IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社伸光製作所の特許一覧

<>
  • 特許-プリント配線板 図1
  • 特許-プリント配線板 図2
  • 特許-プリント配線板 図3
  • 特許-プリント配線板 図4
  • 特許-プリント配線板 図5
  • 特許-プリント配線板 図6
  • 特許-プリント配線板 図7
  • 特許-プリント配線板 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】プリント配線板
(51)【国際特許分類】
   H05K 1/18 20060101AFI20231003BHJP
【FI】
H05K1/18 A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022037384
(22)【出願日】2022-03-10
(65)【公開番号】P2023132200
(43)【公開日】2023-09-22
【審査請求日】2022-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】593215380
【氏名又は名称】株式会社伸光製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100123869
【弁理士】
【氏名又は名称】押田 良隆
(72)【発明者】
【氏名】鶴川 公治
【審査官】齊藤 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-179332(JP,A)
【文献】特開2006-32702(JP,A)
【文献】実開昭58-106968(JP,U)
【文献】実開昭63-65265(JP,U)
【文献】特開2003-283085(JP,A)
【文献】特開平5-191003(JP,A)
【文献】特公昭50-40223(JP,B1)
【文献】実開昭51-31760(JP,U)
【文献】実開昭52-24544(JP,U)
【文献】実開昭62-53577(JP,U)
【文献】特開昭62-209891(JP,A)
【文献】特開平9-46019(JP,A)
【文献】特開2002-26482(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 1/00―3/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁層と導体層からなる積層板の両面に開口部を持つスルーホールを備えるプリント配線板であって、
下記の構成を採り、「スルーホールの引き抜き強度(TH強度)」が調整可能であるスルーホールを複数個備えることを特徴とするプリント配線板。
記)
片面の開口部が、逆円錐台状凹部、若しくは円柱体状凹部形態で、
前記開口部における開口頂部径が、前記スルーホールの直径以上で、
前記開口部における開口部の中心軸が、前記スルーホールの中心軸に対してずれて設けられている。
【請求項2】
前記開口部が、プリント配線板の両面に設けられていることを特徴とする請求項1に記載のプリント配線板。
【請求項3】
下記式(1)で表わされる前記開口部の中心軸の前記スルーホールの中心軸からのずれ率αが、10%以上、60%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のプリント配線板。
【数1】
【請求項4】
絶縁層と導体層からなる積層板の両面に開口部を持つスルーホールを備えるプリント配線板であって、
下記の構成を採り、「スルーホールの引き抜き強度(TH強度)」が調整可能であるスルーホールを複数個備えることを特徴とするプリント配線板。
記)
片面の開口部が、逆円錐台状凹部、若しくは円柱体状凹部形態で、
前記開口部における開口頂部径が、前記スルーホールの直径以上の大きさで、
前記開口部における開口底部径が、前記スルーホールの直径以上の大きさで、
前記開口部における中心軸が、前記スルーホールの中心軸と同一に設けられ、
前記開口部における凹部内壁面が、殴打痕模様から構成されている。
【請求項5】
