(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】線状構造物構築作業システム及び線状構造物の構築方法
(51)【国際特許分類】
E02D 29/02 20060101AFI20231003BHJP
E01F 8/00 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
E02D29/02 310
E01F8/00
(21)【出願番号】P 2019136598
(22)【出願日】2019-07-25
【審査請求日】2022-06-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丈達 康太
(72)【発明者】
【氏名】岡 重洋
(72)【発明者】
【氏名】藤井 健史
(72)【発明者】
【氏名】北口 雅也
【審査官】佐久間 友梨
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-199595(JP,A)
【文献】特開2000-210923(JP,A)
【文献】特開平07-217220(JP,A)
【文献】特開2004-100193(JP,A)
【文献】実開平05-077448(JP,U)
【文献】特開昭57-058766(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01F 3/00-8/02
E02D 29/02
E04G 1/00
9/00-19/00
25/00-25/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
線状構造物の構築予定領域を跨いで配置され、内部空間に作業スペースが形成されるとともに走行体を備える作業用建屋と、
前記構築予定領域の長手方向に沿って設けられ、前記走行体の走行方向を案内する走行ガイドと、を備え、
前記作業用建屋は、
走行方向に平行な両側面の外側が、少なくとも水密性及び気密性を有する防護パネルで被覆され
るとともに、
天井部が、外側から通気性面材で被覆され、
前記作業用建屋の内面には、作業用足場と天井クレーンとが設けられていることを特徴とする線状構造物構築作業システム。
【請求項2】
請求項1に記載の線状構造物構築作業システムにおいて、
前記線状構造物が、鉄筋組立作業、型枠組立作業、及びコンクリート打設作業の、少なくとも3つの作業工程を経て構築される鉄筋コンクリート造よりなり、
前記3つの作業工程をそれぞれ分担して実施する、3台の前記作業用建屋が設けられるとともに、
前記コンクリート打設作業を実施する前記作業用建屋には、コンクリートの供給配管が設置されていることを特徴とする線状構造物構築作業システム。
【請求項3】
請求項2に記載の線状構造物構築作業システムを用いた線状構造物の構築方法であって、
前記走行ガイド上に、鉄筋組立作業を実施する前記作業用建屋、鉄筋組立作業が終了している位置で型枠組立作業を実施する前記作業用建屋、型枠組立作業が終了している位置でコンクリート打設作業を実施する前記作業用建屋、を配置し、
前記作業用建屋各々で、分担された作業を実施することを特徴とする線状構造物の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線状構造物の構築予定領域に沿って移動しながら、線状構造物の施工を行う線状構造物構築作業システム、及び線状構造物構築作業システムを用いた線状構造物の構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、擁壁や遮音壁等の線状構造物を構築する場合、線状構造物の横断面より大きい内側空間を有する作業用建屋や移動式足場を施工現場に搬入し、これらを施工現場内に位置する線状構造物の構築予定領域における長手方向に移動させつつ、その内側空間に設けられた作業スペースを利用して、線状構造物の施工を行っている。
【0003】
例えば、特許文献1では、擁壁工事用移動足場を利用して擁壁を構築する方法が開示されている。擁壁工事用移動足場は、構築予定の擁壁の表裏に一対の足場フレームを配置するとともに両者を連結梁で連結して一対の足場フレームで囲まれた内部空間を形成し、足場フレームの内部空間と対向する側面各々に作業通路および昇降階段を設けた構造を有している。
