(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-29
(45)【発行日】2023-10-10
(54)【発明の名称】ステータの製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 15/12 20060101AFI20231002BHJP
【FI】
H02K15/12 E
(21)【出願番号】P 2023533722
(86)(22)【出願日】2023-03-07
(86)【国際出願番号】 JP2023008678
【審査請求日】2023-06-01
(31)【優先権主張番号】P 2022049064
(32)【優先日】2022-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西脇 成彦
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 敬一
【審査官】宮崎 賢司
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-098870(JP,A)
【文献】特開2002-262501(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0093379(US,A1)
【文献】国際公開第2014/115255(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 15/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヨークから突出した複数のティースにコイルが巻き回されたステータコアと、ステータコアの外周囲を包囲するケースとを備えたステータアセンブリを提供する工程と、
前記ケースの軸方向の少なくとも一方の端部に、金型に押圧された際にその少なくとも一部が押し潰される環状の樹脂部材を配設する工程と、
前記金型内に、その少なくとも一方の端部に前記樹脂部材が配設された前記ステータアセンブリを、前記樹脂部材が押圧された状態で挟持する工程と、
前記金型内にモールド樹脂を注入する工程と、を備える、
ステータの製造方法。
【請求項2】
前記樹脂部材は熱可塑性樹脂で構成され、
前記金型の前記樹脂部材に当接する部分を含む少なくとも一部を予熱する工程をさらに備える、
請求項1に記載のステータの製造方法。
【請求項3】
前記樹脂部材はバスバーユニットであって、
前記ステータアセンブリは、前記コイルの端部にその一端部が電気的に接続された複数本のバスバーを備え、前記バスバーは、他端部が前記樹脂部材を介して前記ステータアセンブリの外部に延在している、
請求項1又は請求項2に記載のステータの製造方法。
【請求項4】
前記樹脂部材は、前記ケースに当接する面及び前記ケースに当接する面とは反対側の面の少なくともいずれか一方に第1の環状の突起を備える、
請求項
1に記載のステータの製造方法。
【請求項5】
前記ケースは、前記樹脂部材に当接する面に第2の環状の突起を備える、
請求項
1に記載のステータの製造方法。
【請求項6】
前記樹脂部材は、前記ケースの内周面に沿って延在する舌片を備え、前記ケースの内周面には、前記舌片の先端部が侵入可能な凹部が設けられ、
前記金型を用いて前記樹脂部材を前記ケースに対して押圧し、前記舌片の先端を前記凹部に嵌合する工程をさらに備える、
請求項
1に記載のステータの製造方法。
【請求項7】
前記ケースは樹脂で構成されており、前記樹脂部材は、前記ケースの一部である、
請求項
1に記載のステータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ステータの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
回転電機、例えば誘導モータを構成するステータの内面を、放熱及び絶縁のために樹脂モールド(樹脂封止)することが行われている(例えば、特開昭60-002044号公報参照)。当該樹脂モールドを行う場合、コイルが巻き回されたステータコアとステータコアの外周囲を覆うケースとを含むステータアセンブリを金型内に収容し、ステータアセンブリの軸方向両端部に金型を押し付けた状態で内部に絶縁性樹脂組成物(以下、「モールド樹脂」という)を注入することで樹脂モールドを行うのが一般的である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述した方法で樹脂モールドを行う場合、金型とケースとの間に隙間が生じるとモールド樹脂注入時の樹脂漏れの原因となり得る。また、金型がケースに押し付けられることになるため、ステータアセンブリの製品高さはケースの寸法に依存する。これらのことを考慮すると、ケースの製造時には、わずかな反りやうねりをも含まない高い寸法精度が要求される。
【0004】
本開示は、上述した課題に鑑み、部品製造時に高い寸法精度を要求することなく、製品高さのバラツキや樹脂漏れを抑制することが可能な、ステータの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本開示の第1の態様に係るステータの製造方法は、ヨークから突出した複数のティースにコイルが巻き回されたステータコアと、ステータコアの外周囲を包囲するケースとを備えたステータアセンブリを提供する工程と、前記ケースの軸方向の少なくとも一方の端部に、金型に押圧された際にその少なくとも一部が押し潰される環状の樹脂部材を配設する工程と、前記金型内に、その少なくとも一方の端部に前記樹脂部材が配設された前記ステータアセンブリを、前記樹脂部材が押圧された状態で挟持する工程と、前記金型内にモールド樹脂を注入する工程と、を含むものである。
【0006】
上記のようなステータの製造方法においては、ステータアセンブリの適所にモールド樹脂を注入する前に、金型で樹脂部材を押圧して挟持するため、金型と樹脂部材との間に隙間が生じることがなく、モールド樹脂がステータアセンブリ外に漏れることがない。また、樹脂部材が押し潰されるため、金型を所望の製品寸法に合わせて形成するだけで、モールド樹脂が注入された後のステータアセンブリの寸法を所望の製品寸法に合わせることができ、製品寸法のバラツキを抑制することができる。
【0007】
本開示の第2の態様に係るステータの製造方法は、上記本開示の第1の態様に係るステータの製造方法において、前記樹脂部材は熱可塑性樹脂で構成され、前記金型の前記樹脂部材に当接する部分を含む少なくとも一部を予熱する工程をさらに含む。
