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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】流路材
(51)【国際特許分類】
   B01D 63/00 20060101AFI20231003BHJP
   D04B 21/16 20060101ALI20231003BHJP
   D02G 3/04 20060101ALI20231003BHJP
   D01F 8/04 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
B01D63/00 510
D04B21/16
D02G3/04
D01F8/04 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019196881
(22)【出願日】2019-10-30
(65)【公開番号】P2020104099
(43)【公開日】2020-07-09
【審査請求日】2022-06-14
(31)【優先権主張番号】P 2018242694
(32)【優先日】2018-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中林 伊織
【審査官】高橋 成典
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/131031(WO,A1)
【文献】特開2011-245454(JP,A)
【文献】特開昭60-19001(JP,A)
【文献】特開2004-283701(JP,A)
【文献】実開昭51-58152(JP,U)
【文献】特開昭52-21480(JP,A)
【文献】特開2016-64363(JP,A)
【文献】特開2017-939(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 61/00 - 71/82
D04B 1/00 - 1/28
21/00 - 21/20
D02G 1/00 - 3/48
D02J 1/00 - 13/00
D01F 8/00 - 8/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成繊維を編成してなるトリコット編地であって、該トリコット編地は繊度の異なる少なくとも2種類の合成繊維で構成され、前記合成繊維のうち一方がモノフィラメントで、他方が融点または軟化点の異なる2種類以上のポリマーからなるマルチフィラメントで構成され
前記繊度の異なる少なくとも2種類の繊維のうち、繊度が小さい方の合成繊維Aが10~50dtexで、繊度が大きい方の合成繊維Bが33~90dtexであり、
前記マルチフィラメントが熱融着している液体分離膜モジュール用流路材。
【請求項2】
前記マルチフィラメントが、混繊糸、芯鞘型複合繊維およびサイドバイサイド型複合繊維から選択されたものである請求項1に記載の液体分離膜モジュール用流路材。
【請求項3】
前記マルチフィラメントが芯鞘複合繊維糸であり、鞘成分が芯成分よりも融点または軟化点の低い成分で構成されたものである請求項1または2に記載の液体分離膜モジュール用流路材。
【請求項4】
前記繊度が小さい方の合成繊維Aがモノフィラメントである請求項1~のいずれかに記載の液体分離膜モジュール用流路材。
【請求項5】
前記繊度が大きい方の合成繊維Bがマルチフィラメントである請求項1~のいずれかに記載の液体分離膜モジュール用流路材。
【請求項6】
請求項1~のいずれかの液体分離膜モジュール用流路材を有する液体分離膜モジュール。
【請求項7】
液体分離膜モジュールが、さらに逆浸透分離膜を有し、前記流路材が逆浸透分離膜の透過側に配される請求項に記載の液体分離膜モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体分離膜モジュールに用いる透過液の流路材に関する。特に、逆浸透分離膜(以下「RO分離膜」と言うことがある。)モジュール用の流路材に関する。
【背景技術】
【0002】
RO分離膜を用いた液体分離膜モジュールは、従来からスパイラル型が広く知られている。その構造は透過液の流路材をRO分離膜で挟み込み、さらにRO分離膜の外側に供給液の流路材を配置して一組のユニットとなし、中空の中心管の周囲に該ユニットを一組又は複数組を巻き付けて構成される。
