(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】エアジェット織機の緯糸ブレーキ制御装置
(51)【国際特許分類】
D03D 47/34 20060101AFI20231003BHJP
D03D 47/30 20060101ALI20231003BHJP
【FI】
D03D47/34
D03D47/30
(21)【出願番号】P 2020046184
(22)【出願日】2020-03-17
【審査請求日】2022-06-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100212657
【氏名又は名称】塚原 一久
(72)【発明者】
【氏名】牧野 洋一
(72)【発明者】
【氏名】前田 光
(72)【発明者】
【氏名】八木 大輔
【審査官】▲桑▼原 恭雄
(56)【参考文献】
【文献】特開平7-26443(JP,A)
【文献】特開2010-209485(JP,A)
【文献】特開2018-80426(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D03D 47/34
D03D 47/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メインノズルと、サブノズルと、緯糸ブレーキとを備え、前記メインノズル及び前記サブノズルからのエア噴射により、緯糸飛走経路を経て緯糸が緯入れされるエアジェット織機の前記緯糸ブレーキを制御する緯糸ブレーキ制御装置であって、
前記緯糸飛走経路における織幅の下流側の織端に設けられたエンドセンサの検出信号と、
前記緯糸飛走経路における織幅の中央よりも前記メインノズルとは反対側であって、前記緯糸ブレーキの制動タイミングに緯糸先端が到達する位置よりも上流側に設けられた織幅内センサの検出信号と、
を参照し、
前記織幅内センサにより検出される前記緯糸先端の中間到達タイミングの標準偏差、及び、前記エンドセンサにより検出される前記緯糸先端の末端到達タイミングの標準偏差を算出し、前記末端到達タイミングの標準偏差と前記中間到達タイミングの標準偏差との比または差が設定範囲を外れたときに、前記緯糸ブレーキの制動力が適切でないと判定する
エアジェット織機の緯糸ブレーキ制御装置。
【請求項2】
前記末端到達タイミングの標準偏差と前記中間到達タイミングの標準偏差との前記比または前記差が前記設定範囲を外れたときに、警告を発する
請求項1に記載のエアジェット織機の緯糸ブレーキ制御装置。
【請求項3】
前記末端到達タイミングの標準偏差と前記中間到達タイミングの標準偏差との前記比または前記差が前記設定範囲を外れたときに、前記緯糸ブレーキの制動力を調整する
請求項1または請求項2に記載のエアジェット織機の緯糸ブレーキ制御装置。
【請求項4】
前記末端到達タイミングの標準偏差と前記中間到達タイミングの標準偏差との前記比または前記差について、前記制動力に応じた前記比または前記差の変化が他より小さい領域の範囲内に、前記制動力を調整する
請求項3に記載のエアジェット織機の緯糸ブレーキ制御装置。
【請求項5】
前記比または前記差の変化が他より小さい領域の範囲内であって、前記制動力が不足しない領域に、前記制動力を調整する
請求項4に記載のエアジェット織機の緯糸ブレーキ制御装置。
【請求項6】
前記エアジェット織機の動作中に、前記末端到達タイミングの標準偏差、及び、前記中間到達タイミングの標準偏差を算出する
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のエアジェット織機の緯糸ブレーキ制御装置。
【請求項7】
前記エアジェット織機を調整モードに設定し、前記調整モードにおいて、前記末端到達タイミングの標準偏差、及び、前記中間到達タイミングの標準偏差を算出する
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のエアジェット織機の緯糸ブレーキ制御装置。
【請求項8】
前記調整モードにおいて、前記緯糸ブレーキの前記制動力を変化させつつ、前記末端到達タイミングの標準偏差と前記中間到達タイミングの標準偏差との前記比または前記差を算出し、前記比または前記差の変化が他より小さい領域に、前記緯糸ブレーキの前記制動力を調整する
請求項7に記載のエアジェット織機の緯糸ブレーキ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアジェット織機の緯糸ブレーキ制御装置に関し、特に、緯糸の飛走終了時に緯糸に制動を掛ける緯糸ブレーキを備えたエアジェット織機における緯糸ブレーキ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エアジェット織機は、給糸部の緯糸を緯糸測長貯留部において貯留し、貯留された緯糸をメインノズルにより解除して緯入れを開始し、緯入れされた緯糸をサブノズルにより織幅内に搬送し、緯入れを終了するように構成されている。ここで、所定の緯入れ末端位置に緯糸を所定タイミングで到達させるという良好な緯入れ状態を達成することが品質の良い織布を織る上で重要である。
【0003】
エアジェット織機における緯糸の飛走終了時は、緯糸測長貯留装置からの緯糸引き出し終了時であるが、緯糸引き出し終了時の緯糸引き出し阻止作用は、高速飛走する緯糸の飛走を急激に止めて緯糸張力を上昇させることになる。急激な張力上昇は、緯糸の切断をもたらすことがある。そこで、緯入れ終了間近になったときに緯糸に制動を掛けて急激な張力上昇を抑制する緯糸ブレーキが用いられる。
【0004】
従来、緯糸ブレーキを適切に制御するため、緯糸飛走経路における織幅の下流側末端にエンドセンサを設けておき、エンドセンサにより検出される緯糸先端の末端到達タイミングの標準偏差を算出し、この標準偏差が所定の限界値を超えた場合には、警告を発し、制動力を低下させることが以下の特許文献1に提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
末端到達タイミングTWの標準偏差TWσにより、緯糸ブレーキの制動力が適切か否かを判定する様子を、
図14により説明する。
図14は、異なる種類の緯糸についての緯糸ブレーキの制動力と末端到達タイミングTWの標準偏差TWσとの特性を示す特性図である。
図14において、横軸は緯糸ブレーキの制動力を示し、縦軸は末端到達タイミングTWの標準偏差TWσを示す。なお、横軸は制動力についての6段階の相対的な数値を示し、縦軸は標準偏差TWσを角度(°)で示している。
【0007】
緯糸Aについて、制動力を6に設定した場合、
図14中の状態(a2)に示すように末端到達タイミングTWの標準偏差TWσは変化の大きい状態にあるが、制動力を4に設定することで、
図14中の状態(a1)に示すように末端到達タイミングTWの標準偏差TWσの変化が小さい安定した状態に保つことができる。これにより、緯糸Aについて、制動力を4に設定することで、ばらつきの小さい状態で織布を織ることが可能になる。
【0008】
緯糸Aとは特性の異なる緯糸Bを使用し、制動力を6に設定した場合、
図14中の状態(b2)に示すように末端到達タイミングTWの標準偏差TWσは変化の大きい状態にある。また、制動力を4に設定することで、
図14中の状態(b1)に示すように末端到達タイミングTWの標準偏差TWσの値を、状態(b2)よりも小さくすることができる。
【0009】
しかし、緯糸Bについて制動力を4とした場合の末端到達タイミングTWの標準偏差TWσの値は、
