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  • 特許-車両の前部構造 図1
  • 特許-車両の前部構造 図2
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  • 特許-車両の前部構造 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】車両の前部構造
(51)【国際特許分類】
   B62D 25/20 20060101AFI20231003BHJP
【FI】
B62D25/20 C
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020029055
(22)【出願日】2020-02-25
(65)【公開番号】P2021133706
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2023-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002424
【氏名又は名称】ケー・ティー・アンド・エス弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】安河内 辰弥
【審査官】長谷井 雅昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-214211(JP,A)
【文献】特開2015-009712(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0251702(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第102011121038(DE,A1)
【文献】特開2017-105319(JP,A)
【文献】特開2013-248898(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前部に設けられた動力源と、
前記動力源に対する車幅方向両側に配置され、前記動力源と対向する内側壁および前記内側壁よりも車幅方向の外側に配置され貫通する貫通孔が形成された外側壁を有し、車両前後方向に延びる一対の中空のサイドメンバと、
前記サイドメンバの中の空間を前記内側壁に沿って延びる第1部分、前記第1部分よりも車両前方側に配置され前記貫通孔を通過して前記外側壁よりも車幅方向の外側に張り出して車幅方向に延びる第2部分、および前記第1部分と前記第2部分とを繋ぐ第3部分を有する張り出し部材と、
を備える、車両の前部構造。
【請求項2】
前記第3部分は、前記第1部分から前記第2部分に向けて弧状に延びる曲部を有する、
請求項1に記載の車両の前部構造。
【請求項3】
前記第1部分は、前記内側壁に固定される、
請求項1または2に記載の車両の前部構造。
【請求項4】
前記サイドメンバは、前端にバンパビームに沿って設けられるフランジ部を有し、
前記第2部分は、前記フランジ部と固定される、
請求項1から3のいずれか1項に記載の車両の前部構造。
【請求項5】
前記第1部分は、側面視で前記動力源と重なる位置に配置される、
請求項1から4のいずれか1項に記載の車両の前部構造。
【請求項6】
前記貫通孔と前記張り出し部材との隙間を、前記車幅方向の外側から封じるとともに、前記フランジ部および前記サイドメンバに固定される蓋部材をさらに備える、
請求項3から5のいずれか1項に記載の車両の前部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、動力源を有する車両の前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、サイドメンバを有する車両の前部構造が開示されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1の車両の前部構造は、サイドメンバと、クラッシュボックスと、ガセットと、連結部と、を有する。ガセットは傾斜部を含み、傾斜部は、サイドメンバの車幅方向の外側にある外側壁に固定される。
【0003】
特許文献1の車両の前部構造は、このような構造とすることで、車両と衝突物が微小にラップして衝突する微小ラップ衝突が発生した場合、連結部およびガセットからクラッシュボックスおよびサイドメンバに衝突エネルギを伝達する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-105319号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
