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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】定着装置および画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/20 20060101AFI20231003BHJP
【FI】
G03G15/20 515
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019135996
(22)【出願日】2019-07-24
(65)【公開番号】P2021018399
(43)【公開日】2021-02-15
【審査請求日】2022-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000005496
【氏名又は名称】富士フイルムビジネスイノベーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094330
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 正紀
(72)【発明者】
【氏名】春原 剛
(72)【発明者】
【氏名】小松 伸嘉
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 祐一郎
(72)【発明者】
【氏名】藤本 泰徳
【審査官】小池 俊次
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-036309(JP,A)
【文献】特開2018-155958(JP,A)
【文献】特開2002-049259(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属層が非金属層で挟まれた積層構造を有するベルトを備えた加熱部と、
トナー像を保持して搬送されてきた用紙を前記ベルトとの間に挟んで加圧する加圧部とを備え、
前記ベルトが、該ベルトの、前記トナー像と接触するおもて面および該トナー像と接触しないうら面のうち、該おもて面から該ベルト内の金属層までの第1の厚さよりも該うら面から該ベルト内の金属層までの第2の厚さの方が薄いベルトであって、
前記ベルトうら面の、用紙搬送方向に交わる幅方向について前記加熱部に用紙が接触する領域から外れた領域のみに接触して該ベルトを除電する第1の除電部を備えたことを特徴とする定着装置。
【請求項2】
前記ベルトが、前記金属層よりもおもて面側に弾性層を有することを特徴とする請求項1記載の定着装置。
【請求項3】
前記加熱部が、前記ベルトのうら面側に設置されて該ベルトを支持する、導電性であって接地された支持部材を備え、
前記第1の除電部が、前記支持部材に電気的に接続されていることを特徴とする請求項1または2に記載の定着装置。
【請求項4】
前記第1の除電部が、前記加圧部が前記ベルトに用紙を押し当てるニップ領域の出口側よりも入り口側に近い位置で、該ベルトを除電することを特徴とする請求項1から3のうちのいずれか1項に記載の定着装置。
【請求項5】
前記加圧部を除電する第2の除電部を備えたことを特徴とする請求項1から4のうちのいずれか1項に記載の定着装置。
【請求項6】
前記第2の除電部が、前記第1の除電部と比べ、電荷の流れが抑制された除電部であることを特徴とする請求項5に記載の定着装置。
【請求項7】
前記第2の除電部が、電荷の流れを抑制する素子を介して接地されていることを特徴とする請求項に記載の定着装置。
【請求項8】
用紙上にトナー像を形成する像形成部と、
請求項1から7のうちのいずれか1項に記載の定着装置とを備えたことを特徴とする画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定着装置および画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
加熱および加圧してトナー像を用紙に定着する定着装置に関し、金属層が非金属層で挟まれた積層構造を有するベルトを備えて、そのベルトを電磁誘導で発熱させる電磁誘導方式の定着装置が知られている。
【0003】
ここで、定着装置では、トナーの一部が加熱部側に移る静電オフセットと呼ばれる現象が発生するおそれがある。静電オフセットが発生すると、加熱部側に移ったトナー像が用紙上の別の場所に現れる現象が発生する。ここで、一部の封筒など、酸性成分を含む用紙が流通している。酸性成分を含む用紙を用いると、静電オフセットが発生するおそれが高まる。この静電オフセットの発生には、主に加熱部の帯電が影響している。
【0004】