図14中の状態(b1)に示すように、緯糸Aについて制動力が適切でない状態(a2)と同じ値である。このため、緯糸Bについて末端到達タイミングTWの標準偏差TWσの値を参照するだけでは、緯糸ブレーキの制動力が適切に調整されていないため末端到達タイミングTWの標準偏差TWσの値が大きいのか、緯糸Bの特性により末端到達タイミングTWの標準偏差TWσの値が大きいのかを判定することができない問題がある。
【0010】
緯糸Aとは特性の異なる緯糸Cを使用し、制動力を6に設定した場合、
図14の状態(c2)に示すように末端到達タイミングTWの標準偏差TWσは変化の大きい状態にある。また、制動力を4に設定することで、
図14中の状態(c1)に示すように末端到達タイミングTWの標準偏差TWσを、状態(c2)よりも小さくすることができる。
【0011】
しかし、緯糸Cについて制動力を6とした場合の末端到達タイミングTWの標準偏差TWσの値は、
図14中の状態(c2)に示すように、緯糸Aについて制動力が適切である状態(a1)と同じ値である。このため、緯糸Cについて末端到達タイミングTWの標準偏差TWσの値を参照するだけでは、緯糸ブレーキの制動力が適切に調整されている状態なのか、ばらつきの小さい特性の緯糸Cにおいて緯糸ブレーキの制動力が適切に調整されていない状態なのかを、正しく判定することができない問題がある。
【0012】
すなわち、ある時点の末端到達タイミングTWの標準偏差TWσの値だけでは、緯糸ブレーキの制動力が適切であるかを判定することができず、制動力を変更しつつ末端到達タイミングTWの標準偏差TWσの全体の特性を求めなければ制動力が適切か否かを判定できないことが判明した。このため、緯糸ブレーキの状態を適切に判定することが望まれている。
【0013】
本開示は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、緯糸の飛走終了時の緯糸ブレーキの制動力が適切か否か判定することが可能なエアジェット織機の緯糸ブレーキ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本開示におけるエアジェット織機の緯糸ブレーキ制御装置は、メインノズルと、サブノズルと、緯糸ブレーキとを備え、メインノズル及びサブノズルからのエア噴射により、緯糸飛走経路を経て緯糸が緯入れされるエアジェット織機の緯糸ブレーキを制御する緯糸ブレーキ制御装置であって、緯糸飛走経路における織幅の下流側の織端に設けられたエンドセンサの検出信号と、緯糸飛走経路における織幅の中央よりもメインノズルとは反対側であって、緯糸ブレーキの制動タイミングに緯糸先端が到達する位置よりも上流側に設けられた織幅内センサの検出信号と、を参照し、織幅内センサにより検出される緯糸先端の中間到達タイミングの標準偏差、及び、エンドセンサにより検出される緯糸先端の末端到達タイミングの標準偏差を算出し、末端到達タイミングの標準偏差と中間到達タイミングの標準偏差との比または差が設定範囲を外れたときに、緯糸ブレーキの制動力が適切でないと判定することを特徴とする。
【0015】
本開示におけるエアジェット織機の緯糸ブレーキ制御装置は、末端到達タイミングの標準偏差と中間到達タイミングの標準偏差との比または差が設定範囲を外れたときに、警告を発する。
本開示におけるエアジェット織機の緯糸ブレーキ制御装置は、末端到達タイミングの標準偏差と中間到達タイミングの標準偏差との比または差が設定範囲を外れたときに、緯糸ブレーキの制動力を調整する。
【0016】
本開示におけるエアジェット織機の緯糸ブレーキ制御装置は、末端到達タイミングの標準偏差と中間到達タイミングの標準偏差との比または差について、制動力に応じた比または差の変化が他より小さい領域の範囲内に、制動力を調整する。
【0017】
本開示におけるエアジェット織機の緯糸ブレーキ制御装置は、比または差の変化が他より小さい領域の範囲内であって、制動力が不足しない領域に、制動力を調整する。
【0018】
本開示におけるエアジェット織機の緯糸ブレーキ制御装置は、エアジェット織機の動作中に、エンドセンサにより検出される緯糸先端の末端到達タイミングの標準偏差、及び、織幅内センサにより検出される緯糸先端の中間到達タイミングの標準偏差を算出する。
【0019】
本開示におけるエアジェット織機の緯糸ブレーキ制御装置は、エアジェット織機を調整モードに設定し、調整モードにおいて、エンドセンサにより検出される緯糸先端の末端到達タイミングの標準偏差、及び、織幅内センサにより検出される緯糸先端の中間到達タイミングの標準偏差を算出する。
【0020】
本開示におけるエアジェット織機の緯糸ブレーキ制御装置は、調整モードにおいて、緯糸ブレーキの制動力を変化させつつ、末端到達タイミングの標準偏差と中間到達タイミングの標準偏差との比または差を算出し、比または差の変化が他より小さい領域に、制動力を調整する。
【発明の効果】
【0021】
この開示に係るエアジェット織機の緯糸ブレーキ制御装置によれば、中間到達タイミングの標準偏差と末端到達タイミングの標準偏差とに基づいて、緯糸の飛走終了時の緯糸ブレーキの制動力が適切か否か判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】実施の形態1におけるエアジェット織機のブレーキ制御装置を含む緯入装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】実施の形態1における緯糸の飛走と各タイミングを示す特性図である。
【
図3】実施の形態1における緯糸ブレーキの制動力と中間到達タイミング及び末端到達タイミングの標準偏差との特性を示す特性図である。
【
図4】実施の形態1における緯糸ブレーキの制動力と中間到達タイミング及び末端到達タイミングの標準偏差との特性を示す特性図である。
【
図5】実施の形態1における緯糸ブレーキの制動力と中間到達タイミング及び末端到達タイミングの標準偏差との特性を示す特性図である。
【
図6】実施の形態1における警告画面を説明する説明図である。
【
図7】実施の形態1における緯糸ブレーキの制動力と中間到達タイミング及び末端到達タイミングの標準偏差との特性を示す特性図である。
【
図8】実施の形態1における緯糸ブレーキの制動力と中間到達タイミング及び末端到達タイミングの標準偏差との特性を示す特性図である。
【
図9】実施の形態1における緯糸ブレーキの制動力と中間到達タイミング及び末端到達タイミングの標準偏差との特性を示す特性図である。
【
図10】実施の形態1における中間到達タイミング及び末端到達タイミングの標準偏差の経時変化を示す特性図である。
【
図11】実施の形態1における中間到達タイミング及び末端到達タイミングの標準偏差の経時変化を示す特性図である。
【
図12】実施の形態1における中間到達タイミング及び末端到達タイミングの標準偏差の経時変化を示す特性図である。
【
図13】実施の形態1における中間到達タイミング及び末端到達タイミングの標準偏差の経時変化を示す特性図である。
【
図14】異なる種類の糸についての緯糸ブレーキの制動力と末端到達タイミングの標準偏差との特性を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本開示によるエアジェット織機の緯糸ブレーキ制御装置の実施の形態につき、図面を用いて説明する。なお、各図において、同一部分には同一符号を付している。
【0024】
実施の形態1.
