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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】全固体電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0562 20100101AFI20231003BHJP
   H01M 10/0565 20100101ALI20231003BHJP
   H01M 10/0585 20100101ALI20231003BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20231003BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01M10/0565
H01M10/0585
H01M10/052
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019030939
(22)【出願日】2019-02-22
(65)【公開番号】P2020136187
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2022-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000005496
【氏名又は名称】富士フイルムビジネスイノベーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菅原 啓
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 英一
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 知也
(72)【発明者】
【氏名】吉村 耕作
(72)【発明者】
【氏名】鹿島 保伸
【審査官】上野 文城
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-014850(JP,A)
【文献】特開2017-103146(JP,A)
【文献】特開2010-170770(JP,A)
【文献】特開2018-141110(JP,A)
【文献】特開2015-153460(JP,A)
【文献】国際公開第2013/125007(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0166741(US,A1)
【文献】国際公開第2016/047360(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0562
H01M 10/0565
H01M 10/0585
H01M 10/052
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質を含む正極活物質層と、
負極活物質を含む負極活物質層と、
固体電解質、及び前記固体電解質を保持する多孔質ポリイミド膜を含む固体電解質層と、を備え、
前記多孔質ポリイミド膜は、空隙率が60%以上80%以下であり、空孔径が0.1μm以上10μm以下であり、
前記固体電解質層全体の厚さに対する前記多孔質ポリイミド膜の膜厚の比(多孔質ポリイミド膜の膜厚/固体電解質層全体の厚さ)が、0.5以上である、
全固体電池。
【請求項2】
前記固体電解質層全体の厚さに対する前記多孔質ポリイミド膜の膜厚の比(多孔質ポリイミド膜の膜厚/固体電解質層全体の厚さ)が、0.5以上である請求項に記載の全固体電池。
【請求項3】
前記比(多孔質ポリイミド膜の膜厚/固体電解質層全体の厚さ)が、0.9以上である、請求項1又は請求項に記載の全固体電池。
【請求項4】
前記多孔質ポリイミド膜は、球状の空孔を備え、長径と短径の比(長径/短径)が1.5以上である空孔の割合が20%以下である、請求項1~請求項のいずれか1項に記載の全固体電池。
【請求項5】
前記比(長径/短径)が1.5以上である空孔の割合が15%以下である、請求項に記載の全固体電池。
【請求項6】
前記多孔質ポリイミド膜は、空孔の円形度が0.85以上である、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の全固体電池。
【請求項7】
前記円形度が0.90以上である、請求項に記載の全固体電池。
【請求項8】
前記多孔質ポリイミド膜の平均膜厚が10μm以上1000μm以下である、請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の全固体電池。
【請求項9】
前記平均膜厚が20μm以上500μm以下である、請求項に記載の全固体電池。
【請求項10】
前記固体電解質が、硫化物固体電解質を含有する、請求項1~請求項9のいずれか1項に記載の全固体電池。
【請求項11】
前記硫化物固体電解質が、硫黄と、リチウム及びリンの少なくとも一方とを構成元素として含む固体電解質である、請求項10に記載の全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液体電解質を固体電解質に置き換えた全固体電池が注目されている。
【0003】
特許文献1には、「周期律表第1族又は第2族に属する金属のイオンの伝導性を有する硫化物系無機固体電解質(A)と、酸化防止剤(B)と、分散媒(C)と、バインダー(D)とを含有する固体電解質組成物であって、前記バインダー(D)がポリウレタン、ポリウレア、ポリアミド、ポリイミドおよび/またはポリエステルを含む、固体電解質組成物。」が記載されている。
【0004】
特許文献2には、「正極活物質層、負極活物質層、および固体電解質層を有する全固体二次電池であって、前記正極活物質層、前記負極活物質層、および前記固体電解質層のうち少なくとも1つが、無機固体電解質およびポリオキシエチレン鎖を有する界面活性剤を含有する粒子状ポリマーからなる結着剤を含むことを特徴とする全固体二次電池。」が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許2018-088306号公報
【文献】特開2013-008611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
固体電解質の保持体として、多孔質膜(例えば、多孔質ポリオレフィン膜)を適用した固体電解質層を備える全固体電池は、繰り返し充放電したときの電池容量(以下、「サイクル特性」と称する場合がある。)が低下する場合がある。
【0007】
本発明の課題は、全固体電池が備える固体電解質層において、固体電解質を保持する保持体として、空隙率が60%未満若しくは80%超である多孔質ポリイミド膜を適用した場合、空孔径が0.1μm未満若しくは10μm超である多孔質ポリイミド膜を適用した場合、又は、空孔に充填される前記固体電解質の充填率が55%未満となる多孔質ポリイミド膜を適用した場合に比べ、繰り返し充放電による電池容量の低下が抑制される全固体電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための具体的手段には、下記の態様が含まれる。
【0009】
<1>
正極活物質を含む正極活物質層と、
負極活物質を含む負極活物質層と、
固体電解質、及び前記固体電解質を保持する多孔質ポリイミド膜を含む固体電解質層と、を備え、
前記多孔質ポリイミド膜は、空隙率が60%以上80%以下であり、空孔径が0.1μm以上10μm以下である全固体電池。
<2>
正極活物質を含む正極活物質層と、
負極活物質を含む負極活物質層と、
固体電解質、及び前記固体電解質を保持する多孔質ポリイミド膜を含む固体電解質層と、を備え、
前記多孔質ポリイミド膜の空孔に充填される前記固体電解質の充填率が55%以上である全固体電池。
<3>
前記多孔質ポリイミド膜は、球状の空孔を備え、長径と短径の比(長径/短径)が1.5以上である空孔の割合が20%以下である、<1>又は<2>に記載の全固体電池。
<4>
前記比(長径/短径)が1.5以上である空孔の割合が15%以下である、<3>に記載の全固体電池。
<5>
前記多孔質ポリイミドは、空孔の円形度が0.85以上である、<1>~<4>のいずれか1項に記載の全固体電池。
<6>
前記円形度が0.90以上である、<5>に記載の全固体電池。
<7>
平均膜厚が10μm以上1000μm以下である、<1>~<6>のいずれか1項に記載の全固体電池。
<8>
前記平均膜厚が20μm以上500μm以下である、<7>に記載の全固体電池。
<9>
前記固体電解質層全体の厚さに対する前記多孔質ポリイミド膜の膜厚の比(多孔質ポリイミド膜の膜厚/固体電解質層全体の厚さ)が、0.5以上である、<1>~<8>のいずれか1項に記載の全固体電池。
<10>
前記比(多孔質ポリイミド膜の膜厚/固体電解質層全体の厚さ)が、0.9以上である、<9>に記載の全固体電池。
<11>
前記固体電解質が、硫化物固体電解質を含有する、<1>~<10>のいずれか1項に記載の全固体電池。
<12>
前記硫化物固体電解質が、硫黄と、リチウム及びリンの少なくとも一方とを構成元素として含む固体電解質である、<11>に記載の全固体電池。
【発明の効果】
【0010】
<1>に係る発明によれば、全固体電池が備える固体電解質層において、固体電解質を保持する保持体として、空隙率が60%未満若しくは80%超である多孔質ポリイミド膜を適用した場合、又は、空孔径が0.1μm未満若しくは10μm超である多孔質ポリイミド膜を適用した場合に比べ、繰り返し充放電による電池容量の低下が抑制される全固体電池が提供される。
<2>に係る発明によれば、固体電解質を保持する保持体として、空孔に充填される前記固体電解質の充填率が55%未満となる多孔質ポリイミド膜を適用した場合に比べ、繰り返し充放電による電池容量の低下が抑制される全固体電池が提供される。
<3>、<4>に係る発明によれば、球状の空孔を備え、長径と短径の比(長径/短径)が1.5以上である空孔の割合が20%を超える多孔質ポリイミド膜を適用した場合に比べ、繰り返し充放電による電池容量の低下が抑制される全固体電池が提供される。
<5>、<6>に係る発明によれば、空孔の円形度が0.85未満である多孔質ポリイミド膜を適用した場合に比べ、繰り返し充放電による電池容量の低下が抑制される全固体電池が提供される。
<7>、<8>に係る発明によれば、膜厚が10μm未満又は1000μmを超える多孔質ポリイミド膜を適用した場合に比べ、繰り返し充放電による電池容量の低下が抑制される全固体電池が提供される。
<9>、<10>に係る発明によれば、前記固体電解質層全体の厚さに対する前記多孔質ポリイミド膜の膜厚の比(多孔質ポリイミド膜の膜厚/固体電解質層全体の厚さ)が、0.5未満である場合に比べ、繰り返し充放電による電池容量の低下が抑制される全固体電池が提供される。
<11>、<12>に係る発明によれば、固体電解質を保持する保持体として、空隙率が60%未満若しくは80%超である多孔質ポリイミド膜を適用した場合、空孔径が0.1μm未満若しくは10μm超である多孔質ポリイミド膜を適用した場合、又は、空孔に充填される前記固体電解質の充填率が55%未満となる多孔質ポリイミド膜を適用した場合に比べ、繰り返し充放電による電池容量の低下が抑制される全固体電池であって、固体電解質として、硫化物固体電解質を含有する全固体電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態に係る多孔質ポリイミド膜の形態の一例を示す模式図である。
図2】本実施形態に係る全固体電池の一例を示す部分断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一例である全固体電池の実施形態について説明する。
なお、本明細書中において、第1実施形態、及び第2実施形態に共通する事項については、本実施形態と称する。
【0013】
第1実施形態に係る固体電池は、正極活物質と、負極活物質と、固体電解質、及び前記固体電解質を保持する多孔質ポリイミド膜を含む固体電解質層と、を有する。そして、前記多孔質ポリイミド膜は、空隙率が60%以上80%以下であり、空孔径が0.1μm以上10μm以下である。
【0014】
第2実施形態に係る固体電池は、正極活物質と、負極活物質と、固体電解質、及び前記固体電解質を保持する多孔質ポリイミド膜を含む固体電解質層と、を有する。そして、前記多孔質ポリイミド膜の空孔に充填される前記固体電解質の充填率が55%以上である。
【0015】
全固体電池が備える固体電解質層において、固体電解質を保持させるために、例えば、結着樹脂が使用される。固体電解質層に、結着樹脂が使用される場合、固体電解質の表面に結着樹脂に起因する皮膜が形成されてしまい、リチウムイオンの伝導性が低下する。それにより、繰り返し充放電したときの電池容量(以下、「サイクル特性」と称する場合がある。)が低下する。このため、固体電解質の保持体として、多孔質膜の適用が検討されている。
【0016】
固体電解質層の形成に当たり、固体電解質を多孔質膜に保持させるとき、加圧しながら、多孔質膜の空孔に固体電解質を充填する。固体電解質を保持するための多孔質膜として、例えば、多孔質ポリオレフィン膜が挙げられる。多孔質ポリオレフィン膜を用いた場合、多孔質ポリオレフィン膜は強度が低いため、多孔質ポリオレフィン膜の空孔内に充填される固体電解質の充填性能は低い。また、多孔質ポリオレフィン膜は、空孔径が不規則であるため、加圧によって固体電解質を充填しても充填性能が低く、さらに、空隙率が低いため、固体電解質を保持できる量が少ない。その結果、固体電解質層における固体電解質の粒子どうしが接触し難くなり、リチウムイオンの伝導性にバラつきが生じやすくなる。そのため、繰り返し充放電したときの電池容量の低下が生じやすい。また、多孔質ポリオレフィン膜よりも強度が高い多孔質膜として、多孔質ポリイミド膜が挙げられる。多孔質ポリイミド膜は、多孔質ポリオレフィン膜よりも強度が高く、多孔質ポリオレフィン膜を適用した場合に比較して、固体電解質の充填性が高い。そこで、多孔質ポリイミド膜を用いた場合であっても、繰り返し充放電したときの電池容量の低下の抑制は求められる。