ここで、特許文献1には、加熱用回転部材および加圧用回転部材の表面電位を制御する電位制御装置を備えることにより静電オフセットを抑制することが提案されている。
【0005】
また、特許文献2には、定着ベルト130を加熱する加熱ローラに除電機能を持たせることが提案されている。
【0006】
さらに、特許文献3には、加圧ローラに除電ブラシを近接配置した構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2013-029581号公報
【文献】特開2007-219232号公報
【文献】特開平07-295427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、金属層を含む積層構造を有するベルトを除電する、金属層の存在を利用した除電手段を備えた定着装置、およびその定着装置を備えた画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、
金属層が非金属層で挟まれた積層構造を有するベルトを備えた加熱部と、
トナー像を保持して搬送されてきた用紙を前記ベルトとの間に挟んで加圧する加圧部とを備え、
前記ベルトが、該ベルトの、前記トナー像と接触するおもて面および該トナー像と接触しないうら面のうち、該おもて面から該ベルト内の金属層までの第1の厚さよりも該うら面から該ベルト内の金属層までの第2の厚さの方が薄いベルトであって、
前記ベルトうら面の、用紙搬送方向に交わる幅方向について前記加熱部に用紙が接触する領域から外れた領域のみに接触して該ベルトを除電する第1の除電部を備えたことを特徴とする定着装置である。
【0011】
請求項に係る発明は、
前記ベルトが、前記金属層よりもおもて面側に弾性層を有することを特徴とする請求項に記載の定着装置である。
【0012】
請求項に係る発明は、
前記加熱部が、前記ベルトのうら面側に設置されて該ベルトを支持する、導電性であって接地された支持部材を備え、
前記第1の除電部が、前記支持部材に電気的に接続されていることを特徴とする請求項またはに記載の定着装置である。
【0013】
請求項に係る発明は、
前記第1の除電部が、前記加圧部が前記ベルトに用紙を押し当てるニップ領域の出口側よりも入り口側に近い位置で、該ベルトを除電することを特徴とする請求項1からのうちのいずれか1項に記載の定着装置である。
【0014】
請求項に係る発明は、
前記加圧部を除電する第2の除電部を備えたことを特徴とする請求項1からのうちのいずれか1項に記載の定着装置である。
【0015】
請求項に係る発明は、
前記第2の除電部が、前記第1の除電部と比べ、電荷の流れが抑制された除電部であることを特徴とする請求項に記載の定着装置である。
【0016】
請求項に係る発明は、
前記第2の除電部が、電荷の流れを抑制する素子を介して接地されていることを特徴とする請求項に記載の定着装置である。
【0017】
請求項に係る発明は、
用紙上にトナー像を形成する像形成部と、
請求項1からのうちのいずれか1項に記載の定着装置とを備えたことを特徴とする画像形成装置である。
【発明の効果】
【0018】
請求項1の定着装置および請求項の画像形成装置によれば、金属層の存在を利用して、厚さの厚い側にのみ除電部を設置した場合と比べ除電能力を高めた除電が行われる。
【0019】
また、請求項の定着装置および請求項8の画像形成装置によれば、第1の除電部が、おもて面側に設置されている場合と比べ、省スペース化を図りやすい。
【0020】
請求項の定着装置によれば、表面に凹凸のあるエンボス紙などの用紙への定着性を保持しつつ、ベルトの除電が行なわれる。
【0021】
請求項の定着装置によれば、除電とは無関係に存在する支持部材が除電に利用される。
【0022】
請求項の定着装置によれば、第1の除電部が、ニップ領域の出口側に近い位置でベルトを除電するものと比べ、静電オフセットの発生が抑えられる。
【0023】
請求項の定着装置によれば、第2の除電部を備えない場合と比べ、静電オフセットが抑制される。
【0024】
請求項の定着装置によれば、電荷の流れが抑制されていない除電部と比べ、定着部の電位が安定的に推移する。
【0025】
請求項の定着装置によれば、電荷の流れを抑制する素子を用いずに除電部の材料等により電荷の流れを抑制する場合と比べ、電荷の流れの抑制のレベルを容易に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の一実施形態としての画像形成装置の外観斜視図である。
図2図1に外観を示した画像形成装置の内部構成を示した模式図である。
図3】定着器の構造を示した断面図である。
図4】定着ベルトの層構造および交流磁界による発熱の原理を説明する図である。