はじめに、実施の形態1におけるエアジェット織機の緯糸ブレーキ制御装置を含む緯入装置100の構成について、
図1を参照して説明する。
図1は、実施の形態1におけるエアジェット織機のブレーキ制御装置を含む緯入装置100の構成を示すブロック図である。なお、本明細書では、緯糸を経糸開口内に緯入れし、緯糸を搬送する緯入れ方向に対し、緯入れ方向と反対側を上流、緯入れ方向側を下流とする。また、圧縮エアの流れる方向に対し、源流側を上流、源流と反対側を下流とする。
【0025】
[緯入装置100の構成]
図1に示される緯入装置100は、主として、制御部110、給糸部120、緯糸測長貯留部130、緯入れノズル140、筬150、複数のサブノズル群160、及び飛走センサ部170、を備える。
【0026】
緯糸ブレーキ制御装置として機能する制御部110には、CPU111と、ファンクションパネル112とが設けられている。CPU111は、圧縮エアの噴射タイミング制御による緯糸の飛走制御、緯糸のブレーキ制御を含む各種の制御を実行する。ファンクションパネル112は、緯糸ブレーキ制御の各種状態を報知する報知部であり、表示機能及び入力機能を有し、CPU111から指示された内容に基づいて各種情報を表示し、入力された情報をCPU111に伝達する。
【0027】
給糸部120は、緯糸測長貯留部130の上流側に設けられ、緯糸Yを保持している。給糸部120の緯糸Yは、緯糸測長貯留部130により引き出される。
【0028】
緯糸測長貯留部130には、貯留ドラム131と、緯糸係止ピン132と、バルーンセンサ133とが設けられている。貯留ドラム131は、給糸部120の緯糸Yを引き出し、巻き付けられた状態で貯留する。緯糸係止ピン132及びバルーンセンサ133は、貯留ドラム131の周囲に配設されている。バルーンセンサ133は、緯糸係止ピン132に対して緯糸Yの解除方向側に並べて配置されている。
【0029】
緯糸係止ピン132は、制御部110に予め設定された織機回転角度において、貯留ドラム131に貯留された緯糸Yを解除する。緯糸係止ピン132による緯糸Yの解除が行われるタイミングは、緯入れ開始タイミングである。
【0030】
バルーンセンサ133は、緯入れ中に貯留ドラム131から解除される緯糸Yを検出し、制御部110に緯糸解除信号を発信する。制御部110は、予め設定された回数(本実施形態では3回)の緯糸解除信号を受信すると、緯糸係止ピン132を作動する。緯糸係止ピン132は、貯留ドラム131から解除される緯糸Yを係止し、緯入れを終了させる。
【0031】
緯糸係止ピン132が緯糸Yを係止するための作動タイミングは、織幅TLに相当する長さの緯糸Yを貯留ドラム131に貯留するために要する巻き付け回数に応じて設定されている。本実施形態では、貯留ドラム131に3巻された緯糸Yの長さが織幅TLに相当するため、制御部110は、バルーンセンサ133の緯糸解除信号を3回受信すると、緯糸Yを係止する動作信号が緯糸係止ピン132に発信されるように設定されている。バルーンセンサ133の緯糸検出信号は、貯留ドラム131からの緯糸Yの解除信号であり、制御部110において、エンコーダから得られる織機回転角度信号に基づき、緯糸解除タイミングとして認識される。
【0032】
緯入れノズル140は、タンデムノズル141と、メインノズル142とを有する。タンデムノズル141は、圧縮エアの噴射により、貯留ドラム131の緯糸Yを引き出す。メインノズル142は、圧縮エアの噴射により、緯糸Yを筬150の緯糸飛走経路150aに緯入れする。
【0033】
タンデムノズル141の上流側には、緯入れ終了前に、飛走する緯糸Yを制動する緯糸ブレーキ147が設けられている。
【0034】
メインノズル142は、配管146aを介してメインバルブ146に接続されている。メインバルブ146は、配管144aを介してメインタンク144に接続されている。
【0035】
タンデムノズル141は、配管145aを介してタンデムバルブ145に接続されている。タンデムバルブ145は、配管144bを介してメインバルブ146と共通のメインタンク144に接続されている。メインタンク144には、エア供給源149から配管143aを介してメインレギュレータ143に供給される圧縮エアが、メインレギュレータ143により設定圧力に調整されて貯蔵される。
【0036】
筬150は、緯入れノズル140の下流側に配設され、複数の筬羽から構成され、緯糸飛走経路150aを備える。緯糸飛走経路150aに沿って、複数のサブノズル群160と、飛走センサ部170とが配置されている。
【0037】
複数のサブノズル群160は、筬150の緯糸飛走経路150aに沿って配設されている。複数のサブノズル群160は一例として6群に分けられ、各サブノズル群160A~160Fは、各群ごとにそれぞれ4本のサブノズルにより構成されている。各サブノズル群160A~160Fは、それぞれ複数の配管群164を介して、各群ごとに複数のサブバルブ163に接続されている。複数の配管群164は、複数のサブノズル群160に対応して6群に分けられ、各配管群164A~164Fは、各群ごとにそれぞれ4本の配管により構成されている。複数のサブバルブ163は、各配管群164A~164Fに合わせて、サブバルブ163A~163Fにより構成され、共通のサブタンク162に接続されている。
【0038】
サブタンク162は、配管161aによりサブレギュレータ161に接続されている。また、サブレギュレータ161は、配管143cにより、メインレギュレータ143とメインタンク144とを接続している配管143bに接続されている。このため、サブタンク162は、メインレギュレータ143経由で、サブレギュレータ161により設定圧力に調整された圧縮エアが貯蔵される。
【0039】
飛走センサ部170は、織幅内センサ171と、エンドセンサ172とを備える。織幅内センサ171は、エンドセンサ172よりも上流側であって、緯糸飛走経路150aにおける織幅TLの中央よりもメインノズル142とは反対側に配置されている。また、織幅内センサ171は、緯糸ブレーキ147の制動タイミングに緯糸先端が到達する位置よりも上流側に配置され、到達した緯糸Yを光学的に検出する。織幅内センサ171は、緯糸Yを検出して生成した緯糸検出信号を制御部110に伝達する。
