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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】ビスフルオレン化合物の結晶混合体
(51)【国際特許分類】
   C07C 43/23 20060101AFI20231003BHJP
   C07C 41/40 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
C07C43/23 Z CSP
C07C41/40
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020548513
(86)(22)【出願日】2019-09-17
(86)【国際出願番号】 JP2019036373
(87)【国際公開番号】W WO2020059709
(87)【国際公開日】2020-03-26
【審査請求日】2022-09-08
(31)【優先権主張番号】P 2018174722
(32)【優先日】2018-09-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000243272
【氏名又は名称】本州化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100202430
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 千香子
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 淳
(72)【発明者】
【氏名】橋本 祐樹
【審査官】星 浩臣
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-076245(JP,A)
【文献】特開2008-222708(JP,A)
【文献】特開2018-048086(JP,A)
【文献】特開2017-200900(JP,A)
【文献】特開2017-200901(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07B 31/00-63/04
C07C 1/00-409/44
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
示差走査熱量分析による吸熱ピークを157℃以上163℃以下の温度範囲に少なくとも1つ有し、さらに176℃以上179℃以下の温度範囲に吸熱ピークを少なくとも1つ有することを特徴とする、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレンの結晶混合体。
【請求項2】
それぞれが包接体ではないことを特徴とする、請求項1に記載の結晶混合体。
【請求項3】
Cu-Kα線による粉末X線回折パターンにおいて、回折角2θ=7.5±0.2°、11.1±0.2°、17.6±0.2°、19.1±0.2°、20.5±0.2°および21.1±0.2°にピークを有する、請求項1に記載の結晶混合体。
【請求項4】
アセトンおよび水との混合溶媒を用いて晶析する工程を含むことを特徴とする、請求項1~3いずれか一項に記載の結晶混合体の製造方法。
【請求項5】
さらに、晶析により得られた結晶を45℃以上であって融点より低い温度条件下において乾燥する工程を含むことを特徴とする、請求項4に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、示差走査熱量分析による特定の吸熱ピークを有する9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレンの結晶混合体および、その結晶混合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン等のフルオレン骨格を有する化合物群は、耐熱性や光学特性等において優れていることから、ポリカーボネート樹脂等の熱可塑性合成樹脂原料、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂原料、酸化防止剤原料、感熱記録体原料、感光性レジスト原料などの用途で用いられている。中でも、以下化学式(1)で表される化学構造を有する9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレンから製造される樹脂は、光学特性に優れるとして着目されている(例えば、特許文献1、2等)。
【化1】
上記化学式(1)で表される9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレンの製造方法としては、下記反応式に示すように、化学式(2)で示される9-フルオレノンと化学式(3)で示されるアルコール類とを反応させて、目的物を得る方法が知られている(特許文献3)。
【化2】
また、上記化学式(1)で表される9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレンを含む反応液中に、芳香族炭化水素類とメタノールとを添加して析出した結晶を分離後、結晶を60℃以上にしてメタノールを除去する方法が知られている(特許文献4)。晶析により得られた結晶は、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレンとメタノールとの包接体であり、包接されたメタノールを除去するためには、加温によるエネルギーと時間が不可欠である。
上記化学式(1)で表される9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレンとトルエンとの包接体と、特定の溶媒とを、溶解することなく混合させることにより、トルエンを除去する方法が知られている(特許文献5)が、得られる結晶はほとんど高融点であるため、融解や溶解させるためにエネルギーや時間が多く必要である。また、使用する溶媒によっては低融点の結晶が得られるが、当該結晶は、包接体を形成しているため、包接体から溶媒を除去するためのエネルギーが必要であるほか、嵩密度も低い。
