(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】制御装置
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20231003BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20231003BHJP
B62D 101/00 20060101ALN20231003BHJP
B62D 119/00 20060101ALN20231003BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
B62D101:00
B62D119:00
(21)【出願番号】P 2020070273
(22)【出願日】2020-04-09
【審査請求日】2023-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 隼
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 智宏
(72)【発明者】
【氏名】三鴨 悟
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 健宏
【審査官】瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-129996(JP,A)
【文献】国際公開第2019/049731(WO,A1)
【文献】特開2019-103213(JP,A)
【文献】特開2011-148498(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 5/04, 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御対象をそれぞれ制御するとともにそれぞれの動作を相互に監視する第1制御部及び第2制御部を備える制御装置であって、
前記第1制御部は、相手方の前記第2制御部からの信号をマイコン間通信を通じて取得するとともに、前記第2制御部からの信号に基づいて相手方の前記第2制御部についての異常の判定を実行しており、
前記第2制御部は、相手方の前記第1制御部からの信号をマイコン間通信を通じて取得するとともに、前記第1制御部からの信号に基づいて相手方の前記第1制御部についての異常の判定を実行しており、
前記第1制御部及び前記第2制御部は、前記第1制御部及び前記第2制御部のマイコン間通信の開始後に、相手方の制御部についての異常の判定を実行開始する制御装置。
【請求項2】
前記第1制御部は、動作開始時に制御の開始の準備ができたことを示す第1開始準備完了フラグを生成し、
前記第2制御部は、動作開始時に制御の開始の準備ができたことを示す第2開始準備完了フラグを生成し、
前記第1制御部及び前記第2制御部は、自身が開始準備完了フラグを生成するとともに相手方の制御部が生成した開始準備完了フラグを前記第1制御部と前記第2制御部との間のマイコン間通信を通じて受信した後に、相手方の制御部についての異常の判定を実行開始する請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記第1制御部及び前記第2制御部は、前記第1制御部と前記第2制御部との間のマイコン間通信の終了前に、相手方の制御部についての異常の判定を実行終了する請求項1または2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記第1制御部は、動作終了時に動作終了の準備ができたことを示す第1終了準備完了フラグを生成し、
前記第2制御部は、動作終了時に動作終了の準備ができたことを示す第2終了準備完了フラグを生成し、
前記第1制御部及び前記第2制御部は、自身が終了準備完了フラグを生成するとともに相手方の制御部が生成した終了準備完了フラグを前記第1制御部と前記第2制御部との間のマイコン間通信を通じて受信した後に、相手方の制御部についての異常の判定を実行終了する請求項3に記載の制御装置。
【請求項5】
前記制御対象は、操舵装置である請求項1~4のいずれか一項に記載の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、2つのマイコンが、相互に相手方のマイコンとの間で通信を実行し、当該通信を用いて、自身のマイコンについての異常だけでなく相互に相手方のマイコンについての異常を判定する電動パワーステアリング装置の制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
2つのマイコンの動作タイミングはばらつくことがある。例えば、2つのマイコンのうち一方のマイコンの動作開始が他方のマイコンの動作開始よりも早い場合、一方のマイコンは他方のマイコンが通信を開始する前に、他方のマイコンについての異常の判定を開始することがある。この場合、一方のマイコンは、他方のマイコンについての異常を判定するために用いる通信が得られていないことに基づいて、他方のマイコンに異常が発生していると判定するおそれがある。しかし、この判定結果は、他方のマイコンの動作開始が一方のマイコンの動作開始よりも遅れていることによって他方のマイコンから異常を判定するために用いる通信が得られなかったことに基づくものであり、誤った判定結果であることがある。このように、2つのマイコンの動作タイミングのばらつきに起因して、相手方のマイコンについての異常の判定を誤判定するおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する制御装置は、制御対象をそれぞれ制御するとともにそれぞれの動作を相互に監視する第1制御部及び第2制御部を備える制御装置であって、前記第1制御部は、相手方の前記第2制御部からの信号をマイコン間通信を通じて取得するとともに、前記第2制御部からの信号に基づいて相手方の前記第2制御部についての異常の判定を実行しており、前記第2制御部は、相手方の前記第1制御部からの信号をマイコン間通信を通じて取得するとともに、前記第1制御部からの信号に基づいて相手方の前記第1制御部についての異常の判定を実行しており、前記第1制御部及び前記第2制御部は、前記第1制御部及び前記第2制御部のマイコン間通信の開始後に、相手方の制御部についての異常の判定を実行開始する。
