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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】車両の側部車体構造
(51)【国際特許分類】
   B62D 25/20 20060101AFI20231003BHJP
   B60K 13/04 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
B62D25/20 F
B60K13/04 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020038729
(22)【出願日】2020-03-06
(65)【公開番号】P2021138301
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2022-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121603
【弁理士】
【氏名又は名称】永田 元昭
(74)【代理人】
【識別番号】100141656
【弁理士】
【氏名又は名称】大田 英司
(74)【代理人】
【識別番号】100182888
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 弘
(74)【代理人】
【識別番号】100196357
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 吉章
(74)【代理人】
【識別番号】100067747
【弁理士】
【氏名又は名称】永田 良昭
(72)【発明者】
【氏名】嶋中 常規
(72)【発明者】
【氏名】田中 洋
【審査官】結城 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第3495673(US,A)
【文献】実開昭63-166830(JP,U)
【文献】特開2016-107959(JP,A)
【文献】特開平7-267148(JP,A)
【文献】特開2003-2247(JP,A)
【文献】特開平4-297381(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第10239992(DE,A1)
【文献】特開2018-39452(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/20,
B60K 13/04-13/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室空間の前縁を画定する隔壁の前方に搭載された内燃機関と、上記内燃機関からの排気が通過する排気装置と、上記車室空間の床面をなすフロアの側方にて車両前後方向に沿って延びる車体構造体と、上記車体構造体から車両上下方向に延びるピラーと、を備えた車両の側部車体構造であって、
上記ピラーから車両前方に延びるフレーム部材は、前端が車両の前輪の後方において、スモールオーバーラップ衝突時に後退する上記前輪を受け止め可能に該前輪と車幅方向に重複する領域に設けられ、上記フレーム部材の車幅方向外方側かつ上記ピラーの前方側の領域に、上記排気装置が設けられた
車両の側部車体構造。
【請求項2】
上記排気装置は、排気管と排気系部材を有し、
上記フレーム部材の車幅方向外方側かつ上記ピラーの前方側の上記領域に、上記排気系部材が設けられた
請求項1に記載の車両の側部車体構造。
【請求項3】
上記フレーム部材の下方に、該フレーム部材に対して、車幅方向の内側に備えた上記内燃機関と車幅方向の外側に備えた上記排気系部材とを繋ぐ上記排気管が配索された
請求項2に記載の車両の側部車体構造。
【請求項4】
上記車体構造体は、車両正面視で上記排気系部材と重複する部位が、該排気系部材よりも車両後方に位置する
請求項2又は3に記載の車両の側部車体構造。
【請求項5】
上記車体構造体は、少なくとも該排気系部材の直下まで車両前方へ延びる前方延出部を備えた
請求項4に記載の車両の側部車体構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、車室空間の前縁を画定する隔壁の前方に搭載された内燃機関と、内燃機関から排出される排気が通過する排気装置と、車室空間の床面をなすフロアの側部にて車両前後方向に沿って延びる車体構造体と、車体構造体から車両上下方向に延びるピラーと、を備えた車両の側部車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両には、排気装置を構成する排気系部材(例えば、排気処理用フィルタ、排気管或いはサイレンサなど)の少なくとも一部を、フロア下の車幅方向中央ではなくフロアよりも車幅方向外側(すなわち車両の車幅方向外側下部)に設けた構造が知られている。