【0004】
そして、このような構造の擁壁工事用移動足場の内部空間を利用して、擁壁の構築予定領域を区割りした複数の工事区域のうちの一工区で施工を行う。こののち、クレーン等を用いて擁壁工事用移動足場を移動させ、移動した擁壁工事用移動足場を、次の工区に設置する。これらの作業をすべての工事区域で施工を行うまで繰り返し行い、長大な擁壁を構築している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、擁壁工事用移動足場を解体することなくそのまま移動させることができることから、一工区ごとに全面足場の組立及び解台を繰り返しながら擁壁の施工を実施するといった手間を省略でき、工期を大幅に短縮できる。また、擁壁工事用移動足場の外周面を養生シートで覆うと、全天候対策を取ることもできる。
【0007】
しかし、擁壁工事用移動足場の内側空間は狭隘かつ低空頭となりやすく、別途クレーン等の揚重装置を手配する必要がある等、建設材料や工具等の揚重作業に課題が生じる。また、施工現場が供用中の道路や既設構造物に隣接している場合には、施工現場外への建設資材及び建設廃材の落下防止対策や施工時に発生する粉塵対策等、施工現場周辺の住環境を保全する対策が必要となる。
【0008】
本発明は、かかる課題に鑑みなされたものであって、その主な目的は、施工現場周辺の住環境を保全しながら、作業効率を向上することの可能な、線状構造物構築作業システム及び線状構造物の構築方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる目的を達成するため、本発明の線状構造物構築作業システムは、線状構造物の構築予定領域を跨いで配置され、内部空間に作業スペースが形成されるとともに走行体を備える作業用建屋と、前記構築予定領域の長手方向に沿って設けられ、前記走行体の走行方向を案内する走行ガイドと、を備え、前記作業用建屋は、走行方向に平行な両側面の外側が、少なくとも水密性及び気密性を有する防護パネルで被覆されるとともに、天井部が、外側から通気性面材で被覆されて、前記作業用建屋の内面には、作業用足場と天井クレーンとが設けられている。
【0010】
本発明の線状構造物構築作業システムによれば、作業用建屋には作業スペースに面して作業用足場と天井クレーンが設けられていることから、揚重装置等を別途手配する必要が無く、狭隘な作業スペースを有効に活用しながら、線状構造物の施工を行うことができる。また、施工現場におけるクレーンを用いた揚重作業が、作業用建屋内への資材搬入時のみであるため、吊荷の接触事故が生じにくく安全性を向上することが可能となる。
【0011】
また、作業用建屋に形成された作業スペースは、防護パネルで防護されていることから、施工中に作業スペースから施工現場外に向けて、建設工具や建設資材もしくは建設廃材等が落下したり、粉塵やコンクリートのレイタンス処理水が飛散する現象を抑制でき、施工現場周辺の住環境を保全することが可能となる。
【0013】
本発明の線状構造物構築作業システムによれば、前記構造物を構築するために実施する作業工程の数量と、同数の作業用建屋が設けることから、実施する作業を作業用建屋ごとで分担することができ、分担された作業を並行して実施しながら線状構造物を構築することが可能となる。
【0014】
また、作業用建屋ごとに、分担された作業に必要な機能及び施工現場周辺の住環境保護に必要な機能を装備して、線状構造物構築作業システムの多機能集約化を図ることもでき、これにより、線状構造物を構築する際の作業性が大幅に向上し、工期削減及び工費短縮に寄与することが可能となる。
【0015】
本発明の線状構造物構築作業システムは、前記線状構造物が、鉄筋組立作業、型枠組立作業、及びコンクリート打設作業の、少なくとも3つの作業工程を経て構築される鉄筋コンクリート造よりなり、前記3つの作業工程をそれぞれ分担して実施する、3台の前記作業用建屋が設けられるとともに、前記コンクリート打設作業を実施する前記作業用建屋には、コンクリートの供給配管が設置されていることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の線状構造物の構築方法は、本発明の線状構造物構築作業システムを用いた線状構造物の構築方法であって、前記走行ガイド上に、鉄筋組立作業を実施する前記作業用建屋、鉄筋組立作業が終了している位置で型枠組立作業を実施する前記作業用建屋、型枠組立作業が終了している位置でコンクリート打設作業を実施する前記作業用建屋、を配置し、前記作業用建屋各々で、分担された作業を実施することを特徴とする。