前記開口部が、プリント配線板の両面に設けられていることを特徴とする請求項4に記載のプリント配線板。
【請求項6】
前記開口部が、殴打痕模様で構成されている凹部内壁面を有することを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のプリント配線板。
【請求項7】
前記殴打痕模様が、粒体の衝突痕である不規則模様の凹凸面の模様であることを特徴とする請求項4又は6に記載のプリント配線板。
【請求項8】
前記プリント配線板が、両面に前記開口部を備え、
片面の開口部の大きさと、他面の開口部の大きさが異なり、
前記開口部の大きさが、前記開口部における開口頂部の大きさで規定されることを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載のプリント配線板。
【請求項9】
前記プリント配線板が、少なくとも片面に、2以上の開口頂部の大きさの異なる開口部を備えることを特徴とする請求項1~8のいずれか1項に記載のプリント配線板。
【請求項10】
前記開口部が、逆円錐台状凹部形態である場合、
前記開口頂部径の大きさが、前記スルーホールの直径より大きく、前記直径の3倍以下で、
前記開口底部径の大きさが、前記スルーホールの直径以上、前記直径の3倍未満で、
前記逆円錐台状凹部の母線の傾きが、前記開口部の中心軸と垂直な面を基準にして反時計回りに90度を超え、180度未満で、
前記逆円錐台状凹部の深さが、前記絶縁層と導体層の厚みの和以上で、前記積層板の厚みの50%未満であることを特徴とする請求項1~9のいずれか1項に記載のプリント配線板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器などに使用されるプリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント配線板では、表裏電気回路の接続や内層との接続(多層板の場合)、電子部品などを挿入し接続するためなどの目的でスルーホールと称する穴を有する。一般に、この穴はドリルまたはレーザー工法により穴開けされ、その内壁はめっきにより電気的に接続が取れる構造となっている。
この穴を用いて電子部品を電気回路と接続する場合、穴に電子部品の端子を挿入し、はんだ付けを行うことで電気的かつ機械的に部品を固定する。
【0003】
近年、自動車の高機能化、電気自動車化によりECU(Electronic Control Unit/Engine Control Unit)などと呼ばれる電子機器類が、大量に自動車に搭載されるようになった。
この自動車に搭載される電子機器類は、従来の電子機器類が使用されていた屋内環境などと異なり、高温や振動など、過酷な条件下で使用されることとなり、従来の電子機器類よりも高い信頼性が求められている。
特に、自動車用電子機器ではスルーホールに挿入するタイプの電子部品が多く使われるため、接続材料のはんだの高強度化などが図られているが、併せてその部品を取り付けるスルーホールの強度、特に引き抜き強度の向上が重要となってきている。
【0004】
例えば、特許文献1には、スルーホール断面形状を工夫して、高温系鉛フリーはんだを使用した際に発生するスルーホールのランド剥離を防止する方法が公開されているが、この方法は、ランドが剥離しにくくなるという点において効果的であるが、スルーホールの引き抜き強度を向上させる用途には適さない。
【0005】
又、特許文献2では、基板スルーホールの厚さ方向の中程において一定の径を有するホール部と、これに対して凹面を形成するようにホール部から基板の表面及び裏面に向かってそれぞれ曲線的に拡大変化する内径を有するホール部とからなり、曲線的に拡大変化する内径を有するホール部には、複数の段差部が設けられていることを特徴とするスルーホールを設け、鉛フリーはんだを用いたはんだ付けの際に銅めっき層の剥離を防ぐ発明がなされているが、これによって部品はんだ付けを目的としたスルーホールの引き抜き強度(スルーホール強度)が向上されるか否かは不明である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-179332号公報