【0003】
このような構成を採用する狙いとして、車体レイアウト性を確保するケースと、車体の運動性能を重視するケースとに大別される。
【0004】
前者のケースとしては、例えば、ハイブリット車やレンジエクステンダー車のように内燃機関とモータを併用するシステムを採用した車両において、例えばフロア下に配設したバッテリを避けるために排気系部材をフロア下のバッテリよりも車幅方向外側に設けた車両が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0005】
後者のケースとしては、例えば、スポーツカーのように、車体の中心寄りに重量物を配置するために、車両の車幅方向外側下部に比較的軽量な排気系部材を配置した車両が知られている。
【0006】
ここで、車体の中心寄りに重量物を配置する一例としては、運転席と助手席とを、これらに着席した乗員の重心を下げたり、互いに隣り合う車幅方向の間隔を狭めたりすることが挙げられる。
【0007】
一方、車両の車幅方向外側下部に排気系部材を配置する具体例としては、フロアの側方に有する車体構造体の車幅方向外側近傍に排気系部材をレイアウトすることが考えられる。
【0008】
しかしながら、比較的軽量な排気系部材をフロアの側方に有する車体構造体の外側にレイアウトした場合には、該排気系部材の幅相当分だけ車両の幅が広がるという弊害が生じる。このため、車両の運動性能をより一層重視して比較的軽量な排気系部材を車体構造体の外側にレイアウトする場合には、更なる工夫の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2018-39452号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたもので、排気装置(排気部材と排気管とのうち少なくとも一方)をフロアの側方に有する車体構造体の車幅方向外側に設けた場合においても、車両の拡幅を抑えることができる車両の側部車体構造の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明は、車室空間の前縁を画定する隔壁の前方に搭載された内燃機関と、上記内燃機関からの排気が通過する排気装置と、上記車室空間の床面をなすフロアの側方にて車両前後方向に沿って延びる車体構造体と、上記車体構造体から車両上下方向に延びるピラーと、を備えた車両の側部車体構造であって、上記ピラーから車両前方に延びるフレーム部材は、前端が車両の前輪の後方において、スモールオーバーラップ衝突時に後退する上記前輪を受け止め可能に該前輪と車幅方向に重複する領域に設けられ、上記フレーム部材の車幅方向外方側かつ上記ピラーの前方側の領域に、上記排気装置が設けられたものである。
【0012】
上記構成によれば、上記フレーム部材の車幅方向外方側かつ上記ピラーの前方側の領域に有するデットスペースを利用して排気装置を設けることで、車両の拡幅を抑え車両の運動性能を高めることができる。しかも、スモールオーバーラップ衝突時に、フレーム部材により後退する前輪の車室空間内への侵入を抑制することができる。
【0013】
従って、上記排気装置を上記車体構造体よりも車幅方向外側に設けた場合においても、車両の拡幅を抑えることができるとともに、スモールオーバーラップ衝突時における、耐衝突性能を確保することができる。
【0014】
ここで上記フレーム部材の車幅方向外方側かつ上記ピラーの前方側の領域には、上記排気装置として、例えば、後述する排気系部材を配設するに限らず、上記排気系部材と後述する上記排気管とのうち少なくとも一方を配設することができる。
【0015】
この発明の態様として、上記排気装置は、排気管と排気系部材を有し、上記フレーム部材の車幅方向外方側かつ上記ピラーの前方側の上記領域に、上記排気系部材が設けられたものである。
【0016】
上記構成によれば、上記排気系部材を上記車体構造体よりも車幅方向外側に設けた場合においても、車両の拡幅を抑えることができるとともに、スモールオーバーラップ衝突時における、耐衝突性能を確保することができる。
【0017】
