(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-29
(45)【発行日】2023-10-10
(54)【発明の名称】粉末油脂組成物
(51)【国際特許分類】
A23D 7/01 20060101AFI20231002BHJP
A23D 7/00 20060101ALI20231002BHJP
【FI】
A23D7/01
A23D7/00 506
A23D7/00 508
(21)【出願番号】P 2022032495
(22)【出願日】2022-03-03
(62)【分割の表示】P 2018529388の分割
【原出願日】2017-05-26
【審査請求日】2022-03-03
(31)【優先権主張番号】P 2016147168
(32)【優先日】2016-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】302042678
【氏名又は名称】株式会社J-オイルミルズ
(74)【代理人】
【識別番号】100106448
【氏名又は名称】中嶋 伸介
(72)【発明者】
【氏名】▲徳▼地 隆宏
(72)【発明者】
【氏名】辻 美咲
(72)【発明者】
【氏名】井上 雅博
【審査官】関根 崇
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-034271(JP,A)
【文献】特開平05-030906(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2011-0127983(KR,A)
【文献】特開昭63-309141(JP,A)
【文献】特開昭64-063332(JP,A)
【文献】特開2015-216887(JP,A)
【文献】特表2000-516096(JP,A)
【文献】特開2017-158499(JP,A)
【文献】特開2002-199851(JP,A)
【文献】国際公開第2014/077105(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D
A21D
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点30℃以上の油脂、ジアセチル酒石酸モノグリセリド、及び賦形剤を含む粉末油脂組成物
(ただし、カゼインNaを含まない)であって、前記ジアセチル酒石酸モノグリセリドの含有量は、前記油脂100質量部に対して、4~20質量部であり、
前記粉末油脂組成物の下記式:
【数4】
で表される脂肪球径分布が、0.3~3μmである、前記粉末油脂組成物。
【請求項2】
前記粉末油脂組成物の50%脂肪球径が、
0.46~2μmである、請求項1に記載の粉末油脂組成物。
【請求項3】
前記油脂の含有量は、粉末油脂組成物に対して、5~80質量%である、請求項1又は2に記載の粉末油脂組成物。
【請求項4】
前記ジアセチル酒石酸モノグリセリドの含有量は、前記油脂100質量部に対して、6~15質量部である、請求項1~3のいずれか1項に記載の粉末油脂組成物。
【請求項5】
前記油脂は、水素添加油脂、パーム油、パームステアリン、パーム中融点部及びそれらをエステル交換した油脂からなる群から選ばれる少なくとも一種の油脂を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の粉末油脂組成物。
【請求項6】
前記賦形剤は、コーンシロップ、デキストリン、グルコース、異性化糖及び粉あめからなる群から選ばれる少なくとも一種である、請求項1~5のいずれか1項に記載の粉末油脂組成物。
【請求項7】
粉末油脂組成物
(ただし、カゼインNaを含まない)の製造方法であって、
(1)融点30℃以上の油脂、ジアセチル酒石酸モノグリセリド、及び賦形剤を水に添加して原料混合物を得る工程、
(2)前記原料混合物を乳化させてエマルジョンを得る工程、及び
(3)前記エマルジョンを粉末乾燥する工程
を含み、
前記ジアセチル酒石酸モノグリセリドの含有量は、前記油脂100質量部に対して、4~20質量部であり、そして
前記粉末油脂組成物の下記式:
【数5】
で表される脂肪球径分布が、0.3~3μmである、前記粉末油脂組成物の製造方法。
【請求項8】
前記粉末油脂組成物の50%脂肪球径が、
