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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-02
(45)【発行日】2023-10-11
(54)【発明の名称】データ記録装置
(51)【国際特許分類】
   G07C 5/00 20060101AFI20231003BHJP
   B60W 10/00 20060101ALI20231003BHJP
   B60W 20/00 20160101ALI20231003BHJP
【FI】
G07C5/00 Z
B60W10/00 900
B60W20/00 ZHV
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020190403
(22)【出願日】2020-11-16
(65)【公開番号】P2022079293
(43)【公開日】2022-05-26
【審査請求日】2022-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 克也
【審査官】平野 貴也
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-237798(JP,A)
【文献】特開2008-024022(JP,A)
【文献】特開2012-181686(JP,A)
【文献】特開2003-260951(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G07C 1/00 - 15/00
B60K 6/20 - 6/547
B60W 10/00,
10/02,
10/06,
10/08,
10/10,
10/18,
10/26,
10/28,
10/30,
10/30 - 20/50
G05B 23/00 - 23/02
G08G 1/00 - 99/00
B60L 1/00 - 3/12,
7/00 - 13/00,
15/00 - 58/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の運転状態が、イベントの発生条件を満たしたことを契機として、前記車両に関するデータを記録するデータ記録装置であって、
前記データの取得タイミングが定められた取得モードを、複数記憶しているモード記憶部と、
検出された前記データの中から一部のデータを抽出するデータ抽出部と、
前記データ抽出部が抽出した前記データを記憶するデータ記憶部とを有し、
前記モード記憶部は、複数の前記イベントそれぞれについて前記発生条件を記憶しているとともに、複数の前記イベントそれぞれに対して1つの前記取得モードを対応付けて記憶しており
前記取得モード毎に、仮想データ、及び前記仮想データが検出されたとみなす仮想取得タイミングが定められており、
前記データ抽出部は、前記発生条件を満たした前記イベントに対応する前記取得モードに定められている前記仮想データを、前記仮想取得タイミングで検出された前記データとみなして抽出する
データ記録装置。
【請求項2】
複数の前記イベントのうちの1つを第1イベントとしたとき、前記第1イベントは、内燃機関が始動を開始したことであり、
前記第1イベントに対応付けられた前記取得モードを第1取得モードとしたとき、第1取得モードには、取得する前記データの種類として、前記内燃機関のクランキングを行う始動用モータのトルクが定められている
請求項1に記載のデータ記録装置。
【請求項3】
複数の前記イベントのうちの1つを第2イベントとしたとき、前記第2イベントは、前記車両の制動装置が動作したことであり、
前記第2イベントに対応付けられた前記取得モードを第2取得モードとしたとき、第2取得モードには、取得する前記データの種類として、前記車両の駆動輪に動力を伝達可能な走行用モータのトルクが定められている
請求項1又は2に記載のデータ記録装置。
【請求項4】
複数の前記イベントのうちの1つを第3イベントとしたとき、前記第3イベントは、前記車両の上下方向の加速度の単位時間当たりの変化量が規定値以上である状態が規定期間以上継続することであり、
前記第3イベントに対応付けられた前記取得モードを第3取得モードとしたとき、第3取得モードには、取得する前記データの種類として、前記車両の駆動輪に動力を伝達可能な走行用モータのトルクが定められている
請求項1~のいずれか一項に記載のデータ記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、データ記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、工作機械の動作に係るデータを収集するデータ収集装置が開示されている。データ収集装置は、工作機機の動作状態が特定の条件を満たしたことを契機として、予め定められた周期でデータを取得する。データ収集装置は、取得したデータをデータベースに記録する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-109697号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のような技術において、データの取得の契機となる条件を複数設定することがある。この場合、契機となる条件の種類によっては、上記の周期でデータを取得したのでは、データの取得周期が長すぎて、必要なタイミングのデータを取得できないことがあり得る。一方で、上記の周期を短くすると、契機となる条件の種類によっては不必要に多くのデータを取得してしまうことがあり得る。これらの場合、必要なデータを記録できなかったり、記録するデータの容量が必要以上に多くなったりする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するためのデータ記録装置は、車両の運転状態が、イベントの発生条件を満たしたことを契機として、前記車両に関するデータを記録するデータ記録装置であって、前記データの取得タイミング、及び前記データの取得期間の少なくとも1つが定められた取得モードを、複数記憶しているモード記憶部と、検出された前記データの中から一部のデータを抽出するデータ抽出部と、前記データ抽出部が抽出した前記データを記憶するデータ記憶部とを有し、前記モード記憶部は、複数の前記イベントそれぞれについて前記発生条件を記憶しているとともに、複数の前記イベントそれぞれに対して1つの前記取得モードを対応付けて記憶しており、前記データ抽出部は、前記発生条件を満たした前記イベントに対応する前記取得モードの定めに従って、前記データを抽出する。
【0006】
上記構成のように、各イベント専用の取得モードでデータを抽出することで、各イベントに適した取得モードでデータを抽出できる。したがって、各イベントに関して、適切なタイミングで必要な分だけデータを取得できる。
