IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ トヨタ自動車株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-ハイブリッド車両の制御装置 図1
  • 特許-ハイブリッド車両の制御装置 図2
  • 特許-ハイブリッド車両の制御装置 図3
  • 特許-ハイブリッド車両の制御装置 図4
  • 特許-ハイブリッド車両の制御装置 図5
  • 特許-ハイブリッド車両の制御装置 図6
  • 特許-ハイブリッド車両の制御装置 図7
  • 特許-ハイブリッド車両の制御装置 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/06 20060101AFI20231003BHJP
   B60K 6/48 20071001ALI20231003BHJP
   B60K 6/547 20071001ALI20231003BHJP
   B60W 20/15 20160101ALI20231003BHJP
   F02D 29/02 20060101ALI20231003BHJP
   F02D 29/06 20060101ALI20231003BHJP
   F02D 17/00 20060101ALI20231003BHJP
   F02D 9/02 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
B60W10/06 900
B60K6/48 ZHV
B60K6/547
B60W20/15
F02D29/02 321C
F02D29/06 D
F02D17/00 G
F02D17/00 A
F02D17/00 Q
F02D9/02 325Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020036787
(22)【出願日】2020-03-04
(65)【公開番号】P2020147276
(43)【公開日】2020-09-17
【審査請求日】2023-02-09
(31)【優先権主張番号】P 2019042386
(32)【優先日】2019-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】山口 満
(72)【発明者】
【氏名】中野 智洋
(72)【発明者】
【氏名】丸山 研也
(72)【発明者】
【氏名】上浦 響
(72)【発明者】
【氏名】吉田 暁光
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雄大
【審査官】井古田 裕昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-155548(JP,A)
【文献】特開2004-204746(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/06
B60K 6/48
B60K 6/547
B60W 20/15
F02D 29/02
F02D 29/06
F02D 17/00
F02D 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行用の駆動源としてエンジンとモータとを備えるハイブリッド車両に適用されて、前記エンジンの自動停止及び自動再始動を行うハイブリッド車両の制御装置において、
前記エンジンの自動停止に際して同エンジンの回転停止の直前にスロットル開度を増大して、同エンジンの回転が停止したときに膨張行程でピストンが停止する気筒である膨張行程停止気筒、及び圧縮行程でピストンが停止する気筒である圧縮行程停止気筒の吸気量を他の気筒よりも多くする停止位置制御を行うものであって、
前記停止位置制御において前記スロットル開度を増大する時期を、前記スロットル開度を増大してから前記膨張行程停止気筒の吸気バルブが閉じられるまでの時間が一定となるようにエンジン回転数及びその降下速度に基づき決定する
ハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
前記停止位置制御は、車速が既定値以上であることを条件に実施される
請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
前記停止位置制御を実施して前記エンジンを自動停止した場合には、前記膨張行程停止気筒での燃焼により生じるトルクでクランク軸の回転を開始する第1始動方式により前記エンジンの再始動を行い、
前記停止位置制御を実施せずに前記エンジンを自動停止した場合には、前記モータが発生するトルクで前記クランク軸の回転を開始するとともに、その後に気筒での燃焼を開始する第2始動方式により前記エンジンの再始動を行う
請求項2に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンを間欠運転するハイブリッド車両において、自動停止したエンジンを再始動するにあたり、自動停止時に膨張行程で停止した気筒で燃焼を行い、その燃焼により発生するトルクを利用してクランク軸の回転を開始するものがある。膨張行程停止気筒での燃焼に発生するトルクは、同気筒のピストンの停止位置により決まる。そのため、エンジンの再始動性を確保するため、自動停止時におけるエンジンの回転停止位置を精密に制御することが求められる。
