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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】軸受用摺動部品及びハブユニット軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/44 20060101AFI20231003BHJP
   F16C 33/78 20060101ALI20231003BHJP
   F16C 19/18 20060101ALI20231003BHJP
   F16C 33/41 20060101ALI20231003BHJP
   F16J 15/3232 20160101ALI20231003BHJP
   F16J 15/3256 20160101ALI20231003BHJP
   F16J 15/3284 20160101ALI20231003BHJP
【FI】
F16C33/44
F16C33/78 Z
F16C19/18
F16C33/41
F16J15/3232 201
F16J15/3256
F16J15/3284
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019220104
(22)【出願日】2019-12-05
(65)【公開番号】P2021089040
(43)【公開日】2021-06-10
【審査請求日】2022-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神谷 良雄
(72)【発明者】
【氏名】若林 達男
【審査官】藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-054111(JP,A)
【文献】特開2002-372062(JP,A)
【文献】特開平04-290682(JP,A)
【文献】特開2008-304018(JP,A)
【文献】特開2012-197782(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00-19/56
F16C 33/30-33/66
F16C 33/72-33/82
F16J 15/3232
F16J 15/3256
F16J 15/3284
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
他の部材に摺接する摺接面を有し、ポリマー組成物により構成された軸受用摺動部品であって、
前記ポリマー組成物は、ポリマーと、該ポリマーに混入された充填材とを含み、
前記充填材は、前記ポリマーよりも線膨張率が小さい材料からなる、表面に稜部を有しない粒子により構成されており、
前記充填材を構成する前記粒子のサイズが、JISZ 8801で規定されるふるい分け法によって、ほぼ同じ大きさに揃えられており、
前記摺接面は、前記ポリマー組成物の射出成形又は加硫成形により成形された面であり、かつ、前記射出成形又は加硫成形において前記ポリマー組成物の成形収縮によって形成された、潤滑剤を保持するための微小な凹部を多数有する、
軸受用摺動部品。
【請求項2】
前記ポリマー組成物における前記充填材の混入量が10重量%以上30重量%以下であり、
前記充填材を構成する前記粒子のサイズが、10μm以上30μm以下である、
請求項1に記載の軸受用摺動部品。
【請求項3】
円周方向複数箇所に転動体を転動自在に保持するためのポケットを有し、前記摺接面が該ポケットの内面である保持器として用いられ、
前記ポリマーが熱可塑性樹脂である、
請求項1又は2に記載の軸受用摺動部品。
【請求項4】
シールリップを有し、前記摺接面が該シールリップの先端部の表面である、シール部材として用いられ、
前記ポリマーがゴムである、
請求項1又は2に記載の軸受用摺動部品。
【請求項5】
内周面に外輪軌道を有する、外方部材と、
外周面に内輪軌道を有する、内方部材と、
前記外輪軌道と前記内輪軌道との間に配置された、複数個の転動体と、
円周方向複数箇所にポケットを有し、該ポケットに前記転動体を転動自在に保持した保持器と、を備え、
前記保持器が、請求項3に記載の軸受用摺動部品である、
ハブユニット軸受。
【請求項6】
内周面に外輪軌道を有する、外方部材と、
外周面に内輪軌道を有する、内方部材と、
前記外輪軌道と前記内輪軌道との間に転動自在に配置された、複数個の転動体と、
前記外方部材の内周面と前記内方部材の外周面との間に存在する内部空間の軸方向端部開口を塞ぐ、シール部材を有する密封装置と、を備え、
前記シール部材が、請求項4に記載の軸受用摺動部品である、
ハブユニット軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保持器やシール部材などの軸受用摺動部品、及び、自動車の車輪を懸架装置に対して回転可能に支持するハブユニット軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