【0007】
データ記録装置においては、前記取得モード毎に、前記データの取得タイミングとして、前記データの取得周期が定められていてもよい。この構成によれば、各イベントにおいて適切な時間間隔でデータを取得できる。
【0008】
データ記録装置においては、前記取得モード毎に、前記データの取得期間として、前記発生条件が満たされてから前記データの取得を終了するまでの期間が定められていてもよい。この構成によれば、データを取得する期間が短すぎたり長すぎたりすることなく、各イベントに適した期間においてデータを取得できる。
【0009】
データ記録装置においては、前記取得モード毎に、仮想データ、及び前記仮想データが検出されたとみなす仮想取得タイミングが定められており、前記データ抽出部は、前記発生条件を満たした前記イベントに対応する前記取得モードに定められている前記仮想データを、前記仮想取得タイミングで検出された前記データとみなして抽出してもよい。
【0010】
上記構成によれば、各イベントにおいて適切なタイミングでデータが検出されたとみなして仮想データを抽出する。したがって、取得されるタイミングや値が予め定まっているデータについては、データの検出漏れや抽出漏れが生じることはない。
【0011】
データ記録装置において、複数の前記イベントのうちの1つを第1イベントとしたとき、前記第1イベントは、内燃機関が始動を開始したことであり、前記第1イベントに対応付けられた前記取得モードを第1取得モードとしたとき、第1取得モードには、取得する前記データの種類として、前記内燃機関のクランキングを行う始動用モータのトルクが定められていてもよい。
【0012】
内燃機関の始動時には、クランキングを行うことに付随して始動用モータのトルクが急変し得る。上記構成では、この急変に係る始動用モータのトルクの変動をデータ記憶部に記録できる。
【0013】
データ記録装置において、複数の前記イベントのうちの1つを第2イベントとしたとき、前記第2イベントは、前記車両の制動装置が動作したことであり、前記第2イベントに対応付けられた前記取得モードを第2取得モードとしたとき、第2取得モードには、取得する前記データの種類として、前記車両の駆動輪に動力を伝達可能な走行用モータのトルクが定められていてもよい。
【0014】
車両の走行中に車両が制動されると、走行用モータから駆動輪へのトルクの入力が妨げられる。このことに伴って、走行用モータのトルクが急変し得る。上記構成では、この急変に係る走行用モータのトルクの変動をデータ記憶部に記録できる。
【0015】
データ記録装置において、複数の前記イベントのうちの1つを第3イベントとしたとき、前記第3イベントは、前記車両の上下方向の加速度の単位時間当たりの変化量が規定値以上である状態が規定期間以上継続することであり、前記第3イベントに対応付けられた前記取得モードを第3取得モードとしたとき、第3取得モードには、取得する前記データの種類として、前記車両の駆動輪に動力を伝達可能な走行用モータのトルクが定められていてもよい。
【0016】
凹凸が連続する路面である波状路を車両が走行する場合、車両の上下方向の加速度が大きな振幅で脈動する。すなわち、第3イベントは、車両が波状路を走行している状況に相当する。車両が波状路を走行する場合、路面の凹凸に応じた駆動輪の回転変動が走行用モータに作用する。このことに伴い、走行用モータのトルクが急変し得る。上記構成では、この急変に係る走行用モータのトルクの変動をデータ記憶部に記録できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】車両の概略構成図。
図2】第1実施形態のイベント用マップを表した図。
図3】第1実施形態に係るデータ取得の態様の例を表した図。
図4】第2実施形態のイベント用マップを表した図。
図5】第2実施形態に係るデータ取得の態様の例を表した図。
図6】データ記録装置の変更例を表した概略図。
図7】データ記録装置の変更例を表した概略図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<第1実施形態>
以下、データ記録装置の第1実施形態を、図面を参照して説明する。
<車両の概略構成>
図1に示すように、ハイブリッド車両(以下、車両と記す。)500は、内燃機関70、第1モータジェネレータ(以下、第1MGと記す。)71、第2モータジェネレータ(以下、第2MGと記す。)72、遊星ギア機構40、リダクションギア50、ディファレンシャル61、駆動輪62、及びバッテリ73を有する。
【0019】
内燃機関70、第1MG71、及び第2MG72は、車両500の駆動源となっている。第1MG71は、電動機及び発電機の双方の機能を有する発電電動機である。第2MG72は、第1MG71と同様、発電電動機である。第1MG71及び第2MG72は、インバータを介してバッテリ73と電気的に接続されている。バッテリ73は、第1MG71及び第2MG72に電力を供給したり、第1MG71及び第2MG72から供給される電力を蓄えたりする。インバータは、直流交流の電力変換を行う。なお、図1では、インバータの図示を省略している。
【0020】
内燃機関70及び第1MG71は、遊星ギア機構40に連結している。遊星ギア機構40は、サンギア41、リングギア42、複数のピニオンギア43、及びキャリア44を有する。サンギア41は外歯歯車である。リングギア42は内歯歯車である。リングギア42は、サンギア41と同軸で回転可能になっている。複数のピニオンギア43は、サンギア41及びリングギア42の間に介在している。複数のピニオンギア43は、サンギア41及びリングギア42の双方と噛み合っている。キャリア44は、複数のピニオンギア43を支持している。キャリア44は、サンギア41と同軸で回転可能になっている。
【0021】
サンギア41は、第1MG71の回転軸に連結している。キャリア44は、内燃機関70の出力軸であるクランク軸34に連結している。リングギア42は、駆動軸60に連結している。駆動軸60は、リダクションギア50を介して第2MG72に連結している。リダクションギア50は、第2MG72のトルクを減速して駆動軸60に伝達する。また、駆動軸60は、ディファレンシャル61を介して左右の駆動輪62に連結している。ディファレンシャル61は、左右の駆動輪62に回転速度の差が生じることを許容する。
【0022】
内燃機関70及び第1MG71は、遊星ギア機構40を介して互いに動力を伝達可能である。内燃機関70のトルクを第1MG71に入力すると、第1MG71が発電機として機能する。一方、第1MG71を電動機として機能させた場合には、第1MG71のトルクによってしてクランク軸34を回転させるクランキングを行うことができる。すなわち、第1MG71は、内燃機関70のクランキングを行う始動用モータである。