【文献】特開2010-258048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、このように重要度を増しているスルーホールにおいて、従来品よりも高い引き抜き強度のスルーホールを持つプリント配線板を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
従来、スルーホールの引き抜き強度は、基材に開けた穴壁面に施しためっきの密着力によるところが大きいと考えられている。本発明者は、まずスルーホールの穴形状について考察し、従来のプリント配線板ではドリルによりストレートな穴を開け、そこに前処理などを経てめっき処理を行い、スルーホールを完成させていた。つまり、従来はストレートな穴形状しか存在せず、形状を工夫して引き抜き強度を上げることは現実的ではなかった。その後、ルータービットを使用して特許文献2のような形状を製造することが可能となった。
【0009】
さらに、現在ではサンドブラスト工法により、より複雑な穴形状を製造することが可能となり、形状面で、引き抜き強度がより高強度なスルーホールが実現可能であると考えた。そこで、スルーホール強度に影響する「穴形状」を実験により明らかにし、最適な穴形状を見出し、本発明の完成に至った。
【0010】
本発明の第一の態様は、絶縁層と導体層からなる積層板の両面に開口部を持つスルーホールを備えるプリント配線板であって、下記の構成を採り、「スルーホールの引き抜き強度(TH強度)」が調整可能であるスルーホールを複数個備えることを特徴とするプリント配線板である。
記)
片面の開口部が、逆円錐台状凹部、若しくは円柱体状凹部形態で、前記開口部における開口頂部径が、前記スルーホールの直径以上で、前記開口部における開口部の中心軸が、前記スルーホールの中心軸に対してずれて設けられている。
【0011】
本発明の第二の態様は、第一の態様に記載の開口部が、プリント配線板の両面に設けられていることを特徴とするプリント配線板である。
【0012】
本発明の第三の態様は、第一及び第二の態様における下記式(1)で表わされる前記「開口部の中心軸」の前記「スルーホールの中心軸」からのずれ率αが、10%以上、60%以下であることを特徴とするプリント配線板である。
【0013】
【数1】
【0014】
本発明の第四の態様は、絶縁層と導体層からなる積層板の両面に開口部を持つスルーホールを備えるプリント配線板であって、下記の構成を採り、「スルーホールの引き抜き強度(TH強度)」が調整可能であるスルーホールを複数個備えることを特徴とするプリント配線板である。
記)
片面の開口部が、逆円錐台状凹部、若しくは円柱体状凹部形態で、前記開口部における開口頂部径が、前記スルーホールの直径以上の大きさで、前記開口部における開口底部径が、前記スルーホールの直径以上の大きさで、前記開口部における中心軸が、前記スルーホールの中心軸と同一に設けられ、前記開口部における凹部内壁面が、殴打痕模様(ブラスト加工面)から構成されている。
【0015】
本発明の第五の態様は、第四の態様における開口部が、プリント配線板の両面に設けられていることを特徴とするプリント配線板である。
【0016】
本発明の第六の態様は、第一から第三の態様における開口部が、殴打痕模様(ブラスト加工面)で構成されている凹部内壁面を有することを特徴とするプリント配線板である。
【0017】
本発明の第七の態様は、第四及び第六の態様における殴打痕模様が、粒体の衝突痕である不規則模様の凹凸面の模様(ざらつき、鮫肌、そぞう)であることを特徴とするプリント配線板である。
【0018】
本発明の第八の態様は、第一から第七の態様におけるプリント配線板が、両面に前記開口部を備え、片面の開口部の大きさと、他面の開口部の大きさが異なり、前記開口部の大きさが、前記開口部における開口頂部の大きさで規定されることを特徴とするプリント配線板である。
【0019】
本発明の第九の態様は、第一から第八の態様におけるプリント配線板が、少なくとも片面に、2以上の開口頂部の大きさの異なる開口部を備えることを特徴とするプリント配線板である。
【0020】
