(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】車両ユーザ支援システム、及び車両ユーザ支援装置
(51)【国際特許分類】
G08G 1/16 20060101AFI20231003BHJP
G01C 21/34 20060101ALI20231003BHJP
A61B 5/16 20060101ALI20231003BHJP
G06Q 40/08 20120101ALI20231003BHJP
【FI】
G08G1/16 F
G01C21/34
A61B5/16 120
G06Q40/08
(21)【出願番号】P 2020123061
(22)【出願日】2020-07-17
【審査請求日】2022-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西本 崇
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 賢治
(72)【発明者】
【氏名】山本 啓
(72)【発明者】
【氏名】山崎 隆太
【審査官】佐々木 佳祐
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-123448(JP,A)
【文献】特開2020-067847(JP,A)
【文献】国際公開第2018/123055(WO,A1)
【文献】特開2002-245253(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00-99/00
G01C 21/00-25/00
A61B 5/16
G06Q 40/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両への乗車の前におけるユーザの音声に基づいて、前記ユーザの精神状態を推定する推定手段と、
推定された前記ユーザの精神状態の情報に基づいて、前記車両に乗車した前記ユーザを支援する処理を行う支援手段を備え
、
前記精神状態は、前記ユーザが前記車両を運転する際にネガティブな運転影響要因となる精神状態であり、
前記支援手段は、前記ユーザに、前記精神状態に応じた香り、光または音声を発出して、前記ユーザの前記精神状態の変化を促す処理を行い、
推定した前記精神状態が興奮度の高いものである場合に、前記支援手段は、リラックスを促す香り、光または音声を発出した後に、覚醒を促す香り、光または音声を発出する処理を行う、ことを特徴とする車両ユーザ支援システム。
【請求項2】
請求項1に記載の車両ユーザ支援システムにおいて、
前記ユーザの音声は、前記ユーザが携帯する携帯端末を通じて取得される、ことを特徴とする車両ユーザ支援システム。
【請求項3】
請求項1に記載の車両ユーザ支援システムにおいて、
さらに、前記ユーザのスケジュールに関するデータを取得するデータ取得手段を備え、
前記支援手段は、前記精神状態及び前記データに基づいて、前記ユーザを支援する処理を行う、ことを特徴とする車両ユーザ支援システム。
【請求項4】
請求項1に記載の車両ユーザ支援システムにおいて、
さらに、前記ユーザが置かれた環境に関するデータを取得するデータ取得手段を備え、
前記支援手段は、前記精神状態及び前記データに基づいて、前記ユーザを支援する処理を行う、ことを特徴とする車両ユーザ支援システム。
【請求項5】
請求項3または4に記載の車両ユーザ支援システムにおいて、
前記支援手段は、前記精神状態及び前記データに基づいて、前記車両のナビゲーションの処理を行う、ことを特徴とする車両ユーザ支援システム。
【請求項6】
請求項1に記載の車両ユーザ支援システムにおいて、
前記支援手段は、前記精神状態に基づいて、前記ユーザの運転用の保険における保険料を算出するための基礎データを生成する処理を行う、ことを特徴とする車両ユーザ支援システム。
【請求項7】
車両への乗車の前におけるユーザの音声に基づいて、前記ユーザの精神状態を推定する推定手段と、
推定された前記ユーザの精神状態の情報に基づいて、前記車両に乗車した前記ユーザを支援する処理を行う支援手段を備え、
前記精神状態は、前記ユーザが前記車両を運転する際にネガティブな運転影響要因となる精神状態であり、
前記支援手段は、前記ユーザに、前記精神状態に応じた香り、光または音声を発出して、前記ユーザの前記精神状態の変化を促す処理を行い、
前記支援手段は、さらに、前記ユーザの前記精神状態が変化した後の新たな精神状態に基づいて、前記ユーザの運転用の保険における保険料を算出するための基礎データを生成する処理を行う、ことを特徴とする車両ユーザ支援システム。
【請求項8】
車両への乗車の前におけるユーザの音声から推定された前記ユーザの精神状態の情報に基づいて、前記車両に乗車した前記ユーザを支援する処理を行う支援手段を備え
、
前記精神状態は、前記ユーザが前記車両を運転する際にネガティブな運転影響要因となる精神状態であり、
前記支援手段は、前記ユーザに、前記精神状態に応じた香り、光または音声を発出して、前記ユーザの前記精神状態の変化を促す処理を行い、
推定した前記精神状態が興奮度の高いものである場合に、前記支援手段は、リラックスを促す香り、光または音声を発出した後に、覚醒を促す香り、光または音声を発出する処理を行う、ことを特徴とする車両ユーザ支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に乗車するユーザを支援する車両ユーザ支援システム、及び車両ユーザ支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両において、運転者の精神状態の情報を取得し、運転者への情報提供、あるいは動作制御を行う技術が知られている。
【0003】
下記特許文献1には、携帯電話を用いてハンズフリーで通話する運転者の音声を取得するなどして、音声から運転者の精神状態(感情)を推定することが記載されている。車両では、推定した精神状態に応じて、例えば、リラックスを促すメッセージ、音楽、香りなどを出している。
