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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】発色構造体
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/18 20060101AFI20231003BHJP
   G09F 3/02 20060101ALI20231003BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20231003BHJP
【FI】
G02B5/18
G09F3/02 W
B32B7/023
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018188433
(22)【出願日】2018-10-03
(65)【公開番号】P2020056942
(43)【公開日】2020-04-09
【審査請求日】2021-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】川下 雅史
【審査官】小川 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-111248(JP,A)
【文献】特開2018-112732(JP,A)
【文献】特開2010-201652(JP,A)
【文献】特開2018-109669(JP,A)
【文献】特開2011-189519(JP,A)
【文献】特表2003-500665(JP,A)
【文献】特開2021-110907(JP,A)
【文献】特開2013-010315(JP,A)
【文献】特開2015-127751(JP,A)
【文献】特開2018-045155(JP,A)
【文献】特表2016-503356(JP,A)
【文献】国際公開第2015/182108(WO,A1)
【文献】特開2014-188733(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/18
G09F 3/02
B32B 7/023
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
凸部である複数の凹凸要素から構成される凹凸構造を表面に有する樹脂製の構造層と、
前記凹凸構造上に位置して当該凹凸構造に追従した表面形状を有し、干渉によって強められた反射光を射出する積層膜である光学層と、を備え、
前記構造層の厚さ方向に沿った方向から前記凹凸構造を見た平面視において、前記凹凸要素の短辺方向の幅および長辺方向の幅の各々は、10μm以上100μm以下であり、
前記厚さ方向に沿った前記凹凸要素の寸法は、前記平面視での前記凹凸要素の端部から中央部に向かって連続的に大きくなり、
前記短辺方向の幅に対する、前記凹凸要素内における前記厚さ方向に沿った寸法の最大値の比は、0.1以上1.0以下であり、
前記厚さ方向に沿った前記構造層の断面において、前記凹凸要素の表面は曲線を構成しており、
前記平面視において、前記複数の凹凸要素は、正方格子状または六方格子状に並んでおり、
互いに隣り合う前記凹凸要素の境界が、前記光学層に向けて凸となる曲線を構成している
発色構造体。
【請求項2】
前記平面視において、前記複数の凹凸要素は、正方格子状に並んでおり、前記凹凸要素は、前記短辺方向の幅と前記長辺方向の幅とが一致した正方形形状を有し、前記複数の凹凸要素において、前記短辺方向の幅および前記長辺方向の幅は一定である
請求項に記載の発色構造体。
【請求項3】
前記光学層に対して前記構造層とは反対側に位置する吸収層を備え、
前記光学層は、複数の誘電体薄膜の積層体であって、当該光学層において相互に隣接する前記誘電体薄膜の屈折率が互いに異なり、
前記吸収層は、前記光学層を透過する光の少なくとも一部を吸収する光吸収性を有する
請求項1または2に記載の発色構造体。
【請求項4】
前記光学層は、前記構造層に接する誘電体薄膜と、前記誘電体薄膜に前記構造層と反対側で接する反射膜とから構成される
請求項1または2に記載の発色構造体。
【請求項5】
前記光学層に対して前記構造層とは反対側に位置し、前記発色構造体の最外面を構成する接着層を備える
請求項3または4に記載の発色構造体。
【請求項6】
前記構造層に対して前記光学層と反対側に位置する基材を備え、
前記基材は、前記構造層に対して剥離可能に構成されている
請求項3~5のいずれか一項に記載の発色構造体。
【請求項7】
前記光学層は、複数の誘電体薄膜の積層体であって、当該光学層において相互に隣接する前記誘電体薄膜の屈折率が互いに異なり、
前記構造層は、前記光学層を透過する光の少なくとも一部を遮蔽する
請求項1または2に記載の発色構造体。
【請求項8】
前記構造層に対して前記光学層とは反対側に位置する吸収層を備え、
前記光学層は、複数の誘電体薄膜の積層体であって、当該光学層において相互に隣接する前記誘電体薄膜の屈折率が互いに異なり、
前記吸収層は、前記光学層を透過する光の少なくとも一部を吸収する光吸収性を有する
請求項1または2に記載の発色構造体。
【請求項9】
前記構造層に対して前記光学層とは反対側に位置し、前記発色構造体の最外面を構成する接着層を備える
請求項7または8に記載の発色構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光の干渉を利用した構造色を呈する発色構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
薄膜干渉や多層膜干渉といった光の干渉を利用して色を視認させる発色構造体が知られている。こうした発色構造体を物品に付すことで、色素が呈する色による装飾とは異なる外観の装飾を物品に施すことができる。それゆえ、物品の意匠性の向上が可能である(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-189519号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
薄膜干渉や多層膜干渉を生じさせる誘電体層において、干渉によって強められる光の波長域は、誘電体層が含む薄膜の各界面で反射される光の光路差によって決まる。入射光の入射角度が変われば、光路差は変わり、また、干渉によって強められた光は、入射光の正反射方向へ射出される。したがって、干渉によって強められた特定の波長域の光は、特定の方向のみに射出される。それゆえ、発色構造体に対する観察角度が変わると、視認される色の色相や明るさが大きく変化する。そこで、発色構造体の用途の拡大のために、広い観察角度で特定の色を呈する構造が求められている。
【0005】
本発明は、観察角度の変化による色変化を抑えることを可能とした発色構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する発色構造体は、凸部または凹部である複数の凹凸要素から構成される凹凸構造を表面に有する構造層と、前記凹凸構造上に位置して当該凹凸構造に追従した表面形状を有し、干渉によって強められた反射光を射出する積層膜である光学層と、を備え、前記構造層の厚さ方向に沿った方向から前記凹凸構造を見た平面視において、前記凹凸要素の短辺方向の幅および長辺方向の幅の各々は、10μm以上100μm以下であり、前記厚さ方向に沿った前記凹凸要素の寸法は、前記平面視での前記凹凸要素の端部から中央部に向かって連続的に大きくなり、前記短辺方向の幅に対する、前記凹凸要素内における前記厚さ方向に沿った寸法の最大値の比は、0.1以上1.0以下である。
【0007】
上記構成によれば、光学層が構造層の凹凸構造に沿った表面形状を有することにより、干渉により強められた特定の波長域の反射光が散乱されて、様々な方向に射出される。そのため、発色構造体に対する観察角度の変化による色変化が抑えられ、特定の色が広い観察角度で視認可能となる。
【0008】
上記構成において、前記厚さ方向に沿った前記構造層の断面において、前記凹凸要素の表面は曲線を構成してもよい。
上記構成によれば、上記断面にて凹凸要素の表面が直線となる形態と比較して、入射光に対する凹凸要素の表面の角度が、当該表面内において不均一になる。そのため、光学層の反射光の散乱効果が高められる。
【0009】
上記構成において、前記平面視において、前記複数の凹凸要素は、正方格子状に並んでいてもよい。
上記構成によれば、複数の凹凸要素の配置の設計および複数の凹凸要素の形成が容易である。また、平面視にて凹凸要素が四角形形状を有する場合には、構造層の表面にて平坦部が少なくなるように複数の凹凸要素を配置することが容易である。
【0010】