【0006】
上記構成によれば、相手方の制御部についての異常の判定を実行開始するのは、第1制御部及び第2制御部のマイコン間通信を開始した後である。このため、一方の制御部の動作開始が他方の制御部の動作開始よりも早くなったとしても、第1制御部及び第2制御部の両方のマイコン間通信が開始するまでは、第1制御部及び第2制御部は相手方の制御部についての異常の判定を実行開始しないようにしている。これにより、先に動作開始した一方の制御部が、まだ動作開始していない他方の制御部からマイコン間通信を通じて信号が取得できていないにもかかわらず相手方の制御部についての異常の判定を実行開始することを抑えることができる。このため、通信開始前にマイコン間通信を通じて信号が取得できないことに起因して、相手方の制御部に異常が発生していると誤判定することが抑えられる。
【0007】
上記の制御装置において、前記第1制御部は、動作開始時に制御の開始の準備ができたことを示す第1開始準備完了フラグを生成し、前記第2制御部は、動作開始時に制御の開始の準備ができたことを示す第2開始準備完了フラグを生成し、前記第1制御部及び前記第2制御部は、自身が開始準備完了フラグを生成するとともに相手方の制御部が生成した開始準備完了フラグを前記第1制御部と前記第2制御部との間の通信を通じて受信した後に、相手方の制御部についての異常の判定を実行開始することが好ましい。
【0008】
上記構成によれば、第1制御部及び第2制御部において自身が開始準備完了フラグを生成するとともに相手方の制御部から開始準備完了フラグを受信した後に、第1制御部及び第2制御部による相手方の制御部についての異常の判定を実行開始する。これにより、各制御部は、相手方の制御部においても制御の開始が準備できた後に相手方の制御部についての異常の判定を実行開始することができる。
【0009】
上記の制御装置において、前記第1制御部及び前記第2制御部は、前記第1制御部と前記第2制御部との間の通信の終了前に、相手方の制御部についての異常の判定を実行終了することが好ましい。
【0010】
上記構成によれば、相手方の制御部についての異常の判定を実行終了するのは、第1制御部及び第2制御部の通信を終了する前である。これにより、まだ動作終了していない他方の制御部が、先に動作終了した一方の制御部から通信を通じて信号が取得できないにもかかわらず異常の判定の実行することを抑えることができる。このため、通信終了後に通信を通じて信号が取得できないことに起因して、相手方の制御部についての異常が発生していると誤判定することが抑えられる。
【0011】
上記の制御装置において、前記第1制御部は、動作終了時に動作終了の準備ができたことを示す第1終了準備完了フラグを生成し、前記第2制御部は、動作終了時に動作終了の準備ができたことを示す第2終了準備完了フラグを生成し、前記第1制御部及び前記第2制御部は、自身が終了準備完了フラグを生成するとともに相手方の制御部が生成した終了準備完了フラグを前記第1制御部と前記第2制御部との間の通信を通じて受信した後に、相手方の制御部についての異常の判定を実行終了することが好ましい。
【0012】
上記構成によれば、第1制御部及び第2制御部は、自身が終了準備完了フラグを生成するとともに相手方の制御部から終了準備完了フラグを受信した後に、第1制御部及び第2制御部による相手方の制御部についての異常の判定を実行終了する。これにより、各制御部は、相手方の制御部においても動作終了の準備ができた後に相手方の制御部についての異常の判定を実行終了することができる。
【0013】
上記の制御装置において、前記制御対象は、操舵装置であることが好ましい。
異常の原因を解析する際、判定結果に誤判定した判定結果が存在していると、その解析の精度を向上させることが困難になる。とくに、より精度の高い制御が求められる操舵装置を制御対象とする第1制御部及び第2制御部について、上記構成を採用することは好適である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の制御装置によれば、相手方の制御部についての異常の判定をより適切に実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】電動パワーステアリング装置の概略構成を示す構成図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、制御装置を電動パワーステアリング装置(以下、「EPS」という。)に適用した一実施形態について説明する。
図1に示すように、EPS1は、運転者のステアリングホイール10の操作に基づいて転舵輪15を転舵させる操舵機構2、運転者のステアリング操作を補助するアシスト機構3、及びアシスト機構3を制御する制御装置30を備えている。
【0017】
操舵機構2は、運転者により操作されるステアリングホイール10と一体回転するステアリング軸11を備えている。ステアリング軸11は、ステアリングホイール10と連結されたコラム軸11a、コラム軸11aの下端部に連結された中間軸11b、及び中間軸11bの下端部に連結されたピニオン軸11cを有している。ピニオン軸11cの下端部は、ラックアンドピニオン機構13を介してラック軸12に連結されている。ステアリング軸11の回転運動は、ラックアンドピニオン機構13を介してラック軸12の軸方向、すなわち
図1の左右方向の往復直線運動に変換される。ラック軸12の往復直線運動は、ラック軸12の両端にそれぞれ連結されたタイロッド14を介して左右の転舵輪15にそれぞれ伝達されることにより、転舵輪15の転舵角が変化し、車両の進行方向が変更される。
【0018】