【0023】
また、車両500が減速する際には第2MG72を発電機として機能させることにより、第2MG72の発電量に応じた回生制動力が車両500に発生する。一方、第2MG72を電動機として機能させた場合には、第2MG72のトルクを、リダクションギア50、駆動軸60、及びディファレンシャル61を介して駆動輪62に入力することができる。すなわち、第2MG72は、走行用モータである。
【0024】
車両500は、制動装置80を有する。制動装置80は、油圧回路81及びブレーキ機構82を有する。油圧回路81は油圧を発生する。ブレーキ機構82は油圧回路81に繋がっている。ブレーキ機構82は、油圧回路81の油圧に応じて動作する。油圧回路81の油圧が高くなると、ブレーキ機構82のブレーキパッドが駆動輪62に押し付けられる。このことにより、ブレーキ機構82は駆動輪62を制動する。
【0025】
車両500は、アクセルペダル94及びブレーキペダル95を有する。アクセルペダル94及びブレーキペダル95は、乗員が踏み込むフットペダルである。なお、ブレーキペダル95の操作量であるブレーキ操作量BKPに応じて、制動装置80の油圧回路81で油圧が発生する。
【0026】
車両500は、アクセルセンサ21、ブレーキセンサ22、車速センサ23、第1電流センサ24、第2電流センサ25、バッテリセンサ26、及び加速度センサ27を有する。アクセルセンサ21は、アクセルペダル94の操作量であるアクセル操作量ACCPを検出する。ブレーキセンサ22は、ブレーキ操作量BKPを検出する。車速センサ23は、車両500の走行速度である車速SPを検出する。第1電流センサ24は、第1MG71に流れる電流A1を検出する。第1電流センサ24は、第1MG71が電動機として機能しているときには電流A1を正の値で、第1MG71が発電機として機能しているときには電流A1を負の値で検出する。第2電流センサ25は、第2MG72に流れる電流A2を検出する。第2電流センサ25は、第2MG72が電動機として機能しているときには電流A2を正の値で、第2MG72が発電機として機能しているときには電流A2を負の値で検出する。バッテリセンサ26は、バッテリ73の電流、電圧、及び温度といったバッテリ情報Bを検出する。加速度センサ27は、車両500の上下方向の加速度である上下加速度Wを検出する。
【0027】
<制御装置の概略構成>
車両500は、制御装置100を有する。制御装置100は、コンピュータプログラム(ソフトウェア)に従って各種処理を実行する1つ以上のプロセッサとして構成し得る。なお、制御装置100は、各種処理のうち少なくとも一部の処理を実行する、特定用途向け集積回路(ASIC)等の1つ以上の専用のハードウェア回路、またはそれらの組み合わせを含む回路(circuitry)として構成してもよい。プロセッサは、CPU及び、RAM並びにROM等のメモリを含む。メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコードまたは指令を格納している。メモリすなわちコンピュータ可読媒体は、汎用または専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。また、制御装置100は、電気的に書き換え可能な不揮発性メモリである記憶装置を有する。
【0028】
制御装置100は、車両500に取り付けられている各種センサからの検出信号を受信する。具体的には、制御装置100は、次の各パラメータについての検出信号を受信する。
【0029】
・アクセルセンサ21が検出するアクセル操作量ACCP
・ブレーキセンサ22が検出するブレーキ操作量BKP
・車速センサ23が検出する車速SP
・第1電流センサ24が検出する、第1MG71に流れる電流A1
・第2電流センサ25が検出する、第2MG72に流れる電流A2
・バッテリセンサ26が検出するバッテリ情報B
・加速度センサ27が検出する上下加速度W
なお、制御装置100は、各処理を行うにあたって、第1MG71に流れる電流A1をトルクに換算した値として扱う。すなわち、制御装置100は、第1MG71に流れる電流を第1MG71のトルク(以下、第1MGトルクと記す。)T1として扱う。同様に、制御装置100は、第2MG72に流れる電流A2を、第2MG72のトルク(以下、第2MGトルクと記す。)T2として扱う。制御装置100は、力行トルクを正の値、回生トルクを負の値として扱う。また、制御装置100は、バッテリ情報Bに基づいてバッテリ73の蓄電量SOCを算出する。
【0030】
制御装置100は、走行制御部101を有する。走行制御部101は、内燃機関70、第1MG71、及び第2MG72の制御を通じて車両500の走行を制御する。具体的には、走行制御部101は、アクセル操作量ACCP及び車速SPに基づいて、車両500が走行するために必要な出力の要求値である車両要求出力を算出する。走行制御部101は、車両要求出力及びバッテリ73の蓄電量SOCに基づいて、内燃機関70、第1MG71、及び第2MG72のトルク配分を決定する。走行制御部101は、決定したトルク分配に基づいて、内燃機関70、第1MG71、及び第2MG72のそれぞれの目標トルクを算出する。そして、走行制御部101は、算出した目標トルクを実現すべく内燃機関70、第1MG71、及び第2MG72を制御する。
【0031】
走行制御部101は、状況に応じて、内燃機関70の運転を伴って車両500を走行させたり、内燃機関70を停止した状態で車両500を走行させたりする。例えば、バッテリ73の蓄電量SOCが低い場合、又は要求駆動力が大きい場合、走行制御部101は内燃機関70の運転を伴って車両500を走行させる。走行制御部101は、内燃機関70の運転を伴って車両500を走行させるか否かに応じて、内燃機関70を始動させたり停止させたりする。走行制御部101は、内燃機関70を始動させる場合には、第1MG71のトルクを内燃機関70に作用させて内燃機関70のクランキングを行う。
【0032】
<データ記録装置の構成>
制御装置100は、複数の診断用データを時系列で記憶するデータ記録装置200として機能する。各診断用データは、制御装置100が各種センサから受信する複数のデータのうち、車両500の状態を把握するために必要なデータとして予め定められたものである。複数の診断用データには、第1MGトルクT1及び第2MGトルクT2が含まれている。制御装置100は、各診断用データを記録する上での機能部として、データ記憶部206、データ抽出部204、及びモード記憶部202を有する。なお、制御装置100は、車両500の状態を把握すべく、各診断用データの時系列を常時監視する。
【0033】
