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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】燃料電池用の積層体
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/96 20060101AFI20231003BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20231003BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20231003BHJP
【FI】
H01M4/96 B
H01M4/86 B
H01M4/86 M
H01M4/96 M
H01M8/10 101
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020089869
(22)【出願日】2020-05-22
(65)【公開番号】P2021184373
(43)【公開日】2021-12-02
【審査請求日】2022-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 努
(72)【発明者】
【氏名】壷阪 健二
【審査官】山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-126427(JP,A)
【文献】特開2016-081630(JP,A)
【文献】特開2012-038479(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86- 4/98
H01M 8/00- 8/0297
H01M 8/08- 8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノード側ガス拡散層、アノード側触媒層、電解質層、カソード側触媒層、及びカソード側ガス拡散層がこの順に積層された、燃料電池用の積層体であって、
前記アノード側ガス拡散層及びカソード側ガス拡散層は、拡散層基材層にマイクロポーラス層が積層された積層体であり、
前記マイクロポーラス層は、炭素粒子と、ポリテトラフルオロエチレンと、酸化セリウムと、を含み、
前記アノード側ガス拡散層における前記酸化セリウムに対する前記ポリテトラフルオロエチレンの質量比が、5.5以上、20未満であり、
前記カソード側ガス拡散層における前記酸化セリウムに対する前記ポリテトラフルオロエチレンの質量比が、20より大きく35以下である
燃料電池用の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用のカソード側ガス拡散層に関する。
【背景技術】
【0002】
水素等のアノードガスと、酸素等のカソードガスとを、化学反応させることによって発電を行う、燃料電池が知られている。
【0003】
燃料電池は、電気的に接続された2つの電極に、それぞれ、水素等のアノードガス(燃料ガス)と酸素等のカソードガス(酸化剤ガス)を供給し、電気化学的に燃料の酸化を起こさせることで、化学エネルギーを電気エネルギーに直接変換する。
【0004】
アノードガスとして水素が供給されたアノード(燃料極)では、下記式(1)の反応が進行する。
→ 2H + 2e ・・・(1)
【0005】
上記式(1)で生じる電子(e)は、外部回路を経由し、外部の負荷で仕事をした後に、カソード(酸化剤極)に到達する。他方で、上記式(1)で生じたプロトン(H)は、水と水和した状態で、電気浸透により、アノードとカソードとに挟まれた電解質膜内を、アノード側からカソード側に移動する。
【0006】
一方、カソードでは、電解質膜を通過した上記式(1)で生じたプロトン(H)と、カソードガスとして供給された酸素と、外部回路を経由した上記式(1)で生じた電子(e)とが、下記式(2)の反応を進行させる。
2H + 1/2O + 2e → HO ・・・(2)
【0007】
したがって、電池全体では下記式(3)に示す化学反応が進行し、起電力が生じて、外部負荷に対して電気的仕事がなされる。
+ 1/2O → HO ・・・(3)
【0008】
