(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-29
(45)【発行日】2023-10-10
(54)【発明の名称】種籾の殺菌・感染防止方法
(51)【国際特許分類】
A01C 1/08 20060101AFI20231002BHJP
【FI】
A01C1/08
(21)【出願番号】P 2022071602
(22)【出願日】2022-04-25
(62)【分割の表示】P 2017192963の分割
【原出願日】2017-10-02
【審査請求日】2022-04-25
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ▲1▼平成29年4月12日 日本植物病理学会発行の平成29年度日本植物病理学会大会プログラム・講演要旨予稿集に発表 ▲2▼平成29年4月27日 日本植物病理学会主催の平成29年度日本植物病理学会大会において発表
(73)【特許権者】
【識別番号】000006127
【氏名又は名称】森永乳業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森田 修介
【審査官】吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2014-0024759(KR,A)
【文献】中国特許出願公開第104396653(CN,A)
【文献】堀武志、石川浩司、原澤良栄,種子温湯消毒と電解水浸漬処理の組み合わせによるイネの褐条病およびもみ枯細菌病の防除効果,北陸病虫研報,2005年,No. 54,pp. 7 - 12
【文献】園田亮一、宮坂篤、岩野正敬,イネいもち病、ばか苗病菌保菌種子に対する電解水の消毒効果,日本植物病理学会報,日本,日本植物病理学会,2000年12月25日,Vol. 66, No. 3,pp. 276
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01C 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
温湯または残効性のない低農薬を用いた種籾の殺菌後に、浸種または催芽工程で、浸漬液として次亜塩素酸水を使用して、前記浸漬液は、前記次亜塩素酸水を回収して再生するもの、もしくは浸漬液を再生するものであり、種籾が浸漬液を通して感染することを防止する種籾の殺菌・感染防止方法。
【請求項2】
前記次亜塩素酸水を回収して再生するものは、使用中の次亜塩素酸水の一部を回収し、回収した使用液を電解することにより有効塩素濃度を再生して、戻すものである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記浸漬液を再生するものは、浸漬液に直接電解を行い、新たな次亜塩素酸水を生成することにより有効塩素濃度を一定値以上に保つものである請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記浸漬液は、前記種籾に対する前記次亜塩素酸水の浴比が、容積比で2~10であり、前記次亜塩素酸水の有効塩素濃度は10~60mg/kgである請求項1ないし3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記浸漬液は、前記浸種工程では、浸漬開始から70時間までの有効塩素濃度を7mg/kg以上に、前記催芽工程では、終了まで有効塩素濃度を7mg/kg以上に維持する請求項1ないし4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記浸漬液は、前記浸種工程で、浸漬開始から70時間までの次亜塩素酸消費量は、種籾1kgにつき130mg以上とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、種籾の殺菌・感染防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
種籾の消毒方法には、農薬、及び60℃前後のお湯による温湯殺菌がある。食の安全の観点から、残効性の高い農薬よりも温湯殺菌を行うことが望まれる。
【0003】
しかしながら、近年、温湯殺菌した種籾の育苗時において、ばか苗病の発生が報告されている。
【0004】
