(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】加飾フィルム、加飾フィルムの製造方法及び加飾成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 3/30 20060101AFI20231003BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20231003BHJP
B29C 51/14 20060101ALI20231003BHJP
B29C 51/10 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
B32B3/30
B32B27/00 E
B29C51/14
B29C51/10
(21)【出願番号】P 2019157871
(22)【出願日】2019-08-30
【審査請求日】2022-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】390023009
【氏名又は名称】共和レザー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】加治 進太郎
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】石津 治之
(72)【発明者】
【氏名】山田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 英也
【審査官】武貞 亜弓
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/166922(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/100499(WO,A1)
【文献】特開2004-075844(JP,A)
【文献】特開2005-193484(JP,A)
【文献】特開2018-149725(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表皮層と、基材層と、接着層と、接着層保護シートと、形状保持層とを、この順で有し、
前記接着層保護シートの接着層と接する側に、接着層と嵌合した凹凸であって、凸部の高さが15μmを超える凹凸を有
する加飾フィルムであり、
前記加飾フィルムから接着層保護シートと形状保持層とを剥離した加飾積層体は、前記接着層が、流体が連通可能な、深さが15μmを超える凹部を有し、
前記接着層保護シートは、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)及びポリエチレン(PE)から選ばれる少なくとも1種の樹脂を含み、
前記接着層は、加飾積層体を成形体に貼り付けた後は、均一な厚みである、
立体形状を有する成形体の加飾に用いられる加飾フィルム。
【請求項2】
前記接着層が有する流体が連通可能な凹部は、加飾フィルムの長手方向の端部同士及び幅方向の端部同士を連通する請求項
1に記載の加飾フィルム。
【請求項3】
前記接着層保護シートの厚みが5μm~100μmである、請求項1
又は請求項2に記載の加飾フィルム。
【請求項4】
前記形状保持層は、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体及びポリ塩化ビニルから選ばれる少なくとも1種の樹脂を含む、請求項1~請求項
3のいずれか1項に記載の加飾フィルム。
【請求項5】
前記形状保持層の厚みが100μm~500μmである、請求項1~請求項
4のいずれか1項に記載の加飾フィルム。
【請求項6】
加熱成形可能である、請求項1~請求項
5のいずれか1項に記載の加飾フィルム。
【請求項7】
フッ素樹脂を含む表皮層を準備する工程、
ポリ塩化ビニル樹脂を含有する樹脂組成物を用いてポリ塩化ビニル樹脂を含有する基材層を形成する工程、
前記基材層の一方の面に、フッ素樹脂を含む表皮層を積層する工程、
前記基材層の、前記表皮層を有する側とは反対側の面に接着層を形成する工程、
ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)及びポリエチレン(PE)から選ばれる少なくとも1種の樹脂を含む樹脂シートにエンボス加工を施し、前記接着層に嵌合する凹凸を備えた接着層保護シートを形成する工程、
得られた接着層保護シートの凹凸を形成した面を前記接着層に接触させて、前記接着層保護シートにより前記接着層を被覆
して、前記接着層に、流体が連通可能な、深さが15μmを超える凹部を形成する工程、
アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体及びポリ塩化ビニル樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物を用いて、形状保持層を形成する工程、及び、
得られた形状保持層を、前記接着層保護シートの接着層側とは反対側に、接着剤を介して貼り合わせる工程、を含む加飾フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記基材層の一方の面に、フッ素樹脂を含む表皮層を積層する工程は、前記表皮層側に、絞ロールを接触させてラミネートエンボス加工を施し、前記表皮層の前記基材層側とは反対側の面に凹凸模様を形成する工程を含む請求項
7に記載の加飾フィルムの製造方法。
【請求項9】
前記基材層と前記接着層との間に、プライマー層を形成する工程をさらに含む、請求項
7又は請求項
8に記載の加飾フィルムの製造方法。
【請求項10】
請求項1~請求項
6のいずれか1項に記載の加飾フィルムを、加飾フィルムを貼付する成形体の形状に適合する形状に真空成形法により予備成形する工程、
前記予備成形した加飾フィルムの接着層保護シートと形状保持層とを剥離する工程、及び、
前記加飾フィルムから接着層保護シートと形状保持層とを剥離した加飾積層体を、前記加飾積層体の接着層を介して、立体形状を有する成形体の表面に貼り付け
、前記接着層の厚みを均一にする工程、を有する加飾成形体の製造方法。
【請求項11】
前記加飾積層体を、前記加飾積層体の接着層を介して、立体形状を有する成形体の表面に貼り付ける工程は、接着層の成形体と接触する側に設けられた接着層保護シートにより形成された凹部の形状が維持される間に行なわれる請求項
10に記載の加飾成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、加飾フィルム、加飾フィルムの製造方法、加飾成形体及び加飾成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両の外観を変えたり、車両に所望の意匠を付与したりするための加飾フィルムが知られている。加飾フィルムを、自動車のルーフ、ボディ側面などに貼り付けることで、塗装などを施すことなく、容易に意匠を付与することができ、車両外観の変更も容易に行なうことができるため注目されている。
車両の外装用加飾フィルムは種々提案され、市販品も存在する。しかし、車両の外装用加飾フィルムの殆どは可撓性の加飾フィルムを車両の形状に追従させながら貼り付けるフィルムであり、このようなフィルムを車両の立体形状に適合させ、外観を損なわないように貼り付けるには熟練を要していた。
【0003】
そこで、立体形状を有する車両外装への貼り付け性を向上させる目的で、剥離層と、粘着層と、表皮層とを有し、前記剥離層が形状保持層を備える加飾フィルムが提案されている(特許文献1及び特許文献2参照)。加飾フィルムの剥離層が形状保持層を備えることで、予め被着体の立体形状に合わせて加飾フィルムを予備成形することができ、予備成形された加飾フィルムは、平面状の加飾フィルムに比較して、被着体の表面の凹凸に対し、位置合わせが容易となるとされている。
予備成形が可能な加飾フィルムは、被着体に貼り付ける際に、予備成形し、トリミングを行い、加飾フィルムから剥離層を剥離して被着体に貼り付ける。一般に加飾フィルムを被着体に貼り付ける際には、被着体への貼り付け位置の修正を容易にする目的で、被着体表面及び加飾フィルムの粘着層を有する側の面の少なくともいずれかに水を吹き付けることが行なわれる。
【0004】
剥離層が剥離され、水を吹き付けられた加飾フィルムを被着体の表面に配置して位置合わせし、その後、スキージで水を押し出しながら被着体と加飾フィルムにおける粘着層とを密着させる。被着体にビード形状などの微細な凹凸がある場合、加飾フィルムと被着体の僅かな凹部との間に水が滞留し、水を完全に押し出すことが困難な場合がある。
水が被着体と加飾フィルムとの間に残存すると、経時で水の残存箇所に膨れが生じて、外観を著しく損なう懸念がある。
一方、水を吹付けないで、被着体に加飾フィルムを貼り付ける場合、一旦配置した位置から剥離し、貼り付け位置を修正するには困難であり、また、被着体と加飾フィルムとの間から空気を完全に押し出すことは、水を押し出すよりも困難となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-198900号公報
【文献】特開2016-203434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び特許文献2に記載の加飾フィルムは、剥離層に形状保持層を備え、加飾フィルムを予備成形することで被着体の立体形状により即した形状のフィルムが予め得られる。しかしながら、成形体に貼付する際に剥離層を剥離すると、形状保持層も剥離層と共に剥離され、得られたシートには剛性がなく、フィルム自体は可撓性で変形しやすいものとなる。このため、加飾フィルムを立体形状の成形体に貼り付ける際において、水の吹きつけを行なわないと、空気を残存させずに被着体に加飾フィルムを貼り付けるのは困難であり、作業性の観点からは、なお改良の余地がある。
