(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】車両用駆動装置
(51)【国際特許分類】
B60K 23/04 20060101AFI20231003BHJP
B60K 17/356 20060101ALI20231003BHJP
B60K 17/04 20060101ALI20231003BHJP
F16H 48/19 20120101ALI20231003BHJP
B60K 6/48 20071001ALI20231003BHJP
B60K 6/54 20071001ALI20231003BHJP
B60K 6/52 20071001ALI20231003BHJP
B60W 10/02 20060101ALI20231003BHJP
B60W 20/15 20160101ALI20231003BHJP
【FI】
B60K23/04 E
B60K17/356 B ZHV
B60K17/04 G
F16H48/19
B60K6/48
B60K6/54
B60K6/52
B60W10/02 900
B60W20/15
(21)【出願番号】P 2019186802
(22)【出願日】2019-10-10
【審査請求日】2022-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 敏彦
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 哲也
(72)【発明者】
【氏名】平田 航
(72)【発明者】
【氏名】新見 翔太郎
(72)【発明者】
【氏名】加藤 智章
【審査官】畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】特公平7-8613(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 23/04
B60K 17/356
B60K 17/04
F16H 48/19
B60K 6/48
B60K 6/54
B60K 6/52
B60W 10/02
B60W 20/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータと、入力される駆動力を配分して出力する駆動力配分装置と、前記電動モータ及び前記駆動力配分装置を制御する制御装置と、を備えた車両用駆動装置であって、
前記駆動力配分装置は、前記電動モータの駆動力を受ける入力回転部材と、前記入力回転部材と同軸上で相対回転可能な第1及び第2の出力回転部材と、前記入力回転部材と前記第1の出力回転部材との間に配置された第1の多板クラッチと、前記入力回転部材と前記第2の出力回転部材との間に配置された第2の多板クラッチと、前記第1の多板クラッチを押圧する第1の押圧機構と、前記第2の多板クラッチを押圧する第2の押圧機構とを備え、
前記制御装置は、前記入力回転部材に入力されるトルクをTとし、前記第1の多板クラッチにより伝達可能なトルクの最大値をT
1とし、前記第2の多板クラッチにより伝達可能なトルクの最大値をT
2としたとき、下記式(1)を満たすように前記電動モータならびに前記第1及び第2の押圧機構を制御する、
車両用駆動装置。
T<T
1+T
2・・・(1)
【請求項2】
前記制御装置は、車両情報に基づいて前記第1及び第2の出力回転部材のそれぞれから出力すべきトルクを演算し、前記第1の出力回転部材から出力すべきトルクが前記第2の出力回転部材から出力すべきトルクよりも大きいとき、下記式(2)及び(3)を満たすように前記電動モータならびに前記第1及び第2の押圧機構を制御し、前記第2の出力回転部材から出力すべきトルクが前記第1の出力回転部材から出力すべきトルクよりも大きいとき、下記式(2)及び(4)を満たすように前記電動モータならびに前記第1及び第2の押圧機構を制御する、
請求項1に記載の車両用駆動装置。
T=Ta+Tb・・・(2)
T
1>Ta ・・・・・(3)
T
2>Tb ・・・・・(4)
ただし、Taは前記第1の出力回転部材から出力すべきトルクを表し、Tbは前記第2の出力回転部材から出力すべきトルクを表す。
【請求項3】
前記制御装置は、前記第1の出力回転部材の回転速度と前記第2の出力回転部材の回転速度とが異なるとき、前記第1及び第2の多板クラッチのうち何れか一方の多板クラッチに滑りを発生させないように前記電動モータならびに前記第1及び第2の押圧機構を制御する、