データ記憶部206は、自身に書き込まれる診断用データを記憶する。なお、データ記憶部206においては、診断用データ毎に書き込み可能なデータ容量の割り当てが予め定められている。データ記憶部206は、各診断用データが自身に書き込まれた場合、診断用データ毎に最古のデータを最新のデータで上書きしつつ、上記データ容量に収まる分だけ各診断用データを時系列で格納する。なお、データ記憶部206は、制御装置100の記憶装置で構成されている。
【0034】
データ抽出部204は、各診断用データの取得と、取得した各診断用データのデータ記憶部206への書き込みとを行う。データ抽出部204は、各診断用データを取得するにあたって、制御装置100が受信した各診断用データを時間方向に間引きしながら取得する。すなわち、データ抽出部204は、各センサによって検出されたデータの中から一部のデータを抽出する。なお、データ抽出部204は、制御装置100のCPU及びROMで構成されている。
【0035】
データ抽出部204は、基本的には、通常取得周期PNで各診断用データを取得する。例えば内燃機関70の始動といった、車両500で生じるイベントに関連して、通常取得周期PNよりも短い時間スケールで当該イベントに関連する物理量の大きさが変動することがある。こうした短い時間スケールでの物理量の変動をデータ記憶部206に記録するための処理として、データ抽出部204は、イベント用処理を実行可能である。イベント用処理は、具体的には、車両500の運転状態が、イベントの発生条件を満たしたことを契機として、複数の診断用データのうちの特定の診断用データを通常取得周期PNよりも短い周期で取得してデータ記憶部206に記録する処理である。データ抽出部204は、イベント用処理では、発生条件を満たしたイベントに対応する取得モードの定めに従って、診断用データを抽出する。取得モードについてはこの後説明する。
【0036】
モード記憶部202は、イベント用マップを記憶している。図2に示すように、イベント用マップには、3つのイベントと、3つのイベントのそれぞれについての発生条件と、3つのイベントのそれぞれに対して1つの取得モードと、が対応付けて定められている。取得モードには、取得するデータの種類、データの取得タイミング、及びデータの取得期間が定められている。具体的には、取得モードには、取得するデータの種類であるイベント対象データが定められている。また、取得モードには、データの取得期間として、イベント対象データの取得周期であるイベント用取得周期が定められている。また、取得モードには、データの取得期間として、イベントの発生条件が満たされてから、イベント用取得期間でイベント対象データの取得を終了するまでの期間であるイベント用取得期間が定められている。なお、モード記憶部202は、制御装置100のROMで構成されている。
【0037】
<イベント用マップの具体的な内容>
以下、3つのイベントについて、それぞれの内容を順に説明する。
先ず、第1イベントについて説明する。イベント用マップに定められている3つのイベントのうちの1つである第1イベントは、内燃機関70が始動することである。第1イベントの発生条件である第1発生条件C1は、走行制御部101が内燃機関70を始動する際の条件と同じである。すなわち、第1発生条件C1の一例は、バッテリ73の蓄電量SOCが、バッテリ73の充電が必要な値まで低下することである。また、第1発生条件C1の他の例は、要求駆動力が、第2MG72のみでは賄うことができない値に高まることである。
【0038】
第1イベントのイベント対象データは、第1MGトルクT1である。内燃機関70を始動する場合、第1MGトルクT1を内燃機関70に作用させて内燃機関70をクランキングする。なお、このときの第1MGトルクT1は力行トルクであり、正の値である。内燃機関70をクランキングするのに応じて第1MGトルクT1は一旦急増する。その後、内燃機関70のクランキングが終了すると、第1MGトルクT1は急減する。第1イベントのイベント用取得周期である第1取得周期P1は、内燃機関70の始動に伴う第1MGトルクT1の急増から急減に至る上記一連の推移を適切に捉える上で必要な時間間隔の最大値となっている。第1取得周期P1は、例えば実験で定められている。第1イベントのイベント用取得期間である第1取得期間H1は、内燃機関70の始動に伴う第1MGトルクT1の上記一連の推移を最後まで捉えることができる期間の最小値となっている。第1取得期間H1は、例えば実験で定められている。
【0039】
次に、第2イベントについて説明する。イベント用マップに定められている3つのイベントのうちの1つである第2イベントは、制動装置80が急制動の動作をすることである。第2イベントの発生条件である第2発生条件C2は、例えば、ブレーキペダル95の操作速度が規定速度以上の状態でブレーキペダル95が規定操作量以上操作されることである。上記規定速度及び上記規定操作量は、制動装置80が急制動の動作をしたとみなすことができる値として、例えば実験で定められている。なお、ブレーキペダル95の操作速度は、単位時間当たりのブレーキ操作量BKPの変化量である。
【0040】
第2イベントのイベント対象データは、第2MGトルクT2である。上記のとおり、第2MG72と駆動輪62とは互いに動力を伝達可能な状態で連結している。車両500の走行中は、第2MG72から駆動輪62にトルクが入力される。このときのトルクは力行トルクであり、正の値である。第2MG72から駆動輪62にトルクを入力しているときに制動装置80が駆動輪62を急制動した場合、本来第2MG72から駆動輪62へと入力されるべきトルクが駆動輪62に入力されず第2MG72に留まる。したがって、第2MG72では瞬時的にトルクが高まる。なお、制動装置80が急制動の動作をする場合、アクセル操作量ACCPはゼロであるのが一般的である。したがって、要求駆動力はゼロである。そのため、第2MGトルクT2は、上記のプロセスで一旦急増した後、急減する。第2イベントのイベント用取得周期である第2取得周期P2は、制動装置80の急制動の動作に伴う第2MGトルクT2の急増から急減に至る上記一連の推移を適切に捉える上で必要な時間間隔の最大値となっている。第2取得周期P2は、例えば実験で定められている。第2イベントのイベント用取得期間である第2取得期間H2は、制動装置80の急制動の動作に伴う第2MGトルクT2の上記一連の推移を最後まで捉えることができる期間の最小値となっている。第2取得期間H2は、例えば実験で定められている。
【0041】