【0007】
本発明のある実施形態の課題は、立体形状の成形体に貼り付ける際に、予備成形が可能であり、且つ、乾式にて位置精度よく被着体に容易に貼り付けが可能な加飾フィルム及び加飾フィルムの製造方法を提供することである。
また、本発明の別の実施形態の課題は、立体形状を有する成形体の表面が、加飾フィルムにより加飾された、外観が良好な加飾成形体及び加飾成形体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
課題を解決するための手段は以下の実施形態を含む。
<1> 表皮層と、基材層と、接着層と、接着層保護シートと、形状保持層とを、この順で有し、前記接着層保護シートの、接着層と接する側に、接着層と嵌合した凹凸であって、凸部の高さが15μmを超える凹凸を有する、立体形状を有する成形体の加飾に用いられる加飾フィルム。
<2> 前記加飾フィルムから接着層保護シートと形状保持層とを剥離した加飾積層体は、前記接着層が、流体が連通可能な、深さが15μmを超える凹部を有する、<1>に記載の加飾フィルム。
<3> 前記接着層が有する流体が連通可能な凹部は、加飾フィルムの長手方向の端部同士及び幅方向の端部同士を連通する<2>に記載の加飾フィルム。
<4> 前記接着層保護シートは、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)及びポリエチレン(PE)から選ばれる少なくとも1種の樹脂を含む、<1>~<3>のいずれか1つに記載の加飾フィルム。
<5> 前記接着層保護シートの厚みが5μm~100μmである、<1>~<4>のいずれか1つに記載の加飾フィルム。
<6> 前記形状保持層は、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体及びポリ塩化ビニルから選ばれる少なくとも1種の樹脂を含む、<1>~<5>のいずれか1つに記載の加飾フィルム。
<7> 前記形状保持層の厚みが100μm~500μmである、<1>~<6>のいずれか1つに記載の加飾フィルム。
<8> 加熱成形可能である<1>~<7>のいずれか1つに記載の加飾フィルム。
【0009】
<9> フッ素樹脂を含む表皮層を準備する工程、ポリ塩化ビニル樹脂を含有する樹脂組成物を用いてポリ塩化ビニル樹脂を含有する基材層を形成する工程、前記基材層の一方の面に、フッ素樹脂を含む表皮層を積層する工程、前記基材層の、前記表皮層を有する側とは反対側の面に接着層を形成する工程、樹脂シートにエンボス加工を施し、流体が連通可能な凹凸を形成して接着層保護シートを形成する工程、得られた接着層保護シートの凹凸を形成した面を前記接着層に接触させて、前記接着層保護シートにより前記接着層を被覆する工程、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体及びポリ塩化ビニル樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物を用いて、形状保持層を形成する工程、及び、得られた形状保持層を、前記接着層保護シートの接着層側とは反対側に、接着剤を介して貼り合わせる工程、を含む加飾フィルムの製造方法。
<10> 前記基材層の一方の面に、フッ素樹脂を含む表皮層を積層する工程は、前記表皮層側に、絞ロールを接触させてラミネートエンボス加工を施し、前記表皮層の前記基材層側とは反対側の面に凹凸模様を形成する工程を含む<9>に記載の加飾フィルムの製造方法。
<11> 前記基材層と前記接着層との間に、プライマー層を形成する工程をさらに含む、<9>又は<10>に記載の加飾フィルムの製造方法。
【0010】
<12> 立体形状を有する成形体と、<1>~<8>のいずれか1つに記載の加飾フィルムから接着層保護シート及び形状保持層が剥離された加飾積層体と、を有する加飾成形体。
【0011】
<13> <1>~<8>のいずれか1つに記載の加飾フィルムを、加飾フィルムを貼付する成形体の形状に適合する形状に真空成形法により予備成形する工程、前記予備成形した加飾フィルムの接着層保護シートと形状保持層とを剥離する工程、及び、接着層保護シートと形状保持層とを剥離した、前記加飾フィルム由来の加飾積層体を、前記加飾積層体の接着層を介して、立体形状を有する成形体の表面に貼り付ける工程、を有する加飾成形体の製造方法。
<14> 前記加飾フィルム由来の加飾積層体を、前記加飾積層体の接着層を介して、立体形状を有する成形体の表面に貼り付ける工程は、接着層の成形体と接触する側に設けられた接着層保護シートにより形成された凹部の形状が維持される間に行なわれる<13>に記載の加飾成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明のある実施形態によれば、立体形状の成形体に貼り付ける際に、予備成形が可能であり、且つ、乾式にて位置精度よく被着体に容易に貼り付けが可能な加飾フィルム及び加飾フィルムの製造方法を提供することができる。
また、本発明の別の実施形態によれば、立体形状を有する成形体の表面が、加飾フィルムにより加飾された、外観が良好な加飾成形体及び加飾成形体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本開示の加飾フィルムの一態様を示す概略断面図である。
【
図2】本開示の加飾成形体の一態様を示す概略断面図である。
【
図3】
図3(A)は、本開示の加飾フィルムにおける接着層保護シートに形成された凹凸の一態様である連続した海島構造の一例を示す平面図であり、
図3(B)は
図3(A)に示す凸部の部分拡大断面図である。
【
図4】
図4(A)は、本開示の加飾フィルムにおける接着層保護シートに形成された凹凸の一態様である連続した海島構造の
図3とは別の一例を示す平面図であり、
図4(B)は
図4(A)に示す凸部の部分拡大断面図である。
【
図5】
図5(A)は、比較例の加飾フィルムにおける接着層保護シートに形成された凹凸の一態様である連続した直線状の凸部の一例を示す平面図であり、
図5(B)は
図5(A)に示す凸部の部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の加飾フィルム、加飾フィルムの製造方法、加飾成形体の製造方法及び加飾成形体について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本開示の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本開示はそのような実施態様に限定されない。
なお、本開示において、数値範囲を示す「~」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
本開示に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
本開示において、組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
本開示において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0015】
本開示における「樹脂を含む層」とは、「当該層の主成分である樹脂を含んで形成された層」を指す。即ち、本開示における「樹脂を含む層」は、樹脂のみを含む樹脂層、及び、主成分である樹脂に加え、可塑剤、着色剤、紫外線吸収剤等の任意成分をさらに含む樹脂組成物により形成された層の双方を包含する意味で用いられる。
なお、本開示における「主成分である樹脂」とは、当該成分が含まれる樹脂組成物の全量に対し、60質量%以上含有される樹脂を指す。
以下、本開示では、ポリ塩化ビニル樹脂をPVC樹脂と称することがある。また、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体をABS樹脂と称することがある。
また、本開示において「立体形状を有する成形体」又は「成形体」とは、加飾前の成形体(成形体の基体)を指し、「加飾成形体」とは、本開示の加飾フィルムを用いて加飾された成形体を指す。
本開示では、以下、加飾フィルムの表皮層を有する側を表面と、接着層を有する側を裏面と、それぞれ称することがある。
加飾フィルムから接着層保護シート及び形状保持層を剥離した、被着体への貼り付けに用いる、表皮層、基材層及び接着層を有する積層体を、加飾積層体と称する。
【0016】
本開示の加飾フィルムは、表皮層と、基材層と、接着層と、接着層保護シートと、形状保持層とを、この順で有し、前記接着層保護シートの、接着層と接する側に、接着層と嵌合した凹凸であって、凸部の高さが15μmを超える凹凸を有する、加飾フィルムであり、立体形状を有する成形体の加飾に用いられる。
前記加飾シートから接着層保護シートと形状保持層とを剥離した加飾積層体は、前記接着層が、流体が連通可能な、深さが15μmを超える凹部を有する。
【0017】
本開示の加飾フィルムが有する接着層保護シートは、流体が連通可能な凹凸であって、凸部の高さが15μmを超える凹凸を接着層と密着させたことで、凹凸が接着層と嵌合している。即ち、接着層保護シートを接着層から剥離することで、接着層保護シートの凹凸に対応して、流体が連通可能な凹部が、接着層に転写される。
