IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ スズキ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-船外機の操舵荷重調整装置 図1
  • 特許-船外機の操舵荷重調整装置 図2
  • 特許-船外機の操舵荷重調整装置 図3
  • 特許-船外機の操舵荷重調整装置 図4
  • 特許-船外機の操舵荷重調整装置 図5
  • 特許-船外機の操舵荷重調整装置 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】船外機の操舵荷重調整装置
(51)【国際特許分類】
   B63H 20/12 20060101AFI20231003BHJP
【FI】
B63H20/12 100
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019195142
(22)【出願日】2019-10-28
(65)【公開番号】P2021066398
(43)【公開日】2021-04-30
【審査請求日】2022-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100132067
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 喜雅
(72)【発明者】
【氏名】手嶋 翔平
【審査官】福田 信成
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-344191(JP,A)
【文献】特開2000-053088(JP,A)
【文献】特開2004-203228(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63H 20/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングブラケットとスイベルブラケットの間に配置され、ステアリングの操舵に伴うステアリング操作への負荷荷重を調整する船外機の操舵荷重調整装置において、
操作部材の揺動により、摩擦板に接触する摩擦パッドの摩擦力が変化して、前記ステアリング操作への負荷荷重の調整を行い、
前記操作部材の揺動範囲の制限を、前記操作部材に設けた操作制限用長穴と、前記操作制限用長穴に嵌合する挿入部とによって行い、
前記操作制限用長穴を、前記操作部材の揺動中心に対して前記船外機の前方側に配置したことを特徴とする船外機の操舵荷重調整装置。
【請求項2】
前記挿入部を、前記操舵荷重調整装置を前記ステアリングブラケットに支持させる支持板に配置することを特徴とする請求項1に記載の船外機の操舵荷重調整装置。
【請求項3】
前記操作制限用長穴を、前記摩擦板よりも前記船外機の前方側に配置したことを特徴とする請求項1又は2に記載の船外機の操舵荷重調整装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船外機の操舵荷重調整装置に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶に取り付けられる船外機では、操舵に応じて船外機が操舵軸を中心に揺動して船体の進行方向を変化させる。操舵の際にステアリングを操船者が手動で操作する船外機において、操舵荷重を調整可能にしたものが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1では、円弧状の摩擦板と、摩擦板を両側から挟む締付パッド部と、からなるクラッチ機構を備えており、摩擦板に対して締付パッド部を押し付けて摩擦を増大させてステアリングブラケットを不動にして、船外機の操舵角を固定させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-53088号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のクラッチ機構は、ステアリングブラケットを不動にする際に、操作部材を揺動(回動)させて摩擦板に対する締付パッド部の押し付け量を変化させる。しかし、操作部材の揺動範囲を制限する構造を備えておらず、操作部材の停止位置は操船者が決めるようになっている。このため、操作部材を過剰に揺動させて締付パッド部を必要以上に押し付けるなどして、クラッチ機構の耐久性に影響を及ぼすおそれがある。例えば、手荒に操作部材を操作することで、クラッチ機構にダメージが生じやすくなる。
【0006】