次に、第3イベントについて説明する。イベント用マップに定められている3つのイベントのうちの1つである第3イベントは、上下加速度Wの単位時間当たりの変化量(以下、上下加速度Wの変化率と記す。)が規定値以上である状態が規定期間以上継続することである。凹凸が連続する路面である波状路を車両500が走行する場合、上下加速度Wが大きな振幅で脈動する。すなわち、第3イベントは、車両500が波状路を走行している状況に相当する。なお、上記規定値は、例えば、車両500が通常の走行状態で平坦路を走行しているときに生じ得る上下加速度Wの変化率の最大値よりも相応に大きな値である。波状路がとり得る連続距離のうち、最小限の連続距離とみなせる距離を、最小連続距離と呼称する。上記規定期間は、例えば、車両500が一般的とみなせる車速SPで最小連続距離を走行するのに要する時間である。一般的とみなせる車速SPとは、例えば、車両500が一般道を走行する際の平均的な車速SPであり、例えば時速50kmである。
【0042】
第3イベントの発生条件である第3発生条件C3は、例えば、上下加速度Wの変化率が規定値以上の状態が判定期間以上継続することである。路面に存在する局所的な段差によって、上下加速度Wの変化率が極僅かな期間だけ大きくなることもあり得る。上記の判定期間は、局所的な段差に起因して上下加速度Wの変化率が規定変化値以上になる状態が継続する期間よりも相応に長い時間として、例えば実験で定められている。つまり、判定期間は、上下加速度Wの変化率が規定値以上になったときに、その後も上下加速度Wの変化率が大きい状態が継続すると見込むことができる期間となっている。
【0043】
第3イベントのイベント対象データは、第2MGトルクT2である。車両500が波状路を走行する場合、駆動輪62はグリップ状態とスリップ状態とを繰り返す。駆動輪62がグリップ状態になる場合、駆動輪62は制動される格好となる。そのため、上記第2イベントの場合と同様、第2MGトルクT2は瞬時的に高まる。一方、駆動輪62がスリップ状態となる場合、第2MG72に蓄積されたトルクが解放される。そのため、第2MGトルクT2は低くなる。したがって、車両500が波状路を走行することに伴って駆動輪62がグリップ状態とスリップ状態とを繰り返すことで、第2MGトルクT2は急増と急減とを繰り返す。第3イベントのイベント用取得周期である第3取得周期P3は、車両500が波状路を走行することに伴う第2MGトルクT2の上下動の一連の推移を適切に捉える上で必要となる時間間隔の最大値となっている。第3取得周期P3は、例えば実験で定められている。波状路の連続距離として一般的とみなすことができる距離を、波状路距離と呼称する。第3イベントのイベント用取得期間である第3取得期間H3は、車両500が上記した一般的とみなせる車速SPで波状路距離を走行するのに要する時間となっている。すなわち、第3取得期間H3は、車両500が波状路を走行することに伴う第2MGトルクT2の一連の推移を最後まで捉えることのできる期間の最小値となっている。第3取得期間H3は、例えば実験で定められている。なお、波状路距離は、例えば、様々な波状路に関してそれらの連続距離の平均値である。
【0044】
なお、上記した3つのイベントに関して、それぞれのイベント用取得周期は通常取得周期PNよりも短くなっている。また、3つのイベントのイベント用取得周期は互いに異なっている。また、3つのイベントのイベント用取得期間は互いに異なっている。
【0045】
<データ抽出部が行う具体的な処理内容>
データ抽出部204は、車両500のイグニッションスイッチがオンになっている間、常時、通常取得周期PNで各診断用データを取得する。データ抽出部204は、各診断用データを取得する度にそれらをデータ記憶部206に書き込む。なお、イグニッションスイッチは、制御装置100の起動スイッチである。イグニッションスイッチは、パワースイッチと呼称されることもある。
【0046】
データ抽出部204は、車両500のイグニッションスイッチがオンになっている間、通常取得周期PNで各診断用データを取得するのと並行して、複数のイベントのそれぞれについて発生条件が満たされたか否かを常時監視する。具体的には、データ抽出部204は、モード記憶部202が記憶しているイベント用マップを常時参照する。それに合わせて、データ抽出部204は、各イベントの発生条件が満たされたか否かを判定する上で必要になる、車両500の状態を表す各パラメータを常時参照する。そして、データ抽出部204は、複数のイベントのそれぞれについて発生条件が満たされたか否かを繰り返し判定する。
【0047】
データ抽出部204は、イベント用マップに定められている複数のイベントのうちのいずれかの発生条件が満たされると、発生条件が満たされたイベントについての取得モードをイベント用マップから読み込む。すなわち、データ抽出部204は、発生条件が満たされたイベントについてのイベント対象データ、イベント用取得周期、及びイベント用取得期間をイベント用マップから読み込む。そして、データ抽出部204は、発生条件が満たされたイベントについてイベント用処理を行う。具体的には、データ抽出部204は、イベント用取得期間の間、イベント用取得周期でイベント対象データを取得する。データ抽出部204は、イベント対象データを取得する度に、そのデータをデータ記憶部206に書き込む。データ抽出部204は、イベントの発生条件が満たされてからイベント用取得期間が経過すると、イベント用処理を終了する。なお、データ抽出部204は、イベント用処理の実行中は、イベント用処理の対象となっているイベントについては発生条件が満たされたか否かの判定をキャンセルする。データ抽出部204は、イベント用処理が終了すると、キャンセルしていた判定を再開する。
【0048】
データ抽出部204は、複数のイベントの発生条件が同時に満たされたり、一つのイベントについてのイベント用処理を実行している間に他のイベントの発生条件が満たされたりした場合、複数のイベントについてのイベント用処理を並行して行う。第2イベントと第3イベントとでイベント用処理が重なった場合、同一の時系列のデータに対して書き込みを行うことになる。仮に書き込みのタイミングが完全に重なった場合には、いずれか一方の書き込みをキャンセルしてもよいし、重複して書き込みを行ってもよい。
【0049】
<第1実施形態の作用>
第1イベントを例として、データ取得の流れを説明する。
いま、データ抽出部204が通常取得周期PNで第1MGトルクT1の取得及びデータ記憶部206への書き込みを行っているものとする。図3に示すように、データ抽出部204が通常取得周期PNでの第1MGトルクT1の取得を繰り返している途中の時刻TM1で第1発生条件C1が満たされたものとする。上記のとおり、内燃機関70が始動する場合、内燃機関70をクランキングすることに応じて第1MGトルクT1は急増した後に急減する。第1MGトルクT1のこの一連の変化は、通常取得周期PNよりも短い期間で生じる。そのため、仮に通常取得周期PNで第1MGトルクT1を取得すると、内燃機関70をクランキングすることに応じた第1MGトルクの正確な推移をデータ記憶部206に記録できない。
【0050】