アシスト機構3は、回転軸21を有するモータ20と、減速機構22とを備えている。モータ20は、ステアリング軸11にトルクを付与する。モータ20の回転軸21は、減速機構22を介してコラム軸11aに連結されている。減速機構22はモータ20の回転を減速し、当該減速した回転力をコラム軸11aに伝達する。すなわち、ステアリング軸11にモータ20のトルクが付与されることにより、運転者のステアリング操作が補助される。
【0019】
制御装置30は、車両に設けられた各種のセンサの検出結果に基づいてモータ20を制御する。各種のセンサとしては、例えば第1トルクセンサ40a、第2トルクセンサ40b、第1回転角センサ41a、第2回転角センサ41b、及び車速センサ42が設けられている。第1トルクセンサ40a及び第2トルクセンサ40bは、コラム軸11aに設けられている。第1回転角センサ41a及び第2回転角センサ41bは、モータ20に設けられている。第1トルクセンサ40aは、運転者のステアリング操作に伴いステアリング軸11に付与される第1操舵トルクτ1を検出する。第2トルクセンサ40bは、運転者のステアリング操作に伴いステアリング軸11に付与される第2操舵トルクτ2を検出する。第1回転角センサ41aは、モータ20の回転軸21の第1回転角度θ1を示す検出信号を検出する。第2回転角センサ41bは、モータ20の回転軸21の第2回転角度θ2を示す検出信号を検出する。車速センサ42は、車両の走行速度である車速Vを検出する。制御装置30は、各センサの出力値に基づいて、操舵機構2に対して付与するモータ20の目標となるトルクを設定し、実際のモータ20のトルクが目標のトルクとなるように、モータ20に供給される電流を制御するアシスト制御を実行する。
【0020】
図2に示すように、モータ20は、その回転軸21を中心に回転する円筒状のロータ23と、ロータ23の外周に配置される円筒状のステータ24とを備えている。ロータ23には、その外周面に永久磁石が固定されている。永久磁石は、ロータ23の周方向に異なる極性が交互に、すなわちN極とS極とが交互に並んで配置されている。こうした永久磁石は、モータ20が回転する際に磁界を形成する。ステータ24には、U相、V相、及びW相の3相のコイル25が円環状に配置されている。コイル25は、第1コイル25a及び第2コイル25bを有している。第1コイル25a及び第2コイル25bは、それぞれスター結線されたU相、V相、及びW相の3相のコイルを含んでいる。モータ20には、モータ20の制御量である電流値を制御することによって、モータ20の駆動を制御する制御ユニットである制御装置30が接続されている。
【0021】
制御装置30は、第1コイル25aに対する給電を制御する第1制御系統Aと、第2コイル25bに対する給電を制御する第2制御系統Bとを有している。
制御装置30の第1制御系統Aは、第1発振器31a、第1制御部32a、第1電流センサ33a、第1駆動回路34a、及び第1演算回路35aを有している。制御装置30の第2制御系統Bは、第2発振器31b、第2制御部32b、第2電流センサ33b、第2駆動回路34b、及び第2演算回路35bを有している。また、第1発振器31aと第2発振器31bとは、同一構成である。また、第1制御部32aと第2制御部32bとは、同一構成である。また、第1電流センサ33aと第2電流センサ33bとは同一構成である。また、第1駆動回路34aと第2駆動回路34bとは同一構成である。第1演算回路35aと第2演算回路35bとは同一構成である。第1実施形態において、同一構成とは、同一の設計思想のなかで同一の機能及び性能を有するものである。以下では、制御装置30の第1制御系統Aの構成について説明し、第2制御系統Bの構成については、説明を省略する。なお、ここでは便宜上、第1制御系統Aの構成については符号の末尾に「a」を付与し、第2制御系統Bの構成については符号の末尾に「b」を付与する。また、便宜上、第1制御系統Aの信号については符号の末尾に「1」を付与し、第2制御系統Bの信号については符号の末尾に「2」を付与する。
【0022】
第1発振器31aは、基本周波数の第1クロックCLK1を生成する。第1発振器31aとしては、例えば水晶素子等が採用される。第1制御系統Aの各部は、第1クロックCLK1に基づいて、所定の処理タイミングで動作する。
【0023】
第1駆動回路34aは、U相、V相、及びW相の3相の駆動回路である。第1駆動回路34aは、直列に接続された2つのスイッチング素子を1組とする3組のアームが、それぞれ直流電源の+端子と-端子との間に並列に接続されてなる。スイッチング素子には、MOS-FET(電界効果トランジスタ:metal-oxide-semiconductor field-effect-transistor)が採用される。第1電流センサ33aは、第1駆動回路34aと第1コイル25aとの間の給電経路を流れるU相、V相、及びW相の3相の電流値である第1実電流値I1を検出する。
【0024】
第1演算回路35aは、第1制御部32aに接続されている。第1演算回路35aは、電子回路やフリップフロップ等を組み合わせた論理回路をパッケージ化して構成したものである。第1演算回路35aは、いわゆるASIC(application specific integrated circuit:特定用途向け集積回路)である。第1演算回路35aは、特定の入力に対して定められた出力を行う。本実施形態では、第1演算回路35aは、第1回転角センサ41aにより検出される第1回転角度θ1を示す検出信号を取得し、モータ20の回転軸21のマルチターンの第1回転角度を演算するために用いる第1回転数情報C1を生成する。第1演算回路35aは、生成した第1回転数情報C1を第1制御部32aに対して送信する。
【0025】