【0017】
これに対し、本実施形態に係る全固体電池は、上記構成により、繰り返し充放電したときの電池容量の低下が抑制される。
【0018】
第1実施形態に係る全固体電池では、固体電解質を保持する多孔質ポリイミド膜は、空隙率が60%以上80%以下であり、空孔径が0.1μm以上10μm以下である。空隙率及び空孔径がこの範囲であることにより、固体電解質の充填性が高まる。このため、空孔内に充填された固体電解質の粒子どうしが接触しやすくなり、リチウムイオン伝導性の均一性が高まることで、繰り返し充放電したときの電池容量の低下が抑制されると考えられる。
【0019】
第2実施形態に係る全固体電池では、前記固体電解質の充填率が55%以上であることで、空孔内に充填された固体電解質の粒子間の接触が生じやすくなり、リチウムイオン伝導性の均一性が高まる。このため、繰り返し充放電したときの電池容量の低下が抑制されると考えられる。
【0020】
<全固体電池>
本実施形態に係る全固体電池について図2を参照して説明する。
【0021】
図2は、本実施形態に係る全固体電池の一例を表す部分断面模式図である。図2に示すように、全固体電池100は、図示しない外装部材の内部に収容された、正極活物質層110と、固体電解質層510と、負極活物質層310と、を備えている。正極活物質層110は、正極活物質を含み、負極活物質層310は、負極活物質を含んでいる。正極活物質層110は、正極集電体130上に設けられており、負極活物質層310は、負極集電体330上に設けられている。固体電解質層510は、正極活物質層110及び負極活物質層310が互いに対向するように、正極活物質層110と負極活物質層310との間に配置されている。固体電解質層510は、固体電解質513と、固体電解質513を保持する保持体511とを備えており、保持体511の空孔の内部に、固体電解質513が充填されている。固体電解質513を保持する保持体511は、多孔質ポリイミド膜が適用されている。なお、正極集電体130及び負極集電体330は、必要に応じて設けられる部材である。また、正極集電体130の端部、及び負極集電体330の端部には、それぞれ、正極集電タブ、及び負極集電タブ(いずれも図示しない)が設けられてもよい。
【0022】
第1実施形態に係る全固体電池では、固体電解質層510が備える保持体511として、空隙率が60%以上80%以下であり、空孔径が0.1μm以上10μm以下である多孔質ポリイミド膜が適用される。
【0023】
第2実施形態に係る全固体電池では、固体電解質層510が備える保持体511として、多孔質ポリイミド膜が適用される。この多孔質ポリイミド膜は、空孔に充填される固体電解質513の充填率が55%以上となる多孔質ポリイミド膜である。
【0024】
以上、図2を参照して、本実施形態に係る全固体電池を説明したが、本実施形態に係る全固体電池の形態は、これに限定されるものではない。本実施形態に係る全固体電池発明の目的を達成する範囲内であれば、種々の形態を採用し得る。
【0025】
次に、本実施形態に係る全固体電池を製造する方法の一例について説明する。
まず、正極活物質を含む正極活物質層110形成用塗布液を、正極集電体130に塗布及び乾燥して、正極集電体130上に設けられた正極活物質層110を備える正極を得る。
同様に、負極活物質を含む負極活物質層310形成用塗布液を、負極集電体330に塗布及び乾燥して、負極集電体330上に設けられた負極活物質層310を備える負極を得る。
正極と負極とは、それぞれ必要に応じて圧縮加工を行ってもよい。
次に、固体電解質層510形成用の固体電解質513を含む塗布液を基材上に塗布、乾燥して、層状の固体電解質513を形成する。
次に、正極の正極活物質層110上に、固体電解質層510形成用材料として、保持体511としての多孔質ポリイミド膜と、層状の固体電解質513とを重ね合わせる。さらに、固体電解質層510形成用材料の上に、負極の負極活物質層が、正極活物質層側に対向するように、負極を重ね合わせて、積層構造体とする。積層体構造は、正極(正極集電体130、正極活物質層110)、固体電解質層510、負極(負極活物質層310、負極集電体330)が、この順で積層されている。
次に、積層構造体に圧縮加工を施して、保持体511である多孔質ポリイミド膜の空孔内に、固体電解質513を含浸させ、固体電解質513を多孔質ポリイミド膜に保持させる。
次に、積層構造体を外装部材(不図示)に収容する。
このようにして、本実施形態に係る全固体電池100が得られる。
【0026】
以下、本実施形態に係る全固体電池を構成要素について説明する。以下の説明において、符号は省略して説明する。
【0027】
(正極集電体及び負極集電体)
正極集電体及び負極集電体は、必要に応じて設けられる部材である。正極集電体及び負極集電体に用いられる材料としては、特に限定されず、公知の導電性の材料であればよい。例えば、アルミニウム、銅、ニッケル、チタン等の金属を用いることができる。
【0028】
(正極活物質層)
正極活物質層は、正極活物質を含む層である。必要に応じて、導電助剤、結着樹脂等の公知の添加剤を含んでいてもよい。正極活物質としては、特に限定されず、公知の正極活物質が用いられる。例えば、リチウムを含む複合酸化物(LiCoO、LiNiO、LiMnO、LiMn、LiFeMnO、LiV等)、リチウムを含む燐酸塩(LiFePO、LiCoPO、LiMnPO及びLiNiPO等)、導電性高分子(ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン等)などが挙げられる。正極活物質は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0029】
(負極活物質層)
負極活物質層は、負極活物質を含む層である。必要に応じて、結着樹脂等の公知の添加剤を含んでいてもよい。負極活物質としては、特に限定されず、公知の正極活物質が用いられる。例えば、炭素材料(黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛)、カーボンナノチューブ、黒鉛化炭素、低温度焼成炭素等)、金属(アルミニウム、シリコン、ジルコニウム、チタン等)、金属酸化物(二酸化スズ、チタン酸リチウム等)などが挙げられる。負極活物質は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
(固体電解質層)
固体電解質層は、固体電解質と、固体電解質を保持する保持体としての多孔質ポリイミド膜とを含む。
【0031】
[固体電解質]
固体電解質は、特に限定されず、公知の固体電解質が挙げられる。例えば、高分子固体電解質、酸化物固体電解質、硫化物固体電解質、ハロゲン化物固体電解質、窒化物固体電解質などが挙げられる。
【0032】
高分子固体電解質としては、特に限定されない。例えば、フッ素樹脂(ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン等の単独重合体、これらを構成単位として持つ共重合体等)、ポリエチレンオキサイド樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリアクリレート樹脂などが挙げられる。リチウムイオン伝導性に優れる点で、硫化物固体電解質を含むことが好ましい。同様の点で、硫黄と、リチウム及びリンの少なくとも一方とを構成元素として含む硫化物固体電解質を含有することが好ましい。
【0033】
酸化物固体電解質としては、特に限定されず、リチウムを含む酸化物固体電解質粒子が挙げられる。例えば、LiO-B-P、LiO-SiOなどが挙げられる。
硫化物固体電解質としては、特に限定されず、硫黄と、リチウム及びリンの少なくとも一方とを構成元素として含む硫化物固体電解質が挙げられる。例えば、8LiO・67LiS・25P、LiS、P、LiS-SiS、LiI-LiS-SiS、LiI-LiS-P、LiI-LiPO-P、LiI-LiS-P、LiI-LiS-Bなどが挙げられる。
ハロゲン化物固体電解質は、特に限定されず、例えば、LiI等が挙げられる。
窒化物固体電解質は、特に限定されず、例えば、LiN等が挙げられる。
【0034】
これらの中でも、固体電解質は、硫化物固体電解質を含有することが好ましく、硫化物固体電解質であることがより好ましい。また、硫化物固体電解質は、硫黄と、リチウム及びリンの少なくとも一方とを構成元素として含む固体電解質であることが好ましい。
【0035】
[多孔質ポリイミド膜]
第1実施形態に係る全固体電池では、空隙率が60%以上80%以下であり、空孔径が0.1μm以上10μm以下である多孔質ポリイミド膜が適用される。
第2実施形態に係る全固体電池では、空孔に充填される固体電解質の充填率が55%以上となる孔質ポリイミド膜が適用される。
ここで、本実施形態において、「膜」は、一般的に「膜」と呼ばれているものだけでなく、一般的に「フィルム」及び「シート」と呼ばれているものをも包含する概念である。
【0036】
(空隙率)
第1実施形態に係る全固体電池に適用される多孔質ポリイミド膜は、空隙率が60%以上80%以下である。空隙率がこの範囲であると、サイクル特性に優れる。空隙率の下限は63%以上であってもよく、65%以上であってもよい。空孔率の上限は78%以下であってもよく、77%以下であってもよい。
【0037】
空隙率は、多孔質ポリイミド膜の見かけ密度と真密度から求める値である。見かけの密度とは、多孔質ポリイミド膜の質量(g)を、空孔を含めた多孔質ポリイミド膜全体の体積(cm)で除した値である。真密度ρとは、多孔質ポリイミド膜の質量(g)を、空孔を除く多孔ポリイミド膜の体積(cm)で除した値である。多孔質ポリイミド膜の空隙率は、下記式で計算される。
(式) 空隙率(%)={1-(d/ρ)}×100=[1-{(w/t)/ρ)}]×100
d:多孔質ポリイミド膜の見かけ密度(g/cm
ρ:多孔質ポリイミド膜の真密度(g/cm
w:多孔質ポリイミド膜の重量(g/m
t:多孔質ポリイミド膜の厚み(μm)
【0038】
空孔径(空孔径の平均値)が、0.1μm以上10μm以下の範囲である。空孔径は、平均値として表した値である。空孔径が0.10μm以上であることで、サイクル特性に優れる。また、空孔径が10μm以下であることで、短絡等の電池特性の低下が抑制される。サイクル特性がより優れる点で、空孔径は、0.2μm以上であってもよく、0.3μm以上であってもよく、0.4μm以上であってもよく、0.5μm以上であってもよい。また、短絡等の電池特性の低下が抑制される点で、7μm以下であってもよく、5μm以下の範囲が好ましく、3μm以下であってもよく、2μm以下であってもよい。空孔径は、後述のように、走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察及び計測される。
【0039】
第1実施形態に係る全固体電池に適用される多孔質ポリイミド膜は、サイクル特性に優れる観点で、空隙率が63%以上80%以下であり、空孔径が0.3μm以上7μm以下であることが好ましく、空隙率が65%以上78%以下であり、空孔径が0.4μm以上5μm以下であることがより好ましく、空隙率が65%以上77%以下であり、空孔径が0.5μm以上3μm以下であることがさらに好ましい。
【0040】
なお、空隙率が60%以上80%以下であり、空孔径が0.1μm以上10μm以下である多孔質ポリイミド膜は、空孔に充填される固体電解質の充填率が55%以上となりやすい点で好ましい。
【0041】
第2実施形態に係る全固体電池に適用される多孔質ポリイミド膜は、空孔に充填される固体電解質の充填率が55%以上である。空孔に充填される固体電解質の充填率がこの範囲であると、サイクル特性に優れる。多孔質ポリイミド膜の空孔に充填される固体電解質の充填率は、高いほうが好ましく、60%以上であってもよく、70%以上であってもよく、80%以上であってもよく、85%以上であってもよい。
【0042】
空孔に充填される固体電解質の充填率は、固体電解質を含浸させる前後の密度の割合で求められる。具体的には、以下のとおりである。まず、固体電解質を充填する前における多孔質ポリイミド膜の見かけ密度を求める。次に、多孔質ポリイミド膜の空孔に固体電解質を加圧により含浸させた後における多孔質ポリイミド膜の密度を求める。そして、固体電解質層の充填率を下記式により算出する。
(式) 充填率(%)=(固体電解質充填前の多孔質ポリイミド膜の密度/固体電解質充填多孔質ポリイミド膜の密度)×100
【0043】
なお、多孔質ポリイミド膜の空孔に充填される固体電解質の充填率が55%以上とするには、例えば、空隙率を60%以上80%以下とし、かつ、空孔径を0.1μm以上10μm以下とする多孔質ポリイミド膜を用いると、得られやすくなる。
【0044】