【0008】
上記のようなステータの製造方法においては、予熱した金型を樹脂部材に当接させるという簡単な方法で、押し潰し部を軟化させ押し潰すことができる。
【0009】
本開示の第3の態様に係るステータの製造方法は、上記本開示の第1又は第2の態様に係るステータの製造方法において、前記樹脂部材はバスバーユニットであって、前記ステータアセンブリは、前記コイルの端部にその一端部が電気的に接続された複数本のバスバーを備え、前記バスバーは、他端部が前記樹脂部材を介して前記ステータアセンブリの外部に延在している。
【0010】
上記のようなステータの製造方法においては、バスバーユニットの一部を樹脂部材として流用できるため、部品点数を削減することができる。
【0011】
本開示の第4の態様に係るステータの製造方法は、上記本開示の第1乃至第3の態様のいずれかに係るステータの製造方法において、前記樹脂部材は、前記ケースに当接する面及び前記ケースに当接する面とは反対側の面の少なくともいずれか一方に形成された第1の環状の突起を含む。
【0012】
上記のようなステータの製造方法においては、樹脂部材と金型との当接部分、及び樹脂部材とケースとの当接部分の少なくとも一方を確実に液密状態とすることができ、樹脂漏れをより確実に抑えることができる。
【0013】
本開示の第5の態様に係るステータの製造方法は、上記本開示の第1乃至第4の態様のいずれかに係るステータの製造方法において、前記ケースは、前記樹脂部材に当接する面に第2の環状の突起を含む。
【0014】
上記のようなステータの製造方法においては、ケースに設けられた第2の環状の突起が樹脂部材を積極的に変形させるため、ケースと樹脂部材の間を確実に液密状態とすることができる。
【0015】
本開示の第6の態様に係るステータの製造方法は、上記本開示の第1乃至第5の態様のいずれかに係るステータの製造方法において、前記樹脂部材は、前記ケースの内周面に沿って延在する舌片を備え、前記ケースの内周面には、前記舌片の先端部が侵入可能な凹部が設けられ、前記金型を用いて前記樹脂部材を前記ケースに対して押圧し、前記舌片の先端を前記凹部に嵌合する工程をさらに含む。
【0016】
上記のようなステータの製造方法においては、金型でステータアセンブリを挟持するのと同時にケースと樹脂部材との間の固定を行うことができるようになる。
【0017】
本開示の第7の態様に係るステータの製造方法は、上記本開示の第1乃至第6の態様のいずれかに係るステータの製造方法において、前記ケースは樹脂で構成されており、前記樹脂部材は、前記ケースの一部である。
【0018】
上記のようなステータの製造方法においては、樹脂部材をケースの一部で形成することで、樹脂部材を別途準備する必要がなくなる。
【0019】
本開示の第8の態様に係るステータの製造方法は、ヨークから突出した複数のティースにコイルが巻き回されたステータコアを備えたステータアセンブリを提供する工程と、前記ステータコアの軸方向の少なくとも一方の端部に、金型に押圧された際にその少なくとも一部が押し潰される環状の樹脂部材を配設する工程と、前記金型内に、その少なくとも一方の端部に前記樹脂部材が配設された前記ステータアセンブリを、前記樹脂部材が押圧された状態で挟持する工程と、前記金型内にモールド樹脂を注入する工程と、を含むものである。
【0020】
上記のようなステータの製造方法においては、ステータアセンブリの適所にモールド樹脂を注入する前に、金型で樹脂部材を押圧して挟持するため、金型と樹脂部材との間に隙間が生じることがなく、モールド樹脂がステータアセンブリ外に漏れることがない。また、樹脂部材が押し潰されるため、金型を所望の製品寸法に合わせて形成するだけで、モールド樹脂が注入された後のステータアセンブリの寸法を所望の製品寸法に合わせることができ、製品寸法のバラツキを抑制することができる。
【0021】
本開示の第9の態様に係るステータの製造方法は、上記本開示の第8の態様に係るステータの製造方法において、前記金型は上金型と下金型とを含み、前記樹脂部材は、その外周面に前記金型内に挟持された際に前記上金型と下金型との間に直接挟持される環状のリブを含む。
【0022】
上記のようなステータの製造方法においては、環状のリブが上金型と下金型とに直接挟持される構造を採用したことにより、ステータコアを覆うケースを別途準備することなく、金型と樹脂部材との間を液密状態とすることができる。
【発明の効果】
【0023】
本開示のステータの製造方法によれば、部品製造時に高い寸法精度を要求することなく、製品高さのバラツキや樹脂漏れを抑制することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本開示の第1の実施の形態に係るステータの製造方法で用いられるステータアセンブリの一例を示した斜視図である。
【
図2】
図1に示すステータアセンブリに樹脂部材を取り付けた状態を示した斜視図である。
【
図3】
図2のA-A線に沿って切断した断面図である。
【
図4】本開示の第1の実施の形態に係るステータの製造方法を実行する装置の一例を示した概略断面図である。
【
図5】本開示の第1の実施の形態に係るステータの製造方法の一例を示したフローチャートである。
【
図7】
図3に示すステータアセンブリに樹脂モールドを行った後の状態を示す断面図である。
【
図8A】第1の実施の形態に係る方法の第1の変形例を示した
図6に対応する拡大図である。
【
図8B】第1の実施の形態に係る方法の第1の変形例を示した
図6に対応する拡大図である。
【
図9】第1の実施の形態に係る方法の第2の変形例を示した
図6に対応する拡大図である。
【
図10】第1の実施の形態に係る方法の第3の変形例を示した
図6に対応する拡大図である。
【
図11A】第1の実施の形態に係る方法の第4の変形例を示した
図6に対応する拡大図である。
【
図11B】第1の実施の形態に係る方法の第4の変形例を示した
図6に対応する拡大図である。
【
図12A】本開示の第2の実施の形態に係るステータの製造方法を実行する装置の一例を示した
図6に対応する拡大図である。
【
図12B】本開示の第2の実施の形態に係るステータの製造方法を実行する装置の一例を示した
図6に対応する拡大図である。
【
図13】開示の第2の実施の形態の一変形例に係るステータの製造方法を実行する装置を示した
図4に対応する概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
