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特許7358652溶融炭酸塩型燃料電池のセパレータ焙焼のオンライン評価方法
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  • 特許-溶融炭酸塩型燃料電池のセパレータ焙焼のオンライン評価方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-29
(45)【発行日】2023-10-10
(54)【発明の名称】溶融炭酸塩型燃料電池のセパレータ焙焼のオンライン評価方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/14 20060101AFI20231002BHJP
   H01M 8/023 20160101ALI20231002BHJP
   H01M 8/04225 20160101ALI20231002BHJP
   H01M 8/0432 20160101ALI20231002BHJP
【FI】
H01M8/14
H01M8/023
H01M8/04225
H01M8/0432
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022542776
(86)(22)【出願日】2020-10-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-10
(86)【国際出願番号】 CN2020121189
(87)【国際公開番号】W WO2021232664
(87)【国際公開日】2021-11-25
【審査請求日】2022-07-12
(31)【優先権主張番号】202010421592.X
(32)【優先日】2020-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】521438869
【氏名又は名称】中国華能集団清潔能源技術研究院有限公司
【氏名又は名称原語表記】HUANENG CLEAN ENERGY RESEARCH INSTITUTE
【住所又は居所原語表記】Lab Block A, Huaneng Base, Beiqijia Future Science Park, Changping District, Beijing 102209, China
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲張▼ 瑞云
(72)【発明者】
【氏名】程 健
(72)【発明者】
【氏名】▲盧▼ 成壮
(72)【発明者】
【氏名】李 昊
(72)【発明者】
【氏名】▲許▼ 世森
(72)【発明者】
【氏名】王 保民
(72)【発明者】
【氏名】▲楊▼ 冠▲軍▼
(72)【発明者】
【氏名】黄 ▲華▼
【審査官】高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】特開平3-238764(JP,A)
【文献】特開昭64-3964(JP,A)
【文献】特開2000-156235(JP,A)
【文献】特開平7-335235(JP,A)
【文献】米国特許第5399443(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/14
H01M 8/02
H01M 8/04225
H01M 8/0432
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融炭酸塩型燃料電池を組み立てるに先立って、溶融炭酸塩型燃料電池のセパレータの重量を記録し、溶融炭酸塩型燃料電池のセパレータの組成から、溶融炭酸塩型燃料電池のセパレータに含まれる溶媒、粘着剤及び可塑剤の質量を算出するステップ1)と、
溶融炭酸塩型燃料電池のセパレータの熱重量曲線から、溶融炭酸塩型燃料電池のセパレータの焙焼の昇温プログラムを設定するステップ2)と、