ハブユニット軸受は、内周面に複列の外輪軌道を有する外方部材と、外周面に複列の内輪軌道を有する内方部材と、複列の外輪軌道と複列の内輪軌道との間に配置された複数個の転動体とを備える。ハブユニット軸受を自動車に組み付けた状態では、外方部材と内方部材とのうちの一方の部材が、懸架装置に結合固定され、かつ、外方部材と内方部材とのうちの他方の部材に、車輪が支持固定される。
【0003】
ハブユニット軸受は、転動体を転動可能に保持する保持器と、外方部材の内周面と内方部材の外周面との間に存在する内部空間の軸方向端部開口を塞ぐ密封装置とを、さらに備える。保持器は、円周方向複数箇所にポケットを有し、ポケット内に転動体を転動可能に保持している。密封装置は、シールリップを有するシール部材を備え、シールリップの先端部の表面を相手面に摺接させている。
【0004】
ところで、近年、自動車の低燃費化、高効率化を進めるために、ハブユニット軸受の低トルク化の要求が高まっている。ハブユニット軸受の低トルク化の方法として、例えば、保持器(軸受用摺動部品)のポケットの内面(摺接面)と転動体の表面との摺接部や、シール部材(軸受用摺動部品)を構成するシールリップの先端部の表面(摺接面)と相手面との摺接部の摩擦力を低減することが考えられる。
【0005】
特開2002-155949号公報(特許文献1)には、保持器のポケットの内面と転動体の表面との摺接部の摩擦力を低減するために、ポケットの内面を凹凸面により構成することで、ポケットの内面と転動体の表面との接触面積を減少させ、かつ、ポケットの内面に潤滑剤を保持しやすくした構造が記載されている。また、同公報には、保持器を合成樹脂の射出成形により製造する際に、凹凸形状を有する金型を用いて、ポケットの内面を凹凸面に成形する方法が記載されている。
【0006】
特開2012-193835号公報(特許文献2)には、シール部材を構成するシールリップの先端部の表面と相手面との摺接部の摩擦力を低減するために、シールリップの先端部の表面を凹凸面により構成することで、シールリップの先端部の表面と相手面との接触面積を減少させ、かつ、シールリップの先端部の表面に潤滑剤を保持しやすくした構造が記載されている。また、同公報には、シール部材をゴムの射出成形(加硫成形)により製造する際に、凹凸形状を有する金型を用いて、シールリップの先端部の表面を凹凸面に成形する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2002-155949号公報
【文献】特開2012-193835号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したような従来構造では、保持器のポケットの内面やシールリップの先端部の表面を凹凸面に成形するために、金型の内面に、コストが嵩む機械的な加工を施すことによって、凹凸形状を形成する必要がある。このため、保持器やシール部材の成形コストが高くなりやすい。
【0009】
特に、保持器の場合は、一般に多数個取りが可能なアキシアルドロー成形で射出成形されるが、ポケット内面の周方向面(転動体との摺接面)は凹凸形状の方向と型の抜き方向の角度差が大きいため、離型の際、凹凸形状を削ったり、潰したりして、凹凸形状の成形が難しい。
【0010】
また、シール部材の場合も、上型と下型に挟まれたキャビティで加硫成形が行なわれるので、成形後、離型の際、ラジアルリップの表面は凹凸形状の方向と型の抜き方向の角度差が大きいため、離型の際、凹凸形状を削ったり、潰したりして、凹凸形状の成形が難しい。
【0011】
また、機械的な加工を施すことによって凹凸形状が形成された金型により、保持器のポケットの内面やシールリップの先端部の表面を凹凸面に成形すると、成形された凹凸面は、尖った稜部を持つことが多く、稜部により潤滑剤が掻き取られ、その分、摩擦力の低減効果が小さくなる可能性がある。
【0012】
本発明は、上述のような事情に鑑み、摩擦力の低減効果を良好に確保するための凹凸面を成形コストを抑えつつ成形された軸受用摺動部品及びハブユニット軸受の構造を実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の軸受用摺動部品は、他の部材に摺接する摺接面を有し、ポリマー組成物により構成されている。
前記ポリマー組成物は、ポリマーと、該ポリマーに混入された充填材とを含む。
前記充填材は、前記ポリマーよりも線膨張率が小さい材料からなる、表面に稜部を有しない粒子により構成されている。
前記摺接面は、前記ポリマー組成物の射出成形又は加硫成形により成形された面であり、かつ、前記射出成形又は加硫成形において前記ポリマー組成物の成形収縮によって形成された、潤滑剤を保持するための微小な凹部を多数有する。
【0014】
本発明の軸受用摺動部品の一態様では、前記ポリマー組成物における前記充填材の混入量が10重量%以上30重量%以下であり、前記充填材を構成する前記粒子のサイズが、5μm以上50μm以下である。
【0015】
本発明の軸受用摺動部品の一態様では、前記軸受用摺動部品が、円周方向複数箇所に転動体を転動自在に保持するためのポケットを有し、前記摺接面が該ポケットの内面である、保持器であり、前記ポリマーが熱可塑性樹脂である。