このような燃料電池は、通常、電解質膜を一対の電極で挟持した膜電極接合体を基本構造とする単セルを、複数積層して構成されている。中でも、電解質膜として固体高分子電解質膜を用いた固体高分子電解質型燃料電池は、小型化が容易であること、低い温度で作動すること、等の利点を有することから、特にモバイル機器等の携帯用、あるいは電気自動車等の移動体用の電源として期待されている。
【0009】
ここで、固体高分子電解質型燃料電池の単セルの構成としては、例えば、アノード側セパレーター、アノード側ガス拡散層、アノード側触媒層、電解質膜、カソード側触媒層、カソード側ガス拡散層、及びカソード側セパレーターが、この順に積層された積層体が知られている。
【0010】
そして、ガス拡散層は、カーボンペーパーやカーボンクロス等の導電性多孔質の拡散層基材層の表面に、マイクロポーラス層(MPL)が積層された積層体となっている。マイクロポーラス層(MPL)は、拡散層基材層の表面に、材料となるペーストを塗工することで形成される。MPLが形成されたガス拡散層は、優れたガス拡散性を有する。
【0011】
このような燃料電池においては、反応の過程で過酸化水素が生成する場合がある。そして、生成した過酸化水素は、電解質成分であるアイオノマーを分解する。その結果、アイオノマーが主成分である電解質膜や、アイオノマーを成分として含む触媒層を劣化させ、電池の耐久性に問題を生じさせていた。
【0012】
これに対して、燃料電池セルを構成する積層体の材料に、セリウム含有酸化物を添加することが知られている。セリウム含有酸化物は、過酸化水素を分解する触媒としての機能を有するセリウムイオンを発生させる。
【0013】
しかしながら、セリウム含有酸化物は、電極内の酸性雰囲気でイオン化し、その含有層からわずかに溶出する。溶出したセリウムイオンは、電解質膜や触媒層に含まれるアイオノマー中のスルホン酸基(-SO )に吸着し、プロトンの伝導を少しずつ阻害する。このため、燃料電池を長期間使用した際に、発電性能が低下するおそれがあった。
【0014】
そこで、特許文献1においては、ガス拡散層に配置される撥水層を、撥水部材であるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)と、過酸化水素分解触媒となるセリウムイオンを発生させるセリウム含有酸化物(CeO)と、を含むものとし、撥水部材に対するセリウム含有酸化物の質量比を5~20質量%とすることが提案されている。
【0015】
特許文献1に記載の技術は、撥水層を構成する材料において撥水部材(PTFE)の比率を大きくすることで、セリウム含有酸化物(CeO)の水との接触を抑制し、イオン化して溶出することを抑制する。その結果、セリウムイオンに起因するプロトンの伝導阻害を抑制することができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【文献】特開2016-081630号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、本発明者は、特許文献1に記載の技術では、カソードにおいて、生成水に溶解したセリウムイオンによってガス拡散層が親水化して、フラッディングにより出力性能が低下する場合があるとの知見を得た。
【0018】
本発明は、上記の背景に鑑みてなされたものであり、セリウム含有酸化物(CeO)によって、燃料電池の反応の過程で生成する過酸化水素を少なくとも部分的に分解しつつ、生成水に溶解したセリウムイオンによる親水化、及びそれによるフラッディングに起因する出力性能の低下を抑制し、結果として、全体としての性能が改良された燃料電池を実現するための、カソード側ガス拡散層を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
燃料電池の出力性能は、抵抗過電圧、濃度過電圧、及び活性過電圧によって決まるところ、本発明者は、セリウム含有酸化物(CeO)の含有割合を相対的に減少させれば、僅かな抵抗過電圧の増加があった場合でも、濃度過電圧を大きく低減でき、結果として、燃料電池全体としての性能を改良できることに注目し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は、以下のとおりである。
