(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】ガラス物品の製造装置
(51)【国際特許分類】
C03B 5/425 20060101AFI20231003BHJP
C03B 5/167 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
C03B5/425
C03B5/167
(21)【出願番号】P 2019126046
(22)【出願日】2019-07-05
【審査請求日】2022-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168550
【氏名又は名称】友廣 真一
(72)【発明者】
【氏名】檜山 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】板津 裕之
【審査官】有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-153713(JP,A)
【文献】特開2010-202444(JP,A)
【文献】特開2010-090028(JP,A)
【文献】国際公開第2007/020887(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 5/00-5/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉壁にエントランスブロックを含んだガラス溶融炉と、前記エントランスブロックを貫通すると共に前記ガラス溶融炉内の溶融ガラスを炉外に流出させるパイプとを備え、
前記エントランスブロックが、前記ガラス溶融炉内に臨む正面、炉外に臨む背面、及び前記正面と前記背面とを連続させる側面を有するガラス物品の製造装置であって、
前記正面、及び、前記側面における前記正面に連なる縁部領域が、白金部材で覆われ
、
前記白金部材は白金板で構成され、
前記白金部材における前記正面を覆った部位と前記縁部領域を覆った部位とが連続していることを特徴とするガラス物品の製造装置。
【請求項2】
前記側面における前記縁部領域以外の領域についても、前記白金部材で覆われていることを特徴とする請求項1に記載のガラス物品の製造装置。
【請求項3】
前記白金部材における前記側面を覆った部位のうちの前記背面寄りに、前記側面を部分的に露出させる開口が設けられていることを特徴とする請求項2に記載のガラス物品の製造装置。
【請求項4】
前記パイプの下流側端部と突き合わされた状態で前記パイプと接続される移送管を備え、
前記背面が前記白金部材で覆われ
、
前記白金部材における前記側面を覆った部位と前記背面を覆った部位とが連続していることを特徴とする請求項
2又は3に記載のガラス物品の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス原料を溶融させて溶融ガラスを生成するガラス溶融炉と、炉内の溶融ガラスを炉外に流出させるパイプとを備えたガラス物品の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、ガラス板、ガラス管、ガラス繊維等に代表されるガラス物品は、ガラス溶融炉にてガラス原料を溶融させて生成した溶融ガラスを所定の形状に成形することにより製造される。ガラス溶融炉で生成された溶融ガラスは、炉壁を構成する耐火物を貫通したパイプにより炉内から炉外に流出させる。
【0003】
ところで、炉壁を構成する耐火物における炉内に臨む面は、溶融ガラスによって浸食される。特に、ガラス溶融炉内におけるパイプの付近では、溶融ガラスの流れが激しい。このため、パイプを貫通させた耐火物(以下、エントランスブロックと称する)では、浸食が進行しやすく、その結果、エントランスブロックが劣化してしまうという難点がある。
【0004】
このような炉壁を構成する耐火物の浸食対策として、特許文献1に開示されるように、耐火物における炉内に臨む面を白金部材(白金膜や白金板)で覆う場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の対策をエントランスブロックに施し、エントランスブロックにおける炉内に臨む面を白金部材で覆った場合であっても、白金部材が垂れて溶融ガラスによるエントランスブロックの浸食を回避できなくなり、その劣化を防止できない場合があることから、更なる改良を加える必要が生じていた。