そこで、データ抽出部204は、時刻TM1において、第1イベントに関するイベント用処理を開始する。すなわち、データ抽出部204は、時刻TM1以降、通常取得周期PNよりも短い第1取得周期P1で第1MGトルクT1を取得するとともに、取得した第1MGトルクT1をデータ記憶部206に書き込む。なお、図3では、通常取得周期PNで取得した第1MGトルクT1を白丸で、第1取得周期P1で取得した第1MGトルクT1を黒丸で示している。
【0051】
データ抽出部204は、時刻TM1から第1取得期間H1が経過した時刻TM2まで、第1取得周期P1で第1MGトルクT1を取得する。データ抽出部204は、時刻TM2になると、イベント用処理を終了する。なお、データ抽出部204は、時刻TM2以降も、通常取得周期PNでの第1MGトルクT1の取得を継続する。
【0052】
第1イベントと同様、第2イベントである制動装置80の急制動についても、当該急制動に伴う第2MGトルクT2の急増から急減に至る一連の過程は、通常取得周期PNよりも短い期間で生じる。そこで、データ抽出部204は、第2発生条件C2が満たされた場合、通常取得周期PNよりも短い第2取得周期P2で第2MGトルクT2を取得する。また、第3イベントに関して、車両500が波状路を走行することに伴う第2MGトルクT2の上下動の周期は、通常取得周期PNよりも短い。そこで、データ抽出部204は、第3発生条件C3が成立した場合、通常取得周期PNよりも短い第3取得周期P3で第2MGトルクT2を取得する。
【0053】
<第1実施形態の効果>
(1-1)本実施形態では、各イベント専用のイベント用取得周期及びイベント用取得期間を定めている。このことにより、各イベントに関して、通常取得周期PNでは捉えることのできないイベント対象データの推移を、イベント毎に適切な時間間隔で適切な期間記録できる。
【0054】
(1-2)制御装置100の処理の負担を抑える上では、各イベントのイベント用取得周期を極力長くすることが好ましい。一方で、各イベントのイベント用取得周期を長くすると、それぞれのイベント対象データの推移を捉え損ねかねない。
【0055】
本実施形態では、各イベントのイベント用取得周期は、各イベントに伴うイベント対象データの推移を適切に捉える上で必要な時間間隔の最大値となっている。そのため、制御装置100の処理の負担を最小限に留め、且つ、各イベントのイベント対象データの推移を適切に捉えた時系列を記録できる。
【0056】
(1-3)制御装置の処理の負担を抑える上では、各イベントのイベント用取得期間を極力短くすることが好ましい。一方で、各イベントのイベント用取得期間を短くすると、各イベントに伴うイベント対象データの変動が終わるタイミングよりも前にイベント用取得周期でのデータ取得が終わりかねない。
【0057】
本実施形態では、各イベントのイベント用取得期間は、各イベントに伴うイベント対象データの推移を最後まで捉える上で必要な期間の最小値となっている。そのため、制御装置100の処理の負担を最小限に留め、且つ、各イベントのイベント対象データの推移を最後まで捉えた時系列を記録できる。
【0058】
(1-4)第1MGT1トルクが高まると、その分だけ第1MG71には負担がかかる。上記のとおり、制御装置100は、各診断用データを監視することで車両500の状態を把握する処理を行う。その一環として第1MG71にかかる負担を把握する上では、第1MGトルクT1が高まる頻度を把握する必要がある。それに加えて、第1MGトルクT1が高まったときの当該第1MGトルクT1の推移がわかれば、例えば第1MGトルクT1が高まった状態の継続期間についても把握できる。本実施形態では、イベント用マップに定められているイベントの1つに、内燃機関70を始動することが含まれている。そのため、内燃機関70の始動に伴う第1MGトルクT1の推移を記録できる。こうした時系列のデータがあれば、内燃機関70をクランキングするのに応じて第1MGトルクT1が高まった頻度及び第1MGトルクT1が高まった状態の継続期間を把握できる。したがって、第1MG71の負担を把握するのに好適である。
【0059】
(1-5)上記(1-4)と同様、第2MG72にかかる負担を把握する上では、第2MGトルクT2が高まる頻度、及び第2MGトルクT2が高まった状態の継続期間を把握することが好ましい。本実施形態では、イベント用マップに定められているイベントの1つに、制動装置80が急制動の動作をすることが含まれている。そのため、制動装置80が急制動の動作することに伴う第2MGトルクT2の推移を記録できる。こうした時系列のデータがあれば、制動装置80が急制動の動作することに応じて第2MGトルクT2が高まった頻度及び第2MGトルクT2が高まった状態の継続期間を把握できる。したがって、第2MG72の負担を把握するのに好適である。
【0060】
(1-6)第3イベントについても上記(1-5)と同様のことがいえる。すなわち、本実施形態では、イベント用マップに定められているイベントの1つに、車両500が波状路を走行することに相当する内容が含まれている。そのため、車両500が波状路を走行することに伴う第2MGトルクT2の推移を記録できる。こうした時系列のデータがあれば、車両500が波状路を走行することに応じて第2MGトルクT2が高まった頻度及び第2MGトルクT2が高まった状態の継続期間を把握できる。したがって、上記(1-5)と同様、第2MG72の負担を把握するのに好適である。
【0061】
<第2実施形態>
以下、データ記録装置の第2実施形態を説明する。第2実施形態では、イベント用マップの内容、及びイベント用処理の内容のみが第1実施形態とは異なる。以下では、これら第1実施形態とは異なる部分を主として説明し、第1実施形態と重複した内容については説明を簡略、又は割愛する。
【0062】
本実施形態のイベント用処理では、データ抽出部204は、実際に検出されたイベント対象データではなく、イベント対象データに代わる仮想データをイベント対象データとみなしてデータ記憶部206に記録する。こうした態様を実現すべく、イベント用マップはつぎのような内容になっている。
【0063】
図4に示すように、イベント用マップには、2つのイベントと、2つのイベントのそれぞれについての発生条件と、2つのイベントのそれぞれについて1つの取得モードとが定められている。取得モードには、イベント対象データと、仮想データと、仮想取得タイミングとが定められている。仮想データは、イベント対象データとみなしてデータ記憶部206の時系列に当てはめる仮想的なデータである。仮想取得タイミングは、データの取得タイミングに相当し、イベント対象データが検出されたとみなすタイミングである。仮想取得タイミングは、イベントの発生条件が満たされてからの経過時間となっている。
【0064】