【0020】
燃料電池用のカソード側ガス拡散層であって、
前記カソード側ガス拡散層は、拡散層基材層にマイクロポーラス層が積層された積層体であり、
前記マイクロポーラス層は、炭素粒子と、ポリテトラフルオロエチレンと、酸化セリウムと、を含み、
前記酸化セリウムに対する前記ポリテトラフルオロエチレンの質量比が、20より大きい、
燃料電池用のカソード側ガス拡散層。
【発明の効果】
【0021】
本発明の燃料電池用のカソード側ガス拡散層によれば、比較的少量のセリウム含有酸化物(CeO)を用いることによって、燃料電池の反応の過程で生成する過酸化水素を少なくとも部分的に分解しつつ、生成水に溶解したセリウムイオンによる親水化、及びそれによるフラッディングに起因する出力性能の低下を抑制することができる。
【0022】
したがって、本発明の燃料電池用のカソード側ガス拡散層によれば、全体として劣化が抑制された、燃料電池を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】一実施形態に係る燃料電池用の積層体の断面図である。
図2】酸化セリウムに対するポリテトラフルオロエチレンの質量比について、本発明と従来技術の範囲を示す図である。
図3】カソード側マイクロポーラス層における酸化セリウムに対するポリテトラフルオロエチレンの質量比と出力性能との関係を示すグラフである。
図4】アノード側マイクロポーラス層における酸化セリウムに対するポリテトラフルオロエチレンの質量比と出力性能との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について詳述する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるのではなく、種々変形して実施することができる。
【0025】
《燃料電池用の積層体》
本発明の燃料電池用のカソード側ガス拡散層を説明するにあたり、燃料電池を構成する積層体について説明する。
【0026】
一般的な燃料電池セルに格納される積層体の構成としては、例えば、アノード側セパレーター、アノード側ガス拡散層、アノード側触媒層、電解質膜、カソード側触媒層、カソード側ガス拡散層、及びカソード側セパレーターが、この順に積層された積層体が挙げられる。
【0027】
本発明の燃料電池用のカソード側ガス拡散層は、燃料電池セルを構成する積層体のカソード側のセパレータと触媒層との間に配置されるものである。
【0028】
図1は、一実施形態に係る燃料電池用の積層体の断面図である。一実施形態に係る積層体100は、アノード側拡散層基材層11及びアノード側マイクロポーラス層12が積層されたアノード側ガス拡散層10、アノード側触媒層15、電解質膜30、カソード側触媒層25、並びに、カソード側拡散層基材層21及びカソード側マイクロポーラス層22が積層されたカソード側ガス拡散層20が、この順に積層された積層体である。
【0029】
図1に示される積層体100においては、アノード側及びカソード側それぞれにおいて、ガス拡散層と電解質膜の間に触媒層が存在している。そして、アノード側及びカソード側それぞれにおいて、ガス拡散層におけるマイクロポーラス層が、触媒層に面している。
【0030】
図1に示される積層体100においては、本発明の燃料電池用のカソード側ガス拡散層は、カソード側拡散層基材層21及びカソード側マイクロポーラス層22が積層されたカソード側ガス拡散層20となる。
【0031】
本発明の燃料電池用のカソード側ガス拡散層は、マイクロポーラス層(MPL)における酸化セリウムに対するポリテトラフルオロエチレンの質量比を、特定の範囲とすることにより、燃料電池の反応の過程で生成する過酸化水素を少なくとも部分的に分解しつつ、生成水に溶解したセリウムイオンによる親水化、及びそれによるフラッディングに起因する出力性能の低下を抑制し、結果として、全体としての性能が改良された燃料電池を実現することができる。
【0032】
<ガス拡散層>
本発明は、カソード側のガス拡散層に関する。ガス拡散層は、供給される反応ガスを拡散させて均一にし、燃料電池の単セルとした場合に、隣接する触媒層にガスを行き渡らせる機能を有する。
【0033】
