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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】車両用警音器
(51)【国際特許分類】
   G10K 9/15 20060101AFI20231003BHJP
   G10K 9/12 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
G10K9/15 Z
G10K9/12 C
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019119000
(22)【出願日】2019-06-26
(65)【公開番号】P2020021050
(43)【公開日】2020-02-06
【審査請求日】2022-06-07
(31)【優先権主張番号】P 2018136019
(32)【優先日】2018-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】592056908
【氏名又は名称】浜名湖電装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106149
【弁理士】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【弁理士】
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 真悟
(72)【発明者】
【氏名】前橋 祐哉
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】泉 勇希
【審査官】渡邊 正宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-060774(JP,A)
【文献】実開平06-073799(JP,U)
【文献】特開昭58-215695(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60Q 5/00- 7/02
G10K 9/12- 9/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部(112a)を有するハウジング(11)と、
前記ハウジングに収容されて通電により磁力を発生するコイル(20)と、
前記ハウジングに収容された固定鉄心(22;122;222)と、
前記開口部を覆うように設けられる振動板(3)と、
前記振動板が結合されており、前記コイルへの通電により発生する磁気吸引力によって前記固定鉄心に向けて軸方向に変位する可動鉄心(4;104)と、
前記可動鉄心に結合されて、前記可動鉄心と前記固定鉄心との衝突時に発生する音を増幅させる共鳴板(9)と、
前記固定鉄心と前記可動鉄心のそれぞれの表面全体に形成された、母材硬度よりも硬い硬度である表面硬化層(4h,22h)と、
を備え、
前記固定鉄心と前記可動鉄心の少なくとも一方は、前記固定鉄心と前記可動鉄心との衝突部分(4a,22a)に湾曲凸面を備えている車両用警音器。
【請求項2】
前記可動鉄心は、前記固定鉄心側に凸となる前記湾曲凸面を備えている請求項1に記載の車両用警音器。
【請求項3】
前記固定鉄心は、前記可動鉄心の前記湾曲凸面との衝突部分に、前記軸方向に対して直交する平坦面を備えている請求項2に記載の車両用警音器。
【請求項4】
前記固定鉄心は、前記可動鉄心側に凸となる前記湾曲凸面を備えている請求項1に記載の車両用警音器。
【請求項5】
前記可動鉄心は、前記固定鉄心との衝突部分に、前記軸方向に対して直交する平坦面を備えている請求項4に記載の車両用警音器。
【請求項6】
前記固定鉄心は、前記可動鉄心との衝突部分に前記湾曲凸面を備え、前記可動鉄心は前記固定鉄心との衝突部分に前記湾曲凸面を備えている請求項1に記載の車両用警音器。
【請求項7】
前記表面硬化層は、ニッケルを主成分とし無電解ニッケルめっきによって形成されためっき層である請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の車両用警音器。
【請求項8】
前記表面硬化層は、ニッケルを主成分とし電気ニッケルめっきによって形成されためっき層である請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の車両用警音器。
【請求項9】
前記表面硬化層は、クロムを主成分とし硬質クロムめっきによって形成されためっき層である請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の車両用警音器。
【請求項10】
前記表面硬化層は、ダイヤモンドライクカーボンコーティングによって形成され薄膜であって、炭素と水素を含む非晶質のカーボン硬質膜である請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の車両用警音器。
【請求項11】
前記表面硬化層は、モリブデンを主成分とし、モリブデンコーティングによって形成された層である請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の車両用警音器。
【請求項12】
前記表面硬化層は、ビッカーズ硬度400以上の硬度を有している請求項1から請求項11のいずれか一項に記載の車両用警音器。
【請求項13】
前記固定鉄心は、車両側部材に取り付けられるステー(5)に固定された状態において前記ステーに接触する接触面(222c)を有し、
前記接触面における前記表面硬化層には、それぞれ所定範囲に形成された複数の凹凸部である摩擦力増大部(222d)が設けられている請求項1から請求項12のいずれか一項に記載の車両用警音器。
【請求項14】