第1制御部32aは、いわゆるマイコンである。第1制御部32aは、所定の制御周期毎に、第1操舵トルクτ1、第1回転角度θ1を示す検出信号、車速V、第1電流センサ33aにより検出される第1実電流値I1、及び第1回転数情報C1を取得する。第1制御部32aは、第1操舵トルクτ1及び車速Vに基づいて、第1電流指令値I1*を演算する。第1電流指令値I1*は、第1コイル25aに対する給電を制御するための指令値である。第1電流指令値I1*は、第1コイル25aへの給電によりモータ20が発生すべきトルクに対応している。また、第1制御部32aは、第1回転角度θ1を示す検出信号及び第1回転数情報C1に基づいて、マルチターンの第1回転角度を演算することができる。第1制御部32aは、第1制御部32aと第2制御部32bとの間のマイコン間通信により、演算した第1電流指令値I1*を第2制御部32bに対して送信し、第2制御部32bが演算した第2電流指令値I2*を受信する。第1制御部32aは、第1電流指令値I1*及び第2電流指令値I2*のいずれか一方、第1回転角度θ1及び第1実電流値I1に基づいて、第1モータ制御信号P1を生成する。第1駆動回路34aは、所定の制御周期で第1制御部32aにより生成された第1モータ制御信号P1に基づいて、第1駆動回路34aを構成するスイッチング素子をオンオフすることにより、図示しない直流電源から供給される直流電力を3相交流電力に変換する。これにより、第1駆動回路34aは、3相交流電力を第1コイル25aに供給する。
【0026】
第1制御部32aは、第1クロックCLK1に基づいて、所定の処理タイミングで動作する。また、第1制御部32aは、第1クロックCLK1を示す第1クロックパルスCp1を第1演算回路35aに対して送信する。当該第1クロックパルスCp1は、電圧が高い状態と低い状態とを所定の周期で繰り返す信号である。第1演算回路35aは、第1クロックパルスCp1に基づいて、所定の処理タイミングで動作する。
【0027】
第1制御部32a及び第2制御部32bは、第1駆動回路34a及び第2駆動回路34bの制御を通じて、第1制御系統Aの第1コイル25a及び第2制御系統Bの第2コイル25bへの給電を制御する。本実施形態において、基本的には、第1制御部32aがいわゆるマスターとして動作し、第2制御部32bがいわゆるスレーブとして動作する。また、第1制御部32aが異常である場合には、第1制御部32aがスレーブとして動作し、第2制御部32bがマスターとして動作する。第1制御部32a及び第2制御部32bは、マスターとして動作する制御部が演算した指令値を給電の制御に用いる一方、スレーブとして動作する制御部が演算した指令値を給電の制御に用いない。
【0028】
第1制御部32aと第2制御部32bとの間のマイコン間通信を行うための通信ラインは、冗長的に2つ設けられている。これにより、第1マイコン間通信及び第2マイコン間通信の2つのマイコン間通信が行われている。これら2つのマイコン間通信では、共に同じ情報を送受信する。すなわち、第1制御部32aは、演算した第1電流指令値I1*を第2制御部32bに対して2つの通信ラインそれぞれを介して送信し、第2制御部32bが演算した第2電流指令値I2*を2つの通信ラインそれぞれを介して受信する。また、第2制御部32bは、演算した第2電流指令値I2*を第1制御部32aに対して2つの通信ラインそれぞれを介して送信し、第1制御部32aが演算した第1電流指令値I1*を2つの通信ラインそれぞれを介して受信する。なお、第1電流指令値I1*及び第2電流指令値I2*を示す信号は、第1制御部32a及び第2制御部32bの通信を通じて取得する信号のうち、モータ20の制御に必要な信号である。
【0029】
第1制御部32aは、第2制御部32bから第2演算回路35bに対して送信される第2クロックパルスCp2を取得する。また、第2制御部32bは、第1制御部32aから第1演算回路35aに対して送信される第1クロックパルスCp1を取得する。なお、第1クロックパルスCp1及び第2クロックパルスCp2は、第1制御部32a及び第2制御部32bの通信を通じて取得する信号のうち、モータ20の制御に必要ない信号である。
【0030】
第1制御部32a及び第2制御部32bで実行される相手方の制御部についてのフェイルセーフ制御について説明する。
第1制御部32a及び第2制御部32bは、相手方の制御部との通信を通じて取得する信号に基づいて、相手方の制御部についてのフェイルセーフ制御を実行する。フェイルセーフ制御は、相手方の制御部についての異常を判定する異常判定制御と、相手方の制御部についての異常に対して処置を施す異常時制御とを含んでいる。具体的には、第1制御部32a及び第2制御部32bは、以下の4つの異常を判定することで異常判定制御を実行している。すなわち、4つの異常としては、(a)パルス停止異常、(b)第1マイコン間通信異常、(c)第2マイコン間通信異常、(d)制御部停止異常が挙げられる。(a)パルス停止異常は、相手方の制御部から演算回路に対して送信されるクロックパルスの異常である。(b)第1マイコン間通信異常は、第1マイコン間通信の通信状態や電流指令値等の通信内容についての異常である。(c)第2マイコン間通信異常は、第2マイコン間通信の通信状態や電流指令値等の通信内容についての異常である。(d)制御部停止異常は、(a)~(c)の全てで異常を示す場合の異常であり、制御部が停止していると考えられる異常である。
【0031】
第1制御部32aは、第2クロックパルスCp2に基づいて、パルス停止異常を判定する。具体的には、第1制御部32aは、第2クロックパルスCp2を受信することができない場合や、第2クロックパルスCp2の電圧が高い状態から次の周期の電圧が高い状態までの周期が異常である場合に、パルス停止異常と判定する。第2制御部32bは、第1制御部32aと同様に、上記第2クロックパルスCp2を第1クロックパルスCp1に置き換えた同一の判定条件によって、パルス停止異常を判定する。
【0032】
第1制御部32aは、第1マイコン間通信の通信状態や通信内容に基づいて、第1マイコン間通信異常を判定する。具体的には、第1制御部32aは、第1マイコン間通信を通じて信号が取得できない場合や、通信は成立しているものの第2電流指令値I2*を受信することができない場合や、受信した第2電流指令値I2*が異常である場合に、第1マイコン間通信異常と判定する。第2電流指令値I2*が異常である場合としては、第2電流指令値I2*が異常値である場合や、第2電流指令値I2*の信頼性が低下した場合や、送受信した第2電流指令値I2*のデータの順序が異なる場合等が含まれている。第2制御部32bは、第1制御部32aと同様の判定条件によって、第1マイコン間通信異常を判定する。
