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特許7358804電極体、電極体を備える電解コンデンサ、及び電極体の製造方法
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  • 特許-電極体、電極体を備える電解コンデンサ、及び電極体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】電極体、電極体を備える電解コンデンサ、及び電極体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/042 20060101AFI20231003BHJP
   H01G 9/055 20060101ALI20231003BHJP
   H01G 9/145 20060101ALI20231003BHJP
   H01G 9/15 20060101ALI20231003BHJP
   H01G 9/00 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
H01G9/042 500
H01G9/055 100
H01G9/145
H01G9/15
H01G9/00 290D
H01G9/055 103
H01G9/055 105
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019125487
(22)【出願日】2019-07-04
(65)【公開番号】P2021012923
(43)【公開日】2021-02-04
【審査請求日】2022-05-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000228578
【氏名又は名称】日本ケミコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【弁理士】
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【弁護士】
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】小関 良弥
(72)【発明者】
【氏名】大倉 数馬
(72)【発明者】
【氏名】長原 和宏
【審査官】木下 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-080111(JP,A)
【文献】国際公開第2010/116872(WO,A1)
【文献】特開2005-223197(JP,A)
【文献】国際公開第2015/025663(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/042
H01G 9/055
H01G 9/145
H01G 9/15
H01G 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解コンデンサの陰極に用いられる電極体であって、
弁作用金属により成る陰極箔と、
前記陰極箔に形成されたカーボン層と、
を備え、
前記カーボン層は、第1の球状カーボンと第2の球状カーボンとを含み、
前記第1球状カーボンと前記第2球状カーボンは、カーボンブラックであり、
前記第1の球状カーボンは、前記第2の球状カーボンと比較して大きいBET比表面積を有すること、
を特徴とする電極体。
【請求項2】
前記第1の球状カーボン(A)と前記第2の球状カーボン(B)の混合比(A:B)は、90:10から30:70であること、
を特徴とする請求項1記載の電極体。
【請求項3】
前記陰極箔は、表面に拡面層が形成され、
前記カーボン層は、前記拡面層上に形成されていること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の電極体。
【請求項4】
前記拡面層と前記カーボン層とは圧接し、
前記カーボン層は、前記拡面層内に入り込んでいること、
を特徴とする請求項3に記載の電極体。
【請求項5】
前記拡面層と前記カーボン層との界面に凹凸形状を有し、
前記凹凸形状は、押圧により圧縮変形していること、
を特徴とする請求項3又は4に記載の電極体。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れかに記載の電極体を陰極に備えること、
を特徴とする電解コンデンサ。
【請求項7】
電解コンデンサの陰極に用いられる電極体の製造方法であって、
弁作用金属により成り、表面に拡面層が形成された陰極箔にカーボン層を形成する工程と、