複数の前記凹凸部は、環状面をなす前記接触面において、周方向に間隔をあけて並んでおり、全体として放射状かつ環状に設けられている請求項13に記載の車両用警音器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この明細書における開示は、警報音を発生する車両用警音器に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車両用警音器が開示されている。車両用警音器は、接点部が閉じた状態で磁気吸引力により可動鉄心を固定鉄心側に吸引して振動板がへこみ可動鉄心と固定鉄心が衝突したときの振動音が共鳴板に伝わり、振動音を共鳴板によって共鳴させて増幅して音を放出する。ホーンスイッチがオンの間は、可動鉄心が固定鉄心に引き寄せられると接点部が開いて電流が遮断されて振動板が戻り、振動板が戻ると接点部が閉じて再びコイルに電流が流れ、可動鉄心と固定鉄心の衝突が繰り返される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-189386号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の車両用警音器では、ホーンスイッチがオンの状態で可動鉄心と固定鉄心との衝突が繰り返されるので、衝突回数の増加に伴い、可動鉄心と固定鉄心の摩耗が進み、振動板の振幅量が大きくなっていく。振動板の振幅量が大きくなると、振動板等の破損により車両用警音器の寿命が短くなるという問題がある。
【0005】
この明細書における開示の目的は、製品寿命の向上が図れる車両用警音器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この明細書に開示された複数の態様は、それぞれの目的を達成するために、互いに異なる技術的手段を採用する。また、特許請求の範囲およびこの項に記載した括弧内の符号は、一つの態様として後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例であって、技術的範囲を限定するものではない。
【0007】
開示された車両用警音器の一つは、開口部(112a)を有するハウジング(11)と、ハウジングに収容されて通電により磁力を発生するコイル(20)と、ハウジングに収容された固定鉄心(22;122;222)と、開口部を覆うように設けられる振動板(3)と、振動板が結合されており、コイルへの通電により発生する磁気吸引力によって固定鉄心に向けて軸方向に変位する可動鉄心(4;104)と、可動鉄心に結合されて、可動鉄心と固定鉄心との衝突時に発生する音を増幅させる共鳴板(9)と、固定鉄心と可動鉄心のそれぞれの表面全体に形成された、母材硬度よりも硬い硬度である表面硬化層(4h,22h)と、を備え、固定鉄心と可動鉄心の少なくとも一方は、固定鉄心と可動鉄心との衝突部分(4a,22a)に湾曲凸面を備えている。
【0008】
この車両用警音器によれば、固定鉄心と可動鉄心のそれぞれの表面全体に表面硬化層が形成されており、さらに固定鉄心と可動鉄心の少なくとも一方において固定鉄心と可動鉄心との衝突部分には湾曲凸面が形成されている。この構成により、可動鉄心と固定鉄心とが衝突する部分の表面積を小さくできる。さらに対向する表面硬化層と表面硬化層とが衝突するので、衝突部分における表面の摩耗を抑え、母材の露出を遅らせることができる。
【0009】
固定鉄心と可動鉄心の少なくとも一方の衝突部分には湾曲凸面が設けられているため、母材が露出した後においても、母材の周囲に表面硬化層と表面硬化層との衝突部分を形成することができる。この衝突部分によって、内側に露出している母材の摩耗を抑えることができる。このような摩耗抑制効果によれば、固定鉄心に対する可動鉄心の移動距離が増加することを抑制でき、振動板の振幅量増加等を抑えることができる。したがって、製品寿命の向上が図れる車両用警音器を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1実施形態の車両用警音器の構成を示した断面図である。
図2】第1実施形態の車両用警音器について、可動鉄心、振動板、渦巻ホーン等を取り外した状態を示した平面図である。
図3】第1実施形態について、摩耗していない状態の固定鉄心と可動鉄心の断面形状を示した部分断面図である。
図4】第1実施形態に係る固定鉄心と可動鉄心との衝突部分において、摩耗進行状態を示した部分断面図である。
図5】可動鉄心との衝突部分について、母材が露出している摩耗進行状態を示した平面図である。
図6】第2実施形態について、摩耗していない状態の固定鉄心と可動鉄心の断面形状を示した部分断面図である。
図7】第2実施形態に係る固定鉄心と可動鉄心との衝突部分において、摩耗進行状態を示した部分断面図である。
図8】可動鉄心との衝突部分について、母材が露出している摩耗進行状態を示した平面図である。
図9】第3実施形態について、摩耗していない状態の固定鉄心と可動鉄心の断面形状を示した部分断面図である。
図10】第3実施形態に係る固定鉄心と可動鉄心との衝突部分において、摩耗進行状態を示した部分断面図である。
図11】可動鉄心との衝突部分について、母材が露出している摩耗進行状態を示した平面図である。
図12】第4実施形態の車両用警音器とステーの固定構造を示した断面図である。
図13】第4実施形態の固定鉄心におけるステーとの接触面を示す正面図である。
図14】固定鉄心の部分断面図である。
図15】固定鉄心とステーの接触状態を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、図面を参照しながら本開示を実施するための複数の形態を説明する。各形態において先行する形態で説明した事項に対応する部分には同一の参照符号を付して重複する説明を省略する場合がある。各形態において構成の一部のみを説明している場合は、構成の他の部分については先行して説明した他の形態を適用することができる。各実施形態で具体的に組み合わせが可能であることを明示している部分同士の組み合わせばかりではなく、特に組み合わせに支障が生じなければ、明示していなくても実施形態同士を部分的に組み合わせることも可能である。
【0012】
(第1実施形態)
第1実施形態の車両用警音器1について図1図5を参照しながら説明する。車両用警音器1は、例えば、自動車、自動二輪車等の車両に搭載されて外部に対して警告音を発生する装置であり、電磁式のホーンとも呼ばれる。車両用警音器1は、車両における所定の操作部が操作された際に、警報音を車外へ放出する。所定の操作部は、乗員によって操作される、例えば、ステアリングやハンドルに設けられたホーンスイッチである。車両用警音器1は、作動電圧に応じた警報音を発生する電磁式警報装置である。
【0013】