【0033】
第1制御部32a及び第2制御部32bは、上記第1マイコン間通信異常の判定と同様の判定条件によって、第2マイコン間通信異常を判定する。
第1制御部32aは、パルス停止異常の判定結果、第1マイコン間通信異常の判定結果、第2マイコン間通信異常の判定結果に基づいて、制御部停止異常を判定する。具体的には、第1制御部32aは、パルス停止異常である旨判定され、かつ第1マイコン間通信異常である旨判定され、かつ第2マイコン間通信異常である旨判定されている場合、第2制御部32bが停止しているとして、制御部停止異常と判定する。第2制御部32bは、第1制御部32aと同様の判定条件によって、制御部停止異常を判定する。
【0034】
第1制御部32aは、これら(a)~(d)の異常を判定した場合、第2制御部32bの異常の原因の解析に用いることができるようにするために、第2制御部32bの異常の判定結果を第1制御部32aのメモリに記録している。また、第2制御部32bは、これら(a)~(d)の異常を判定した場合、第1制御部32aの異常の原因の解析に用いることができるようにするために、第1制御部32aの異常の判定結果を第2制御部32bのメモリに記録している。
【0035】
これら(a)~(d)の異常を判定した結果、第1制御系統Aにモータ20の駆動に関わる制御を継続できない異常が生じていると判定できる場合、異常時制御へと移行する。例えば、第2制御部32bは、第1制御部32aが(a)のパルス停止異常である旨判定した場合、第1制御部32aに対して異常である旨示す信号を送信することで第1制御系統Aによるモータ20への給電の制御を停止し、第2制御系統Bのみによってモータ20への給電を制御する異常時制御へと移行する。また、例えば、第2制御部32bは、第1制御部32aが(d)の制御部停止異常である旨判定した場合、第2制御系統Bのみによってモータ20への給電を制御する異常時制御へと移行する。この場合、第1制御部32aは既に停止していると考えられる。また、例えば、第2制御部32bは、第1制御部32aが(b)の第1マイコン間通信異常である旨判定し、かつ(c)の第2マイコン間通信異常である旨判定した場合、自身の第2制御系統Bによるモータ20への給電の制御を停止する異常時制御へと移行する。なお、この場合、相手方である第1制御部32aも、第2制御部32bが(b)の第1マイコン間通信異常である旨判定し、かつ(c)の第2マイコン間通信異常である旨判定することが想定される。第1制御部32aも第2制御部32bも(a)のパルス停止異常ではないが(b)、(c)のマイコン間通信異常である場合には、第1制御部32a及び第2制御部32bのいずれを停止するのかを設計上決めておく。このように、これら(a)~(d)の異常を判定した結果に応じた各種の異常時制御へと移行する。
【0036】
第1制御部32a及び第2制御部32bの動作開始時の通信及び制御の実行開始タイミングについて説明する。
第1制御部32a及び第2制御部32bは、図示しないイグニッションスイッチ等の車両の始動スイッチがオン操作されることによって、動作開始する。第1制御部32a及び第2制御部32bの動作開始時には、制御部の開始措置が実行される。制御部の開始措置は、各クロックパルスの各演算回路への送信が開始されること、及び各クロックパルスの送信の開始後に第1マイコン間通信及び第2マイコン間通信の通信が開始されることを含んでいる。第1制御部32aは、制御部の開始措置が実行完了した場合、自身の制御の開始の準備ができたとして、当該準備ができたことを示す第1開始準備完了フラグFs1を生成する。すなわち、第1開始準備完了フラグFs1が生成されるのは、第1クロックパルスCp1の送信やマイコン間通信を開始した後であって、フェイルセーフ制御を実行開始する準備が整ったときである。なお、第2制御部32bは、第1制御部32a及び第2制御部32bに異常が生じていなければ、第1開始準備完了フラグFs1が生成される前に、第1クロックパルスCp1を受信し、マイコン間通信を通じて送信される信号を受信することができる。第1制御部32aは、生成した第1開始準備完了フラグFs1を第2制御部32bに対してマイコン間通信により送信する。また、第2制御部32bは、制御部の開始措置が実行完了した場合、自身の制御の開始の準備ができたとして、当該準備ができたことを示す第2開始準備完了フラグFs2を生成する。すなわち、第2開始準備完了フラグFs2が生成されるのは、第2クロックパルスCp2の送信やマイコン間通信を開始した後であって、フェイルセーフ制御を実行開始する準備が整ったときである。なお、第1制御部32aは、第1制御部32a及び第2制御部32bに異常が生じていなければ、第2開始準備完了フラグFs2が生成される前に、第2クロックパルスCp2を受信し、マイコン間通信を通じて送信される信号を受信することができる。第2制御部32bは、生成した第2開始準備完了フラグFs2を第1制御部32aに対してマイコン間通信により送信する。
【0037】
第1制御部32aは、自身が第1開始準備完了フラグFs1を生成するとともに第2制御部32bが生成した第2開始準備完了フラグFs2をマイコン間通信を通じて受信した後、制御を実行開始する。当該制御としては、アシスト制御の他、第2制御部32bについてのフェイルセーフ制御が実行開始される。また、第2制御部32bは、自身が第2開始準備完了フラグFs2を生成するとともに第1制御部32aが生成した第1開始準備完了フラグFs1をマイコン間通信を通じて受信した後、制御を実行開始する。当該制御としては、アシスト制御の他、第1制御部32aについてのフェイルセーフ制御が実行開始される。ここで、第1制御部32a及び第2制御部32bは、第1開始準備完了フラグFs1及び第2開始準備完了フラグFs2の両方が生成された状態に揃うまでは、制御を実行開始しないようにしている。
【0038】
