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特許7359010フラッシング方法、及びフラッシング装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】フラッシング方法、及びフラッシング装置
(51)【国際特許分類】
   F16N 31/00 20060101AFI20231003BHJP
   F16N 39/06 20060101ALI20231003BHJP
   F16N 29/00 20060101ALI20231003BHJP
   F03D 80/70 20160101ALI20231003BHJP
【FI】
F16N31/00 D
F16N39/06
F16N29/00 A
F03D80/70
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020017595
(22)【出願日】2020-02-05
(65)【公開番号】P2021124162
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2023-01-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新舘 佑規
(72)【発明者】
【氏名】松田 晋也
【審査官】松江川 宗
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-164534(JP,A)
【文献】特開平07-251138(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16N 1/00-99/00
F03D 1/00-80/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑剤が与えられた転がり軸受装置の内部空間に対して洗浄油の供給及び回収を行うとともに回収した前記洗浄油を異物除去用のフィルタに通過させて前記内部空間へ再供給し、前記洗浄油を循環させるフラッシング装置を用いた転がり軸受装置のフラッシング方法であって、
前記洗浄油の循環開始前に、前記内部空間における前記潤滑剤の異物濃度を測定する潤滑剤測定ステップと、
前記洗浄油の循環を開始してから終了するまでの循環時間を求める演算ステップと、を含み、
前記演算ステップでは、前記フラッシング装置を用いたときにおける前記洗浄油の異物濃度の経時変化を示す複数の情報であって、循環開始時の前記洗浄油の異物濃度が互いに異なる前記複数の情報が登録されたデータベースと、前記潤滑剤測定ステップによる潤滑剤測定値と、に基づいて前記循環時間を求める
フラッシング方法。
【請求項2】
前記演算ステップでは、前記複数の情報のうち、循環開始時の前記洗浄油の異物濃度が前記潤滑剤測定値に近似する情報を参照し、循環開始から前記洗浄油の異物濃度が所定値以下となるまでの時間を前記循環時間として求める
請求項1に記載のフラッシング方法。
【請求項3】
前記循環時間に基づいて前記洗浄油を循環させる循環ステップをさらに含み、
前記循環ステップは、
前記洗浄油の循環を開始する開始ステップと、
前記内部空間から回収された、前記フィルタ前段における前記洗浄油の異物濃度を測定する洗浄油測定ステップと、
前記洗浄油の循環を開始してから前記循環時間が経過し、かつ洗浄油測定ステップによる洗浄油測定値が前記所定値以下と判定すると、前記洗浄油の循環を終了する終了ステップと、を含む
請求項2に記載のフラッシング方法。
【請求項4】
前記異物濃度は鉄粉濃度である
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のフラッシング方法。
【請求項5】
潤滑剤が与えられた転がり軸受装置の内部空間に対して洗浄油の供給及び回収を行う供給回収部、及び、回収した前記洗浄油が与えられる異物除去用のフィルタを含む循環ユニットと、