ここで上記排気系部材は、上記内燃機関から排出される排気が通過する部材であれば、上記内燃機関からの排気(ガス)を処理する例えば、フィルタを備えたGPF等の部材に限らず、例えば、サイレンサ、キャタ等の消音機能を有する部材であってもよい。また、上記排気系部材には、他の排気系部材や排気管に接続するための接続機能を備えた部分(部品)を含めてもよい。
【0018】
この発明の態様として、上記フレーム部材の下方に、該フレーム部材に対して、車幅方向の内側に備えた上記内燃機関と車幅方向の外側に備えた上記排気系部材とを繋ぐ上記排気管が配索されたものである。
【0019】
上記構成によれば、スモールオーバーラップ衝突時に、フレーム部材が有する、後退する前輪のキャビン内侵入回避性能の確保と、上記内燃機関と上記排気系部材とを繋ぐ上記排気管の配索スペースの確保とを両立することができる。
【0020】
この発明の態様として、上記車体構造体は、車両正面視で上記排気系部材と重複する部位が、該排気系部材よりも車両後方に位置するものである。
【0021】
上記構成によれば、排気系部材は、車体構造体と車幅方向に重複したレイアウトで配設しつつも、互いに干渉することなくデットスペースに配置することができる。従って、デットスペースを有効に活用できる。
【0022】
この発明の態様として、上記車体構造体は、少なくとも該排気系部材の直下まで車両前方へ延びる前方延出部を備えたものである。
【0023】
上記構成によれば、排気系部材は、デットスペースに配置された状態で上記車体構造体の前方延出部によって支持するようにしてデットスペースに配置することができる。
【発明の効果】
【0024】
上記構成によれば、上記排気系部材を上記車体構造体よりも車幅方向外側に設けた場合においても、車両の拡幅を抑えることができるとともに、スモールオーバーラップ衝突時における、耐衝突性能を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本実施形態の側部車体構造を備えた車両の要部を示す平面図
図2】本実施形態の側部車体構造を備えた車両の要部を示す左側面図
図3】本実施形態の側部車体構造の前部を示す側面図(a)、図3(a)において排気系部材を取り除いて示した左側面図(b)
図4図3(a)中のA-A線断面図
図5】本実施形態の側部車体構造の前部を示す平面図(a)、図5(a)において排気系部材を取り除いて示した平面図(b)
図6】本実施形態の側部車体構造の前部を車幅方向外方側、上方かつ前方から視た斜視図
図7図6において排気系部材を取り除いて示した斜視図
【発明を実施するための形態】
【0026】
この発明の一実施形態を以下図面と共に説明する。
本実施形態の車両は、押出成形されたアルミ合金製の複数のフレームを連結して車体骨格をなす、所謂、スペースフレーム構造を採用するとともに、側方ドアが2ドアタイプのセンターピラーレス構造を採用したスポーツカーである。このような車両の側部車体構造について、図1から図7を用いて説明する。
【0027】
また、図示を明確にするため、図中において、フロントサスペンションやリヤサスペンションの図示を省略するとともに、これらサスペンションを支持する後述するサスペンション支持部材の詳細な図示を省略している。
【0028】
また、図中において、矢印Fは車両前方向を、矢印Rは車両右方向を、矢印Lは車両左方向を、矢印Uは車両上方向を、夫々示している。
【0029】
図1図2に示すように、本実施形態の側部車体構造を備えた車両は、乗員が乗り込む車室部1と、車室部1よりも車両前方に設けられる前部車体2と、車室部1よりも車両後方に設けられる後部車体3と、を備えている。
【0030】
図1に示すように、車室部1と前部車体2とは、縦壁状のダッシュパネル9によって仕切られている。すなわち、ダッシュパネル9は、車室部1の内部に有する車室空間1sの前縁を画定する隔壁として車室部1と前部車体2との間に配設されている。
【0031】
図1に示すように、車室部1には、車室部1のフロア(床面)を形成するフロアパネル4と、該フロアパネル4の車幅方向の中央位置の上方において車両前後に延びるトンネルフレーム5と、トンネルフレーム5の両サイドの側壁とフロアパネル4とのコーナー部において車両前後方向に延びるトンネルサイドフレーム6と、トンネルフレーム5とサイドシル8とを車幅方向に連結する複数のフロアクロスメンバ7と、を備えている。
【0032】
さらに図1図2に示すように、車室部1のフロアパネル4の車幅方向の両サイドには、車両前後方向に延びる左右一対のサイドシル8と、サイドシル8の前端から上方へ延びるヒンジピラー11(前側ピラー)と、サイドシル8の後端から上方へ延びるリヤピラー12(後側ピラー)と、を備えている。
