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  • 特許-手術練習用模型 図1
  • 特許-手術練習用模型 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】手術練習用模型
(51)【国際特許分類】
   G09B 23/30 20060101AFI20231003BHJP
【FI】
G09B23/30
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019557286
(86)(22)【出願日】2018-11-28
(86)【国際出願番号】 JP2018043852
(87)【国際公開番号】W WO2019107441
(87)【国際公開日】2019-06-06
【審査請求日】2021-10-11
(31)【優先権主張番号】P 2017228384
(32)【優先日】2017-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100112911
【弁理士】
【氏名又は名称】中野 晴夫
(72)【発明者】
【氏名】出沢 明
(72)【発明者】
【氏名】片石 有一
(72)【発明者】
【氏名】比恵島 徳寛
(72)【発明者】
【氏名】宮川 克也
(72)【発明者】
【氏名】松本 美沙
【審査官】遠藤 孝徳
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-510069(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0138781(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0339954(US,A1)
【文献】特開2015-69073(JP,A)
【文献】中国実用新案第206271305(CN,U)
【文献】特開2015-41020(JP,A)
【文献】特許第5505927(JP,B2)
【文献】実公昭57-22881(JP,Y2)
【文献】特開2004-85718(JP,A)
【文献】国際公開第00/36577(WO,A1)
【文献】特表2013-544373(JP,A)
【文献】実公昭58-53573(JP,Y2)
【文献】特表2016-518631(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09B 23/00- 23/40
A61B 1/00- 1/32
A61B 10/00- 10/06
A61B 17/00- 17/94
G02B 23/24- 23/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
腰椎患者の内視鏡手術を対象とした手術練習用模型であって、
腰椎疾患を発症した腰椎を模擬した腰椎模擬部と、
前記腰椎の周囲に位置する筋組織を模擬した筋組織模擬部とを備え、
前記筋組織模擬部は、透明のエラストマーで作られており、前記腰椎模擬部の周囲を覆っており、
前記腰椎の近傍にある腰部の皮膚を模擬した皮膚模擬部をさらに備え、
前記皮膚模擬部は、エラストマーで作られており、前記筋組織模擬部の上に設けられ、
前記腰椎模擬部が収容された透明のハウジングをさらに備え、
前記ハウジングは、前記腰椎模擬部を支持する支持部を有し、
前記筋組織模擬部を構成するエラストマーは、前記ハウジング内に充填されている、
手術練習用模型。
【請求項2】
前記皮膚模擬部は、前記腰部の外形を模擬した湾曲形状を有している、
請求項1に記載の手術練習用模型。
【請求項3】
前記筋組織模擬部を構成するエラストマーは、透明のシリコーンである請求項1または2に記載の手術練習用模型。
【請求項4】
腰椎患者の内視鏡手術を対象とした手術練習用模型であって、
腰椎疾患を発症した腰椎を模擬した腰椎模擬部と、
前記腰椎の周囲に位置する筋組織を模擬した筋組織模擬部とを備え、
前記筋組織模擬部は、ポリビニルアルコール、ホウ砂、および水を含む透明のゲル状樹脂で作られており、前記腰椎模擬部の周囲を覆っており、
前記腰椎の近傍にある腰部の皮膚を模擬した皮膚模擬部をさらに備え、
前記皮膚模擬部は、ポリビニルアルコール、ホウ砂、および水を含むゲル状樹脂で作られており、前記筋組織模擬部の上に設けられ、
前記腰椎模擬部が収容された透明のハウジングをさらに備え、
前記ハウジングは、前記腰椎模擬部を支持する支持部を有し、
