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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】金属薄帯の製造方法および製造装置
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/06 20060101AFI20231003BHJP
【FI】
B22D11/06 360B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019192346
(22)【出願日】2019-10-22
(65)【公開番号】P2021065901
(43)【公開日】2021-04-30
【審査請求日】2022-08-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098615
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 学
(74)【代理人】
【識別番号】100165489
【弁理士】
【氏名又は名称】榊原 靖
(72)【発明者】
【氏名】後藤 良輔
(72)【発明者】
【氏名】山浦 圭祐
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-094811(JP,A)
【文献】特開2016-082203(JP,A)
【文献】特開2004-106013(JP,A)
【文献】特開2002-231550(JP,A)
【文献】特開平09-262648(JP,A)
【文献】特開平07-100598(JP,A)
【文献】特開2002-283009(JP,A)
【文献】特開平10-314896(JP,A)
【文献】特開2002-321042(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融金属を回転する冷却ロールの周面に注湯して急冷凝固する金属薄帯の製造方法であって、
一定量の上記溶融金属をノズルから上記冷却ロールの周面に注湯して生成される金属薄帯のうち、注湯を開始してから所定間および注湯を終了する所定時間前から注湯を終了する時間において生成される金属薄帯と、前記注湯を開始してから所定時間および注湯を終了する所定時間前から注湯を終了する時間を除いた注湯時間において生成される金属薄帯とを区分して回収する、
ことを特徴とする金属薄帯の製造方法。
【請求項2】
前記注湯を開始してから所定時間前記注湯を終了する所定時間前から注湯を終了する時間とは、それぞれ1秒~6秒間である、
ことを特徴とする請求項1に記載の金属薄帯の製造方法。
【請求項3】
溶融金属を回転する冷却ロールの周面に注湯して急冷凝固する金属薄帯の製造装置であって、
回転する冷却ロールを内設したチャンバと、
上記チャンバ内に配置され、一定量の上記溶融金属を上記冷却ロールの周面に注湯するノズルと、
上記チャンバに一端側が連通し、且つ他端側に上記冷却ロールの周面で急冷凝固して生成された金属薄帯を回収する第1薄帯回収部を有する薄帯回収路と、を備え、
上記薄帯回収路の中間部に配置され、且つ該薄帯回収路を一時的に閉鎖可能とする閉鎖手段と、
上記閉鎖手段の下方に配置され、且つ上記薄帯回収路の一端側に連通する第2薄帯回収部と、を有する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の金属薄帯の製造方法に用いた金属薄帯の製造装置。
【請求項4】
前記閉鎖手段は、前記薄帯回収路の軸方向と直交する方向にスライドする遮蔽板、あるいは、前記薄帯回収路の軸方向と直交する方向に沿った回転軸を中心に旋回する遮蔽板を備えている、
ことを特徴とする請求項3に記載の金属薄帯の製造装置。
【請求項5】
前記閉鎖手段は、製造すべき金属薄帯やその合金組成に応じて開閉時間が設定されたタイマーによって、前記薄帯回収路を一時的に閉鎖可能としている、