図5】第2実施形態の定着器を示した図である。
図6】第3実施形態の定着器を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0028】
図1は、本発明の一実施形態としての画像形成装置の外観斜視図である。
【0029】
この画像形成装置1は、スキャナ10とプリンタ20を備えている。
【0030】
スキャナ10は、この画像形成装置1の骨組みである装置筐体90の上に載せられており、プリンタ20は、装置筐体90内に構成されている。
【0031】
図2は、図1に外観を示した画像形成装置の内部構成を示した模式図である。
【0032】
プリンタ20は、ほぼ横に1列に配列された4つの像形成部50Y,50M,50C,50Kを有する。これらの像形成部50Y,50M,50C,50Kでは、それぞれ、イエロー(Y),マゼンタ(M),シアン(C),黒(K)の各色トナーによるトナー像が形成される。ここでは、これらの像形成部50Y,50M,50C,50Kに共通の説明については、トナーの色の区別を表わす、Y,M,C,Kの符号を省略し、像形成部50と表記する。像形成部以外の他の構成要素についても同様である。
【0033】
各像形成部50には、像保持体51が備えられている。この像保持体51は、駆動力を受けて矢印A方向に回転しながら、その表面に静電潜像が形成され、さらに現像によりトナー像が形成される。
【0034】
各像形成部50に備えられている各像保持体51の周りには、帯電器52、露光器53、現像器54、1次転写器62、およびクリーナ55が備えられている。ここで、1次転写器62は、像保持体51との間に、後述する中間転写ベルト61を挟んだ位置に置かれている。この1次転写器62は、像形成部50ではなく、後述する中間転写部60に備えられている要素である。
【0035】
帯電器52は、像保持体51の表面を一様に帯電する。
【0036】
露光器53は、一様に帯電された像保持体51に、画像信号に基づいて変調された露光光を照射して、像保持体51上に静電潜像を形成する。
【0037】
現像器54内には、キャリアと各像形成部50に応じた色のトナーとを含む現像剤が収容されている。この現像器54内には、像保持体51上に形成された静電潜像を、各像形成部50に応じた色のトナーで現像して、像保持体51上にトナー像を形成する。
【0038】
1次転写器62は、像保持体51上に一時的に保持されたトナー像を、後述する中間転写ベルト61上に転写する。
【0039】
クリーナ55は、転写後の像保持体51上の残留トナー等を像保持体51上から取り除く。
【0040】
4つの像形成部50の上部には、中間転写部60が配置されている。そして、この中間転写部60には、中間転写ベルト61が備えられている。この中間転写ベルト61は、駆動ロール63a、従動ロール63b、張架ロール63c等の複数のロールに支持されている。そして、この中間転写ベルト61は、駆動ロール63aに駆動されて、4つの像形成部50に備えられている4つの像保持体51に沿う経路を含む循環経路上を、矢印B方向に循環移動する。
【0041】
各像保持体51上のトナー像は1次転写器62の作用により、中間転写ベルト61上に順次重なるように転写される。そして、中間転写ベルト61上に転写されたトナー像は、その中間転写ベルト61により、2次転写位置T2に搬送される。この2次転写位置T2には2次転写器71が備えられており、中間転写ベルト61上のトナー像は、その2次転写器71の作用により、その2次転写位置T2に搬送されてきた用紙P上に転写される。用紙Pの搬送については後述する。用紙Pへのトナー像の転写後の中間転写ベルト61上に残存するトナー等は、クリーナ64により、その中間転写ベルト61から取り除かれる。
【0042】
中間転写部60の上部には、各色のトナーが収容されたトナーカートリッジ100が備えられている。現像器54内のトナーが現像により消費されると、対応する色のトナーを収容したトナーカートリッジ100から、トナーが、不図示のトナー補給路を通って現像器54に補給される。トナーカートリッジ100は装置筐体90に対し着脱自在に構成されており、空になると取り出されて、新たなトナーカートリッジ100が装着される。
【0043】
用紙トレイ21からは、ピックアップロール24により用紙Pが1枚取り出され、搬送ロール25により、搬送路99上を矢印C方向に、タイミング調整ロール26まで搬送される。このタイミング調整ロール26まで搬送されてきた用紙Pは、そのタイミング調整ロール26により、中間転写ベルト61上のトナー像が2次転写位置T2に到達するタイミングに合わせて2次転写位置T2に到達するように、その2次転写位置に向かって送り出される。タイミング調整ロール26により送り出された用紙Pは、2次転写位置T2において、2次転写器71の作用により、中間転写ベルト61からトナー像の転写を受ける。トナー像の転写を受けた用紙Pは、2次転写器71の上方に配置されている定着器80に向かって用紙ガイド73に案内されながらさらに矢印D方向に搬送される。
