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特許7358569高齢者用膝ケア型歩行アシストサポーター
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-29
(45)【発行日】2023-10-10
(54)【発明の名称】高齢者用膝ケア型歩行アシストサポーター
(51)【国際特許分類】
   A61H 3/00 20060101AFI20231002BHJP
   A61H 1/02 20060101ALI20231002BHJP
   A61F 5/01 20060101ALI20231002BHJP
   A41D 13/06 20060101ALI20231002BHJP
【FI】
A61H3/00 B
A61H1/02 N
A61F5/01 N
A41D13/06 105
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022102129
(22)【出願日】2022-06-24
【審査請求日】2022-06-24
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】522255096
【氏名又は名称】株式会社BOC Technology
(74)【代理人】
【識別番号】100160657
【弁理士】
【氏名又は名称】上吉原 宏
(72)【発明者】
【氏名】香林 丈治
【審査官】菊地 牧子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0216075(US,A1)
【文献】特開2008-029424(JP,A)
【文献】国際公開第2011/030641(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第111079927(CN,A)
【文献】特開2018-176389(JP,A)
【文献】国際公開第2020/257925(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61H 3/00
A61H 1/00
A61F 5/00
A41D 13/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
膝(H)の痛みを抑制緩和するサポーターであって、
人工筋肉部(10)と、
センサー部(20)と、
圧縮空気入出力装置部(100)と、
制御装置部(200)とから成り、
前記人工筋肉部(10)には細径人工筋肉を複数布状に配置した人工筋肉(11)及びパット状又はチューブ状となるように細径人工筋肉を配置した人工筋肉(12)とを組み合わせたものであり、
前記センサー部(20)は、少なくとも筋電位センサー(21)と加速度センサー(22)を備え、
前記圧縮空気入出力装置部(100)には
エアーポンプ(130)と、
耐圧ホース(150)と、
レギュレーター(160)とを備え、
前記制御装置部(200)には、
電源装置(210)と、
演算装置(220)と、
動作のデータを記録しておく記憶装置(230)と、
AI(240)とを備え、
膝関節周りに備えた前記筋電位センサー(21)及び前記加速度センサー(22)から膝関節の可動域内における膝(H)の状態を前記制御装置部(200)へ送り、
該膝(H)の状態の特徴量を抽出し、機械学習モデルによりユーザーの歩行状態の分類をリアルタイムで行い、
記AI(240)により、膝(H)が痛む状態及び痛む状態へ向かうと判断される場合には前記人工筋肉部(10)に圧縮空気を送って締め付け始め、
痛まない状態及び痛まない状態へ向かうと判断される場合には前記人工筋肉部(10)へ圧送した空気を排出して緩めるように前記圧縮空気入出力装置部(100)を制御して、膝(H)の痛みをケアするとともに、膝関節は曲げやすくすることを特徴とする高齢者用膝ケア型歩行アシストサポーター(1)。
【請求項2】
前記圧縮空気入出力装置部(100)に、エアータンク(140)と、電磁弁(170)とを備え、前記エアーポンプ(130)から圧送される空気を一端前記エアータンク(140)にため込み、前記電磁弁(170)をオンオフさせるための信号を前記制御装置部(200)へ送り、制御するものであることを特徴とする請求項1に記載の高齢者用膝ケア型歩行アシストサポーター(1)。
【請求項3】