【0016】
本発明の軸受用摺動部品の一態様では、前記軸受用摺動部品が、シールリップを有し、前記摺接面が該シールリップの先端部の表面である、シール部材であり、前記ポリマーがゴムである。
【0017】
本発明のハブユニット軸受の第1態様は、内周面に外輪軌道を有する外方部材と、外周面に内輪軌道を有する内方部材と、前記外輪軌道と前記内輪軌道との間に配置された複数個の転動体と、円周方向複数箇所にポケットを有し、該ポケットに前記転動体を転動自在に保持した保持器とを備え、前記保持器が、本発明の軸受用摺動部品である。
【0018】
本発明のハブユニット軸受の第2態様は、内周面に外輪軌道を有する外方部材と、外周面に内輪軌道を有する内方部材と、前記外輪軌道と前記内輪軌道との間に配置された複数個の転動体と、前記外方部材の内周面と前記内方部材の外周面との間に存在する内部空間の軸方向端部開口を塞ぐ、シール部材を有する密封装置とを備え、前記シール部材が、本発明の軸受用摺動部品である。
なお、本発明のハブユニット軸受を実施する場合、第1態様と第2態様とを同時に実施しても良い。
【発明の効果】
【0019】
本発明の軸受用摺動部品によれば、摩擦力の低減効果を良好に確保することができ、しかも成形コストを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、実施の形態の第1例のハブユニット軸受の断面図である。
図2図2は、実施の形態の第1例の保持器を軸方向に関してポケットの開口側から見た図である。
図3図3は、実施の形態の第1例の保持器を軸方向に関してリム部側から見た図である。
図4図4は、図2のA-O-A断面図である。
図5図5は、図1のB部拡大図である。
図6図6は、図1のC部拡大図である。
図7図7は、実施の形態の第1例の軸受用摺動部品(保持器、シール部材)の表面近傍を拡大して模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施の形態の第1例について、図1図7を用いて説明する。
【0022】
本例のハブユニット軸受1は、内輪回転型、かつ、駆動輪用であって、外方部材に相当する外輪2と、内方部材に相当するハブ3と、それぞれが転動体である複数個の玉4と、1対の保持器5と、それぞれが密封装置であるシールリング6及び組み合わせシールリング7を備える。
【0023】
なお、ハブユニット軸受1に関して、軸方向内側は、車両への組み付け状態で車両の幅方向中央側となる、図1の右側であり、軸方向外側は、車両への組み付け状態で車両の幅方向外側となる、図1の左側である。
【0024】
外輪2は、中炭素鋼などの硬質金属により構成されている。外輪2は、内周面に、複列の外輪軌道8a、8bを有し、かつ、軸方向中間部に、径方向外側に向けて突出した静止フランジ9を有する。静止フランジ9は、径方向中間部の円周方向複数箇所に、軸方向に貫通する支持孔10を有する。外輪2は、静止フランジ9の支持孔10に螺合した支持ボルトにより、懸架装置に対し支持固定され、車輪が回転する際にも回転しない。
【0025】
ハブ3は、外周面に、複列の内輪軌道11a、11bを有し、外輪2の径方向内側に外輪2と同軸に配置されている。ハブ3は、外輪2の軸方向外側の端部よりも軸方向外側に位置する部分に、径方向外側に向けて突出した回転フランジ12を有し、かつ、軸方向外側の端部に、円筒状のパイロット部13を有する。回転フランジ12は、径方向中間部の円周方向複数箇所に、軸方向に貫通する取付孔14を有する。取付孔14のそれぞれには、スタッド15が圧入されている。ディスクやドラムなどの制動用回転体、及び、車輪を構成するホイールは、中心部に備えられた中心孔に、パイロット部13を挿通し、かつ、径方向中間部の円周方向複数箇所に備えられた通孔に、スタッド15を挿通した状態で、スタッド15の先端部にハブナットを螺合することにより、回転フランジ12に結合される。
【0026】
なお、回転フランジの取付孔を、雌ねじ孔により構成することもできる。この場合には、制動用回転体に備えられた通孔と、ホイールに備えられた通孔とを挿通したハブボルトを、取付孔に螺合することにより、制動用回転体及び車輪を回転フランジに結合固定する。
【0027】
ハブ3は、中心部に、軸方向に貫通するスプライン孔16を有する。スプライン孔16には、エンジンや電動モータなどの駆動源により、直接又はトランスミッションを介して回転駆動させる駆動軸の先端部がスプライン係合される。自動車の走行時には、駆動軸によりハブ3を回転駆動することで、ハブ3の回転フランジ12に結合固定された車輪及び制動用回転体を回転駆動する。
【0028】
本例のハブ3は、内輪17とハブ輪18とを組み合わせてなる。
【0029】
内輪17は、軸受鋼などの硬質金属により構成されている。内輪17は、外周面に、複列の内輪軌道11a、11bのうちの軸方向内側の内輪軌道11aを有する。
【0030】