請求項1に記載の車両用駆動装置。
【請求項4】
前記制御装置は、車両情報に基づいて前記第1及び第2の出力回転部材のそれぞれから出力すべきトルクを演算し、
前記第1の出力回転部材の回転速度が前記第2の出力回転部材の回転速度よりも低いとき、下記式(5)(6)及び(7)を満たすように前記電動モータならびに前記第1及び第2の押圧機構を制御し、
前記第2の出力回転部材の回転速度が前記第1の出力回転部材の回転速度よりも低いとき、下記式(5)(8)及び(9)を満たすように前記電動モータならびに前記第1及び第2の押圧機構を制御する、
請求項3に記載の車両用駆動装置。
T=Ta+Tb・・・(5)
T
1=Ta ・・・・・(6)
T
2>Tb ・・・・・(7)
T
2=Tb ・・・・・(8)
T
1>Ta ・・・・・(9)
ただし、Taは前記第1の出力回転部材から出力すべきトルクを表し、Tbは前記第2の出力回転部材から出力すべきトルクを表す。
【請求項5】
前記制御装置は、車両情報に基づいて前記第1及び第2の出力回転部材のそれぞれから出力すべきトルクを演算し、
前記第1の出力回転部材の回転速度と前記第2の出力回転部材の回転速度とを同一の回転速度にする場合又は同一の回転速度に維持する場合、下記式(10)乃至(12)を満たすように前記電動モータならびに前記第1及び第2の押圧機構を制御する、
請求項1乃至4の何れか1項に記載の車両用駆動装置。
T=Ta+Tb・・・(10)
T
1>Ta ・・・・・(11)
T
2>Tb ・・・・・(12)
ただし、Taは前記第1の出力回転部材から出力すべきトルクを表し、Tbは前記第2の出力回転部材から出力すべきトルクを表す。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、前輪及び後輪を駆動可能な四輪駆動車には、前輪をエンジンで駆動し、後輪を電動モータで駆動するものがある(例えば、特許文献1,2参照)。このような四輪駆動車は、例えば前輪側に配置されたエンジンの駆動力を前輪及び後輪に配分する構成の四輪駆動車に比較して、エンジンの駆動力を前輪側から後輪側に伝達するプロペラシャフトが不要になるので、車室を広くすることができると共に軽量化にも寄与し得る。
【0003】
特許文献1に記載の四輪駆動車は、後輪を駆動する駆動装置として、電動モータと、電動モータの駆動力を減速する減速機構と、減速機構で減速された駆動力を左右の後輪に配分するディファレンシャル装置とを備えている。
【0004】
特許文献2に記載の四輪駆動車は、後輪を駆動する駆動装置として、電動モータと、電動モータと左後輪との間に介装された第1クラッチと、電動モータと右後輪との間に介装された第2クラッチとを備えている。第1クラッチ及び第2クラッチは、多数のクラッチプレートを有する湿式多板クラッチからなり、リニアソレノイドバルブ等からなるアクチュエータによって押圧されて摩擦力を発生させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-113874号公報
【文献】特開2003-63265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されたものでは、左後輪に配分される駆動力と右後輪に配分される駆動力との割合を制御することができない。一方、特許文献2に記載されたものでは、第1クラッチ及び第2クラッチのそれぞれの押圧力を増減させることにより、左後輪に配分される駆動力と右後輪に配分される駆動力とを制御することができる。しかし、クラッチプレート間の滑り速度が大きい場合や、クラッチプレート間に滑りが生じているときの伝達トルクが大きい場合には、クラッチプレートの表面の摩耗によって耐久性が損なわれてしまう。
【0007】