【0004】
下記特許文献2には、運転者の脳波等の生体情報によって、運転者の状態を判定することが記載されている。
【0005】
下記特許文献3には、車両を運転する運転者の精神状態を推定して、推定結果に基づいて車両の保険料を設定することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-070966号公報
【文献】特開2002-056500号公報
【文献】特開2002-245253号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
車両では、走行を開始した段階から、安全な運転を行うことが望まれる。このため、走行開始段階におけるユーザの精神状態を推定することができれば、ユーザの支援可能性が拡がることになる。
【0008】
しかしながら、車両に乗車する前後には、ユーザは身体を動かす必要があり、ユーザの姿勢、視点、心拍数などは乱れる。このため、ユーザの姿勢、視点、心拍数等の情報から、ユーザの精神状態を推定することは難しい。また、車両のユーザは、乗車した後に、必ずしも会話をするとは限らない。したがって、車両に乗車したユーザの音声を取得して、ユーザの精神状態を推定することが不可能な場合もある。
【0009】
本発明の目的は、車両に乗車したユーザに対し、速やかに当該ユーザの精神状態に基づく支援を開始することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明にかかる車両ユーザ支援システムは、車両への乗車の前におけるユーザの音声に基づいて、前記ユーザの精神状態を推定する推定手段と、推定された前記ユーザの精神状態の情報に基づいて、前記車両に乗車した前記ユーザを支援する処理を行う支援手段を備え、前記精神状態は、前記ユーザが前記車両を運転する際にネガティブな運転影響要因となる精神状態であり、前記支援手段は、前記ユーザに、前記精神状態に応じた香り、光または音声を発出して、前記ユーザの前記精神状態の変化を促す処理を行い、推定した前記精神状態が興奮度の高いものである場合に、前記支援手段は、リラックスを促す香り、光または音声を発出した後に、覚醒を促す香り、光または音声を発出する処理を行う。
【0011】
本発明の一態様においては、前記ユーザの音声は、前記ユーザが携帯する携帯端末を通じて取得される。
【0012】
本発明の一態様においては、さらに、前記ユーザのスケジュールに関するデータを取得するデータ取得手段を備え、前記支援手段は、前記精神状態及び前記データに基づいて、前記ユーザを支援する処理を行う。
【0013】
本発明の一態様においては、さらに、前記ユーザが置かれた環境に関するデータを取得するデータ取得手段を備え、前記支援手段は、前記精神状態及び前記データに基づいて、前記ユーザを支援する処理を行う。
【0014】
本発明の一態様においては、前記支援手段は、前記精神状態及び前記データに基づいて、前記車両のナビゲーションの処理を行う。
【0018】
本発明の一態様においては、前記支援手段は、前記精神状態に基づいて、前記ユーザの運転用の保険における保険料を算出するための基礎データを生成する処理を行う。
【0019】
本発明にかかる車両ユーザ支援システムは、車両への乗車の前におけるユーザの音声に基づいて、前記ユーザの精神状態を推定する推定手段と、推定された前記ユーザの精神状態の情報に基づいて、前記車両に乗車した前記ユーザを支援する処理を行う支援手段を備え、前記精神状態は、前記ユーザが前記車両を運転する際にネガティブな運転影響要因となる精神状態であり、前記支援手段は、前記ユーザに、前記精神状態に応じた香り、光または音声を発出して、前記ユーザの前記精神状態の変化を促す処理を行い、前記支援手段は、さらに、前記ユーザの前記精神状態が変化した後の新たな精神状態に基づいて、前記ユーザの運転用の保険における保険料を算出するための基礎データを生成する処理を行う。
【0020】
本発明にかかる車両ユーザ支援装置は、車両への乗車の前におけるユーザの音声から推定された前記ユーザの精神状態の情報に基づいて、前記車両に乗車した前記ユーザを支援する処理を行う支援手段を備え、前記精神状態は、前記ユーザが前記車両を運転する際にネガティブな運転影響要因となる精神状態であり、前記支援手段は、前記ユーザに、前記精神状態に応じた香り、光または音声を発出して、前記ユーザの前記精神状態の変化を促す処理を行い、推定した前記精神状態が興奮度の高いものである場合に、前記支援手段は、リラックスを促す香り、光または音声を発出した後に、覚醒を促す香り、光または音声を発出する処理を行う。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、車両に乗車する前におけるユーザの音声に基づいて精神状態を分析するため、車両に乗車したユーザに対し、速やかに精神状態に基づく支援を実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】実施形態にかかる車両ユーザ支援システムの装置構成を示す図である。
【
図2】車両ユーザ支援システムの機能構成を示すブロック図である。
【
図4】ナビゲーションを行う例を示すフローチャートである。
【
図6】香り等を放出する例を示すフローチャートである。
【
図8】保険料算出基礎データを生成する例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、図面を参照しながら、実施形態について説明する。説明においては、理解を容易にするため、具体的な態様について示すが、これらは実施形態を例示するものであり、他にも様々な実施形態をとることが可能である。
【0025】
(1)車両ユーザ支援システムの装置構成
