて、1×3×0.30(mm)構造の撚りコードであるスチールコードBを作製した。
(スチールコードC)
Cu67.0質量%、Zn29.0質量%、Co4.0質量%にて、Cu、Zn、Coの順に直径1.7mmのスチールワイヤにメッキを繰り返し、その後550℃において5秒間熱拡散処理を行い、所望する三元系の合金メッキを得た後、三元系の合金メッキ層の極表面のみをダイヤモンドダイスによる伸線加工により強加工(表面処理)をした。メッキ平均厚み0.25μmの直径0.30mmのスチールワイヤを得た。
得られた各スチールワイヤを用いて、1×3×0.30(mm)構造の撚りコードであるスチールコードCを作製した。
【0042】
実施例1~5及び比較例1~5
下記表1及び表2に示す配合処方に従い、まず、バンバリーミキサーで天然ゴム、カーボンブラックA、フェノール樹脂、老化防止剤6C及びステアリン酸を混練し、160℃に達した時点で排出した。次いで、得られた混合物に、フェノール樹脂を混練し、140℃に達した時点で排出した。さらに、60℃に保温した関西ロール製6インチオープンロールによりメチレン供与体、酸化亜鉛、硫黄及び加硫促進剤を添加混合して、スチールコード被覆用のゴム組成物を調製した。但し、比較例1においては、ステアリン酸を配合せず、有機酸コバルト塩を配合した。また、比較例2及び3においては、フェノール樹脂及びメチレン供与体を配合しなかった。表1及び表2の配合処方中の数値の単位は質量部を表す。
次いで、得られた実施例1~4及び比較例1~3の7種類のゴム組成物を160℃で20分間加硫し、7種類の厚さ2mmの加硫ゴムシートを作製し、各加硫ゴムの劣化後の耐亀裂進展性を評価した。結果を第1表に示す。
劣化の条件は、100℃のオーブンにて24時間放置であった。
スチールコード-ゴム複合体は、表1及び表2のように、以下のように作製する。
実施例1~2、4及び比較例3、5のゴム組成物をスチールコードBと組み合わせ、実施例1~2、4及び比較例3、5のスチールコード-ゴム複合体とする。
また、実施例3、5及び比較例2のゴム組成物をスチールコードCと組み合わせ、実施例3、5及び比較例2のスチールコード-ゴム複合体とする。
さらに、比較例1及び4のゴム組成物をスチールコードAと組み合わせ、比較例1及び4のスチールコード-ゴム複合体とする。
実施例1、3、5及び比較例4、5のスチールコード-ゴム複合体を160℃で20分間加硫し、下記の湿熱劣化後の接着性を評価した。結果を表2に示す。
次に、表1に示すように実施例1~4及び比較例1~3のゴム組成物をスチールコードA、B又はCと組み合わせて、スチールコード-ゴム複合体(スチールコード被覆用のゴム組成物の厚さ1mm)を作製し、2枚の交錯層ベルトとし、7種類の乗用車用空気入りタイヤ(タイヤサイズ195/65R15)を作製する。
【0043】
[スチールコード-ゴム複合体及び加硫後のゴム組成物並びに空気入りタイヤの評価方法]
(a)湿熱劣化後の接着性
スチールコードを、12.5mm間隔で平行に並べ、該スチールコードを上下からゴム組成物で被覆し、160℃で20分間加硫して、ゴム組成物とスチールコードとを接着させた。このようにして、厚さ1mmのゴムシートの間にスチールコードが埋設されたスチールコード-ゴム複合体を得た(スチールコードは、ゴムシートの厚さ中央方向に、シート表面に平行に、12.5mm間隔で並んでいる)。このスチールコード-ゴム複合体を75℃、相対湿度95%雰囲気下で10日間劣化させた後、ASTM D 2229-2004に準拠して、各サンプルからスチールコードを引き抜き、スチールコードに付着しているゴムの被覆率を目視観察にて0~100%で決定し、温熱劣化性の指標とした。結果は、実施例3を100とする指数で表示した。指数値が大きい程、湿熱接着性に優れていることを示す。すなわち、耐温熱劣化性に優れていることを示す。
湿熱劣化後の接着性指数={(供試試料のスチールコードに付着しているゴムの被覆率)/(実施例3の試料のスチールコードに付着しているゴムの被覆率)}×100
【0044】
(b)耐亀裂進展性
上記未加硫試料を160℃で20分間加硫して、厚さ2mmの加硫ゴムサンプルを作製し、上記の劣化後、上島製作所製疲労試験機FT―3100を用いて前記試料の定応力疲労試験を行い、破断するまでの回数を測定した。結果は、比較例2を100とする指数で表示した。指数値が大きい程、劣化後の耐亀裂進展性に優れることを示す。