0.46~2μmである、請求項7に記載の粉末油脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末油脂組成物及びその製造方法に関し、より詳細には冷水分散性と加湿耐性に優れる粉末油脂組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コーヒー・紅茶用クリーム、菓子、スープ、調味料等の加工素材として、油性成分を水溶性成分で被覆した粉末油脂が広く用いられている。粉末油脂は、乳化剤や賦形剤と混合された食用油脂のエマルジョンを乾燥することにより製造される。上記エマルジョンを作製するための乳化剤は、従来、乳タンパク質の一種であるカゼインが用いられてきた。特許文献1には、pHが7以下のカゼイン酸ナトリウム水溶液に、食用油脂とジアセチル酒石酸エステルモノグリセリドとを添加し、攪拌乳化して食用油脂のO/W型エマルジョンを得、次いでこのO/W型エマルジョンを粉末化することを特徴とする粉末油脂の製造方法が開示されている。この製造方法によれば、製造途中のエマルジョンの安定化を図るとともに、粉末化の際の熱による色焼けや分解による異臭等の問題が解決される。
【0003】
カゼインのような乳タンパク質を含まない粉末油脂もまた開発されている。特許文献2には、油脂、水、ジアセチル酒石酸モノグリセリド、塩基及び/又は塩を含有し、pHが2.0~12.0であるO/W型乳化脂を粉末化してなることを特徴とする粉末油脂が記載されている。この粉末油脂は、長期間の保管でもブロッキング現象を起こさないため、取り扱い易く、製パンに使用したときの品質のバラツキを抑えることができる。特許文献3には、中鎖飽和脂肪酸トリグリセリド及び/又はこれらの中鎖飽和脂肪酸トリグリセリドを主成分とした食用油脂と、澱粉加水分解物及び有機酸モノグリセリドを主成分としてなる粉末油脂組成物が記載されている。この粉末油脂組成物は、高カロリー、低蛋白質及び低ミネラルであり、分散性にも優れている。特許文献4は、(A)食用油脂と、(B)オクテニルコハク酸エステル化澱粉と、(C)トレハロースとを主成分として含有することを特徴とする無タンパク粉末油脂組成物を提案する。この組成物は、タンパク質や有機酸モノグリセリド等の乳化剤を添加せずに、栄養成分的に高カロリーな加工食品用素材を提供可能である。特許文献5は、油性成分、アラビアガム及び糖類を含み、油性成分とアラビアガムとの重量比が2:1~1:5、かつアラビアガムと糖類との重量比が5:1~1:100であることを特徴とする粉末油脂組成物を提案する。この粉末油脂組成物は、タンパク質を含まず、油性成分の滲み出しがなく、そして水への溶解性が良好である。
【0004】
従来の粉末油脂は、温水や熱湯には急速に溶解するものの、水道水や氷入り飲料のような常温水や冷水には、分散し難く、また、溶け難いという問題点もあった。そこで、低温の水に対する分散性も優れる粉末油脂が提案されている。例えば特許文献6には、顆粒化したクリーマー粒子の形状の粉末クリーマーであって、該クリーマー粒子がそれぞれ甘味料、水分散性又は水溶性タンパク質及び淡泊なフレーバーと10℃未満の溶融点とを有する食用油、スクシニル化されたモノグリセリド又は蒸留されたモノグリセリドとモノジグリセリドのジアセチル酒石酸エステルとの混合物から選択される乳化剤を含有する前記粉末クリーマーが記載されている。この粉末クリーマーは、冷水可溶性を示す。
【0005】
上記用途の粉末油脂には、梅雨時のような多湿条件下で長期間保存されても、粉末油脂の状態を保持することが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平05-030906(粉末油脂の製造方法)
【文献】特開昭63-309141(粉末油脂)
【文献】特開平6-33087(粉末油脂組成物)
【文献】特開平11-318332(無タンパク粉末油脂組成物)
【文献】特開2000-119688(粉末油脂組成物及びその製造方法)
