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特許7358695血栓性微小血管症治療における使用のためのクラスタリン
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】血栓性微小血管症治療における使用のためのクラスタリン
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/16 20060101AFI20231003BHJP
   C07K 14/47 20060101ALI20231003BHJP
   A61P 7/02 20060101ALI20231003BHJP
   A61P 7/04 20060101ALI20231003BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20231003BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20231003BHJP
【FI】
A61K38/16
C07K14/47 ZNA
A61P7/02
A61P7/04
G01N33/53 W
C12N15/12
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020524687
(86)(22)【出願日】2018-07-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-10-22
(86)【国際出願番号】 FR2018051854
(87)【国際公開番号】W WO2019016485
(87)【国際公開日】2019-01-24
【審査請求日】2021-07-19
(31)【優先権主張番号】1756912
(32)【優先日】2017-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】506424209
【氏名又は名称】ユニベルシテ ドゥ ボルドー
(73)【特許権者】
【識別番号】504007888
【氏名又は名称】センター ナショナル デ ラ レシェルシェ サイエンティフィーク
(73)【特許権者】
【識別番号】516324917
【氏名又は名称】サントル・オスピタリエ・ユニベルシテール・ドゥ・ボルドー
(73)【特許権者】
【識別番号】511074305
【氏名又は名称】インセルム(インスティチュート ナショナル デ ラ サンテ エ デ ラ リシェルシェ メディカル)
(73)【特許権者】
【識別番号】513290532
【氏名又は名称】ユニバーシティ アンジェ
(73)【特許権者】
【識別番号】520026054
【氏名又は名称】サントル オスピタリエ ユニベルシテール アンジェ
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】オーギュスト,ジャン-フランソワ
(72)【発明者】
【氏名】コンタン-ボルデ,セシル
(72)【発明者】
【氏名】ドゥルマ,ヤソー
(72)【発明者】
【氏名】ブランコ,パトリック
(72)【発明者】
【氏名】デルネステ,イヴ
(72)【発明者】
【氏名】ジャナン,パスカル
(72)【発明者】
【氏名】ボビヤン,セリーヌ
【審査官】大島 彰公
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第02/042441(WO,A2)
【文献】国際公開第2014/035876(WO,A1)
【文献】CUNIN P,CELL DEATH & DISEASE,2016年05月,VOL:7, NR:5,PAGE(S):E2215 (1 - 11),http://dx.doi.org/10.1038/cddis.2016.113
【文献】Blood,2012年,120(6),1157-64,doi: 10.1182/blood-2012-02-412197
【文献】ROXANNE COFIELL,BLOOD,2015年05月,VOL:125, NR:21,PAGE(S):3253 - 3262,http://www.bloodjournal.org/content/125/21/3253.full.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K、C07K、A61P、G01N、C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラスタリンを含フォンウィルブランド因子プロテアーゼを含まない、血栓性微小血管症治療のための医薬組成物。
【請求項2】
前記クラスタリンは配列番号1のヒトクラスタリンである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記クラスタリンは配列番号1のヒトクラスタリンと少なくとも90%の同一性を有するペプチド配列を有する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記クラスタリンは組換えクラスタリン、血漿クラスタリンおよび合成クラスタリンから選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記血栓性微小血管症は血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)、細菌に関連するかまた
は関連しない溶血性尿毒症症候群(HUS)、HELLP症候群および二次性血栓性微小血管症(TMA)から選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
経口投与のための、請求項1~のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