本発明の第十の態様は、第一から第九の態様における開口部が、逆円錐台状凹部形態である場合、前記開口頂部径の大きさが、前記スルーホールの直径より大きく、前記直径の3倍以下で、前記開口底部径の大きさが、前記スルーホールの直径以上、前記直径の3倍未満で、前記逆円錐台状凹部の母線の傾きが、前記開口部の中心軸と垂直な面を基準にして反時計回りに90度を超え、180度未満で、前記逆円錐台状凹部の深さが、前記絶縁層と導体層の厚みの和以上で、前記積層板の厚みの50%(暫定値)未満であることを特徴とするプリント配線板である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、従来基材壁面とめっきの密着性により確保されていたスルーホール強度を、その形状により機械的に強度向上させることが可能となり、特に高い信頼性、強度が要求される自動車などに搭載される電子機器に適用することでその信頼性を向上することが可能となり、その工業的価値は極めて大きい。
【0022】
また、本発明においては、設定した以上の力が加わった際に意図的にスルーホールを破壊することで装置の安全性を確保する用途や、機密を含む精密機器回路のリバースエンジニアリング防止のために意図的に壊れやすくするなどの用途での利用も想定され、その工業的価値は大きい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本実施形態の代表例を示す模式図で、(a)は部分断面図、(b)は平面図である。
図2】第一の実施形態の一例を示す図で、スルーホールの中心軸と開口部の中心軸がずれている形態で、(a)は開口したスルーホールに連接する開口部の概要図(平面/断面/底面)で、(b)は開口したスルーホールを包含する開口部の概要図(平面/断面/底面)である。
図3】開口部の形態を示す断面図で、(a)は逆円錐台状凹部、(b)は円柱体状凹部である。
図4】第二の実施形態の一例を示す図で、スルーホールの中心軸と開口部の中心軸が同一で、両面に開口部を有する形態で、(a)は両面にスルーホールの直径より大きく、スルーホールを包含する開口部を備える開口部の概要図(平面/断面/底面)で、(b)はスルーホールの直径と同一の大きさの開口部を備える開口部の概要図(平面/断面/底面)である。
図5】第三の実施形態の一例を示す図、スルーホールの中心軸と開口部の中心軸が同一で、片面若しくは両面に開口部を有する形態で、(a)は片面にスルーホールの直径より大きく、スルーホールを包含する開口部の概要図(平面/断面/底面)で、(b)は両面に大きさの異なる開口部の概要図(平面/断面/底面)である。
図6】実施例1に係る図2(a)に示す開口部形態における中心軸ずれによるスルーホール強度挙動を示す図である。
図7】実施例2に係る片面に開口部を備える形態が、スルーホール強度に及ぼす影響を示す図である。
図8】実施例3に係る両面に開口部を備える形態がスルーホール強度に及ぼす影響を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の実施形態の代表例を図1に示す。(a)はプリント配線板の部分断面図、(b)は平面図である。
導体層3と絶縁層2から構成されるプリント配線板1に設けられたスルーホール(TH)4と、その片面側に設けられた、スルーホールの中心軸XTHから、水平距離dだけずれた中心軸Xの逆円錐台状凹部の開口部Aが備えられている。
図1において、1はプリント配線板、2は絶縁層、3は導体層、4はスルーホール、5はランド、Aは開口部、XTHはスルーホールの中心軸、Xは開口部Aの中心軸、dは中心軸のずれ量である。
【0025】
以下、本発明の実施形態の概要と、具体的な詳細を示す。
本発明では、その実施形態において、幾つかの重要事項によって成り立っている。
先ず、第一に、スルーホールと、開口したスルーホールと連接、又は開口したスルーホールを包含する本実施形態における開口部の中心軸が「ずれ」て存在する点である。これは図1で示されるように、開口部の中心軸Xが、スルーホールの中心軸XTHに対して距離dの間隔で以て、ずれて設定されていることである。この「ずれ」は、プリント配線板との接触面積を増やして引き抜き抵抗を増加させる。次に、所定形態の開口部を設けることで、プリント配線板の表面に形成されたランドによる引き抜き抵抗が増すなどの影響によりスルーホール強度の向上が達成される。