織幅内センサ171による緯糸検出信号は、制御部110において、エンコーダから得られる織機回転角度信号に基づき、中間到達タイミングTiとして認識される。中間到達タイミングTi緯入れされた緯糸Yの先端が織幅内センサ171の設置位置に到達したタイミングである。
【0040】
エンドセンサ172は、緯糸飛走経路150aの下流側であって、織幅TLよりも下流側の織端に配置され、到達した緯糸Yを光学的に検出する。エンドセンサ172は、緯糸Yを検出して生成した緯糸検出信号を制御部110に伝達する。エンドセンサ172による緯糸検出信号は、緯糸Yの到達信号であり、制御部110において、エンコーダから得られる織機回転角度信号に基づき末端到達タイミングTWとして認識される。
【0041】
メインノズル142、筬150、及び複数のサブノズル群160は、図示されないスレイ上に配設され、エアジェット織機の前後方向に往復揺動される。また、給糸部120、緯糸測長貯留部130、タンデムノズル141、及び緯糸ブレーキ147は、図示されないエアジェット織機のフレーム又は床面に取り付けられたブラケットに固定されている。
【0042】
以上の構成において、メインバルブ146、タンデムバルブ145、複数のサブバルブ163、及び緯糸ブレーキ147は、制御部110により、作動タイミングと作動期間が制御される。タンデムバルブ145及びメインバルブ146は、緯糸係止ピン132が作動する緯入れ開始タイミングよりも早いタイミングで制御部110から作動指令信号が与えられ、メインノズル142及びタンデムノズル141から圧縮エアが噴射される。緯糸ブレーキ147は、緯糸係止ピン132が作動して貯留ドラム131の緯糸Yを係止する緯入れ終了タイミングよりも早い時期に制御部110から作動指令信号が出力される。緯糸ブレーキ147は、高速で飛走する緯糸Yを制動して緯糸Yの飛走速度を低下させ、末端到達タイミングTWにおける緯糸Yの衝撃を緩和する。
【0043】
[緯糸の飛走と各タイミング]
図2を参照して、エア噴射により緯糸飛走経路を経て緯入れされる緯糸の飛走と各タイミングについて説明する。
図2は、実施の形態1における緯糸の飛走と各タイミングを示す特性図である。
図2において、横軸は機台回転角度、縦軸は織幅TL内の緯入れ方向位置であり、緯糸Yの飛走曲線を表している。
図2の飛走曲線は、緯糸Yをストロボスコープにより実測した飛走状態を示している。この飛走曲線では、織幅内センサ171の位置とエンドセンサ172との位置の間で緯糸ブレーキ147が作動し、ブレーキ作動以後に緯糸Yの速度が低下して傾きが緩やかになる状態を示している。
【0044】
[緯糸ブレーキ制御装置の制御]
ここで、実施の形態1における緯糸ブレーキ制御装置による緯糸ブレーキ147の制御について説明する。
緯糸ブレーキ制御装置としての制御部110は、機台回転角度を基準にして、織幅内センサ171が緯糸を検出した緯糸検出信号から中間到達タイミングTiを記憶し、複数の中間到達タイミングTiから緯糸先端の中間到達タイミングTiの標準偏差Tiσを計算する。同様に、制御部110は、機台回転角度を基準にして、エンドセンサ172が緯糸を検出した緯糸検出信号から末端到達タイミングTWを記憶し、複数の末端到達タイミングTWから緯糸先端の末端到達タイミングTWの標準偏差TWσを計算する。
【0045】
制御部110は、末端到達タイミングTWの標準偏差TWσと中間到達タイミングTiの標準偏差Tiσとの比または差が設定範囲を外れたときに、緯糸ブレーキ制御についての警告を発する。また、制御部110は、末端到達タイミングTWの標準偏差TWσと中間到達タイミングTiの標準偏差Tiσとの比または差が設定範囲を外れたときに、緯糸ブレーキ147の制動力を調整する。そして、制御部110は、末端到達タイミングTWの標準偏差TWσと中間到達タイミングTiの標準偏差Tiσとの比または差について、制動力に応じた比または差の変化が他の領域より小さい領域の範囲内に、緯糸ブレーキ147の制動力を調整する。
【0046】
[緯糸ブレーキ制御の具体例(判定)]
次に、
図3から
図5を参照して、実施の形態1における緯糸ブレーキ制御の具体例について説明する。
図3~
図5は、それぞれ異なる特性の緯糸A~Cについて、実施の形態1における緯糸ブレーキ147の制動力と中間到達タイミングTi及び末端到達タイミングTWの標準偏差Tiσ・TWσとの特性を示す特性図である。
【0047】
ここで、
図3~
図5において、横軸は緯糸ブレーキ147の制動力を示し、縦軸は中間到達タイミングTiの標準偏差Tiσと末端到達タイミングTWの標準偏差TWσを示す。なお、横軸は、制動力の6段階の相対的な数値を示し、縦軸は標準偏差TWσとTiσを角度(°)で示している。また、緯糸ブレーキ147の制動力の制御については、緯糸ブレーキ147の単位時間あたりの作動力の調整でもよいし、一定作動力の作動時間の調整でもよい。
【0048】
図3~
図5において、中間到達タイミングTiは緯糸ブレーキ147の作動タイミングより上流でのタイミングであるため、中間到達タイミングTiの標準偏差Tiσは、制動力にかかわらず、末端到達タイミングTWの標準偏差TWσに比べると、変化が小さい値になっている。
【0049】
一方、
図3~
図5において、末端到達タイミングTWは緯糸ブレーキ147の作動タイミングより下流でのタイミングである。緯糸ブレーキ147の制動力が大きくなるとメインノズル142からの噴射される圧縮エアの圧力が上昇するよう制御され、末端到達タイミングTWの標準偏差TWσは、中間到達タイミングTiの標準偏差Tiσに比べると、制動力に応じてばらつきが大きい値になる。また、
図3~
図5では、緯糸A~Cの特性の違いに応じて、中間到達タイミングTiの標準偏差Tiσと末端到達タイミングTWの標準偏差TWσとの値が異なっている。
【0050】
以下、
図3を参照して、緯糸Aの緯糸ブレーキの制動について説明する。
図3は、緯糸Aについて、緯糸ブレーキ147の制動力と、中間到達タイミングTiの標準偏差Tiσ、及び末端到達タイミングTWの標準偏差TWσとの特性を示している。