前記カーボン層を形成した前記陰極箔を押圧する工程と、
を備え、
前記カーボン層は、第1の球状カーボンと第2の球状カーボンとを含み、
前記第1球状カーボンと前記第2球状カーボンは、カーボンブラックであり、
前記第1の球状カーボンは、前記第2の球状カーボンと比較して大きいBET比表面積を有すること、
を特徴とする電極体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極体、電極体を備える電解コンデンサ、及び電極体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電解コンデンサは、タンタルあるいはアルミニウム等のような弁作用金属を陽極箔及び陰極箔として備えている。陽極箔は、弁作用金属を焼結体あるいはエッチング箔等の形状にすることで拡面化され、拡面化された表面に誘電体酸化皮膜層を有する。陽極箔と陰極箔の間には電解液が介在する。電解液は、陽極箔の凹凸面に密接し、真の陰極として機能する。この電解コンデンサは、誘電体酸化皮膜層の誘電分極作用により陽極側容量を得ている。
【0003】
電解コンデンサは陽極側と陰極側に容量が発現する直列コンデンサと見做すことができる。従って、陽極側容量を効率良く活用するには陰極側容量も非常に重要である。陰極箔もエッチング処理により表面積を増大させているが、陰極箔の厚みの観点から陰極箔の拡面化にも限界がある。
【0004】
そこで、窒化チタン等の金属窒化物の皮膜を陰極箔に形成した電解コンデンサが提案されている(特許文献1参照)。窒素ガス環境下で、イオンプレーティング法の一種である真空アーク蒸着法によってチタンを蒸発させ、陰極箔の表面に窒化チタンを堆積させる。金属窒化物は不活性であり、自然酸化皮膜が形成され難い。また蒸着皮膜は微細な凹凸が形成されて陰極の表面積が拡大する。
【0005】
また、活性炭を含む多孔質のカーボン層を陰極箔に形成した電解コンデンサも知られている(特許文献2参照)。この電解コンデンサの陰極側容量は、分極性電極と電解質との境界面に形成される電気二重層の蓄電作用により発現する。電解質のカチオンが多孔質カーボン層との界面に整列し、多孔質カーボン層内の電子と極めて短い距離を隔てて対を成し、陰極に電位障壁が形成される。この多孔質カーボン層が形成された陰極箔は、多孔質カーボンを分散させた水溶性バインダー溶液を混練してペースト状にし、当該ペーストを陰極箔の表面に塗布し、高温下に晒して乾燥させることで作製される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平4-61109号公報
【文献】特開2006-80111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
金属窒化物の蒸着プロセスは複雑であり、電解コンデンサのコスト高を招く。しかも、近年の電解コンデンサは、例えば車載用途等のように、極低温環境下から高温環境下まで幅広い温度帯域で使用されることも想定される。しかしながら、金属窒化物の皮膜を陰極箔に形成した電解コンデンサは、高温に長時間晒されることで静電容量が大きく低下してしまう。そうすると、電解コンデンサの静電容量は当初想定されていた静電容量と大きく異なるものとなってしまう。
【0008】
活性炭を含む多孔質カーボン層をペーストの塗布により陰極箔に形成した電解コンデンサは、静電容量と高温環境下での静電容量低下率とがトレードオフの関係になって両立し難い。即ち、高静電容量の電解コンデンサは、高温環境下では静電容量が大きく低下してしまい、高温環境下で静電容量の低下が小さい電解コンデンサは、静電容量が小さい。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために提案されたものであり、その目的は、高静電容量であり、また高温環境負荷後においても安定した静電容量を発現させることができる電極体、この電極体を備える電解コンデンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意研究の結果、相対的にBET比表面積が大きい球状カーボンと相対的にBET比表面積が小さい球状カーボンをカーボン層に混在させると、金属窒化物の皮膜を陰極箔に形成した電解コンデンサと比べて、高温環境下に晒されることによる静電容量の低下が抑制されるとの知見を得た。即ち、本発明者らは、金属窒化物の皮膜を陰極箔に形成した電解コンデンサと静電容量が同等以上であり、更に高温環境下に晒されても、金属窒化物の皮膜を陰極箔に形成した電解コンデンサと比べて静電容量の低下が抑制された電解コンデンサを見出した。
【0011】