そこで、本発明は、電動モータを駆動源として有すると共に第1及び第2の出力回転部材を備え、第1の多板クラッチが電動モータと第1の出力回転部材との間に、また第2の多板クラッチが電動モータと第2の出力回転部材との間に、それぞれ配置された車両用駆動装置において、第1及び第2の多板クラッチの摩耗を抑制することが可能な車両用駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の目的を達成するため、電動モータと、入力される駆動力を配分して出力する駆動力配分装置と、前記電動モータ及び前記駆動力配分装置を制御する制御装置と、を備えた車両用駆動装置であって、前記駆動力配分装置は、前記電動モータの駆動力を受ける入力回転部材と、前記入力回転部材と同軸上で相対回転可能な第1及び第2の出力回転部材と、前記入力回転部材と前記第1の出力回転部材との間に配置された第1の多板クラッチと、前記入力回転部材と前記第2の出力回転部材との間に配置された第2の多板クラッチと、前記第1の多板クラッチを押圧する第1の押圧機構と、前記第2の多板クラッチを押圧する第2の押圧機構とを備え、前記制御装置は、前記入力回転部材に入力されるトルクをTとし、前記第1の多板クラッチにより伝達可能なトルクの最大値をT1とし、前記第2の多板クラッチにより伝達可能なトルクの最大値をT2としたとき、次式(1)を満たすように前記電動モータならびに前記第1及び第2の押圧機構を制御する、車両用駆動装置を提供する。T<T1+T2・・・(1)
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、多板クラッチの摩耗を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施の形態に係る駆動力配分装置が搭載された4輪駆動車の概略の構成例を示す模式図。
【
図3】油圧ユニットの構成例を模式的に示す構成図である。
【
図4】制御装置が実行する処理の具体的を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[実施の形態]
本発明の実施の形態について、
図1乃至
図4を参照して説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、本発明を実施する上での好適な具体例として示すものであり、技術的に好ましい種々の技術的事項を具体的に例示している部分もあるが、本発明の技術的範囲は、この具体的態様に限定されるものではない。
【0012】
(4輪駆動車の構成)
図1は、本発明の実施の形態に係る駆動装置が搭載された4輪駆動車の概略の構成例を示す模式図である。この4輪駆動車1は、主駆動輪である左右の前輪101,102が主駆動源としてのエンジン11の駆動力によって駆動され、補助駆動輪である左右の後輪103,104が補助駆動源としての電動モータ2を有する駆動装置10によって駆動される。
【0013】
エンジン11の駆動力は、トランスミッション12からディファレンシャル装置13に伝達され、ディファレンシャル装置13から左右のドライブシャフト141,142を介して左右の前輪101,102に配分される。左右の後輪103,104には、駆動装置10から左右のドライブシャフト151,152を介して駆動力が伝達される。なお、主駆動源としては、高出力型の電動モータを用いてもよく、エンジンと高出力型の電動モータとを組み合わせた所謂ハイブリッド型のものを用いてもよい。
【0014】
駆動装置10は、電動モータ2と、電動モータ2の出力軸20の回転を減速する減速機構3と、電動モータ2から減速機構3を介して入力される駆動力を配分して出力する駆動力配分装置4と、これらを収容するハウジング5と、駆動力配分装置4に作動油を供給する油圧ユニット6と、電動モータ2及び油圧ユニット6を制御する制御装置7とを備えている。なお、電動モータ2が左右の後輪103,104を駆動するための十分なトルクを発生可能なものであれば、減速機構3を省略してもよい。この場合には、電動モータ2の駆動力が直接的に駆動力配分装置4に入力される。
【0015】
(駆動装置の構成)
図2は、駆動装置10の構成例を示す断面図である。
図2では、図面左側が4輪駆動車1における車両左側にあたり、図面右側が4輪駆動車1における車両右側にあたる。ハウジング5は、第1乃至第5のハウジング部材51~55を有しており、これらのハウジング部材51~55が複数のボルトによって相互に固定されている。
【0016】
電動モータ2は、中空管状に形成された出力軸20と、出力軸20と一体に回転するロータ21と、ロータ21の外周に配置されたステータ22と、出力軸20の回転を検出する回転センサ23とを有している。ロータ21は、ロータコア211と、ロータコア211に固定された複数の永久磁石212とを有している。ステータ22は、ステータコア221と、ステータコア221に巻き回された複数相の巻線222とを有している。出力軸20の内側には、駆動力配分装置4の第1の出力回転部材41が挿通されている。複数相の巻線222には、制御装置7からモータ電流が供給され、モータ電流の大きさに応じたトルクでロータ21がステータ22に対して回転する。制御装置7は、複数相の巻線222に供給する電流を増減させることで、電動モータ2を制御する。
