(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-29
(45)【発行日】2023-10-10
(54)【発明の名称】圧縮機および空気調和装置
(51)【国際特許分類】
F04C 18/356 20060101AFI20231002BHJP
F04C 15/00 20060101ALI20231002BHJP
【FI】
F04C18/356 D
F04C15/00 B
(21)【出願番号】P 2023093932
(22)【出願日】2023-06-07
【審査請求日】2023-06-07
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】316011466
【氏名又は名称】日立ジョンソンコントロールズ空調株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000420
【氏名又は名称】弁理士法人MIP
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 敬悟
【審査官】丹治 和幸
(56)【参考文献】
【文献】特許第6913502(JP,B2)
【文献】特開平09-079158(JP,A)
【文献】特開2010-031733(JP,A)
【文献】実開昭57-176686(JP,U)
【文献】国際公開第2012/001989(WO,A1)
【文献】特開2012-052522(JP,A)
【文献】特開2006-177228(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 18/32
F04C 18/344
F04C 18/356
F04C 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機と、
前記電動機により回転し、偏心部を備えた回転軸と、
前記回転軸を回転可能に支持する第1および第2の軸受と、前記偏心部が挿嵌される中空の円筒体と、前記第1および第2の軸受とともに圧縮室を構成し、前記圧縮室内で回転する前記円筒体により流体を圧縮する中空の筒状体とを備える圧縮機構と
を含み、
前記第1の軸受に対向する前記円筒体の第1の端面の幅が、前記第2の軸受に対向する前記円筒体の第2の端面の幅より大きく、かつ、
前記円筒体の前記第1の軸受側の内径をd
1とし、前記円筒体の前記第2の軸受側の内径をd
2とし、前記回転軸の断面の中心から前記偏心部の断面の中心までの距離を示す偏心量をeとし、前記第1の軸受と前記円筒体と
の間、前記第1の軸受と前記回転軸と
の間、および前記第1の軸受と前記偏心部との間に設けられ、前記回転軸の軸方向への平面視において、前記第1の軸受の前記回転軸が挿入される穴の周囲にリング状に形成される第1の溝により形成された第1の空間内に流入した前記流体により圧力が加えられる前記圧縮室の第1の軸受側
端面のリング形状の範囲を第1の圧力範囲
とし、前記第1の軸受側端面のリング形状の範囲の外径である前記第1の圧力範囲の径をD
1とし、前記第2の軸受と前記円筒体と
の間、前記第2の軸受と前記回転軸と
の間、および前記第2の軸受と前記偏心部との間に設けられ、前記回転軸の軸方向への平面視において、前記第2の軸受の前記回転軸が挿入される穴の周囲にリング状に形成される第2の溝により形成された第2の空間内に流入した前記流体により圧力が加えられる前記圧縮室の前記第2の軸受側
端面のリング形状の範囲を第2の圧力範囲
とし、前記第2の軸受側端面のリング形状の範囲の外径である前記第2の圧力範囲の径をD
2とした場合に、d
1<d
2、かつ、D
2<D
1、かつ、d
2-2e≦D
2が成立することを特徴とする、圧縮機。
【請求項2】
前記円筒体の内側で、かつ、前記第1の軸受側および前記第2の軸受側の角部は、面取りされており、
前記回転軸の軸方向への平面視において、前記円筒体の、前記第1の軸受側の面取りされた部分の面積と、前記円筒体の、前記第1の軸受側の端面と前記第1の圧力範囲とが重なる部分の面積との和をA
1とし、前記円筒体の、前記第2の軸受側の面取りされた部分の面積と、前記円筒体の、前記第2の軸受側の端面と前記第2の圧力範囲とが重なる部分の面積との和をA
2とした場合に、A
1とA
2とが同一であることを特徴とする、請求項1に記載の圧縮機。
【請求項3】
前記円筒体の内側で、かつ、前記第1の軸受側および前記第2の軸受側の角部は、面取りされており、
前記回転軸の軸方向への平面視において、前記円筒体の、前記第1の軸受側の面取りされた部分の面積と、前記円筒体の、前記第1の軸受側の端面と前記第1の圧力範囲とが重なる部分の面積との和をA
3とし、前記円筒体の、前記第2の軸受側の面取りされた部分の面積と、前記円筒体の、前記第2の軸受側の端面と前記第2の圧力範囲とが重なる部分の面積との和をA
4とした場合に、A
4<A
3が成立することを特徴とする、請求項1に記載の圧縮機。
【請求項4】
前記第1の圧力範囲の径をD
1とし、前記第2の圧力範囲の径をD
2とし、前記回転軸の断面の中心から前記第1の軸受上を摺動する前記偏心部の最も離間した縁部までの距離を示す第1のスラスト面の最大寸法をL
1とし、前記回転軸の断面の中心から前記第2の軸受上を摺動する前記偏心部の最も離間した縁部までの距離を示す第2のスラスト面の最大寸法をL
2とした場合に、D
1<2×L
1、かつ、D
2<2×L
2が成立することを特徴とする、請求項1に記載の圧縮機。
【請求項5】
電動機と、
前記電動機により回転し、偏心部を備えた回転軸と、
前記回転軸を回転可能に支持する第1および第2の軸受と、前記偏心部が挿嵌される中空の円筒体と、前記第1および第2の軸受とともに圧縮室を構成し、前記圧縮室内で回転する前記円筒体により流体を圧縮する中空の筒状体とを備える圧縮機構と
を含み、
前記円筒体の内側で、かつ、前記第1の軸受側および前記第2の軸受側は、面取りされており、
前記第1の軸受に対向する前記円筒体の第1の端面の幅が、前記第2の軸受に対向する前記円筒体の第2の端面の幅より大きく、かつ、
前記円筒体の前記第1の軸受側の内径をd
1とし、前記円筒体の前記第2の軸受側の内径をd
2とし、前記回転軸の断面の中心から前記偏心部の断面の中心までの距離を示す偏心量をeとし、前記第1の軸受と前記円筒体と
の間、前記第1の軸受と前記回転軸と
の間、および前記第1の軸受と前記偏心部との間に設けられ、前記回転軸の軸方向への平面視において、前記第1の軸受の前記回転軸が挿入される穴の周囲にリング状に形成される第1の溝により形成された第1の空間内に流入した前記流体により圧力が加えられる前記圧縮室の第1の軸受側
端面のリング形状の範囲を第1の圧力範囲
とし、前記第1の軸受側端面のリング形状の範囲の外径である前記第1の圧力範囲の径をD
1とし、前記第2の軸受と前記円筒体と
の間、前記第2の軸受と前記回転軸と
の間、および前記第2の軸受と前記偏心部との間に設けられ、前記回転軸の軸方向への平面視において、前記第2の軸受の前記回転軸が挿入される穴の周囲にリング状に形成される第2の溝により形成された第2の空間内に流入した前記流体により圧力が加えられる前記圧縮室の前記第2の軸受側
端面のリング形状の範囲を第2の圧力範囲
とし、前記第2の軸受側端面のリング形状の範囲の外径である前記第2の圧力範囲の径をD
2とした場合に、d
1<d
2、かつ、D
2<D
1、かつ、D
2<d
2-2e、かつ、d
1-2e≦D
1が成立し、かつ、
前記回転軸の軸方向への平面視において、前記円筒体の、前記第1の軸受側の面取りされた部分の面積と、前記円筒体の、前記第1の軸受側の端面と前記第1の圧力範囲とが重なる部分の面積との和をA
5とし、前記円筒体の、前記第2の軸受側の面取りされた部分の面積と、前記円筒体の、前記第2の軸受側の端面と前記第2の圧力範囲とが重なる部分の面積との和をA
6とした場合に、A
5とA
6とが同一であることを特徴とする、圧縮機。
【請求項6】
電動機と、
前記電動機により回転し、偏心部を備えた回転軸と、
前記回転軸を回転可能に支持する第1および第2の軸受と、前記偏心部が挿嵌される中空の円筒体と、前記第1および第2の軸受とともに圧縮室を構成し、前記圧縮室内で回転する前記円筒体により流体を圧縮する中空の筒状体とを備える圧縮機構と
を含み、