本発明は、この知見に基づき完成されたものであり、上記課題を解決すべく、電解コンデンサの陰極に用いられる電極体であって、弁作用金属により成る陰極箔と、前記陰極箔に形成されたカーボン層と、を備え、前記カーボン層は、第1の球状カーボンと第2の球状カーボンとを含み、前記第1の球状カーボンは、前記第2の球状カーボンと比較して大きいBET比表面積を有すること、を特徴とする。
【0012】
前記第1の球状カーボン(A)と前記第2の球状カーボン(B)の混合比(A:B)は、90:10から30:70であるようにしてもよい。
【0013】
前記陰極箔は、表面に拡面層が形成され、前記カーボン層は、前記拡面層上に形成されているようにしてもよい。
【0014】
前記拡面層と前記カーボン層とは圧接し、前記カーボン層は、前記拡面層内に入り込んでいるようにしてもよい。
【0015】
前記拡面層と前記カーボン層との界面に凹凸形状を有し、前記凹凸形状は、押圧により圧縮変形しているようにしてもよい。
【0016】
この電極体を陰極に備える電解コンデンサも本発明の一態様である。
【0017】
また、上記課題を解決すべく、本発明に係る電極体の製造方法は、電解コンデンサの陰極に用いられる電極体であって、電解コンデンサの陰極に用いられる電極体の製造方法であって、弁作用金属により成り、表面に拡面層が形成された陰極箔にカーボン層を形成する工程と、前記カーボン層を形成した前記陰極箔を押圧する工程と、を備え、前記カーボン層は、第1の球状カーボンと第2の球状カーボンとを含み、前記第1の球状カーボンは、前記第2の球状カーボンと比較して大きいBET比表面積を有すること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、陰極体は、静電容量が高く、高温環境負荷後においても安定した静電容量を発現させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】BET比表面積が800m/gと39m/gの球状カーボンを各種混合比率で大表面積球状カーボンと小表面積球状カーボンとを混合したときの低周波数領域での静電容量を示すグラフである。
図2】BET比表面積が800m/gと39m/gの球状カーボンを各種混合比率で大表面積球状カーボンと小表面積球状カーボンとを混合したときの高周波数領域での静電容量を示すグラフである。
図3】BET比表面積が800m/gと377m/gの球状カーボンを各種混合比率で大表面積球状カーボンと小表面積球状カーボンとを混合したときの低周波数領域での静電容量を示すグラフである。
図4】BET比表面積が800m/gと377m/gの球状カーボンを各種混合比率で大表面積球状カーボンと小表面積球状カーボンとを混合したときの高周波数領域での静電容量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施形態に係る電極体及びこの電極体を陰極に用いた電解コンデンサについて説明する。本実施形態では、電解液を有する電解コンデンサを例示して説明するが、これに限定されるものではない。電解液、導電性ポリマーなどの固体電解質層、ゲル電解質、又は固体電解質層とゲル電解質に対して電解液を併用した電解質を有する電解コンデンサの何れにも適用できる。
【0021】
(電解コンデンサ)
電解コンデンサは、静電容量に応じた電荷の蓄電及び放電を行う受動素子である。この電解コンデンサは、巻回型又は積層型のコンデンサ素子を有する。コンデンサ素子は、セパレータを介して電極体を対向させ、電解液が含浸されて成る。この電解コンデンサは、陰極側に用いられた電極体と電解液との界面に生じる電気二重層作用によって陰極側容量が生じ、また誘電分極作用による陽極側容量が陽極側に用いられた電極体に生じる。以下、陰極側に用いられた電極体を陰極体といい、陽極側に用いられた電極体を陽極箔と称する。
【0022】
陽極箔の表面には、誘電分極作用が生じる誘電体酸化皮膜層が形成されている。陰極体の表面には、電解液との界面に電気二重層作用を生じさせるカーボン層が形成されている。電解液は、陽極箔と陰極体の間に介在し、陽極箔の誘電体酸化皮膜層と陰極体のカーボン層に密接する。セパレータは、陽極箔と陰極体のショートを防止すべく、陽極箔と陰極体との間に介在し、また電解液を保持する。
【0023】
(陰極体)
この陰極体は、陰極箔とカーボン層の2層構造を有する。陰極箔は集電体となり、その表面には拡面層が形成されていることが好ましい。カーボン層は主材として炭素材を含む。このカーボン層が拡面層と密着することで、陰極箔とカーボン層の2層構造となる。
【0024】