【0007】
上記の事情に鑑みなされた本発明は、溶融ガラスによるエントランスブロックの浸食を回避することで、エントランスブロックの劣化を防止することを技術的な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するための本発明に係るガラス物品の製造装置は、炉壁にエントランスブロックを含んだガラス溶融炉と、エントランスブロックを貫通すると共にガラス溶融炉内の溶融ガラスを炉外に流出させるパイプとを備え、エントランスブロックが、ガラス溶融炉内に臨む正面、炉外に臨む背面、及び正面と背面とを連続させる側面を有する装置であって、正面、及び、側面における正面に連なる縁部領域が、白金部材で覆われていることを特徴とする。
【0009】
本装置では、白金部材が炉内に臨むエントランスブロックの正面のみでなく、側面における正面に連なる縁部領域まで覆っている。この構成により、白金部材の一部が側面に引っ掛けられた状態となり、これに伴って白金部材の垂れが防止される。その結果、白金部材の垂れに起因して溶融ガラスがエントランスブロックを浸食することを回避でき、その劣化を防止することが可能となる。また、副次的な効果として、白金部材が側面の縁部領域を覆っていることで、エントランスブロックと、これに隣接した耐火物(以下、隣接ブロックと表記)との間に浸入した溶融ガラスにより、エントランスブロックが浸食されることも回避しやすくなる。従って、エントランスブロックの劣化をより的確に防止できる。
【0010】
上記の構成では、側面における縁部領域以外の領域についても、白金部材で覆われていることが好ましい。
【0011】
このようにすれば、エントランスブロックと隣接ブロックとの間に浸入した溶融ガラスによるエントランスブロックの浸食について、一層好適に回避することが可能になる。その結果、エントランスブロックの劣化を更に確実に防止できる。
【0012】
上記の構成では、白金部材における側面を覆った部位のうちの背面寄りに、側面を部分的に露出させる開口が設けられていることが好ましい。
【0013】
このようにすれば、白金部材に開口が設けられている分だけ、高価である白金の使用量を抑制できることから、エントランスブロックの劣化を防止するのに要するコストを削減することが可能となる。なお、開口から浸入した溶融ガラスによりエントランスブロックが浸食されることが危惧されるが、溶融ガラスの浸入が略無い背面寄りに開口を設けているため、このような危惧は的確に排除される。
【0014】
上記の構成では、背面が白金部材で覆われていることが好ましい。
【0015】
エントランスブロックを貫通したパイプの下流側端部には、別のパイプの上流側端部を突き合わせて接続するのが通例である。このとき、エントランスブロックの背面が白金部材で覆われていれば、パイプ同士を突き合わせた箇所から溶融ガラスが漏れ出した場合でも、漏れ出た溶融ガラスによってエントランスブロックが浸食されることを好適に回避できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るガラス物品の製造装置によれば、溶融ガラスによるエントランスブロックの浸食を回避できるため、エントランスブロックの劣化を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】ガラス物品の製造装置の概略を示す断面図である。
【
図2】
図1におけるA部を拡大して示す拡大断面図である。
【
図3】(a)はガラス物品の製造装置に備わったエントランスブロックを示す平面図であり、(b)はエントランスブロックを示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態に係るガラス物品の製造装置について、添付の図面を参照しながら説明する。ここで、本発明における「白金」とは、純白金に限らず、白金合金(白金ロジウム等)及び強化白金(ジルコニアを含有した白金等)を含むものとする。
【0019】
図1に示すように、ガラス物品の製造装置1(以下、製造装置1と表記)は、ガラス溶融炉2(以下、炉2と表記)と、パイプ3と、フィーダー4とを備えている。
