(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 20/50 20160101AFI20231003BHJP
B60K 6/445 20071001ALI20231003BHJP
B60W 10/06 20060101ALI20231003BHJP
F02D 45/00 20060101ALI20231003BHJP
F02N 11/08 20060101ALI20231003BHJP
B60L 50/16 20190101ALI20231003BHJP
【FI】
B60W20/50
B60K6/445 ZHV
B60W10/06 900
F02D45/00 360A
F02N11/08 X
B60L50/16
(21)【出願番号】P 2020165341
(22)【出願日】2020-09-30
【審査請求日】2022-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】東 雄大
【審査官】井古田 裕昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-107650(JP,A)
【文献】特開2004-176545(JP,A)
【文献】特開2015-074300(JP,A)
【文献】特開2007-246050(JP,A)
【文献】特開2011-111893(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 20/50
B60K 6/445
B60W 10/06
F02D 45/00
F02N 11/08
B60L 50/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関が搭載された車両に適用される制御装置であって、
前記車両の外部の予測気温を取得する外気温取得処理と、
前記内燃機関には、当該内燃機関を潤滑するための潤滑油が供給され、
前記内燃機関が予め定められた運転状態であるときの前記潤滑油の油圧及び油温に基づいて、前記潤滑油の粘度を推定する粘度推定処理と、
前記外気温取得処理で取得した前記予測気温が、前記粘度に基づく所定の閾値を下回ったことを条件に、前記内燃機関に始動不良が生じる可能性があると判定する始動判定処理と、
前記始動判定処理において始動不良が生じる可能性があると判定した場合に、前記内燃機関の始動不良を通知するための通知信号を出力する通知処理と、
前記内燃機関の次回の始動予測時刻を取得する時刻取得処理と、
を実行し、
前記外気温取得処理では、前記時刻取得処理で取得した前記始動予測時刻における前記車両の外部の気温を前記予測気温として取得する
車両の制御装置。
【請求項2】
前記車両は、当該車両外の装置と通信可能な通信装置を備えており、
将来の前記車両の外部の気温に関する外気温データを、前記通信装置を通じて取得するデータ取得処理を実行し、
前記外気温取得処理では、前記データ取得処理で取得した前記外気温データに基づいて前記始動予測時刻における前記予測気温を推定することにより、当該予測気温を取得する
請求項
1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記車両は、前記車両の外気温を測定する外気温センサを備えており、
前記外気温取得処理では、前記外気温センサから取得した過去一定期間の外気温の推移に基づいて、前記始動予測時刻における前記予測気温を推定することにより、当該予測気温を取得する
請求項
1に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記粘度推定処理で推定した前記粘度が大きいほど、前記閾値を大きな値に設定する閾値設定処理と、を実行する
請求項1~請求項
3のいずれか一項に記載の車両の制御装置。
【請求項5】
前記粘度推定処理では、前記潤滑油が交換されてからの前記車両の走行距離が大きいほど、前記潤滑油の粘度を大きな値に推定する
請求項1~請求項
3のいずれか一項に記載の車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載の車両は、内燃機関を備えている。また、車両は、車両の制御装置を備えている。制御装置は、内燃機関を停止させていた無使用時間と、現在の外気温とを取得する。そして、制御装置は、内燃機関の無使用時間及び現在の外気温に基づいて、内燃機関において始動不良が発生する可能性を推定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の制御装置では、推定を行うその時点において仮に内燃機関を始動させた場合に始動不良が発生する可能性を推定する。