前記供給回収部を制御し、前記フィルタを通過した前記洗浄油を前記転がり軸受装置へ再供給して前記洗浄油を循環させる制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記洗浄油の循環を開始してから終了するまでの循環時間を求める演算部と、
前記循環時間に基づいて前記洗浄油を循環させる循環制御部と、
前記洗浄油の循環開始前に測定された、前記内部空間における前記潤滑剤の異物濃度の潤滑剤測定値を受け付ける受付部と、
前記循環ユニットを用いて前記洗浄油を循環させたときにおける前記洗浄油の異物濃度の経時変化を示す複数の情報であって、循環開始時の前記洗浄油の異物濃度が互いに異なる前記複数の情報が登録されたデータベースと、を有し、
前記演算部は、前記受付部によって受け付けられた前記潤滑剤測定値と、前記データベースと、に基づいて前記循環時間を求める
フラッシング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラッシング方法、及びフラッシング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
風力発電装置の主軸等を支持するような転がり軸受装置は大型であるため、交換が容易ではない。このような容易に交換できない大型の転がり軸受装置においては、定期的に軸受内部をフラッシングすることで、摩耗等によって生じる鉄粉等の異物を軸受内部から取り除き、転がり軸受装置の寿命を延ばすことが行われる(例えば、下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-125434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
転がり軸受装置に対するフラッシングは、フラッシング装置を用いて行われる。
フラッシング装置は、グリース等の潤滑剤が充填された転がり軸受装置の内部に対して洗浄油の供給及び回収を行うとともに回収した前記洗浄油を異物除去用のフィルタに通過させて転がり軸受装置へ再供給し、洗浄油を循環させるように構成されている。
これにより、洗浄油によって転がり軸受装置の内部に充填された潤滑剤を希釈するとともに、転がり軸受装置の内部から回収した洗浄油をフィルタに通過させつつ循環させることによって転がり軸受装置の内部の異物を除去する。
【0005】
ここで、洗浄油を循環させる間、転がり軸受装置の内部の洗浄状態を把握することが困難である。さらに、転がり軸受装置の種類や使用状況によって、転がり軸受装置内部の異物量も異なる。このような理由から、転がり軸受装置の内部が、要求される洗浄状態に至るまでに必要な洗浄油の循環時間を事前に定めるのが困難であった。
【0006】
特に、風力発電装置の主軸を支持する転がり軸受装置では、フラッシングを行うために、フラッシング装置をブレードや転がり軸受装置が設置された柱上のナセルに搬入出する必要があり、フラッシングを行うための準備工程やフラッシング後の後工程に比較的時間を要する。これらを考慮すると、洗浄油の適切な循環時間を事前に把握することが好ましい。
【0007】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、洗浄油の適切な循環時間を事前に求めることができる技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明は、潤滑剤が与えられた転がり軸受装置の内部空間に対して洗浄油の供給及び回収を行うとともに回収した前記洗浄油を異物除去用のフィルタに通過させて前記内部空間へ再供給し、前記洗浄油を循環させるフラッシング装置を用いた転がり軸受装置のフラッシング方法であって、前記洗浄油の循環開始前に、前記内部空間における前記潤滑剤の異物濃度を測定する潤滑剤測定ステップと、前記洗浄油の循環を開始してから終了するまでの循環時間を求める演算ステップと、を含み、前記演算ステップでは、前記フラッシング装置を用いたときにおける前記洗浄油の異物濃度の経時変化を示す複数の情報であって、循環開始時の前記洗浄油の異物濃度が互いに異なる前記複数の情報が登録されたデータベースと、前記潤滑剤測定ステップによる潤滑剤測定値と、に基づいて前記循環時間を求める。