【0020】
製造装置1は、炉2内に貯留された溶融ガラス5を加熱しつつ、溶融ガラス5上に供給されたガラス原料5xを順次に溶融させて新たな溶融ガラス5を生成すると共に、パイプ3により炉2内の溶融ガラス5を炉2外に流出させる。炉2外に流出した溶融ガラス5は、パイプ3と接続されたフィーダー4に供給される。フィーダー4は、例えば清澄容器や撹拌ポット、状態調整槽、それらを接続する移送管等を備える。このようなフィーダー4を通過した溶融ガラス5は、成形装置に供給されてガラス物品に成形される。
【0021】
炉2は、炉壁として、ガラス原料5xの流れ方向の上流端に位置する前壁2aと、流れ方向の下流端に位置する後壁2bと、
図1における紙面の手前側と奥側とで対向する一対の側壁(不図示)と、天井壁2cと、底壁2dとを有する。これらの炉壁はそれぞれ複数の耐火物でなる。
【0022】
前壁2aには、ガラス原料5xを炉2内に供給するためのスクリューフィーダー6が配置されている。一対の側壁のそれぞれには、溶融ガラス5の表面(液面)に沿って火炎の噴射が可能なバーナーが配置されている。底壁2dには、溶融ガラス5の通電加熱が可能な電極7が配置されている。
【0023】
図2に示すように、後壁2bにはエントランスブロック8が含まれている。エントランスブロック8は、炉壁(後壁2b)を構成する複数の耐火物9のうちの一つである。エントランスブロック8は、後壁2bを構成する耐火物9のうちで最下段に配置されている。
【0024】
エントランスブロック8には、炉2内から炉2外に通じる孔8aが形成されている。この孔8aに挿入されたパイプ3がエントランスブロック8を貫通している。孔8aの内周面と、パイプ3の外周面とは直接に接触している。つまり、孔8aの内周面が、パイプ3の外周面によって覆われた状態にある。なお、パイプ3は、底壁2dの内壁面よりも上方に配置されている。パイプ3の下流側端部には、フィーダー4が備える移送管4aの上流側端部が突き合わされた状態で接続されている。移送管4aの上流側端部にはフランジ4abが設けられている。パイプ3及び移送管4aは、いずれも白金で構成されている。
【0025】
図2~
図4に示すように、エントランスブロック8は、炉2内に臨む正面8b、炉2外に臨む背面8c、及び、正面8bと背面8cとを連続させる側面8dを有する。なお、側面8dには、上側面8da、下側面8db、右側面8dc、及び左側面8ddが含まれている。側面8dは、正面8bと背面8cとの間に位置し、正面8bと背面8cとを繋ぐ。
【0026】
エントランスブロック8の各面のうち、上側面8daを除いた面(正面8b、背面8c、下側面8db、右側面8dc、及び左側面8dd)については、それぞれの全領域が白金部材11で覆われている。ここで、
図3(a),(b)では、白金部材11で覆われた領域をクロスハッチングで表している。一方、上側面8daについては、白金部材11における上側面8daを覆った部位のうちの背面8c寄りに、開口11aが設けられており、この開口11aにより上側面8daが部分的に露出した箇所が存在している。なお、本実施形態では、白金部材11が単一部材(連続した一続きの部材)でなる。
【0027】
ここで、本実施形態の変形例として、エントランスブロック8の上側面8daに限らず、背面8c、下側面8db、右側面8dc、及び左側面8ddについても、白金部材11に設けられた開口11aにより面が部分的に露出した箇所を存在させてもよい。
【0028】
また、本実施形態の変形例として、エントランスブロック8の各面のうち、一部の面が白金部材11で全く覆われずに完全に露出していてもよい。白金部材11は、正面8bと、正面8bに連なる側面8d(上側面8da、下側面8db、右側面8dc、及び左側面8dd)の縁部領域x(xa、xb、xc、xd)とを、最低限覆っていればよい。そのため、一例として、背面8cが白金部材11で全く覆われずに完全に露出していてもよい。ただし、パイプ3と移送管4aとの突き合わされた箇所から溶融ガラス5が漏れ出した場合に、漏れ出た溶融ガラス5によってエントランスブロック8が浸食されることを回避する観点では、背面8cを白金部材11で覆うことが好ましい。
【0029】
