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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】ゴルフボールの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A63B 45/00 20060101AFI20231003BHJP
   B29C 45/27 20060101ALI20231003BHJP
   B29C 33/12 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
A63B45/00 B
B29C45/27
B29C33/12
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019096976
(22)【出願日】2019-05-23
(65)【公開番号】P2020188989
(43)【公開日】2020-11-26
【審査請求日】2022-04-20
(73)【特許権者】
【識別番号】592014104
【氏名又は名称】ブリヂストンスポーツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 英郎
【審査官】関口 英樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-213712(JP,A)
【文献】特開平11-009722(JP,A)
【文献】特開2006-014939(JP,A)
【文献】特許第4098034(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア、中間層及びカバーを有し、該カバーの樹脂材料がポリウレタン樹脂を主材として形成されるものであり、該カバーの厚さが0.1mm以上0.7mm以下であるゴルフボールを上下2分割型の射出成形用金型により製造する方法であって、上記射出成形用金型は、球状キャビティを有すると共に、該球状キャビティ内にカバーの樹脂材料を流入されるためのゲートを有し、且つ、金型のパーティングラインと直交する方向に進退可能に配置される3本以上のサポートピンを有し、該サポートピンの端部の断面の面積が25~42mm2であり、上記ゲートは、金型のパーティングラインに沿って6~8個形成され、該ゲートが球状キャビティの壁面に接触する部分の面積(開口面積)が1.57~2.26mm2であることを特徴とするゴルフボールの製造方法。
【請求項2】
上記サポートピンが、上型又は下型の片側の金型に4本以上有する請求項1記載のゴルフボールの製造方法。
【請求項3】
上記サポートピンが、上型又は下型の片側の金型に6本以上有する請求項1記載のゴルフボールの製造方法。
【請求項4】
上記サポートピンの配設位置が、金型の上下の極を結んだ軸線と、該軸線上の中心からサポートピンが退出するキャビディ壁面に向けた法線との交わる角度が15~30°となるようにサポートピンを配置する請求項1~3のいずれか1項記載のゴルフボールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロや上級者向けのゴルフボールとして、カバーが比較的軟らかく且つ薄いウレタン樹脂製のゴルフボール及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近では、プロや上級者向けのゴルフボールとして、ショートゲームでの優れたスピン特性を重要視するため、比較的軟らかいウレタンカバーのボールが使われることが多い。しかしながら、このゴルフボールでは、カバー材料に硬いアイオノマーのカバーを使用したボールに比べると、フルショット時にスピン量が多くなり、飛距離が劣る場合がある。このため、軟らかい外層カバーを薄くすると共に、外層カバーより硬い材料を中間層に用いてマルチピースソリッドゴルフボールとすることにより、フルショットにおけるスピン量を抑え、大きな飛距離を得ることも提案されている。
【0003】
しかしながら、上記ポリウレタン樹脂を薄く形成する場合、従来の射出成形用金型の構成では、樹脂がうまく均一にキャビディ内に充填できず、或いは、外層カバーを射出成型する際の中間層被覆球体等の対象球体が偏芯して、薄いカバーを高品質に形成することができなかった。
【0004】
なお、ウレタン製カバーを有するゴルフボールの製造方法として関連する技術として、以下の特許文献1~6の特許公報が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4188245号公報
【文献】特許第4206341号公報
【文献】特許第4188246号公報
【文献】特許第4188247号公報
【文献】特許第4098034号公報
【文献】特許第4173766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、比較的薄いウレタン樹脂製のカバーを有するマルチピースソリッドゴルフボールの製造方法において、薄いカバーを高品質に形成することができボールの量産性の高いゴルフボールの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するため、プロや上級者がフルショットにおいてスピン量を抑え、大きな飛距離を得ることができ、更には、ショートゲームでの優れたスピン特性を重要視するために比較的軟らかいウレタン樹脂製カバーを薄く形成する際、該ウレタン樹脂製カバーより硬い材料を中間層に用いると共に、射出成形用金型のキャビティ内に樹脂材料を射出する際、薄いカバー形成用流路でも、安定して樹脂材料を充填させるために、キャビティ内に充填させるための流入孔(ゲート孔)の面積及びその配置本数を最適化することにより、本発明を下記のとおり構成することとなったものである。
【0008】
従って、本発明は、下記のゴルフボール製造方法を提供する。
1.コア、中間層及びカバーを有し、該カバーの樹脂材料がポリウレタン樹脂を主材として形成されるものであり、該カバーの厚さが0.1mm以上0.7mm以下であるゴルフボールを上下2分割型の射出成形用金型により製造する方法であって、上記射出成形用金型は、球状キャビティを有すると共に、該球状キャビティ内にカバーの樹脂材料を流入されるためのゲートを有し、且つ、金型のパーティングラインと直交する方向に進退可能に配置される3本以上のサポートピンを有し、該サポートピンの端部の断面の面積が25~42mm2であり、上記ゲートは、金型のパーティングラインに沿って6~8個形成され、該ゲートが球状キャビティの壁面に接触する部分の面積(開口面積)が1.57~2.26mm2であることを特徴とするゴルフボールの製造方法。