【0009】
上記構成によれば、フラッシング装置を用いたときにおける洗浄油の異物濃度の経時変化を示す複数の情報が登録されたデータベースと、潤滑剤測定ステップによって測定された、フラッシング前の転がり軸受装置の潤滑剤の異物濃度である潤滑剤測定値と、に基づいて循環時間を求めるので、洗浄油の循環を開始する前に、事前に適切な循環時間を求めることができる。
【0010】
(2)フラッシング装置を用いたときにおける循環開始時の洗浄油の異物濃度は、洗浄油の循環開始前における転がり軸受装置の潤滑剤の異物濃度と、ほぼ同じとみなすことができる。
このため、上記フラッシング方法において、前記演算ステップでは、前記複数の情報のうち、循環開始時の前記洗浄油の異物濃度が前記潤滑剤測定値に近似する情報を参照し、循環開始から前記洗浄油の異物濃度が所定値以下となるまでの時間を前記循環時間として求めてもよい。
この場合、転がり軸受装置の潤滑剤の異物濃度に応じて、複数の情報の中から適切な情報を選択し、循環時間を求めることができる。
【0011】
(3)上記フラッシング方法において、前記循環時間に基づいて前記洗浄油を循環させる循環ステップをさらに含み、前記循環ステップは、前記洗浄油の循環を開始する開始ステップと、前記内部空間から回収された、前記フィルタ前段における前記洗浄油の異物濃度を測定する洗浄油測定ステップと、前記洗浄油の循環を開始してから前記循環時間が経過し、かつ洗浄油測定ステップによる洗浄油測定値が前記所定値以下と判定すると、前記洗浄油の循環を終了する終了ステップと、を含んでいてもよい。
この場合、循環時間に加えて洗浄油の異物濃度に基づいて、洗浄油の循環を終了するか否かの判定を行うことができる。
【0012】
(4)また、上記フラッシング方法において、前記異物濃度は鉄粉濃度であってもよい。
【0013】
(5)また、本発明に係るフラッシング装置は、潤滑剤が与えられた転がり軸受装置の内部空間に対して洗浄油の供給及び回収を行う供給回収部、及び、回収した前記洗浄油が与えられる異物除去用のフィルタを含む循環ユニットと、前記供給回収部を制御し、前記フィルタを通過した前記洗浄油を前記転がり軸受装置へ再供給して前記洗浄油を循環させる制御部と、を備え、前記制御部は、前記洗浄油の循環を開始してから終了するまでの循環時間を求める演算部と、前記循環時間に基づいて前記洗浄油を循環させる循環制御部と、前記洗浄油の循環開始前に測定された、前記内部空間における前記潤滑剤の異物濃度の潤滑剤測定値を受け付ける受付部と、前記循環ユニットを用いて前記洗浄油を循環させたときにおける前記洗浄油の異物濃度の経時変化を示す複数の情報であって、循環開始時の前記洗浄油の異物濃度が互いに異なる前記複数の情報が登録されたデータベースと、を有し、前記演算部は、前記受付部によって受け付けられた前記潤滑剤測定値と、前記データベースと、に基づいて前記循環時間を求める。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、洗浄油の適切な循環時間を事前に求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、風力発電装置の構成の一例を示す図である。
図2図2は、実施形態に係るフラッシング装置の構成例を示す図である。
図3図3は、制御装置の一例を示すブロック図である。
図4図4は、フラッシング装置を用いたフラッシング作業の一例を示したフローチャートである。
図5図5は、経時変化データベースの一例を示す図である。
図6図6は、経時変化データの一例として第1経時変化データの内容を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
〔風力発電装置の転がり軸受装置について〕
図1は、風力発電装置の構成の一例を示す図である。
風力発電装置1は、ブレード2、支柱4、及びナセル6を備える。ブレード2は、主軸8の先端の設けられた複数枚の羽根によって構成される。ブレード2は、風を受けることで主軸8を回転させる。支柱4に支持されたナセル6は、主軸8と、主軸8を支持する転がり軸受装置10と、主軸8による回転力を増速する増速機や増速された回転力によって発電する発電機を含む発電機構12とを備える。