イベント用マップに定められている2つのイベントのうちの1つである第1イベントは、第1実施形態と同様、内燃機関70を始動することである。第1イベントの発生条件及びイベント対象データは、第1実施形態と同じであるため説明を割愛する。なお、以下では、第1MG71で内燃機関70をクランキングする際に走行制御部101が第1MG71の目標トルクに設定する値をクランキング目標トルクと呼称する。走行制御部101は、内燃機関70の始動条件が満たされてから一定期間の間、第1MG71の目標トルクをクランキング目標トルクに設定する。第1イベントの仮想データである第1仮想データU1は、上記クランキング目標トルクとなっている。内燃機関70の始動条件が満たされてから、実際に第1MGトルクT1がクランキング目標トルクになるまでにはやや時間がかかる。第1イベントの仮想取得タイミングである第1経過時間Q1は、内燃機関70の始動条件が満たされてから実際に第1MGトルクT1がクランキング目標トルクになるまでに要する時間として一般的とみなせる値になっている。第1経過時間Q1は、例えば実験で定められている。なお、上記した一般的とみなせる値とは、例えば、内燃機関70の始動条件が満たされてから実際に第1MGトルクT1がクランキング目標トルクになるまでに要する時間を、車両500の走行状態に応じた様々な条件下で計測したときの平均値とすればよい。
【0065】
イベント用マップに定められている2つのイベントのうちの1つである第2イベントは、第1実施形態と同様、制動装置80が急制動の動作をすることである。第2イベントの発生条件及びイベント対象データは、第1実施形態と同じであるため説明を割愛する。上記のとおり、車両500の走行中に制動装置80が急制動の動作をした場合、第2MGトルクT2は急増した後に急増する。このときの第2MGトルクT2の極大値を制動ピーク値と呼称する。第2イベントの仮想データである第2仮想データU2は、制動ピーク値として一般的とみなせる値になっている。第2仮想データU2は、例えば実験で定められている。第2イベントの仮想取得タイミングである第2経過時間Q2は、制動装置80の急制動の条件が満たされてから第2MGトルクT2が制動ピーク値になるまでに要する時間として一般的とみなせる値となっている。第2経過時間Q2は、例えば実験で定められている。なお、制動ピーク値及び第2経過時間Q2の双方に関して、一般的とみなせる値については、第1経過時間Q1と同様の考え方で定めればよい。
【0066】
イベント用マップの内容は以上のようになっている。データ抽出部204は、このイベント用マップの内容を基に、発生条件が成立したイベントについてイベント用処理を行う。データ抽出部204は、2つのイベントのいずれかの発生条件が満たされると、発生条件が満たされたイベントについてのイベント対象データ、仮想取得タイミング、及び仮想データをイベント用マップから読み込む。そして、データ抽出部204は、イベント用処理を開始する。
【0067】
データ抽出部204は、イベント用処理を開始すると、仮想取得タイミングになるまで待機する。そして、データ抽出部204は、仮想取得タイミングになると、実際に検出されたイベント対象データではなく、データ記憶部206に取得モードとして記憶されている仮想データを、イベント対象データとして取得する。そして、データ抽出部204は、その仮想データをデータ記憶部206に書き込む。データ抽出部204は、仮想データをデータ記憶部206に書き込むと、イベント用処理を終了する。
【0068】
<第2実施形態の作用>
第1イベントを例として、データ取得の流れを説明する。
いま、データ抽出部204が通常取得周期PNで第1MGトルクT1の取得及びデータ記憶部206への書き込みを行っているものとする。そして、図5に示すように、データ抽出部204が通常取得周期PNでの第1MGトルクT1の取得を繰り返している途中の時刻TN1で第1発生条件C1が満たされたものとする。すると、データ抽出部204は、イベント用処理を開始する。すなわち、データ抽出部204は、第1発生条件C1が満たされてから第1経過時間Q1が経過した時刻TN2で、データ記憶部206に第1仮想データU1を書き込む。
【0069】
第1イベントの場合と同様、データ抽出部204は、第2発生条件C2が満たされた場合、第2発生条件C2が満たされてから第2経過時間Q2が経過したタイミングで、データ記憶部206に第2仮想データU2を書き込む。
【0070】
<第2実施形態の効果>
(2-1)第1MG71にかかる負担を把握する上では、(1-4)に記載したとおり、第1MGT1が高まる頻度を把握する必要がある。本実施形態の態様であれば、内燃機関70を始動することに伴う第1MGトルクT1の推移は記録できないものの、第1MGトルクT1が高まったこと自体は記録として残せる。こうした記録があれば、第1MGT1が高まる頻度を把握できるため、第1MG71にかかる負担を把握する上で好適である。その上、本実施形態では、第1MGトルクT1を実際に取得するわけではないので、制御装置100にはデータ取得のための処理の負担がかからない。第2イベントについても同様のことがいえる。
【0071】
<変更例>
第1実施形態及び第2実施形態は、以下のように変更して実施することができる。第1実施形態、第2実施形態、及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0072】
・イベント用マップに定めるイベントの内容は、第1実施形態及び第2実施形態の例に限定されない。専用の取得モードを定める必要があるイベントであれば、どのようなイベントをイベント用マップに定めてもよい。そして、イベント用マップに定めるイベントの内容に応じて適切な取得モードをイベント毎に定めればよい。
【0073】
・イベント用マップに定めるイベントの数は、第1実施形態及び第2実施形態の例に限定されない。イベント用マップに定めるイベントの数は、2つ以上であればよい。
・第1実施形態では、複数のイベント間でイベント用取得周期が互いに異なっていた。しかし、イベント用マップに定めるイベントの内容によっては、複数のイベント間でイベント用取得周期が互いに同じであってもよい。すなわち、全てのイベントにおいてイベント用周期が同じであってもよいし、複数のイベントのうち一部のイベントについてのみイベント用周期が互いに同じであってもよい。
【0074】
・上記変更例と同様、イベント用マップに定めるイベントの内容によっては、複数のイベント間でイベント用取得期間が互いに同じであってもよい。
・第1実施形態では、取得モードとして、イベント用取得周期及びイベント用取得期間の双方を定めていた。しかし、イベント用取得周期を定めず、イベント用取得期間のみを定めてもよい。そして、イベント用取得期間のなかで不規則なタイミングでデータを取得してもよい。また、全てのイベントにおいて同一の取得周期でデータを取得してもよい。このように、全てのイベントにおいて同一の取得周期でデータを取得するのであれば、取得モード毎に取得周期を定めておく必要はない。