上記構成において、前記構造層の前記表面に含まれる平坦部の割合は、前記平面視での当該表面の単位面積あたりにおいて10%以下であってもよい。
上記構成によれば、光学層からの反射光において散乱成分の割合が十分に確保されるため、観察角度の変化による色変化が的確に抑えられる。また、光学層からの反射光における正反射成分の割合が小さく抑えられるため、観察者の目にかかる負担が小さくなる。
【0011】
上記構成において、前記平面視において、前記凹凸要素は、前記短辺方向の幅と前記長辺方向の幅とが一致した正方形形状を有し、前記複数の凹凸要素において、前記短辺方向の幅および前記長辺方向の幅は一定であってもよい。
【0012】
上記構成によれば、構造層の表面における平坦部が少なくなるように複数の凹凸要素を配置することが容易である。さらに、厚さ方向の断面にて凹凸要素の表面が曲線を構成する場合には、上記平面視にて凹凸要素が正方形であれば、凹凸要素の表面内において部位による表面の傾きのばらつきが大きいため、入射光に対する凹凸要素の表面の角度が、当該表面内においてより不均一になる。それゆえ、凹凸要素の形状が単純であって凹凸要素の形成が容易でありながら、光学層の反射光の散乱効果が高められる。
【0013】
上記構成において、前記平面視において、前記凹凸要素は四角形形状を有し、隣り合う前記凹凸要素において、前記短辺方向の幅および前記長辺方向の幅の少なくとも一方は互いに異なってもよい。
【0014】
上記構成によれば、凹凸要素の形状が単純であって凹凸要素の形成が容易でありながら、複数の凹凸要素の形状が一定である形態と比較して、光学層の反射光の散乱効果が高められる。さらに、厚さ方向の断面にて凹凸要素の表面が曲線を構成する場合には、上記平面視にて凹凸要素が四角形であれば、凹凸要素の表面内において部位による表面の傾きのばらつきが大きいため、入射光に対する凹凸要素の表面の角度が、当該表面内においてより不均一になる。それゆえ、光学層の反射光の散乱効果が高められる。
【0015】
上記構成において、前記光学層に対して前記構造層とは反対側に位置する吸収層を備え、前記光学層は、複数の誘電体薄膜の積層体であって、当該光学層において相互に隣接する前記誘電体薄膜の屈折率が互いに異なり、前記吸収層は、前記光学層を透過する光の少なくとも一部を吸収する光吸収性を有してもよい。
【0016】
上記構成によれば、多層膜干渉による反射光が光学層から射出されるため、単層の薄膜による干渉が利用される形態と比較して、反射光の強度が大きくなる。そして、発色構造体が、光学層を透過した光を吸収する吸収層を備えているため、光学層に対して構造層が位置する側から見て、光学層からの反射光とは異なる波長域の光が視認されることが抑えられる。したがって、上記反射光による色の視認性が低下することが抑えられる。
【0017】
上記構成において、前記光学層は、前記構造層に接する誘電体薄膜と、前記誘電体薄膜に前記構造層と反対側で接する反射膜とから構成されてもよい。
上記構成によれば、干渉を生じさせるための層が単層の誘電体薄膜から構成されるため、多層膜干渉が利用される形態と比較して、発色構造体の製造に要する工程数を削減することができる。そして、反射膜が積層されていることによって、干渉によって強められる波長域の光の反射が強められ、発色構造体から射出される反射光の強度が大きくなる。したがって、反射光による色の視認性が高められる。
【0018】
上記構成において、前記光学層に対して前記構造層とは反対側に位置し、前記発色構造体の最外面を構成する接着層を備えてもよい。
上記構成によれば、光学層に対して構造層と反対側に被着体が位置するように被着体に貼り付けられる発色シールおよび転写シートに用いられることに適した発色構造体が実現される。
【0019】
上記構成において、前記構造層に対して前記光学層と反対側に位置する基材を備え、前記基材は、前記構造層に対して剥離可能に構成されていてもよい。
上記構成によれば、転写シートに用いられることに適した発色構造体が実現される。そして、基材が剥離されることにより、転写シートから被着体に転写される構造体である発色シートの柔軟性が高められる。また、発色シートにおいて、光学層における構造層側の最外面は構造層に覆われるため、構造層も剥離されて光学層における上記最外面が外部に露出される場合と比較して、上記最外面を覆う保護層を別途形成せずとも、光学層が有する凹凸構造が保護される。そのため、当該凹凸構造が変形して所望の発色が得られ難くなることが容易に抑えられる。
【0020】
上記構成において、前記光学層は、複数の誘電体薄膜の積層体であって、当該光学層において相互に隣接する前記誘電体薄膜の屈折率が互いに異なり、前記構造層は、前記光学層を透過する光の少なくとも一部を遮蔽してもよい。
【0021】
上記構成によれば、多層膜干渉による反射光が光学層から射出されるため、単層の薄膜による干渉が利用される形態と比較して、反射光の強度が大きくなる。そして、構造層が、光学層を透過した光を遮蔽するため、光学層に対して構造層とは反対側から見て、光学層からの反射光とは異なる波長域の光が視認されることが抑えられる。したがって、上記反射光による色の視認性が低下することが抑えられる。また、凹凸構造を有する構造層が、光学層の透過光を遮蔽する層を兼ねるため、発色構造体の構成層を増加させずに、多層膜層の透過光を遮蔽する構成が実現可能である。したがって、発色構造体を薄く形成しやすい。
【0022】
上記構成において、前記構造層に対して前記光学層とは反対側に位置する吸収層を備え、前記光学層は、複数の誘電体薄膜の積層体であって、当該光学層において相互に隣接する前記誘電体薄膜の屈折率が互いに異なり、前記吸収層は、前記光学層を透過する光の少なくとも一部を吸収する光吸収性を有してもよい。
【0023】
上記構成によれば、多層膜干渉による反射光が光学層から射出されるため、単層の薄膜による干渉が利用される形態と比較して、反射光の強度が大きくなる。そして、発色構造体が、光学層を透過した光を吸収する吸収層を備えているため、光学層に対して構造層とは反対側から見て、光学層からの反射光とは異なる波長域の光が視認されることが抑えられる。したがって、上記反射光による色の視認性が低下することが抑えられる。また、吸収層が、構造層とは別に設けられているため、これらの層を、各層の機能により適した材料から構成することができる。
【0024】
上記構成において、前記構造層に対して前記光学層とは反対側に位置し、前記発色構造体の最外面を構成する接着層を備えてもよい。
上記構成によれば、光学層に対して構造層と同一の側に被着体が位置するように被着体に貼り付けられる発色シールに用いられることに適した発色構造体が実現される。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、発色構造体において、観察角度の変化による色変化を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】発色構造体の第1実施形態について、発色構造体を構成する光学素子部の断面構造を示す図。
図2】第1実施形態の発色構造体が備える凹凸構造層の斜視構造を示す図。
図3】第1実施形態の発色構造体が備える凹凸構造層の平面構造および断面構造を示す図。
図4】第1実施形態の発色構造体が適用された発色シールの断面構造を示す図。
図5】第1実施形態の発色構造体が適用された転写シートの断面構造を示す図。
図6】第1実施形態の発色構造体が被着体に固定されている状態を示す図。
図7】発色構造体の第2実施形態について、発色構造体を構成する光学素子部の断面構造を示す図。
図8】第2実施形態の発色構造体が適用された発色シールの断面構造を示す図。
図9】第2実施形態の発色構造体が適用された転写シートの断面構造を示す図。
図10】発色構造体の第3実施形態について、発色構造体が適用された発色シールの断面構造を示す図。
図11】発色構造体の第3実施形態について、発色構造体が適用された発色シールの他の例の断面構造を示す図。
図12】第3実施形態の発色構造体が被着体に固定されている状態を示す図。
図13】実施例で用いた光学系における入射角度と反射角度との関係を示す図。
図14】実施例の発色構造体における反射分光特性の測定結果を示す図。
図15】実施例の発色構造体における反射光強度の反射角度依存性の測定結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(第1実施形態)
図1図6を参照して、発色構造体の第1実施形態を説明する。なお、発色構造体に対する入射光および反射光の波長域は特に限定されないが、以下の実施形態においては、一例として、可視領域の光を対象とした発色構造体について説明する。以下の説明において、可視領域の光とは、360nm以上830nm以下の波長域の光を指す。