【0044】
矢印D方向に搬送されて定着器80に到達した用紙P上のトナー像は、この定着器80により加熱および加圧を受けて、その用紙P上に定着される。これにより、用紙P上には、定着されたトナー像からなる画像がプリントされる。定着器80によりトナー像の定着を受けた用紙Pは、搬送ロール27によりさらに搬送され、排紙ロール28により、排紙口29から排紙トレイ22上に送り出される。
【0045】
次に、定着器80の構造について説明する。この定着器80は、本発明の定着装置の一例に相当する。
【0046】
図3は、定着器の構造を示した断面図である。この図3に示した定着器は、図1図2に示した画像形成装置に搭載される定着器のうちの第1実施形態の定着器である。
【0047】
定着器80には、誘導加熱器81、加熱ベルト82、加圧ロール83、および励磁回路84が備えられている。誘導加熱器81は交流磁界を発生させて加熱ベルト82を電磁誘導により加熱するものであり、励磁回路84は、誘導加熱器81に交流磁界発生の電力を供給するものである。加熱ベルト82は矢印C1方向に回転し、未定着トナー像を保持して矢印D方向に搬送されてくる用紙に接触することで用紙上のトナーを加熱する。
【0048】
ここで、誘導加熱器81は、本発明にいう加熱部の一例に相当する。また、加熱ベルト82が、本発明にいうベルトの一例に相当し、加圧ロール83が、本発明にいう加圧部の一例に相当する。
【0049】
加熱ベルト82の内側の、誘導加熱器81側に、磁性体の発熱部材821が備えられており、また、加圧ロール83側に押圧部材822が備えられている。また、発熱部材821と押圧部材822との間には、それらを支える支持構造823(支持部材の一例)が備えられている。ここで、支持構造823は押圧部材822を支えることで間接的に加熱ベルト82を支持しているともいえる。
【0050】
発熱部材821は、誘導加熱器81が発生させる交流磁界を導いて磁路を形成することで、誘導加熱器81による加熱ベルト82の加熱効率を高める部材である。
【0051】
押圧部材822は、加熱ベルト82の内面の、加熱ベルト82を挟んで加圧ロール83に対面する位置に配備され、押圧面822aで加熱ベルト82を加圧ロール83に向けて押圧する部材である。押圧部材822は、加圧ロール83と押圧部材822との間に加熱ベルト82を挟んだ状態でニップ領域Nを形成する。用紙は、このニップ領域Nを、加圧ロール83と加熱ベルト82との間に挟まれながら通過する。用紙には加熱ベルト82による熱と加圧ロール83による圧力が加えられて未定着のトナー像が定着される。
【0052】
支持構造823は剛性の高い材料で組み立てられていてニップ領域Nの圧力( ニップ圧) における長手方向の均一性を維持している。支持構造823は導電性の材料で構成されており、例えば鉄、コバルト、ニッケル、銅、クロム等といった金属や、粉末状の導電物質を混ぜ合わせたゴム材料が用いられる。また、支持構造823は電気的に接地されている。
【0053】
加圧ロール83は、加熱ベルト82の外面に押し当てられて矢印C2方向に回転し、矢印D方向に搬送されてきた用紙を加熱ベルト82との間に挟んで加圧するロールである。この加圧ロール83の表面は、押圧されたときに押圧部材822の押圧面822aの形状に沿うように変形する弾性体となっている。
【0054】
誘導加熱器81には、誘導加熱用の励磁コイル811が、加熱ベルト82の外周面と間隙を保持して配備されている。この励磁コイル811は、導線を束ねたリッツ線が閉ループ状に巻かれたものであり、励磁コイル811に励磁回路84から交流電流が供給されることにより、励磁コイル811の周囲に交流磁界が生成される。
【0055】
誘導加熱器81には、励磁コイル811を挟んで加熱ベルト82とは反対側に、交流磁界の磁路を形成する磁心812も備えられている。磁心812は、例えばフェライト樹脂などの高透磁率の材料で形成されている。磁心812は、励磁コイル811にて生成された交流磁界による磁力線が、励磁コイル811から加熱ベルト82を横切って発熱部材821に向かい、発熱部材821の中を通過して励磁コイル811に戻る磁力線の通路(=磁路)を形成する。磁心812によって磁路が形成されることにより、励磁コイル811にて生成された交流磁界による磁力線が加熱ベルト82の磁心812と対向する領域に集中する。
【0056】
図4は、定着ベルトの層構造および交流磁界による発熱の原理を説明する図である。