加飾フィルムにおいて、接着層保護シートの接着層側とは反対側に設けられた形状保持層により、加飾フィルムが立体形状を有する成形体の加飾に用いられる際に、加飾フィルムが真空成形等による予備成形時に、接着層保護シートの収縮が抑制され、設計通りの予備成形を行なうことに寄与する。さらに、加飾フィルムは、予備成形時の加圧が除かれた後においても、形状保持層の機能により、予備成形時の形状が維持されやすいと考えている。
従って、真空成形後、加飾フィルムから接着層保護シートと形状保持層とを剥離して得られる加飾積層体が有する接着層には、剥離した接着層保護シートの凸部により形成された凹部形状が維持される。
【0018】
加飾積層体を被着体である立体形状を有する成形体に貼付する場合、加飾積層体は、被着体である立体形状を有する成形体に適合する形状に予備成形がなされ、位置決めが容易である。さらに、加飾積層体における気体を連通することができる凹凸の凹部が気体の経路となって、貼付時に気体が加飾積層体の端部から速やかに排出され、気体の排出性、即ちエア抜け性が良好となり、貼り付けの際のエアの残存が抑制される。
本開示の加飾フィルムを用いることにより、加飾フィルム由来の加飾積層体を、立体形状を有する成形体へ容易に、水の吹きつけなどを必要とせず、乾式にて貼り付けても、所望されない気体の残存及び気体の残存に起因する外観の劣化が抑制され、位置精度よく被着体に容易に貼り付けが可能となる。
【0019】
なお、本開示の加飾フィルムは、水の吹きつけを行なって成形体に貼り付ける水貼りにも適用することができるのは言うまでもない。水貼りの場合、接着層に形成された連通した凹部を通って貼り付け時に水が加飾積層体の端部から速やかに排水され、貼付後の水残りが抑制される。
また、加飾積層体から気体又は水が排出された後は、加飾積層体を成形体に貼り付ける際に掛る応力により、接着層における凹部がならされて接着層は均一な厚みとなる。
本開示の加飾フィルムを用いることで、例えば、自動車などの車両の外観を容易に変更することができ、立体形状を有する各種の成形体の表面に様々な意匠が施され、外観に優れた加飾成形体を簡易に製造することが可能となる。
【0020】
以下、本開示の加飾フィルム、加飾フィルムの製造方法、加飾成形体の製造方法及び加飾成形体の好ましい実施形態を挙げて詳細に説明する。しかし、本開示は、以下の実施形態に何ら制限されない。
【0021】
<加飾フィルム>
本開示の加飾フィルムは、表皮層と、基材層と、接着層と、接着層保護シートと、形状保持層と、をこの順で有し、前記接着層保護シートの、接着層と接する側に、接着層と嵌合した凹凸であって、凸部の高さが15μmを超える凹凸を有する。
【0022】
本開示の加飾フィルムについて、
図1を参照して説明する。
図1は、本開示の加飾フィルム10の層構成の好適な一態様を示す概略断面図である。
加飾フィルム10は、一方の面に凹凸を有する表皮層(以下、適宜、表皮層と称する)12と、表皮層の凹凸を有する側とは反対側の面に設けられた基材層(以下、適宜、基材層と称する)14と、接着層18と、接着層18を被覆する接着層保護シート20と、形状保持層22と、をこの順で有する。
前記接着層保護シート20には、接着層と接する側に、接着層と嵌合した凹凸であって、凸部の高さが15μmを超える凹凸を有する。後述するように、接着層保護シートが有する凹凸が転写されて、隣接する接着層に凹部が形成され、空気、水などの流体の移動経路となる。
各層を「この順で有する」とは、それぞれの層が記載した順に存在することを意味し、必要に応じてさらに設けられる任意の層の存在を否定するものではない。
即ち、
図1では、基材層14と接着層18との間に、両者の接着性を向上させる樹脂層であるプライマー層16を有するが、前記プライマー層16は所望により設けられる任意の層である。
【0023】
図1に示す加飾フィルム10の一実施形態では、表皮層12と、基材層14と、プライマー層16と、接着層18とを順次有する積層体(加飾積層体)24に対し、接着層保護シート20と、形状保持層22とを有する構造をとる。
図1に示すように、表皮層12の基材層14側とは反対側の面には、シボ模様とも称される凹凸模様を有してもよい。
表皮層の凹凸模様を有する側は、加飾フィルム10から接着層保護シート20及び形状保持層22を剥離した加飾積層体24を後述する成形体に配置し、加飾成形体とした際に最表面に位置することから、以下、表面と称することがある。凹凸模様は、天然皮革様の凹凸模様に代表される、加飾フィルムによる成形体の表面の外観を特徴付ける模様であり、必要に応じて設けられる。
また、基材層14は、例えば、着色剤を含むことで、加飾フィルム10に任意の色相を付与することができる。このため、本開示の加飾フィルム10が適用される加飾成形体に所望の色相を容易に付与することができる。
なお、
図1及び
図2において、同一の符号を用いて示される構成要素は、同一の構成要素であることを意味する。
【0024】
以下、加飾フィルムについて、これを構成する材料とその製造方法とともに順次説明する。
【0025】
(1.表皮層)
加飾フィルムの表皮層は、樹脂により形成される。なかでも、表皮層はフッ素樹脂を含有することが好ましい。表皮層がフッ素樹脂を含むことで、加飾フィルムの耐久性が向上し、また、所望により、前記基材層側とは反対側の面に凹凸模様を形成する場合に、凹凸模様の保持性がより向上する。
【0026】
表皮層に用い得るフッ素樹脂としては、フッ素原子を含む単量体の少なくとも1種を重合成分として、重合して得られる樹脂であれば、特に制限はないが、フッ素原子を含むオレフィンを重合して得られる樹脂が好ましい。
フッ素樹脂としては、例えば、4フッ化エチレン、3フッ化塩化エチレン、フッ化ビニル、及びフッ化ビニリデンから選ばれる重合成分を含んで構成される樹脂が挙げられる。より具体的には、4フッ化エチレン樹脂、フッ化ビニル樹脂、フッ化ビニリデン樹脂などのフッ素原子を含む重合成分の単独重合体、及び前記重合成分を含む共重合体である、3フッ化塩化エチレン-フッ化ビニリデン共重合体、フッ化ビニリデン-6フッ化プロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-6フッ化プロピレン-4フッ化エチレン共重合体などが挙げられる。なかでも、3フッ化塩化エチレン-フッ化ビニリデン共重合体、フッ化ビニリデン-6フッ化プロピレン共重合体、及び、フッ化ビニリデン-6フッ化プロピレン-4フッ化エチレン共重合体からなる群より選択される少なくとも1種のフッ素樹脂を含むことが好ましい。
【0027】
表皮層がフッ素樹脂を含む場合、フッ素樹脂を1種のみを含有してもよく、2種以上を併用してもよい。
表皮層が、2種以上のフッ素樹脂を含む場合、例えば、フッ化ビニリデン樹脂、3フッ化塩化エチレン-フッ化ビニリデン共重合体、フッ化ビニリデン-6フッ化プロピレン共重合体、及び、フッ化ビニリデン-6フッ化プロピレン-4フッ化エチレン共重合体からなる群より選択される2種以上の樹脂の混合物などを用いることも好ましい態様である。
【0028】
表皮層が2種以上の樹脂を含む場合、既述のように2種以上の樹脂の混合物である態様に加え、2種以上の樹脂の積層構造の態様をとることもできる。例えば、表皮層として、最表面、即ち、成形体上に加飾フィルムを配置した場合の外側に当たる面を、フッ素樹脂を含む層とし、表皮層と、基材層との接着性をより向上させる目的で、表皮層を、フッ素樹脂を含む層と、アクリル樹脂を含む層との2層構造として、アクリル樹脂を含む層側を基材層と接する面に位置させることができる。
【0029】
表皮層は、公知のシート成形方法、例えば、Tダイなどで押し出し成形する押出し法、カレンダー法、キャスティング法等により形成してもよいし、市販のフィルムを適用して形成してもよい。
【0030】
表皮層の厚みは、強度及び凹凸模様を形成した際の凹凸模様保持性の観点から、5μm~100μmの範囲であることが好ましく、10μm~60μmの範囲がより好ましい。
ここで、表皮層の厚みとは、凹凸模様が形成された面の凸部の頂部から、表皮層の底面までの距離を指す。
表皮層の厚みは、表皮層の基材層側の面とは反対側に形成される凹凸模様の保持性の観点から、凹凸模様の凹部の最深部における底部と凸部の頂部との距離よりも大きいことが好ましい。例えば、凹部の深さが1μm以下である如き凹凸模様を形成する際には、表皮層の厚みは5μm程度とすることができ、天然皮革様の模様の如く、浅い凹部と深い凹部とを有し、深い凹部が2μm~5μmである場合には、表皮層の厚みは10μm以上であることが好ましい。
なお、表皮層が既述のように2層以上の積層構造をとる場合の表皮層の厚みは、複数の層の総厚みを指す。
本開示の加飾フィルムにおける各層の厚みは、加飾フィルムを面方向に垂直に切断した切断面を観察することで測定することができる。従って、本開示における加飾フィルムにおける各層の膜厚は、乾燥後の膜厚を指す。
【0031】
基材層の、形状保持層側の面とは反対側の面に表皮層を形成する方法は任意である。例えば、予め成形した表皮層と基材層とを接着させてもよく、表皮層を形成後、表皮層の一方の面に基材層を形成してもよい。
【0032】
また、表皮層の、基材層側の面とは反対側の面に凹凸模様を形成する方法には特に制限はなく、公知の方法を適用することができる。公知の方法としては、凹凸模様を有する離型紙上に表皮層を形成する方法、まず、表面が平滑な表皮層を形成し、その後、絞ロールを用いてエンボス加工する方法等が挙げられる。
【0033】
(2.基材層)
基材層は、樹脂により形成される。基材層は、樹脂としてPVC樹脂を含むことが好ましい。
基材層がPVC樹脂を含むことで、表皮層に係る熱応力が緩和され、表皮層に所望により形成される凹凸模様の保持性がより良好となる。