本実施形態に係る全固体電池において、多孔質ポリイミド膜空孔の形状は、球状(球状に近い形状)であることが好ましい。空孔における「球状」とは、球状、及びほぼ球状(球状に近い形状)の両者の形状を包含するものである。球状は、具体的には、長径と短径の比(長径/短径)が1以上1.5未満である粒子の割合が80%を超えて存在することを意味する。長径と短径の比(長径/短径)が1以上1.5未満である粒子の割合は、85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。つまり、多孔質ポリイミド膜は、球状の空孔を有し、長径と短径の比(長径/短径)が1.5以上の割合が20%以下であることが好ましい。また、長径と短径の比(長径/短径)が1.5を超える粒子の割合は15%以下であることがより好ましく、10%以下であることがさらに好ましい。なお、長径と短径の比が1に近づくほど真球状に近くなる。
【0045】
空孔は、空孔どうしが互いに連結されて連なった形状であることが好ましい(図1参照)。空孔どうしが互いに連結されている部分の空孔径は、例えば、空孔の最大径の1/100以上1/2以下であることがよく、1/50以上1/3以下であることが好ましく、1/20以上1/4以下であることがより好ましい。具体的には、空孔どうしが互いに連結されて連なっている部分の空孔径の平均値は、5nm以上1500nm以下であることがよい。
【0046】
空孔の最大径と最小径の比率(空孔径の最大値と最小値の比率)は特に限定されず、例えば、1以上2以下であることがよい。好ましくは1以上1.9以下、より好ましくは1以上1.8以下である。この範囲の中でも、1に近いほうがさらに好ましい。「空孔の最大径と最小径の比率」とは、空孔の最大径を最小径で除した値(つまり、空孔径の最大値/最小値)で表される比率である。
【0047】
空孔の円形度は特に限定されず、例えば、0.85以上であることがよい。好ましくは0.9以上、より好ましくは0.92以上、さらに好ましくは0.95以上である。
空孔の円形度は、求める空孔の開口面積をAとし、その空孔の外形の長さをLとしたとき、以下の式により定義されるものである。円形度=(4πA)0.5/L。真円であると円形度は1となり、断面積Aに対して周長Lが長くなると円形度が小さくなる。
【0048】
空孔径(空孔径の平均値)、及び空孔どうしが互いに連結されている部分の空孔径の平均値、空孔の最大径と最小径の比率、及び空孔の円形度は、走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察及び計測される値である。具体的には、まず、多孔質ポリイミド膜を切り出し、測定用試料を準備する。そして、この測定用試料をキーエンス(KEYENCE)社製のVE SEMにより、標準装備されている画像処理ソフトにて観察及び計測を実施する。観察及び計測は、測定用試料断面のうち、空孔部分の100個について行い、空孔径の平均値(算術平均径)、空孔の最小径及び最大径を求める。また、空孔どうしが互いに連結されている部分の空孔径についても、空孔部分の100個について行い、空孔どうしが互いに連結されている部分の空孔径の平均値(算術平均径)を求める。また、空孔の形状(測定断面における空孔の形状)が円形でない場合には、最も長い部分を径とする。空孔の円形度は、空孔部分の100個について周長を測定し、その平均値(算術平均周長)を求め、上記定義に基づいて算出する。
【0049】
空孔の最大径と最小径の比率、空孔の円形度が上記範囲であると、空孔径のバラつきが抑制される観点で好適である。また、本実施形態の多孔質ポリイミド膜中を通過するリチウムイオンの伝導性のバラつきが抑制されるため、サイクル特性に優れるため全固体電池が得られやすくなる。
【0050】
多孔質ポリイミド膜の膜厚(平均値)は、特に限定されず、例えば、10μm以上1000μm以下であってもよい。膜厚は、15μm以上であってもよく、20μm以上であってもよい。また、500μm以下であってもよく、400μm以下であってもよく、300μm以下であってもよい。
【0051】
本実施形態に係る全固体電池は、固体電解質層は、固体電解質と、固体電解質が空孔内に充填された多孔質ポリイミド膜により設けられていてもよい。固体電解質層において、固体電解質を保持する多孔質ポリイミド膜は、固体電解質層全体の厚さに対する多孔質ポリイミド膜の膜厚の比(多孔質ポリイミド膜の膜厚/固体電解質層全体の厚さ)として、0.5以上であることがよい。比(多孔質ポリイミド膜の膜厚/固体電解質層全体の厚さ)が0.5以上であると、固体電解質が多孔質ポリイミド膜に保持されやすくなる。この比は、0.6以上であってもよく、0.7以上であってもよく、0.8以上であってもよく、0.9以上であってもよい。比(多孔質ポリイミド膜/固体電解質層全体の厚さ)は1.0であってもよい(つまり、固体電解質層における多孔質ポリイミド膜の膜厚は、固体電解質層の厚さと同じであってもよい。)。
【0052】
比(多孔質ポリイミド膜の膜厚/固体電解質層全体の厚さ)は、測定対象となる全固体電池から、固体電解質層を含むように試料を採取する。次いで、採取した試料を、エポキシ樹脂に包埋した後、エポキシ樹脂を硬化する。ダイヤモンド刃を備えたミクロトームによって、この硬化物を薄片化し、測定用試料の断面が露出した観察試料を得る。走査型電子顕微鏡(SEM)により、固体電解質層の全厚みが観察可能な倍率で、断面のSEM画像を観察する。そして、固体電解質層全体の厚さに対する多孔質ポリイミド膜の膜厚の比を算出する。
【0053】
(多孔質ポリイミド膜の製造方法)
以下、本実施形態に係る全固体電池に適用する多孔質ポリイミド膜において、好ましい製造方法の一例について説明する。
【0054】
本実施形態に係る多孔質ポリイミド膜は、例えば、以下の工程を有する。
粒子、及びポリイミド前駆体を含有するポリイミド前駆体溶液を塗布して塗膜を形成した後、前記塗膜を乾燥して、前記ポリイミド前駆体及び前記樹脂粒子を含む被膜を形成する第1の工程。
前記被膜を加熱して、前記ポリイミド前駆体をイミド化してポリイミド膜を形成する第2の工程であって、前記粒子を除去する処理を含む第2の工程。
【0055】
なお、製造方法の説明において、参照する図1中では、同じ構成部分には、同じ符号を付している。図1中の符号において31は基板、51は剥離層、10Aは空孔、及び10は多孔質ポリイミド膜を表す。
【0056】
(第1の工程)
第1の工程は、まず、粒子、及びポリイミド前駆体を含有するポリイミド前駆体溶液(粒子分散ポリイミド前駆体溶液)を準備する。次に、基板上に、粒子分散ポリイミド前駆体溶液を塗布し、ポリイミド前駆体溶液と、粒子とを含む塗膜を形成する。そして、基板上に形成された塗膜を乾燥して、ポリイミド前駆体及び前記粒子を含む被膜を形成する。
【0057】
粒子分散ポリイミド前駆体溶液を塗布する基板としては、特に制限されない。例えば、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂製基板;ガラス製基板;セラミック製基板;鉄、ステンレス鋼(SUS)等の金属基板;これらの材料が組み合わされた複合材料基板等が挙げられる。また、基板には、必要に応じて、例えば、シリコーン系やフッ素系の剥離剤等による剥離処理を行って剥離層を設けてもよい。
【0058】
基板上に、粒子分散ポリイミド前駆体溶液を塗布する方法としては、特に限定されない。例えば、スプレー塗布法、回転塗布法、ロール塗布法、バー塗布法、スリットダイ塗布法、インクジェット塗布法等の各種の方法が挙げられる。
【0059】
ポリイミド前駆体溶液及び粒子を含む塗膜を得るためのポリイミド前駆体溶液の塗布量としては、予め定められた膜厚が得られる量に設定すればよい。
【0060】
ポリイミド前駆体溶液及び粒子を含む塗膜を形成した後、乾燥して、ポリイミド前駆体及び粒子を含む被膜が形成される。具体的には、ポリイミド前駆体溶液と粒子とを含む塗膜を、例えば、加熱乾燥、自然乾燥、真空乾燥等の方法により乾燥させて、被膜を形成する。より具体的には、被膜に残留する溶媒が、被膜の固形分に対して50%以下、好ましくは30%以下となるように、塗膜を乾燥させて、被膜を形成する。
【0061】
(第2の工程)
第2の工程は、第1の工程で得られたポリイミド前駆体及び粒子を含む被膜を加熱して、ポリイミド前駆体をイミド化してポリイミド膜を形成する工程である。そして、第2の工程には、粒子を除去する処理を含んでいる。粒子を除去する処理を経て、多孔質ポリイミド膜が得られる。
【0062】
第2の工程において、ポリイミド膜を形成する工程は、具体的に、第1の工程で得られたポリイミド前駆体及び粒子を含む被膜を加熱して、イミド化を進行させ、さらに加熱して、イミド化が進行したポリイミド膜が形成される。なお、イミド化が進行し、イミド化率が高くなるにしたがい、有機溶剤に溶解し難くなる。
【0063】
そして、第2の工程において、粒子を除去する処理を行う。粒子の除去は、被膜を加熱して、ポリイミド前駆体をイミド化する過程において除去してもよく、イミド化が完了した後(イミド化後)のポリイミド膜から除去してもよい。
なお、本実施形態において、ポリイミド前駆体をイミド化する過程とは、第1の工程で得られたポリイミド前駆体及び粒子を含む被膜を加熱して、イミド化を進行させ、イミド化が完了した後のポリイミド膜となるよりも前の状態となる過程を示す。
【0064】
粒子を除去する処理は、粒子の除去性等の点で、ポリイミド前駆体をイミド化する過程において、ポリイミド膜中のポリイミド前駆体のイミド化率が10%以上であるときに行うことが好ましい。イミド化率が10%以上になると、形態を維持しやすい。
【0065】
次に、粒子を除去する処理について説明する。
まず、樹脂粒子を除去する処理について説明する。
樹脂粒子を除去する処理としては、例えば、樹脂粒子を加熱により除去する方法、樹脂粒子を溶解する有機溶剤により除去する方法、樹脂粒子をレーザ等による分解により除去する方法等が挙げられる。これらのうち、樹脂粒子を加熱により除去する方法、樹脂粒子を溶解する有機溶剤により除去する方法が好ましい。
【0066】
加熱により除去する方法としては、例えば、ポリイミド前駆体をイミド化する過程において、イミド化を進行させるための加熱によって、樹脂粒子を分解させることで除去してもよい。この場合には、溶剤により樹脂粒子を除去する操作がない点で、工程の削減に対して有利である。
【0067】
樹脂粒子を溶解する有機溶剤により除去する方法としては、例えば、樹脂粒子が溶解する有機溶剤と接触(例えば、溶剤中に浸漬)させ、樹脂粒子を溶解して除去する方法が挙げられる。この状態のときに、溶剤中に浸漬すると、樹脂粒子の溶解効率が高くなる点で好ましい。
【0068】
樹脂粒子を除去するための樹脂粒子を溶解する有機溶剤としては、イミド化が完了する前のポリイミド膜、及びイミド化が完了したポリイミド膜を溶解せず、樹脂粒子が可溶な有機溶剤であれば、特に限定されるものではない。例えば、テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル類;トルエン等の芳香族類;アセトンなどのケトン類;酢酸エチルなどのエステル類;が挙げられる。
【0069】
溶解除去により樹脂粒子を除去して多孔質化する場合は、テトラヒドロフラン、アセトン、トルエン、酢酸エチルなどの汎用溶媒に溶解するものが好ましい。なお、使用する樹脂粒子とポリイミド前駆体によっては、水も使用可能である。
また、加熱により樹脂粒子を除去して多孔質化する場合は、塗布後の乾燥温度では分解せず、ポリイミド前駆体の皮膜をイミド化させる温度により熱分解させる。この観点から、樹脂粒子の熱分解開始温度は、150℃以上320℃以下であることがよく、180℃以上300℃以下であることが好ましく、200℃以上280℃以下であることがより好ましい。
【0070】
次に、無機粒子を除去する処理について説明する。
無機粒子を除去する処理としては、無機粒子は溶解するがポリイミド前駆体またはポリイミドは溶解しない液体(以下、「粒子除去液」と称することがある)を用いて除去する方法が挙げられる。粒子除去液は、使用する無機粒子により選択される。例えば、フッ化水素酸、塩酸、臭化水素酸、ホウ酸、過塩素酸、リン酸、硫酸、硝酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、クエン酸などの酸の水溶液;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、アンモニア、上述の有機アミンなどの塩基の水溶液;が挙げられる。また、使用する無機粒子とポリイミド前駆体によっては、水単独でも使用可能である。
【0071】
第2の工程において、第1の工程で得た被膜を加熱して、イミド化を進行させてポリイミド膜を得るための加熱方法としては、特に限定されない。例えば、2段階で加熱する方法が挙げられる。2段階で加熱する場合、具体的には、以下のような加熱条件が挙げられる。
【0072】
第1段階の加熱条件としては、粒子の形状が保持される温度であることが望ましい。具体的には、例えば、50℃以上150℃以下の範囲がよく、60℃以上140℃以下の範囲が好ましい。また、加熱時間としては、10分間以上60分間以下の範囲がよい。加熱温度が高いほど加熱時間は短くてよい。
【0073】
第2段階の加熱条件としては、例えば、150℃以上450℃以下(好ましくは200℃以上430℃以下)で、20分間以上120分間以下の条件で加熱することが挙げられる。この範囲の加熱条件とすることで、イミド化反応がさらに進行し、ポリイミド膜が形成され得る。加熱反応の際、加熱の最終温度に達する前に、温度を段階的、又は一定速度で徐々に上昇させて加熱することがよい。
【0074】
なお、加熱条件は上記の2段階の加熱方法に限らず、例えば、1段階で加熱する方法を採用してもよい。1段階で加熱する方法の場合、例えば、上記の第2段階で示した加熱条件のみによってイミド化を完了させてもよい。
【0075】