溶融炭酸塩型燃料電池のセパレータの焙焼の昇温プログラムに従って、組み立てられた溶融炭酸塩型燃料電池に対して昇温焙焼を行い、昇温中、溶融炭酸塩型燃料電池の陰極に空気を導入し、溶融炭酸塩型燃料電池の陽極に窒素ガスを導入しながら、陰極の排気口での酸素ガス濃度の変化をオンラインで監視し、酸素ガス濃度が小さくなってから大きくなると、溶融炭酸塩型燃料電池のセパレータ内の溶媒、粘着剤及び可塑剤が完全に燃焼されたことを示し、このとき、溶融炭酸塩型燃料電池のセパレータが多孔質のシート状構造となり、
溶融炭酸塩型燃料電池が490~500℃に安定化すると、陰極への空気導入を停止し、このとき、電解質が徐々に溶融して溶融炭酸塩型燃料電池のセパレータに含浸し、
溶融炭酸塩型燃料電池が600~650℃に安定化すると、溶融炭酸塩型燃料電池が電解質で満たされ、このとき、溶融炭酸塩型燃料電池は発電能力を備えるものとなり、溶融炭酸塩型燃料電池の陽極に水素ガスを導入し、溶融炭酸塩型燃料電池の陰極に空気及び二酸化炭素を導入し、溶融炭酸塩型燃料電池の内部で活性化反応が行われた後、溶融炭酸塩型燃料電池について放電テストを行った結果、溶融炭酸塩型燃料電池の陰極及び陽極でガス溢れやガス漏れの危険がなく、単一電池の平均開回路電圧が予め設定された電圧値よりも大きい場合、溶融炭酸塩型燃料電池のセパレータの焙焼が合格し、それ以外の場合、溶融炭酸塩型燃料電池のセパレータの焙焼が合格しておらず、これにより、溶融炭酸塩型燃料電池のセパレータ焙焼のオンライン評価が完了するステップ3)とを含む、ことを特徴とする溶融炭酸塩型燃料電池のセパレータ焙焼のオンライン評価方法。
【請求項2】
昇温中、溶融炭酸塩型燃料電池の陰極に1L/分の空気を導入し、溶融炭酸塩型燃料電池の陽極に0.5L/分の窒素ガスを導入する、ことを特徴とする請求項1に記載の溶融炭酸塩型燃料電池のセパレータ焙焼のオンライン評価方法。
【請求項3】
溶融炭酸塩型燃料電池が600~650℃に安定化すると、溶融炭酸塩型燃料電池が電解質で満たされ、このとき、溶融炭酸塩型燃料電池は発電能力を備えるものとなり、
溶融炭酸塩型燃料電池の陽極に1L/分の水素ガスを導入し、溶融炭酸塩型燃料電池の陰極に3L/分の空気及び1L/分の二酸化炭素を導入する、ことを特徴とする請求項1に記載の溶融炭酸塩型燃料電池のセパレータ焙焼のオンライン評価方法。
【請求項4】
予め設定された電圧値が1.1Vである、ことを特徴とする請求項1に記載の溶融炭酸塩型燃料電池のセパレータ焙焼のオンライン評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融炭酸塩型燃料電池の技術分野に属し、溶融炭酸塩型燃料電池のセパレータ焙焼のオンライン評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶融炭酸塩型燃料電池(MCFC)は、650℃で作動する高温燃料電池であり、貴金属を触媒とする必要がなく、燃料が入手しやすく、騒音が少なく、汚染物がほぼゼロ排出であり、発電効率が高く、熱電併給が図られるなどの利点があり、100キロワットレベルからメガワットレベルの分散型発電所や固定型発電所に適しており、将来性が期待できる。
【0003】
溶融炭酸塩型燃料電池では、重要な部材には、電極、セパレータ、電解質、双極板などがあり、この中でも、セパレータの性能の良否が電池の性能に大きな影響を与える。一般には、セパレータの性能はその気孔率及び平均孔径につながり、成形後のセパレータの細孔分布が主に成形前の膜に含まれる揮発されにくい粘着剤や溶媒の含有量及びこれらの分布の均一さに依存する。含有量が高い場合、成形後の膜の気孔率及び平均孔径が大きく、膜に含浸させた電解質が多くなり、膜の電気抵抗が小さいが、平均孔径が大きいため、陰極や陽極ではガス溢れが発生しやすく、一方、含有量が低い場合、膜の気孔率及び平均孔径が減少し、ガスバリアに有利であるが、膜に含浸させた電解質が少なくなり、イオン伝導に不利である。このため、セパレータについては適切な気孔率及び孔径分布が求められ、一般には、セパレータについて、気孔率は50~70%、孔径は1μm未満であり、均一に分布していることが期待される。
【0004】