高嵩密度の上記化学式(1)で表される9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレンの結晶の製造方法が知られている(特許文献6)が、得られた結晶は包接体であり、加熱により当該包接体から結晶を保持したまま溶媒が除去できないか、あるいは除去できる場合でも包接体から溶媒を除去するためのエネルギーが必要であるという問題があった。
包接体ではない上記化学式(1)で表される9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレンを得る製造方法も知られている(特許文献7)が、最も高融点の結晶は、融解して使用する場合は多くのエネルギーが必要である。また、低融点の結晶を得るには、極めて速い速度で冷却する必要があり、商業スケールでの実施は困難であるか、特殊な装置が必要なため、工業的規模での適用は容易ではない。そのほか、低融点の結晶は色相が悪く、光学用途への使用に問題があるほか、晶析に使用する溶媒の残存量が多いという問題もあった。
9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン等のフルオレン骨格を有する化合物群は、反応溶媒や精製に使用する溶媒との間で包接体を形成することが知られている一方で、包接された溶媒を除去するためには高温と多大な時間を要するために、工業的規模で適用することは困難であるほか、溶媒が包接されたフルオレン骨格を有する化合物は、エポキシ樹脂、ポリエステル等の製造原料やその他の用途において工業的に使用するには問題があることも知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-074222号公報
【文献】特開2011-168722号公報
【文献】特開2001-206863号公報
【文献】特開2017-200900号公報
【文献】特開2018-076245号公報
【文献】中国特許出願公開第106349030号明細書
【文献】特開2017-200901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上述した事情を背景としてなされたものであって、示差走査熱量分析による特定の吸熱ピークを有する9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレンの結晶混合体および、その結晶混合体の製造方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上述の課題解決のために鋭意検討した結果、特定の溶媒を用いて晶析することにより、示差走査熱量分析による特定の吸熱ピークを有する9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレンの結晶混合体が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
本発明は以下の通りである。
1.示差走査熱量分析による吸熱ピークを157℃以上163℃以下の温度範囲に少なくとも1つ有し、さらに176℃以上179℃以下の温度範囲に吸熱ピークを少なくとも1つ有することを特徴とする、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレンの結晶混合体。
2.それぞれが包接体ではないことを特徴とする、1.に記載の結晶混合体。
3.Cu-Kα線による粉末X線回折パターンにおいて、回折角2θ=7.5±0.2°、11.1±0.2°、17.6±0.2°、19.1±0.2°、20.5±0.2°および21.1±0.2°にピークを有する、1.に記載の結晶混合体。
4.アセトンおよび水との混合溶媒を用いて晶析する工程を含むことを特徴とする、1.~3.いずれか一項に記載の結晶混合体の製造方法。
5.さらに、晶析により得られた結晶を45℃以上であって融点より低い温度条件下において乾燥する工程を含むことを特徴とする、4.に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、示差走査熱量分析による特定の吸熱ピークを有し、包接体ではない9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレンの結晶混合体および、その結晶混合体の製造方法が提供可能である。
9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレンが有機溶媒等の化合物を包接している場合は、当該包接体と、例えば(メタ)アクリル酸等とを反応させる際に、包接している有機溶媒等の化合物が反応を阻害し、反応が進行しないという問題が発生する。また、当該包接体を溶融し樹脂原料として使用する際も、溶融中に発生する包接した有機溶媒等の化合物に由来する蒸気を反応装置から除去する必要があるほか、残存する有機溶媒等の化合物により目的とする樹脂の品質が低下する等の問題もあった。さらに、包接する有機溶媒等の化合物の引火点や発火点によっては、当該包接体の輸送や保管時における防災上の懸念もあった。
前述のとおり、示差走査熱量分析による特定の吸熱ピークを有し、包接体ではない9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレンの結晶混合体は、未だ知られていない。しかも、従来の包接体から有機溶媒を除去するより、はるかに低い熱量により包接した有機溶媒を除去できる場合が多いため、製造における消費エネルギーを抑えることができる。さらに、包接体ではない高融点結晶に比べて、より低温もしくは短時間で結晶を溶融または溶解することができるので、この点においても製造における消費エネルギーを低減することができる。
すなわち、示差走査熱量分析による特定の吸熱ピークを有し、包接体ではない9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレンの新規な結晶混合体とその製造方法の提供は、樹脂原料等の工業的な使用において非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】参考例で得られた結晶の示差熱・熱重量分析(DTG)曲線を示す図である。
図2】実施例1の乾燥工程により得られた結晶混合体(本発明の結晶混合体)の示差走査熱量測定(DSC)曲線を示す図である。