微小ラップ衝突では、衝突エネルギをサイドメンバに伝えることで、サイドメンバが車幅方向の内側に向けて折れ曲がることが好ましい。サイドメンバが車幅方向の内側に向けて折れ曲がると、サイドメンバがエンジンやモータなどのパワープラント(動力源)を微小ラップ衝突が発生した側と反対側(以下、反衝突側と明細書に記す)へ押し出す。これにより、反衝突側に向けた慣性力が、車両に作用する。この結果、車両は、反衝突側へ移動し、衝突物から逃げる。
【0006】
しかし、特許文献1の車両の前部構造では、傾斜部がサイドメンバの車幅方向の外側にある外側壁に固定されるため、サイドメンバが折れず、パワープラントが押し出されないおそれがある。
【0007】
本開示の課題は、微小ラップ衝突が発生した場合、サイドメンバが動力源を反衝突側に押し出しやすい車両の前部構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示に係る車両の前部構造は、動力源と、サイドメンバと、張り出し部材と、を備える。動力源は、車両前部に設けられる。サイドメンバは、動力源に対する車幅方向両側に配置され、動力源と対向する内側壁および内側壁よりも車幅方向の外側に配置され貫通する貫通孔が形成された外側壁を有する。サイドメンバは、車両前後方向に延びる一対の中空のサイドメンバである。張り出し部材は、第1部分、第2部分、および第3部分を有する。第1部分は、サイドメンバの中の空間を内側壁に沿って延びる。第2部分は、第1部分よりも車両前方側に配置され、貫通孔を通過して外側壁よりも車幅方向の外側に張り出して車幅方向に延びる。第3部分は、第1部分と第2部分とを繋ぐ。
【0009】
この車両の前部構造によれば、微小ラップ衝突が発生した場合、張り出し部材の第2部分が衝突エネルギを受け、受けた衝突エネルギを第1部分に伝達する。衝突エネルギが伝達された第1部分は、サイドメンバの内側壁を動力源に向けて押し出す。この結果、サイドメンバが動力源を反衝突側へ押し出しやすい車両の前部構造を提供することができる。
【0010】
第3部分は、第1部分から第2部分へ向けて弧状に延びる曲部を含んでもよい。
【0011】
この構成によれば、弧状に延びる曲部が設けられるので、微小ラップ衝突が発生した場合、張り出し部材に作用する応力を分散できる。これにより、張り出し部材の一部に応力が集中し、張り出し部材が即座に折れることを抑制できる。この結果、第1部分に衝突エネルギがさらに伝達されやすい。
【0012】
第1部分は、内側壁に固定されてもよい。
【0013】
この構成によれば、第1部分に内側壁で塞がれた閉断面が形成され、張り出し部材の強度が増す。
【0014】
サイドメンバは、前端にバンパビームに沿って設けられるフランジ部を有し、第2部分は、フランジ部と固定されてもよい。
【0015】
この構成によれば、第2部分がフランジ部に固定されることによって、第2部分に閉断面が形成され、第2部分の強度が増す。
【0016】
第1部分は、側面視で動力源と重なった位置に配置されてもよい。
【0017】
この構成によれば、第1部分が動力源と重なった位置に配置されるので、サイドメンバを押し出することで、サイドメンバが動力源を確実に押し出すことができる。
【0018】
車両の前部構造は、蓋部材をさらに備えてもよい。蓋部材は、貫通孔と張り出し部材との隙間を、車幅方向の外側から封じるとともに、フランジ部およびサイドメンバに固定される。
【0019】
この構成によれば、サイドメンバの中の空間に水などが進入することを防止できる。さらに、蓋部材がフランジ部とサイドメンバとの間の梁として機能し、衝突物からサイドメンバに衝突エネルギを伝達しやすい。
【発明の効果】
【0020】
本開示によれば、微小ラップ衝突が発生した場合、サイドメンバが動力源を反衝突側に押し出しやすい車両の前部構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本実施形態に係る車両の前部構造の全体構成を示す平面図。
図2】本実施形態に係る車両の前部構造左側の分解斜視図。
図3】本実施形態に係る車両の前部構造左側の平面断面図。