2.上記サポートピンが、上型又は下型の片側の金型に4本以上有する上記1記載のゴルフボールの製造方法。
3.上記サポートピンが、上型又は下型の片側の金型に6本以上有する上記1記載のゴルフボールの製造方法。
4.上記サポートピンの配設位置が、金型の上下の極を結んだ軸線と、該軸線上の中心からサポートピンが退出するキャビディ壁面に向けた法線との交わる角度が15~30°となるようにサポートピンを配置する上記1~3のいずれかに記載のゴルフボールの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のゴルフボール及びその製造方法は、比較的軟らかいウレタン樹脂製カバーを薄く且つ高品質に形成することができ、ゴルフボールの生産性が良い。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施態様であるカバー形成用の射出成形用金型を示す概略図であり、(A)は射出成形前の状態、(B)は樹脂材料を金型内流入中の状態、(C)は金型内に樹脂材料を充填させた後の状態を示す。
図2】金型内のゲートの配置を説明するための概略図である。
図3】金型に配設されたサポートピンの位置を示す概略断面図である。
図4】本実施例に用いられたディンプルの配置態様を現したゴルフボールの平面図である。
図5】コア又は中間層被覆球体の直径の測定方法を説明するための説明図である。
図6】ボール直径の測定方法を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明につき、更に詳しく説明する。
本発明の製造方法は、コア、中間層及びカバーを有し、該カバーの樹脂材料がポリウレタン樹脂を主材として形成されるマルチピースソリッドゴルフボールを製造物とするものである。
【0012】
上記コアは、通常、単層又は複数層のゴム材料により形成される。具体的には、基材ゴムを主体とし、これに、共架橋剤、有機過酸化物、不活性充填剤、有機硫黄化合物等を配合させてゴム組成物を作成することができる。基材ゴムとしては、ポリブタジエンを用いることが好ましい。
【0013】
コアに対して、初期荷重98N(10kgf)から終荷重1,275N(130kgf)を負荷したときまでのたわみ量(mm)は、特に制限はないが、好ましくは2.5mm以上、より好ましくは2.7mm以上、更に好ましくは3.0mm以上であり、上限値として、好ましくは6.0mm以下、より好ましくは5.0mm以下、更に好ましくは4.0mm以下である。上記コアのたわみ量が小さすぎる、即ち、コアが硬すぎると、ボールのスピン量が増えすぎて飛ばなくなったり、打感が硬くなりすぎることがある。一方、上記コアのたわみ量が大きすぎる、即ち、コアが軟らかすぎると、ボールの反発性が低くなりすぎて飛ばなくなったり、打感が軟らかくなりすぎ、あるいは繰り返し打撃時の割れ耐久性が悪くなることがある。
【0014】
上記コアについては、少なくとも中心硬度及び表面硬度を下記のように適正化を図ることが望まれる。
【0015】
上記コアの中心硬度(Cc)は、好ましくは52以上、より好ましくは56以上、さらに好ましくは60以上であり、その上限値は、好ましくは69以下、より好ましくは67以下、さらに好ましくは65以下である。この値が大きすぎると、打感が硬くなり、あるいはフルショットでスピンが増えて狙いの飛距離が得られない場合がある。一方、上記値が小さすぎると、反発性が低くなり飛ばなくなり、あるいは繰り返し打撃した時の割れ耐久性が悪くなることがある。
【0016】
上記コアの表面硬度(Cs)は、好ましくは86以上、より好ましくは88以上、さらに好ましくは90以上であり、その上限値は、好ましくは98以下、より好ましくは97以下、さらに好ましくは96以下である。これらの硬度を逸脱した場合、上記コアの中心硬度(Cc)で説明したのと同様の不利な結果を招くおそれがある。
【0017】
コアの表面硬度(Cs)とコアの中心硬度(Cc)との差は、好ましくは25以上、より好ましくは28以上、さらに好ましくは30以上であり、上限値として、好ましくは35以下、より好ましくは34以下、さらに好ましくは33以下である。この値が小さすぎると、ドライバーショットした時のボールの低スピン効果が足りずに飛距離が出なくなることがある。上記値が大きすぎると、実打した時のボール初速が低くなり飛距離が出なくなり、あるいは繰り返し打撃した際の割れ耐久性が悪くなることがある。
【0018】
なお、上記に説明するコアの硬度はショアC硬度を意味する。このショアC硬度は、ASTM D2240規格に準拠したショアC硬度計にて計測した硬度値である。
【0019】
上記コアは、上記各成分を含有するゴム組成物を加硫硬化させることにより製造することができ、例えば、バンバリーミキサーやロール等の混練機を用いて混練し、コア用金型を用いて圧縮成形又は射出成型し、上記ゴム組成物を硬化させて製造することができる。
【0020】
次に、コアを被覆する中間層について説明する。
中間層を形成する材料としては、ゴルフボールのカバー材で使用される各種の熱可塑性樹脂、特にアイオノマー樹脂を採用することが好適である。
【0021】
アイオノマー樹脂としては市販品を用いることができる。また、中間層の樹脂材料として、市販品のアイオノマー樹脂のうち酸含量18質量%以上の高酸含量アイオノマー樹脂を通常のアイオノマー樹脂にブレンドして用いることもできる。
【0022】
中間層材料については、後述するカバー材で用いられるポリウレタンとの密着度を高めるために中間層表面を研磨することが好適である。更に、その研磨処理の後にプライマー(接着剤)を中間層表面に塗布するか、もしくは材料中に密着強化材を添加することが好ましい。
【0023】
中間層材料の比重は、通常1.1未満であり、好ましくは0.90~1.05、さらに好ましくは0.93~0.99である。その範囲を逸脱すると、ボール全体の反発性が低くなり飛距離が出なくなり、或いは繰り返し打撃による割れ耐久性が悪くなることがある。
【0024】
中間層の材料硬度は、特に制限はないが、ショアD硬度で、好ましくは60以上、より好ましくは62以上、さらに好ましくは63以上であり、上限値として、好ましくは72以下、より好ましくは70以下、さらに好ましくは68以下である。また、コアを中間層で被覆した球体(中間層被覆球体)の表面硬度は、ショアD硬度で、好ましくは66以上、より好ましくは68以上、さらに好ましくは69以上であり、上限値としては、好ましくは78以下、より好ましくは76以下、さらに好ましくは74以下である。中間層の材料硬度及び表面硬度が上記範囲よりも軟らかすぎると、フルショット時のスピン量が増えすぎて飛距離が出ない場合がある。上記の材料硬度及び表面硬度が硬すぎると、繰り返し打撃による割れ耐久性が悪くなり、あるいは打感が悪くなることがある。