【文献】特表2000-516096(冷水可溶性クリーマー)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、乳化剤としてカゼインのような乳タンパク質を使用しなくてもよく、そして、冷水分散性及び加湿耐性に優れた粉末油脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記課題を鋭意検討した結果、特定の油脂と乳化剤を含む粉末油脂組成物によれば、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、融点30℃以上の油脂、ジアセチル酒石酸モノグリセリド、及び賦形剤を含む粉末油脂組成物であって、前記ジアセチル酒石酸モノグリセリドの含有量は、前記油脂100質量部に対して、4~20質量部である、前記粉末油脂組成物を提供する。
【0009】
前記油脂の含有量は、粉末油脂組成物に対して、5~80質量%であることが好ましい。
【0010】
前記ジアセチル酒石酸モノグリセリドの含有量は、前記油脂100質量部に対して、6~15質量部であることが好ましい。
【0011】
前記粉末油脂組成物の50%脂肪球径は、好ましくは0.05~3μmである。
【0012】
前記粉末油脂組成物の下記式:
【数1】
で表される脂肪球径分布は、好ましくは0.3~6μmである。
【0013】
前記油脂は、水素添加油脂、パーム油、パームステアリン、パーム中融点部及びそれらをエステル交換した油脂からなる群から選ばれる少なくとも一種の油脂を含むことが好ましい。
【0014】
前記賦形剤は、好ましくはコーンシロップ、デキストリン、グルコース、異性化糖及び粉あめからなる群から選ばれる少なくとも一種である。
【0015】
本発明はまた、粉末油脂組成物の製造方法であって、
(1)融点30℃以上の油脂、ジアセチル酒石酸モノグリセリド、及び賦形剤を水に添加して原料混合物を得る工程、
(2)前記原料混合物を乳化させてエマルジョンを得る工程、及び
(3)前記エマルジョンを粉末乾燥する工程
を含む、前記粉末油脂組成物の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の粉末油脂組成物は、カゼインのような乳タンパク質を使用しなくてもよく、しかも、冷水分散性及び加湿耐性に優れる。この粉末油脂組成物は、コーヒー・紅茶用のクリーミングパウダー、菓子、スープ、調味料等の加工素材に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。本発明の粉末油脂組成物に用いられる油脂は、融点が30℃以上、好ましくは33~70℃、より好ましくは33~60℃、さらに好ましくは35~58、特に好ましくは35~50℃の食用油脂である。油脂の融点を30℃以上とすることで、粉末油脂組成物の製造時の乳化安定性が良好となり、また、粉末油脂組成物の加湿耐性が向上する。なお、融点とは、「基準油脂分析試験法 2.2.4.2 融点(上昇融点)」に準じて測定した値を意味する。
【0018】
このような油脂の例には、食用油脂に水素添加した油脂(以下、水素添加油脂という)、パーム油、パームステアリン、パーム中融点部、豚脂、牛脂等を挙げることができる。これらの油脂にさらにエステル交換、分別等の加工を行ってもよい。また、融点30℃以上の上記油脂を融点30℃未満の油脂と混合して、融点30℃以上の油脂を得てもよい。好ましくは、前記油脂は、水素添加油脂、パーム油、パームステアリン、パーム中融点部、及びそれらをエステル交換した油脂からなる群から選ばれる少なくとも一種の油脂を含み、より好ましくは水素添加パーム核油、パーム油、パームステアリン及びパーム中融点部からなる群から選ばれる少なくとも一種の油脂を含み、さらに好ましくはパーム核極度硬化油及びパームステアリンからなる群から選ばれる少なくとも一種の油脂を含み、特に好ましくはパーム核極度硬化油である。前記油脂は、一種単独でも、二種以上の併用であってもよい。
【0019】
本発明の粉末油脂組成物中の油脂の含有量(含油分)は、粉末油脂組成物に対して、通常、5~80質量%でよく、好ましくは10~60質量%であり、より好ましくは15~60質量%であり、特に好ましくは25~60質量%である。所定の含油分とすることで、油脂が持つコクや風味を有し、加湿耐性に優れた粉末油脂組成物を得ることができる。
【0020】
本発明の粉末油脂組成物は、乳化剤の一種であるジアセチル酒石酸モノグリセリドを含む。後述の比較例1~3に示されるように、ジアセチル酒石酸モノグリセリドを他の乳化剤に代えると、冷水分散性と加湿耐性が同時に良好となる粉末油脂組成物は得られない。したがって、本発明の粉末油脂組成物は、ジアセチル酒石酸モノグリセリドを必須の成分とする。