しかし、内燃機関の始動不良に対し、事前の対策を講じるためには、将来的な始動不良の予測ができることが好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明は、内燃機関が搭載された車両に適用される制御装置であって、前記車両の外部の予測気温を取得する外気温取得処理と、前記内燃機関には、当該内燃機関を潤滑するための潤滑油が供給され、前記内燃機関が予め定められた運転状態であるときの前記潤滑油の油圧及び油温に基づいて、前記潤滑油の粘度を推定する粘度推定処理と、前記外気温取得処理で取得した前記予測気温が、前記粘度に基づく所定の閾値を下回ったことを条件に、前記内燃機関に始動不良が生じる可能性があると判定する始動判定処理と、前記始動判定処理において始動不良が生じる可能性があると判定した場合に、前記内燃機関の始動不良を通知するための通知信号を出力する通知処理と、を実行する車両の制御装置である。
【0006】
上記構成によれば、予測温度が、内燃機関に始動不良が生じる可能性がある温度である場合には、その旨を通知するための通知信号を出力する。したがって、この通知信号を受けることで将来的な始動不良の予測をできる。よって、予め始動不良を防止するための対策等をすることも可能である。
【0007】
上記構成において、前記内燃機関の次回の始動予測時刻を取得する時刻取得処理を実行し、前記外気温取得処理では、前記時刻取得処理で取得した前記始動予測時刻における前記車両の外部の気温を前記予測気温として取得する車両の制御装置であってもよい。
【0008】
上記構成によれば、次回の内燃機関の始動予測時刻に基づいた予測気温によって内燃機関の始動不良の可能性の有無を判定する。したがって、実際に内燃機関が始動される可能性の高い時刻での内燃機関の始動時の始動不良の可能性を判定できる。
【0009】
上記構成において、前記車両は、当該車両外の装置と通信可能な通信装置を備えており、将来の前記車両の外部の気温に関する外気温データを、前記通信装置を通じて取得するデータ取得処理を実行し、前記外気温取得処理では、前記データ取得処理で取得した前記外気温データに基づいて前記始動予測時刻における前記予測気温を推定することにより、当該予測気温を取得する車両の制御装置としてもよい。
【0010】
上記構成によれば、車両外の装置から外気温データを取得するので、正確な予測気温を推定するための装置等を、車両に搭載する必要はない。そして、外気温データに基づき予測気温を推定するので、ユーザ等に、予測気温等を入力する手間を強いることはない。
【0011】
上記構成において、前記車両は、前記車両の外気温を測定する外気温センサを備えており、前記外気温取得処理では、前記外気温センサから取得した過去一定期間の外気温の推移に基づいて、前記始動予測時刻における前記予測気温を推定することにより、当該予測気温を取得する車両の制御装置としてもよい。
【0012】
上記構成によれば、過去一定期間の外気温の推移に基づいて予測気温が推定されるので、予測気温の正確性を担保できる。また、外気温センサから取得した外気温に基づいて予測気温を推定するので、ユーザ等に、予測気温等を入力する手間を強いることはない。
【0013】
上記構成において、前記粘度推定処理で推定した前記粘度が大きいほど、前記閾値を大きな値に設定する閾値設定処理と、を実行する車両の制御装置としてもよい。
上記構成によれば、内燃機関に供給されている潤滑油の種類等に応じて、閾値が設定される。したがって、始動不良が生じる可能性があるか否かの判定を、潤滑油の種類等に応じた正確なものにできる。
【0014】
上記構成において、前記粘度推定処理では、前記潤滑油が交換されてからの前記車両の走行距離が大きいほど、前記潤滑油の粘度を大きな値に推定する車両の制御装置としてもよい。
【0015】
上記構成によれば、車両の走行距離に伴って潤滑油の粘度が大きくなることが、閾値の設定に反映される。したがって、始動不良が生じる可能性があるか否かの判定を、車両の走行距離に応じた正確なものにできる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図3】異なる潤滑油における油圧の推移を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態を説明する。先ず、本発明の制御装置が適用された車両500の概略構成について説明する。
図1に示すように、車両500は、駆動源として、内燃機関10、第1モータジェネレータ71及び第2モータジェネレータ72を備えている。第1モータジェネレータ71及び第2モータジェネレータ72は、いずれも電動機及び発電機の双方の機能を兼ね備えている。したがって車両500は、いわゆるハイブリッド車両である。