【0033】
また図2に示すように、上述した車室部1の両サイドには、乗員が該車室部1に対して乗り降りするためのドア開口部13が設けられている。ドア開口部13の前縁13aに沿ってヒンジピラー11が、後縁13bに沿ってリヤピラー12が、下縁13cに沿ってサイドシル8が、夫々設けられている。
【0034】
図1図2に示すように、前部車体2は、フロントサスペンション(図示省略)を支持する左右一対のフロントサスペンション支持部材14と、左右一対のフロントサスペンション支持部材14を車幅方向に連結する複数の前側クロスメンバ15(図1参照)と、車室部1とフロントサスペンション支持部材14とを連結する複数の前側連結フレーム16と、車両前方からの衝撃荷重を吸収する前方衝撃吸収構造体(図示省略)と、を備えている。
【0035】
図1に示すように、フロントサスペンション支持部材14は、左右夫々に対応するサイドシル8に対して車幅方向内側に位置し、不図示のフロントサスペンションを介して前輪Hfを軸支している。前輪Hfは、サイドシル8の前端よりも車両前方かつフロントサスペンション支持部材14よりも車幅方向外側に備えている。フロントサスペンション支持部材14は、例えばアルミニウム合金をダイキャスト成形することにより製造されている。
【0036】
さらに図1図2に示すように、前部車体2は、前輪Hfに対して後方へ離間した位置に、ヒンジピラー11の前部から車両前方へ延びるタイヤストッパフレーム17を備えている。
【0037】
上記前方衝撃吸収構造体は図示省略するが、フロントサスペンション支持部材14の前端側から車両前後へ延びる筒状体等からなるクラッシュカンと、左右一対のクラッシュカンの前端を連結するように車幅方向に延びるバンパレインとを備えている。
【0038】
後部車体3は、リヤサスペンションを支持する左右一対のリヤサスペンション支持部材18と、左右一対のリヤサスペンション支持部材18を車幅方向に連結する複数の後側クロスメンバ19(図1参照)と、車室部1とリヤサスペンション支持部材18とを連結する複数の後側連結フレーム21と、車両後方からの衝撃荷重を吸収する後方衝撃吸収構造体22と、を備えている。
なお、図2においては上述した前方衝撃吸収構造体のみならず、後方衝撃吸収構造体22の図示を省略している。
【0039】
後方衝撃吸収構造体22は図1に示すように、リヤサスペンション支持部材18の後端側から車両後方へ延びる筒状体等からなるクラッシュカン22aと、左右一対のクラッシュカン22aの後端を連結するように車幅方向に延びるバンパレイン22bとを備えている。
【0040】
ところで図1に示すように、本実施形態の車両の前部における、左右一対のフロントサスペンション支持部材14の間の領域は、エンジンルームEとして形成されており、該エンジンルームEには、エンジン23が搭載されている。
【0041】
このエンジン23の側壁側に設けられた排気ポートには、排気マニホールド24を介して排気装置30(排気ユニット)が接続されている。
【0042】
排気装置30は、排気系部材としてのGPF31(ガソリンパティクレートフィルタ)と、第1プリサイレンサ32と、第2プリサイレンサ33と、メインサイレンサ34と、テールパイプ(図示省略)とを備えている。また、排気マニホールド24とGPF31との間、および上述した排気系部材31,32,33,34の間には、夫々接続部35A,35B,35C,35Dによって接続されている。
【0043】
GPF31は、エンジン23の排気ガスを処理する排気処理装置として排気ガスに含まれる粒子状物質(PM)を捕集するフィルタ31aaを本体部31aに備えている。
【0044】
各種サイレンサ(第1プリサイレンサ32、第2プリサイレンサ33およびメインサイレンサ34)は、排気ガスを大気に放出するときの音を低減する。
【0045】
接続部35A,35B,35C,35Dは、主に排気管35aで形成されるが、排気系部材としてのGPF31や各種サイレンサ32,33,34などに備えるとともに排気管35aや他の排気系部材31,32,33,34と接続する機能を有する接続部分も含めて形成されている。なお、接続部35A,35B,35C,35Dは、排気管35aと、排気系部材に有する接続部分との双方を備えて形成するに限らず、これらのうち少なくとも一方で形成することができる。
【0046】
そして、排気装置30は、GPF31と、第1プリサイレンサ32と、第2プリサイレンサ33と、メインサイレンサ34とが、接続部を介して夫々車体の前方側から後方へ延びる排気経路に沿って配索されている。