溶融炭酸塩型燃料電池のセパレータは、電池の初回起動時に原位置焙焼を行うので、初回の焙焼効果が電池の性能を直接左右する。技術的秘密と技術的封鎖により、中国では、MCFCに関する研究はまだ初期段階である。現在、MCFCに取り込んでいる機関としては、主に中国科学院大連化学物理研究所、中国華能集団クリーンエネルギー技術研究院有限公司及び一部の大学があり、溶融炭酸塩型燃料電池のセパレータ焙焼効果のオンライン評価に関しては、まだ関連する検討や著作がなく、このため、溶融炭酸塩型燃料電池の発電性能が確保されにくい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上記の従来技術の欠点を解決し、溶融炭酸塩型燃料電池の発電性能を効果的に確保できる溶融炭酸塩型燃料電池のセパレータ焙焼のオンライン評価方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成させるために、本発明による溶融炭酸塩型燃料電池のセパレータ焙焼のオンライン評価方法は、
溶融炭酸塩型燃料電池を組み立てるに先立って、溶融炭酸塩型燃料電池のセパレータの重量を記録し、溶融炭酸塩型燃料電池のセパレータの組成から、溶融炭酸塩型燃料電池のセパレータに含まれる溶媒、粘着剤及び可塑剤の質量を算出するステップ1)と、
溶融炭酸塩型燃料電池のセパレータの熱重量曲線から、溶融炭酸塩型燃料電池のセパレータの焙焼の昇温プログラムを設定するステップ2)と、
溶融炭酸塩型燃料電池のセパレータの焙焼の昇温プログラムに従って、組み立てられた溶融炭酸塩型燃料電池に対して昇温焙焼を行い、昇温中、溶融炭酸塩型燃料電池の陰極に空気を導入し、溶融炭酸塩型燃料電池の陽極に窒素ガスを導入しながら、陰極の排気口での酸素ガス濃度の変化をオンラインで監視し、酸素ガス濃度が小さくなってから大きくなると、溶融炭酸塩型燃料電池のセパレータ内の溶媒、粘着剤及び可塑剤が完全に燃焼されたことを示し、このとき、溶融炭酸塩型燃料電池のセパレータが多孔質のシート状構造となり、
溶融炭酸塩型燃料電池が490~500℃に安定化すると、陰極への空気導入を停止し、このとき、電解質が徐々に溶融して溶融炭酸塩型燃料電池のセパレータに含浸し、
溶融炭酸塩型燃料電池が600~650℃に安定化すると、溶融炭酸塩型燃料電池が電解質で満たされ、このとき、溶融炭酸塩型燃料電池は発電能力を備えるものとなり、溶融炭酸塩型燃料電池の陽極に水素ガスを導入し、溶融炭酸塩型燃料電池の陰極に空気及び二酸化炭素を導入し、溶融炭酸塩型燃料電池の内部で活性化反応が行われた後、溶融炭酸塩型燃料電池について放電テストを行った結果、溶融炭酸塩型燃料電池の陰極及び陽極でガス溢れやガス漏れの危険がなく、単一電池の平均開回路電圧が予め設定された電圧値よりも大きい場合、溶融炭酸塩型燃料電池のセパレータの焙焼が合格し、それ以外の場合、溶融炭酸塩型燃料電池のセパレータの焙焼が合格しておらず、これにより、溶融炭酸塩型燃料電池のセパレータ焙焼のオンライン評価が完了するステップ3)とを含む。
【0007】
昇温中、溶融炭酸塩型燃料電池の陰極に1L/分の空気を導入し、溶融炭酸塩型燃料電池の陽極に0.5L/分の窒素ガスを導入する。
【0008】
溶融炭酸塩型燃料電池が600~650℃に安定化すると、溶融炭酸塩型燃料電池が電解質で満たされ、このとき、溶融炭酸塩型燃料電池は発電能力を備えるものとなり、
溶融炭酸塩型燃料電池の陽極に1L/分の水素ガスを導入し、溶融炭酸塩型燃料電池の陰極に3L/分の空気及び1L/分の二酸化炭素を導入する。
【0009】
予め設定された電圧値が1.1Vである。
【発明の効果】
【0010】
本発明は以下の有益な効果を有する。