陰極箔は、弁作用金属を材料とする長尺の箔体である。弁作用金属は、アルミニウム、タンタル、ニオブ、チタン、ハフニウム、ジルコニウム、亜鉛、タングステン、ビスマス及びアンチモン等である。純度は、99%程度以上が望ましいが、ケイ素、鉄、銅、マグネシウム、亜鉛等の不純物が含まれていても良い。陰極箔としては、例えばJIS規格H0001で規定される調質記号がHであるアルミニウム材、いわゆるH材や、JIS規格H0001で規定される調質記号がOであるアルミニウム材、いわゆるO材を用いてもよい。H材からなる剛性が高い金属箔を用いると、後述するプレス加工による陰極箔の変形を抑制できる。
【0025】
この陰極箔は、弁作用金属が延伸され、拡面化処理が施されて成る。拡面層は、電解エッチングやケミカルエッチング、サンドブラスト等により形成され、又は金属箔に金属粒子等を蒸着若しくは焼結することにより形成される。電解エッチングとしては、直流エッチング又は交流エッチング等の手法が挙げられる。また、ケミカルエッチングでは、金属箔を酸溶液やアルカリ溶液に浸漬させる。形成された拡面層は、箔表面から箔芯部へ向けて掘り込まれたトンネル状のエッチングピット、又は海綿状のエッチングピットを有する層領域である。尚、エッチングピットは、陰極箔を貫通するように形成されていてもよい。
【0026】
カーボン層において、炭素材は、BET理論により計算される比表面積(以下、BET比表面積という)が異なる球状カーボンの混合である。他方の球状カーボンと比較してBET比表面積が大きい一方の球状カーボンを、大表面積球状カーボンと呼ぶ。また、大表面積球状カーボンと比較してBET比表面積が小さい他方の球状カーボンを、小表面積球状カーボンと呼ぶ。大表面積球状カーボン及び小表面積球状カーボンとしては例えばカーボンブラックが挙げられる。カーボンブラックとしては、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、ファーネスブラック、チャネルブラック及びサーマルブラック等が挙げられる。大表面積球状カーボン及び小表面積球状カーボンの種類の組み合わせは特に限定されない。
【0027】
大表面積球状カーボンと小表面積球状カーボンの混合で構成されたカーボン層は、大表面積球状カーボンと小表面積球状カーボンを活物質として、陰極側容量を発現させる電気二重層活物質層となる。そして、大表面積球状カーボンの静電容量の高さと小表面積球状カーボンの良好な熱安定性が引き出され、両者のデメリットを補完し合う。即ち、大表面積球状カーボンと小表面積球状カーボンの組み合わせは、低周波領域で電解コンデンサを使用する場合であっても、高周波領域で電解コンデンサを使用する場合であっても、金属窒化物の皮膜を陰極箔に形成した電解コンデンサと比べて、高い静電容量を有し、且つ初期静電容量と高温環境負荷後における静電容量との差、即ち静電容量変化率を小さくする。
【0028】
初期静電容量は、電解コンデンサを組み立ててエージング処理した後の例えば20℃等の常温近辺での静電容量であり、高温環境負荷後における静電容量は、例えば125℃等の高温環境に278時間等の長時間晒した後の静電容量である。静電容量変化率は、初期静電容量に対する高温環境負荷後における静電容量の変化率である。
【0029】
尚、大表面積球状カーボンのBET表面積の下限、小表面積球状カーボンのBET表面積の上限、大表面積球状カーボンと小表面積球状カーボンとのBET比表面積の差、大表面積球状カーボンと小表面積球状カーボンとのBET比表面積の比、及び大表面積球状カーボンと小表面積球状カーボンの一次粒子径は、特に限定されない。
【0030】
但し、大表面積球状カーボン(A)と小表面積球状カーボン(B)との混合比(A:B)は、90:10から30:70であることが好ましい。90:10という混合比以上に多くの小表面積球状カーボンを混合させると、高温環境下及び高周波数領域での静電容量変化率はいっそう小さく抑えられる。一方、30:70という混合比率以上に多くの小表面積球状カーボンを混合させると、大表面積球状カーボンと小表面積球状カーボンとの組み合わせによっては、30:70という混合比率以下となるように小表面積球状カーボンを少なめに混合させた場合と比べれば、初期静電容量が小さくなる状況が生じる。尚、混合比とは、カーボン層における固形成分に含まれる炭素成分の構成割合を意味する。
【0031】
また、大表面積球状カーボンのBET比表面積は、133m/g以上1270m/g以下が好ましく、133m/g以上800m/g以下がより好ましい。また、小表面積球状カーボンのBET比表面積は、39m/g以上377m/g以下が好ましく、39m/g以上254m/g以下がより好ましい。
【0032】