非経口投与のための、請求項1~のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記非経口投与は静脈内投与、筋肉内投与および皮下投与を含む群から選択される、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
注射可能な溶液の形態である、請求項またはに記載の医薬組成物。
【請求項10】
血栓性微小血管症(TMA)に罹患しているかまたは罹患している可能性がある患者のex vivo層別化方法であって、前記方法は:
1)前記患者から得られた全血又は血清サンプルにおいて、血清クラスタリンレベルLcを測定するステップ、および
2)ステップ1)で測定されたレベルLcを、スコアS1=Lc/Lrefの算出によって血清クラスタリンレベルLrefと比較するステップ、
を含み、
・S1≦1の場合、前記患者はクラスタリンを用いたTMA治療の利益を受ける可能性があると見なされ、
・S1>1の場合、前記患者はクラスタリンを用いたTMA治療の利益を受ける可能性があると見なされない、
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血栓性微小血管症治療に使用するためのタンパク質の使用に関し、TMAに罹患しているかまたはTMAに罹患している可能性がある患者のex vivo層別化方法にも関する。
【0002】
下記明細書では、角括弧([ ])の参照は文章の最後にある参照リストに示している。
【背景技術】
【0003】
血栓性微小血管障害(TMA)という名前には、血栓による小血管の閉塞をもたらし、組織虚血を引き起こす内皮病変の発生を特徴とする希少疾患のグループが含まれる。組織虚血は、細胞破壊および死細胞による、通常細胞内に拘束されている分子の細胞外培地への放出の原因となる。これらの危険分子は炎症誘発性であり、宿主の細胞に対する細胞傷害作用を有する。最近のデータにより危険分子としてヒストン(遊離型またはDNAとの複合体)が同定され、この役割はTMAには必要不可欠である。
【0004】
TMA(血栓性微小血管障害症)は生命を脅かす疾患であり、最も障害が生じる標的臓器は腎臓と脳である。TMAの最も古典的な形態は、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)、および細菌に関連するあるいは細菌に関連しない溶血性尿毒症症候群(HUS)である。細菌に関連するHUSはHUSの最頻型(HUSの90%)であり;いくつかの細菌株(エシェリキア・コリ(Escherichia coli)O157:H7;赤痢菌、肺炎球菌、特にエシェリキア・コリ(Escherichia coli)O104)は、志賀毒素として公知の毒素の分泌によって病気を引き起こすことが現在知られている。細菌に関連しないHUSは、HUSの約10%であり、遺伝子感受性との関連で見られることが多い。
【0005】
TTPの新しい症例数は、百万人の住民当たり年に5~10症例である。HUSの発生頻度はこれらの値に非常に近い。
【0006】
これらの最も古典的な形態に加えて、TMAとしては、重篤な合併症または妊婦における子癇前症の一変型であり、溶血、肝酵素上昇および血小板数低下を特徴とするHELLP症候群が挙げられる。例えば、特定の治療中、化学療法中、がんに罹患中に、または同種骨髄移植中など、特定の状況において起こるTMAの二次性型も存在する。
【0007】
最も古典的な形態の現在の治療は、概して、小児に起こる志賀毒素関連HUSを除いて治療開始時に血漿交換によって行われる。血漿交換の目的は、ボランティアの提供者から、ADAMTS13タンパク質(TTP)または補体タンパク質(HUS)を含む大量の血漿を得ることである。他の治療はこれと併用されることが多く、特に副腎皮質ステロイドが併用される。これらが効果的である場合、血漿交換は、血小板数の持続的正常化が得られる(少なくとも48時間)まで継続され、徐々に間隔を空ける。しかしながら、多くの場合、血漿交換は余り効果的でないことが判明している。
【0008】
標準的治療に対する応答が最適でない状況では、補足的治療が加えられる。この関連で一般的に使用される治療、抗CD20抗体(リツキシマブ)は、Bリンパ球を一過性に破壊することによって患者の抗体産生に対抗することを目標とする。その使用は、通常、治療プロトコルの枠組み内で、リファレンスセンターと協議して行われる。
【0009】
非定型と呼ばれる特発性HUS患者では、治療は、病気の原因となる補体タンパク質を遮断することのできる薬物を含む。エクリズマブは、非定型HUS適応症において認可された現在唯一の治療である。エクリズマブ300mg瓶が4000ユーロ超の費用がかかるため、この治療は極めて高価であり、維持療法としての投与レジメンは14日毎に1200mgである。
【0010】
効果的であることが多いが、これらの治療は個体間で変わりやすく、TMAの性質に依存して作用時間が遅れる。しかしながら、病因診断は数日/数週の時間がかかることがある。したがって、例としてTTPを挙げると、現在、死亡率は約15%のままである。
【0011】
したがって、これらの従来技術の欠点、弱点および障壁を克服する、特に、主に早期のTMAの急性期の死亡率を減らすことができるように、迅速に、かつ、病気の病因に関わらず作用する新規治療に対する真の必要性がある。
【発明を実施するための形態】
【0012】
かなりの数の研究の後、本発明者らは、この技術的問題を何とか解決するに至った。
【0013】
驚くべきことに、本発明者らは、クラスタリンはヒストンと結合し、その炎症作用および細胞障害作用を阻止することを示した。
【0014】