【0047】
但し、当例において排気装置30は、車両後方へと延びる途中で車幅方向外側(当例では車両右側)へ迂回するような排気経路に沿って配索されている。詳しくは、排気装置30は、前部車体2においてエンジン23が搭載された車幅方向の内側から外側へ配索され、車室部1の側方部に沿って車両後方へ配索され、後部車体3において再度車幅方向外側から内側へと配索されるとともに車両後方へと配索されている。
【0048】
このように、比較的軽量な排気系部材を車幅方向外側にレイアウトすることで、排気系部材よりも重量物を車両中央にレイアウトすることができ、結果として車両の運動性能の向上に寄与することができる。
【0049】
以下、本実施形態の車体側部構造について図1図2に加えて図3図7を用いてさらに詳しく説明する。
【0050】
図2図3(b)に示すように、サイドシル8は、サイドシルアッパ81とサイドシルロア82とを上下各側に備えた2分割構造で構成されている。サイドシルアッパ81とサイドシルロア82とは共に、上述したようにアルミ合金材料を押出し成形にて形成されたフレーム部材であるとともに、車両前後方向の全長に亘って延びる閉断面空間83s,84sを内部に夫々有している。
【0051】
サイドシルアッパ81は、上記閉断面空間83sを内部に有する閉断面部83(以下、「アッパ側閉断面部83」とも称する)と、該アッパ側閉断面部83の車幅方向内端且つ下端から下方へ延出する下方フランジ部85とで一体形成されている(図3(b)参照)。
【0052】
また同図に示すように、サイドシルロア82は、閉断面空間84sを内部に有する閉断面部84(以下、「ロア側閉断面部84」とも称する)と、該ロア側閉断面部84の車幅方向内側且つ上端から上方へ延出する上方フランジ部86とで一体形成されている。
【0053】
図2に示すように、アッパ側閉断面部83とロア側閉断面部84は共に、
前後各側のピラー11,12と車両側面視で重複するように車両前後方向に延びている。本実施形態のサイドシルロア82は、サイドシル8の車両前後方向の全長に亘って延びている。
【0054】
また、図2に示すように、アッパ側閉断面部83とロア側閉断面部84は共に、前後各側のピラー11,12よりも車幅方向に長く形成されている。
本実施形態におけるアッパ側閉断面部83とロア側閉断面部84は共に、車幅方向の外端が前後各側のピラー11,12の車幅方向外面よりも車幅方向外側へ突出形成されている。
【0055】
さらに、サイドシルアッパ81のアッパ側閉断面部83よりも車幅方向外側には、アッパ側閉断面部83の車幅方向外端から車幅方向外方かつ下方に向かってフランジ状に延び、後述する排気系部材としての第1プリサイレンサ32を上方から覆う庇部87が設けられている(図7参照)。
【0056】
上述したサイドシルアッパ81とサイドシルロア82とは、図3(b)に示すように、下方フランジ部85と上方フランジ部86とが車両側面視(車両上下方向および車両前後方向)で重複しており、この重複部分93において互いに溶接されている。
【0057】
サイドシル8は、上述したように、下方フランジ部85と上方フランジ部86とを、互いの重複部分93を溶接することにより、アッパ側閉断面部83とロア側閉断面部84の各車幅方向内端同士を上下方向に連結する連結壁90として一体化することができる。
【0058】
これによりサイドシル8は、サイドシルアッパ81とサイドシルロア82との夫々の閉断面部83,84が連結壁90を介して上下方向に互いに離間して配設され、これら上下各側の閉断面部83,84と連結壁90との間に、車幅方向外側に向けて開口する凹部91を有して構成される。
【0059】
上述したサイドシル8と前後各側のピラー11,12とはアーク溶接(当例ではミグ溶接)により一体に接合されている。
詳述すると図3(b)、図5(b)に示すように、本実施形態におけるアッパ側閉断面部83とロア側閉断面部84は共に、ヒンジピラー11と車両前後方向において重複するように車両前後方向に延びている。当例においては、アッパ側閉断面部83は、車両前後方向において前端がヒンジピラー11の前端と略同じ位置まで延びている。一方図3(b)、図4図5(b)に示すように、ロア側閉断面部84は、車両前後方向においてアッパ側閉断面部83およびヒンジピラー11の各前端よりも車両前方へ延出する前方延出部84fを備えて一体形成されている。但し、前方延出部84fは前端がタイヤストッパフレーム17の前端よりも車両後方に位置するまで車両前方へ延出している。