【0051】
図3の制動力=6において、状態(a02)に示す中間到達タイミングTiの標準偏差Tiσは2.5を示し、状態(a2)に示す末端到達タイミングTWの標準偏差TWσは6.1を示している。なお、
図3の状態(a2)は、
図14に示した状態(a2)と同じ状態である。
【0052】
ここで、末端到達タイミングTWの標準偏差TWσと中間到達タイミングTiの標準偏差Tiσとの比が、2.0未満を正常な設定範囲と定めた場合を想定する。
図3に示す場合、制動力=6において、制御部110は、TWσ(a2)/Tiσ(a02)=6.1/2.5=2.4と算出し、緯糸ブレーキ147の制動力が設定範囲を外れていると判定し、警告を発する。
【0053】
具体的には、緯入装置100が織布を織っているタイミング、または、緯入装置100が起動時等の自動調整をしているタイミングで、制御部110は、織幅内センサ171により検出される緯糸Y先端の中間到達タイミングTiの標準偏差Tiσ、及び、エンドセンサ172により検出される緯糸Y先端の末端到達タイミングTWの標準偏差TWσを算出し、末端到達タイミングTWの標準偏差TWσと中間到達タイミングTiの標準偏差Tiσとの比または差が以上の設定範囲を外れたときに緯糸ブレーキ147の制動力が適切でないと判定し、警告を発する。
【0054】
図3の制動力=4において、状態(a01)に示す中間到達タイミングTiの標準偏差Tiσは2.2を示し、状態(a1)に示す末端到達タイミングTWの標準偏差TWσは4.0を示している。なお、
図3の状態(a1)は、
図14に示した状態(a1)と同じ状態である。すなわち、制御部110は、末端到達タイミングTWの標準偏差TWσと中間到達タイミングTiの標準偏差Tiσとの比により判定する場合、制動力=4において、TWσ(a1)/Tiσ(a01)=4.0/2.2=1.8と算出し、緯糸ブレーキ147の制動力が設定範囲内と判定し、警告を発しない。
【0055】
以下、
図4を参照して、緯糸Bの緯糸ブレーキの制動について説明する。
図4は、緯糸Bについて、緯糸ブレーキ147の制動力と、中間到達タイミングTiの標準偏差Tiσ、及び末端到達タイミングTWの標準偏差TWσとの特性を示している。
【0056】
図4の制動力=6において、状態(b02)に示す中間到達タイミングTiの標準偏差Tiσは3.5を示し、状態(b2)に示す末端到達タイミングTWの標準偏差TWσは9.1を示している。なお、
図4の状態(b2)は、
図14に示した状態(b2)と同じ状態である。
【0057】
ここで、末端到達タイミングTWの標準偏差TWσと中間到達タイミングTiの標準偏差Tiσとの比が、2.0未満を正常な設定範囲と定めた場合を想定する。
図4に示す場合、制動力=6において、制御部110は、TWσ(b2)/Tiσ(b02)=9.1/3.5=2.6と算出し、緯糸ブレーキ147の制動力が設定範囲を外れていると判定し、警告を発する。
【0058】
具体的には、緯入装置100が織布を織っているタイミング、または、緯入装置100が起動時等の自動調整をしているタイミングで、制御部110は、織幅内センサ171により検出される緯糸Y先端の中間到達タイミングTiの標準偏差Tiσ、及び、エンドセンサ172により検出される緯糸Y先端の末端到達タイミングTWの標準偏差TWσを算出し、末端到達タイミングTWの標準偏差TWσと中間到達タイミングTiの標準偏差Tiσとの比が以上の設定範囲を外れたときに緯糸ブレーキ147の制動力が適切でないと判定し、警告を発する。
【0059】
図4の制動力=4において、状態(b01)に示す中間到達タイミングTiの標準偏差Tiσは3.2を示し、状態(b1)に示す末端到達タイミングTWの標準偏差TWσは6.0を示している。なお、
図4の状態(b1)は、
図14に示した状態(b1)と同じ状態である。すなわち、制御部110は、制動力=4において、TWσ(b1)/Tiσ(b01)=6.0/3.2=1.9と算出し、緯糸ブレーキ147の制動力が設定範囲内と判定し、警告を発しない。
【0060】
以下、
図5を参照して、緯糸Cの緯糸ブレーキの制動について説明する。
図5は、緯糸Cについて、緯糸ブレーキ147の制動力と、中間到達タイミングTiの標準偏差Tiσ、及び末端到達タイミングTWの標準偏差TWσとの特性を示している。
【0061】
図5の制動力=6において、状態(c02)に示す中間到達タイミングTiの標準偏差Tiσは1.3を示し、状態(c2)に示す末端到達タイミングTWの標準偏差TWσは3.7を示している。なお、
図5の状態(c2)は、
図14に示した状態(c2)と同じ状態である。
【0062】
ここで、末端到達タイミングTWの標準偏差TWσと中間到達タイミングTiの標準偏差Tiσとの比が、2.0未満を正常な設定範囲と定めた場合を想定する。
図5に示す場合、制動力=6において、制御部110は、TWσ(c2)/Tiσ(c02)=3.7/1.3=2.8と算出し、緯糸ブレーキ147の制動力が設定範囲を外れていると判定し、警告を発する。
【0063】
具体的には、緯入装置100が織布を織っているタイミング、または、緯入装置100が起動時等の自動調整をしているタイミングで、制御部110は、織幅内センサ171により検出される緯糸Y先端の中間到達タイミングTiの標準偏差Tiσ、及び、エンドセンサ172により検出される緯糸Y先端の末端到達タイミングTWの標準偏差TWσを算出し、末端到達タイミングTWの標準偏差TWσと中間到達タイミングTiの標準偏差Tiσとの比が以上の設定範囲を外れたときに、緯糸ブレーキ147の制動力が適切でないと判定し、警告を発する。
【0064】
図5の制動力=4において、状態(c01)に示す中間到達タイミングTiの標準偏差Tiσは2.0を示し、状態(c1)に示す末端到達タイミングTWの標準偏差TWσは1.3を示している。なお、
図5の状態(c1)は、
図14に示した状態(c1)と同じ状態である。すなわち、制動力=4において、制御部110は、TWσ(c1)/Tiσ(c01)=2.0/1.3=1.5と算出し、緯糸ブレーキ147の制動力が設定範囲内と判定し、警告を発しない。