事実、本発明者らは、クラスタリンはTMAにおいて中心的役割を有する危険分子であるヒストンと結合することを示した。本発明者らはまた、クラスタリンが、一方では、ヒト単球による炎症性分子の産生、特に、IL-6やTNFα等の炎症性サイトカインの産生を抑制することによって、他方では、内皮細胞の細胞死誘導を抑制し、特に、ヒストンが有する内皮細胞の細胞死誘導能力をなくすことによって、ヒストンの作用を中和することを示した。本発明者らは、ヒストンを含む患者から得られた血清へのクラスタリンの添加が、内皮細胞に関してその傷害性を低減することも示した。
【0015】
さらに、本発明者らは、クラスタリンレベルはTMAに罹患している患者の健康状態と相関することを示した。事実、本発明者らは、血清クラスタリンレベルは、健常対象より、診断においてTMAに罹患している患者で低いことを立証することができた。
【0016】
本発明は、現在の治療が病因に依存するTMA治療を促進できる可能性がある。したがって、クラスタリンの使用は、病因に関わらず、TMA患者に提案することができ、病因診断に依存しないより迅速な治療を可能とする。
【0017】
したがって、第一の主題は、血栓性微小血管症治療におけるその使用のためのクラスタリンに関する。
【0018】
アポリポタンパク質Jとしても知られているクラスタリン(Clu)は、進化の間、哺乳類の中でよく保存されている、ジスルフィド架橋によって結合された80kDaの可溶性ヘテロ二量体糖タンパク質である。クラスタリンは生理液中に豊富であり(例として、ヒト血清中100~300μg/mlの範囲の濃度)、多種多様な細胞および組織病変に応答して誘発される。クラスタリンはシャペロン活性を有し、細胞内低分子熱ショックタンパク質(HSP)の機能相同体であることが知られている。クラスタリンは変性タンパク質の疎水性ドメインと結合し、受容体媒介内部移行および細胞内リソソーム分解の標的となる。この機能は、クラスタリンが、脂質、補体系成分、アミロイド斑形成タンパク質、および免疫グロブリンなどの広範囲の分子と相互作用することを可能とする。
【0019】
本発明との関連で、用語「クラスタリン」はその一般的意味を有し、上記糖タンパク質
を表す。クラスタリンは、動物クラスタリンであってもよく、ヒトクラスタリンであってもよい。クラスタリンは、血漿クラスタリン、組換えクラスタリンおよび合成クラスタリンを含む群から選択されるクラスタリンであってよい。
【0020】
血漿クラスタリンを、血漿、特にヒト血漿から、当業者に公知のいずれの精製方法、例えば、イムノアフィニティー、カチオン交換、血漿分画および/またはサイズ排除クロマトグラフィーによって精製することにより得ることができる。
【0021】
組換えクラスタリンは、当業者に周知の標準的組換えDNA技術により得ることができる。例えば、クラスタリンをコードする遺伝子を、細菌、培養下の哺乳類細胞またはトランスジェニック動物などの産生種のゲノムへ、ベクターによって導入することができる。宿主細胞内の遺伝子の導入、維持および発現を可能とするベクターは、当業者に公知である。概して、ベクターは、プロモーター配列、ポリアデニル化配列および選択可能な遺伝子などの導入遺伝子の発現に必要不可欠な配列を有する。このようなベクターを、当業者に公知のもの、例えば、これに限定されないが、アデノウイルス、レトロウイルス、プラスミドまたはバクテリオファージから選択することができる。いずれもの哺乳類細胞を宿主細胞として、すなわち、クラスタリンをコードする遺伝子を発現する細胞として使用することができ、例えば、CHO、CHO dhfr-(例えば、CHO DX BI1、CHO DG44)、CHO Lec13、YB2/0、SP2/0、NSO、293、BHK、ジャーカット、ベロまたはCOSである。
【0022】
合成クラスタリンは、例えば、マトリックス上のアセンブリなどの、組換えタンパク質の製造に使用されるもの以外のデノボタンパク質デザインの公知の方法により得ることができる。
【0023】
クラスタリンの製造方法に関わらず、多数の種からのクラスタリン配列は公知であり、本発明との関連で使用することができる。例えば、クラスタリンのアミノ酸配列は、配列番号1の配列であり得る。
配列番号1 クラスタリン_ホモサピエンス
MMKTLLLFVG LLLTWESGQV LGDQTVSDNE LQEMSNQGSK YVNKEIQNAV NGVKQIKTLI EKTNEERKTL LSNLEEAKKK KEDALNETRE SETKLKELPG VCNETMMALW EECKPCLKQT CMKFYARVCR SGSGLVGRQL EEFLNQSSPF YFWMNGDRID SLLENDRQQT HMLDVMQDHF SRASSIIDEL FQDRFFTREP QDTYHYLPFS LPHRRPHFFF PKSRIVRSLM PFSPYEPLNF HAMFQPFLEM IHEAQQAMDI HFHSPAFQHP PTEFIREGDD DRTVCREIRH NSTGCLRMKD QCDKCREILS VDCSTNNPSQ AKLRRELDES LQVAERLTRK YNELLKSYQW KMLNTSSLLE QLNEQFNWVS RLANLTQGED QYYLRVTTVA SHTSDSDVPS
GVTEVVVKLF DSDPITVTVP VEVSRKNPKF METVAEKALQ EYRKKHREE
【0024】
使用されるクラスタリンは、配列番号1と少なくとも70%の同一性、例えば、配列番号1と70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99%または100%の同一性を有する多様体であり得る。当業者に公知のいずれもの適切な技術によって、例えば、BLAST Pなどの配列アライメントアルゴリズムによって配列同一性を決定することができる。特に、クラスタリン多様体はその機能が保存されている多様体であり得る。この点において、これに限定されないが