【0025】
中間層の厚さは、好ましくは0.8mm以上であり、より好ましくは1.0mm以上、さらに好ましくは1.1mm以上である。一方、中間層の厚さの上限値としては、好ましくは1.7mm以下、より好ましくは1.55mm以下、さらに好ましくは1.4mm以下である。また、中間層の厚さはカバーよりも厚く形成されることが好適である。上記の範囲を外れ、或いは中間層がカバーより薄く形成されると、ドライバー(W#1)で打撃した際にボールの低スピン効果が足りずに飛距離が出なくなることがある。また、中間層が薄過ぎると、繰り返し打撃した時の割れ耐久性が悪くなることがあり、中間層が厚過ぎると、打感が硬く感じられることがある。
【0026】
また、中間層被覆球体の直径は、好ましくは41.3mm以上であり、より好ましくは41.4mm以上、さらに好ましくは41.5mm以上である。一方、上記直径の上限値としては、好ましくは42.5mm以下、より好ましくは42.1mm以下、さらに好ましくは41.7mm以下である。上記直径が小さすぎると、ドライバー(W#1)打撃時にスピン量が多くなり、狙いの飛距離が得られなくなることがある。一方、上記直径が大き過ぎると、繰り返し打撃耐久性が悪くなり、または打感が悪くなることがある。
【0027】
上記中間層の形成方法については、公知の射出成形法等の常法により行なうことができる。例えば、コアの周囲に中間層材料を射出成形用金型により射出して中間層被覆球体を得ることができる。または、予め半殻球状に成形した中間層用の2枚のハーフカップでコアを包み加熱加圧成形することにより上記中間層被覆球体を作製することもできる。
【0028】
次に、カバーについて説明する。
カバーの樹脂材料としては、本発明では、ポリウレタン樹脂を主材とするものであり、特に、ボール製品の量産性の観点から、熱可塑性ポリウレタンを採用することができる。本発明において、上記ポリウレタン樹脂として具体的には、下記の(I)熱可塑性ポリウレタン及び(II)ポリイソシアネート化合物を主成分とする樹脂配合物により形成することが好適である。
【0029】
上記(I)熱可塑性ポリウレタンについて述べると、その熱可塑性ポリウレタンの構造は、長鎖ポリオールである高分子ポリオール(ポリメリックグリコール)からなるソフトセグメントと、鎖延長剤およびポリイソシアネート化合物からなるハードセグメントとを含む。ここで、原料となる長鎖ポリオールとしては、従来から熱可塑性ポリウレタンに関する技術において使用されるものはいずれも使用でき、特に制限されるものではないが、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリカーボネートポリオール、ポリオレフィン系ポリオール、共役ジエン重合体系ポリオール、ひまし油系ポリオール、シリコーン系ポリオール、ビニル重合体系ポリオールなどを挙げることができる。これらの長鎖ポリオールは1種類のものを使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらのうちでも、反発弾性率が高く低温特性に優れた熱可塑性ポリウレタンを合成できる点で、ポリエーテルポリオールが好ましい。
【0030】
鎖延長剤としては、従来の熱可塑性ポリウレタンに関する技術において使用されるものを好適に用いることができ、例えば、イソシアネート基と反応し得る活性水素原子を分子中に2個以上有する分子量400以下の低分子化合物であることが好ましい。鎖延長剤としては、1,4-ブチレングリコール、1,2-エチレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。鎖延長剤としては、これらのうちでも、炭素数2~12の脂肪族ジオールが好ましく、1,4-ブチレングリコールがより好ましい。
【0031】
ポリイソシアネート化合物としては、従来の熱可塑性ポリウレタンに関する技術において使用されるものを好適に用いることができ、特に制限はない。具体的には、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4-(又は)2,6-トルエンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフチレン1,5-ジイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネートからなる群から選択された1種又は2種以上を用いることができる。ただし、イソシアネート種によっては射出成形中の架橋反応をコントロールすることが困難なものがある。本発明においては生産時の安定性と発現される物性とのバランスとの観点から、芳香族ジイソシアネートである4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートが最も好ましい。
【0032】
具体的な(I)成分の熱可塑性ポリウレタンとし、市販品を用いることもでき、例えば、パンデックスT8295,同T8290,同T8260(いずれもディーアイシーコベストロポリマー社製)などが挙げられる。
【0033】
必須成分ではないが、上記(I)及び(II)成分に、別の成分である(III)成分として、上記熱可塑性ポリウレタン以外の熱可塑性エラストマーを配合することができる。この(III)成分を上記樹脂配合物に配合することにより、樹脂配合物の更なる流動性の向上や反発性、耐傷付き性等、ゴルフボールカバー材として要求される諸物性を高めることができる。
【0034】
上記(I)、(II)及び(III)成分の組成比については、特に制限はないが、本発明の効果を十分に有効に発揮させるためには、質量比で(I):(II):(III)=100:2~50:0~50であることが好ましく、さらに好ましくは、(I):(II):(III)=100:2~30:0~30(質量比)とすることである。
【0035】
なお、上記の樹脂配合物には、必要に応じて、上記の熱可塑性ポリウレタンを構成する成分以外の種々の添加剤を配合することができ、例えば顔料、分散剤、酸化防止剤、耐光安定剤、紫外線吸収剤、離型剤等を適宜配合することができる。
【0036】