【0026】
この「ずれ」の量(「ずれ量」)を、本発明では下記(2)式で規定している「ずれ率α」で評価している。その範囲は、10%~100%で、開口部形態や中心軸挙動などにより変化するが、好ましくは10%~80%、より好ましくは10%~60%の範囲で、満足すべきスルーホール強度が得られている。
【0027】
【数2】
【0028】
第二に、スルーホールのプリント配線板表面近傍に設けられ、スルーホールと連接又は包含する開口部の形態が寄与するスルーホール強度の向上が挙げられる。
即ち、開口部の凹部形態は、逆錐台状形態や、柱体状形態、特には、得られる効果や生産性、信頼性などの観点から、逆円錐台状凹部形態や円柱体状凹部形態が好ましく、この開口部のプリント配線板への形成後は、その配線板表面に「ランド」として存在し、配線の起点や連結点の役割を担うことができる。
その大きさは、プリント配線板のスペックにより適宜設定されるものであるが、下記に示すように、その形態毎による範囲が望ましい。
【0029】
第三の特徴として、この開口部の凹部内壁面が、殴打痕による不規則模様を呈している点にある。より望ましくは、粉体の衝突痕模様の不規則模様が挙げられる。この模様は、砂粒(サンド)を対象物表面に打ち付ける「サンドブラスト工法」で形成可能である。
この殴打痕で形成される不規則模様は、粉体の衝突痕模様の場合では、衝突させる粉体の性質(硬さ、粒径、密度、成分組成など)や、衝突速度、衝突密度(単位面積当りの衝突する粉体数など)、衝突角度などで示される衝突条件や、開口部の内壁面特性(物質、表面粗度、硬さ)などを考慮して適正な不規則模様の形成条件を見出して行われるものである。
【0030】
以上の3つの特徴は、各々スルーホール強度の挙動に対する影響を有している。この3つの特徴を全て備えることで、非常に満足すべき効果が得られるが、少なくとも1つの特徴を備えることでも十分な効果が得られ、望ましくは2つ以上の特徴を備えることが望ましい。
【0031】
以下、個々の実施形態の主な例にについて詳細を示す。
図2図3に代表例を示す本発明の第一の実施形態にかかるプリント配線板は、絶縁層と導体層の積層板の両面に開口されたスルーホール4を備えるプリント配線板であって、そのスルーホールの片面の開口箇所に設けられた開口部A1が、円柱体状凹部形態(図2(a)参照)、若しくは逆円錐台状凹部形態(図2(b)参照)で、その開口部A1における開口頂部径φが、そのスルーホール4の直径以上で、その開口部A1における開口部中心軸XA1が、そのスルーホールの中心軸XTHに対して「ずれ」て設けられていることを特徴とするプリント配線板で、そのスルーホールの開口部A1はドリルによるストレートな穴のスルーホール4に加え、片面側からスルーホールの中心軸XTHとは、ずれた中心軸XA1を有する殴打痕による不規則模様Iの内壁面、特には、サンドブラスト工法による粉体の衝突痕模様の内壁面を持つ凹形状の開口部をスルーホールの開口と連接、或いは包含することで形成されたランド(図1、符号5参照)を備えていることを特徴とするものである。
【0032】
本実施形態の特徴をなす開口部A1の形態は、スルーホールの中心軸XTHと、開口部A1の中心軸XA1がずれている点にある。そのずれ率は、スルーホールの中心軸からスル-ホール径の10%以上から、60%以下が好ましい。10%未満では、その効果が弱く、60%を超えては、その効果が頭打ちとなるために限定したものである。
【0033】
又、第二の特徴として、凹形状の開口部の内壁面が、殴打痕による不規則模様I、特には、サンドブラスト工法による粉体の衝突痕模様の内壁面を持っている点にある。これは、内壁面に設けられた殴打痕で形成された不規則模様Iが、スルーホールや開口部に充填された導体に対するアンカー効果を示すことで、スルーホール強度を高めている。
【0034】