、例えば、極性、水素結合電位、疎水性、酸性、塩基性、芳香族性などの同様な特性を有するアミノ酸による、アミノ酸置換を含むクラスタリンの高次構造と機能全体のいずれも損なっていない多様体において、天然クラスタリン中の所与のアミノ酸残基が修飾されているクラスタリンであってもよい。結果として、多様体は、少なくとも70%のアミノ酸同一性を有し、かつ、比較される天然または親タンパク質と同一または実質的に類似の同じ特性または機能を有するポリペプチドをも表す。
【0025】
作用機序によって束縛されることは望まないが、クラスタリンの作用は、前記クラスタリンのヒストンのシャペロン機能と関連するように思われる。
【0026】
本明細書で使用されるとき、用語「ヒストン」はその一般的意味を有する。ヒストンはリジンまたはアルギニン高含有率を有する低分子塩基性タンパク質であり、その機能はDNAパッケージングにある。ヒストンは高度に保存されており、5つの主分類:コアヒストン(H2A、H2B、H3およびH4)およびリンカーヒストン(H1およびH5)の2つ大分類に体系化されるH1/H5、H2A、H2B、H3およびH4にまとめて分類することができる。本発明との関連で、ヒストンタンパク質は、完全長ヒストン、そのフラグメントまたは多様体であってよい。ヒストン多様体は、例えば、アミノ酸欠失、付加および/または置換によって改変されていてもよい。あるいは、ヒストンは、リジンおよびアルギニンのアセチル化および/またはメチル化によって改変されていてもよい。概して、改変は、ヒストンのポリカチオン性またはヒストンの器官内に局在する能力に実質的に支障を来すことはない。
【0027】
有利には、クラスタリンは、その炎症作用および/または毒性作用の全てまたは一部を阻止するようにヒストンと結合する。これにより、少なくとも20%、例えば、30%、または40%、または50%、または60%、または70%、または80%、または90%、または100%のヒストンの炎症作用および/または毒性作用の阻止を引き起こし得る。
【0028】
有利には、クラスタリンは、炎症誘発性分子、特に、IL-6およびTNFαなどの炎症誘発性サイトカインのヒト単球による産生を阻止する。これにより、少なくとも20%、例えば、30%、または40%、または50%、または60%、または70%、または80%、または90%、または100%の炎症誘発性分子の産生の阻止を引き起こし得る。
【0029】
有利には、クラスタリンは、特に内皮細胞死を誘発するヒストンの能力の中和によって、内皮細胞死の誘発を阻止する。これにより、少なくとも20%、例えば、30%、または40%、または50%、または60%、または70%、または80%、または90%、または100%の内皮細胞死を誘発の阻止を引き起こし得る。
【0030】
本発明との関連で、上記効果の全てまたは一部は起こり得る。
【0031】
血栓性微小血管症は、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)、細菌に関連するまたは細菌に関連しない溶血性尿毒症症候群(HUS)、HELLP症候群および二次性TMAであり、例えば、特定の治療中、化学療法中、がんに罹患中に、または同種骨髄移植中に起こるものから選択され得る。
【0032】
本発明の目的のため、用語「治療」は、TMAの1つ以上の症状を示している、またはTMAの症状を示していないがTMAと診断された、例えば、早期のTMAと診断されたかいずれかの対象にクラスタリンを投与することを意味するものとする。有利には、いずれものTMAの治療、すなわち、必ずしも事前にTMAのタイプが判別しなくても、HU
S、TTP、HELLP症候群または二次性TMAであろうがなかろうが治療を行うことができる。このことは、TMAのサブタイプを定義することを待たないで、患者の治療を可能とし、したがって、疾病、および/または症状発現の悪化を避ける利点を有する。あるいは、クラスタリンのアッセイ後に治療を行うことができ、このアッセイは患者を層別化し、必要に応じて、疾病の重症度を示すマーカーであるクラスタリンが低レベルの患者にのみ治療を提案することを可能とする。
【0033】
有利には、治療は、TMAの1つ以上の症状を改善もしくは消失すること、またはTMAの全てもしくは一部の症状を安定化すること、またはTMAの全てもしくは一部の症状進行を減速することであり得る。
【0034】
患者に対する治療効果を与えることを可能とする最小用量である、クラスタリンの治療効果用量の投与により、治療を行うことができる。これは、病態、病態の段階、患者のクラスタリンレベルの初期アッセイ、および/または患者に応じて、医師によって決定される用量であってよい。例えば、毎日のクラスタリン用量は、成人1日当たり0.01~1000mgであってよい。例えば、0.01、0.05、0.1、0.5、1.0、2.5、5.0、10.0、15.0、25.0、50.0、100、250または500mgの1日の用量のクラスタリンであってよい。投与量は治療の段階に応じて調整してよく、例えば、医師の観察に応じて治療の間に増減してよい。
【0035】
いずれもの適切な投与経路により治療を行ってよい。例えば、クラスタリンの経口投与または非経口投与であってよい。非経口投与の場合、例えば、静脈内投与、筋肉内投与または皮下投与であってよい。
【0036】
有利には、TMAの治療において公知の少なくとも1つの有効成分または治療と併用して、上記のようにクラスタリンを投与することができる。TTPの場合、血漿交換、コルチコイド療法、免疫抑制剤、例えば、リツキシマブなどの抗CD20、カプラシズマブなどのフォンウィルブランド因子に対するモノクローナル抗体から選択される治療であってよい。定型HUSの場合、対症療法、血漿交換、例えば、エクリズマブなどの補体C5フラクションに対するモノクローナル抗体、および、例えば、リツキシマブなどの抗CD20から選択される少なくとも1つの治療であってよい。非定型HUSの場合、血漿交換およびエクリズマブなどの補体C5フラクションに対するモノクローナル抗体から選択される少なくとも1つの治療であってよい。HELLP症候群のケースでは、妊産婦の状態が悪化した場合に輸血や分娩開始の中から選択される少なくとも1つの治療に関与しうる。