前記高齢者用膝ケア型歩行アシストサポーター(1)を構成する全ての部材をサポーター(300)に備えたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の高齢者用膝ケア型歩行アシストサポーター(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高齢者用の膝をケアする歩行アシストサポーターの技術分野に関し、詳しくは、膝が痛い時だけ人筋肉により締め付け、膝が痛くないときには緩めるようにして、膝の痛みをケアしつつ、膝関節は曲げやすく、うっ血もせず、一日中スマートに装着可能な膝サポーターの技術分野に関するものである。
【背景技術】
【0002】
人々は、老若男女みんなが普通の人と同じような生活をし、生きづらさや生活のしづらさを感じない世界を目指しており、そこにはバリアフリーという言葉は不要となる。しかし、それを阻む要因の一つに高齢者の膝の痛みがあり、膝関節症患者数は125万人(潜在的患者数3000万人)もいるといわれている。
【0003】
そこで、膝の痛みから高齢者を守り、生き生きと暮らしてもらう手段としてどんなものがあるか検討すると、先ず、伸縮性のあるサポーターがもっとも一般的といえ、次に手術や薬の投与等の医療行為、そして、VR(Virtual Reality)により、歩いたり走ったりを体験するという仮想現実の提供などがあると考えられる。しかしながら、サポーターは最も手ごろで効果も高いものの、膝を曲げにくく、うっ血し、長くは着けてられないという問題があり、手術や薬物投与はリスクが怖くて手軽に手を出せないという問題があり、VRでは表面的には実体験に近い体験が得られるものの、本質的には現実ではないため、却って余計に不自由さを感じさせてしまうという問題を生じさせている。
【0004】
これらの問題を解決する手段として、歩行アシストがある。歩行アシストは、人工筋肉やモーターといったアクチュエーターを、関節を動かすことに使うため、筋力が衰えた人などにはその効果は大きいといえるものである。しかしながら、従来の歩行アシストでは、筋力は補助できても、膝の痛みにはまったく対応できるものではなかった。即ち、膝関節にかかる荷重に対して、人筋肉等は関節を守るためには使われていないからである。また従来の歩行アシストはフレームやモーターなどが膝関節周りに装備されることから、見た目を気にする高齢者も多く、スタイリッシュやスマートなどと表現することは、お世辞にもいえないものであった。
【0005】
このような現状から、膝関節の痛みを緩和しつつ、手軽でスタイリッシュに装着可能な高齢者用膝ケア型歩行アシストサポーターの提供が望まれるといえる。
【0006】
そこで、従来からも、種々の技術提案がなされている。例えば、発明の名称を「身体に装着されるサポーター」とする技術が開示されている(特許文献1参照)。具体的には、「特に筋繊維と交差する方向へ力が発生する新規サポーターを提供すること。」を提供することを課題とし、解決手段を、「身体に装着されるサポーターあって、身体装着時に、該サポーターに、筋繊維(が延びる方向)と交差する方向であって、内旋、又は外旋方向のいずれか一方向へ該筋繊維を動かすように力が発生する。例えば、身体のいずかの部位を基点としてサポーターを引っ張り、引っ張ったところで(図5中の破線部参照)、該筋繊維上方の皮膚に密着させ、このとき発生する「引っ張り応力」を利用して、サポーターと共に、筋繊維を動かしながら、所定の箇所で固定することによって、筋繊維と交差する一定方向へ筋繊維を動かすようにする。」という発明である。しかしながら、特許文献1に記載の技術は、
体の何れかの部位を基点としてサポーターを引っ張ったところで皮膚に密着させるため、痛みとは無関係に皮膚が引っ張られることとなり、長期使用によるうっ血や皮膚への炎症等の原因となり得る。従って、本発明の課題を解決するに至っていない。
【0007】
また、発明の名称を「運動補助装置」とする技術が開示されている(特許文献2参照)。具体的には、「補助対象者に適切なフィッティング性で装着することができると共に、該補助対象者の脚の運動を補助する力を該補助対象者に適切に作用させることができる運動補助装置を提供する。」ことを課題とし、解決手段を、「運動補助装置は大腿部フレームと下腿部フレームと補助対象者の膝の外側及び内側にそれぞれ配置される膝関節機構とを備える。大腿部フレームは、補助対象者Pの腰部の片側に配置される基部から外側膝関節機構まで大腿部の長手方向に延在する第1要素フレームと、基部から内側膝関節機構まで大腿部の前側を斜行して延在する第2要素フレームと、大腿部の背面側で両要素フレームの間に架け渡された身体支持部材とを有する。」という発明である。しかしながら、特許文献2に記載の技術は、大腿部や膝関節、或いは足の裏まで各要素をフレーム構造としている為、装着者の装着の抵抗見た目等、物々しくなってしまうという欠点がある。また、本発明の課題を解決するに至っていない。