本発明においてガス拡散層は、拡散層基材層にマイクロポーラス層が積層された積層体となっている。そして、燃料電池に組み込まれる際には、マイクロポーラス層が、隣接する触媒層に面するように配置される。
【0034】
(拡散層基材層)
ガス拡散層における拡散層基材層は、燃料電池の単セルとした場合に、隣接する触媒層に、反応ガスを供給する多孔質の層である。拡散層基材層は、ガス透過性を有するとともに、導電性を有する材料で構成されることが好ましい。
【0035】
本発明においては、拡散層基材層として一般的に用いられる材料であれば、特に限定されることなく用いることができ、例えば、カーボンペーパー若しくはカーボンクロス等のカーボン多孔質体、又は金属メッシュ若しくは発泡金属等の金属多孔質体等を挙げることができる。なお、カーボンペーパー若しくはカーボンクロス等のカーボン多孔質体は、例えば、炭素繊維と、焼成により炭化する樹脂等のバインダー等から形成されていてもよい。
【0036】
なお、本発明において、ガス拡散層を構成する拡散層基材層の細孔径、密度、厚み等は、特に限定されるものではなく、形成される燃料電池の要求性能に応じて、適宜設定することができる。
【0037】
(マイクロポーラス層(MPL))
ガス拡散層におけるマイクロポーラス層は、拡散層基材層の上に存在し、燃料電池の単セルとした場合に、触媒層と隣接する層である。燃料電池用の積層体を構成するガス拡散層にMPLが形成されることにより、燃料電池セルにおけるガス拡散性が向上する。
【0038】
マイクロポーラス層(MPL)の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、拡散層基材層の表面に、MPL形成用スラリーをダイコータ等によって塗工し、あるいは、MPL形成用ペーストを塗工ヘッドから吐出して塗工し、その後、乾燥及び焼成する方法が挙げられる。
【0039】
本発明のガス拡散層におけるマイクロポーラス層は、炭素粒子と、撥水性樹脂であるポリテトラフルオロエチレンと、過酸化水素分解触媒となるセリウムイオンを発生させる酸化セリウム(CeO)と、を含む。したがって、MPL形成用スラリー、又はMPL形成用ペーストは、これらを必須の成分として含む組成物となる。
【0040】
炭素粒子としては、例えば、カーボンブラック、グラフェン、又は黒鉛等の粒子等を挙げることができる。
【0041】
炭素粒子の平均一次粒子径は、25nm~70nmであってよい。炭素粒子の平均一次粒子径は、25nm以上、45nm以上、又は65nm以上であってよく、70nm以下、60nm以下、又は50nm以下であってよい。
【0042】
なお、炭素粒子の平均一次粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)や走査型電子顕微鏡(SEM)等の電子顕微鏡を用いて、無作為に選択した100個以上の粒子について定方向径(Feret径)を測定し、得られた測定値を算術平均した値である。
【0043】
本発明の燃料電池用のカソード側ガス拡散層は、そのマイクロポーラス層(MPL)に、構成材料として、酸化セリウム及びポリテトラフルオロエチレンが含まれる。そして、酸化セリウムに対するポリテトラフルオロエチレンの質量比は、20より大きい。
【0044】
カソード側のマイクロポーラス層(MPL)における、酸化セリウムに対するポリテトラフルオロエチレンの質量比は、25以上、又は30以上であってもよく、40以下、又は35以下であってもよい。
【0045】
カソード側のマイクロポーラス層(MPL)における、酸化セリウムに対するポリテトラフルオロエチレンの質量比が、20より大きければ、燃料電池の反応の過程で生成する過酸化水素を少なくとも部分的に分解しつつ、生成水に溶解したセリウムイオンによる親水化、及びそれによるフラッディングに起因する出力性能の低下を抑制することができる。
【0046】
図2は、酸化セリウムに対するポリテトラフルオロエチレンの質量比について、本発明と、従来技術である特許文献1に記載された範囲とを示す図である。
【0047】
図2における範囲Aは、特許文献1に記載された、酸化セリウムに対するポリテトラフルオロエチレンの質量比である。特許文献1に記載された撥水層においては、撥水部材に対するセリウム含有酸化物の質量比が、5~20質量%である。したがって、セリウム含有酸化物(本願では酸化セリウム)に対する撥水部材(本願ではポリテトラフルオロエチレン)の質量比に換算すると、範囲Aで示される5~20となる。