更に、その開口部が逆円錐台状凹部形態の場合には、図3(a)に示すように開口頂部Aの大きさ(開口頂部径φ)が、スルーホールの直径φTHより大きく、その直径の3倍以下で、開口底部Aの大きさ(開口底部径φ)が、スルーホールの直径φTH以上、直径の3倍未満で、逆円錐台状凹部の母線の傾きθが、開口部の中心軸と垂直な面を基準にして時計回りに90度を超え、180度未満で、逆円錐台状凹部の深さhが、前記絶縁層と導体層の厚みの和以上で、積層板の厚みの50%(暫定値)未満であることが望ましい。
【0035】
又、図3(b)に示す円柱体状凹部形態の場合には、開口頂部Aの大きさ(開口頂部径φ)が、スルーホールの直径φTH以上、その直径の3倍以下で、開口底部Aの大きさ(φ)が、スルーホールの直径φTH以上、直径の3倍未満で、円柱体状凹部の深さhが、前記絶縁層と導体層の厚みの和以上で、積層板の厚みの50%(暫定値)未満であることが望ましい。
さらに、逆円錐台状凹部、及び円柱体状凹部形態の両者共に、その頂部の形状は、円に限らず、長円、楕円形状でも良く、その錐台、柱体状凹部形態も採用できる。
なお、これら凹部形態の形状やサイズなどの属性は、本発明の実施形態において共通している。
【0036】
図4(a)、(b)に代表例を示す第二の実施形態に係るプリント配線板は、絶縁層と導体層の積層板の両面に開口されたスルーホールを備えるプリント配線板であって、そのスルーホールの開口箇所に設けられた開口部は、一方の面側と他方の面側で、その形状が同じであって、スルーホールと連接又は包含する凹形状ランドを形成する。さらには、その開口部の内壁面には、殴打痕による不規則模様、特にはサンドブラスト工法による粉体の衝突痕模様を備えていることを特徴とするプリント配線板である。
【0037】
本実施形態の特徴は、プリント配線板の両面に設けられる開口部の形態が同一であり、その内壁面には殴打痕による不規則模様が設けられていることで、スルーホールの引き抜き強度が、両面でほぼ変わらない、従来と比べ、より高いスルーホール強度を持つことが期待できる点にある。
【0038】
より詳細には、絶縁層と導体層の積層板の両面に開口されたスルーホールを備えるプリント配線板であって、そのスルーホールの開口箇所に設けられた開口部A2が、逆円錐台状凹部、若しくは円柱体状凹部形態で、その開口部における開口頂部径φがスルーホールの直径φTH以上の大きさで、その開口部における開口底部径φB1、φB2が、スルーホールの直径φTH以上の大きさで、その開口部における中心軸XA2が、前記スルーホールの中心軸XTHと同一に設けられ、その開口部における凹部内壁面が、殴打痕による不規則模様(ブラスト加工面)Iから構成されていることを特徴とするものである。
【0039】
本実施形態の特徴を成す開口部の形態は、スルーホール、開口部共に同じ中心軸を有し、その開口部の形態が逆円錐台状凹部形態又は円柱体状凹部形態であって、開口頂部径がスルーホールの直径以上の大きさで、開口底部径もスルーホールの直径以上の大きさを有している。
【0040】
第三の実施形態に係るプリント配線板は、図5(a)、(b)に代表例を示すように、絶縁層と導体層の積層板の両面に開口されたスルーホールを備えるプリント配線板であって、そのスルーホールの開口箇所に設けられた開口部の大きさを開口頂部径(φT1、φT2)で規定した、一方の面側の開口部の大きさ(φT1)と他方の面側の開口部の大きさ(φT2)が異なり(φT1≠φT2)、スルーホールと連接又は包含する凹形状ランドを形成する。さらには、その開口部の内壁面には、殴打痕による不規則模様、特にはサンドブラスト工法による粉体の衝突痕模様を備えていることを特徴とするプリント配線板である。
【0041】
第四の実施形態に係るプリント配線板は、絶縁層と導体層の積層板の少なくとも片面に、開口頂部の形状や大きさの異なる開口部を備えることを特徴とするもので(図示なし)、プリント配線板の位置によりに発生する応力の違いにより要求されるスルーホール強度に応じた「スルーホール」を適宜形成可能であり、プリント配線板の健全性を高めることができる。
【実施例
【0042】
上記のような本発明に係る構造により、従来ストレートなスルーホールでは内壁へのめっき強度のみで保持していた「スルーホールの強度」が、凹部形状のランドを持つ構造となることで引っ張り方向の力が加わった際に抵抗が増し、引き抜き強度を向上することができるとともに、めっき面積も増えることで引き抜き強度を向上、または低下させることができる。