カバーの材料硬度は、特に制限はないが、ショアD硬度で、好ましくは25以上、より好ましくは30以上、さらに好ましくは35以上であり、上限値として、好ましくは48以下、より好ましくは45以下、さらに好ましくは43以下である。ショアC硬度では、好ましくは43以上、より好ましくは50以上、さらに好ましくは57以上であり、上限値として、好ましくは74以下、より好ましくは70以下、さらに好ましくは67以下である。上記カバー材料が軟らかすぎると、ドライバー(W#1)打撃時にスピン量が増えてしまい飛距離が出なくなることがある。上記カバー材料が硬過ぎると、ショートゲームでスピンがかからずショートゲーム性が悪くなったり、耐擦過傷性が悪くなることがある。
【0037】
上記中間層の材料硬度から上記カバーの材料硬度を引いた値は、ショアD硬度で15以上とすることが好ましく、より好ましくは18以上、さらに好ましくは20以上である。一方、上限値としては、好ましくは40以下、より好ましくは35以下、さらに好ましくは30以下である。上記値が小さすぎると、フルショット時にスピンが増えて飛距離が出なくなることがある。一方、上記値が大きすぎると、繰り返し打撃した時の割れ耐久性が悪くなり、或いはトップした時にカバーが切れやすくなることがある。
【0038】
カバーの厚さは、0.1mm以上であり、好ましくは0.3mm以上、より好ましくは0.5mm以上である。一方、カバーの厚さの上限値としては、0.7mm以下であり、好ましくは0.65mm以下、より好ましくは0.6mm以下である。上記カバーが厚すぎると、ボールのスピン量が増えたり、ボール初速が低くなり、飛距離が出なくなることがある。上記カバーが薄過ぎるとショートゲームでのボールのスピン量がかからなくなったり、耐擦過傷性が悪くなることがある。また、カバーの射出成型において、キャビティ内に樹脂材料が全体に均一に回り込まず、生産性が困難になる。
【0039】
ここで、本発明では、上記カバー材料を上下2分割型の射出成形用金型により射出成形するものである。この射出成形用金型により、樹脂材料であるポリウレタン樹脂を所定温度に加熱し、溶融状態で、金型内にセットされた中間層被覆球体と球状キャビティ壁面との間に射出して、カバー樹脂材料を成形するものである。
【0040】
本発明に用いる射出成形用金型は、球状キャビティと、該球状キャビティ内にカバーの樹脂材料を流入されるためのゲートと、金型のパーティングラインと直交する方向に進退可能に配置されるサポートピンとを有する。例えば、図1に示すように、球状キャビティ1、所定数のゲート2及び所定数のサポートピン3を具備した射出成形用金型10を用い、球状キャビティ1内に中間層被覆球体等の対象球体20をサポートピン3により支持した状態で、溶融樹脂材料30をゲート2からキャビティ内に流入させるものである。図1(A)は射出成形前の金型内の様子を示す概略図であり、サポートピンが中間層被覆球体を支持している状態を示す。図1(B)は樹脂材料30を金型内に流入させる際の金型10の内部の概略図であり、図1(C)は樹脂材料を金型内に充填して射出成形を完了させた後の金型10の様子を示す概略図である。金型内の球状キャビティ1内に対象球体20を支持した所定本数のサポートピン3の動作については、溶融樹脂材料30が球状キャビティ1内に充填するにつれて次第に後退していき、完全にキャビティ内への溶融樹脂材料の充填が完了する直前にサポートピンをキャビティの壁面と一致するように引き、その後樹脂材料の充填を完了させる。なお、特に図示していないが、金型のパーティングラインの位置には、カバー材料を供給するためのランナー部がキャビティを取り囲むように配置されると共に、このランナー部からキャビティに向かって放射状に開口したゲートが周上に下記に示すように配設されている。
【0041】
上記ゲートは、金型のパーティングラインに沿って6個以上形成されるものである。このゲートの本数は、好ましくは7個以上、より好ましくは8個以上であり、上限の本数として、好ましくは14個以下であり、より好ましくは12個以下、さらに好ましくは10個以下である。図2の一例では、ゲート2がパーティングラインに沿って6個均等に配置されている。上記のゲートの本数が所定範囲よりも少ないと、キャビティ内に樹脂材料を回り込ますことが十分ではなくなり、成形後のポール付近のカバー厚が薄くなり、コアを完全に覆うことができずにはげた状態になることがある。
【0042】
金型のパーティングラインに沿って配設されるゲートは、キャビティ内に樹脂材料を均一に回り込ませて高品質な薄いカバーを形成する点から、パーティングラインの周上に等間隔に配置することが好ましい。
【0043】
上記ゲート2は、通常、図2に示すように、金型を真上から見た場合、外側2bを大きく、内側2aを小さく形成することが好ましい。本発明では、ゲート部の内側部分、即ち、金型のキャビティの壁面1aに接触するゲート部の開口部は図2の符号2cに示すように通常、円形状となっている。このゲート部の開口面積(断面積)2cが1.25~2.70mm2である。上記ゲート部分の開口面積は、好ましくは1.35mm2以上であり、より好ましくは1.50mm2以上であり、上限値として、好ましくは2.50mm2以下、より好ましくは2.30mm2以下である。この開口面積が小さ過ぎると、カバー樹脂材料がキャビティ内に十分に回り込ますことができず、成形後のポール付近のカバー厚が薄くなったり、コアを完全に覆うことができずにはげた状態になることがある。一方、上記開口面積が大きすぎると、カバー樹脂材料をポール部に回り込ませる流入速度が速くなり過ぎてしまい、成形後のボール直径については、シーム部に対してポール部の径が大きくなってしまうことがある。
【0044】
金型のパーティングラインと直交する方向に進退可能に配置されるサポートピンは、通常、球状キャビティの極を中心に描いた円上に沿って所定間隔で3本以上(例えば120°の間隔で3本)配置されるものである。このサポートピンは、上下割型の断面円形の孔内を進退可能に配置され、図1(A)に示されるように、キャビティ内に進入した時に中間層被覆球体を保持し、キャビティ内にカバー樹脂材料を充填し、その後、サポートピンをキャビティ内壁面の位置まで後退し得る動作を示すものである。このサポートピンについては、樹脂材料がキャビティ内に充填される過程で、キャビティ内にセットされた中間層被覆球体の変形を抑え、且つキャビティ内中心にコアを安定的に位置付けさせるために、該サポートピンの孔の直径(端部の直径)、本数についても最適化することが望ましい。なお、サポートピンの孔の直径は、サポートピンを軸に直角に切った時の断面の直径ではなく、サポートピンの先端部の輪郭に沿った平面形状の径のことを言う。
【0045】