【0017】
減速機構3は、電動モータ2の出力軸20の端部に外嵌された筒状のピニオンギヤ31と、大径歯車部321及び小径歯車部322を有する減速歯車32と、小径歯車部322に噛み合うリングギヤ33とを有して構成されている。ピニオンギヤ31は、出力軸20にスプライン嵌合して出力軸20と一体に回転し、外周に形成されたギヤ部311が減速歯車32の大径歯車部321と噛み合っている。電動モータ2の駆動力は、リングギヤ33から駆動力配分装置4の入力回転部材40に入力される。
【0018】
駆動力配分装置4は、電動モータ2の駆動力を受ける入力回転部材40と、入力回転部材40と同軸上で相対回転可能な第1及び第2の出力回転部材41,42と、入力回転部材40と第1の出力回転部材41との間に配置された第1の多板クラッチ43と、入力回転部材40と第2の出力回転部材42との間に配置された第2の多板クラッチ44と、第1の多板クラッチ43を押圧する第1の押圧機構45と、第2の多板クラッチ44を押圧する第2の押圧機構46とを備えている。
【0019】
また、本実施の形態では、第1の多板クラッチ43と第1の出力回転部材41との間に第1のクラッチハブ47が介在して配置され、第2の多板クラッチ44と第2の出力回転部材42との間に第2のクラッチハブ48が介在して配置されている。第1の出力回転部材41は、第1のクラッチハブ47にスプライン嵌合され、第1のクラッチハブ47と一体に回転する。第2の出力回転部材42は、第2のクラッチハブ48にスプライン嵌合され、第2のクラッチハブ48と一体に回転する。
【0020】
入力回転部材40、第1の出力回転部材41、及び第2の出力回転部材42は、回転軸線Oを中心として互いに相対回転可能である。第1の多板クラッチ43及び第2の多板クラッチ44は、潤滑油によって摩擦摺動が潤滑される湿式の多板クラッチである。駆動装置10には、各部の回転を円滑にする転がり軸受550~559、及び潤滑油の漏出や異物の侵入を防ぐシール部材561~563が適所に配置されている。以下、回転軸線Oに平行な方向を軸方向という。
【0021】
入力回転部材40は、第1のクラッチハブ47の外周に配置された第1のクラッチドラム401と、第2のクラッチハブ48の外周に配置された第2のクラッチドラム402と、第1のクラッチドラム401と第2のクラッチドラム402との間に配置されたセンタープレート403と、複数のボルト404とを有している。複数のボルト404は、第1のクラッチドラム401、第2のクラッチドラム402、及びセンタープレート403を相対回転不能に連結すると共に、これらをリングギヤ33に固定している。
図2では、複数のボルト404のうち一本のボルト404を図示している。
【0022】
第1の多板クラッチ43は、第1のクラッチドラム401と共に回転する複数の第1の入力クラッチプレート431と、第1のクラッチハブ47と共に回転する複数の第1の出力クラッチプレート432とを有し、複数の第1の入力クラッチプレート431と複数の第1の出力クラッチプレート432とが軸方向に沿って交互に配置されている。複数の第1の入力クラッチプレート431は、第1のクラッチドラム401とのスプライン係合により、第1のクラッチドラム401に対して軸方向移動可能かつ相対回転不能である。複数の第1の出力クラッチプレート432は、第1のクラッチハブ47とのスプライン係合により、第1のクラッチハブ47に対して軸方向移動可能かつ相対回転不能である。
【0023】
第2の多板クラッチ44は、第2のクラッチドラム402と共に回転する複数の第2の入力クラッチプレート441と、第2のクラッチハブ48と共に回転する複数の第2の出力クラッチプレート442とを有し、複数の第2の入力クラッチプレート441と複数の第2の出力クラッチプレート442とが軸方向に沿って交互に配置されている。複数の第2の入力クラッチプレート441は、第2のクラッチドラム402とのスプライン係合により、第2のクラッチドラム402に対して軸方向移動可能かつ相対回転不能である。複数の第2の出力クラッチプレート442は、第2のクラッチハブ48とのスプライン係合により、第2のクラッチハブ48に対して軸方向移動可能かつ相対回転不能である。