温湯殺菌では、種籾に損傷を与えてしまう境界付近の温度で処理しているため、保有菌数のばらつき、及び殺菌処理のばらつきにより完全に殺菌できない場合がある。温湯殺菌した種籾に少しでも殺菌不十分な籾が残ると、浸種及び催芽工程で種籾を浸漬した際に健全籾に二次感染する課題がある。
【0005】
また、農薬を用いた殺菌では、残効性の強い農薬を使用した場合には二次感染の発生が少ないが、残効性のない低農薬を用いた場合には、浸種及び催芽の際に健全籾に二次感染するという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-328723号公報
【文献】特開2003-23815号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の実施形態は、温湯または残効性のない低農薬を用いて殺菌を行った種籾の浸種、催芽工程における感染を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態によれば、温湯または残効性のない低農薬を用いて殺菌した種籾を育苗するための、浸種、催芽工程において、浸漬液に次亜塩素酸水を用いることで、健全な種籾への菌の感染を防止すること目的とした種籾の殺菌・感染防止方法、が得られる。
また、実施形態によれば、温湯または残効性のない低農薬を用いた種籾の殺菌後に、浸種または催芽工程で、浸漬液として次亜塩素酸水を使用して、種籾が浸漬液を通して感染することを防止する種籾の殺菌・感染防止方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態にかかる種籾の殺菌・感染防止方法を表すフロー図である。
【
図2】実施形態における次亜塩素酸水の交換方法の一例を表す模式図である。
【
図3】実施形態における次亜塩素酸水の交換方法の他の一例を表す模式図である。
【
図4】実施形態における次亜塩素酸水の交換方法の他の一例を表す模式図である。
【
図5】実施形態における次亜塩素酸水の交換方法の他の一例を表す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0011】
図1に、実施形態にかかる種籾の殺菌・感染防止方法を表すフロー図を示す。種籾の育苗工程は、種子消毒、浸種、催芽、出芽処理を行い育苗となる。図示するように、実施形態にかかる種籾の殺菌・感染防止方法は、温湯または残効性のない低農薬を用いて種籾の殺菌を行うこと(S1)、及び殺菌後、次亜塩素酸水を用いて浸種を行うこと(S2)、次亜塩素酸水を用いて催芽を行うこと(S3)により、種籾の感染を防止することができる。
【0012】
ここで、温湯とは、60℃前後の水、または40℃前後の次亜塩素酸水のことをいう。
【0013】
図1では、次亜塩素酸水を浸種及び催芽の両工程に使用しているが、これに限定されるものではなく、浸種及び催芽のいずれかでもよい。
【0014】
ここで、温湯とは、60℃前後例えば58℃から62℃の水もしくは40℃前後例えば38℃から42℃の次亜塩素酸水のことをいう。
【0015】
実施形態によれば、浸種及び/または催芽の浸漬液に次亜塩素酸水を使用することで、健全な籾への感染を抑止できる。また、次亜塩素酸水を使用すると、微生物や雑菌の繁殖の抑制し、防臭の効果があるため、作業時の不快感を低減することができる。
【0016】
次亜塩素酸水は、塩化カリウム水溶液を有隔膜電解槽内で電気分解して、陽極側から得られる水溶液、もしくは塩酸を無隔膜電解槽内で電気分解し、飲用適の水で希釈して得られる水溶液である。実施形態では、pH6.5以下、有効塩素濃度10~60mg/kgの次亜塩素酸水を使用することができる。このような次亜塩素酸水は、特定防除資材(特定農薬)として使用することができる。
【0017】
種籾に対する次亜塩素酸水の浴比は、容積比(体積比)で2~10にすることができる。浴比が2未満であると、有効塩素濃度が維持できず、二次感染率が高くなる傾向がある。また、浴比が10を超えると、種籾に次亜塩素酸の過剰供給となり、成長障害が発生するリスクが高まる傾向がある。
【0018】
現場へ導入するためには、浸種及び催芽時の浸漬液を、従来使用されている水道水から次亜塩素酸水に置き換えることが望ましく、浴比は容積比(体積比)2~5以内が使用しやすいと考えられる。
【0019】
一方で感染防止には、次亜塩素酸水の有効塩素濃度を一定値以上に維持するとより効果的である。浴比が低いと有効塩素濃度の減少が早く、必要濃度を維持しにくい傾向がある。