【0003】
従来、自動停止時の回転停止位置の制御技術として特許文献1に記載のものが知られている。同文献では、自動停止に際してエンジンの燃焼停止から回転が停止する直前までの期間、スロットル開度の調整を通じてエンジン回転数の降下速度を制御することで、エンジンの回転停止位置を概ね定めるようにしている。さらに同文献では、回転停止の直前にスロットル開度を増大し、膨張行程及び圧縮行程でそれぞれ停止する2つの気筒に吸気を導入している。このときのエンジンの回転停止位置は、それら2つの気筒に導入した吸気の圧縮反力が釣り合う位置となる。このように上記文献1では、エンジンの回転停止直前にそれら2つの気筒にそれぞれ適宜な量の吸気を導入することで、エンジンの回転停止位置を定めるようにしている。
【0004】
なお、以下の説明では、エンジンの自動停止時に膨張行程で停止する気筒を膨張行程停止気筒と記載する。また、エンジンの自動停止時に圧縮行程で停止する気筒を圧縮行程停止気筒と記載する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-155548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来の制御技術においても、エンジンの回転停止の直前に膨張行程停止気筒及び圧縮行程停止気筒のそれぞれに導入される吸気量が精密に制御されていなければ、エンジンの回転停止位置にずれが生じてしまう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するハイブリッド車両の制御装置は、走行用の駆動源としてエンジンとモータとを備えるハイブリッド車両に適用されて、エンジンの自動停止、及び自動再始動を行う。また、同ハイブリッド車両の制御装置は、エンジンの自動停止に際して同エンジンの回転停止の直前にスロットル開度を増大して、同エンジンの回転が停止したときに膨張行程でピストンが停止する気筒である膨張行程停止気筒、及び圧縮行程でピストンが停止する気筒である圧縮行程停止気筒の吸気量を他の気筒よりも多くする停止位置制御を行っている。さらに、同ハイブリッド車両の制御装置は、停止位置制御においてスロットル開度を増大する時期を、スロットル開度を増大してから膨張行程停止気筒の吸気バルブが閉じられるまでの時間が一定となるようにエンジン回転数の降下速度に基づき決定している。
【0008】
エンジン回転数及び吸気バルブの閉時期が一定であれば、気筒内に入る吸気の量は、吸気バルブが閉じるときの吸気管圧力により決まる。一方、膨張行程停止気筒、及び圧縮行程停止気筒のうちで先に吸気行程を迎えるのは、膨張行程停止気筒である。よって、上記停止位置制御において、膨張行程停止気筒の吸気バルブが閉じられる時期の吸気管圧力が所望の吸気量が得られる値となるようにスロットル開度を増大すれば、膨張行程停止気筒、及び圧縮行程停止気筒のそれぞれに適宜な量の吸気を導入することができる。
【0009】
一方、スロットル開度を増大してから吸気管圧力が所望の吸気量が得られる値となるまでには遅れがある。この遅れの時間は一定である。膨張行程停止気筒の吸気バルブが閉じられる時期は、エンジン回転数及びその降下速度から求めることができる。よって、上記遅れの時間の分、その求めた時期よりも早い時期にスロットル開度を増大すれば、膨張行程停止気筒に所望とする量の吸気を導入することが、ひいてはエンジンの回転を所望とする位置で停止することが可能となる。したがって、上記ハイブリッド車両の制御装置によれば、自動停止に際してのエンジンの回転停止位置を精密に制御できる。
【0010】
ところで、上記のような停止位置制御を実施した場合には、圧縮行程停止気筒や膨張行程停止気筒に導入された吸気の圧縮、膨張に伴う反力によりクランク軸の回転が変動して車体振動が発生してしまう。車速がある程度よりも高い状態でエンジンの回転が停止する場合には、路面から車体に伝わる振動などの他の要因による車体振動に紛れてしまうため、停止位置制御により生じた車体振動を乗員が特に意識することにはなり難い。これに対して、車速が低下した状態でエンジンの回転が停止する場合には、他の車体振動が小さくなっているため、停止位置制御により生じた車体振動が乗員に違和を感じさせる虞がある。こうした停止位置制御に伴う車体振動による乗員の違和を緩和するには、車速が既定値以上であることを、上記ハイブリッド車両の制御装置における停止位置制御の実施の条件とするとよい。
【0011】
停止位置制御が適切に実施されてエンジンが自動停止した場合には、膨張行程停止気筒での燃焼により生じるトルクでクランク軸の回転を開始する第1始動方式によりエンジンを再始動できる。上記のように車速を停止位置制御の実施の条件とした場合には、停止位置制御が実施されずにエンジンが自動停止されることがあり、そうした場合には、第1始動方式によるエンジンの再始動を実施できなくなる。そのため、そうした場合には、停止位置制御を実施してエンジンを自動停止した場合には、膨張行程停止気筒での燃焼により生じるトルクでクランク軸の回転を開始する第1始動方式によりエンジンの再始動を行い、停止位置制御を実施せずにエンジンを自動停止した場合には、モータが発生するトルクでクランク軸の回転を開始するとともに、その後に気筒での燃焼を開始する第2始動方式によりエンジンの再始動を行うようにするとよい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】ハイブリッド車両の制御装置の第1実施形態及び同装置が適用されるハイブリッド車両の駆動系の構成を模式的に示す図。