図1に示すように、車両用警音器1は、ステー5を介して車両の前部、例えば、ラジエータの前部等の車両側部材に取り付けられる。車両用警音器1は、図1に示すように可動鉄心4を固定鉄心22よりも前方に位置させ、可動鉄心4および固定鉄心22の軸方向を前後方向に沿わせた姿勢で車両に装着される。車両用警音器1は、有底かつ筒状のハウジング11と、ハウジング11内の中央付近に収容され固定された電磁コイル部2とを備える。車両用警音器1は、板状部材であって、外郭を構成するハウジング11の開口部112aを覆うようにハウジング11に固定されている振動板3を備える。振動板3はダイヤフラムとも呼ばれる。振動板3は、可動鉄心4の軸方向の変位に伴って振動して空気を振動させる。電磁コイル部2は、コイル20とボビン21と固定鉄心22とを備えて構成されている。コイル20は、樹脂製のボビン21に巻線が巻回されて形成されている。
【0014】
車両用警音器1は、振動板3の中央付近に固定され固定鉄心22に対向して配置された可動鉄心4とハウジング11の底部に固定されて車両等に装着されるステー5とを有する。電磁コイル部2は、ハウジング11の軸心周りに設置されている。ハウジング11および振動板3は、電磁コイル部2の磁気回路の一部を構成するために、鉄系の磁性体材料の板材が凹形状にプレス成形されて形成された部材である。可動鉄心4の前部に位置する小径部41には、振動板3の中心穴部30と共鳴板9の中心穴部9aが嵌合し可動鉄心4と振動板3および共鳴板9がかしめ固定された状態で一体になっている。小径部41は、振動板3と共鳴板9とが結合されている結合部をなしている。小径部41は、他部材である振動板3と共鳴板9を可動鉄心4に結合するためにかしめられる、振動板3や共鳴板9との結合部位である。
【0015】
可動鉄心4における前部の小径部41が振動板3の中心部に挿入された状態でかしめられることにより、可動鉄心4は振動板3に固定されている。可動鉄心4における接触部43は、小径部41よりも固定鉄心22側に位置し、小径部41と大径部42とを連結している部分である。接触部43には、振動板3における中心穴部30の周囲部分が接触している。
【0016】
固定鉄心22は、車両取付用のステー5に、ハウジング11の底部110の中心部とともにかしめ等の固定手段を用いて固定されている。固定鉄心22に設けられた後方側端部22bは、他部材であるステー5に固定鉄心22を結合するためにかしめられる、ステー5との結合部位である。固定鉄心22は、ステー5に、ハウジング11の底部110の中心部とともに、ナット締め等の手段を用いて固定されるようにしてもよい。
【0017】
ハウジング11は、後端に位置する円盤状の底部110と、底部110の周縁が筒状に立ち上がって形成された前端部から円盤状に突出する中間平坦部111と、前端に位置する外周縁部112とを有して一体に形成されている。外周縁部112は、ハウジング11の開口部112aを形成し、中間平坦部111の周縁が前方へ筒状に立ち上がって形成された前端部から突出して形成されている。振動板3の外周部は、外周縁部112に巻きつけられるように巻きかしめされて、ハウジング11に固定されている。振動板3は開口部112aを覆っている。
【0018】
ボビン21は、筒状部210、筒状部210における振動板3側の端部から円盤状に突出するフランジ部211、フランジ部211から外方に突出する第1被固定部212、第2被固定部213等を有して一体に形成された絶縁部材である。筒状部210の外周面には、巻線が巻回されて形成されているコイル20が設けられている。筒状部210の内側には、固定鉄心22がボビン21やコイル20と同心状に設けられている。フランジ部211は、ボビン21において、筒状部210の前端部から周囲に広がる端面を形成する。フランジ部211は、コイル20における、前端部や振動板3側の端部を覆う部分である。
【0019】
ハウジング11の底部110の前方側には、固定鉄心22やコイル20を有するボビン21が設けられている。固定鉄心22における軸方向の先端を含む端面22aは、可動鉄心4における軸方向の先端を含む端面4aに対向し、可動鉄心4との衝突部位である。車両用警音器1には、コイル20への非通電時に、可動鉄心4の端面4aと固定鉄心22の端面22aとの間には、所定距離の隙間、いわゆるエアギャップが形成されている。固定鉄心22は、ボビン21の筒状部210の内側に存在する。換言すれば、固定鉄心22の側面は、筒状部210によって囲まれている。
【0020】
固定鉄心22は、表面全体に形成された、母材硬度よりも硬い硬度である表面硬化層22hを備えている。可動鉄心4は、表面全体に形成された、母材硬度よりも硬い硬度である表面硬化層4hを備えている。表面硬化層4hは、可動鉄心4に施された表面処理によって形成された薄い層である。表面硬化層22hは、固定鉄心22に施された表面処理によって形成された薄い層である。表面硬化層4h、表面硬化層22hは、所定のめっき処理、所定のコーティング処理によって形成されており、ビッカーズ硬度400以上の硬度を有する。表面硬化層4hや表面硬化層22hの硬度は、ビッカーズ硬さ試験方法を示したJISZ2244にしたがって測定することができる。
【0021】
明細書に開示の目的を達成可能な車両用警音器は、固定鉄心22と可動鉄心4の少なくとも一方において、固定鉄心22と可動鉄心4との衝突部位に設けられ、可動鉄心4側に突出する湾曲凸面を有している。第1実施形態の車両用警音器1では、可動鉄心4は、固定鉄心22との衝突部分に湾曲凸面を備えている。可動鉄心4に設けられた湾曲凸面は、固定鉄心22側に凸となる湾曲面である。可動鉄心4は、固定鉄心22に対向する端面4aの全体または一部に湾曲凸面を備えている。湾曲凸面は、端面4aにおいて可動鉄心4の中心軸を通る中心部4acに少なくとも設けられている。湾曲凸面は、固定鉄心22に対して軸方向に対向する可動鉄心4の端面4aにおける中央部に少なくとも設けられている。表面硬化層4hは可動鉄心4の表面全体に形成されているため、湾曲凸面にも表面硬化層4hが形成されている。コイル20への非通電時には、可動鉄心4の湾曲凸面と固定鉄心22の端面22aとは離間している。
【0022】
この構成により、ホーンスイッチがオンの間、可動鉄心4の端面4aに形成された表面硬化層4hが湾曲凸面の表面に形成された表面硬化層22hに繰り返し衝突する。このとき、湾曲凸面を形成する部分の表面硬化層4hと表面硬化層22hとが点または小さい面積によって接触するため、可動鉄心4と固定鉄心22の衝突部位の接触面積が小さく、かつ母材よりも硬度の高い部分同士が衝突を繰り返す。表面硬化層4hと表面硬化層22hとの衝突は、可動鉄心4の母材と固定鉄心22の母材との衝突に比べて、両者の衝突部位における摩耗を抑えることに寄与し、摩耗の進行に伴う振動板3の振幅量の増加を遅らせることができる。
