(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】湿式化学的に調製されたポリマー系リチウムリンオキシ窒化物(LiPON)、その調製方法、その使用、および電池
(51)【国際特許分類】
C08G 79/025 20160101AFI20231003BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20231003BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20231003BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20231003BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20231003BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20231003BHJP
H01M 4/40 20060101ALI20231003BHJP
H01M 4/485 20100101ALI20231003BHJP
H01M 4/48 20100101ALI20231003BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20231003BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20231003BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
C08G79/025
H01M10/0562
H01M10/052
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/58
H01M4/40
H01M4/485
H01M4/48
H01M4/38 Z
H01M4/587
H01B1/06 A
(21)【出願番号】P 2021563303
(86)(22)【出願日】2020-05-12
(86)【国際出願番号】 EP2020063188
(87)【国際公開番号】W WO2020229467
(87)【国際公開日】2020-11-19
【審査請求日】2022-06-10
(31)【優先権主張番号】102019207196.1
(32)【優先日】2019-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】598080163
【氏名又は名称】フラウンホッファー-ゲゼルシャフト ツァー フェーデルング デア アンゲバンテン フォルシュング エー ファー
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アベルズ、ギデオン
(72)【発明者】
【氏名】バルデンハーゲン、インゴ
(72)【発明者】
【氏名】シュヴェンツェル、ジュリアン
(72)【発明者】
【氏名】ブッセ、マティアス
【審査官】越本 秀幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-111565(JP,A)
【文献】国際公開第2010/041598(WO,A1)
【文献】特開2011-001221(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 79/00-79/14
C08G 75/00-75/32
H01M 10/0562
H01M 10/052
H01M 4/505
H01M 4/525
H01M 4/58
H01M 4/40
H01M 4/485
H01M 4/48
H01M 4/38
H01M 4/587
H01B 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式I
[一般式I]
【化1】
のポリマー系リチウムリンオキシ窒化物(LiPON)を調製する方法であって、
一般式II:
【化2】
のポリメタホスフィン酸を、有機リチウム化合物と反応させる、方法。
【請求項2】
前記有機リチウム化合物が、アルキルリチウム化合物
、芳香族オルガノリチウム化合物
、およびこれらの混合物からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記反応を、不活性溶媒
中で行う、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記一般式IIの前記ポリメタホスフィン酸を、ポリ(ジクロロホスファゼン)を前記有機リチウム化合物と反応させる前にジメチルスルホキシドと反応させることで調製