【0018】
内燃機関10は、出力軸12を備えている。なお、図示は省略するが、出力軸12は、内燃機関10のピストンに連結している。出力軸12は、ピストンが往復運動することに伴い回転する。すなわち、出力軸12は、内燃機関10を駆動源として回転する。
【0019】
車両500は、駆動力の伝達経路として、第1遊星ギア機構40、リングギア軸45、第2遊星ギア機構50、自動変速機61、減速機構62、差動機構63、及び2つの駆動輪64を備えている。
【0020】
第1遊星ギア機構40は、サンギア41、リングギア42、複数のピニオンギア43、及びキャリア44を備えている。サンギア41は、外歯歯車である。リングギア42は、内歯歯車であり、サンギア41の外側に位置している。リングギア42は、サンギア41と同軸で回転可能である。複数のピニオンギア43は、サンギア41とリングギア42との間に位置している。各ピニオンギア43は、サンギア41及びリングギア42の双方に噛み合っている。ピニオンギア43は、キャリア44に連結している。キャリア44は、ピニオンギア43を、自転及び公転が自在な状態で支持している。
【0021】
上記のように構成された第1遊星ギア機構40において、キャリア44は出力軸12に連結している。サンギア41は、第1モータジェネレータ71に連結している。リングギア42は、リングギア軸45に連結している。
【0022】
リングギア軸45は、自動変速機61に連結している。図示は省略するが、自動変速機61は、複数の遊星歯車機構を備え、変速比を段階的に変更可能な有段式の変速装置である。自動変速機61は、減速機構62及び差動機構63を介して左右の駆動輪64に連結している。減速機構62は、自動変速機61から入力されたトルクを所定の減速比で減速して出力する。差動機構63は、左右の駆動輪64に回転速度の差が生じることを許容する。
【0023】
第2遊星ギア機構50は、サンギア51、リングギア52、複数のピニオンギア53、キャリア54、及びケース55を備えている。サンギア51は、外歯歯車である。リングギア52は、内歯歯車であり、サンギア51の外側に位置している。リングギア52は、サンギア51と同軸で回転可能である。複数のピニオンギア53は、サンギア51とリングギア52との間に位置している。各ピニオンギア53は、サンギア51及びリングギア52の双方に噛み合っている。ピニオンギア53は、キャリア54に連結している。キャリア54は、ピニオンギア53を、自転自在な状態で支持している。キャリア54は、ケース55に固定されている。したがって、キャリア54は、ピニオンギア53を公転不可能な状態で支持している。
【0024】
上記のように構成された第2遊星ギア機構50において、サンギア51は、第2モータジェネレータ72に連結している。リングギア52は、リングギア軸45に連結している。したがって、リングギア52は、リングギア軸45、減速機構62及び差動機構63を介して左右の駆動輪64に連結している。
【0025】
車両500は、電力の授受を行うための構成として、バッテリ75、第1インバータ76、及び第2インバータ77を備えている。バッテリ75は、第1モータジェネレータ71及び第2モータジェネレータ72が発電機として機能する場合、第1モータジェネレータ71及び第2モータジェネレータ72が発電した電力を蓄える。バッテリ75は、第1モータジェネレータ71及び第2モータジェネレータ72が電動機として機能する場合、第1モータジェネレータ71及び第2モータジェネレータ72に対して電力を供給する。
【0026】
第1インバータ76は、第1モータジェネレータ71とバッテリ75との間の電力の授受量を調整する。第2インバータ77は、第2モータジェネレータ72とバッテリ75との間の電力の授受量を調整する。
【0027】
車両500は、油圧回路として、オイルパン30と油路31とオイルポンプ20とを備えている。オイルパン30は、内燃機関10を潤滑するための潤滑油を格納している。オイルパン30は、内燃機関10と、油路31で繋がっている。オイルポンプ20は、油路31の途中に位置している。オイルポンプ20は、オイルパン30に貯められた潤滑油をくみ上げ、内燃機関10に供給する。
【0028】
車両500は、油圧センサ81と、油温センサ82とを備えている。油圧センサ81は、油路31のうち、オイルポンプ20と、内燃機関10との間に位置している。油圧センサ81は、油路31中の潤滑油の油圧を検出し、当該油圧を示す検出信号S1を出力する。
【0029】
油温センサ82は、油路31のうち、オイルポンプ20と、内燃機関10との間に位置している。油温センサ82は、油路31中の潤滑油の油温を検出し、当該油温を示す検出信号S2を出力する。