【0024】
第1の押圧機構45は、油圧ユニット6から供給される油圧を受けるリング状のピストン451と、ピストン451と軸方向に並んで配置されたスラストころ軸受452と、スラストころ軸受452を介してピストン451の押圧力を受ける押圧部材453と、第1のクラッチドラム401の内側に配置された押圧プレート454と、押圧部材453に当接するリターンスプリング455とを有している。
【0025】
ピストン451は、第5のハウジング部材55に形成された環状のシリンダ550に収容され、油圧ユニット6からシリンダ550に供給される作動油の圧力によって第1の多板クラッチ43側に向かって軸方向に移動する。押圧部材453は、円環状に形成された環状部453aと、環状部453aから第1の多板クラッチ43側に向かって軸方向に突出した複数の柱状の押圧突起453bとを一体に有している。複数の押圧突起453bは、第1のクラッチドラム401に形成された貫通孔401aにそれぞれ挿通されており、先端部が押圧プレート454に当接している。リターンスプリング455は、環状部453aに当接して押圧部材453を第5のハウジング部材55側に向かって付勢している。
【0026】
第2の押圧機構46は、油圧ユニット6から供給される油圧を受けるリング状のピストン461と、ピストン461と軸方向に並んで配置されたスラストころ軸受462と、スラストころ軸受462を介してピストン461の押圧力を受ける押圧部材463と、第2のクラッチドラム402の内側に配置された押圧プレート464と、押圧部材463に当接するリターンスプリング465とを有している。
【0027】
ピストン461は、第4のハウジング部材54に形成された環状のシリンダ540に収容され、油圧ユニット6からシリンダ540に供給される作動油の圧力によって第2の多板クラッチ44側に向かって軸方向に移動する。押圧部材463は、円環状に形成された環状部463aと、環状部463aから第2の多板クラッチ44側に向かって軸方向に突出した複数の柱状の押圧突起463bとを一体に有している。複数の押圧突起463bは、第2のクラッチドラム402に形成された貫通孔402aにそれぞれ挿通されており、先端部が押圧プレート464に当接している。リターンスプリング465は、環状部463aに当接して押圧部材463を第4のハウジング部材54側に向かって付勢している。
【0028】
(油圧ユニットの構成)
図3は、油圧ユニット6の構成例を模式的に示す構成図である。油圧ユニット6は、制御装置7から供給される電流に応じたトルクを発生するポンプ用モータ61と、ポンプ用モータ61に連結軸62によって連結された油圧ポンプ63と、リリーフ弁64と、第1及び第2の制御弁65,66とを有している。油圧ポンプ63は、ポンプ用モータ61に駆動され、作動油をリザーバ60から汲み上げて吐出する。リリーフ弁64は、吐出された作動油の一部をリザーバ60に還流させる固定絞り弁である。
【0029】
第1の制御弁65は、油圧ポンプ63から第1の油路601を経てシリンダ550に至る経路に配置されている。第2の制御弁66は、油圧ポンプ63から第2の油路602を経てシリンダ540に至る経路に配置されている。第1及び第2の制御弁65,66は、シリンダ550,540に供給される作動油の圧力を調節する圧力制御弁であり、その弁開度が制御装置7から供給される電流に応じて変化する。
【0030】
第1の油路601からシリンダ550に作動油が供給されると、第1の押圧機構45が作動油の圧力に応じた押圧力で第1の多板クラッチ43をセンタープレート403に向かって押圧する。第1の多板クラッチ43によって入力回転部材40から第1の出力回転部材41に伝達可能なトルクの最大値は、第1の押圧機構45の押圧力に応じて変化する。
【0031】
また、第2の油路602からシリンダ540に作動油が供給されると、第2の押圧機構46が作動油の圧力に応じた押圧力で第2の多板クラッチ44をセンタープレート403に向かって押圧する。第2の多板クラッチ44によって入力回転部材40から第2の出力回転部材42に伝達可能なトルクの最大値は、第2の押圧機構46の押圧力に応じて変化する。
【0032】
