(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-29
(45)【発行日】2023-10-10
(54)【発明の名称】熱伝導性粒子及びその製造方法、混合物、物品、樹脂組成物、並びに、熱伝導性薄膜
(51)【国際特許分類】
C09K 5/14 20060101AFI20231002BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20231002BHJP
C09D 11/02 20140101ALI20231002BHJP
C09J 11/04 20060101ALI20231002BHJP
【FI】
C09K5/14 E
C09D7/61
C09D11/02
C09J11/04
(21)【出願番号】P 2023050358
(22)【出願日】2023-03-27
【審査請求日】2023-03-29
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】山根 健一
(72)【発明者】
【氏名】中村 祐介
(72)【発明者】
【氏名】朱 志剛
(72)【発明者】
【氏名】本田 泰平
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/159608(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/137468(WO,A1)
【文献】特開2003-100932(JP,A)
【文献】特開2022-127429(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K5/00-5/20
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム原料、亜鉛原料、及び、前記アルミニウム原料及び亜鉛原料以外のその他原料を焼成してなる焼成物を少なくとも含有する熱伝導性粒子であって、
前記アルミニウム原料100質量部に対する亜鉛原料の含有量が
25質量部以上70質量部以下であり、
前記その他原料が、ホウ素化合物、タングステン化合物、チタン化合物、ビスマス化合物、及びフッ素化合物からなる群より選択される少なくとも一種を含有し、前記アルミニウム原料100質量部に対して、前記その他原料の含有量が0.05質量部以上20質量部以下であり、
下記条件を満たす、熱伝導性粒子。
(1)前記熱伝導性粒子50gと、エポキシ当量200g/eq以上1000g/eq以下、E型粘度計により、測定温度25℃、コーンロータ(3°×R9.7)、回転速度100s
-1の条件で測定した際の粘度が400mPa・s以上900mPa・s以下であるエポキシ樹脂50gとを混合したのち自転公転式ミキサーを用いて、1,000rpmで1分間、2,000rpmで1分間混練し、前記方法で得た粘度測定用樹脂組成物をE型粘度計により、測定温度25℃、コーンロータ(3°×R9.7)、回転速度100s
-1の条件で測定した際の粘度が、3,000mPa・s以下である。
(2)直径5mmのSUS304鋼球500質量部と、前記熱伝導性粒子100質量部とを広口びん250mLの円筒容器に入れ、円筒容器の円筒の中心軸を回転軸として80rpmで3時間回転させた後、篩目1mmの篩で鋼球と熱伝導性粒子を分離し、摩耗試験後の熱伝導性粒子を得て、摩耗試験前後の熱伝導性粒子それぞれ4質量部とホウ酸リチウム8質量部を混合し、乳鉢にて5分間粉砕したものを、蛍光X線分析装置を用いて鉄元素の強度を測定し、摩耗試験前後の鉄元素の蛍光X線の強度(kcps)について、以下の式で算出した際の摩耗度が4kcps以下である。
摩耗度=(摩耗試験後の鉄元素の蛍光X線の強度)-(摩耗試験前の鉄元素の蛍光X線の強度)
(3)エポキシ当量200g/eq以上1000g/eq以下であるエポキシ樹脂とアミン価100mgKOH/g以上500mgKOH/g以下のアミン系硬化剤の比率を3:1~4:1の範囲で混合した混合液30部と、熱伝導性粒子70部を混練して得た樹脂組成物を、直径100mm以上かつ厚み4mm以上の円形シート成形物になるように金型プレスし、設定温度120℃の条件で1時間加熱硬化し、放冷した後で中心角90°の扇型になるよう四等分に裁断した試験片について、ホットディスク法熱物性測定によって熱伝導率を測定した際の熱伝導率が、0.80W/m・K以上である。
【請求項2】
前記その他原料(ただし、フッ素化合物を除く)が、酸化物、オキソ酸塩、水酸化物、炭酸塩、及び塩基性炭酸塩からなる群より選択される少なくとも一種である、請求項1に記載の熱伝導性粒子。
【請求項3】
鉄、コバルト、銅、マンガン、ニッケル、及びクロムからなる群より選択される少なくとも一種の元素を含有し、着色している
、請求項1に記載の熱伝導性粒子。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の熱伝導性粒子に、熱伝導性フィラーを混合して得られる、混合物。
【請求項5】
前記熱伝導性フィラーが、硫酸バリウム、タルク、窒化ホウ素、及び酸化マグネシウムからなる群より選択される少なくとも一種である、請求項4に記載の混合物。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか一項に記載の熱伝導性粒子の製造方法が、アルミニウム原料、亜鉛原料、及び、前記アルミニウム原料及び亜鉛原料以外のその他原料を含有する原料混
合物を焼成して得られる方法であって、
前記アルミニウム原料が、ベーマイト、水酸化アルミニウム、及びアルミナからなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記亜鉛原料が亜鉛の酸化物、及び塩基性炭酸塩からなる群より選択される少なくとも一種である、熱伝導性粒子の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の原料混合物を1,000℃以上1,600℃以下で焼成する、熱伝導性粒子の製造方法。
【請求項8】
請求項1~3のいずれか一項に記載の熱伝導性粒子を含有する、物品。
【請求項9】
グラビアインキ、塗工液、樹脂組成物、及び接着剤組成物のいずれかである、請求項8に記載の物品。
【請求項10】
熱伝導性樹脂組成物を形成するために用いられる樹脂組成物であって、
請求項4に記載の混合物と、形成用樹脂を含有する、樹脂組成物。
【請求項11】
前記形成用樹脂全体に対する前記混合物の含有量が、5質量%以上95質量%以下である、請求項10に記載の樹脂組成物。
【請求項12】
請求項9に記載の物品を塗工して形成される、熱伝導性薄膜。
【請求項13】
放熱用部材として、電子機器用部品、電子機器用筐体、EVモーター、及びリチウム電池のいずれかに使用される、請求項8に記載の物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械摩耗低減に優れる熱伝導性粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、熱伝導性材料として数多くの素材が検討されている。半導体素子の集積度の向上に伴い、放熱への要求はますます強くなっており、従来よりもはるかに高い熱伝導性及び絶縁性を有する材料の開発が不可欠となっている。このような要求を満たす材料として、熱伝導性フィラーを樹脂に練り込んで得られるコンポジット材料(樹脂組成物)が知られている。
【0003】