前記円筒体の内側で、かつ、前記第1の軸受側および前記第2の軸受側は、面取りされており、
前記第1の軸受に対向する前記円筒体の第1の端面の幅が、前記第2の軸受に対向する前記円筒体の第2の端面の幅より大きく、かつ、
前記円筒体の前記第1の軸受側の内径をd
1とし、前記円筒体の前記第2の軸受側の内径をd
2とし、前記回転軸の断面の中心から前記偏心部の断面の中心までの距離を示す偏心量をeとし、前記第1の軸受と前記円筒体と
の間、前記第1の軸受と前記回転軸と
の間、および前記第1の軸受と前記偏心部との間に設けられ、前記回転軸の軸方向への平面視において、前記第1の軸受の前記回転軸が挿入される穴の周囲にリング状に形成される第1の溝により形成された第1の空間内に流入した前記流体により圧力が加えられる前記圧縮室の第1の軸受側
端面のリング形状の範囲を第1の圧力範囲
とし、前記第1の軸受側端面のリング形状の範囲の外径である前記第1の圧力範囲の径をD
1とし、前記第2の軸受と前記円筒体と
の間、前記第2の軸受と前記回転軸と
の間、および前記第2の軸受と前記偏心部との間に設けられ、前記回転軸の軸方向への平面視において、前記第2の軸受の前記回転軸が挿入される穴の周囲にリング状に形成される第2の溝により形成された第2の空間内に流入した前記流体により圧力が加えられる前記圧縮室の前記第2の軸受側
端面のリング形状の範囲を第2の圧力範囲
とし、前記第2の軸受側端面のリング形状の範囲の外径である前記第2の圧力範囲の径をD
2とした場合に、d
1<d
2、かつ、D
2<D
1、かつ、D
2<d
2-2e、かつ、d
1-2e≦D
1が成立し、かつ、
前記回転軸の軸方向への平面視において、前記円筒体の、前記第1の軸受側の面取りされた部分の面積と、前記円筒体の、前記第1の軸受側の端面と前記第1の圧力範囲とが重なる部分の面積との和をA
7とし、前記円筒体の、前記第2の軸受側の面取りされた部分の面積と、前記円筒体の、前記第2の軸受側の端面と前記第2の圧力範囲とが重なる部分の面積との和をA
8とした場合に、A
8<A
7が成立することを特徴とする、圧縮機。
【請求項7】
前記回転軸の断面の中心から前記第1の軸受上を摺動する前記偏心部の最も離間した縁部までの距離を示す第1のスラスト面の最大寸法をL
1とし、前記回転軸の断面の中心から前記第2の軸受上を摺動する前記偏心部の最も離間した縁部までの距離を示す第2のスラスト面の最大寸法をL
2とした場合、D
1<2×L
1、かつ、D
2<2×L
2が成立することを特徴とする、請求項5または6に記載の圧縮機。
【請求項8】
前記圧縮機構が、前記第1の軸受と前記第2の軸受との間に1以上の隔壁板を備え、複数の圧縮室を有する、請求項1、5または6に記載の圧縮機。
【請求項9】
圧縮機を備える空気調和装置であって、前記圧縮機が、
電動機と、
前記電動機により回転し、偏心部を備えた回転軸と、
前記回転軸を回転可能に支持する第1および第2の軸受と、前記偏心部が挿嵌される中空の円筒体と、前記第1および第2の軸受とともに圧縮室を構成し、前記圧縮室内で回転する前記円筒体により流体を圧縮する中空の筒状体とを備える圧縮機構と
を含み、
前記第1の軸受に対向する前記円筒体の第1の端面の幅が、前記第2の軸受に対向する前記円筒体の第2の端面の幅より大きく、かつ、
前記円筒体の前記第1の軸受側の内径をd
1とし、前記円筒体の前記第2の軸受側の内径をd
2とし、前記回転軸の断面の中心から前記偏心部の断面の中心までの距離を示す偏心量をeとし、前記第1の軸受と前記円筒体と
の間、前記第1の軸受と前記回転軸と
の間、および前記第1の軸受と前記偏心部との間に設けられ、前記回転軸の軸方向への平面視において、前記第1の軸受の前記回転軸が挿入される穴の周囲にリング状に形成される第1の溝により形成された第1の空間内に流入した前記流体により圧力が加えられる前記圧縮室の第1の軸受側
端面のリング形状の範囲を第1の圧力範囲
とし、前記第1の軸受側端面のリング形状の範囲の外径である前記第1の圧力範囲の径をD
1とし、前記第2の軸受と前記円筒体と
の間、前記第2の軸受と前記回転軸と
の間、および前記第2の軸受と前記偏心部との間に設けられ、前記回転軸の軸方向への平面視において、前記第2の軸受の前記回転軸が挿入される穴の周囲にリング状に形成される第2の溝により形成された第2の空間内に流入した前記流体により圧力が加えられる前記圧縮室の前記第2の軸受側
端面のリング形状の範囲を第2の圧力範囲
とし、前記第2の軸受側端面のリング形状の範囲の外径である前記第2の圧力範囲の径をD
2とした場合、d
1<d
2、かつ、D
2<D
1、かつ、d
2-2e≦D
2が成立することを特徴とする、空気調和装置。
【請求項10】
圧縮機を備える空気調和装置であって、前記圧縮機が、
電動機と、
前記電動機により回転し、偏心部を備えた回転軸と、
前記回転軸を回転可能に支持する第1および第2の軸受と、前記偏心部が挿嵌される中空の円筒体と、前記第1および第2の軸受とともに圧縮室を構成し、前記圧縮室内で回転する前記円筒体により流体を圧縮する中空の筒状体とを備える圧縮機構と
を含み、
前記円筒体の内側で、かつ、前記第1の軸受側および前記第2の軸受側は、面取りされており、
前記第1の軸受に対向する前記円筒体の第1の端面の幅が、前記第2の軸受に対向する前記円筒体の第2の端面の幅より大きく、かつ、
前記円筒体の前記第1の軸受側の内径をd
1とし、前記円筒体の前記第2の軸受側の内径をd
2とし、前記回転軸の断面の中心から前記偏心部の断面の中心までの距離を示す偏心量をeとし、前記第1の軸受と前記円筒体と
の間、前記第1の軸受と前記回転軸と
の間、および前記第1の軸受と前記偏心部との間に設けられ、前記回転軸の軸方向への平面視において、前記第1の軸受の前記回転軸が挿入される穴の周囲にリング状に形成される第1の溝により形成された第1の空間内に流入した前記流体により圧力が加えられる前記圧縮室の第1の軸受側
端面のリング形状の範囲を第1の圧力範囲
とし、前記第1の軸受側端面のリング形状の範囲の外径である前記第1の圧力範囲の径をD
1とし、前記第2の軸受と前記円筒体と
の間、前記第2の軸受と前記回転軸と
の間、および前記第2の軸受と前記偏心部との間に設けられ、前記回転軸の軸方向への平面視において、前記第2の軸受の前記回転軸が挿入される穴の周囲にリング状に形成される第2の溝により形成された第2の空間内に流入した前記流体により圧力が加えられる前記圧縮室の前記第2の軸受側
端面のリング形状の範囲を第2の圧力範囲
とし、前記第2の軸受側端面のリング形状の範囲の外径である前記第2の圧力範囲の径をD
2とした場合、d
1<d
2、かつ、D
2<D
1、かつ、D
2<d
2-2e、かつ、d
1-2e≦D
1が成立し、かつ、
前記回転軸の軸方向への平面視において、前記円筒体の、前記第1の軸受側の面取りされた部分の面積と、前記円筒体の、前記第1の軸受側の端面と前記第1の圧力範囲とが重なる部分の面積との和をA
5とし、前記円筒体の、前記第2の軸受側の面取りされた部分の面積と、前記円筒体の、前記第2の軸受側の端面と前記第2の圧力範囲とが重なる部分の面積との和をA
6とした場合に、A
5とA
6とが同一であることを特徴とする、空気調和装置。
【請求項11】
圧縮機を備える空気調和装置であって、前記圧縮機が、
電動機と、
前記電動機により回転し、偏心部を備えた回転軸と、
前記回転軸を回転可能に支持する第1および第2の軸受と、前記偏心部が挿嵌される中空の円筒体と、前記第1および第2の軸受とともに圧縮室を構成し、前記圧縮室内で回転する前記円筒体により流体を圧縮する中空の筒状体とを備える圧縮機構と
を含み、
前記円筒体の内側で、かつ、前記第1の軸受側および前記第2の軸受側は、面取りされており、
前記第1の軸受に対向する前記円筒体の第1の端面の幅が、前記第2の軸受に対向する前記円筒体の第2の端面の幅より大きく、かつ、
前記円筒体の前記第1の軸受側の内径をd
1とし、前記円筒体の前記第2の軸受側の内径をd
2とし、前記回転軸の断面の中心から前記偏心部の断面の中心までの距離を示す偏心量をeとし、前記第1の軸受と前記円筒体と
の間、前記第1の軸受と前記回転軸と
の間、および前記第1の軸受と前記偏心部との間に設けられ、前記回転軸の軸方向への平面視において、前記第1の軸受の前記回転軸が挿入される穴の周囲にリング状に形成される第1の溝により形成された第1の空間内に流入した前記流体により圧力が加えられる前記圧縮室の第1の軸受側