【0037】
本発明の別の主題は、血栓性微小血管症治療におけるその使用のための、クラスタリンを含む医薬組成物であって、前記組成物はフォンウィルブランド因子プロテアーゼであるADAMTS13を含まない、医薬組成物に関する。
【0038】
特に、本発明の医薬組成物は、HUSおよびHELLP症候群の治療に使用することができる。
【0039】
クラスタリンは上記の通りである。
【0040】
医薬組成物は、約0.01mg~約1000mgのクラスタリン、例えば、約1mg~約100mgを含んでよい。クラスタリンの効果用量は、概して、1日当たり約0.0002mg/体重kg~約20mg/体重kg、より具体的には1日当たり約0.001mg/体重kg~約7mg/体重kgの用量で与えられる。
【0041】
典型的には、医薬組成物は、クラスタリンに加えて、1つ以上の薬剤的に許容可能な賦
形剤、および必要に応じて少なくとも1つの生分解性高分子などの徐放性マトリックスを含んでもよい。
【0042】
用語「医薬の」および「薬剤的に許容可能な」は、その品質が施行されている規格の要件を満足する分子的実体または組成物を表す。薬剤的に許容可能な担体または賦形剤は、いずれもの適切な種類の半固体または液体および無毒性である充填剤、希釈剤、カプセル化材または製剤アジュバントを表す。経口、舌下、皮下、筋肉内、静脈内、経皮、局所または直腸投与のための本発明の医薬組成物では、単独または別の有効成分との併用のクラスタリンを、単位投与形態で、必要に応じて、従来の医薬用担体との混合物として、動物およびヒトに投与してよい。
【0043】
適切な単位投与形態は、錠剤、ゲルカプセル剤、散剤、顆粒剤および経口用懸濁剤または液剤などの経口用投与形態、舌下および口腔用投与形態、エアロゾル剤、インプラント錠、皮下、経皮、局所、腹腔内、筋肉内、静脈内、真皮下、経皮、くも膜下腔内、動脈内および鼻内投与形態、ならびに直腸投与形態を含む。概して、医薬組成物は、注射製剤用に薬剤的に許容可能である担体を含んでよい。前記担体は、特に、等張性、滅菌生理食塩水(リン酸一ナトリウムもしくはリン酸二ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウムもしくは塩化マグネシウムおよび同様のもの、またはこのような塩の混合物)または乾燥組成物、詳細には、必要に応じて滅菌水もしくは生理食塩水の添加により注射可能な溶液を生成することができる凍結乾燥組成物であってよい。注射用途に適した医薬品形態は、滅菌水溶液もしくは分散液、ゴマ油、落花生油または水性プロピレングリコール、および滅菌された注射可能な溶液もしくは分散剤の即時調製用滅菌散剤を含む。いずれにしても、製剤は注射器を使用して注射することができるように滅菌されていなければならず、液体でなければならない。製剤は、従来の製造および保管条件下安定でなければならず、細菌および真菌などの微生物による汚染を防止するために安定でなければならない。遊離塩基または薬剤的に許容可能な塩として本発明の化合物を含む液剤を、必要に応じてヒドロキシプロピルセルロースなどの界面活性剤を用いて適切な方法で水中に調製することができる。分散剤を、グリセロール、ヒドロキシプロピルセルロースなどの液体ポリエチレングリコールおよびその混合物の媒体中、ならびに油中に調製することができる。通常の保管および使用条件下、これらの製剤は、微生物の増殖を防止するために防腐剤を含んでよい。クラスタリンを、中性の形態または塩の形態で製剤することができる。
【0044】
薬剤的に許容可能な塩は、酸付加塩(タンパク質の遊離アミノ基とで生成)を含み、この付加塩は、例えば、塩酸もしくはリン酸などの無機塩、または酢酸、シュウ酸、酒石酸もしくはマンデル酸などの有機酸とで生成する。遊離カルボン酸基とで生成する塩は、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムまたは水酸化鉄などの無機塩基、およびイソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジンおよびプロカインなどの有機塩基から誘導されてもよい。担体は、溶媒、または、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリセロールおよび液体ポリエチレングリコールなど)、その適切な混合物、および植物油を含む、分散媒体であってもよい。適切な流動性は、例えば、レクチンなどのコーティングを使用することにより、分散剤の場合に必要な粒度を維持することにより、および界面活性剤を使用することにより維持することができる。微生物作用は、抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸またはチメロサールの添加により防止することができる。必要に応じて、等張剤、例えば、糖または塩化ナトリウムを含むことが好ましい場合がある。注射可能組成物の持続的吸収は、組成物中に、吸収遅延剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンを使用することにより起こすことができる。滅菌された注射可能な溶液は、上記のいくつかの他の成分を含む適切な溶媒中に必要な量の活性化合物を混合することにより調製することができる。概して、分散剤は、塩基性分散媒体および上