【0030】
車両500には、ECU100が搭載されている。ECU100は、油圧センサ81からの検出信号S1及び油温センサ82からの検出信号S2を取得する。ECU100は、内燃機関10が予め定められた運転条件であるときに、検出信号S1が示す油圧を規定油圧RPとして記憶する。また、ECU100は、内燃機関10が予め定められた運転条件であるときに、検出信号S2が示す油温を規定油温RTとして記憶する。予め定められた運転条件とは、油温が80度以上であるという条件、及び、出力軸12の回転数が、内燃機関10がアイドル運転であることを示すアイドル回転数であるという条件を、ともに満たすことである。アイドル回転数は、例えば、1000rpmに定めることができる。なお、本実施形態において、ECU100は、内燃機関10が搭載された車両500に適用される制御装置である。
【0031】
ここで、潤滑油の粘度と、潤滑油の温度及び油圧の関係について説明する。
図3に示すグラフは、潤滑油の油温が特定の温度の場合における、出力軸12の回転数と潤滑油の油圧との関係を例示している。この例では、粘度の異なる潤滑油A及び潤滑油Bについて、出力軸12の回転数と潤滑油の油圧との関係が図示されている。また、この例では、潤滑油Bの方が潤滑油Aよりも粘度が大きくなっている。
図3に示すように、油温が一定であれば、出力軸12の回転数が大きくなるほど、油圧も大きくなる。したがって、所定の温度且つ所定の回転数のときに示す油圧によって、潤滑油の種類が、粘度の比較的に高い潤滑油Bであるのか、粘度の比較的に低い潤滑油Aであるのかを特定できる。
【0032】
ECU100は、上記潤滑油の特性を利用して作成された粘度推定マップを備えている。粘度推定マップは、内燃機関10が予め定められた運転条件であるときの油温、及び出力軸12の回転数において、油圧と潤滑油の粘度との関係を示すものである。この実施形態では、粘度推定マップには、粘度の異なる複数の潤滑油が、内燃機関10が予め定められた運転条件であるときの油温、及び出力軸12の回転数において、どの程度の油圧を示すのかが規定されている。また、ECU100は、上記の粘度推定マップを、80度から120度までの範囲で10度毎に備えている。
【0033】
ECU100は、温度毎の粘度推定マップを用いて、規定粘度RVを推定する。具体的には、規定粘度RVを推定する際、ECU100は、上述の複数の粘度推定マップのうち、規定油温RTに最も近い温度の粘度推定マップを選択する。そして、選択したマップにおいて、最も規定油圧RPに近い潤滑油を、オイルパン30に貯留された潤滑油として決定する。そして、ECU100は、決定した潤滑油の粘度をオイルパン30に貯留された潤滑油の規定粘度RVと推定する。すなわち、ECU100は、潤滑油の種類を特定することで、規定粘度RVを推定する。
【0034】
上記のECU100は、コンピュータプログラム(ソフトウェア)に従って各種処理を実行する1つ以上のプロセッサを含む回路(circuitry)として構成し得る。なお、ECU100は、各種処理のうち少なくとも一部の処理を実行する、特定用途向け集積回路(ASIC)等の1つ以上の専用のハードウェア回路、又はそれらの組み合わせを含む回路として構成してもよい。プロセッサは、CPU及び、RAM並びにROM等のメモリを含む。メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコード又は指令を格納している。メモリすなわちコンピュータ可読媒体は、汎用又は専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。
【0035】
車両500は、車両500外に備えられた外部装置200と通信可能な通信装置110を備えている。図示は省略するが、通信装置110は、通信に関する処理を行う演算ユニット、送受信を行うアンテナ、その他の周辺回路等を有している。通信装置110は、ECU100に通信ケーブルで接続されている。すなわち、ECU100は、各種のデータを、通信装置110を通じて取得する。
【0036】
通信装置110は、外部装置200と無線通信可能になっている。外部装置200は、将来の外気温データを記憶している。この実施形態では、外部装置200は、将来の数カ月分の気象データを記憶している。気象データでは、日時とその日時における予測気温とが対応付けられている。また、気象データは、市・州・県などのような予め定められた地域毎に定められている。
【0037】
車両500は、GPS受信機120を備えている。GPS受信機120は、GPS衛生から、車両500の現在の位置座標に関する信号Pを受信する。ECU100は、GPS受信機120が受信した信号Pを取得し、車両500の現在の位置座標を取得する。