図3】実施例1の乾燥工程により得られた結晶混合体(本発明の結晶混合体)の示差熱・熱重量分析(DTG)曲線を示す図である。
図4】実施例1の晶析工程により得られたアセトン包接体からアセトンを除去する熱量測定のための示差熱・熱重量分析(DTG)曲線を示す図である。
図5】実施例2の晶析工程により得られた結晶の示差熱・熱重量分析(DTG)曲線を示す図である。
図6】実施例2の乾燥工程により得られた結晶混合体(本発明の結晶混合体)の示差走査熱量測定(DSC)曲線を示す図である。
図7】実施例3の晶析工程により得られた結晶の示差熱・熱重量分析(DTG)曲線を示す図である。
図8】実施例3の乾燥工程により得られた結晶混合体(本発明の結晶混合体)の示差走査熱量測定(DSC)曲線を示す図である。
図9】比較例2により得られた結晶の示差熱・熱重量分析(DTG)曲線を示す図である。
図10】比較例3により得られた結晶の示差走査熱量測定(DSC)曲線を示す図である。
図11】比較例4により得られた結晶の示差走査熱量測定(DSC)曲線を示す図である。
図12】比較例5により得られた結晶の示差走査熱量測定(DSC)曲線を示す図である。
図13】比較例6により得られた結晶の示差熱・熱重量分析(DTG)曲線を示す図である。
図14】比較例8により得られた結晶の示差熱・熱重量分析(DTG)曲線を示す図である。
図15】比較例9の乾燥前の結晶の示差熱・熱重量分析(DTG)曲線を示す図である。
図16】比較例9の乾燥後の結晶の示差走査熱量測定(DSC)曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレンは下記化学式(1)で表される化合物である。
【化3】
【0010】
<合成方法について>
本発明における、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレンの合成方法については、特に制限はなく、例えば、前述の特許文献3に記載された公知製造方法を適用できる。
下記反応式に示す、化学式(2)で示される9-フルオレノンと化学式(3)で示されるアルコール類との反応について説明する。
【化4】
化学式(2)で示される9-フルオレノンに対する化学式(3)で示されるアルコール類の仕込みモル比は、理論値(2.0)以上であれば、特に限定されるものではないが、通常2~20倍モル量の範囲、好ましくは3~10倍モル量の範囲で用いられる。
反応に際して、酸触媒を使用することができる。使用する酸触媒は特に制限されず、公知の酸触媒を使用することができる。具体的な酸触媒としては、例えば、塩酸、塩化水素ガス、60~98%硫酸、85%リン酸等の無機酸、p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、シュウ酸、蟻酸、トリクロロ酢酸またはトリフルオロ酢酸等の有機酸、ヘテロポリ酸等の固体酸等を挙げることができる。好ましくは リンタングステン酸等のヘテロポリ酸である。このような酸触媒の好適な使用量は反応条件によって異なるが、例えば、リンタングステン酸等のヘテロポリ酸の場合は、9-フルオレノン100重量部に対して、1~70重量部の範囲、好ましくは、5~40重量部の範囲、より好ましくは10~30重量部の範囲で用いられる。
反応に際して、酸触媒と共に必要に応じてチオール類等の助触媒を使用してもよい。使用により反応速度を加速させることができる。このようなチオール類としては、アルキルメルカプタン類やメルカプトカルボン酸類が挙げられ、好ましくは、炭素数1~12のアルキルメルカプタン類や炭素数1~12のメルカプトカルボン酸類である。炭素数1~12のアルキルメルカプタン類としては、例えば、メチルメルカプタン、エチルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン等やそれらのナトリウム塩等のようなアルカリ金属塩が挙げられ、炭素数1~12のメルカプトカルボン酸類としては、例えば、チオ酢酸、β-メルカプトプロピオン酸等が挙げられる。また、これらは単独または2種類以上の組み合わせで使用できる。助触媒としてのチオール類の使用量は、原料の9-フルオレノンに対し通常1~30モル%の範囲、好ましくは2~10モル%の範囲で用いられる。
【0011】
反応に際して反応溶媒は使用しなくてもよいが、工業的生産時の操作性や反応速度の向上などの理由で使用してもよい。反応溶媒としては、反応温度において反応器から留出せず、反応に不活性であれば特に制限はないが、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール等の低級脂肪族アルコール、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の飽和脂肪族炭化水素類等の有機溶媒や水またはこれらの混合物が挙げられる。これらのうち、芳香族炭化水素が好ましく用いられる。
反応温度は、使用する酸触媒の種類により異なるが、酸触媒としてリンタングステン酸等のヘテロポリ酸を使用する場合は、通常20~200℃、好ましくは40~170℃、さらに好ましくは50~120℃の範囲である。反応圧力は、使用する有機溶媒の沸点によっては、反応温度が前記範囲内になるように加圧または減圧下で行ってもよく、生成する水を除去しながら反応を行ってもよい。
反応時間は、使用する酸触媒の種類や、反応温度等の反応条件により異なるが、通常1~30時間程度で終了する。
反応の終点は、液体クロマトグラフィーまたはガスクロマトグラフィー分析にて確認することができる。未反応の9-フルオレノンが消失し、目的物の増加が認められなくなった時点を反応の終点とするのが好ましい。
【0012】
<反応の後処理について>
このような反応の終了後に、公知の後処理方法を適用することができる。例えば、反応終了液に、酸触媒を中和するために、水酸化ナトリウム水溶液、アンモニア水溶液等のアルカリ水溶液を加える。中和した反応混合液を静置し、必要に応じて水と分離する溶媒を加えて、水層を分離除去する。必要に応じて得られた油層に蒸留水を加え、撹拌して水洗した後、水層を分離除去する操作を1回乃至複数回繰り返し行い中和塩を除去し、得られた油層をそのまま冷却して結晶が析出すれば、析出した結晶を分離して粗結晶を得ることができる。また、得られた油層から余剰の溶媒や上記化学式(3)で示されるアルコール類を、蒸留により除去して、得られた残渣に芳香族炭化水素等の溶媒を加えて均一の溶液とし、冷却して析出した結晶を分離して粗結晶を得てもよい。この粗結晶や前記残渣は、本発明の晶析する工程を経ることにより、示差走査熱量分析による特定の吸熱ピークを有し、包接体ではない9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレンの結晶混合体を得ることができる。