【0060】
また同図に示すように、ヒンジピラー11は、サイドシル8の前部において、車両上方程車両前方に位置するように傾斜した姿勢でアッパ側閉断面部83の車幅方向内側部分から車両上方へ突き出すようにロア側閉断面部84に立設されている。ヒンジピラー11は、内部に長手方向に対する直交断面が閉断面となる矩形状に押出成形されたアルミ合金製の押出し部材である。
【0061】
このようなヒンジピラー11は、アッパ側閉断面部83と連結壁90とロア側閉断面部84との各対向部位においてアーク溶接等により一体に接合されている。
【0062】
一方、図1図2に示すように、リヤピラー12は、サイドシル8の後部において、車両上方程車両後方に位置するように傾斜した姿勢でアッパ側閉断面部83の車幅方向内側部分から車両上方へ突き出すようにロア側閉断面部84に柱状に立設されている。また、リヤピラー12は、内部に長手方向に対する直交断面が閉断面となる矩形状に押出成形されたアルミ合金製の押出し部材である。
【0063】
このようなリヤピラー12は、アッパ側閉断面部83と連結壁90とロア側閉断面部84との各対向部位においてアーク溶接等により一体に接合されている。
【0064】
また、上述したタイヤストッパフレーム17は、耐スモールオーバーラップ衝突用レインフォースメント(SORB用レイン)とも称し、スモールオーバーラップ衝突時に、後退する前輪Hf(図1図2参照)を受け止めて該前輪Hfが車室部1内へ侵入することを抑制するためのフレームである。
【0065】
図1図2図3(b)、図5(b)、図7に示すように、タイヤストッパフレーム17は、後端がヒンジピラー11の前面に接合されるとともに、前端が前輪Hfの最後端の手前に至る位置まで車両前後方向に水平に延びている。これにより、タイヤストッパフレーム17は、前端が前輪Hfの最後端に対して車両後方に離間した位置に配設されている(図1図2参照)。また図4に示すように、タイヤストッパフレーム17は、車両前後方向の直交断面が閉断面形状となるように押し出し成形にて形成されている。
【0066】
さらにタイヤストッパフレーム17は図2に示すように、その前端が、後退する前輪Hfを確実に受け止めることが可能に、車幅方向において前輪Hfの車幅方向長さ領域に、重複するように設けられている(図1参照)。
【0067】
当例においては、タイヤストッパフレーム17は、前端が、後退する前輪Hfに受け止めつつ、車幅方向外側へといなすことができるように、車幅方向において前輪Hfの車幅方向長さ領域に重複する範囲の中でも、前輪Hfの車幅方向の中心(重心)位置よりも若干車幅方向内側寄りに前端が位置するように設けられている。
【0068】
ここで、タイヤストッパフレーム17は上述したように、前輪Hfの車幅方向の中心(重心)位置よりも若干車幅方向内側寄りに設けられているため、タイヤストッパフレーム17の車幅方向外方側とサイドシル8のアッパ側閉断面部83前方には、平面視で車幅方向内側および車両前後方向後方に窪んだ形状の空間、所謂デットスペースSを有する。
【0069】
詳しくは図3(b)、図4図5(b)、図6図7に示すように、デットスペースSは、ヒンジピラー11の前端よりも車両前方であって、タイヤストッパフレーム17と、該タイヤストッパフレーム17よりも車幅方向外方側に位置するとともに前部車体2の側部の意匠面を形成するフェンダパネル(図示省略)等の外側パネル(図示省略)との間に有している。
【0070】
なお図4図5(b)、図7に示すように、サイドシル8のロア側閉断面部84の前部に有する前方延出部84fは、デットスペースSの下方に至るまで車両前方に延びている。
【0071】
タイヤストッパフレーム17は図2に示すように、その前端が、後退する前輪Hfを確実に受け止めることが可能に、前端の上下方向の中心が前輪Hfの車両側面視における中心Hfo(重心)と同じ高さまたはその近傍高さに位置するように設けられている。
【0072】
換言すると当例においては図4に示すように、タイヤストッパフレーム17は、サイドシル8の前方延出部84fの上壁84uよりも高い位置において、ヒンジピラー11の前面に接合されている。このため、ヒンジピラー11の前面から車両前方へ水平に延びるタイヤストッパフレーム17の下方、すなわち、図3(b)、図4図7に示すように、車両側面視でタイヤストッパフレーム17の下方には空間Sd(車両上下方向の隙間)を有している。
【0073】