する、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記一般式IIの前記ポリメタホスフィン酸の窒素当量に対して、リチウム当量を基準にして、2.0~3.0当量
の前記有機リチウム化合物を使用する、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記反応を、
10分~7日間
かけて、
-20℃~+60℃
の温度で、かつ/または
1~200g/l
の前記一般式IIの前記ポリメタホスフィン酸の濃度で行う、
請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記反応が完了した後、前記ポリマー系リチウムリンオキシ窒化物
が固化する、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記ポリマー系リチウムリンオキシ窒化物を、ニトリル含有溶媒
を加えて
沈殿させることで固化させる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
湿式化学的に調製されたポリマー系リチウムリンオキシ窒化物(LiPON)の固体電解質としての使用であって、
前記LiPONは、一般式Iの繰り返し単位を含み、
[一般式I]
【化3】
前記LiPONは、ジメチルスルホキシド(DMSO)、テトラヒドロフラン(THF)、トルエンおよびN-メチルピロリドン(NMP)からなる群より選択される溶媒に可溶性である、LiPONの使用。
【請求項10】
ポリマー系リチウムリンオキシ窒化物(LiPON)を固体電解質として含む電池であって、
前記LiPONは、一般式Iの繰り返し単位を含み、
[一般式I]
【化4】
前記LiPONは、ジメチルスルホキシド(DMSO)、テトラヒドロフラン(THF)、トルエンおよびN-メチルピロリドン(NMP)からなる群より選択される溶媒に可溶性である、電池。
【請求項11】
リチウムからなるかまたはリチウムを含むアノードと、カソードと、前記アノードと前記カソードとを隔てかつ前記LiPONでできている固体電解質とを含む、請求項10に記載の電池。
【請求項12】
前記カソードが、リチウムニッケルコバルトマンガン系酸化物(Li(NiCoMn)O
2)、リチウムマンガン系スピネル型酸化物(LiMn
2O
4)、リチウムコバルト系酸化物(LiCoO
2)、リン酸鉄リチウム(LiFePO
4)、リチウムニッケルコバルトアルミニウム系酸化物(LiNiCoAlO
2)、リン酸マンガンリチウム(LMnP)、リン酸コバルトリチウム(LCoP)、リン酸ニッケルリチウム(LNiP)、リン酸鉄マンガンリチウム(LMFP)、リチウムマンガンニッケル系酸化物(LMNO)、金属フッ化物
、酸化バナジウム、金属硫化物、金属ケイ酸塩、ならびにこれらの混合物およびブレンドからなる群より選択される材料でできているかまたは含む、請求項11に記載の電池。
【請求項13】
前記アノードが、金属リチウム、チタン酸リチウム酸化物(Li
4Ti
5O
12)、リチウム含有シリコン、リチウム含有シリコン-炭素複合体、リチウム合金
、ならびにこれらの混合物およびブレンドからなる群より選択される材料でできているかまたは含む、請求項11または12に記載の電池。
【請求項14】
前記LiPONを含む前記固体電解質をスパッタリングによって調製しない、請求項10から13のいずれか一項に記載の電池を製造する方法。
【請求項15】
前記固体電解質を、ドクタリング、テープキャスティングおよび/またはプレッシングによって調製する、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿式化学的に調製されたポリマー系リチウムリンオキシ窒化物(LiPON)、その調製方法、その使用、および本発明によるLiPONから製造された固体電解質を含む電池に関する。本発明はまた、対応する電池を製造する方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
現在のリチウムイオン電池は、グラファイトアノード、遷移金属カソード、および液体電解質で構成されている。次世代のリチウムイオン電池では、従来よりもかなり多くのエネルギーを貯蔵できることが求められており、そのためには新たな電極材料を使用する必要がある。これらの材料としては、アノード材料として非常に高い容量を提供し、高いセル電圧を発生させることができる金属リチウムが挙げられる。しかしながら、金属リチウムはほぼすべての既知の電解質と反応し、現在商業的に使用されている電解質では、その結果ガスや熱が放出され、ひいては電池が破壊されてしまう。さらに、これらの電極は、充放電サイクル中に顕著な体積変化を示し、その結果、特にデンドライトが形成される。これは、金属リチウムでできた「枝」で、アノードをカソードにつなぐため、電池の短絡や熱暴走を引き起こし、電池を破壊する可能性がある。