図1は、実施形態にかかる車両ユーザ支援システム10のハードウエア構成の例を示すブロック図である。車両ユーザ支援システム10には、スマートフォン20と、サーバ40と、車両50に搭載された車載システム60とが含まれる。また、
図1には、インターネットなどの通信ネットワーク80も図示している。
【0026】
スマートフォン20は、車両50に乗車するユーザ(運転者であっても運転者ではない乗員であってもよい)が使用する携帯端末である。スマートフォン20には、プロセッサ22、メモリ24、通信回路26、マイク28、スピーカ30、タッチパネル32が含まれる。
【0027】
プロセッサ22は、中央演算装置、グラフィカル演算装置などの演算機能を備えた装置である。スマートフォン20には、複数のプロセッサ22が設けられる場合があるが、
図1では、象徴的に一つのプロセッサ22を示している。
【0028】
メモリ24は、半導体などを利用して形成された記憶装置である。スマートフォン20には、複数のメモリ24が設けられる場合があるが、
図1では、象徴的に1つのメモリ24のみを示している。メモリ24には、オペレーティングシステム(OS)、アプリケーションプログラム(アプリ)などのソフトウエアが記憶される。このソフトウエアに従って、プロセッサ22、メモリ24及び他の構成を制御することで、スマートフォン20が動作する。
【0029】
通信回路26は、外部の装置と、無線通信または有線通信を行うために設けられている。通信回路26は、通信ネットワーク80を介して、サーバ40、車載システム60、及び図示を省略した他のスマートフォンなどに接続し通信を行う。また、通信回路26は、例えば、短距離無線通信または有線ケーブルによって、直接、車載システム60に通信することもできる。
【0030】
マイク28は、ユーザの発する声などを電気信号に変換する装置である。マイク28は、例えば、ユーザがスマートフォン20の電話機能を利用して通話を行う場合、あるいは、スマートフォン20のAI(人口知能)に呼びかけを行う場合などに使用される。
【0031】
スピーカ30は、電気信号を音に変換する装置である。電話機能における相手方音声の出力、AIからユーザへの呼びかけ音声の出力、音楽の出力などに利用される。
【0032】
タッチパネル32は、入力機能を備えたディスプレイである。タッチパネル32は、スマートフォン20のグラフィカルユーザインタフェースとして利用される。タッチパネル32には、アプリに従った画像表示も行われる。
【0033】
サーバ40は、例えば、PC(パーソナルコンピュータ)などのコンピュータを利用して構築され、通信ネットワーク80に接続された装置である。サーバ40には、スマートフォンと同様に、プロセッサ42、メモリ44、通信回路46などを備える。また、サーバ40は、スマートフォン20と同様に、OS、アプリなどによって動作を制御される。
【0034】
車両50は、ユーザが乗車して走行する乗り物である。車両50は、エンジンまたはモータなどの原動機と、原動機が回転駆動する車輪を備えており、自走することができる。車両50は、典型的には、運転者たるユーザの運転操作の下で走行する。しかし、車両50は、例えば、自動運転モードを備え、車両50に搭載された装置またはサーバ40に搭載された装置の制御の下で、自動運転されてもよい。
【0035】
車載システム60は、車両50に搭載された装置類である。車載システム60には、通信装置62、ECU64、乗車センサ66、タッチパネル68、マイク70、ナビゲーション装置72、オーディオ機器74、室内ライト76及び香り放出器78が含まれる。
【0036】
通信装置62は、通信ネットワーク80に無線接続して、スマートフォン20、サーバ40などと通信を行うための装置である。また、通信装置62は、直接、スマートフォン20と接続することもできる。
【0037】
ECU64は、エレクトリックコントロールユニットの略であり、車両50に搭載されたコンピュータを意味する。ECU64には、プロセッサ、メモリなどが含まれており、OS、アプリなどによって制御される。車両50には、複数のECU64が設けられる場合もある。また、ECU64は、本実施形態で説明する制御の他に、加速、減速、操舵などの車両の運転制御なども行っている。
【0038】
乗車センサ66は、検出手段の例であり、車両50にユーザが乗車したことを検出するセンサである。乗車センサ66は、例えば、シート付近の人の存在を検出する赤外線センサ、あるいは、シートに設けられた荷重センサなどによって構成することができる。あるいは、ユーザのスマートフォン20の位置等を検出することで、ユーザの乗車を検出してもよい。ユーザが運転者である場合には、ユーザによる車両50の操作(例えばイグニッションスイッチまたはパワースイッチをオンにする操作)によってユーザの乗車を検出するものであってもよい。
【0039】
タッチパネル68は、例えば、インストルメントパネルに設けられた入力機能付きのディスプレイである。タッチパネル68には、車両50の各種装置を操作するボタンが表示されて操作ができる他、ナビゲーション装置72による地図表示なども行われる。
【0040】
マイク70は、車両50に乗車したユーザの音声を捉えて電気信号に変換する装置である。さらに、マイク70は、デジタル信号への変換を行う機能を備える場合もある。
【0041】
オーディオ機器74は、スピーカを備えており、音声を出力する。音声には、人の声、動物の声、音楽(音楽には人の声が含まれていなくてもよい)、AIによる人を模した声など様々な音あるいは声が含まれる。オーディオ機器74は、ユーザをリラックスさせる音声、あるいは、覚醒させる音声などを出力することができる。リラックスさせる音声の例としては、比較的小音量の音声、比較的ゆっくり話す声、比較的リズムが遅い音楽、環境音楽などが考えられる。また、覚醒させる音声としては、比較的大音量の音声、比較的速く話す声、比較的リズムが速い音楽などが考えられる。また、ユーザへの呼びかけ声なども、ユーザを覚醒すると考えられる。
【0042】