ハブ輪18は、中炭素鋼などの硬質金属により構成されている。ハブ輪18は、外周面の軸方向中間部に、複列の内輪軌道11a、11bのうちの軸方向外側の内輪軌道11bを有する。ハブ輪18は、軸方向外側の内輪軌道11bよりも軸方向外側に位置する部分に、径方向外側に向けて突出した回転フランジ12を有し、かつ、軸方向外側の端部に、円筒状のパイロット部13を有する。さらに、ハブ輪18は、中心部に、軸方向に貫通するスプライン孔16を有する。
【0031】
ハブ輪18は、軸方向外側の内輪軌道11bよりも軸方向内側に位置する部分に、軸方向外側に隣接する部分よりも外径が小さく、内輪17が外嵌される嵌合筒部19を有する。ハブ輪18は、嵌合筒部19の軸方向内側の端部から径方向外側に向けて折れ曲がり、内輪17の軸方向内側の端面を押え付けるかしめ部20をさらに有する。すなわち、本例のハブ3は、ハブ輪18の嵌合筒部19に内輪17を外嵌した状態で、嵌合筒部19の軸方向外側の端部に存在する段差面21と、かしめ部20との間で内輪17を軸方向両側から挟持して、内輪17とハブ輪18とを結合固定することにより構成されている。ただし、内輪とハブ輪とをナットにより結合固定することもできる。
【0032】
玉4は、複列の外輪軌道8a、8bと複列の内輪軌道11a、11bとの間に、それぞれの列ごとに複数個ずつ、円周方向に離隔して配置されるとともに、それぞれの列の保持器5により転動自在に保持されている。これにより、ハブ3は、外輪2の径方向内側に回転自在に支持されている。本例では、転動体として玉4を使用しているが、転動体として円すいころを使用することもできる。また、本例では、軸方向内側列の玉4のピッチ円直径と、軸方向外側列の玉4のピッチ円直径とを互いに同じとしているが、本発明は、軸方向内側列の転動体のピッチ円直径と、軸方向外側列の転動体のピッチ円直径とが互いに異なる異径PCD型のハブユニット軸受に適用することもできる。
【0033】
軸受用摺動部品である保持器5は、合成樹脂製の冠型保持器であり、図2図4に示すように、円環状のリム部22と、リム部22の円周方向等間隔となる複数箇所から、軸方向に関して片側かつ径方向に関して外側に突出した柱部23とを備える。そして、リム部22と円周方向に隣り合う1対の柱部23とにより三方を囲まれた部分を、玉4を転動自在に保持するためのポケット24としている。摺接面であるポケット24の内面は、その曲率半径が玉4の表面(転動面)の曲率半径よりも僅かに大きい部分球状又は部分円筒状凹面により構成されている。
【0034】
なお、保持器5に関して、軸方向片側は、図1の右側の列の保持器5については右側であり、図1の左側の列の保持器5については左側である。また、保持器5に関して、軸方向他側は、図1の右側の列の保持器5については左側であり、図1の左側の列の保持器5については右側である。
【0035】
本例では、ポケット24の内面を含む、保持器5の表面は、微小な凹部α1を多数有する(表面近傍を拡大して模式的に示す断面図である、図7参照)。凹部α1の開口周縁部は、尖った稜部ではなく、滑らかな凸曲面により構成されている。すなわち、保持器5の表面は、このような微小な凹部α1を多数有する、尖った稜部を持たない微細な凹凸面S1により構成されている。
【0036】
外輪2の内周面とハブ3の外周面との間に存在し、かつ、玉4が配置された、略円筒状の内部空間25には、潤滑剤であるグリースが封入されている。玉4の表面と外輪軌道8a、8b及び内輪軌道11a、11bとの転がり接触部、並びに、玉4の表面と保持器5のポケット24の内面との摺接部は、内部空間25に封入されたグリースにより潤滑されている。特に、本例では、ポケット24の内面に備えられた多数の微小な凹部α1を、グリースを保持するためのグリース溜りとして用いている。
【0037】
シールリング6は、内部空間25の軸方向外側の開口部を塞ぐ。これにより、泥水などの異物が、外部空間から内部空間25の軸方向外側の開口部を通じて、内部空間25に侵入したり、内部空間25内に封入したグリースが外部空間に漏洩したりすることを防止している。
【0038】
シールリング6は、図5に示すように、芯金26と、軸受用摺動部品であるシール部材27とを備える。
【0039】
芯金26は、軟鋼板などの金属板を断面略L字形に曲げ成形することにより、全体を円環状に構成されている。芯金26は、外輪2の軸方向外側の端部に内嵌固定されている。
【0040】
シール部材27は、ゴム製であり、芯金26に加硫接着により固定されている。シール部材27は、3本のシールリップ28a、28b、28cを有する。このうちの1本のシールリップ(ラジアルリップ)28aは、摺接面である先端部の表面を、相手面であるハブ3の軸方向中間部外周面に全周にわたって摺接させており、残りの2本のシールリップ(アキシアルリップ)28b、28cのそれぞれは、摺接面である先端部の表面を、相手面である回転フランジ12の軸方向内側面に全周にわたって摺接させている。
【0041】
本例では、3本のシールリップ28a、28b、28cのそれぞれの先端部の表面を含む、シール部材27の表面は、微小な凹部α2(図7参照)を多数有する。凹部α2の開口周縁部は、尖った稜部ではなく、滑らかな凸曲面により構成されている。すなわち、シール部材27の表面は、このような微小な凹部α2を多数有する、尖った稜部を持たない微細な凹凸面S2により構成されている。