図3に示すように、第1制御部32a及び第2制御部32bの動作開始時には、第1クロックパルスCp1及び第2クロックパルスCp2の通信状態は、これらの送信が行われていない「OFF」の状態から、これらの送信が行われる「ON」の状態に切り替わる。第1クロックパルスCp1及び第2クロックパルスCp2の送信が行われる状態に切り替わった後、第1マイコン間通信及び第2マイコン間通信の通信状態は、通信が行われていない「OFF」の状態から、通信が行われる「ON」の状態に切り替わる。第1マイコン間通信及び第2マイコン間通信の通信が行われる状態に切り替わった後、フェイルセーフ制御の状態は、当該制御が実行されていない「実行しない」の状態から、当該制御が実行される「実行する」の状態に切り替わる。フェイルセーフ制御の状態が「実行しない」の状態から「実行する」の状態に切り替わるのは、自身の制御部が開始準備完了フラグを生成するとともに相手方の制御部が生成した開始準備完了フラグをマイコン間通信を通じて受信したときである。言い換えると、フェイルセーフ制御の状態が「実行しない」の状態から「実行する」の状態に切り替わるのは、第1クロックパルスCp1及び第2クロックパルスCp2の送信や、第1マイコン間通信及び第2マイコン間通信の通信が行われる状態に切り替わった後の、制御部の開始措置が実行完了した後である。このように、本実施形態では、第1クロックパルスCp1及び第2クロックパルスCp2の送信、及び第1マイコン間通信及び第2マイコン間通信の開始後に、フェイルセーフ制御を実行開始している。フェイルセーフ制御が実行される状態に切り替わった後、アシスト制御の状態は、当該制御が実行されていない「実行しない」の状態から、当該制御が実行される「実行する」の状態に切り替わる。
【0039】
第1制御部32a及び第2制御部32bは、図示しないイグニッションスイッチ等の車両の始動スイッチがオフ操作されることによって、動作終了する。第1制御部32a及び第2制御部32bの動作終了時には、制御部の終了措置が実行される。制御部の終了措置は、運転者のステアリング操作をアシストするべき期間の間、アシスト制御を継続し、アシストするべき期間の経過後に徐々にアシスト制御を制限することが含まれている。アシスト制御が全て制限されてアシスト制御が終了した場合、制御部の終了措置が完了する。第1制御部32aは、制御部の終了措置を実行完了した場合、自身の動作終了の準備ができたとして、当該準備ができたことを示す第1終了準備完了フラグFe1を生成する。すなわち、第1終了準備完了フラグFe1が生成されるのは、アシスト制御が終了した後のフェイルセーフ制御を実行終了する準備が整ったときであって、かつ第1クロックパルスCp1の送信やマイコン間通信を終了する前のときである。第1制御部32aは、生成した第1終了準備完了フラグFe1を第2制御部32bに対してマイコン間通信により送信する。また、第2制御部32bは、制御部の終了措置を実行完了した場合、自身の動作終了の準備ができたとして、当該準備ができたことを示す第2終了準備完了フラグFe2を生成する。すなわち、第2終了準備完了フラグFe2が生成されるのは、アシスト制御が終了した後のフェイルセーフ制御を実行終了する準備が整ったときであって、かつ第2クロックパルスCp2の送信やマイコン間通信を終了する前のときである。第2制御部32bは、生成した第2終了準備完了フラグFe2を第1制御部32aに対してマイコン間通信により送信する。第1制御部32aは、自身が第1終了準備完了フラグFe1を生成するとともに第2制御部32bが生成した第2終了準備完了フラグFe2をマイコン間通信を通じて受信した後に、第2制御部32bについてのフェイルセーフ制御を実行終了する。第2制御部32bは、自身が第2終了準備完了フラグFe2を生成するとともに第1制御部32aが生成した第1終了準備完了フラグFe1をマイコン間通信を通じて受信した後に、第1制御部32aについてのフェイルセーフ制御を実行終了する。
【0040】
図3に示すように、第1制御部32a及び第2制御部32bの動作終了時には、制御部の終了措置を実行完了した結果、アシスト制御の状態は、当該制御が実行されている「実行する」の状態から、当該制御が実行されない「実行しない」の状態に切り替わる。アシスト制御の状態が実行されない状態に切り替わった後、フェイルセーフ制御の状態は、当該制御が実行されている「実行する」の状態から、当該制御が実行されない「実行しない」の状態に切り替わる。フェイルセーフ制御の状態が「実行する」の状態から「実行しない」の状態に切り替わるのは、自身の制御部が終了準備完了フラグを生成するとともに相手方の制御部が生成した終了準備完了フラグをマイコン間通信を通じて受信したときである。言い換えると、フェイルセーフ制御の状態が「実行する」の状態から「実行しない」の状態に切り替わるのは、アシスト制御が終了した後の、制御部の終了措置が実行完了した後である。フェイルセーフ制御の状態が実行されない状態に切り替わった後、第1クロックパルスCp1及び第2クロックパルスCp2の通信状態や、第1マイコン間通信及び第2マイコン間通信の通信状態は、これらの通信が行われている「ON」の状態から、通信が行われない「OFF」の状態に切り替わる。第1クロックパルスCp1及び第2クロックパルスCp2の通信状態が「ON」の状態から「OFF」の状態に切り替わるのと、第1マイコン間通信及び第2マイコン間通信の通信状態が「ON」の状態から「OFF」の状態に切り替わるのとは、同じタイミングであってもよいし、前後してもよい。
【0041】
本実施形態の作用を説明する。