【0028】
[光学素子部]
まず、発色構造体の主要部を構成する光学素子部の構造を説明する。
図1が示すように、光学素子部10は、基材20と、構造層の一例である凹凸構造層21と、光学層の一例である多層膜層22とを備えている。
【0029】
基材20は、平坦な層であって、可視領域の光に対して透明である。基材20としては、例えば、合成石英基板や、ポリエチレンテレフタラート(PET)等の樹脂からなるフィルムが用いられる。発色構造体の可撓性が高められる観点では、基材20は樹脂から構成されていることが好ましい。基材20の膜厚は、例えば、10μm以上100μm以下である。
【0030】
凹凸構造層21は、基材20上に位置し、基材20に支持されている。凹凸構造層21は、基材20に向けられた面とは反対側の面である表面に、凹凸構造を有する。凹凸構造は、複数の凸部21aから構成される。凸部21aは、凹凸要素の一例であり、多層膜層22に向けて突出する。
【0031】
凹凸構造層21は、可視領域の光に対して透明な樹脂、すなわち、可視領域の光を透過する樹脂から構成される。凹凸構造層21を構成する樹脂としては、例えば、紫外線硬化性樹脂や熱可塑性樹脂が用いられる。
【0032】
多層膜層22は、凹凸構造層21の表面を覆い、凹凸構造層21が有する凹凸構造に追従した表面形状を有している。多層膜層22は、複数の薄膜の積層体であって、高屈折率層22aと低屈折率層22bとが交互に積層された構造を有する。高屈折率層22aと低屈折率層22bとの各々は、誘電体薄膜である。高屈折率層22aの屈折率は、低屈折率層22bの屈折率よりも大きい。例えば、凹凸構造層21と接する層は高屈折率層22aであり、凹凸構造層21と反対側の最外層は低屈折率層22bである。
【0033】
高屈折率層22aと低屈折率層22bとは、可視領域の光に対して透明な材料、すなわち、可視領域の光を透過する材料から構成される。高屈折率層22aの屈折率が、低屈折率層22bの屈折率よりも大きい構成であれば、これらの層の材料は限定されないが、高屈折率層22aと低屈折率層22bとの屈折率の差が大きいほど、少ない積層数で高い強度の反射光が得られる。こうした観点から、例えば、高屈折率層22aと低屈折率層22bとを無機材料から構成する場合、高屈折率層22aを二酸化チタン(TiO)から構成し、低屈折率層22bを二酸化珪素(SiO)から構成することが好ましい。ただし、高屈折率層22aおよび低屈折率層22bの各々は有機材料から構成されてもよい。
【0034】
高屈折率層22aおよび低屈折率層22bの各々の膜厚は、発色構造体にて発色させる所望の色に応じて、転送行列法等を用いて設計されればよい。高屈折率層22aおよび低屈折率層22bの膜厚は、例えば、10nm以上500nm以下の範囲から選択される。多層膜層22を構成する各層の膜厚は、すべて同一であってもよいし、層によって異なっていてもよい。なお、図1では、多層膜層22として、凹凸構造層21に近い位置から高屈折率層22aと低屈折率層22bとがこの順に交互に積層された8層からなる多層膜層22を例示した。多層膜層22が有する層数や積層の順序はこれに限られず、所望の波長域の反射光が得られるように高屈折率層22aと低屈折率層22bとが設計されていればよい。例えば、低屈折率層22bが凹凸構造層21に接し、その上に高屈折率層22aと低屈折率層22bとが交互に積層されている構成でもよい。また、凹凸構造層21と反対側の最外層も、高屈折率層22aと低屈折率層22bとのいずれであってもよい。さらに、高屈折率層22aと低屈折率層22bとが交互に積層されていれば、凹凸構造層21に接する層とその反対側の最外層との材料が同じであってもよい。さらに多層膜層22は、3つ以上の屈折率の異なる層の組み合わせによって構成されてもよい。
【0035】
要は、多層膜層22は、相互に隣接する層の屈折率が互いに異なり、多層膜層22に入射する光のうち特定の波長域での光の反射率が他の波長域での反射率よりも高いように構成されていればよい。
【0036】
光学素子部10に光が入射すると、多層膜層22における高屈折率層22aおよび低屈折率層22bの各界面で反射した光が干渉を起こす。また、凹凸構造層21の凹凸構造に起因して、上記各界面の入射光に対する角度が光学素子部10内で変化するため、様々な方向に反射光が射出される。すなわち、多層膜層22の反射光が散乱される。結果として、様々な方向からの入射光に対し、干渉によって強められた特定の波長域の光が、様々な方向に射出され、特定の色が広い観察角度で視認可能となる。多層膜層22に対して凹凸構造層21が位置する側から観察した場合でも、多層膜層22に対して凹凸構造層21とは反対側から観察した場合でも、上記特定の波長域の反射光は観察可能である。
【0037】
なお、光学素子部10は、基材20を備えていなくてもよい。光学素子部10が基材20を備えない場合、凹凸構造層21は、合成石英のように樹脂とは異なる材料から構成されてもよい。
【0038】
[凹凸構造]
凹凸構造層21が有する凹凸構造について詳細に説明する。図2は、凹凸構造層21の斜視構造を示し、図3は、凹凸構造層21の平面構造および断面構造を示す。
【0039】
図2が示すように、凹凸構造は、複数の凸部21aが隙間なく並ぶ構造を有している。例えば、凸部21aはマイクロレンズを構成しており、凹凸構造層21はマイクロレンズアレイを構成している。
【0040】
図3が示すように、凹凸構造層21の厚さ方向に沿った方向から凹凸構造を見た平面視において、凸部21aは四角形形状を有することが好ましく、特に、正方形形状を有することが好ましい。複数の凸部21aの形状は一定であり、複数の凸部21aは、正方形を構成する辺が延びる方向に沿って、正方格子状に並んでいることが好ましい。
【0041】
凸部21aの幅Dは、正方形の一辺の長さであり、複数の凸部21aにおいて、幅Dは一定である。幅Dは、10μm以上100μm以下である。幅Dが10μm以上であると、凸部21aの規則的な配列に起因して光の回折が生じることが抑えられる。それゆえ、回折光として虹色が視認されることが抑えられるため、多層膜層22からの反射光による色の視認性が高められる。また、幅Dが10μm以上であると、凸部21aが微細になりすぎないため、凹凸構造の形成が容易であり、発色構造体の生産効率が高められる。一方、幅Dが100μm以下であると、凸部21aが1つの構造体として人間の目に認識されることが抑えられる。これらの各効果が均衡して得られる観点では、幅Dは、40μm以上50μm以下であることが好ましい。
【0042】
凸部21aの最大高さHは、凹凸構造層21の厚さ方向に沿った凸部21aの寸法の最大値である。言い換えれば、最大高さHは、上記厚さ方向における、凸部21aの周面の基端と先端との間の長さである。複数の凸部21aにおいて、最大高さHは一定である。最大高さHは、例えば、10μm以下であることが好ましい。
【0043】
凸部21aのアスペクト比、すなわち、幅Dに対する最大高さHの比は、0.1以上1.0以下である。アスペクト比が0.1以上であれば、平面と比較して十分な起伏を有する凹凸構造が形成されるため、凹凸構造による散乱効果が高く得られる。
【0044】
一方、アスペクト比が1.0以下であれば、凸部21a内での光の反射が抑えられる。入射光のうち、多層膜層22内にて反射されて干渉を起こす特定の波長域以外の光の一部は、多層膜層22を透過する。凸部21a内での反射が大きいと、多層膜層22を透過する波長域の光が、反射光として、入射光が入射する空間に返ってくることが起こり得る。多層膜層22を透過する光の波長域は、主として、多層膜層22での反射光の色の補色に相当する波長域である。そのため、こうした波長域の光が視認されると、多層膜層22からの反射光による色の視認性が低下する。これに対し、上述のように、アスペクト比が1.0以下であれば、多層膜層22を透過する光が反射されて視認されることが抑えられるため、多層膜層22にて干渉により強められた反射光の色の視認性が低下することが抑えられる。なお、凸部21aは、多層膜層22を透過する波長域の光を反射し難い形状に設計されていることが好ましい。
【0045】
凸部21aの高さは、凹凸構造層21の広がる方向、すなわち、厚さ方向と直交する方向における凸部21aの端部から中央部に向けて、連続的に変化し、徐々に大きくなる。そして、凸部21aの高さは、凹凸構造層21の広がる方向における凸部21aの中央部で最大となる。言い換えれば、凸部21aの高さは、上記平面視での凸部21aの端部に対応する部分から、上記平面視での凸部21aの中央部に対応する部分に向けて、連続的に大きくなる。そして、上記平面視にて正方形の重心である凸部21aの中心Cが位置する部分で、凸部21aの高さは最大となる。