端面のリング形状の範囲を第1の圧力範囲
とし、前記第1の軸受側端面のリング形状の範囲の外径である前記第1の圧力範囲の径をD
1とし、前記第2の軸受と前記円筒体と
の間、前記第2の軸受と前記回転軸と
の間、および前記第2の軸受と前記偏心部との間に設けられ、前記回転軸の軸方向への平面視において、前記第2の軸受の前記回転軸が挿入される穴の周囲にリング状に形成される第2の溝により形成された第2の空間内に流入した前記流体により圧力が加えられる前記圧縮室の前記第2の軸受側
端面のリング形状の範囲を第2の圧力範囲
とし、前記第2の軸受側端面のリング形状の範囲の外径である前記第2の圧力範囲の径をD
2とした場合、d
1<d
2、かつ、D
2<D
1、かつ、D
2<d
2-2e、かつ、d
1-2e≦D
1が成立し、かつ、
前記回転軸の軸方向への平面視において、前記円筒体の、前記第1の軸受側の面取りされた部分の面積と、前記円筒体の、前記第1の軸受側の端面と前記第1の圧力範囲とが重なる部分の面積との和をA
7とし、前記円筒体の、前記第2の軸受側の面取りされた部分の面積と、前記円筒体の、前記第2の軸受側の端面と前記第2の圧力範囲とが重なる部分の面積との和をA
8とした場合に、A
8<A
7が成立することを特徴とする、空気調和装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮機および空気調和装置に関する。
【背景技術】
【0002】
圧縮機の吐出機構には、圧縮室内の圧力が吐出圧力に到達するまで弁で閉鎖して圧縮を行い、吐出圧力に到達したときに弁を開き、吐出口を通して圧縮ガスを吐出するものがある。圧縮ガスの吐出時の圧力損失を低減するには、吐出口を大きくする必要があるが、圧縮機がロータリ圧縮機の場合、吐出口を大きくすると、ローラの外側と内側が吐出口を介して導通し、圧縮室外から圧縮室内への冷媒漏れの原因となる。
【0003】
そこで、ローラの外側と内側が吐出口を介して導通しないように、ローラの端面幅を増加することができる。しかしながら、ローラの端面幅を増加すると、ローラの端面は軸受等と摺動するため、摺動損失が増加し、ローラの端面から圧縮室への給油量が低下するため、ローラの端面幅は、必要以上に増加しないことが望ましい。
【0004】
ローラの端面幅を増加しなくても、吐出口を圧縮室の外側に配置することで、ローラの内側と外側の導通を抑制することができる。しかしながら、吐出口を圧縮室の外側へはみ出す部位が大きくなり、吐出口への流路が縮小してしまう。流路を確保するために、シリンダ本体内周面を凹陥させることができるが、凹陥した部分は圧縮に関与しない無効圧縮容積であり、凹陥した部分の増加は無効圧縮容積の増加につながる。
【0005】
これらの問題に鑑み、ローラの端面幅を、圧縮ガスの吐出側とその反対側である反吐出側とで変え、反吐出側に対して吐出側を大きくしたロータリ圧縮機が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来の技術では、ローラの端面幅を、反吐出側に対して吐出側を大きくしたことにより、ローラが吐出側へ移動し、反吐出側の隙間が拡大して、圧縮室の外側から内側への流体の漏れが増大するという問題があった。また、ローラが吐出側へ押し付けられることにより、ローラの端面の機械損失および摩耗も増大するという問題もあった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題に鑑み、電動機と、
電動機により回転し、偏心部を備えた回転軸と、
回転軸を回転可能に支持する第1および第2の軸受と、偏心部が挿嵌される中空の円筒体と、第1および第2の軸受とともに圧縮室を構成し、圧縮室内で回転する円筒体により流体を圧縮する中空の筒状体とを備える圧縮機構と
を含み、
第1の軸受に対向する円筒体の第1の端面の幅が、第2の軸受に対向する円筒体の第2の端面の幅より大きく、かつ、円筒体の第1の軸受側の内径をd1とし、円筒体の第2の軸受側の内径をd2とし、回転軸の断面の中心から偏心部の断面の中心までの距離を示す偏心量をeとし、第1の軸受と円筒体と回転軸とにより形成された第1の空間内に流入した流体により圧力が加えられる圧縮室の第1の軸受側の第1の圧力範囲の径をD1とし、第2の軸受と円筒体と回転軸とにより形成された第2の空間内に流入した流体により圧力が加えられる圧縮室の第2の軸受側の第2の圧力範囲の径をD2とした場合、d1<d2、かつ、D2<D1、かつ、d2-2e≦D2が成立することを特徴とする、圧縮機が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、流体の漏れ、機械損失および摩耗を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態に係る空気調和装置の構成例を示した図。
【
図2】空気調和装置に用いられる圧縮機の構成例を示した図。
【
図3】圧縮機が備える圧縮機構の第1の構成例を示した図。
【
図5】ローラの端面にかかる圧力について説明する図。
【
図7】圧縮機が備える圧縮機構の第2の構成例を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、本実施形態に係る空気調和装置の構成例を示した図である。空気調和装置10は、空気調和を行う空間内(室内)に設置される室内機11と、室外に設置される室外機20とを含み、流体として冷媒を室内機11と室外機20との間を循環させ、室内の空気と熱交換させることにより空気調和を行う。
【0012】
室内機11と室外機20は、それぞれ2台以上で構成されていてもよく、室内機11は、1台の室外機20に対し、2台以上接続されていてもよい。冷媒は、ハイドロフルオロカーボン(HFC)やハイドロフルオロオレフィン(HFO)等を用いることができる。HFCとしては、R32(CH2F2)、R410A(CH2F2+C2HF3)等を用いることができ、HFOとしては、R1234yf(CF3CF=CH2)等を用いることができる。
【0013】
室内機11は、室内熱交換器12と、室内ファン13と、室内ファン用駆動モータ14とを備える。室内ファン13は、室内ファン用駆動モータ14により駆動し、室内の空気を取り込み、室内熱交換器12へ送り込む。室内熱交換器12は、内部に冷媒が流通する複数本の伝熱管を有し、送り込まれた空気が複数本の伝熱管の表面に接触して冷媒との間で熱交換を行うように構成されている。室内熱交換器12により熱交換された空気は、室内へ送出される。
【0014】
室内機11は、そのほか、室内温度等を計測するための各種センサや、冷媒を減圧し、膨張させる弁であって、冷媒の流量を制御することが可能な室内膨張弁等を備えることができる。
【0015】
室外機20は、圧縮機21と、四方弁22と、室外膨張弁23と、室外熱交換器24と、室外ファン25と、室外ファン用駆動モータ26とを備える。圧縮機21は、アキュームレータ27を含み、圧縮機用駆動モータにより駆動し、アキュームレータ27から低圧のガス冷媒を吸引し、昇圧して高圧のガス冷媒として吐出する。アキュームレータ27は、過渡時の圧縮機21への液戻りを防ぎ、液を分離するための容器であり、冷媒を適度な乾き度に調整する。乾き度は、蒸気と微小液滴との混合状態を示す湿り蒸気中における蒸気の占める割合である。
【0016】
四方弁22は、空気調和装置10の運転状態(運転モード)に応じて、冷媒が流れる方向を切り替える弁である。運転モードは、冷房モード、暖房モード、送風モード等である。室外膨張弁23は、高圧の冷媒を減圧し、膨張させる弁であって、冷媒の流量を制御することが可能な弁である。室外ファン25は、室外ファン用駆動モータ26により駆動し、室外の空気を取り込み、室外熱交換器24へ送り込む。室外熱交換器24も、室内熱交換器12と同様、内部に冷媒が流通する複数本の伝熱管を有し、送り込まれた空気が複数本の伝熱管の表面に接触して冷媒との間で熱交換を行うように構成されている。室外熱交換器24により熱交換された空気は、室外へ送出される。
【0017】