【0048】
一方で、本発明である燃料電池用のカソード側ガス拡散層は、マイクロポーラス層における、酸化セリウムに対するポリテトラフルオロエチレンの質量比が、20より大きいことから、特許文献1に記載された範囲との重複は存在していない。
【0049】
更に、本発明の燃料電池用のカソード側ガス拡散層とともに用いられる、アノード側ガス拡散層のマイクロポーラス層については、酸化セリウムに対するポリテトラフルオロエチレンの質量比が、5.5以上であることが好ましい。
【0050】
アノード側のガス拡散層のマイクロポーラス層において、酸化セリウムに対するポリテトラフルオロエチレンの質量比が、5.5未満の範囲のときは、撥水性が不足し、それによって生成水に溶解したセリウムイオンによる親水化で、燃料電池のセル抵抗が増加することを抑制することが困難となる場合がある。
【0051】
アノード側のガス拡散層のマイクロポーラス層において、酸化セリウムに対するポリテトラフルオロエチレンの質量比は、6.0以上、又は6.5以上であってもよい。
【0052】
また、アノード側ガス拡散層のマイクロポーラス層においては、酸化セリウムに対するポリテトラフルオロエチレンの質量比が、20未満であることが好ましい。
【0053】
本発明である燃料電池用のカソード側ガス拡散層は、マイクロポーラス層における、酸化セリウムに対するポリテトラフルオロエチレンの質量比が、20より大きいが、同時に、アノード側のガス拡散層のマイクロポーラス層についても20以上となるときは、過酸化水素の分解性能が不足し、それにより抵抗過電圧の増加が大きくなる場合がある。
【0054】
アノード側のガス拡散層のマイクロポーラス層において、酸化セリウムに対するポリテトラフルオロエチレンの質量比は、18以下、又は16以下であってもよい。
【0055】
なお、本発明において、ガス拡散層を構成するマイクロポーラス層(MPL)の厚みは、特に限定されるものではなく、形成される燃料電池の要求性能に応じて、適宜設定することができる。例えば、20μm以上であってもよい。
【0056】
<その他の層>
本発明の燃料電池用のカソード側ガス拡散層は、固体高分子電解質型燃料電池の単セルを構成する層の一層となる。一般に、固体高分子電解質型燃料電池の単セルとなる積層体は、アノード側セパレーター、アノード側ガス拡散層、アノード側触媒層、電解質膜、カソード側触媒層、カソード側ガス拡散層、及びカソード側セパレーターが、この順に積層された構成となっている。
【0057】
(触媒層)
本発明の燃料電池用のカソード側ガス拡散層とともに燃料電池を構成する触媒層としては、特に限定されるものではなく、公知の触媒層を適用することができる。
【0058】
アノード側触媒層は、反応ガスである水素(H)を、プロトン(H)と電子(e)に分解する機能を有する。一方で、カソード側触媒層は、プロトン(H)と電子(e)と酸素(O)から、水(HO)を生成する機能を有する。
【0059】
アノード側及びカソード側の触媒層は、同様の材料で形成することができる。例えば、白金や白金合金等の触媒を担持した導電性の担体が用いられ、更に具体的には、例えば、導電性物質として機能するカーボンブラック等の炭素粒子に触媒が担持された、触媒担持炭素粒子と、上記した電解質膜の構成成分である、イオン交換基によりプロトン伝導性を発現する電解質成分と、から構成される層が挙げられる。触媒担持炭素粒子が、プロトン伝導性を有するアイオノマー等の電解質成分により被覆されて形成された層であってもよい。
【0060】
燃料電池を構成する触媒層の厚みは、特に限定されるものではなく、形成される燃料電池の要求性能に応じて、適宜設定することができる。
【0061】
(電解質膜)
本発明の燃料電池用のカソード側ガス拡散層とともに燃料電池を構成する電解質膜は、電子及びガスの流通を阻止するとともに、アノードで発生したプロトン(H)を、アノード側触媒層からカソード側触媒層に移動させる機能を有する。
【0062】