【0046】
中心Cを通り厚さ方向に沿った断面において、凸部21aの周面である表面は、多層膜層22に向けて突出するように湾曲する曲線を構成する。この曲線の曲率は一定であってもよいし、一定でなくてもよい。例えば、凸部21aの端部と中央部とで表面が構成する曲線の曲率は異なっていてもよい。
【0047】
上記曲線の曲率が一定である構成では、凸部21aの中央部で曲率が大きくなる形態と比較して、凸部21a内での光の反射を抑えやすい。一方、上記曲線の曲率が一定でない構成では、入射光に対する凸部21aの周面の角度が、周面内においてより不均一になるように凸部21aを構成することができるため、多層膜層22の反射光の散乱効果を高めるように凸部21aの形状を設計することもできる。
【0048】
凸部21aの配列の周期Pは、凸部21aの配列方向、すなわち、正方形を構成する辺に沿った2つの方向のいずれについても、幅Dと一致する。こうした構成においては、凹凸構造層21の表面は、平坦な部分を有さない。
【0049】
なお、複数の凸部21aは、隣り合う凸部21aの間に隙間を空けて並んでいてもよい。言い換えれば、凹凸構造層21の表面は、隣り合う凸部21aの間に平坦部を有していてもよい。ただし、上記平面視にて、凹凸構造層21の表面における単位面積あたりの平坦部の割合は、10%以下であることが好ましい。平坦部に多層膜層22が積層されている領域では反射光の散乱が小さいが、平坦部の割合が10%以下であれば、多層膜層22からの反射光において散乱成分の割合が十分に確保されるため、観察角度の変化による色変化が的確に抑えられる。また、平坦部の割合が10%以下であれば、多層膜層22からの反射光における正反射成分の割合が小さく抑えられるため、発色構造体の観察者の目にかかる負担が小さくなる。なお、こうした効果を高めるためには、平坦部の割合は小さいほど好ましい。
【0050】
凹凸構造の変形例について説明する。上記平面視における凸部21aの形状は、正方形に限らず、三角形、長方形、六角形等の多角形や、円形であってもよい。また、上記平面視における凸部21aの形状は、複数の凸部21aにおいて一定でなくてもよい。また、複数の凸部21aにおいて、最大高さHは一定でなくてもよい。
【0051】
ここで、多層膜層22の反射光の散乱効果を高めてより多方向に反射光を射出させるためには、入射光に対する凸部21aの周面の角度が、周面内において不均一であるほど好ましい。例えば、上記平面視における凸部21aの形状が四角形である場合、四角形の頂点から四角形の中心に向けた周面の傾きの変化と、四角形の辺の中点から四角形の中心にむけた周面の傾きの変化とは異なる。したがって、凸部21aの周面内において部位による傾きのばらつきが大きい。それゆえ、凸部21aの形状が四角形である形態では、凸部21aの形状が単純であって凸部21aの形成が容易でありながら、多層膜層22の反射光の散乱効果が高められる。
【0052】
なお、上記平面視において、凸部21aの短辺方向の幅と長辺方向の幅とが異なるとき、短辺方向の幅と長辺方向の幅との双方が、10μm以上100μm以下とされる。上記短辺方向の幅は、上記平面視において凸部21aが内接する最小の矩形を仮想的に配置した場合における当該矩形の短辺の長さである。また、上記長辺方向の幅は、上記最小の矩形における長辺の長さである。また、凸部21aの最大高さHは、短辺方向の幅を基準に設定されればよく、すなわち、短辺方向の幅に対する最大高さHの比が、0.1以上1.0以下であればよい。上記平面視において凸部21aが正方形形状を有する形態は、上記短辺方向の幅と上記長辺方向の幅とが一致する形態である。
【0053】
また、複数の凸部21aは、正方格子状に限らず、六方格子等の他の二次元格子状に並んでいてもよいし、不規則に並んでいてもよい。また、複数の凸部21aの配列の周期は一定でなくてもよい。
【0054】
複数の凸部21aにおける形状の不規則性や配列の不規則性が高いほど、多層膜層22の反射光の散乱効果が高められる。例えば、上記平面視において、凸部21aが四角形形状を有し、隣り合う凸部21aにおいて、短辺方向の幅および長辺方向の幅の少なくとも一方が互いに異なる形態であれば、凸部21aの形状が単純であって凸部21aの形成が容易でありながら、複数の凸部21aの形状が一定である形態と比較して、多層膜層22の反射光の散乱効果が高められる。
【0055】
また、凸部21aの高さが、上記平面視での凸部21aの端部から重心である中心に向けて徐々に大きくなる形態であれば、厚さ方向に沿った断面において、凸部21aの周面は当該周面の基端と先端とを結ぶ直線を構成していてもよい。ただし、上記断面において凸部21aの周面が曲線を構成する形態の方が、入射光に対する凸部21aの周面の角度が、周面内において不均一になるため、多層膜層22の反射光の散乱効果が高められる。
【0056】
[製造方法]
光学素子部10の製造方法を説明する。凹凸構造層21が有する凹凸構造の形成方法としては、熱や紫外線を利用した転写成形、射出成形、切削等の機械加工、エッチング等が用いられる。転写成形や射出成形に用いられる凹版は、機械加工やエッチングによって形成される。
【0057】
例えば、形成対象の凹凸が反転された凹凸を有する凹版に、凹凸構造層21の材料である紫外線硬化性樹脂が塗布され、塗布液からなる層の表面に、基材20が重ねられる。基材20と凹版とが互いに押し付けられた状態で、紫外線が照射され、硬化した樹脂からなる層および基材20から凹版が離型される。これによって、凹版の有する凹凸が樹脂に転写されて、表面に凹凸構造を有する凹凸構造層21が形成され、基材20と凹凸構造層21とからなる積層体が形成される。
【0058】
続いて、凹凸構造層21の凹凸構造を有する表面に、多層膜層22を構成する層が順に積層される。多層膜層22を構成する高屈折率層22aと低屈折率層22bとが無機材料から形成される場合、高屈折率層22aおよび低屈折率層22bの各々は、スパッタリング、真空蒸着、あるいは、原子層堆積法等の公知の薄膜形成技術を用いて形成される。また、高屈折率層22aおよび低屈折率層22bの各々が有機材料から形成される場合、高屈折率層22aおよび低屈折率層22bの形成には、自己組織化等の公知の技術が用いられればよい。
【0059】
[発色シール]
発色構造体を発色シールに適用した場合の構造について説明する。発色シールは、被着体に貼り付けられて、被着体の装飾等に用いられる。
【0060】
図4が示すように、発色シール30を構成する発色構造体40は、光学素子部10と、吸収層50と、接着層51とを備えている。吸収層50および接着層51は、多層膜層22に対して、凹凸構造層21と反対側に位置する。
【0061】
吸収層50は、多層膜層22の最外面の凹凸を覆っている。吸収層50は、多層膜層22を透過した光を吸収する光吸収性を有する。例えば、吸収層50は、光吸収剤や黒色顔料等の可視領域の光を吸収する材料を含む層である。具体的には、吸収層50は、カーボンブラック、チタンブラック、黒色酸化鉄、黒色複合酸化物等の黒色の無機顔料が樹脂に混合された層であることが好ましい。吸収層50の膜厚は、例えば、1μm以上10μm以下である。
【0062】
接着層51は、吸収層50に対して多層膜層22と反対側で吸収層50に接し、発色構造体40の最外面を構成している。接着層51は、被着体に対する接着性を有する層であって、例えば、アクリル系やウレタン系等の粘着剤から構成される。接着層51の膜厚は、例えば、10μm以上100μm以下である。
【0063】
吸収層50および接着層51は、例えば、インクジェット法、スプレー法、バーコート法、ロールコート法、スリットコート法、グラビアコート法等の公知の塗布法を用いて形成される。
【0064】
発色シール30は、接着層51が被着体に接するように、すなわち、多層膜層22に対して凹凸構造層21と反対側に被着体が位置するように、被着体に貼り付けられる。観察者は、多層膜層22に対して凹凸構造層21の位置する側から発色シール30を観察する。
【0065】
上述のように、入射光のうち、多層膜層22にて反射される特定の波長域以外の光の一部は、多層膜層22を透過する。この透過光の波長域は多層膜層22における反射光の波長域とは異なるため、こうした透過光が視認されると、反射光による色の視認性が低下する。上記発色シール30においては、発色構造体40が吸収層50を備えていることにより、多層膜層22の透過光は吸収層50に吸収され、この透過光が被着体の表面等で反射されて基材20側に射出されることが抑えられる。
【0066】
したがって、多層膜層22からの反射光とは異なる波長域の光が観察者に視認されることが抑えられるため、反射光による色の視認性が低下することが抑えられる。それゆえ、発色シール30において所望の発色が好適に得られる。