上記サポートピンの本数は、上型又は下型の片側の金型に4本以上とすることが好ましく、より好ましくは6本以上、さらに好ましくは8本以上である。また、この本数の上限としては、好ましくは12本以下であり、より好ましくは10本以下、さらに好ましくは9本以下である。上記の本数の範囲を逸脱すると、中間層被覆球体をキャビティ中心に保持しつつ、かつ中間層被覆球体の変形を抑制し、カバー樹脂材料を中間層被覆球体とキャビティ壁面との空間に全体に均一の厚さに形成することが困難になる場合がある。
【0046】
また、上記サポートピンの端部は、必ずしも限定されないが、通常、その断面が円形状または楕円形状である。この断面の面積は、17mm2以上であることが好ましく、より好ましくは23mm2以上であり、さらに好ましくは25mm2以上であり、上限値としては、好ましくは42mm2以下であり、より好ましくは36mm2以下、さらに好ましくは32mm2以下である。
【0047】
更に、上記サポートピンの配設位置については、図3に示すように、金型の上下の極を結んだ軸線Xと、該軸線上の中心Oからサポートピン3が退出するキャビディ壁面1aに向けた法線との交わる角度θが15~30°となるようにサポートピン3を配置することが好適である。この角度のより好ましくは18°以上であり、さらに好ましくは20°以上であり、上限値として、好ましくは30°以下、より好ましくは28°以下、さらに好ましくは25°以下である。上記の角度の範囲を逸脱すると、中間層被覆球体20をキャビティの中心Oに保持しつつ、かつ中間層被覆球体20の変形を抑制し、カバー樹脂材料を中間層被覆球体とキャビティとの間に全体に均一の厚さとして形成することが困難になる場合がある。
【0048】
上記カバーの外表面には多数のディンプルを形成することができる。このディンプルは、通常、上記カバーの射出成形の際、射出成形用金型の球状キャビティ壁面に形成された多数のディンプル形成用突起により形成することができる。カバーの外表面に配置されるディンプルについては、好ましくは250個以上、より好ましくは300個以上、更に好ましくは320個以上であり、上限としては、好ましくは380個以下、より好ましくは350個以下、更に好ましくは340個以下具備することができる。ディンプルの個数が上記範囲より多くなると、ボールの弾道が低くなり、飛距離が低下することがある。逆に、ディンプル個数が少なくなると、ボールの弾道が高くなり、飛距離が伸びなくなる場合がある。
【0049】
ディンプルの形状については、円形、楕円形、各種多角形、デュードロップ形、その他非円形など1種類又は2種類以上を組み合わせて適宜使用することができる。例えば、円形ディンプルを使用する場合には、直径は2.5~6.5mm以下程度、深さは0.08~0.30mm以下とすることができる。
【0050】
ディンプルがゴルフボールの球面に占めるディンプル占有率、具体的には、ディンプルの縁に囲まれた平面の面縁で定義されるディンプル面積の合計が、ディンプルが存在しないと仮定したボール球面積に占める比率(SR値)については、空気力学特性を十分に発揮し得る点から70~90%であることが望ましい。また、各々のディンプルの縁に囲まれた平面下のディンプルの空間体積を、前記平面を底面とし、かつこの底面からのディンプルの最大深さを高さとする円柱体積で除した値V0は、ボールの弾道の適正化を図る点から0.35~0.80とすることが好適である。更に、ディンプルの縁に囲まれた平面から下方に形成されるディンプル容積の合計がディンプルが存在しないと仮定したボール球容積に占めるVR値は、0.6~1.0%とすることが好ましい。上述した各数値の範囲を逸脱すると、良好な飛距離が得られない弾道となり、十分満足した飛距離を出せない場合がある。
【0051】
上記カバー表面には塗料層が形成される。この塗料層は、各種塗料を用いて塗装することができ、塗料としては、ゴルフボールの過酷な使用状況に耐えうる必要から、ポリオールとポリイソシアネートとからなるウレタン塗料を主成分とする塗料用組成物を用いることが好適である。
【0052】
上記ポリオール成分としては、アクリル系ポリオールやポリエステルポリオールなどが挙げられる。なお、これらのポリオールには、ポリオールの変性体が含まれ、更に作業性を向上させるため、他のポリオールを追加することもできる。
【0053】
アクリルポリオールとしては、イソシアネートと反応する官能基を有するモノマーの単独重合体または共重合体が挙げられ、このようなモノマーとしては、例えば(メタ)アクリル酸アルキルエステルなどが挙げられ、具体的には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらは1種単独で、または2種以上を併用することができる。
【0054】
また、アクリルポリオールの変性体としては、例えば、ポリエステル変性アクリルポリオール等が使用できる。他のポリオールとしては、ポリオキシエチレングリコール(PEG),ポリオキシプロピレングリコール(PPG)及びポリオキシテトラメチレングリコール(PTMG)のようなポリエーテルポリオール、ポリエチレンアジペート(PEA),ポリブチレンアジペート(PBA)及びポリヘキサメチレンアジペート(PH2A)のような縮合系ポリエステルポリオール、ポリ-ε-カプロラクトン(PCL)のようなラクトン系ポリエステルポリオール、ポリヘキサメチレンカーボネートのようなポリカーボネートポリオール等が挙げられる。これらは1種単独で、または2種以上を併用することができる。また、これらポリオールのアクリル系ポリオール全量に対する比率は、50質量%以下が好ましく、より好ましくは40質量%以下である。
【0055】
ポリエステルポリオールは、ポリオールと多塩基酸との重縮合により得られる。ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ヘキシレングリコール、ジメチロールヘプタン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のジオール類、トリオール、テトラオール、脂環構造を有するポリオールが挙げられる。多塩基酸としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸等の脂肪族不飽和ジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の芳香族多価カルボン酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、エンドメチレンテトラヒドロフタル酸等の脂環構造を有するジカルボン酸、トリス-2-カルボキシエチルイソシアヌレートが挙げられる。
【0056】