図2】同ハイブリッド車両に搭載されたエンジンの構成を模式的に示す図。
図3】上記制御装置における停止位置制御ルーチンのフローチャート。
図4】上記停止位置制御ルーチンで設定されるTA増大開始回転数とエンジン回転数の降下速度との関係を示すグラフ。
図5】上記停止位置制御ルーチンで設定される目標スロットル開度と計時カウンタとの関係を示すグラフ。
図6】上記制御装置における停止位置制御の実施態様の一例を示すタイムチャート。
図7】第2実施形態のハイブリッド車両の制御装置が実行する停止位置制御ルーチンのフローチャート。
図8】同制御装置が実行する始動方式選択ルーチンのフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(第1実施形態)
以下、ハイブリッド車両の制御装置の第1実施形態を、図1図6を参照して詳細に説明する。ここではまず、図1を参照して、本実施形態のハイブリッド車両の駆動系の構成を説明する。
【0014】
図1に示すように、ハイブリッド車両には、走行用の駆動源としてのエンジン10が搭載されている。同ハイブリッド車両におけるエンジン10から車輪13への動力伝達経路には、変速ユニット11が設けられている。変速ユニット11と左右の車輪13とは、ディファレンシャル12を介して駆動連結されている。
【0015】
変速ユニット11には、クラッチ14とM/G(Motor Generator)15とが設けられている。変速ユニット11においてM/G15は、エンジン10から車輪13への動力伝達経路上に位置するように設置されている。また、クラッチ14は、同動力伝達経路におけるエンジン10とM/G15との間の部分に位置するように設置されている。クラッチ14は、油圧の供給を受けて係合された状態となって、エンジン10とM/G15との動力伝達を接続する。また、クラッチ14は、油圧供給の停止に応じて開放された状態となって、エンジン10とM/G15との動力伝達を遮断する。
【0016】
M/G15は、インバータ17を介して車載電源16に接続されている。そして、モータ15は、車載電源16からの給電に応じて車両の駆動力を発生するモータとして機能する一方で、エンジン10や車輪13からの動力伝達に応じて車載電源16に充電する電力を発電する発電機としても機能する。M/G15と車載電源16との間で授受される電力は、インバータ17により調整されている。
【0017】
また、変速ユニット11には、トルク増幅機能を有した流体継ぎ手であるトルクコンバータ18と、ギア段の切替えにより変速比を多段階に切替える有段式の自動変速機19と、が設けられている。本実施形態では、自動変速機19として、1速から10速までの10段階にギア段を切替可能なものが採用されている。変速ユニット11において自動変速機19は、上記動力伝達経路におけるモータ15よりも車輪13側の部分に位置するように設置されている。そして、トルクコンバータ18を介して、M/G15と自動変速機19とが連結されている。なお、トルクコンバータ18には、油圧の供給を受けて係合してモータ15と自動変速機19とを直結するロックアップクラッチ20が設けられている。
【0018】
さらに変速ユニット11には、オイルポンプ21と油圧制御部22とが設けられている。そして、オイルポンプ21が発生した油圧が、油圧制御部22を介して、クラッチ14、トルクコンバータ18、自動変速機19、及びロックアップクラッチ20にそれぞれ供給されている。油圧制御部22には、クラッチ14、トルクコンバータ18、自動変速機19、及びロックアップクラッチ20のそれぞれの油圧回路と、それらの作動油圧を制御するための各種の油圧制御弁と、が設けられている。
【0019】
加えて、ハイブリッド車両には、車両制御部23が設けられている。車両制御部23は、車両の走行制御に係る各種演算処理を行う演算処理回路と、制御用のプログラムやデータが記憶された記憶装置と、を備える電子制御ユニットとして構成されている。車両制御部23は、エンジン10の運転制御を行っている。また、車両制御部23は、インバータ17を制御して、M/G15と車載電源16との間での電力の授受量を調整することで、M/G15のトルク制御を行っている。さらに車両制御部23は、油圧制御部22の制御を通じて、クラッチ14やロックアップクラッチ20、自動変速機19の駆動制御を行っている。なお、車両制御部23には、車速SPDや、運転者のアクセルペダルの踏込量であるアクセルペダル開度ACCなどの検出信号が入力されている。
【0020】
図2に示すように、エンジン10には、混合気の燃焼を行う気筒30が設けられている。同図には、エンジン10が有する複数の気筒30のうちの一つのみが表示されている。各気筒30には、ピストン31が往復動可能に収容されている。各気筒30のピストン31は、エンジン10の出力軸であるクランク軸33に、コネクティングロッド32を介してそれぞれ連結されている。コネクティングロッド32及びクランク軸33は、ピストン31の往復運動をクランク軸33の回転運動に変換するクランク機構を構成する。なお、エンジン10には、クランク軸33の回転角を検出するクランク角センサ34が設けられている。
【0021】