炭素材としては、これら大表面積球状カーボンと小表面積球状カーボンを主とするならば、その他、少量の活性炭やカーボンナノチューブ等を含有させることもできる。活性炭やカーボンナノチューブは、パイ電子が非局在化し、比表面積が大きい。また、大表面積球状カーボンと小表面積球状カーボンとの中間のBET比表面積を有する他の球状カーボンを更に加えてもよい。
【0033】
このような陰極体は、カーボン層の材料が含まれるスラリーを作製し、また陰極箔に拡面層を形成しておき、拡面層にスラリーを塗布して乾燥及びプレスをすればよい。拡面層に関しては、典型的には、硝酸、硫酸、塩酸等の酸性水溶液中で直流又は交流を印加する直流エッチング又は交流エッチングにより形成される。
【0034】
カーボン層に関しては、まず、大表面積球状カーボンと小表面積球状カーボンの粉末を溶液中で分散させる。溶液にはカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)等の分散剤を含有させることで、分散を促し、また攪拌を行い、また攪拌による空気の混入に対しては脱泡を行い、分散の程度を高めておくとよい。分散終了後、溶液にバインダーを加えて、更に攪拌又は攪拌と脱泡を行い、スラリーを作製する。適宜他の溶液を追加してもよい。そして、スラリーを拡面層に塗布し、乾燥させた後、所定圧力でプレスすることでカーボン層を拡面層に積層する。
【0035】
プレスすることによって、カーボン層が圧縮され、カーボン層内の空隙を消失させやすくなる。カーボン層内の空隙を消失し、カーボン層が密となることで、密着性が担保される。また、プレスすることによって、カーボン層と拡面層との界面が凹凸形状になり、カーボン層と拡面層との密着面積が増大し、静電容量が増加する。更に、プレスすることによって、拡面層とカーボン層とが圧接して、例えば拡面層のエッチングピットにまでカーボン層が入り込むように、カーボン層が拡面層に入り込み、密着性がより高まるために、抵抗が低くなりやすい。
【0036】
溶媒は、メタノール、エタノールや2-プロパノールなどのアルコール、炭化水素系溶媒、芳香族系溶媒、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)やN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)などのアミド系溶媒、水及びこれらの混合物などである。分散方法としては、ミキサー、ジェットミキシング(噴流衝合)、または、超遠心処理、その他超音波処理などを使用する。バインダーとしては、例えばスチレンブタジエンゴム、ポリフッ化ビニリデン、又はポリテトラフルオロエチレンが挙げられる。
【0037】
大表面積球状カーボンと小表面積球状カーボンに、賦活処理や開口処理などの多孔質化処理を施す場合、ガス賦活法、薬剤賦活法などの従来公知の賦活処理を用いることができる。ガス賦活法に用いるガスとしては、水蒸気、空気、一酸化炭素、二酸化炭素、塩化水素、酸素またはこれらを混合したものからなるガスが挙げられる。また、薬剤賦活法に用いる薬剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物、ホウ酸、リン酸、硫酸、塩酸等の無機酸類、または塩化亜鉛などの無機塩類などが挙げられる。この賦活処理の際には必要に応じて加熱処理が施される。
【0038】
(陽極箔)
次に、陽極箔は、弁作用金属を材料とする長尺の箔体である。純度は、陽極箔に関して99.9%程度以上が望ましい。この陽極箔は、延伸された箔にエッチング処理を施して成り、または弁作用金属の粉体を焼結して成り、または金属粒子等の皮膜を箔に蒸着させて皮膜を施して成る。陽極箔は、拡面層又は多孔質構造層を表面に有する。
【0039】
陽極箔に形成される誘電体酸化皮膜層は、典型的には、陽極箔の表層に形成される酸化皮膜であり、陽極箔がアルミニウム製であれば、多孔質構造領域を酸化させた酸化アルミニウム層である。この誘電体酸化皮膜層は、硼酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、アジピン酸アンモニウム等の酸あるいはこれらの酸の水溶液等のハロゲンイオン不在の溶液中で電圧印加する化成処理により形成される。尚、陰極箔には、自然酸化皮膜層が形成され得るし、意図的に誘電体酸化皮膜層を設けてもよい。
【0040】
(セパレータ)