【0020】
浸漬液は、浸種では、浸漬開始から70時間までの有効塩素濃度を7mg/kg以上に、催芽では、終了まで有効塩素濃度を7mg/kg以上に維持することが好ましい。有効塩素濃度が7mg/kg未満であると、種籾の感染の防止が困難になる傾向がある。
【0021】
また、浸漬液は、浸種または催芽工程で次亜塩素酸水を1回以上交換すると、感染防止により効果的である。
【0022】
例えば、浸種7日中に1回、催芽前に1回と、従来の水道水交換と同じ頻度で次亜塩素酸水を、全量交換することで、工程中の感染を防止することができる。
【0023】
更に浸種、催芽工程の浸漬は、次亜塩素酸の大気放出による消耗を防ぐ為に、浸積槽に蓋をした閉鎖空間で実施することが望ましい。
【0024】
閉鎖された浸漬槽では開放場合よりも有効塩素濃度の減少量が少ないため、次亜塩素酸水を効率よく種籾の殺菌に作用させることができる。このため、閉鎖された浸漬槽は、開放された浸漬槽よりも少ない浴比でも、十分な種籾殺菌効果が得られる。
【0025】
さらに、浸漬液の次亜塩素酸水の交換手順として、次亜塩素酸水を全量交換する、次亜塩素酸水を継ぎ足す、もしくは回収して再生する、もしくは浸漬液を再生することが考えられる。
【0026】
次亜塩素酸水を全量交換するには次亜塩素酸水の大部分を排出したあと、新しい次亜塩素酸水を供給することで有効塩素濃度を回復することが可能である。
【0027】
また、次亜塩素酸水を継ぎ足す場合には、次亜塩素酸水の一部を記次亜塩素酸水の有効塩素濃度よりも高い有効塩素濃度を有する次亜塩素酸水と交換させて有効塩素濃度を回復することができる。
【0028】
図2に、次亜塩素酸水の交換方法の一例を表す模式図を示す。
【0029】
この方法では、まず
図2(a)に示すように、例えば、予め、次亜塩素酸水が入った浸積槽1の排水ライン3に設けられた排水バルブ5を開にして次亜塩素酸水を十分に排水する。その後、排水された浸積槽1の排水バルブ5を閉にして、給水ライン2の給水バルブ4を開にし、新しい次亜塩素酸水を導入して、交換を行うことができる。
【0030】
次亜塩素酸水の交換は、有効塩素濃度を維持、回復することを目的としており、使用液を排出口から排出させることにより全て捨てて、
図2に示すような新液を供給する方法以外の方法がある。
【0031】
図3ないし
図5に、次亜塩素酸水の交換方法の他の一例を表す模式図を示す。
【0032】
例えば、
図3に示す方法は、予め次亜塩素酸水を排水することなく、給水バルブ4及び排水バルブ5を開として、給水ライン2から新しい次亜塩素酸水を導入し、導入した分だけ排水ライン3から使用中の次亜塩素酸水を排出させる、いわゆる掛け流しと呼ばれる方法である。
【0033】
また、
図4に示す方法は、例えば、使用中の次亜塩素酸水の一部を回収し、排水ライン3’から電解ユニット7に送り、回収した使用液を電解することにより有効塩素濃度を再生して、給水ライン2’から浸漬槽1に戻す循環方式である。
【0034】
また、
図5に示す方法は、浸漬槽1内に電解ユニット8を直接設置し、電解ユニット8に接続されたコントローラ9により電解ユニット8を駆動させることにより電解を行い、浸漬槽内で新たな次亜塩素酸水を生成することにより有効塩素濃度を一定値以上に保つ方法である。この際、新たに供給する次亜塩素酸水は当初のものと同一の濃度のものであってもよいし、それよりも濃い濃度の次亜塩素酸水を供給して有効塩素濃度を一定値以上保つことでもよい。
【実施例】
【0035】
以下、実施例を示し、実施形態をより具体的に説明する。
【0036】
実施例1
60℃の温湯に10分間浸漬して温湯殺菌を行った健全籾と、殺菌処理を行わない汚染籾を用意し、浴比に応じた適量をそれぞれ別々のネットに分ける。
【0037】
次に、次亜塩素酸水を満たした浸漬槽に、ネットに入れた健全籾と汚染籾を同じ浸漬槽で浸漬し、浴比5~40として、10~12℃で7日間の浸種処理を行った。尚、この実施例では、浸漬槽には蓋が無い開放系であり、浸種液は7日間交換していない。
【0038】
汚染籾は健全種と汚染籾の合計量の5重量%添加し、汚染籾は前年度の開花時に、ばか苗病菌を人工接種した苗の穂から採取した種籾である。
【0039】
次亜塩素酸水の有効塩素濃度は60mg/kg(pH6.0)であり、容量は600ml、健全種と汚染籾の量を浴比40,20,10,5(容積比(体積比))となるように調整した。