【0042】
3本のシールリップ28a、28b、28cのそれぞれの先端部の表面と、相手面であるハブ3の軸方向中間部外周面又は回転フランジ12の軸方向内側面との摺接部は、グリースにより潤滑されている。特に、本例では、3本のシールリップ28a、28b、28cのそれぞれの先端部の表面に備えられた多数の微小な凹部α2を、グリースを保持するためのグリース溜りとして用いている。
【0043】
組み合わせシールリング7は、外輪2の軸方向内側の端部内周面とハブ3の軸方向内側の端部外周面との間に装着され、内部空間25の軸方向内側の開口部を塞ぐ。これにより、泥水などの異物が、外部空間から内部空間25の軸方向内側の開口部を通じて、内部空間25に侵入したり、内部空間25内に封入したグリースが外部空間に漏洩したりすることを防止している。
【0044】
組み合わせシールリング7は、図6に示すように、スリンガ29とシールリング30とを備える。
【0045】
スリンガ29は、ステンレス鋼板や防錆処理された軟鋼板などの防錆性を持つ金属板を曲げ成形することにより、断面L字形で全体を円環状に構成されている。スリンガ29は、ハブ3の軸方向内側の端部外周面に外嵌固定されたスリンガ円筒部31と、スリンガ円筒部31の軸方向内側の端部から径方向外側に向けて折れ曲がった、円輪状のスリンガ側板部32とを有する。
【0046】
シールリング30は、芯金33と、軸受用摺動部品であるシール部材34とを備える。
【0047】
芯金33は、軟鋼板などの金属板を曲げ成形することにより、断面略L字形で全体を円環状に構成されている。芯金33は、外輪2の軸方向内側の端部内周面に内嵌固定された芯金円筒部35と、芯金円筒部35の軸方向外側の端部から径方向内側に向けて折れ曲がった、略円輪状の芯金側板部36とを有する。
【0048】
軸受用摺動部品であるシール部材34は、ゴム製であり、芯金33に加硫接着により固定されている。シール部材34は、3本のシールリップ37a、37b、37cを備える。このうちの1本のシールリップ(ラジアルリップ)37aは、摺接面である先端部の表面を、相手面であるスリンガ円筒部31の外周面に全周にわたって摺接させている。残りの2本のシールリップ(アキシアルリップ)37b、37cのそれぞれは、摺接面である先端部の表面を、相手面であるスリンガ側板部32の軸方向外側面に全周にわたって摺接させている。
【0049】
本例では、3本のシールリップ37a、37b、37cのそれぞれの先端部の表面を含む、シール部材34の表面は、微小な凹部α2(図7参照)を多数有する。凹部α2の開口周縁部は、尖った稜部ではなく、滑らかな凸曲面により構成されている。すなわち、シール部材34の表面は、このような微小な凹部α2を多数有する、尖った稜部を持たない微細な凹凸面S2により構成されている。
【0050】
3本のシールリップ37a、37b、37cのそれぞれの先端部の表面と、相手面であるスリンガ円筒部31の外周面又はスリンガ側板部32の軸方向外側面との摺接部は、グリースにより潤滑されている。特に、本例では、3本のシールリップ37a、37b、37cのそれぞれの先端部の表面に備えられた多数の微小な凹部α2を、グリースを保持するためのグリース溜りとして用いている。
【0051】
次に、保持器5の製造方法について説明する。保持器5は、合成樹脂の射出成形により製造する。すなわち、保持器5の製造方法は、合成樹脂の射出成形工程を備える。
【0052】
本例では、保持器5を構成する合成樹脂として、基材と、基材に混入された充填材とを含む、ポリマー組成物X1を用いる(図7参照)。基材は、ポリマーP1により構成されている。充填材は、ポリマーP1よりも線膨張率が小さい材料からなる、表面に稜部を有しない粒子Q1により構成されている。
【0053】
ポリマーP1は、ポリアミド樹脂(PA(線膨張率:5.9×10-5/K))、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS(線膨張率:5.5×10-5/K))、ポリアセタール樹脂(POM(線膨張率:8.5×10-5/K))などの熱可塑性樹脂である。
【0054】
粒子Q1は、線膨張率が5×10-6/K以下の材料により構成することが好ましく、該材料として、例えば、無水珪酸(線膨張率:0.5×10-6/K)、ガラス(線膨張率:3×10-6/K)、グラファイト(線膨張率:5×10-6/K)などを用いることができる。なお、後述する射出成形工程によって凹凸面S1を形成するためには、粒子Q1を構成する材料の線膨張率は、できるだけ小さいことが好ましい。
【0055】
粒子Q1の形状は、表面に稜部を有していなければ、図7に示すような球形のほか、楕円球形、豆形、俵形などの任意の形状を採用することができる。なお、後述する射出成形工程によって凹凸面S1を形成するためには、粒子Q1の形状は、できるだけ球に近い形状(略球形)であることが好ましい。
【0056】