【0008】
また、発明の名称を「膝用サポーター」とする技術が開示されている(特許文献3参照)。
具体的には、「ストラップの止着点の位置変更や関節の曲げ伸ばし動作の繰り返しによる、ストラップの引っ張り方向角度の変化を防止し、内旋や外旋の適確な抑止作用を安定して得ることができる膝用サポーターを提供する。」ことを課題とし、解決手段としては、「サポーター本体の外周部に、大腿に対する下腿の内旋又は外旋方向とは反対方向に下部から上部に引っ張りつつ螺旋状に巻回固定されるストラップを備えている膝用サポーターであって、当該ストラップがベルト部と、当該ベルト部の装着時下部側となる端部に挿通された伸縮性紐部と、当該伸縮性紐部の端部が固着された面ファスナー片部とから構成され、かつ当該ベルト部の装着時上部側となる端部が、サポーター本体の上部に着脱自在に又は固着して取り付けられ、かつ当該伸縮性紐部が、サポーター本体の膝関節被覆部の下位側部に付設された紐挿通ガイド部にスライド動自在に取り付けられ、かつ当該面ファスナー片部が、サポーター本体の下部に着脱自在に取り付けられていることを特徴とする膝用サポーター。」という発明である。しかしながら、特許文献3に記載の技術は、大腿に対する下腿の内旋又は外旋方向とは反対方向に下部から上部に引っ張りつつ、螺旋状に巻回固定されるストラップが常に引っ張り力を与えるため、痛みの発生とは無関係に締め付けられてしまうため、うっ血やむくみ等の原因となることが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2007-162192号
【文献】特開2016-123620号
【文献】特開2022-30659号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
膝が痛い時だけバンドを締め付け、膝が痛くないときには緩めるようにして、膝の痛みをケアしつつ、膝関節は曲げやすく、うっ血もせず、一日中スマートに装着可能な膝サポーターの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、膝の痛みを抑制緩和するサポーターであって、人筋肉部と、センサー部と、圧縮空気入出力装置部と、制御装置部とから成り、前記人筋肉部には細径人筋肉を複数布状に配置した人筋肉及びパット状又はチューブ状の人筋肉及びこれを組み合わせたものであり、前記センサー部は、少なくとも筋電位センサーおよび加速度センサーから成り、前記圧縮空気入出力装置部にはエアーポンプと、耐圧ホースと、レギュレーターとを備え、前記制御装置部には、電源装置と、演算装置と、動作のデータを記録しておく記憶装置とを備え、膝関節周りに備えた前記筋電位センサーから膝関節の可動域内における膝の状態を前記制御装置部へ送り、膝が痛む状態へ向かう時だけ前記人筋肉部を締め付け、膝が痛まない状態に向かう時には前記人筋肉部を緩めるように前記制御装置部により前記圧縮空気入出力装置部を制御して、膝の痛みをケアするとともに、膝関節は曲げやすくする構成を採用した。
【0012】
また、本発明は、前記圧縮空気入出力装置部に、エアータンクと、電磁弁とを備え、前記エアーポンプから圧送される空気を一端前記エアータンクにため込み、前記電磁弁をオンオフさせるための信号を前記制御装置部へ送り、制御する構成を採用することもできる。
【0013】
また、本発明は、本発明に係る高齢者用膝ケア型歩行アシストサポーターを装着するユーザーの歩行状態を筋電位センサー及び加速度センサーを用いて認識し、人筋肉部を作動させる適切なタイミングをAIによって予測し、係るタイミングは膝に体重が掛かり、膝が痛くなる直前から人筋肉部の応答時間を差し引いた時刻を想定し、筋電位センサーと加速度センサーから特徴量を抽出し、閾値処理や機械学習モデルによりユーザーの歩行状態の分類をリアルタイムで行う構成を採用することもできる。
【0014】
また、本発明は、前記高齢者用膝ケア型歩行アシストサポーターを構成する全ての部材をスパッツに備えた構成を採用することもできる。
【0015】