第2の工程において、開孔率を高める点で、粒子を露出させる処理を行って粒子を露出させた状態とすることが好ましい。第2の工程において、粒子を露出させる処理は、ポリイミド前駆体のイミド化を行う過程、又はイミド化後、且つ、粒子を除去する処理よりも前で行うことが好ましい。
【0076】
この場合、例えば、粒子分散ポリイミド前駆体溶液を用いて基板上に被膜を形成する場合、粒子分散ポリイミド前駆体溶液を基板上に塗布し、粒子が埋没した塗膜を形成する。次に、塗膜を乾燥してポリイミド前駆体及び粒子を含む被膜を形成する。この方法によって形成された被膜は、粒子が埋没された状態となる。この被膜に対して、加熱を行い、粒子の除去処理を行う前に、ポリイミド前駆体をイミド化する過程、又はイミド化が完了した後(イミド化後)のポリイミド膜から粒子を露出させる処理を施してもよい。
【0077】
第2の工程において、粒子を露出させる処理は、例えば、ポリイミド膜が次のような状態であるときに施すことが挙げられる。
ポリイミド膜中のポリイミド前駆体のイミド化率が10%未満であるとき(すなわち、ポリイミド膜が溶媒に溶解できる状態)に粒子を露出させる処理を行う場合、上記のポリイミド膜中に埋没している粒子を露出させる処理としては、拭き取る処理、溶媒に浸漬する処理等が挙げられる。その際に使用する溶媒としては、本実施形態の粒子分散ポリイミド前駆体溶液に用いた溶媒と同じものでも、異なるものでもよい。
【0078】
また、ポリイミド膜中のポリイミド前駆体のイミド化率が10%以上であるとき(すなわち、水、有機溶剤に溶解し難い状態)、及びイミド化が完了したポリイミド膜となった状態であるときに粒子を露出させる処理を行う場合には、紙やすり等の工具類で機械的に切削して粒子を露出させる方法や、粒子が樹脂粒子の場合は、レーザ等で分解して樹脂粒子を露出させる方法も挙げられる。
例えば、機械的に切削する場合には、ポリイミド膜に埋没している粒子の上部の領域(つまり、粒子の基板から離れた側の領域)に存在する粒子の一部分が、粒子の上部に存在しているポリイミド膜とともに切削され、切削された粒子がポリイミド膜の表面から露出される。
【0079】
その後、粒子が露出されたポリイミド膜から、既述の粒子の除去処理により粒子を除去する。そして、粒子が除去された多孔質ポリイミド膜が得られる(図1参照)。
【0080】
なお、上記では、第2の工程において、粒子を露出させる処理を施した多孔質ポリイミド膜の製造工程について示したが、開孔率を高める点で、第1の工程で粒子を露出させる処理を施してもよい。この場合には、第1の工程において、塗膜を得た後、乾燥して被膜を形成する過程で、粒子を露出させる処理を行って、粒子を露出させた状態にしてもよい。この粒子を露出させる処理を行うことによって、多孔質ポリイミド膜の開孔率が高められる。
【0081】
例えば、ポリイミド前駆体溶液及び粒子を含む塗膜を得た後、塗膜を乾燥して、ポリイミド前駆体及び粒子を含む被膜を形成する過程では、前述のように、被膜は、ポリイミド前駆体が、溶媒に溶解できる状態である。被膜がこの状態のときに、例えば、拭き取る処理、又は溶媒に浸漬する処理等により、粒子を露出させることができる。具体的には、粒子層の厚み以上の領域に存在するポリイミド前駆体溶液を、例えば、溶媒で拭くことにより粒子層を露出させる処理を行うことで、粒子層の厚み以上の領域に存在していたポリイミド前駆体溶液が除去される。そして、粒子層の上部の領域(つまり、粒子層の基板から離れた側の領域)に存在する粒子が、被膜の表面から露出される。
【0082】
なお、第2の工程において、第1の工程で使用した上記の被膜を形成するための基板は、乾燥した被膜となったときに剥離してもよく、ポリイミド膜中のポリイミド前駆体が、有機溶剤に溶解し難い状態となったときに剥離してもよく、イミド化が完了した、膜になった状態のときに剥離してもよい。
【0083】
以上の工程を経て、多孔質ポリイミド膜が得られる。そして、多孔質ポリイミド膜は、後加工してもよい。
【0084】
ここで、ポリイミド前駆体のイミド化率について説明する。
一部がイミド化したポリイミド前駆体は、例えば、下記一般式(V-1)、下記一般式(V-2)、及び下記一般式(V-3)で表される繰り返し単位を有する構造の前駆体が挙げられる。
【0085】
【化1】
【0086】
一般式(V-1)、一般式(V-2)、及び一般式(V-3)中、A、Bは式(I)中のA、Bと同義である。lは1以上の整数を示し、m及びnは、各々独立に0又は1以上の整数を示す。
【0087】
ポリイミド前駆体のイミド化率は、ポリイミド前駆体の結合部(テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物との反応部)において、イミド閉環している結合部数(2n+m)の全結合部数(2l+2m+2n)に対する割合を表す。つまり、ポリイミド前駆体のイミド化率は、「(2n+m)/(2l+2m+2n)」で示される。
【0088】
なお、ポリイミド前駆体のイミド化率(「(2n+m)/(2l+2m+2n)」の値)は、次の方法により測定される。
【0089】
-ポリイミド前駆体のイミド化率の測定-
・ポリイミド前駆体試料の作製
(i)測定対象となるポリイミド前駆体組成物を、シリコーンウェハー上に、膜厚1μm以上10μm以下の範囲で塗布して、塗膜試料を作製する。
(ii)塗膜試料をテトラヒドロフラン(THF)中に20分間浸漬させて、塗膜試料中の溶媒をテトラヒドロフラン(THF)に置換する。浸漬させる溶媒は、THFに限定されることなく、ポリイミド前駆体を溶解せず、ポリイミド前駆体組成物に含まれている溶媒成分と混和し得る溶媒より選択できる。具体的には、メタノール、エタノールなどのアルコール溶媒、ジオキサンなどのエーテル化合物が使用できる。
(iii)塗膜試料を、THF中より取り出し、塗膜試料表面に付着しているTHFにN2ガスを吹き付け、取り除く。10mmHg以下の減圧下、5℃以上25℃以下の範囲にて12時間以上処理して塗膜試料を乾燥させ、ポリイミド前駆体試料を作製する。
【0090】
・100%イミド化標準試料の作製
(iv)上記(i)と同様に、測定対象となるポリイミド前駆体組成物をシリコーンウェハー上に塗布して、塗膜試料を作製する。
(v)塗膜試料を380℃にて60分間加熱してイミド化反応を行い、100%イミド化標準試料を作製する。
【0091】
・測定と解析
(vi)フーリエ変換赤外分光光度計(堀場製作所製FT-730)を用いて、100%イミド化標準試料、ポリイミド前駆体試料の赤外吸光スペクトルを測定する。100%イミド化標準試料の1500cm-1付近の芳香環由来吸光ピーク(Ab’(1500cm-1))に対する、1780cm-1付近のイミド結合由来の吸光ピーク(Ab’(1780cm-1))の比I’(100)を求める。
(vii)同様にして、ポリイミド前駆体試料について測定を行い、1500cm-1付近の芳香環由来吸光ピーク(Ab(1500cm-1))に対する、1780cm-1付近のイミド結合由来の吸光ピーク(Ab(1780cm-1))の比I(x)を求める。
【0092】
そして、測定した各吸光ピークI’(100)、I(x)を使用し、下記式に基づき、ポリイミド前駆体のイミド化率を算出する。
・式: ポリイミド前駆体のイミド化率=I(x)/I’(100)
・式: I’(100)=(Ab’(1780cm-1))/(Ab’(1500cm-1))
・式: I(x)=(Ab(1780cm-1))/(Ab(1500cm-1))
【0093】
なお、このポリイミド前駆体のイミド化率の測定は、芳香族系ポリイミド前駆体のイミド化率の測定に適用される。脂肪族ポリイミド前駆体のイミド化率を測定する場合、芳香環の吸収ピークに代えて、イミド化反応前後で変化のない構造由来のピークを内部標準ピークとして使用する。
【0094】
次に、多孔質ポリイミド膜を製造するための粒子分散ポリイミド前駆体における各成分について説明する。
【0095】
(ポリイミド前駆体)
ポリイミド前駆体は、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを重合して得られる。具体的には、ポリイミド前駆体一般式(I)で表される繰り返し単位を有する樹脂(ポリアミック酸)である。
【0096】
【化2】
【0097】
(一般式(I)中、Aは4価の有機基を示し、Bは2価の有機基を示す。)
【0098】
ここで、一般式(I)中、Aが表す4価の有機基としては、原料となるテトラカルボン酸二無水物より4つのカルボキシ基を除いたその残基である。
一方、Bが表す2価の有機基としては、原料となるジアミン化合物から2つのアミノ基を除いたその残基である。
【0099】
つまり、一般式(I)で表される繰り返し単位を有するポリイミド前駆体は、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物との重合体である。
【0100】
テトラカルボン酸二無水物としては、芳香族系、脂肪族系いずれの化合物も挙げられるが、芳香族系の化合物であることがよい。つまり、一般式(I)中、Aが表す4価の有機基は、芳香族系有機基であることがよい。
【0101】
芳香族系テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジメチルジフェニルシランテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-テトラフェニルシランテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-フランテトラカルボン酸二無水物、4,4’-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルフィド二無水物、4,4’-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルホン二無水物、4,4’-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルプロパン二無水物、3,3’,4,4’-パーフルオロイソプロピリデンジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ビス(フタル酸)フェニルホスフィンオキサイド二無水物、p-フェニレン-ビス(トリフェニルフタル酸)二無水物、m-フェニレン-ビス(トリフェニルフタル酸)二無水物、ビス(トリフェニルフタル酸)-4,4’-ジフェニルエーテル二無水物、ビス(トリフェニルフタル酸)-4,4’-ジフェニルメタン二無水物等を挙げられる。
【0102】
脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、ブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3-ジメチル-1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、3,5,6-トリカルボキシノルボナン-2-酢酸二無水物、2,3,4,5-テトラヒドロフランテトラカルボン酸二無水物、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフリル)-3-メチル-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸二無水物、ビシクロ[2,2,2]-オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物等の脂肪族又は脂環式テトラカルボン酸二無水物;1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)-ナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-5-メチル-5-(テトラヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)-ナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-8-メチル-5-(テトラヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)-ナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン等の芳香環を有する脂肪族テトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
【0103】
これらの中でも、テトラカルボン酸二無水物としては、芳香族系テトラカルボン酸二無水物がよく、具体的には、例えば、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物がよく、更に、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物がよく、特に、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物がよい。
【0104】
なお、テトラカルボン酸二無水物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて併用してもよい。
また、2種以上を組み合わせて併用する場合、芳香族テトラカルボン酸二無水物、又は脂肪族テトラカルボン酸を各々併用しても、芳香族テトラカルボン酸二無水物と脂肪族テトラカルボン酸二無水物とを組み合わせてもよい。
【0105】
一方、ジアミン化合物は、分子構造中に2つのアミノ基を有するジアミン化合物である。ジアミン化合物としては、芳香族系、脂肪族系いずれの化合物も挙げられるが、芳香族系の化合物であることがよい。つまり、一般式(I)中、Bが表す2価の有機基は、芳香族系有機基であることがよい。