以下、実施例によって、本発明をより詳細に説明する。
【0043】
本発明の実施形態に係るプリント配線板の製造方法は、両面プリント配線板を例にすると、以下の通りである。
まず、従来のプリント配線板の製造方法は、絶縁性樹脂基材に銅箔を貼り付けた、銅張り積層板を用意する。
この板に、「ドリルによる貫通穴加工」を行い、次に、その貫通穴内を洗浄後、穴壁面に導体を持たせるために、順にデスミア処理、無電解銅めっき処理、電解銅めっき処理などを行う。その後、導体のパターン形成、ソルダーレジスト形成、表面処理、外形加工などを行いプリント配線板として完成させるものである。
【0044】
その製法に対し、本発明の実施形態に係るプリント配線板の製造方法においては、図2図5の形状作製を例にすると、「ドリルによる貫通穴加工」の後に、サンドブラスト加工用のマスク形成、サンドブラスト処理による穴加工を実施後、穴内洗浄を行う工程が中間に付与され、以降は前出プロセス同様の工程によりプリント配線板として完成させる。
【0045】
本発明では、その完成したプリント配線板の「スルーホールの引き抜き強度」の測定を、「JIS C5012-1993『8.3 めっきスルーホールの引き抜き強さ』」を参考に実施した。なお、全ての実施例は、3個の供試材の試験結果の平均値を表記している。
【0046】
さらに、供試材の製造においては、プリント配線板の厚さtを1.0mm、スルーホール直径φTHを1.0mm、開口部の凹部深さhを0.2mmとし、それらを基準にサンドブラスト加工による開口部の形成を行って、指定形態の供試材を作製し、「開口部の中心軸とスルーホールの中心軸とのずれ量(中心軸ずれ)」、「開口部の大きさ」、「配線板両面における開口部形態の影響」、「開口部の内壁面に設けられる殴打痕(衝突痕)の効果」を調査した。
【実施例1】
【0047】
開口部の「中心軸ずれ」の効果を知るために、図2(a)に示す形態の開口部A1を、「開口部径」と「スルーホール直径」との比γを「γ=1.0」としたときに、「中心軸ずれ量」を変数にして供試材のプリント配線板を作製、スルーホールの引き抜き試験を行い、「引き抜き強度」を測定して「スルーホール強度(TH強度)」とした。
その結果を表1、図6に示す。
【0048】
なお、表1中の「位置関係」の項目は、平面図における「スルーホール」と「開口部」の重なり度合いにおける位置関係を示すもので、図2(a)のような部分的に両者が接する位置関係を「連接」とし、図2(b)のように、スルーホールが開口部に全て含まれる位置関係を「包含」と評価している。
【0049】
また、スルーホールの引き抜き試験は、図2に記載の通り、プリント配線板の両面で行い、水平に載置しプリント配線板の鉛直上方への引き抜き試験を「Y+」とし、鉛直下方への引き抜き試験を「Y-」として表記している。以降の実施例についても同様である。
又、実施例1では、「Y+」は、開口部A1を鉛直上方に引き抜く方向で、「Y-」は、開口部A1から鉛直下方方向に引き抜く方向である。
【0050】
【表1】
【0051】
上記表1及び図6の示す結果から、スルーホールのままの形態の従来例と比較して73Nから89Nへと20%を超えるスルーホール強度の上昇が、ずれ率0.2(20%)のずれ量で得られ、その後のずれ量の増加に対して引き抜き強度は飽和状態を示す様になっていた。
【0052】
又、両引き抜き方向(「Y-」、「Y+」)共に、従来例より向上した数値を示している。注目すべきは、開口部を設けたことによる開口部形態のアンカー効果を望める「Y-」方向のスルーホール強度のみならず、形態的にはアンカー効果を望めない「Y+」方向へのスルーホール強度においても、10%程度であるが、スルーホール強度の向上が見られた。これは、スルーホール内に充填される導体層と配線板との接触面積がずれ量の増大に伴い増え、その接触面積が寄与する強度の上昇が付与されていると見られる。
【実施例2】
【0053】