ことを特徴とする請求項3または4に記載の金属薄帯の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融金属を高速回転する冷却ロールの周面に注湯し且つ急冷凝固させることで金属薄帯を製造する方法、およびこれに用いる製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、前記冷却ロールの周面に吐出された溶湯が急冷凝固する際の冷却速度を連続的に測定し、所定の凝固組織が生成される範囲内の冷却速度で生成した薄帯(薄片)を選択的に回収する金属薄帯の製造方法と、前記急冷凝固する溶湯の冷却速度を連続的に測定する冷却速度測定手段、および所定の凝固組織が生成される範囲内の冷却速度で生成された金属薄帯を選択的に回収する回収手段を備えた金属薄帯の製造装置とが提案されている(例えば、特許文献1参照)。ここで、前記金属薄帯とは、希土類磁石材料、軟磁性材料、形状記憶合金材料などが挙げられる。
前記特許文献1によれば、希土類磁石合金の溶湯を、望ましい凝固組織が生成する範囲内の冷却速度で急冷凝固させ、得られた薄帯のみを選択的に回収するので、優れた磁気特性を達成する磁石を製造することに貢献することが可能となる。
【0003】
ところで、前記のように冷却ロールの周面に磁石溶金属の溶湯を注湯する場合、一定量の前記溶湯を充填したノズルの先端から該溶湯が冷却ロールの周面に対して注湯される。この際、一定量の溶湯の注湯時間の初期では、前記冷却ロールの周面温度が低く、該ロール周面への付着水分に起因して、望ましい薄帯形状とならず、塊形状(スプラッシュ)の粉末が発生する場合があった。一方、前記注湯時間の終期では、前記ノズル内の溶湯に加えられる圧力が低減し、ロール周面との濡れ性が急激に変化することによって、前記同様の塊形状の粉末が発生する場合があった。前記塊形状の粉末が、回収された金属薄帯中に含まれていると、これを用いて製造される製品特性の低下を招き易い、という問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-94811号公報(第1~12頁、図1~10)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、背景技術で説明した問題点を解決し、製品特性の低下を招き易い塊形状(スプラッシュ)粉末の混入がない金属薄帯を製造する方法と、これに用いる製造装置とを提供する、ことを課題とする。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0006】
本発明は、前記課題を解決するため、前記ノズルから一定量の溶融金属を冷却ロールの周面に注湯する注湯時間の初期と終期とで急冷凝固し且つ塊形状の粉末を含み易い金属薄帯と、前記初期と終期とを除いた前記注湯時間の中期にて急冷凝固した金属薄帯とを区分して回収する、ことに着想して成されたものである。
即ち、本発明による金属薄帯の製造方法(請求項1)は、溶融金属を回転する冷却ロールの周面に注湯して急冷凝固する金属薄帯の製造方法であって、一定量の上記溶融金属をノズルから上記冷却ロールの周面に注湯して生成される金属薄帯のうち、注湯を開始してから所定間および注湯を終了する所定時間前から注湯を終了する時間において生成される金属薄帯と、前記注湯を開始してから所定時間および注湯を終了する所定時間前から注湯を終了する時間を除いた注湯時間において生成される金属薄帯とを区分して回収する、ことを特徴とする。
【0007】
前記金属薄帯の製造方法によれば、以下の効果(1)が得られる。
(1)前記注湯時間の初期および終期において生成される金属薄帯と、前記初期および終期を除いた中期の注湯時間において生成される金属薄帯とを区分して回収するので、前記注湯時間の初期および終期に発生し易い塊形状(スプラッシュ)の粉末を除き、望ましい形状の金属薄帯を確実に得ることができる。従って、例えば、希土類磁石用の薄帯を製造した際には、磁気特性に優れた薄帯の提供が専ら可能となる。
【0008】
尚、前記ノズルは、所望の合金原料を収容し、該ノズルの周囲に配設した誘導コイルにより前記合金原料を溶融して得られた溶融金属を、Arなどの不活性ガスによって、該ノズル内を加圧しつつ前記冷却ロールの周面に噴射状に注湯する。
また、前記冷却ロールは、例えばMoなどの高融点で且つ熱容量の大きな金属からなる円柱形を呈し、その回転軸は、ほぼ水平方向に沿っている。該冷却ロールは、例えば、約3000rpmレベルで高速回転される。
【0009】
また、本発明には、前記注湯を開始してから所定時間前記注湯を終了する所定時間前から注湯を終了する時間とは、それぞれ1秒~6秒間である、金属薄帯の製造方法(請求項2)も含まれる。
これによれば、比較的簡単な操作によって、前記効果(1)を確実に奏することができる。
尚、前記注湯を開始してから所定時間前記注湯を終了する所定時間前から注湯を終了する時間とは、望ましくはそれぞれ2秒~5秒間である。