背面8cを白金部材11で覆う場合に側面8dの縁部領域x以外の領域を白金部材11で覆わなければ、背面8cを覆う白金部材11が垂れるおそれがある。これを防止する観点から、側面8dの縁部領域x以外の領域についても、白金部材11で覆うことが好ましい。これにより、白金部材11のうちで背面8cを覆う部位と側面8d(縁部領域x以外の領域)を覆う部位とが連続し、側面8d(縁部領域x以外の領域)を覆う部位が側面に引っ掛けられた状態となるので、背面8cを覆う部位が垂れるのを防止できる。
【0030】
さらに、本実施形態の変形例として、白金部材11が単一部材ではなく、複数の部材からなってもよい。例えば、白金部材11が、正面8b側の部材と背面8c側の部材との二つの部材に分割されていてもよい。具体的な例としては、正面8b側の部材が、正面8bと、正面8bに連なる側面8d(上側面8da、下側面8db、右側面8dc、及び左側面8dd)の縁部領域x(xa、xb、xc、xd)とを覆うと共に、背面8c側の部材が、背面8cと、背面8cに連なる側面8d(上側面8da、下側面8db、右側面8dc、及び左側面8dd)の縁部領域y(ya、yb、yc、yd)とを覆うようにしてもよい。
【0031】
白金部材11は、例えば、エントランスブロック8の外表面に成膜された白金膜や、エントランスブロック8の形状に沿うように加工された白金板で構成できる。白金部材11を白金板で構成する場合には、一枚の白金板で構成してもよいし、複数枚の白金板で構成してもよい。本実施形態では、溶接により継がれた複数枚の白金板で白金部材11を構成している。エントランスブロック8のコーナー部(エントランスブロック8の隣り合う面同士が接続する箇所)では、当該コーナー部に沿うように白金板に対して曲げ加工を施している。ここで、白金板は、エントランスブロック8の外表面との相互間に部分的に隙間を有していてもよいし、隙間なく完全に外表面に密着していてもよい。
【0032】
以下、上記の製造装置1による主たる作用・効果について説明する。
【0033】
上記の製造装置1では、白金部材11が、炉2内に臨むエントランスブロック8の正面8bのみでなく、正面8bに連なる側面8d(上側面8da、下側面8db、右側面8dc、及び左側面8dd)の縁部領域x(xa、xb、xc、xd)まで覆っている。このように白金部材11の一部が側面8dに引っ掛けられた状態にあることで、白金部材11の垂れが防止される。その結果、白金部材11の垂れに起因して溶融ガラス5がエントランスブロック8を浸食することを回避でき、その劣化を防止することが可能となる。
【0034】
ここで、本発明に係るガラス物品の製造装置は、上記の実施形態で説明した構成に限定されるものではない。例えば、白金部材11は、正面8bと、正面8bに連なる側面8d(上側面8da、下側面8db、右側面8dc、及び左側面8dd)の縁部領域x(xa、xb、xc、xd)とを、覆っていればよい。つまり、側面8dにおける縁部領域x以外の領域(縁部領域xを除いた残りの領域)は、白金部材11で覆われていてもよく、覆われることなく、露出していてもよい。
【0035】
エントランスブロック8と隣接する耐火物9との間に浸入した溶融ガラス5によるエントランスブロック8の浸食を低減する観点から、縁部領域xは、正面8bからの距離が100mm以下の領域とすることが好ましく、前記距離が200mm以下の領域とすることがより好ましい。エントランスブロック8と隣接する耐火物9との間に浸入した溶融ガラス5によるエントランスブロック8の浸食をさらに低減する観点から、側面8dにおける縁部領域x以外の領域は、白金部材11で覆われていることが好ましい。
【0036】
側面8dを部分的に露出させる開口11aは、省略してもよいが、白金の使用量を抑制しながら、浸入した溶融ガラス5によるエントランスブロック8の浸食を低減する観点から、白金部材11における側面8dを覆った部位のうちの背面8c寄りに設けることが好ましい。開口11aは、エントランスブロック8の厚み(正面8bから背面8cまでの寸法)をt(mm)とした場合、例えば、背面8cからの距離(mm)が0.05t~0.5tの範囲内に設ければよい。
【符号の説明】
【0037】
1 ガラス物品の製造装置
2 ガラス溶融炉
2b 後壁
3 パイプ
5 溶融ガラス
8 エントランスブロック
8b 正面
8c 背面
8d 側面
8da 上側面
8db 下側面
8dc 右側面
8dd 左側面
11 白金部材
11a 開口
x 縁部領域