ポリオール成分としては、2種類のポリエステルポリオールを併用することが好適である。この場合、2種類のポリエステルポリオールを(A)成分及び(B)成分とすると、(A)成分のポリエステルポリオールとしては、樹脂骨格に環状構造が導入されたポリエステルポリオールを採用することができ、例えば、シクロヘキサンジメタノール等の脂環構造を有するポリオールと多塩基酸との重縮合、或いは、脂環構造を有するポリオールとジオール類又はトリオールと多塩基酸との重縮合により得られるポリエステルポリオールが挙げられる。一方、(B)成分のポリエステルポリオールとしては、多分岐構造を有するポリエステルポリオールを採用することができ、例えば、東ソー社製の「NIPPOLAN 800」等の枝分かれ構造を有するポリエステルポリオールが挙げられる。
【0057】
上記2種類のポリエステルポリオールからなる主剤の全体の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは13,000~23,000であり、より好ましくは15,000~22,000である。また、上記2種類のポリエステルポリオールからなる主剤の全体の数平均分子量(Mw)は、好ましくは1,100~2,000であり、より好ましくは1,300~1,850である。これらの平均分子量(Mw及びMn)が上記範囲を逸脱すると、塗料層の耐摩耗性が低下するおそれがある。なお、重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、示差屈折率計検出によるゲルパーミェーションクロマトグラフィー(以下、GPCと略称する)測定による測定値(ポリスチレン換算値)である。
【0058】
上記2種類のポリエステルポリオール(A),(B)成分の配合量は、特に制限はないが、(A)成分の配合量が、主剤全量に対して20~30質量%であり、(B)成分の配合量が主剤全量に対して2~18質量%であることが好ましい。
【0059】
一方、ポリイソシアネートについては、特に制限はなく、一般的に用いられている芳香族、脂肪族、脂環式などのポリイソシアネートであり、具体的には、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,4-シクロヘキシレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、1-イソシアナト-3,3,5-トリメチル-4-イソシアナトメチルシクロヘキサン等が挙げられる。これらは、単独で或いは混合して使用することができる。
【0060】
上記のヘキサメチレンジイソシアネートの変性体としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネートのポリエステル変性体やウレタン変性体などが挙げられる。上記のヘキサメチレンジイソシアネートの誘導体としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネートのヌレート体(イソシアヌレート体)やビュレット体、アダクト体が挙げられる。
【0061】
ポリオールが有する水酸基(OH基)とポリイソシアネートが有するイソシアネート基(NCO基)とのモル比(NCO基/OH基)については、0.5~1.5の範囲になるようにする必要があり、好ましくは0.8~1.2であり、より好ましくは1.0~1.2である。0.5未満の場合には未反応の水酸基が残り、塗料層としての性能及び耐水性が悪くなるおそれがある。一方,1.5を超えるとイソシアネート基が過剰となるため、水分との反応でウレア基(脆い)が生成することになり、その結果、塗料層の性能が低下するおそれがある。
【0062】
硬化触媒(有機金属化合物)として、アミン系触媒や有機金属系触媒を使用することができ、この有機金属化合物としては、アルミニウム、ニッケル、亜鉛、スズ等の金属石鹸等、従来から2液硬化型ウレタン塗料の硬化剤として配合されているものを好適に使用することができる。
【0063】
塗料組成物には、塗装条件により、各種の有機溶剤を混合することができる。このような有機溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールメチルエーテルプロピオネート等のエステル系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系溶剤、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素系溶剤、ミネラルスピリット等の石油炭化水素系溶剤等が使用できる。
【0064】
塗料組成物には、必要に応じて、公知の塗料配合成分を添加してもよい。具体的には、増粘剤や紫外線吸収剤、蛍光増白剤、スリッピング剤、顔料等を適量配合することができる。
【0065】
上記塗料組成物からなる塗料層の厚さについては、特に制限はないが、通常5~40μm、好ましくは10~20μmである。なお、ここで言う塗料層の厚さとは、ディンプル内に形成される塗料層ではなく、ディンプル以外のボール表面(即ち、陸部又は土手部とも言う。)に形成される塗膜の厚さを意味する。
【0066】
上記塗料組成物からなる塗料層の弾性仕事回復率が60%以上とすることが好適であり、より好ましくは80%以上である。この塗料層の弾性仕事回復率が上記範囲であれば、塗料層が高弾性力を有するため自己修復機能が高く、耐摩耗性に非常に優れる。また、上記塗料組成物で塗装されたゴルフボールの諸性能を向上させることができる。上記の弾性仕事回復率の測定方法については以下のとおりである。
【0067】
弾性仕事回復率は、押し込み荷重をマイクロニュートン(μN)オーダーで制御し、押し込み時の圧子深さをナノメートル(nm)の精度で追跡する超微小硬さ試験方法であり、塗料層の物性を評価するナノインデンテーション法の一つのパラメータである。従来の方法では最大荷重に対応した変形痕(塑性変形痕)の大きさしか測定できなかったが、ナノインデンテーション法では自動的・連続的に測定することにより、押し込み荷重と押し込み深さとの関係を得ることができる。そのため、従来のような変形痕を光学顕微鏡で目視測定するときのような個人差がなく、精度高く塗料層の物性を評価することができると考えられる。ボール表面の塗料層がドライバーや各種のクラブの打撃により大きな影響を受け、塗料層がゴルフボールの物性に及ぼす影響は小さくないことから、塗料層を超微小硬さ試験方法で測定し、従来よりも高精度に行うことは、非常に有効な評価方法となる。
【0068】
上記の塗料組成物を使用する際は、公知の方法で製造されたゴルフボールに対し、塗料組成物を塗装時に調整し、通常の塗装工程を採用して表面に塗布し、乾燥工程を経てボール表面に塗料層を形成することができる。この場合、塗装方法としては、スプレー塗装法、静電塗装法、ディッピング法などを好適に採用することができ、特に制限はない。