粒子Q1のサイズは、例えば、5μm以上50μm以下とすることができ、10μm以上30μm以下とすることが好ましい。なお、本発明において、粒子のサイズとは、JIS Z 8801で規定されるふるい分け法によって定義される粒子の大きさである。なお、後述する射出成形工程によって凹凸面S1を形成するためには、充填材を構成する粒子Q1のサイズは、できるだけ揃っている(ほぼ同じ大きさである)ことが好ましい。
【0057】
ポリマー組成物X1における充填材(粒子Q1)の混入量は、例えば、10重量%以上30重量%以下とすることができ、10重量%以上20重量%以下であることが好ましい。
【0058】
保持器5を製造するための射出成形工程は、溶融樹脂の充填口を持ち、移動しない固定型と、固定型に対して保持器5の軸方向に遠近動する可動型を組み合わせてなる金型装置を用いて行う。本例では、保持器5の表面を成形する2つの金型(固定型及び可動型)の内面は、微小な凹凸が存在しない滑らかな平面又は曲面F(図7参照)である。射出成形工程を行う際には、2つの金型を最も近づけた状態で、これらの金型の内面同士の間に画成されたキャビティ内に、加熱溶融させたポリマー組成物X1を充填する(流し込む)。そして、このポリマー組成物X1をキャビティ内で冷却固化させることで、保持器5を成形する。
【0059】
特に、本例では、このようにポリマー組成物X1が冷却固化(凝固)する際に発生する成形収縮(体積で2~4%位収縮)により、表面近傍に存在するポリマーP1を収縮させることで、表面に、微小な凹部α1を多数有する、尖った稜部を持たない微細な凹凸面S1(図7参照)を成形する。一般に、射出成形を行う際に、充填材である粒子Q1は表面に露出せず、粒子Q1は表面から沈んだ位置に存在し、粒子Q1の保持器5表面側と粒子Q1間をポリマーP1が埋めている。充填材である粒子Q1はもともと固体であるため、成形収縮は発生せず、成形収縮はポリマーP1のみに発生するので、表面には粒子Q1を覆う部分が凸で、粒子Q1間を凹とする凹凸面が構成される。また、粒子Q1を構成する材料の線膨張率は、ポリマーP1の線膨張率よりも小さいため、ポリマー組成物X1の射出成形温度(ポリマーP1の溶融温度以上、例えば250℃以上)から冷却する際には、ポリマーP1が、表面近傍に存在する粒子Q1よりも多く収縮する。この結果、表面のうち、粒子Q1間に位置する箇所に発生した、成形収縮に基づく微小な凹部α1がさらに成長することで、表面に、尖った稜部を持たない微細な凹凸面S1が成形される。なお、図7では、模式的に、複数の粒子Q1を、同サイズの球形で、きれいに並んだ状態で描いている。ただし、実際には、複数の粒子Q1の形状及びサイズは異なる場合が多く、粒子Q1間の間隔は場所によって異なる。そして、粒子Q1間の間隔が大きい箇所、すなわち、ポリマーP1の体積が大きい箇所ほど収縮量が多くなり、該収縮量に応じた大きさ(広さ及び深さ)の凹部α1が形成される。なお、凹凸面S1を構成する凹部α1の大きさは、粒子Q1のサイズや、ポリマー組成物X1における粒子Q1の混入量などを適宜選択することにより調整可能である。
【0060】
そして、上述のようにポリマー組成物X1をキャビティ内で冷却固化させることで、保持器5を成形した後、可動型を軸方向に移動しキャビティを開き、このキャビティから保持器5を取り出す。
【0061】
また、保持器5の製造方法に関しては、上述のような射出成形工程により得られた中間素材を加熱する、二次加熱(アニーリング)工程を追加することもできる。このような二次加熱工程を追加することにより、ポリマーP1の結晶化度を高めて、ポリマーP1を収縮させれば、より深い凹部α1を有する凹凸面S1を得ることができる。
【0062】
次に、シールリング6、30を構成するシール部材27、34の製造方法について説明する。シール部材27、34は、ゴムの加硫成形により製造する。
【0063】
本例では、シール部材27、34を構成するゴムとして、基材と、基材に混入された充填材とを含む、ポリマー組成物X2を用いる(図7参照)。基材は、ポリマーP2により構成されている。充填材は、ポリマーP2よりも線膨張率が小さい材料からなる、表面に稜部を有しない粒子Q2により構成されている。本例では、ポリマー組成物X2には、加硫剤、可塑剤、カーボンブラックや珪砂などの補強材、ワックスなどの潤滑剤(摩耗改良剤、摩擦改良剤)などを、必要に応じて、適宜添加配合している。
【0064】
ポリマーP2は、フッ素ゴム(FKM(線膨張率:0.1~1×10-4/K))、ニトリルゴム(NBR(線膨張率:2.2~2.4×10-4/K))、シリコーンゴム(VMQ(線膨張率:2.5~4×10-4/K))などのゴム材料である。
【0065】
粒子Q2は、線膨張率が5×10-6/K以下の材料により構成することが好ましく、該材料として、例えば、無水珪酸(線膨張率:0.5×10-6/K)、ガラス(線膨張率:3×10-6/K)、グラファイト(線膨張率:5×10-6/K)などを用いることができる。なお、後述する加硫成形工程によって凹凸面S2を形成するためには、粒子Q2を構成する材料の線膨張率は、できるだけ小さいことが好ましい。
【0066】