【0003】
このような液体分離膜モジュールの使用時には、供給液側と透過液側に4~5MPaの差圧が作用するため、流路材はこの圧力が作用しても変形しないことが必要とされる。
【0004】
透過液側の流路材としては、以下のものが知られている。
【0005】
古くから知られているものとしては、第1の従来技術として、3枚オサを有するトリコット編機により、2組の細繊度の熱可塑性合成繊維フィラメント糸条で地組織部分を編成するとともに、該地組織部分のニードル・ループ部分に1組の太繊度の熱可塑性合成繊維フィラメント糸条を編込んでうね部分を形成したトリコット編地を編成し、さらに該トリコット編地の糸条相互を熱処理で接着処理して編地全体を剛直化させることを特徴とする流路材が知られている(特許文献1)。
【0006】
この特許文献1に記載されている比較品として、熱可塑性合成繊維フィラメント糸条の混繊糸を用いて2枚オサ・トリコットでダブルデンビー編地に編成して熱融着加工した流路材を用いているが、この比較品は、流動抵抗が高く、かつ厚みが薄くできない課題があった。そこで特許文献1の発明は、3枚オサを有するトリコット編機により地組織部分を構成する糸条より太繊度の糸条を更に編み込むことで、透過液生産性を損なわず流路構造を長期間維持できる流路材を提供するものである。
【0007】
また、第2の従来技術として、40~150μmの直径を有する単一成分の樹脂製モノフィラメントにより編成された経編物から構成されている流路材が提案されている。(特許文献2)。
【0008】
この特許文献2が開示するのは、流路材を構成する経編物が単一成分の樹脂製モノフィラメントで編成することで、リサイクル性に優れた流路材を提供するものである。
また、第3の従来技術として、樹脂製モノフィラメントの剛性を活用して熱融着や樹脂含浸工程を経ない井桁状の織物または編物からなるネットが提案されている(特許文献3)。
【0009】
この特許文献3が開示するのは、流路材の組織をモノフィラメントで井桁状にすることで流路抵抗が極端に抑制され、流路断面の空隙率が高くなり、分離性能が向上するとともに、流路内部に異常滞留部が形成されず全方位に通水出来る流路材を提供するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開昭60-19001号公報
【文献】特開2003-117355号公報
【文献】特開2010-94659号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
第1の従来技術では、2枚オサ・トリコットでダブルデンビー編地に編成して熱融着加工した流路材よりも流動抵抗を低く、かつ厚みを薄くするために、3枚オサを有するトリコット編機を用い、2組の細繊度の熱可塑性合成繊維フィラメント糸条で地組織部分を編成するとともに、該地組織部分のニードル・ループ部分に1組の太繊度の熱可塑性合成繊維フィラメント糸条を編込んでうね部分を形成しているが、開示された糸条はいずれも実質的にマルチフィラメント糸であり、2組の細繊度の糸条に加えて太繊度の糸条を編込むので、うね部分は高くできるものの、太繊度の糸条は地組織にも編み込まれるため、トリコット編地の全体の厚みを薄くすることは困難であった。
【0012】
また、第2の従来技術では、リサイクル性に優れた流路材を得るために単一成分の樹脂製モノフィラメントのみから編成された経編物とするため、モノフィラメントが湾曲して成る編み目は硬く流路材として液体分離膜モジュールに組み込んだ場合、RO膜等の液体分離膜を傷付け易く、長期使用に耐え得るものとするためには液体分離膜を厚くするなどの対策が必要であった。
【0013】
また、第3の従来技術では、モノフィラメントとマルチフィラメントを用い、井桁状の織物または編物からなるネットとするが、開示されたフィラメントはそれぞれ単一成分からなるフィラメントであるため、目ズレなどを起こしやすく均一な流路材構造を保つことが困難であった。
【0014】
本発明はかかる従来技術の問題点に鑑み、薄い流路材であっても従来の厚い流路材と同様の液体流路構造を確保し、また、液体分離膜モジュールへの加工工程で流路材が撓んでシワとなることのない剛性を有し、かつ、使用中にRO分離膜を介して原液の高圧が作用しても厚み変化が少ない流路材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