【0065】
以上の
図3~
図5において、制動力=1~2の場合、中間到達タイミングTiの標準偏差Tiσと末端到達タイミングTWの標準偏差TWσとの比が2.0未満を満足しているが、完成した織布の検査を別途実行したところ、制動力の低下に伴って織布にゆるみの欠点が生じることが判明した。このため、以上の
図3~
図5において、制御部110は、緯入装置100の緯糸ブレーキ147の制動力を3~4と設定することで、緯糸の飛走終了時に適切な制動を掛けることができる。
【0066】
以上の説明において、中間到達タイミングTiの標準偏差Tiσと末端到達タイミングTWの標準偏差TWσの両方を参照するため、緯糸の特性に影響されずに、緯糸ブレーキ147の制動力が適切かを瞬時に判定することができる。
【0067】
なお、以上の説明において、末端到達タイミングTWの標準偏差TWσと中間到達タイミングTiの標準偏差Tiσとの比が2.0未満を正常な設定範囲と定めたが、この数値は一例であり、任意の値に設定することができる。
【0068】
また、末端到達タイミングTWの標準偏差TWσと中間到達タイミングTiの標準偏差Tiσとの比の正常な設定範囲を、上限値だけでなく、下限値を定めることも可能である。例えば、正常な設定範囲の下限値を1.2と定め、末端到達タイミングTWの標準偏差TWσと中間到達タイミングTiの標準偏差Tiσとの比が1.2以上2.0未満を正常な設定範囲と定めることも可能である。この場合、末端到達タイミングTWの標準偏差TWσと中間到達タイミングTiの標準偏差Tiσとの比が、1.2未満であれば、制御部110は、緯糸ブレーキ147の制動力が設定範囲を外れていると判定し、警告を発する。
【0069】
以上の説明において、中間到達タイミングTiの標準偏差Tiσと末端到達タイミングTWの標準偏差TWσとの比が1.2~2.0の設定範囲を外れた場合に制御部110が警告を発すると説明したが、これに限定されるものではない。例えば、末端到達タイミングTWの標準偏差TWσと中間到達タイミングTiの標準偏差Tiσとの差が所定の設定範囲を外れた場合に警告を発するような構成であってもよい。差に基づいて判定する場合、aを係数として、TWσ>a×Tiσの判定式を満たす場合に設定範囲を外れていると判断してもよい。一例として、TWσ>2×Tiσを満たす場合に設定範囲を外れていると判断する。
また、bを定数として、TWσ>Tiσ+bの判定式を満たす場合に設定範囲を外れていると判断してもよい。さらに、TWσ>a×Tiσ+bの判定式を満たす場合に設定範囲を外れていると判断してもよい。ここで、aとbについては任意に定めることができ、大小関係についても任意に定めることができる。
【0070】
[緯糸ブレーキ制御の具体例(警告)]
緯入装置100が織布を織っているタイミングで、以上の
図3~
図5のように緯糸ブレーキ147の制動力が設定範囲を外れていると制御部110が判定した場合、制御部110は、
図6に示す警告画面112Gをファンクションパネル112に表示することにより、管理者または織工に対して警告を発することができる。
【0071】
図6は、実施の形態1における警告画面112Gを説明する説明図である。
図6の112Gに示す警告画面では、以上の
図3と
図4の制動力=6の場合に末端到達タイミングTWの標準偏差TWσと中間到達タイミングTiの標準偏差Tiσとの比が設定範囲の2.0を超えており、制御部110は緯糸ブレーキ147の制動力が強すぎると判断し、「緯糸ブレーキが設定された値より強い可能性があります ブレーキを調整しますか?」とメッセージを表示している。
【0072】
図6のファンクションパネル112の警告画面112Gにおいて、[YES]タブ112Gaを、管理者または織工がクリックした場合、制御部110は、末端到達タイミングTWの標準偏差TWσと中間到達タイミングTiの標準偏差Tiσとの比または差が設定範囲に収まるように、緯糸ブレーキ147の制動力を調整する。緯糸ブレーキ147の制動力を調整する際、制御部110は、ファンクションパネル112に、緯糸ブレーキ147の制動力を調整中の表示、あるいは、緯糸ブレーキ147の制動力を調整した結果の表示を、必要に応じて行う。
【0073】
一方、
図6のファンクションパネル112の警告画面112Gにおいて、[NO]タブ112Gbを、管理者または織工がクリックした場合、制御部110は、緯糸ブレーキ147の制動力を調整せずに、警告画面112Gによる警告を終了する。
【0074】
[緯糸ブレーキ制御の具体例(自動調整)]
図6の警告画面112Gの[YES]タブ112Gaがクリックされた場合、または、緯入装置100が起動時等の自動調整が実行中において、制御部110は、以下のようにして緯糸ブレーキ147の制動力の自動調整を実行する。
【0075】
以下、
図7~
図9を参照して、緯糸ブレーキ147の制動力の自動調整について説明する。
図7~
図9は、実施の形態1における緯糸ブレーキ147の制動力と、中間到達タイミングTi及び末端到達タイミングTWの標準偏差Tiσ,TWσとの特性を示す特性図である。
【0076】
まず、制御部110は、緯糸ブレーキ147の制動力の自動調整として、緯入装置100を調整モードに設定する。そして、制御部110は、
図7に示すように、制動力を調整範囲の一端、例えば、制動力=6において、末端到達タイミングTWの標準偏差TWσ=6.1、中間到達タイミングTiの標準偏差Tiσ=2.4、及び、TWσ/Tiσ=2.5、と算出する。
【0077】
制御部110は、緯糸ブレーキ147の制動力の自動調整を続行し、
図8に示すように、制動力=5において、末端到達タイミングTWの標準偏差TWσ=4.5、中間到達タイミングTiの標準偏差Tiσ=2.3、及び、TWσ/Tiσ=1.9、と算出する。
【0078】
制御部110は、緯糸ブレーキ147の制動力の自動調整を続行し、
図9に示すように、制動力=4において、TWσ=4.0、Tiσ=2.2、及び、TWσ/Tiσ=1.8と算出し、制動力=3において、TWσ=4.1、Tiσ=2.3、及び、TWσ/Tiσ=1.8、と算出する。