また、本発明は、前記高齢者用膝ケア型歩行アシストサポーターを構成する全ての部材をサポーターに備えた構成を採用することもできる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る高齢者用膝ケア型歩行アシストサポーターによれば、体重を支えて膝の曲げ伸ばしを補助する従来の歩行アシストではなく、膝の痛みに対応し、痛みを抑制するものであり、特に膝関節の疾患を有する高齢者にも手軽に利用できるという優れた効果を発揮する。
【0017】
また、本発明に係る高齢者用膝ケア型歩行アシストサポーターによれば、従来型のサポーターでは膝を曲げにくい、うっ血する、及び長時間装着できない等の問題を解決することができるという優れた効果を発揮する。
【0018】
また、本発明に係る高齢者用膝ケア型歩行アシストサポーターによれば、外科的手術などの医療行為や薬剤の投与などと比較してリスクを恐れることなく手軽に利用することができるという優れた効果を発揮するものである。
【0019】
また、本発明に係る高齢者用膝ケア型歩行アシストサポーターによれば、構成はシンプルであり、膝関節周りに武骨なフレームやアクチュエーターを配置しなくても済むため、従来の歩行アシスト装置と比較して、ズボンの下に装着できるなど、スマートに装着できるという優れた効果を発揮するものである。
【0020】
また、本発明に係る高齢者用膝ケア型歩行アシストサポーターによれば、膝に疾患を有す高齢者の行動範囲を広げてよりアクティブで充実した生活が出来るという優れた効果を発揮するものである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明に係る高齢者用膝ケア型歩行アシストサポーターの基本構成を説明する基本構成説明図である。
図2】本発明に係る高齢者用膝ケア型歩行アシストサポーターの膝関節の動作と痛みとの関係を示す痛み状態説明図である。
図3】本発明に係る高齢者用膝ケア型歩行アシストサポーターにおける実施例を説明する実施例説明図である。
図4】本発明に係る高齢者用膝ケア型歩行アシストサポーターにおける別の実施例を説明する実施例説明図である。
図5】本発明に係る高齢者用膝ケア型歩行アシストサポーターにおける人筋肉部の膝関節への別の取り回し例を説明する使用例説明図である。
図6】本発明に係る高齢者用膝ケア型歩行アシストサポーターにおける応用例を示す応用例説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、膝の痛みを抑制緩和するサポーターであって、人筋肉部と、センサー部と、圧縮空気入出力装置部と、制御装置部とから成り、前記人筋肉部には細径人筋肉を複数布状に配置した人筋肉及びパット状又はチューブ状の人筋肉を組み合わせたものであり、前記センサー部は、少なくとも筋電位センサーおよび加速度センサーから成り、前記圧縮空気入出力装置部にはエアーポンプと、耐圧ホースと、レギュレーターとを備え、前記制御装置部には、電源装置と、演算装置と、動作のデータを記録しておく記憶装置とを備え、膝関節周りに備えた前記筋電位センサーから膝関節の可動域内における膝の状態を前記制御装置部へ送り、膝が痛む状態及び痛む状態へ向かう時には前記人筋肉部を締め付け、膝が痛まない状態及び痛まない状態へ向かう時には前記人筋肉部を緩めるように前記制御装置部により前記圧縮空気入出力装置部を制御して、膝の痛みをケアするとともに、膝関節は曲げやすくすることを最大の特徴とするものである。即ち、本発明者は発想を転換し、人筋肉といったアクチュエーターをパワーアシストに使用するのではなく、膝を守ることに使用することを発案したものである。以下、図面に基づいて説明する。但し、係る図面に記載された形状や構成に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の創作として発揮する効果の得られる範囲内で変更可能である。
【0023】
図1は、本発明に係る高齢者用膝ケア型歩行アシストサポーターの基本構成を説明する基本構成説明図である。また、図1は、本発明に係る高齢者用膝ケア型歩行アシストサポーターの作動状態を示す作動状態説明図でもある。図1に示すとおり、センサー部20から筋電位センサー21による信号を制御装置部200に送り、演算装置220によって膝関節周りの可動状態を把握し、エアーポンプ130からの圧縮空気の吸い込みと吐き出しを行うタイミングを算出し、電磁弁170へのオンオフ制御やモーターの位置制御等をする構成を示している。係る圧縮空気による人筋肉部10への制御には予め多数の膝関節の患者からのデータに基づいて行わせる構成と、AI240による教師データに基づいた構成のより高い制御ができる構成とすることも好適である。なお、可動速度が速い場合に対応できるようにエアータンク140を用いる構成とすればこれに対応することが可能となる。