PVC樹脂としては、特に制限はなく、公知のフィルム形成性のPVC樹脂を適宜選択して使用することができる。
【0034】
基材層は、好ましい樹脂としてのPVC樹脂に加え、その他の成分を含んでもよい。基材層が含み得るその他の成分としては、着色剤、可塑剤、充填剤、滑剤、加工助剤等が挙げられる。なお、その他の成分は、基材層の熱加工性を低下させない範囲で用いることができる。
【0035】
基材層は着色剤を含むことができる。
基材層が着色剤を含むことで、加飾成形体の製造に際して、加飾積層体を貼付した領域において、被着基体である成形体が本来有する色相、意匠等が、加飾成形体の外観に影響を与えることを抑制し、加飾フィルムに由来する加飾積層体、ひいては、加飾積層体を貼り付けてなる加飾成形体に任意の色相を付与することができる。
前記表皮層が、フッ素樹脂を含み、透明性が良好である場合、基材層に着色剤を含むことで、基材層の色相が加飾フィルムの外観を特徴付けることができる。
例えば、成形体としての赤色の車両の屋根部分のみに、異なる色相である銀色の着色剤を含む基材層を有する加飾フィルムを用いて、加飾フィルムから接着層保護シートを剥離してなる加飾積層体を車両の屋根に貼り付けて加飾することで、車体が赤色で、加飾積層体を貼り付けた屋根のみが銀色の車両となり、加飾積層体を貼り付けた箇所は、成形体の本来の色相である赤色が隠蔽される。
【0036】
基材層が着色剤を含む場合の着色剤には特に制限はなく、染料、顔料などを適宜選択して使用することができる。
着色剤としては、チタン白(二酸化チタン)、亜鉛華、群青、コバルトブルー、弁柄、朱、黄鉛、チタン黄、カーボンブラック等の無機顔料、キナクリドン、パーマネントレッド4R、イソインドリノン、ハンザイエローA、フタロシアニンブルー、インダスレンブルーRS、アニリンブラック等の有機顔料又は染料、アルミニウム及び真鍮等金属の箔粉からなる群より選択される金属顔料、二酸化チタン被覆雲母及び塩基性炭酸鉛の箔粉からなる群より選択される真珠光沢(パール)顔料等が挙げられる。なかでも、耐候性及び耐久性に優れる着色剤である顔料が好ましく、成形体を効果的に隠蔽し得るという観点から、カーボンブラック、アニリンブラック、ペリレンブラック等の黒色顔料がより好ましい。
また、基材層には、必要に応じて、炭酸カルシウム、シリカ(二酸化硅素)、アルミナ(酸化アルミニウム)、硫酸バリウム等の体質顔料(充填剤)を含有してもよい。
【0037】
基材層が着色剤を含む場合、着色剤を1種のみ含んでもよく、調色などの目的で2種以上を含んでいてもよい。
基材層の形成に用いられる樹脂組成物における着色剤の含有量には特に制限はなく、加飾フィルムにおいて目的とする色相、成形体の隠蔽性などに応じて、用いる着色剤の種類、含有量などを適宜選択すればよい。
着色剤を用いる際の一般的な着色剤の含有量は、基材層を形成する樹脂組成物の全固形分中に対し、1質量%~20質量%であることが好ましく、2質量%~10質量%であることがより好ましい。なお、ここで固形分とは、基材層を形成する樹脂組成物の全成分中、溶剤を除いた成分の総量を指す。
【0038】
基材層の厚みは50μm~400μmの範囲であることが好ましく、100μm~350μmの範囲であることがより好ましい。厚みが上記範囲にあることで、加飾フィルムを真空成形法などにより予備成形する際の、加飾フィルムの溶融による破断が効果的に抑制され、さらに、被着体である成形体の隠蔽性がより良好となる。
【0039】
基材層の形成方法には特に制限はなく、公知のシート成形方法、例えば、Tダイなどで押し出し成形する押出し法、カレンダー法、キャスティング法等を適用することができる。
なかでも、カレンダー法が製造の簡易性、装置のメンテナンスが容易である点で好ましい。特に、基材層が着色剤を含有する場合、軟化した樹脂と固体状の着色剤とをカレンダーロールに供給し、シート又はフィルム状に成形することができるため、種々の着色剤を含有する基材層を簡易に製造することができる。
また、カレンダー法を適用することにより、押出し法等の成形法に比較して、着色剤の種類や添加量を変更する際に必要な装置内の清掃を、より容易に行うことができる。このため、基材層として着色剤を含む層を形成する際にカレンダー法を適用することで、所望の色相を有する様々な基材層を簡易に製造することができ、加飾フィルムの小ロット生産にも適する。
【0040】
(3.接着層)
加飾フィルムは、基材層の表皮層側とは反対側の面に、成形体との接着性を向上させるための接着層を備える。
接着層は、基材層の表皮層側とは反対側の面に、公知の接着剤及び粘着剤の少なくとも一方を付与することで形成することができる。
接着層の形成に使用される接着剤としては特に制限はなく、成形体の種類により適宜選択される。接着剤としては、例えば(1)ポリエステル系接着剤、(2)ウレタン接着剤、(3)アクリル粘着剤などが好適に使用される。
接着層の厚さは、20μm~80μmの範囲であることが好ましく、30μm~60μmの範囲であることがより好ましい。
【0041】
なお、基材層の面上に接着層を形成する場合、基材層と接着層との間に、接着性を向上させる目的で、後述するプライマー層を形成し、形成したプライマー層表面に、接着剤及び粘着剤の少なくとも一方を付与することで接着層を形成することができる。
基材層又はプライマー層上に接着層を付与する方法としては、転写法、塗布法など公知の方法をいずれも使用できる。均一な厚みの接着層を簡易に形成し得るという観点からは、転写法を用いることが好ましい。
【0042】
(4.接着層保護シート)
接着層の形成後に、接着層の表面保護を目的として、接着層表面を接着層保護シートで被覆する。
本開示の加飾フィルムの形成に用いる接着層保護シートは、流体が連通可能な凹凸であって、凸部の高さが15μmを超える凹凸を有する。接着層保護シートが前記凹凸を有することで、加飾フィルムにおいて前記接着層保護シートが有する凹凸と前記接着層とが嵌合し、前記接着層から接着層保護シートを剥離した後、接着層には前記凹凸が転写されて凹部が形成される。接着層に形成された凹部が空気などの気体、水貼り法による貼り付け時の水等の排出経路となり、貼り付け時に、空気、水などの流体が加飾積層体の端部から速やかに排出される。
【0043】
接着層保護シートに形成される凹凸は、凸部の高さが15μmを超えれば、特に制限はない。
接着層保護シートが有する凸部の高さは、接着層に形成される凹部の深さに反映される。流体の排出性の観点からは、接着層保護シートが有する凸部の高さは15μmを超え、17μm以上が好ましく、25μm以上がより好ましい。凸部の高さの上限としては、35μm以上とすることができ、40μm以下が好ましく、38μmがより好ましい。
接着層保護シートが有する凸部の幅は、流体の排出性の観点からは、100μm~200μmが好ましく、110μm~180μmがより好ましく、120μm~170μmがさらに好ましい。
接着層保護シートにおける凹凸の凸部の高さ及び幅は、加飾フィルムを面方向に垂直に切断した切断面を光学顕微鏡で観察することで測定される。
光学顕微鏡の視野角中の凹部の高さを5箇所測定した算術平均値を、接着層保護シートの凹部の高さとしている。
【0044】
接着層保護シートが有する凹凸は、流体の排出性の観点からは、加飾フィルムの端部に達することが好ましく、加飾フィルムの長手方向及び幅方向の少なくともいずれかの端部同士を連通することが好ましく、加飾フィルムの長手方向の端部同士及び幅方向の端部同士を連通することがより好ましい。
この態様によれば、接着層に形成された流体が連通可能な、深さが15μmを超える凹部が、好ましくは、加飾フィルムの長手方向及び幅方向の少なくともいずれかの端部同士を連通することとなり、より好ましくは、加飾フィルムの長手方向の端部同士及び幅方向の端部同士を連通することとなる。
【0045】
以下、図面を参照して接着層保護シートが有する凹凸の形状の例について述べる。
図3(A)は、本開示の加飾フィルムにおける接着層保護シートに形成された凹凸の一態様である連続した海島構造の一例を示す平面図であり、凸部が海部となり、加飾フィルムの長手方向の端部及び幅方向の端部まで連通している。
図3(B)は
図3(A)に示す凸部の部分拡大断面図である。凹部は、断面が半円形を示している。凸部の高さは、
図3(B)に示す例では、25μm~38μmの範囲である。
図4(A)は、本開示の加飾フィルムにおける接着層保護シートに形成された凹凸の一態様である連続した海島構造の
図3とは別の一例を示す平面図であり、平面視では、
図3(A)と同様の海島構造をなし、凸部が海部として、加飾フィルムの長手方向の端部及び幅方向の端部まで連通している。
図4(B)は
図4(A)に示す凸部の部分拡大断面図であり、
図3(B)に示す凹部よりも高さが低く、凸部の高さは、
図4(B)に示す例では、17μm~35μmの範囲である。
【0046】
接着層保護シートの素材としては、予備成形性、凸部の形状保持性の観点から、樹脂フィルム、樹脂をラミネートした紙などが好ましく、予備成形性がより良好であるという観点からは、樹脂フィルムがより好ましい。
樹脂フィルムとしては、PPフィルム、PETフィルムなどが挙げられ、PPフィルムが好ましい。
接着層保護シートの厚みには特に制限はないが、予備成形性が良好であるという観点からは、5μm~100μmの範囲であることが好ましく、40μm~70μmの範囲であることがより好ましく、45μm~60μmの範囲であることがより好ましい。
接着層保護シートは、後述する加飾フィルムの予備成形後、成形体に適用する際に剥離される。
【0047】
(5.形状保持層)