【0038】
ここで、ECU100が実行する通知処理に関する一連の制御について説明する。通知処理に関する一連の制御において、ECU100は、内燃機関10の始動不良が発生する可能性があると判定した場合に、内燃機関10の始動不良を通知するための通知信号を出力する。通知処理に関する一連の制御は、車両500がシステムオフになる度に、一度だけ実行される。
【0039】
図2に示すように、ECU100は、通知処理に関する一連の制御を開始すると、ステップS100の処理を実行する。ステップS100では、ECU100は、規定油温RT及び規定油圧RPとして記憶されている値のうち、最新の値を取得する。そしてECU100の処理は、ステップS101へ移行する。
【0040】
ステップS101では、ECU100は、潤滑油の規定粘度RVを推定する。規定粘度RVの推定は、上述したように、ECU100が、温度毎の粘度推定マップを用いて実行する。規定粘度RVを推定した後、ECU100の処理は、ステップS102へ移行する。
【0041】
ステップS102では、ECU100は、潤滑油が交換されてからの車両500の走行距離を取得する。潤滑油の交換記録は、予めECU100に入力されている。車両500の走行距離は、図示しない速度センサ等の検出信号に基づいて算出され、その結果をECU100は取得する。車両500の走行距離を取得した後、ECU100の処理は、ステップS103へ移行する。
【0042】
ステップS103では、ECU100は、車両500の走行距離に応じて潤滑油の粘度Rを推定する。具体的には、ステップS103において取得した潤滑油が交換されてからの車両500の走行距離が大きいほど、潤滑油の粘度Rを大きな値に推定する。例えば、走行距離が100キロメートル増加するごとに、規定粘度RVよりも一定値ずつ大きくなるように粘度Rを推定する。その後、ECU100の処理は、ステップS104へ移行する。本実施形態において、ステップS103の処理は、潤滑油の粘度Rを推定する粘度推定処理である。
【0043】
ステップS104では、ECU100は、内燃機関10の次回の始動予測時刻を取得する。始動予測時刻は、車両500のユーザによって、車両500に備えられた入力機器等によって予め入力された時刻である。始動予測時刻を取得した後、ECU100の処理は、ステップS105へ移行する。なお、ステップS104の処理は、内燃機関10の次回の始動予測時刻を取得する時刻取得処理である。
【0044】
ステップS105では、ECU100は、始動予測時刻における車両500外部の予測気温を取得する。具体的には、ECU100は、GPS受信機120からの信号Pを取得し、現在の位置座標を取得する。そして、ECU100は、取得した現在の位置座標と始動予測時刻とを対応付けて、通信装置110を通じて、外部装置200に、外気温データの送信要求を出力する。送信要求を受けた外部装置200は、現在位置座標に対応する地域を特定する。そして、外部装置200は、特定した地域の気象データを参照して、始動予測時刻における外気温を特定する。外部装置200は、始動予測時刻における外気温を外気温データとして通信装置110を通じてECU100に送信する。一方、ECU100は、外部装置200から、外部装置200が送信した外気温データを受信することにより、当該外気温データを取得する。そしてECU100の処理は、ステップS106へ移行する。ステップS105の処理は、ECU100で、将来の車両500の外部の気温に関する外気温データを取得するデータ取得処理である。
【0045】
ステップS106では、ECU100は、ステップS104で取得した始動予測時刻の外気温データに基づいて、始動予測時刻における予測気温Tを推定する。本実施形態では、取得した外気温データが示す外気温を、そのまま予測気温Tとして推定することにより、予測気温Tを取得する。その後、ECU100の処理は、ステップS107へ移行する。なお、ステップS106の処理は、予測気温Tを取得する外気温取得処理である。
【0046】
ステップS107では、ECU100は、外気温の閾値T1を設定する。閾値T1は、潤滑油の粘度Rが高いことに起因して内燃機関10の始動不良が生じる可能性があるか否かを判定できるように定められている。この実施形態では、ECU100は、ステップS103で推定した潤滑油の粘度Rが大きいほど、当該閾値T1を大きな値に設定する。例えば、粘度Rの大きさに比例して閾値T1が大きくなるように設定することができる。閾値T1を設定した後、ECU100の処理は、ステップS108へ移行する。なお、ステップS107の処理は、閾値T1を設定する閾値設定処理である。
【0047】