この出願は、日本国で2022年3月24日に出願された特願2022-049064号に基づいており、その内容は本出願の内容としてその一部を形成する。
また、本開示は以下の詳細な説明によりさらに完全に理解できるであろう。本願のさらなる応用範囲は、以下の詳細な説明により明らかとなろう。しかしながら、詳細な説明及び特定の実例は、本開示の望ましい実施の形態であり、説明の目的のためにのみ記載されているものである。この詳細な説明から、種々の変更、改変が、本開示の精神と範囲内で、当業者にとって明らかであるからである。
出願人は、記載された実施の形態のいずれをも公衆に献上する意図はなく、開示された改変、代替案のうち、特許請求の範囲内に文言上含まれないかもしれないものも、均等論下での発明の一部とする。
【0026】
以下、図面を参照して本開示を実施するための各実施の形態について説明する。なお、以下では本開示の目的を達成するための説明に必要な範囲を模式的に示し、本開示の該当部分の説明に必要な範囲を主に説明することとし、説明を省略する箇所については公知技術によるものとする。また、図中の互いに同一又は相当する部材が複数個含まれている場合には、図を見易くするために、そのうちのいくつかにのみ符号を付している場合がある。
【0027】
<第1の実施の形態>
図1は、本開示の第1の実施の形態に係るステータの製造方法で用いられるステータアセンブリの一例を示した斜視図である。本実施の形態に係るステータの製造方法は、主に、
図1に示すような、インナーロータ型のモータの一部を構成するステータアセンブリ1の一部に樹脂モールドを実行するものであってよい。このステータアセンブリ1は、
図1に示すように、少なくともステータコア2と、コイル3と、ケース4とを含む。なお、ステータアセンブリとしては、インナーロータ型のモータ以外のモータ、例えばアキシャル型モータ等の一部を構成するものであってもよい。また、上述したインナーロータ型のモータは、例えば三相モータとすることができる。
【0028】
ステータコア2は、電磁鋼板で構成された複数枚の鉄心片(コア片)が積層されて構成されたものとすることができる。このステータコア2は、中心軸Xを有する環状の部材で構成することができ、環状、例えば円筒状に形成されたヨーク5と、ヨーク5の内周面から内側へ突出した複数(
図1においては24個)のティース6と、を含むものであってよい。複数のティース6は、ステータコア2の周方向に実質的に等間隔に並んで形成されており、隣接するティース6の間にはスロット7がそれぞれ形成されていてよい。なお、
図1に示されるステータアセンブリ1の極数やスロット数は単なる一例であり、これには限定されない。また、中心軸Xの延在方向を以下では単に「軸方向」ともいう。
【0029】
コイル3は、複数のティース6の回りに螺旋状に巻き回されたものであってよい。各コイル3と各ティース6との間にはインシュレータ8が介在されていてよい。また、コイル3は、例えば銅、アルミ、銀又はこれらの合金線材からなる素線がエナメル等の絶縁被膜によって被覆された構成とすることができる。素線は、
図1では丸線を例示しているが、平角線や六角線等であってもよい。また、コイル3には、3相(具体的には、U相、V相及びW相)のコイルが同じ本数だけ含まれていてよい。
【0030】
また、このコイル3は、ステータコア2の径方向から見てステータコア2の軸方向を長手側とする略長尺矩形状となるように、ティース6の周囲に巻き回されている。コイル3の端部を構成するコイルエンド3Aは、スロット7の軸方向の一端からスロット7外部へ引き出されていてよい。本実施の形態では、コイル3は1本の電線が巻回されて構成されているものが例示されているが、巻回される電線の数は複数本であってもよい。また、上述のインシュレータ8に代えて、他の絶縁部材、例えば絶縁紙やワニスを採用することもできる。
【0031】
ケース4は、ステータコア2の外周囲を包囲する部材であって、高剛性の材料、例えば所定の肉厚を有する金属プレートで構成することができる。このケース4の外形形状は、軸方向両端に底を有さない完全な筒状や、
図1に示したような軸方向一方に底を有する有底筒状等、様々な形状を取り得る。本実施の形態に例示するケース4は、その内径がステータコア2の外径に合わせて設定された有底筒状のものであってよい。また、このケース4の内部には、ステータコア2を収容した状態で支持するために、ケース4の内周面に底を形成する支持突起4B(
図3参照)が形成されていてよい。さらに、このケース4の軸方向長さは、製造されるステータの軸方向長さよりも短く設定されていてよい。
【0032】
図2は、
図1に示すステータアセンブリに樹脂部材を取り付けた状態を示した斜視図である。また、
図3は、
図2のA-A線に沿って切断した断面図である。上述した構成を含むステータアセンブリ1の軸方向両端部の少なくとも一方には、
図2に示すように、環状の樹脂部材10が配設される。本実施の形態においては、樹脂部材10をステータアセンブリ1の軸方向の一端部に配設したものが例示されている。
【0033】
樹脂部材10は、
図2及び
図3に示すように、少なくともケース4の軸方向の一端部4Aを覆うように円環状に形成された弾性を有する樹脂で構成することができる。そして、円環状の樹脂部材10のうち、ケース4の端面に対向するケース当接面10Aは、当該ケース4の端面の全周に当接するよう、実質的に平坦面で構成されていてよい。また、樹脂部材10のケース当接面10Aの内側には、ケース4の一端部4Aの内側に嵌合する段部10Bが設けられていてよく、この段部10Bがケース4内に嵌合されることにより、樹脂部材10が取り付けられるものであってよい。なお、ケース4と樹脂部材10とは、上述した段部10Bによる嵌合構造を必ずしも要しない。具体的には、例えばケース4の一端部4Aとケース当接面10Aとを接着剤等を用いて固定してもよいし、ケース4の一端部4A上に樹脂部材10が固定されることなく単に載置される構造であってもよい。また、本実施の形態の樹脂部材10は円環状のものを例示しているが、ここでいう円環状は真円に限定されるものではない。具体的には、樹脂部材10を、ステータアセンブリ1の形状等に合わせて、例えば楕円形状であったり、その外周面や内周面の一部に放射方向に延びる突起や窪みを有する環状であったり、あるいは、任意の位置に凹部や貫通穴が形成された環状であったりし得る。
【0034】