特許文献1のクラッチ機構における操作部材は、ボルトとナットにより構成される揺動中心から前方に向けて摘み部を突出させており、揺動中心付近は、支持板や締付パッド部が操作部材を上下から挟むように配置されている。このような構造上の制約から、操作部材がボルトに嵌合する揺動中心部分にはスペース的に余裕がなく、操作部材の揺動範囲を制限する手段を設けることは設計的に困難が伴い、高コストな構造になってしまう。揺動中心から後方(船外機側)に突出する突出部を操作部材に設け、当該突出部をストッパに当接させて揺動範囲を制限することは可能である。しかし、後方に向けて開放された形状の突出部は、ストッパに当接したときの耐久性を確保しにくい、前後方向への操作部材の安定性の向上には寄与しにくい、といった課題がある。
【0007】
本発明は係る点に鑑みてなされたものであり、操船者の操作状態に影響されることなく優れた耐久性を確保でき、省スペース且つ低コストに得られる船外機の操舵荷重調整装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ステアリングブラケットとスイベルブラケットの間に配置され、ステアリングの操舵に伴うステアリング操作への負荷荷重を調整する船外機の操舵荷重調整装置において、操作部材の揺動により、摩擦板に接触する摩擦パッドの摩擦力が変化して、前記ステアリング操作への負荷荷重の調整を行い、前記操作部材の揺動範囲の制限を、前記操作部材に設けた操作制限用長穴と、前記操作制限用長穴に嵌合する挿入部とによって行い、前記操作制限用長穴を、前記操作部材の揺動中心に対して前記船外機の前方側に配置したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、操作部材に設けた操作制限用長穴に挿入部を挿入して揺動範囲の制限を行うことにより、操船者の操作状態に影響されることなく耐久性を確保でき、省スペース且つ低コストに構成される船外機の操舵荷重調整装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施の形態に係る船外機を船尾に取り付けた状態の側面図である。
図2】船外機の操舵装置を構成する操舵荷重調整装置付近を示す斜視図である。
図3】操舵荷重調整装置を含む操舵装置の側面図である。
図4】操舵荷重調整装置の操作部材を示す図であり、(A)は上面図、(B)は斜視図である。
図5】操作部材と支持板の上面図である。
図6】操舵荷重調整装置を含む取付装置の上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して説明する。図1に示すように、本実施の形態の船外機は、船外機本体1と取付装置10からなる。以下の説明及び各図面では、後述するドライブシャフト3が延びる方向を船外機の上下方向、プロペラシャフト4が延びる方向を船外機の前後方向と定義する。前後方向のうち前方が船体側で、後方が船外機側となる。また、上下方向及び前後方向に対して垂直な方向を、船外機の横幅方向と定義する。横幅方向のうち船体側に向かって右手側が右方で、左手側が左方である。
【0012】
図1に示すように、船外機本体1は、上部のエンジンルーム内に配置されたエンジン2の出力軸から、ドライブシャフト3を介してプロペラシャフト4に回転を伝達し、プロペラシャフト4の後端に設けたプロペラ5を回転させる。プロペラ5の回転によって推進力が発生する。
【0013】
船外機本体1は、取付装置10を介して船体の船尾部に取り付けられる。取付装置10によって船体に取り付けた状態では、横幅方向に延びるチルト軸11を中心として船外機本体1を前後に揺動させるチルト動作と、上下方向に延びる操舵軸12を中心として船外機本体1を左右に揺動させるステアリング動作(操舵)を行わせることができる。従って、船外機における上下、前後、左右(横幅)の各方向が、船体の上下、前後、左右(横幅)の各方向とは一致しない場合もある。
【0014】
取付装置10は、クランプブラケット13(図1から図3図6参照)とスイベルブラケット14(図2及び図6参照)とステアリングブラケット15(図1及び図3参照)を備えている。なお、取付装置10の説明における上下方向は、各図面に示す初期状態での上下方向を意味するものとする。すなわち、チルト動作に伴って、取付装置10のうちクランプブラケット13以外の部分の角度が船体に対して変化するが、このような角度変化を行わずにドライブシャフト3が鉛直方向に向いている状態を基準として、取付装置10の各部を説明する。
【0015】
船体の船尾に設けたトランサム16に対して、クランプブラケット13が固定される。図2及び図6に示すように、クランプブラケット13は横幅方向に離間して設けられる左右一対の支持部を有し、クランプブラケット13の一対の支持部の間にスイベルブラケット14が配置されている。クランプブラケット13の一対の支持部には、横幅方向へ貫通する左右一対の軸支持穴が形成されており、この軸支持穴にチルト軸11が支持されている(図2参照)。