コンポジット材料に用いられるフィラーとして、耐水性、耐酸性、及び絶縁性に優れているとともに、良好な熱伝導性を有し、かつ、安価であることから、アルミナが多くの場面で用いられている。しかしながら、熱伝導性組成物に含有されるアルミナ粉体は、非常に硬質な材料であるため、熱伝導性複合材料をペレット、又はシート等に加工する装置等の設備の摩耗を促進させる一因となっている。熱伝導性フィラーを加工品へ適用する場合、高い熱伝導性とともに低摩耗性に優れた熱伝導性フィラーが強く求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-249226号公報
【文献】国際公開第2015/137468号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
アルミナはモース硬度が高く、ブレード又は押出機の軸へ負荷をかけてしまうため樹脂組成物等への練り込みが難しく、さらに摩耗した部品が混入し、コンタミの原因となってしまう。また、樹脂へ適用した際、粘度が上昇してしまい、成形性や加工性が劣ってしまうことがある。これを解決するため、アルミナより機械摩耗性を抑え、樹脂に練り込んだ際の粘度が低い熱伝導性材料が検討されている。
しかしながら、特許文献1に開示された球体酸化亜鉛粒子粉末は、表面をコーティングしたものとはなっているものの、酸化亜鉛自体の熱伝導率は低いため、改良が必要である。特許文献2ではアルミナ系化合物と、アルミニウム以外の金属の化合物との焼成物について記載がされているが、アルミニウム原料と亜鉛原料だけを組み合わせた焼成物についての記載である。
【0006】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、熱伝導性のみならず、耐薬品性、耐水性、及び電気絶縁性に優れているとともに、機械摩耗性が低く、充填性、成形性に優れた樹脂組成物等の材料や物品を製造することが可能な低硬度アルミナ系熱伝導性粒子(以下「熱伝導性粒子」と記すこともある)、及びその製造方法を提供することにある。
上記課題を解決する目的で本発明者らは鋭意検討を行った結果、アルミニウム原料、亜鉛原料、並びに、これら以外の少なくともホウ素化合物、チタン化合物、タングステン化合物、ビスマス化合物、及びフッ素化合物からなる群より選択されるその他原料の混合物を所定の温度にて焼成して原料同士を反応させて、化合物を生成した後、粉砕により製造された熱伝導性粒子は低い機械摩耗と高い熱伝導率を両立することができることを見出した。さらに粒子の形状、又は表面性状を制御し、熱伝導率、樹脂練りこみ性、又は塗料適正の改善に効果があることを見出した。この熱伝導性粒子を用いることによって、マトリックスに高い熱伝導性を付与できると同時に、熱伝導性複合材料を加工、成形する装置等の設備の摩耗を抑制することができることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明によれば、以下に示す熱伝導性粒子及びその製造方法が提供される。
[1]アルミニウム原料、亜鉛原料、及び、前記アルミニウム原料及び亜鉛原料以外のその他原料を焼成してなる焼成物を少なくとも含有する熱伝導性粒子であって、
前記アルミニウム原料100質量部に対する亜鉛原料の含有量が20質量部超70質量部以下であり、
前記その他原料が、ホウ素化合物、タングステン化合物、チタン化合物、ビスマス化合物、及びフッ素化合物からなる群より選択される少なくとも一種を含有し、前記アルミニウム原料100質量部に対して、前記その他原料の含有量が0.05質量部以上20質量部以下であり、
下記条件を満たす、熱伝導性粒子。
(1)前記熱伝導性粒子50gと、エポキシ当量200g/eq以上1000g/eq以下、E型粘度計により、測定温度25℃、コーンロータ(3°×R9.7)、回転速度100s-1の条件で測定した際の粘度が400mPa・s以上900mPa・s以下であるエポキシ樹脂50gとを混合したのち自転公転式ミキサーを用いて、1,000rpmで1分間、2,000rpmで1分間混練し、前記方法で得た粘度測定用樹脂組成物をE型粘度計により、測定温度25℃、コーンロータ(3°×R9.7)、回転速度100s-1の条件で測定した際の粘度が、3,000mPa・s以下である。
(2)直径5mmのSUS304鋼球500質量部と、前記熱伝導性粒子100質量部とを広口びん250mLの円筒容器に入れ、円筒容器の円筒の中心軸を回転軸として80rpmで3時間回転させた後、篩目1mmの篩で鋼球と熱伝導性粒子を分離し、摩耗試験後の熱伝導性粒子を得て、摩耗試験前後の熱伝導性粒子それぞれ4質量部とホウ酸リチウム8質量部を混合し、乳鉢にて5分間粉砕したものを、蛍光X線分析装置を用いて鉄元素の強度を測定し、摩耗試験前後の鉄元素の蛍光X線の強度(kcps)について、以下の式で算出した際の摩耗度が4kcps以下である。
摩耗度=(摩耗試験後の鉄元素の蛍光X線の強度)-(摩耗試験前の鉄元素の蛍光X線の強度)
(3)エポキシ当量200g/eq以上1000g/eq以下であるエポキシ樹脂とアミン価100mgKOH/g以上500mgKOH/g以下のアミン系硬化剤の比率を3:1~4:1の範囲で混合した混合液30部と、熱伝導性粒子70部を混練して得た樹脂組成物を、直径100mm以上かつ厚み4mm以上の円形シート成形物になるように金型プレスし、設定温度120℃の条件で1時間加熱硬化し、放冷した後で中心角90°の扇型になるよう四等分に裁断した試験片について、ホットディスク法熱物性測定によって熱伝導率を測定した際の熱伝導率が、0,80W/m・K以上である。
[2]前記その他原料(ただし、フッ素化合物を除く)が、酸化物、オキソ酸塩、水酸化物、炭酸塩、及び塩基性炭酸塩からなる群より選択される少なくとも一種である、[1]に記載の熱伝導性粒子。
[3]鉄、コバルト、銅、マンガン、ニッケル、及びクロムからなる群より選択される少なくとも一種の元素を含有し、着色している、[1]又は[2]に記載の熱伝導性粒子。
[4][1]~[3]のいずれかに記載の熱伝導性粒子に、熱伝導性フィラーを混合して得られる、混合物。
[5]前記熱伝導性フィラーが、硫酸バリウム、タルク、窒化ホウ素、及び酸化マグネシウムからなる群より選択される少なくとも一種である、[4]に記載の混合物。
[6][1]~[3]のいずれかに記載の熱伝導性粒子の製造方法が、アルミニウム原料、亜鉛原料、及び、前記アルミニウム原料及び亜鉛原料以外のその他原料を含有する原料混合物を焼成して得られる方法であって、
前記アルミニウム原料が、ベーマイト、水酸化アルミニウム、及びアルミナからなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記亜鉛原料が亜鉛の酸化物、及び塩基性炭酸塩からなる群より選択される少なくとも一種である、熱伝導性粒子の製造方法。
[7][6]に記載の原料混合物を1,000℃以上1,600℃以下で焼成する、熱伝導性粒子の製造方法。
[8][1]~[3]のいずれかに記載の熱伝導性粒子を含有する、物品。
[9]グラビアインキ、塗工液、樹脂組成物、及び接着剤組成物のいずれかである、[8]に記載の物品。
[10]熱伝導性樹脂組成物を形成するために用いられる樹脂組成物であって、
[4]又は[5]に記載の混合物と、形成用樹脂を含有する、樹脂組成物。
[11]前記形成用樹脂全体に対する前記混合物の含有量が、5質量%以上95質量%以下である、[10]に記載の樹脂組成物。
[12][9]に記載の物品を塗工して形成される、熱伝導性薄膜。