図4】本実施形態に係る車両の前部構造の衝突状態を示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本開示の一実施形態に係る車両Cの前部構造1について、図面を参照しながら説明する。なお、以下明細書において、車両Cの前後方向をQと図面に記し、前方側をFと記す。また、車両Cの車幅方向をPと図面に記し、車両Cの後方からみて右側をRと記す。さらに、車両Cの上下方向をGと図面に記し、上側をUと記す。
【0023】
図1に示すように、本開示の一実施形態に係る車両Cの前部構造1は、パワープラント(動力源の一例)2を備える車両Cの前部構造1である。本実施形態では、パワープラント2は、車両Cの前部に設けられ、エンジンとモータとトランスミッションとを組み合させたハイブリッド型のパワープラント2である。しかし、パワープラント2は、エンジンおよびトランスミッションの組み合わせ、モータおよび減速機の組み合わせ、または燃料電池スタックなどであってもよい。いずれにせよ、パワープラント2は、車両Cの動力源となる装置であればよい。
【0024】
図1および図2に示すように、車両Cの前部構造1は、サイドメンバ4と、張り出し部材6と、蓋部材8と、クラッシュボックス16と、バンパビーム17と、を車幅方向Pの左側と右側Rにそれぞれひとつずつ備える。サイドメンバ4は、車幅方向Pに並んで2つ配置され、パワープラント2の側面に沿って前後方向Qに延びることで、車両Cのシャシとして機能する。すなわち、サイドメンバ4は左右一対であり、車両Cの前後方向Qに延びるとともに、車幅方向Pの両側に配置される。また、パワープラント2は、2つのサイドメンバ4の間に配置され、サイドメンバ4に固定されたマウント7によってサイドメンバ4に連結される。マウント7は、ゴムなどの防振材を含み、パワープラント2を弾性支持するとともに、車両Cが衝突した場合、防振材からパワープラント2が引き抜かれることで、パワープラント2とサイドメンバ4の連結を解除する。
【0025】
なお、以下説明において、サイドメンバ4、張り出し部材6、および蓋部材8は、左側に配置されるサイドメンバ4、張り出し部材6、および蓋部材8について説明する。右側Rに配置されるサイドメンバ4、張り出し部材(部材の一例)6、および蓋部材8は、左側の各部材と左右対称の構造であるため説明を省略する。このため、以下明細書において車幅方向Pの外側と記す場合は左側に一致し、車幅方向Pの内側と記す場合は右側Rに一致する。
【0026】
図2に示すように、サイドメンバ4は、内側壁9と、外側壁10と、フランジ部14と、を有する。本実施形態では、サイドメンバ4は、内側部材4aと、後方外側部材4bと、前方外側部材4cと、を有する。内側部材4aは、高張力鋼などの金属板をハット形状にプレス加工して形成され、内側部材4aのハット形状の頂面部に内側壁9が形成される。後方外側部材4bおよび前方外側部材4cは、高張力鋼などの金属板をU字形状にプレス加工して形成され、後方外側部材4bの外側壁10aおよび前方外側部材4cの外側壁10bがU字形状の頂面部に形成される。
【0027】
内側部材4aは、車幅方向Pの内側にパワープラント2に沿って配置され、ハット形状の開口が車幅方向Pの外側に向き、内側壁9がパワープラント2と対向して配置される。後方外側部材4bおよび前方外側部材4cは、内側部材4aの車幅方向Pの外側に配置され、外側壁10の車幅方向Pの内側面に内側部材4aが溶接によって固定される。また、前方外側部材4cは、後方外側部材4bの前方側Fに後方外側部材4bと隣接して配置され、後方外側部材4bのフランジ26に溶接される。すなわち、サイドメンバ4は、断面矩形の中空構造である。
【0028】
サイドメンバ4は、貫通孔11を有する。貫通孔11は、側面視でマウント7とフランジ部14との間に位置する外側壁10を貫通する。本実施形態では、貫通孔11は、前方外側部材4cの前端部分を切り欠くことで設けられる。すなわち、貫通孔11は、フランジ部14と、前方外側部材4cとの間に形成される。貫通孔11は、サイドメンバ4の車幅方向Pの外側の空間とサイドメンバ4の中の空間を連通することで、張り出し部材6が挿通する。
【0029】
前方外側部材4cおよび内側部材4aの前端12にはフランジ部14が溶接によって固定される。また、図1および図2に示すように、フランジ部14の前方側Fには、車両Cが受けた衝突エネルギを吸収するクラッシュボックス16が取り付けられる。クラッシュボックス16の前方側Fには、バンパ(図示せず)を支持するバンパビーム17が取り付けられる。図1に示すように、バンパビーム17は、左右のクラッシュボックス16を接続する。また、フランジ部14は、バンパビーム17に沿って設けられる。