【0016】
スイベルブラケット14はチルト軸11を中心として揺動可能に支持される。図示を省略するチルトシリンダによってスイベルブラケット14に駆動力が付与されると、スイベルブラケット14がチルト軸11を中心として揺動を行う。すると、ステアリングブラケット15及び操舵軸12を介してスイベルブラケット14に接続している船外機本体1は、プロペラ5を上方へ引き上げる前傾動作(チルトアップ)や、プロペラ5を下げる後傾動作(チルトダウン)を行う。
【0017】
スイベルブラケット14には、上下方向に貫通する操舵軸穴が形成され、この操舵軸穴に操舵軸12が挿入される。操舵軸穴に対して操舵軸12は、上下方向に向く軸線を中心として回転可能に支持される。操舵軸12の下端はスイベルブラケット14の操舵軸穴から下方に突出し、マウント部6を介して船外機本体1に固定される。
【0018】
操舵軸12の上端はスイベルブラケット14の操舵軸穴から上方に突出し、この操舵軸12の突出部分にステアリングブラケット15が取り付けられる。ステアリングブラケット15は操舵軸12と一体的に揺動する関係になる。ステアリングブラケット15は、マウント部7を介して船外機本体1に固定される。
【0019】
ステアリングブラケット15は、操舵軸12に接続する部分から前方に向けて延設されるアーム部17を備える。アーム部17は、スイベルブラケット14の上方を通る細長の形状を有している。スイベルブラケット14とアーム部17との間には上下方向に所定の隙間を空けた空間Sが形成される。チルト軸11付近では、スイベルブラケット14の上面とアーム部17の下面が略平行になって、空間Sを挟んで対向している。図1から図3に示すように、アーム部17は、スイベルブラケット14よりも前方まで延びており、アーム部17の前端部に、操舵の際に操船者が操作を行うステアリング18が接続している。
【0020】
以上のように構成した取付装置10の動作を説明する。チルト軸11を中心として前後へ揺動させる船外機本体1のチルト動作は、油圧によって動作するチルトシリンダの駆動によって行われる。操舵軸12を中心として左右に揺動させる船外機本体1のステアリング動作は、ステアリング18の手動操作によって行われる。操船者がステアリング18を左右に旋回させると、ステアリングブラケット15と操舵軸12が一体的に揺動して、ステアリングブラケット15及び操舵軸12と固定関係にある船外機本体1が左右に揺動する。その結果、船体の進行方向が変化する。
【0021】
船外機の操舵装置は、スイベルブラケット14とステアリングブラケット15の間に、ステアリング動作の負荷荷重を調整する操舵荷重調整装置20を備えている。操舵荷重調整装置20の主要部分は、スイベルブラケット14の上面とアーム部17の下面の間の空間Sの前方に位置し、操舵荷重調整装置20の一部(後述する負荷吸収部22b)が空間S内に入り込んでいる。操舵荷重調整装置20は、支持板21と、摩擦板22と、操作部材23と、一対のパッド部材24,25と、軸ボルト26と、を有している。
【0022】
図2図5及び図6に示すように、支持板21は、ベース部21aと、ベース部21aから二股状になって後方へ延びる一対の延設部21bと、を有している。ステアリングブラケット15のアーム部17は、左右に突出する一対の側方突出部17a(図1から図3には左側の側方突出部17aのみが表れている)を有している。一対の側方突出部17aに対して一対の延設部21bがそれぞれ、軸部材41とボルト42とナット43を介して取り付けられており、支持板21はステアリングブラケット15と共に揺動する。
【0023】
ベース部21aには上部ナット27と制限ピン28が設けられている。上部ナット27と制限ピン28はそれぞれ溶接等によって支持板21に固定されており、制限ピン28がベース部21aの前縁寄りに位置し、上部ナット27が制限ピン28の後方に位置している。上部ナット27は、ベース部21aの上面に位置し、内部にネジ穴を有する。ベース部21aには上部ナット27のネジ穴に連通する貫通穴が形成されている。制限ピン28はベース部21aから下方に突出する円柱形状を有している。
【0024】
図3に示すように、上部ナット27のネジ穴に軸ボルト26が挿入されている。軸ボルト26は、円柱状の軸部の外周面にネジを形成したものであり、軸方向に延びる一対の平行な側平面26aを有している。側平面26aにはネジが形成されていない。軸ボルト26は、上部ナット27のネジ穴に螺合する。なお、図3には、側平面26aが軸ボルト26の前後の側部にあるように示しているが、実際の側平面26aは、軸ボルト26の左右の側部に設けられている。