【0079】
制御部110は、制動力=4と制動力=3において、制動力=6~5と比較して、中間到達タイミングTiの標準偏差Tiσと末端到達タイミングTWの標準偏差TWσとの変化が小さく平坦になったことを検出し、緯糸ブレーキ147の制動力を4に調整し、測定と調整を終了する。
【0080】
なお、以上の説明では、中間到達タイミングTiの標準偏差Tiσと末端到達タイミングTWの標準偏差TWσとの比の変化が、制動力の変更にかかわらず、他の領域より小さく平坦になったことで測定を終了したが、これに限定されるものではない。例えば、末端到達タイミングTWの標準偏差TWσと中間到達タイミングTiの標準偏差Tiσとの比について、あらかじめ定めた正常な設定範囲の下限値に達した場合に測定を終了してもよい。また、末端到達タイミングTWの標準偏差TWσと中間到達タイミングTiの標準偏差Tiσとの差について、制動力の変更にかかわらず、他の領域より差の変化が小さく平坦になった場合、あるいは、あらかじめ定めた設定範囲の下限値に達した場合、などに測定を終了してもよい。
【0081】
また、制御部110は、緯糸ブレーキ147の制動力の自動調整として、
図7~
図9に示したように制動力を減少させつつ測定するのとは逆順に、制動力=1,2,3,…のように制動力を増やしつつ測定を実行してもよい。この場合、末端到達タイミングTWの標準偏差TWσと中間到達タイミングTiの標準偏差Tiσとの比または差について測定を終了してよい。例えば、末端到達タイミングTWの標準偏差TWσと中間到達タイミングTiの標準偏差Tiσとの比について、あらかじめ定めた正常な設定範囲の上限値、例えば、TWσ/Tiσ=2.0に達した時点、あるいは、上限値を超えた時点で測定を終了してもよい。
【0082】
[緯糸ブレーキ制御の具体例(経時変化)]
次に、
図10~
図13を参照して、実施の形態1における緯糸ブレーキ制御の経時変化についての具体例を説明する。
図10~
図13は、実施の形態1における中間到達タイミング及び末端到達タイミングの標準偏差の経時変化を示す特性図である。
【0083】
緯入装置100が動作中に、何らかの理由で緯糸ブレーキ147の制動力が上昇した場合、
図10に示すように、中間到達タイミングTiの標準偏差Tiσが一定のまま、末端到達タイミングTWの標準偏差TWσがそれまでより大きくなることがある。
図10の状態(a)において、TWσの増大に伴って、TWσ/Tiσ>2.0となり、あらかじめ定めた正常な設定範囲を外れているため、制御部110は警告を発する。なお、ここではTWσとTiσの比により経時変化を検出する例で説明するが、TWσとTiσとの差により経時変化を検出することも可能である。
【0084】
緯入装置100が動作中に、何らかの理由で緯糸の特性が変化した場合、
図11に示すように、末端到達タイミングTWの標準偏差TWσと中間到達タイミングTiの標準偏差Tiσとの双方が連動してそれまでより大きくなることがある。
図11の状態(b1)と状態(b2)において、中間到達タイミングTiの標準偏差Tiσと末端到達タイミングTWの標準偏差TWσとがそれまでより増大するが、TWσ/Tiσ≦2.0のままであれば、制御部110は警告を発しない。
【0085】
緯入装置100が動作中に、何らかの理由で緯糸ブレーキ147の制動力が低下した場合、
図12に示すように、中間到達タイミングTiの標準偏差Tiσが一定のまま、末端到達タイミングTWの標準偏差TWσが、それまでより小さくなることがある。
図12の状態(c)において、末端到達タイミングTWの標準偏差TWσの低下に伴って、TWσ/Tiσ<1.2となり、あらかじめ定めた正常な設定範囲を外れるため、制御部110は警告を発する。この状態では、制動力の低下に伴ってよこにゆるみの発生がしやすくなる。
【0086】
緯入装置100が動作中に、何らかの理由で緯糸の特性が変化した場合、
図13に示すように、末端到達タイミングTWの標準偏差TWσと中間到達タイミングTiの標準偏差Tiσとの双方が、連動してそれまでより小さくなることがある。
図13の状態(d1)と(d2)において、末端到達タイミングTWの標準偏差TWσと中間到達タイミングTiの標準偏差Tiσとが低下しているが、TWσ/Tiσ≧1.2を保ったままであれば、制御部110は警告を発しない。
【0087】
[実施の形態により得られる効果]
以上説明したように、実施の形態1によれば、以下に示す効果を得ることができる。
【0088】
(1)実施の形態1のエアジェット織機の緯糸ブレーキ制御装置としての制御部110は、中間到達タイミングTiの標準偏差Tiσ、及び、末端到達タイミングTWの標準偏差TWσを算出し、末端到達タイミングTWの標準偏差TWσと中間到達タイミングTiの標準偏差Tiσとの比または差が設定範囲を外れたときに、緯糸ブレーキ147の制動力が適切でないと判定する。
【0089】
ここで、実施の形態1のエアジェット織機の緯糸ブレーキ制御装置としての制御部110は、中間到達タイミングTiの標準偏差Tiσと末端到達タイミングTWの標準偏差TWσの両方を参照するため、緯糸の特性に影響されずに、緯糸ブレーキ147の制動力が適切かを瞬時に判定することができる。これにより、緯糸ブレーキ147の制動力が適切か否かを判定することができる。
【0090】
(2)実施の形態1のエアジェット織機の緯糸ブレーキ制御装置としての制御部110は、中間到達タイミングTiの標準偏差Tiσ、及び、末端到達タイミングTWの標準偏差TWσを算出し、末端到達タイミングTWの標準偏差TWσと中間到達タイミングTiの標準偏差Tiσとの比または差が設定範囲を外れたときに、警告を発する。これにより、緯糸ブレーキ147の制動力が適切か否かを把握することができる。
【0091】
(3)実施の形態1のエアジェット織機の緯糸ブレーキ制御装置としての制御部110は、中間到達タイミングTiの標準偏差Tiσ、及び、末端到達タイミングTWの標準偏差TWσを算出し、末端到達タイミングTWの標準偏差TWσと中間到達タイミングTiの標準偏差Tiσとの比または差に基づいて、緯糸ブレーキ147の制動力を調整する。これにより、緯糸に適切な制動を掛けることができる。