【0017】
転がり軸受装置10は、主軸8を回転自在に支持する転がり軸受14と、転がり軸受14を収容保持するハウジング16とを備える。
転がり軸受14は、内輪、外輪、及び複数の転動体を含む。転がり軸受14は、ハウジング16の内部空間S内に収容保持される。
ハウジング16は、ナセル6の筐体に固定されており、転がり軸受14をナセル6内で支持する。
転がり軸受14が収容される内部空間Sは、シール等によって密封されている。内部空間Sには、潤滑剤としてのグリースが充填されている。
内部空間Sは、転がり軸受14の内外輪間の環状空間も含む。
よって、内部空間Sに充填されたグリースは、転がり軸受14の内外輪や、転動体を潤滑する。
【0018】
〔フラッシング装置について〕
図2は、実施形態に係るフラッシング装置の構成例を示す図である。
このフラッシング装置20は、転がり軸受装置10のフラッシングに用いられる装置である。
フラッシングとは、転がり軸受装置10の内部空間Sに洗浄油を供給することで、内部空間Sを洗浄する作業である。
【0019】
フラッシング装置20は、転がり軸受装置10に接続されて用いられる。よって、フラッシング作業を行う際、フラッシング装置20は、ナセル6(図1)に搬入され、転がり軸受装置10に接続される。フラッシング作業は、ナセル6上において実施される。
フラッシング装置20は、転がり軸受装置10の内部空間Sに対して洗浄油の供給及び回収を行うとともに回収した洗浄油の鉄粉を除去し、内部空間Sへ再供給し、洗浄油を循環させる機能を有する。
【0020】
フラッシング装置20は、給油ポンプ22と、吸入ポンプ24と、第1タンク26と、第2タンク28とを備える。
第1タンク26及び第2タンク28には、洗浄油が貯留される。
第2タンク28には、給油ポンプ22に設けられた吸引パイプ22aが延ばされている。給油ポンプ22は、第2タンク28に貯留された洗浄油を吸引パイプ22aによって吸引し、転がり軸受装置10へ供給する。
転がり軸受装置10には、内部空間Sに連通する給油口10aが設けられている。給油ポンプ22は、給油口10aに接続され、給油口10aを通じて内部空間Sへ洗浄油を供給する。
【0021】
吸入ポンプ24は、転がり軸受装置10の内部空間Sから洗浄油を吸引し、洗浄油を回収する。
転がり軸受装置10には、内部空間Sから油類を排出するためのドレン10bが設けられている。吸入ポンプ24は、ドレン10bに接続され、ドレン10bを通じて内部空間Sから洗浄油を回収する。
吸入ポンプ24には回収した洗浄油を吐出する吐出パイプ24aが設けられている。吐出パイプ24aは、第1タンク26に延ばされている。吸入ポンプ24は、回収した洗浄油を吐出パイプ24aを通じて第1タンク26へ与える。
【0022】
また、吐出パイプ24aには、洗浄油の鉄粉濃度を測定するためのセンサ30が設けられている。
センサ30は、吐出パイプ24aを通過する洗浄油の鉄粉濃度を測定する機能を有する。
【0023】
第1タンク26には、第1タンク26に貯留される洗浄油を第2タンク28へ移動させる接続パイプ26aが設けられている。接続パイプ26aは、第1タンク26の底部から第2タンク28まで延びている。第1タンク26に貯留される洗浄油は、重力によって、接続パイプ26aに導かれ、第2タンク28に与えられる。
【0024】
接続パイプ26aには、フィルタ32が設けられている。
フィルタ32は、洗浄油中の異物である鉄粉を除去するためのフィルタである。フィルタ32は、例えば、磁力によって洗浄油中の鉄粉を捕捉し洗浄油中から除去する機能を有する。第1タンク26の洗浄油は、接続パイプ26aによって第2タンク28へ与えられる際に、フィルタ32を通過する。これにより、第2タンク28へ与えられる洗浄油は、鉄粉が除去される。よって、第2タンク28へ与えられる洗浄油の鉄粉濃度は、フィルタ32通過前の洗浄油の鉄粉濃度と比較して低くなる。
【0025】
以上のように、給油ポンプ22によって第1タンク26から吸引され転がり軸受装置10に供給される洗浄油は、ドレン10bから回収され、吸入ポンプ24、第1タンク26、及びフィルタ32を経て第2タンク28へ戻される。