【0025】
図2図3及び図6に示すように、摩擦板22は、円弧板部22aと、負荷吸収部22bと、支持板部22cと、を有している。円弧板部22aは、横幅方向の中央部が最も前方に突出し、中央部から左右に進むにつれて後方へ湾曲する円弧形状の板状部分である。
【0026】
図3に示すように、負荷吸収部22bは、船外機の側方から見て、後方(船外機本体1側)に向けてU字形状に形成されている。負荷吸収部22bは、円弧板部22aの横幅方向の中央部から後方に突出して、チルト軸11の上方で下方へ湾曲しながら前方へ折り返されており、スイベルブラケット14とアーム部17の間の空間Sに位置している。負荷吸収部22b(より詳しくは、U字形状の湾曲した先端を除く上辺部と下辺部)は、空間Sを挟んで対向するスイベルブラケット14の上部及びアーム部17の下部とほぼ平行になっている。
【0027】
負荷吸収部22bからさらに下方に向けて屈曲されて、支持板部22cが形成されている。図2に示すように、スイベルブラケット14の前端部には、左右一対の取付部14aが設けられており、支持板部22cが取付部14aに対して前方からボルト留めで固定される。つまり、摩擦板22は、支持板部22cを基端とした片持ち構造でスイベルブラケット14に支持されている。そして、摩擦板22は、負荷吸収部22bの箇所において、上方からの荷重に対して変形しやすい(バネ定数が小さい)構成になっている。
【0028】
図4及び図5に示すように、操作部材23は、支持板21のベース部21aの下面側に位置するベース部23aと、ベース部23aから前方に延びる把持部23bと、を有している。ベース部23aには嵌合穴23cが形成されている。嵌合穴23cは、軸ボルト26の側平面26aに対応する直線部を含む非円形形状の穴であり、軸ボルト26に対して回転規制された状態で嵌合する。把持部23bを左右へ揺動させると、操作部材23が軸ボルト26と共に回動する。
【0029】
操作部材23のベース部23aにはさらに、操作制限用長穴23dが形成されている。操作制限用長穴23dは、嵌合穴23cを中心とする円弧形状の穴であり、嵌合穴23cの前方(嵌合穴23cと把持部23bの間)に位置している。図5に示すように、制限ピン28が操作制限用長穴23dに挿入されている。制限ピン28は、操作制限用長穴23dの長手方向(円弧に沿う方向)に摺動可能であり、且つ操作制限用長穴23dの幅方向には移動が規制される。
【0030】
図6に示すように、支持板21のベース部21aは、摩擦板22の前方に位置している。操作部材23のベース部23aは支持板21のベース部21aとほぼ重なる位置関係であるため(図5参照)、ベース部23aに形成した操作制限用長穴23dは、摩擦板22よりも前方側に位置している。
【0031】
パッド部材24とパッド部材25は、摩擦板22の円弧板部22aを上下から挟む関係で設けられている。パッド部材24は、パッド保持板24aと、パッド保持板24aの下面に設けた摩擦パッド24bとによって構成されており、ベース部23aと円弧板部22aとの間(ベース部23aの下方、円弧板部22aの上方)に位置している。パッド部材25は、パッド保持板25aと、パッド保持板25aの上面に設けた摩擦パッド25bとによって構成されており、円弧板部22aの下方に位置している。摩擦パッド24bと摩擦パッド25bは、所定の摩擦係数を有する摩擦部材である。パッド部材24とパッド部材25は、軸ボルト26を介して支持板21及びステアリングブラケット15と共に揺動し、さらに軸ボルト26に沿って上下に移動可能である。
【0032】
上部ナット27のネジ穴に螺合し且つ嵌合穴23cに嵌合する軸ボルト26は、さらに下方に延びて、パッド部材24及びパッド部材25を貫通して下方に突出し、下部ナット29のネジ穴に螺合する。パッド保持板25aの下面に接するワッシャ30に対して、下部ナット29が下方から当接する。
【0033】
以上の構成の操舵荷重調整装置20では、軸ボルト26に対する下部ナット29の締め付けの程度に応じて、パッド部材24及びパッド部材25と摩擦板22との間に働く摩擦力(摩擦抵抗)が変化する。スイベルブラケット14側に支持された摩擦板22に対するパッド部材24及びパッド部材25の摩擦力の変化によって、ステアリングブラケット15の操舵荷重が調整される。
【0034】
操舵荷重調整装置20の初期状態では、パッド部材24の摩擦パッド24bとパッド部材25の摩擦パッド25bが円弧板部22aに軽く接触して適度な抵抗感を与えて、操舵軸12を中心とするステアリングブラケット15の揺動、すなわちステアリング18の操舵を自在に行えるように設定する。