電解質膜としては、特に限定されるものではなく、燃料電池に用いられる電解質膜として公知の膜を用いることができる。電解質膜として固体高分子電解質膜を用いる固体高分子電解質型燃料電池の場合には、例えば、パーフルオロスルホン酸(PFSA)アイオノマー等のスルホン酸基を含む高分子電解質樹脂で形成された、イオン伝導性を有するイオン交換膜が挙げらる。なお、スルホン酸基に限定されるものではなく、例えば、リン酸基やカルボン酸基等、他のイオン交換基(電解質成分)を含む膜であってもよい。
【0063】
市販されているイオン交換膜を適用してもよく、パーフルオロスルホン酸(PFSA)アイオノマーなどの固体高分子材料である高分子電解質樹脂で形成されており、イオン伝導性を有する高分子膜を電解質とするイオン交換膜からなる。スルホン酸基を含むフッ素樹脂系イオン交換膜の市販品としては、例えば、デュポン社のナフィオン(登録商標)、旭化成(株)のアシプレックス(登録商標)、旭硝子(株)のフレミオン(登録商標)等が挙げられる。
【0064】
燃料電池を構成する電解質膜の厚みは、特に限定されるものではなく、形成される燃料電池の要求性能に応じて、適宜設定することができる。電解質膜の厚みは、例えば、10μm以下であってもよい。
【実施例
【0065】
以下、実験結果を示して、本発明を更に詳細に説明する。
【0066】
《実験例1》カソード側マイクロポーラス層における酸化セリウムに対するポリテトラフルオロエチレンの質量比と出力性能との関係
実験例1においては、カソード側ガス拡散層のマイクロポーラス層における酸化セリウムに対するポリテトラフルオロエチレンの質量比を変化させて、6つの燃料電池を作製した。得られた6つの燃料電池について、出力性能を評価した。
【0067】
<燃料電池の作製>
(カソード側ガス拡散層の作製)
炭素粒子と、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)と、酸化セリウム(CeO)と、を含むカソード側マイクロポーラス層(MPL)形成用スラリーを準備した。このとき、酸化セリウムに対するポリテトラフルオロエチレンの質量比が互いに異なるように、組成の異なる6種類のスラリーとした。
【0068】
多孔質基材として、6枚のカーボンペーパーを準備した。それぞれのカーボンペーパーの表面に、上記で作製したカソード側マイクロポーラス層(MPL)形成用スラリーを、ダイコータによって塗工し、乾燥の後に焼成することで、多孔質基材層にマイクロポーラス層(MPL)が積層された、マイクロポーラス層における酸化セリウムに対するポリテトラフルオロエチレンの質量比が互いに異なるカソード側ガス拡散層を作製した。
【0069】
(アノード側ガス拡散層の作製)
多孔質基材として、6枚のカーボンペーパーを準備した。炭素粒子と、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)と、酸化セリウム(CeO)と、を含むマイクロポーラス層(MPL)形成用スラリーを準備し、ダイコータによってカーボンペーパーに塗工し、乾燥の後に焼成することで、多孔質基材層にマイクロポーラス層(MPL)が積層されたアノード側ガス拡散層を6枚作製した。
【0070】
(積層体の作製)
上記で得られたカソード側ガス拡散層及びアノード側ガス拡散層を用いて、アノード側ガス拡散層/アノード側触媒層/電解質膜/カソード側触媒層/カソード側ガス拡散層が、この順に積層された積層体を構成し、一対のセパレータで挟み込むことで、カソード側マイクロポーラス層における酸化セリウムに対するポリテトラフルオロエチレンの質量比が互いに異なる、6種類の燃料電池を作製した。
【0071】
なお、アノード側触媒層及びカソード側触媒層には、それぞれに隣接するガス拡散層のマイクロポーラス層(MPL)が面するように配置した。
【0072】
<出力性能の評価>
作製した6種類の燃料電池について、耐久試験後の出力性能を評価した。耐久試験としては、一定の低電流密度で電流を掃引しながら、使用年数を想定した回数、温度の上げ下げを繰り返す操作を実施した。耐久試験後、燃料電池に反応ガスを流して電流を掃引したときの、最大出力点における出力を評価した。
【0073】
カソード側マイクロポーラス層における酸化セリウムに対するポリテトラフルオロエチレンの質量比が20の場合を基準とし、得られた結果を、相対値として図3に示す。
【0074】