また、前記注湯を開始してから所定時間前記注湯を終了する所定時間前から注湯を終了する時間とを除いた中の注湯時間は、例えば、約1分以上が例示される。
【0010】
一方、本発明による金属薄帯の製造装置(請求項3)は、溶融金属を回転する冷却ロールの周面に注湯して急冷凝固する金属薄帯の製造装置であって、回転する冷却ロールを内設したチャンバと、該チャンバ内に配置され、一定量の上記溶融金属を上記冷却ロールの周面に注湯するノズルと、上記チャンバに一端側が連通し、且つ他端側に上記冷却ロールの周面で急冷凝固して生成された金属薄帯を回収する第1薄帯回収部を有する薄帯回収路と、を備え、該薄帯回収路の中間部に配置され、且つ該薄帯回収路を一時的に閉鎖可能とする閉鎖手段と、該閉鎖手段の下方に配置され、且つ上記薄帯回収路の一端側に連通する第2薄帯回収部と、を有する、ことを特徴とする金属薄帯の製造方法(請求項1または2)に用いた金属薄帯の製造装置である
【0011】
前記金属薄帯の製造装置によれば、以下の効果(2)が得られる。
(2)前記注湯時間の初期および終期では前記薄帯回収路の中間部を閉鎖手段により一時的に閉鎖して、塊形状の粉末が混入した金属薄帯を第2薄帯回収部に回収させ、且つ上記注湯時間の初期および終期を除いた中期では、望ましい形状の金属薄帯を前記第1薄帯回収部に確実に回収できる。従って、上記注湯時間の初期および終期において前記薄帯回収路の中間部を閉鎖手段により閉鎖することで、前記注湯時間の中期に生成され、且つ特性が優れた形状である所定量の金属薄帯を確実に選別して回収することができる。
尚、前記チャンバと前記薄帯回収路との内側は、減圧雰囲気下で使用される。
また、前記薄帯回収路は、例えば、複数の金属製配管を接続した円筒形または角筒形状の管路であり、平面視で前記チャンバの側壁から前記冷却ロールの回転軸と直交する方向に沿ってほぼ水平状に延びている。
更に、前記第1薄帯回収部には、初期と終期とを除いた中期の前記注湯時間において生成され、急冷凝固された金属薄帯が回収される。一方、前記第2薄帯回収部には、前記注湯時間の初期と終期とにおいて発生し易いスプラター(塊状)粉末を含む金属薄帯が回収される。
【0012】
また、本発明には、前記閉鎖手段は、前記薄帯回収路の軸方向と直交する方向にスライドする遮蔽板、あるいは、前記薄帯回収路の軸方向と直交する方向に沿った回転軸を中心に旋回する遮蔽板を備えている、金属薄帯の製造装置(請求項4)も含まれる。
これによれば、前記スライドする遮蔽板あるいは前記旋回する遮蔽板を、前記薄帯回収路の中間部に配置することで、前記注湯時間の初期および終期で生成され且つ塊形状の粉末を含む金属薄帯と、前記注湯時間の中期で生成される望ましい形状の金属薄帯と、を確実に区分して回収できる。従って、前記効果(2)を一層確実に得ることができる。
尚、前記遮蔽板は、例えば、厚さが数mmの非磁性であるステンレス鋼板からなり、前記薄帯回収路の断面が円形の場合には、矩形の一辺に半円形部分を有するスライド用の形態や、円盤形状の旋回用の形態などが用いられる。前記スライド用や旋回用の駆動源には、好ましくはエアシリンダーが用いられる。
【0013】
更に、本発明には、前記閉鎖手段は、製造すべき金属薄帯やその合金組成に応じて開閉時間が設定されたタイマーによって、前記薄帯回収路を一時的に閉鎖可能としている、金属薄帯の製造装置(請求項5)も含まれる。
これによれば、予め、製造すべき薄帯形状や合金組成に応じて注湯時間の初期と終期とを設定したタイマーによって、前記遮蔽手段の遮蔽板のスライドまたは旋回操作を行う比較的簡易な制御により、前記効果(2)を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】(A)、(B)は、本発明による一形態の金属薄帯の製造装置を概略を示す側面図。
図2】(A)は、前記製造装置の閉鎖手段とその付近を示す垂直断面図、(B)は、変形形態の閉鎖手段とその付近を示す垂直断面図。
図3】本発明による金属薄帯の製造方法を模式的に示す時刻表。
図4】異なる形態の閉鎖手段とその付近を示す垂直断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下において、本発明を実施するための形態について説明する。
図1(A),(B)は、本発明による一形態の金属薄帯の製造装置1の概略を示す側面図である。