【0023】
表面硬化層4h,22hは、例えば電解ニッケルめっき、無電解ニッケルめっき、硬質クロムめっき、DLC(Diamond-Like Carbon)コーティング、DLC-UMコーティング、モリブデンコーティング等によって固定鉄心22と可動鉄心4の表面に形成できる。
【0024】
電気ニッケルめっきは、電気を流すことにより、陽極に使用したニッケルが溶解し溶液中のニッケルイオンが電子をもらい陰極(鉄など)にニッケルとなり析出してめっきを行う技術である。電気ニッケルめっきは、無電解ニッケルめっきに比べて、めっき析出速度が速いため、製造コストを抑えることができる。
【0025】
無電解ニッケルめっきは、還元剤である次亜リン酸塩が酸化されて亜リン酸塩になり、このとき電子を放出してニッケルイオンを還元してニッケルめっき被膜を形成する技術である。このように無電解ニッケルめっきと電気ニッケルめっきは、金属を析出する還元反応のメカニズムが大きく相違する。無電解ニッケルめっきは、硬質クロムめっきや電気ニッケルめっきに比べて電流分布の影響がないので、固定鉄心22や可動鉄心4の表面に均一な厚さの硬化層を形成することができる。このように表面硬化層4h,22hは、ニッケルを主成分とする層であることが好ましい。
【0026】
硬質クロムめっきは、三酸化クロムを主成分としクロムイオンを含む溶液中に、被めっき物を陰極として浸けこんで、クロムを電気的に陰極表面に析出させる技術である。硬質クロムめっきによって形成された表面硬化層は、電気めっきによって形成された表面硬化層の中でも高い硬度を有し、耐摩耗性に優れている。硬質クロムめっきによって形成された表面硬化層は、例えばビッカーズ硬さ800以上の硬度を有する。このように表面硬化層4h,22hは、クロムを主成分とする層であることが好ましい。
【0027】
DLCコーティングは、主に炭素と水素で構成される薄膜を金属表面にコーティングする技術である。ダイヤモンドライクカーボンは、主として炭化水素、または炭素の同素体からなるアモルファス(非晶質)の硬質膜である。このコーティング層は、非常に薄く、硬質な性質を持つため、高硬度かつ低摩耗性を有する。DLCコーティングによって形成された表面硬化層は、例えばビッカーズ硬さ1500以上の硬度を有する。このように表面硬化層4h,22hは、主に炭素と水素で構成される薄膜であることが好ましい。
【0028】
DLC-UMコーティングは、金属表面に、不純物粒子を除去しつつ固体グラファイトを原料とした薄膜を形成する技術である。DLC-UMコーティングによって形成された表面硬化層は、DLCコーティングによる表面硬化層よりも、倍以上の硬度を有しかつ高い耐熱温度を有する。このように表面硬化層4h,22hは、固体グラファイトを主成分とした薄膜であることが好ましい。
【0029】
モリブデンコーティングは、金属表面に二硫化モリブデンを主成分とする層をコーティングする技術であり、低摩耗性、高潤滑性を有する皮膜を形成できる。モリブデンコーティングによって形成された表面硬化層は、可動鉄心4などの摺動性を求められる部材について、表面の摩耗を抑制可能な硬化層の形成に加え、円滑な摺動を提供できる。このように表面硬化層4h,22hは、モリブデンを主成分とした薄膜であることが好ましい。
【0030】
図2に示すように、ハウジング11における中間平坦部111には、第1被固定部212、弾性を有する金属ばね材から形成されている可動接点支持板7、導電性を有する金属製の固定接点支持板8が積層されている。可動接点支持板7と固定接点支持板8との間には絶縁部材が介在している。積層されているこれらの部材は、中間平坦部111にかしめ固定されている金属製の第1リベット90によって、一体に固定されている。コイル20から延びる巻線における一方の端末部は、導体を被覆する絶縁膜が剥離された状態で可動接点支持板7と第1被固定部212との間に設置されて、第1リベット90のかしめ固定に伴い、第1リベット90の頭部によって圧接されている。このようにして巻線の一方の端末部と可動接点支持板7とが導通している。
【0031】
中間平坦部111の他の部位には、第2被固定部213が積層されている。第2被固定部213は、中間平坦部111にかしめ固定されている金属製の第2リベット91によって、ハウジング11に固定されている。さらに電磁コイル部2においてコイル20から延びる巻線における他方の端末部は、導体を被覆する絶縁膜が剥離された状態で第2リベット91の軸部の周辺に沿うように設置されて、第2リベット91のかしめ固定に伴い第2リベット91の頭部に圧接されている。このように、巻線の他方の端末部が第2リベット91の頭部に圧接されることにより、巻線の端末部における導体と第2リベット91とが導通することになる。また、巻線の導体は、銅線もしくは銅線以外の導電性材質、または異なる導電性物質が組み合わされた材質によって構成されている。ボビン21は、第1リベット90、第2リベット91の2箇所においてハウジング11に固定されている。
【0032】
さらに第2リベット91は、絶縁部材によってハウジング11からは絶縁されている。第2リベット91は、コネクタ13の内部のコネクタ端子と導通している。コネクタ端子は、ホーンスイッチを介してバッテリのプラス電位が導かれている。したがって、第2リベット91は、電磁コイル部2において電流投入側に位置するリベットである。車両用警音器1は、第1リベット90のかしめ固定によって可動接点支持板7に圧接される巻線の端末部に導通するコネクタ端子をさらに備えるようにしてもよい。
【0033】
可動接点支持板7には、固定接点支持板8に向けて突出する可動接点部70が設けられている。固定接点支持板8には、可動接点部70に対応する位置に、可動接点支持板7に向けて突出する固定接点部80が設けられている。可動接点部70と固定接点部80とは、互いに軸方向に対向するように設置されている。可動接点部70は、コイル20への非通電時には、可動接点支持板7が有するばね力によって固定接点支持板8側に付勢されて固定接点部80に接触する常閉型の接点を構成する。
【0034】