室内ライト76は、例えば、車両50の天井、ピラー、インストルメントパネル、ドア、あるいは床などに設けられている。室内ライト76は、車両50の室内を直接的にまたは間接的に照らすことにより、ユーザに視覚的な刺激を与える。室内ライト76は、ユーザをリラックスさせる照明、あるいは、ユーザを覚醒させる照明などを行うことができる。照明の態様は様々に実施可能であるが、例えば、間接照明、比較的暗い光、あるいは、暖色系(波長が長いオレンジなど)の光は、ユーザをリラックスさせる効果が高いと考えられる。また、ユーザをリラックスさせるためには、光の点滅が無いまたは少ない方がよいと考えられる。他方、例えば、直接照明、比較的明るい照明、寒色系(白色あるいは波長が短い青など)の照明、点滅が行われる照明などは、ユーザを覚醒させる傾向にあると考えられる。
【0043】
香り放出器78は、車両50の室内に嗅覚を刺激する微小物質を放出する装置である。香り放出器78は、例えば、微小物質を香水の形態で保持し、香水を室内に噴霧することで、香りを放出する。噴霧器の配置により、または、エアコンが作る空気流を利用することにより、微小物質の流れ、及び、放出範囲を制御することも可能である。香り放出器78は、ユーザをリラックスさせる香り、覚醒させる香りなどを放出することができる。
【0044】
なお、以上の説明した構成は一例であり、車両ユーザ支援システム10は、他のハードウエア構成をとることもできる。たとえば、サーバ40を使用せず、スマートフォン20と車載システム60のみによって構成することも可能である。また、車載システム60におけるECU64を使用せず、スマートフォン20またはサーバ40によって、香り放出器78等を制御するようにしてもよい。
【0045】
(2)車両ユーザ支援システムの機能構成
図2は、車両ユーザ支援システム10の機能構成を示すブロック図である。車両ユーザ支援システム10は、乗車前音声取得部100、乗車後音声取得部102、ユーザ乗車認識部104、精神状態分析部106、スケジュール・環境データ取得部108、車両ユーザ支援制御部110及び保険データ処理部120を備える。これらは、
図1に示したハードウエアをソフトウエアで制御することにより形成されている。また、車両ユーザ支援システム10には、
図1で示したナビゲーション装置72、オーディオ機器74、室内ライト76、香り放出器78が含まれる。
【0046】
乗車前音声取得部100は、スマートフォン20のマイク28を用いて形成されている。ユーザは、スマートフォン20を用いて音声通話、あるいは、AIへの話しかけなどを行う。乗車前音声取得部100は、入力された音声を電気信号に変換した後、デジタル化して音声データとして記憶する。記憶は、スマートフォン20で行ってもよいし、サーバ40または車載システム60で行ってもよい。乗車前音声取得部100は、随時、音声データを新しいものに更新する。乗車前音声取得部100では、例えば、常に最新の10分間程度、あるいは5分間程度の音声データを保持する。
【0047】
乗車後音声取得部102は、ユーザが車両50に乗車した後に発声した音声をデジタル化して音声データ取得する。乗車後音声取得部102は、スマートフォン20のマイクを用いて形成してもよいし、車両50のマイク70を用いて形成してもよい。スマートフォン20を用いた場合には、ハードウエアの観点からは、乗車前音声取得部100と乗車後音声取得部102は特段区別がつかないことになる。
【0048】
ユーザ乗車認識部104は、乗車センサ66を用いて形成されており、ユーザが車両50に乗車したことを検出する。乗車以前の音声を取得するのが乗車前音声取得部100であり、乗車以降の音声を取得するのが乗車後音声取得部102となる。なお、ユーザが車両50に乗車する過程では、ドアを開けて、シートに座り、ドアを閉める動作が行われる。したがって、乗車前と乗車後との時間的境界を厳密に定義することは難しい。しかし、少なくとも、乗車前にはドアを開ける前の時間が含まれ、乗車後にはドアを閉めた後の時間が含まれるものとする。また、乗車後の取得される音声データは、車両50の速度計などの情報に基づいて、走行開始前と、走行開始後に分類することもできる。
【0049】
精神状態分析部106は、推定手段の例であり、乗車前音声取得部100が取得した音声データに基づいて、ユーザの精神状態を分析し、精神状態のデータを出力する。音声から精神状態を分析する手法は様々なものを用いることができる。一例としては、ディープラーニングなどの学習アルゴリズムを挙げることができる。また、精神状態とは、その時点におけるユーザの心理的な傾向をいう。例えば、喜んでいる状態、悲しんでいる状態、怒っている状態、イライラしている状態、驚いている状態などが挙げられる。精神状態とは、心理状態、あるいは感情と言い換えることもできる。
【0050】
精神状態分析部106は、例えば、ユーザの精神状態がそのユーザの平常時の状態からずれている傾向及び大きさを分析することができる。すなわち、音声データが取得された時点の精神状態が、平常時の精神状態からどうずれているか(これを「平常時と異なる精神状態」と呼ぶことにする)を分析することができる。また、精神状態分析部106は、ユーザの精神状態が、多くの人の平均状態からずれている傾向及び大きさを分析することができる。すなわち、音声データが取得された時点の精神状態が、一般人の平均的な精神状態からどうずれているか(これを「一般人と異なる精神状態」と呼ぶことにする)を分析することができる。車両ユーザ支援システム10では、平常時と異なる精神状態、または、一般人と異なる平均状態の一方または両方を取り扱うことができる。もちろん、車両ユーザ支援システム10では、この他にも、様々な精神状態を取り扱うことが可能である。
【0051】