かかる課題を解決するために本発明は、下記のいずれかの構成からなる。
【0016】
(1)合成繊維を編成してなるトリコット編地であって、該トリコット編地は繊度の異なる少なくとも2種類の合成繊維で構成され、前記合成繊維のうち一方がモノフィラメントで、他方が2種類以上のポリマーからなるマルチフィラメントで構成される液体分離膜モジュール用流路材。
【0017】
(2)前記マルチフィラメントが、混繊糸、芯鞘型複合繊維およびサイドバイサイド型複合繊維から選択されたものである前記(1)に記載の液体分離膜モジュール。
【0018】
(3)前記マルチフィラメントが芯鞘複合繊維糸であり、鞘成分が芯成分よりも融点または軟化点の低い成分で構成されたものである前記(1)または(2)に記載の液体分離膜モジュール用流路材。
【0019】
(4)前記マルチフィラメントが熱融着している前記(1)~(3)に記載の液体分離膜モジュール用流路材。
【0020】
(5)前記繊度の異なる少なくとも2種類の繊維のうち、繊度が小さい方の合成繊維Aが50dtex以下である前記(1)~(4)のいずれかに記載の液体分離膜モジュール用流路材。
【0021】
(6)前記繊度の異なる少なくとも2種類の繊維のうち、繊度が大きい方の合成繊維Bが33~90dtexである前記(1)~(5)のいずれかに記載の液体分離膜モジュール用流路材。
【0022】
(7)前記繊度が小さい方の合成繊維Aがモノフィラメントである前記(1)~(6)のいずれかに記載の液体分離膜モジュール用流路材。
【0023】
(8)前記繊度が大きい方の合成繊維Bがマルチフィラメントである前記(1)~(7)のいずれかに記載の液体分離膜モジュール用流路材。
【0024】
(9)前記(1)~(8)のいずれかの液体分離膜モジュール用流路材を有する液体分離膜モジュール。
【0025】
(10)液体分離膜モジュールが、さらに逆浸透分離膜を有し、前記流路材が逆浸透分離膜の透過側に配される前記(9)に記載の液体分離膜モジュール。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、薄い流路材であっても従来の厚い流路材と同様の液体流路構造を確保し、また、液体分離膜モジュールへの加工工程で流路材が撓んでシワとなることのない剛性を有し、かつ、使用中にRO分離膜を介して原液の高圧が作用しても厚み変化が少ない流路材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、スパイラル型の液体分離膜モジュールの一例を示す概略斜視図である。
図2図2は、二重ループの内面側に形成した開口部の長辺を説明するためのトリコット編地流路材の凸部分側からみた繊維の形状を示す拡大写真である。
図3図3は、流路(溝幅、溝深さ)の測定部位を説明するためのトリコット編地流路材の断面概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。
【0029】
本発明の液体分離膜モジュール用流路材は、合成繊維を編成してなるトリコット編地であって、前記トリコット編地は、繊度の異なる少なくとも2種類の合成繊維で構成され、前記合成繊維のうち一方がモノフィラメントで、他方が2種類以上のポリマーからなるマルチフィラメントで構成されるものである。
【0030】
トリコット編地は地組織と凸部分を有し、二重ループで凸部分を形成するものである。二重ループの形成には少なくとも2枚筬を有するトリコット編機を使用し、合成繊維からなる少なくとも2組の経糸を使用する。この2組の経糸のうち、少なくとも1組の経糸をバック糸として地組織のニードル・ループ部を形成し、少なくとももう1組の経糸をフロント糸として地組織のニードル・ループ部に編み込むことで凸部分を形成するものである。
【0031】
本発明において、繊度の異なる少なくとも2種類の合成繊維は、通常上記トリコット編地の少なくとも2組の経糸にそれぞれ用いられる。合成繊維からなる少なくとも2組の経糸の内、繊度が大きい方の合成繊維B(以下合成繊維Bと称する。)をフロント糸に用い、繊度の小さい方の合成繊維A(以下合成繊維Aと称する)をバック糸に用いることが、厚みに対する溝深さをよりいっそう大きくできる点で好ましい。これにより流路材の厚さを従来より薄くした場合でも従来の厚い流路材と同様の液体流路構造を確保することが可能となる。