【0106】
ジアミン化合物としては、例えば、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルエタン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、1,5-ジアミノナフタレン、3,3-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、5-アミノ-1-(4’-アミノフェニル)-1,3,3-トリメチルインダン、6-アミノ-1-(4’-アミノフェニル)-1,3,3-トリメチルインダン、4,4’-ジアミノベンズアニリド、3,5-ジアミノ-3’-トリフルオロメチルベンズアニリド、3,5-ジアミノ-4’-トリフルオロメチルベンズアニリド、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、2,7-ジアミノフルオレン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’-メチレン-ビス(2-クロロアニリン)、2,2’,5,5’-テトラクロロ-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2’-ジクロロ-4,4’-ジアミノ-5,5’-ジメトキシビフェニル、3,3’-ジメトキシ-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノ-2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)-ビフェニル、1,3’-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、4,4’-(p-フェニレンイソプロピリデン)ビスアニリン、4,4’-(m-フェニレンイソプロピリデン)ビスアニリン、2,2’-ビス[4-(4-アミノ-2-トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、4,4’-ビス[4-(4-アミノ-2-トリフルオロメチル)フェノキシ]-オクタフルオロビフェニル等の芳香族ジアミン;ジアミノテトラフェニルチオフェン等の芳香環に結合された2個のアミノ基と当該アミノ基の窒素原子以外のヘテロ原子を有する芳香族ジアミン;1,1-メタキシリレンジアミン、1,3-プロパンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、4,4-ジアミノヘプタメチレンジアミン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、イソフォロンジアミン、テトラヒドロジシクロペンタジエニレンジアミン、ヘキサヒドロ-4,7-メタノインダニレンジメチレンジアミン、トリシクロ[6,2,1,02.7]-ウンデシレンジメチルジアミン、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)等の脂肪族ジアミン及び脂環式ジアミン等が挙げられる。
【0107】
これらの中でも、ジアミン化合物としては、芳香族系ジアミン化合物がよく、具体的には、例えば、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノジフェニルスルホンがよく、特に、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、p-フェニレンジアミンがよい。
【0108】
なお、ジアミン化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて併用してもよい。また、2種以上を組み合わせて併用する場合、芳香族ジアミン化合物、又は脂肪族ジアミン化合物を各々併用しても、芳香族ジアミン化合物と脂肪族ジアミン化合物とを組み合わせてもよい。
【0109】
ポリイミド前駆体の数平均分子量は、1000以上150000以下であることがよく、より好ましくは5000以上130000以下、更に好ましくは10000以上100000以下である。
ポリイミド前駆体の数平均分子量を上記範囲とすると、ポリイミド前駆体の溶剤に対する溶解性の低下が抑制され、製膜性が確保され易くなる。
【0110】
ポリイミド前駆体の数平均分子量は、下記測定条件のゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)法で測定される。
・カラム:東ソーTSKgelα-M(7.8mm I.D×30cm)
・溶離液:DMF(ジメチルホルムアミド)/30mMLiBr/60mMリン酸
・流速:0.6mL/min
・注入量:60μL
・検出器:RI(示差屈折率検出器)
【0111】
ポリイミド前駆体の含有量(濃度)は、全ポリイミド前駆体溶液に対して、0.1質量%以上40質量%以下であることがよく、好ましくは0.5質量%以上25質量%以下、より好ましくは1質量%以上20質量%以下である。
【0112】
(粒子)
粒子は、本実施形態に係る粒子分散ポリイミド前駆体溶液中に、粒子が溶解せず分散している状態であり、さらに、多孔質ポリイミド膜を作製するときに、後述する粒子除去工程で除去可能であれば、粒子の材質は特に限定されない。粒子は、後述する樹脂粒子および無機粒子に大別される。
【0113】
ここで、本明細書中において、「粒子が溶解しない」とは、25℃において、粒子が、対象となる液体に対して溶解しないことに加え、3質量%以下の範囲内で溶解することも含む。
【0114】
粒子の体積平均粒径D50vは、特に限定されない。粒子の体積平均粒径D50vは、例えば、0.1μm以上10μm以下であることがよい。粒子の体積平均粒径は、0.2μm以上であってもよく、0.3μm以上であってもよく、0.4μm以上であってもよく、0.5μm以上であってもよい。また、粒子の体積平均粒径は、7μm以下であってもよく、5μm以下であってもよく、3μm以下であってもよく、2μm以下であってもよい。粒子の体積粒度分布指標(GSDv)は、1.30以下が好ましく、1.25以下がより好ましく、1.20以下が最も好ましい。粒子の体積粒度分布指標は、粒子分散ポリイミド前駆体溶液中の粒子の粒度分布から、(D84v/D16v)1/2として算出される。
【0115】
本実施形態に係る粒子分散ポリイミド前駆体溶液中の粒子の粒度分布は、次のようにして測定する。測定対象となる溶液を希釈してコールターカウンターLS13(ベックマン・コールター社製)を用いて、液中の粒子の粒度分布を測定する。測定される粒度分布を基にして、分割された粒度範囲(チャンネル)に対して、小径側から体積累積分布を描いて粒度分布を測定する。
そして、小径側から描いた体積累積分布のうち、累積16%となる粒径を体積粒径D16v、累積50%となる粒径を体積平均粒径D50v、累積84%となる粒径を体積粒径D84vとする。
【0116】
なお、本実施形態の粒子分散ポリイミド前駆体溶液中の粒子の体積粒度分布が、上記方法で測定し難い場合、動的光散乱法等の方法にて測定される。
【0117】
粒子の形状は球状であることがよい。球状の粒子を用いて、多孔質ポリイミド膜を作製すると、球状の空孔を備えた多孔質ポリイミド膜が得られる。
なお、本明細書中において、粒子における「球状」とは、球状、及びほぼ球状(球状に近い形状)の両者の形状を包含するものである。具体的には、長径と短径の比(長径/短径)が1以上1.5未満である粒子の割合が80%を超えて存在することを意味する。長径と短径の比(長径/短径)が1以上1.5未満である粒子の割合は、90%以上であることが好ましい。長径と短径の比が1に近づくほど真球状に近くなる。
【0118】
粒子としては、樹脂粒子および無機粒子のいずれを用いてもよいが、樹脂粒子を使用することが好ましい。
樹脂粒子は、後述するように乳化重合などの公知の製造法により、球状に近い粒子を作製しやすくなる。さらに、樹脂粒子およびポリイミド前駆体は有機材料なので、無機粒子を使用する場合と比較し、塗膜中の粒子分散性やポリイミド前駆体との界面密着が向上しやすくなる。また、多孔質ポリイミド膜を作製するときに、空孔および空孔径がより均一に近い多孔質ポリイミド膜が得られやすくなる。これらの理由で樹脂粒子を用いることが好ましい。
【0119】
無機粒子としては、例えばシリカ粒子が挙げられる。シリカ粒子は、球状に近い粒子であるものが入手可能である点で好適な無機粒子である。例えば、球状に近いシリカ粒子を用いた粒子分散ポリイミド前駆体溶液を用いて、空孔が球状に近い状態となるである多孔質ポリイミド膜を得ることができる。しかし、粒子として、シリカ粒子を用いた場合、イミド化工程において、体積収縮を吸収し難いため、イミド化後のポリイミド膜に細かな亀裂が生じやすい傾向がある。この点でも、粒子としては樹脂粒子を用いることが好ましい。
【0120】
本実施形態に係る粒子分散ポリイミド前駆体溶液において、粒子の含有量としては、溶液中の固形分100質量部に対して、20質量%以上90質量%以下(好ましくは25質量%以上87質量%以下、より好ましくは30質量%以上85質量%以下)の範囲であることがよい。
【0121】
以下、樹脂粒子および無機粒子の具体的な材料について説明する。
【0122】
-樹脂粒子-
樹脂粒子としては、具体的には、例えば、ポリスチレン類、ポリ(メタ)アクリル酸類、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリビニルエーテルなどに代表されるビニル系ポリマー;ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミドなどに代表される縮合系ポリマー;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエンなどに代表される炭化水素系ポリマー;ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニルフルオリドなどに代表されるフッ素系ポリマー;などの樹脂粒子が挙げられる。
ここで、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」および「メタクリル」のいずれをも含むことを意味する。また、(メタ)アクリル酸類とは、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミドを含む。
【0123】
樹脂粒子は、架橋されていても架橋されていなくてもよい。架橋する場合は、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート、ノナンジアクリレート、デカンジオールジアクリレートなどの二官能単量体、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート等の多官能単量体を併用してもよい。
【0124】
樹脂粒子がビニル樹脂粒子である場合、単量体を重合して得られる。ビニル樹脂の単量体としては、以下に示す単量体が挙げられる。例えば、スチレン、アルキル置換スチレン(例えば、α-メチルスチレン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、2-エチルスチレン、3-エチルスチレン、4-エチルスチレン等)、ハロゲン置換スチレン(例えば2-クロロスチレン、3-クロロスチレン、4-クロロスチレン等)、ビニルナフタレン等のスチレン骨格を有するスチレン類;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル等の(メタ)アクリル酸エステル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のビニルニトリル類;ビニルメチルエーテル、ビニルイソブチルエーテル等のビニルエーテル類;ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルイソプロペニルケトン等のビニルケトン類;(メタ)アクリル酸、マレイン酸、ケイ皮酸、フマル酸、ビニルスルホン酸等の酸類;エチレンイミン、ビニルピリジン、ビニルアミン等の塩基類;等の単量体を重合体させたビニル樹脂単位が挙げられる。
その他の単量体として、酢酸ビニルなどの単官能単量体を併用してもよい。
また、ビニル樹脂は、これらの単量体を単独で用いた樹脂でもよいし、2種以上の単量体を用いた共重合体である樹脂であってもよい。
【0125】
樹脂粒子としては、製造性、後述する粒子除去工程の適応性の観点から、ポリスチレン類、ポリ(メタ)アクリル酸類の樹脂粒子であることが好ましい。具体的には、ポリスチレン、スチレン-(メタ)アクリル酸類共重合体、ポリ(メタ)アクリル酸類の樹脂粒子がさらに好ましく、ポリスチレンおよびポリ(メタ)アクリル酸エステル類の樹脂粒子が最も好ましい。これらの樹脂粒子は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0126】
樹脂粒子は、本実施形態に係るポリイミド前駆体溶液の作製の過程、および多孔質ポリイミド膜を作製するときのポリイミド前駆体溶液の塗布、塗膜の乾燥(樹脂粒子除去の前)の過程で粒子の形状が保持されていることが好ましい。この観点から、樹脂粒子のガラス転移温度としては、60℃以上であることがよく、70℃以上であることが好ましく、80℃以上であることがより好ましい。
【0127】
なお、ガラス転移温度は、示差走査熱量測定(DSC)により得られたDSC曲線より求め、より具体的にはJIS K 7121-1987「プラスチックの転移温度測定方法」のガラス転移温度の求め方に記載の「補外ガラス転移開始温度」により求められる。