室外機20は、制御装置28をさらに備える。制御装置28は、圧縮機21、四方弁22、室外膨張弁23、室内ファン用駆動モータ14、室外ファン用駆動モータ26と接続され、これらの制御を行う。制御装置28は、圧縮機21の回転数、室外膨張弁23の開度、室内ファン用駆動モータ14の回転数、室外ファン用駆動モータ26の回転数等を制御する。制御装置28は、各種センサにより検出された情報に基づき、これらの制御を行うことができる。
【0018】
冷房モードでは、室内熱交換器12を蒸発器とし、室外熱交換器24を凝縮器として利用し、圧縮機21、四方弁22、室外熱交換器24、室外膨張弁23、室内熱交換器12、四方弁22、アキュームレータ27、圧縮機21の順に系内に封入された冷媒を循環させる。暖房モードでは、その反対に、室内熱交換器12を凝縮器とし、室外熱交換器24を蒸発器として利用し、圧縮機21、四方弁22、室内熱交換器12、室外膨張弁23、室外熱交換器24、四方弁22、アキュームレータ27、圧縮機21の順に系内に封入された冷媒を循環させる。
【0019】
ここでは、圧縮機21を備える装置として、空気調和装置10を例に挙げたが、これに限定されるものではなく、冷凍機やチラーユニット等であってもよい。
【0020】
図2は、空気調和装置10に用いられる圧縮機21の構成例を示した図である。圧縮機21は、ロータリ圧縮機であり、電動機としてモータ30と、モータ30により回転し、偏心部(ピン部)31を備えた回転軸(シャフト)32と、圧縮機構とを含む。圧縮機21は、密閉された容器33内に、モータ30、シャフト32、圧縮機構が収納される。
【0021】
圧縮機構は、シャフト32を回転可能に支持する第1の軸受として主軸受34および第2の軸受として副軸受35と、主軸受34および副軸受35とともに圧縮室36を構成し、圧縮室36内で回転するピン部31により流体を圧縮する中空の筒状体としてシリンダ37とを含む。
【0022】
モータ30は、中空円筒状の固定子(ステータ)30aと、ステータ30a内に回転可能に配設され、磁石として永久磁石を備える回転子(ロータ)30bとを含む。シャフト32は、シャフト32の長手方向(軸方向)の一方の側から見て、ロータ30bの中心に配設され、ロータ30bの回転に伴って回転する。
【0023】
容器33は、断面が円形で一方に長い形状の中空の密閉容器であり、その断面の中心の位置にシャフト32が配設される。シャフト32は、容器33の長手方向に沿ってモータ30の一方の側へ延び、モータ30の一方の側に配設された圧縮機構と連結される。
【0024】
圧縮機構は、圧縮室36を、ピン部31が挿嵌される中空の円筒体としてのローラ38と板状の仕切板としてのベーン39とにより2つの空間に仕切り、圧縮室36内の一方の空間に流体としての冷媒を取り込み、シャフト32を中心としてローラ38がシリンダ37の内壁に接しながら偏心して回転することにより、その一方の空間の体積が縮小し、その一方の空間に取り込んだ冷媒を圧縮する。ベーン39は、先端がローラ38の外側面に常に当接した状態で維持されるように、末端にはバネ等の弾性部材40が設けられ、ローラ38へ向けて常に押圧した状態に維持される。
【0025】
圧縮機構は、吸込ノズル41を介して冷媒を取り込み、圧縮室36内で圧縮した冷媒を吐出弁を介してモータ30と主軸受34との間の空間42に吐出する。冷媒は、モータ30を構成するステータ30aとロータ30bとの間の隙間等を介してロータ30b上の空間43へ送られ、容器33の頂部に設けられる吐出ノズル44から吐出される。
【0026】
モータ30は、容器33内の長手方向の略中央位置に配置され、圧縮機構は、モータ30の一方の側、例えば容器33を吐出ノズル44がある方を上側に向けて配置した場合、モータ30の下側に配置される。圧縮機21は、圧縮機構が主軸受34と副軸受35と1つのシリンダ37とから構成され、圧縮室36が1つのみである1段圧縮機であってもよいし、主軸受34と副軸受35と複数のシリンダ37と各シリンダ37間に挟持される隔壁板とから構成され、複数の圧縮室36を有する多段圧縮機であってもよい。
【0027】
例えば、2段圧縮機は、上側圧縮室と下側圧縮室の2つの圧縮室を有し、上側圧縮室は、主軸受、シリンダ、隔壁板により形成され、下側圧縮室は、副軸受、シリンダ、隔壁板により形成される。以下、圧縮機21は、容器33の長手方向を鉛直方向に向けて配置する縦置きとして説明するが、圧縮機21は、容器33の長手方向を水平方向に向けて配置する横置きであってもよい。
【0028】
ロータリ圧縮機の吐出機構は、リード弁タイプが主流である。リード弁は、薄く弾力のある板の一端を固定し、他端側のみを開く構造とした弁である。リード弁は、主軸受34に設けられた吐出口を、圧縮室36が吐出圧力に到達するまで閉じ、吐出圧力に到達したところで押し上げられ、吐出口を開口する。圧縮室36内で圧縮された冷媒は、開口した吐出口を通して圧縮室36外へ吐出される。
【0029】
吐出口は、冷媒の吐出時の圧力損失(吐出損失)を低減する観点から、流路面積を拡大するべく、その径が大きいほうが望ましい。しかしながら、吐出口の径を大きくすると、ローラ38の外側と内側が吐出口を介して導通し、圧縮室36外から圧縮室36内への冷媒漏れの原因となる。このため、吐出口は、ローラ38の外側と内側が導通しない位置であって、ローラ38の端面でシール可能な径に設計される。
【0030】
近年、温室効果ガスの排出量の増加により地球温暖化が問題となっている。そこで、空気調和装置で使用される冷媒においても、地球温暖化係数(GWP)が低い冷媒の使用が求められている。低GWP冷媒は、従来から使用されているR32冷媒等と同等の冷暖房能力を確保しようとすると、循環量を増加する必要がある。低GWP冷媒としては、例えば微燃性冷媒としてR1234yt、R1234ze等がある。循環量の増加は、圧縮機21の回転数の増加、もしくは圧縮機21が単位時間に排除する冷媒量を示す押除量の増加により実現できる。
【0031】
圧縮機21の回転数の増加は、高速運転時の信頼性が厳しくなることから、押除量の増加が有効である。押除量の増加は、吐出口の径の増加を要するが、吐出径の増加は、ローラ38の外側と内側の導通による圧縮室36外から圧縮室36内への冷媒漏れの原因となり、容易ではない。そこで、吐出口を圧縮室36の外側に配置することができるが、上記のように、冷媒の圧縮に関与しない無効圧縮容積が増加する。また、ローラ38の端面幅を増加することもできるが、摺動損失が増加し、潤滑油の量が低下することになる。
【0032】
上記の従来の特許文献1に記載したように、主軸受34側のローラ38の端面幅を、副軸受35側のローラ38の端面幅に比較して大きくし、主軸受34側のローラ38の端面幅のみを大きくし、摺動損失の増加を抑制することができる。
【0033】
しかしながら、ローラ38の端面幅を、副軸受35側に対して主軸受34側を大きくすることにより、ローラ38が主軸受34側へ移動し、ローラ38と副軸受35との間の隙間(クリアランス)が拡大し、圧縮室36の外側から内側への流体の漏れが増大する。また、ローラ38が主軸受34側へ移動して押し付けられることにより、ローラ38の端面の摺動損失といった機械損失および摩耗も増大する。
【0034】
これらの問題に鑑み、ローラ38の端面幅を、副軸受35側に対して主軸受34側を大きくして、ローラ38の外側と内側の導通を抑制するとともに、ローラ38が主軸受34側への移動を抑制し、ローラ38の端面の機械損失および摩耗の増大を抑制する。以下に、図面を参照して、本実施形態に係る圧縮機21について詳細に説明する。
【0035】
図3は、圧縮機21が備える圧縮機構の構成例を示した図である。なお、圧縮機21の圧縮機構以外の構成については、
図2に示した圧縮機21と同様の構成である。
図3(a)は、圧縮機構の一例を示した図で、
図3(b)は、
図3(a)のローラ38の部分を拡大して示した図である。
【0036】
図3(a)に示すように、圧縮機構は、ピン部31を備えるシャフト32を回転可能に支持する主軸受34および副軸受35と、ピン部31が挿嵌されるローラ38と、主軸受34および副軸受35とともに圧縮室36を構成するシリンダ37とを含む。冷媒は、吸込ノズル41から吸い込まれ、シリンダ37に設けられた吸込口から圧縮室36内へ供給され、圧縮室36内で圧縮される。冷媒は、圧縮室36内で吐出圧力まで圧縮された後、リード弁を押し上げ、主軸受34に設けられた吐出口を開口し、その吐出口から圧縮室36外へ吐出される。
【0037】