樹脂部材10には、弾性を有する絶縁性樹脂、特に熱可塑性樹脂を採用するとよい。ここでいう熱可撓性樹脂には、例えばPPS(ポリフェニレンスルファイド)を採用することが好ましい。なお、熱可塑性樹脂としては、上述したPPSのみならず、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PP(ポリプロピレン)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、LCP(液晶ポリマー)、PPA(ポリフタルアミド)、PEK(ポリエーテルケトン)、PSU(ポリスルホン)/PES()ポリフェニレンスルフィド)、PEI(ポリエーテルイミド)、PAI(ポリアミドイミド)、m-PPE(変性ポリフェニレンエーテル)及びPA(ポリアミド)やこれらの組み合わせが含まれていてよく、場合によってはガラス繊維等のフィラーが添加されていてもよい。さらには、PI(ポリイミド)、フッ素樹脂、PC(ポリカーボネート)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PE(ポリエチレン)、POM(ポリアセタール)、PS(ポリスチレン)、PAR(ポリアリレート)、PSF(ポリサルフォン)、ABS樹脂、PET(ポリエチレン)等の他の樹脂を単独であるいは組み合わせて採用することもできる。
【0035】
また、樹脂部材10のケース当接面10Aの反対側の面には、後述する金型20に押圧された際に主に押し潰される部分である押し潰し部11が設けられていてよい。この押し潰し部11は、
図3に示すように、例えば樹脂部材10のケース当接面10Aとは反対側の面を所定の長さH(例えば0.1~0.5mm)だけ軸方向に延在した領域とすることができる。なお、本実施の形態においては、理解を容易にする目的で、樹脂部材10のうち金型20に押圧された際にその押圧力が最も大きく作用する部分を押し潰し部11と規定し、説明を行っている。しかしながら、樹脂部材10において、金型20に押圧された際に押し潰される部分は押し潰し部11として示した部分のみに限定されるものではなく、例えば樹脂部材10全体が概ね均等に押し潰されるような場合も本開示に含まれる。
【0036】
押し潰し部11の長さHは、ケース4及び樹脂部材10に生じ得る、軸方向のうねりやばらつきを考慮して設定するとよい。具体例としては、例えばケース4及び樹脂部材10の軸方向における寸法公差がそれぞれ±0.1mmに設定されている場合には、押し潰し部11の長さHはそれらを合算したものよりも大きな値、例えば0.3mmに設定するとよい。押し潰し部11の長さHをこのように調整することで、ケースや樹脂部材10にうねりやバラツキがあったとしても樹脂漏れや製品寸法のバラツキを抑制することができる。なお、この押し潰し部11を除く樹脂部材10の軸方向長さは、ケース4の一端部4Aに取り付けられた際のケース4の軸方向長さに加算した長さが、製造されるステータの軸方向長さと同じになるように調整されていてよい。
【0037】
ステータアセンブリ1は、コイル3の電気的な接続を行う複数本のバスバー12をさらに含んでいてよい。このバスバー12は、スロット7外部に延在されたコイルエンド3Aにその一端部12Aが電気的に接続され、且つこの一端部12Aとは反対側の他端部12Bがステータアセンブリ1の外部に延在していてよい。バスバー12の中間部分は、その少なくとも一部が樹脂部材10内を引き回されていてよい。したがって、バスバー12と樹脂部材10とがバスバーユニット13として一体的に形成されていてよい。換言すれば、本実施の形態に係る樹脂部材10は、バスバーユニット13の一部を利用して形成することができる。本実施の形態のバスバー12は、コイル3の相に合わせて複数本が略円弧状に配索されていてよい。
【0038】
図4は、本開示の第1の実施の形態に係るステータの製造方法を実行する装置の一例を示した概略断面図である。本実施の形態に係るステータの製造方法においては、
図4に示すように、金型20を用いた樹脂モールドを実施することができる。金型20は、上金型21と下金型22とを含むものであってよい。そして、この上金型21と下金型22を用いて上述した樹脂部材10を含むステータアセンブリ1を軸方向に挟み込むことにより、樹脂モールドが実行され得る。
【0039】
上金型21は、内部に注入通路23が設けられ且つその外径寸法がステータアセンブリ1の外径よりも大きな略円盤状の部材で構成することができる。この上金型21には、下金型22に対向する面の中央部に設けられた略円柱状の上側突起24と、上側突起24が設けられた位置の外周囲を包囲するように略円環状に形成され、上述した樹脂部材10を含むステータアセンブリ1の一部を収容可能な上側凹部25と、が設けられていてよい。注入通路23は、上金型21の下金型22に対向する面の反対側の面と上側凹部25内の1乃至複数箇所との間をつなぐように、上金型21内に形成されていてよい。また、上側突起24の先端側の表面は実質的に平坦面で構成されており、その略中央部分には、上金型21と下金型22の軸方向に交差する方向の位置決めを行うための位置決め突起26が設けられていてよい。
【0040】
下金型22は、上金型21と同程度の外形寸法を有する略円盤状の部材で構成することができる。この下金型22には、上金型21に対向する面の中央部に設けられ、その先端部が上側突起24の先端部に当接可能な下側突起27と、下側突起27が設けられた位置の外周囲を包囲するように略円環状に形成され、上述した樹脂部材10を含むステータアセンブリ1の一部を収容可能な下側凹部28と、が設けられていてよい。下側突起27の先端側の表面は、上側突起24の先端側の表面と同様に実質的に平坦面で構成されており、その略中央部分には、上金型21の位置決め突起26が嵌入される位置決め凹部29が設けられていてよい。なお、本実施の形態においては、上金型21及び下金型22をいずれも略円盤状の部材で形成したものを例示したが、上金型21及び下金型22の外形形状はこれに限定されず、例えば四角形状の部材で形成することもできる。
【0041】
図5は、本開示の第1の実施の形態に係るステータの製造方法の一例を示したフローチャートである。また、
図6は、
図4のB部拡大矢視図であって、
図6Aは金型が樹脂部材を押圧する前の状態を示し、
図6Bは金型が樹脂部材を押圧した状態を示したものである。以下、上述したステータアセンブリ1に、同じく上述した金型20を用いて樹脂モールドを行うための、本実施の形態に係るステータの製造方法を例示的に説明する。なお、以下の説明においては、樹脂モールドの具体的な方法としてトランスファモールドを行う場合を例に説明を行っているが、本開示はこれに限定されない。具体的な樹脂成型の方法としては、注型成形や射出成形を採用することもできる。また、樹脂モールドで用いるモールド樹脂MR(