[13]放熱用部材として、電子機器用部品、電子機器用筐体、EVモーター、及びリチウム電池のいずれかに使用される、[8]に記載の物品。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、熱伝導性のみならず、耐薬品性、耐水性、及び電気絶縁性に優れているとともに、加工装置の摩耗が小さく、樹脂への練り込み性(充填性)が良好であり、さらに着色材を添加することで、成形性に優れた着色樹脂組成物等の材料や物品を製造することが可能な熱伝導性粒子、及びその製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、上記熱伝導性粒子を用いた熱伝導性の樹脂組成物及び物品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<熱伝導性粒子>
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。本実施形態に係る熱伝導性粒子は、アルミニウム原料、亜鉛原料、及び、前記アルミニウム原料及び亜鉛原料以外のその他原料を含有する原料混合物を焼成して得られるものである。また、アルミニウム原料は、アルミナ、ベーマイト、及び水酸化アルミニウムからなる群より選択される少なくとも一種である。亜鉛原料は、亜鉛の酸化物、及び塩基性炭酸塩からなる群より選択される少なくとも一種である。原料混合物は、さらに亜鉛原料と、少なくともホウ素化合物、チタン化合物、タングステン化合物、ビスマス化合物、及びフッ素化合物からなる群より選択されるその他原料を含有する。亜鉛原料の含有量は、前記アルミニウム原料100質量部に対し、20質量部超70質量部以下である。その他原料の含有量は、原料となる前記アルミニウム原料100質量部に対し、0.05質量部以上20質量部以下である。以下、本実施形態に係る熱伝導性粒子の詳細について説明する。
【0010】
本実施形態に係る熱伝導性粒子は、α-アルミナとスピネル結晶構造アルミン酸亜鉛を主成分とする。この熱伝導性粒子の体積平均粒径は、0.1μm以上50μm以下であることが好ましい。このような熱伝導性粒子をフィラーとして含有する組成物を用いることによって、組成物に高い熱伝導性を付与できることと同時に、α-アルミナ単独のものと比べて低硬度となるため、組成物を成形、又は加工する装置等の設備の摩耗を抑制することができる。平均粒子径は、レーザ回折式粒子径分布測定装置、又は透過型電子顕微鏡写真を用いて測定することができる。
【0011】
原料混合物中の亜鉛原料の含有量は、前記アルミニウム原料100質量部に対して、20質量部超70質量部以下であることが必要であり、25質量部以上65質量部以下であることがより好ましい。亜鉛原料の含有量が20質量部以下であると、硬度及び熱伝導性の改善効果を得ることができない。一方、亜鉛原料の含有量が70質量部超であると、熱伝導性がかえって低下する。アルミニウム原料と亜鉛原料は上記の範囲とすることで、諸耐性を維持しつつ、熱伝導性、耐薬品性、耐水性、及び低摩耗性に優れているとともに、樹脂への練り込み性(混和性)が良好であり、成形性に優れた樹脂組成物等の材料や物品を製造することが可能な熱伝導性粒子を得ることができる。
【0012】
前記亜鉛原料に加えて、さらに、前記アルミニウム原料及び前記亜鉛原料以外のその他原料を混合する。これらの成分は、亜鉛成分を補助する目的で使用される。酸化物原料は、α化に難のある場合、粒子径の分布を調整したい場合等の問題を解決させるために添加される。
【0013】
原料混合物中のその他原料の含有量は、原料となる前記アルミニウム原料100質量部に対して、0.05質量部以上20質量部以下であり、より好ましくは0.1質量部以上10質量部以下であり、さらに好ましくは0.1質量部以上8質量部以下であり、特に好ましくは0.5質量部以上5質量部以下である。原料となる前記アルミニウム原料100質量部に対するその他原料の量が0.05質量部未満であると、粒度分布が広く、充填性が低下する。一方、原料となる前記アルミニウム原料100質量部に対するその他原料の量が20質量部超であると、熱伝導性がかえって低下する。原料となる前記アルミニウム原料100質量部に対するその他原料の量を上記の範囲とすることで、熱伝導性粒子が熱伝導性、耐薬品性、耐水性、及び電気絶縁性に優れているとともに、低摩耗で成形性に優れた樹脂組成物等の材料又は物品を製造することが可能な熱伝導性粒子を得ることができる。
【0014】
本実施形態に係る熱伝導性粒子の樹脂添加時の粘度については、エポキシ樹脂50質量部に対して、50質量部添加した際の数値を指標とした。粘度測定に用いる試料は、自転公転式ミキサーを用いて、1,000rpmで1分間混練、2,000rpmで1分間脱泡し作製した。前記方法で得た粘度測定用樹脂組成物をE型粘度計により、測定温度25℃、コーンロータ(3°×R9.7)、回転速度100s-1の条件で測定した。その際のエポキシ樹脂組成物の粘度は、3,000mPa・s以下であることが必要であり、2,500mPa・s以下であることが好ましい。この粘度が3,000mPa・s超であると加工性に劣るためである。下限については特に限定されないが、粘度が10mPa・s未満であると、塗膜形成をすることが困難となることがある。これにより、樹脂の成形性、又は加工性に優れた熱伝導性樹脂組成物を作製することができる。
【0015】
本実施形態に係る熱伝導性粒子の摩耗性については、直径5mmのSUS304鋼球500質量部と、前記熱伝導性粒子100質量部とを広口びん250mLの円筒容器に入れ、円筒容器の円筒の中心軸を回転軸として80rpmで3時間回転させた後、篩目1mmの篩で鋼球と熱伝導性粒子を分離し、摩耗試験後の熱伝導性粒子を得た。摩耗試験前後の熱伝導性粒子それぞれ4質量部とホウ酸リチウム8質量部を混合し、乳鉢にて5分間粉砕した試料をそれぞれ作製し、蛍光X線分析装置を用いて鉄元素の強度を測定した。摩耗試験前後の鉄元素の蛍光X線の強度(kcps)について、以下の式で算出し、鋼球の摩耗度合いによって摩耗性を評価した。
摩耗度=(摩耗試験後の鉄元素の蛍光X線の強度)-(摩耗試験前の鉄元素の蛍光X線の強度)
摩耗度については、4kcps以下であることが必要である。摩耗度が4kcps超だと、熱伝導性粒子が硬いことにより、樹脂組成物として成形、加工する際にこれら装置を摩耗させてしまうため、好ましくない。
【0016】
本実施形態に係る熱伝導性粒子の熱伝導性については、エポキシ樹脂とアミン系硬化剤の混合液30質量部に対して、70質量部添加した際の数値を指標とした。熱伝導率測定に用いる試料は、直径100mm以上かつ厚み4mm以上の円形シート成形物になるように金型プレスし、設定温度120℃の条件で1時間加熱硬化し、放冷した後で中心角90°の扇型になるよう四等分に裁断して作製した。ホットディスク法熱物性測定によって熱伝導率を測定し、その際のエポキシ樹脂組成物の熱伝導率が0.80W/m・K以上であることが必要であり、0.90W/m・K以上であることがさらに好ましい。この熱伝導率が0.80W/m・K未満であると、熱伝導性の性能として不十分である。これにより、電子部品に使用した際に、高熱伝導率となり目的である放熱性能を達成することができる。
【0017】
熱伝導率及び粘度の測定に使用するエポキシ樹脂については、エポキシ当量が200g/eq以上1000g/eq以下であることが必要であり、300g/eq以上800g/eq以下であることがより好ましく、350g/eq以上700g/eq以下であることがさらに好ましい。エポキシ当量が200g/eq未満だと、硬化した際の柔軟性に劣り、また、気泡が抜けなかったり、成形が難しくなってしまうことで各種測定が困難となる。また、1000g/eq超だと、逆に粘度が低下し柔軟性が高くなりすぎてしまい、粒子が沈降してしまうことで均一な試料の作製が難しくなり、各種測定が困難となる。