ステップS108では、ECU100は、ステップS106で推定した予測気温Tが、閾値T1より小さいか否かを判定する。予測気温Tが、閾値T1以上である場合、(S108:NO)、ECU100の処理は、終了する。予測気温Tが、閾値T1より小さい場合(S108:YES)、ECU100の処理は、ステップS109へ移行する。なお、ステップS108の処理は、内燃機関10に始動不良が生じる可能性があると判定する始動判定処理である。
【0048】
ステップS109では、ECU100は、内燃機関10の始動不良を通知するための通知信号を出力する。具体的には、ECU100は、車両500に備えられた図示しないディスプレイに通知信号を出力し、内燃機関10の始動不良が生じる可能性を示すメッセージを表示させる。この通知の後、ECU100の処理は、終了する。なお、ステップS109の処理は、始動判定処理において始動不良が生じる可能性があると判定した場合に、内燃機関10の始動不良を通知するための通知信号を出力する通知処理である。
【0049】
次に、本実施形態における作用について説明する。
車両500の走行距離が大きい、すなわち、潤滑油の使用時間が長いほど、潤滑油に不純物が混入したり、潤滑油が酸化したりすることがある。したがって、走行距離が大きいほど、潤滑油の粘度が大きくなる蓋然性が高い。
【0050】
外気温が極端に低い場合、潤滑油の粘度が大きくなる。すなわち、潤滑油が油路31を通過する抵抗も大きくなる。潤滑油の抵抗が大きくなると、内燃機関10が始動しにくくなる蓋然性が高い。また、車両500のユーザが、潤滑油として、粘度の高いものを使用している場合にも、内燃機関10において始動不良が生じる可能性が高まる。
【0051】
次に、本実施形態の効果について説明する。
(1)本実施形態では、内燃機関10に始動不良が生じる可能性がある場合には、ECU100は、その旨を通知するための通知信号を出力する。したがって、この通知信号に基づき表示されるメッセージを視認することで、ユーザは将来的な始動不良の予測をできる。したがって、ユーザは、予め内燃機関10の始動不良を防止するために、車両500を温度が低下しにくい車庫内に移動させるなどの対策を講じることもできる。
【0052】
(2)本実施形態において、ECU100は、ユーザが予め入力した始動予測時刻での、始動不良の可能性の有無を判定する。したがって、実際に内燃機関10が始動される可能性の高い時刻での内燃機関10の始動時の始動不良の可能性を判定できる。
【0053】
(3)本実施形態において、内燃機関10に供給されている潤滑油の種類等に応じて、閾値T1が設定される。すなわち、潤滑油の粘度Rを考慮した閾値T1が設定される。具体的には、粘度推定処理で推定した粘度が大きいほど閾値T1を大きな値に設定する。したがって、始動不良が生じる可能性があるか否かの判定を、潤滑油の種類等に応じた正確なものにできる。
【0054】
(4)本実施形態において、車両500の走行距離に伴って潤滑油の粘度が大きくなることが、閾値T1の設定に反映される。したがって、内燃機関10の始動不良が生じる可能性があるか否かの判定を、車両500の走行距離に応じた正確なものにできる。
【0055】
(5)本実施形態において、データ取得処理では、外部装置200により外気温データを取得する。そのため、外気温の変動の精度が向上する。すなわち、内燃機関の始動性の推定における制度が向上する。
【0056】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・上記実施形態において、車両500の構成は上記実施形態の例に限定されない。例えば、第1モータジェネレータ71や第2モータジェネレータ72が搭載されておらず、内燃機関10のみを駆動源とする車両の構成であってもよい。
【0057】
・上記実施形態において、規定油圧RP及び規定油温RTを記憶する条件である「内燃機関10が予め定められた運転状態」の例は上記実施形態の例に限定されない。内燃機関10が駆動中で、潤滑油の適切な使用条件であれば、上記実施形態で例示した温度や出力軸12の回転数に限られない。なお、「内燃機関10が予め定められた運転状態」のすべての範囲内において潤滑油の粘度が推定できるように、出力軸12の回転数毎、潤滑油の温度毎に、粘度推定マップを用意する必要がある。
【0058】
・通知処理に関する一連の制御が開始される条件は上記実施形態の例と別の条件でもよい。例えば、車両500のユーザが、ECU100と通信可能な通信機、例えばスマートフォンで指示することにより、通知処理に関する一連の制御を開始してもよい。また、上記実施形態では、車両500がシステムオフになった際に上記制御を実施していたが、車両500がシステムオンの状態で上記制御を実施してもよい。具体的には、車両500が、第1モータジェネレータ71を原動力として走行し、内燃機関10が停止状態である場合に、一定時間、内燃機関10が停止していることを条件に、上述の一連の制御を実行開始してもよい。