制御装置7は、ポンプ用モータ61、第1の制御弁65、及び第2の制御弁66に供給する電流を増減することにより、第1の押圧機構45及び第2の押圧機構46を制御し、第1の多板クラッチ43に作用する押圧力、ならびに第2の多板クラッチ44に作用する押圧力を調節することが可能である。
【0033】
(制御装置の制御処理)
次に、制御装置7が実行する制御処理について説明する。ここでは、制御処理に用いられる変数T、T1、T2、Ta、Tb、R1、R2を下記のように定義する。
T:入力回転部材40に入力されるトルク
T1:第1の多板クラッチ43により伝達可能なトルクの最大値
T2:第2の多板クラッチ44により伝達可能なトルクの最大値
Ta:第1の出力回転部材41から出力すべきトルク(第1の指令出力トルク)
Tb:第2の出力回転部材42から出力すべきトルク(第2の指令出力トルク)
R1:第1の出力回転部材41の回転速度
R2:第2の出力回転部材42の回転速度
【0034】
入力回転部材40に入力されるトルクTは、電動モータ2が発生するトルクに減速機構3の減速比を乗じたトルクである。なお、減速比は、リングギヤ33を1回転させるために必要な電動モータ2の出力軸20の回転数として得ることができる。
【0035】
第1の多板クラッチ43により伝達可能なトルクの最大値T1は、第1の多板クラッチ43によって入力回転部材40から第1の出力回転部材41に伝達することが可能なトルクの最大値であり、換言すれば、それ以上のトルクを入力回転部材40から第1の出力回転部材41に伝達しようとした場合に複数の第1の入力クラッチプレート431と第1の出力クラッチプレート432との間に滑りが発生するトルクである。さらに換言すれば、複数の第1の入力クラッチプレート431と第1の出力クラッチプレート432との摩擦力によって伝達し得るトルクの最大値である。
【0036】
第2の多板クラッチ44により伝達可能なトルクの最大値T2は、第2の多板クラッチ44によって入力回転部材40から第2の出力回転部材44に伝達することが可能なトルクの最大値であり、換言すれば、それ以上のトルクを入力回転部材40から第2の出力回転部材44に伝達しようとした場合に複数の第2の入力クラッチプレート441と第2の出力クラッチプレート442との間に滑りが発生するトルクである。さらに換言すれば、複数の第2の入力クラッチプレート441と第2の出力クラッチプレート442との摩擦力によって伝達し得るトルクの最大値である。
【0037】
第1の出力回転部材41から出力すべきトルクである第1の指令出力トルクTa、及び第2の出力回転部材42から出力すべきトルクである第2の指令出力トルクTbは、制御装置7が演算する伝達トルクの目標値である。制御装置7は、4輪駆動車1を安定走行させるために、車両情報に基づいてTa,Tbを演算する。この車両情報には、例えば前輪101,102及び後輪103,104の回転速度、車速、ステアリングホイールの操舵角、アクセル開度、ヨーレイト、ならびに路面摩擦係数の推定値等が含まれる。制御装置7は、これらの車両情報を例えばCAN(Controller Area Network)等の車載通信網によって取得することができる。
【0038】
制御装置7は、例えばアクセル開度が大きいときや路面摩擦係数が低いときには、Ta及びTbを大きくする。また、旋回時には、左右の後輪103,104のうち旋回半径の外側にあたる車輪により多くのトルクを配分するよう、右旋回時にはTaをTbよりも大きくし、左旋回時にはTbをTaよりも大きくする。
【0039】
第1の出力回転部材41の回転速度R1は、例えば車両情報に含まれる左後輪103の回転速度によって得ることができる。また、第2の出力回転部材42の回転速度R2は、例えば車両情報に含まれる右後輪104の回転速度によって得ることができる。なお、第1及び第2の出力回転部材41,42の回転速度を検出するための回転速センサをハウジング5内に設け、この回転速センサの検出値によってR1及びR2を取得してもよい。
【0040】
本実施の形態では、第1の多板クラッチ43及び第2の多板クラッチ44のうち、少なくとも何れかの多板クラッチではクラッチプレート間の滑りが生じないように、制御装置7が下記式(1)を満たすように電動モータ2ならびに第1及び第2の押圧機構45,46を制御する。
T<T1+T2・・・(1)
【0041】