比較例として、第1制御部32a及び第2制御部32bのうち先に動作開始した制御部がフェイルセーフ制御を実行開始すると、まだ動作開始していない制御部からマイコン間通信を通じて信号が取得できないことに基づいて、相手方の制御部に異常が発生していると判定するおそれがある。しかし、この場合、マイコン間通信を通じて信号が取得できないのはまだ動作開始していない制御部が存在することに起因するものであって、第1制御部32a及び第2制御部32bのマイコン間通信や第1制御部32a及び第2制御部32bが停止する異常が生じたわけではない。本実施形態では、相手方の制御についてのフェイルセーフ制御を実行開始するのは、第1制御部32a及び第2制御部32bのマイコン間通信を開始した後である。このため、一方の制御部の動作開始が他方の制御部の動作開始よりも早くなったとしても、第1制御部32a及び第2制御部32bの両方のマイコン間通信が開始するまでは、第1制御部32a及び第2制御部32bはフェイルセーフ制御を実行開始しないようにしている。例えば、第1制御部32aの動作開始が第2制御部32bの動作開始よりも早くなることがある。この場合でも、第1制御部32aは、第1制御部32a及び第2制御部32bの両方のマイコン間通信が開始するまで、フェイルセーフ制御を実行開始しないようにしている。これにより、第1制御部32a及び第2制御部32bのうち先に動作開始した制御部が、まだ動作開始していない制御部からマイコン間通信を通じて信号が取得できていないにもかかわらずフェイルセーフ制御を実行開始することを抑えることができる。このため、通信開始前にマイコン間通信を通じて信号が取得できないことに起因して、相手方の制御部に異常が発生していると誤判定することが抑えられる。
【0042】
本実施形態の効果を説明する。
(1)第1制御部32a及び第2制御部32bのマイコン間通信を開始した後にフェイルセーフ制御を実行開始することにより、相手方の制御部についてのフェイルセーフ制御をより適切に実行することができる。
【0043】
(2)第1制御部32aにおいて自身が第1開始準備完了フラグFs1を生成するとともに第2制御部32bから第2開始準備完了フラグFs2を受信した後に、第1制御部32a及び第2制御部32bによるフェイルセーフ制御を実行開始する。これにより、各制御部は、相手方の制御部においても制御の開始が準備できた後に相手方の制御部の異常の判定を実行開始することができる。
【0044】
(3)比較例として、第1制御部32a及び第2制御部32bのうちまだ動作終了していない制御部がフェイルセーフ制御を実行し続けると、先に動作終了した制御部からマイコン間通信を通じて信号が取得できないことに基づいて、相手方の制御部に異常が発生していると判定するおそれがある。しかし、この場合、マイコン間通信が取得できないのは先に動作終了した制御部が存在することに起因するものであって、第1制御部32a及び第2制御部32bのマイコン間通信や第1制御部32a及び第2制御部32bが停止する異常が生じたわけではない。本実施形態では、フェイルセーフ制御を実行終了するのは、第1制御部32a及び第2制御部32bのマイコン間通信を終了する前である。これにより、第1制御部32a及び第2制御部32bのうちまだ動作終了していない制御部が、先に動作終了した制御部からマイコン間通信を通じて信号が取得できないにもかかわらずフェイルセーフ制御を実行し続けることを抑えることができる。このため、通信終了後にマイコン間通信を通じて信号が取得できないことに起因して、相手方の制御部に異常が発生していると誤判定することが抑えられる。
【0045】
(4)第1制御部32a及び第2制御部32bは、自身が終了準備完了フラグを生成するとともに相手方の制御部から終了準備完了フラグを受信した後に、第1制御部32a及び第2制御部32bによるフェイルセーフ制御を実行終了する。これにより、各制御部は、相手方の制御部においても動作終了の準備ができた後にフェイルセーフ制御を実行終了することができる。
【0046】
(5)EPS1を制御対象とする第1制御部32a及び第2制御部32bでは、異常の原因の解析に用いることができるようにするために、異常の判定結果をメモリに記録するようにしている。自動車整備場等へ車両が持ち込まれた際には、メモリに記録された判定結果を用いて異常の原因を解析することができる。しかし、異常の原因を解析する際、判定結果に誤判定した判定結果が存在していると、その解析の精度を向上させることが困難になる。このため、とくに、より精度の高い制御が求められるEPS1を制御対象とする第1制御部32a及び第2制御部32bについて、上記実施形態の構成を採用することは好適である。
【0047】
(6)第1制御部32a及び第2制御部32bは、第1開始準備完了フラグFs1及び第2開始準備完了フラグFs2の両方が生成された状態に揃うまで、フェイルセーフ制御を実行開始しないようにしている。このため、第1制御部32aによるフェイルセーフ制御を実行開始するタイミングと、第2制御部32bによるフェイルセーフ制御を実行開始するタイミングとを近付けることができる。また、第1制御部32a及び第2制御部32bは、第1終了準備完了フラグFe1及び第2終了準備完了フラグFe2の両方が生成された状態に揃うまで、フェイルセーフ制御を実行終了しないようにしている。このため、第1制御部32aによるフェイルセーフ制御を実行終了するタイミングと、第2制御部32bによるフェイルセーフ制御を実行終了するタイミングとを近付けることができる。これにより、第1制御部32a及び第2制御部32bでフェイルセーフ制御が実行される期間を合わせることができて、いずれか一方の制御部でフェイルセーフ制御が実行されない期間が生じることを抑えることができる。このため、例えば、異常の原因の解析の際に、第1制御部32a及び第2制御部32bの両方に記録された判定結果を用いることができ、その解析の精度を向上させることができるようになる。
【0048】
上記実施形態は次のように変更してもよい。また、以下の他の実施形態は、技術的に矛盾しない範囲において、互いに組み合わせることができる。
・上記実施形態では、第1制御部32a及び第2制御部32bは、(a)~(d)の4つの異常を判定したが、判定する異常の種類や判定条件の内容については適宜変更可能である。例えば、判定する異常の種類として、通信内容として電流指令値等の指令値が乖離していることを別個の異常として判定を追加してもよい。
【0049】
・上記実施形態では、第1制御部32a及び第2制御部32bは、(a)~(d)の4つの異常を判定したが、これに限らない。例えば、第1制御部32a及び第2制御部32bは、(d)の1つの異常のみを判定してもよい。