また、エンジン10の各気筒30には、吸気の導入路である吸気通路35が吸気バルブ36を介して接続されている。また、エンジン10の各気筒30には、排気の排出路である排気通路37が排気バルブ38を介して接続されている。吸気通路35には、その内部を流れる吸気の流量である吸気流量GAを検出するエアフローメータ39と、吸気の流量を調整するための弁であるスロットルバルブ40と、が設けられている。また、エンジン10には、気筒30内に燃料を噴射する燃料噴射弁41が、各気筒30にそれぞれ設けられている。さらに各気筒30には、吸気通路35を通じて導入された吸気と燃料噴射弁41が噴射した燃料との混合気を火花放電により点火する点火装置42が設けられている。一方、排気通路37には、排気浄化用の触媒装置43が設けられている。
【0022】
上述の車両制御部23には、クランク角センサ34及びエアフローメータ39の検出信号が入力されている。また、車両制御部23は、クランク軸33が既定の角度分回転する毎の定クランク角の割り込み処理として、クランク角センサ34の検出信号からエンジン回転数NEの演算を行っている。そして、車両制御部23は、スロットルバルブ40の開度制御、燃料噴射弁41の燃料噴射制御、点火装置42の点火制御などを通じてエンジン10の運転制御を行っている。なお、以下の説明では、スロットルバルブ40の開度を「スロットル開度TA」と記載する。
【0023】
さらに、車両制御部23は、エンジン10を稼働して走行するHV(Hybrid Vehicle)走行モードと、エンジン10の稼働を停止して走行するEV(Electric Vehicle)走行モードとを走行状況に応じて切替えている。EV走行モードでは、エンジン10の稼働が停止され、かつクラッチ14が開放された状態で、M/G15の動力により走行が行われる。また、HV走行モードでは、エンジン10が稼働され、かつクラッチ14が接続された状態で、エンジン10の動力を利用して走行が行われる。なお、HV走行モードでは、車両の走行状況に応じて、M/G15の力行運転による走行アシストや、同M/G15の回生運転による回生発電が行われる。車両制御部23は、HV走行モードからEV走行モードへの切替えに際してエンジン10の自動停止を行っている。また、車両制御部23は、EV走行モードからHV走行モードへの切替えに際してエンジン10の自動再始動を行っている。なお、以下の説明では、自動停止によりエンジン10のクランク軸33の回転が停止したときに膨張行程でピストン31が停止する気筒30を「膨張行程停止気筒」と記載する。また、このときに圧縮行程でピストン31が停止する気筒30を「圧縮行程停止気筒」と記載する。
【0024】
車両制御部23は、EV走行モードからHV走行モードへの切替えが要求されると、膨張行程停止気筒への燃料噴射を実施する。そして、車両制御部23は、クラッチ14を接続すると同時に、膨張行程停止気筒で燃焼を行って、クラッチ14を介して伝達されたM/G15のトルクと膨張行程停止気筒の燃焼トルクとでクランク軸33の回転を開始する。続いて、車両制御部23は、圧縮行程停止気筒でも燃料噴射及び燃焼を行った後、クラッチ14を一旦開放する。その後も、車両制御部23は、燃焼を継続して、エンジン10を再始動している。そして、車両制御部23は、エンジン回転数NEがM/G15の回転数の近傍まで上昇した時点でクラッチ14を再接続することで、EV走行モードからHV走行モードへの切替えを完了している。
【0025】
一方、車両制御部23は、HV走行モードからEV走行モードへの切替えが要求されると、エンジン10の燃焼を停止するとともに、クラッチ14を開放する。その後、車両制御部23は、クランク軸33の回転を適切な位置で停止するための停止位置制御を実行している。なお、以下の説明では、エンジン10の再始動に適したクランク軸33の回転停止位置を「目標停止位置」と記載する。本実施形態では、膨張行程停止気筒のピストン31の上死点からの距離と、圧縮行程停止気筒のピストン31の上死点からの距離が等しくなる位置が、目標停止位置となっている。
【0026】
図3に、こうした停止位置制御のため、車両制御部23が実行する停止位置制御ルーチンのフローチャートを示す。車両制御部23は、HV走行モードからEV走行モードへの切替え要求に応じてエンジン10の燃焼を停止してからクランク軸33の回転が完全に停止するまでの期間、既定の制御周期毎に同ルーチンの処理を繰り返し実行している。
【0027】
本ルーチンの処理が開始されると、まずステップS100,S110において、エンジン回転数NEの降下速度Vの演算が行われる。具体的には、ステップS100において、前回の本ルーチンの実行時のエンジン回転数NEであるNE前回値から現在のエンジン回転数NEを引いた差がエンジン回転数NEの変化量ΔNEの値として演算される。変化量ΔNEは、一定の制御周期におけるエンジン回転数NEの降下量に、すなわちエンジン回転数NEの降下速度Vに相当する値となる。ただし、車両制御部23は、定クランク角の割り込み処理としてエンジン回転数NEの演算を行っている。そのため、エンジン回転数NEの低下に応じて、同エンジン回転数NEの演算の時間間隔が長くなる。その結果、エンジン回転数NEが低下すると、エンジン回転数NEの演算値と実際の値とのずれが大きくなり、変化量ΔNEの演算誤差が大きくなる虞がある。そこで、本実施形態では、ステップS110において、変化量ΔNEに平滑化処理を施した値をエンジン回転数NEの降下速度Vの値として演算することで、エンジン回転数NEの低下に応じた降下速度Vの演算誤差を抑えている。具体的には、本実施形態では、下式に基づいて降下速度Vの値を更新することで、変化量ΔNEの平滑化処理値として降下速度Vの値を演算している。なお、下式における「k」は、平滑化の程度を決める定数であり、その値には、0を超過、かつ1未満の値が設定されている。ちなみに、このときの降下速度Vの平滑化の程度は、定数kの値が1から0に近づくにつれて高くなる。