【0035】
把持部23bを把持して操作部材23を締め付け方向に回動させると、支持板21と下部ナット29の間隔を狭くさせる力が加わり、円弧板部22aの両側から摩擦パッド24bと摩擦パッド25bが圧接し、摩擦によって支持板21と摩擦板22の間の回動抵抗が増大する。これにより、支持板21が取り付けられているステアリングブラケット15の操舵荷重が大きくなる。逆に、操作部材23を締め付け方向と反対方向に回動させると、摩擦板22への摩擦力が小さくなって、ステアリングブラケット15の操舵荷重が小さくなる。操作部材23の回動方向と操作量に応じて操舵荷重を適宜変更することができる。また、操作部材23を締め付け方向に所定位置まで回動させると、摩擦係合によってステアリングブラケット15の操舵角を固定した状態にできる。円弧板部22aは、操舵軸12を中心としてステアリングブラケット15が揺動するときの、パッド部材24及びパッド部材25の移動軌跡に沿う円弧形状であるため、所望の操舵角でステアリングブラケット15の操舵負荷を任意に調整することができる。
【0036】
操作部材23が回動するときに、操作制限用長穴23d内で制限ピン28の位置が変化する。そして、操作制限用長穴23dの端部に制限ピン28が達して当接すると、操作部材23のそれ以上の回動が制限される。この制限によって、操船者が操作部材23を過剰に揺動させてしまうことを防止できる。操作部材23の過剰な揺動を防ぐことで、パッド部材24及びパッド部材25から摩擦板22への過度な押し付けが生じず、操舵荷重調整装置20の耐久性が向上する。
【0037】
また、操作制限用長穴23dの幅方向への制限ピン28の移動が制限されるため、操作部材23は、操作時の揺動以外の余分な動作が抑制され、安定性に優れている。例えば、部品製造や組み付けの段階で生じる精度誤差や、長時間の使用による嵌合穴23cや軸ボルト26の摩耗等によって、嵌合穴23cと軸ボルト26との間に隙間(ガタ)が生じる状態になっても、操作制限用長穴23dの内面(一対の円弧状面)と制限ピン28との当接によって、前後方向への操作部材23のガタを抑えることができる。
【0038】
閉鎖形状の穴である操作制限用長穴23dを用いて、操作部材23の揺動方向及び揺動半径方向(前後方向)への動作を制限しているので、操作制限用長穴23dの内面に制限ピン28が当接したときの耐久性に優れており、開放形状の突起部等によって揺動範囲を制限する構成に比べて、操作部材23の変形等が生じにくい。
【0039】
操作部材23の把持部23bは把持して操作しやすくするために細長い形状になっている。この把持部23bに比して形状自由度が高く平面形状が大きくなるベース部23aに、操作制限用長穴23dを設けている。これにより、操作制限用長穴23dの形状や長さの設定自由度が高くなると共に、操作制限用長穴23dの周囲にベース部23aの十分な面積を確保して剛性を確保しやすくなる。
【0040】
軸ボルト26の軸上には、パッド部材24,25の摩擦パッド24b,25bを含む多くの部材が積層して配置されているため、スペース的に制約が多い。操作部材23の操作制限用長穴23dは、操作部材23の揺動中心となる嵌合穴23c及び軸ボルト26よりも前方側に配置されているので、上記のようなスペース的な制約を受けずにスペース効率良く形成することができる。また、操作制限用長穴23dに嵌合する挿入部である制限ピン28は、軸ボルト26から前方側に位置をずらせて支持板21に設けられているので、操作制限用長穴23dと同様にスペース的な制約を受けずに配置できる。従って、操作制限用長穴23dと制限ピン28からなる操作部材23の揺動制限手段は、軸ボルト26等に干渉せずにスペース効率良く配置することができる。
【0041】
また、図6に示すように、操作制限用長穴23dと制限ピン28を、摩擦板22よりも前方側に設けたことで、摩擦板22から離れた位置で操作部材23の揺動制限を行っている。このため、操作部材23を揺動制限するときに、摩擦板22の円弧板部22aとパッド部材24,25の摩擦パッド24b,25bとの接触箇所の形状に影響を及ぼしにくく、ステアリングブラケット15の操舵荷重調整の性能を確保しやすい。
【0042】
また、図6に示すように、操作制限用長穴23dと制限ピン28を、摩擦板22よりも前方側に設けたことで、摩擦板22を軸ボルト26よりも後方に位置させて、操舵軸12から円弧板部22aまでの径を小さくすることができ、操舵荷重調整装置20の小型化に寄与する。
【0043】