記の可能性のある他成分を含む滅菌担体中に、滅菌された様々な活性成分の混合により調製することができる。滅菌された注射可能な溶液の調製のための滅菌された散剤の場合、好ましい調製方法は、有効成分の散剤+事前にろ過滅菌された液剤から得られるいずれかの追加の所望成分を作り出す真空乾燥および凍結乾燥技術である。例えば、水性液剤における非経口投与のため、液剤は必要に応じて適切に緩衝してよく、液体希釈剤を先ず充分量の生理食塩水またはグルコースを用いて等張性にしてよい。これらの水性液剤は、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与および腹腔内投与に特に適している。
【0045】
本発明の別の主題は、TMAに罹患しているかまたは罹患している可能性がある患者のex vivo層別化方法であって、前記方法は下記ステップ:
1)前記患者から得られた生体サンプルにおいて、クラスタリンレベルLを測定するステップ、および
2)ステップ1)で測定されたレベルLを、スコアS1=L/Lrefの算出によって参照クラスタリンレベルLrefと比較するステップ、を含み、
・S1≦1の場合、前記患者はクラスタリンを用いたTMA治療の利益を受ける可能性があると見なされ、
・S1>1の場合、前記患者はクラスタリンを用いたTMA治療の利益を受ける可能性があると見なされない、
方法に関する。
【0046】
「層別化」とは、本明細書の意味の範囲内で、予測マーカー、本ケースではクラスタリン、に従って治療を施す対象患者を選択し、その対象となる、TMAの診断をされた人々の間で利益をもたらす可能性のある亜集団のみを治療することを目的とする治療アプローチを意味する。
【0047】
したがって、本発明の層別化方法は、治療から利益を最も受ける可能性高い集団を標的とするために、TMAと診断された患者へのクラスタリン治療の開始前に行うことができる。実際、本発明者らは、TMAの診断時に低クラスタリンレベル、特に200μg/ml以下を示す患者が、少なくとも血液学の観点から、疾病の重症度を示す2つのマーカーである、血小板レベルがより低いこと、およびLDHレベルがより高いことを示した。
【0048】
本発明の目的のため、用語「生体サンプル」は、対象、特に、TMAと既に診断された対象、またはTMAと診断されている最中の対象から得られたいずれかの生体サンプルを意味するものとする。サンプルはクラスタリンを含有している可能性がある。サンプルは、例えば、細胞、例えば、血清および/または血漿であるかどうかに関わらず、血液を含んでも含まなくてもよい体液、尿、唾液または生検であってよい。サンプルは、組織学的目的のために採取された凍結切片などの組織切片であってもよい。用語「生体サンプル」は、生体サンプル由来の物質、例えば、サンプルから単離された細胞(またはその後代)、またはサンプルから抽出されたタンパク質も包含する。生体サンプルの処理は、ろ過、蒸留、抽出、濃縮、緩衝成分の不活性化または試薬添加から選択される1つ以上のステップを含み得る。生体サンプルが血液サンプルである場合、全血、血清または血漿であってよい。
【0049】
患者からの生体サンプルにおいて、クラスタリンレベルLを測定するステップは、当業者に公知のいずれもの適切な方法により行うことができる。測定されるクラスタリンは、遊離型クラスタリンでもよく、複合体型クラスタリンでもよい。このステップは、例えば、生体サンプル中に含まれるクラスタリンと選択的に相互作用することができる1つ以上の結合パートナーと、サンプルとを接触させることを含む。結合パートナーは、モノクローナル抗体などの抗体またはアプタマーであってよい。このステップの実施において使用することができる固体担体は、例えば、ニトロセルロース(例えば、膜またはマイクロ
滴定の形態)、ポリ塩化ビニル(例えば、マイクロ滴定ウェルまたはシート)、ポリスチレンラテックス(例えば、マイクロ滴定ビーズまたはプレート)、ポリフッ化ビニリデン、ジアゾ化紙、ナイロン膜、活性ビーズ、または磁気反応ビーズなどの基材であってよいが、これらに限定されない。クラスタリンを、クラスタリン特異的抗体またはアプタマーなどの二次結合パートナーを用いて明らかにしてもよい。通例、二次結合パートナーは酵素と結合した特定の抗体である。クラスタリンレベルを、競合アッセイ、直接反応アッセイまたはサンドイッチアッセイなどの免疫アッセイを含む標準的な免疫診断技術を用いて測定することができる。このようなアッセイは、これに限定されないが、凝集アッセイ、ELISAなどの酵素媒介免疫アッセイ、ビオチン/アビジン型のアッセイ、ラジオイムノアッセイ、免疫電気泳動法または免疫沈降法を含む。アッセイは、例えば、ヒトクラスタリンELISAキットアッセイ、Invitrogen社により市販されているThermo Scientific(商標)Pierce(商標)、またはヒトの血清および血漿のアッセイに特異的なQuantikine(登録商標)ELISAアッセイ-R&D Systems社であってよい。
【0050】
所定参照値Lrefは、これに限定されないが、同じ年齢群または同様な年齢群からの対象、同民族群または類似の民族群に属する対象、ならびに同程度の疾病重症度を有する対象を含む集団試験から導出された値と関連し得る。このような所定参照値は、統計解析および/または数学アルゴリズムおよび疾病のために算出された指数から得られた集団リスク予測データから導出してよい。例えば、所定参照値は、TMAに罹患していない1つ以上の対象由来のコントロールサンプル中のクラスタリンレベルから導出してよい。あるいは、病歴的に正確に分類された対象由来のサンプル中のクラスタリンレベルのレトロスペクティブ測定を使用して所定参照値を定めてもよい。
【0051】
本発明の目的のため、「TMA治療の利益」は、TMAの1つ以上の症状の改善もしくは消失、またはTMAの全てもしくは一部の症状の安定化、またはTMAの全てもしくは一部の症状進行の減速を意味するものとする。
【0052】