このように、フラッシング装置20は、転がり軸受装置10との間で洗浄油を循環させることで、フィルタ32によって洗浄油中の鉄粉を除去し、内部空間Sの洗浄を行う。
また、給油ポンプ22、吸入ポンプ24、第1タンク26、及び第2タンク28は、内部空間Sに対して洗浄油の供給及び回収を行う供給回収部29を構成する。
また、供給回収部29と、フィルタ32とは、転がり軸受装置10との間で洗浄油を循環させるために必要な構成を含む循環ユニット31を構成する。
【0026】
内部空間Sに充填されたグリースは、各部の摩耗によって生じる異物である鉄粉を含む。
フラッシングに用いられる洗浄油は、内部空間Sを洗浄するための油であり、洗浄剤等を含む。また、洗浄油は、グリースよりも粘度が低い。洗浄油は、グリースが充填された内部空間Sに供給されることで、グリースと混合されグリースを希釈する。グリースと混合された洗浄油は、内部空間Sから回収される。このように、内部空間Sに充填されたグリースは、洗浄油と混合されることで、洗浄油とともに内部空間Sから回収される。このとき、グリースに含まれていた鉄粉も洗浄油とともに内部空間Sから回収される。
【0027】
グリースと混合されることでグリースを含む洗浄油は、内部空間Sから回収されるとフィルタ32を通過し、再度、内部空間Sに供給され、フラッシング装置20と転がり軸受装置10との間を循環する。内部空間Sから回収された洗浄油は、グリースを含むとともにグリースに含まれていた鉄粉も含む。よって、洗浄油をフィルタ32に通過させることで、グリースに含まれていた鉄粉は洗浄油から除去され、洗浄油における鉄粉濃度は徐々に低下する。これにより、内部空間S内においてグリースに含まれていた鉄粉は除去され、内部空間Sは洗浄される。
なお、フラッシング装置20が循環させる洗浄油は、グリースを含まない洗浄油の他、グリースと混合されることでグリースを含んだ洗浄油も含む。
【0028】
また、フラッシング装置20は、給油ポンプ22及び吸入ポンプ24を制御する制御装置34も備えている。
図3は、制御装置34の一例を示すブロック図である。
制御装置34には、給油ポンプ22、吸入ポンプ24、及びセンサ30が接続されている。制御装置34は、給油ポンプ22、及び吸入ポンプ24に対して制御命令を与えることで、給油ポンプ22、及び吸入ポンプ24を制御する機能を有する。また、制御装置34には、センサ30による出力が与えられる。
【0029】
制御装置34は、例えば、コンピュータであり、CPU等からなる処理部40と、メモリやハードディスク等からなる記憶部42と、入出力部44とを備える。入出力部44は、キーボードや、マウス、タッチパネルといった入力デバイスと、ディスプレイやプリンタといった出力デバイスとを含む。
記憶部42には、処理部40が実行するためのコンピュータプログラム等が記憶されている。処理部40は、記憶部42に記録された前記コンピュータプログラムを読み込むことで、処理部40が有する後述の各機能を実現する。
また、記憶部42には、後に説明する経時変化データベース50が記憶されている。
【0030】
処理部40は、演算部40aと、循環制御部40bと、受付部40cとを機能的に有する。これら各機能部の機能については、後に説明する。
【0031】
〔フラッシング作業について〕
図4は、フラッシング装置20を用いたフラッシング作業の一例を示したフローチャートである。
フラッシング作業においては、まず、フラッシング前の転がり軸受装置10の内部空間Sに充填されているグリースの鉄粉濃度を測定する(ステップS1)。
このグリースの鉄粉濃度の測定は、例えば、転がり軸受装置10のドレン10bからグリースを取り出し、鉄粉濃度を測定するための測定器等を用いて測定する。
【0032】
次いで、洗浄油の循環を開始してから終了するまでの循環時間を求める(ステップS2)。
フラッシング作業を行う作業者は、フラッシング装置20の制御装置34に対して、作業対象の転がり軸受装置10の型番と、ステップS1にて測定したグリースの鉄粉濃度の測定値(グリース測定値:潤滑剤測定値)とを入力する。