【0128】
-無機粒子-
無機粒子としては、例えば、具体的には、シリカ(二酸化ケイ素)粒子、酸化マグネシウム粒子、アルミナ粒子、ジルコニア粒子、炭酸カルシウム粒子、酸化カルシウム粒子、二酸化チタン粒子、酸化亜鉛粒子、酸化セリウム粒子などの無機粒子が挙げられる。粒子の形状は、上述した通り、球状であることがよい。この観点で、無機粒子としては、シリカ粒子、酸化マグネシウム粒子、炭酸カルシウム粒子、酸化マグネシウム粒子、アルミナ粒子の無機粒子が好ましく、シリカ粒子、酸化チタン粒子、アルミナ粒子の無機粒子がより好ましく、シリカ粒子がさらに好ましい。これらの無機粒子は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0129】
なお、無機粒子のポリイミド前駆体溶液の溶媒への濡れ性および分散性が不十分である場合は、必要により、無機粒子の表面を修飾してもよい。表面修飾の方法としては、例えば、シランカップリング剤に代表される有機基を有するアルコキシシランで処理する方法;シュウ酸、クエン酸、乳酸などの有機酸でコーティングする方法;などが挙げられる。
【0130】
(溶媒)
溶媒は、粒子分散ポリイミド前駆体溶液中で、ポリイミド前駆体が溶解し、かつ粒子が溶解せずに分散している状態となるのであれば、特に限定されるものではない。溶媒は、有機系溶媒および水系溶媒のいずれでもよい。溶媒は、ポリイミド前駆体は溶解し、粒子は溶解せずに分散している状態に応じて選択さればよい。
【0131】
溶媒は、以下に示す有機系溶媒または水系溶媒が挙げられる。溶媒として、水系溶媒を適用した場合は、ポリイミド前駆体を溶解させるために、後述する有機アミン化合物を添加することが好ましい。
【0132】
溶媒としては、環境、コストの観点で水系溶媒が好ましい。特に、粒子として樹脂粒子を用いる場合は、ポリイミド前駆体に溶解し、さらに、樹脂粒子が溶解せずに分散している状態が得られるため、水系溶媒を用いることが好ましい。
【0133】
-有機系溶媒-
有機系溶媒は、本実施形態に係る粒子分散ポリイミド前駆体溶液中において、ポリイミド前駆体は溶解し、粒子は溶解せず分散している状態が得られるように選択される。有機系溶媒を選択する場合、ポリイミド前駆体に対する良溶媒(S1)と、良溶媒(S1)以外の溶媒(S2)との混合溶媒が好ましい。
【0134】
ポリイミド前駆体に対する良溶媒(S1)とは、ポリイミド前駆体溶液を作製する際に使用されるものである。良溶媒とは、本実施形態では、ポリイミド前駆体の溶解度が5質量%以上を示す溶媒を指す。具体的には、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、N-エチルピロリドン、テトラメチルウレア、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ジメチルプロピレンウレア、ジメチルスルホキシド、γ―ブチロラクトン、β-プロピオラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン、γ-カプロラクトンなどの非プロトン性極性溶剤が挙げられる。
これらの中でも、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、テトラメチルウレア、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、γ―ブチロラクトンが好ましく、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、テトラメチルウレア、ジメチルスルホキシド、γ―ブチロラクトンがより好ましく、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、γ―ブチロラクトンがさらに好ましい。
【0135】
ポリイミド前駆体に対する良溶媒以外の溶媒(S2)としては、用いる粒子の溶解度が低いものを選択する。溶媒の選択法の例としては、例えば、対象となる溶媒に粒子を添加して、溶解量が3質量%以下のものを選択する方法が挙げられる。
【0136】
ポリイミド前駆体に対する良溶媒以外の溶媒(S2)としては、例えば、n-デカン、トルエンなどの炭化水素系溶剤;イソプロピルアルコール、1-プロパノール、1-ブタノール、1-ペンタノール、フェネチルアルコールなどのアルコール系溶剤;エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、1-メトキシ-2-プロパノール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテルなどのグリコール系溶剤;ジグライム、トリグライム、テトラグライム、メチルセロソルブアセテートなどのエーテル系溶剤;フェノール、クレゾールなどのフェノール系溶剤;などが挙げられる。
【0137】
粒子として、前述の樹脂粒子を用いる場合、溶媒(S1)は非常に極性が高いため、溶媒(S1)単独では、ポリイミド前駆体だけでなく、樹脂粒子をも溶解してしまう場合がある。そのため、溶媒(S1)と溶媒(S2)の混合比率は、ポリイミド前駆体は溶解し、樹脂粒子は溶解しないように決定すればよい。また、粒子分散ポリイミド前駆体溶液の塗膜の加熱過程で樹脂粒子が溶解して、例えば空孔の形状が乱れてしまうことを防ぐため、溶媒(S2)の沸点は、溶媒(S1)よりも10℃以上高いことが好ましく、20℃以上高いことがより好ましい。
【0138】
-水系溶媒-
本明細書において水系溶媒とは、具体的には、以下に示す水性溶剤である。
水性溶剤は、水を含む水性溶剤である。具体的には、水性溶剤は、全水性溶剤に対して水を50質量%以上含有する溶剤であることがよい。水としては、例えば、蒸留水、イオン交換水、限外濾過水、純水等が挙げられる。
【0139】
水の含有量は、全水性溶剤に対して、50質量%以上100質量%以下が好ましく、70質量%以上100質量%以下がより好ましく、80質量%以上100質量%以下が更に好ましい。
【0140】
なお、水性溶剤が水以外の溶剤を含む場合、水以外の溶剤としては、例えば、水溶性有機溶剤、非プロトン性極性溶剤が挙げられる。水以外の溶剤としては、多孔質ポリイミド膜の機械的強度等の点から、水溶性の有機溶剤が好ましい。ここで、水溶性とは、25℃において、対象物質が水に対して1質量%以上溶解することを意味する。
【0141】
特に、多孔質ポリイミド膜の諸特性(例えば、透明性、機械的強度、耐熱性、電気特性、耐溶剤性等)向上の点から、水性溶剤は、非プロトン性極性溶剤を含ませてもよい。この場合、粒子分散ポリイミド前駆体溶液中の粒子の溶解、膨潤を抑制するため、全水性溶剤に対して40質量%以下、好ましくは30質量%以下であることがよい。また、ポリイミド前駆体溶液を乾燥し、フィルム化する際の樹脂粒子の溶解、膨潤を抑制するため、粒子分散ポリイミド前駆体溶液中の粒子とポリイミド前駆体の含有量(固形分)に対し、3質量%以上200質量%以下、好ましくは、3質量%以上100質量%以下、より好ましくは、3質量%以上50質量%以下、さらに好ましくは、5質量%以上50質量%以下で用いることがよい。
【0142】
上記水溶性の有機溶剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。
粒子として樹脂粒子を用いる場合、上記水溶性の有機溶剤としては、樹脂粒子が溶解しないものが好ましい。この理由は、例えば、水と水溶性の有機溶剤とを含む水性溶剤とした場合に、樹脂粒子分散液中で樹脂粒子を溶解していなくても、粒子分散ポリイミド前駆体溶液の塗膜を得る過程で樹脂粒子が溶解してしまうことが懸念されるためである。
【0143】
粒子として樹脂粒子を用い、水系溶媒として樹脂粒子を溶解する水溶性の有機溶剤を用いる場合、粒子分散ポリイミド前駆体溶液中での粒子の溶解、膨潤を防ぐため、この水溶性の有機溶剤の量は、全水性溶剤に対して40質量%以下、好ましくは30質量%以下であることがよい。また、粒子分散ポリイミド前駆体溶液の塗膜を乾燥し、皮膜化する際の樹脂粒子の溶解、膨潤を防ぐため、この水溶性の有機溶剤の量は、粒子分散ポリイミド前駆体溶液中の粒子とポリイミド前駆体の合計量に対し、3質量%以上50質量%以下、好ましくは、5質量%以上40質量%以下、より好ましくは、5質量%以上35質量%以下で用いることがよい。
【0144】
水溶性有機溶剤の例としては、例えば、以下に示す水溶性エーテル系溶剤、水溶性ケトン系溶剤、水溶性アルコール系溶剤が挙げられる。
【0145】
水溶性エーテル系溶剤は、一分子中にエーテル結合を持つ水溶性の溶剤である。水溶性エーテル系溶剤としては、例えば、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、トリオキサン、1,2-ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等が挙げられる。これらの中でも、水溶性エーテル系溶剤としては、テトラヒドロフラン、ジオキサンが好ましい。
【0146】
水溶性ケトン系溶剤は、一分子中にケトン基を持つ水溶性の溶剤である。水溶性ケトン系溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等が挙げられる。これらの中でも、水溶性ケトン系溶剤としては、アセトンが好ましい。
【0147】
水溶性アルコール系溶剤は、一分子中にアルコール性水酸基を持つ水溶性の溶剤である。水溶性アルコール系溶剤は、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、tert-ブチルアルコール、エチレングリコール、エチレングリコールのモノアルキルエーテル、プロピレングリコール、プロピレングリコールのモノアルキルエーテル、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールのモノアルキルエーテル、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2-ブテン-1,4-ジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、グリセリン、2-エチル-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール、1,2,6-ヘキサントリオール等が挙げられる。これらの中でも、水溶性アルコール系溶剤としては、メタノール、エタノール、2-プロパノール、エチレングリコール、エチレングリコールのモノアルキルエーテル、プロピレングリコール、プロピレングリコールのモノアルキルエーテル、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールのモノアルキルエーテルが好ましい。
【0148】
水性溶剤として水以外の非プロトン性極性溶剤を含有する場合、併用される非プロトン性極性溶剤は、沸点150℃以上300℃以下で、双極子モーメントが3.0D以上5.0D以下の溶剤である。非プロトン性極性溶剤として具体的には、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサメチレンホスホルアミド(HMPA)、N-メチルカプロラクタム、N-アセチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMI)、N,N’-ジメチルプロピレン尿素、テトラメチル尿素、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル等が挙げられる。
【0149】
なお、水性溶剤として水以外の溶剤を含有する場合、併用される溶剤は、沸点が270℃以下であることがよく、好ましくは60℃以上250℃以下、より好ましくは80℃以上230℃以下である。併用される溶剤の沸点を上記範囲とすると、水以外の溶剤がポリイミド膜に残留し難くなり、また、機械的強度の高いポリイミド膜が得られ易くなる。
ここで、溶媒として水性溶剤を用いるとき、後述の有機アミン化合物を含有し、全溶媒中に示す水の割合が50質量%以上である水性溶剤であることがよい。また、この水性溶剤に、非プロトン性極性溶剤を、粒子とポリイミド前駆体の合計量に対し3質量%以上50質量%以下含有する水性溶剤でもよい。
【0150】
(有機アミン化合物)
溶媒が水系溶媒の場合、ポリイミド前駆体を溶解させるために、有機アミン化合物を添加して水溶化させる。有機アミン化合物は、ポリイミド前駆体(そのカルボキシ基)をアミン塩化して、その水性溶剤に対する溶解性を高めると共に、イミド化促進剤としても機能する化合物である。具体的には、有機アミン化合物は、分子量170以下のアミン化合物であることがよい。有機アミン化合物は、ポリイミド前駆体の原料となるジアミン化合物を除く化合物であることがよい。
なお、有機アミン化合物は、水溶性の化合物であることがよい。水溶性とは、25℃において、対象物質が水に対して1質量%以上溶解することを意味する。
【0151】
有機アミン化合物としては、1級アミン化合物、2級アミン化合物、3級アミン化合物が挙げられる。
これらの中でも、有機アミン化合物としては、2級アミン化合物、及び3級アミン化合物から選択される少なくとも一種(特に、3級アミン化合物)がよい。有機アミン化合物として、3級アミン化合物又は2級アミン化合物を適用すると(特に、3級アミン化合物)、ポリイミド前駆体の溶剤に対する溶解性が高まり易くなり、製膜性が向上し易くなり、また、ポリイミド前駆体溶液の保存安定性が向上し易くなる。
【0152】