図7参照)には、エポキシ樹脂又はフェノール樹脂のような熱硬化性樹脂や、熱可塑性樹脂を採用することができる。
【0042】
本開示のステータの製造方法は、
図5に示すように、先ず、
図1に示すようなステータアセンブリ1を提供する(工程S1)。次いで、ステータアセンブリ1の軸方向の一端部に、樹脂部材10を配設する(工程S2)。このとき、樹脂部材10のケース当接面10Aをケースの一端部4Aに当接させると共に、段部10Bをケース4の内側に嵌合させることにより、樹脂部材10をステータアセンブリ1に実質的に固定するとよい。
【0043】
本実施の形態においては、上述した工程S1及びS2の後、あるいは上述した工程に並行して、金型20の予熱を行う(工程S3)。この予熱は、金型20のうち、少なくとも樹脂部材10に当接する部分を含む少なくとも一部に対して実行するとよい。本実施の形態においては、上金型21全体を予熱するものとする。
【0044】
ステータアセンブリ1に樹脂部材10が取り付けられ、且つ上金型21の予熱が実行されると、次に、この樹脂部材10を含むステータアセンブリ1を、
図3に示した状態、すなわち上金型21と下金型22の間に挟みこむようにして、金型20内に配設する(工程S4)。このとき、上金型21は、
図6Aに示すように、その上側凹部25の一部が樹脂部材10の押し潰し部11に当接した状態であってよい。そしてこの場合は、上金型21の上側突起24の先端と下金型22の下側突起27の先端との間にはわずかな隙間G(
図4参照)が形成される。
【0045】
金型20内にステータアセンブリ1が配設されると、次に上金型21及び下金型22の少なくとも一方を両部材が相対的に近づく方向に移動させることにより、上金型21によって樹脂部材10の押し潰し部11を押圧する(工程S5)。この移動により、隙間Gが埋まって上側突起24と下側突起27が当接し、上金型21と下金型22の間に配設されたステータアセンブリ1は所定の圧力で金型20内に挟持される。隙間Gと押し潰し部11の軸方向長さHとは略同一であってよく、例えば0.3mmとすることができる。したがって、上金型21は押し潰し部11の全てを押し潰すように移動される。
【0046】
ここで、上金型21は工程S3において樹脂部材10の軟化温度と略同一あるいはそれより高い温度に予熱されているため、上金型21に押し潰された押し潰し部11は、上金型21からの熱により軟化して樹脂部材10の内周側あるいは外周側に移動する。上金型21の上側凹部25には、軟化した樹脂部材10が外側へ移動することを許容するために、樹脂部材10の外周部分に環状の空間D1が設定されているとよい。これにより、工程S5で押圧された押し潰し部11は、
図6Bに示すように、その大部分が空間D1部分を埋めるように樹脂部材10の外周側に移動する。なお、本実施の形態においては上金型21を予熱することで押し潰し部11を軟化させた場合を例示しているが、上金型21の予熱は行わなくてもよい。その場合には、例えばステータアセンブリ1を金型20内に配設する前に押し潰し部11を軟化させておく、あるいは上金型21の押圧力のみにより押し潰し部11を塑性変形させるといった態様を採用するとよい。
【0047】
また、上側突起24と下側突起27が当接した状態における上側凹部25と下側凹部28の軸方向に沿った長さは、製造するステータの設定長さと同一に設定されていてよい。これにより、上側凹部25と下側凹部28の間に挟持されるステータアセンブリ1は、金型20に挟持されることで、所望の高さに調整され得る。換言すれば、本実施の形態に係る方法で製造されるステータの軸方向長さは、金型20の寸法に基づいて決定され得る。
【0048】
ステータアセンブリ1が金型20内に挟持され所定の寸法で保持されると、次にモールド樹脂MRの注入を開始する(工程S6)。モールド樹脂MRの注入は、注入通路23に接続された供給源、例えばプランジャを動作させることにより、注入通路23を経由して主にスロット7内に注入される。このとき、工程S5において上金型21が樹脂部材10に押圧されたことにより、樹脂部材10の弾性力によってこの部分が液密に当接しているため、注入されたモールド樹脂MRが外部に漏れることがない。なお、ここでいう液密とは、気体は通過する可能性があるものの液体は通過しない程度に密閉された状態を指すものとする。
【0049】
モールド樹脂MRの注入が完了すると、注入されたモールド樹脂MRを硬化させる(工程S7)。モールド樹脂MRの硬化は、周知の加熱手段を用いて(例えば、金型20内に配設したヒータを動作させることにより)モールド樹脂MRを加熱すればよい。モールド樹脂MRの硬化が完了すると、ステータアセンブリ1から金型20を取り外し(工程S8)、一連の製造工程を終了する。
【0050】
図7は、
図3に示すステータアセンブリに樹脂モールドを行った後の状態を示す断面図である。上述した一連の工程を経て樹脂モールドがなされたステータアセンブリ1は、
図7に示すように、ケース4及び樹脂部材10の内周側の全面がモールド樹脂MRで被覆された状態となる。ここで、
図7に示すステータアセンブリ1の樹脂部材10には、押し潰し部11の大部分が樹脂部材10の外周面あるいは内周面へ移動していることは、特に留意すべき事項である。これは、上金型21により押圧した分だけ押し潰し部11が移動したことを意味し、これによって得られたステータアセンブリ1は、金型20の上側凹部25と下側凹部28の間の寸法と同一の寸法に成形されたことになる。このことから、金型20の上側凹部25と下側凹部28の間の寸法を製造したいステータの製品寸法と同一に設定しておけば、樹脂モールドを行うだけで、所望の製品寸法のステータを得ることができる。したがって、例えば樹脂モールドを行う前にステータアセンブリ1の寸法を厳密に調整する必要がなくなる。
【0051】
以上の通り、本実施の形態に係るステータの製造方法においては、樹脂部材10を採用したことで、各部材に求められる寸法精度を低く抑えつつ、樹脂モールドを行った後の製品の寸法精度を向上させることができる。加えて、所定の弾性を有する樹脂部材10が金型20に当接するために樹脂モールドを行う際の樹脂漏れを防止することもできる。
【0052】
ところで、本開示のステータの製造方法では、上述した第1の実施の形態に示す樹脂部材10等を変更することもできる。そこで、以下には、本実施の形態に係るステータの製造方法の変形例をいくつか説明する。なお、以下に示す変形例においては、上述した第1の実施の形態に係る構成と同様の部分には同一の符号を付してその説明を省略し、上述した第1の実施の形態から変更した部分のみを説明するものとする。また、以下に示すいくつかの変形例は、その機能を維持し得る範囲において組み合わせて適用することもできる。