【0067】
[転写シート]
発色構造体を転写シートに適用した場合の構造について説明する。転写シートは、被着体に発色シートを貼り付けるために用いられるシートである。言い換えれば、転写シートは、転写シートが備える発色シートを被着体に転写するために用いられる。
【0068】
図5が示すように、転写シート31を構成する発色構造体41は、光学素子部11と、吸収層52と、接着層53とを備えている。
光学素子部11は、上述した光学素子部10と同様の構成の基材20、凹凸構造層21、多層膜層22を備えている。ただし、光学素子部11においては、基材20が凹凸構造層21に対して剥離可能に構成されている。具体的には、光学素子部11は、基材20と凹凸構造層21との間に、剥離層23を備えている。剥離層23は、シリコーンオイルやフッ素化合物等の離型剤として機能する成分を含有している。こうした剥離層23は、基材20の表面に、公知の塗布法によって形成される。
【0069】
吸収層52および接着層53は、多層膜層22に対して、凹凸構造層21と反対側に位置する。吸収層52は、多層膜層22の最外面の凹凸を覆っている。接着層53は、吸収層52に対して多層膜層22と反対側で吸収層52に接し、発色構造体41の最外面を構成している。吸収層52は、上述した発色シール30の吸収層50と同様の構成を有し、接着層53は、上述した発色シール30の接着層51と同様の構成を有する。
【0070】
転写シート31の使用時には、転写シート31は、接着層53と被着体とが接するように、被着体の表面に固定される。そして、基材20が剥離される。基材20は、基材20と剥離層23との界面で剥離が生じることにより剥離されてもよいし、剥離層23と凹凸構造層21との界面で剥離が生じることにより、剥離層23と共に剥離されてもよい。これにより、凹凸構造層21、多層膜層22、吸収層52、および、接着層53を備える発色シート32が被着体に転写される。基材20と剥離層23との界面で剥離が生じる場合には、剥離層23も発色シート32に含まれる。発色シート32における接着層53と反対側の最外面は、剥離層23もしくは凹凸構造層21が構成する。
【0071】
以上のように、転写シート31および発色シート32は、多層膜層22に対して凹凸構造層21と反対側に被着体が位置するように、被着体に貼り付けられる。観察者は、多層膜層22に対して凹凸構造層21の位置する側から発色シート32を観察する。
【0072】
上述した発色シール30と同様に、発色構造体41が吸収層52を備えていることにより、多層膜層22の透過光は吸収層52に吸収され、この透過光が被着体の表面等で反射されて凹凸構造層21側に射出されることが抑えられる。したがって、多層膜層22からの反射光とは異なる波長域の光が観察者に視認されることが抑えられるため、反射光による色の視認性が低下することが抑えられる。それゆえ、発色シート32において所望の発色が好適に得られる。
【0073】
また、発色シート32は、製造時の基材である基材20を有さないため、発色シート32の柔軟性が高められる。したがって、例えば被着体の表面が曲面である場合にも、被着体の表面に発色シート32が追従しやすい。その結果、被着体の表面に発色シート32を沿わせるために発色シート32にかける負荷を軽減できるとともに、発色シート32が被着体から剥がれることも抑えられる。さらに、発色シート32が製造時の基材を有している場合と比較して、発色シート32の厚さが薄くなる。したがって、発色シート32が貼り付けられている部分が盛り上がることが抑えられる。それゆえ、例えば、発色シート32が装飾のために用いられる場合には、その装飾性を高めることも可能である。
【0074】
また、発色シート32において、多層膜層22における吸収層52と反対側の最外面は凹凸構造層21に覆われる。したがって、凹凸構造層21も剥離されて多層膜層22における上記最外面が外部に露出される場合と比較して、上記最外面を覆う保護層を別途形成せずとも、多層膜層22が有する凹凸構造が保護される。そのため、当該凹凸構造が変形して所望の発色が得られ難くなることが抑えられる。
【0075】
なお、光学素子部11が剥離層23を備えず、材料の調整によって、基材20が凹凸構造層21から剥離可能に構成されていてもよい。例えば、基材20が離型剤を含んでいてもよいし、基材20と凹凸構造層21との密着性が低くなるように、基材20の材料と凹凸構造層21の材料とが選択されてもよい。
【0076】
また、発色シート32の転写時には、加熱および加圧、水圧の付加、紫外線照射等が行われてもよい。そして、こうした転写時に与えられる刺激によって、基材20の剥離性や接着層53の接着性が発現してもよい。例えば、接着層53は、ポリエチレン、ポリ酢酸ビニル、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリウレタン等のヒートシール剤として機能する熱可塑性樹脂から構成されてもよく、こうした形態であれば、接着層53の接着性は、加熱によって発現する。
【0077】
[発色物品]
被着体に貼り付けられた発色シール30もしくは発色シート32と、観察者との位置関係について説明する。
【0078】
図6が示すように、被着体61と発色シール30もしくは発色シート32とから、発色物品60が構成される。発色シール30は、接着層51が被着体61の表面に接するように、被着体61に貼り付けられる。発色シート32は、転写シート31が、接着層53が被着体61の表面に接するように被着体61に貼り付けられた後、基材20が剥離されることによって、被着体61に固定される。被着体61の形状や材料は特に限定されず、例えば、被着体61は、カードや立体物等の樹脂成形品であってもよいし、紙であってもよい。要は、被着体61は、接着層51,53の接着可能な表面を有していればよい。
【0079】
発色シール30もしくは発色シート32が被着体61に固定された状態において、多層膜層22に対して被着体61とは反対側に凹凸構造層21が位置する。すなわち、観察者Obから見て、多層膜層22よりも手前に凹凸構造層21が位置する。こうした構成においては、観察者Obは、凹凸構造層21および多層膜層22の凹凸が、観察者Obから離れる向きに凸部21aが突き出すように位置する方向、言い換えれば、上記凹凸が奥側に向けて窪む凹部から構成されるように見える方向から、発色シール30もしくは発色シート32を観察することになる。
【0080】
以上、第1実施形態の発色構造体によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)発色構造体40,41が、凹凸構造層21と、凹凸構造層21の凹凸構造に追従した表面形状を有する多層膜層22とを備える。凸部21aの幅Dは、10μm以上100μm以下であり、厚さ方向に沿った凸部21aの高さは、平面視での凸部21aの端部から中央部に向かって連続的に大きくなり、幅Dに対する最大高さHの比は、0.1以上1.0以下である。こうした構成によれば、多層膜層22が凹凸構造層21の凹凸構造に沿った表面形状を有することにより、多層膜層22にて干渉により強められる特定の波長域の反射光が散乱されて、様々な方向に射出される。そのため、観察角度の変化による色変化が抑えられ、特定の色が広い観察角度で視認可能となる。
【0081】
(2)厚さ方向に沿った凹凸構造層21の断面において、凸部21aの周面である表面が曲線を構成する形態であれば、当該表面が直線となる形態と比較して、入射光に対する凸部21aの周面の角度が、周面内において不均一になる。そのため、多層膜層22の反射光の散乱効果が高められる。
【0082】
(3)平面視において、複数の凸部21aが正方格子状に並ぶ形態であれば、複数の凸部21aの配置の設計および複数の凸部21aの形成が容易である。また、平面視にて凸部21aが四角形形状を有する場合には、平坦部が少なくなるように複数の凸部21aを配置することが容易である。
【0083】
(4)凹凸構造層21の表面に含まれる平坦部の割合が、平面視での当該表面の単位面積あたりにおいて10%以下である形態では、多層膜層22からの反射光において散乱成分の割合が十分に確保されるため、観察角度の変化による色変化が的確に抑えられる。また、多層膜層22からの反射光における正反射成分の割合が小さく抑えられるため、発色構造体40,41の観察者の目にかかる負担が小さくなる。
【0084】
(5)平面視において、凸部21aが四角形形状を有する形態であれば、凸部21aの周面内において部位による周面の傾きのばらつきが大きいため、入射光に対する凸部21aの周面の角度が、周面内においてより不均一になる。それゆえ、凸部21aの形状が単純であって凸部21aの形成が容易でありながら、多層膜層22の反射光の散乱効果が高められる。