【0024】
高齢者用膝ケア型歩行アシストサポーター1は、膝Hが痛む状態の時だけ前記人筋肉部10を締め付け、膝が痛まない状態の時には前記人筋肉部10を緩めるように前記制御装置部200により前記電磁弁170等を制御して行い、膝Hの痛みをケアするとともに、膝関節は曲げやすくするものである。即ち、本発明者は発想を転換し、人筋肉といったアクチュエーターをパワーアシストに使用するのではなく、膝Hを守ることを主たる目的として使用することを発案したものである。具体的には人筋肉部10により、膝Hに体重がかかっているとき,若しくはこれから掛かる時のみに膝Hを締め上げて保護を行い、膝Hに体重がかからず、膝Hを曲げようとするときは締め上げ力を緩めて自由な運動ができるようにするものである。係る方式であれば、ユーザーの体重を支える必要がないため、人筋肉部10及び圧縮空気入出力装置100に大きな出力は必要なく、小型化が可能である。
【0025】
筋肉部10は、細径人筋肉を複数布状に配置した人筋肉(11)またはパット状又はチューブ状の人筋肉(12)及びこれを組み合わせたものであり、圧縮空気の出し入れによって引っ張り力等を発生する構成の人筋肉を用いる。係る構成の人筋肉を使用する理由は、人筋肉によって膝回りをシーンに応じて締め付けたり、緩めたりを適宜行い、膝Hのサポーターとしての膝Hをケアする能力に加え、膝Hの自由な動きを妨げないことと、締め付けられ続けることによる血流悪化やうっ血を防ぐためである。
【0026】
布状に配置した人筋肉11は、細径人筋肉を編み込んで布状にしたものを用いる。これは「補助器具を知られたくない」というユーザーのニーズから来ているものであり、出来るだけ目立たないアクチュエーターの選択からである。係る細径人筋肉は、通常の人筋肉と比較して出力が劣るものの、膝Hの締め付けに必要な力は約42Nであり、十本並べた布状に配置した人筋肉11であれば十分に発揮が可能である。具体的には係る布状の人筋肉10を膝H回りに設置し、圧縮空気は筋電位センサー21、加速度センサー22、エアーポンプ130、電磁弁170等を介して出し入れされ、形状は布上であることからサポーター形式やスパッツ形式とすることができるものである。従って、従来のアクチュエーターによる関節駆動とは異なり、人の体重を支えて膝Hの曲げ伸ばしをさせるものではなく、エアーポンプ130や、エアータンク140は小型軽量ですみ、ポーチやバッグなどへ収納することができる点で膝関節周りをすっきりと収めることが可能となる。なお、図面において布状人筋肉11には、細径人筋肉が並んだようには示していないが、実際には細径人筋肉を複数本横に並べるか、若しくは編み込んで布状に構成したものである。
【0027】
パット状又はチューブ状の人筋肉12は、細径人筋肉をパット状に配置した人筋肉であり、特にアシスト機能を発揮させるものである。即ち、布状に配置した人筋肉(11)の補助効果を発揮するものであり、作動原理は布状に配置した人筋肉11と同様であるが、係る布状に配置した人筋肉11は膝Hの痛みを和らげるために用いるのに対し、パット状又はチューブ状の人筋肉12は、筋肉のパワーアシストを主たる目的として設ける点で相違する。具体的には、パッド状の形状に成形された人筋肉を膝Hの外側や内側に縦方向が長手となるように配置し、荷重が掛かっている場合であって膝Hを伸ばす際には圧縮空気により加圧し、曲げる際に圧力を抜くことで筋肉をアシストしつつ、膝Hの曲げ伸ばしをし易くするものである。
【0028】
筋電位センサー21は、生物の筋細胞(筋繊維)が収縮活動するときに発生する活動電位である筋電位を感知するセンサーである。その筋肉内で発生する微弱な電場の変化を示した筋電図から人間の筋肉の動きを読みとれるため、筋電位を計測する仕組みを筋肉が動作するメカニズムから微弱な電場を取得するものである。筋肉は多数の筋繊維によって構成され、かかる筋繊維は神経線維と同様な興奮性の細胞膜を持っており、興奮に伴い膜電位が変化する。これは筋繊維一つ一つで生じる現象であり、複数の筋繊維が束なっている筋肉では様々なタイミングでこの活動電位が生じている。筋肉は複数の筋繊維が束になっている構造をしているが、小さい力を出す場合は一部の筋繊維のみが収縮するため、徐々に力を入れていくと収縮する筋繊維は徐々に数を増し活動電位の数も増す。つまり複数の活動電位を組み合わせた複合活動電位は力の入れ具合によって大きさが増すことになる。この複合活動電位を利用し、又記憶装置へ記録する。