例えば、参照値を決定するため、クラスタリンレベルを、100対象からの100生体サンプルで測定することができる。第一の2つのサブセットに分け、カプラン・マイヤー曲線をその2つのサブセットの各々に対して作成し、その2つのサブセット間のp値を算出することができる。それから、最小p値の基準に基づいた区別が最も強くなるように参照値を選択する。換言すれば、p値が最小になる2つのサブセット間の限界に対応するクラスタリンレベルを、所定参照値であると見なす。なお、所定参照値は必ずしもクラスタリンレベルのメジアン値である必要はない。
【0053】
したがって、所定参照値は、クラスタリンを用いたTMA治療から利益を受ける可能性があると見なしてよい患者と、クラスタリンを用いたTMA治療から利益を受ける可能性がないと見なしてよい患者との間の区別を可能とする。
【0054】
付属の図面により例証され、例証によって与えられた下記実施例を読めば、他の利点は当業者にさらに明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
図1】ヒストンと結合しているクラスタリンを表す。ヒストンH1、H2A、H2B、H3およびH4(New England Biolabs、米国マサチューセッツ州イプスウィッチ)またはヒト細胞由来ゲノムDNAを10mM炭酸/重炭酸緩衝液、pH=9.6中、ELISAプレートの底部に固定化した(1μg/ml)。飽和後、プレートを、ビオチンと結合した組換えヒトクラスタリン(R&D Systems社、英国アビンドン)またはヒト血清アルブミン(HSA;Sigma社、米国ミズーリ州セントルイス)の1μg/mlと共にインキュベートした。CluまたはHSAのヒストンとの結合は、ペルオキシダーゼ結合ストレプトアビジンを用いて明らかにした。結果を光学濃度(平均±標準偏差、n=5)として示す。HSA分子をコントロールタンパク質として使用した。ELISAプレートにおけるゲノムDNAの結合を、ペルオキシダーゼ結合抗DNA抗体を用いて検証した(データ示さず)。
図2】磁気選別により健康な提供者の血液から単離してから、クラスタリン(CLU)25μg/mlの存在下(ダイヤグラム4)または非存在下(ダイヤグラム3)、ヒストン12.5μg/mlと共にインキュベートしたヒト単球の培養液上澄み中のIL-6のELISA定量、pg/ml、を示す。ダイヤグラム1は単球単独の培養液のコントロールであり、ダイヤグラム2はクラスタリン25μg/mlと共に12時間インキュベートされた単球の培養液のコントロールである。
図3】(1)左図:ヒストン(50ng/ml)(Roche社のヒストン)の存在下もしくは非存在下にコントロール血清(HNS)の存在下、または(2)右図:Clu 200ng/mlの存在下もしくは非存在下に内在性ヒストン(SS;n=5、10%(vol/vol))を含有する患者由来の血清とのいずれかで15分間インキュベートしたヒト内皮細胞の場合に測定されたアポトーシス細胞のパーセンテージを示す。
図4】TMAに罹患している患者および健常者における血清クラスタリン、μg/ml、のアッセイを示す。(A)血清クラスタリンを健常者(四角)およびTMAに罹患したばかり(黒丸)、または診断後3ヶ月(白丸)のTMA患者において測定する。(B)診断時(左の点)および診断後3ヶ月(右の点)のTMA患者における血清クラスタリン変化。各点は患者を示す。ノンパラメトリック検定によって統計解析を行った。
図5】(A)定型HUSに罹患している患者について、TMA診断時(左)およびエクリズマブ(ソリリス)での治療3ヶ月後(右)における血清クラスタリンアッセイ;(B)定型HUSに罹患している患者について、TMA診断時(左)およびエクリズマブ(ソリリス)での治療3ヶ月後(右)における循環ヌクレオソームレベル(AU)を示す。ST媒介TMA患者(定型HUS)を同じ治療スキームに従ってエクリズマブ(ソリリス)で一様に治療した。(C)および(D)補体媒介TMAに罹患している患者について、TMA診断時(左)およびエクリズマブ(ソリリス)での治療3ヶ月後(右)の循環ヌクレオソームレベル(AU);補体媒介TMA患者は、臨床状況に応じて可変的に治療した。
図6】患者(tHUS、n=7)の1回目~8回目のエクリズマブ注射をした、TMAに罹患している7患者における血小板、g/l(暗灰色)、血清クラスタリン、μg/ml(淡灰色)および循環ヌクレオソーム、AU(中間灰色)の濃度を示す。血清クラスタリン、循環ヌクレオソームおよび血小板濃度を各エクリズマブ注射直前に測定した。エクリズマブを2週間毎に繰り返して注射した。HUSの診断から平均2ヶ月の期間後8回目の注射を行った。
図7】A:LDH濃度(IU/ml)、B:循環ヌクレオソーム濃度(AU)、C:血小板濃度(g/l)、D:ヘモグロビン濃度(g/dl)、E:ADAMTS13濃度(活性%)およびF:tHUS(志賀毒素媒介HUS)の診断時の患者における血清クラスタリン濃度(μg/ml)の関数としてのIECAEパーセンテージ(ELISAアッセイにより共通終末補体経路の機能活性を測定する任意単位、Diasorin社)を示す。
図8】(A):志賀毒素媒介TMA、tHUS(n=8)に罹患している患者、補体媒介TMA、aHUS(n=6)に罹患している患者および健常者(n=14)における血清クラスタリン、μg/ml、のアッセイ;(B)志賀毒素媒介TMA(n=8)に罹患している患者、補体媒介TMA(n=6)に罹患している患者および健常者(n=14)における循環ヌクレオソームレベル、AU、を示す。
【実施例
【0056】
実施例1:クラスタリンは炎症誘発性分子の産生を遮断することによりヒストンの作用
を中和する
【0057】
磁気選別(CD14マーカーの発現に基づいた陽性選別;Miltenyi Biotech社、独国ベルギッシュ・グラッドバッハ)により健康な提供者の血液からヒト単球を単離した。単球(2×10細胞/ml)を、クラスタリン(CLU)25μg/mlの存在下または非存在下、ヒストン(Sigma社)12.5μg/mlと共に12時間インキュベートした。培養液上澄み中のIL-6を、ELISA(Diaclone社、仏国ブザンソン)によって定量した。結果を単位pg/ml(平均±標準偏差、n=6)で示す。