【0085】
(6)平面視において、凸部21aが正方形形状を有し、複数の凸部において、幅Dが一定である形態では、平坦部が少なくなるように複数の凸部21aを配置することが容易である。また、平面視において、凸部21aが四角形形状を有し、隣り合う凸部21aにおいて、短辺方向の幅および長辺方向の幅の少なくとも一方が互いに異なる形態であれば、複数の凸部21aの形状が一定である形態と比較して、多層膜層22の反射光の散乱効果が高められる。
【0086】
(7)多層膜干渉による反射光、すなわち、多層膜の各界面で反射された光が干渉することによって強められた反射光が発色構造体40,41から射出されるため、単層の薄膜による干渉を利用する形態と比較して、反射光の強度が大きくなる。そして、発色構造体40,41が、多層膜層22を透過した光を吸収する吸収層50,52を備えているため、凹凸構造層21の位置する側から見て、多層膜層22からの反射光とは異なる波長域の光が視認されることが抑えられる。したがって、反射光による色の視認性が低下することが抑えられる。
【0087】
(8)発色構造体40,41が、多層膜層22に対して凹凸構造層21とは反対側に位置して発色構造体40,41の最外面を構成する接着層51,53を備えている。こうした構成によれば、多層膜層22に対して凹凸構造層21と反対側に被着体が位置するように、被着体に貼り付けられる発色シール30および転写シート31に適した発色構造体40,41が実現される。
【0088】
(9)発色構造体41において、基材20が凹凸構造層21に対して剥離可能に構成されている。こうした構成によれば、転写シート31に適した発色構造体41が実現される。そして、基材20が剥離されることにより、転写シート31から被着体61に転写された発色シート32は、製造時の基材を有さないため、発色シート32の柔軟性が高められる。また、発色シート32において、多層膜層22における吸収層52と反対側の最外面は凹凸構造層21に覆われるため、凹凸構造層21も剥離されて多層膜層22における上記最外面が外部に露出される場合と比較して、上記最外面を覆う保護層を別途形成せずとも、多層膜層22が有する凹凸構造が保護される。そのため、当該凹凸構造が変形して所望の発色が得られ難くなることが容易に抑えられる。
【0089】
(第2実施形態)
図7図9を参照して、発色構造体の第2実施形態を説明する。第2実施形態の発色構造体は、第1実施形態とは光学素子部の構造が異なる。以下では、第2実施形態と第1実施形態との相違点を中心に説明し、第1実施形態と同様の構成については同じ符号を付してその説明を省略する。
【0090】
[光学素子部]
図7が示すように、第2実施形態の光学素子部12は、第1実施形態の光学素子部10と比較して、多層膜層22に代えて単層膜層24および反射層25を備えている。すなわち、光学素子部12は、基材20、凹凸構造層21、単層膜層24、反射層25をこの順に備えている。第2実施形態においては、単層膜層24および反射層25が光学層を構成する。
【0091】
第2実施形態において、光学素子部12を備える発色構造体は、単層膜層24に対して凹凸構造層21の位置する側から観察されるように用いられる。
光学素子部12における基材20および凹凸構造層21の構成は、第1実施形態の光学素子部10が備える基材20および凹凸構造層21と同様である。凹凸構造層21が有する凹凸構造も、第1実施形態で説明した凹凸構造と同様の構成を有する。なお、光学素子部12は、基材20を備えていなくてもよい。
【0092】
単層膜層24は、凹凸構造層21の表面を覆い、凹凸構造層21が有する凹凸構造に追従した表面形状を有している。単層膜層24は、誘電体から構成された単層の薄膜からなる層である。
【0093】
単層膜層24に光が入射すると、単層膜層24は、薄膜干渉による反射光を射出する。すなわち、単層膜層24の表裏の界面で反射した光が干渉を起こし、これによって強められた波長域の光が射出される。
【0094】
単層の薄膜干渉による反射光の波長域は、多層膜干渉による反射光の波長域ほど急峻なピークを有さない。しかし、反射光の波長域が可視領域の端部とその外側とを含むように、例えば、可視領域の短波長側から紫外領域の一部までを含むように単層膜層24を設計することで、観察者には単層膜層24からの反射光として可視領域の短波長側に対応する特定の色を視認させることができる。
【0095】
そして、凹凸構造層21の凹凸構造に起因して、単層膜層24の上記界面の入射光に対する角度が光学素子部12内で変化するため、単層膜層24の反射光が散乱され、干渉によって強められた波長域の光が、様々な方向に射出される。その結果、特定の色が広い観察角度で視認可能となる。
【0096】
単層膜層24の材料および膜厚は、発色構造体にて発色させる所望の色に応じて、選択されればよい。単層膜層24は、例えば、無機酸化物、無機窒化物、および、無機酸窒化物のいずれかの材料から構成される。単層膜層24の膜厚は、例えば、10nm以上1000nm以下の範囲から選択される。
【0097】
反射層25は、単層膜層24に対して凹凸構造層21とは反対側で、単層膜層24に接している。反射層25は、単層膜層24と反射層25との界面において、干渉によって強められる波長域の光の反射を強める反射膜である。また、反射層25は、上記界面で反射されずに単層膜層24を透過した光を吸収する。単層膜層24と反射層25との界面における光の反射率は高いほど好ましく、単層膜層24と反射層25とは、これらの層の界面において高い割合で鏡面反射が生じるように構成されていることが好ましい。言い換えれば、反射層25における光の透過が小さく、かつ、単層膜層24と反射層25との界面における光の反射が大きいことが好ましく、反射層25の表面は金属光沢を有していることが好ましい。
【0098】
具体的には、単層膜層24と反射層25との界面で反射される光に含まれる波長域に対して、反射層25の屈折率n2は単層膜層24の屈折率n1よりも大きく、単層膜層24の消衰係数k1は1以下であり、反射層25の消衰係数k2は1よりも大きいことが好ましい。また、反射層25における可視光線透過率は、単層膜層24における可視光線透過率よりも低く、30%以下であることが好ましい。
【0099】
こうした構成であれば、単層膜層24と反射層25との界面で高い反射率が得られるとともに、単層膜層24を透過した光が反射層25において吸収されるため、反射層25と被着体との間に存在する各層の界面における反射が、視認される色に与える影響が小さくなる。それゆえ、発色構造体からの反射光による色の鮮やかさが高められ、当該色の視認性が高められる。
【0100】
反射層25を設けない場合、単層膜層24からの薄膜干渉による反射光の強度は、第1実施形態の多層膜層22からの多層膜干渉による反射光の強度よりも小さい。単層膜層24に反射層25が積層されることによって、反射光の強度が高められるため、反射光の視認性、すなわち、薄膜干渉による特定の色の視認性が高められる。
【0101】
こうした単層膜層24と反射層25との実現のためには、単層膜層24が、無機酸化物、無機窒化物、および、無機酸窒化物のいずれかの材料から構成されているとき、反射層25は、金属材料から構成されていることが好ましい。一例として、単層膜層24が酸化チタンから構成され、反射層25がチタンから構成される形態や、単層膜層24が酸化ジルコニウムから構成され、反射層25がジルコニウムから構成される形態が挙げられる。反射層25の膜厚は、例えば、10nm以上1000nm以下である。
単層膜層24および反射層25は、材料に応じて、スパッタリング、真空蒸着、あるいは、原子層堆積法等の公知の薄膜形成技術によって形成される。
【0102】
[発色シールおよび転写シート]
光学素子部12を備える発色構造体を発色シールおよび転写シートに適用した場合の構造について説明する。
【0103】
図8が示すように、発色シール33を構成する発色構造体42は、光学素子部12と、接着層54とを備えている。
接着層54は、単層膜層24および反射層25に対して凹凸構造層21と反対側で反射層25に接し、発色構造体42の最外面を構成している。接着層54は、第1実施形態の接着層51と同様の構成を有する。
【0104】
発色シール33は、接着層54が被着体の表面に接するように、すなわち、単層膜層24に対して凹凸構造層21と反対側に被着体が位置するように、被着体に貼り付けられる。観察者は、単層膜層24に対して凹凸構造層21の位置する側から発色シール33を観察する。
【0105】
図9が示すように、転写シート34を構成する発色構造体43は、光学素子部13と、接着層55とを備えている。