【0017】
本発明の線状構造物構築作業システム及び線状構造物の構築方法によれば、3台の作業用建屋ごとで、鉄筋組立作業、型枠組立作業及びコンクリート打設作業を並行して実施し、各作業の終了後には作業用建屋を次の施工位置に移動して、分担された同じ作業を繰り返し行うことができる。これにより、1つの作業スペースで複数の作業を行う場合と比較して、作業に必要な工具の入れ替え等の工程を省略でき、施工性を向上しつつ工期を大幅に短縮することが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、作業用足場と天井クレーンが設けられた作業スペースを防護パネルで保護した作業用建屋を備えることから、施工現場周辺の住環境を保全しながら、狭隘な作業スペースでの線状構造物の作業効率を向上することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施の形態における線状構造物構築作業システムを示す図である。
【
図2】本発明の実施の形態における鉄筋組立作業を実施する作業用建屋を示す図である。
【
図3】本発明の実施の形態における作業用建屋の走行方向に平行な側面を示す図である。
【
図4】本発明の実施の形態における作業用建屋の天井部を示す図である。
【
図5】本発明の実施の形態における作業用建屋の牽引機構を示す図である。
【
図6】本発明の実施の形態における型枠組立作業を実施する作業用建屋を示す図である。
【
図7】本発明の実施の形態におけるコンクリート打設作業を実施する作業用建屋を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の線状構造物構築作業システムは、擁壁や遮音壁等の線状構造物を地上もしくは地中を開削して施工する際に適したシステムであり、作業用建屋を施工現場内に位置する線状構造物の構築予定領域における長手方向に沿って移動させながら、内側空間に形成された作業スペースを利用して、線状構造物を構築するものである。
【0021】
本実施の形態では、
図1(a)(b)で示すような、複数の鋼管杭Pを一列に配置して形成した基礎上に、鉄筋コンクリート造の壁体Wを構築する場合を事例に挙げ、以下に詳細を説明する。
【0022】
≪≪線状構造物構築作業システム≫≫
図1(a)で示すように、線状構造物構築作業システム100は、壁体Wの構築予定領域Eに跨って配置される3台の作業用建屋10と、作業用建屋10の走行方向を案内する走行ガイド20と、
図5で示すような、作業用建屋10を牽引する牽引機構30とを有している。なお、施工現場内に位置する壁体Wの構築予定領域Eには、壁体Wの基礎となる複数の鋼管杭Pが列をなして埋設されている。
【0023】
≪走行ガイド≫
走行ガイド20は、
図1(a)及び
図2で示すように、壁体Wの構築予定領域Eに沿って設けられるもので、作業用建屋10が移動するレール本体21と、作業用建屋10の逸走を抑制するストッパー22とにより構成されている。
【0024】
レール本体21は、作業用建屋10が載置された際に変形しない程度の強度を有するとともに、上面に凹部を有する長尺材が望ましく、本実施の形態では、軸線方向に接続した複数の溝形鋼を採用している。これらレール本体21は、構築予定領域Eの長手方向両側それぞれに設置されるとともに、レール本体21の端部には、ストッパー22が配置されている。
【0025】
ストッパー22は、レール本体21上を走行する作業用建屋10の逸走を防止できるものであれば、いずれ形状のものを採用してもよいが、本実施の形態では、レール本体21の軸線方向に対して長手方向が直交して配置されるアングル材等の長尺鋼材を採用している。その配置位置は、側面をレール本体21の端面に当接した状態で、鋼管杭Pと対向する端部が、溶接等の固着手段により鋼管杭Pの側面に固着されている。