【0050】
・上記実施形態では、第1制御部32a及び第2制御部32bがマイコン間通信を通じて送受信する信号は、電流指令値を示す信号としたが、これに限らない。第1制御部32a及び第2制御部32bがマイコン間通信を通じて送受信する信号は、例えば電流指令値に応じてモータ20から出力されるトルクの指令値であるトルク指令値を示す信号であってもよい。
【0051】
・上記実施形態では、第1制御部32a及び第2制御部32bは、自身の制御部が開始準備完了フラグを生成するとともに相手方の制御部が生成した開始準備完了フラグをマイコン間通信を通じて受信したときに、フェイルセーフ制御の状態を「実行しない」の状態から「実行する」の状態に切り替えたが、これに限らない。第1制御部32a及び第2制御部32bは、自身の制御部が開始準備完了フラグを生成するとともに相手方の制御部が開始準備完了フラグを生成したときに、フェイルセーフ制御の状態を「実行しない」の状態から「実行する」の状態に切り替えるようにしてもよい。
【0052】
・上記実施形態では、第1制御部32a及び第2制御部32bは、自身の制御部が終了準備完了フラグを生成するとともに相手方の制御部が生成した終了準備完了フラグをマイコン間通信を通じて受信したときに、フェイルセーフ制御の状態を「実行する」の状態から「実行しない」の状態に切り替えたが、これに限らない。第1制御部32a及び第2制御部32bは、自身の制御部が終了準備完了フラグを生成するとともに相手方の制御部が終了準備完了フラグを生成したときに、フェイルセーフ制御の状態を「実行する」の状態から「実行しない」の状態に切り替えるようにしてもよい。
【0053】
・上記実施形態において、第1制御部32a及び第2制御部32bは、(a)のパルス停止異常の判定を無くしてもよい。この場合、例えば、第1制御部32a及び第2制御部32bは、マイコン通信の終了前にフェイルセーフ制御を実行終了するとともに、フェイルセーフ制御の実行終了前にクロックパルスの送信を終了してもよい。
【0054】
・上記実施形態では、フェイルセーフ制御の実行開始及び実行終了を規定する際に開始準備完了フラグや終了準備完了フラグを用いたが、例えばタイマーからの信号等を用いてもよく、フェイルセーフ制御の実行開始及び実行終了を規定することができる信号であれば適宜変更可能である。また、通信を終了する際に、フェイルセーフ制御を強制終了するようにしてもよい。
【0055】
・上記実施形態では、第1制御部32a及び第2制御部32bがクロックパルスを送信する演算回路は、回転数情報を生成する演算回路としたが、これに限らない。例えば、演算回路は、第1制御部32a及び第2制御部32bに電力を供給する回路であってもよいし、適宜変更可能である。
【0056】
・上記実施形態では、第1制御部32aと第2制御部32bとの間のマイコン間通信を行うための通信ラインを2つ設けて、2つのマイコン間通信を行ったが、通信ラインを1つ設けて、1つのマイコン間通信を行ってもよいし、通信ラインを3つ以上設けて、3つ以上のマイコン間通信を行ってもよい。
【0057】
・上記実施形態では、第1制御部32a及び第2制御部32bは、アシスト制御を終了した後にフェイルセーフ制御を実行終了し、フェイルセーフ制御の実行終了後に通信を終了するようにしたが、これに限らない。第1制御部32a及び第2制御部32bは、アシスト制御を実行終了した後に通信を終了し、通信の終了後にフェイルセーフ制御を実行終了するようにしてもよい。この場合でも、今回のアシスト制御を実行する期間中においては、相手方の制御部に異常が発生していると誤判定することを抑えることができる。
【0058】
・上記実施形態では、モータ20によってステアリング軸11にアシスト力を付与するEPS1に具体化して示したが、これに限らない。例えば、ラック軸12に平行に配置された回転軸21を有するモータ20によってラック軸12にアシスト力を付与するEPS1に具体化したステアリング装置であってもよい。また、ステアバイワイヤ装置であってもよい。すなわち、モータ20によって操舵機構2に動力を付与するステアリング装置であれば、どのようなものであってもよい。ステアバイワイヤ装置に具体化する場合、ステアバイワイヤ装置の操舵側の制御部及び転舵側の制御部について、上記実施形態の構成を採用してもよい。また、ステアバイワイヤ装置に具体化する場合、ステアバイワイヤ装置の操舵側の制御部を冗長的に設けてこれらの制御部について、上記実施形態の構成を採用してもよいし、転舵側の制御部を冗長的に設けてこれらの制御部について、上記実施形態の構成を採用してもよい。
【0059】
・上記実施形態について、第1制御部32a及び第2制御部32bは、EPS1を制御対象としたが、これに限らず、工作機械等、その制御対象は適宜変更可能である。
・上記実施形態において、制御装置30は、コンピュータプログラムを実行する1つ以上のプロセッサ、あるいは各種処理のうち少なくとも一部の処理を実行する特定用途向け集積回路等の1つ以上の専用ハードウェア回路、あるいは上記プロセッサ及び上記専用ハードウェア回路の組み合わせを含む回路として構成されているコンピュータである。制御装置30を構成する各制御部は、CPU及びメモリを含んでいる。メモリには、RAMやROM等が採用されている。メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコードまたは指令を格納している。メモリ、言い換えるとコンピュータ可読媒体は、汎用または専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体によって構成してもよい。
【符号の説明】
【0060】
1…EPS
20…モータ
30…制御装置
32a,32b…第1、第2制御部
35a,35b…第1、第2演算回路
Cp1,Cp2…第1、第2クロックパルス
Fe1,Fe2…第1、第2終了準備完了フラグ
Fs1,Fs2…第1、第2開始準備完了フラグ
I1*,I2*…第1、第2電流指令値