かかる金属薄帯の製造装置1は、図示のように、内部の上方にノズル3を垂設し、且つ内部の下方に冷却ロール6を配置した縦長のチャンバ2と、該チャンバ2の側壁に開設した開口部9から側方に長く延びた薄帯回収路10と、該薄帯回収路10の先端部13内の第1薄帯回収部13aと、当該薄帯回収路10の中間部12を閉鎖可能とする昇降(スライド)可能な閉鎖種段15と、その下方および前記中間部12から下向きに配置された第2薄帯回収部14とを備えている。
【0016】
前記チャンバ2は、全体が縦長の角筒体または円筒体を呈し、その内側に水平な回転軸7により回転可能とされた前記冷却ロール6と、該冷却ロール6の周面8における頂部に対し、図示の前後方向に15mmの範囲で注湯口が位置するように前記冷却ロール6の上方に垂設された前記ノズル3と、を内蔵している。該ノズル3の周囲には、加熱用の誘導コイル4が螺旋状に巻装され、当該ノズル3の基端(上端)には、外部の貯蔵タンク(図示せず)からArなどの不活性ガスを加圧して送気する給気管5が接続されている。
前記冷却ロール6は、高融点で且つ大熱容量のMoまたはMo基合金からなり、直径が約30cmの円筒体であって、前記回転軸7に連結された図示しないモーターによって、約3000rpmの高速回転が可能である。
【0017】
また、前記ノズル3内には、一定量(約100cm3)の原料となる金属塊または合金塊が収容可能である。
更に、前記薄帯回収路10は、側面視で前記冷却ロール6の径方向に沿って延び、且つ僅かに下側に傾斜した基端部11と、水平方向に沿った中間部12および先端部13とからなる。前記基端部11は、ほぼ円錐形状の管体であり、前記中間部12および先端部13は、円筒形の管体であると共に、これらの接続部同士は、外周側にリング形で張り出したフランジ同士をボルト・ナットまたはクランプ(何れも図示せず)を介して連結されている。尚、前記チャンバ2の内側と、前記開口部9を介して連通する上記薄帯回収路10の内側とは、減圧雰囲気に保たれている。
【0018】
加えて、前記薄帯回収路10の中間部12の下方には、前記同様の接続部を介して、円筒形の第2薄帯回収部14が垂直に接続されている。
上記第2薄帯回収部14の上方である前記薄帯回収路10の中間部12の上方には、前記遮蔽手段15が配置されている。かかる遮蔽手段15は、図1(A),(B)、図2(A)に示すように、上記薄帯回収路10の軸方向が薄い箱形状で垂設した収容部16と、該収容部16内に昇降可能に配置され、半円形の底辺がと矩形の両側辺および上辺とからなる遮蔽板17と、該遮蔽板17の上辺中央に下端が接続されたピストンロッド18と、前記収容部16の天板上に立設され、前記ピストンロッド18の上端に位置するピストン(図示せず)を昇降可能に内蔵するエアシリンダー(流体圧シリンダー)19と、を備えている。
尚、前記遮蔽板17は、厚みが数mmの非磁性のステンレス鋼板からなる。
【0019】
前記エアシリンダー19には、エアーポンプ20が接続され、該エアーポンプ20には、その稼働タイミングを制御するタイマー21が接続されている。
即ち、図1(A)に示すように、前記遮蔽板17を収容部16内に支持して、前記薄帯回収路10の中間部12を開放した状態では、前記ノズル3内から前記高速回転する冷却ロール6の周面に注湯された溶融金属Mは、瞬時に冷却凝固して金属薄帯Pに生成される。該金属薄帯P(塊形状の粉末を含まない場合、同金属薄帯P1)は、同図中の矢印に沿って側方に送られ、上記粉末回収路10の基端部11と中間部12とを経て先端部13内の第1薄帯収容部13aに送られ回収される。
【0020】
一方、図1(B)に示すように、前記タイマー21によりエアーポンプ20を稼働して、前記エアシリンダー19側から前記遮蔽板17を下降させて、前記中間部12で前記薄帯回収路10を遮断すると、前記同様に生成された金属薄帯P(塊状の粉末を含む場合は、同金属薄帯P2)は、同図中の矢印のように、上記遮蔽板17に衝突した後、前記第2薄帯収容部14内に回収される。
尚、前記遮蔽手段15は、図2(B)に示すように、前記薄帯回収路10の中間部12から斜め上方に延びた収容部16と、該収容部16内で斜め方向に沿ってスライド可能に配置された遮蔽板17と、同様に傾斜して配接されたエアシリンダー19などとを有する形態としても良い。
【0021】
以下において、前記金属薄帯の製造装置1を用いた本発明による金属薄帯の製造方法について説明する。