制御装置34の処理部40が有する受付部40cは、転がり軸受装置10の型番と、グリース測定値とを受け付けるための入力表示を入出力部44に含まれるディスプレイ等に出力する。
作業者は、入出力部44に含まれるキーボードやマウスを操作し、前記入力表示に従って転がり軸受装置10の型番と、グリース測定値とを入力する。作業者により転がり軸受装置10の型番及びグリース測定値が入力されると、受付部40cは、入力された型番及びグリース測定値を受け付ける。
【0033】
受付部40cによって型番及びグリース測定値が受け付けられると、制御装置34の演算部40aは、記憶部42に記憶された経時変化データベース50と、グリース測定値とに基づいて循環時間を求める。
【0034】
図5は、経時変化データベース50の一例を示す図である。
経時変化データベース50には、フラッシング装置20を用いて洗浄油の循環を行ったときにおける洗浄油の鉄粉濃度の経時変化に関する経時変化データが登録されている。
経時変化データは、転がり軸受装置10の複数の型番それぞれに対応付けられて複数登録されている。例えば、転がり軸受装置10の型番が「AAA」に対しては、第1経時変化データ50aが登録されており、型番が「BBB」に対しては、第2経時変化データ50bが登録されており、型番が「CCC」に対しては、第3経時変化データ50cが登録されている。
【0035】
図6は、経時変化データの一例として第1経時変化データ50aの内容を示す図である。
第1経時変化データ50aには、複数の経時変化情報51a,51b,51c,51dが複数含まれている。なお、経時変化情報51a,51b,51c,51dは、包括して経時変化情報51と呼ぶことがある。
経時変化情報51は、フラッシング装置20を用いて洗浄油の循環を行ったときにおける洗浄油の鉄粉濃度の経時変化を示す情報である。
つまり、経時変化情報51は、所定の鉄粉濃度の洗浄油の循環を行ったときにおける、循環開始からの経過時間に対応した洗浄油の鉄粉濃度の値を含んでおり、洗浄油の鉄粉濃度の値と、循環開始からの経過時間との関係を示している。
図6では、経時変化情報51をグラフとして示している。図6中のグラフの横軸は、洗浄油の循環を開始してからの経過時間(min)、縦軸は、鉄粉濃度(ppm)を示している。
【0036】
経時変化情報51は、フラッシング装置20のうちの少なくとも循環ユニット31及び転がり軸受装置10を用いて鉄粉を所定濃度で含んだ洗浄油を循環させ、所定時間ごとに洗浄油の鉄粉濃度を測定する事前試験を予め行うことで取得される。この事前試験では、フィルタ32や、給油ポンプ22及び吸入ポンプ24の吐出量等の設定は、フラッシング作業における通常の設定とされる。
【0037】
各経時変化情報51は、循環開始時の洗浄油の鉄粉濃度(開始濃度)が互いに異なっている。経時変化情報51aの開始濃度は4300ppm、経時変化情報51bの開始濃度は5000ppm、経時変化情報51cの開始濃度は5500ppm、経時変化情報51dの開始濃度は6000ppmとなっている。なお、循環開始時の洗浄油の鉄粉濃度(開始濃度)とは、事前試験における循環開始直前の洗浄油の鉄粉濃度の他、循環開始直後の洗浄油の鉄粉濃度も含む。
【0038】
例えば、開始濃度が4300ppmである経時変化情報51aにおいて、鉄粉濃度は、4300ppmから時間の経過に伴って減少している。
経時変化情報51aでは、経過時間が0分から約10分程度の間においては、鉄粉濃度の減少は緩やかであり、その後、鉄粉濃度の減少は急激になる。鉄粉濃度が2000ppmを下回ると、鉄粉濃度の減少は穏やかとなり、以降、継続して緩やかな減少を続けている。
他の経時変化情報51における鉄粉濃度も、経時変化情報51aと同様、時間の経過に伴って減少する傾向を有する。
【0039】
上述の経時変化データベース50を参照し、制御装置34の演算部40aは、循環時間を求める。
演算部40aは、経時変化データベース50(図5)のうち、受付部40cが受け付けた転がり軸受装置10の型番に対応する経時変化データを参照する。