また、E型粘度計により、測定温度25℃、コーンロータ(3°×R9.7)、回転速度100s-1の条件で測定したエポキシ樹脂の粘度は、400mPa・s以上900mPa・s以下であることが必要である。熱伝導性粒子50gと、エポキシ樹脂50gとを混合した際の粘度が、3,000mPa・s以下となり、成形性の良好な粘度としてより好ましい。このエポキシの粘度が400mPa・s未満であると、沈降が起こってしまい測定が困難となる。このエポキシの粘度が900mPa・s超であると、成形性が悪化する等の作業性の低下が起こり、また測定も困難となってしまい好ましくない。
【0018】
熱伝導率測定に使用するアミン系硬化剤としては、アミン価が100mgKOH/g以上500mgKOH/g以下であることが必要であり、150mgKOH/g以上450mgKOH/g以下であることがより好ましい。アミン価が100mgKOH/g未満だと、粘度が高いため、均一に混合するのが難しく、取り扱いが困難であるため好ましくない。アミン価が500mgKOH/g超だと、硬化後の樹脂が硬くなりすぎてしまい、各種測定が困難となるため好ましくない。
エポキシ樹脂とアミン系硬化剤の混合液中の比率については、エポキシ樹脂:アミン系硬化剤=3:1~4:1の範囲とした。前記配合比率から外れると、充分に硬化しないため好ましくない。アミン系硬化剤としては、エポキシ樹脂が硬化すればよく、一般的なものを使用することができる。アミン系硬化剤の例として、アミン、脂肪族アミン、芳香族アミン、及び変性アミン等が挙げられる。
【0019】
本実施形態に係る熱伝導性粒子は、熱伝導性に優れているとともに、加工装置の摩耗が小さく、耐薬品性、耐水性、及び電気絶縁性に優れている。しかも、樹脂に対する濡れ性が高く、樹脂への練り込み性(充填性)が良好であることから、成形性に優れた樹脂組成物等の材料や、塗料や接着剤組成物等の物品を製造することが可能なものである。
【0020】
本実施形態に係る熱伝導性粒子は、アルミニウム原料、亜鉛原料、及びその他原料を含有する原料混合物を焼成して得られるものであり、好ましくはα-アルミナ及びスピネル結晶構造アルミン酸亜鉛を主成分として構成されている。
【0021】
(アルミニウム原料)
アルミニウム原料としては、アルミナ、ベーマイト、及び水酸化アルミニウム等を用いることができる。アルミニウム原料の形状及び粒径は、特に限定されないが、熱伝導性粒子の分散性等を考慮すると平均粒径が0.1μm以上50μm以下の粒子であることが好ましい。より具体的なアルミニウム原料の形状としては、球状又は無定形等を挙げることができる。
【0022】
(原料混合物)
アルミニウム原料とともに用いる原料混合物は、亜鉛原料に加えて、その他原料を含む。その他原料は、ホウ素化合物、チタン化合物、タングステン化合物、ビスマス化合物、及びフッ素化合物からなる群より選択される少なくとも一種である。これらは熱伝導性粒子の分散性向上、アルミナのα化促進、又は粒子径分布調整の作用をもたらすものである。
【0023】
(亜鉛原料)
亜鉛原料としては、塩基性炭酸亜鉛、水酸化亜鉛、及び酸化亜鉛等を用いることができる。
原料の形状及び粒子径は、特に限定されないが、熱伝導性粒子の分散性等を考慮すると平均粒子径が0.1μm以上50μm以下の粒子であることが好ましい。
【0024】
(その他原料)
その他原料の例として、ホウ素化合物としては、ホウ酸、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸アンモニウム、ホウ酸マグネシウム、及びホウ酸リチウム等を挙げることができる。チタン化合物としては、ルチル型、又はアナターゼ型の酸化チタン等を挙げることができる。タングステン化合物としては、酸化タングステン、タングステン酸アンモニウム、及びタングステン酸ナトリウム等を挙げることができる。ビスマス化合物としては、酸化ビスマス、塩基性炭酸ビスマス、及びビスマス酸ナトリウム等を挙げることができる。フッ素化合物としては、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、及びフッ化アルミニウム等を挙げることができる。中でも、ホウ酸、タングステン酸ナトリウム、酸化チタン、塩基性炭酸ビスマス、フッ化ナトリウム、又はフッ化アルミニウムを用いると、充填率の高い熱伝導性粒子が形成されるため好ましい。
また、その他原料(フッ素化合物を除く)は、酸化物、オキソ酸塩、水酸化物、炭酸塩、及び塩基性炭酸塩からなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。
【0025】
(着色材)
さらに、本実施形態に係る熱伝導性粒子は、顔料や染料を添加しなくとも、鉄、コバルト、銅、マンガン、及びニッケルからなる群より選択される少なくとも一種の元素を含有させることで、着色した熱伝導性粒子とすることができる。
【0026】
(表面処理)
本実施形態に係る熱伝導性粒子には、表面処理を行ってもよい。表面処理した熱伝導性粒子は、樹脂に対する親和性及び分散性が向上するため、熱伝導性に優れた樹脂組成物等の物品を製造することができる。表面処理に使用する化合物(処理剤)としては、脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪酸金属塩、リン酸エステル、リン酸エステル金属塩、シランカップリング剤、界面活性剤、高分子凝集剤、チタネート、及びシリコーン等を挙げることができる。これらの処理剤は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。表面処理に用いる化合物の量は、熱伝導性粒子100質量部に対して、0.01質量部以上5質量部以下とすることが好ましい。処理方法としては、例えば、熱伝導性粒子の粉末に処理剤を投入し、混合して処理する方法、或いは、熱伝導性粒子の粉末を水に投入して分散させた後、さらに処理剤を投入し、濾過及び乾燥する方法等がある。
【0027】
(熱伝導性粒子の使用)
本実施形態に係る熱伝導性粒子の好ましい利用のなかでも、熱伝導性付与を目的とした、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂等の種々のプラスチックスへの添加が有効である。熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、アクリロニトリル-エチレン-スチレン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、アクリロニトリル-スチレン共重合体、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリアミド樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、熱可塑性ウレタン樹脂、ポリアミノビスマレイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアリルスルホン樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、フッ化樹脂、液晶ポリマー、オレフィン-ビニルアルコール共重合体、アイオノマー樹脂、及びポリアリレート樹脂等を用いることができる。これらの熱可塑性樹脂は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、及び(変性)ポリフェニレンエーテル等を用いることができる。これらの熱硬化性樹脂は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0028】