【0026】
こうしてストッパー22にレール本体21の端面を当接させることにより、作業用建屋10がレール本体21上を走行する際、レール本体21の端部を越えて逸走しようとする挙動を抑制することができる。
【0027】
≪作業用建屋≫
作業用建屋10は、
図2で示すように、その内側空間が壁体Wを構築する際に使用する作業スペース16となっており、建屋本体11と、建屋本体11の内部空間に設けられる作業用足場17と、天井面に設けられる天井クレーン18と、を有している。
【0028】
建屋本体11は、
図1(b)及び
図2で示すように、フレーム12と、フレーム12の側面を覆う防護パネル111、遮蔽カーテン112、及び通気性面材113を有している。
【0029】
フレーム12は、
図2で示すように、壁体Wの構築予定領域Eを挟んで一対の支柱13を配置するとともに支柱13の頭部どうしを連結梁14で連結した門型ラーメン構造を、
図1(b)で示すように、構築予定領域Eの長手方向に間隔を設けて複数配置し、これらを連結桁15で連結することにより形成されている。そして、このフレーム12の内側が、壁体Wの構築に係る作業を実施するための作業スペース16となっている。
【0030】
また、
図2で示すように、支柱13の下端部には、連結桁15の延在方向に回転する、例えばエンドレスコロや車輪等を備えた走行体131がベースプレート132を介して設けられている。これにより作業用建屋10は、レール本体21上を走行することが可能となっている。
【0031】
防護パネル111は、
図2及び
図3で示すように、フレーム12の走行方向に平行な側面であって連結桁15と支柱13とにより囲まれる範囲を、外側から被覆するようにして設置されている。防護パネル111の材料は、少なくとも気密性及び水密性を有し、さらには壁体Wの構築作業時に使用する建設工具や建設資材が衝突した際に、破損しない程度の強度を有するものが好ましく、例えば、金属製パネルやカーボン積層ボード等が好適である。
【0032】
これにより、作業用建屋10内に設けた作業スペース16から施工現場外に向けて、壁体Wの構築時に使用する建設機械や工具、建設資材もしくは建設廃材等が落下したり、粉塵やコンクリートのレイタンス処理水が飛散する現象を抑制することが可能となる。
【0033】
遮蔽カーテン112は、
図2及び
図3で示すように、フレーム12の走行方向に平行な側面であって走行体131より内側に、隣り合う支柱13のベースプレート132を架け渡すようにして設置している。遮蔽カーテン112の材料は、気密性及び水密性を有し、かつ垂下げられた際の下端部がレール本体21の設置面に沿う程度に可撓性を有する材料であればいずれを採用してもよく、本実施の形態では、ゴムシートを採用している。
【0034】
これにより、防護パネル111の下端部とレール本体21の設置面との間に形成される隙間が塞がれるため、作業スペース16から施工現場外に向かって、セメントが混じった排水やノロ等が漏出する現象を防止できる。
【0035】
なお、本実施の形態では、遮蔽カーテン112の下端部をレール本体21の設置面に沿わせて屈曲させているが、必ずしもこれに限定するものではない。例えば、レール本体21の設置面であって、構築予定領域Eに面する側面に沿ってトレンチを形成し、このトレンチ内に下端部が入り込むようにして、遮蔽カーテン112を垂下させてもよい。
【0036】
通気性面材113は、
図2及び
図4で示すように、フレーム12の天井部であって連結桁15と連結梁14とにより囲まれる範囲を、外側から被覆するようにして設置されている。通気性面材113の材料は、網鋼板やルーバー等、通気性を有する材料であれば、いずれを採用してもよいが、本実施の形態では、目合い1mm程度のメッシュシートを採用している。
【0037】
これにより、作業用建屋10に流入した風は通気性面材113から抜けていくため、強風に晒されても作業用建屋10が浮き上がる等のレール本体21から逸脱する現象を抑制することができる。なお、通気性面材113にルーバーを用いると、作業用建屋を全天候型の建屋とすることが可能となる。
【0038】
また、