【0092】
(4)実施の形態1のエアジェット織機の緯糸ブレーキ制御装置としての制御部110は、末端到達タイミングTWの標準偏差TWσと中間到達タイミングTiの標準偏差Tiσとの比または差について、制動力に応じた比または差の変化が他の領域より小さい領域の範囲内に制動力を調整することで、緯糸に安定した状態で適切な制動を掛けることができる。
【0093】
(5)実施の形態1のエアジェット織機の緯糸ブレーキ制御装置としての制御部110は、末端到達タイミングTWの標準偏差TWσと中間到達タイミングTiの標準偏差Tiσとの比または差の変化が他の領域より小さい領域の範囲内であって、制動力が不足しない領域に、制動力を調整することで、緯糸に過不足のない適切な制動を掛けることができる。
【0094】
(6)実施の形態1のエアジェット織機の緯糸ブレーキ制御装置としての制御部110は、エアジェット織機の動作中に、末端到達タイミングTWの標準偏差TWσと中間到達タイミングTiの標準偏差Tiσとの比または差を算出することで、織布を織っている期間において緯糸に適切な制動を掛けることができる。
【0095】
(7)実施の形態1のエアジェット織機の緯糸ブレーキ制御装置としての制御部110は、エアジェット織機を調整モードに設定し、調整モードにおいて、末端到達タイミングTWの標準偏差TWσと中間到達タイミングTiの標準偏差Tiσとの比または差を算出することで、織布を織っている期間に影響を与えることなく、緯糸に適切な制動を掛けることができるようになる。
【0096】
(8)実施の形態1のエアジェット織機の緯糸ブレーキ制御装置としての制御部110は、調整モードにおいて、緯糸ブレーキ147の制動力を変化させつつ、末端到達タイミングTWの標準偏差TWσと中間到達タイミングTiの標準偏差Tiσとの比または差を算出し、比または差の変化が他の領域より小さい領域に、制動力を調整することで、織布を織っている期間に影響を与えることなく、緯糸に適切な制動を掛けることができるようになる。
【0097】
(9)従来の装置の場合、緯糸ブレーキ147の制動力が適正範囲より強い場合、緯糸の末端到達タイミングを適正に保つため、メインバルブ146の噴射圧が適正より高い圧力に調整され、エネルギーの無駄が生じていた。
これに対し、実施の形態1の緯糸ブレーキ制御装置では、緯糸ブレーキ147の制動力を適切な範囲に調整することにより、メインバルブ146の噴射圧を適正に保ち、エネルギーの無駄を抑制することができる。また、同様に、複数のサブバルブ163の噴射圧も適正に保たれ、エネルギーの無駄を抑制することができる。
【0098】
(10)従来の装置の場合、末端到達タイミングTWの標準偏差TWσだけに着目していたため、異なる特性の緯糸が使用された場合、または、緯糸の特性が変化した場合、制動が適切でないか否かの判定を正確に行うことができなかった。
一方、実施の形態1のエアジェット織機の緯糸ブレーキ制御装置としての制御部110は、末端到達タイミングTWの標準偏差TWσ、及び中間到達タイミングTiの標準偏差Tiσを判定に使用するため、緯糸の特性の違いに影響されず、緯糸ブレーキ147の制動力が適切か否かを把握することができる。
【0099】
[その他の実施の形態]
実施の形態1における変形例を以下に説明する。
以上の説明において、末端到達タイミングTWの標準偏差TWσと中間到達タイミングTiの標準偏差Tiσとの比(TWσ/Tiσ)が1.2~2.0の設定範囲を外れた場合に制御部110が警告を発すると説明したが、この設定範囲の値は任意に定めることができる。
【0100】
なお、末端到達タイミングTWの標準偏差TWσと中間到達タイミングTiの標準偏差Tiσとの比とは、TWσ/Tiσだけでなく、Tiσ/TWσであってもよい。すなわち、制御部110は、比の分母と分子とを逆にして、中間到達タイミングTiの標準偏差Tiσと末端到達タイミングTWの標準偏差TWσとの比(Tiσ/TWσ)が0.5~0.83の設定範囲を外れた場合に制御部110が警告を発するようにしてもよく、この設定範囲の値は任意に定めることができる。また、既に説明したように、制御部110は、中間到達タイミングTiの標準偏差Tiσと末端到達タイミングTWの標準偏差TWσと差を求めて制動力が適切か否か判断してもよい。
【0101】
以上の説明において、緯糸ブレーキ147の制動力の数値、及び、中間到達タイミングTiの標準偏差Tiσと末端到達タイミングTWの標準偏差TWσとの値として示したものは一例に過ぎない。このため、緯糸ブレーキ制御を実行するのに適した任意の値を採用することができる。
【0102】
以上の説明において、制御部110を緯糸ブレーキ制御装置として説明したが、これに限定されるものではない。例えば、制御部110とは別に、専用の緯糸ブレーキ制御装置を構成してもよい。
【0103】
以上の説明において、ファンクションパネル112に警告画面112Gを表示する具体例を示したが、これに限定されるものではない。たとえば、ファンクションパネル112近傍のスピーカから音声による警告のメッセージを出力してもよい。または、通信手段を経由し、管理者または織工が有する端末における警告画面または警告音声の出力でもよい。
【符号の説明】
【0104】
100 緯入装置、110 制御部(緯糸ブレーキ制御装置)、111 CPU、112 ファンクションパネル、120 給糸部、130 緯糸測長貯留部、131 貯留ドラム、132 緯糸係止ピン、133 バルーンセンサ、140 緯入れノズル、141 タンデムノズル、142 メインノズル、143 メインレギュレータ、143a~143c 配管、144 メインタンク、144a,144b 配管、145 タンデムバルブ、145a 配管、146 メインバルブ、146a 配管、147 緯糸ブレーキ、149 エア供給源、150 筬、150a 緯糸飛走経路、160 複数のサブノズル群、161 サブレギュレータ、161a 配管、162 サブタンク、163 複数のサブバルブ、164 複数の配管群、170 飛走センサ部、171 織幅内センサ、172 エンドセンサ、TL 織幅、Y 緯糸。