【0003】
市販のリチウムイオン電池では、金属リチウムの代わりにグラファイトをアノード材料として使用している。これはインターカレーション電極として知られているものであり、金属リチウムに還元されずにリチウムイオンを受け取ることができる。その結果、リチウムと液体電解質との間の反応が大幅に防止される。電解質のごく一部はアノードで分解するが、結果生じる化合物は電極表面に薄膜を形成し、これは「固体電解質界面」(SEI)として知られている。これにより、電極と電解質とが互いに分離するため、それ以上の電解質の分解を防ぎ、電池の動作安全性に大きく寄与する。グラファイトアノードの欠点は、金属Liの約1/10の容量しかないことであり、したがって、安定したリチウム金属アノードを使用することが有利である。
【0004】
これには、既知の液体電解質の代わりに固体電解質を使用する手法が確立されている。なぜなら、固体電解質は、金属リチウムに対する安定性がはるかに高く、ひいては安全性がより高いためである。しかしながら、これらは金属リチウムに対して完全に不活性なわけではなく、SEIも形成し、Li+伝導度は同等の液体伝導度よりもある程度かなり低くなっている。そのため、固体電解質は、電池の機能を確保しつつ、同時に有利なSEIも形成するために、高いLi+伝導度を有していなければならない。これは、リチウム金属の反応性とアノードの体積変化との両方に耐えるために、化学的、電気化学的および機械的に安定していなければならない。そうしないと、最初の部分で述べた問題が発生する。
【0005】
何十年にもわたる研究にもかかわらず、固体電解質はこれらの要件のうちの1つをせいぜい満たすだけで、両方の要件を満たすことができないため、固体電池は商業的にはほとんど使用されていない。唯一の注目すべき例外は、ガラス状リチウムリンオキシ窒化物(LiPON)で、これは極めて安定した自己修復性のSEIを形成し、高いLi+伝導度を持ち、Li3N、Li3PおよびLi2Oでできているため、リチウム金属アノードの使用が可能になる。しかしながら、LiPONは10-6Scm-1という低いLi+伝導度を有しているため、LiPONは高真空を必要とするスパッタリングプロセスで製造されることから、薄膜電池にしか使用できず、工業規模では使用できない。
【0006】
文献で知られているLiPONは、ガラスのクラスの材料である。ガラスは、個々の原子が共有結合および/またはイオン結合によって互いに結合している非晶質の非金属無機材料である(文献によれば、これらの材料として、Li2O、P2O5およびPONが挙げられる(Dudney,N.J.(2000),Addition of a thin-film inorganic solid electrolyte(LiPON)as a protective film in lithium batteries with a liquid electrolyte,Journal of Power Sources,89(2),176-179))。従来、ガラスは溶融プロセスで製造されていた。この場合、出発材料(例えば、SiO2と添加物としての金属酸化物(CaO、Na2O、MgOなど))を混合し、溶融し、溶融した状態で成形する。ガラス状の構造を有する薄膜は、蒸着プロセス(例えばスパッタリング)によって製造できる。
【0007】
LiPONは、一般的に、窒素雰囲気中でLi3PO4をスパッタリングすることで表面に成膜される(Schwoebel,A.,Hausbrand,R.,& Jaggermann,W.Interface reactions between LiPON and lithium studied by in-situ X-ray pho-toemission,Solid State Ionics(2015)273,51-54)。この場合、出発材料はモノリス状のセラミック(結晶質)のLi3PO4で、これがターゲットとして機能する。イオンを衝撃することで、ターゲットからフラグメントが取り除かれる。これらは窒素と反応し、選択されたキャリア媒体(基材)上に成膜される。この化学量論は、プロセスパラメータ(スパッタリング速度や窒素圧力など)によって制御される。このプロセスは高真空を必要とするため、非常に複雑であり、使用できる規模も限られている。