【0029】
加速度センサー22は、物体の加速度を計測する機器である。また、加速度センサー22には、1軸、2軸、3軸のタイプがあり、3軸のセンサーは、上下、左右、前後の3軸方向に対する速度を計測することで、傾きや、方向、重力を感知できる。たとえば、膝付近の移動速度を判断したり、膝の曲がり角度を捉えたり、これら速度の変化を自動的に測定し判断するための情報を得ることができるものである。小型化を図った加速度センサー22は質量が小さいため感度は低下するものの劇的な小型化は可能であり、膝関節付近に配置してもスマートさを失わない。なお、精度は測定軸を基準に左右されるため、例えば、軸の方向を大腿部に沿って固定するなど配置する位置に留意する。
【0030】
エアーポンプ130は、圧縮した空気を圧送する装置のことであり、羽根車若しくはロータの回転運動又はピストンの往復運動によって気体や液体などの流体を圧送する機械のことである。コンプレッサーともいう。なお、エアーポンプ130は流体機械に分類され、機械エネルギーを流体の持つエネルギーに変換する機械である。したがって気体にエネルギーを与え低圧から高圧へ送り出す送風機、圧縮機、排風機は本質的に同じ機械である。係る呼び名の違いはそれぞれの用途に応じた呼び方であり、圧送か排出か、低圧力比か高圧力比かの違いであって動作原理は共通するものである。いずれも特徴としては気体の熱と圧力により機械の各部に大きな応力が生じること、圧力比が大きくなるほど圧送するためには大きな動力が必要になるなど気体の圧縮性を考慮した設計が必要になる。本発明に係る高齢者用膝ケア型歩行アシストサポーター1で使用するエアーポンプ130には、ピストンまたはプランジャーの往復動により液体の吸込・吐出し作用を行うポンプ、所謂容積式ポンプが好適である。モーターの回転からロータや歯車を駆動するロータリー型ポンプや、ベーンポンプでもよく、連続して吸い込みと吐き出しを行うものであればよい。ピストンの往復運動によって空気の吸入と排出を繰り返すレシプロ型ポンプが好適といえる。
【0031】
エアータンク140は、エアーポンプ130から供給された圧縮空気において、安定した空気圧を確保するために使用される器具である。小型コンプレッサーでは、内蔵タンク容量が小さいため、使用中に再加圧が頻繁に発生してしまう。これを予防するためには、エアータンク140を追加して高圧空気をより多く溜めることが必要である。また、追加されたエアータンク140は、エアを溜めた状態でコンプレッサーから取り外すことができる。
【0032】
電磁弁170は、電磁石と弁を組み合わせたもので、電気をON、OFFすることにより、圧縮空気による流体を止めたり、流したり、また流れの方向を切り換えるものである。電磁弁170は、筋電位センサー21や加速度センサー22からの信号に基づき、制御装置部200を介して演算された出力信号により、ON、OFF動作を行い圧縮空気の流れる方向を切り替える。
【0033】
耐圧ホース150は、圧縮空気や動作流体等の搬送に用いられる可撓性を有する管であり、高い気密性と耐圧性を備えたものを用いる。
【0034】
逆止弁180は、気体用や液体用の配管に取り付けておき、流体の背圧によって弁体が逆流を防止する形で作動する構造にした弁である。圧縮空気は圧力の高い方から低い方へ流れるため、何らかの理由により一次側と二次側とにおける圧力の高低差が逆転した場合の逆流を防止することができることから、設けることが望ましい。
【0035】
電源装置210は、エアーポンプ130や制御装置部200或いは電磁弁170等を駆動させるための電力を供給する装置である。小型軽量化により携帯性を高めるとともに、充電の耐用回数を増やすために、近年普及しているモバイル機器用のリチウム電池などを利用することが考えられる。
【0036】
記憶装置230は、プログラムや動作データを格納、保持し、取り出すことができる装置である。ストレージともいう。制御装置部200では、プログラムとデータをともに記憶装置230へ記憶しておき、順次、プログラムを構成している命令を実行し、データに(場合によっては命令にさえも)操作を施していくことによって、自動的に処理が行われる。そこで、制御装置部200において記憶装置230は必須の構成要素であるといえる。
【0037】