既述の接着層保護シートの、接着層側とは反対側の面には、形状保持層を有する。形状保持層は樹脂により形成される。形状保持層はABS樹脂及びPVC樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂を含有することが好ましい。
形状保持層は、予備成形時の形状保持層としての機能を有する。
即ち、加飾フィルムが形状保持層を有することで、加飾フィルムを80℃~150℃の温度条件で、真空成形法などの手段により予備成形し、その後、常温(25℃)まで降温した場合でも、加飾フィルム全体は、形状保持層の機能に起因して予備成形された形状が保持される。
加熱を伴う予備成形後において、加飾フィルムが予備成形された形状を保持する機能を与える層を本開示における形状保持層と称する。
ここで、「形状が保持される」とは、予備成形した50cm四方の加飾フィルムを、正方形の隅部の1点で固定した場合、固定されていない部分が重力により固定点から変形して垂れ下がるなどの変形を起こさないことを意味する。
このような機能を有するためには、形状保持層は、厚さが100μm~500μmの範囲であることが好ましく、200μm~400μmの範囲であることがより好ましい。
【0048】
本開示の加飾フィルムは、表皮層及び基材層に加え、さらに形状保持層を有する。基材層に含まれる樹脂、基材層の厚みなどを選択することで、基材層に形状保持機能を与えることも可能ではあるが、基材層に形状保持の機能を与える場合、基材層の厚み及び剛性を所定の範囲に維持する必要が生じる。しかしながら、厚みを厚くしたり、剛性を付与したりするためには基材層の配合に制限が生じ、顔料の分散性などに起因する外観品質等に影響を与えることがある。
しかし、本開示の加飾フィルムは、基材層とは別に、基材層の表皮層側とは反対の側に形状保持層を設けることで、基材層に起因する外観品質を確保しながら、加飾フィルムに形状保持の機能を与えることができる。このため、本開示の加飾フィルムでは、基材層とは別層として、形状保持層を備える。さらに、接着層保護シートと隣接して形状保持層を有することで、接着層保護シートに形成された凹凸の形状をより効果的に維持することができるという利点をも有する。
従って、本開示の加飾フィルムは、加熱成形可能であり、予備成形性に優れる。
【0049】
形状保持層がABS樹脂及びPVC樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂を含むことで、加飾フィルムを、真空成形法等により予備成形した場合、積層される接着層保護シートの収縮が抑制され、且つ、予備成形された形状の維持性が良好となり、さらに、予備成形時における局所的な延伸部分の、延伸による破断等が効果的に抑制される。
ABS樹脂及びPVC樹脂は、それぞれ単独で用いてもよく、AS樹脂、ポリカーボネート(PC)、ポリプロピレン(PP)等と混合して用いてもよい。また、ABS樹脂とPVC樹脂とを併用してもよい。
なかでも、樹脂として、ABS樹脂又はPVC樹脂を単独で用いるか、PCとABS樹脂との混合物(PC/ABS)を用いることが好ましく、樹脂として、ABS樹脂又はPVC樹脂を単独で用いることがより好ましい。
ABS樹脂は、1種のみを用いてもよく、互いに共重合比が異なる2種以上のABS樹脂を併用してもよい。
PVC樹脂としては、特に制限はなく、公知のフィルム形成性のPVC樹脂を適宜選択して使用することができる。
【0050】
形状保持層は、ABS樹脂及びPVC樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂に加え、効果を損なわない限り、必要に応じてその他の成分を含んでもよい。形状保持層が含み得るその他の成分としては、可塑剤、充填剤、滑剤、加工助剤等が挙げられる。
【0051】
形状保持層の厚みは100μm~500μmの範囲であることが好ましく、200μm~400μmの範囲であることがより好ましい。厚みが上記範囲にあることで、加飾フィルムを予備成形した際の、形状保持性がより良好となる。
【0052】
(6.その他の層)
加飾フィルムは、既述の表皮層、基材層、接着層、接着層保護シート及び形状保持層に加え、効果を損なわない限り、その他の層をさらに有していてもよい。
その他の層としては、プライマー層、意匠層等が挙げられる。
【0053】
(6-1.プライマー層)
加飾フィルムは、基材層に隣接して設けられる接着層と基材層との密着性向上を目的として、さらにプライマー層としての樹脂層を基材層と接着層との間に有していてもよい。
プライマー層は塗布法により形成することができる。即ち、プライマー層を形成するための樹脂を適切な溶媒で溶解し、基材層の、表皮側とは反対側の面に塗布し、乾燥することでプライマー層を形成することができる。
プライマー層に含まれる樹脂は、基材層に含まれる熱可塑性樹脂、及び、隣接して設けられる接着層に含まれる接着剤等との親和性が良好であるという観点から、ポリエステル樹脂などの樹脂を用いて形成されることが好ましい。
プライマー層としての樹脂層の塗布量には特に制限はなく、目的に応じて適宜選択される。一般的には、接着性向上効果の観点から、1g/m2~5g/m2の範囲であることが好ましく、2g/m2~3g/m2の範囲であることがさらに好ましい。
【0054】
(6-2.意匠層)
本開示の加飾フィルムは、表皮層と基材層との間にさらに意匠層を有してもよい。意匠層は加飾フィルムに意匠を付与する層であり、印刷により形成される印刷層であってもよく、着色剤を含む着色層であってもよく、これらを併用した層であってもよい。
本開示の加飾フィルムに意匠層を設けることで、所望により加飾フィルムの用途に応じた種々の意匠を成形体に付与することができ、成形体に意匠性に優れた外観を付与することができる。
【0055】
意匠層は、例えば、表皮層又は基材層の面上に印刷法により形成された印刷層であってもよい。印刷層としては、樹脂を含む印刷インクにより公知の印刷法により形成された層が挙げられる。樹脂を含む印刷インクとしては、クリアな印刷画像の形成が可能であるという観点から、アクリル樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体等を含む印刷インクが好ましい。
印刷方法には特に制限はなく、グラビア印刷(凹版印刷)、凸版印刷、オフセット印刷、インクジェット印刷、スクリーン印刷など、任意の印刷方法を適用することができる。
意匠層としては、アクリル樹脂又は塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体から選ばれる少なくとも1種を含む印刷インク層が好ましい。
【0056】
意匠層は、着色層であってもよい。着色層としては、任意の着色剤を含有する樹脂組成物により形成された層が挙げられる。例えば、アクリル樹脂に、既述の基材層に用い得る着色剤として挙げたものから選択した着色剤を含有させた樹脂組成物を、カレンダー法、押出し法、キャスティング法などによりフィルム状に成形した意匠層等が挙げられる。
【0057】
意匠層の形成に用い得るアクリル樹脂としては、具体的には、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)に代表されるメタクリル酸又はメタクリル酸エステルの重合体或いは共重合体、メタクリル酸アルキルとアクリル酸アルキルとスチレンの共重合体などが挙げられ、成形性の観点からは、メタクリル酸アルキルとアクリル酸アルキルとスチレンの共重合体及びメタクリル酸メチルとアクリル酸メチルの共重合体の混合物が好ましい。
【0058】
アクリル樹脂は、耐候性、及び延伸性に優れ、隣接して設けられる他の樹脂層との密着性が良好である。
また、アクリル樹脂は透明性が良好であることから、アクリル樹脂に着色剤等を添加したり、金属光沢を有する顔料、パール顔料等の光散乱性の着色剤を添加したりすることにより、加飾フィルムに所望の良好な色相、光沢に優れた意匠等を任意に付与することができる。
また、アクリル樹脂を含む印刷インクを用いて印刷インク層を形成する場合、文字、画像等を印刷することで、加飾フィルムにさらに複雑な任意の意匠を付与することができる。
【0059】
本開示の加飾フィルムが意匠層を有する場合の意匠層の厚みは1μm~15μmの範囲であることが好ましく、2μm~10μmの範囲であることがより好ましく、2μm~5μmの範囲であることがさらに好ましい。厚みが上記範囲にあることで、所望の意匠を加飾フィルムに付与することができ、且つ、加飾フィルムを予備成形する際における、表皮層と基材層との良好な相関性が維持され、表皮層の凹凸模様の保持性がより良好となる。
【0060】
本開示の加飾フィルムの好ましい態様としては、表皮層として、一方の面に凹凸を有し、且つ、フッ素樹脂を含有する耐熱性が良好な層を有する態様が挙げられる。フッ素樹脂を含有する表皮層においては、所望により一方の面に形成された凹凸模様が加熱により変形し難い。さらに、表皮層は、好ましくは、PVC樹脂を含む基材層と積層される。また、接着層保護シートは、予備成形に好適なPP、PET、PEN及びPEから選ばれる少なくとも1種の樹脂を含み、接着層保護シートに隣接して、好ましくは、ABS樹脂及びPVC樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂を含む形状保持層を有する。これらの層を有する加飾フィルムは、真空成形法等により予備成形した場合、形状保持性がより良好となる。