さらに、LiPON層は自立させて製造できず、基材にしか成膜できない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そのため、これまでは、より大型の電池システムにリチウム金属アノードを使用できる固体電解質は開示されていなかった。本発明が解決しようとする課題は、高いLi+伝導度および良好な加工性とともに、リチウム金属アノードと接触したときに安定したSEIも有する固体電解質を製造することである。同時に、固体電解質は、従来の固体電解質では大量の装置が必要で、コスト面でも大きな欠点があるPVDまたはCVDプロセス、特にスパッタリング以外の方法で製造できることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題は、請求項1に記載の湿式化学的に調製されたポリマー系リチウムリンオキシ窒化物(LiPON)に関して解決される。請求項4は、その製造方法を規定している。請求項12は、本発明によるLiPONの用途を記載しており、請求項13は、本発明によるLiPONでできた固体電解質を含む電池を記載している。請求項17は、本発明による電池の製造方法を規定している。それぞれの従属請求項は、ここでの有利な発展形態を表している。
【0010】
このように、本発明は、一般式Iの繰り返し単位を含む、湿式化学的に調製されたポリマー系リチウムリンオキシ窒化物(LiPON)に関し、
[一般式I]
【化1】
式中、LiPONは、ジメチルスルホキシド(DMSO)、テトラヒドロフラン(THF)、トルエンおよびN-メチルピロリドン(NMP)からなる群より選択される溶媒に可溶性である。本発明によるLiPONは、これまでに知られているスパッタリングされたまたは結晶質のLiPONとは異なり、湿式化学的に、すなわち溶媒中で調製されている。スパッタリングという複雑なプロセスはもはや必要ない。
【0011】
したがって、本発明によるLiPONはセラミックではなく、その代わりに非晶質のポリマー材料であり、これはスパッタリングされたまたは高温合成法によって調製されたLiPONのセラミック変形例とは異なり、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、トルエンまたはN-メチルピロリドンなどの極性溶媒に溶解できる。
【0012】
そのため、本発明によるLiPONは、使用および加工の面でまったく新しい可能性を提供する。そのため、例えば、LiPONを分離して、それ単独で取り扱うことも可能である。同様に、LiPONを溶液から、例えばフィルムキャスティングまたはドクタリングなどによって成膜することも可能である。
【0013】
したがって、本発明によるLiPONをさらに加工する際には、高いエネルギー消費を伴う真空または保護雰囲気の中で行わなければならない、従来技術で知られているPVD(スパッタリング)またはCVDプロセスなどの複雑な適用プロセスを回避できる。
【0014】
金属リチウムの反応性は回避できないため、電解質は厳密に規定された生成物に分解し、特定の安定したSEIを形成するようなものでなければならない。冒頭に述べたLiPONのSEIがモデルとなる。リチウム塩であるLi3N、Li3PおよびLi2Oの形成には、新しい固体電解質がガラス状LiPONと同様の化学分子式を有している必要がある。この手法に適した材料クラスは、リン-窒素の主鎖を有するポリホスファゼンである。特定の化学修飾によって、ガラス状LiPONの分子式とほぼ同じ分子式[Li2PO2N]nを有するポリマー系LiPONとして知られているものを調製できる。さらに、ポリホスファゼンは既知の固体電解質であり、現在使用されている液体電解質に匹敵する10-3Scm-1までのLi+伝導度に達し得る。そのため、この固体電解質は、安定したSEIと高いLi+伝導度という、これまで達成されていなかった組み合わせを提供する。さらに、本発明によるポリマー系LiPONは、熱可塑性ポリマーであるため、溶融することができ、ロール・ツー・ロール加工などの既知のプロセスによって大規模に加工もできることを意味する。
【0015】
本発明によるLiPONは、特に、一般式IIのポリメタホスフィン酸:
[一般式II]
【化2】
を、有機リチウム化合物と反応させることによって調製できる。
【0016】
好ましくは、本発明によるLiPONは、その非晶質性によって特徴付けられる。
【0017】
本発明はまた、一般式I
[一般式I]
【化3】
のポリマー系リチウムリンオキシ窒化物(LiPON)を調製する方法に関し、
一般式II:
【化4】