【0030】
図2および図3に示すように、張り出し部材6は、サイドメンバ4の中の空間を内側壁9に沿って前後方向Qの前方側Fへ延び、サイドメンバ4の外側壁10を貫いて、車幅方向Pに延びて張り出す。張り出し部材6は、高張力鋼などの金属板をハット形状にプレス加工したのち、長手方向をL字型に曲げるようにプレス加工することで、形成される。
【0031】
図3に示すように、張り出し部材6は、第1部分18、第2部分20、および第3部分22を有する。第1部分18は、内側壁9に沿って延びる部分である。図1に示すように、第1部分18は、少なくとも一部が側面視でパワープラント2と重なる位置に設けられる。また、図2に示すように、第1部分18には、ハット形状の開口が内側壁9に向けて形成される。図3に示すように、第1部分18は、ハット形状のフランジ28が内側壁9の内側面に溶接されることで、内側壁9と固定される。本実施形態では、張り出し部材6は、内側部材4aと後方外側部材4bおよび前方外側部材4cとが溶接されて固定されるよりも先に、内側壁9に溶接されて固定される。このように、張り出し部材6は、第1部分18と内側壁9とによって閉断面を形成することで強度が増す。
【0032】
図2に示すように、第2部分20は、第1部分18よりも車両Cの前後方向Qの前方側Fに配置される。第2部分20は、サイドメンバ4の外側壁10よりも車幅方向Pの外側に張り出し、車幅方向Pに延びる部分である。第2部分20は、バンパビーム17よりも車幅方向Pの外側に張り出す。第2部分20は、ハット形状の開口がフランジ部14に向けて形成されるとともに、頂面部20aがフランジ30よりも前後方向Qの後方側に突設するように形成される。図3に示すように、第2部分20は、ハット形状のフランジ30がフランジ部14の後側面と溶接されることで、フランジ部14と固定される。このように、張り出し部材6は、フランジ部14と第2部分20とによってバンパビーム17の車幅方向Pの外側端部よりも車幅方向Pの外側の位置で閉断面を形成することで強度が増す。第2部分20の頂面部20aは、後述する曲部36に合わせて曲げられる。
【0033】
なお、本実施形態では、第2部分20は、第1傾斜部21を含む。第1傾斜部21は、車幅方向Pの内側へ向かうにつれてフランジ部14から離れ、前後方向Qの後方に向かって第1部分18の方へ近づき、第3部分22に繋がる。このように、第2部分20に第1傾斜部21が設けられることで、後述する曲部36の曲率を緩くすることができる。これにより、張り出し部材6にかかる応力を分散しやすい。
【0034】
第3部分22は、第1部分18と第2部分20とを繋ぐ部分である。より具体的には、第3部分22は、第1部分18の前端32から第2部分20の車幅方向Pの内側端部34まで延びることで、第1部分18と第2部分20とをつなぐ。ここで、内側端部34は、貫通孔11の入口の開口に位置する。
【0035】
第3部分22は、曲部36を含む。曲部36は、サイドメンバ4の中の空間を、第1部分18から貫通孔11の入口にある第2部分20の内側端部34に向かって弧状に延びる。このように、第3部分22に曲部36が設けられることで、微小ラップ衝突が発生した場合、張り出し部材6に作用する応力を分散できる。図2に示すように、曲部36には、曲板38が溶接されて固定される。これにより、張り出し部材6は、曲部36において第3部分22と曲板38とによって閉断面を形成し強度が増す。
【0036】
なお、図3に示すように、本実施形態では、第3部分22は、曲部36に加えて、第2傾斜部40を含む。第2傾斜部40は、車幅方向Pの内側へ向かうにつれて曲部36から離れ、前後方向Qの後方に向かって第1部分18へ近づき、第1部分18の前端32に繋がる。このように、第3部分22に曲部36が設けられることで、曲部36の曲率を緩くできる。これにより、張り出し部材6にかかる応力を分散しやすい。
【0037】
図2に示すように、蓋部材8は、カバー部8aと、第1フランジ8bと、第2フランジ8cと、を有する。第1フランジ8bは、カバー部8aの車幅方向Pの内側の開口周囲に形成され、外側壁10に沿って延びる。第2フランジ8cは、カバー部8aの前方側Fの開口周囲に形成され、フランジ部14に沿って延びる。
【0038】
図3に示すように、カバー部8aは、第2部分20の頂面部20aおよびフランジ30の形状に沿って形成され、第2部分20を前後方向Qの後方側から覆う。より具体的には、蓋部材8は、第2部分20の頂面部20aおよびフランジ30を後方側から覆う。