図1(a)(b)で示すように、フレーム12は連結材114や張出し材115を介して鋼管杭Pに連結されており、台風や暴風等の悪天候時にあっても、通気性面材113と相まって作業用建屋10が横転するような現象を防止することが可能となる。連結材114はワイヤーやチェーン等いずれの線状材を採用してもよく、また、連結材114を連結する位置は、上記の鋼管杭Pや張出し材115に限定されることなく、施工現場内の不動物であれば、いずれに連結してもよい。
【0039】
なお、張出し材115は、施工対象領域Eに鉄筋かごSや型枠Fが設置されることにより、連結材114を鋼管杭Pに設置できない場合や、施工現場内に鋼管杭Pの代用となる不動物が存在しない場合等に設けるとよい。
【0040】
上記の構成を有する作業用建屋10には、作業スペース16に面する内側に、作業用足場17と天井クレーン18とが設けられている。
【0041】
作業用足場17としては、片持ち式のブラケット足場が採用され、
図2で示すように、フレーム12の走行方向に平行な側面であって、連結桁15と支柱13とにより囲まれる範囲の内側に複数段設置されている。
【0042】
また、天井クレーン18としては、市場で取引されている何れの形式のものを採用してもよいが、本実施の形態ではいわゆるローヘッド型クレーンを採用し、
図4で示すように、フレーム12の天井部であって連結桁15と連結梁14とにより囲まれる範囲の内側に設置されている
【0043】
具体的には、
図4で示すように、フレーム12の天井部であって内側に連結桁15と平行な走行レール181が2本設置されるとともに、走行レール181に直交するガーダ182が2台の電動型サドル183を介して、走行レール181に沿って走行自在に設置されている。なお、電動型サドル183は、2本の走行レール181に1台ずつ設けられている。そして、
図2で示すように、ガーダ182に走行トロリー184を介して揚重ホイスト185が懸垂されている。
【0044】
したがって、ガーダ182に沿って走行トロリー184を走行させることにより揚重ホイスト185は、フレーム12の連結梁14と平行な方向への移動が可能となる。また、走行レール181に沿って電動型サドル183を走行させてガーダ182を移動させることにより揚重ホイスト185は、フレーム12の連結桁15と平行な方向への移動が可能となる。
【0045】
これにより、作業用建屋10内の作業スペース16において作業員は、作業用足場17を利用した高所作業や、天井クレーン18を採用した重量物の揚重作業を実施することが可能となる。なお、作業スペース16となる作業用建屋10の内部空間は、構築予定の壁体Wの横断面より十分大きく確保されていることはいうまでもない。そして、上記の構成を有する作業用建屋10は、牽引機構30に牽引されて走行ガイド20のレール本体21上を走行する。
【0046】
≪牽引装置≫
牽引機構30は、
図5で示すように、ワイヤー31がフレーム12の支柱13に接続されたウィンチ32と、ウィンチ32を鋼管杭Pに接続するクランプ33とにより構成され、ワイヤー31をウィンチ32で巻き上げることにより作業用建屋10を牽引し、レール本体21上を移動させる。
【0047】
なお、クランプ33の接続位置も、前述の連結材114と同様で鋼管杭Pに限定されるものではなく、施工現場内の不動物であればいずれに接続してもよい。また、作業用建屋10は、必ずしも牽引機構30を介してレール本体21上で走行させる構成でなくてもよく、例えば、自走式の走行体131を採用してもよい。
【0048】
上記の構成を有する線状構造物構築作業システム100によれば、作業用建屋10に作業用足場17だけでなく、天井クレーン18が設けられていることから、作業用建屋10の内側に設定された狭隘な作業スペース16に、クレーンの揚重装置を別途配置する必要がないため、壁体Wの構築作業を実施する際の作業効率を向上することができる。
【0049】
また、作業用建屋10の両側面に設けられた防護パネル111、遮蔽カーテン112とがプロテクタとして機能することから、施工現場が狭隘で壁体Wの構築予定領域が隣地境界に近接して位置する場合にも、施工現場周辺の住環境を確保しながら作業用建屋10内の作業スペース16で、壁体Wの構築作業を進捗させることが可能となる。