可動鉄心4の外周面の全周には、他の部位よりも径外方へ突き出す大径部42が形成されている。大径部42は、可動接点支持板7におけるホーン中心部寄りの被押圧部7aに接触してこれを後方、つまり、固定鉄心22側へ押圧する押圧部42aを有する。押圧部42aは絶縁性を有する材質で形成されている。可動鉄心4において押圧部42aよりも後方側をかしめることにより、押圧部42aは可動鉄心4と一体に形成することができる。かしめ部44は、可動鉄心4と押圧部42aとを結合させるためにかしめられて塑性変形されている加工部位である。コイル20への通電時に磁化された固定鉄心22によって可動鉄心4が吸引されることにより、大径部42は後方、すなわち固定鉄心22側に変位する。そして、大径部42の押圧部42aが可動接点支持板7の被押圧部7aを固定鉄心22側に押すことにより、固定接点部80と可動接点部70とが離間して接点部が開くことになる。
【0035】
次に車両用警音器1の作動を説明する。ホーンスイッチが投入されることにより、車載電源からの電流が、コネクタ端子から第2リベット91、巻線の他方の端末部、コイル20の順に流れる。さらに電流は、巻線の一方の端末部、可動接点支持板7、可動接点部70、固定接点部80、固定接点支持板8、第1リベット90、ハウジング11、固定鉄心22、ステー5、車体(接地)の順に流れる。
【0036】
車両用警音器1では、巻線の他方の端末部と第2リベット91が導通し、巻線の一方の端末部と可動接点支持板7とが導通している。これにより、電磁コイル部2の電磁力が可動鉄心4と固定鉄心22との間隙に作用して、可動鉄心4が固定鉄心22に吸引される。固定鉄心22から発生する磁気吸引力によって可動鉄心4が軸方向に移動すると、振動板3は周縁部が固定された状態で中心部が可動鉄心4と一体に移動して変形する。この可動鉄心4の変位により、可動鉄心4の大径部42が可動接点支持板7の被押圧部7aを押圧して、可動接点部70を固定接点部80から離間させる。その結果、電磁コイル部2への通電が遮断されて電磁力がなくなるので、可動鉄心4は振動板3の弾性力により元の位置に復帰し、これにより、可動接点部70と固定接点部80との閉成状態が復活する。また、コイル20に通電される電圧が増加すると、固定鉄心22からの磁気吸引力によって可動鉄心4が固定鉄心22に近づく。これらの動作が繰り返されることにより、可動鉄心4の端面4aと固定鉄心22の端面22aとの衝突が繰り返され、振動板3および共鳴板9が高周波で振動して音波が前方に放射される。
【0037】
図3は、摩耗していない状態の固定鉄心22と可動鉄心4の断面形状を示した図である。図4は、固定鉄心22と可動鉄心4の衝突部分について摩耗が進行し母材が中心部に露出している状態を示した断面図である。図5は、図4の状態にある固定鉄心22と可動鉄心4について端面を軸方向に見た平面図である。図3図4は、表面硬化層4hおよび表面硬化層22hの厚さや摩耗の進行状態を、理解しやすくするために、誇張して図示している。ホーンスイッチがオンの間、可動鉄心4の端面4aは、固定鉄心22の端面22aに対して、一点鎖線によって示された中心軸が通る中心部4acにおいて衝突を繰り返す。このとき端面4aにおける湾曲凸面の頂部が、端面22aに点接触に近い状態で衝突し続ける。このため、衝突回数が増加するにつれて、湾曲凸面の頂部に形成された表面硬化層4hはすり減り、端面22aの中心を含む部分に形成された表面硬化層22hはすり減るようになる。湾曲凸面の頂部は中心部4acを含むように設けられている。
【0038】
この衝突部分には、表面硬化層4hと表面硬化層22hとが設けられているため、表面硬化層が設けられていない固定鉄心と可動鉄心とが衝突する場合に比べて、表面の摩耗を遅らせることができる。さらにこの衝突部分は、湾曲凸面をなす端面4aと平坦面である端面22aとで構成されているため、衝突回数が多くない間は湾曲凸面の頂部だけが摩耗しこの頂部に接触する平坦面の中心部22acがわずかに凹むように摩耗する。衝突回数が多くなるにつれて摩耗が進行し、図4に示すように、湾曲凸面の頂部に略円形状の平坦な部分が生じ、この平坦な部分が端面22aの中心部22acに衝突し続ける。さらに衝突回数が増加していくと、湾曲凸面における平坦な部分と端面22aの中心部22acとにおいて表面硬化層4hと表面硬化層22hの厚さが薄くなってなくなるまで、硬い表面硬化層の摩耗速度にしたがって少しずつ摩耗していく。そして、表面硬化層がなくなるまで摩耗が進行すると、固定鉄心22と可動鉄心4のそれぞれの母材が露出するようになる。車両用警音器1は、母材が露出する状態に至るまでに、表面硬化層4hと表面硬化層22hとが衝突することによって、端面4aと端面22aの摩耗を抑制することができる。
【0039】
端面4aと端面22aに母材が露出した状態から衝突回数が積み重なると、母材が露出している部分の周囲において衝突面が環状に広がっていき端面22aにおける中心部22acの周囲の摩耗が進行するようになる。このときの衝突面は、図5において二点鎖線の内側であって斜線のハッチングが付されている環状部分である。この環状部分に囲まれている部分は、母材が露出している部分である。端面4aにおける環状面と端面22aにおける環状面とが衝突を繰り返すことにより、表面硬化層4hと表面硬化層22hとが衝突し続ける。これにより、環状面に囲まれた状態で露出している母材が放射状に拡大することを遅らせることができる。
【0040】
このように可動鉄心4と固定鉄心22は、点接触による第1の衝突段階から円形状部と円形状部との面接触による第2の衝突段階を経て、表面硬化層4hにおける環状部と表面硬化層22hにおける環状部との面接触による第3の衝突段階に移行して摩耗していく。このような段階を経ることにより、可動鉄心4と固定鉄心22は、表面硬化層が設けられていない固定鉄心と可動鉄心とが衝突する場合に比べて、表面の摩耗を遅らせることができる。
【0041】
第1実施形態の車両用警音器1がもたらす作用効果について説明する。車両用警音器1は、開口部112aを有するハウジング11と、ハウジング11に収容されて通電によって磁力を発生するコイル20と、ハウジング11に収容された固定鉄心22と、開口部112aを覆うように設けられた振動板3とを備える。車両用警音器1は、振動板3が結合されて磁気吸引力によって固定鉄心22に向けて軸方向に変位する可動鉄心4と、可動鉄心4に結合されて可動鉄心4と固定鉄心22との衝突時に発生する音を増幅させる共鳴板9とを備える。車両用警音器1は、固定鉄心22と可動鉄心4のそれぞれの表面全体に形成された、母材硬度よりも硬い硬度である表面硬化層4h,22hを備える。固定鉄心22と可動鉄心4の少なくとも一方は、固定鉄心22と可動鉄心4との衝突部分に湾曲凸面を備える。
【0042】