前記筋組織模擬部を構成するエラストマーは、前記ハウジング内に充填されている、
手術練習用模型。
【請求項5】
前記皮膚模擬部は、前記腰部の外形を模擬した湾曲形状を有している、
請求項4に記載の手術練習用模型。
【請求項6】
前記筋組織模擬部を構成するエラストマーは、透明のシリコーンである請求項4または5に記載の手術練習用模型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腰椎疾患を発症した腰椎を模擬した腰椎模擬部を備えた手術練習用模型に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、外科手術では、従来の開腹手術に変えて、低侵襲性の内視鏡手術が行わるようになってきている。内視鏡手術は、腹壁に複数個小さな穴を開け、腹腔内に内視鏡を挿入して腹腔内の映像をモニターテレビで観察しつつ、鉗子、電気メスなどを用いて行われる。内視鏡手術は開腹を必要としないことから、患者への負担が少なく術後の快復も早いという利点がある。
【0003】
内視鏡手術を普及させるためには、術者の技術的な習熟度を向上させる必要がある。そこで、術者の教育を目的として、人の身体の一部(または全部)を模擬した手術練習用模型の開発が進められている(例えば、特許文献1,2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2016-518631号公報
【文献】特表2013-544373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、現在、椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症などの腰椎疾患の手術にも内視鏡を利用する試みがある。椎間板ヘルニアは、椎間板内の中心部にあるゼリー状の髄核が膨隆したり突出したりして周囲の神経を圧迫することにより、下肢や腰部に痛みやしびれを引き起こす疾患である。脊柱管狭窄症は、例えば椎間板が膨隆したり椎間関節に骨棘ができたりして、脊椎にある神経(脊柱管)を囲んでいる管が狭窄する疾患である。しかしながら、腰椎疾患の手術練習用模型としては、現在、内視鏡手術を対象としたものが知られていない。
【0006】
そこで、本発明は、腰椎疾患の内視鏡手術を対象とした新規な手術練習用模型を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によれば、
腰椎疾患を発症した腰椎を模擬した腰椎模擬部と、
前記腰椎の周囲に位置する筋組織を模擬した筋組織模擬部とを備え、
前記筋組織模擬部は、エラストマーまたはポリビニルアルコール、ホウ砂、および水を含むゲル状樹脂で作られており、前記腰椎模擬部の周囲を覆っている、
手術練習用模型が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、エラストマーまたはポリビニルアルコール、ホウ砂、および水を含むゲル状樹脂で作られた筋組織模擬部が腰椎模擬部の周囲を覆っている、腰椎疾患の内視鏡手術を対象とした新規な手術練習用模型が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係る手術練習用模型を示す側面図である。
図2】本発明の実施形態に係る手術練習用模型を示す斜視図である。
図3】内視鏡が挿入された状態の手術練習用模型を示す、図1に対応する側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[1.手術練習用模型]
図1図2はそれぞれ、本発明の実施形態に係る手術練習用模型1を示す側面図、斜視図である。手術練習用模型1は、ヒトの身体の一部を模擬したものであり、椎間板ヘルニアを発症した腰椎を模擬した腰椎模擬部2、腰椎の周囲に位置する筋組織を模擬した筋組織模擬部3、および、腰椎の近傍にある腰部の皮膚を模擬した皮膚模擬部4を備えている。腰椎模擬部2は、脊柱管狭窄症など他の腰椎疾患を発症した腰椎を模擬していてもよい。
【0011】
この実施形態では、腰椎模擬部2、筋組織模擬部3および皮膚模擬部4は、それぞれ、平均的なヒトの腰椎、筋組織および皮膚の機械的特性(寸法、硬度、弾性など)を再現するような形状を有し、かつそのような材料で作られている。これにより、術者が、手術練習用模型1を用いて内視鏡手術のトレーニングをするときに得られる感触を、実際の人体を手術している感覚に近づけることができる。