【0069】
また、上記塗料層の硬度は、ショアM硬度は、好ましくは40以上、より好ましくは60以上であり、上限として、好ましくは95以下、より好ましくは85以下である。なお、このショアM硬度は、ASTM D2240に準ずるものである。また、上記塗料層の硬度は、ショアC硬度で好ましくは40以上であり、より好ましくは53以上であり、上限として、好ましくは80以下、より好ましくは73以下である。なお、このショアC硬度は、ASTM D2240に準ずるものである。塗料層が上記硬度範囲よりも高すぎると、繰り返し打撃した際に塗膜が脆くなり、カバー層を保護できなくなるおそれがある。塗料層が上記硬度範囲よりも小さすぎると、ボール表面が硬いものに当たった際に傷がつきやすくなり好ましくない。
【0070】
上記カバーの材料硬度(ショアC硬度)と上記塗料層のショアC硬度との差が±15以内であることが好ましく、より好ましくは±10以内であり、さらに好ましくは±5以内である。この差が大きすぎると、繰り返し打撃した際に塗料層が剥がれ易くなることがあり、また、アプローチ時にスピンがかからなくなり、フルショットスピンが増えて飛距離が落ちることがある。
【0071】
ゴルフボールの初期荷重10kgfをかけた状態から終荷重130kgfをかけたときまでのたわみ量は、好ましくは2.0mm以上であり、より好ましくは2.15mm以上、さらに好ましくは2.3mm以上であり、上限値としては、好ましくは3.5mm以下、より好ましくは3.0mm以下、さらに好ましくは2.7mm以下である。この値が小さいと、打感が硬くなり過ぎ、特にアイアンフルショット時にスピンが増えすぎて飛距離が出なくなることがある。一方、上記値が大きすぎると、打感が軟らかくなり過ぎ、特に、ヘッドスピード(HS)45m/s以上におけるドライバー(W#1)打撃時の実打初速が低くなり飛距離が出なくなることがある。
【0072】
ボール質量(重さ)、直径等のボール規格はゴルフ規則に従って適宜設定することができる。
【実施例
【0073】
以下、実施例と比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0074】
[実施例1~3、比較例1~4]
表1に示す配合によりコア用のゴム組成物を調製した後、全てに共通する実施例及び比較例について、155℃、15分間の条件の下、加硫成形することにより単層のコアを作製した。
【0075】
【表1】
【0076】
なお、表1に記載した各成分の詳細は以下の通りである。
・ポリブタジエンA:JSR社製、商品名「BR01」
・ポリブタジエンB:JSR社製、商品名「BR51」
・アクリル酸亜鉛:「ZN-DA85S」(日本触媒社製)
・有機過酸化物:ジクミルパーオキサイド、商品名「パークミルD」(日油社製)
・老化防止剤:2,2-メチレンビス(4-メチル-6-ブチルフェノール)、商品名「ノクラックNS-6」(大内新興化学工業社製)
・硫酸バリウム:ヒ性硫酸バリウム「バリコ♯100」(白水化学工業社製)
・酸化亜鉛:商品名「三種酸化亜鉛」(堺化学工業社製)
・ペンタクロロチオフェノール亜鉛塩:和光純薬工業社製
【0077】
コアの周囲に、表2に示した配合の樹脂材料Iを用いて射出成形法により中間層を形成し、該中間層を被覆した球体を得た。次いで、上記で得た中間層被覆球体の周囲に、表2に示した配合のウレタン樹脂材料IIを用いて射出成形法によりカバー(最外層)を形成した。表5には、各実施例及び比較例の射出成形用金型(ゲート及びサポートピン)の構成を示す。また、ゲートについては、各実施例及び比較例において、金型のパーティングラインの周上に等間隔に配置されている(図2を参照すると、ゲートが6個等間隔に配置されている。)。また、サポートピンの配設位置については、各実施例及び比較例において、金型の上下の極を結んだ軸線と、該軸線上の中心からサポートピンが退出するキャビディ壁面に向けた法線との交わる角度θが20.75°の位置に配置される。
【0078】
【表2】
【0079】
表2中に記載した主な材料の商品名は以下の通りである。
「ハイミラン」:三井・ダウポリケミカル社製のアイオノマー
「T-8283」:ディーアイシーコベストロポリマー社製の製品名「パンデックス」(MDI-PTMGタイプの熱可塑性ポリウレタン)
「ポリエチレンワックス」:三洋化成社製の商品名「サンワックス161P」
「イソシアネート化合物」:4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート
「酸化チタン」:堺化学工業社製
【0080】
ディンプルの形成
全実施例及び比較例に共通するディンプルは、下記表3に示す4種類の円形ディンプル(構成要素)を組み合わせた「Type-A」である。また、そのディンプルを配置したゴルフボールGを図4に示す。符号Dはディンプルであり、符号Lは、射出成形用金型のパーティングランに相応したシームライン、Mは、サポートピンの位置を示す。
【0081】
【表3】
【0082】
SR: ディンプルの縁に囲まれた平面で定義されるディンプル面積の合計が、ディンプルが存在しないと仮定したボール球面積に占める比率(単位:%)
VR: ディンプルの縁に囲まれた平面から下方に形成されるディンプル容積の合計が、ディンプルが存在しないと仮定したボール球容積に占める割合(単位:%)
【0083】
塗料層(コーティング層)の形成
次に、全ての実施例及び比較例に共通する塗料組成物として、下記表4に示す塗料組成物No.1を使用し、多数形成されたカバー(最外層)表面に、エアースプレーガンにより上記塗料を塗装し、厚み15μmの塗料層を形成したゴルフボールを作製した。
【0084】
【表4】
【0085】
[ポリエステルポリオール(A)の合成例]
環流冷却管、滴下漏斗、ガス導入管及び温度計を備えた反応装置に、トリメチロールプロパン140質量部、エチレングリコール95質量部、アジピン酸157質量部、1,4-シクロヘキサンジメタノール58質量部を仕込み、撹拌しながら200~240℃まで昇温させ、5時間加熱(反応)させた。その後、酸価4,水酸基価170,重量平均分子量(Mw)28,000の「ポリエステルポリオール(A)」を得た。
次に、上記の合成したポリエステルポリオール(A)を酢酸ブチルに溶解させ、不揮発分70質量%のワニスを調整した。
【0086】