この車両用警音器1によれば、固定鉄心22の表面全体に表面硬化層22hが形成され、可動鉄心4の表面全体に表面硬化層4hが形成されている。さらに固定鉄心22と可動鉄心4の少なくとも一方において固定鉄心22と可動鉄心4との衝突部分には湾曲凸面が形成されている。この構成によれば、可動鉄心4と固定鉄心22とが衝突する部分の表面積を小さくできる。さらに表面硬化層4hと表面硬化層22hとが衝突するので、母材同士が衝突する場合に対して固定鉄心22と可動鉄心4との衝突部分における表面の摩耗を抑えることができる。
【0043】
固定鉄心22と可動鉄心4の少なくとも一方の衝突部分には湾曲凸面が設けられているため、母材が露出した後においても、露出した母材の周囲において表面硬化層と表面硬化層とが衝突する。このような衝突面を形成できるので、母材の摩耗進行や露出面積の拡大進行を抑えることができる。このような表面の摩耗抑制効果により、衝突回数の増加に伴って固定鉄心22に対する可動鉄心4の移動距離が増加することを抑制できるので、振動板3の振幅量増加等を抑えることができる。したがって、この車両用警音器1は、製品寿命の向上を図ることができる。
【0044】
可動鉄心4は、固定鉄心22側に凸となる湾曲凸面を備えている。この構成によれば、可動鉄心4における湾曲凸面の表面硬化層4hと固定鉄心22の表面硬化層22hとが衝突して衝突面積が抑えられるので、衝突部分における表面の摩耗を抑えることに寄与する。
【0045】
さらに固定鉄心22は、可動鉄心4の湾曲凸面との衝突部分に、軸方向に対して直交する平坦面を備えている。この構成によれば、衝突延べ回数少ないうちは可動鉄心4の表面硬化層4hと固定鉄心22の表面硬化層22hとが互いに点接触によって衝突する。このため、互いの衝突面積が小さいので、固定鉄心22および可動鉄心4について母材が露出するまでの時間を大きく遅らせることができる車両用警音器1を提供できる。
【0046】
表面硬化層4h,22hは、ニッケルを主成分とし電気ニッケルめっきによって形成されためっき層である。この構成によれば、めっき析出速度が速く製造コストを抑えることができ、端面4aと端面22aの摩耗速度を小さくできる表面硬度を有する表面硬化層4hと表面硬化層22hを提供できる。
【0047】
表面硬化層4h,22hは、ニッケルを主成分とし無電解ニッケルめっきによって形成されためっき層である。この構成によれば、固定鉄心22や可動鉄心4の表面に均一な厚さの硬化層を形成でき、端面4aと端面22aの摩耗速度を小さくできる表面硬度を有する表面硬化層4hと表面硬化層22hを提供できる。
【0048】
表面硬化層4h,22hは、クロムを主成分とし硬質クロムめっきによって形成されためっき層である。この構成によれば、高い硬度を有して耐摩耗性に優れるとともに、端面4aと端面22aの摩耗速度を小さくできる表面硬化層4hと表面硬化層22hを提供できる。
【0049】
表面硬化層4h,22hは、ダイヤモンドライクカーボンコーティングによって形成され薄膜であって、炭素と水素を含む非晶質のカーボン硬質膜である。この構成によれば、非常に薄く高硬度かつ低摩耗性を有し、端面4aと端面22aの摩耗速度を小さくできる表面硬化層4hと表面硬化層22hを提供できる。
【0050】
表面硬化層4h,22hは、モリブデンを主成分とし、モリブデンコーティングによって形成された層である。この構成によれば、低摩耗性、高潤滑性を有する皮膜を形成できるので可動鉄心4の摺動性を向上するとともに、端面4aと端面22aの摩耗速度を小さくできる表面硬度を有する表面硬化層4hと表面硬化層22hを提供できる。
【0051】
表面硬化層4h,22hは、ビッカーズ硬度400以上の硬度を有している。この構成によれば、端面4aにおける表面硬化層4hと端面22aにおける表面硬化層22hの摩耗速度を小さくでき、磨耗寿命が製品寿命に対して大幅に短くならない車両用警音器1を提供することができる。
【0052】
(第2実施形態)
第2実施形態では、第1実施形態の他の形態である可動鉄心104と固定鉄心122について、図6図8を参照して説明する。第2実施形態において第1実施形態と同様の構成は、各図において同一の符号を記載し、同様の作用効果を奏するものである。以下、第1実施形態と相違する内容のみ説明する。
【0053】
図6は、摩耗していない状態の固定鉄心122と可動鉄心104の断面形状を示した図である。図7は、固定鉄心122と可動鉄心104の衝突部分について摩耗が進行し母材が中心部に露出している状態を示した断面図である。図8は、図7の状態にある固定鉄心122と可動鉄心104について端面を軸方向に見た平面図である。図6図7は、表面硬化層4hおよび表面硬化層22hの厚さや摩耗の進行状態を、理解しやすくするために、誇張して図示している。可動鉄心104は、平坦面を形成する端面4aを有している。固定鉄心122は、可動鉄心104側に凸とする湾曲凸面が形成された端面22aを有している。湾曲凸面は、固定鉄心122の端面22aの全体または一部に設けられている。湾曲凸面は、端面22aにおいて固定鉄心122の中心軸を通る中心部22acに少なくとも設けられている。湾曲凸面は、端面22aにおける中央部に少なくとも設けられている。表面硬化層22hは固定鉄心122の表面全体に形成されているため、湾曲凸面にも表面硬化層22hが形成されている。コイル20への非通電時には、固定鉄心122の湾曲凸面と可動鉄心104の端面4aとは離間している。
【0054】
ホーンスイッチがオンの間、可動鉄心104の端面4aは、固定鉄心122の端面22aに対して、一点鎖線によって示された中心軸が通る中心部4acにおいて衝突を繰り返す。このとき端面22aにおける湾曲凸面の頂部が、端面4aに点接触に近い状態で衝突し続ける。このため、衝突回数が増加するにつれて、湾曲凸面の頂部に形成された表面硬化層22hはすり減り、端面4aの中心を含む部分に形成された表面硬化層4hはすり減るようになる。
【0055】
表面硬化層4hと表面硬化層22hとが衝突するため、表面硬化層が設けられていない固定鉄心と可動鉄心とが衝突する場合に比べて表面の摩耗を遅らせることができる。さらにこの衝突部分は、湾曲凸面をなす端面22aと平坦面をなす端面4aとで構成されているため、衝突回数が多くない間は湾曲凸面の頂部だけが摩耗しこの頂部に接触する平坦面の中心部4acがわずかに凹むように摩耗する。衝突回数が多くなるにつれて摩耗が進行し、図7に示すように湾曲凸面の頂部に略円形状の平坦な部分が生じ、この平坦な部分が端面4aの中心部4acに衝突し続ける。さらに衝突回数が増加していくと、湾曲凸面における平坦な部分と端面4aの中心部4acとにおいて表面硬化層22hと表面硬化層4hの厚さが薄くなってなくなるまで、硬い表面硬化層の摩耗速度にしたがって少しずつ摩耗していく。そして、表面硬化層がなくなるまで摩耗が進行すると、固定鉄心122と可動鉄心104のそれぞれの母材が露出するようになる。