のポリメタホスフィン酸を、有機リチウム化合物と反応させる。
【0018】
ここで使用される有機リチウム化合物は、特にアルキルリチウム化合物、特にn-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、tert-ブチルリチウム、メチルリチウム、イソプロピルリチウム、芳香族オルガノリチウム化合物、特にフェニルリチウムおよびこれらの混合物からなる群より選択される。
【0019】
特に好ましくは、反応は、不活性溶媒、好ましくはジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルスルホキシド(DMSO)と混合可能な溶媒、またはジメチルスルホキシド(DMSO)と、ジメチルスルホキシド(DMSO)と混合可能な溶媒との混合物、特に、トルエン、ベンゼン、キシレン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、テトラヒドロフラン(THF)およびN-メチルピロリドン(NMP)、ならびにこれらの混合物および組み合わせ、特にジメチルスルホキシド(DMSO)とトルエンとの混合物からなる群より選択される溶媒中で行われる。
【0020】
好ましくは、DMSO中で使用される一般式IIのポリメタホスフィン酸は、ポリ(ジクロロホスファゼン)を有機リチウム化合物と反応させる前にジメチルスルホキシドと反応させることで調製される。好ましくは、ポリメタホスフィン酸は、本発明によるLiPONを形成するために反応させる直前に調製される。ここでは、2段階の反応がワンポット合成で行われることが特に好ましい。まず、ここでポリ(ジクロロホスファゼン)をジメチルスルホキシドと反応させてポリメタホスフィン酸を形成し、結果生じるポリメタホスフィン酸のDMSO溶液を直ちに有機リチウム化合物と再度反応させて、本発明によるポリマー系LiPONを形成する。
【0021】
有機リチウム化合物は、ここでは、一般式IIのポリメタホスフィン酸の窒素当量に対して、リチウム当量を基準にして、有利には2.0~3.0、好ましくは2.1~2.8、特に好ましくは2.3~2.5当量が使用される。
【0022】
ここで、LiPONを形成するための反応は、有利には、10分~7日間、好ましくは12時間~5日間かけて、-20℃~+60℃、好ましくは0℃~40℃、特に好ましくは10~30℃の温度で、かつ/または1~200g/l、好ましくは10~100g/lの一般式IIのポリメタホスフィン酸の濃度で行うことができる。
【0023】
好ましくは、反応が完了した後、ポリマー系リチウムリンオキシ窒化物は、特に沈殿、結晶化、抽出および/または溶媒の除去によって固化する。
【0024】
本発明によるLiPONを沈殿させる場合、これは特に、ニトリル含有溶媒、特にアセトニトリルを添加することによって行われる。
【0025】
本発明はまた、本発明によるLiPONを固体電解質として使用することに関する。
【0026】
本発明はさらに、固体電解質として本発明によるLiPONを含む、電池に関する。
【0027】
この電池は、例えば、リチウムからなるかまたはリチウムを含むアノードと、カソードと、アノードとカソードとを隔てかつ本発明によるLiPONでできている固体電解質とを含む。
【0028】
ここでは、リチウムニッケルコバルトマンガン系酸化物(Li(NiCoMn)O2)、リチウムマンガン系スピネル型酸化物(LiMn2O4)、リチウムコバルト系酸化物(LiCoO2)、リン酸鉄リチウム(LiFePO4)、リチウムニッケルコバルトアルミニウム系酸化物(LiNiCoAlO2)、リン酸マンガンリチウム(LMnP)、リン酸コバルトリチウム(LCoP)、リン酸ニッケルリチウム(LNiP)、リン酸鉄マンガンリチウム(LMFP)、リチウムマンガンニッケル系酸化物(LMNO)、金属フッ化物、特にフッ化鉄、フッ化銅、フッ化銅鉄;酸化バナジウム、金属硫化物、金属ケイ酸塩、ならびにこれらの混合物およびブレンドからなる群より選択される例示的なカソード材料が好ましい。
【0029】
金属リチウム、チタン酸リチウム酸化物(Li4Ti5O12)、リチウム含有シリコン、リチウム含有シリコン-炭素複合体、リチウム合金、特に、アルミニウム、マグネシウム、シリコンおよび/またはスズとのリチウム合金、ならびにこれらの混合物およびブレンドからなる群より選択される可能性のあるアノード材料が好ましい。
【0030】
本発明はまた、本発明によるLiPONが使用される本発明による電池を製造する方法に関する。ここで、LiPONでできた固体電解質は、従来技術で知られているようなスパッタリングによって適用されていない。特に、固体電解質は、本発明によるLiPONのみから、例えば、ドクタリング、テープキャスティングおよび/またはプレッシングによって調製される。