光学素子部13は、上述した光学素子部12と同様の構成の基材20、凹凸構造層21、単層膜層24、および、反射層25を備えている。そして、光学素子部13においては、例えば基材20と凹凸構造層21との間に剥離層23を備えることによって、基材20が凹凸構造層21に対して剥離可能に構成されている。凹凸構造層21に対する基材20の剥離に関する構成は、第1実施形態の光学素子部11と同様である。
【0106】
接着層55は、単層膜層24および反射層25に対して凹凸構造層21と反対側で反射層25に接し、発色構造体43の最外面を構成している。接着層55は、上述した発色シール33の接着層54と同様の構成を有する。
【0107】
転写シート34が、接着層55と被着体とが接するように、被着体の表面に固定され、基材20が剥離されることにより、凹凸構造層21、単層膜層24、反射層25、および、接着層55を備える発色シート35が被着体に転写される。基材20と剥離層23との界面で剥離が生じる場合には、剥離層23も発色シート35に含まれる。発色シート35における接着層55と反対側の最外面は、剥離層23もしくは凹凸構造層21が構成する。
【0108】
以上のように、転写シート34および発色シート35は、単層膜層24に対して凹凸構造層21と反対側に被着体が位置するように、被着体に貼り付けられる。観察者は、単層膜層24に対して凹凸構造層21の位置する側から発色シート35を観察する。
【0109】
なお、光学素子部13が剥離層23を備えず、材料の調整によって、基材20が凹凸構造層21から剥離可能に構成されていてもよい。また、発色シート35の転写時には、加熱および加圧、水圧の付加、紫外線照射等が行われてもよい。そして、こうした転写時に与えられる刺激によって、基材20の剥離性や接着層53の接着性が発現してもよい。
【0110】
第2実施形態の発色シール33もしくは発色シート35が被着体に固定された状態において、単層膜層24に対して被着体とは反対側に凹凸構造層21が位置する。すなわち、観察者Obから見て、単層膜層24よりも手前に凹凸構造層21が位置する。こうした構成においては、第1実施形態と同様に、観察者Obは、凹凸構造層21および単層膜層24の凹凸が、観察者Obから離れる向きに凸部21aが突き出すように位置する方向から、発色シール33もしくは発色シート35を観察することになる。
【0111】
以上、第2実施形態の発色構造体によれば、第1実施形態の(1)~(6),(8),(9)において多層膜層22を単層膜層24に置き換えた効果が得られるとともに、以下の効果を得ることができる。
【0112】
(10)干渉を生じさせるための層が単層の薄膜から構成されるため、多層膜干渉が利用される形態と比較して、発色構造体42,43の製造に要する工程数を削減することができる。
【0113】
(11)単層膜層24に、干渉によって強められる波長域の光の反射を強める反射層25が積層されている。こうした構成であれば、発色構造体42,43から射出される反射光の強度が大きくなる。したがって、反射光による色の視認性が高められる。
【0114】
(第3実施形態)
図10図12を参照して、発色構造体の第3実施形態を説明する。第3実施形態の発色構造体は、第1実施形態とは観察される方向が異なる。以下では、第3実施形態と第1実施形態との相違点を中心に説明し、第1実施形態と同様の構成については同じ符号を付してその説明を省略する。
【0115】
[発色シール]
第3実施形態の発色構造体を発色シールに適用した場合の構造について説明する。
図10が示すように、発色シール36を構成する発色構造体44は、光学素子部14と、接着層56とを備えている。第3実施形態の発色シール36は、多層膜層22に対して凹凸構造層26と同じ側に被着体が位置するように、被着体に貼り付けられる。観察者は、多層膜層22に対して凹凸構造層26と反対側から発色シール36を観察する。
【0116】
光学素子部14は、基材20、凹凸構造層26、および、多層膜層22を備えている。基材20および多層膜層22の構成は、第1実施形態の光学素子部10が備える基材20および多層膜層22と同様である。
【0117】
凹凸構造層26は、第1実施形態で説明した凹凸構造層21の凹凸構造と同様の構成の凹凸構造を有する。ただし、第3実施形態の凹凸構造層26は、多層膜層22を透過した光を遮蔽する。例えば、凹凸構造層26は、多層膜層22の透過光の吸収性を有し、光吸収剤や黒色顔料等の可視領域の光を吸収する材料を含む層である。具体的には、凹凸構造層26は、カーボンブラック、チタンブラック、黒色酸化鉄、黒色複合酸化物等の黒色の無機顔料が樹脂に混合された層である。あるいは、凹凸構造層26は、金属材料を含む層であってもよい。
【0118】
接着層56は、凹凸構造層26に対して多層膜層22と反対側に位置し、基材20に接して発色構造体44の最外面を構成している。接着層56は、積層位置以外は、第1実施形態の接着層51と同様の構成を有する。
【0119】
なお、光学素子部14は、基材20を備えていなくてもよい。光学素子部14が基材20を備えない場合、接着層56は、凹凸構造層26における凹凸構造を有する面とは反対側の面に接して、発色構造体44の最外面を構成する。
【0120】
第3実施形態の発色シール36においては、多層膜層22の透過光は、凹凸構造層26に遮蔽され、この透過光が被着体の表面等で反射されて多層膜層22側に射出されることが抑えられる。これにより、多層膜層22からの反射光とは異なる波長域の光が観察者に視認されることが抑えられるため、反射光による色の視認性が低下することが抑えられる。
【0121】
なお、凹凸構造層26に代えて、基材20が、多層膜層22の透過光の遮蔽性を有していてもよい、さらに、凹凸構造層26とは別に、多層膜層22の透過光の遮蔽性を有する層が設けられていてもよい。例えば、図11が示す発色シール37を構成する発色構造体45は、第1実施形態の光学素子部10、すなわち、透明な材料から構成された基材20および凹凸構造層21を備える光学素子部10と、吸収層57と、接着層56とを備える。
【0122】
吸収層57は、凹凸構造層21に対して多層膜層22と反対側に位置し、基材20における凹凸構造層21に接する面とは反対側の面に接している。吸収層57は、第1実施形態の吸収層50と同様、光吸収剤や黒色顔料等の可視領域の光を吸収する材料を含む層であって、多層膜層22を透過した光を吸収する光吸収性を有する。なお、光学素子部10が基材20を備えない場合、吸収層57は、凹凸構造層21における凹凸構造を有する面とは反対側の面に接する。接着層56は、吸収層57に対して凹凸構造層21とは反対側で吸収層57に接する。
【0123】
上記構成の発色シール37においては、多層膜層22の透過光は、吸収層57に吸収され、この透過光が被着体の表面等で反射されて多層膜層22側に射出されることが抑えられる。これにより、反射光による色の視認性が低下することが抑えられる。
【0124】
なお、発色構造体44,45は、多層膜層22における凹凸構造層21,26と反対側の表面を保護する保護層を備えていてもよい。保護層は、例えば透明な樹脂から構成され、多層膜層22の表面の凹凸構造を保護する。これに対し、多層膜層22の表面が露出されて、発色構造体44,45における接着層56と反対側の最外面、すなわち、外気に曝される最外面が、無機材料からなる多層膜層22から構成される形態であれば、発色構造体44,45の対候性が高められる。
【0125】
[発色物品]
被着体に貼り付けられた発色シール36,37と、観察者との位置関係について説明する。
【0126】
図12が示すように、被着体61と発色シール36,37とから、発色物品62が構成される。発色シール36,37は、接着層56が被着体61の表面に接するように、被着体61に貼り付けられる。
【0127】
発色シール36,37が被着体61に固定された状態において、多層膜層22に対して被着体61と同一の側に凹凸構造層26,21が位置する。すなわち、観察者Obから見て、多層膜層22よりも奥に凹凸構造層26,21が位置する。こうした構成においては、観察者Obは、凹凸構造層26,21および多層膜層22の凹凸が、観察者Obに向かって凸部21aが突き出すように位置する方向から、発色シール36,37を観察することになる。
【0128】
以上、第3実施形態の発色構造体によれば、第1実施形態の(1)~(6)と同様の効果に加えて、以下の効果を得ることができる。
(12)多層膜干渉による反射光、すなわち、多層膜の各界面で反射された光が干渉することによって強められた反射光が発色構造体44,45から射出されるため、単層の薄膜による干渉を利用する形態と比較して、反射光の強度が大きくなる。そして、発色構造体44,45が、多層膜層22を透過した光を遮蔽する層を備えているため、多層膜層22の位置する側から見て、多層膜層22からの反射光とは異なる波長域の光が視認されることが抑えられる。したがって、反射光による色の視認性が低下することが抑えられる。