【0013】
<晶析する工程について>
本発明の製造方法は、アセトンおよび水との混合溶媒を用いて晶析する工程を含むことを特徴とするものである。ここで、使用可能なアセトンとしては、特に限定されることなく、一般的に市販されているアセトンを使用することができる。また、使用可能な水としては、特に限定されることなく、例えば、水道水、蒸留水、イオン交換水、天然水等を適宜使用することができる。
このアセトンおよび水との混合溶媒としては、アセトン濃度が55~80重量%が好ましく、60~70重量%がより好ましい。水の含有量が極端に少ないと、晶析に用いる9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレンが、反応や反応後処理に使用した溶媒(例えば、トルエン等の芳香族炭化水素溶媒)を多く含んでいる場合には、晶析により得られる結晶が、これらの溶媒との包接体を形成する可能性が高くなるために好ましくない。また、水の含有量が極端に多いと、晶析により得られる結晶が、溶媒を除去するのに必要な熱量が大きな包接体として得られる可能性が高くなり、好ましくない。
使用するアセトンおよび水との混合溶媒の量は、晶析する工程に使用する反応後処理工程により得られた残渣または粗結晶に含まれる9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレン100重量部に対して、100~1000重量部が好ましく、150~700重量部がより好ましく、200~600重量部がさらに好ましい。使用するアセトンおよび水との混合溶媒の量が多いと、得られる結晶量が低下してしまい、少ないと目的物の純度が低下し好ましくない。
なお、下記参考例に示すとおり、残存溶媒が1重量%以下の包接体ではない9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレン結晶であれば、アセトンのみを晶析溶媒として使用しても本発明の結晶混合体が得られることを確認している。
【0014】
本発明の晶析する工程では、使用する反応後処理工程後の残渣または粗結晶に、上述のアセトンおよび水との混合比(重量比)となるアセトンおよび水との混合溶媒を添加し、常圧または加圧下で混合溶媒の沸点以下まで加温して完溶させて均一な溶液とした後、冷却して析出する結晶を得ることができる。加温して均一な溶液とした後、1時間あたり1~10℃、好ましくは3~8℃で冷却する。結晶を析出させる温度としては40℃以上が好ましく、50℃以上がより好ましい。また、結晶析出させる際に種晶を使用してもよい。使用する種晶としては、例えば、下記参考例に示すような、残存溶媒が1重量%以下の包接体ではない9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレンを使用して、アセトンにより晶析することにより得られた結晶などが挙げられる。種晶を得るために使用する9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレンは、その残存溶媒が0.5重量%以下のものが好ましく、0.3重量%以下がより好ましく、0.1重量%以下が特に好ましい。このような9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレンは、例えば、上記文献4に記載された方法や、公知のトルエン包接体を加熱溶融させて溶媒を除去する方法によっても得ることができ、高速液体クロマトグラフィー分析による純度が概略90%以上、好ましくは95%以上のものであれば、結晶体/非結晶体の何れでも使用できる。結晶が析出開始した後は、0.1~1時間程度、好ましくは0.4~0.6時間程度、結晶析出温度を維持することが好ましい。その後は、1時間あたり1~10℃、好ましくは3~8℃の冷却速度で、0~40℃、好ましくは10~35℃、より好ましくは20~30℃まで冷却して、析出した結晶を濾過操作等により分離することが好ましい。また、使用する反応後処理工程後の残渣または粗結晶に、アセトンを添加して完溶させて均一な溶液とし、上述のアセトンおよび水との混合比(重量比)となるように撹拌下に水を滴下して、析出する結晶を得ることもできる。この場合、結晶析出時に50℃以上の温度を維持することが好ましく、結晶析出から少なくとも1時間以上同温度を維持してから、さらに0~60℃、好ましくは10~50℃、より好ましくは20~40℃まで冷却して析出した結晶を分離することがより好ましい。本発明の晶析する工程に使用する結晶として、トルエン等の芳香族炭化水素溶媒を包接した9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレンの結晶を選択することが好適である。本発明の晶析する工程により、芳香族炭化水素溶媒との包接体がアセトン等との包接体に変換され、包接体の融点より低い温度において有機溶媒を除去できる従来の包接体よりも、さらに、はるかに低い熱量により包接したアセトン等の溶媒を除去することが可能となる。
【0015】
<乾燥する工程について>
乾燥する工程を実施することにより、本発明の晶析する工程において使用した溶媒(アセトンや水)を除去することができる。本発明の乾燥する工程は、晶析する工程により得られた結晶を、45℃以上であって融点より低い温度条件下で実施することができるが、70℃以上が好ましく、90℃以上がより好ましく、100℃以上が特に好ましい。また、その他の条件等によっては熱により結晶の色相が悪化する可能性もあるため、150℃以下が好ましく、130℃以下がより好ましい。45℃より低い温度では、晶析する工程において使用した溶媒(アセトンや水)を除去できないか、除去できたとしても非常に多くの時間が必要となり好ましくない。