【0040】
浴比40=籾全量(汚染籾)=15g(0.75g)(サンプル1-2)
浴比20=籾全量(汚染籾)=30g(1.50g)(サンプル1-3)
浴比10=籾全量(汚染籾)=60g(3.0g)(サンプル1-4)
浴比5=籾全量(汚染籾)=120g(6.0g)(サンプル1-5)
浸種後の種籾を用いて、以下に示す感染率の測定を行った。
【0041】
7日間の浸種終了後、ネットを取り出し、健全籾のみを評価して二次汚染率を評価した。各浴比ごとに150粒の種籾を50粒毎に、F0-G2培地が入った□90mmの正方形ペトリディッシュに等間隔に置床し、温度25℃の条件で7~10日間培養して、それぞれの培地のコロニー数を計測し、150粒に対するコロニー数の百分率を保菌率とした。
【0042】
比較の対象区として浴比40の水道水で浸種した区を用意した(サンプル1-1)。浸漬液以外は次亜塩素酸水区と同様にして浸種を行い、感染率を測定した。
【0043】
得られた結果を下記表1に示す。
【0044】
【0045】
対象区である水道水区の感染率99.6%と比べ、次亜塩素酸水区は感染抑制が見られる。しかしながら、次亜塩素酸水でも浴比40では感染率0%に対し、浴比が低下するほど感染率が上がる。浴比10~40までは感染率が1%以下に対し、浴比5では感染率が5.3%まで上昇していることが分かる。感染率と次亜塩素酸水との反応量を調査するために、浸種日数に対する有効酸素濃度の変化を下記表2に示す。更に有効塩素濃度から算出される種籾1kgに対する次亜塩素酸の消費量を表3に示す。
【0046】
【0047】
【0048】
得られた結果より、浸漬開始から70時間(3日間)までに有効塩素濃度の低下が早い、つまり次亜塩素酸消費量が高いことが分かる。また、感染率が高い浴比5では浸漬開始から70時間で有効塩素濃度が0となる。更に次亜塩素酸の消費量を見ると健全種子の汚染率が5%以下となるのは、浸漬開始から70時間後(3日後)の有効塩素濃度が7mg/kg以上であり、次亜塩素酸消費量が265~530(mg/種籾kg)の範囲にあることが分かる。なお、次亜塩素酸消費量(累積)は、有効塩素濃度の減少量と浸種液量との積算からHClO量(mg)を求め、浸漬した種籾量(kg)で割ることで算出できる。
【0049】
実施例2
浴比が10以下の浸種についてさらに詳しく検証する。
【0050】
実施例1と同様の浸種処理を、それぞれ浴比(容積比(体積比))10,5,3,2で実施した。更に浸種後に続けて、催芽処理を30~32℃で20時間実施した。
【0051】
尚、本実施形態では、浸漬槽には蓋が無い開放系であり、浸種液は7日間交換無し(サンプル2-2,2-3,2-4,2-5)と、24時間後(1日後)に浸漬液の次亜塩素酸水を全交換する(サンプル2-6,2-7,2-8,2-9)との2条件を実施した。また浸種の後に続けて実施した催芽工程は、浸種液をそのまま利用した。
【0052】
次亜塩素酸水の有効塩素濃度は60mg/kg(pH6.0)であり、容量は600ml、健全種と汚染籾の合計量を浴比10,5、3,2(容積比(体積比))となるように調整した。
【0053】
また、対象区として、浴比10の水道水を用意した(サンプル2-1)。水道水の交換はしない。
【0054】
浴比10=籾全量(汚染籾)=60g(3.0g)(サンプル2-2,2-6)
浴比5=籾全量(汚染籾)=120g(6.0g)(サンプル2-3,2-7)
浴比3=籾全量(汚染籾)=200g(10g)(サンプル2-4,2-8)
浴比2=籾全量(汚染籾)=300g(15g)(サンプル2-5,2-9)
浸種後、催芽後の種籾について、実施例1と同様にして感染率を測定した。更に、催芽後の種籾について、実際に以下の方法にて育苗まで進め、苗の発病率を測定した。
【0055】
育苗での発病率の測定では、浸種、催芽後の種籾で、育苗を行い10~14日後のばか苗病の発病を目視で観察評価した。サンプル数は20本であり、全ての苗の本数に対する発病した苗の本数の百分率を発病率とした。
【0056】
得られた結果を下記表4に示す。
【0057】
【0058】
また、浸種日数に対する有効酸素濃度の変化を1日1回測定した結果を下記表5に示す。
【0059】
尚、表中、次亜塩素酸水交換ありの1日後の数値は交換前の数値である。
【0060】
【0061】
更に有効塩素濃度から算出される種籾1kgに対する次亜塩素酸の消費量を下記表6に示す。