また、有機アミン化合物としては、1価のアミン化合物以外にも、2価以上の多価アミン化合物も挙げられる。2価以上の多価アミン化合物を適用すると、ポリイミド前駆体の分子間に疑似架橋構造を形成し易くなり、また、ポリイミド前駆体溶液の保存安定性が向上し易くなる。
【0153】
1級アミン化合物としては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、n-プロピルアミン、イソプロピルアミン、2-エタノールアミン、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、などが挙げられる。
2級アミン化合物としては、例えば、ジメチルアミン、2-(メチルアミノ)エタノール、2-(エチルアミノ)エタノール、モルホリンなどが挙げられる。
3級アミン化合物としては、例えば、2-ジメチルアミノエタノール、2-ジエチルアミノエタノール、2-ジメチルアミノプロパノール、ピリジン、トリエチルアミン、ピコリン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン、1,2-ジメチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾールなどが挙げられる。
【0154】
ポリイミド前駆体溶液のポットライフ、フィルム膜厚均一性の観点で、3級アミン化合物が好ましい。この点で、2-ジメチルアミノエタノール、2-ジエチルアミノエタノール、2-ジメチルアミノプロパノール、ピリジン、トリエチルアミン、ピコリン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン、1,2-ジメチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、N-メチルピペリジン、N-エチルピペリジンからなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましい。さらに、2-ジメチルアミノエタノール、2-ジエチルアミノエタノール、2-ジメチルアミノプロパノール、トリエチルアミン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン、1,2-ジメチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、N-メチルピペリジン、N-エチルピペリジンからなる群から選択される少なくとも1種であることが最も好ましい。
【0155】
ここで、有機アミン化合物としては、製膜性の点から、窒素を含有する複素環構造を有するアミン化合物(特に、3級アミン化合物)も好ましい。窒素を含有する複素環構造を有するアミン化合物(以下、「含窒素複素環アミン化合物」と称する)としては、例えば、イソキノリン類(イソキノリン骨格を有するアミン化合物)、ピリジン類(ピリジン骨格を有するアミン化合物)、ピリミジン類(ピリミジン骨格を有するアミン化合物)、ピラジン類(ピラジン骨格を有するアミン化合物)、ピペラジン類(ピペラジン骨格を有するアミン化合物)、トリアジン類(トリアジン骨格を有するアミン化合物)、イミダゾー
ル類(イミダゾール骨格を有するアミン化合物)、モルホリン類(モルホリン骨格を有するアミン化合物)、ポリアニリン、ポリピリジン、ポリアミンなどが挙げられる。
【0156】
含窒素複素環アミン化合物としては、製膜性の点から、モルホリン類、ピリジン類、ピペリジン類、およびイミダゾール類よりなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましく、モルホリン類(モルホリン骨格を有するアミン化合物)であることがより好ましい。これらの中でも、N-メチルモルホリン、N-メチルピペリジン、ピリジン、1,2-ジメチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、およびピコリンよりなる群から選択される少なくとも一種であることがより好ましく、N-メチルモルホリンであることがより好ましい。
【0157】
これらの中でも、有機アミン化合物としては、沸点が60℃以上(好ましくは60℃以上200℃以下、より好ましくは70℃以上150℃以下)の化合物であることがよい。有機アミン化合物の沸点を60℃以上とすると、保管するときに、ポリイミド前駆体溶液から有機アミン化合物が揮発するのを抑制し、ポリイミド前駆体の溶剤に対する溶解性の低下が抑制され易くなる。
【0158】
有機アミン化合物は、ポリイミド前駆体溶液中のポリイミド前駆体のカルボキシ基(-COOH)に対して、50モル%以上500モル%以下で含有することがよく、好ましくは80モル%以上250モル%以下、より好ましくは90モル%以上200モル%以下で含有することである。
有機アミン化合物の含有量を上記範囲とすると、ポリイミド前駆体の水性溶剤に対する溶解性が高まり易くなり、製膜性が向上し易くなる。また、ポリイミド前駆体溶液の保存安定性も向上し易くなる。
【0159】
上記の有機アミン化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
【0160】
(その他の添加剤)
本実施形態に係る粒子分散ポリイミド前駆体溶液は、イミド化反応促進のための触媒や、製膜品質向上のためのレベリング材などを含んでいてもよい。
イミド化反応促進のための触媒には、酸無水物など脱水剤、フェノール誘導体、スルホン酸誘導体、安息香酸誘導体などの酸触媒などを使用してもよい。
【0161】
また、例えば、導電性付与のために添加される導電材料(導電性(例えば、体積抵抗率10Ω・cm未満)もしくは半導電性(例えば、体積抵抗率10Ω・cm以上1013Ω・cm以下))を含有していてもよい。
導電剤としては、例えば、カーボンブラック(例えばpH5.0以下の酸性カーボンブラック);金属(例えばアルミニウムやニッケル等);金属酸化物(例えば酸化イットリウム、酸化錫等);イオン導電性物質(例えばチタン酸カリウム、LiCl等);等が挙げられる。これら導電材料は、1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
【0162】
-粒子分散ポリイミド前駆体溶液を作製する方法-
本実施形態に係る粒子分散ポリイミド前駆体溶液の作製方法としては、下記の(i)、(ii)による方法が挙げられる。
(i)ポリイミド前駆体溶液を作製した後、粒子と混合、分散する方法
(ii)粒子分散液を作製し、その分散液中でポリイミド前駆体を合成する方法
【0163】
・(i)ポリイミド前駆体溶液を作製した後、粒子と混合および分散する方法
まず、粒子を分散する前のポリイミド前駆体溶液は、公知の方法を用い、溶媒中で、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを重合して樹脂(ポリイミド前駆体)を生成してポリイミド前駆体溶液を得る方法が挙げられる。
なお、水系溶媒の場合は、上述の水性溶剤を使用し、有機アミンの存在下で重合してポリイミド前駆体溶液が得られる。他の例としては、非プロトン性極性溶剤等(例えば、N-メチルピロリドン(NMP)等)の有機溶剤中で、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを重合して樹脂(ポリイミド前駆体)を生成した後、水や、アルコール等の水性溶剤に投入して樹脂(ポリイミド前駆体)を析出させる。その後、水性溶剤に、ポリイミド前駆体と有機アミン化合物とを溶解させ、ポリイミド前駆体溶液を得る方法が挙げられる。
【0164】
次に、得られたポリイミド前駆体溶液と、粒子と混合および分散する。
樹脂粒子を作製する場合、例えば、樹脂粒子がビニル樹脂粒子である場合には、公知の重合法(乳化重合、ソープフリー乳化重合、懸濁重合、ミニエマルション重合、マイクロエマルション重合等のラジカル重合法)により、水性溶剤中で作製できる。
【0165】
例えば、ビニル樹脂粒子の製造に乳化重合法を適用する場合、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の水溶性重合開始剤を溶解させた水性溶剤中に、スチレン類、(メタ)アクリル酸類等の単量体を加える。そして、さらに必要に応じて、ドデシル硫酸ナトリウム、ジフェニルオキサイドジスルホン酸塩類等の界面活性剤を添加し、攪拌を行いながら加熱することにより重合を行うことで、ビニル樹脂粒子が得られる。
【0166】
水性溶剤中で、本実施形態に係る粒子分散ポリイミド前駆体溶液を作製する場合は、上記の方法によって得られた樹脂粒子の水性溶剤分散液と、上記で得られたポリイミド前駆体溶液とを混合および撹拌することで、粒子分散ポリイミド前駆体溶液が得られる。
【0167】
有機系溶媒中で、本実施形態に係る粒子分散ポリイミド前駆体溶液を作製する場合は、樹脂粒子の水性溶剤分散液を、再沈や凍結乾燥など公知の方法で、樹脂粒子を粉体として取出し、上記で得られたポリイミド前駆体溶液と混合および撹拌する。または、取り出した樹脂粒子粉体を、樹脂粒子を溶解させない有機系溶媒(単独でも混合溶媒でもよい)に再分散させてから、ポリイミド前駆体溶液と混合および撹拌してもよい。
なお、混合、攪拌、及び分散の方法は特に制限されない。また、粒子の分散性を向上させるため、公知の非イオン性またはイオン性の界面活性剤を添加してもよい。
【0168】
市販品の粒子(樹脂粒子または無機粒子)を使用する場合、粒子が粉体として入手可能であるときには、粒子分散ポリイミド前駆体溶液の溶媒が有機系溶媒または水系溶媒を問わず、目的とする濃度で、粒子の混合および分散が可能である。粒子が、粒子の分散液で入手可能なときには、前述の粒子を作製する場合と同様の方法で、粒子の分散液と上記で得られたポリイミド前駆体溶液とを混合および分散して、粒子分散ポリイミド前駆体溶液の作製を行う。
【0169】
・(ii)粒子分散液を作製し、その分散液中でポリイミド前駆体を作製する方法
有機系溶媒で、本実施形態に係る粒子分散ポリイミド前駆体溶液を作製する場合は、まず、粒子が溶解せず、ポリイミド前駆体は溶解する有機系溶媒に、粒子が分散された溶液を準備する。次に、その溶液中で、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを重合して樹脂(ポリイミド前駆体)を生成して粒子分散ポリイミド前駆体溶液を得る。
水系溶媒(水性溶剤)で、本実施形態に係る粒子分散ポリイミド前駆体溶液を作製する場合は、まず、粒子の水性溶剤分散液を準備する。次に、その溶液中で、かつ有機アミンの存在下で、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを重合して樹脂(ポリイミド前駆体)を生成して粒子分散ポリイミド前駆体溶液を得る。
【0170】
粒子として、樹脂粒子を用いる場合、本実施形態に係る粒子分散ポリイミド前駆体溶液中での分散性を向上させるため、樹脂粒子表面を、元の樹脂とは異なる化学構造の樹脂で被覆してもよい。被覆する樹脂としては、用いる溶媒やポリイミド前駆体の化学構造に応じて変更してもよい。被覆する樹脂としては、例えば、酸性基または塩基性基を有する樹脂などが挙げられる。樹脂粒子表面への樹脂を被覆する方法としては、例えば、ビニル樹脂粒子を乳化重合で作製する場合、元の樹脂粒子に由来する単量体の重合を終えた後で、さらにメタクリル酸やメタクリル酸2-ジメチルアミノエチルなどの酸性基や塩基性基を有する単量体を少量添加して重合を継続する方法が挙げられる。
【0171】
これらの中でも、本実施形態に係る粒子分散ポリイミド前駆体溶液を作製する方法としては、粒子分散性をより向上できる点で、上記(ii)の方法が好ましい。
【実施例
【0172】
以下に実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下の説明において、特に断りのない限り、「部」及び「%」はすべて質量基準である。
【0173】
[粒子分散液の調製]
-樹脂粒子分散液(1)の調製-
メタクリル酸メチル670質量部、界面活性剤Dowfax2A1(47%溶液、ダウ・ケミカル社製)12.1質量部、イオン交換水670質量部を混合し、ディゾルバーにより、1,500回転で30分間攪拌、乳化を行い、単量体乳化液を作製した。
反応容器に、Dowfax2A1(47%溶液、ダウ・ケミカル社製)1.10質量部、イオン交換水1500質量部を投入した。窒素気流下、75℃に加熱した後、単量体乳化液のうち70質量部を添加した後に、過硫酸アンモニウム15質量部をイオン交換水98質量部に溶解させた重合開始剤溶液を10分かけて滴下した。滴下後50分間反応させた後に、残りの単量体乳化液を220分かけて滴下し、さらに50分間反応させた。次いで、メタクリル酸5質量部、イオン交換水10質量部混合した液を5分かけて滴下し、150分反応した後、冷却して、樹脂粒子分散液(1)を得た。この樹脂粒子の平均粒径は0.81μmであった。なお、樹脂粒子の平均粒径は、既述の方法により測定した体積平均粒径である(以下同様)。
【0174】
-樹脂粒子分散液(2)の調製-
メタクリル酸メチル670質量部、界面活性剤Dowfax2A1(47%溶液、ダウ・ケミカル社製)32.1質量部、イオン交換水670質量部を混合し、ディゾルバーにより、1,500回転で30分間攪拌、乳化を行い、単量体乳化液を作製した。
反応容器に、Dowfax2A1(47%溶液、ダウ・ケミカル社製)1.10質量部、イオン交換水1500質量部を投入した。窒素気流下、75℃に加熱した後、単量体乳化液のうち70質量部を添加した後に、過硫酸アンモニウム15質量部をイオン交換水98質量部に溶解させた重合開始剤溶液を10分かけて滴下した。滴下後50分間反応させた後に、残りの単量体乳化液を220分かけて滴下し、さらに50分間反応させた。次いで、メタクリル酸5質量部、イオン交換水10質量部混合した液を5分かけて滴下し、150分反応した後、冷却して、樹脂粒子分散液(2)を得た。この樹脂粒子の平均粒径は0.30μmであった。