受付部40cが受け付けた型番が、例えば「AAA」であるとすると、演算部40aは、第1経時変化データ50aを参照する。
【0040】
さらに、演算部40aは、経時変化データに含まれる複数の経時変化情報51のうち、受付部40cによって受け付けられたグリース測定値に相対的に近似する開始濃度である経時変化情報51を参照する。
受付部40cが受け付けたグリース測定値が、例えば「4300ppm」であるとすると、演算部40aは、第1経時変化データ50aに含まれる複数の経時変化情報51のうち、開始濃度が4300ppmである経時変化情報51a(図6)を参照する。
また、受付部40cが受け付けたグリース測定値が、例えば「4600ppm」であるとすると、演算部40aは、第1経時変化データ50aに含まれる複数の経時変化情報51のうち、開始濃度が5000ppmである経時変化情報51b(図6)を参照する。
このように、演算部40aは、グリース測定値以上でかつグリース測定値に最も近い値の開始濃度である経時変化情報51を参照する。これにより、測定値に対して余裕を持った経時変化情報51が参照される。
【0041】
フラッシング装置20を用いたときにおける循環開始時の洗浄油の鉄粉濃度(開始濃度)は、洗浄油の循環開始前における転がり軸受装置10のグリースの鉄粉濃度と、ほぼ同じとみなすことができる。
よって、上述のように、演算部40aが、開始濃度がグリース測定値に近似する経時変化情報51を参照することで、転がり軸受装置10の潤滑剤の鉄粉濃度に応じて、複数の経時変化情報51の中から適切な経時変化情報51を選択し、循環時間を求めることができる。
【0042】
本実施形態では、洗浄が完了したと判断し得る条件として、洗浄油の鉄粉濃度に閾値(所定値)が設定される。演算部40aは、経時変化情報51を参照し、洗浄油の鉄粉濃度が閾値以下になる経過時間を循環時間として求める。
例えば、図6に示すように、鉄粉濃度の減少が緩やかとなる鉄粉濃度2000ppmが閾値に設定されているとする。
ここで、鉄粉濃度が2000ppmとなる経過時間が30分であるとする。この場合、経時変化情報51aを参照した演算部40aは、鉄粉濃度が2000ppmとなる経過時間である30分を循環時間とする。
なお、閾値は、転がり軸受装置10の型番が異なれば異なる値に設定されることがある。また、各経時変化情報51に応じて異なる値に設定されることもある。さらに、閾値は、風力発電装置1を運用する運用者に応じて異なる値に設定されることもある。
【0043】
以上のようにして演算部40aは、経時変化データベース50と、フラッシング前の転がり軸受装置10のグリースの鉄粉濃度(グリース測定値)と、に基づいて循環時間を求めることができる。このため、洗浄油の循環を開始する前に、事前に適切な循環時間を求めることができる。
【0044】
図4を参照して、ステップS2において循環時間を求めると、次いで、フラッシング装置20を転がり軸受装置10に取付ける(ステップS3)。より具体的に、フラッシング装置20は、まずナセル6に搬入され、その後、転がり軸受装置10に接続される。
【0045】
フラッシング装置20を転がり軸受装置10に取付けた後、作業者は、フラッシング装置20を動作させ、洗浄油の循環を開始する(ステップS4)。制御装置34の処理部40が有する循環制御部40bは、作業者によって洗浄油の循環開始の命令が入力されると、給油ポンプ22及び吸入ポンプ24を制御し、洗浄油の循環を開始する。
【0046】
このとき、フィルタ32の鉄粉除去能力の設定や、ポンプ22,24の吐出量の設定は、フラッシング作業における通常の設定とされる。なお、フラッシング作業における通常の設定とは、フラッシングが必要であると一般に判断し得る運転時間となった転がり軸受装置10をフラッシングする際に、循環時間が予め設定された数値範囲となるように予め設定された設定をいう。
なお、ステップS2にて求めた循環時間が、予め設定された数値範囲よりも大きい場合、フィルタ32及びポンプ22,24の設定を変更してもよい。例えば、フィルタ32の鉄粉除去能力を通常の設定よりも高く設定したり、ポンプ22,24の吐出量を通常の設定よりも大きく設定したりすることで、ステップS2にて求めた循環時間を実質的に短縮することができる。このように、フィルタ32及びポンプ22,24の設定を通常の設定から変更した場合、ステップS2にて求めた循環時間は、作業者による制御装置34への入力によって補正される。