【0056】
端面4aと端面22aに母材が露出した状態から衝突回数が積み重なると、母材が露出している部分の周囲において衝突面が環状に広がっていき端面4aにおける中心部4acの周囲の摩耗が進行するようになる。このときの衝突面は、図8において二点鎖線の内側であって斜線のハッチングが付されている環状部分である。この環状部分に囲まれている部分は母材が露出している。第2実施形態においても、端面4aにおける環状面と端面22aにおける環状面とが衝突を繰り返すことにより、表面硬化層4hと表面硬化層22hとが衝突し続けるので、環状面に囲まれた状態で露出している母材が放射状に拡大することを遅らせることができる。
【0057】
このように可動鉄心104と固定鉄心122は、点接触による第1の衝突段階から円形状部同士の面接触による第2の衝突段階を経て表面硬化層4hにおける環状部と表面硬化層22hにおける環状部との面接触による第3の衝突段階に移行して摩耗していく。このような段階を経ることにより、可動鉄心104と固定鉄心122は、表面硬化層が設けられていない固定鉄心と可動鉄心とが衝突する場合に比べて、表面の摩耗を遅らせることができる。
【0058】
第2実施形態によれば、固定鉄心122は、可動鉄心104側に凸となる湾曲凸面を備えている。この構成によれば、固定鉄心122における湾曲凸面の表面硬化層22hと可動鉄心104の表面硬化層4hとが衝突して衝突面積が抑えられるので、衝突部分における表面の摩耗を抑えることに寄与する。
【0059】
固定鉄心122において可動鉄心104に対する衝突部分には湾曲凸面が設けられている。このため、母材が露出した後においても、露出した母材の周囲において表面硬化層と表面硬化層とが衝突する。第2実施形態によれば、このような衝突面を形成できるので、母材の摩耗進行や露出面積の拡大進行を抑えることができる。
【0060】
この車両用警音器1によれば、固定鉄心122の表面全体に表面硬化層22hが形成され、可動鉄心104の表面全体に表面硬化層4hが形成されている。さらに固定鉄心122と可動鉄心104の少なくとも一方において固定鉄心122と可動鉄心104との衝突部分には湾曲凸面が形成されている。この構成によれば、可動鉄心104と固定鉄心122とが衝突する部分の表面積を小さくできる。さらに表面硬化層4hと表面硬化層22hとが衝突するので、母材同士が衝突する場合に比べて固定鉄心122と可動鉄心104との衝突部分における表面の摩耗を抑えることができる。
【0061】
(第3実施形態)
第3実施形態では、第1実施形態の他の形態である可動鉄心4と固定鉄心122について、図9図11を参照して説明する。第3実施形態において前述の実施形態と同様の構成は、各図において同一の符号を記載し、同様の作用効果を奏するものである。以下、前述の実施形態と相違する内容のみ説明する。
【0062】
図9は、摩耗していない状態の固定鉄心122と可動鉄心4の断面形状を示した図である。図10は、固定鉄心122と可動鉄心4の衝突部分について摩耗が進行し母材が中心部に露出している状態を示した断面図である。図11は、図9の状態にある固定鉄心122と可動鉄心104について端面を軸方向に見た平面図である。図9図10は、表面硬化層4hおよび表面硬化層22hの厚さや摩耗の進行状態を、理解しやすくするために、誇張して図示している。可動鉄心4は、第1実施形態と同様の構成である。固定鉄心122は、第2実施形態と同様の構成である。端面4aにおける湾曲凸面の頂部と端面22aにおける湾曲凸面の頂部は、互いに衝突しあう位置に設けられている。コイル20への非通電時には、固定鉄心122の湾曲凸面と可動鉄心4の湾曲凸面とは離間している。
【0063】
ホーンスイッチがオンの間、可動鉄心4の端面4aは、固定鉄心122の端面22aに対して、一点鎖線によって示された中心軸が通る中心部4acにおいて衝突を繰り返す。このとき端面4aにおける湾曲凸面が端面22aにおける湾曲凸面に点接触に近い状態で衝突し続けるため、衝突回数が増加するにつれて、端面4aに形成された表面硬化層22hはすり減り、端面22aに形成された表面硬化層4hはすり減るようになる。
【0064】
この場合も表面硬化層4hと表面硬化層22hとが衝突するため、表面硬化層が設けられていない固定鉄心と可動鉄心とが衝突する場合に比べて表面の摩耗を遅らせることができる。さらにこの衝突部分は、湾曲凸面をなす端面22aと湾曲凸面をなす端面4aとで構成されているため、衝突回数が多くない間は両方の鉄心における湾曲凸面の頂部だけが摩耗する。衝突回数が多くなるにつれて摩耗が進行し、端面4aにおける湾曲凸面の頂部に略円形状の平坦な部分が生じ、端面22aにおける湾曲凸面の頂部にも同様の略円形状の平坦な部分が生じるようになる。
【0065】
さらに衝突回数が増加していくと、可動鉄心4と固定鉄心122のそれぞれにおいて、表面硬化層22hと表面硬化層4hの厚さが薄くなってなくなるまで、硬い表面硬化層の摩耗速度にしたがって少しずつ摩耗していく。そして、表面硬化層がなくなるまで摩耗が進行すると、固定鉄心122と可動鉄心4のそれぞれの母材が露出するようになる。
【0066】
端面4aと端面22aに母材が露出した状態から衝突回数が積み重なると、母材が露出している部分の周囲において衝突面が環状に広がっていき、露出した母材の周囲の摩耗が進行するようになる。このときの衝突面は、図11において二点鎖線の内側であって斜線のハッチングが付されている環状部分である。第3実施形態においても、端面4aにおける環状面と端面22aにおける環状面とが衝突を繰り返すことにより、表面硬化層4hと表面硬化層22hとが衝突し続けるので、環状面に囲まれた状態で露出している母材の拡大を遅らせることができる。
【0067】
このように可動鉄心4と固定鉄心122は、点接触による第1の衝突段階から円形状部と円形状部との面接触による第2の衝突段階を経て、表面硬化層4hにおける環状部と表面硬化層22hにおける環状部との面接触による第3の衝突段階に移行して摩耗していく。このような段階を経ることにより、可動鉄心4と固定鉄心122は、表面硬化層が設けられていない固定鉄心と可動鉄心とが衝突する場合に比べて、表面の摩耗を遅らせることができる。
【0068】