【0050】
特に、施工現場が道路に隣接する場合には、上記のとおりセメントが混じった排水やノロ等が道路の路面に漏出して交通阻害を引き起こすといった現象を抑制できるため、作業用建屋10の側方で道路を供用させつつ、壁体Wの構築作業を進捗させることが可能となる。
【0051】
また、施工現場で実施するクレーンを用いた揚重作業は作業用建屋10内への資材搬入時のみであり、また、一般に実施される作業足場の組立及び解体作業も発生しないことから、道路を通行する一般車に吊荷や建設材料が接触する事故が生じにくく、安全性を向上することが可能となる。
【0052】
≪≪鉄筋コンクリート造の壁体Wの構築方法≫≫
前述したように、壁体Wは鉄筋コンクリート造よりなり、その施工方法は、まず、一列に配置された複数の鋼管Pを基礎としてその上部に鉄筋かごSを配置する。次に、この鉄筋かごSを囲うようにして型枠Fを組み立てる。こののち、型枠F内にトレミー管Tを介してコンクリートCを打設する。この3つの作業工程を、構築予定領域Eの長手方向に沿って繰り返し行う。
【0053】
そこで、本実施の形態では
図1(a)(b)で示すように、線状構造物構築作業システム100に3台の作業用建屋101、102、103を設け、これら3台の作業用建屋10で上記の3つの作業工程を分担して実施する。
【0054】
具体的には、走行方向の先頭に位置する作業用建屋101の作業スペース16では、
図2で示すように、鋼管Pの上部に鉄筋かごSを配置する鉄筋組立作業を行う。後続の作業用建屋102の作業スペース16では、
図6で示すように、鉄筋かごSの組み立てが終了した位置に型枠Fを組み立てる型枠組立作業を行う。そして、走行方向最後尾の作業用建屋103の作業スペース16では、
図7で示すように、型枠Fの組み立てが終了した位置の型枠F内にコンクリートを打設するコンクリート打設作業を行う。
【0055】
なお、3台の作業用建屋101、102、103はすべて、内方に作業用足場17及び天井クレーン18を有し、また、防護パネル111、遮蔽カーテン112、及び通気性面材113で被覆された構造に規格化している。これにより、3つの作業用建屋101、102、103のいずれを選択しても、上記3つの作業工程を実施することができるようになっている。
【0056】
また、3台の作業用建屋101,102、103はそれぞれ、レール本体21上で静止している状態では常時、連結材114を介して鋼管杭Pもしくはストッパー22に連結し、レール本体21からの逸走及び横転対策を施しておく。
【0057】
そして、まず、
図1(b)及び
図2で示すように、先頭の作業用建屋101内の作業スペース16で、作業用足場17と鉄筋かごSの揚重機能を有する天井クレーン18とを用いて鋼管杭Pの上方に鉄筋かごSを組み立てる。鉄筋組立工程が終了したところで牽引機構30を用いて、先頭の作業用建屋101をレール本体21上で走行させる。
【0058】
次の鉄筋組立予定区域まで移動したところで、所定の位置に先頭の作業用建屋101を据え付け、再度鉄筋組立作業を実施する。この作業を壁体Wの構築予定位置の全てに鉄筋かごSを設置するまで繰り返す。
【0059】
先頭の作業用建屋101の移動作業と同時もしくは移動させたのちに、後続の作業用建屋102を牽引機構30を用いてレール本体21上で走行させ、鉄筋組立作業が終了した区域に到達させる。こののち、
図1(b)及び
図6で示すように、後続の作業用建屋102を据え付けたうえで、作業スペース16で作業用足場17と型枠Fの揚重機能を有する天井クレーン18とを用いて、鉄筋かごSを挟んだ長手方向両側に型枠Fを組み立てる。
【0060】
型枠組立作業が終了したところで、牽引機構30を用いて後続の作業用建屋102をレール本体21上で走行させる。次の型枠組立予定区域まで移動したところで、所定の位置に後続の作業用建屋102を据え付け、作業スペース16で再度型枠組立作業を実施する。この作業を壁体Wの構築予定位置の全てに型枠Fを設置するまで繰り返す。
【0061】
後続の作業用建屋102の移動作業と同時もしくは移動させたのちに、最後尾の作業用建屋103を牽引機構30を用いてレール本体21上で走行させ、型枠組立作業が終了した区域に到達させる。こののち、