また図1図2に示すように、排気装置30のうち、GPF31と第1プリサイレンサ32と第2プリサイレンサ33は、夫々車体側部(当例では車両右側部)の下部に沿って車両後方へこの順に配置されている。
【0074】
詳しくは、図3(b)、図4に示すように、GPF31は、フィルタ31aaが内蔵された本体部31aと、該本体部31aに対して幅小に形成される接続部分31bとを備えている。GPF31は、主に本体部31aが、車体下部における、ヒンジピラー11よりも車両前方かつタイヤストッパフレーム17よりも車幅方向外側、すなわち、上述したデットスペースSに少なくとも一部が収容されるように配置されている。
【0075】
また、サイドシル8のロア側閉断面部84の前部に備えた上述の前方延出部84fは、車両前後方向におけるヒンジピラー11の前端に相当する位置よりも前方へ延びている。すなわち、前方延出部84fは、デットスペースSに配置されたGPF31の直下まで延びている。そして、GPF31は、前方延出部84fの上面部に載置されるように支持されている(図4参照)。
【0076】
図1図5(a)に示すように、GPF31の本体部31aと、該本体部31aよりも車幅方向内側に有するエンジン23(排気マニホールド24)とは、これらの間において車幅方向に延びる接続部35A(以下、「第1接続部35A」と称する)によって接続されている。
【0077】
第1接続部35Aは、排気装置30の一部として備えた排気管35aによって形成されている。また、車両平面視において、GPF31とエンジン23との間には、タイヤストッパフレーム17が介在するが、第1接続部35Aは、タイヤストッパフレーム17の下方に有する空間Sd(図4図6参照)を横切るようにして車幅方向に延びている(図5図6参照)。
【0078】
図1図2に示すように、第1プリサイレンサ32は、上記ドア開口部13の下縁13cに備えたサイドシル8に沿って車両前後方向に長尺に形成されている。第1プリサイレンサ32は、車両前後方向の全長に亘って略一定の車幅方向の長さを有して形成されるとともに、車両後方程徐々に高くなるように傾斜する車両側面視形状に形成されている。
【0079】
このような第1プリサイレンサ32は、車幅方向における少なくとも一部がサイドシル8と重複するように該サイドシル8の車幅方向内端よりも車幅方向外側に配置されている。すなわち、第1プリサイレンサ32は、車両前後方向の全長に亘って、車幅方向の外側部分を除いた全体がサイドシル8の凹部91に収容されている(図2参照)。
【0080】
図3(a)、図5(a)、図6に示すように、ヒンジピラー11に対して車両前方に配置されたGPF31と、その車両後方に配置された第1プリサイレンサ32とは、接続部35B(以下、「第2接続部35B」と称する)によって接続されている。
【0081】
また図1図2に示すように、第2プリサイレンサ33は、リヤピラー12に対して前方から後方かつ車幅方向の外側から内側へ回り込む部分に配置されている。
【0082】
このような第2プリサイレンサ33は、本体部33aの前端部において車両前方に備えた第1プリサイレンサ32へと繋がる接続部35C(「第3接続部35C」とも称する)に接続されるとともに、本体部33aの車幅方向内側かつ車両後方部において、車幅方向中央かつ車両後方に備えたメインサイレンサ34(図1参照)へと繋がる接続部35D(「第4接続部35D」とも称する)に接続されている。
【0083】
上述した本実施形態の車両の側部車体構造は、図1図2に示すように、車室空間1sの前縁を画定するダッシュパネル9(隔壁)の前方に搭載されたエンジン23(内燃機関)(図1参照)と、エンジン23から排出される排気が通過する排気装置30と、車室空間1sの床面をなすフロアパネル(フロア)の側方にて車両前後方向に沿って延びるサイドシル8(車体構造体)と、サイドシル8から車両上下方向に延びるヒンジピラー11(ピラー)と、を備えた車両の側部車体構造であって、図1図2図3(a)(b)、図4図5(a)(b)、図6図7に示すように、ヒンジピラー11から車両前方に延びるとともに、特に図1に示すように前端が車両の前輪Hf(ホイール)の後方において該前輪Hfの車幅方向長さ領域に重複するフレーム部材としてのタイヤストッパフレーム17が設けられ、図3(a)、図4図5(a)、図6に示すように、タイヤストッパフレーム17の車幅方向外方側かつヒンジピラー11の前方側の領域に、GPF31(排気装置30に備えた排気系部材)が設けられたものである。
【0084】