乾燥する工程を実施する際は常圧でも減圧下でも良いが、工業的に実施する場合には、減圧下において実施する方がより効率的に、晶析する工程において使用した溶媒(アセトンや水)を除去できることからも好適である。その他、乾燥する工程は、窒素等の不活性ガス雰囲気中で行うことがより好ましい。
【0016】
<本発明の結晶混合体>
本発明の9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレンの結晶混合体は、示差走査熱量分析による吸熱ピークを157℃以上163℃以下の温度範囲に少なくとも1つ有し、さらに176℃以上179℃以下の温度範囲に吸熱ピークを少なくとも1つ有することを特徴とする。示差走査熱量分析による吸熱ピークの1つは、159℃以上163℃以下の温度範囲がより好ましく、160℃以上163℃以下の温度範囲がさらに好ましく、160℃以上162.5℃以下の温度範囲が特に好ましい。また、示差走査熱量分析による吸熱ピークの1つは、176℃以上178℃以下の温度範囲がより好ましく、176℃以上177℃以下の温度範囲がさらに好ましい。
さらに、本発明の9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレンの結晶混合体は包接体ではない、すなわち、有機溶媒等の化合物を包接しない結晶混合体である。本発明における、有機溶媒等の化合物を包接しない結晶混合体としては、残存する有機溶媒の含量が1重量%以下である結晶混合体が好ましく、0.5重量%以下である結晶混合体がより好ましく、0.3重量%以下である結晶混合体がさらに好ましい。
【実施例
【0017】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
分析方法は以下の通りである。
<分析方法>
1.示差走査熱量分析(DSC)
結晶混合体5mgをアルミパンに秤量し、示差走査熱量測定装置((株)島津製作所製:DSC-60)を用いて、酸化アルミニウムを対照として下記操作条件により測定した。
(操作条件)
昇温速度:10℃/min
測定温度範囲:30~200℃
測定雰囲気:開放、窒素50mL/min
2.示差熱・熱重量分析(DTG)
結晶混合体8mgをアルミパンに秤量し、示差熱・熱重量分析装置((株)島津製作所製:DTG-60A)を用いて、下記操作条件により測定した。
(操作条件)
昇温速度:10℃/min
測定温度範囲:30~300℃
測定雰囲気:開放、窒素50mL/min
【0018】
3.HS-GC(残存溶媒測定)
「HS-GC」とは、気相部分(ヘッドスペース、HS)をガスクロマトグラフ(GC)に導入して分析する手法である。バイアルに封入された試料を一定時間保温することで気相と試料を平衡状態として気相部分を分析することにより、結晶中に残存する溶媒量を測定した。具体的には、結晶混合体0.5gを秤量し、そこにN-メチルピロリドンを精秤しながら添加して全体を10gにする。この溶液をHS用バイアルに約3gを秤量して、漏れないようにクランプして下記条件で測定した。
(GC分析条件)
装置:(株)島津製作所製:GC-2010plus
カラム:TC-1 60m×0.25mmΦ、膜厚0.25μm
検出器:FID
INJ温度:300℃、FID温度:310℃
昇温条件:40℃(25min)→20℃/min→300℃(5min)
カラム線速度:19.9cm/sec
(HS分析条件)
機器:TurboMatrix HS 40(パーキンエルマー社)
キャリアガス圧:154kPa
バイアル加熱温度:100℃
注入時間:0.05分
4.粉末X線回析(XRD)分析
結晶体0.1gをガラス試験板の試料充填部に充填し、下記粉末X線回析装置を用いて、下記条件により測定した。
装置:(株)リガク製:SmartLab
X線源:CuKα
スキャン軸:2θ/θ
モード:連続
測定範囲:2θ=5°~70°
ステップ:0.01°
スピード計測時間:2θ=2°/min
IS:1/2
RS:20.00mm
出力:40kV-30mA
5.粒度分布
結晶0.1gに、分散溶媒として水0.1g、分散剤(中性洗剤)一滴を加えて混合し、これを装置に投入し、超音波処理(3分)後、測定した。
装置:(株)島津製作所製:SALD-2200
測定方式:レーザー回析方式
【0019】
6.YI値(黄色度)
結晶2.0gを、純度99重量%以上の1,4ジオキサン18.0gに溶解させ、以下の条件で得られた1,4-ジオキサン溶液のYI値(黄色度)を測定した。
装置:色差計(日本電色工業社製,ZE6000)
使用セル:ガラス試験管(直径24mm)
なお、測定に使用する1,4-ジオキサン自身の着色が測定値に影響を与えないよう、事前に1,4-ジオキサンの色相を測定して補正した。(ブランク測定)。このブランク測定を実施したうえで、サンプルを測定した値を本発明におけるYI値(黄色度)とした。
【0020】
<合成例>
9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレンの合成
温度計、撹拌機、冷却管を備えた1リットル4つ口フラスコ内を窒素置換し、9-フルオレノン76.3g(0.423モル)、化学式(3)で示されるアルコール類907.0g(4.24モル)、リンタングステン酸13.7g、トルエン388.7gを仕込み、反応温度100℃、圧力42kPaにおいて、反応生成水を除去しながら反応を行った。液体クロマトグラフィー分析により原料消失を確認し、反応終了とした。反応液を80℃にまで冷却し、トルエン339.1g、15%水酸化ナトリウム水溶液26.69g、蒸留水250gを加えて反応液を中和して静置し、水層を除去した。得られた油層に蒸留水250gを加えて撹拌後静置し、水層を除去する水洗操作を4回実施した。得られた油層から、蒸留により溶媒等の低沸点物質と未反応の化学式(3)で示されるアルコール類を取り除いた後、残渣をトルエン1500gで溶解した。このトルエン溶液を25℃にまで冷却し、析出した結晶を濾過し、目的物のトルエン包接体232.0g(高速液体クロマトグラフィー分析による純度98.0%、トルエン5重量%包接)を得た。
【0021】
<参考例1>