【0129】
特に上記透過光の遮蔽性を有する層が凹凸構造層26である形態では、凹凸構造を有する層が、遮蔽性を有する層を兼ねているため、発色構造体44の構成層を増加させずに、多層膜層22の透過光を遮蔽する構成が実現可能である。したがって、発色構造体44を薄く形成しやすい。
【0130】
一方、透過光の遮蔽性を有する吸収層57が、基材20および凹凸構造層21とは別に設けられている形態では、凹凸構造層21と吸収層57との各々の機能が特化されているため、各層の機能に適した材料から各層を構成することができる。例えば、凹凸構造をより形成しやすい材料から凹凸構造層21を形成し、光吸収性のより高い材料から吸収層57を形成することができる。したがって、各層を形成しやすくすることや、各層の機能を高めることが可能である。
【0131】
(13)発色構造体44,45が、凹凸構造層21,26に対して多層膜層22とは反対側に位置して発色構造体44,45の最外面を構成する接着層56を備えている。こうした構成によれば、多層膜層22に対して凹凸構造層21,26と同一の側に被着体が位置するように、被着体に貼り付けられる発色シール36,37に適した発色構造体44,45が実現される。
【0132】
[変形例]
上記各実施形態は、以下のように変更して実施することが可能である。
・第1実施形態および第3実施形態において、吸収層50,52,57および凹凸構造層26の各層は、可視領域の光のすべてを吸収せずとも、多層膜層22を透過する光の少なくとも一部を吸収する光吸収性を有する構成であれば、こうした光吸収性を有する層が設けられない構成と比較して、反射光による色の視認性が低下することを抑えることはできる。例えば、上記各層は、多層膜層22を透過する光の波長域に応じた色の顔料を含む層であってもよい。ただし、上記各層が黒色顔料を含む黒色の層であれば、透過光の波長域に応じた色の調整等が不要であり、また、上記各層が広い波長域の光を吸収するため、簡便に、かつ、好適に、反射光による色の視認性の低下が抑えられる。
【0133】
・第1実施形態および第3実施形態において、発色構造体は、多層膜層22を透過する光の吸収性を有する層を備えていなくてもよい。例えば、光を反射し難い被着体に発色シールや発色シートが貼り付けられる場合には、多層膜層22を透過する光の吸収性を有する層が設けられていなくても、反射光の色の視認性は良好に得られる。
【0134】
・第2実施形態において、単層膜層24と反射層25とは、単層膜層24と反射層25との界面での反射光に含まれる少なくとも一部の波長域に対して、高い反射率を有するように構成されていればよい。上記反射光の一部の波長域に対する反射率が高い構成であっても、上記反射光の波長域の全体について反射率が低い構成と比較して、反射光の強度を高める効果は得られる。具体的には、上記少なくとも一部の波長域に対して、反射層25の屈折率n2は単層膜層24の屈折率n1よりも大きく、単層膜層24の消衰係数k1は1以下であり、反射層25の消衰係数k2は1よりも大きければよい。
【0135】
・第3実施形態の発色構造体、すなわち、多層膜層22に対して凹凸構造層21,26と反対側から観察される発色構造体が、転写シートに適用されてもよい。この場合、例えば、多層膜層22に対して凹凸構造層21,26と反対側に、転写に際して剥離される剥離用基材が積層された構造を有する発色構造体から、転写シートが構成される。また、第1実施形態および第2実施形態の転写シート31,34は、製造時の基材である基材20とは別の基材を、転写時に剥離される剥離用基材として備えていてもよい。また、第1実施形態および第2実施形態の転写シート31,34において、凹凸構造層21と多層膜層22あるいは単層膜層24とが剥離可能に構成され、転写に際して基材20および凹凸構造層21が剥離されてもよい。
【0136】
・発色構造体は、多層膜層22と反射層25とを備えてもよい。言い換えれば、第2実施形態において、発色構造体は、単層膜層24に代えて多層膜層22を備えていてもよい。
【0137】
・凹凸構造層21,26の凹凸構造は、多層膜層22あるいは単層膜層24に対して窪む複数の凹部から構成されていてもよい。すなわち、凹凸構造は、凸部または凹部である複数の凹凸要素から構成されていればよい。凹凸要素が凹部である場合、平面視における凹部の形状には、凸部21aの形状と同様の構成が適用される。すなわち、平面視における凹部の短辺方向の幅および長辺方向の幅の各々は、10μm以上100μm以下であればよい。また、凹部の深さに関する構成には、凸部21aの高さと同様の構成が適用される。すなわち、凹凸構造層21,26の厚さ方向に沿った凹部の寸法である深さは、平面視での凹部の端部から中央部に向かって連続的に大きくなり、上記短辺方向の幅に対する、凹部内における深さの最大値の比は、0.1以上1.0以下であればよい。
【0138】
・発色構造体は、上記各実施形態で説明した層に加えて、これらの層間の密着性を高めるための層や、紫外線吸収機能を有する層等の他の層を備えていてもよい。
【0139】
[実施例]
上述した発色構造体について、具体的な実施例を用いて説明する。
本実施例の発色構造体は、ポリエチレンテレフタラートからなる基材上に、紫外線硬化性樹脂からなる凹凸構造層と、TiO薄膜とSiO薄膜とを交互に5層ずつ積層した多層膜層とが順に形成された構造を有する。
【0140】
まず、凹凸構造を形成するための版を作製した。当該版は、ニッケルからなるメッキ層を切削刃により切削して作製した切削版である。上記メッキ層の表面には、平面視にて一辺が45μmの正方形領域を、端部から中央部にかけて弧を描くように連続的に深さを変えながら切削した凹部を、隙間無く形成した。上記正方形領域の中央部の掘り込み深さは7μmとした。上記切削版の表面に、離型剤としてオプツールHD―1100(ダイキン工業製)を塗布し、当該切削版を、紫外線硬化性樹脂を塗工したポリエチレンテレフタラート製の基材に押し付け、基材が位置する側から波長365nmの光を照射して紫外線硬化性樹脂を硬化した。切削版から紫外線硬化性樹脂を離型して、硬化した紫外線硬化性樹脂からなる凹凸構造層が基材上に形成された積層体を得た。次に、凹凸構造層上に、真空蒸着法を用いて厚さ60nmのTiO薄膜と厚さ80nmのSiO薄膜とを交互に5層ずつ積層し、実施例の発色構造体を得た。TiO薄膜が高屈折率層であり、SiO薄膜が低屈折率層である。
【0141】
発色構造体に対する図13に示すような入射角度θiと反射角度θrとをそれぞれ独立に設定可能な光学系を用いて、実施例の発色構造体の表面反射における反射特性を確認した。図14に、入射角度θiを30°に固定して、反射角度θrが15°、30°、45°の各々であるときの反射分光特性を測定した結果を示す。反射角度θrが15°、30°、45°のいずれの場合においても、TiO薄膜とSiO薄膜との多層膜干渉に起因した波長選択性のある反射スペクトルが観測された。平坦な表面上に形成された多層膜層における多層膜干渉では、入射角度θiと反射角度θrとが等しい条件でのみ、波長選択性のある反射が観測されることに対し、本実施例の発色構造体においては、入射角度θiと反射角度θrとが15°異なる条件でも、青色の波長域を選択的に反射する反射スペクトルが観察された。したがって、本実施例の発色構造体では、紫外線硬化性樹脂からなる凹凸構造層上にTiO薄膜とSiO薄膜とからなる多層膜層を形成することで、こうした構造に起因した散乱効果が付与されていることが確認できた。
【0142】
また、上記散乱効果が得られる角度範囲を確認するため、入射角度θiを30°に固定した場合の、波長460nmと波長580nmとの反射光強度の反射角度θr依存性を測定した。この結果を図15に示す。図15が示すように、本実施例の発色構造体は、およそ80°の角度範囲において、青色の波長域を選択的に反射する発色構造体であることが確認された。
【符号の説明】
【0143】
10,11,12,13,14…光学素子層、20…基材、21,26…凹凸構造層、21a…凸部、22…多層膜層、22a…高屈折率層、22b…低屈折率層、23…剥離層、24…単層膜層、25…反射層、30,33,36,37…発色シール、31,34…転写シート、32,35…発色シート、40,41,42,43,44,45…発色構造体、50,52,57…吸収層、51,53,54,55,56…接着層、61…被着体、60,62…発色物品。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15