【0031】
ここで提示された固体電解質は、これまで達成されていなかった高いLi+伝導度、簡便な加工性および安定したSEIの形成を兼ね備えているため、リチウム金属アノードを含む高エネルギーのリチウムイオンバルク電池の工業生産に適している。
【0032】
本発明によるLiPONの最も大きな利点は、金属リチウムの反応性を回避すべき問題とは考えず、代わりに対象となる分解生成物ひいてはリチウム金属アノード上に安定した保護バリア層を生成するために利用される。この手法は、これまでの研究では説明されていなかった。
【0033】
以下の構成を参照して、本発明を、提示された実施形態に発明を限定することなく、より詳細に説明する。
【0034】
ポリマー系LiPONの合成には、通常、ポリマーポリホスファゼン前駆体[NPCl2]nが出発点として使用される。
【0035】
[NPCl2]nの調製には2つの選択肢がある。まず、環状のN3P3Cl6を約250℃の温度で開環反応させて、細長い鎖を形成することができ(Allcock,H.R.,Crane,C.A.,Morrissey,C.T,& Olshavsky,M.A.A New Route to the Phosphazene Polymerization Precursors,Cl3PNSiMe3 and(NPCI2),Inorganic Chemistry(1999),38(2),280-283)、次に、反応式1で提示されるCl3P=NSi(CH3)2(ホスホラニミン)のカチオン重合を、開始剤としてPCl5を用いて行うことができる(Wang,B.Development of a one-pot in situ synthesis of poly(dichlorophosphazene) from PCl3,Macromolecules(2005),38(2),643-645)。後者は、ポリマーモル質量を開始剤/モノマー比に基づいて設定できるという選択肢を提供する(反応式1;以下参照)。
【0036】
ポリマー系LiPONの合成は、2段階合成で行った(生成物(2.1)は単離せず、その代わりに直接さらに加工した)。段階(2.1)は、文献で知られている概念に基づいている(Walsh,E.J.,Kaluzene,S.,& Jubach,T.The reactions of halocyclophosphazenes with dimethylsulfoxide.Journal of Inorganic and Nuclear Chemistry(1976)38(3),397-399)が、ポリマーの場合には存在せず、段階(2.2)はこれまで知られていなかった。
【0037】
【化5】
ポリマー系LiPONの合成
段階1:ポリ(ジクロロホスファゼン)の合成-反応式(1)
グローブボックス内で加熱した250mlのシュレンク管にLiN(SiMe
3)
2(5.17g,30.9mmol)をセプタムで秤量し、アルゴン雰囲気下で120mlの乾燥トルエンに溶解し、溶液を0℃に冷却した。次いで、そこにPCl
3(2.7ml,30.9mmol)を10分かけて滴加した。この反応混合物をまず0℃で30分、次いで室温で1時間撹拌した。結果生じる白色の懸濁液を再び0℃に冷却し、次いでそこにSO
2Cl
2(2.55ml,31.5mmol)を10分かけて滴加した。結果生じるSO
2を、水酸化ナトリウムを入れたガス洗浄ボトル内で結合した。次いで反応混合物を0℃で1時間撹拌し、次いでそこにPCl
5(316mg,1.52mmol)を加え、最後に室温で一晩撹拌した。
【0038】
約18時間後、黄色く濁った溶液を、加熱した250mlのフラスコ中でフリット付きのガラスフィルターを通してセライト上で濾過し、こうして溶液からLiClを除去した。次いで、フラスコとフリット付きガラスフィルターとを数ミリリットルのトルエンで2回洗浄した。まずロータリーエバポレーターで溶媒を除去し、次いでオイルポンプで真空引きし、この結果、粘性のある黄色の固体を得た。
収量:2.9g(25.2mmol,81%)。
【0039】
[NPCl
2]
nの
31P-NMRスペクトルは、CDCl
3で-16.8ppmのシグナルを示し、これは文献と一致する。FTIRのスペクトルも同様で、1208cm
-1(P=N振動)と741cm
-1(P-Cl振動)とにバンドがある(
図1aおよび1b参照)。
【0040】
段階2:ポリマー系LiPONの合成-反応式(2.1)および(2.2)