圧縮空気入出力装置100は、人筋肉部10を駆動するために必要なエアーポンプ130と、該エアーポンプ130で発生した圧縮空気を伝達するための耐圧ホース150や、送圧力を規制するレギュレーター160等によって構成されるものである。なお、動作流体として気体のみならず、水や油を利用する水圧式や油圧式を除くものではない。
【0038】
レギュレーター160は、エアコンプレッサで作成した圧縮空気の圧力を高圧から低圧へ減圧するための機器である。人筋肉は必要となるエア圧力の範囲が決まっており、空気圧機器を扱う上でほぼ必ずと言って良いほど使用されるものである。
例えば、エアーポンプ130から0.7MPaの空気が流れてくるが実際使用したいのは0.5MPaだった場合、レギュレーター160によって0.7MPaから0.5MPaに減圧して調整をすることになる。二次側(出口側)に使用する人筋肉や電磁弁には最高使用圧力というものがあり、機器を安全に正常に使用するための最大圧力が定められている。係る最高使用圧力の範囲内でエア圧力を調整するケースがあり、このような場合にレギュレーター160で圧力を下げる必要がある。また、人筋肉の推力はそのサイズと使用圧力で決まることから、人筋肉の力が必要以上に強くなりすぎないようするのにも、レギュレーター160で圧力を下げて調整する必要がある。なお、エアーポンプ130で作られる圧縮空気の圧力は、大きく上がったり下がったりと脈動し、係る脈動の発生は、人筋肉の推力が不安定になったり、装置の寿命を短くしたりと大きな悪影響を与える。しかし、レギュレーター160はこのような圧力の脈動を抑える機能も持っており、そのため圧力調整の必要性がなくとも、装置の安定稼働のためにもレギュレーター160を設けることが望ましい。
【0039】
制御装置部200は、記憶装置90に書き込まれたプログラム指令に基づいてあらかじめ設定された操作を電磁弁170等の制御対象に行う装置である。また、制御装置部200は、筋電位センサー21や加速度センサー22からの入力信号に基づき、演算回路を介して、電磁弁のON、OFF動作やそのタイミングなど必要な制御指令を演算し、制御信号を出力する。なお、制御指令の対象がエアーポンプ130のモーター制御であって、該モーターがサーボモーターやステッピングモーターであれば、PWM制御のパルス幅変調により回転角を制御し、ポンプのピストンが上死点から下死点へと直線運動を繰り返し動作させることができる。
【0040】
加圧量調整機構110は、人筋肉による締め付け力を調整できる機構である。簡易的な具体例を挙げると、レギュレーター160により人筋肉への空気の圧縮力を調整して得られる作用力を調整することができる。上限を決めることによって、それ以上の圧力制限を行い、使用範囲内における圧力調整が可能である。
【0041】
サポーター300は、一般的に運動選手などが、手足の関節や局部などを保護するために当てるゴムを織り込んだ布製の包帯をいう。本発明に係る高齢者用膝ケア型歩行アシストサポーター1においては、図5に示すとおり膝関節周りのみに全ての構成部材を備えるためのサポーター300である。
【0042】
ベルト310は、エアーポンプ、エアータンク、バッテリー等の電源装置のような重量物や体積的に大きなものとなる部材を腰Kのベルトに配置することで重量物を楽に備える為のものである。
【0043】
スパッツ400は、伸縮性に富み吸汗性に優れるなど機能を高めたスポーツのトレーニング用が普及し広く着用されている。スポーツ医学に基づくテーピングの原理を応用して効果に着目したものも開発が進んでおり、下腹部、臀部、膝関節や腰Kをサポートし引き締め、筋肉の揺れを抑えケガの防止効果があるとされる。そしてこれに、図4に示すとおり、本発明に係る全ての構成部材を備えることにより、スパッツ400を着用するだけで本発明の効果を得られるというものである。
【0044】
AI240は、所謂人知能であって、教師データとなる膝Hの痛いタイミングと痛くないときのタイミングを各種センサー(筋電位センサー21・加速度センサー22)から学習し、このデータに基づいて膝Hの動作に伴う痛みとの関連付けを行う。その結果、脚の運動状況からAI240に人筋肉10の締め付けと緩めるタイミングの指示を出す。また、膝Hに体重がかかっている状態とかかっていない状態を教師データとして把握するために各種センサーを併用して学習させる。係る学習情報は予め多数の人の関節の動きを捉えることが可能であり、また更に膝Hの痛みは各個人によっても異なるためより多くの情報を集めるべくインターネット回線を介したデータベースへのアクセスを可能とすることも有効である。
【0045】