【0053】
図8は、第1の実施の形態に係る方法の第1の変形例を示した
図6に対応する拡大図であって、
図8Aは金型が樹脂部材を押圧する前の状態を示し、
図8Bは金型が樹脂部材を押圧した状態を示したものである。上述した第1の実施の形態では、樹脂部材10の押し潰し部11をケース当接面10Aの反対側の面全体を所定の長さHだけ延在させて形成し、その端面は平坦面で形成されたものを例示したが、第1の変形例の樹脂部材10Cにおいては、これに代えて、
図8Aに示すような環状の突起11Aを含む構成が採用されている。この環状の突起11Aは、第1の環状の突起の一例であって、樹脂部材10Cの一部で構成されていてよく、ケース当接面10Aの反対側の面の全周に沿って円環状に形成されていてよい。また、
図8Aでは環状の突起11Aを1つのみ形成したものを例示しているが、所定の間隔を空けて複数形成してもよい。また、環状の突起11Aの高さは周方向にわたって一様でなくてもよい。後述する環状の突起11B及び環状の突起4Cについても同様である。
【0054】
上述したように、樹脂部材10Cは、押し潰し部として、ケース当接面10Aの反対側の面に環状の突起11Aを含む構成を採用することで、上述した押し潰し部11に比べて金型20により押し潰される部分の体積が小さくできる。そのため、金型20で押圧した際に樹脂部材10の外周囲あるいは内周囲へ移動する樹脂の量が少なくなる。これにより、
図8Bに示すように、樹脂部材10Cが上金型21に設けられた空間D1へ移動する量が少なくなり、樹脂部材10Cの外径が変化し難い。また、樹脂部材10Cを金型20で押圧した際、環状の突起11A部分が優先して潰されるため、環状の突起11Aが全周にわたって確実に潰され、この部分の液密性を安定的に確保することができる。
【0055】
上記第1の変形例では、樹脂部材10Cのケース当接面10Aの反対側の面に第1の環状の突起の一例としての環状の突起11Aを設けた場合を例示したが、第1の環状の突起を設ける位置は上述の位置に限定されない。
図9は、第1の実施の形態に係る方法の第2の変形例を示した
図6に対応する拡大図である。第2の変形例の樹脂部材10Dは、
図9に示すように、第1の環状の突起の他の一例として、樹脂部材10Dのケース当接面10Aに、下方向に突出した環状の突起11Bが採用されている。この環状の突起11Bを含む樹脂部材10Dを採用した場合、ステータアセンブリ1が金型20内に挟持されたときには、先ずこの環状の突起11Bが優先して押し潰されることになる。なお、ケース当接面10Aに環状の突起11Bが形成されている場合には、樹脂部材10Dの上金型21に当接する当接面の液密性を確保するべく、金型20に挟持されたときに当該当接面も押し潰されるよう樹脂部材10Dの上下方向の長さを調整する、あるいは当該当接面を上金型21の被当接面に合致するように事前に表面加工しておくとよい。
【0056】
また、上記第2の変形例においては、樹脂部材10Dのケース当接面10Aに環状の突起11Bを設けることで、ケース当接面10A側に押し潰される部分を設けた場合を例示したが、この環状の突起11Bに類似する突起をケース4側に設けることでも同様の効果を得ることができる。
図10は、第1の実施の形態に係る方法の第3の変形例を示した
図6に対応する拡大図である。第3の変形例においては、ケース4の一端部4Aに第2の環状の突起の一例としての環状の突起4Cが設けられていてよい。この突起4Cは、樹脂部材10Eが上金型21に押圧された際、樹脂部材10Eのケース当接面10Aを押圧し、このケース当接面10Aが優先して押し潰されるように機能し得る。換言すれば、本変形例においては、樹脂部材10Eのケース当接面10A部分が押し潰し部11Cとして機能し得る。なお、本変形例の樹脂部材10Eは、実質的に上述した実施の形態に係る樹脂部材10と同様の構成を有していてよい。
【0057】
上述した第2及び第3の変形例として示した構成を採用すれば、ケース4と樹脂部材10D及び10Eとの間の液密性を安定的に確保することができる。なお、上述した第2の環状の突起の一例としての環状の突起4Cは、第1の環状の突起の一例としての環状の突起11Aあるいは11Bの有無に関係なく採用可能である。
【0058】
図11は、第1の実施の形態に係る方法の第4の変形例を示した
図6に対応する拡大図であって、
図11Aは金型が樹脂部材を押圧する前の状態を示し、
図11Bは金型が樹脂部材を押圧した状態を示したものである。上述した第1の実施の形態では、ステータアセンブリ1に樹脂部材10を配設する際、樹脂部材10に設けられた段部10Bをケース4の内周面に嵌合させて両者を固定するものを例示したが、これに代えて、以下に第4の変形例として説明する固定構造を採用することもできる。第4の変形例では、
図11Aに示すように、樹脂部材10Fの段部10Bの先端に、ケース4の内周面に沿って延在する舌片14が形成され、ケース4の内周面の、ケースの一端部4Aに近い位置に凹部15が形成される。この舌片14が設けられた樹脂部材10Fをケース4に取り付けると、舌片14の先端とステータコア2の端面とが当接するため、ケース4の一端部4Aとケース当接面10Aとの間に隙間が形成された状態で取り付けがなされる。なお、舌片14は段部10Bと同様に環状に形成されていてもよいし、段部10Bから複数本のアームが下方向に延びる形式で形成されていてもよい。また、凹部15は舌片14の位置に合わせて配設されていてよい。
【0059】
上記構成を備えるステータアセンブリに樹脂モールドを行う場合は、上述した第1の実施の形態における工程S5において、
図11Bに示すように、上金型21により樹脂部材10Fをケース4に対して押圧して、舌片14の先端を凹部15内に嵌合させる工程が実行されることになる。樹脂部材10Fが上金型21に押圧されると、樹脂部材10Fは押し潰し部11が押し潰される前あるいは同時にケース4に近づく方向に移動する。そしてこの移動の際、舌片14の先端部はステータコア2の端面に軸方向の移動が規制されているため、この端面から凹部15に向かって逃げるように移動して凹部15に嵌合する。
【0060】
上述した舌片14及び凹部15の構成を採用することにより、樹脂モールドを行う過程で舌片14の先端が凹部15に嵌合して樹脂部材10Fとケース4とが固定されるため、樹脂部材10Fとケース4を固定するために別途の工程を実施する必要がなくなる。また、舌片14は凹部15と嵌合するため、樹脂部材10Fとケース4との接着性がうねり等の影響で低い場合であっても、両者を強固に固定することができる。