【0012】
他の実施形態では、腰椎模擬部2、筋組織模擬部3および皮膚模擬部4は、それぞれ、具体的な患者の腰椎、筋組織および皮膚の機械的特性を再現するような形状を有し、かつそのような材料で作られていてもよい。この実施形態では、手術練習用模型1を、患者に適合するオーダーメード品とすることができる。
【0013】
手術練習用模型1は、上述のとおり、ヒトの身体の一部を模擬したものであるが、ヒトの身体の他の部分を模擬した手術練習用模型に対して取り外し可能に取り付けられてもよい。これを実現するために、手術練習用模型1には雄ねじ、雌ねじ、嵌合穴(または係合穴)、嵌合突起(または係合突起)などを設けてもよい。また、手術練習用模型1を当該ヒトの身体の他の部分を模擬した模型に取り付けることにより、ヒトの全身を模擬した手術練習用模型を構成してもよい。手術練習用模型1は、持ち運び可能に作られていてよい。
【0014】
以下、腰椎模擬部2、筋組織模擬部3および皮膚模擬部4の構成について、さらに具体的に説明する。
【0015】
(1-1.腰椎模擬部)
上述のとおり、腰椎模擬部2は、椎間板ヘルニアを発症した腰椎を模擬している。腰椎模擬部2は、頭側端部21と足側端部22を有している。腰椎模擬部2は、頭側端部21と足側端部22との間で湾曲(生理的湾曲)している。
【0016】
腰椎模擬部2は、椎骨模擬部23、椎間板模擬部24および神経模擬部25を有している。椎間板模擬部24および神経模擬部25は、接着剤を用いて椎骨模擬部23に固定されている。一般に、腰椎は、5つの椎骨が連結する部分であり、2つの椎骨の間には椎間板が存在する。図1図2には、5つの椎骨模擬部23を有する腰椎模擬部2を示している。ただし、腰椎模擬部2は、腰椎の全体を模擬している必要はなく、腰椎の一部を模擬していてもよい。つまり、腰椎模擬部2は、5つの椎骨模擬部23を有している必要はなく、2つ以上の椎骨模擬部23を有していればよい。さらに、腰椎模擬部2は、6つ以上の椎骨模擬部23を有してもよい。椎骨模擬部23が6つ以上設けられている場合(この場合、椎間板模擬部24は5つ以上設けられる)、腰椎模擬部2は、一般には胸椎または仙椎に含まれる椎骨部分を含めて模擬しているものとする。
【0017】
1つ以上の椎間板模擬部24のうち1つ以上には、ヘルニア模擬部26が形成されている。ヘルニアは、椎間板内の中心部にあるゼリー状の髄核が膨隆したり突出したりした部分である。
【0018】
椎骨模擬部23は、任意の材料、例えば硬質樹脂で作られていてよい。当該硬質樹脂は、エポキシ樹脂、アクリル系樹脂であってもよい。椎骨模擬部23は、3Dプリンタを用いて作られてもよい。椎間板模擬部24および神経模擬部25は、それぞれエラストマーで作られている。本明細書において、エラストマーは、弾性を有するポリマーを指す。当該エラストマーは、シリコーンであってもよい。
【0019】
この実施形態では、腰椎模擬部2は、ハウジング5内に収容されている。ハウジング5は、直方体の筐形状を有しており、直方体の一面全体が開口している。ハウジング5の当該面を上面とする。上面は背中側(背中の皮膚側)の面であり、上面に対向する面(底面)51は腹側の面である。当該底面51には、略半月状で上側に窪みを有する支持部52が設けられている。当該窪みは、腰椎模擬部2を受けるように適合しており、腰椎模擬部2の頭側端部21と足側端部22は、支持部52に支持されている。
【0020】
図3に示すように、術者は、背中(皮膚模擬部4)側から内視鏡6(および内視鏡6内に挿入される鉗子61)を挿入して、トレーニングを行う。図3には、鉗子61を用いてヘルニア模擬部26を摘まんでいる状態を示している。ハウジング5の外側から内視鏡6と鉗子61の操作を見ることができるように、ハウジング5は、透明な材料(例えば、透明な樹脂)で作られていることが好ましい。本明細書において、「透明」とは、可視光線透過率が80%以上である場合をいう。
【0021】
椎骨模擬部23、椎間板模擬部24、神経模擬部25およびヘルニア模擬部26の各表面は、互いに異なる色で着色されていてよい。例えば、椎骨模擬部23、椎間板模擬部24、神経模擬部25およびヘルニア模擬部26の各表面は、実際の人体を手術した際に見られる椎骨、椎間板、神経およびヘルニアの色を再現する色で着色されていてもよいし、視認性を向上させるために明るい色で着色されていてもよい。当該再現する色には、粘膜色や血液の色が含まれていてもよい。
【0022】
(1-2.筋組織模擬部)