温度計、撹拌器、冷却管を備えた200ミリリットル4つ口フラスコに、残存溶媒が0.1重量%以下で高速液体クロマトグラフィー分析による純度が98.9%の9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレン20gとアセトン20gを仕込み、50℃で溶解させた。その後、1時間あたり10℃の冷却速度で25℃まで冷却し、15時間撹拌した後、濾過した。得られた結晶を1.2kPaの減圧下、30℃の環境下において2時間減圧乾燥し、12.1gの結晶(純度99.0%)を得た。この結晶の残存溶媒を測定した結果、アセトン1.7重量%であった。さらに、同一条件でこの結晶を2時間乾燥したが、アセトンの含有量に変化はなかった。また、この結晶について示差熱・熱重量分析(DTG)を行った結果、包接するアセトンを除去する熱量は約96J/gであることが確認された。この示差熱・熱重量分析(DTG)曲線を示す図を図1に示す。
【0022】
<実施例1>
(晶析工程)
温度計、撹拌機、冷却管を備えた500ミリリットル4つ口フラスコに、上記「合成例」で得られたトルエン包接体42gとアセトン63.3gを入れて55℃で溶解後、溶液温度を55℃に維持しながら撹拌下蒸留水27.2gを滴下後、上記「参考例」で得た種晶0.1gを添加して0.5時間55℃で撹拌を続けた。1時間あたり5℃の冷却速度で50℃まで冷却し、撹拌下50℃で2時間保持し、さらに1時間あたり5℃の冷却速度で30℃まで冷却した。析出した結晶を濾取し、アセトン包接体である結晶を得た。
(乾燥工程)
得られたアセトン包接体である結晶を、温度110℃、圧力1.2kPaの環境で2時間乾燥し、包接体ではない結晶23.0gを得た。
【0023】
(分析結果)
乾燥工程により得られた結晶は、高速液体クロマトグラフィー分析による純度が98.8%であり、HS-GC分析により残存溶媒がトルエン0.2重量%、アセトン0.02重量%であることが確認された。得られた結晶のメディアン径(D50)は28.6μm、モード径は39.6μmであった。
得られた結晶の示差走査熱量測定(DSC)曲線を示す図を図2に、示差熱・熱重量分析(DTG)曲線を示す図を図3に示し、粉末X線の主なピーク(5%を超える相対積分強度を有するもの)を表1に列挙する。
これらの分析により、得られた結晶体は、示差走査熱量分析による162.1℃と176.9℃の2つの吸熱ピークを有する結晶混合体であり、さらには、包接体ではない結晶混合体であることが明らかとなった。
また、上記晶析工程後(乾燥工程に付す前)の結晶を、1.2kPaの減圧下、温度30℃の環境で2時間乾燥し、参考例と同様の方法で、さらに乾燥してもアセトンの含有量に変化がないことを確認した。この付着溶媒のみを除去した結晶について、示差熱・熱重量分析(DTG)を行った結果、包接するアセトン等の溶媒を除去する熱量は約80J/gであることも確認された。この示差熱・熱重量分析(DTG)曲線を示す図を図4に示す。
【0024】
【表1】
【0025】
<実施例2>
(晶析工程)
撹拌子を入れた試験管に、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル]フルオレンのトルエン包接体5g、アセトン18g、トルエン0.25gを添加し、50℃で溶解させた。溶液温度を50℃に維持しながら蒸留水5gを徐々に添加したところ、添加途中で結晶が析出した。蒸留水全量添加後、全体を27℃にまで冷却し16時間撹拌した後、析出した結晶を濾取した。得られた結晶を1.2kPa、30℃で乾燥し、実施例1と同様の方法で付着した溶媒が除去できたことを確認し、アセトン包接体である結晶を得た。得られたアセトン包接体の結晶について、示差熱・熱重量分析(DTG)を行った結果、包接するアセトンを除去する熱量は約57J/gであることが確認された。この示差熱・熱重量分析(DTG)曲線を示す図を図5に示す。
(乾燥工程)
得られたアセトン包接体である結晶を、温度120℃、圧力1.2kPaの環境で2時間乾燥し、包接体ではない結晶体2.7gを得た。
(分析結果)
乾燥工程により得られた結晶は、高速液体クロマトグラフィー分析による純度が98.6%であり、HS-GC分析により残存溶媒がトルエン0.09重量%、アセトン0.01重量%であり、示差走査熱量分析による160.2℃と176.1℃の2つの吸熱ピークを有する結晶混合体であることが確認された。得られた結晶の示差走査熱量測定(DSC)曲線を示す図を図6に示す。
【0026】
<実施例3>
(晶析工程)
温度計、撹拌機、冷却管を備えた500ミリリットル4つ口フラスコに、上記「合成例」で得られたトルエン包接体30gとアセトン61.2gを仕込み、55℃で溶解後、溶液温度を55℃に保ちながら、撹拌下蒸留水30gを滴下し、上記「参考例」で得た種晶0.1gを加えた。溶液温度を55℃に保ちながら、さらに撹拌下蒸留水10.8gを滴下し、1時間撹拌を続けた。その後、1時間あたり10℃の冷却速度で50℃まで冷却し、50℃で15時間保持して、析出した結晶を濾別した。得られた結晶を1.2kPaの減圧下、30℃の環境で2時間乾燥して、実施例1と同様の方法で付着溶媒を除去できたことを確認し、アセトン包接体である結晶を得た。得られた結晶について、示差熱・熱重量分析(DTG)を行った結果、包接するアセトンを除去する熱量は約70J/gであった。この示差熱・熱重量分析(DTG)曲線を示す図を図7に示す。
(乾燥工程)
得られた包接体の結晶を1.2kPaの減圧下、110℃の環境で2時間乾燥し、包接体でない結晶17.8gを取得した。
(分析結果)
乾燥工程により得られた結晶の高速液体クロマトグラフィー分析による純度は98.7%であり、HS-GC分析により残存溶媒がトルエン0.2重量%、アセトン0.05重量%であり、示差走査熱量分析による160.5℃と176.7℃の2つの吸熱ピークを有する結晶混合体であることを確認した。得られた結晶のメディアン径(D50)は46.0μm、モード径は60.1μmであった。
得られた結晶の示差走査熱量測定(DSC)曲線を示す図を図8に示し、粉末X線の主なピーク(5%を超える相対積分強度を有するもの)を表2に列挙する。
【0027】
【表2】
【0028】
<比較例1>
温度計、撹拌機、冷却管を備えた200ミリリットル4つ口フラスコに、上記「合成例」で得られたトルエン包接体15gとアセトン17gを仕込み、50℃で溶解させた。その後1時間あたり10℃の冷却速度で冷却し、40℃において、上記参考例で得られた結晶を種晶として投入した。1時間あたり10℃の冷却速度で25℃まで冷却後、15時間撹拌した後、濾過した。得られた結晶を1.2kPaの減圧下、110℃の環境下において2時間乾燥し、11.2gの結晶(純度98.5%)を得た。この結晶の残存溶媒を測定した結果、トルエン2.6重量%、アセトン0.09重量%であった。すなわち、得られた結晶は、トルエン包接体であった。