【0047】
循環制御部40bは、循環時間に基づいて洗浄油を循環させる機能を有する。
循環制御部40bは、洗浄油の循環を開始した後、循環時間が経過したか否かを判定する(ステップS5)。洗浄油の循環を開始した後、循環時間が経過していないと判定すると、循環制御部40bは、ステップS5を繰り返す。また、循環時間が経過したと判定すると、循環制御部40bは、ステップS6へ進む。
【0048】
ステップS6において、循環制御部40bは、センサ30の出力から洗浄油の鉄粉濃度を求め、求めた洗浄油の鉄粉濃度の測定値(洗浄油測定値)が上述の閾値以下か否かを判定する(ステップS6)。
洗浄油測定値が閾値以下でないと判定すると、循環制御部40bは、ステップS6を繰り返す。また、洗浄油測定値が閾値以下であると判定すると、循環制御部40bは、ステップS7へ進み、洗浄油の循環を終了する(ステップS7)。
【0049】
このように、循環制御部40bは、洗浄油の循環を開始してから循環時間が経過し(ステップS5)、かつ洗浄油の鉄粉濃度が閾値以下と判定すると(ステップS6)、洗浄油の循環を終了する(ステップS7)。
これにより、循環時間に加えて、循環する洗浄油の鉄粉濃度である洗浄油測定値に基づいて、洗浄油の循環を終了するか否かの判定を行うことができる。
【0050】
洗浄油の循環が終了すると、作業者は、フラッシング装置20を転がり軸受装置10から取り外し、ナセル6からフラッシング装置20を撤去し(ステップS8)、フラッシング作業を終える。その後、転がり軸受装置10には新しいグリースが充填される。
【0051】
〔その他〕
なお、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。
例えば、上記実施形態のフラッシング装置20は、転がり軸受装置10の内部空間S内のグリースに含まれる異物として鉄粉を除去するように構成した場合を例示したが、鉄粉以外の他の金属粉を除去するように構成してもよいし、金属粉以外の異物を除去するように構成してもよい。この場合、フィルタ32や異物濃度を測定するためのセンサ30等は、異物の物性等に応じてフィルタ機能やセンサ機能を発揮できるものが用いられる。ステップS1におけるグリース測定値は、グリースにおける除去対象の異物の濃度を示し、ステップS6における洗浄油測定値は、洗浄油における除去対象の異物の濃度を示す。
【0052】
また、上記実施形態では、図4に示すように、洗浄油の循環を開始し、循環時間が経過した後、センサ30によって洗浄油測定値を得るように構成した場合を例示したが、循環制御部40bは、洗浄油測定値を常時取得して監視するように構成してもよい。
また、センサ30を用いず、作業者が測定器を用いて吐出パイプ24aを通過する洗浄油の鉄粉濃度である洗浄油測定値を測定してもよい。この場合、作業者は、測定した洗浄油測定値を制御装置34の入出力部44に対して入力する。これにより、制御装置34は、洗浄油測定値を受け付け取得することができる。
【0053】
また、上記実施形態において、制御装置34が行う処理の一部又は全部を制御装置34に代わって作業者が行っても良い。
また、上記実施形態において、図4中のステップS3(フラッシング装置20の取付)は、ステップS1の前に行ってもよいし、ステップS1とステップS2との間で行ってもよい。
本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0054】
10 転がり軸受装置 20 フラッシング装置 29 供給回収部
31 循環ユニット 32 フィルタ 34 制御装置
40a 演算部 40b 循環制御部 40c 受付部
50 経時変化データベース
51,51a,51b,51c,51d 経時変化情報(情報)
S 内部空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6