【0039】
蓋部材8の第1フランジ8bは、外側壁10bに溶接されて固定されるとともに、貫通孔11と張り出し部材6との隙間を、車幅方向Pの外側から封じる。このように、蓋部材8は貫通孔11と張り出し部材6との隙間を封じることで、サイドメンバ4の中の空間に水などが進入することを防止する。
【0040】
また、蓋部材8の第2フランジ8cは、フランジ部14と溶接によって固定される。このように、蓋部材8は、第1フランジ8bおよび第2フランジ8cによってフランジ部14およびサイドメンバ4の外側壁10に固定されることで、フランジ部14とサイドメンバ4との間の梁として機能する。これにより、微小ラップ衝突が発生した場合、フランジ部14からサイドメンバ4に衝突エネルギが伝達しやすい。この結果、サイドメンバ4が車幅方向Pの内側へさらに変形しやすい。さらに、蓋部材8は、張り出し部材6が衝突エネルギを受けたときに、第2部分20の頂面部20aおよびフランジ30を前後方向Qの後方側から受けて止めて支持する。これにより、張り出し部材6が、衝突エネルギを受けて即座に折れることを抑制できる。この結果、第1部分18に衝突エネルギが伝達されやすい。
【0041】
次に、車両Cの左側に微小ラップ衝突が発生した場合について、図4を用いて説明する。図4に示すように、車両Cの前部構造1は、車両Cに左側に微小ラップ衝突が発生すると、張り出し部材6が第2部分20で衝突物からの衝突エネルギを受けて、第2部分20が第3部分22の曲部36を支点として折り曲がるように変形する。このとき、張り出し部材6は、曲部36を中心として回転しようとする。このため、第2部分20に前後方向Qの後方に向けて作用する衝突エネルギは、第1部分18が車幅方向Pの内側に向けて内側壁9を押し出す方向(図4の矢印参照)に向きを変えて、第1部分18に伝達される。これにより、第1部分18は、サイドメンバ4の内側壁9をパワープラント2に向けて押し出す。
【0042】
また、曲部36は、張り出し部材6の一部に応力が集中し、張り出し部材6が即座に折れることを抑制できる。このため、第2部分20に作用する衝突エネルギが第1部分18に伝達されやすい。この結果、第1部分18は、内側壁9をパワープラント2に向けて押しやすい。また、蓋部材8は、第2部分20を後方側から支持し、フランジ部14および第2部分20が受ける衝突エネルギを外側壁10に伝達する。これにより、外側壁10もパワープラント2に向かって押される。さらに、第2部分20の変形が進むと、張り出し部材6は、曲部36を支点に折り畳まれる。しかし、このときも、蓋部材8が第2部分20と外側壁10の間に挟まる。また、外側壁10と内側壁9の間には、第1部分18が挟まる。すなわち、サイドメンバ4、張り出し部材6、および蓋部材8が、パワープラント2を向けて押し出される。パワープラント2は、これら部材によって反衝突側へ押し出されることで、反衝突側のサイドメンバ4へ車幅方向Pの右側Rに向けた衝突エネルギを伝達する。このため、車両Cは、右側Rへ押され、車両Cと衝突物とのラップ量が減少する。この結果、キャビンの変形が減少する。
【0043】
以上説明した通り、微小ラップ衝突が発生した場合、サイドメンバ4がパワープラント2を反衝突側に押し出しやすい車両Cの前部構造1を提供することができる。
【0044】
<他の実施形態>
以上、本開示の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。特に、本明細書に書かれた複数の変形例は必要に応じて任意に組合せ可能である。
【0045】
(a)上記実施形態では、サイドメンバ4は、内側部材4aと、後方外側部材4bと、前方外側部材4cと、を有する例を用いて説明したが、本開示はこれに限定されない。サイドメンバ4は、後方外側部材4bおよび前方外側部材4cを一体成形してもよい。
【0046】
(b)上記実施形態では、車両Cの右側Rに微小ラップ衝突が発生した場合の例を用いて説明したが、本開示はこれに限定されない。車両Cの左側に微小ラップ衝突が発生した場合であっても、本開示と同様に右側に配置されるサイドメンバ4、張り出し部材6、および蓋部材8によって、パワープラント2は左側に押し出される。
【符号の説明】
【0047】
1:前部構造,2:パワープラント(動力源),4:サイドメンバ
6:張り出し部材,8:蓋部材,9:内側壁,10:外側壁
11:貫通孔,12:前端,14:フランジ部
18:第1部分,20:第2部分,22:第3部分,28:フランジ部
36:曲部,C:車両
図1
図2
図3
図4