セパレータは、クラフト、マニラ麻、エスパルト、ヘンプ、レーヨン等のセルロースおよびこれらの混合紙、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、それらの誘導体などのポリエステル系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ビニロン系樹脂、脂肪族ポリアミド、半芳香族ポリアミド、全芳香族ポリアミド等のポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、トリメチルペンテン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、アクリル樹脂等が挙げられ、これらの樹脂を単独で又は混合して用いることができ、またセルロースと混合して用いることができる。
【0041】
(電解液)
電解液は、溶媒に対して溶質を溶解し、また必要に応じて添加剤が添加された混合液である。溶媒は水やプロトン性の極性溶媒又は非プロトン性の極性溶媒の何れでもよい。プロトン性の極性溶媒として、一価アルコール類、及び多価アルコール類、オキシアルコール化合物類、水などが代表として挙げられる。非プロトン性の極性溶媒としては、スルホン系、アミド系、ラクトン類、環状アミド系、ニトリル系、オキシド系などが代表として挙げられる。
【0042】
一価アルコール類としては、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロブタノール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール等が挙げられる。多価アルコール類およびオキシアルコール化合物類としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、メトキシプロピレングリコール、ジメトキシプロパノール等が挙げられる。スルホン系としては、ジメチルスルホン、エチルメチルスルホン、ジエチルスルホン、スルホラン、3-メチルスルホラン、2,4-ジメチルスルホラン等が挙げられる。アミド系としては、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-エチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-エチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、ヘキサメチルホスホリックアミド等が挙げられる。ラクトン類、環状アミド系としては、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン、N-メチル-2-ピロリドン、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、イソブチレンカーボネート等が挙げられる。ニトリル系としては、アセトニトリル、3-メトキシプロピオニトリル、グルタロニトリル等が挙げられる。オキシド系としてはジメチルスルホキシド等が挙げられる。溶媒として、これらが単独で用いられてもよく、また2種類以上を組み合わせても良い。
【0043】
電解液に含まれる溶質は、アニオン及びカチオンの成分が含まれ、典型的には、有機酸若しくはその塩、無機酸若しくはその塩、又は有機酸と無機酸との複合化合物若しくはそのイオン解離性のある塩であり、単独又は2種以上を組み合わせて用いられる。アニオンとなる酸及びカチオンとなる塩基を溶質成分として別々に電解液に添加してもよい。
【0044】
電解液中でアニオン成分となる有機酸としては、シュウ酸、コハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、マレイン酸、アジピン酸、安息香酸、トルイル酸、エナント酸、マロン酸、1,6-デカンジカルボン酸、1,7-オクタンジカルボン酸、アゼライン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸等のカルボン酸、フェノール類、スルホン酸が挙げられる。また、無機酸としては、ホウ酸、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、炭酸、ケイ酸等が挙げられる。有機酸と無機酸の複合化合物としては、ボロジサリチル酸、ボロジ蓚酸、ボロジグリコール酸等が挙げられる。
【0045】