<熱伝導性粒子の製造方法>
次に、本実施形態に係る熱伝導性粒子の製造方法について説明する。本実施形態に係る熱伝導性粒子の製造方法は、アルミニウム原料、亜鉛原料、及び、前記アルミニウム原料及び亜鉛原料以外のその他原料を混合して原料混合物を得る工程(工程(1))と、得られた原料混合物を焼成する工程(工程(2))とを有する。
この製造方法によれば、従来のアルミナに比べ低硬度で低い機械摩耗と、高い熱伝導率の粒子が簡便に得られる。この理由については必ずしも明らかではないが、次のとおりであると本発明者らは推察している。すなわち、この熱伝導性粒子には少なくともα-アルミナとスピネル結晶構造アルミン酸亜鉛を含む。また、この粒子材料からなるフィラー組成物を構成する混在結晶はスピネル結晶構造アルミン酸亜鉛粒子間にα-アルミナ微粒子が多数存在することにより、粒子同士の接触面積が大きくなり、粒子間熱抵抗(界面熱抵抗)が小さくなる。そのため、スピネル結晶構造アルミン酸亜鉛純品より高い熱伝導性を示す。一方、スピネル結晶構造アルミン酸亜鉛粒子はα-アルミナより熱伝導性では劣るものの、機械摩耗性が優れるため、製造された熱伝導性粒子はアルミナより低い機械摩耗を有する。熱伝導性粒子中のα-アルミナとスピネル結晶構造アルミン酸亜鉛の存在比(α-アルミナ:スピネル結晶構造アルミン酸亜鉛)としては、8:2~1:9の範囲が好ましく、6:4~4:6の範囲がより好ましい。特に存在比が5:5の時に熱伝導性と硬度のバランスが良くなる。
【0029】
工程(1)では、アルミニウム原料、亜鉛原料、及びその他原料を混合する。アルミニウム原料と亜鉛原料、その他原料を混合する装置としてはポットミル、ヘンシェルミキサー、エアーミックス、コニカルブレンダー、遊星ボールミル、振動ミル、リボンミキサー、及びバーチカルブレンダー等の機器を使用して各成分を混合した後、焼成する。各成分の混合に際しては、各成分が均一となるように混合すればよい。原料混合物中の各成分の量については、前述のとおりである。
【0030】
工程(2)では、工程(1)で得た原料混合物を、1,000℃以上1,600℃以下で焼成する。また、好ましくは1,200℃以上1,500℃以下で焼成する。焼成することによって、アルミニウム原料及び亜鉛原料が結晶化したα-アルミナ及びスピネル結晶構造アルミン酸亜鉛とすることができる。
焼成温度が1,000℃未満であると、α-アルミナ及びスピネル結晶構造アルミン酸亜鉛の結晶性構造が形成されにくくなる。その際、未反応の亜鉛原料が残存するため耐久性が低下する。また、低温で生成する遷移アルミナの熱伝導率はα-アルミナの熱伝導率よりも低いため、焼成してα-アルミナ及びスピネル結晶構造アルミン酸亜鉛を形成させることが好ましい。一方、焼成温度が1,600℃を超えても、得られる熱伝導性粒子の特性は大きく変化せず、エネルギー消費が無駄になる。熱伝導性粒子中にα-アルミナとスピネル結晶構造アルミン酸亜鉛の存在を確認する手法としては、α-アルミナとスピネル結晶構造アルミン酸亜鉛の標準物質の粉末X線回折測定により得られたピークと、作製した熱伝導性粒子の粉末X線回折測定により得られたピークを比較する方法が挙げられる。α-アルミナとスピネル結晶構造アルミン酸亜鉛が含まれている場合は、ピークを足し合わせたものとなり、それぞれのピーク強度を比較することにより定量も行うことができる。焼成後、必要に応じて焼成物を解砕することで本実施形態に係る熱伝導性粒子を得ることができる。解砕については公知の方法を用いてよく、ハンマーミル、ロールミル、ボールミル、ジェットミル、ビーズミル、又は振動ミル等、従来から用いられている各種機器を使用することができる。
【0031】
<熱伝導性組成物(混合物)>
熱伝導性組成物(混合物)において、本実施形態に係る熱伝導性粒子に加え、アルミナ、窒化ホウ素、グラファイト、酸化亜鉛、硫酸バリウム、タルク、及び酸化マグネシウム等、その他の熱伝導性フィラーと組み合わせて使用するのも好ましい様態である。以下その詳細について説明する。
【0032】
一般的なフィラーは、強度又は機能性の向上等を目的として、樹脂、ゴム、及び塗料等の材料に添加される。熱伝導性フィラーの配合量が増加すると、通常、樹脂等の材料の溶融流動性及び機械的強度が低下する。また、カーボン系フィラーは導電性を有するため、樹脂に配合すると樹脂本来の特徴である絶縁性が損なわれやすいといった問題がある。さらに、セラミック系フィラーは絶縁性を有するが、熱伝導性が低い等の問題がある。熱伝導性フィラーには、例えば、銀、銅、アルミニウム、及び鉄等の金属系フィラー;アルミナ、マグネシア、シリカ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、炭化ホウ素、及び炭化チタン等の無機系フィラー;並びに、ダイヤモンド、黒鉛、及びグラファイト等の炭素系フィラー等がある。高い電気絶縁性が要求される電子機器等では、アルミナ、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、シリカ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、及びダイヤモンド等のフィラーが好ましいとされている。しかし、これらのフィラーは、耐水性、耐薬品性、硬度、及び電気絶縁性の面で課題が多い。
【0033】
これに対して、本実施形態に係る熱伝導性粒子は、以上の各種フィラーの弱点が改善され、優れた特性を有していることから改良フィラーとして好適に用いることができる。さらに、既存の熱伝導性フィラーの弱点を補うべく、上記の各種熱伝導性フィラーとともに利用することも好ましい。すなわち、上記の各種熱伝導性フィラーを含有する熱伝導性組成物において、本実施形態に係る熱伝導性粒子の使用は、目的とする特性に応じて調製される好ましい態様である。熱伝導性フィラーの添加量としては、熱伝導性粒子100質量部に対して、10質量部以上150質量部以下であることが好ましい。熱伝導性フィラーの添加量が10質量部未満であると、熱伝導性フィラーの効果が得られにくいことがある。熱伝導性フィラーの添加量が150質量部超であると、逆に熱伝導性粒子の効果が得られにくいことがある。
【0034】
<物品>
本実施形態に係る物品は、前述の熱伝導性粒子を含有する、例えば、グラビアインキ、塗工液、樹脂組成物、及び接着剤組成物等の物品(熱伝導性物品、熱伝導性材料)である。なお、本実施形態に係る物品には、必要に応じて、前述の各種熱伝導性フィラーがさらに含有されていることも好ましい。
【0035】
(グラビアインキ)
本実施形態に係る熱伝導性粒子は、電池用包装材料用のトップコート剤等として用いられるグラビアインキに添加して用いることができる。グラビアインキ中の熱伝導性粒子の含有量は、グラビアインキ全体に対して、5質量%以上80質量%以下であることが好ましく、10質量%以上50質量%以下であることがさらに好ましい。このようなグラビアインキ(電池用包装材料用のトップコート剤)を使用すれば、耐酸性等の耐薬品性に優れているとともに、熱伝導率が高く、かつ、熱放射率も高い電池用包装材料を作製することができる。
【0036】