【0032】
上記2種類の合成繊維のうち一方はモノフィラメントで、他方が2種類以上のポリマーからなるマルチフィラメントで構成される。
【0033】
また、編地を構成する合成繊維にモノフィラメントを用いることで、薄くした場合にも剛性を確保することが可能となる。同一繊度のマルチフィラメントとモノフィラメントを比較した場合、多数本の微細モノフィラメントの集合体であるマルチフィラメントに繊維の長さ方向と直角方向に圧力をかけると複数本の微細モノフィラメントが横に広がり細長いテープ状の断面形状に変形し曲げやすくなるのに対して、1本の繊維からなるモノフィラメントは圧力に対する素材の圧縮変形はあるものの、マルチフィラメントのような変形はないため、圧力負荷があった場合の厚み変化が少ない。
【0034】
また、本発明に用いる2種類以上のポリマーからなるマルチフィラメントにおける2種類以上のポリマーとしては、化学構造の異なる2種以上のポリマーであってもよいし、少なくともその一部に共通した化学構造を有していても他の構造単位を導入して共重合体とすることで融点、軟化点等の物性が異になるようにした2種類以上のポリマーの組み合わせであってもよい。前者としては、化学構造が異なる結果、融点又は軟化点に差異がある組み合わせが好ましい。後者としては、例えばポリエチレンテレフタレートとそれより融点または軟化点の低い共重合ポリエチレンテレフタレート共重合体の組合せ等を好ましく挙げることができる。本発明においては、後述する熱融着の接着性、加工性等の観点から、少なくともその一部に共通した化学構造を有し、かつ他の構造単位を導入して共重合体とすることで融点等の物性が異になるようにした2種類以上のポリマーの組み合わせであることが、好ましい。
【0035】
本発明に用いる2種類以上のポリマーからなるマルチフィラメントとしては、混繊糸、芯鞘型複合繊維、サイドバイサイド型複合繊維のいずれも用いることが可能である。混繊糸としては、例えばポリマーAで構成される単独糸とポリマーBで構成される単独糸を混繊した混繊糸のように、ポリマー素材の異なる2種以上の単独糸を混繊されたものであり、芯鞘複合繊維としては、単糸が芯成分と鞘成分で構成されたマルチフィラメントであり、サイドバイサイド型複合繊維は、単糸が2種以上のポリマーがサイドバイサイド型に複合されたマルチフィラメントである。なかでも芯鞘複合繊維糸であることが好ましく、該芯鞘複合繊維糸の鞘成分が芯成分よりも融点または軟化点の低い成分とすることがさらに好ましい。本発明の液体分離膜モジュール用流路材において上記マルチフィラメントは熱融着していることが、液体流路構造を確保し、また、液体分離膜モジュールへの加工工程で優れた剛性を有し、かつ、使用中にRO分離膜を介して原液の高圧が作用しても厚み変化をよりいっそう抑えることが可能となる点から好ましい。同様の理由から混繊糸、サイドバイサイド型複合繊維を用いる場合においても、2種以上のポリマーの組み合わせとして、融点または軟化点の異なる組み合わせとすることが好ましい。
【0036】
このようにすることで、編成したトリコット編地を熱セットして融点または軟化点の低い成分を溶融あるいは軟化させて他の繊維と接着、融着して固化することで、編地を構成する繊維同士を固定することが可能となる。
【0037】
また、本発明に用いる繊度の異なる少なくとも2種類の繊維のうち、繊度が小さい合成繊維である合成繊維Aが50dtex以下であり、繊度が大きい合成繊維である合成繊維Bが33~90dtexであることが好ましい。このようにすることで、流路材を薄くしても剛性と液体流路構造を確保することが可能となる。なお、上記において、合成繊維A、Bは、合成繊維Aの繊度<合成繊維Bの繊度の関係にあることを前提とするので、合成繊維Bが33dtexである場合には、合成繊維Aは33dtex未満で選択される。好ましくは、合成繊維Aは、加工時の取り扱い易さや、糸切れ防止等の点から10dtex以上が良い。
【0038】
本発明においては、上記繊度が小さい方の合成繊維Aがモノフィラメントであることが、流路材をよりいっそう薄くできる点から好ましい。
【0039】
また、前記繊度が大きい方の合成繊維Bがマルチフィラメントであることが、トリコット編地の熱融着点をより多くでき、剛性、耐圧性をより向上させ得る点から好ましい。
【0040】