図2は、本発明に係る高齢者用膝ケア型歩行アシストサポーター1の膝関節の動作と痛みとの関係を示す痛み状態説明図であり、図2(a)は平坦な場所を歩行する時を示し、図2(b)は階段を下りる時をそれぞれ示している。いずれも四角で囲った膝Hの状態では比較的痛みはなく(体重が膝に作用しない状態)、丸で囲った膝Hの状態(体重が膝に作用する状態)では痛みを生じるというものである。係る痛みの程度については人によって様々であり、一概には言えないものの、おおよそ高齢者における膝Hの痛む症状の代表例である。従って、これを例にとれば、四角で囲った膝Hの状態から丸で囲った膝Hの状態に移行する直前から人工筋肉へ圧縮空気を送って締め付け始めることが望ましく、これは筋繊維センサー21の信号から予測して駆動することとなる。その後、丸で囲った膝Hの状態から四角で囲った膝Hの状態において人工筋肉へ圧送した空気を排出し、圧縮力を緩めて楽にする。
【0046】
図3は、本発明に係る高齢者用膝ケア型歩行アシストサポーター1における実施例を説明する実施例説明図であり、所謂スパッツタイプである。即ち必要な構成部材がスパッツ400に装着され、これを履くだけで高齢者用膝ケア型歩行アシストサポーターを利用することができるというものである。
【0047】
図4は、本発明に係る高齢者用膝ケア型歩行アシストサポーター1における別の実施例を説明する実施例説明図であり、所謂サポータータイプである。即ち必要な構成部材がサポーター300に全て装着され、これを履くだけで高齢者用膝ケア型歩行アシストサポーターを利用することができるというものである。
【0048】
図5は、本発明に係る高齢者用膝ケア型歩行アシストサポーターにおける人筋肉部の膝関節への別の取り回し例を説明する使用例説明図であり、図5(a)は、膝蓋骨を斜めに交差するように配置した構成を左側に正面図、右側に側面図として示し、図5(b)は、膝の上下を外足から内側に向かって斜めへの配置とその上下に横方向に取り回して配置した構成を、左側に正面図、右側に側面図として示す。
【0049】
図6は、本発明に係る高齢者用膝ケア型歩行アシストサポーターにおける応用例を示すものであり、図6(a)は、腰Kに利用する対応を示し、図6(b)は、その背面からの図を示している。膝の上下を外足から内側に向かって斜めへの配置とその上下に横方向に取り回して配置した構成を示している。図6に示すように、本発明に係る高齢者用膝ケア型歩行アシストサポーター1を腰痛の疾患を有している人への応用利用であって、特にコルセットの効果を得ながら痛みが出るときは締めつけて、痛みが出ない時には緩めるという利用体系も考え得る。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明に係る高齢者用膝ケア型歩行アシストサポーター1によれば、高齢者やスポーツ障害等により膝の痛む多くの方へ貢献でき、特に医療の分野において産業上利用可能性は高いと思慮されるものである。
【符号の説明】
【0051】
1 高齢者用膝ケア型歩行アシストサポーター
10 人筋肉部
11 布状に配置した人筋肉
12 パット状又はチューブ状の人筋肉
20 センサー部
21 筋電位センサー
22 加速度センサー
100 圧縮空気入出力装置
110 加圧量調整機構
130 エアーポンプ
140 エアータンク
150 耐圧ホース
160 レギュレーター
170 電磁弁
180 逆止弁
200 制御装置部
210 電源装置
220 演算装置
230 記憶装置
240 AI
300 サポーター
310 ベルト
400 スパッツ
H 膝
K 腰

【要約】
【課題】
膝が痛い時だけバンドを締め付け、膝が痛くないときには緩めるようにして、膝の痛みをケアしつつ、膝関節は曲げやすく、うっ血もせず、一日中スマートに装着可能な膝サポーターの提供を課題とするものである。
【解決手段】
人口筋肉部と、センサー部と、圧縮空気入出力装置部と、制御装置部とから成り、前記人口筋肉部には細径人口筋肉を複数布状に配置した人口筋肉またはパット状の人口筋肉を組み合わせたものであり、膝関節周りに備えた前記筋電位センサーから膝関節の可動域内における膝の状態を前記制御装置部へ送り、膝が痛む状態へ向かう時だけ前記人口筋肉部を締め付け、膝が痛まない状態に向かう時には前記人口筋肉部を緩めるように前記制御装置部により前記圧縮空気入出力装置部を制御して、膝の痛みをケアするとともに、膝関節は曲げやすくする構成を採用した。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6