【0028】
【数1】
こうして降下速度Vの値が演算されると、ステップS120において、NE前回値の値を現在のエンジン回転数NEの値に更新した後、ステップS130に処理が進められる。ステップS130に処理が進められると、そのステップS130において、降下速度Vに基づき、TA増大開始回転数N2の値が演算される。TA増大開始回転数N2は、クランク軸33の回転を目標停止位置で停止するために必要な量の吸気を圧縮行程停止気筒、及び膨張行程停止気筒に導入するためのスロットル開度TAの増大を開始するエンジン回転数NEの値を示している。TA増大開始回転数N2の演算は、車両制御部23のメモリに予め記憶された演算マップMAP1を用いて行われる。
【0029】
図4に、演算マップMAP1における降下速度VとTA増大開始回転数N2との関係を示す。同図に示すように、TA増大開始回転数N2は、降下速度Vが大きくなるにしたがって大きくなる値として設定されている。
【0030】
続いて、ステップS140において、現在のエンジン回転数NEがTA増大開始回転数N2以下であるか否かが判定される。エンジン回転数NEがTA増大開始回転数N2を超過する値である場合(S140:NO)には、ステップS150に処理が進められ、そのステップS150において計時カウンタCOUNTの値が0にクリアされる。そして、続くステップS160において、スロットル開度TAの目標値である目標スロットル開度TA*が既定の小開度目標値TA1に設定された後、今回の本ルーチンの処理が終了される。
【0031】
エンジン10の燃焼停止後のエンジン回転数NEの降下中には、気筒30内での吸気の圧縮、膨張により、クランク軸33の回転変動が生じる。このときの各気筒30に多量の吸気が導入されていると、クランク軸33の回転変動が大きくなり、車体振動が発生する。小開度目標値TA1には、各気筒30の吸気導入量が、車体振動を許容可能な範囲に留められる量となるスロットル開度TAが値として設定されている。
【0032】
これに対して、エンジン回転数NEがTA増大開始回転数N2以下の値である場合(S140:YES)には、ステップS170に処理が進められる。ステップS170に処理が進められると、そのステップS170において、計時カウンタCOUNTのカウントアップが行われる。そして、続くステップS180において、車両制御部23のメモリに予め記憶された演算マップMAP2を用いて、計時カウンタCOUNTの値に応じて目標スロットル開度TA*の値が設定された後、今回の本ルーチンの処理が終了される。
【0033】
こうした本ルーチンにおいて、計時カウンタCOUNTの値は、エンジン回転数NEがTA増大開始回転数N2以下となるまでは0に保持され、その後、本ルーチンの処理が実行される都度、カウントアップされる。一方、上述したように本ルーチンの処理は、一定の制御周期毎に実行される。そのため、計時カウンタCOUNTの値は、エンジン回転数NEがTA増大開始回転数N2以下に低下した時点からの経過時間に相当する値となる。
【0034】
図5に、演算マップMAP2における計時カウンタCOUNTと目標スロットル開度TA*との関係を示す。同図に示すように、計時カウンタCOUNTの値が既定値C1以下の場合には、スロットル開度TAの最大値である最大スロットル開度TAMAXが目標スロットル開度TA*の値として設定される。そして、計時カウンタCOUNTの値が既定値C1を超える範囲では、上述の小開度目標値TA1よりも大きく、最大スロットル開度TAMAXよりも小さい既定の最終開度目標値TA2が目標スロットル開度TA*の値として設定される。
【0035】
以上のように構成された本実施形態の作用及び効果について説明する。
上述のように本実施形態では、EV走行モードからHV走行モードの切替えに際し、膨張行程停止気筒で燃焼を行ってクランク軸33の回転を開始してエンジン10を再始動している。このときの膨張行程停止気筒のピストン31の位置が上死点に近すぎても、下死点に近すぎても、燃焼トルクが小さくなって、クランク軸33の回転開始が困難となる。よって、上記態様でエンジン10を再始動する場合には、自動停止時に適切な位置でクランク軸33の回転を停止する必要がある。
【0036】
これに対して本実施形態では、エンジン10の自動停止に際して、クランク軸33の回転停止の直前に、スロットル開度TAを増大して、圧縮行程停止気筒、及び膨張行程停止気筒の2つの気筒に、他の気筒よりも多い量の吸気を導入するようにしている。このときのクランク軸33の回転は、圧縮行程停止気筒、及び膨張行程停止気筒の吸気の圧縮反力が釣り合う位置で停止する。よって、クランク軸33の回転停止の直前に、圧縮行程停止気筒、及び膨張行程停止気筒に対してそれぞれ適量の吸気を導入することで、エンジン10の再始動に適した位置でクランク軸33の回転を停止することが可能となる。
【0037】