本発明において最も好ましいのは、合成繊維Aとしてモノフィラメントを用いてバック糸とし、合成繊維Bとしてマルチフィラメントを用いてフロント糸とする態様である。これにより、薄い流路材であっても従来の厚い流路材と同様の液体流路構造を確保し、また、液体分離膜モジュールへの加工工程で流路材が撓んでシワとなることのない剛性を有するという本発明の効果を極めて顕著に発揮することができる。
【0041】
本発明のトリコット編地流路材は、凸部分同士の距離(以下、溝幅と呼ぶ)が、80~330μmの範囲内であることが好ましい。溝幅が80μm以上あることで透過液の通水抵抗を低くすることができて好ましく、また、溝幅が330μm以下とすることでRO分離膜の落ち込みが生じないことから好ましい。さらに好ましくは、150~300μmが良い。
【0042】
上記の溝幅は、トリコット編地のウェル密度と、二重ループを形成する合成繊維の繊度、二重ループの膨らみやコース密度などで決まるが、前記トリコット編地のウェル密度は、35~70本/2.54cmの範囲内が好ましい。トリコット編地のウェル密度が35本/2.54cm以上あることで二重ループ同士の距離が狭くなりRO分離膜の落ち込みが生じないことから好ましく、また、トリコット編地のウェル密度が70本/2.54cm以下であると二重ループ同士の距離が必要な広さを確保して透過液の通水抵抗が低く抑えることができるので好ましい。さらに好ましくは、37~60本/2.54cmが良い。
【0043】
また、トリコット編地のコース密度は、40~65本/2.54cmの範囲内が好ましい。トリコット編地のコース密度が40本/2.54cm以上あることで、RO分離膜に作用した圧力が流路材であるトリコット編地に負荷された場合でも厚さの減少を抑えることが可能となり好ましい。またトリコット編地のコース密度が65本/2.54cm以下とすることでトリコット編地の目付を抑制することが可能となり、製品重量の増加、原価の増加を抑制することが可能となる。より好適には、コース密度は45~60本/2.54cmの範囲内にあることが良い。
【0044】
また、本発明で用いるトリコット編地の組織としては、ハーフ編、逆ハーフ編、クイーンズコード編など例示でき、逆ハーフ組織やダブルデンビー組織であることが好ましい。特にダブルデンビー組織を採用することで二重経編の地組織を構成する糸の本数を少なくできるので、透過水の流路を広くできるからである。また表と裏の両方をデンビー組織で形成したダブルデンビー組織とすることで、表と裏のいずれもループからループまでの距離が短く、寸法安定性に優れるので好適である。加えて、ループからループまでの距離が短く、少ない繊維使用量で編地を構成しても使用中の水圧に耐えることができる。
【0045】
また、ダブルデンビー組織の閉じ目で構成したものが好ましい。ループの形成方法としては閉じ目と開き目があるが、閉じ目とすることで二重ループを形成する合成繊維の膨らみを小さくすることが出来るので、二重ループ同士の距離が必要な広さを確保して透過液の通水抵抗を低く抑えることができるので好ましい。
【0046】
これら二重ループを形成する合成繊維は熱融着していることが好ましい。合成繊維同士が熱融着して固化した構成とすることで、使用に際して水圧が作用してもトリコット編地の繊維同士が一体化しているので変形や破損がなく、トリコット編地の凸部分も変形が少ないので透過液の通水抵抗を低く維持できることから好ましい。
【0047】
本発明で用いるトリコット編地に用いる合成繊維の例としてナイロン6やナイロン66等のポリアミド繊維、ポリエステル繊維、ポリアクリルニトリル繊維、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン繊維、ポリ塩化ビニル繊維等が挙げられ、これらから適宜選択し、合成繊維A、合成繊維Bとすることが可能である。特に使用中の水圧環境でも十分な強度を有し、かつ透過液中への成分の溶出が少ないことからポリエステル繊維が好適に用いられる。
【0048】
以下2種以上のポリマーで構成されるマルチフィラメントについて説明する。
【0049】
ポリエステル繊維を例にとると、融点または軟化点の異なる2種類以上のポリエステルで構成されることが好ましい。なぜなら融点の高いポリエステル(以下、ポリエステルHと略する)と、融点の低いポリエステル(以下、ポリエステルLと略する)とでトリコット編地を構成することで、使用中の水圧環境でも、ポリエステルLとポリエステルHとが互いに熱融着して固化した構成とすることで、繊維同士が互いに強固に一体化し得るからである。