【0062】
【0063】
浸種後の感染率を見ると、水交換無しでは、浴比10(サンプル2-2)を除く浴比2~5(サンプル2-3,2-4,2-5)で感染率が高い傾向となる。一方で水交換有りでは、浴比2~5(サンプル2-6,2-7,2-8,2-9)全てにおいて感染率5%以下と高い水準で感染防止ができていることが確認できる。
【0064】
水道水に浸種する場合にも、浸種の途中で水道水を交換することが行われていることから、実施例2によれば、浸種中に次亜塩素酸水を交換することにより、従来の浸種工程と比較して特に工程を増やすことなく、浸種後の感染率を下げることができる。
【0065】
しかしながら、催芽後の感染率を見ると、全ての条件で感染率が大幅に増加していることから、浸種のみでなく、催芽時も感染防止を行うことがより効果的であると考えられる。
【0066】
有効塩素濃度の推移を確認すると、浸種後の感染率が5%以下は、浸種開始から70時間後(3日後)の実施例1と同様に有効塩素濃度が7mg/kg以上であることが確認できる。
【0067】
更に有効塩素濃度の減少分から算出される種籾1kgに対する次亜塩素酸の消費量を見ると、浸種後の感染率が5%以下となるのは、浸種開始から70時間後(3日後)の次亜塩素酸の消費量が273 (mg/種籾1kg)(水交換有り、浴比3)のときであり、消費量が260 (mg/種籾1kg)(水交換なし、浴比5)では十分でないことが分かる。従って、蓋が無い開放系で、健全籾の汚染率が5%以下となるのは、浸種開始から70時間後(3日後)の有効塩素濃度が7mg/kg以上であり、次亜塩素酸の消費量が270(mg/種籾1kg)以上である。
【0068】
実施例3
浴比が5の浸種について、浸積槽の蓋の有無(密閉系/開放系)、催芽時の水交換の有無における感染防止効果を検証する。
【0069】
実施例1と同様の浸種処理を、それぞれ浴比(容積比(体積比))5で実施した。更に浸種後に続けて、催芽処理を30~32℃で20時間実施した。
【0070】
尚、本実施形態では、浸漬槽には蓋が無い開放系(サンプル3-2)と、蓋が有る密閉系(サンプル,3-3,3-4,3-5)で実施しており、浸種液は7日間交換無し(サンプル3-3)と、70時間後(3日後)に浸漬液の次亜塩素酸水を全交換する場合(サンプル3-2,3-4,3-5)とに分けた。更に浸種の後に続けて催芽を実施する場合(サンプル3-4)と、催芽前に次亜塩素酸水を全交換する場合(サンプル3-2,3-3,3-5)に分けた。
【0071】
また、対象区として、浴比5の水道水を用意した(サンプル3-1)。水道水の交換は、次亜塩素酸水の交換と同時期に浸種時、催芽前に実施した。
【0072】
次亜塩素酸水の有効塩素濃度は60mg/kg(pH6.0)であり、容量は600ml、健全種と汚染籾の量を浴比5となるように調整した。
【0073】
それぞれ浸種後、催芽後の種籾について実施例1と同様にして感染率を測定した。更に実施例2と同様にして、催芽後の種籾で育苗まで進め、苗の発病率を測定した。
【0074】
得られた結果を下記表7に示す。
【0075】
【0076】
また、浸種日数に対する有効酸素濃度を下記表8に示す。
【0077】
【0078】
更に、有効塩素濃度の減少量から算出される種籾1kgに対する次亜塩素酸の消費量を表9に示す。
【0079】
【0080】
上記表より、浸漬槽に蓋を付け密閉系とした効果を見るためにサンプル3-2,3-4,3-5を比較すると、70時間後(3日後)の有効塩素濃度が蓋なしで5mg/kgに対し、蓋ありは25,34mg/kgであり、次亜塩素酸消費量では蓋なしが275(mg/種籾kg)に対し、蓋ありは130,175(mg/種籾kg)と消費量が少ないにも関わらず、浸種後の感染率は蓋ありの方が、蓋無しに比べ低く、感染予防効果が良好であることが分かる。
【0081】
これは蓋をすることで次亜塩素酸の大気放出を防ぐことで、種籾の殺菌および次亜塩素酸水に溶けだした菌に効果的に作用するためと思われる。
【0082】
従って、浸漬槽に蓋をした密閉系で二次感染を防止するためには次亜塩素酸消費量を、130(mg/種籾kg)にすると効果的であることが分かる。
【0083】
一方で蓋なしでは、感染防止の目安となる270(mg/種籾kg)の次亜塩素酸を70時間後(3日後)で消費していたものの感染率は5%を超えていた。これは、70時間後(3日後)の有効塩素濃度が5mg/kgと、目標値とする7mg/kg以上を保持できていないことが原因と推測される。