上述の通り、筋組織模擬部3は、腰椎の周囲に位置する筋組織を模擬している。当該筋組織は、脊柱起立筋や大腰筋であってよい。筋組織模擬部3は、腰椎模擬部2の周囲を覆っている。具体的には、筋組織模擬部3は、腰椎模擬部2が配置されたハウジング5内に充填されている。
【0023】
筋組織模擬部3は、エラストマーで作られている。当該エラストマーは、シリコーンであってもよい。ハウジング5の外側から内視鏡6と鉗子61(図3を参照)の操作を見ることができるように、当該シリコーンは、透明であることが好ましい。筋組織模擬部3は、1種類の材料で作られている必要はなく、実際の人体に適合するように、複数の材料の複合材料で作られていてもよいし、場所に応じて(例えば、腰椎模擬部2からの距離に応じて)異なる材料で作られていてもよい。
【0024】
筋組織模擬部3の上面31は、側面視で(つまり、図1の方向から見て)、平均的なヒトの腰部の外形を模擬した湾曲形状を有している。当該湾曲形状は、腰椎模擬部2の生理的湾曲に沿っていてよい。上面31の湾曲形状は、具体的な患者の腰部の外形を模擬していてもよい。
【0025】
(1-3.皮膚模擬部)
皮膚模擬部4は、腰椎の近傍にある腰部(背中側)の皮膚を模擬している。皮膚模擬部4は、筋組織模擬部3の上に設けられている。具体的には、皮膚模擬部4は、筋組織模擬部3の直接上に、ハウジング5の上面を覆うように設けられて貼り付けられている。皮膚模擬部4は、全体が、筋組織模擬部3の上面31と同様に、側面視で(つまり、図1の方向から見て)、平均的なヒトの腰部の外形を模擬した湾曲形状を有している。当該湾曲形状は、腰椎模擬部2の生理的湾曲に沿っていてよい。皮膚模擬部4は、具体的な患者の腰部の外形を模擬していてもよい。
【0026】
皮膚模擬部4は、皮膚のうち表皮と真皮を模擬する上層模擬部41と、皮膚のうち皮下組織(皮下脂肪)を模擬する脂肪模擬部42とを有している。上層模擬部41と脂肪模擬部42は、それぞれゲル状樹脂で作られている。当該ゲル状樹脂は、ポリビニルアルコール、シリコーンであってもよい。上層模擬部41と脂肪模擬部42は、それぞれ、1種類の材料で作られている必要はなく、実際の人体に適合するように、複数の材料の複合材料で作られていてもよいし、場所に応じて異なる材料で作られていてもよい。
【0027】
[2.製造方法]
本発明の実施形態に係る手術練習用模型1の例示的な製造方法を簡単に説明する。まず、腰椎模擬部2を準備する。具体的には、例えば3D印刷により椎骨模擬部23を作り、同じく3D印刷で作った椎間板模擬部24、神経模擬部25およびヘルニア模擬部26を椎骨模擬部23に接着剤で固定する。次に、腰椎模擬部2をハウジング5の支持部52の上に配置する。次に、筋組織模擬部3を構成する樹脂でハウジング5内を充填し、樹脂の種類に応じて熱硬化または光硬化させる。次に、予め作った皮膚模擬部4を筋組織模擬部3の上面31に貼り付ける。このようにして、手術練習用模型1が製造される。
【0028】
[3.他の実施形態]
上述の手術練習用模型1では、筋組織模擬部は、エラストマーから形成されたが、エラストマーに代えて、ポリビニルアルコール(PVA)、ホウ砂、および水を含むゲル状樹脂(スライム)から形成されても良い。かかるゲル状樹脂は、ポリビニルアルコール鎖の間を、ホウ酸イオンによって架橋した構造となっている。ゲル状樹脂は透明であることが好ましい。加えて、ゲル状樹脂のゼリー強度は150~900gとされるのがより好ましい。このようなゲル状樹脂を得るためには、ゲル状樹脂を作製する際にホウ素水溶液:ポリビニルアルコール(PVA):水の配合比率を10~30%:40~60%:20~60%とするのが望ましい。また、皮膚模擬部4も、ポリビニルアルコール、ホウ砂、および水を含むゲル状樹脂から形成しても良い。
【0029】
本発明の範囲は、上述の実施形態の内容に限定されると理解すべきではない。また、上述の実施形態に記載された特徴を自由に組み合わせることにより、他の実施形態が構成されてよい。また、上述の実施形態には、種々の改良、設計上の変更および削除が加えられてよい。
【0030】
例えば、上述の実施形態では、手術練習用模型1は、ヒトの身体の一部を模擬したものであるが、他の動物(例えば犬などの愛玩動物)の身体の一部を模擬したものであってもよい。
【符号の説明】
【0031】
1 手術練習用模型
2 腰椎模擬部
23 椎骨模擬部
24 椎間板模擬部
25 神経模擬部
3 筋組織模擬部
4 皮膚模擬部
41 上層模擬部
42 脂肪模擬部
5 ハウジング
52 支持部
図1
図2
図3