表4の塗料組成物No.1は、上記ポリエステルポリオール溶液23質量部に対して、「ポリエステルポリオール(B)」(東ソー(株)製の飽和脂肪族ポリエステルポリオール「NIPPOLAN 800」、重量平均分子量(Mw)1,000、固形分100%)を15質量部と有機溶剤とを混合し、主剤とした。この混合物は、不揮発分38.0質量%であった。
【0087】
弾性仕事回復率
塗料の弾性仕事回復率の測定には、厚み50μmの塗膜シートを使用して測定する。測定装置は、エリオニクス社の超微小硬度計「ENT-2100」が用いられ、測定の条件は、以下の通りである。
・圧子:バーコビッチ圧子(材質:ダイヤモンド、角度α:65.03°)
・荷重F:0.2mN
・荷重時間:10秒
・保持時間:1秒
・除荷時間:10秒
塗膜の戻り変形による押し込み仕事量Welast(Nm)と機械的な押し込み仕事量
total(Nm)とに基づいて、下記数式によって弾性仕事回復率が算出される。
弾性仕事回復率=Welast / Wtotal × 100(%)
【0088】
ショアC硬度及びショアM硬度
上記表4のショアC硬度及びショアM硬度は、厚さ2mmのシートを作成し、3枚重ねて試験片としてASTM D2240規格に準拠したショアC硬度計及びショアM硬度計を用いてそれぞれ計測した。
【0089】
得られた各ゴルフボールにつき、コア硬度分布、各層の厚さ及び材料硬度、コア、中間層被覆球体及びボールの表面硬度の所定荷重負荷時のたわみ量などの諸物性を下記の方法で評価し、表5に示す。
【0090】
コア及び中間層被覆球体の各球体の外径
23.9±1℃の温度で、3時間以上温調した後に、図5の各球体Pの表面5箇所(1)~(5)を下記の方法a~dにより測定し、その平均値を1個の各球体の測定値とし、測定個数10個での平均値を求めた。なお、図5では各点の数字(1)~(5)は丸付き数字で示す。
a.ポール位置(1)からスタートし、(3)まで等間隔で測定する。
b.(3)の測定の次は中間層被覆球体を90°回転させる。
c.(4)~(5)の点を測定する。
d.(1)~(5)の平均値をその直径(外径)とする。
【0091】
コア、中間層被覆球体及びボールの各球体のたわみ量
各球体を硬板の上に置き、初期荷重10kgfをかけた状態から終荷重130kgfをかけたときまでのたわみ量をそれぞれ計測した。なお、上記のたわみ量は23.9℃に温度調節した後の測定値である。また、測定器はミュー精器株式会社製の高荷重コンプレッションテスターを使用し、加圧ヘッドのダウン速度は、4.7mm/秒で計測した。
【0092】
コア硬度分布
コアの表面は球面であるが、その球面に硬度計の針をほぼ垂直になるようにセットし、ASTM D2240に従ってショアC硬度でコア表面硬度を計測した。コアの中心については、コアを半球状にカットして断面を平面にして中心部分に硬度計の針を垂直に押し当てて測定した。ショアC硬度の値で示される。
【0093】
中間層及びカバーの材料硬度(ショアC硬度及びショアD硬度)
各層の樹脂材料を厚さ2mmのシート状に成形し、2週間以上放置した。その後、ショアC硬度およびショアD硬度はASTM D2240規格に準拠して計測した。
【0094】
カバーの厚みについて
表5に、カバーの「公称厚み」「ポール部の厚みT1」及び「シーム部の厚みT2」を表記する。これらの測定方法は下記のとおりである(単位:mm)。
(i)「公称厚み」=(ボール外径-中間層被覆球体の外径)/2
(ii)「ポール部の厚みT1」=〔(図6のボールの(1)の位置の外径)-(中間層被覆球体の外径)〕/2
(iii)「シーム部の厚みT2」=〔(図6のボールの(5)と(12)の位置の外径の平均値)-(中間層被覆球体の外径)〕/2
なお、上記のボール各点の測定は、後述する「ボール外径」欄で説明したとおりであり、図6では各点の数字(1)~(15)は丸付き数字で示す。
【0095】
【表5】
【0096】
各ゴルフボールの飛び性能及びアプローチスピン性能、及びボール外径を下記の方法で評価した。その結果を表6に示す。
【0097】
飛び性能
ゴルフ打撃ロボットにドライバー(W#1)をつけて、ヘッドスピード45m/sにて打撃した時の飛距離を測定し、下記の基準で判定した。クラブは、ブリヂストンスポーツ社製の「TourB XD-5/ドライバー」(ロフト角9.5°)を使用した。また、スピン量は同様に打撃した直後のボールを初期条件計測装置により測定した。
〈判定基準〉
トータル飛距離230.0m以上 ・・・ ○
トータル飛距離230.0m未満 ・・・ ×
【0098】
アプローチ時のスピン性能
ゴルフ打撃ロボットにサンドウエッジ(SW)をつけてヘッドスピード22m/sにて打撃した時のスピンの量で判断した。
〈判定基準〉
スピン量6200rpm以上 ・・・ ○
スピン量6200rpm未満 ・・・ ×
【0099】
ボール外径
23.9±1℃の温度で、3時間以上温調した後に、任意のディンプルのない部分を15箇所測定し、その平均値を1個のボールの測定値とし、測定個数10個のボールの平均値を求めた。任意のディンプルのない部分を15箇所測定する方法としては、図6を参照して下記a~dの手順に従う。なお、図6では各点の数字(1)~(15)は丸付き数字で示す。
a.ポール位置(1)からスタートし、(8)まで等間隔で測定する。
b.(8)の測定の次はポール位置〔(1)の真下〕まで進み、ボールを90°回転させ、(9)まで進む。
c.(9)~(15)の点を等間隔で測定する。
d.(1)~(15)の平均値をボール径とする。
【0100】
また、R&A(ゴルフボール公認ルール)では、ボール外径が1.68インチ(42.672mm)のリングゲージを通過しないことを規格基準としている。各実施例及び比較例のゴルフボールがリングゲージを通過するか否かを調べた。その結果を表6に示す。
【0101】
【表6】
【0102】
表6の結果に示されるように、比較例1~4のゴルフボールは、本発明品(実施例)に比べて以下の点で劣る。
比較例1は、カバー形成用の射出成形用金型のゲート孔面積が小さく、その結果、ウレタン樹脂材料が回りこみ難くなり、ポール部付近のボール外径が小さくなってしまう。
比較例2は、カバー形成用の射出成形用金型のゲート孔面積が大きく、その結果、ウレタン樹脂材料がキャビティ内のポール付近に入り過ぎてしまい、ポール部付近のボール外径が大きくなるとともに、シームライン上のゲート跡が残り、ボール外観が悪くなる。
比較例3は、ウレタン樹脂製のカバーを厚く形成してしまい、その結果、ボール性能として、フルショット時にスピン量が増えてしまい飛距離が出なくなる。
比較例4は、カバー形成用の射出成形用金型のゲート本数が少なく、その結果、ウレタン樹脂材料が回りこみ難くなり、ポール部付近のボール外径が小さくなってしまう。
図1
図2
図3
図4
図5
図6