【0021】
ジアセチル酒石酸モノグリセリドのHLBは、通常、8~10であり、好ましくは9.2~9.8であり、より好ましくは9.5である。HLBは、Hydrophile-Lipophile Balance(親水性親油性バランス)を意味する。
【0022】
前記ジアセチル酒石酸モノグリセリドの酸価は、90~120が好ましく、95~105がより好ましい。なお、酸価とは、「基準油脂分析試験法 2.3.1 酸価」に準じて測定した値を意味する。
【0023】
前記ジアセチル酒石酸モノグリセリドのけん化価は、400~600が好ましく、450~550がより好ましい。なお、けん化価とは、「基準油脂分析試験法 2.3.2 けん化価」に準じて測定した値を意味する。
【0024】
ジアセチル酒石酸モノグリセリドは、市販のものでよく、例えば製品名ポエムW-60(理研ビタミン株式会社製)が挙げられる。
【0025】
本発明の粉末油脂組成物中のジアセチル酒石酸モノグリセリドの含有量は、前記油脂100質量部に対して、4~20質量部であり、好ましくは5~18質量部、より好ましくは6~15質量部であり、さらに好ましくは6~11質量部である。
【0026】
本発明の粉末油脂組成物に含まれる賦形剤は、主として油性成分を被覆することにより、粉末油脂組成物を形成し、そして油性成分の滲み出しを防止するために用いられる。賦形剤の例には、デンプン糖、水あめ、異性化糖、粉あめ、コーンシロップ、蔗糖(スクロース)、ブドウ糖(グルコース)、麦芽糖(マルトース)、乳糖(ラクトース)、果糖(フルクトース)、ガラクトース、トレハロース、デキストリン、アルギン酸ナトリウム、カラギーナン等の糖類;エリスリトール、ソルビトール、マンニトール、マルチトール、ラクチトール、パラチニット、還元水飴等の糖アルコール;小麦粉;馬鈴薯デンプン、コーンスターチ、小麦粉デンプン等のデンプン類;ゼラチン;キサンタンガム、グァーガム、アラビアガム、トラガントガム等のガム質等が挙げられる。これらの賦形剤は、一種単独でも、二種以上の併用でもよい。
【0027】
前記賦形剤は、好ましくは糖類であり、より好ましくはコーンシロップ、デキストリン、グルコース、異性化糖及び粉あめから選ばれる一種以上であり、さらに好ましくはコーンシロップである。前記糖類の平均分子量は、好ましくは400~20,000であり、より好ましくは400~4,100である。また、糖類のデキストロース当量(DE)は、好ましくは10以上50以下であり、より好ましくは10以上40以下であり、さらに好ましくは10以上35以下である。
【0028】
本発明の粉末油脂組成物中の賦形剤の含有量は、通常、16.8~94.8質量%でよく、好ましくは20~90質量%であり、より好ましくは30~85質量%であり、さらに好ましくは40~70質量%である。賦形剤を所定量配合することで、冷水分散性が良く、そして保存安定性の良い粉末油脂組成物を得ることができる。
【0029】
本発明の粉末油脂組成物は、本発明の効果を阻害しない限り、粉末油脂組成物に汎用される助剤を添加してもよい。そのような助剤の例として、ジアセチル酒石酸モノグリセリド以外の乳化剤;リン酸水素2カリウム、硫酸2カリウム、クエン酸ナトリウム等のpH調整剤;トコフェロール等の抗酸化剤;上記賦形剤以外の甘味料;安定剤;香料;着色剤;炭酸カルシウム、二酸化チタン等が挙げられる。
【0030】
ジアセチル酒石酸モノグリセリド以外の乳化剤としては、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリソルベート、ショ糖脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、ソルビタン脂肪酸エステル、モノグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、レシチン及び酵素分解レシチンが含まれる。これらの乳化剤の構成脂肪酸の例には、ラウリン酸(C12)、ミリスチン酸(C14)、パルミチン酸(C16)、ステアリン酸(C18)、オレイン酸(C18)、ベヘニン酸(C22)、エルカ酸(C22)等が挙げられる。
【0031】