【0050】
融点または軟化点の異なる2種類以上のポリエステルで構成する態様として、例えば、フィラメント糸からなる混繊糸や、芯鞘型あるいはサイドバイサイド型の複合繊維を用いることが例示できる。ポリエステルHとポリエステルLとがフィラメント単糸レベルで混合した混繊糸に比べ、フィラメント単糸がポリエステルHとポリエステルLとで構成される芯鞘複合糸で、かつ、鞘成分が芯成分よりも融点または軟化点の低い成分で構成されるものが、熱融着する融着点を増やせることから好ましい。
【0051】
上記ポリエステルLの融点または軟化点は、液体分離膜モジュールが使用前に熱水洗浄されるときもあることから、それに耐え得る程度、通常80℃以上であればよく、110℃以上であることが好ましい。
【0052】
本発明において、ポリエステルHとポリエステルLの融点差(本発明では融点を持たず軟化点がある場合の軟化点との差も融点差と称する)は少なくとも10℃、好ましくは20℃以上であれば良い。融点差が20℃以上あることで、凸部分の形を維持したままでポリエステルLのみを融着させて互いに固化させることが容易になる。融点差の上限としては、実用的な液体分離膜モジュールを与え得るトリコット編地流路材が得られる限り制限はないが、180℃が現実的である。
【0053】
ポリエステルHはアルキレンテレフタレートを主たる繰り返しとするポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートなどが挙げられる。
【0054】
ポリエステルLとしては前記アルキレンテレフタレートを主たる繰り返しとするポリエステルに例えば共重合することで融点差を発現させることができる。共重合する成分として、イソフタル酸、無水フタル酸、ジエチレングリコール等あるが、10℃以上の融点差を持たせられるものを適宜選択して用いる。
【0055】
ポリエステルHとポリエステルLの複合比率は適宜選択して良いが、重量比率で50:50~95:5の範囲内であれば十分な熱融着を確保でき、かつ繊維強度や収縮率も必要な範囲とできるので好ましい。より好ましくは70:30~90:10である。
【0056】
なお、ポリアミド繊維などの他の繊維においても、上記ポリエステル繊維と同様、融点または軟化点の異なる2種類以上の繊維で構成される混繊糸や、芯鞘型あるいはサイドバイサイド型の複合繊維を用いることができる。
【0057】
上記のように2種以上のポリマーで構成されるマルチフィラメントに組み合わせるモノフィラメントとしては、熱融着する場合の密着性の点から、少なくとも一部に共通した化学構造を有することが好ましい。なかでも合成繊維Aとしてポリエステルモノフィラメント、合成繊維Bとして、融点または軟化点の異なる2種類以上のポリマーを用い、鞘側に融点又は軟化点の低いポリエステルを配した芯鞘構造を有するマルチフィラメントとすることが,最も好ましい。
【0058】
このようにして得られたダブルデンビー組織のトリコット編地は熱セットして繊維同士を熱融着させることで、本発明のトリコット編地流路材を得ることができる。用いる合成繊維が芯鞘複合繊維糸である場合、鞘成分が芯成分よりも融点または軟化点の低い成分で構成されたものが好ましく、融点または軟化点の低い成分を含むことで、熱セットで繊維同士が熱融着し易くなるので好ましい。熱セットの方法は通常のピンテンター乾燥機やシリンダー乾燥機など本発明で規定する二重ループが得られる限り特に制約は無いが、幅設定の容易なピンテンター乾燥機が好適に用いられる。融点または軟化点が170~240℃の合成繊維を用いる場合、ピンテンター乾燥機の温度設定はそれよりも5℃以上高く設定すること、好ましくは10℃以上高く設定することで繊維同士の熱融着を進めることが可能となるので好ましい。上限としては経済的に、また安定して乾燥機の温度を制御できる点から30℃以下程度高く設定することが好ましい。
【0059】
かくして得られるトリコット編地は、液体分離膜モジュール用流路材として好適に用いることができ、なかでも純水や超純水、軟水化、排水回収、有価物回収などの液体分離膜モジュールとして好適に用いることができる。
【0060】