【0059】
・上記実施形態において、予測気温Tは、始動予測時刻における外気温データから推定したものでなくてもよい。例えば、ECU100は、車両500の現在の位置座標における将来の数日分の複数の外気温データを取得し、当該複数の外気温データの気温の平均値、複数の外気温データの気温のうちの最低値等を予測気温Tとしてもよい。また、将来の外気温データではなく、過去一定期間内の複数の外気温データの平均値、過去一定期間内の複数の外気温データのうちの最低値などを予測気温Tとしてもよい。加えて、ユーザが入力した気温を予測気温Tとしてもよい。
【0060】
・上記実施形態において、始動予測時刻をECU100が推定してもよい。例えば、過去一定期間の内燃機関10の始動時刻を記憶しておき、記憶した始動時刻に基づいて、ECU100が始動予測時刻を推定してもよい。
【0061】
・上記実施形態において、規定粘度RVを推定する方法は上記実施形態の例に限定されない。例えば、油温センサ82で取得した規定油温RTにおける、油圧センサ81が取得した規定油圧RPの大小関係のみに基づいて規定粘度RVを推定してもよい。さらに、車両500において使用される潤滑油が決まっていたり、使用が想定される潤滑油毎の粘度に大きな違いがなかったりするのであれば、規定粘度RVは固定値であってもよい。
【0062】
・上記実施形態において、粘度推定処理では、走行距離以外のパラメータに基づいて、粘度Rを推定してもよい。例えば、潤滑油が交換されてからの時間が大きいほど、潤滑油の粘度Rを大きな値に推定してもよい。
【0063】
・上記実施形態において、粘度推定処理において、粘度の推定に車両500の走行距離等を考慮しなくてもよい。すなわち、規定粘度RVを、そのまま潤滑油の粘度Rとして推定してもよい。
【0064】
・上記実施形態において、外部装置200が、現在の位置座標における気象データを外気温データとして送信してもよい。この場合、ECU100は、外気温データとしての気象データに基づいて、始動予測時刻における外気温を特定し、その外気温を予測気温Tとして取得する。
【0065】
・上記実施形態において、外気温取得処理における外気温の取得方法は上記実施形態の例に限定されない。例えば、車両500は、車両500の外気温を測定する外気温センサを備えており、外気温センサから外気温を取得してよい。その場合、外気温センサにより、過去一定期間の外気温を測定し、ECU100に当該外気温データを出力する。そしてECUは、当該外気温の推移に基づいて、始動予測時刻における予測気温Tを推定する。そして、ECU100は、推定した値を予測気温Tとして取得する。
【0066】
・上記実施形態において、外気温取得処理において、外気温データから外気温を推定する際に、別のパラメータを考慮してもよい。例えば、外気温データとともに、外部装置200から天気データを取得し、始動予測時刻に雨が予測されている場合には、予測気温Tを外気温データの値よりも小さくなるように推定してもよい。
【0067】
・予測気温Tを取得するにあたって、外気温データを用いなくてもよい。例えば、予測気温Tを、車両500のユーザによって入力させてもよい。
・上記実施形態において、潤滑油の粘度Rと閾値T1との関係は、比例関係に限らない。例えば、粘度Rが大きくなるにつれて、段階的に閾値T1が大きくなっていてもよい。つまり、上記実施形態におけるステップS103で推定した粘度Rに基づき、閾値T1が設定されるのであれば、両者の関係性は適宜に変形できる。
【0068】
・上記実施形態において、内燃機関の始動不良を通知する方法は問わない。例えば、インジケータランプを点灯させたり、警告音を発したりすることにより、通知を行ってもよい。
【0069】
・上記実施形態において、ECU100は、内燃機関10の始動不良が生じる可能性を示すメッセージを表示するための通知信号と合わせて、他のメッセージを表示させるための信号を出力してもよい。他のメッセージとしては、粘度の小さい潤滑油への交換を促すメッセージや、温度変化の小さい車庫内等への車両500の移動を促すメッセージが挙げられる。
【0070】
・上記実施形態において、通知信号の出力先は、車両500のディスプレイに限らない。例えば、ユーザが所持するスマートフォン等に通知信号を出力して、当該スマートフォンにメッセージ等を表示させてもよい。
【符号の説明】
【0071】
10…内燃機関
12…出力軸
20…オイルポンプ
30…オイルパン
31…油路
81…油圧センサ
82…油温センサ
100…ECU
110…通信装置
500…車両