【0084】
次に、催芽前の水交換有無の効果を見るためにサンプル3-4と3-5を比較すると、催芽後の感染率は交換無しは50.0%に対し、交換有りは2.0%と大きく改善効果があることが分かる。更に育苗での発病率をみると交換無しは24.5%に対し、交換有りは0%と感染率と同様に大きな効果差があり、催芽前に次亜塩素酸水を交換し、有効塩素濃度が高い状態で催芽を開始し、催芽終了まで有効塩素濃度が7mg/kg以上に保つことが感染防止に重要であることが分かる。
【0085】
実施例4
浴比が5の浸種について、汚染籾も温湯殺菌した実使用を想定した検証をする。
【0086】
実施例1ないし3では、二次感染防止効果を明確化するために、汚染籾は温湯殺菌処理していなかった。実施例4では実用に合わせ、汚染籾も温湯殺菌を実施し、浸漬槽は蓋ありの密閉系で検証を行った。
【0087】
実施例1と同様の温湯殺菌を健全籾と汚染籾にそれぞれ別々に実施した。その後、浴比5(容積比(体積比))で有効塩素濃度60mg/kgの(pH6.0)を有する次亜塩素酸水を適用し、12℃で7日間浸種を行った。ここでは、3日目に次亜塩素酸水を交換した。3日目と7日目の有効酸素濃度を計測した。3日目の計測は次亜塩素酸水を交換する前に行った。
【0088】
浸種後に催芽工程を実施し、浸種液をそのまま利用する場合(サンプル4-2)と、催芽前に次亜塩素酸水を全交換する場合(サンプル4-3)に分けた。また、対象区として、浴比5の水道水を用意した(サンプル4-1)。水道水の交換は、次亜塩素酸水の交換と同時期に浸種時、催芽前に実施した。
【0089】
それぞれ浸種後、催芽後の種籾について実施例1と同様にして感染率を測定した。更に実施例2と同様にして、催芽後の種籾で育苗まで進め、苗の発病率を測定した。得られた結果を下記表10に示す。
【0090】
【0091】
また、浸種日数に対する有効酸素濃度を下記表11に示す。
【0092】
【0093】
更に、有効塩素濃度から算出される種籾1kgに対する次亜塩素酸の消費量を下記表12に示す。
【0094】
【0095】
実使用想定の温湯殺菌と次亜塩素酸水を組み合わせると高い感染防止効果があることが分かる。特に浸種中と催芽前に次亜塩素酸水を交換し、高い有効塩素濃度を維持した場合(サンプル4-3)は、浸種後、催芽後とも健全籾への感染率は0%であり、その後の育苗においても発病は見られず良好な結果である。
【0096】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
以下に、本願出願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1]温湯または残効性のない低農薬を用いた種籾の殺菌後に、浸種または催芽工程で、浸漬液として次亜塩素酸水を使用して、種籾が浸漬液を通して感染することを防止する種籾の殺菌・感染防止方法。
[2]前記浸漬液は、前記種籾に対する前記次亜塩素酸水の浴比が、容積比で2~10であり、前記次亜塩素酸水の有効塩素濃度は10~60mg/kgである[1]に記載の方法。
[3]前記浸漬液は、前記浸種工程では、浸漬開始から70時間までの有効塩素濃度を7mg/kg以上に、前記催芽工程では、終了まで有効塩素濃度を7mg/kg以上に維持する[1]または[2]に記載の方法。
[4]前記浸漬液は、前記浸種工程で、浸漬開始から70時間までの次亜塩素酸消費量は、種籾1kgにつき130mg以上とする[1]または[2]に記載の方法。
[5]前記浸漬液は、前記次亜塩素酸水を1回以上交換する[3]または[4]に記載の方法。
[6]前記浸漬液は、前記次亜塩素酸水を継ぎ足す、もしくは回収して再生する、もしくは浸漬液を再生する[3]または[4]に記載の方法。
[7]前記浸種、催芽工程は、浸積槽に蓋をすることで閉鎖され、次亜塩素酸の消費が少ない状態で行われる[1]ないし[6]のいずれか1に記載の方法。
[8]前記次亜塩素酸水の交換は、前記次亜塩素酸水の大部分を排出したあと、新しい次亜塩素酸水を供給することで有効塩素濃度を回復することを含む[4]に記載の方法。
[9]前記次亜塩素酸水の交換は、前記次亜塩素酸水の一部を、前記次亜塩素酸水の有効塩素濃度よりも高い有効塩素濃度を有する次亜塩素酸水と交換させて有効塩素濃度を回復することを含む[4]に記載の方法。