より具体的には、制御装置7は、車両情報に基づいてTa及びTbを演算し、入力回転部材40に入力されるトルクTが下記式(2)を満たすように電動モータ2を制御すると共に、TaがTbよりも大きいときには下記式(3)を満たすように第1の押圧機構45を制御し、TbがTaよりも大きいときには下記式(4)を満たすように第2の押圧機構46を制御する。
T=Ta+Tb・・・(2)
T1>Ta ・・・・・(3)
T2>Tb ・・・・・(4)
【0042】
このように制御を行うことにより、上記式(1)が満たされ、TaとTbが異なる場合でも、第1及び第2の出力回転部材41,42のうち第1の多板クラッチ43又は第2の多板クラッチ44によって伝達されるトルクが大きい一方の出力回転部材が入力回転部材40と同速度で回転し、当該一方の出力回転部材との間に配置された第1の多板クラッチ43又は第2の多板クラッチ44において滑りが発生しない。また、他方の出力回転部材には、車両情報に基づいて演算されたとおりのトルクが伝達されるように第1及び第2の押圧機構45,46を制御することで、入力回転部材40に入力されるトルクTのうち残余のトルク(>T/2)が上記一方の出力回転部材に伝達される。
【0043】
つまり、一般に入力回転部材から出力回転部材に多板クラッチを介してトルクを伝達する場合、入力回転部材のトルクの大きさが多板クラッチによって伝達可能なトルクの最大値よりも小さければ、入力回転部材のトルクがそのまま出力回転部材に伝達され、多板クラッチに滑りが発生しない。また、入力回転部材のトルクの大きさが多板クラッチによって伝達可能なトルクの最大値よりも大きければ、多板クラッチによって伝達可能なトルク分のみが出力回転部材に伝達され、多板クラッチに滑りが発生する。本実施の形態では、入力回転部材40から第1の多板クラッチ43を介して第1の出力回転部材41にトルクが伝達され、入力回転部材40から第2の多板クラッチ44を介して第2の出力回転部材42にトルクが伝達されるので、例えばTaがTbよりも大きい場合には、第2の多板クラッチ44によってTbのトルクが第2の出力回転部材42に伝達されるように第2の押圧機構46を制御すると共に、第1の多板クラッチ43には滑りが発生しないように第1の押圧機構45を制御する。これにより、入力回転部材40に入力されるトルクTのうち、Tbのトルクが第2の出力回転部材42に伝達され、TからTbを差し引いた残余のトルクが第1の出力回転部材41に伝達される。ここで、上記式(2)のようにT=Ta+Tbとすることにより、第1の出力回転部材41にはTaのトルクが伝達される。なお、TaとTbが等しい場合には、第1の多板クラッチ43及び第2の多板クラッチ44の何れにも滑りが発生しないように、第1の押圧機構45及び第2の出力回転部材42を制御する。
【0044】
また、制御装置7は、例えば旋回走行時において、第1の出力回転部材45の回転速度が第2の出力回転部材46の回転速度よりも低いとき(R1<R2)、下記式(5)(6)及び(7)を満たすように電動モータ2ならびに第1及び第2の押圧機構45,46を制御し、第2の出力回転部材42の回転速度が第1の出力回転部材45の回転速度よりも低いとき(R1>R2)、下記式(5)(8)及び(9)を満たすように電動モータ2ならびに第1及び第2の押圧機構45,46を制御する。
T=Ta+Tb・・・(5)
T1=Ta ・・・・・(6)
T2>Tb ・・・・・(7)
T2=Tb ・・・・・(8)
T1>Ta ・・・・・(9)
【0045】
またさらに、制御装置7は、4輪駆動車1の直進走行時において第1の出力回転部材41の回転速度と第2の出力回転部材42とを同一の回転速度にする場合又は同一の回転速度に維持する場合、下記式(10)乃至(12)を満たすように電動モータ2ならびに第1及び第2の押圧機構45,46を制御する。ここで、「第1の出力回転部材41の回転速度と第2の出力回転部材42とを同一の回転速度にする場合」とは、第1の出力回転部材41の回転速度と第2の出力回転部材42の回転速度との間に差がある状態から差がない状態にする過程であることをいい、「同一の回転速度に維持する場合」とは、例えば左右の後輪103,104の回転抵抗に差がある場合でも、第1の出力回転部材41の回転速度と第2の出力回転部材42の回転速度との間に差がない状態を維持することをいう。これにより、4輪駆動車1の直進安定性を高めることができる。
T=Ta+Tb・・・(10)
T1>Ta ・・・・・(11)
T2>Tb ・・・・・(12)