開口部の「形態」に関する効果を知るために、図2(b)、図5(a)に示す形態(片面に開口部を供える形態)の開口部A1、A3を、「開口部形態:開口部径、深さ、中心軸ずれ量」を変数にして供試材のプリント配線板を作製、「スルーホール強度」を測定した。
その結果を表2(「Y-」方向)、表3(「Y+」方向)に示し、合わせて図7に示す。
【0054】
なお、スルーホールの引き抜き試験は、実施例1と同様に行い、「Y+」は、開口部A1、A3を鉛直上方に引き抜く方向で、「Y-」は、開口部A1、A3から鉛直下方方向に引き抜く方向である。
【0055】
【表2】
【0056】
【表3】
【0057】
表2より、アンカー効果の見込める引き抜き方向「Y-」(図7の黒印)では、この開口部形態では、「開口部径とスルーホール直径との比」(以下、「比γ」と表記することもある)が、1を超えて、2の間では、その「比γ」の増加に伴い、ずれ率の大小に限らず、スルーホール強度(TH強度)が増加していた。特にずれ率0%、即ち、開口部形態(開口部の内壁面の殴打痕の効果を含む)の影響が大きいことが判る。
又、この「比γ」が1に近い場合では、「ずれ率」の効果に差があまり見られないが、比γが1.4を超えてくると中心軸のずれの影響が大きくなることが判る。
【0058】
更に、引き抜き方向でのTH強度の変化は、表3、及び図7(白抜き印)から、実施例1の場合とは、その傾向が逆になり、「比γ」、「ずれ率」の大きさにかかわらず、ほぼ緩やかな減少傾向を示し、条件による違いが見られなくなる。
【実施例3】
【0059】
スルーホールの両端に開口部を供える「開口部の他の形態」に関する効果を知るために、図4(a)に示す形態(両面に開口部を供える形態)の開口部A2を、「開口部形態:開口部径、深さ、中心軸ずれ量」を変数にして供試材のプリント配線板を作製、「スルーホール強度」を測定した。
なお、スルーホールの引き抜き試験は、この図4(a)に示す形態では、「Y+」、「Y-」で、同じ形態のものを引き抜くことから、「Y-」方向に引き抜き試験を実施した。
その結果を、表4、図8に示す。
【0060】
【表4】
【0061】
表4、図8から判るように、両面に同一形態の開口部を備えた実施例3に係るプリント配線板では、スルーホールの中心軸と開口部の中心軸のずれによる効果が限定的であって、ずれ率0%、即ちスルーホールと開口部が同一の中心軸位置の場合にも、比γの増加に伴い、スルーホール強度が、比γが1.4程度まで急激に増加し、その後飽和状態を経て、比γが1.6を超えると強度は増加傾向を示すことが判る。
又、ずれ率が20%と少なめの場合には、スルーホールと開口部の中心軸のずれによる比γにおけるスルーホール強度の上昇効果が、比γにおいては遅延し、高比γ側にずれて生じることとなっている。
更に、ずれ率40%と大きくずらした場合には、比γにおいて、初期(γ=1.0)から、ずれ率0%の開口部に対して140%を超える高い強度を示し、その後は緩やかな上昇を示している。
【0062】
上記結果により、各実施例に従って製造されたプリント配線板では、従来型のストレートな穴形状を持つスルーホールと比較して、凹部内壁面に、例えばサンドブラスト工法により、その凹部形状を作製した時に形成された殴打痕模様の不規則模様が付与され、さらに適正な開口部形態を採用することで、本発明に係るスルーホールは、その引き抜き強度を調整でき、高めることも、低く抑制することも可能であり、その混在によるプリント配線板の信頼性の向上や、ダミースルーホールの採用によるプリント配線板の破損検知機構などの付与を可能とするものである。
【符号の説明】
【0063】
1 プリント配線板
2 絶縁層
3 導体層
4 スルーホール
5 ランド
A、A1、A2、A3 開口部
開口頂部
開口底部
不規則模様(殴打痕、衝突痕)
TH スルーホールの中心軸
、XA1、XA2、XA3 開口部A~A3の中心軸
d 中心軸のずれ量(距離)
α ずれ率
比γ 開口部径とスルーホール直径との比
φ、φT1、φT2 開口頂部径
φ、φB1、φB2 開口底部径
φTH スルーホール直径
h 凹部の深さ
θ 逆円錐台状凹部の母線の傾き[°]
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8