【0029】
<比較例2>
上記特許文献4の実施例1に記載された製造方法について、追試験を行った。
詳しくは、撹拌機、冷却管、および温度計を備えた1リットル4つ口フラスコ内を窒素置換し、9,9’-ビス(4-ヒドロキシ-3-フェニルフェニル)フルオレン75g(0.149mol)、炭酸カリウム1.7g、エチレンカーボネート30.05g(0.341mol)、トルエン112.5g、およびメチルトリグライム7.5gを仕込み、110℃まで昇温し、同温度で16時間撹拌後、高速液体クロマトグラフィー(以下HPLC)測定にて原料が消失していることを確認した。
その後、水3.07g添加し、100℃で5時間加水分解を行った。
得られた反応液を90℃まで冷却した後、水113gを加え、80~85℃で30分撹拌し、静置後、水層を分離した。同じ水洗操作を3回繰り返した後、得られた有機溶媒層から溶媒を除去し、濃縮物を得た。得られた濃縮物にトルエン92g、メタノール348gを添加し晶析溶液を得た。得られた晶析溶液を65℃まで昇温し、同温度で1時間撹拌して結晶を完溶させた後、1分あたり0.1℃で冷却することにより50℃で結晶を析出させ、同温度で2時間撹拌した。更に22℃まで冷却した後、濾過し結晶を得た。
得られた結晶を1.3kPaの減圧下、55℃で3時間乾燥した後、結晶の一部をHS-GCで分析した。その結果、晶析工程で用いた溶媒であるメタノールを3.5重量%含有していることが確認された。更に同条件で3時間乾燥を継続し分析しても、メタノールの含有量が4重量%と減少しなかった。この結晶から、包接した溶媒を除去するのに必要な熱量をDTGで測定した結果、約875J/gであった。この結晶を内圧1.3kPaの減圧下、内温を90℃に昇温し、更に3時間乾燥した。メタノールの含有量が0.02重量%となった為、乾燥終了とした。
得られた結晶の示差熱・熱重量分析(DTG)曲線を示す図を図9に、各分析値を下記に示す。
得られた結晶の重さ:77.9g(収率:88%)
HPLC純度:98.6%
トルエン含量:0.01重量%
メタノール含量:0.02重量%
比較例2の結果より、メタノール包接体からメタノールを除去するためには、概略900J/g程度のエネルギーが必要であることが確認された。
また、得られた結晶のメディアン径(D50)は18.5μm、モード径は21.2μmであった。
【0030】
上記特許文献5の比較例1、実施例8、12、17、19、20に記載された製造方法について、追試験を行った。
<参考例2>
(特許文献5の比較例1)
撹拌器、加熱冷却器、および温度計を備えた1リットル4つ口フラスコ内を窒素置換し、9,9’-ビス(4-ヒドロキシ-3-フェニルフェニル)フルオレン60g(0.119mol)、炭酸カリウム1.2g、エチレンカーボネート24.15g(0.274mol)、およびトルエン60gを仕込み、110℃で34時間撹拌した。次いで水4.86g添加し、100℃で11時間反応(加水分解)を行った。得られた反応液を85℃まで冷却した後、トルエン30gと水102gを加え、80~85℃で30分撹拌し、静置後、水層を分離した。同じ水洗操作を3回繰り返した後、得られた有機溶媒層からディーンスターク装置を用いて還流下で水を除去し、冷却により75℃で結晶が析出し、同温度で2時間撹拌した。更に26℃まで冷却した後、濾過し結晶を得た。得られた結晶を、12時間、内圧1.1kPaの減圧下、110℃~112℃で乾燥した。
得られた結晶を上述した方法により分析した結果、トルエン包接体であることを確認した。
得られた結晶の分析結果を下記に示す。
得られた結晶の重さ:68.5g
HPLC純度:97.5%
トルエン(ゲスト分子)含量:4.46重量%
【0031】
<比較例3>
(特許文献5の実施例8:イソブチルケトン)
上記参考例2で得られたトルエン包接体の結晶5gとジイソブチルケトン25gを撹拌子の入った試験管に入れ、100℃で5時間撹拌し、そのまま冷却せずに濾過した。その後、窒素気流中で2時間乾燥した。
得られた結晶の示差走査熱量測定(DSC)曲線を示す図を図10に、各分析値を下記に示す。HPLC純度:98.40%
トルエン(ゲスト分子)含量:検出限界以下(HS-GC)
融点:192℃
ゆるみ嵩密度:0.31g/cm
なお、上記ゆるみ嵩密度は、試験管での簡易試験によるデータである。
比較例3の結果より、上記特許文献5の実施例8により得られる結晶は、融点が192℃と高融点結晶であることが、さらに、ゆるみ嵩密度は0.31と低いことも確認された。
【0032】
<比較例4>(特許文献5の実施例12:ヘプタン)
上記参考例2で得られたトルエン包接体の結晶5gとへプタン25gを撹拌子の入った試験管に入れ、100℃で2時間撹拌し、そのまま冷却せずに濾過した。その後、窒素気流中で2時間乾燥した。
得られた結晶の示差走査熱量測定(DSC)曲線を示す図を図11に、各分析値を下記に示す。
HPLC純度:98.74%
トルエン(ゲスト分子)含量:検出限界以下(HS-GC)
融点:191℃
ゆるみ嵩密度:0.38g/cm
なお、上記ゆるみ嵩密度は、試験管での簡易試験によるデータである。
比較例4の結果より、上記特許文献5の実施例12により得られる結晶は、融点が191℃と高融点結晶であることが確認された。
【0033】
<比較例5>
(特許文献5の実施例17:ジブチルエーテル)
上記参考例2で得られたトルエン包接体の結晶5gとジブチルエーテル25gを撹拌子の入った試験管に入れ、100℃で5時間撹拌し、そのまま冷却せずに濾過した。その後、窒素気流中で2時間乾燥した。
得られた結晶の示差走査熱量測定(DSC)曲線を示す図を図12に、各分析値を下記に示す。
HPLC純度:97.88%
トルエン(ゲスト分子)含量:検出限界以下(HS-GC)
融点:192℃
ゆるみ嵩密度:0.35g/cm
なお、上記ゆるみ嵩密度は、試験管での簡易試験によるデータである。
比較例5の結果より、上記特許文献5の実施例17により得られる結晶は、融点が192℃と高融点結晶であることが確認された。
【0034】
<比較例6>