ピン部31は、主軸受34に対向し、主軸受34上を摺動する面を有する第1の支持部として上側パッド31aと、副軸受35に対向し、副軸受35上を摺動する面を有する第2の支持部として下側パッド31bとを含む。
【0038】
図3(b)に示すように、シャフト32と主軸受34との間、主軸受34とローラ38との間、ピン部31の上側パッド31aと主軸受34との間には、溝50が設けられる。溝50は、
図4(a)、(b)に示すように、シャフト32が挿入される穴60の周囲に所定の幅で形成されている。
【0039】
再び
図3(b)を参照して、シャフト32と副軸受35との間、副軸受35とローラ38との間、ピン部31の下側パッド31bと副軸受35との間にも、溝51が設けられる。
【0040】
ローラ38の内側であって、主軸受34側および副軸受35側の角部は、シャフト32の軸方向に対して略45°に切断され、面取りされている。
【0041】
溝50と、溝50に連続する、主軸受34とローラ38とシャフト32が備えるピン部31の上側パッド31aとにより形成される面取りされた部分52との空間は、吐出される冷媒が流入する第1の空間として吐出側空間を形成する。
【0042】
溝51と、溝51に連続する、副軸受35とローラ38とシャフト32が備えるピン部31の下側パッド31bとにより形成される面取りされた部分52との空間は、吐出される冷媒が流入する第2の空間として反吐出側空間を形成する。
【0043】
吐出側空間に流入した冷媒は、吐出側空間の下側にあるローラ38の端面54、面取りされた部分52のローラ38の傾斜面、上側パッド31aの主軸受34と上側パッド31aとの間の摺動面(上側スラスト面)55が存在する圧縮室36の吐出側端面に圧力を加える。冷媒によって圧力が加えられる圧縮室36の吐出側端面の範囲が、第1の圧力範囲としての吐出側端面の吐出圧力範囲である。
【0044】
反吐出側空間に流入した冷媒は、反吐出側空間の上側にあるローラ38の端面56、面取りされた部分52のローラ38の傾斜面、下側パッド31bの副軸受35と下側パッド31bとの間の摺動面(下側スラスト面)57等に圧力をかける。冷媒によって圧力が加えられる圧縮室36の反吐出側端面の範囲が、第2の圧力範囲としての反吐出側端面の吐出圧力範囲である。
【0045】
吐出口58は、主軸受34に設けられ、シリンダ37には、吐出口58に連続する切欠部59が設けられている。
図3(b)に示す例では、圧縮室36内の冷媒が圧縮室36外へ吐出されないように、ローラ38の端面54とローラ38の外周面によって吐出口58および切欠部59が閉鎖されている。なお、吐出口58は、副軸受35に設けられていてもよいが、以下、主軸受34に設けられるものとして説明する。
【0046】
ローラ38の上側の内径d1は、ローラ38の端面54の内径である。ローラ38の端面54は、シャフト32の軸方向への平面視、すなわち上側からの視点で平面的にみて、外形が円形で、中央に円形の穴を有するリング形状であり、d1は、その穴の径である。ローラ38の端面54の幅は、上側からの視点で平面的にみて、リング形状のローラ38の径方向の幅、すなわち外径から内径を減算し、2で除算した長さである。
【0047】
ローラ38の下側の内径d2は、ローラ38の端面56の内径である。ローラ38の端面56は、シャフト32の軸方向への平面視、すなわち下側からの視点で平面的にみて、外形が円形で、中央に円形の穴を有するリング形状であり、d2は、その穴の径である。ローラ38の端面56の幅は、下側からの視点で平面的にみて、リング形状のローラ38の径方向の幅、すなわち外径から内径を減算し、2で除算した長さである。
【0048】
吐出側空間は、
図3(b)に示すように、シャフト32の軸方向に切断した断面がL字形の、シャフト32の周囲に形成された溝50と、溝50に連続する面取りされた部分52とから構成される空間で、冷媒が流入する。吐出側空間に流入した冷媒が下側へ向けて圧力をかける吐出側端面の吐出圧力範囲は、吐出側空間を構成する溝50を平面視した場合のリング形状の範囲であり、吐出側端面の吐出圧力範囲の径は、そのリング形状の範囲の外径D
1である。
【0049】
反吐出側空間は、
図3(b)に示すように、シャフト32の軸方向に切断した断面がL字形の、シャフト32の周囲に形成された溝51と、溝51に連続する面取りされた部分53とから構成される空間で、冷媒が流入する。反吐出側空間に流入した冷媒が上側へ向けて圧力をかける反吐出側端面の吐出圧力範囲は、反吐出側空間を構成する溝51を平面視した場合のリング形状の範囲であり、反吐出側端面の吐出圧力範囲の径は、そのリング形状の範囲の外径D
2である。
【0050】
シャフト32は、ピン部31を挟んで上側と下側で外径が異なっており、上側の外径が、下側の外径より大きくなっている。シャフト32の上側には、ロータ30bが取り付けられ、ロータ30bを支持するために一定の外径が必要とされるが、下側には支持するものが存在しないため、上側より外径が小さくてもよいからである。
【0051】
ローラ38の上側の端面54の幅を、ローラ38の下側の端面56の幅より大きくすることで、吐出口を上側の端面54により閉鎖することができ、吐出口とローラ38の内側との連通を抑制することができる。ローラ38の上側の端面54の幅を、ローラ38の下側の端面56の幅より大きくすることは、ローラ38の端面54および端面56の外径が同一であることから、d1<d2が成立することを意味する。
【0052】
ローラ38の下側の面取りされた部分53の平面視における面積は、ローラ38の上側の面取りされた部分52の平面視における面積より大きい。このため、下側からローラ38にかかる圧力は、上側からローラ38にかかる圧力より大きくなる。すると、ローラ38が、上側へ持ち上げられ、主軸受34に押し付けられた状態になり、ローラ38と副軸受35との間のクリアランスが拡大する。クリアランスの拡大は、漏れ損失を増加させ、ローラ38の上側の端面54の押し付けによる機械損失や摩耗を増加させる。
【0053】
圧縮室36から吐出される冷媒は、吐出側空間および反吐出側空間にも流入する。すると、吐出側空間内の冷媒が、シャフト32の軸方向、すなわち下側へ向けて圧力をかける。一方、反吐出側空間内の冷媒は、シャフト32の軸方向、すなわち上側へ向けて圧力をかける。圧力は、圧力をかける範囲の面積が大きくなるほど大きくなる。
【0054】
ローラ38は、上側の端面54が主軸受34に押し付けられ、ローラ38と副軸受35との間のクリアランスが拡大する状況であるため、下側へ向けてローラ38に圧力をかけることができれば、上記のローラ38の上側の端面54の押し付けやクリアランス拡大の問題が解消できるものと考えられる。
【0055】
そこで、下側へ向けてローラ38の端面54にかける圧力を、上側へ向けてローラ38の端面56にかける圧力より大きくする。これは、ローラ38の上側の端面54と吐出側端面の吐出圧力範囲とが重なる範囲に加える圧力が、ローラ38の下側の端面56と反吐出側端面の吐出圧力範囲とが重なる範囲に加える圧力より大きいことを意味する。
【0056】
ローラ38の面取りされた部分52、53の平面視した面積は、ローラ38の上側より下側が大きく、ローラ38の下側の端面56が反吐出側端面の吐出圧力範囲と重なっていれば、ローラ38の上側の端面54も吐出側端面の吐出圧力範囲と重なっているはずである。ローラ38の下側の端面56が反吐出側端面の吐出圧力範囲と重なることは、
図3(b)に示すように、シャフト32の断面の中心から反吐出側端面の吐出圧力範囲の、向かって左側の縁部までの距離が、ローラ38の下側の端面56までの距離に等しいか、それより大きいことを意味する。
【0057】
シャフト32の断面の中心から反吐出側端面の吐出圧力範囲の縁部までの距離は、反吐出側端面の吐出圧力範囲の径の半分であり、D2/2である。シャフト32の断面の中心からローラ38の下側の端面56までの距離は、ローラ38の内径がd2であり、ローラ38の断面の中心が、シャフト32の断面の中心から偏心量eだけずれていることから、d2/2-eとなる。したがって、ローラ38の下側の端面56が反吐出側端面の吐出圧力範囲と重なることは、d2/2-e≦D2/2が成立することを意味し、整理すると、d2-2e≦D2となる。
【0058】