精神状態は、多かれ少なかれ、車両の運転に影響を与える。特に、ユーザが車両を安全に運転する上で支障となる可能性があるものを、ネガティブな運転影響要因となる精神状態と呼ぶことにする。ネガティブな運転影響要因となる精神状態には、例えば、興奮状態、イライラ状態、注意散漫状態、眠気状態などが含まれる。興奮状態とは、興奮して冷静な判断に支障を生じる状態をいう。イライラ状態とは、自己または他者へのいら立ちがあり、攻撃的な感情を持った精神状態をいう。注意散漫状態とは、なんらかの要因で、意識が集中できない状態をいう。また、眠気状態とは、眠たさを感じている状態をいう。こうした各状態は必ずしも独立的なものではなく、ユーザの精神状態は複合的に各状態を示すことがある。
【0052】
精神状態分析部106は、スマートフォン20を用いて構築することも可能であるし、車両50のECU64を用いて構築することも可能である。また、サーバ40を用いて構築されてもよい。もちろん、スマートフォン20、ECU64、サーバ40のうち2以上の装置が連携する形で構築されてもよい。
【0053】
スケジュール・環境データ取得部108は、データ取得手段の例であり、ユーザのスケジュールのデータまたはユーザが置かれた環境に関するデータを取得する。ユーザのスケジュールのデータは、例えば、スマートフォン20から取得することができる。また、例えば、スマートフォン20を介して、通信ネットワーク80に接続されたクラウドサーバからスケジュールデータを取得してもよい。同時に、スケジュール・環境データ取得部108は、年月日時または曜日など、カレンダーまたは時刻についてのデータを取得する。
【0054】
ユーザが置かれた環境に関するデータとは、天気、気温、位置などの情報をいう。天気、気温などの情報は、通信ネットワーク80を介して、気象情報サイトにアクセスすることで取得可能である。あるいは、車両50に設けられたセンサから天気、気温の情報を取得してもよい。位置の情報は、例えば、車両50またはスマートフォン20が備えるGNSS(Global Navigation Satellite System/全球測位衛星システム)などから取得することができる。
【0055】
車両ユーザ支援制御部110は、支援手段の例であり、精神状態分析部106が分析した精神状態に基づいて、車両50内のユーザに働きかけをする制御処理を行う。車両ユーザ支援制御部110には、判定基準データ112と、対応制御部114が設けられている。判定基準データ112は、精神状態に応じて実施する事項が設定されたデータである。判定基準データ112の具体例については後で説明する。
【0056】
対応制御部114は、判定基準データ112に基づいて、精神状態に応じた処理の実行制御を行う。
図1に示した例では、対応制御部114は、保険データ処理部120に保険データに関する処理の実行を指示することができる。また、対応制御部114は、ナビゲーション装置72、オーディオ機器74、室内ライト76及び香り放出器78に対しても処理の実行を指示することができる。
【0057】
車両ユーザ支援制御部110は、スマートフォン20のみを用いて構築されてもよいし、サーバ40のみを用いて構築されてもよいし、車両50のECU64のみを用いて構築されてもよい。また、車両ユーザ支援制御部110は、スマートフォン20とサーバ40とが連携して構築されてもよいし、スマートフォン20とECU64とが連携して構築されてもよいし、サーバ40とECU64とが連携して構築されてもよい。さらに、車両ユーザ支援制御部110は、スマートフォン20、ECU64、及びサーバ40が連携して構築されてもよい。
【0058】
保険データ処理部120は、支援手段の例であり、分析された精神状態の情報を用いて、保険料算出基礎データを生成する処理を行う。保険データ処理部120には、データ収集部122、保険料算出基礎データ124、データ送信部126が設けられている。
【0059】
データ収集部122は、対応制御部114の指示の下、精神状態についてのデータを収集し、保険料算出基礎データ124として保存する。
【0060】
保険料算出基礎データ124は、ユーザが加入する車両運転のための保険について、保険料算出に用いるためのデータである。一般に、車両50を運転するユーザの精神状態がネガティブな運転影響要因を含まない場合、さらには良好である場合には、車両50による事故の発生確率が低くなると考えられる。そこで、精神状態を分析したデータに基づいて、保険料算出基礎データ124が構築される。
【0061】
保険料算出基礎データ124として使われる精神状態についてのデータとしては、乗車前音声取得部100が取得した音声データを採用することができる。この場合の保険料算出基礎データ124は、ユーザが車両50に乗車する前において、ユーザの精神状態がネガティブな運転影響要因を含むか否かに基づいて、保険料を算出する場合に利用される。
【0062】
保険料算出基礎データ124として使われる精神状態についてのデータとしては、乗車後音声取得部102が取得した音声データを採用することもできる。この場合の保険料算出基礎データ124は、ユーザが車両50に乗車した後の段階におけるユーザの精神状態がネガティブな運転影響要因を含むか否かに基づいて、保険料を算出する場合に利用される。したがって、対応制御部114が、ナビゲーション装置72、オーディオ機器74、室内ライト76または香り放出器78を用いてユーザの精神状態を改善した効果が、保険料算出基礎データ124に反映される。
【0063】
データ送信部126は、サーバ40に保険料算出基礎データ124を送信する。送信は、定期的に行われてもよいし、例えば、サーバ40から指示があった場合に行われてもよい。
【0064】
保険データ処理部120は、スマートフォン20のアプリとして構築することも可能であるし、車両50のECU64に構築することも可能である。また、サーバ40に構築されてもよい。もちろん、スマートフォン20、ECU64、サーバ40のうち2以上の装置が連携する形で構築されてもよい。また、保険データ処理部120には、保険料算出アルゴリズムに従って、保険料を算出する機能を備えていてもよい。
【0065】