(塗工液)
本実施形態に係る熱伝導性粒子は、塗料等の塗工液に添加して用いることができる。塗工液は、熱伝導性粒子とともに、例えば、着色剤、被膜又は成形物形成用の樹脂、及び有機溶剤等をビヒクルに混合及び分散させて得られる着色用製剤とすることもできる。塗工液中の熱伝導性粒子の含有量は、塗工液全体に対して、5質量%以上80質量%以下であることが好ましく、10質量%以上70質量%以下であることがさらに好ましい。このようにして調製される塗工液を用いて形成した塗工被膜や塗工成形物は、耐水性、耐薬品性、及び絶縁性に優れているとともに、強度が保持され、かつ、熱伝導性にも優れている。
【0037】
塗工液に含有させることのできる樹脂の具体例としては、ポリオレフィン系、ポリエステル系、ポリスチレン系、アクリル系、フッ素系、ポリアミド系、セルロース系、ポリカーボネート系、又はポリ乳酸系の熱可塑性樹脂;並びに、ウレタン系、フェノール系、又はシリコーン系の熱硬化性樹脂等を挙げることができる。これらの樹脂は、エマルジョンであってもよい。
【0038】
塗工液に含有させることのできる液媒体の具体例としては、水、メタノール、エタノール、ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、キシレン、ブチルアセテート、及びシクロヘキサン等を挙げることができる。これら液媒体は、2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0039】
塗工液には、用途に応じて、本発明の目的を損なわない範囲で「その他の成分」を適宜選択して含有させることができる。「その他の成分」の具体例としては、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、分散剤、帯電防止剤、滑剤、及び殺菌剤等を挙げることができる。
【0040】
塗工液を塗工する方法としては、従来公知の方法を採用することができる。具体的には、スプレー塗装、ハケ塗り、静電塗装、カーテン塗装、又はロールコータを用いる方法、或いは浸漬による方法等を挙げることができる。また、塗工した塗工液を被膜とするための乾燥方法としても、従来公知の方法を採用することができる。具体的には、自然乾燥、又は焼き付け等の方法を、塗工液の性状等に応じて適宜選択して採用すればよい。
【0041】
塗工液を用いれば、基材上に塗工して得られる塗工被膜や塗工成形物を作製することができる。基材としては、金属、ガラス、天然樹脂、合成樹脂、セラミックス、木材、紙、繊維、不織布、織布、及び皮革等を用途に応じて選択することができる。なお、このようにして機能性が付与された塗工被膜は、家庭用以外にも、工業、農業、鉱業、又は漁業等の各産業に利用することができる。また、塗工形状にも制限はなく、シート状、又はフィルム状等、用途に応じて選択することができる。
【0042】
(樹脂組成物)
本実施形態に係る熱伝導性粒子をポリアミド樹脂やポリオレフィン樹脂等の樹脂に配合することで、樹脂組成物とすることができる。より具体的には、樹脂に対して、必要に応じてその他の添加剤とともに熱伝導性粒子を公知の方法に準じて配合及び混合すれば、樹脂組成物を得ることができる。さらに、得られた樹脂組成物を押出成形機に供して成形すれば、所定の樹脂成形物を製造することができる。樹脂組成物中の熱伝導性粒子の含有量は、樹脂組成物全体に対して、5質量%以上95質量%以下であることが好ましい。熱伝導性粒子の含有量を上記の範囲とすることで、耐水性、耐薬品性、及び絶縁性により優れているとともに、強度がさらに保持され、かつ、より成形性に優れた樹脂組成物とすることができる。熱伝導性粒子の含有量が95質量%超であると、強度や成形性が低下する場合がある。一方、熱伝導性粒子の含有量が5質量%未満であると、熱伝導性が不足する場合がある。
【0043】
樹脂への熱伝導性粒子の添加方法は特に限定されず、従来公知の方法を採用することができる。例えば、熱伝導性粒子を樹脂に直接配合して、混練及び成形加工する方法の他、熱伝導性粒子を樹脂や滑剤等に予め高濃度に分散させておいた組成物(マスターバッチ)を使用する方法等がある。その他の添加剤としては、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、抗菌剤、安定剤、架橋剤、可塑剤、潤滑剤、離型剤、難燃剤、並びに、タルク、アルミナ、クレー、及びシリカ等の無機充填剤等を挙げることができる。また、熱伝導性粒子の分散助剤として、金属石けん、及びポリエチレンワックス等を用いることもできる。金属石けんとしては、例えば、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、パルミチン酸マグネシウム、オレイン酸カルシウム、及びオレイン酸コバルト等を挙げることができる。ポリエチレンワックスとしては、例えば、一般重合型、分解型、又は変成型等の各種ポリエチレンワックスを用いることができる。
【0044】
なお、上述の塗工液や樹脂組成物には、各種の有機顔料や無機顔料を着色剤として配合することもできる。着色剤としては、例えば、フタロシアニン系顔料、アゾ系顔料、アゾメチン系顔料、イソインドリノン系顔料、キナクリドン系顔料、アンスラキノン系顔料、ジオキサジン系顔料、及びペリノン・ペリレン系顔料等の有機顔料;黒色以外の複合酸化物系顔料;酸化チタン系白色顔料、酸化チタン系黄色顔料、及び酸化チタン系黒色顔料等の酸化チタン系顔料;並びに、カーボンブラック、群青、及びベンガラ等の無機顔料等を挙げることができる。なお、フタロシアニン系顔料としては、臭素化フタロシアニンブルー顔料、フタロシアニングリーン顔料等を挙げることができる。また、アゾ系顔料としては、ポリ縮合アゾ系顔料、アゾメチンアゾ系顔料等を挙げることができる。
【0045】
さらに、コンパウンド用樹脂に対して、熱伝導性粒子、各種顔料、及び添加剤等を配合したマスターバッチコンパウンドを、押出成形機等を使用して溶融混練することによっても樹脂組成物を得ることができる。より具体的には、(i)コンパウンド用樹脂に熱伝導性粒子及び分散助剤を配合するとともに、必要に応じてその他の添加剤を添加して、ヘンシェルミキサー等の混合機を使用して混合する方法;(ii)マスターバッチコンパウンドをニーダーや加熱二本ロールミルを使用して混練した後、冷却してから粉砕機で粉砕して粗粉状にする方法;或いは、(iii)マスターバッチコンパウンドを押出成形機に供し、押出成形してビーズ状や柱形状等の形状に成形する方法等によって、樹脂組成物を得ることができる。成形方法は特に限定されず、例えば、射出成形法、押出成形法、加熱圧縮成形法、ブロー成形法、インフレーション成形法、又は真空成形法等を採用すればよい。
【0046】
(接着剤組成物)
本実施形態に係る熱伝導性粒子は、接着剤に添加して接着剤組成物として用いることができる。接着剤に含有される樹脂の種類は限定されず、ウレタン系、エポキシ系、酢酸ビニル系、又はアクリル系等の接着性を有する樹脂であればよい。また、接着機構についても限定されず、化学反応型、溶剤揮発型、熱溶融型、又は熱圧型等のいずれであってもよい。接着剤組成物中の熱伝導性粒子の含有量は、接着剤組成物全体に対して、5質量%以上80質量%以下であることが好ましく、10質量%以上50質量%以下であることがさらに好ましい。熱伝導性粒子の含有量を上記の範囲とすることで、熱伝導性、接着性、耐水性、耐薬品性、及び絶縁性により優れた接着剤組成物とすることができる。熱伝導性粒子の含有量が80質量%超であると、接着強度が不足する場合がある。一方、熱伝導性粒子の含有量が5質量%未満であると、熱伝導性が不足する場合がある。