本発明による溶融炭酸塩型燃料電池のセパレータ焙焼のオンライン評価方法によれば、具体的に実行される際に、電池の昇温焙焼において、陰極に空気、陽極に窒素ガスが導入されることにより、陽極の酸化が回避され、また、焙焼過程において、陰極の排気口での酸素ガス濃度の変化をオンラインで監視し、酸素ガス濃度が小さくなってから大きくなると、セパレータ内の粘着剤及び可塑剤が完全に燃焼されたことを示し、このとき、セパレータが多孔質のシート状構造となり、また、電池が初期発電能力を備えたものとなったときに、陽極に水素ガス、陰極に空気及び二酸化炭素が導入され、電池内部で短時間の活性化反応が行われた後、電池について放電テストを行うことができ、テストにおいては、電池の陰極及び陽極でガス溢れやガス漏れの危険がなく、単一電池の平均開回路電圧が1.1Vよりも大きい場合、電池のセパレータの焙焼が合格し、これにより、溶融炭酸塩型燃料電池のセパレータ焙焼のオンライン評価が実現され、溶融炭酸塩型燃料電池の発電性能が確保され、MCFCの発電性能の最適化などにおいて指導的な意義がある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら本発明についてさらに詳細に説明する。
【0013】
図1に示すように、本発明による溶融炭酸塩型燃料電池のセパレータ焙焼のオンライン評価方法は、
溶融炭酸塩型燃料電池を組み立てるに先立って、溶融炭酸塩型燃料電池のセパレータの重量を記録し、溶融炭酸塩型燃料電池のセパレータの組成から、溶融炭酸塩型燃料電池のセパレータに含まれる溶媒、粘着剤及び可塑剤の質量を算出するステップ1)と、
溶融炭酸塩型燃料電池のセパレータの熱重量曲線から、溶融炭酸塩型燃料電池のセパレータの焙焼の昇温プログラムを設定するステップ2)と、
溶融炭酸塩型燃料電池のセパレータの焙焼の昇温プログラムに従って、組み立てられた溶融炭酸塩型燃料電池に対して昇温焙焼を行い、昇温中、溶融炭酸塩型燃料電池の陰極に空気を導入し、溶融炭酸塩型燃料電池の陽極に窒素ガスを導入しながら、陰極の排気口での酸素ガス濃度の変化をオンラインで監視し、酸素ガス濃度が小さくなってから大きくなると、溶融炭酸塩型燃料電池のセパレータ内の溶媒、粘着剤及び可塑剤が完全に燃焼されたことを示し、このとき、溶融炭酸塩型燃料電池のセパレータが多孔質のシート状構造となり、
溶融炭酸塩型燃料電池が490~500℃に安定化すると、陰極への空気導入を停止し、このとき、電解質が徐々に溶融して溶融炭酸塩型燃料電池のセパレータに含浸し、
溶融炭酸塩型燃料電池が600~650℃に安定化すると、溶融炭酸塩型燃料電池が電解質で満たされ、このとき、溶融炭酸塩型燃料電池は発電能力を備えるものとなり、溶融炭酸塩型燃料電池の陽極に水素ガスを導入し、溶融炭酸塩型燃料電池の陰極に空気及び二酸化炭素を導入し、溶融炭酸塩型燃料電池の内部で活性化反応が行われた後、溶融炭酸塩型燃料電池について放電テストを行った結果、溶融炭酸塩型燃料電池の陰極及び陽極でガス溢れやガス漏れの危険がなく、単一電池の平均開回路電圧が1.1Vよりも大きい場合、溶融炭酸塩型燃料電池のセパレータの焙焼が合格し、それ以外の場合、溶融炭酸塩型燃料電池のセパレータの焙焼が合格しておらず、これにより、溶融炭酸塩型燃料電池のセパレータ焙焼のオンライン評価が完了するステップ3)とを含む。
【0014】
実施例1
本実施例の具体的な操作は以下のとおりである。
1)電極有効面積が0.2m2の溶融炭酸塩型燃料電池のセルを一対用意し、厚さ0.7mm、重量420gのセパレータを選択し、セパレータを製造するための組成から推定した結果、メタアルミン酸リチウム粉末の含有量は約70~80%であった。
2)セパレータの熱重量曲線から、セパレータ焙焼の昇温プログラムを作成した。
3)昇温プログラムに従って、組み立てられたセルに昇温焙焼を行い、昇温中、陰極に1L/分の空気を導入し、陽極に0.5L/分の窒素ガスを導入した。
4)酸素ガス濃度検出装置を用いて、陰極の排気ガスを監視し、酸素ガス濃度が最初の0.2L/分から0.2L/分程度になると、セパレータ内の粘着剤及び可塑剤などがほぼ完全に焙焼され、
電池が490~500℃に安定化すると、陰極への空気導入を停止し、
電池が600~650℃に安定化すると、セパレータはほぼ電解質で満たされ、さらに、陽極に1L/分の水素ガスを導入し、陰極に3L/分の空気及び1L/分の二酸化炭素を導入し、電池の内部で短時間の活性化反応が行われた後、電池について放電テストを行うことができ、
ここでは、セパレータ焙焼の品質は、電池の陰極及び陽極でガス溢れやガス漏れの危険の有無に基づいて判定され、セルの開回路電圧が1.12Vに達する場合、今回のセパレータ焙焼が高品質であることを示している。
図1