段階1からのポリ(ジクロロホスファゼン)(1g,8.63mmol)を100mlのフラスコに入れ、少量の氷を入れた水浴中でゆっくりと撹拌しながら、そこに15mlの無水DMSOを加えた。2時間後、水浴を取り除き、反応溶液をアルゴン雰囲気下で40℃にて48時間撹拌した。
【0041】
次いで、油浴を除去し、結果生じる無色の固体を液体の上にフラスコ内で掻き取り、再び溶液に加えた。この懸濁液を超音波浴で10分間処理した後、室温でさらに18時間ゆっくりと撹拌した。次いで、この副生成物をオイルポンプで数時間かけて上流側のコールドトラップを使って真空除去した。約15mlのDMSOに3mlの無水DMSOを有する溶液を再び補充したら、さらに18時間撹拌した。翌日、それを15mlの無水ジエチルエーテルで4回洗浄し、その残渣をオイルポンプで真空除去した。
【0042】
その後、この溶液を無水DMSOで希釈して全容量を30mlとし、そこに2.5Mのn-ブチルリチウム/トルエン溶液(19mmol,2.2当量)7.6mlを、少量の氷を入れた水浴中で最高撹拌速度にて滴下漏斗によって滴加した。次いで、反応溶液をアルゴン雰囲気下で室温にて96時間撹拌した。
【0043】
次いで、溶液をオイルポンプで真空引きにして揮発性成分を除去し、当該溶液を30mlのジエチルエーテルで3回洗浄した。次いで、残りのジエチルエーテルをオイルポンプで真空除去し、その溶液に60mlの無水アセトニトリルを加え、超音波浴で10分間処理した後、生成物をフリット付きガラスフィルターによって濾過した。次いで、得られた無色の粉末を約6mlの無水アセトニトリルによりフリット付きガラスフィルター内で洗浄し、次いでオイルポンプで真空乾燥した。
収量:454mg(5mmol,58%)。
【0044】
第2の段階でDMSOを加えた後、
31P-NMRスペクトルの出発材料のシグナルが消失し(
図2参照)、代わりにDMSO-d6で約+0.3ppmの異なるシグナルが現れた(以下参照)。
【0045】
DMSO-d6中の85%H
3PO
4のシフトが+1.0ppmであったことから、中間生成物はリン酸(H
3PO
4)と同様の構造を有しているに違いなかった。酸素と窒素とは電気陰性度の値が類似していることから、同様の化学環境を生成するため、中間生成物の
31P-NMRは反応が正しいことを示していた。[H
2PO
2N]
nを有するDMSO溶液を、ブチルリチウムを加える前に無水ジエチルエーテルで3回洗浄し、次いで、無水アセトニトリルで沈殿させることによって、中間生成物を単離することができた。得られた無色の粉末は、
図3に示すようなIRスペクトルを有していた。
【0046】
このスペクトルでは、出発材料のバンドが消失し、期待された生成物のほぼすべての官能基のバンドが同時に現れていることから、当該生成物が生成されていることがわかる(31P-NMRスペクトルも考慮)。
【0047】
ブチルリチウムの添加による
31P-NMRスペクトルの変化は全くなく、約0.3ppmのシグナルがまだ存在していた。そのため、リン原子に直接結合している部分は何も変化していなかった。この観察は、ここでは窒素と酸素との結合状態が変化するだけであることから、反応式(2.2)と一致する。しかしながら、FTIRスペクトルには大きな変化が示された(
図4参照)。
【0048】
まず、P-OH結合のバンドがほぼ完全に消失し、リチオ化(O-Liの形成、反応式2.2)が成功したことを示した。1015cm
-1でのバンドは、P-O結合、すなわち生成物中のPO-Li
+基に割り当てられた。このバンドの幅と、中間生成物のP-OおよびP=Oバンドがもはや見られなくなったという観察結果とから、両酸素原子上の負電荷が非局在化していることが示された(下図左)。これは、有機化学から知られている、例えばカルボキシラート(下図右)と同様である:
【化6】
(右図:ポリマー系LiPONの想定される構造、左図:脱プロトン化されたカルボン酸におけるK
+=カチオンのメソメリズム)。
【0049】
図5は、本発明によるポリマー系LiPONを固体電解質として使用して製造できる電池の例示的な構造を示している。ここでは、電池は、
図5に示した構造で、ポリマー系LiPONがリチウム金属のアノードとカソードとを互いに隔てている。ポリマー系LiPONは、カソード材料またはアノードにプレッシングによって適用できる。
【0050】
リチウム金属アノードと本明細書に記載された固体電解質とを含むバルク電池の使用は、電気エネルギー蓄積装置が関連する任意の分野にとって有益である。これには、特に、自動車産業、電気産業および建築産業が含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0051】