なお、上述のように本実施形態では、膨張行程停止気筒のピストン31の上死点からの距離と、圧縮行程停止気筒のピストン31の上死点からの距離が等しくなる位置が、エンジン10の再始動に適したクランク軸33の目標停止位置となっている。この場合には、クランク軸33の回転停止の直前に、膨張行程停止気筒及び圧縮行程停止気筒の双方にそれぞれ同量の吸気を導入することで、そうした目標停止位置でクランク軸33の回転を停止することが可能となる。なお、このとき、他の気筒にも多くの吸気が導入されていると、各気筒の吸気の圧縮反力が釣り合う。
【0038】
以下の説明では、吸気通路35におけるスロットルバルブ40よりも下流側の部分の吸気の圧力を「吸気管圧力PM」と記載する。エンジン回転数NEが十分に低下した状態では、吸気バルブ36が開いている間の気筒30内の吸気の圧力は、吸気管圧力PMとほぼ等しくなる。よって、膨張行程停止気筒、圧縮行程停止気筒のそれぞれに導入される吸気の量は、それら気筒の吸気バルブ36が閉じるときの吸気管圧力PMにより決まることになる。
【0039】
一方、膨張行程停止気筒、及び圧縮行程停止気筒のうちで先に吸気行程を迎えるのは、膨張行程停止気筒である。そこで、停止位置制御において、膨張行程停止気筒の吸気バルブ36が閉じられる時期の吸気管圧力PMが、目標停止位置でのクランク軸33の回転停止に必要な吸気量が得られる値となるようにスロットル開度TAを増大する。このようにすれば、膨張行程停止気筒、及び圧縮行程停止気筒のそれぞれに適宜な量の吸気を導入することが、ひいては目標停止位置でクランク軸33の回転を停止することが可能となる。なお、以下の説明では、目標停止位置でのクランク軸33の回転停止に必要な吸気量が得られる吸気管圧力PMを「目標圧力PR」と記載する。なお、上述の最終開度目標値TA2には、スロットル開度TAを一定に維持したときの吸気管圧力PMの収束値が目標圧力PRとなる同スロットル開度TAの値が設定されている。
【0040】
さて、図6に、エンジン10の自動停止中の状況を示す。現在を時刻t0とし、その後、降下速度Vを維持したまま、エンジン回転数NEが低下を続けるとすると、その後のエンジン回転数NEは同図に点線で示すように推移することになる。よって、エンジン回転数NE、及び降下速度Vからは、クランク軸33の回転が停止する凡その時刻t3が分かる。さらに、膨張行程停止気筒の吸気バルブ36が閉じられる時期t2も、エンジン回転数NE、及び降下速度Vから予測できる。
【0041】
一方、スロットル開度TAを増大してから吸気管圧力PMが目標圧力PRとなるまでには遅れがある。この遅れ時間Tは一定である。よって、現在のエンジン回転数NE、及び降下速度Vから予測した上記時期t2よりもその遅れ時間T分、早い時刻t1にスロットル開度TAの増大を開始すれば、膨張行程停止気筒の吸気バルブ36が閉じられる時期t2の吸気管圧力PMを目標圧力PRとすることが可能となる。さらに、同時期t2におけるエンジン回転数NEも、現在のエンジン回転数NE、及び降下速度Vから求められる。よって、膨張行程停止気筒の吸気バルブ36が閉じられる時期t2の吸気管圧力PMを目標圧力PRとするためのスロットル開度TAの増大を開始するエンジン回転数NEであるTA増大開始回転数N2は、エンジン回転数NE及び降下速度Vから求めることが可能である。
【0042】
その点、本実施形態では、エンジン回転数NE及び降下速度VからTA増大開始回転数N2を演算し、エンジン回転数NEがそのTA増大開始回転数N2以下に低下したときにスロットル開度TAを増大している。そのため、スロットル開度TAを増大してから膨張行程停止気筒の吸気バルブ36が閉じられるまでの時間が上記遅れ時間Tとなるように、スロットル開度TAの増大を行うことができる。そしてこれにより、膨張行程停止気筒、及び圧縮行程停止気筒にそれぞれ適量の吸気を導入することが可能となる。
【0043】
なお、吸気管圧力PMを目標圧力PRとするには、スロットル開度TAを最終的に上述の最終開度目標値TA2とする必要がある。ここで図6に二点鎖線で示すように、目標スロットル開度TA*を単純に小開度目標値TA1から最終開度目標値TA2に増加させた場合には、目標圧力PRへの吸気管圧力PMの到達に要する時間が長くなる。膨張行程停止気筒、及び圧縮行程停止気筒以外の気筒の吸気量も増加して、クランク軸33の回転変動を招き、エンジン10の振動が大きくなる虞がある。また、各気筒30の吸気の圧縮反力のバランスが変わり、エンジン10の停止位置が安定しなくなることにもなる。
【0044】
その点、本実施形態では、スロットル開度TAを一旦は、小開度目標値TA1から最大スロットル開度TAMAXに増加し、その後に最終開度目標値TA2とするようにしている。そのため、単純に小開度目標値TA1から最終開度目標値TA2に増加させた場合に比べて短い時間で吸気管圧力PMを目標圧力PRとすることが可能となる。
【0045】
以上の本実施形態のハイブリッド車両の制御装置によれば、以下の効果を奏することができる。
(1)本実施形態では、停止位置制御においてスロットル開度TAを増大する時期を、スロットル開度TAを増大してから膨張行程停止気筒の吸気バルブ36が閉じられるまでの時間が一定となるようにエンジン回転数NE及びその降下速度Vに基づき決定している。そのため、圧縮行程停止気筒、膨張行程停止気筒に導入する吸気の量を、ひいてはエンジン10の回転停止位置を精度良く制御することができる。
【0046】