本発明の液体分離膜流路材は、使用中にRO分離膜を介して原液が4~5MPaの高圧で作用しても高い塩除去率を確保できることから、淡水をろ過して工業用水などにする淡水浄化用の液体分離膜モジュールで特に好適に用いることができる。液体分離膜モジュールとしては、中心管の回りに少なくとも逆浸透分離膜および透過側流路材が巻回している構造が好ましい。すなわちスパイラル型の液体分離膜モジュールが好ましい。図1はスパイラル型の液体分離膜モジュールの一例を示す概略斜視図である。液体分離膜モジュール6は透過液側流路材1を2枚のRO分離膜2で挟み込んでいる。さらにRO分離膜2の、透過側流路材1とは反対の側には、供給液の通水路材(供給液側通水路材3)を配置する。供給液の通水路材としてメッシュが使用できる。その結果、供給液側通水路材/RO分離膜/透過液側流路材/RO分離膜の順に構成されるユニットができあがる。集水孔4を有する中空の中心管5の周囲に該ユニットを一組又は複数組を巻き付けて液体分離膜モジュールとする。この液体分離膜モジュールの最外部にはケースがあってもよい。その透過液が通じる流路を形成するための透過側流路材に本発明のトリコット流路材を用いることが好ましい。
【実施例
【0061】
以下、本発明について実施例を挙げて説明するが、本発明は必ずしもこれに限定されるものではない。なお、本実施例で用いる各種特性の測定方法および総合評価の判断基準は、以下のとおりとした。
【0062】
[特性の測定方法]
以下の測定方法の内、特に断りのないものは、試料の調整、及び測定は、JIS-L-0105(2006)の標準状態(20±2℃、相対湿度65±4%)で行った。
【0063】
(1)密度(本/2.54cm)
JIS-L-1096(2010)附属書Fに準じて、デンシメータを用いてトリコット流路材のウェル数およびコース数を測定した。
【0064】
(2)厚み(mm)
ダイヤルゲージ((株)ミツトヨ製ダイヤルゲージNo.1109S-10、測定子No.101117直径10mmφ、スタンドNo.7002)を用い、トリコット編地流路材の厚みを測定した。なお、前記トリコット編地流路材の厚みは、トリコット編地流路材の地組織および二重ループを含むトリコット編地流路材の厚みである。
【0065】
(3)剛軟度
JIS-L-1096(2010)A法(45°カンチレバー法)に準じて、トリコット流路材のウェル方向およびコース方向について測定した。
【0066】
(4)流路の溝幅(μm)と流路の溝深さ(μm)
(株)キーエンス製のデジタルマイクロスコープVHX-5000を用いて倍率100倍で観察し、流路の溝幅と流路の溝深さを測定した。流路の溝深さを測定するに際しては、流路材を編目方向に垂直にカットしてから、その断面を同様の倍率で観察した。流路の溝幅と流路の溝深さは図2図3の方法で定義した。すなわち、流路の溝幅は、隣合う二重ループ8間に形成される流路の溝幅7であり、透過液の通水部分9に相当する。流路の溝深さは、二重ループ8の頂部からトリコット編地流路材の地組織11上部までの深さである流路の溝深さ10である。測定は全幅から無作為に3点を抽出し、それぞれ5回測定を行い、平均した。
【0067】
(5)耐圧性試験
トリコット流路材の表裏面を室温の天板で挟み、圧力2.4MPaで30分間加圧し、加圧前後の厚みを前記(2)と同様にして測定し下記式1から厚さ変化率を求めた。
厚さ変化率(%)=[(加圧後の厚さ/加圧前の厚さ)]×100 ・・・ (式1)
なお、上記において加圧後の厚さは、加圧後放圧して3分±2分後に測定した厚みを指す。
【0068】
[実施例1]
ポリエチレンテレフタレート(融点:255℃)を芯に、ポリエチレンテレフタレート系低融点ポリエステル(融点:225℃)を鞘に配置した芯鞘複合繊維糸(24フィラメント、56デシテックスをフロント糸として使い、ポリエチレンテレフタレート(融点:255℃)のみからなる22デシテックスのモノフィラメントをバック糸に用いて、32ゲージ(編機の単位長間にあるニードルの本数)のトリコット編機2枚筬で閉じ目のダブルデンビー組織に編成した。
【0069】
その際、フロント糸はランナー長130cm/Rで送り込み、かつ、バック糸はランナー長117cm/Rで送り込み、地組織と凸部分とを有する編地を形成した。しかる後に245℃に設定したピンテンター加工機で熱セットして、芯鞘複合繊維糸を熱融着し、ウェル密度が39本/2.54cm、コース密度が52本/2.54cmのトリコット編地流路材を得た。
【0070】
[比較例1]