粒子Q2の形状は、表面に稜部を有していなければ、図7に示すような球形のほか、楕円球形、豆形、俵形などの任意の形状を採用することができる。なお、後述する加硫成形工程によって凹凸面S2を形成するためには、粒子Q2の形状は、できるだけ球に近い形状(略球形)であることが好ましい。
【0067】
粒子Q2のサイズは、例えば、5μm以上50μm以下とすることができ、5μm以上25μm以下とすることが好ましい。なお、後述する加硫成形工程によって凹凸面S2を形成するためには、充填材を構成する粒子Q2のサイズは、できるだけ揃っている(ほぼ同じ大きさである)ことが好ましい。
【0068】
ポリマー組成物X2における充填材(粒子Q2)の混入量は、例えば、10重量%以上30重量%以下とすることができ、15重量%以上25重量%以下であることが好ましい。
【0069】
シール部材27、34を製造するための加硫成形工程は、互いに遠近動する上型及び下型を組み合わせてなる金型装置を用いて行う。本例では、シール部材27、34の表面を成形する2つの金型(上型及び下型)の内面は、微小な凹凸が存在しない滑らかな平面又は曲面Fである。加硫成形工程を行う際には、下型に芯金(26、33)と予備成形された未加硫のポリマー組成物X2(ポリマーP2が未加硫ゴムの状態のポリマー組成物X2)の塊を置き、上型を閉め切り(2つの金型を最も近づけた状態とし)、これらの金型の内面同士の間に画成されるキャビティ内で、芯金26、33とゴムを接着するとともに、加硫成形する。
【0070】
特に、本例では、このようにポリマー組成物X2が加硫成形(架橋)される際に発生する成形収縮(体積で4~6%位収縮)により、表面近傍に存在するポリマーP2を、表面近傍に存在する粒子Q2よりも多く収縮させることで、表面に、微小な凹部α2を多数有する、尖った稜部を持たない微細な凹凸面S2(図7参照)を成形する。加硫成形を行う際に、未加硫ゴムはさらさらの液体状態になるので、保持器5の射出成形時と同様に、充填材である粒子Q2は表面に露出せず、粒子Q2は表面から沈んだ位置に存在し、粒子Q2のシールリップ(28a~28c、37a~37c)の摺接面側と粒子Q2間をポリマーP2が埋めている。充填材である粒子Q2はゴムではないため、加硫成形による収縮は発生せず、加硫による成形収縮はポリマーP2のみに発生するので、表面には粒子Q2を覆う部分が凸で、粒子Q2を凹とする凹凸面が構成される。また、粒子Q2を構成する材料の線膨張率は、ポリマー組成物X2の加硫成形温度(例えば250℃以上)から冷却する際には、ポリマーP2が表面近傍に存在する粒子Q2よりも多く収縮する。この結果、表面のうち、粒子Q2間に発生した、加硫成形による収縮に基づく微小な凹部α2がさらに成長することで、表面に、尖った稜部を持たない微細な凹凸面S2が形成される。なお、凹凸面S2を構成する凹部α2の大きさは、粒子Q2のサイズや、ポリマー組成物X2における粒子Q2の混入量などを適宜選択することにより調整可能である。また、ゴムの加硫成形による収縮は合成樹脂の成形収縮より大きく、また、ゴムの線膨張係数は樹脂の線膨張係数より小さいので、粒子Q2のサイズは合成樹脂の場合より小さく、ポリマー組成物X2における粒子Q2の混入量は合成樹脂の場合より多くすることが好ましい。
【0071】
そして、上述のようにポリマー組成物X2をキャビティ内で加硫成形させることで、シール部材27、34を成形するとともに、シール部材27、34を芯金26、33に接着させた後、上型を開き(2つの金型を遠ざけた状態とし)、このキャビティからシール部材27、34及び芯金26、33(シールリング6、30)を取り出す。
【0072】
また、シール部材27、34の製造方法に関しては、上述のような加硫成形工程により得られた中間素材を加熱する、二次加熱(二次加硫)工程を追加することもできる。このような二次加熱工程を追加することにより、ポリマーP2の架橋を進めて、ポリマーP2を収縮させれば、より深い凹部α2を有する凹凸面S2を得ることができる。
【0073】
以上のような本例のハブユニット軸受1では、保持器5のポケット24の内面が、微小な凹部α1を多数有する、尖った稜部を持たない微細な凹凸面S1により構成されている。そして、これらの凹部α1を、グリースを保持するためのグリース溜りとして用いている。また、凹凸面S1は、尖った稜部を持たないため、このような稜部によって玉4の表面に付着したグリースが掻き取られるといった不都合が生じることはない。したがって、ポケット24の内面と玉4の表面との摺接部の潤滑状態を長期にわたり良好に維持して、該摺接部の摩擦力を長期にわたり小さく抑えることができる。また、ポケット24の内面は、凹部α1を除いた部分(凸部)で玉4の表面と摺接する。すなわち、凹部α1の分、ポケット24の内面と玉4の表面との摺接面積を小さくすることができる。したがって、この点でも、ポケット24の内面と玉4の表面との摺接部の摩擦力を長期にわたり小さく抑えることができる。このように本例の構造では、当該摺接部の摩擦力を小さく抑えることができるため、ハブユニット軸受1のトルクを低減できる。
【0074】