ジアセチル酒石酸モノグリセリド以外の乳化剤は、一種単独でも、二種以上併用してもよい。ジアセチル酒石酸モノグリセリド以外の乳化剤は、水分散時の油浮きを防ぐ、粉末油脂組成物の脂肪球径を適度な大きさとする、冷水分散性や白度を向上させる等に役立つ。
【0032】
前記粉末油脂組成物の50%脂肪球径は、通常、0.05~3μmでよく、好ましくは0.05~2μmであり、より好ましくは0.1~2μmであり、特に好ましくは0.5~1.5μmである。50%脂肪球径を所定の範囲とすることで、冷水分散性の良好な粉末油脂組成物とすることができる。
【0033】
前記粉末油脂組成物の下記式:
【数2】
で表される脂肪球径分布が、通常、0.3~6μmであり、好ましくは0.3~3μmであり、特に好ましくは0.4~2.5μmである。分布が所定の範囲であると冷水分散性が良好であり、また、保存性の良好な粉末油脂組成物を得ることができる。
【0034】
本発明の粉末油脂組成物は、例えば、以下の工程:
(1)油脂、ジアセチル酒石酸モノグリセリド、及び賦形剤に水を添加して原料混合物を得る工程、
(2)前記原料混合物を乳化させてエマルジョンを得る工程、及び
(3)前記エマルジョンを粉末乾燥する工程
に従って、製造することができる。
【0035】
前記工程(1)において、添加する水の量は、油脂、ジアセチル酒石酸モノグリセリド及び賦形剤の合計100質量部に対して、通常、30~200質量部でよく、好ましくは30~150質量部である。
【0036】
(1)の工程は、
(1)-1 ジアセチル酒石酸モノグリセリド及び前記賦形剤を水と混合して水系混合物を得る工程、及び
(1)-2 上記水系混合物及び前記油脂を混合して原料混合物を得る工程
を含むと、作業性の点で好ましい。
【0037】
また、複数の乳化剤を使用する場合には、
(1)-1 HLBが7以上の乳化剤(ジアセチル酒石酸モノグリセリドを含む)及び前記賦形剤を水と混合して水系混合物を得る工程、
(1)-2 HLBが7未満の乳化剤を前記油脂と混合して油系混合物を得る工程、及び、
(1)-3 上記水系混合物及び油系混合物を混合して原料混合物を得る工程
を含むと、作業性の点で好ましい。
【0038】
(2)の工程は、汎用の方法でよく、例えばホモジナイザー、ホモミキサー、高圧乳化機、高圧均質機、コロイドミル、カッターミキサー等で乳化処理される。
【0039】
(3)の工程は、汎用の方法でよく、例えば真空乾燥、真空凍結乾燥、真空ベルト乾燥、真空ドラム乾燥、スプレードライヤーを用いた噴霧乾燥等を用いることができる。
【0040】
本発明の粉末油脂組成物は、コーヒー、紅茶、チョコレート飲料、ミルクセーキ等に使われるインスタントクリーミングパウダー;粉末ホイップクリーム、粉末スープ等の粉末食品の成分;菓子、パン、麺、畜肉加工品等の食品用加工素材等に用いることができる。
【実施例】
【0041】
以下に、本発明の実施例及び比較例を記載することにより、本発明をより詳細に説明する。しかし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
<粉末油脂組成物調製用原料>
粉末油脂組成物の調製に使用する原料として以下を用意した。
パーム核極硬油:パーム核極度硬化油(株式会社J-オイルミルズ社製)
パームステアリン(ヨウ素価 30、株式会社J-オイルミルズ社製)
パームオレイン(ヨウ素価 56、株式会社J-オイルミルズ社製)
菜種油(株式会社J-オイルミルズ社製)
中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT):ココナードMT(株式会社花王社製)
カゼインNa:Lactic Casein(Westland Co-operative Dairy Company Ltd製)を水酸化ナトリウムで中和したもの
ショ糖脂肪酸エステル:DKエステルF-160(モノエステル:ジ・トリ・ポリエステル=70:30、HLB15、第一工業製薬株式会社製)
ソルビタン脂肪酸エステル:エマゾールP-10V(ソルビタンモノパルミテート、HLB6.7、株式会社花王社製)
有機酸モノグリセリド:サンソフトNo.681NU(コハク酸モノステアリン酸グリセリン、HLB8.5、太陽化学株式会社製)
ジアセチル酒石酸モノグリセリド:ポエムW-60(HLB9.5、酸価104、けん化価500、理研ビタミン株式会社製)