ナビゲーション装置72、オーディオ機器74、室内ライト76及び香り放出器78は、支援手段の例であり、
図1を参照して上述した機能を備える。これらの装置は、対応制御部114に制御されて、ユーザの精神状態を改善するために使用される。なお、ナビゲーション装置72、オーディオ機器74または室内ライト76に代えて、スマートフォン20のナビゲーション機能、オーディオ機能またはライト機能を使用することも可能である。また、ナビゲーション装置72、オーディオ機器74、室内ライト76及び香り放出器78の他にも、ユーザの精神状態を改善させる装置を導入してもよい。一例としては、車両50のシートを振動させて、ユーザの精神状態を改善させる装置が挙げられる。
【0066】
(3)精神状態を改善するナビゲーションの提案
図3及び
図4を参照して、車両ユーザ支援システム10がナビゲーションを行う態様について説明する。
図3は、
図2に示した判定基準データ112の一例であり、
図4は車両ユーザ支援システム10の動作の例を示すフローチャートである。
【0067】
図3に示した判定基準データでは、A~Fの項目に分類されており、A~Fにはそれぞれ「判定基準」と「実施項目」が表形式で設定されている。また、表の右には、「実施対象」欄が設けられている。実施対象欄に「〇」がつけられたもののみが、実際に実施対象となる。
図3の例では、A~Fの全てが、実施対象欄に〇をつけられており、実施対象となっている。Aにはイライラ状態、Bには興奮状態、Cには注意散漫状態、Dには眠気状態、Eにはリラックス状態、Fには愉快状態が、それぞれ設定されている。
【0068】
Aの判定基準の欄には、「イライラ状態>基準値の場合」が設定されている。ここでは、精神状態が複数段階の数値で表現されることを想定しており、同じく数値で表現された基準値と比較される。イライラ状態が基準値よりも大きい場合には、実施項目の欄に設定された事項が実施される。
【0069】
Aの実施項目欄には、A-1、A-2、A-3の3つの実施項目が記載されている。このうち、A-1のみが、実施対象欄に〇がつけられて、実際の実施項目として設定されている。
【0070】
A-1は、ナビゲーションの実施について設定したものである。具体的には、イライラ状態を解消するルート、休憩スポットを提案すること、また、休憩スポットは、晴天の場合は屋外、雨天の場合は屋内を設定することが記載されている。晴天か雨天かは、
図2に示したスケジュール・環境データ取得部からの情報により判定される。
【0071】
図4のフローチャートは、この判定基準データを利用した場合における車両ユーザ支援システム10の動作の流れを示している。
図4の例では、まず、ユーザが、車外にて、スマートフォン20を持って通話を行っていることを想定している。ユーザは、イライラしており、表情にもイライラした精神状態が表れている。車両ユーザ支援システム10では、スマートフォン20のマイク28を利用した乗車前音声取得部100がユーザの乗車前の音声を取得し、音声データとして保存する(S10)。
【0072】
続いて、ユーザは、車両に乗車する。乗車は、例えば、通話終了後、10分以内に行われることを想定している。通話終了後、5分以内、3分以内、または1分以内に、乗車が行われることも考えられる。あるいは、通話をしながら、車両に乗車することも想定される。いずれの場合にも、ユーザ乗車認識部104が、ユーザの車両50への乗車を検出する(S12)。そして、精神状態分析部106が、保存された音声データを対象に、少なくとも乗車前の時間の音声を含む音声データを対象に、精神状態の分析を行う(S14)。精神状態の分析では、さらに、ユーザを撮影した動画像または静止画像、あるいは、ユーザの心拍数などの生体情報を取得して、分析精度を高めてもよい。
【0073】
続いて、対応制御部114が、
図3に例示した判定基準データを参照して、判定を行う(S16)。
図4に示した例では、
図3の判定基準データにおけるAの「イライラ状態>基準値」に基づくイライラしているか否かの判定についてのみ示している。ただし、実際の判定にあたっては、A~Fの複数の項目に該当することも考えられる。この場合には、例えば、該当する複数の実施項目について実行してもよいし、最も顕著な精神状態の実施項目についてのみ実施してもよい。
【0074】
イライラしている場合には、
図3の判定基準データのA-1「ナビゲーションの実施」が実行される。そこで、スケジュール・環境データ取得部108が、ユーザのスケジュールデータ及び環境データを取得する(S18)。
【0075】
対応制御部114では、ユーザのスケジュールと整合する範囲で、イライラ状態を解消するルートあるいは休憩スポットを提案するように、ナビゲーション装置72に指示を行う。そして、ナビゲーション装置72では、条件に適合したルートをユーザに提示する(S20)。イライラ状態を解消するルートの例としては、複数ルートが考えられる場合に、景観がよいルート、通行する車両または歩行者が少ないルート、信号等による停車回数が少ないルート、通行履歴からしてあまり通行したことがないルート、利用しやすい休憩スポットがあるルートなどが挙げられる。
【0076】
休憩が必要な距離の場合、休憩スポットとしては、晴天の場合には屋外のスポットを提案し、雨天の場合には屋内のスポットに立ち寄るルートを設定する。屋外のスポットの例としては、景観のよい休憩スポット、樹木などが多い休憩スポット、または、過去の履歴に基づいてユーザが好んでいると考えられる店舗もしくは類似した店舗などを挙げることができる。また、屋内のスポットの例としては、駐車エリアからトイレ等の施設まで濡れることなく移動可能な休憩スポット、または、駐車エリアが広く乗り降りが容易な休憩スポットなどを挙げることができる。
【0077】