予め、前記ノズル3内に所望の合金原料を充填し、且つ前記チャンバ2内と薄帯回収路10内とを減圧雰囲気とした状態で、前記誘導コイル4に通電して上記ノズル3内の合金原料を加熱して溶融金属Mとする。前記ノズル3内を給気管5を通じてArガスにより加圧することで、上記溶融金属Mを上記ノズル3の注湯口から約1cm下方で高速回転する冷却ロール6の周面8に対して注下する。
【0022】
この際、図3の時刻表に示すように、前記タイマー21およびエアシリンダー19を稼働させて、前記収容部16内から遮蔽板17を下降させることにより、注湯時間ctの初期t1の間(例えば、2~5秒間)は前記中間部12において前記薄帯回収路10内を遮断しておく。その結果、前記溶融金属Mは、その一部が、前記冷却ロール6の周面8に付着した水分に起因して発生し易くなる塊形状の粉末を含む金属薄帯P2となって、図1(B)で示したように、前記第2薄帯回収部14内に落下して回収される。
【0023】
次いで、前記注湯時間ctの初期t1が経過した時点で、前記タイマー21およびエアーポンプ20によって前記エアシリンダー19を稼働させて、前記遮蔽板17を収容部16内に上昇させることにより、前記中間部12における前記薄帯回収路10内の遮断状態を解除する。
その結果、前記初期t1の経過後における中期t2の間(例えば、約90秒)では、所望の温度域となった冷却ロール6の周面8に注湯された前記溶融金属Mは、急冷凝固して金属薄帯群P1となり、図1(A)で示したように、前記薄帯回収路10内の先端部13内に位置する第1薄帯回収部13a内に回収される。
【0024】
更に、前記注湯時間ctの中期t2が経過した時点で、前記タイマー21およびエアーポンプ20によって前記エアシリンダー19を稼働させて、前記遮蔽板17を下降させ、注湯時間ctの終期t3の間(例えば、3~5秒間)では、前記中間部12において前記薄帯回収路10内を再度遮断する。
その結果、前記ノズル3内の溶融金属Mが圧力低下に伴って前記冷却ロール6の周面8に滴下し易くなり、一部の該液滴状の溶融金属Mと前記周面8との間における濡れ性が急激に変化する。そのため、前記同様の塊形状の粉末を含む金属薄帯群P2が生成され易くなると共に、該金属薄帯群P2は、前記中間部12における薄帯回収路10内の遮断によって、図1(B)で示したように、前記第2薄帯回収部14内に回収される。
【0025】
前記ノズル3内の溶融金属Mがなくなると、前記冷却ロール6などを停止して、再度ノズル3内に所望の合金原料を充填した後、図3に示すように、初期t1、中期t2、終期t3の順序によって、一定量ごとの注湯時間ctが繰り返される。
以上において説明した金属薄帯の製造方法によれば、前記注湯時間ctの初期t1および終期t3で生成される金属薄帯P2と、前記中期t2において生成される金属薄帯P1とを区分して回収するので、前記注湯時間ctの初期t1および終期t3に発生し易い塊形状(スプラッシュ)の粉末を除き、望ましい形状の金属薄帯P1を確実に得ることができる。従って、例えば、希土類磁石合金では、優れた磁気特性を有する金属薄帯P1が提供でき、前記効果(1)が得られる。
【0026】
一方、前記製造方法に用いる前記金属薄帯の製造装置1によれば、前記注湯時間ctの初期t1および終期t3では前記薄帯回収路10の中間部12を一時的に閉鎖して、塊形状の粉末が混入した金属薄帯P2を第2薄帯回収部14内に回収させ、且つ上記注湯時間ctの中期t2では、望ましい形状の金属薄帯P1を前記第1薄帯回収部13aに確実に回収できる。従って、注湯時間ctの初期t1および終期t3において、前記薄帯回収路10の中間部12を閉鎖することで、前記注湯時間ctの中期t2において生成され、且つ特性が優れた所定量の金属薄帯P1を簡易な制御によって確実に選別して回収できる。よって、前記効果(2)を得ることができる。
【実施例
【0027】
前記金属薄帯の製造方法の実施例と比較例について、以下に説明する。
予め、Nd-Fe-B系からなる母合金原料を用意し、前記製造装置1のノズル3内に逐次充填し、前記チャンバ2内の内圧を30kPa、溶融温度を1400℃、前記冷却ロール6の周面8の周速度を35m/sとした。かかる条件下において、実施例の製造方法では、前記ノズル3内の溶融金属Mの注湯時間ctである90秒間のうち、初期t1と終期t3とを4秒間ずつとし、且つ前記遮蔽板17によって前記薄帯回収路10の中間部12を閉鎖すると共に、これらに挟まれた中期t2(82秒間)では、前記閉鎖を解除した。上記パターンによる溶融金属Mの注湯を100回行った後、前記第1薄帯回収部13aと第2薄帯回収部14とで回収した各回の金属薄帯P1,P2ごとについて、目視で塊形状の粉末を1個でも含む合計回数をカウントした。これらの結果を表1中に示した。