また、有機酸、無機酸、ならびに有機酸と無機酸の複合化合物の少なくとも1種の塩として、アンモニウム塩、四級アンモニウム塩、四級化アミジニウム塩、アミン塩、ナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられる。四級アンモニウム塩の四級アンモニウムイオンとしてはテトラメチルアンモニウム、トリエチルメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム等が挙げられる。四級化アミジニウムとしては、エチルジメチルイミダゾリニウム、テトラメチルイミダゾリニウムなどが挙げられる。アミン塩のアミンとしては、一級アミン、二級アミン、三級アミンが挙げられる。一級アミンとしては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミンなど、二級アミンとしては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、エチルメチルアミン、ジブチルアミンなど、三級アミンとしては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、エチルジメチルアミン、エチルジイソプロピルアミン等が挙げられる。
【0046】
さらに、電解液には他の添加剤を添加することもできる。添加剤としては、ポリエチレングリコール、ホウ酸と多糖類(マンニット、ソルビットなど)との錯化合物、ホウ酸と多価アルコールとの錯化合物、ホウ酸エステル、ニトロ化合物(o-ニトロ安息香酸、m-ニトロ安息香酸、p-ニトロ安息香酸、o-ニトロフェノール、m-ニトロフェノール、p-ニトロフェノールなど)、リン酸エステル、コロイダルシリカなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
以上、電解液を用いた電解コンデンサを説明したが、固体電解質を用いた場合は、集電体と接触したカーボン層によって固体電解質と導通することとなり、誘電分極作用による陽極側容量によって電解コンデンサの静電容量が構成される。また、固体電解質を用いる場合は、ポリエチレンジオキシチオフェンなどのポリチオフェンや、ポリピロール、ポリアニリンなどの導電性ポリマーが挙げられる。
【実施例
【0048】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。まず、次のようにして各実施例、各参考例及び比較例1の電解コンデンサをラミネートセルの態様により作製した。
【0049】
共通の電解コンデンサの作製手順は次の通りである。まず、陰極体に関し、分散剤含有水溶液として、CMC-Na水溶液に炭素材を加えた。分散剤含有水溶液には、炭素材を除く水溶液全体に対して1.67wt%のCMC-Naが含まれる。炭素材を加えた後、分散処理として、水溶液をミキサー(あわとり練太郎,株式会社シンキー)にて回転数2000rpmで3分間攪拌し、次いでミキサー(あわとり練太郎,株式会社シンキー)にて2500rpmで30秒間の脱泡を行い、更にミキサー(あわとり練太郎,株式会社シンキー)にて回転数2000rpmで3分間攪拌した。
【0050】
炭素材の分散処理の後、溶媒として水と2-プロパノールを加え、再度分散処理を行い、所定の炭素材固形分濃度となるように調整を行った。溶媒添加による希釈処理後、バインダーとしてSBR(日本ゼオン製,BM-400B)水溶液を加えて攪拌し、スラリーを作製した。SBR水溶液中、SBRは40wt%を占める。作製したスラリーにおける炭素材(A)とバインダー(B)とCMC-Na(C)の配合比(A:B:C)は、84:10:6である。また、水(A)と2-プロパノール(B)の配合比(A:B)は、87:13である。再度分散処理においても、分散処理同様に水溶液をミキサー(あわとり練太郎,株式会社シンキー)にて回転数2000rpmで3分間攪拌し、次いでミキサー(あわとり練太郎,株式会社シンキー)にて2500rpmで30秒間の脱泡を行い、更にミキサー(あわとり練太郎,株式会社シンキー)にて回転数2000rpmで3分間攪拌した。
【0051】
別途、電極リード板を引き出したアルミニウム箔を陰極箔として用意し、この陰極箔にスラリーを均一に塗布した。このアルミニウム箔には、予め、塩酸中で電圧を印加することで、拡面層を形成しておいた。スラリーは、その拡面層に塗布した。そして、スラリーを乾燥させた後、150kNcm-2の圧力で垂直プレスをかけ、カーボン層を陰極箔上に定着させた。
【0052】
また、アルミニウム箔にエッチング処理を施し、公称化成電圧が4Vfsとなるように誘電体酸化皮膜を形成し、投影面積が2.1cmの大きさのアルミニウム箔を得て、これを陽極箔とした。この陽極箔の容量は386μFcm-2であった。そして、この陰極体と陽極箔をレーヨン製のセパレータを介して対向させ、電解液を含浸させ、定格電圧2.9Vのラミネートセルとし、共通の再化成処理を施した。電解液としては、テトラメチルイミダゾリニウムフタル酸を溶質とし、γ-ブチロラクトンを溶媒として作製された。再化成の際には、全電解コンデンサとも105℃の環境下で、3.35Vの電圧を60分間印加した。