【0057】
加熱ベルト82は、例えばポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン等といった耐熱性の高い合成樹脂が用いられる基材層825(非金属層の一例)、基材層825の上に積層された導電層826(金属層の一例)、トナー像の定着性を向上させる弾性層827(非金属層の一例)、最上層に被覆され離型性が高い材質の表面離型層828(非金属層の一例)を有する多層ベルトである。導電層826は、誘導加熱器81にて生成される交流磁界によって電磁誘導加熱される発熱体の層であり、例えば鉄、コバルト、ニッケル、銅、クロム等といった金属が用いられる。
【0058】
交流磁界による磁力線88が加熱ベルト82を貫通する。そして、磁力線88が加熱ベルト82を貫通する際に、導電層826には、その交流磁界の変化を妨げる磁界を生成するように渦電流89が発生する。そして、渦電流89が導電層826を流れることによって、渦電流89の電流値をIとし、導電層826の抵抗値をRとしたとき、ジュール熱W(W=I2R)が発生し、加熱ベルト82が加熱される。
【0059】
また、加熱ベルト82よりも弱いが発熱部材821も交流磁界によって渦電流が発生して発熱する。この発熱部材821の発熱によって加熱ベルト82の温度が安定化する。
【0060】
また、表面離型層828は、この加熱ベルト82のおもて面に形成されており、その表面離型層828には用紙上のトナー像が接触する。トナー像は加熱により溶融して粘性を持つが、表面離型層828は、その溶融トナー像を保持する用紙が加熱ベルト82から引き剥がれ易くするための層であり、例えばテトラフルオロエチレン?パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、フッ化エチレンプロピレン?テトラフルオロエチレン?ヘキサフルオロプロピレン共重合体といった材料が用いられる。
【0061】
ここで、この、加熱ベルト82のおもて面から導電層826までの厚みd1(第1の厚さの一例)は、加熱ベルト82のうら面から導電層826までの厚みd2(第2の厚さの一例)よりも厚い。これは、例えばエンボス紙と呼ばれる表面に凹凸がある用紙を用いた場合であってもトナー像の定着性を向上させるため、厚い弾性層827を形成しているためである。弾性層827には、例えばシリコーンゴム等が用いられる。
【0062】
図3に示す矢印D方向に搬送されてきた用紙上のトナー像は、この定着器80における加熱および加圧によりその用紙上に定着される。そして、この定着器80を通過した用紙は、剥離部材87により加熱ベルト82から剥離され、矢印E方向に進む。この定着器80を通過した用紙は、図1図2に示した排紙トレイ22上に送り出される。
【0063】
ここで、画像形成に用いる用紙の中には、一部の封筒など、酸性成分を含む用紙が存在する。酸性成分を含む用紙を用いると、トナー像の一部が加熱ベルト82に移り、加熱ベルト82に移ったトナー像が用紙上の別の場所に現れるという静電オフセットが発生することがある。この静電オフセットの発生には、主に加熱ベルト82の帯電が影響している。
【0064】
そこで、本実施形態の定着器80には、除電部材86(第1の除電部の一例)が備えられている。この除電部材86は、電気的に接地されている支持構造823に固定されることにより電気的に接地されていて、加熱ベルト82のうら面に接触して加熱ベルト82を除電する。除電部材86は、例えば金属製のねじによって支持構造823に固定される。この除電部材86による加熱ベルト82の除電は、加熱ベルト82に埋め込まれている、金属製の導電層826を利用している。すなわち、加熱ベルト82上の電荷は導電層826内を流れ、さらに、加熱ベルト82のうら面に接触している除電部材86を通って流れる。これにより、加熱ベルト82が除電される。この除電部材86は、除電ブラシであってもよく、金属板であってもよい。すなわち、加熱ベルト82に接して除電の用をなすものであればよく、ここでは、その具体的な形状や構造を問うものではない。
【0065】
ここで、除電部材86は、導電層826には直接には接しておらず、それらの間には、合成樹脂製の基材層825が介在している。ただし、この基材層825は薄いため、加熱ベルト82に蓄積された電荷が徐々に流れ出ることになる。ただし、加熱ベルト82の導電層826と除電部材86との間の距離が狭いほうが好ましい。本実施形態の場合、図4に示した通り、加熱ベルト82のおもて面から導電層826までの厚みd1よりも、加熱ベルト82のうら面から導電層826までの厚みd2の方が薄い。そこで本実施形態では、除電部材86を、加熱ベルト82の、おもて面側とうら面側とのうちの厚さの薄い側であるうら面に接触させている。本実施形態における加熱ベルト82とは異なり、おもて面側の厚みの方が薄いときは、除電部材86を、加熱ベルト82のおもて面に接触させることが好ましい。なお、これは、加熱ベルト82のおもて面とうら面とのうちの片側の面にのみ除電部材86を接触させる場合であって、除電部材86を加熱ベルト82の両面に接触させてもよい。