【0175】
-樹脂粒子分散液(3)の調製-
メタクリル酸メチル670質量部、界面活性剤Dowfax2A1(47%溶液、ダウ・ケミカル社製)10.5質量部、イオン交換水576質量部を混合し、ディゾルバーにより、1,500回転で30分間攪拌、乳化を行い、単量体乳化液を作製した。
反応容器に、Dowfax2A1(47%溶液、ダウ・ケミカル社製)1.10質量部、イオン交換水1500質量部を投入した。窒素気流下、75℃に加熱した後、単量体乳化液のうち50質量部を添加した。次いで、過硫酸アンモニウム15質量部をイオン交換水98質量部に溶解させた重合開始剤溶液を10分かけて滴下した。滴下後50分間反応させた後に、単量体乳化液のうち、20質量部を10分かけて滴下し、さらに50分間反応させた。その後、残りの単量体乳化液を10分かけて滴下し、さらに120分間反応させたのち、冷却して、樹脂粒子分散液(3)を得た。この樹脂粒子の平均粒径は1.20μmであった。
【0176】
-樹脂粒子分散液(4)の調製-
メタクリル酸メチル670質量部、界面活性剤Dowfax2A1(47%溶液、ダウ・ケミカル社製)29.2質量部、イオン交換水670質量部を混合し、ディゾルバーにより、1,500回転で30分間攪拌、乳化を行い、単量体乳化液を作製した。
反応容器に、Dowfax2A1(47%溶液、ダウ・ケミカル社製)1.10質量部、イオン交換水1500質量部を投入した。窒素気流下、75℃に加熱した後、単量体乳化液のうち70質量部を添加した後に、過硫酸アンモニウム15質量部をイオン交換水98質量部に溶解させた重合開始剤溶液を10分かけて滴下した。滴下後50分間反応させた後に、残りの単量体乳化液を220分かけて滴下し、さらに50分間反応させた。次いで、メタクリル酸5質量部、イオン交換水10質量部混合した液を5分かけて滴下し、150分反応した後、冷却して、樹脂粒子分散液(4)を得た。この樹脂粒子の平均粒径は0.60μmであった。
【0177】
-樹脂粒子分散液(5)の調製-
メタクリル酸メチル670質量部、界面活性剤Dowfax2A1(47%溶液、ダウ・ケミカル社製)25.0質量部、イオン交換水670質量部を混合し、ディゾルバーにより、1,500回転で30分間攪拌、乳化を行い、単量体乳化液を作製した。
反応容器に、Dowfax2A1(47%溶液、ダウ・ケミカル社製)1.10質量部、イオン交換水1500質量部を投入した。窒素気流下、75℃に加熱した後、単量体乳化液のうち70質量部を添加した後に、過硫酸アンモニウム15質量部をイオン交換水98質量部に溶解させた重合開始剤溶液を10分かけて滴下した。滴下後50分間反応させた後に、残りの単量体乳化液を220分かけて滴下し、さらに50分間反応させた。次いで、メタクリル酸5質量部、イオン交換水10質量部混合した液を5分かけて滴下し、150分反応した後、冷却して、樹脂粒子分散液(5)を得た。この樹脂粒子の平均粒径は0.42μmであった。
【0178】
-樹脂粒子分散液(6)の調製-
メタクリル酸メチル670質量部、界面活性剤Dowfax2A1(47%溶液、ダウ・ケミカル社製)38.1質量部、イオン交換水576質量部を混合し、ディゾルバーにより、1,500回転で30分間攪拌、乳化を行い、単量体乳化液を作製した。
反応容器に、Dowfax2A1(47%溶液、ダウ・ケミカル社製)1.10質量部、イオン交換水1500質量部を投入した。窒素気流下、75℃に加熱した後、単量体乳化液のうち70質量部を添加した後に、過硫酸アンモニウム15質量部をイオン交換水98質量部に溶解させた重合開始剤溶液を10分かけて滴下した。滴下後50分間反応させた後に、残りの単量体乳化液を220分かけて滴下し、さらに50分間反応させた。次いで、メタクリル酸5質量部、イオン交換水10質量部混合した液を5分かけて滴下し、150分反応した後、冷却して、樹脂粒子分散液(6)を得た。この樹脂粒子の平均粒径は0.16μmであった。
【0179】
-シリカ粒子分散液(1)の調製-
平均粒子径2.5μmの球状シリカ粒子(日本触媒社製)30質量部をN-メチルピロリドン(NMP)30質量部に分散した。
【0180】
-シリカ粒子分散液(2)の調製-
平均粒子径3.5μmである球状シリカ粒子(東亞合成社製)の30質量部をN-メチルピロリドン(NMP)30質量部に分散した。
【0181】
-シリカ粒子分散液(3)の調製-
平均粒子径4.5μmである球状シリカ粒子(富士シリシア化学社製)30質量部をN-メチルピロリドン(NMP)30質量部に分散した。
【0182】
-シリカ粒子分散液(4)の調製-
平均粒子径6μmである球状シリカ粒子(アドマテックス社製)30質量部をN-メチルピロリドン(NMP)30質量部に分散した。
【0183】
-シリカ粒子分散液(5)の調製-
平均粒子径9μmである球状シリカ粒子(鈴木油脂工業社製)の30質量部をN-メチルピロリドン(NMP)30質量部に分散した。
【0184】
-シリカ粒子分散液(6)の調製-
平均粒子径10μmである球状シリカ粒子(富士シリシア化学社)30質量部をN-メチルピロリドン(NMP)30質量部に分散した。
【0185】
-シリカ粒子分散液(7)の調製-
平均粒子径13μmである球状シリカ粒子(デンカ社製)30質量部をN-メチルピロリドン(NMP)30質量部に分散した。
【0186】
[樹脂粒子分散ポリイミド前駆体溶液の作製(A1)]
樹脂粒子分散液(1):固形分換算で樹脂粒子100gに、イオン交換水を添加し、樹脂粒子の固形分濃度を25質量%に調整した。
この樹脂粒子分散液に、p-フェニレンジアミン(分子量108.14):9.59g(88.7ミリモル)と、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(分子量294.22):25.58g(86.9ミリモル)とを添加し、20℃で10分間攪拌して分散させた。ついで、N-メチルモルホリン(有機アミン化合物):25.0g(247.3ミリモル)を、ゆっくりと添加し、反応温度60℃に保持しながら、24時間攪拌して溶解、反応を行い、樹脂粒子分散ポリイミド前駆体溶液(A1)を得た(樹脂粒子/ポリイミド前駆体=100/35.2(質量比)、ポリイミド前駆体の溶液中濃度:約6.6質量%)。
【0187】
[樹脂粒子分散ポリイミド前駆体溶液の作製(A2)~(A9),(RA1)~(RA2)]
表1にしたがって、樹脂粒子の種類を変更した以外は、樹脂粒子分散ポリイミド前駆体溶液(A1)の作製と同様にして、各例の多孔質ポリイミド膜を得るための樹脂粒子分散ポリイミド前駆体溶液(A2)~(A9)を作製した。また、粒子/ポリイミド前駆体の質量比を変更した以外は、樹脂粒子分散ポリイミド前駆体溶液(A1)の作製と同様にして、樹脂粒子分散ポリイミド前駆体溶液(RA1)~(RA2)を作製した。
【0188】
[シリカ粒子分散ポリイミド前駆体溶液の作製(B1)]
攪拌棒、温度計、滴下ロートを取り付けたフラスコに、N-メチルピロリドン:900gを充填した。ここに、p-フェニレンジアミン(分子量108.14):27.28g(252.27ミリモル)を添加し、20℃で10分間攪拌して分散させた。この溶液に3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(分子量294.22):72.72g(247.16ミリモル)を添加し、反応温度を20℃に保持しながら、24時間攪拌して溶解、反応を行い、ポリイミド前駆体溶液を得た。
このポリイミド前駆体溶液:100質量部に、シリカ粒子分散液(1)を、表1に示す粒子/ポリイミド前駆体の割合となるように混合、撹拌して、シリカ粒子分散ポリイミド前駆体溶液(B1)を作製した。
【0189】
[シリカ粒子分散ポリイミド前駆体溶液の作製(B2)~(B7),(RB1)~(RB2)]
表1にしたがって、シリカ粒子の種類を変更し、膜厚を変更した以外は、シリカ粒子分散ポリイミド前駆体溶液(B1)の作製と同様にして、各例の多孔質ポリイミド膜を得るためのシリカ粒子分散ポリイミド前駆体溶液(B2)~(B7)を作製した。また、シリカ粒子の種類、及び粒子/ポリイミド前駆体の質量比を変更した以外は、シリカ粒子分散ポリイミド前駆体溶液(B1)の作製と同様にして、シリカ粒子分散ポリイミド前駆体溶液(RB1)~(RB2)を作製した。
【0190】
[多孔質ポリプロピレン膜の準備,RPP-1,RPP-2]
固体電解質を保持するための保持体として、表2に示す特性を有する多孔質ポリプロピレン膜を準備した。
【0191】
[多孔質ポリイミド膜の作製(PI-1~PI-9、RPI-1,RPI-2)]
まず、上記で作製した樹脂粒子分散ポリイミド前駆体溶液の塗膜を形成するためのアルミニウム板を準備した。アルミニウム板の表面には、離型剤KS-700(信越化学工業社製)をトルエンに溶かした溶液を、乾燥後に約0.05μm程度の厚さになるように塗布し、400℃で加熱処理した離型層を設けた。
次に、樹脂粒子分散ポリイミド前駆体溶液を、アルミニウム基板の離型層上に、乾燥後の膜厚が30μmになるように塗布して塗膜を形成した。この塗膜を90℃で1時間加熱乾燥した。その後、室温(25℃、以下同じ)から380℃まで10℃/分の速度で昇温し、380℃で1時間保持したのち、室温に冷却して膜厚約30μmである、多孔質ポリイミド膜を得た。また、表1にしたがって、粒子分散ポリイミド前駆体溶液を変更し、表2にしたがって、膜厚を変更した以外は上記と同様にして、各例の多孔質ポリイミド膜を得た。
【0192】
[多孔質ポリイミド膜の作製(PI-10~PI-16,RPI-3,RPI-4)]
上記で作製したシリカ粒子分散ポリイミド前駆体溶液の塗膜を形成するためのアルミニウム板を準備した。アルミニウム板の表面には、離型剤KS-700(信越化学工業社製)をトルエンに溶かした溶液を、乾燥後に約0.05μm程度の厚さになるように塗布し、400℃で加熱処理した離型層を設けた。
次に、シリカ粒子分散ポリイミド前駆体溶液を、アルミニウム基板の離型層上に、乾燥後の膜厚が300μmになるように塗布して塗膜を形成した。この塗膜を120℃で1時間加熱乾燥した後、アルミニウム基板から剥離し、室温から380℃まで10℃/分の速度で昇温し、380℃で1時間保持したのち、室温に冷却して膜厚約300μmである、シリカ粒子含有ポリイミド複合膜を得た。得られたシリカ粒子含有ポリイミド複合膜を、10質量%フッ化水素水に浸漬し、6時間かけてシリカ粒子を溶解除去した。その後、水洗及び乾燥して、多孔質ポリイミド膜を得た。また、表1にしたがって、粒子分散ポリイミド前駆体溶液を変更し、表2にしたがって、膜厚を変更した以外は上記と同様にして、各例の多孔質ポリイミド膜を得た。
【0193】
【表1】
【0194】
[多孔質膜の特性]
(空隙率)
作製した多孔質ポリイミド膜の重量を測定し、JIS K7130(1992)に準じて膜厚を測定した。また、島津製作所製の乾式自動密度計(アキュピックII 1340-10ml)により、真比重を測定して、既述の式に準じて、空隙率を測定した。
【0195】
(空孔径、空孔の円形度)
空孔径(空孔径の平均値)、空孔の円形度は、既述のように、走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察及び計測した。
【0196】
(比(長径/短径)が1.5以上の空孔の比率)
既述の方法により、各例で得られた多孔質ポリイミド膜について観察及び計測した。
【0197】
(固体電解質の充填率)
多孔質ポリイミド膜の空孔に充填する固体電解質の充填率は、既述のように求めた。具体的には、以下のようにして求めた。まず、各例の多孔質膜の重量と膜厚を予め測定して密度を算出した。次いで、各例の多孔質膜上に固体電解質を積層し、プレス圧(150~700N/m)により加圧して固体電解質を多孔質膜の空孔内に含浸した。次いで、含浸後の多孔質膜重量と膜厚を予め測定して密度を算出した。固体電解質の含浸前後における多孔質膜の密度から、既述の式によって充填率を測定した。
【0198】
<実施例1~18、比較例1~6>
金属製(アルミニウム製)の正極集電体、下記材料の正極活性物質層、固体電解質層、下記材料の負極活物質、及び金属製(アルミニウム製)の負極集電体をこの順となるように積層させて、全固体電池を得た。固体電解質層は、下記材料の硫化物系の固体電解質と、固体電解質の保持体としての多孔質膜とを積層し、プレス圧(150~700N/m))により加圧して固体電解質を多孔質膜の空孔内に含浸させた。
-材料-
正極活物質:LiCoO、LiNiO、LiMnO
負極活物質:天然黒鉛
固体電解質:Li-P-S系ガラス
【0199】
[評価]
(サイクル電気特性)
各例で得られた多孔質ポリイミド膜を用いて、下記の手順にしたがって全固体電池を作製した。つぎに、作製した全固体電池を、室温(25℃)において、電圧3.0Vから4.2Vまでの間で、充放電サイクル試験(1C)を100サイクルを実施した(つまり、100回繰り返し充放電(25℃における1C充電と1C放電))。100サイクルを実施後、全固体電池の電池容量の容量維持率を調べた。容量維持率が高いほどサイクル特性が良好である。
【0200】
【表2】
【0201】
上記結果から、本実施例では、比較例に比べ、サイクル特性が良好であることがわかる。
【符号の説明】
【0202】
31 基板、51 剥離層、10A 空孔、10 511 多孔質ポリイミド膜、100 全固体電池、110 正極活物質層、310 極活物質層、513 固体電解質、510 固体電解質層
図1
図2