コーンシロップ(賦形剤):フジシラップC-75S(平均分子量700、デキストロース当量(DE)28、水分25%、加藤化学株式会社製)
【0042】
<粉末油脂組成物の調製方法>
粉末油脂組成物を以下の手順で調製した。まず、表1に示す油脂及び乳化剤、コーンシロップ(賦形剤(固形分))、及びリン酸水素2カリウム(pH調整剤)を、水100質量部(コーンシロップに含有する水を含む)に対して100質量部となるように添加して混合し、原料混合物を得た。油脂及び乳化剤の配合割合は表1に示す。pH調整剤の配合割合は、ジアセチル酒石酸モノグリセリド1質量部に対して0.8質量部となるように調製した。100質量部から油脂、乳化剤及びpH調整剤を引いた残部を賦形剤の配合割合とした。次に、上記原料混合物を、高圧乳化機(LAB-2000、SPXフローテクノロジー社製)にて500barで処理することにより、O/W型エマルジョンを得た。得られたエマルジョンをスプレードライヤー(製品名:B-290、日本ビュッヒ社製、INLET175℃、ポンプ出力50%、噴霧空気流量600L/時間)を用いて乾燥粉末化することにより粉末油脂組成物を得た。
【0043】
【0044】
<脂肪球径の測定>
レーザ回折式粒度分布測定装置(製品名:SALD-2200、株式会社島津製作所社製)を用いて、以下の条件:
屈折率: 1.60-0.5i
分散媒: 水
ポンプスピード: 8
で、粉末油脂組成物の脂肪球径(10%脂肪球径、90%脂肪球径、及び50%脂肪球径)を測定した。さらに、90%脂肪球径及び10%脂肪球径から脂肪球径分布(90%脂肪球径-10%脂肪球径)を算出した。結果を表2に示す。なお、10%脂肪球径、90%脂肪球径、及び50%脂肪球径は、横軸に粒子径、縦軸に積算%とした分布曲線において、それぞれ、10%の横軸と交差する粒子径、90%の横軸と交差する粒子径、及び50%の横軸と交差する粒子径を意味する。
【0045】
<冷水分散性の評価>
上記粉末油脂組成物の冷水(5℃)への分散率(%)を、以下の手順で測定した。まず、粉末油脂組成物5gを5℃の水50gの入った200mLビーカーに加えて、温調付マグネティックスターラー(製品名:クールスターラーCPS-300、株式会社サイニクス社製)を用いて、設定温度1.5℃及び撹拌速度600rpmの条件で30秒間撹拌した。撹拌後直ちに、φ75mmのステンレス製ふるい3段(目開き250μm、125μm及び75μm)に通して、ろ過した。得られたろ液のBrixを、糖度計(製品名:POCKET REFRACTOMETER ModeS、株式会社アタゴ社製)を用いて3回測定した。この操作を、3回繰り返し、それらの平均値を分析値とした。
【0046】
冷水分散率を、以下の式:
【数3】
により求めた。結果を表2に示す。
【0047】
<加湿耐性の測定>
上記粉末油脂組成物を以下の加湿耐性の試験に供した。粉末油脂組成物4gを口径50mmのガラスシャーレに量り取り、恒温恒湿槽(KCL-2000、東京理化器械株式会社製)内で静置した。その際の条件は槽内温度25℃、相対湿度45%とした。66時間静置後に取り出し、状態を確認し、以下の評価基準で評価した。
評価基準
◎:粉末状を保持する
○:総じて粉末状であるが、塊がわずかにある
△:塊が散見される
×:固着して、塊状となっている
【0048】
【0049】
融点30℃以上の油脂を用いるがジアセチル酒石酸モノグリセリドを用いない比較例1及び2では、25℃×湿度45%×66時間の条件において、吸湿傾向は見られず、粉末状を保ったものの、冷水分散率が低かった。比較例2にさらにHLBがジアセチル酒石酸モノグリセリドに近いサンソフトN0.681NUを追加したところ、冷水分散率が若干向上したものの、加湿耐性が悪化した。また、ジアセチル酒石酸モノグリセリドを用いるが、融点30℃以上の油脂を用いない比較例4~6では、冷水分散率が高かったものの、固着して塊になり、加湿耐性が劣った。また、ジアセチル酒石酸モノグリセリドが対油2.0%である比較例7では、加湿耐性は優れるものの、冷水分散率が低かった。
【0050】
一方、融点30℃以上の油脂及びジアセチル酒石酸モノグリセリドを用いる実施例1~4は、粉末状を保ち、しかも冷水分散率が高かった。より詳細には、実施例1、2及び4は、塊が見られるが数は少なく、触ると崩れる程度であり、総じて粉末状を保っていた。実施例3では、塊が見られず、さらさらな粉末状を保っていた。