図1(b)及び
図7で示すように、所定の位置に最後尾の作業用建屋103を据え付け、作業スペース16で作業用足場17とトレミー管Tの吊下げ機能を有する天井クレーン18とを用いて、型枠F内にコンクリートCを打設する。
【0062】
つまり、コンクリートCを打設する際に用いるトレミー管Tは、
図7で示すように、天井クレーン18の揚重ホイスト185に支持させればよく、トレミー管TにコンクリートCを供給する供給配管Bは、最後尾の作業用建屋103のフレーム12もしくは作業用足場17に沿わせて設置するとよい。これにより、狭隘な作業スペース16であっても供給配管Bが邪魔にならず、効率よくコンクリートの打設作業を実施することができる。
【0063】
また、供給配管SにコンクリートCを供給する圧送ポンプSP及び圧送ポンプSPにコンクリートCを供給するコンクリートミキサー車(図示せず)は、
図1(a)で示すように、最後尾の作業用建屋103の進行方向後端側に配置しておく。これにより、施工現場内における圧送ポンプSP及びコンクリートミキサー車(図示せず)の移動量を最小限に抑えて、施工対象領域内での安全性及び作業効率を確保することができる。
【0064】
コンクリート打設作業が終了したところで、牽引機構30を用いて最後尾の作業用建屋103をレール本体21上で走行させる。次のコンクリート打設予定区域まで移動したところで、所定の位置に最後尾の作業用建屋103を据え付け、作業スペース16で再度コンクリート打設作業を実施する。この作業を壁体Wの構築予定位置の全てにコンクリートCを打設するまで繰り返す。
【0065】
上記のとおり、3台の作業用建屋101、102、103ごとで3つの作業工程を分担するとともに、各々に分担された作業に必要な機能及び施工現場周辺の住環境保護に必要な機能を装備して、線状構造物構築作業システム100の多機能集約化を図っている。そして、3台の作業用建屋101、102、103ごとで分担された作業を同時に並行して実施し、各々の作業が終了したところで、進行方向前方の所定位置に移動させたのち、再度分担された同じ作業を行う。これを構築予定領域Eに沿って繰り返し実施することにより、所望の長さを有する壁体Wを構築することができる。
【0066】
本発明の線状構造物構築作業システム100及び線状構造物構築作業システム100を用いた線状構造物Wの構築方法は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0067】
例えば、本実施の形態では、線状構造物構築作業システム100で構築する線状構造物として、鉄筋コンクリート造の壁体Wを事例に挙げたが、必ずしもこれに限定されるものではなく、地上もしくは開削工法で構築する線状構造物であれば、いずれを採用することも可能である。
【0068】
また、本実施の形態では、線状構造物構築作業システム100に、鉄筋コンクリート造の壁体Wを構築するために実施する3つの作業工程と同数の、3台の作業用建屋101、102、103を採用したが、その数量は、これに限定されるものではない。例えば、作業用建屋10の数量を増やして、複数の作業用建屋10内で同一作業を実施してもよいし、作業用建屋の数量を減らして、1つの作業用建屋10内で複数の作業を実施してもよい。
【0069】
また、本実施の形態では、3台の作業用建屋101、102、103をすべて同一の構造に規格化したが、作業用建屋10各々の作業スペース16で実施する作業内容に応じて、作業用建屋の高さや長さもしくは形状等を適宜変更してもよいし、装備する設備を変更してもよい。
【符号の説明】
【0070】
100 線状構造物構築作業システム
10 作業用建屋
11 建屋本体
111 防護パネル
112 遮蔽カーテン
113 通気性面材
114 連結材
115 張出し材
12 フレーム
13 支柱
131 走行体
132 ベースプレート
14 連結梁
15 連結桁
16 作業スペース
17 作業用足場
18 天井クレーン
20 走行ガイド
21 レール本体
22 ストッパー
30 牽引機構
31 ワイヤー
32 ウィンチ
33 クランプ
E 構築予定領域
P 鋼管杭
W 壁体
S 鉄筋かご
F 型枠
T トレミー管
C コンクリート
B 供給配管