【0047】
本実施形態に係る熱伝導性粒子は、上述のようなグラビアインキ、塗工液、樹脂組成物、及び接着剤組成物等の熱伝導性物品や熱伝導性材料とし、これを用いることで、放熱性(熱伝導性)と同時に、優れた耐薬品性、耐水性、及び絶縁性を有する電子デバイスとしても使用することができる。より具体的には、金属回路基板、回路基板、金属積層板、内層回路入り金属張積層板、電池用包装材料、封止材、又は保護シート等に利用することができる。さらに、接着性シート、放熱シート、放熱コート剤、半導体封止剤、接着剤、放熱スペーサー、グリース等として使用することができる。
【0048】
<液状組成物(樹脂組成物)>
本実施形態に係る液状組成物(樹脂組成物)は、熱伝導性薄膜を形成するために用いられる液状組成物であって、前述の熱伝導性粒子を含む熱伝導性成分(混合物)と、形成用樹脂と、任意成分として液媒体と、を含有するものである。なお、この熱伝導性成分は、硫酸バリウム、タルク、窒化ホウ素、及び酸化マグネシウムからなる群より選択される少なくとも一種をさらに含有することが好ましい。
液状組成物中の熱伝導性粒子の含有量は、液状組成物全体に対して、5質量%以上80質量%以下であることが好ましく、10質量%以上70質量%以下であることがさらに好ましい。また、形成用樹脂100質量部に対する熱伝導性成分(混合物)の含有量は、20質量部以上600質量部以下であることが好ましく、20質量部以上200質量部以下であることがより好ましい。このようにして調製される液状組成物を用いて形成した熱伝導性薄膜は、耐水性、耐薬品性、及び絶縁性に優れているとともに、強度が保持され、かつ、熱伝導性にも優れている。
【0049】
形成用樹脂は、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ウレア系樹脂、エポキシ系樹脂、ゴム系樹脂、フッ素系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、シリコーン系樹脂、セルロース系樹脂、及び熱可塑性エラストマーからなる群より選択される少なくとも一種の溶剤可溶性樹脂である。また、液媒体としては、前述の塗工液で用いる液媒体と同様のものである。
【0050】
<熱伝導性薄膜及び電子機器用部材>
本実施形態に係る熱伝導性薄膜は、前述の物品又は前述の液状組成物(樹脂組成物)を塗工して形成される薄膜である。熱伝導性薄膜の厚みは、20μm以上1000μm以下であることが好ましく、50μm以上200μm以下であることがより好ましい。
また、本実施形態に係る熱伝導性薄膜は、電子機器用部材にも使用できる。この電子機器用部材は、金属製部材と、前記金属製部材の表面上に配置された前述の熱伝導性薄膜と、を備える部材である。
金属製部材としては、金属回路基板、回路基板、金属積層板、及び内層回路入り金属張積層板等を挙げることができる。
【0051】
本実施形態に係る樹脂組成物としては、電子機器用、モーター(例えば、EVモーター)、リチウム電池用等の筐体に使用することで、内部の熱を効率よく外部へ放出でき、従来の金属用筐体に比較して軽量化が可能となる。また、本実施形態に係る物品は、放熱用部材として、電子機器用部品にも使用できる。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0053】
<アルミニウム原料>
以下に示すアルミニウム原料を用いた。
・A-1:水酸化アルミニウム(球状、平均粒子径6μm)
・A-2:水酸化アルミニウム(球状、平均粒子径1μm)
・A-3:ベーマイト(球状、平均粒子径1μm)
・A-4:真球アルミナ(球状、平均粒子径3μm)
・A-5:γ-アルミナ(不定形状、平均粒子径0.1μm)
【0054】
<亜鉛原料>
以下に示す亜鉛原料を用いた。
・B-1:塩基性炭酸亜鉛(平均粒子径10μm)
・B-2:酸化亜鉛(平均粒子径1μm)
・B-3:アルミン酸亜鉛(平均粒子径10μm)
【0055】
<その他原料>
以下に示す原料を用いた。
・C-1:ホウ酸
・C-2:タングステン酸ナトリウム二水和物
・C-3:酸化チタン
・C-4:塩基性炭酸ビスマス
・C-5:フッ化ナトリウム
・C-6:フッ化アルミニウム
【0056】
<熱伝導性フィラー>
以下に示すフィラーを用いた。
・D-1:硫酸バリウム(平均粒子径0.9μm)
・D-2:タルク(平均粒子径4.3μm)
・D-3:窒化ホウ素(平均粒子径20μm)
・D-4:酸化マグネシウム(平均粒子径20μm)
【0057】
<熱伝導性粒子の製造>
(実施例1)
水酸化アルミニウム(A-1)100部、塩基性炭酸亜鉛(B-1)27.3部、ホウ酸(C-1)0.5部、タングステン酸ナトリウム二水和物(C-2)0.5部を小型ミキサーに投入し、撹拌混合して原料混合物を得た。得られた原料混合物を、空気中、1,250℃で3時間焼成した後に解砕して、粉末状の熱伝導性粒子を得た。粉末X線回折測定により、α-アルミナとスピネル結晶構造アルミン酸亜鉛の存在を確認した。
【0058】
(実施例2~22)
表1に示す種類及び量の原料を用いたこと以外は、前述の実施例1と同様にして粉末状の熱伝導性粒子を得た。なお、実施例18~22の熱伝導性フィラーについては、焼成後の熱伝導性粒子100質量部に対して、表に記載の量を添加し、その後小型ミキサーにて撹拌混合した。粉末X線回折測定により、α-アルミナとスピネル結晶構造アルミン酸亜鉛の存在を確認した。
【0059】
(比較例1~11、及び14)
表1に示す種類及び量の原料を用いたこと以外は、前述の実施例1と同様にして粉末状の熱伝導性粒子を得た。なお、比較例11の熱伝導性フィラーについては、焼成後の熱伝導性粒子100質量部に対して、表に記載の量を添加し、その後小型ミキサーにて撹拌混合した。粉末X線回折測定により、α-アルミナとスピネル結晶構造アルミン酸亜鉛の存在を確認した。
【0060】
(比較例12、13、及び15~17)
表1に示す原料単体をそれぞれ比較例12、13、及び15~17の試料とした。
【0061】
(比較例18)
表1に示す種類及び量の原料を用い、焼成温度を900℃としたこと以外は前述の実施例1と同様にして粉末状の熱伝導性粒子を得た。粉末X線回折測定をしたが、α-アルミナの存在は確認できなかった。
【0062】
【0063】
(熱伝導率の測定)
エポキシ樹脂(三菱ケミカル社製、グレード871、エポキシ当量390~470g/eq、粘度400~900mPa・s)とアミン系硬化剤(ADEKA社製、EH-6024、アミン価370mgKOH/g)を3.5:1の比率で混合した混合液30部と、得られた熱伝導性粒子70部を混練して得た樹脂組成物を、直径100mm以上、厚み4mmの円形シート成形物になるように金型プレスした。その後、設定温度120℃の条件で1時間加熱硬化し、放冷した後で中心角90°の扇型になるよう四等分に裁断し試験片を作製した。ホットディスク法熱物性測定装置(商品名「TPS-2500S」、京都電子工業社製)を使用して、作製した試験片の熱伝導率を測定した。結果を表2に示す。
【0064】
(粘度の測定)
得られた熱伝導性粒子50gをエポキシ樹脂(三菱ケミカル社製、グレード871、エポキシ当量390~470g/eq、粘度400~900mPa・s)50gに加え、手練りした。手練りした樹脂組成物を自転公転式ミキサーにより混練した(混練:1000rpm、1分間、脱泡:2000rpm、1分間)。上記方法で得た粘度測定用樹脂組成物をE型粘度計(商品名「TV-100EH/200」、東機産業社製)により、測定温度25℃、コーンロータ(3°×R9.7)、回転速度100s-1における粘度測定を行った。以下の基準で判定した。結果を表2に示す。