【0058】
結果を図2に示す。
【0059】
実施例2:クラスタリンは、ヒストン含有血清によって誘発される死から内皮細胞を保護する
【0060】
ヒト内皮細胞(Promocell社のHDMEC)を、ヒストン(50ng/ml、Roche社のヒストン)の存在下もしくは非存在下にコントロール血清(HNS;同上)の存在下、またはClu 200ng/mlの存在下もしくは非存在下に内在性ヒストン(SS;n=5、10%(vol/vol))を含有する患者血清とのいずれかで15分間インキュベートする。15分後、フローサイトメトリー法によりアポトーシス細胞のパーセンテージを評価するために、内皮細胞をアネキシンVおよびヨウ化プロピジウム(ベクトン・ディッキンソンキット)で標識する。
【0061】
結果を図3に示す。
【0062】
実施例3:クラスタリンレベルはTMAの作用と関連する
【0063】
血清クラスタリンレベルは、健常者より診断時にTMAに罹患している患者において低い。血清クラスタリンレベルを、治療後、TMA診断後3ヶ月目の時点で11/14の患者において評価した。この結果は、健常者集団と有意に異ならなかったが、診断時より有意に高かった。健常者およびTMAに罹患している患者由来の血清中のクラスタリンを、ELISA(R&D Systems社)によって評価した。
【0064】
結果を図4に示す。
【0065】
実施例4:様々なタイプのTMAにおいてクラスタリン欠乏が観察される
【0066】
血清中のクラスタリン、ヒストンおよび共通終末経路の活性化のマーカーのアッセイを、診断時および経過観察として、定型HUS(20症例)もしくは非定型HUS(10症例)、TTP(30症例)および/またはHELLP症候群(50症例)に罹患している患者において行う。これらのアッセイを、市販ELISA技術を用いて行う。
【0067】
期待される結果は、主要患者追跡観察の生物学的基準(血小板レベル、LDH、ハプトグロビンレベル、腎障害マーカー(クレアチニン血症、アルブミン尿/クレアチニン尿など)、または該当する場合には、腎外障害マーカー(トロポニン、ASAT/ALAT、γGTなど))の統計的関連および/または相関の確立を可能とする。
【0068】
実施例5:クラスタリンはTMA症候群において内皮細胞保護因子である
【0069】
微小血管内皮細胞を、HUS、TTPまたはHELLP症候群に罹患している患者由来
の血清の存在下、組換えクラスタリン(標的用量25μg/ml)の添加有りまたは無しで、2時間、6時間または24時間インキュベートする。細胞死(アポトーシスまたはネクローシス細胞死)の分析を、フローサイトメトリー標識(アネキシン5、ヨウ化プロピジウム)によって行う。
【0070】
TMAに罹患している患者の血清中に循環しているヒストンおよびヌクレオソームは内皮障害を引き起こし、クラスタリンの添加はこれらの有毒物質によって誘発される死から内皮細胞を保護することが期待される。
【0071】
実施例6:クラスタリンは、定型HUSのマウスモデルにおいてin vivo効果を示す
【0072】
2種類の分析を行う。
【0073】
1)クラスタリンの非存在下、腎毒性およびHUS(血小板減少症、貧血症)の生物学的マーカーの悪化を示すための、クラスタリン遺伝子がノックアウトされた(KO Clu)C57BL/6JマウスにおけるSTX誘発腎毒性の試験
【0074】
実験の第一部分では、HUSマーカー、すなわち、貧血症、血小板減少症および腎不全をより正確にモニターするために、致死量未満の量が望ましい。625pg/g、300pg/gおよび100pg/gの用量を、野生型動物(用量毎に10匹のマウス+10匹のコントロールマウス)に対して試験する。マウスの体重を毎日測定し、マウスモデルでは、体重損失が疾病と相関するため、毒性の指標として体重を使用する。
【0075】
用量が決定したら、WTマウスおよびクラスタリンKOマウスに、選択した用量のSTXまたはPBSを腹腔内に注射し、その後、血液サンプルを採取して全血球数計算を行う。貧血症の指標を算出するために、同時にヘモグロビンをアッセイする。腎不全マーカー(クレアチニンおよびシスタチン)についても血清を分析する。腎臓障害のマーカーであるC3タンパク質の沈着を分析するために腎臓を取り出す。
【0076】
2)正常C57BL/6Jマウス(クラスタリン欠乏でない)におけるHUSマウスモデルのTMAにおけるクラスタリンの保護的役割および治療的役割の試験
【0077】
WTマウスに、選択された用量のSTXまたはPBSを腹腔内に注射する。マウスは、組換えマウスクラスタリンの定期的注射で治療する(1mg/kg)。血液サンプルを採取して全血球数計算を行うことによりモニターを行う。貧血症の指標を算出するために、同時にヘモグロビンをアッセイする。腎不全マーカー(クレアチニンおよびシスタチン)についても血清を分析する。腎臓障害のマーカーであるC3タンパク質の沈着を分析するために腎臓を取り出す。
【0078】
- クラスタリンの非存在と、腎毒性およびHUS(血小板減少症、貧血症)の生物学的マーカーの悪化との間に相関がある、
- 結果は、マウスモデルで志賀毒素によって誘発される毒性の制御におけるクラスタリンの必須的役割を示すことを可能とする、
- 結果は、HUSマウスモデルのTMAにおけるクラスタリンの保護的役割および治療的役割を示し、かつ、コントロール群と比較して、補充を受けたマウスの腎機能の改善ならびに溶血および血小板減少症パラメーターの改善を示す、
ことが期待される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
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