図3は、カソード側マイクロポーラス層における酸化セリウムに対するポリテトラフルオロエチレンの質量比と、出力性能との関係を示す図である。グラフの横軸は、カソード側マイクロポーラス層における酸化セリウムに対するポリテトラフルオロエチレンの質量比であり、グラフの縦軸は、得られた燃料電池の出力性能(%)を示す。
【0075】
図3より、カソード側マイクロポーラス層における酸化セリウムに対するポリテトラフルオロエチレンの質量比が20を超える範囲であれば、出力性能の高い燃料電池が得られることが判る。
【0076】
《実験例2》アノード側マイクロポーラス層における酸化セリウムに対するポリテトラフルオロエチレンの質量比と出力性能との関係
実験例2においては、アノード側ガス拡散層のマイクロポーラス層における酸化セリウムに対するポリテトラフルオロエチレンの質量比を変化させて、6つの燃料電池を作製した。得られた6つの燃料電池について、出力性能を評価した。
【0077】
<燃料電池の作製>
(アノード側ガス拡散層の作製)
炭素粒子と、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)と、酸化セリウム(CeO)と、を含むアノード側マイクロポーラス層(MPL)形成用スラリーを準備した。このとき、酸化セリウムに対するポリテトラフルオロエチレンの質量比が互いに異なるように、組成の異なる6種類のスラリーとした。
【0078】
多孔質基材として、6枚のカーボンペーパーを準備した。それぞれのカーボンペーパーの表面に、上記で作製したアノード側マイクロポーラス層(MPL)形成用スラリーを、ダイコータによって塗工し、乾燥の後に焼成することで、多孔質基材層にマイクロポーラス層(MPL)が積層された、マイクロポーラス層における酸化セリウムに対するポリテトラフルオロエチレンの質量比が互いに異なるアノード側ガス拡散層を作製した。
【0079】
(カソード側ガス拡散層の作製)
多孔質基材として、6枚のカーボンペーパーを準備した。炭素粒子と、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)と、酸化セリウム(CeO)と、を含むマイクロポーラス層(MPL)形成用スラリーを準備し、ダイコータによってカーボンペーパーに塗工し、乾燥の後に焼成することで、多孔質基材層にマイクロポーラス層(MPL)が積層されたカソード側ガス拡散層を6枚作製した。
【0080】
(積層体の作製)
上記で得られたアノード側ガス拡散層及びカソード側ガス拡散層を用いて、アノード側ガス拡散層/アノード側触媒層/電解質膜/カソード側触媒層/カソード側ガス拡散層が、この順に積層された積層体を構成し、一対のセパレータで挟み込むことで、アノード側マイクロポーラス層における酸化セリウムに対するポリテトラフルオロエチレンの質量比が互いに異なる、6種類の燃料電池を作製した。
【0081】
なお、アノード側触媒層及びカソード側触媒層には、それぞれに隣接するガス拡散層のマイクロポーラス層(MPL)が面するように配置した。
【0082】
<出力性能の評価>
作製した6種類の燃料電池について、上記の実験例1と同様にして、耐久試験後の出力性能を評価した。
【0083】
アノード側マイクロポーラス層における酸化セリウムに対するポリテトラフルオロエチレンの質量比が5.5の場合を基準とし、得られた結果を、相対値として図4に示す。
【0084】
図4は、アノード側マイクロポーラス層における酸化セリウムに対するポリテトラフルオロエチレンの質量比と、出力性能との関係を示す図である。グラフの横軸は、アノード側マイクロポーラス層における酸化セリウムに対するポリテトラフルオロエチレンの質量比であり、グラフの縦軸は、得られた燃料電池の出力性能(%)を示す。
【0085】
図3より、アノード側マイクロポーラス層における酸化セリウムに対するポリテトラフルオロエチレンの質量比が5.5以上の範囲であれば、出力性能の高い燃料電池が得られることが判る。
【符号の説明】
【0086】
100 積層体
10 アノード側ガス拡散層
11 アノード側拡散層基材層
12 アノード側マイクロポーラス層
15 アノード側触媒層
20 カソード側ガス拡散層
21 カソード側拡散層基材層
22 カソード側マイクロポーラス層
25 カソード側触媒層
30 電解質膜
図1
図2
図3
図4