また、ローラ38の上側の端面54と吐出側端面の吐出圧力範囲とが重なる範囲にかかる圧力を、ローラ38の下側の端面56と反吐出側端面の吐出圧力範囲とが重なる範囲にかかる圧力より大きくするには、吐出側端面の吐出圧力範囲を反吐出側端面の吐出圧力範囲より大きくすればよい。したがって、吐出側端面の吐出圧力範囲を反吐出側端面の吐出圧力範囲より大きくことは、D2<D1が成立することを意味する。
【0059】
まとめると、d1<d2、かつ、d2-2e≦D2、かつ、D2<D1が成立する圧縮機を提供することで、主軸受34に設けられる吐出口を大径化しても、主軸受34側のローラ38の端面54の幅を大きくしてローラ38の外側と内側の導通を抑制でき、かつ、主軸受34へのローラ38の押し付けを低減し、ローラ38のクリアランスの偏りも抑制できるため、圧縮機効率およびローラ端面摺動に対する信頼性を向上させることができる。
【0060】
図5は、ローラ38の上側の圧力による荷重と、ローラ38の下側の圧力による荷重とが釣り合う条件について説明する図である。
図5(a)は、主軸受34を取り除き、上側から見た図で、
図5(b)は、副軸受35を取り除き、下側から見た図である。
【0061】
ローラ38の上下のクリアランスが偏らないようにするには、ローラ38の上側の圧力による荷重と、ローラ38の下側の圧力による荷重とが釣り合うことが条件となる。
【0062】
ローラ38の上側の圧力による荷重と、ローラ38の下側の圧力による荷重とが釣り合うには、シャフト32の軸方向への平面視において、荷重がかかるローラ38の上側の面積と、荷重がかかるローラ38の下側の面積とが略同一であればよい。
【0063】
荷重がかかるローラ38の上側の面積は、ローラ38の上側からの視点で、ローラ38の上側の面取りされた部分52を上側から平面的に見た平面部分70の面積と、ローラ38の端面54と吐出側端面の吐出圧力範囲とが重なる部分71の面積との和であり、ここでは、その面積をA
1とする。平面部分70は、
図5(a)の上側からの視点で、ローラ38の上側の端面54の直ぐ内側にある略一定幅のリング形状の部分である。吐出側端面の吐出圧力範囲が重なる部分71は、ローラ38の端面54上であって、ローラ38の端面54の内側から外側へ延びた部分である。
【0064】
荷重がかかるローラ38の下側の面積は、ローラ38の下側からの視点で、ローラ38の下側の面取りされた部分53を下側から平面的に見た平面部分72の面積と、ローラ38の端面56と反吐出側端面の吐出圧力範囲とが重なる部分73の面積との和であり、ここでは、その面積をA
2とする。平面部分72は、
図5(b)の下側からの視点で、ローラ38の下側の端面56の直ぐ内側にある略一定幅のリング形状の部分である。反吐出側端面の吐出圧力範囲が重なる部分73は、ローラ38の端面56上であって、ローラ38の端面56の内側から外側へ延びた部分である。
【0065】
ローラ38の上下にかかる荷重が釣り合うようにするためには、A1とA2が略同一であればよい。
【0066】
これにより、ローラ38の上下のクリアランスが均一化され、漏れ損失を低減することができ、ローラ38の主軸受34への押し付けによる機械損失や摩耗を抑制することができる。
【0067】
ローラ38には、下側へ向けて、ローラ38の上下の圧力による合力が作用する。圧縮機21の起動時は、冷媒が圧縮されていないので、下側へはローラ38の自重のみで圧力による力は発生していない。圧縮機21が起動した後は、冷媒が圧縮され、ローラ38は、常に圧力による荷重を受けることになる。
【0068】
すると、上記のローラ38の上下にかかる荷重が釣り合うように、A1とA2を略同一とした場合、圧縮機21の起動時は、ローラ38の自重でローラ38の下側のクリアランスが小さく、ローラ38が下側に降りた状態であるのに、起動後は、ローラ38の上下のクリアランスが均一化される結果、起動時に比べて上側に持ち上げられた状態になる。これでは、ローラ38が上下動することになる。
【0069】
圧縮機21の起動時から起動後の運転中にかけてローラ38が常に下側へ向けて荷重を受けるように構成すれば、上記のローラ38の上下動を抑制することができる。ローラ38の上下動を抑制し、常にローラ38が下側に降りた状態であれば、ローラ38が上下動することにより主軸受34や副軸受35に強く押し付けられることはないので、ローラ38の端面54、56の押し付けによる機械損失や摩耗を抑制することができる。
【0070】
荷重がかかるローラ38の上側の面積は、ローラ38の上側からの視点で、ローラ38の上側の面取りされた部分52を上側から平面的に見た平面部分70の面積と、ローラ38の端面54と吐出側端面の吐出圧力範囲とが重なる部分71の面積との和である。ここでは、その面積をA3とする。
【0071】
荷重がかかるローラ38の下側の面積は、ローラ38の下側からの視点で、ローラ38の下側の面取りされた部分53を下側から平面的に見た平面部分72の面積と、ローラ38の端面56と反吐出側端面の吐出圧力範囲とが重なる部分73の面積との和である。ここでは、その面積をA4とする。
【0072】
圧縮機21の起動時から起動後の運転中にかけてローラ38が常に下側へ向けて荷重を受けるように構成するには、荷重がかかるローラ38の上側の面積A3の方が、荷重がかかるローラ38の下側の面積A4より大きければ良く、A4<A3が成立することを意味する。
【0073】
図6は、スラスト面について説明する図である。スラスト面は、シャフト32の軸方向に働く力を受ける面であり、ピン部31の上側パッド31aが主軸受34上を摺動する際の摺動面(上側スラスト面)55と、ピン部31の下側パッド31bが副軸受35上を摺動する際の摺動面(下側スラスト面)57とがある。
【0074】
吐出側端面の吐出圧力範囲が、上側スラスト面55より大きいと、溝50内に上側パッド31aが入り込む形となり、シャフト32の軸方向に働く力を受け止めることができず、スラストが有効に機能しない。同様に、反吐出側端面の吐出圧力範囲が、下側スラスト面57より大きいと、溝51内に下側パッド31bが入り込む形となり、スラストが有効に機能しない。
【0075】
ここで、
図6に示すように、圧縮室36の吐出側端面の吐出圧力範囲の径をD
1とし、圧縮室36の反吐出側端面の吐出圧力範囲の径をD
2とし、シャフト32の断面の中心から主軸受34上を摺動するピン部31、すなわち上側パッド31aの最も離間した縁部までの距離(最大寸法)をL
1とし、シャフト32の断面の中心から副軸受35上を摺動するピン部31、すなわち下側パッド31bの最も離間した縁部までの距離(最大寸法)をL
2とする。
【0076】
上下のスラストを有効に機能させるためには、上側スラスト面55が、吐出側端面の吐出圧力範囲より大きく、下側スラスト面57が、反吐出側端面の吐出圧力範囲より大きければよい。このことは、上側スラスト面55の最大寸法の径が、吐出側端面の吐出圧力範囲の径より大きいことを意味し、D1<2×Lが成立する。また、下側スラスト面57の最大寸法の径が、反吐出側端面の吐出圧力範囲の径より大きいことを意味し、D2<2×L2が成立する。
【0077】
このようにして、上下のスラストを有効に機能させることで、圧縮機21の運転の安定性を向上させることができる。
【0078】
これまでの例では、
図3(b)に示すように、ローラ38の端面56が、圧縮室36の反吐出側端面の吐出圧力範囲に重なる場合について説明してきた。溝51は、
図7(a)に示すように、ローラ38の下側の端面56にまで延びていない場合もあり、この場合、ローラ38の端面56が、圧縮室36の反吐出側端面の吐出圧力範囲に重ならないことになる。
【0079】
図7(a)を参照すると、ローラ38の上側の内径d
1は、主軸受34に対向するローラ38の端面54の内径である。ローラ38の下側の内径d
2は、副軸受35に対向するローラ38の端面56の内径である。圧縮室36の吐出側端面の吐出圧力範囲は、吐出側空間を構成する溝50を平面視した場合のリング形状の範囲であり、その径は、そのリング形状の範囲の外径D
1である。圧縮室36の反吐出側端面の吐出圧力範囲は、反吐出側空間を構成する溝51を平面視した場合のリング形状の範囲であり、その径は、そのリング形状の範囲の外径D
2である。
【0080】