(特許文献5の実施例19:アセトニトリル)
上記参考例2で得られたトルエン包接体の結晶5gとアセトニトリル10gを撹拌子の入った試験管に入れ、24℃で6時間撹拌し、そのまま冷却せずに濾過した。その後、窒素気流中で2時間乾燥した。
得られた結晶の示差熱・熱重量分析(DTG)曲線を示す図を図13に、各分析値を下記に示す。HPLC純度:98.15%
アセトニトリル(ゲスト分子)含量: 3.57%(HS-GC)
ゆるみ嵩密度:0.32g/cm
なお、上記ゆるみ嵩密度は、試験管での簡易試験によるデータである。
比較例6の結果より、アセトニトリル包接体からアセトニトリルを除去するためには、概略200J/g程度のエネルギーが必要であることが確認された。
【0035】
<比較例7>
温度計、撹拌機、冷却管を備えた500ミリリットル4つ口フラスコを窒素置換し、そこに、上記「合成例」で得られたトルエン包接体14.1g(YI値0.80)とメチルイソブチルケトン60gとへプタン24gを仕込み、100℃まで昇温し、30分間撹拌して結晶をすべて溶解させた。得られた溶液を1分間あたり0.8℃の速度で冷却することにより65℃で結晶が析出した。同温度で2時間撹拌後、20℃ まで冷却し、ろ過を行った。得られた結晶を1.3kPaの減圧下、90℃で3時間乾燥し、下記品質の結晶10.6gを得た。
HPLC純度:99.3%
残存トルエン:112ppm
残存メチルイソブチルケトン:1680ppm
残存へプタン:321ppm
YI値:1.26(10%ジオキサン溶液)
DSC融解吸熱最大温度:171℃
【0036】
<実施例4>
温度計、撹拌機、冷却管を備えた500ミリリットル4つ口フラスコを窒素置換し、そこに、上記「合成例」で得られたトルエン包接体14.3g(YI値0.80)とアセトン30.6gを仕込み、55℃で溶解後、溶液温度を55℃に保ちながら、撹拌下で蒸留水15gを滴下し、上記「参考例」で得た種晶0.1gを加えた。溶液温度を55℃に保ちながら、さらに撹拌下蒸留水5.4gを滴下し、1時間撹拌を続けた。その後、1時間あたり10℃の速度で50℃まで冷却し、50℃で15時間保持して、析出した結晶を濾別した。得られた結晶を1.3kPaの減圧下、100℃で4時間乾燥して、下記品質の結晶9.9gを得た。
HPLC純度:99.1%
残存トルエン:0.10重量%
残存アセトン:0.01重量%
YI値:0.43(10%ジオキサン溶液)
DSCによる吸熱ピーク:162℃/176℃
上記「比較例7」に示すように、上記特許文献5に記載された方法では、結晶の色相を改善することが出来ないが、「実施例4」に示すとおり、本発明の方法によれば、得られる結晶の色相をも大きく向上させ得ることが確認された。
【0037】
上記特許文献6の実施例1、2に記載された製造方法について、追試験を行った。
<比較例8>
(特許文献6の実施例1)
温度計、撹拌機、冷却管を備えた1リットル4つ口フラスコ内を窒素置換し、9-フルオレノン18.0g(0.1モル)、2-[(2-フェニル)フェノキシ]エタノール53.5g(0.25モル)、3-メルカプトプロピオン酸1g、トルエン60mLを仕込み、65℃で溶解させてから、98%硫酸25mLを1時間かけて滴下した。その後65℃で6時間撹拌して反応させた。反応終了後、水酸化ナトリウム溶液を加えて中和し、さらに、トルエン100g、水50g加えて撹拌し、静置後、水層を除去した。得られた有機層に水60gを加えて撹拌して静置後、水層を除去する操作を4回実施した。
洗浄した有機層を10℃/時間で冷却して晶析し、25℃で15時間撹拌後、濾過して9,9-ビス[3-フェニル-4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンの粗生成物を得た。
この粗生成物20.2gをトルエン60.6gで溶解後、冷却して晶析を行い、25℃で濾過し、9,9-ビス[3-フェニル-4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンの結晶を得た。その後、80℃、1.3kPaで6時間乾燥して結晶11gを得た。(収率19.0%)
結晶をHPLCで分析した結果、その純度は92.8%であった。
得られた結晶の示差熱・熱重量分析(DTG)曲線を示す図を図14に示す。
図14より、融点以上の温度において結晶重量が減少していることから、上記特許文献6の実施例1により得られる結晶は、トルエン包接体であることが明らかとなった。
【0038】
<比較例9>
(特許文献6の実施例2)
上記比較例8の結晶10gをエタノール60gで溶解後、冷却して晶析を行い、25℃で濾過し、結晶を得た。25℃、1.3kPaで3時間乾燥した後、HS-GCで分析した結果、エタノールの含有量が6.0重量%であった。この結晶について示差熱・熱重量分析(DTG)を行った結果、包接するエタノールを除去する熱量は約147J/gであることが確認された。この結晶の示差熱・熱重量分析(DTG)曲線を示す図を図15に示す。
さらに、この結晶を80℃、1.3kPaで6時間乾燥した結果、エタノールの含有量が0.14重量%の結晶6.9gが得られた。(収率69%)
得られた結晶の示差走査熱量測定(DSC)曲線を示す図を図16に、各分析値を下記に示す。
HPLC純度:94.5%
エタノール含量:0.14重量%(HS-GC)
トルエン含量:検出限界以下(HS-GC)
融点:132℃
ゆるみ嵩密度:0.33g/cm
なお、上記ゆるみ嵩密度は、試験管での簡易試験によるデータである。また、HPLC純度が特許文献6に記載された数値より低いのは、実施例6には、硫酸滴下温度等の詳細が説明されていないので、反応条件が完全に一致していないことも理由として考えられる。
また、得られた結晶のメディアン径(D50)は20.7μm、モード径は26.1μmであった。得られた結晶は、本発明の結晶混合体に比べて粒子径が非常に細かく、また、上記「比較例2」のメタノール包接体から得られた結晶に比べて流動性が向上した様子は確認されなかった。
比較例9の結果より、エタノール包接体からエタノールを除去するためには、概略150J/g程度のエネルギーが必要であることが、さらに、包接体からエタノールを除去した結晶の融点は132℃であることが確認された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16