【0075】
・上記変更例とは逆に、イベント用取得期間を定めず、イベント用取得周期のみを定めてもよい。そして、発生条件が満たされたイベントについて、イグニッションスイッチがオフになるまでイベント用取得周期でデータの取得を続けてもよい。また、全てのイベントにおいて同一の取得期間でデータを取得してもよい。このように、全てのイベントにおいて同一の取得期間でデータを取得するのであれば、取得モード毎に取得期間を定めておく必要はない。
【0076】
・第2実施形態では、1つの取得モードの中で、仮想データ及びそれに対応する仮想取得タイミングを1組のみ定めていた。しかし、1つの取得モードの中で、仮想データ及びそれに対応する仮想取得タイミングを複数組定めてもよい。その際、それぞれの仮想タイミングで同じ仮想データを定めてもよいし、仮想タイミング毎に異なる仮想データを定めてもよい。
【0077】
・第2実施形態では、仮想取得タイミングになったときに仮想データを時系列に当てはめていた。すなわち、仮想取得タイミングになったときに仮想データをデータ記憶部206に書き込んでいた。この形態に代えて、時系列において仮想取得タイミングに相当する部分に仮想データを予め当てはめておき、すなわち、データ記憶部206に仮想データを予め書き込んでおき、実際に検出されたデータを後から時系列における仮想取得データの前後に追加で書き込んでもよい。
【0078】
・第1実施形態の取得モードと第2実施形態の取得モードとを組み合わせて取得モードを定めてもよい。すなわち、1つの取得モードにおいて、イベント用取得周期を定めるとともに、仮想データ及びそれに対応する仮想タイミングを定めてもよい。そして、イベントの発生条件が満たされたときに、イベント用取得周期でデータを取得しつつ、仮想取得タイミングになったときに仮想データを時系列データの1つとして当てはめてもよい。
【0079】
・データ記憶部206に記録するデータの種類、及び記録したデータの使用用途は、上記実施形態の例に限定されない。用途に応じて必要なデータをデータ記憶部206に記録すればよい。
【0080】
・データ記憶部206に書き込み可能な各データの容量を定めることは必須ではない。例えば、ある程度データが蓄積したらその旨を報知して乗員にデータを消去させるようにすれば、各データの容量を定めておく必要はない。
【0081】
・記憶装置は、揮発性のメモリで構成してもよい。
・モード記憶部202を記憶装置で構成してもよい。
・車両500の構成は、第1実施形態で説明したものに限定されない。車両はハイブリッド車両でなくてもよい。車両は、例えば、駆動源として内燃機関70のみを有していてもよい。
【0082】
・データ記録装置200は、車両500の制御装置100で構成しなくてもよい。例えば、図6に示すように、車両500の外部にサーバ600を設け、サーバ600によってデータ記録装置200を構成してもよい。すなわち、サーバ600が、データ抽出部204、モード記憶部202、及びデータ記憶部206を有する構成としてもよい。この場合、サーバ600は、コンピュータプログラム(ソフトウェア)に従って各種処理を実行する1つ以上のプロセッサとして構成し得る。なお、サーバ600は、各種処理のうち少なくとも一部の処理を実行する、特定用途向け集積回路(ASIC)等の1つ以上の専用のハードウェア回路、またはそれらの組み合わせを含む回路(circuitry)として構成してもよい。プロセッサは、CPU及び、RAM並びにROM等のメモリを含む。メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコードまたは指令を格納している。メモリすなわちコンピュータ可読媒体は、汎用または専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。また、サーバ600は、電気的に書き換え可能な不揮発性メモリである記憶装置を有する。また、サーバ600は、外部通信回線網700を通じてサーバ600の外部と接続するための通信部208を有する。
【0083】
データ記録装置200をサーバ600で構成する場合、車両500の制御装置100に、外部通信回線網700を通じて制御装置100の外部と通信するための通信部103を設ければよい。そして、車両500の制御装置100は、各種センサのデータをサーバ600に送信すればよい。こうした構成であれば、車両500の制御装置100で行う場合と同様にして、サーバ600でデータ記憶部206にデータを記録できる。
【0084】
なお、図6に示す変更例において、車両500は、各種センサにおいてデータを検出する都度、サーバ600に送信してもよいし、ある程度の期間、ある程度のデータ数、ある程度のデータ容量毎に、サーバ600にデータを送信してもよい。
【0085】
図7に示すように、データ抽出部204、モード記憶部202、及びデータ記憶部206を、車両500の制御装置100とサーバ600とに分散して設けてもよい。すなわち、データ記録装置200を、車両500の制御装置100とサーバ600との双方で構成してもよい。この場合、例えば、データ抽出部204及びモード記憶部202を車両500の制御装置100に設け、データ記憶部206をサーバ600に設ければよい。また、図6の例と同様、車両500の制御装置100に通信部103を設け、サーバ600にも通信部208を設ければよい。こうした構成であれば、車両500の制御装置100のデータ抽出部204が取得したデータをサーバ600に送信し、サーバ600がそのデータを受信してデータ記憶部206に記録することができる。
【0086】
図6及び図7に示す変更例に関して、通信部をデータ記録装置200の一部に含めてもよい。
・第2実施形態において、仮想取得タイミングにおいて仮想データを取得するのではなく、事後的に仮想データを取得してもよい。例えば、データ記憶部206に、発生したイベント毎に、データとそのデータの取得タイミングとが対応付けて表として記憶されているのであれば、該当するイベントの表に、仮想データ及び仮想取得タイミングを、データ及び取得タイミングとして、追記してもよい。このように、仮想データ及び仮想取得タイミングを追記する形であっても、発生したイベントに関する車両500の状態を事後的に分析する目的のためにデータを使用するのであれば、特に差し支えはない。
【符号の説明】
【0087】
70…内燃機関
71…第1モータジェネレータ
72…第2モータジェネレータ
200…データ記録装置
202…モード記憶部
204…データ抽出部
206…データ記憶部
500…車両
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7