【0028】
一方、前記と同じ条件下における比較例の製造方法では、前記ノズル3内の溶融金属Mの全注湯時間ct(90秒)に亘って、前記薄帯回収路10を閉鎖することなく開放したまま、生成された金属薄帯Pを全て第1薄帯回収部13aに回収する手法を100回に亘って行った。各回の前記金属薄帯Pを目視で観察し、塊形状の粉末を1個でも含む合計回数をカウントした。これらの結果も表1中に示した。
【0029】
【表1】
【0030】
表1によれば、前記実施例の製造方法では、前記溶融金属Mを100回注湯したうち、前記注湯時間ctの中期t2で生成された金属薄帯P1では、2回のみで塊形状の粉末が混入し、且つ前記初期t1と終期t3とで生成された金属薄帯P2では、延べ91回において塊形状の粉末が混入していた。
一方、前記比較例の製造方法では、前記溶融金属Mを100回注湯したうち、全注湯時間ctに亘り生成された金属薄帯Pでは、延べ93回において塊形状の粉末が混入していた。
以上のような実施例と比較例とによる金属薄帯の製造方法の結果によれば、本発明の優位性が裏付けられたことが容易に理解されよう。
【0031】
図4は、前記とは異なる形態の閉鎖手段15aを示す概略図である。
上記閉鎖手段15aは、図4に示すように、前記同様である薄帯回収路10の中間部12において、その下方に位置する第2薄帯回収部14の斜め他端側の上方に、平面視が円形で全体が円盤形状に突出した収容部22と、該収容部22内の基端側に配置し且つ薄帯回収路10の軸方向と直交する方向に沿った水平な回転軸24と、該回転軸24に円周辺の一部が接線状に取り付けられた円形板状の遮蔽板23とを備えている。前記回転軸24の一端には、若干傾斜して立設したアーム25と、該アーム25の上端部とピン結合した前記同様のピストンロッド18およびエアシリンダー19とが適宜配置されている。該エアシリンダー19には、前記同様のエアーポンプ20およびタイマー21が接続されている。
【0032】
前記溶融金属Mの注湯時間ctのうち、初期t1および終期t3の開始時には、前記エアシリンダー19からピストンロッド18を横向きに伸長させ、前記アーム25の上部を薄帯回収路10の先端部13側に回転させる。すると、該アーム25と同期して回転する回転軸24に円周辺の一部が接続された遮蔽板23が、図4中の矢印で示すように、側面視の水平姿勢から垂直姿勢に旋回する。
その結果、前記初期t1および終期t3で生成された金属薄帯群Pは、図示のように、上記遮蔽板23に衝突して、塊形状の粉末を含む薄帯金属群P2として第2薄帯収容部14内に回収される。
尚、前記収容部22と前記遮蔽板23とは、図4中の平面視において、先端側が半円形で且つ基端側が矩形を呈する形状としても良い。
【0033】
本発明は、以上において説明した形態や実施例に限定されるものではない。
例えば、前記薄帯回収路10の中間部12と先端部13も、前記基端部11と同様に若干斜め下向きの姿勢として配管しても良い。
また、前記遮蔽板17を含む前記遮蔽手段15は、前記薄帯回収路10の中間部12において真横向きに配置し、上記遮蔽板17を水平方向に沿ってスライドさせる形態としても良い。
更に、前記遮蔽板23を含む前記遮蔽手段15aは、前記薄帯回収路10の中間部12において斜め上方または真横向きに配置し、上記遮蔽板23を斜め下向きあるいは水平方向に沿って旋回可能とする形態としても良い。
加えて、前記遮蔽手段15,15aと前記第2薄帯回収部14との組は、使用目的などに応じて、前記薄帯回収路10の中間部12における軸方向に沿って複数組を併設しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明によれば、例えば、熱間加工磁石に用いた際に優れた磁気特性を奏することができる金属薄帯を製造する方法と、これに用いる製造装置とを確実に提供できる。
【符号の説明】
【0035】
1…………………金属薄帯の製造装置
2…………………チャンバ
3…………………ノズル
6…………………冷却ロール
8…………………上記ロールの周面
10………………薄帯回収路
12………………中間部
13a……………第1薄帯回収部
14………………第2薄帯回収部
15,15a……閉鎖手段
17,23………遮蔽板
21………………タイマー
24………………回転軸
M…………………溶融金属
P、P1、P2…金属薄帯
図1
図2
図3
図4