ナビゲーション装置72では、選択したルート及び休憩スポットを、例えば、車両50の走行前の段階で、ユーザにディスプレイあるいは音声を通じて伝達する。そして、ユーザは、走行を開始する(S22)。走行開始時点で、ユーザは、ナビゲーション装置72の提案を聞いて、イライラが抑制される。また、実際に提案されたルートを走行することで、イライラがさらに抑制される。あるいは、ナビゲーション装置72は、選択したルート及び休憩スポットを、車両50の走行前の段階ではユーザに伝達せず、走行開始後にユーザに伝達してもよい。この場合にも、ユーザは、選択肢を伝達された段階で、または、実際に伝達されたルートを走行することで、イライラが抑制される。
図4の例では、ステップS22の段階で、ユーザの表情は穏やかになっており、イライラが抑制ないしは解消されている。
【0078】
他方、ステップS16において、イライラしていないと判断された場合には、通常のナビゲーションの提案が行われ(S24)、走行が開始される(S26)。
【0079】
以上の説明においては、ナビゲーションのルートまたは休憩スポットの提案によって、ユーザの精神状態を改善するものとした。ナビゲーションを活用した精神状態の改善は、この他にも可能である。一例としては、ナビゲーションを行う音声を変えることで、精神状態を改善する態様が挙げられる。変更の対象となる音声としては、ナビゲーションを行う人を模した声、ナビゲーションで用いる効果音などを例示することができる。イライラ状態を改善するための音声の変更の一例としては、音声を低くする(周波数を下げる)態様が挙げられる。さらに、ナビゲーション装置72における音声の変更については、次に示すオーディオ機器74による実施形態を導入することも可能である。
【0080】
(4)精神状態を改善するために香り、音または光を用いる例
図5及び
図6を参照して、車両ユーザ支援システム10が香りの放出等を行う態様について説明する。
図5は、
図2に示した判定基準データ112の一例を示す図である。
図6は、車両ユーザ支援システム10の動作の例を示すフローチャートである。
【0081】
図5に示した判定基準データは、
図3に示した項目Bについて詳細に示すものである。項目Bには、判定基準として、「興奮状態>基準値の場合」が設定されている。実施項目は、B-1、B-2、B-3の3つに分かれている。B-1は最初に香りを放出する設定であり、B-2は最初に音声を出力する設定であり、B-3は最初に室内ライトを点灯する設定である。
【0082】
項目B-1は、さらに3つの小項目B-1-1、B-1-2、B-1-3に分かれている。B-1-1は、リラックスさせる香りを放出した後に、覚醒させる香りを放出する設定である。B-1-2は、リラックスさせる香りを放出した後に、覚醒させる音声を出力する設定である。B-1-3は、リラックスさせる香りを放出した後に、覚醒させる室内ライトを点灯する設定である。
【0083】
同様にして、B-2とB-3も3つの小項目に分かれている。B-2-1は、リラックスさせる音声を出力した後に、覚醒させる音声を放出する設定である。B-2-2は、リラックスさせる音声を出力した後に、覚醒させる香りを出力する設定である。B-2-3は、リラックスさせる音声を放出した後に、覚醒させる室内ライトを点灯する設定である。B-3-1は、リラックスさせる室内ライトを点灯した後に、覚醒させる室内ライトを点灯する設定である。B-3-2は、リラックスさせる室内ライトを点灯した後に、覚醒させる香りを出力する設定である。B-3-3は、リラックスさせる室内ライトを点灯した後に、覚醒させる音声を出力する設定である。
【0084】
図5に示した例では、実施対象の〇が付与されたB-1-2が、実際に実施する実施項目として設定されている。なお、例えば、B-1-2に加えて、B-1-1も実施対象とするなど、矛盾しない範囲で、複数の実施項目を実施することも可能である。
【0085】
図6に示したフローチャートは、
図5に判定基準データに基づく処理の流れを示している。
図6の処理では、ステップS10、S12、S14の過程は、
図4に示したステップS10、S12、S14の過程と同様にして行われる。続いて、興奮状態>基準値か否かが判定される(S30)。
【0086】
基準値よりも興奮度が高い興奮状態にある場合、香り放出等の処理が実施される(S32)。すなわち、
図5の判定基準データにおいて設定されたB-1-2の項目が実施される。対応制御部114は、まず、香り放出器78に指示を行って、リラックスさせる種類の香りを放出させる。これにより、ユーザの興奮が抑制または解消される。ユーザをリラックスさせる時間は、例えば、1分程度または30秒程度と長くとることも可能である。また、10秒程度または5秒程度と短く設定することも可能である。あるいは、ユーザが、車両50のパーキングブレーキを解除するまで、シフトレバーをパーキングからドライブ等に変更するまでといったように、走行開始のための所定の操作が行われるまで、リラックスさせてもよい。
【0087】
続いて、対応制御部114は、ユーザを覚醒させる音声を出力するように、オーディオ機器74に指示を行う。オーディオ機器では、例えば、比較的大きな音量の音声を出すことでユーザを覚醒させる。あるいは、テンポの速い音楽、ユーザへの呼びかけの声などによって、ユーザを覚醒させる。これによって、一端はリラックスしたユーザは、集中力を高めて運転を行うことができる(S34)。
【0088】
なお、覚醒にあたっては、ユーザが予期しない刺激を与えることも効果的である。そのため、毎回異なる音声を出力するようにしてもよい。また、
図5に示した実施事項を固定する設定に代えて、B-1~B-3に含まれる小項目の1つまたは2つ以上を、ユーザが予期できないように不規則に選択して実行してもよい。
【0089】
他方、ステップS30においてユーザが興奮状態に無いと判断した場合には、対応制御部114は特段の処理を行わない。ユーザは、運転をするにあたって良好な精神状態にあり、車両50を走行させる(S36)。
【0090】
(5)保険料算出基礎データを生成する例
図7及び
図8を参照して、車両ユーザ支援システム10が、保険料算出基礎データを取得する態様について説明する。