【0061】
また、上記第1の実施の形態及び各変形例においては、ケース4を剛性の高い部材、例えば金属で形成し、このケース4に樹脂部材10、10C~10Fを当接させるものを例示したが、ケース4が樹脂、例えば上述した樹脂部材10、10C~10Fと同様の樹脂で形成されていてもよい。そしてその場合は、樹脂部材10、10C~10Fをケース4の一部で形成することができる。樹脂部材10、10C~10Fをケース4の一部で構成することができれば、部品点数や製造工数を削減することができる。なお、樹脂部材10、10C~10Fをケース4の一部で構成する場合には、ケース4の軸方向の長さを上述した実施の形態及び各変形例で説明した樹脂部材10、10C~10Fと同様に、製品寸法よりも長く設定しておくとよい。加えて、ケース4の一部で構成された樹脂部材の端部には、上述した第1の変形例の樹脂部材10Cに設けられた突起11Aと同様の突起が設けられていてもよい。
【0062】
上述した第1の実施の形態及び各変形例で示した樹脂部材10、10C~10Fは、いずれもケース4の一端部4Aに当接するケース当接面10Aを有し、金型20に押圧された際にその少なくとも一部が押し潰されるものである。他方、本開示の方法で利用される樹脂部材にあっては、ケースの端部に当接している必要は必ずしもない。そこで、以下には本開示の第2の実施の形態として、ケース4の一端部4Aと当接しない樹脂部材を用いたステータの製造方法について簡単に説明する。なお、以下に示す第2の実施の形態は、樹脂部材の形状を除き、上述した第1の実施の形態に係る方法で述べた各構成、具体的にはステータアセンブリの全体構成やステータの製造方法を実行する装置の構成と同一のものを用いることができる。そこで、以下には、第1の実施の形態において説明したものと同様の部分には同一の符号を付してその説明を省略し、上述した第1の実施の形態から変更した部分のみを説明するものとする。
【0063】
<第2の実施の形態>
図12は、本開示の第2の実施の形態に係るステータの製造方法を実行する装置の一例を示した
図6に対応する拡大図であって、
図12Aは金型が樹脂部材を押圧する前の状態を示し、
図12Bは金型が樹脂部材を押圧した状態を示したものである。本実施の形態に係るステータの製造方法は、その製造のために準備される樹脂部材30が、ケース4Dの一端部4Aには当接せず、ステータコア2の軸方向の一端部2Aに当接する構造を採用している点で、第1の実施の形態のものとは相違している。
【0064】
樹脂部材30は、ステータコア2の軸方向の一端部2Aを覆うように円環状に形成された弾性を有する樹脂で構成することができる。そして、この円環状の樹脂部材30のうち、ステータコア2に当接するステータコア当接面30Aは、ステータコア2の主にヨーク5を構成する部分にその全周にわたって当接することができる。
【0065】
上述した樹脂部材30の構造に関連して、本実施の形態に係るステータアセンブリ1Aに含まれるケース4Dは、その一端部が樹脂部材30の外側を部分的に覆うようにその一部が延在していてよい。このケース4Dの内周面と樹脂部材30の外周面とは密着した状態とするとよい。ケース4Dによりその外側の少なくとも一部が覆われた樹脂部材30は、ステータコア2の一端部2Aとケース4Dの内周面とによって支持され得る。樹脂部材30のステータコア当接面30Aの反対側の面は、金型20に押圧された際に主に押し潰される部分である押し潰し部31として機能し得る。押し潰し部31の長さHは、ステータコア2及び樹脂部材30に生じ得る、軸方向のうねりやばらつきを考慮して設定するとよい。具体例としては、例えばステータコア2及び樹脂部材30の軸方向における寸法公差がそれぞれ±0.1mmに設定されている場合には、押し潰し部31の長さHはそれらを合算したものよりも大きな値、例えば0.3mmに設定するとよい。
【0066】
軸方向の一端部に樹脂部材30が支持されたステータアセンブリ1Aを樹脂モールドする際には、第1の実施の形態と同様に、
図5に示した一連の工程を実施すればよい。この一連の工程の詳細については第1の実施の形態で述べた内容を参酌すればよいが、簡単に説明すると、先ず、上述したステータアセンブリ1Aを提供する(工程S1)。次いで、ステータアセンブリ1Aの軸方向の一端部に樹脂部材30を配設する(工程S2)。このとき、樹脂部材30のステータコア当接面30Aをステータコア2の一端部2Aに当接させる。
【0067】
そして、金型20の予熱を行った後(工程S3)、樹脂部材30を含むステータアセンブリ1Aを金型20内に配設する(工程S4)。このとき、上金型21は、
図12Aに示すように、その上側凹部25の一部が樹脂部材30の押し潰し部31に当接した状態となるようにするとよい。そして、上金型21及び下金型22の少なくとも一方を両者の間の隙間Gを埋めるように移動させ、樹脂部材30の押し潰し部31を押圧する(工程S5)。
【0068】
工程S5において上金型21に押圧された押し潰し部31は、
図12Bに示すように、軸方向に押し潰されて上金型21と密着した状態となる。これにより、樹脂部材30と上金型21との間は液密状態となる。そして、モールド樹脂MRの注入を行い(工程S6)、注入されたモールド樹脂MRを硬化させ(工程S7)、モールド樹脂MRの硬化が完了すると、ステータアセンブリ1から金型20を取り外し(工程S8)、一連の製造工程を終了する。
【0069】
以上の通り、本実施の形態に係るステータの製造方法においても、樹脂部材30を採用したことで、各部材に求められる寸法精度を低く抑えつつ、樹脂モールドを行った後の製品の寸法精度を向上させることができる。加えて、所定の弾性を有する樹脂部材30が金型20に当接するために樹脂モールドを行う際の樹脂漏れを防止することもできる。
【0070】
上述した第2の実施の形態においては、ステータアセンブリ1Aが、ステータコア2の外周面及び樹脂部材30の外周面の一部を覆うケース4Dを有するものを例示したが、本実施の形態に係るステータの製造方法においては、ケースを有しないステータアセンブリであっても樹脂モールドを実施することができる。そこで以下には、第2の実施の形態の変形例として、ケースを有しないステータアセンブリ1Bに樹脂モールドを行うものを例示する。
【0071】
図13は、本開示の第2の実施の形態の一変形例に係るステータの製造方法を実行する装置を示した
図4に対応する概略断面図である。本変形例に係る方法において提供されるステータアセンブリ1Bは、