また、本例の構造では、シール部材27、34を構成するシールリップ(28a、28b、28c)(37a、37b、37c)の先端部の表面が、微小な凹部α2を多数有する、尖った稜部を持たない微細な凹凸面S2により構成されている。そして、このような凹部α2を、グリースを保持するためのグリース溜りとして用いている。また、凹凸面S2は、尖った稜部を持たないため、このような稜部によって、相手面((ハブ3の軸方向中間部外周面又は回転フランジ12の軸方向内側面)、(スリンガ円筒部31の外周面又はスリンガ側板部32の軸方向外側面))に付着したグリースが掻き取られるといった不都合が生じることはない。したがって、シールリップ(28a、28b、28c)(37a、37b、37c)の先端部の表面と相手面との摺接部の潤滑状態を長期にわたり良好に維持して、該摺接部の摩擦力を長期にわたり小さく抑えることができる。また、シールリップ(28a、28b、28c)(37a、37b、37c)の先端部の表面は、凹部α2を除いた部分(凸部)で相手面と摺接する。すなわち、凹部α2の分、シールリップ(28a、28b、28c)(37a、37b、37c)の先端部の表面と相手面との摺接面積を小さくすることができる。したがって、この点でも、シールリップ(28a、28b、28c)(37a、37b、37c)の先端部の表面と相手面との摺接部の摩擦力を長期にわたり小さく抑えることができる。このように本例の構造では、当該摺接部の摩擦力を小さく抑えることができるため、ハブユニット軸受1のトルクを低減できる。
【0075】
また、本例では、保持器5を射出成形により製造する際に用いる金型の内面のうち、ポケット24の内面を成形する部分を、微小な凹凸が存在しない滑らかな面Fとしても、換言すれば、該部分に、コストが嵩む機械的な加工を施すことによって凹凸形状を持たせなくても、合成樹脂の成形収縮を利用して、ポケット24の内面を凹凸面S1に成形することができる。したがって、コストが嵩む機械的な加工が不要になる分、保持器5の成形コストを抑えることができる。
【0076】
また、本例では、保持器5を射出成形により製造する際に用いる金型の内面が、微小な凹凸が存在しない滑らかな面Fであるため、キャビティから保持器5を取り出す際(離型時)に、厳格な成形条件管理をしなくても、凹凸面S1の凹凸形状が金型の内面によって潰されることがない。したがって、厳格な成形条件管理をしなくても済む分、保持器5の成形コストを抑えることができる。
【0077】
また、本例では、シール部材27、34を加硫成形により製造する際に用いる金型の内面のうち、シールリップ(28a、28b、28c)(37a、37b、37c)の先端部の表面を成形する部分を、微小な凹凸が存在しない滑らかな面Fとしても、換言すれば、該部分に、コストが嵩む機械的な加工を施すことによって凹凸形状を持たせなくても、ゴムの成形収縮を利用して、シールリップ(28a、28b、28c)(37a、37b、37c)の先端部の表面を凹凸面S2に成形することができる。したがって、コストが嵩む機械的な加工が不要になる分、シール部材27、34の成形コストを抑えることができる。
【0078】
また、本例では、シール部材27、34を加硫成形により製造する際に用いる金型の内面が、微小な凹凸が存在しない滑らかな面Fであるため、キャビティからシール部材27、34を取り出す際(離型時)に、凹凸面S2の凹凸形状が金型の内面によって削られたり、潰されることがない。したがって、シール部材27、34の成形コスト(検査コストや不良損金)を抑えることができる。
【0079】
本例では、ハブ3が駆動軸により駆動される駆動輪用のハブユニット軸受に本発明を適用した場合について説明したが、本発明は、ハブが駆動軸により駆動されない従動輪用のハブユニット軸受に適用することもできる。
【0080】
本例のハブユニット軸受1は、外輪2が、懸架装置に支持固定される静止輪を構成し、かつ、ハブ3が、制動用回転体及びホイールを支持する回転輪を構成する、いわゆる内輪回転型の構造を有する。ただし、本発明は、外方部材が、制動用回転体及びホイールを支持する回転輪を構成し、かつ、内方部材が、懸架装置に支持固定される静止輪を構成する、いわゆる外輪回転型のハブユニット軸受に適用することもできる。
【0081】
本発明の軸受用摺動部品は、ハブユニット軸受に限らず、各種軸受に組み付けて使用することができる。
【符号の説明】
【0082】
1 ハブユニット軸受
2 外輪
3 ハブ
4 玉
5 保持器
6 シールリング
7 組み合わせシールリング
8a、8b 外輪軌道
9 静止フランジ
10 支持孔
11a、11b 内輪軌道
12 回転フランジ
13 パイロット部
14 取付孔
15 スタッド
16 スプライン孔
17 内輪
18 ハブ輪
19 嵌合筒部
20 かしめ部
21 段差面
22 リム部
23 柱部
24 ポケット
25 内部空間
26 芯金
27 シール部材
28a、28b、28c シールリップ
29 スリンガ
30 シールリング
31 スリンガ円筒部
32 スリンガ側板部
33 芯金
34 シール部材
35 芯金円筒部
36 芯金側板部
37a、37b、37c シールリップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7