○:3000mPa・s以下
×:3000mPa・s超
【0065】
(摩耗試験)
直径5mmの材質SUS304の鋼球(商品名「1-9762-02」、ミスミ社製)500g程度と、質量100g程度の得られた熱伝導性粒子とをアイボーイ広口びん250mL(直径62mm、長さ132mm、アズワン社製)の円筒容器に入れ、円筒容器の円筒の中心軸を回転軸として80rpmで3時間回転させた後、篩目1mmの篩で鋼球とを熱伝導性粒子を分離し、摩耗試験後の熱伝導性粒子を得た。摩耗度の測定は、摩耗試験後の熱伝導性粒子4gとホウ酸リチウム8gを混合し、乳鉢にて5分間粉砕した。同様に、摩耗試験前の熱伝導性粒子を乳鉢にて混合、粉砕し、蛍光X線分析装置(商品名「ZSX PrimusII」、株式会社リガク社製)を用いて鉄元素の強度を測定した。摩耗試験前後の鉄元素の蛍光X線の強度(kcps)の差を以下の式で算出した。結果を表2に示す。
摩耗度=(摩耗試験後の鉄元素の蛍光X線の強度)-(摩耗試験前の鉄元素の蛍光X線の強度)
○:摩耗度が4kcps以下
△:摩耗度が4kcps超、8kcps以下
×:摩耗度が8kcps超
【0066】
(耐酸性)
上記で調製した熱伝導性粒子70質量部を含む樹脂組成物からなる評価用樹脂成形体を20mm×20mm×60mmの大きさに切り出して、50℃に加熱されたpH2.0の塩酸溶液に、得られた成形体を3時間浸漬した。浸漬前後で耐電圧を測定し、得られた測定値を用いて、耐酸性を以下の基準で判定した。結果を表2に示す。
<耐酸性の判定基準>
○:浸漬前の初期値からの浸漬後の耐電圧の低下が10%未満
△:浸漬前の初期値からの浸漬後の耐電圧の低下が10%以上、50%未満
×:浸漬前の初期値からの浸漬後の耐電圧の低下が50%以上
【0067】
(耐水性)
熱伝導性粒子を5部用い、純水100部に浸漬し、容器に入れて100℃で5分間煮沸した後、濾過し、その濾液を測定用試料とした。上記のようにして調製した測定用試料を用い、電気伝導度計にて電気伝導度を測定し、下記の基準で判定し評価した。結果を表2に示す。
<耐水性の判定基準>
○:浸漬前の初期値からの浸漬後の電気伝導度の上昇が300μS/cm未満
△:浸漬前の初期値からの浸漬後の電気伝導度の上昇が300μS/cm以上、1000μS/cm未満
×:浸漬前の初期値からの浸漬後の電気伝導度の上昇が1000μS/cm以上
【0068】
【0069】
(参考実施例1)
熱伝導率を測定の際、熱伝導性粒子70部について、実施例1で得られた熱伝導性粒子を70部用いて試験片を作製した。熱伝導性の試験方法として、ポリプロピレン(プライムポリマー社製、MFR:20g/10min)30部と、熱伝導性粒子70部とを混合して得た樹脂組成物をプラストミルに入れ、設定温度200℃の条件で溶融混練した。次いで、縦20mm×横20mm×高さ6mmの金型を用いて175℃の条件で金型プレス成形して試験片を作製した。熱物性測定装置(商品名「TPS-2500S」、京都電子工業社製)を使用して作製した試験片の熱伝導率を測定した。この時の熱伝導率は1.18W/m・Kであった。
【0070】
(参考実施例2)
実施例1で得られた熱伝導性粒子を60部、及び特許第7185798号の実施例3に記載の熱伝導性丸み盤状粒子を10部用いて試験片を作製した以外は、参考実施例1と同様にして試験片を作製した。この時の熱伝導率は1.19W/m・Kであり、異なる形状の粒子を混合しても、熱伝導性粒子のみを用いた場合とほぼ同様に実施例範囲内の結果となった。
【0071】
(参考比較例1)
比較例7で得られた熱伝導性粒子を70部用いて試験片を作製した以外は、参考実施例1と同様にして試験片を作製した。この時の熱伝導率は0.92W/m・Kであった。
【0072】
(参考比較例2)
比較例14で得られた熱伝導性粒子を70部用いて試験片を作製した以外は、参考実施例1と同様にして試験片を作製した。この時の熱伝導率は1.07W/m・Kであった。
【0073】
<接着剤の調製及び評価>
(応用例1、及び比較応用例1)
実施例1及び比較例13で得られた熱伝導性粒子をそれぞれ35部と、粘度300mPa・sのポリエステルポリオール65部とを混合し、ディスパーを用いて分散させて分散液を調製した。調製した分散液98部と、粘度2,600mPa・sのポリイソシアネート2部とを混合し、ディゾルバーを用いて撹拌して、ウレタン樹脂系の化学反応型接着剤を得た。ガラス棒を用いて得られた各接着剤を離型紙に均一に塗布した後、100℃のオーブンに2分間入れて溶剤分を揮発させた。さらに、40℃のオーブンに96時間入れて、接着剤の硬化皮膜(応用例1、及び比較応用例1)を形成した。この硬化皮膜の熱伝導率を測定したところ、比較例13のα-アルミナを用いて形成した比較応用例1の硬化皮膜の熱伝導率は0.49W/m・Kであった。これに対して、実施例1の熱伝導性粒子を用いて形成した応用例1の硬化皮膜の熱伝導率は0.56W/m・Kと高いことが分かった。
【0074】
<熱伝導性粒子の評価>
(熱伝導率(ブロック)の測定)
ポリプロピレン(プライムポリマー社製、MFR:20g/10min)50部、及び各熱伝導性成分50部を混合して得た樹脂組成物をプラストミルに入れ、設定温度200℃の条件で溶融混練した。次いで、縦20mm×横20mm×高さ6mmの金型を使用し、175℃の条件で金型プレス成形して試験片を得た。熱物性測定装置(商品名「TPS-2500S」、京都電子工業社製)の「標準等方性測定モジュール」にて得られた試験片の熱伝導率を測定した。比較例13のα-アルミナを用いて形成したの熱伝導率は0.43W/m・Kであった。これに対して、実施例4の熱伝導性粒子を用いて形成した熱伝導率は0.59W/m・Kと高いことが分かった。
【0075】
(絶縁破壊強さ)
ポリプロピレン(プライムポリマー社製、MFR 20g/10min)30部と、熱伝導性粒子70部とを混合して得た樹脂組成物をプラストミルに入れ、設定温度200℃の条件で溶融混練した。次いで、175℃の条件で金型プレス成形して評価用成形体を作製した。得られた評価用成形体を100mm×100mm×厚さ1mmの大きさに切りだして試験片を得た。得られた試験片を油中に浸漬し、交流10mA、昇圧速度2kV/secの条件下、JIS K6911及びC2110-1に準拠して絶縁破壊電圧を測定した。測定した絶縁破壊電圧の値を試験片の厚さ(mm)で割って得た絶縁破壊強さ(kV/mm)の値を表3に示す。
【0076】
【要約】
【課題】熱伝導性のみならず、低硬度で加工装置への摩耗が少なく、耐薬品性、耐水性、及び電気絶縁性に優れているとともに、樹脂への練り込み性(充填性)が良好であり、成形性に優れた樹脂組成物等の材料や物品を製造することが可能な低硬度熱伝導性粒子を提供する。
【解決手段】アルミニウム原料、亜鉛原料、及び、前記アルミニウム原料及び亜鉛原料以外のその他原料を焼成してなる焼成物を少なくとも含有する熱伝導性粒子であって、前記アルミニウム原料100質量部に対する亜鉛原料の含有量が20質量部超70質量部以下であり、前記その他原料が、ホウ素化合物、タングステン化合物、チタン化合物、ビスマス化合物、及びフッ素化合物からなる群より選択される少なくとも一種を含有し、前記アルミニウム原料100質量部に対して、前記その他原料の含有量が0.05質量部以上20質量部以下であり、所定条件を満たす、熱伝導性粒子。
【選択図】なし