図13に示すように、上述した第1及び第2の実施の形態において示されたケース4、4Dを有さず、結果としてその外周面が露出したステータコア2を含むものであってよい。
【0072】
ステータアセンブリ1Bのステータコア2の軸方向の一端部2Aには、当該一端部2Aに一部が当接するように配設される樹脂部材30Bが配設されるとよい。樹脂部材30Bは、第2の実施の形態で説明した樹脂部材30と同様に、その一端部にステータコア2一端部2Aと当接するステータコア当接面30Aを有するもので構成することができる。加えて、この樹脂部材30には、その外周面から外側に延在する環状のリブ32が設けられているとよい。
【0073】
上述した構成のステータアセンブリ1Bに対して樹脂モールドを実施するために、本変形例に係るステータの製造方法で用いられる金型20Aは、
図13に示すように、上金型21Aと下金型22Aとを含むものであってよい。このうち、上金型21Aは、第1の実施の形態で説明した上金型21と実質的に同様の構造のものであってよい。
【0074】
下金型22Aは、上金型21Aと同程度の外形寸法を有する略円盤状あるいは四角形状の部材で構成することができる。この下金型22Aには、上述した下金型22と同様に、位置決め凹部29を有する下側突起27を含むことができる。加えて、この下金型22Aは、下側突起27が設けられた位置の外周囲を包囲するように略円環状に形成され、上述したステータアセンブリ1Bの一部を収容可能な下側凹部28Aと、この下側凹部28Aの外縁から上金型21Aに向かって立設した側壁部28Bと、下側凹部28Aの適所から隆起したステータコア2の他端部を支持するための複数本の支持突起28Cとを含んでいてよい。
【0075】
上述した構成を備える金型20A内に樹脂部材30Bを含むステータアセンブリ1Bを配設すると(
図5の工程S4参照)、
図13に示すように、樹脂部材30Bのリブ32を除く部分は、その他端部が支持突起28Cに支持されたステータコア2の一端部と上金型21Aの上側凹部25の間に挟持される。そして、樹脂部材30Bのリブ32は、下金型22Aの側壁部28Bの先端面とこの先端面に対向する上金型21Aの上側凹部25の間に挟持される。この状態で、上金型21A及び下金型22Aの少なくとも一方を両者の間の隙間Gを埋めるように移動させ、樹脂部材30Bの押し潰し部31を押圧すれば、上金型21Aに押圧されて樹脂部材30B全体が押し潰されると共に、リブ32が上金型21Aと下金型22Aの間に所定圧力で直接挟持されることによって、樹脂部材30Bと金型20Aの間が液密状態とされる。これにより、後にモールド樹脂MRを注入した際も金型21の外部にモールド樹脂MRが漏れだすことがなくなる。
【0076】
また、ステータコア2はその他端部が複数本の支持突起28Cによって下側凹部28Aに対して離間した状態で支持されるため、ステータコア2の全周囲にモールド樹脂MRを注入することができる。
【0077】
上述した変形例に係るステータの製造方法によれば、ケースを有しないステータアセンブリ1Bに対しても、樹脂漏れを防止しつつ樹脂モールドを実施することができる。また、樹脂部材30Bは、他の樹脂部材10、10C~10F、30と同様に、金型20Aによって押し潰されることで、各部材に求められる寸法精度を低く抑えつつ、樹脂モールドを行った後の製品の寸法精度を向上させることもできる。
【0078】
本開示は上述した実施の形態に限定されるものではなく、本開示の主旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することが可能である。そして、それらはすべて、本開示の技術思想に含まれるものである。また、本開示において、各構成要素は、矛盾が生じない限りは1つのみ存在しても2つ以上存在してもよい。
【0079】
本明細書中で引用する刊行物、特許出願及び特許を含むすべての文献を、各文献を個々に具体的に示し、参照して組み込むのと、また、その内容のすべてをここで述べるのと同じ限度で、ここで参照して組み込む。
【0080】
本開示の説明に関連して(特に以下の請求項に関連して)用いられる名詞及び同様な指示語の使用は、本明細書中で特に指摘したり、明らかに文脈と矛盾したりしない限り、単数及び複数の両方に及ぶものと解釈される。語句「備える」、「有する」、「含む」及び「包含する」は、特に断りのない限り、オープンエンドターム(すなわち「~を含むが限らない」という意味)として解釈される。本明細書中の数値範囲の具陳は、本明細書中で特に指摘しない限り、単にその範囲内に該当する各値を個々に言及するための略記法としての役割を果たすことだけを意図しており、各値は、本明細書中で個々に列挙されたかのように、明細書に組み込まれる。本明細書中で説明されるすべての方法は、本明細書中で特に指摘したり、明らかに文脈と矛盾したりしない限り、あらゆる適切な順番で行うことができる。本明細書中で使用するあらゆる例又は例示的な言い回し(例えば「など」)は、特に主張しない限り、単に本開示をよりよく説明することだけを意図し、本開示の範囲に対する制限を設けるものではない。明細書中のいかなる言い回しも、請求項に記載されていない要素を、本開示の実施に不可欠であるものとして示すものとは解釈されないものとする。
【0081】
本明細書中では、本開示を実施するため本発明者が知っている最良の形態を含め、本開示の好ましい実施の形態について説明している。当業者にとっては、上記説明を読めば、これらの好ましい実施の形態の変形が明らかとなろう。本発明者は、熟練者が適宜このような変形を適用することを期待しており、本明細書中で具体的に説明される以外の方法で本開示が実施されることを予定している。したがって本開示は、準拠法で許されているように、本明細書に添付された請求項に記載の内容の修正及び均等物をすべて含む。さらに、本明細書中で特に指摘したり、明らかに文脈と矛盾したりしない限り、すべての変形における上記要素のいずれの組合せも本開示に包含される。
【要約】
本開示のステータの製造方法は、ヨークから突出した複数のティースにコイルが巻き回されたステータコアと、ステータコアの外周囲を包囲するケースとを備えたステータアセンブリを提供する工程と、前記ケースの軸方向の少なくとも一方の端部に、金型に押圧された際にその少なくとも一部が押し潰される環状の樹脂部材を配設する工程と、前記金型内に、その少なくとも一方の端部に前記樹脂部材が配設された前記ステータアセンブリを、前記樹脂部材が押圧された状態で挟持する工程と、前記金型内にモールド樹脂を注入する工程と、を含む。