好ましい態様では、基材層と隣接するPVC樹脂を含む基材層とが、いずれも柔軟で変形しやすく、さらに、PVC樹脂を含む基材層に及び接着層保護シートに隣接して形成されるABS樹脂及びPVC樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂を含む形状保持層を有するため、これらの層に起因して、真空成形時における接着層保護シートの収縮が抑制され、設計通りの予備成形を行なうことかできる。さらに予備成形時の加圧が除かれた後においても、接着層保護シートが有する凹凸により形成された接着層の凹部の形状が維持され易い。従って、真空成形後、接着層保護シートを剥離して、加飾積層体とした後も、表皮層、基材層、及び接着層を有する加飾積層体は、貼付しようとする被着体である立体形状を有する成形体に適合する形状がより良好に維持され、且つ、接着層には流体の排出経路となる連通された凹部を有するため、容易に成形体に貼付することができる。さらに、喩え成形体に僅かな凹凸を有する場合であっても、貼付時に、空気、水などの流体は接着層の凹部を通って端部から排出やすいために、エア残り、水残りなどの外観に影響を与える故障の発生が抑制される。
【0061】
本開示の加飾フィルムは、最表面に、透明性、及び耐久性に優れ、加熱時の凹凸模様の維持性が良好な表皮層を有しており、且つ、熱加工性に優れた基材層、接着層保護シート及び予備成形時の形状保持性に優れた形状保持層を有している。このため、加飾フィルムを、立体形状を有する成形体の凹凸に適合した形状に予備成形した後、接着層保護シートと形状保持層とを剥離して得られる加飾積層体は、表皮層の凹凸模様及び接着層が有する凹部の保持性が良好であり、ある程度の柔軟性を有しながら、予備成形された形状の保持性が良好であり、貼り付け時の流体残りが抑制される。従って、立体形状を有する成形体の表面に予備成形された加飾積層体を貼り付ける場合に、容易に位置決めができ、エア残りなどの故障の発生が抑制され、加飾積層体により成形体に任意の意匠を簡易に形成することができる。
加飾積層体を表面に貼り付けて得られた加飾成形体は、加飾フィルムの意匠性が反映されて外観に優れ、耐溶剤性等の耐久性にも優れたものとなる。
従って、本開示の加飾フィルムは、凹凸形状を有する成形体の表面に意匠性を付与する加飾フィルムとして、種々の用途に適用し得る。
【0062】
<加飾フィルムの製造方法>
既述の本開示の加飾フィルムの製造方法には特に制限はなく、公知の製造方法を適宜採用することができる。
なかでも、後述の本開示の加飾フィルムの製造方法により製造されることが好ましい。
【0063】
本開示の加飾フィルムの製造方法は、フッ素樹脂を含む表皮層を準備する工程(工程(I))、ポリ塩化ビニル樹脂を含有する樹脂組成物を用いてポリ塩化ビニル樹脂を含有する基材層を形成する工程(工程(II))、前記基材層の一方の面に、フッ素樹脂を含む表皮層を積層する工程(工程(III))、前記基材層の、前記表皮層を有する側とは反対側の面に接着層を形成する工程(工程(IV))、樹脂シートにエンボス加工を施し、接着層と嵌合する凹凸を備えた接着層保護シートを形成する工程(工程(V))、得られた接着層保護シートの凹凸を形成した面を前記接着層に接触させて、前記接着層保護シートにより前記接着層を被覆する工程(工程(VI))、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体及びポリ塩化ビニル樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物を用いて、形状保持層を形成する工程(工程(VII))、及び、得られた形状保持層を、前記接着層保護シートの接着層側とは反対側に、接着剤を介して貼り合わせる工程(工程(VIII))、を含む。
【0064】
本開示の加飾フィルムの製造方法は、上記工程(I)~工程(VIII)に加え、他の工程を含むことができる。
例えば、工程(III)において、基材層と表皮層とを積層する際に、前記表皮層側に、絞ロールを接触させてラミネートエンボス加工を施し、前記表皮層の前記基材層側とは反対側の面に凹凸模様を形成する工程(工程(III-2))をさらに含むことができる。
また、前記基材層と前記接着層との間に、プライマー層を形成する工程(工程(IX))をさらに含むことができる。
【0065】
(工程(I))
工程(I)では、フッ素樹脂を含む表皮層を準備する。表皮層を準備することは、フッ素樹脂を含む表皮層を形成すること、及び、市販の表皮層を調達することの双方を含む。
工程(I)では、フッ素樹脂を含む表皮層を、カレンダー法、押出し法、キャスティング法などにより形成することができる。
積層構造を有する表皮層を形成する場合には、2種以上の樹脂を共押出し法等により、積層フィルムを成形することができる。
また、工程(I)は、表皮層として、加飾フィルムの説明において既述した如き、フッ素樹脂を含む市販のフィルムを準備することを含む。
【0066】
(工程(II))
工程(II)では、ポリ塩化ビニル樹脂を含有する樹脂組成物を用いてカレンダー法、押出し法、キャスティング法等の公知の方法によりポリ塩化ビニル樹脂を含有する基材層を形成する。なかでも、加工性の観点からカレンダー法により基材層を形成することが好ましい。基材層をカレンダー法により形成することで、例えば、押出し法等に比較して、簡易に、均一な膜厚の基材層を形成することができる。また、基材層に着色剤を含有させる際にも、カレンダー法を適用することで、基材層に使用する着色剤の種類や添加量を変更する際に必要な装置内の清掃を容易に行うことができる。
PVC樹脂と着色剤としての顔料を用いて基材層を形成する方法の一例としては、PVC樹脂に対して、顔料を所定量投入し、熱ミキシングロールで加熱混合することにより着色されたPVC樹脂を得ること、得られた着色されたPVC樹脂を用いて基材層をカレンダー法により形成すること、を含む方法が挙げられる。着色剤を用いない場合には、顔料の投入工程を省いて同様にして行なうことができる。
なお、前記工程(I)と本工程(II)はいずれを先に行なってもよく、それぞれの工程は並行して実施することができる。
【0067】
(工程(III))
工程(III)では、工程(II)で得られた基材層の一方の面に、工程(I)で準備した表皮層を積層する。
工程(III)では、表皮層の一方の面上に、基材層を積層し、その後、積層体に対し、一対のロールを用いてラミネート加工を行い、表皮層と基材層とを加熱加圧接着することができる。
ラミネート加工における加熱温度は、100℃~190℃が好適である。本開示において、ラミネート加工の加熱温度は、ロールの表面温度を指す。
本開示における、ラミネート加工とは、一対のロールを用いて、複数の層の積層体を加熱圧着し、複数の樹脂含有フィルムを熱圧着により貼り合わせる加工を指す。
なお、工程(III)では、表皮層と基材層との積層に加え、前記表皮層側に、絞ロールを用いてラミネートエンボス加工を施し、前記表皮層の基材層側とは反対側の面に凹凸模様を形成する工程(工程(III-2))を行うことができる。
工程(III-2)を行うことにより、表皮層と基材層との積層と、表皮層の一方の面への凹凸模様の形成とを同時に行なうことができる。即ち、表皮層の一方の面上に、基材層を積層し、その後、積層体に対し、絞ロールを用いてラミネートエンボスを行い、各層の加熱加圧接着と、表皮層の面上における所望の凹凸模様の形成を同時に行なうことができる。
本開示の工程(III-2)における、ラミネートエンボスとは、加熱圧着を行う一対のエンボスロールの一方に絞ロールを用いてエンボスし、複数の樹脂含有フィルムを熱圧着により貼り合わせ、且つ、樹脂含有フィルムの絞ロールと接する面に絞ロールによる絞押しを行って表面に凹凸を形成することを指す。工程(III-2)では、表皮層側に絞ロール、基材層側に平滑なロールが位置する配置にてラミネートエンボスする。この方法によれば、2層の積層と表皮層における凹凸模様の形成が逐次又は同時に一工程で実施できる。
【0068】
表皮層の面上に、所望により予め天然皮革様の凹凸模様などの任意の凹凸模様を形成した絞ロールを用いてラミネートエンボスすることにより、基材層との貼り合わせと表皮層の絞押し(凹凸形成)とが一工程で行われ、形成された加飾フィルムにおいて表皮層の最表面に天然皮革様の凹凸など、任意の意匠の凹凸模様が転写される。
絞ロールに形成する凹凸模様の形状を選択することで、加飾フィルムの表面に、天然皮革様の模様のみならず、任意の凹凸形状を有する模様を形成することができる。
ラミネートエンボスにおける加熱温度は、100℃~190℃が好適である。
【0069】
なお、表皮層の一方の面に凹凸を形成する方法はこれに限定されず、例えば、表皮層を塗布法で形成する場合、予め凹凸が形成された離型紙上に表皮層形成用組成物を付与して、離型紙上の凹凸を表皮層に転写することで形成する方法をとることもできる。
【0070】
(工程(IV))
工程(IV)では、工程(II)で形成された基材層の、表皮層を有する側とは反対側の面に接着層を形成する。
接着層は、基材層の表皮層を有する側とは反対側の面に、公知の接着剤及び粘着剤の少なくとも一方を付与することで形成することができる。
接着層の形成に使用される接着剤としては特に制限はなく、成形体の種類により適宜選択される。接着剤としては、例えば(1)ポリエステル系接着剤、(2)ウレタン接着剤、(3)アクリル粘着剤などが好適に使用される。
接着層の厚さは、20μm~80μmの範囲であることが好ましい。
【0071】
(工程(V))
工程(V)では、接着層保護シートの基材となる樹脂シートにエンボス加工を施し、前記接着層に嵌合する凹凸を備えた接着層保護シートを形成する。接着層保護シートに形成された凹凸が接着層と嵌合することにより、接着層に流体が連通可能な凹凸が形成される。