図7は、
図2に示した保険料算出基礎データの一例を示す図である。
図8は、車両ユーザ支援システム10の動作の例を示すフローチャートである。
【0091】
図7に示した判定基準データには、ユーザ名の欄が設けられ、ユーザ毎に記録が取られている。
図7の例では、ユーザ名XXXXXXとYYYYYYについて記録が行われている。各ユーザの保険料算出基礎データには、「日時」欄と、「運転開始直前の精神状態」欄と、「運転中の精神状態」欄が設けられている。
【0092】
図7の例では、2020年4月26日14時20分からの運転では、運転開始前の精神状態は良好であり、運転中の精神状態も良好であることが記録されている。また、2020年4月26日16時38分からの運転では、運転開始前の精神状態は興奮状態にあったが、運転中の精神状態は良好であったことが記録されている。
【0093】
ここで、精神状態が良好とは、例えば、精神状態がネガティブな運転影響要因を含まないことをいう。なお、ネガティブな運転影響要因を含まない場合において、精神状態を多段階に分類して、記録するようにしてもよい。一例としては、精神状態を1、2、3の3段階に分類し、1をネガティブな運転影響要因を含む場合、3をポジティブな運転影響要因を含む場合とし、2をその中間の精神状態とする態様が挙げられる。ポジティブな運転影響要因とは、ネガティブな運転影響要因とは反対方向の要因であり、例えば、周囲の車両、歩行者等に気を配りながら運転するのに適した精神状態の要因として定義できる。具体的には、集中度合いが高い精神状態、落ち着きの度合いが高い精神状態、覚醒の度合いの高い精神状態などが挙げられる。
【0094】
図7に示した保険料算出基礎データにおいて、良好な精神状態が多い場合には、運転における安全の度合いが高いと推定される。このため、保険会社では、保険料算出基礎データを入手し、良好な精神状態が多いユーザの保険料をディスカウントすることが考えられる。また、精神状態が良好な場合に保険料がディスカウントされる制度が導入された場合、ユーザに、精神状態が良好な状態で車両50の運転を行おうというモチベーションを生み出すことにもなる。
【0095】
また、
図7に示したように、車両ユーザ支援システム10を導入した車両50では、乗車前の精神状態にネガティブな運転影響要因が含まれていても、香り放出等によって、精神状態が改善されることが期待される。したがって、ユーザが良好な精神状態で運転する比率が高まるため、ユーザの保険料がディスカウントされる可能性も高まることが期待できる。
【0096】
図8のフローチャートは、保険料算出基礎データを記録する場合の処理の流れを示している。
図8において、ステップS10、S12,S14は、
図4及び
図6の場合と同様である。すなわち、乗車前のユーザの音声が取得され(S10)、ユーザの車両乗車が検出され(S12)、ユーザの乗車前の音声データに対する精神状態の分析(S14)が行われる。
【0097】
続いて、対応制御部114によって、精神状態にネガティブな運転影響要因が含まれるか否かが判定される(S40)。判定は、例えば、
図3に示した判定基準データ112に従って行われる。そして、ネガティブな運転影響要因がある場合には、香り放出等が行われ(S42)、走行が開始される(S44)。走行開始後には、例えば、乗車後音声取得部102によって取得される音声データを対象に精神状態が分析される(S46)。分析結果は、データ収集部122によって保険料算出基礎データ124として記録される(S48)。
【0098】
他方、ステップS40においてネガティブな運転影響要因がない場合には、対応制御部114は特段の処理を行わない。この場合にも、走行開始(S50)された後には、乗車後音声取得部102が取得した音声データに基づく精神状態分析が行われ(S52)、保険料算出基礎データ124として記録される。記録された保険料算出基礎データ124は、適当なタイミングで、サーバ40に送信される。
【0099】
(6)その他
以上に示した例では、車両50のユーザとしては、主として運転者を想定した。しかし、車両ユーザ支援システム10は、運転者以外の乗員たるユーザにも適用可能である。運転者以外のユーザの精神状態が良好になるように促すことで、そのユーザ自身の満足度が高まることが期待できる。また、運転者以外のユーザの精神状態が改善されることで、運転者たるユーザの運転安全性も高まることが期待できる。また、例えば、車両ユーザ支援システム10がタクシーに適用された場合には、乗客たるユーザの精神状態を改善することで、運転者と乗客とのトラブル発生を抑制または防止することが期待できる。
【0100】
以上に示した例では、ネガティブな運転影響要因が含まれる精神状態を改善することを念頭に説明を行った。しかし、車両ユーザ支援制御部110は、ポジティブな運転影響要因が含まれる精神状態を維持または制御するために用いられてもよい。例えば、イライラとは反対に落ち着きがある精神状態を維持するため、集中力を高める効果がある香りの放出、音声の出力、光の点灯などを行う態様を挙げることができる。
【符号の説明】
【0101】
10 車両ユーザ支援システム、20 スマートフォン、22 プロセッサ、24 メモリ、26 通信回路、28 マイク、30 スピーカ、32 タッチパネル、40 サーバ、42 プロセッサ、44 メモリ、46 通信回路、50 車両、60 車載システム、62 通信装置、64 ECU、66 乗車センサ、68 タッチパネル、70 マイク、72 ナビゲーション装置、74 オーディオ機器、76 室内ライト、78 香り放出器、80 通信ネットワーク、100 乗車前音声取得部、102 乗車後音声取得部、104 ユーザ乗車認識部、106 精神状態分析部、108 スケジュール・環境データ取得部、110 車両ユーザ支援制御部、112 判定基準データ、114 対応制御部、120 保険データ処理部、122 データ収集部、124 保険料算出基礎データ、126 データ送信部。