上記構成によれば、タイヤストッパフレーム17の車幅方向外方側かつヒンジピラー11の前方側の領域に有するデットスペースSを利用してGPF31を設けることができ、スモールオーバーラップ衝突時に、タイヤストッパフレーム17によって、後退する前輪Hfの車室部1の車室空間への侵入を回避する性能を高めながら、車両の拡幅を抑えることができる。
【0085】
特に、車両の拡幅を抑えることで、軽量なGPF31を車幅方向外側にレイアウトしつつ、重量物を車両中央にレイアウトできるため、車両の運動性能の向上に寄与することができる。
【0086】
なお、後退する前輪Hfの車室部1の車室空間への侵入を回避する性能とは、スモールオーバーラップ衝突時に、後退する前輪Hfが車室空間へ侵入しないようにタイヤストッパフレーム17によって、前輪Hfを受け止めつつ車幅方向外側へ変位させる(いなす)性能を示す。
【0087】
この発明の態様として図1図3(b)、図4図7に示すように、タイヤストッパフレーム17の下方の空間Sdに、該タイヤストッパフレーム17に対して、車幅方向の内側に備えたエンジン23と車幅方向の外側に備えたGPF31とを繋ぐ排気管35a、すなわち第1接続部35Aが配索されたものである。
【0088】
本実施形態においてタイヤストッパフレーム17は、前輪Hfの後方において、車両上下方向において、前輪Hfの中心Hfo(重心)(図2参照)付近の高さ位置に配設したものである。これにより、スモールオーバーラップ衝突時に、タイヤストッパフレーム17は、後退する前輪Hfの車両側面視における中心Hfo(重心)付近が当接することで、該前輪Hfを効果的に受け止めることができる。
【0089】
すなわち、スモールオーバーラップ衝突時に、タイヤストッパフレーム17によって、後退する前輪Hfの車室部1の車室空間へ侵入することを回避する性能を高めることができる。
【0090】
一方、タイヤストッパフレーム17は、車両上下方向において、後退する前輪Hfの車両側面視における中心Hfo付近を受け止めることが可能な範囲で必要最小限の大きさ(車両上下方向の長さ)に留めて形成したものである。
【0091】
このため、タイヤストッパフレーム17の下方に空間Sdを確保し、該空間Sdを、エンジン23とGPF31とを繋ぐ排気管35a等から成る第1接続部35Aの配索スペースとして利用することができる。
【0092】
従って本実施形態においては、スモールオーバーラップ衝突時に、タイヤストッパフレーム17が有する、後退する前輪Hfの車室部1の車室空間への侵入回避性能の確保と、エンジン23とGPF31とを繋ぐ第1接続部35Aの配索スペースの確保とを両立することができる。
【0093】
この発明の態様として図2図3(a)、図5(a)、図6に示すように、サイドシル8は、車両正面視でGPF31と重複する部位が、該GPF31よりも車両後方に位置するものである。具体的には、サイドシル8の例えば、アッパ側閉断面部83については、その前端がGPF31の本体部31aの後端よりも車両後方に位置するものである。
【0094】
上記構成によれば、GPF31を、サイドシル8と車幅方向に重複したレイアウトで配設しつつも、互いに干渉することなくデットスペースSに配置することができる。従って、デットスペースSを有効に活用できる。
【0095】
この発明の態様として図2図3(a)、図4に示すように、サイドシル8のロア側閉断面部84には、少なくとも該GPF31の直下まで車両前方へ延びる前方延出部84fを備えたものである。
【0096】
上記構成によれば、GPF31を、サイドシル8の台座状のロア側閉断面部84に備えた前方延出部84fの上面に載置(支持)するようにしてデットスペースSに配置することができる。
【0097】
この発明は、上述の実施例の構成のみに限定されるものではなく様々な実施形態で形成することができる。
【0098】
例えば、上述した実施形態においては、デットスペースSにGPF31(排気装置30に備えた排気系部材)が配設された実施形態について説明したが、本発明は、この実施形態に限定せず、デットスペースSには、他の排気系部材31,33,34を配設したり、排気管35aのみを配設してもよい。
【符号の説明】
【0099】
1s…車室空間
8…サイドシル(車体構造体)
9…ダッシュパネル(隔壁)
11…ヒンジピラー(ピラー)
17…タイヤストッパフレーム(フレーム部材)
23…エンジン(内燃機関)
30…排気装置
31…GPF(排気系部材)
35a…排気管
84f…前方延出部
S…デットスペース(フレーム部材の車幅方向外方側かつピラーの前方側の領域)
Hf…前
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7