第3実施形態によれば、固定鉄心122は、可動鉄心4との衝突部分に湾曲凸面を備えている。可動鉄心4は固定鉄心122との衝突部分に湾曲凸面を備えている。この構成によれば、衝突延べ回数少ないうちは可動鉄心4の表面硬化層4hと固定鉄心122の表面硬化層22hとを互いに点接触によって衝突するので、互いの衝突面積を小さくできる。また、表面硬化層4hと表面硬化層22hとが衝突するので、母材同士が衝突する場合に対して、母材が露出するまでの時間を遅らせることができる。
【0069】
固定鉄心122と可動鉄心104の両方には、互いに衝突する湾曲凸面が設けられているため、母材が露出した後においても、露出した母材の周囲において表面硬化層と表面硬化層とが衝突する。第3実施形態によれば、このような衝突面を形成できるので、母材の摩耗進行や露出面積の拡大進行を抑えることができる。
(第4実施形態)
第4実施形態では、第1実施形態の他の形態である固定鉄心222について、図12図15を参照して説明する。第4実施形態において前述の実施形態と同様の構成は、各図において同一の符号を記載し、同様の作用効果を奏するものである。前述の実施形態と相違する内容のみ説明する。
固定鉄心222は、ステー5と接触する部位である接触面222cに設けられた摩擦力増大部222dを備える。図12図13に示すように、接触面222cは、固定鉄心222に設けられた後方側端部222bの基部を取り囲む環状面である。接触面222cは、柱状である後方側端部222bの軸心に対して直交する面をなしている。
第4実施形態では、固定鉄心222は、ステー5に、ハウジング11の底部110の中心部とともに、ナット6などの締結手段を用いて固定される構成を備えている。固定鉄心222の後方側端部222bには、ナットの雌ねじ部に螺合される雄ねじ部が形成されている。
摩擦力増大部222dは、ステー5と固定鉄心222の相対的運動を妨げる力を増大させる機能を果たす。摩擦力増大部222dは、接触面222cに固定されたステー5が固定鉄心222に対して移動しようとする運動を抑制する抵抗力を提供する。摩擦力増大部222dは、接触面222cにおける表面硬化層22hに、レーザー照射による加工またはパンチ加工を行うことによって形成することができる。
図14図15に示すように、摩擦力増大部222dは、接触面222cにおける表面硬化層22hに設けられた、所定範囲にわたる凹凸部を複数含んでいる。所定範囲の凹凸部は、例えば、微細な多数の山部と、山部と隣り合う谷部によって形成されている。一つの所定範囲の凹凸部に含まれる山部、谷部は、同じ向きに延びている。山部は、図15に示すようなステー5の表面への食い込み状態を実現するために、鋭利な突起形状であることが好ましい。この山部は、硬い表面硬化層22hが鋭利に尖ったものであるため、ステー5の表面に食い込みやすい。この点において、レーザー照射による加工処理が望ましい。
図13に示すように、複数の凹凸部は、接触面222cにおいて、環状を形成するように、間隔をあけて全周にわたって分散されている。凹凸部は、矩形状の内部に形成されている。凹凸部は、周方向よりも径方向に長い所定範囲に形成されている。摩擦力増大部222dは、周方向と径方向の両方について、ステー5に対する摩擦力を増大する機能を発揮できる。
第4実施形態の固定鉄心222は、車両側部材に取り付けられるステー5に固定された状態において、ステー5に接触する接触面222cを有する。接触面222cにおける表面硬化層22hには摩擦力増大部222dが設けられている。摩擦力増大部222dは、それぞれ所定範囲に形成された複数の凹凸部である。この構成によれば、接触面222cにおいて、平面と凹凸部とが交互に設けられるため、摩擦力が小さい部分と大きくなる部分とを交互に分散させることができる。この分散配置により、固定鉄心222に対するステー5の滑り止め効果が一箇所に偏らず広範囲に及ばせることができるので、安定的な固定力を提供できる。
摩擦力増大部222dは、環状面をなす接触面222cにおいて所定範囲の凹凸部が複数周方向に並んで構成されている。隣り合う凹凸部と凹凸部の間には、平面が設けられている。複数の凹凸部は、接触面222cにおいて全体として放射状かつ環状に設けられている。この構成によれば、ステー5に対して全周において均等に摩擦力を提供できる。この摩擦力増大部222dによれば、全周に分散して発生する摩擦力によって、ステー5が接触面222cに対して回転する回転力を効果的に低減できる。この摩擦力増大部222dによれば、所定範囲の凹凸部の一つが提供する摩擦力を小さく設定できるとともに、分散配置により全体として必要な摩擦力を提供できる。
【0070】
(他の実施形態)
この明細書の開示は、例示された実施形態に制限されない。開示は、例示された実施形態と、それらに基づく当業者による変形態様を包含する。例えば、開示は、実施形態において示された部品、要素の組み合わせに限定されず、種々変形して実施することが可能である。開示は、多様な組み合わせによって実施可能である。開示は、実施形態に追加可能な追加的な部分をもつことができる。開示は、実施形態の部品、要素が省略されたものを包含する。開示は、一つの実施形態と他の実施形態との間における部品、要素の置き換え、または組み合わせを包含する。開示される技術的範囲は、実施形態の記載に限定されない。開示される技術的範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内での全ての変更を含むものと解されるべきである。
【0071】
この明細に開示の目的を達成可能な車両用警音器が有する表面硬化層は、前述の実施形態に記載した表面処理のみによって形成されるものに限定されない。
【0072】
この明細書に開示の目的を達成可能な車両用警音器には、前述の各実施形態に係る固定鉄心の端面22a、可動鉄心の端面4aにおいて、全体ではなく部分的に湾曲凸面が設けられている形態も含まれるものとする。
第4実施形態の摩擦力増大部222dは、第1実施形態のように固定鉄心をかしめ等の固定手段を用いてステー5に固定する装置にも適用でき、同様の効果を奏する。
【符号の説明】
【0073】
3…振動板、 4,104…可動鉄心、 4a…端面(衝突部分)
4h…表面硬化層、 9…共鳴板、 11…ハウジング
20…コイル、 22,122,222…固定鉄心、 22a…端面(衝突部分)
22h…表面硬化層、 112a…開口部
222c…接触面、 222d…摩擦力増大部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15