【0046】
次に、制御装置7が実行する処理のより具体的な一例を、
図4のフローチャートに基づいて説明する。制御装置7は、所定の制御周期でこのフローチャートに示す処理を繰り返し実行する。
【0047】
図4に示す一連の処理において、制御装置7はまず、CAN等の車載通信網によって各種の車両情報を取得する(ステップS1)。次に、制御装置7は、取得した車両情報に基づいて第1の指令出力トルクTa及び第2の指令出力トルクTbを演算し(ステップS2)、これらの和(Ta+Tb)によってTを求める(ステップS3)。
【0048】
制御装置7は、第1の出力回転部材45の回転速度が第2の出力回転部材46の回転速度よりも低いとき(ステップS4:Yes)、T1=Taとすると共に、Tbに1よりも大きい係数Kを乗じてT2とする(ステップS5)。係数Kの値は、例えば1.1~1.2である。また、制御装置7は、第2の出力回転部材46の回転速度が第1の出力回転部材45の回転速度よりも低いとき(ステップS6)、T2=Tbとすると共に、Taに係数Kを乗じてT1とする(ステップS7)。またさらに、制御装置7は、第1の出力回転部材45の回転速度と第2の出力回転部材46の回転速度とが等しいとき(ステップS4:NoかつステップS6:No)、Taに係数Kを乗じてT1とすると共に、Tbに係数Kを乗じてT2とする(ステップS8)。
【0049】
次に、制御装置7は、入力回転部材40に入力されるトルクがステップS3で求めたTとなるように電動モータ2を制御する(ステップS9)。換言すれば、Tを減速機構3の減速比で除した値のトルクが発生するように、電動モータ2を制御する。また、制御装置7は、第1の多板クラッチ43によって伝達可能なトルクの最大値がT1となるように第1の押圧機構45を制御し(ステップS10)、第2の多板クラッチ44によって伝達可能なトルクの最大値がT2となるように第1の押圧機構46を制御する(ステップS11)。
【0050】
なお、ここでは、ステップS5,S7,S8の処理において係数Kを乗じることによりT<T1+T2の関係が満たされるように演算を行う場合について説明したが、各ステップにおける係数Kは一定でなくともよく、例えば電動モータ2の回転速度に応じて1よりも大きい範囲で係数Kを変えるようにしてもよい。また、係数Kを乗じることに替えて、所定の正値を加算することによりT1,T2を求めてもよい。
【0051】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明した本発明の実施の形態によれば、第1の多板クラッチ43及び第2の多板クラッチ44のうち、少なくとも何れかの多板クラッチではクラッチプレート間の滑りが生じないようにすることができるので、第1の多板クラッチ43の複数の第1の入力クラッチプレート431及び第1の出力クラッチプレート432、ならびに第2の多板クラッチ44の複数の第2の入力クラッチプレート441及び第2の出力クラッチプレート432の摩耗を抑制することができ、駆動装置10の耐久性を高めることが可能となる。
【0052】
(付記)
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、この実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【0053】
また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。例えば、上記の実施の形態では、前輪101,102をエンジンで駆動し、後輪103,104を駆動装置10で駆動する場合について説明したが、車両の構成はこれに限らず、様々な構成の車両に本発明に係る駆動装置10を適用することが可能である。
【0054】
また、第1のクラッチハブ47を省略して複数の第1の出力クラッチプレート432を第1の出力回転部材41にスプライン係合させてもよいし、第2のクラッチハブ48を省略して複数の第2の出力クラッチプレート442を第2の出力回転部材42にスプライン係合させてもよい。
【符号の説明】
【0055】
1…4輪駆動車 10…駆動装置
2…電動モータ 4…駆動力配分装置
40…入力回転部材 41…第1の出力回転部材
42…第2の出力回転部材 43…第1の多板クラッチ
44…第2の多板クラッチ 45…第1の押圧機構
46…第2の押圧機構 7…制御装置