(2)圧縮行程停止気筒、膨張行程停止気筒の吸気量を増加するためのスロットル開度TAの増大に際して、一旦最大スロットル開度TAMAXに増加した後に最終開度目標値TA2とするようにしている。そのため、単純に小開度目標値TA1から最終開度目標値TA2に増加させた場合に比べて短い時間で吸気管圧力PMを目標圧力PRとすることが可能となる。
【0047】
(3)TA増大開始回転数N2の演算に使用する降下速度Vの値として、平滑化処理を施した値を用いている。そのため、降下速度Vの演算誤差を、ひいてはTA増大開始回転数N2の演算誤差を抑えられる。
【0048】
(第2実施形態)
次に、ハイブリッド車両の制御装置の第2実施形態を、図7及び図8を併せ参照して詳細に説明する。なお本実施形態にあって、上記実施形態と共通する構成については、同一の符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0049】
第1実施形態のハイブリッド車両の制御装置では、エンジン10の自動停止に際して、クランク軸33の回転停止の直前にスロットル開度TAを増大して、膨張行程停止気筒及び圧縮行程停止気筒の双方にそれぞれ同量の吸気を導入する停止位置制御を実施している。
【0050】
なお、停止位置制御により、回転停止の直前に、膨張/圧縮行程停止気筒への吸気導入を行えば、それら気筒内での吸気の圧縮、膨張に伴う反力によりクランク軸33の回転変動が発生して、エンジン10で振動が発生してしまう。そして、状況によっては、そうしたエンジン10の振動に、乗員が違和を感じてしまうことがある。これに対して本実施形態のハイブリッド車両の制御装置は、エンジン10の自動停止時の停止位置制御を、車速の条件付きで実施している。
【0051】
図7は、本実施形態における車両制御部23が実行する停止位置制御ルーチンのフローチャートを示す。車両制御部23は、HV走行モードからEV走行モードへの切替え要求に応じてエンジン10の燃焼を停止してからクランク軸33の回転が完全に停止するまでの期間、既定の制御周期毎に同ルーチンの処理を繰り返し実行している。ちなみに、同ルーチンは、図3に示した第1実施形態の停止位置制御ルーチンに、ステップS145、ステップS165及びステップS185の処理を追加したものとなっている。
【0052】
本ルーチンの処理が開始されると、まずステップS100,S110において、エンジン回転数NEの降下速度Vの演算が行われる。そして、ステップS120において、NE前回値の値を現在のエンジン回転数NEの値に更新した後、ステップS130に処理が進められる。ステップS130に処理が進められると、そのステップS130において、降下速度Vに基づき、TA増大開始回転数N2の値が演算される。続いて、ステップS140において、現在のエンジン回転数NEがTA増大開始回転数N2以下であるか否かが判定される。
【0053】
エンジン回転数NEがTA増大開始回転数N2を超過する値である場合(S140:NO)には、ステップS150に処理が進められ、そのステップS150において計時カウンタCOUNTの値が0にクリアされる。そして、続くステップS160において、スロットル開度TAの目標値である目標スロットル開度TA*が既定の小開度目標値TA1に設定される。さらに本実施形態では、続くステップS165において、完了フラグFLGがクリアされた後、今回の本ルーチンの処理が終了される。
【0054】
エンジン回転数NEがTA増大開始回転数N2以下の値である場合(S140:YES)には、ステップS145において、現在の車速SPDが既定値S0以上であるか否かが判定される。そして、車速SPDが既定値S0以上の場合(YES)にはステップS170に、車速SPDが既定値S0未満の場合(NO)にはステップS150に、それぞれ処理が進められる。
【0055】
ステップS170に処理が進められると、そのステップS170において、計時カウンタCOUNTのカウントアップが行われる。そして、続くステップS180において、車両制御部23のメモリに予め記憶された演算マップMAP2を用いて、計時カウンタCOUNTの値に応じて目標スロットル開度TA*の値が設定される。さらに本実施形態では、続くステップS185において、完了フラグFLGがセットされた後、今回の本ルーチンの処理が終了される。
【0056】
このように、本実施形態では、車速SPDが既定値S0以上の場合に限り、回転停止直前にスロットル開度TAを増大して膨張/圧縮行程停止気筒に吸気を導入する停止位置制御が実施される。すなわち、本実施形態では、車速SPDが既定値S0以上であることを条件に停止位置制御を実施している。
【0057】
よって、エンジン回転数NEがTA増大開始回転数N2以下となった時点に車速SPDが既定値S0未満となっていれば、停止位置制御を実施せずにエンジン10が自動停止される。また、停止位置制御によるスロットル開度TAの増大の開始後、エンジン10の回転が停止する前に車速SPDが既定値S0未満となった場合には、その時点で停止位置制御が中止される。ちなみに、エンジン10の回転が停止する前に停止位置制御が中止された場合には、膨張/圧縮行程停止気筒のそれぞれに適量の吸気が導入されておらず、適切でない位置でエンジン10の回転が停止する。
【0058】
なお、エンジン10の回転が停止したときの完了フラグFLGは、回転停止まで停止位置制御が続けられた場合、すなわち停止位置制御を完了した場合にはセットされた状態となり、停止位置制御が始めから実施されなかった場合や同制御が回転停止前に中止された場合にはクリアされた状態となる。このように完了フラグFLGは、エンジン10の自動停止に際して停止位置制御が完了したか否かを示すフラグとなっている。