劣化後耐亀裂進展性指数={(供試試料が切断するまでの回数)/(比較例2の試料が切断するまでの回数)}×100
【0045】
(c)低燃費性
(i) タイヤによる評価
実施例1、3及び比較例1、2について、日本自動車タイヤ協会(JATMA)規定による室内転がり抵抗試験に準拠して行ない、転がり抵抗を測定する。比較例2のタイヤの転がり抵抗を100として、指数表示した。数値が小さい程、転がり抵抗が低く、低燃費性であることを示す。
低燃費性指数={(供試タイヤのタイヤの転がり抵抗値)/(比較例2のタイヤの転がり抵抗値)}×100
(ii) 加硫ゴムによる評価
実施例2、4比較例3については、比較例2の加硫ゴムを株式会社上島製作所製スペクトロメーターを用いて、初期荷重600μm、歪1%、周波数52Hzの条件下で、25℃におけるtanδ(損失正接)を測定し、指数100とした際の加硫ゴム評価結果を指数表示したものである。数値が小さい程、転がり抵抗が低く、低燃費性であることを示す。
低燃費性指数={(供試資料のtanδ)/(比較例2のtanδ)}×100
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
表1及び表2に記載した*1~*11を下記する。
(注)
*1:天然ゴム:SMR-CV60、
*2:カーボンブラックA:HAF級カーボンブラック(HAF-LS)、旭カーボン(株)製 商品名「旭#70L」、DBP吸収量:75cm/100g、窒素吸着比表面積:84m/g
*3:フェノール樹脂:熱硬化性樹脂:住友ベークライト(株)製 商品名「スミライトレジン PR-50235」(軟化点:121℃)
*4:有機酸コバルト塩:OMG社製 「マノボンドC」(有機酸コバルト塩中の有機酸の一部をホウ酸で置き換えた複合塩、コバルト含有量:22.0質量%)
*5:ステアリン酸:新日本理化(株)製、商品名「ステアリン酸C1870」
*6:老化防止剤6C:N-フェニル-N'-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミン:大内新興化学工業(株)製、商品名「ノクラック6C」
*7:メチレン供与体:ヘキサメトキシメチルメラミン(HMMM):ALLNEX社製商品名「CYREZ 964LF」
*8:加硫促進剤DCBS:N,N-ジシクロヘキシル-2-べンゾチアゾリルスルフェンアミド大内新興化学工業株式会社製、商品名「ノクセラーDZ」
*9:加硫促進剤CBS:N-シクロヘキシル-2-べンゾチアゾリルスルフェンアミド、大内新興化学工業(株)製、商品名「ノクセラーCZ」
*10:チウラム系加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製、商品名「ノクセラーTOT」
*11:酸化亜鉛:正同化学工業(株)製、商品名「酸化亜鉛2種」
*12:硫黄:不溶性硫黄:フレキシス社製、商品名「クリステックスHS OT-20」、
【0049】
表1から明らかなように、実施例1~3の本発明に係るゴム組成物は、比較例1~3のゴム組成物と比較して、耐亀裂進展性が良好である。
また、実施例1~4のスチールコード-ゴム複合体は、比較例1~3のスチールコード-ゴム複合体と比較して、低燃費性も同等以上である。
なお、実施例4の本発明に係るゴム組成物は、比較例3のゴム組成物と比較して、耐亀裂進展性が同等以上であり、低燃費性がより良好である。
比較例1では、耐亀裂進展性は良好であったが、低燃費性は非常に劣悪であり、両方の特性に両立とは程遠いものである。
以上より、本発明に係るゴム組成物は、耐亀裂進展性は基準の比較例2と同等のまま維持しつつ、低燃費性を向上することが可能である。
次に、表2から明らかなように、実施例1、3、5の本発明のスチールコード-ゴム複合体は、いずれも比較例4~5のスチールコード-ゴム複合体と比較して湿熱劣化後の接着性が良好である。
本発明に係るゴム組成物は、ゴム成分100質量部に対してコバルト化合物の含有量が0.01質量部以下であることにより、環境負荷低減に寄与することとなった。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明のスチールコード-ゴム複合体は、乗用車用ラジアルタイヤ、トラック及びバス用タイヤ等の各種タイヤのベルトやカーカスの補強材として好適である。また、ホース、コンベヤベルト、クローラ(特に、ゴムクローラ)、ラバーダム等のタイヤ以外のゴム物品の補強材としても好適である。