工程(V)で樹脂シートに形成される、接着層と嵌合する凹凸は、凹部の深さが15μmを超える凹凸であることが好ましい。接着層保護シートが、深さが15μmを超える凹部を有することにより、接着層保護シートと嵌合した接着層には、高さ15μmを超える凸部を形成することができる。
樹脂シートとしては、凹凸形状の形成性、形成された凹凸形状の保持性、及び、加飾フィルムの予備成形性がより良好であるという観点から、樹脂フィルムが好ましく用いられる。
樹脂フィルムとしては、PPフィルム、PETフィルムなどが挙げられ、PPフィルムが好ましい。
接着層保護シートの厚みには特に制限はないが、予備成形性が良好であるという観点からは、5μm~100μmの範囲であることが好ましく、40μm~70μmの範囲であることがより好ましく、45μm~60μmの範囲であることがさらに好ましい。
【0072】
樹脂フィルムに凹凸を形成して接着層保護シートを得る方法としては、公知の方法を用いることができる。一般的には、エンボスロールを用いて加熱加圧して凹凸を形成するエンボス加工が適用される。
エンボス加工の温度は、樹脂フィルムの種類により適宜選択される。一般的には、100℃~200℃が好ましく、120℃~170℃がより好ましい。
接着層保護シートは、後述する加飾フィルムの予備成形後、成形体に適用する際に隣接する形状保持層と共に剥離される。
【0073】
(工程(VI))
工程(VI)では、工程(V)で得られた接着層保護シートの凹凸を形成した面を、工程(IV)で形成された前記接着層に接触させて、前記接着層保護シートにより前記接着層を被覆する。
接着層保護シートとしては、既述のように易剥離性の樹脂フィルムであって、凹凸が形成されたPPフィルムがより好ましい。
工程(VI)は、基材層上に、好ましくは接着剤を付与することで、接着層を形成した後(工程(IV))、形成された接着層が未硬化の状態で、接着層の表面に、別工程である工程(V)で形成された接着層保護シートを適用して、被覆する工程を含むことができる。
【0074】
(工程(VII))
工程(VII)では、ABS樹脂及びPVC樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物を用いて形状保持層を形成する。形状保持層の形成方法としては、カレンダー法、押出し法、キャスティング法等の公知の方法が挙げられる。なかでも、加工性の観点からカレンダー法により形状保持層を形成することが好ましい。
カレンダー法による形状保持層の形成方法は、用いる樹脂が異なる他は、工程(II)における基材層の形成方法と同様にして行なうことができる。
【0075】
(工程(VIII))
工程(VIII)では、前記接着層保護シートの接着層側とは反対側の面に、接着剤を介して、工程(VII)で得た形状保持層を貼り合わせる。
接着剤としては、シリコーン樹脂系の接着剤が好ましい。また、接着層の形成に用いられる接着剤を同様に使用することができる。
接着剤の塗布量は、20g/m2~70g/m2の範囲であることが好ましい。
【0076】
上記工程を経て、表皮層、基材層、接着層、接着層を被覆する接着層保護シート及び形状保持層をこの順に有する加飾フィルムを得る。
加飾フィルムを成形体に貼り付ける場合には、加飾フィルムから、接着層保護シートと形状保持層とを剥離した加飾積層体の状態で、接着層の表面(露出側)を成形体に接触させて貼り付ける。
【0077】
本開示の加飾フィルムの製造方法は、さらにその他の工程を含むことができる。
例えば、加飾フィルムの製造方法は、基材層と接着層との間に、プライマー層を形成する工程(工程(IX))、表皮層と基材層の間に意匠層を形成する工程(工程(X))をさらに含むことができる。
【0078】
(工程(IX))
工程(IX)において、プライマー層の形成は、塗布法により行なうことができる。即ち、プライマー層を形成するための樹脂を適切な溶媒で溶解し、基材層の、表皮層側とは反対側の面に塗布し、乾燥することでプライマー層を形成することができる。
プライマー層を形成する場合、工程(IX)の後に、既述の工程(IV)を実施して、プライマー層上に、接着層を形成すればよい。
【0079】
(工程(X))
工程(X)は、加飾フィルムの製造方法において、さらに意匠層を形成する任意の工程である。
工程(X)では、工程(I)で準備した表皮層又は工程(II)で形成した基材層の片面に、意匠層を形成することができる。
意匠層を形成する方法としては、例えば、表皮層又は基材層の片面に、予め形成した意匠層を接着する方法、表皮層又は基材層の片面に、アクリル樹脂又は塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体を含む印刷インクを用いて印刷を行なう方法などが挙げられる。
なかでも、印刷により意匠層を形成することが、意匠の自由度が高いため好ましい。意匠層の形成方法としては、図柄を含む意匠層では、印刷法を適用することが挙げられ、着色層としての意匠層であれば、着色剤を含有させた樹脂組成物を、公知の方法によりフィルム状に成形して意匠層とする方法などが適用できる。
【0080】
印刷法は、樹脂を含む印刷インクにより公知の図柄を印刷する方法であり、樹脂を含む印刷インク、例えば、アクリル樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体等を含む印刷インクを、公知の印刷方法、例えば、グラビア印刷(凹版印刷)、凸版印刷、オフセット印刷、インクジェット印刷、スクリーン印刷などにより印刷して形成する方法が挙げられる。
印刷法としては、具体的には、表皮層の片面に、グラビア印刷により、アクリル樹脂を含む印刷インクを用いて印刷を行なうことなどが挙げられる。グラビア印刷に用いるプリントロールの彫刻の大きさを調整することで、印刷インクの塗布量を調整しながら印刷を行なうことができ、種々の意匠を形成できる。
任意の層である意匠層は、表皮層又は基材層の一方の面上に所望により独立して形成することができることから、任意の色相、任意の意匠で所望の意匠を有する層が形成できる。従って、意匠層を設けることで、加飾フィルムに種々の意匠を付与することができる。
【0081】
<加飾成形体>
本開示の加飾成形体は、立体形状を有する成形体と、前記加飾フィルムから接着層保護シート及び形状保持層が剥離された加飾積層体と、を有する。
図2は、本開示の加飾成形体の層構成の一例を示す概略断面図である。
図2に示すように、加飾成形体30は、加飾される成形体26と、成形体の表面に配置された、本開示の加飾フィルムから接着層保護シートと形状保持層とを剥離した加飾積層体24とを有する。加飾積層体24は、接着層保護シート及び形状保持層を有しない以外は、既述の本開示の加飾フィルムと同じ層構成を有する。即ち、
図2に示すように、加飾積層体24は、表面に凹凸を有する表皮層12、基材層14、プライマー層16、及び接着層18を有する。
図2において、基材層14と接着層18との密着性向上のために設けられるプライマー層16は、既述のように任意の層である。
【0082】
<加飾成形体の製造方法>
既述の本開示の加飾フィルムは、加熱成形による成形体を作製する際に、成形体表面に意匠を付与する目的で好適に使用される。
本開示の加飾成形体の製造方法は、既述の本開示の加飾フィルムを、加飾フィルムを貼付する成形体の形状に適合する形状に真空成形法により予備成形する工程(工程(i))、前記予備成形した加飾フィルムの接着層保護シート及び形状保持層を剥離する工程(工程(ii))、及び、接着層保護シート及び形状保持層を剥離した、前記加飾フィルム由来の加飾積層体を、前記加飾積層体の接着層を介して、立体形状を有する成形体の表面に貼り付ける工程(工程(iii))を含む。
【0083】
工程(i)では、本開示の加飾フィルムを、被着体基体としての成形体の立体形状に適合する型を用いて真空成形法により予備成形する。
予備成形する方法として、予備成形された加飾フィルム(加飾フィルムの予備成形体)の形状保持性の観点から、真空成形法を適用する。真空成形法は、公知の方法を適用できる。加飾フィルムを真空成形にて予備成形する際の加熱条件は、既述のように、80℃~150℃の温度範囲であることが好ましい。
工程(i)では、立体形状を有する成形体に即した形状の成形型の面上に加飾フィルム10を配置し、常法により真空引きして成形型に沿わせて予備成形し、加飾フィルムの予備成形体を得る。
本開示の加飾フィルムは、上記した層構成を有するため、真空成形法により、速やかに予備成形され、得られた予備成形体は、形状保持性が良好となる。
【0084】
工程(ii)では、前記予備成形した加飾フィルムの接着層保護シート及び形状保持層を剥離する。そして、接着層保護シート及び形状保持層が剥離され、接着層が露出した状態の加飾積層体24を得る。加飾積層体は、接着層保護シート及び形状保持層の機能により、接着層には、接着層保護シートの凹凸に由来する凹部が形成されている。
加飾フィルムは、形状保持層等を有することで、予備成形時の接着層保護シートの収縮が抑制され、予備成形体の形状保持性及び接着層に形成された凹部の形状保持性が良好である。
【0085】
工程(iii)では、工程(ii)において接着層保護シート及び形状保持層を剥離した、前記加飾フィルム由来の加飾積層体を、前記加飾積層体の、成形体と接する面に凹部が形成された接着層を介して、立体形状を有する成形体の表面に貼り付ける。工程(iii)では、前記加飾フィルム由来の加飾積層体を、前記加飾積層体の接着層を介して、立体形状を有する成形体の表面に貼り付ける工程は、接着層の成形体と接触する側に設けられた接着層保護シートにより形成された凹部の形状が維持される間に行なわれることが好ましい。