【0059】
そして、本実施形態の車両制御部23は、エンジン10の再始動に際して、完了フラグFLGの状態に応じて、エンジン10の始動方式を第1始動方式と第2始動方式とに切替えている。
【0060】
図8に、再始動時にエンジン10の始動方式を選択するために実行される始動方式選択ルーチンのフローチャートを示す。車両制御部23は、エンジン10の再始動の開始に際して本ルーチンの処理を実行する。本ルーチンが開始されると、まずステップS200において、完了フラグFLGがセットされているか否かが判定される。完了フラグFLGがセットされている場合(S200:YES)には、ステップS210において、第1始動方式がエンジン10の始動方式として選択された後、本ルーチンの処理が終了される。これに対して、完了フラグFLGがクリアされている場合(S200:NO)には、ステップS220において、第2始動方式がエンジン10の始動方式として選択された後、本ルーチンの処理が終了される。
【0061】
第1始動方式によるエンジン10の再始動は、以下の態様で行われる。このときの車両制御部23は、再始動の開始時に、クラッチ14を接続すると同時に、膨張行程停止気筒で燃焼を行って、クラッチ14を介して伝達されたM/G15のトルクと膨張行程停止気筒の燃焼トルクとでクランク軸33の回転を開始する。続いて、車両制御部23は、圧縮行程停止気筒でも燃料噴射及び燃焼を行った後、クラッチ14を一旦開放する。その後も、車両制御部23は、燃焼を継続して、エンジン10を再始動している。こうした第1始動方式によるエンジン10の再始動は、エンジン10が自動停止した際に停止位置制御が完了しており、エンジン10が適切な位置で停止していなければ、実行できないものとなっている。
【0062】
これに対して、第2始動方式によるエンジン10の再始動は、以下の態様で行われる。このときの車両制御部23は、再始動の開始時に、クラッチ14を接続して、そのクラッチ14を介して伝達されたM/G15のトルクだけでクランク軸33の回転を開始する。そして、車両制御部23は、クラッチ14の締結を徐々に強めて、エンジン回転数NEを上昇し、エンジン回転数NEとM/G15の回転数とがほぼ同じとなったときにクラッチ14を完全に締結する。これにより、エンジン10とM/G15とが一体回転した状態となってから、エンジン10の燃焼を開始する。
【0063】
本実施形態の作用を説明する。
エンジン10の自動停止時に停止位置制御を実施すると、エンジン10の回転が停止する直前に、膨張/圧縮行程停止気筒に導入された吸気の圧縮、膨張に伴う反力により、クランク軸33の回転変動が発生する。そして、その回転変動により車体振動が発生する。車速SPDがある程度よりも高い状態でエンジン10の回転が停止する場合には、路面から車体に伝わる振動などの他の要因による車体振動に紛れてしまうため、停止位置制御により生じた車体振動を乗員が特に意識することにはなり難い。これに対して、車速SPDが低下した状態でエンジン10の回転が停止する場合には、他の車体振動が小さくなっているため、停止位置制御により生じた車体振動が乗員に違和を感じさせる虞がある。本実施形態では、停止位置制御により生じる車体振動がそれ以外の車体振動に対して顕著とならない車速SPDの下限値を上記既定値S0の値として設定している。そして、車速SPDが既定値S0以上であることを条件として停止位置制御を実施している。そのため、実施に伴う車体振動により乗員が違和を感じさせない範囲において、自動停止時の停止位置制御が実施される。
【0064】
なお、こうした本実施形態では、停止位置制御により適切な位置でエンジン10の回転が停止されていない状態で、同エンジン10の再始動が行われることがある。こうした場合には、エンジン10の再始動を第1始動方式では行えない。そのため、本実施形態では、自動停止時に停止位置制御が完了されたか否かにより、再始動時のエンジン10の始動方式を切替えている。
【0065】
上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・降下速度Vの演算に際しての平滑化処理を割愛してもよい。
【0066】
・目標スロットル開度TA*を単純に小開度目標値TA1から最終開度目標値TA2に変更するだけでスロットル開度TAの増大を行うようにしてもよい。
・有段式の自動変速機19の代わりに無段式の自動変速機を採用してもよい。
【符号の説明】
【0067】
10…エンジン、11…変速ユニット、12…ディファレンシャル、13…車輪、14…クラッチ、15…モータとしてのM/G、16…車載電源、17…インバータ、18…トルクコンバータ、19…自動変速機、20…ロックアップクラッチ、21…オイルポンプ、22…油圧制御部、23…ハイブリッド車両の制御装置としての車両制御部、30…気筒、31…ピストン、32…コネクティングロッド、33…クランク軸、34…クランク角センサ、35…吸気通路、36…吸気バルブ、37…排気通路、38…触媒装置、39…エアフローメータ、40…スロットルバルブ、41…燃料噴射弁、42…点火装置、43…触媒装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8