【0066】
また、加熱ベルト82に蓄積された電荷は、導電層826を通って流れ出る。したがって、除電部材86は、加熱ベルト82に用紙が接触する領域から外れた、用紙搬送方向に交わる幅方向の、加熱ベルト82に用紙が接触する領域から外れた領域の中の1点あるいは一部領域にのみ接する除電部材であってもよい。1点あるいは一部領域にのみ接する除電部材とすることにより、除電部材の小型化が図られている。
【0067】
また、本実施形態における除電部材86は、加圧ロール83が加熱ベルト82に用紙を押し当てるニップ領域Nの出口側よりも入り口側に近い位置で、加熱ベルト82に接している。これにより、ニップ領域の出口側に近い位置で加熱ベルト82を除電する除電部材と比べ、静電オフセットの発生が一層効果的に抑えられる。
【0068】
図5は、第2実施形態の定着器を示した図である。ここでは、図3に示した第1実施形態の定着器の構成要素と同じ構成要素には、図3において付した符号と同じ符号を付して示し、相違点についてのみ説明する。
【0069】
この図5に示す定着器80には、加熱ベルト82を除電する除電部材86に加え、加圧ロール83を除電する除電器85(第2の除電部の一例)を備えている。この除電器85は、抵抗器851(電荷の流れを抑制する素子の一例)を介して加圧ロール83の回転軸831を接地している。加圧ロール83に電荷が蓄積すると、その電荷がトナーと同極性(ここでは、トナーはマイナスの極性に帯電している)の場合、そのトナーを加熱ベルト82側に押しやることになり、トナーの静電オフセットを助長するおそれがある。そこで、この第2実施形態では、加圧ロール83を除電する除電器85を備えている。ただし、加圧ロール83の電位の急激な変化を避けるために、ここでは抵抗器851を介することで電荷の流れを抑制している。ただし、加圧ロール83自体の抵抗値が電位の急激な変化を避けるのに必要な程度に十分に高いときは、あるいは、抵抗値が十分に高い材料を用いて加圧ロール83を作製し、抵抗器851なしで直接に接地してもよい。
【0070】
図6は、第3実施形態の定着器を示した図である。ここでも、図3図4に示した実施形態の定着器の構成要素と同じ構成要素には、それらの図において付した符号と同じ符号を付して示し、相違点についてのみ説明する。
【0071】
この図6に示す定着器80にも、加圧ロール83を除電する除電器85を備えている。ただし、この除電器85は、図5に示した除電器85とは異なり、加圧ロール83の回転軸831を、ダイオード852を介して接地している。上記の通り、加圧ロール83にトナーと同極性の電荷が蓄積すると、トナーを加熱ベルト82側に押しやることになり、トナーの静電オフセットを助長するおそれがある。一方、加圧ロール83にトナーとは逆極性の電荷が蓄積したときは、トナーは加圧ロール83側、すなわち用紙側に引き寄せることになり特に問題はない。そこで、この第3実施形態では、加圧ロール83にトナーと同極性の電荷が蓄積しないように、加圧ロール83を、ダイオード852を介して接地している。
【0072】
これら図5図6に示すように、加圧ロール83を除電する除電器85を備えていてもよい。
【0073】
なお、ここでは、加熱ベルト82を電磁誘導で加熱する方式の定着器80を例に挙げて説明した。ただし、電磁誘導方式でなくても、例えば加熱ベルトの剛性の調整などを目的として、加熱ベルトに金属層を埋め込むことが考えられている。本発明は、電磁誘導方式に限らず、金属層を有する加熱ベルトを備えた定着装置であれば適用が可能である。
【0074】
また、支持構造823が押圧部材822を支えることで間接的に加熱ベルト82を支持する構成を記載したが、支持構造823が加熱ベルト82のうら面に接触することで加熱ベルト82を支持しても良い。
【符号の説明】
【0075】
1 画像形成装置
10 スキャナ
20 プリンタ
50 像形成部
51 像保持体
60 中間転写部
61 中間転写ベルト
80 定着器
811 励磁コイル
812 磁心
82 加熱ベルト
821 発熱部材
822 押圧部材
822a 押圧部材の押圧面
823 支持構造
83 加圧ロール
831 回転軸
84 励磁回路
85 除電器
851 抵抗器
852 ダイオード
86 除電器
87 剥離部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6