【0053】
各実施例及び各参考例の相違点は炭素材であり、各実施例及び各参考例の炭素材及び配合比は下記表1の通りである。表中、CB1及びCB2は球状カーボンを示す。表中、BET比表面積39m/gの球状カーボンは、アセチレンブラック(電気化学工業,HS-100)であり、BET比表面積133m/gの球状カーボンは、アセチレンブラック(電気化学工業,FX-35)であり、BET比表面積254m/gの球状カーボンは、ファーネスブラック(Cabot,XC-72)であり、BET比表面積377m/gの球状カーボンは、ケッチェンブラック(ライオン,EC200L)であり、BET比表面積800m/gの球状カーボンは、ケッチェンブラック(ライオン,EC300J)であり、BET比表面積1270m/gの球状カーボンは、ケッチェンブラック(ライオン,EC600JD)である。
【0054】
(表1)
【0055】
比較例1の電解コンデンサはラミネートセルとして次の通り作製した。即ち、エッチング未処理のアルミニウム箔を集電体として用い、電子ビーム蒸着法により窒化チタン層を形成し、この窒化チタン層を形成したアルミニウム箔を陰極体として用いた。比較例1の電解コンデンサにおける陽極箔、セパレータ及び電解液の組成、作製工程及び作製条件は、各実施例の電解コンデンサと同じである。
【0056】
(製品試験)
以上の各実施例、各参考例及び比較例1の電解コンデンサの静電容量(Cap)を測定した。この製品試験では、20℃で120Hz及び10kHz充放電時の静電容量(Cap)を初期静電容量として測定した。また、125℃の高温環境下で2.4Vの負荷を278時間かけ続け、その後、20℃で120Hz及び10kHz充放電時の静電容量(Cap)を高温環境負荷後静電容量として測定した。その結果を下記表2及び表3に示す。表2及び表3には、初期静電容量に対する高温環境負荷後静電容量の変化率(ΔCap)を周波数ごとに記した。
【0057】
(表2)
【0058】
(表3)
【0059】
また、上記表2に基づき、各種混合比率で大表面積球状カーボンと小表面積球状カーボンとを混合したときの静電容量を図1乃至図4のグラフに示す。図1は、参考例5、実施例1乃至5及び参考例1の低周波数領域での初期静電容量と高温環境負荷後の静電容量を混合比率順に並べたグラフである。図2は、参考例5、実施例1乃至5及び参考例1の高周波数領域での初期静電容量と高温環境負荷後の静電容量を混合比率順に並べたグラフである。図3は、参考例5、実施例6乃至10及び参考例4の低周波数領域での初期静電容量と高温環境負荷後の静電容量を混合比率順に並べたグラフである。図4は、参考例5、実施例6乃至10及び参考例4の高周波数領域での初期静電容量と高温環境負荷後の静電容量を混合比率順に並べたグラフである。
【0060】
表2に示すように、実施例1乃至11は、低周波数領域での初期静電容量、高周波数領域での初期静電容量、高温環境負荷後に低周波数領域で使用したときの静電容量、高温環境負荷後に高周波数領域で使用したときの静電容量、低周波数領域における初期静電容量に対する高温環境負荷後静電容量の変化率、及び高周波数領域における初期静電容量に対する高温環境負荷後静電容量の変化率の全てにおいて、比較例1よりも優れていることが確認された。
【0061】
特に、表2に示すように、実施例1乃至5は、参考例5と同じように大表面積球状カーボンをカーボン層に含むものであるが、大表面積球状カーボンを全く含まない参考例1に匹敵するように、飛躍的にΔCapが良好になっている。しかも、図1及び図2に示すように、混合比率90:10から50:50までは、全種の静電容量が参考例5と同等以上となっている。尚、混合比率90:10から30:70までは、小表面積球状カーボンの比率が大きくなっていっても、混合比率70:30をピークに緩やかな静電容量の減少に留まることも確認された。
【0062】
また、表2に示すように、実施例6乃至10は、参考例5と同じように大表面積球状カーボンをカーボン層に含むものであるが、大表面積球状カーボンを全く含まない参考例4を凌駕して、飛躍的にΔCapが良好になっている。しかも、図3及び図4に示すように、混合比率30:70までは、全種の静電容量が参考例5と同等以上となっている。
【0063】
即ち、高い静電容量が得られるが、ΔCapが悪化し易い大表面積球状カーボンと、ΔCapは良好であるが、静電容量が低くなる傾向がある小表面積球状カーボンとを混合すると、大表面積球状カーボンの長所及び小表面積球状カーボンの長所が寧ろ伸び、デメリットを補間し合って余りあることが確認できた。
図1
図2
図3
図4