ローラ38の端面56が、圧縮室36の反吐出側端面の吐出圧力範囲に重ならない場合でも、ローラ38の端面54の幅を、ローラ38の端面56の幅より大きくすることで、吐出口を上側の端面54により閉鎖することができ、吐出口とローラ38の内側との連通を抑制することができる。ローラ38の端面54の幅を、ローラ38の端面56の幅より大きくすることは、ローラ38の端面54および端面56の外径が同一であることから、d1<d2が成立することを意味する。
【0081】
ローラ38の下側の面取りされた部分53を下側から平面的にみた平面部分72の面積は、ローラ38の上側の面取りされた部分52を上側から平面的にみた平面部分70の面積より大きい。このため、下側からローラ38にかかる圧力は、上側からローラ38にかかる圧力より大きくなり、ローラ38が、主軸受34に押し付けられた状態になり、ローラ38と副軸受35との間のクリアランスが拡大する。
【0082】
このクリアランスの拡大を抑制するには、ローラ38の端面54に圧力を加えることが必要で、ローラ38の端面54が、圧縮室36の吐出側端面の吐出圧力範囲に重なり、上側から圧力を加えることができることが条件となる。このケースでは、ローラ38の端面56が、圧縮室36の反吐出側端面の吐出圧力範囲に重なっていない。
【0083】
シャフト32の断面の中心から圧縮室36の吐出側端面の吐出圧力範囲の縁部までの距離は、圧縮室36の吐出側端面の吐出圧力範囲の径の半分であり、D1/2である。シャフト32の断面の中心からローラ38の端面54までの距離は、ローラ38の内径がd1であり、ローラ38の断面の中心が、シャフト32の断面の中心から偏心量eだけずれていることから、d1/2-eとなる。したがって、ローラ38の端面54が、圧縮室36の吐出側端面の吐出圧力範囲と重なることは、d1/2-e≦D1/2が成立することを意味し、整理すると、d1-2e≦D1となる。
【0084】
シャフト32の断面の中心から圧縮室36の反吐出側端面の吐出圧力範囲の縁部までの距離は、圧縮室36の反吐出側端面の吐出圧力範囲の径の半分であり、D2/2である。シャフト32の断面の中心からローラ38の端面56までの距離は、ローラ38の内径がd2であり、ローラ38の断面の中心が、シャフト32の断面の中心から偏心量eだけずれていることから、d2/2-eとなる。したがって、ローラ38の端面56が、圧縮室36の反吐出側端面の吐出圧力範囲と重ならないことは、d2/2-e>D2/2が成立することを意味し、整理すると、D2<d2-2eとなる。
【0085】
また、圧縮室36の吐出側端面の吐出圧力範囲にかかる圧力を、圧縮室36の反吐出側端面の吐出圧力範囲にかかる圧力より大きくするには、上側端面の吐出圧力範囲の面積を反吐出側端面の吐出圧力範囲の面積より大きくすればよい。したがって、吐出側端面の吐出圧力範囲の面積を反吐出側端面の吐出圧力範囲の面積より大きくことは、D2<D1が成立することを意味する。
【0086】
ローラ38の端面56が、反吐出側端面の吐出圧力範囲と重ならない場合、面取りされた部分53に流入した冷媒によりローラ38と副軸受35の両方に、シャフト32の軸方向の圧力が加えられることになる。
【0087】
すると、単に、上記のd1<d2、かつ、d1-2e≦D1、かつ、D2<d2-2e、かつ、D2<D1が成立する圧縮機を提供しただけでは、ローラ38の上下のクリアランスが均一化されない可能性がある。
【0088】
ローラ38の上下のクリアランスを均一化するためには、ローラ38の上下の圧力による力が釣り合うことが条件となる。
【0089】
ローラ38の上側の圧力による荷重と、ローラ38の下側の圧力による荷重とが釣り合うには、シャフト32の軸方向への平面視において、荷重がかかるローラ38の上側の面積と、荷重がかかるローラ38の下側の面積とが略同一であればよい。
【0090】
荷重がかかるローラ38の上側の面積は、ローラ38の上側からの視点で、ローラ38の上側の面取りされた部分52を上側から平面的にみた平面部分70の面積と、ローラ38の端面54と吐出側端面の吐出圧力範囲とが重なる部分71の面積との和である。ここでは、その面積をA5とする。
【0091】
荷重がかかるローラ38の下側の面積は、ローラ38の下側からの視点で、ローラ38の下側の面取りされた部分53を下側から平面的にみた平面部分72の面積と、ローラ38の端面56と反吐出側端面の吐出圧力範囲とが重なる部分の面積との和である。ここでは、その面積をA6とする。なお、ローラ38の端面56と反吐出側端面の吐出圧力範囲とは重ならないので、この部分の面積は0である。
【0092】
ローラ38の上下にかかる荷重が釣り合うようにするためには、A5とA6が略同一であればよい。
【0093】
この場合においても、ローラ38には、下側へ向けて、ローラ38の上下の圧力による合力が作用する。圧縮機21の起動時は、冷媒が圧縮されていないので、下側へはローラ38の自重のみで圧力による力は発生していない。圧縮機21が起動した後は、冷媒が圧縮され、ローラ38は、常に圧力による荷重を受けることになる。したがって、ローラ38が上下動する。
【0094】
圧縮機21の起動時から起動後の運転中にかけてローラ38が常に下側へ向けて荷重を受けるように構成すれば、上記のローラ38の上下動を抑制することができる。ローラ38の上下動を抑制し、常にローラ38が下側に降りた状態であれば、ローラ38が上下動することにより主軸受34や副軸受35に強く押し付けられることはないので、ローラ38の端面54、56の押し付けによる機械損失や摩耗を抑制することができる。
【0095】
荷重がかかるローラ38の上側の面積は、ローラ38の上側からの視点で、ローラ38の上側の面取りされた部分52を上側から平面的に見た平面部分70の面積と、ローラ38の端面54と吐出側端面の吐出圧力範囲とが重なる部分71の面積との和である。ここでは、その面積をA7とする。
【0096】
荷重がかかるローラ38の下側の面積は、ローラ38の下側からの視点で、下側のローラ38の面取りされた部分53を下側から平面的に見た平面部分72の面積と、ローラ38の端面56と反吐出側端面の吐出圧力範囲とが重なる部分73の面積との和である。ここでは、その面積をA8とする。
【0097】
圧縮機21の起動時から起動後の運転中にかけてローラ38が常に下側へ向けて荷重を受けるように構成するには、ローラ38の上側に荷重がかかる面積A7の方が、ローラ38の下側に荷重がかかる面積A8より大きければ良く、A8<A7が成立することを意味する。
【0098】
また、この場合も、圧縮室36の吐出側端面の吐出圧力範囲が、上側スラスト面55より大きいと、溝50内に上側パッド31aが入り込む形となり、シャフト32の軸方向に働く力を受け止めることができず、スラストが有効に機能しない。同様に、圧縮室36の反吐出側端面の吐出圧力範囲が、下側スラスト面57より大きいと、溝51内に下側パッド31bが入り込む形となり、スラストが有効に機能しない。
【0099】
上下のスラストを有効に機能させるためには、上側スラスト面55が、圧縮室36の吐出側端面の吐出圧力範囲より大きく、下側スラスト面57が、圧縮室36の反吐出側端面の吐出圧力範囲より大きければよい。このことは、上側スラスト面55の最大寸法の径が、圧縮室36の吐出側端面の吐出圧力範囲の径より大きいことを意味し、D1<2×Lが成立する。また、下側スラスト面57の最大寸法の径が、圧縮室36の反吐出側端面の吐出圧力範囲の径より大きいことを意味し、D2<2×L2が成立する。
【0100】
このようにして、上下のスラストを有効に機能させることで、圧縮機21の運転の安定性を向上させることができる。
【0101】
以上に説明してきたように、本発明の圧縮機および空気調和装置を提供することにより、流体としての冷媒の漏れ、機械損失および摩耗を低減することができる。
【0102】
これまで本発明の圧縮機および空気調和装置について上述した実施形態をもって詳細に説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態や、追加、変更、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【0103】