ポリエチレンテレフタレートフィラメント(融点:255℃)にポリエチレンテレフタレート系低融点ポリエステルフィラメント(融点:225℃)を混繊してなるマルチフィラメント混繊糸(36フィラメント、84デシテックス)をフロント糸として使い、また、ポリエチレンテレフタレート(融点:255℃)のみからなるレギュラー原糸(18フィラメント、56デシテックス)をバック糸に用いて、実施例1と同じ32ゲージのトリコット編機2枚筬で閉じ目のダブルデンビー組織に編成した。
【0071】
その際、フロント糸はランナー長131cm/Rで送り込み、かつ、バック糸はランナー長121cm/Rで送り込み、地組織と凸部分とを有する編地を形成した。しかる後に実施例1と同様に熱セットして、マルチフィラメント混繊糸を熱融着し、ウェル密度が38本/2.54cm、コース密度が51本/2.54cmのトリコット編地流路材を得た。
【0072】
[比較例2]
ポリエチレンテレフタレート(融点:255℃)を芯に、ポリエチレンテレフタレート系低融点ポリエステル(融点:225℃)を鞘に配置した芯鞘複合繊維糸(24フィラメント、56デシテックス)をフロント糸として使い、また、ポリエチレンテレフタレート(融点:255℃)のみからなるレギュラー原糸(18フィラメント、56デシテックス)をバック糸に用いて、実施例1と同じ32ゲージのトリコット編機2枚筬で閉じ目のダブルデンビー組織に編成した。
【0073】
その際、フロント筬にはランナー長124cm/Rで芯鞘複合繊維糸をフロント糸として送り込み、かつ、バック筬にはランナー長119cm/Rでモノフィラメントをバック糸として送り込み、地組織と凸部分とを有する編地を形成した。しかる後に実施例1と同様に熱セットして、芯鞘複合繊維糸を熱融着し、ウェル密度が39.3本/2.54cm、コース密度が53.5本/2.54cmのトリコット編地流路材を得た。
【0074】
[実施例2]
ポリエチレンテレフタレートフィラメント(融点:255℃)にポリエチレンテレフタレート系低融点ポリエステルフィラメント(融点:225℃)を混繊してなるマルチフィラメント混繊糸(36フィラメント、84デシテックス)をフロント糸として使い、ポリエチレンテレフタレート(融点:255℃)のみからなる22デシテックスのモノフィラメントをバック糸に用いて、32ゲージ(編機の単位長間にあるニードルの本数)のトリコット編機2枚筬で閉じ目のダブルデンビー組織に編成した。
【0075】
その際、フロント糸はランナー長130cm/Rで送り込み、かつ、バック糸はランナー長117cm/Rで送り込み、地組織と凸部分とを有する編地を形成した。しかる後に245℃に設定したピンテンター加工機で熱セットして、マルチフィラメント混繊糸を熱融着し、ウェル密度が37.3本/2.54cm、コース密度が51.3本/2.54cmのトリコット編地流路材を得た。
【0076】
[実施例3]
実施例2と同じ編地を用いて、245℃に設定したピンテンター加工機で熱セットして、マルチフィラメント混繊糸を熱融着し、ウェル密度が44.8本/2.54cm、コース密度が52.0本/2.54cmのトリコット編地流路材を得た。なお、ウェル密度は実施例2より高くなるように熱セット時の編地の弛みを大きくして加工した。
【0077】
[実施例4]
実施例2と同じ編地を用いて、245℃に設定したピンテンター加工機で熱セットして、マルチフィラメント混繊糸を熱融着し、ウェル密度が53.0本/2.54cm、コース密度が52.8本/2.54cmのトリコット編地流路材を得た。
【0078】
表1に示すように、実施例1、2は比較例1、2と比較して、大幅に厚みを小さくしたにも関わらず、流路材の厚さに占める溝深さの割合、剛軟度の低い方の値、さらには、耐圧性は、比較例と同等の値を示し、液体分離膜モジュールへの加工工程で流路材が撓んでシワとなることのない剛性を有し、かつ、使用中にRO分離膜を介して原液の高圧が作用しても厚み変化が少ない流路材である。また、実施例3、4は、比較例1と比較して、厚みを小さくしたにも関わらず、流路材の厚さに占める溝深さの割合や耐圧性は同等であり、薄くても従来の厚い流路材と同様の流体流路構造を確保した流路材である。
【0079】
【表1】
【符号の説明】
【0080】
1:透過液側流路材
2:RO分離膜
3:供給液側通水路材
4:集水孔
5:中心管
6:液体分離膜モジュール
7:流路の溝幅
8:二重ループ
9:透過液の通水部分
10:流路の溝深さ
11:トリコット編地流路材の地組織
図1
図2
図3