図4に示すように、操作部材23は、平板状の部材に嵌合穴23cと操作制限用長穴23dを貫通形成したシンプルな構成であるため、金属板のプレス加工等で低コストに製造可能である。制限ピン28は、支持板21に溶接等で固定したものであり、これも低コストに得ることができる。従って、省スペース且つ低コストな構成で、操作部材23の揺動制限を実現できる。
【0044】
操船者がステアリング18を抑え込むなどして、操舵荷重調整装置20に対して上方から下方に向けての負荷が加わる場合がある。図1に示すように、操舵軸12により軸支される位置からアーム部17及びステアリング18が前方に長く延びており、ステアリング18を上方から抑え込むと、操舵荷重調整装置20の部分に大きな荷重が作用しやすい。
【0045】
操舵荷重調整装置20では、上方からの荷重に対して変形しやすい(バネ定数が小さい)構成として、摩擦板22に負荷吸収部22bを設けている。上方から所定値以上の大きな負荷が加わった場合、操舵荷重調整装置20のうち負荷吸収部22bが変形して負荷を吸収する。負荷吸収部22bが優先的に変形することで、パッド部材24及びパッド部材25の上下方向の位置変化に対する円弧板部22aの追従性が向上する。その結果、円弧板部22aとパッド部材24及びパッド部材25との接触状態の変化、すなわち操舵負荷の変化が抑制される。このように、摩擦板22のバネ定数を小さくしたことで、操作部材23の操作とは異なる外部からの荷重入力を起因とする操舵フィーリングの変化を防ぎ、操舵荷重を安定させて良好な操舵性を確保することができる。
【0046】
負荷吸収部22bは、円弧板部22aから後方(船外機本体1側)に突出し、スイベルブラケット14とステアリングブラケット15のアーム部17との間の空間Sに位置するU字形状になっている。より詳しくは、負荷吸収部22bの先端(U字形状の後方端部)が、チルト軸11の上方に位置している。スイベルブラケット14とステアリングブラケット15の間の空間Sには、操舵に必要な関連部品(図示を省略するリンク部材やケーブル類)が設けられており、負荷吸収部22bは、これらの操舵関連部品と共に、空間Sを有効利用して配置されている。従って、スペース効率に優れた構成によって、操舵荷重調整装置20に加わる負荷を吸収して操舵荷重を安定させることができる。
【0047】
摩擦板22の負荷吸収部22bの変形のしやすさは、その形状や板厚等によって適宜設定することができる。例えば、負荷吸収部22bの中央部分に肉抜き部を形成することでバネ定数を小さくしてもよい。
【0048】
以上のように、本実施の形態の船外機の操舵装置では、操作部材23に形成した操作制限用長穴23dと、支持板21に設けた制限ピン28との当接によって、操作部材23の揺動を制限して、操舵荷重調整装置20の耐久性を向上させている。この揺動制限手段は、操作部材23の把持部23bと嵌合穴23cの間の空きスペースを有効利用しており、構造がシンプルであるので安価に製造可能である。また、構造的な強度や安定性にも優れている。
【0049】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されず、種々変更して実施することが可能である。上記実施の形態において、添付図面に図示されている大きさや形状等については、これに限定されず、本発明の効果を発揮する範囲内で適宜変更することが可能である。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。
【0050】
例えば、上記実施の形態の制限ピン28に代えて、支持板21のベース部21aを部分的に切り起こしして、操作制限用長穴23dに嵌合する挿入部を形成してもよい。挿入部を支持板21と一体の切り起こし構造にすることで、部品点数を減らすことができる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の船外機の操舵荷重調整装置は、操船者の操作状態に影響されることなく優れた耐久性を確保でき、省スペース且つ低コストに得られるという効果を有し、特に高頻度な操舵荷重調整を行う船外機に有用である。
【符号の説明】
【0052】
1 :船外機本体
10 :取付装置
11 :チルト軸
12 :操舵軸
13 :クランプブラケット
14 :スイベルブラケット
15 :ステアリングブラケット
17 :アーム部
18 :ステアリング
20 :操舵荷重調整装置
21 :支持板
22 :摩擦板
22a :円弧板部
23 :操作部材
23a :ベース部
23b :把持部
23c :嵌合穴
23d :操作制限用長穴
24 :パッド部材
24b :摩擦パッド
25 :パッド部材
25b :摩擦パッド
26 :軸ボルト
28 :制限ピン(挿入部)
S :空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6