したがって、本発明によれば、(1)電動機と、電動機により回転し、偏心部を備えた回転軸と、回転軸を回転可能に支持する第1および第2の軸受と、偏心部が挿嵌される中空の円筒体と、第1および第2の軸受とともに圧縮室を構成し、圧縮室内で回転する円筒体により流体を圧縮する中空の筒状体とを備える圧縮機構とを含み、第1の軸受に対向する円筒体の第1の端面の幅が、第2の軸受に対向する円筒体の第2の端面の幅より大きく、かつ、円筒体の第1の軸受側の内径をd1とし、円筒体の第2の軸受側の内径をd2とし、回転軸の断面の中心から偏心部の断面の中心までの距離を示す偏心量をeとし、第1の軸受と円筒体と回転軸とにより形成された第1の空間内に流入した流体により圧力が加えられる圧縮室の第1の軸受側の第1の圧力範囲の径をD1とし、第2の軸受と円筒体と回転軸とにより形成された第2の空間内に流入した流体により圧力が加えられる圧縮室の第2の軸受側の第2の圧力範囲の径をD2とした場合、d1<d2、かつ、D2<D1、かつ、d2-2e≦D2が成立することを特徴とする、圧縮機を提供することができる。
【0104】
本発明によれば、(2)円筒体の内側で、かつ、第1の軸受側および第2の軸受側の角部は、面取りされており、回転軸の軸方向への平面視において、円筒体の、第1の軸受側の面取りされた部分の面積と、円筒体の、第1の軸受側の端面と第1の圧力範囲とが重なる部分の面積との和をA1とし、円筒体の、第2の軸受側の面取りされた部分の面積と、円筒体の、第2の軸受側の端面と第2の圧力範囲とが重なる部分の面積との和をA2とした場合に、A1とA2とが同一であることを特徴とする、上記(1)に記載の圧縮機を提供することができる。
【0105】
本発明によれば、(3)円筒体の内側で、かつ、第1の軸受側および第2の軸受側の角部は、面取りされており、回転軸の軸方向への平面視において、円筒体の、第1の軸受側の面取りされた部分の面積と、円筒体の、第1の軸受側の端面と第1の圧力範囲とが重なる部分の面積との和をA3とし、円筒体の、第2の軸受側の面取りされた部分の面積と、円筒体の、第2の軸受側の端面と第2の圧力範囲とが重なる部分の面積との和をA4とした場合に、A4<A3が成立することを特徴とする、上記(1)に記載の圧縮機を提供することができる。
【0106】
本発明によれば、(4)第1の圧力範囲の径をD1とし、第2の圧力範囲の径をD2とし、回転軸の断面の中心から第1の軸受上を摺動する偏心部の最も離間した縁部までの距離を示す第1のスラスト面の最大寸法をL1とし、回転軸の断面の中心から第2の軸受上を摺動する偏心部の最も離間した縁部までの距離を示す第2のスラスト面の最大寸法をL2とした場合、D1<2×L1、かつ、D2<2×L2が成立することを特徴とする、上記(1)~(3)のいずれかに記載の圧縮機を提供することができる。
【0107】
本発明によれば、(5)電動機と、電動機により回転し、偏心部を備えた回転軸と、回転軸を回転可能に支持する第1および第2の軸受と、偏心部が挿嵌される中空の円筒体と、第1および第2の軸受とともに圧縮室を構成し、圧縮室内で回転する円筒体により流体を圧縮する中空の筒状体とを備える圧縮機構とを含み、円筒体の内側で、かつ、第1の軸受側および第2の軸受側は、面取りされており、第1の軸受に対向する円筒体の第1の端面の幅が、第2の軸受に対向する円筒体の第2の端面の幅より大きく、かつ、円筒体の第1の軸受側の内径をd1とし、円筒体の第2の軸受側の内径をd2とし、回転軸の断面の中心から偏心部の断面の中心までの距離を示す偏心量をeとし、第1の軸受と円筒体と回転軸とにより形成された第1の空間内に流入した流体により圧力が加えられる圧縮室の第1の軸受側の第1の圧力範囲の径をD1とし、第2の軸受と円筒体と回転軸とにより形成された第2の空間内に流入した流体により圧力が加えられる圧縮室の第2の軸受側の第2の圧力範囲の径をD2とした場合、d1<d2、かつ、D2<D1、かつ、D2<d2-2e、かつ、d1-2e≦D1が成立し、回転軸の軸方向への平面視において、円筒体の、第1の軸受側の面取りされた部分の面積と、円筒体の、第1の軸受側の端面と第1の圧力範囲とが重なる部分の面積との和をA5とし、円筒体の、第2の軸受側の面取りされた部分の面積と、円筒体の、第2の軸受側の端面と第2の圧力範囲とが重なる部分の面積との和をA6とした場合に、A5とA6とが同一であることを特徴とする、圧縮機を提供することができる。
【0108】
本発明によれば、(6)電動機と、電動機により回転し、偏心部を備えた回転軸と、回転軸を回転可能に支持する第1および第2の軸受と、偏心部が挿嵌される中空の円筒体と、第1および第2の軸受とともに圧縮室を構成し、圧縮室内で回転する円筒体により流体を圧縮する中空の筒状体とを備える圧縮機構とを含み、円筒体の内側で、かつ、第1の軸受側および第2の軸受側は、面取りされており、第1の軸受に対向する円筒体の第1の端面の幅が、第2の軸受に対向する円筒体の第2の端面の幅より大きく、かつ、円筒体の第1の軸受側の内径をd1とし、円筒体の第2の軸受側の内径をd2とし、回転軸の断面の中心から偏心部の断面の中心までの距離を示す偏心量をeとし、第1の軸受と円筒体と回転軸とにより形成された第1の空間内に流入した流体により圧力が加えられる圧縮室の第1の軸受側の第1の圧力範囲の径をD1とし、第2の軸受と円筒体と回転軸とにより形成された第2の空間内に流入した流体により圧力が加えられる圧縮室の第2の軸受側の第2の圧力範囲の径をD2とした場合、d1<d2、かつ、D2<D1、かつ、D2<d2-2e、かつ、d1-2e≦D1が成立し、回転軸の軸方向への平面視において、円筒体の、第1の軸受側の面取りされた部分の面積と、円筒体の、第1の軸受側の端面と第1の圧力範囲とが重なる部分の面積との和をA7とし、円筒体の、第2の軸受側の面取りされた部分の面積と、円筒体の、第2の軸受側の端面と第2の圧力範囲とが重なる部分の面積との和をA8とした場合に、A8<A7が成立することを特徴とする、圧縮機を提供することができる。
【0109】
本発明によれば、(7)回転軸の断面の中心から第1の軸受上を摺動する偏心部の最も離間した縁部までの距離を示す第1のスラスト面の最大寸法をL1とし、回転軸の断面の中心から第2の軸受上を摺動する偏心部の最も離間した縁部までの距離を示す第2のスラスト面の最大寸法をL2とした場合、D1<2×L1、かつ、D2<2×L2が成立することを特徴とする、上記(5)または(6)に記載の圧縮機を提供することができる。
【0110】
本発明によれば、(8)圧縮機構が、第1の軸受と第2の軸受との間に1以上の隔壁板を備え、複数の圧縮室を有する、上記(1)~(7)のいずれに記載の圧縮機を提供することができる。
【0111】
本発明によれば、上記(1)~(8)のいずれかに記載の圧縮機を備える空気調和装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0112】
10…空気調和装置
11…室内機
12…室内熱交換器
13…室内ファン
14…室内ファン用駆動モータ
20…室外機
21…圧縮機
22…四方弁
23…室外膨張弁
24…室外熱交換器
25…室外ファン
26…室外ファン用駆動モータ
27…アキュームレータ
28…制御装置
30…モータ
30a…ステータ
30b…ロータ
31…ピン部
31a…上側パッド
31b…下側パッド
32…シャフト
33…容器
34…主軸受
35…副軸受
36…圧縮室
37…シリンダ
38…ローラ
39…ベーン
40…弾性部材
41…吸込ノズル
42、43…空間
44…吐出ノズル
45…隔壁板
50、51…溝
52、53…面取りされた部分
54、56…端面
55…上側スラスト面
56…下側スラスト面
58…吐出口
59…切欠部
60…穴
70、72…平面部分
71、73…重なる部分
【要約】
【課題】 流体の漏れ、機械損失および摩耗を低減することができる圧縮機および空気調和装置を提供すること。
【解決手段】 圧縮機21は、主軸受34に対向するローラ38の第1の端面の幅が、副軸受35に対向するローラ38の第2の端面の幅より大きく、かつ、ローラ38の主軸受34側の内径をd
1とし、ローラ38の副軸受35側の内径をd
2とし、シャフト32の断面の中心からピン部31の断面の中心までの距離を示す偏心量をeとし、圧縮室36の主軸受34側の第1の圧力範囲の径をD
1とし、圧縮室36の副軸受35側の第2の圧力範囲の径をD
2とした場合に、d
1<d
2、かつ、D
2<D
1、かつ、d
2-2e≦D
2が成立することを特徴とする。
【選択図】
図3