加飾積層体は、接着層に形成された凹部の形状保持性が良好であるため、成形体にそのまま貼り付けて配置することができる。加飾積層体を、接着層を介して成形体に貼り付ける際に、接着層に形成された凹部が流体の移動経路となることで、加飾積層体を貼り付ける際のエア残り、水残り等が抑制される。このため、貼り付けに起因する故障が簡易に抑制され、加飾積層体により加飾された外観が良好な加飾成形体が得られる。なお、貼り付け時の応力により接着層18に形成された凹部は均されて、
図2に示すように、成形体26上では均一な接着層18となる。
【0086】
本開示の加飾成形体は、既述のように、簡易な方法で製造することができる。同じ成形体に、異なる色相、意匠等を、容易に付与し得るため、種々の用途に適用することができる。また、予備成形され、接着層保護シート及び形状保持層を剥離されて得られる加飾積層体は、柔軟であり、流体の除去性に優れるため、簡易な方法により種々の意匠の、外観が良好な加飾成形体を得ることができる。従って、本開示の加飾成形体の製造方法は、デザインの異なる加飾成形体の小ロット生産にも適する。
加飾成形体に適用し得る成形体としては、自動車、鉄道等の車輌、家具、航空機、船舶、建装、壁装などが挙げられ、種々の成形体の加飾に好適に使用し得る。
【実施例】
【0087】
以下、実施例を挙げて本開示の加飾フィルムについて具体的に説明するが、本開示はこれらに制限されるものではない。
【0088】
〔実施例1〕
(加飾フィルムの製造)
表皮層として、KFCフィルム FT-50Y(商品名)、クレハエクステック(株)(フッ素樹脂であるポリフッ化ビニリデン含有層とアクリル樹脂であるポリメチルメタクリレート含有層との積層体、厚み:50μm)を準備した(工程(I))。
PVC樹脂〔TH800(商品名)、大洋塩ビ(株)〕100kgに、顔料〔PV MAF 725(商品名)、大日精化工業(株)〕2kgを投入し、カレンダー法により、乾燥後の厚みが150μmになるようにシート状に成形して基材層を得た(工程(II))。
表皮層におけるポリメチルメタクリレート含有層側に、基材層を積層し、得られた積層体を、一対のエンボスロールの一方が絞模様を有する絞ロールであるエンボスロールを用いて、表皮層側を絞ロールに接触させて、ラミネートエンボスを行い、表皮層の表面に絞模様を形成した(工程(III)、工程(III-2))。
前記積層体の基材層の表皮層側とは反対側の面に、ウレタン系樹脂〔レザロイド(商品名)、大日精化工業(株)〕を塗布し、乾燥膜厚が3μmのプライマー層を形成し(工程(IX))、プライマー層上に、アクリル系接着剤〔オリバインBPS(商品名)、トーヨーケム(株)〕を、乾燥後の膜厚が55μmとなる量で塗布し、乾燥して厚さ55μmの接着層を形成した(工程(IV))。
【0089】
接着層保護シートの基材として、平らな樹脂シート(PP(フジコー(株)、BK0A(商品名)、厚さ:60μm)を準備し、樹脂シートの表面温度150℃の条件で、
図3(A)及び
図3(B)に示す如き、樹脂シートの長手方向の端部同士及び幅方向の端部同士を連通する凹凸を形成して、接着層保護シートを得た。接着層保護シートの断面を観察したところ、凹凸の凸部の高さは15μmを超えることを確認した。(工程(V))。
工程(IV)で形成した接着層の表面を、工程(V)で得た凹凸が形成された接着層保護シートで被覆した(工程(VI))。
ABS樹脂〔TM-30G6(商品名)、UMG-ABS(株)〕100kgを、カレンダー法により、乾燥後の厚みが250μmになるようにシート状に成形して、形状保持層を形成した(工程(VII))。
接着層を被覆した接着層保護シートと、工程(VII)で得た形状保持層とを、シリコーン樹脂系接着剤〔セメダインPM165-R(商品名)、セメダイン(株)、塗布量:5g/m
2〕を介して貼り合わせ、実施例1の加飾フィルムを得た。
【0090】
〔実施例2〕
工程(V)で得た接着層保護シートに代えて、平らな樹脂シート(PP(フジコー(株)、BK0A(商品名)、厚さ:60μm)に、
図4(A)及び
図4(B)に示す形状の凹凸を形成して、接着層保護シートを得た。接着層保護シートの断面を観察したところ、凹凸の凸部の高さは15μmを超えることを確認した。得られた接着層保護シートを用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例2の加飾フィルムを得た。
【0091】
(比較例1)
工程(V)で得た接着層保護シートに代えて、平らな樹脂シート(PP(フジコー(株)、BK0A(商品名)、厚さ:60μm)に、
図5(A)及び
図5(B)に示す連続した直線状の凹凸を形成して、接着層保護シートを得た。接着層保護シートの断面を観察したところ、比較例1の接着層保護シートでは、凸部の高さは15μm以下であった。得られた接着層保護シートを用いた以外は実施例1と同様にして、比較例1の加飾フィルムを得た。
【0092】
(比較例2)
工程(V)にて接着層保護シートを得る際に、平らな樹脂シート(PP(フジコー(株)、BK0A(商品名)、厚さ:60μm)に代えて、基材として紙(厚さ:60μm)を用いた以外は、実施例1と同様にして、エンボス加工を行い、接着層保護シートを得た。得られた紙ベースの接着層保護シートを用いた以外は、実施例1と同様にして、比較例2の加飾フィルムを得た。
紙ベースの接着層保護シートでは、安定な凹凸形状は形成されなかった。
【0093】
(比較例3)
工程(V)で得た接着層保護シートに代えて、平らな樹脂シート(PP(フジコー(株)、BK0A(商品名)、厚さ:60μm)に、凹凸を形成しなかったものを、接着層保護シートとして用いた以外は、実施例1と同様にして、比較例3の加飾フィルムを得た。接着層保護シートには、凹凸が形成されていない。
【0094】
(加飾フィルムの評価)
(1.接着層に形成された凹部のサイズ)
予備成形前の接着層保護シートに形成された凸部のサイズを、接着層保護シートの断面から測定した。結果を下記表1に示す。
【0095】
(2.加飾フィルムの予備成形)
得られた加飾フィルムを、真空成形装置を用いて、成形体の形状に合わせて予備成形した。
成形体としては、車両のルーフサイドを適用した。予備成形の際の展開率は、予備成形前の面積の100%~300%の範囲であった。
【0096】
(3.予備成形後の接着層に形成された凹部のサイズ)
接着層保護シートに形成された予備成形後の凸部のサイズを、接着層保護シートの断面から測定した。結果を下記表1に示す。
【0097】
その後、予備成形した加飾フィルムの接着層保護シート及び形状保持層を剥離し、接着層側を、成形体側として、成形体に接触させ、成形体表面に貼り付けた。
モニターとしての作業者10名が、貼り付け時の成形体に対する加飾積層体の予備成形性、及び一旦成形体に貼付した後の位置修正の容易性について、実作業を行なって評価した。
また、加飾積層体を貼付した後の、エア抜け性(エア残りの有無)及び加飾成形体の外観を、目視で評価した。
いずれの評価も、以下の基準にて行なった。
10名の作業者のうち、一番多かった評価を採用した。評価結果が同数である場合には、より良好な結果を記載した。
結果を下記表1に示す。いずれも、Aが実用上問題のない範囲である。
【0098】
(予備成形性)
A:予備成形が可能である
B:予備成形性にやや問題あり
C:予備成形は不可である
【0099】
(貼り付け位置の修正容易性)
A:容易に修正できる
B:修正がやや困難である
C:修正は不可であるか、又は修正後の加飾積層体にシワ、ヨレが発生した
【0100】
(エア抜け性)
A:貼り付け後にエアの残存がない
B:貼り付け後にエアの残存が僅かにある
C:貼り付け後のエアの残存が多い
【0101】
(外観)
A:外観に問題なし
B:シワ又はエア残存に起因する膨らみが僅かにあり、外観にやや問題あり
C:シワ又はエア残存に起因する膨らみがあり、外観に問題あり
【0102】
【0103】
実施例1及び実施例2の加飾フィルムは、予備成形性が良好であった。予備成形後に加飾積層体として成形体に貼り付けた場合、位置修正の容易性が良好であり、作業性よく貼り付けができた。
また、貼り付け後のエア残りがなく、外観が良好な加飾成形体が得られた。
予備成形後は、加飾フィルムは部分的に延伸されるため、接着層に形成された凹部の形状(溝形状)は変形し、凹部の深さはより小さくなり、幅は同等であるか、又はより広くなる傾向がある。しかし、当初の接着層保護シートに形成された凸部の高さが15μmを超えることで、予備成形後に変形した凹部は、流体の連通に充分な断面積が維持されることがわかる。
【0104】
比較例1の加飾フィルムは、予備成形性は良好であるが、接着層における凹部は、加飾フィルムの長手方向のみに形成され、且つ、凹部のサイズが小さいため、貼り付け時の位置修正がやや困難であり、貼り付け後にエア残りが認められ、得られた加飾成形体の外観にもやや問題があった。
【0105】
比較例2の加飾フィルムは、紙製の接着層保護シートを用いたため、予備成形性が低く、接着層に凹部の形成が維持できず、その後の評価は行なわなかった。
【0106】
接着層保護シートに凹凸を形成しなかった比較例3の加飾フィルムは、予備成形性は良好であるが、接着層に、接着層保護シートの凹凸に起因する凹部を有しないため、位置修正が困難であり、エア抜けが著しく不良であり、加飾成形体の外観に劣っていた。
【0107】
以上の結果より、実施例の加飾フィルムを用いることで、外観の良好な加飾成形体を容易に得ることができることがわかる。
【符号の説明】
【0108】
10 加飾フィルム
12 表皮層
14 基材層
16 プライマー層(樹脂層)
18 接着層
20 接着層保護シート
22 形状保持層
24 加飾積層体
26 成形体(成形体基体)
30 加飾成形体